説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】赤外線画像上の人物の表面温度と背景の温度とが接近している場合でも、人物を
確実に検出可能とする。
【解決手段】ある注目輝度を含んだ所定の輝度幅の輝度範囲で赤外線画像のコントラスト
を拡大する処理(コントラスト強調)を行い、コントラスト強調後の赤外線画像から人物
検出を行う。そして、ある注目輝度で人物の検出を行ったら、注目輝度を更新し、新たな
注目輝度を含む所定の輝度範囲でコントラスト強調を行い、強調後の画像から人物を検出
する。こうすれば、コントラスト強調によってその人物と背景との輝度差を十分に拡大す
ることができる。従って、人物の表面温度が背景の温度に接近している場合でも、背景か
ら人物を浮かび上がらせることが可能となり、赤外線画像に写った人物を確実に検出する
ことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線画像データから人物を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる赤外線カメラは、物体から放射される赤外線(熱線)の強度の違いから撮影領
域内の温度分布を検出し、この温度分布を画像として出力する。このような赤外線カメラ
を用いれば、夜間など、肉眼では見通しが利きにくい時でも熱線を発する物体(人物など
)を撮影することができるので、例えば赤外線カメラを車両に搭載しておき、赤外線カメ
ラの撮影画像をモニターに表示することで、夜間でも運転者に人物の存在を認識させるこ
とが可能である。
【0003】
また、単に赤外線カメラの画像を表示するだけでは、画像に人物が映っているのか否か
を瞬時に認識することができないので、画像上から人物の特徴(例えば人物の輪郭など)
を検出して、検出結果を基に人物が存在すると思われる領域を強調して表示したり、スピ
ーカーから警告音を鳴らしたりして運転者に注意を促すことが行われる。また、赤外線カ
メラで撮影した画像のコントラストを調節することで、画像上の人物の輪郭を検出し易く
する技術も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−242914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、赤外線画像は物体の表面温度を表す画像なので、人物の表面温度が背景の温度
に接近していると、人物の輪郭を検出することが困難になるという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
赤外線画像上の人物の表面温度と背景の温度とが接近している場合でも、人物を確実に検
出可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の画像処理装置は次の構成を
採用した。すなわち、
対象物の表面温度を二次元的な輝度分布によって表した赤外線画像の中から人物を検出
する画像処理装置であって、
前記赤外線画像中から選択した一の輝度を注目輝度として設定する注目輝度設定手段と

前記注目輝度を含んだ所定の輝度幅を有する輝度範囲を、該注目輝度での人物を検出す
るための対象輝度範囲として設定する対象輝度範囲設定手段と、
前記対象輝度範囲に含まれる画像のコントラストが所定比率で拡大されるように、前記
赤外線画像に対してコントラスト強調を行うコントラスト強調手段と、
前記コントラスト強調を行った赤外線画像に対して人物検出を行う人物検出手段と、
前記注目輝度での人物の検出後、新たな前記注目輝度での人物を検出するために該注目
輝度を更新する注目輝度更新手段と
を備えることを要旨とする。
【0008】
また、上記の画像処理装置に対応する本発明の画像処理方法は、
対象物の表面温度を二次元的な輝度分布によって表した赤外線画像の中から人物を検出
する画像処理方法であって、
前記赤外線画像中から選択した一の輝度を注目輝度として設定する第1の行程と、
前記注目輝度を含んで所定の輝度幅を有する輝度範囲を、人物を検出するための対象輝
度範囲として設定する第2の行程と、
前記対象輝度範囲に含まれる画像のコントラストが所定比率で拡大されるように、前記
赤外線画像に対してコントラスト強調を行う第3の行程と、
前記コントラスト強調を行った赤外線画像に基づいて、前記注目輝度での人物を検出す
る第4の行程と、
前記注目輝度での人物検出後、新たな前記注目輝度での人物を検出するための該注目輝
度を更新する第5の行程と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の画像処理装置および画像処理方法においては、ある注目輝度を含ん
だ所定の輝度幅の輝度範囲で赤外線画像のコントラストを拡大する処理(コントラスト強
調)を行い、コントラスト強調後の赤外線画像から人物検出を行う。尚、赤外線画像から
人物検出を行う方法としては、一般に周知な方法を用いることが可能であり、例えば、画
像中から人物の輪郭を検出することで人物の有無を検出する方法などを用いることが可能
である。そして、ある注目輝度で人物の検出を行ったら、注目輝度を更新し、新たな注目
輝度を含む所定の輝度範囲でコントラスト強調を行い、強調後の画像から人物を検出する

【0010】
こうすれば、ある注目輝度を含んだ所定の輝度幅の輝度範囲に人物の画像が写っていた
場合、コントラスト強調によってその人物と背景との輝度差を十分に拡大することができ
る。従って、人物の表面温度が背景の温度に接近している場合でも、背景から人物を浮か
び上がらせることが可能である。また、注目輝度を含む輝度範囲に人物の画像が写ってい
ない場合は、コントラストを強調しても人物が浮かび上がることはない。従って、本発明
の画像処理装置および画像処理方法によれば、赤外線画像に写った人物を確実に検出する
ことができる。
【0011】
また、上述した本発明の画像処理装置においては、赤外線画像中に注目輝度の画素が存
在しなかった場合、注目輝度を含んだ所定の輝度幅の輝度範囲でコントラスト強調や人物
検出を行わずに、注目輝度を更新することとしても良い。
【0012】
仮に、注目輝度の画素だけでなく、注目輝度の近傍の輝度の画素も存在しないのであれ
ば、その輝度の近傍には何も写っていないと考えられるので、コントラスト強調や人物検
出を行っても無駄である。また、注目輝度の近傍の輝度の画素が存在するのであれば、そ
の近傍の輝度でコントラスト強調や人物検出を行えば十分である。従って、注目輝度の画
素が存在しなかった場合には、コントラスト強調や人物検出は行わずに注目輝度を更新す
れば、無駄なコントラスト強調や人物検出を省いて、処理を迅速化させることが可能とな
る。
【0013】
また、上述した本発明の画像処理装置においては、赤外線画像を複数の小領域に分割す
ることとし、注目輝度を設定したり、注目輝度を含んだ所定の輝度幅の輝度範囲でコント
ラスト強調を行ったり、強調後の画像から人物検出を実行したり、注目輝度を更新したり
する処理をそれぞれの小領域ごとに行うこととしてもよい。
【0014】
赤外線画像では、輝度の高い画素や輝度の低い画素は、それぞれに集まってある広さの
領域を形成することが通常である。従って、赤外線画像を複数の小領域に分割してやれば
、個々の小領域については、対象輝度範囲の設定以降の処理を省略可能な輝度範囲が増加
する。その結果、赤外線画像から人物を検出する処理を迅速化することが可能となる。
【0015】
また、上述した本発明の画像処理装置においては、次のようにして注目輝度を設定して
もよい。先ず、対象物の表面温度と、赤外線画像での輝度との対応関係(逆にいえば、赤
外線画像でのある輝度が、対象物の表面温度に換算してどれくらいの温度に相当するかを
示す対応関係)を記憶しておく。また、人物の表面温度としてあり得る温度範囲も記憶し
ておく。ここで、人物の表面温度としてあり得る温度範囲としては、10℃〜50℃の温
度範囲を記憶しておけば、どのような環境化で撮影された赤外線画像に対しても適用でき
る。また、20℃〜40℃の温度範囲を記憶しておけば、大部分の赤外線画像に対して適
用することができる。そして、人物の表面温度としてあり得る温度範囲が、赤外線画像上
ではどのような輝度範囲に対応するかを、予め記憶しておいた対応関係に基づいて調べた
後、得られた輝度範囲の中から注目輝度を設定するようにしてもよい。
【0016】
こうすれば、人物が写っている可能性のない輝度を注目輝度として設定することを回避
することができるので、赤外線画像の中から迅速に人物を検出することが可能となる。
【0017】
また、上述した本発明の画像処理装置においては、注目輝度を含んだ輝度範囲を設定す
るに際して、次のような輝度幅の輝度範囲を設定するようにしても良い。先ず、対象物の
表面温度と、赤外線画像での輝度との対応関係を記憶しておく。また、一人の人物の表面
が取り得る温度幅として10℃以下の所定の温度幅を記憶しておく。ここで、一人の人物
の表面が取り得る温度幅は、代表的には3℃の温度幅、あるいは5℃の温度幅を記憶して
おくことができる。そして、一人の人物の表面が取り得る温度幅が、赤外線画像上ではど
のような輝度幅に対応するかを、予め記憶しておいた対応関係に基づいて調べた後、得ら
れた輝度幅を有する輝度範囲を設定するようにしてもよい。
【0018】
経験上、一人の人物についての表面温度の変化は、10℃以下(たとえば3℃前後)の
範囲に収まることが通常である。もちろん、複数の人物が写っている場合には、それぞれ
の人物の表面温度が20℃近くも違っていることは珍しくはないが、このような場合でも
一人の人物に着目すると、表面温度の変化は10℃以下の範囲に収まることが通常である
。従って、一人の人物の表面が取り得る温度幅として10℃以下の所定の温度幅を記憶し
ておき、この温度幅が、赤外線画像上でどの程度の輝度幅に対応するかを、予め記憶して
おいた対応関係に基づいて、得られた輝度幅を有する輝度範囲を設定してやれば、人物の
画像を十分なコントラストが得られるように強調することができる。その結果、赤外線画
像の中から人物を確実に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の人物検出装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】赤外線画像から人物を検出することが困難となる場合を例示した説明図である。
【図3】複数の人物が写った赤外線画像を解析した結果を示した説明図である。
【図4】本実施例のコントラスト強調処理を示したフローチャートである。
【図5】第2実施例の赤外線画像のコントラスト強調の方法を示した説明図である。
【図6】第2実施例の第2変形例でウィンドウを移動させる様子を示した説明図である。
【図7】第2実施例の第3変形例のウィンドウを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
B.第1実施例のコントラスト強調処理:
C.第2実施例:
D.第2実施例の変形例:
D−1.第1変形例
D−2.第2変形例
D−3.第3変形例
【0021】
A.装置構成 :
図1は、本実施例の人物検出装置の構成を示した説明図である。本実施例の人物検出装
置10は、大まかには、物体から放射される赤外線(熱線)の強度から外界の温度分布を
検知する赤外線カメラ20と、赤外線カメラ20で検知した外界の温度分布を解析する解
析部30と、解析部30での解析結果を赤外線画像として表示する表示部40とが設けら
れている。
【0022】
解析部30は、赤外線画像データを生成する画像生成部32と、赤外線画像データから
人物を検出する人物検出部34と、画像生成部32で生成した赤外線画像データを必要に
応じて補正する補正部36などから構成される。画像生成部32では、赤外線カメラ20
で検知した赤外線の強度を輝度に変換することにより赤外線画像データを生成する。この
とき、温度が高い(赤外線の強度が高い)箇所ほど高い輝度に変換され、温度の低い(赤
外線の強度が低い)箇所ほど低い輝度に変換される。こうして生成された赤外線画像デー
タが表示部40に出力されると、表示部40に赤外線画像が表示される。
【0023】
また、画像生成部32で生成された赤外線画像データ、あるいは補正部36で補正後の
赤外線画像データは、人物検出部34に出力される。そして、人物検出部34では、赤外
線画像データから人物の輪郭を検出する処理を行う。このとき、赤外線画像データ上で人
物の輪郭を検出した場合には、人物の輪郭を検出した領域を四角い枠で囲って表示部40
の画像上に表示する。これにより、表示部40に表示されている赤外線画像を見た時に、
画像中に人物が存在しているのか否かを使用者が認識することが容易となっている。もっ
とも、人物検出部34が赤外線画像データから人物の輪郭を検出することが困難となる場
合がある。
【0024】
図2は、赤外線画像から人物を検出することが困難となる場合を例示した説明図である
。図2には、温度の異なる3つの領域(領域a,領域b,領域c)を含む空間に2人の人
物(人物A,人物B)が存在する様子を赤外線カメラ20で撮影した時の様子が示されて
いる。図示されるように、人物Aにとっては領域aおよび領域bが背景となり、人物Bに
とっては領域bおよび領域cが背景となる。従って、人物Aの表面温度が領域aまたは領
域bの温度の何れかと接近していると、画像上の人物Aの輝度が領域aまたは領域bの輝
度の何れかと接近することとなる。その結果、人物Aが背景に埋もれて人物Aの輪郭を検
出することが困難となる。同様に、人物Bの表面温度が領域bまたは領域cの温度と接近
していると人物Bの輪郭を検出することが困難となる。もちろん、赤外線画像のコントラ
ストを調整すれば、背景に埋もれている人物の輪郭を明確にすることが可能な場合もある
。しかし、赤外線画像に表面温度の異なる複数の人物が含まれている場合には、画像のコ
ントラストを調整することによって人物の輪郭を明確にすることは必ずしも容易なことで
はない。
【0025】
図3は、複数の人物が写った赤外線画像を解析した結果を示した説明図である。図3の
上方には、複数の人物(人物A,人物B,人物C,人物D)が写った赤外線画像が示され
ており、また、図3の下方には、赤外線画像に写った人物のそれぞれについて、その人物
を横切る直線状での輝度変化が示されている。
【0026】
先ず、各人物を横切る直線上での輝度変化に着目すると、1人の人物を構成する画素の
輝度はなだらかに変化し、その変化量(輝度差)も小さいことが分かる。従って、人物の
表面温度が背景の温度に接近することで人物の輝度と背景の輝度とがほとんど同じとなっ
た場合、コントラスト調整によって背景から人物の輪郭を浮かび上がらせようとすると、
かなり大幅なコントラストの強調を行うことが必要となる。
【0027】
次に、人物間での違いに着目すると、人物の表面温度は人によって大きく異なっている
場合があり、従って、人物の輝度も人によって大きく異なっている場合が珍しくない。た
とえば、図3に示した例では、人物Aおよび人物Dは、比較的輝度が低いが、人物Cは輝
度が比較的高く、人物Bは、人物Aまたは人物Dと人物Cのほぼ中間の輝度となっている
。従って、すべての人物に対して一括してコントラスト強調を行おうとすると、十分なコ
ントラスト強調を行うことができなくなる。このように、複数の人物が写った赤外線画像
では、1人の人物の輝度はなだらかに変化し、しかも変化量が少ないにもかかわらず、輝
度の値は、画像によって、あるいは人物によって、さまざまな値を取り得る特性を示す。
このため、複数の人物が含まれている赤外線画像でコントラストを調整することによって
人物の輪郭を明確にしようとしても困難な場合が多いのである。
【0028】
そこで、本実施例の人物検出装置10では、人物が写っているかもしれない狭い輝度範
囲に対してコントラスト強調を行う。こうすることで、その輝度範囲に人物が写っていれ
ば、コントラスト強調によって人物の輪郭が背景から浮かび上がる筈である。また、ある
輝度範囲でコントラスト強調を行った結果、人物の輪郭が浮かび上がらなかった場合には
、別の輝度範囲についてコントラスト強調を行って人物の輪郭が浮かび上がるか否かを判
断すればよい。こうして人物が写っているかも知れない全ての輝度範囲についてコントラ
スト強調を行いながら人物を検出すれば、その赤外線画像に写ったすべての人物を検出す
ることが可能なはずである。
【0029】
B.本実施例のコントラスト調整処理 :
図4は、上述した考え方に基づいて実際にコントラスト強調を行う処理(コントラスト
強調処理)を示したフローチャートである。本実施例のコントラスト強調処理は、前述し
た解析部30の補正部36が、画像生成部32からの赤外線画像データを受け取った場合
に実行する処理である。
【0030】
コントラスト調整処理を開始すると、先ず始めに、画像上から注目輝度Tcur の画素を
探索する処理を行う(ステップS100)。注目輝度Tcur は次のように選ばれる。先ず
、経験上、人物の表面温度は20℃〜40℃の温度範囲に含まれる。逆に言えば、温度が
19℃以下の画像や、温度が41℃以上の画像を解析しても人物が写っている可能性はな
い。そこで、20℃の温度に対応する輝度を注目輝度Tcur として選択し、赤外線画像中
でその輝度の画素を探索する(ステップS100)。
【0031】
注目輝度Tcur (初めは20℃に対応する輝度)の画素を探索した結果(ステップS1
00)、注目輝度Tcur の画素が見つからなかった場合には(ステップS102:no)
、注目輝度Tcur の値が探索の上限輝度に達したか否かを判断する(ステップS108)
。上述したように、人物の表面温度は20℃〜40℃の範囲に含まれるから、探索の上限
輝度は40℃の温度に対応する輝度に設定されている。ここでは20℃の温度に対応する
輝度について探索しているので、探索の上限輝度に達していないと判断される(ステップ
S108:no)。この場合、注目輝度Tcur に「1」を加算して(ステップS110)
、加算後の新たな注目輝度Tcur の画素を探索する(ステップS100)。そして、加算
後の注目輝度Tcur の画素も見つからなければ(ステップS102:no)、注目輝度T
cur が上限値に達したか否かを再び判断し(ステップS108)、注目輝度Tcur が上限
値に達していなければ(ステップ108:no)、さらに注目輝度Tcur に「1」を加え
て(ステップS110)加算後の注目輝度Tcur の画素を探索する(ステップS100)

【0032】
以上のようにして、注目輝度Tcur の画素が見つからないうちは、初期の注目輝度Tcu
r (20℃に対応する輝度)から注目輝度Tcur の値を「1」ずつ引き上げながら、引き
上げ後の注目輝度Tcur の画素を探索する作業を繰り返す(ステップS100,ステップ
S102:no,ステップS108:no,ステップS110)。そして、そのうちに注
目輝度Tcur の画素が見つかったら(ステップS102:yes)、その画素は人物が写
った画像の一部を構成する画素の可能性がある。また、前述したように、1人の人物の輝
度の変化量(輝度差)はそれほど大きくはなく(図3を参照)、ごく狭い輝度範囲(例え
ば、温度幅にして3℃程度)に人物を構成する画素が集まっている。そこで、注目輝度T
cur の画素が見つかった場合(ステップS102:yes)、注目輝度Tcur から、Tcu
r に人物の輝度幅dT(本実施例では3℃に相当する輝度幅)を加えた輝度までの輝度範囲
に人物が写っていると推定し、この輝度範囲(Tcur 〜Tcur +dT )のコントラストを強
調する処理を行う(ステップS104)。
【0033】
尚、上述したステップS102では、赤外線画像から注目輝度Tcur の画素が1つでも
見つかればコントラスト強調を行うものと説明したが、注目輝度Tcur の画素が1つ見つ
かっただけの場合には、たまたま画像上に写ったノイズの画素(人物を構成しない画素)
の輝度が注目輝度Tcur であった場合も含まれる。従って、こうした場合を排除する目的
で、注目輝度Tcur の画素がある所定数(例えば5個)以上見つかった場合に人物が写っ
ていると推定し、コントラスト強調を行うこととしても良い(ステップS104)。
【0034】
こうしてコントラスト強調を行ったら(ステップS104)、強調後の赤外線画像デー
タを人物検出部34に出力する(ステップS106)。この時、コントラスト強調後の画
像に人物が写っていれば、人物検出部34で人物の輪郭が検出される。その結果、人物検
出部34から表示部40に対して人物の輪郭が検出された領域を強調表示する信号が出力
され、表示部40の画像上に人物の存在を示す四角い枠(強調枠)が表示される。これに
より、画像上で人物が背景に埋もれた状態であっても、人物が存在していることを使用者
が認識することが可能となる。また、ステップS102で見つかった注目輝度Tcur の画
素が人物を構成するものでなかった場合(例えば背景の一部などであった場合)、コント
ラスト強調(ステップS104)を行っても人物は浮かび上がってこない。この時は、人
物検出部34で人物の輪郭が検出されることはなく、表示部40に強調枠が表示されるこ
ともない。
【0035】
以上のように、注目輝度Tcur 〜Tcur +dT の範囲でコントラスト強調を行い、強調後
の画像を人物検出部34に出力したら(ステップS104,ステップS106)、注目輝
度Tcur が上限輝度(本実施例では40℃に対応する輝度)に達したか否かを判断する(
ステップS108)。そして、注目輝度Tcur が上限輝度に達していなければ(ステップ
S108:no)、未だコントラスト強調を行っていない輝度範囲が存在すると判断し、
注目輝度Tcur に「1」だけ加算した後に(ステップS110)、再びステップS100
に戻って加算後の注目輝度Tcur の画素を探索する。以下、上述したように、注目輝度T
cur の画素が見つからなければ探索する注目輝度Tcur の値を「1」ずつ引き上げていき
(ステップS100,ステップS102:no,ステップS108:no,ステップS1
10)、注目輝度Tcur の画素が見つかったら、その都度、注目輝度Tcur 〜Tcur +dT
の範囲でコントラスト強調を行い、強調後の画像を人物検出部34に出力する(ステップ
S104,ステップS106)。この間、人物検出部34では、コントラスト強調後の画
像を受け取る度に、画像上から人物の輪郭を検出する処理を行い、人物の輪郭を検出した
場合には、対応する領域を表示部40上に強調表示させる。
【0036】
そして、最終的に注目輝度Tcur が上限輝度(40℃に対応する輝度)に達すると(ス
テップS108:yes)、人物が取り得る輝度範囲内のうち、人物が写っているかもし
れないすべての輝度範囲についてコントラスト強調を行ったこととなる。この場合、注目
輝度Tcur の値をリセットして初期値(本実施例では20℃)に戻し(ステップS112
)、コントラスト強調処理の先頭に戻って同様の処理を繰り返す。
【0037】
以上に説明したコントラスト強調処理によれば、人物の表面温度の輝度範囲(20℃〜
40℃に対応する輝度範囲)から人物が写っているかもしれない狭い輝度範囲を抽出し、
それぞれの輝度範囲を特に強調するコントラスト調整を行うことができる。こうすれば、
人物の輝度が人によってさまざまな値をとり、しかも1人の人物の輝度が狭い輝度範囲内
でなだらかに変化するという特性を有していても、各人の狭い輝度範囲の輝度差を十分に
拡大することが可能である。従って、赤外線画像上に表面温度が異なる複数の人物が存在
し、且つそれぞれの人物が背景に埋もれているような場合でも、全ての人物を確実に背景
から浮かび上がらせることができる。その結果、人物の輪郭が不明瞭なために人物を検出
し損ねてしまう事態を防ぐことができるので、赤外線画像から人物を検出する精度を向上
させることが可能である。
【0038】
また、注目輝度Tcur 〜Tcur +dT の輝度範囲を可能な限り拡大すれば、注目輝度Tcu
r を赤外線画像の下限輝度(本実施例では輝度0)に近い輝度とし、輝度Tcur +dT を赤
外線画像の上限輝度(本実施例では輝度255)に近い輝度とすることができる。例えば
注目輝度Tcur 〜Tcur +dT の輝度範囲を輝度20〜から輝度200の範囲まで拡大する
コントラスト強調を行った場合、注目輝度Tcur よりも低い輝度の画素からなる領域は、
ほとんど真っ黒(輝度0〜輝度20)の領域とすることができ、また輝度Tcur +dT より
も高い輝度の画素からなる領域はほとんど真っ白(輝度200〜輝度255)の領域とす
ることができる。従って、注目輝度Tcur 〜Tcur +dT の画素が含まれる領域以外のほと
んどの領域を輝度差の乏しい画像領域(ベタ領域)とすることができる。こうすれば、人
物の輪郭を検出する際には、ベタ領域は読み飛ばしながら(あまり時間をかけずに)画像
を解析していくことができるので、人物検出にかかる時間を短縮することが可能である。
その結果、上述したように複数の輝度範囲に対してコントラスト強調と人物検出とを行う
こととしても、人物検出にかかる処理時間がそれほど長くなることもない。
【0039】
C.第2実施例 :
前述した実施例(以下、第1実施例と呼ぶ)では、注目輝度Tcur の画素が見つかった
場合に、Tcur 〜Tcur +dT の輝度範囲に絞ってコントラスト強調を行うものと説明した
。ここで、上述したコントラスト強調は、さらに注目輝度Tcur の画素が含まれる赤外線
画像上の所定領域に絞って行うこととしても良い。尚、以下に説明する第2実施例および
第2実施例の変形例において、上述した第1実施例と同様の構成部分については、本実施
例と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0040】
図5は、第2実施例のコントラストの強調方法を示した説明図である。第2実施例のコ
ントラストの強調方法では、赤外線画像データを、複数の領域(以下、ウィンドウと呼ぶ
)に分割した画像の集合として捉える。図5には、赤外線画像データが24個のウィンド
ウに分割されている様子が示されている。そして、前述したコントラスト強調処理(図4
を参照)を行う際には、注目輝度Tcur の画素を発見した場合(ステップS102:ye
s)、注目輝度Tcur の画素を発見したウィンドウに対して、注目輝度Tcur 〜Tcur +d
T の輝度範囲でコントラスト強調を行うこととする(ステップS104)。こうすれば、
コントラストを強調する必要がないウィンドウ(すなわち、注目輝度Tcur の画素が存在
しないウィンドウ)についてはコントラスト強調を省略することができるので、コントラ
スト強調処理をより迅速化することが可能である。
【0041】
D.第2実施例の変形例 :
前述した第2実施例にはいくつかの変形例が考えられる。以下では、これらの変形例に
ついて簡単に説明する。
【0042】
D−1.第2実施例の第1変形例 :
前述した第2実施例では、赤外線画像を複数のウィンドウに分割し(図5を参照)、注
目輝度Tcur の画素が見つかったウィンドウに対してコントラスト強調を行うものと説明
した。ここで、コントラスト強調を行ったウィンドウから人物が検出された後に、同じウ
ィンドウから別の注目輝度Tcur の画素が見つかった場合、その注目輝度Tcur が先に見
つかった注目輝度Tcur から一定の範囲内の値であれば、コントラスト強調を行ったり、
強調画像を人物検出部34に出力する処理を省略することとしてもよい。
【0043】
前述したように、赤外線画像上の1人の人物は、狭い範囲ではあるものの一定の輝度幅
を持っている(図3を参照)。従って、あるウィンドウ内に人物が写っている場合、その
人物を構成する輝度範囲で画素を探索すると、同じ人物を何度も検出することとなって無
駄である。従って、こうした無駄を排除すべく、あるウィンドウ内で人物の輪郭を検出し
たら、検出時の注目輝度Tcur から一定の範囲内の輝度の画素が同じウィンドウ内で見つ
かっても、コントラスト強調を行ったり、強調画像を人物検出部34に出力する処理を行
わないこととする。こうすれば、同じ人物に対して重複してコントラスト強調を行うこと
がないので、コントラスト強調処理をより迅速化することが可能である。
【0044】
D−2.第2実施例の第2変形例 :
前述した第2実施例および第2実施例の第1変形例では、コントラスト強調および強調
画像から人物を検出する処理は、画像上の所定位置に配置されたウィンドウ毎に行うもの
と説明した。しかし、赤外線画像上でウィンドウの位置を少しずつずらしながらコントラ
スト強調、および強調画像から人物を検出する処理を行うこととしてもよい。
【0045】
図6は、第2実施例の第2変形例で、ウィンドウを移動させながらコントラスト強調、
および強調画像から人物を検出する様子を示した説明図である。尚、図6では、ウィンド
ウのサイズは第2実施例および第2実施例の第1変形例と同じとし、ウィンドウを、ウィ
ンドウサイズの半分の幅ずつずらしていった場合の様子が示されている。
【0046】
図示されているように、ウィンドウの位置を固定した状態では、人物が写っている位置
によっては人物がウィンドウの境目をはみ出し、複数のウィンドウ(図中では、W14,
W15,W22およびW23)に跨ってしまう場合がある。このような場合であっても、
図6に示すように、ウィンドウを少しずつずらすこととすれば、人物が複数のウィンドウ
に跨っていてもウィンドウ内に収まる可能性が高くなる。こうすれば、上述したように、
ウィンドウ毎にコントラスト強調および強調画像から人物を検出する処理を行うことで人
物検出の迅速化を可能としながら、ウィンドウを跨いだ人物も確実に検出することができ
る。
【0047】
D−3.第2実施例の第3変形例 :
前述した第2実施例、第2実施例の第1変形例、および第2実施例の第2変形例では、
ウィンドウのサイズは固定であるものと説明した。しかし、赤外線画像の遠近差を考慮し
て、赤外線画像の位置によってウィンドウのサイズを変えることとしてもよい。
【0048】
図7は、第2実施例の第3変形例の赤外線画像を複数のウィンドウに分割した様子を示
した説明図である。図示した画像上のウィンドウは、画像の遠近差を考慮して、画像の手
前に来るほどウィンドウのサイズが大きく設定されており、また画像の奥に進むほど、ウ
ィンドウのサイズが小さく設定されている。このようにウィンドウのサイズを設定してお
けば、画像の手前側に人物が写ることで、その人物のサイズが大きくなったとしても、ウ
ィンドウ内に人物を納めることができる。従って、ウィンドウ毎にコントラスト強調およ
び強調画像から人物を検出する処理を行うことで人物検出の迅速化を可能としながら、画
像の手前側に写った人物も確実に検出することができる。
【0049】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例
えば、上述した実施例および変形例では、コントラスト強調を実行する輝度範囲の幅(dT
)は、3℃の温度幅に対応する輝度幅であるものと説明した。しかし、dTの輝度幅は、1
人の人物を構成する画素を包含しうる輝度幅であればよく、必ずしも3℃の温度幅に対応
する輝度幅でなくてもよい。また、注目輝度Tcur の引き上げ値は「1」であると説明し
たが、引き上げ幅は「1」よりも大きな値に設定しても良い。また、図4のステップS1
00にて、注目輝度Tcur に一致する画素を探索するとしたが、一定範囲の輝度を持つ画
素、例えばTcur 以上かつTcur +dT 未満の画素を探索するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
10…人物検出装置、 20…赤外線カメラ、 30…解析部、
32…画像生成部、 34…人物検出部、 36…補正部、
40…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面温度を二次元的な輝度分布によって表した赤外線画像の中から人物を検出
する画像処理装置であって、
前記赤外線画像中から選択した一の輝度を注目輝度として設定する注目輝度設定手段と

前記注目輝度を含んだ所定の輝度幅を有する輝度範囲を、該注目輝度での人物を検出す
るための対象輝度範囲として設定する対象輝度範囲設定手段と、
前記対象輝度範囲に含まれる画像のコントラストが所定比率で拡大されるように、前記
赤外線画像に対してコントラスト強調を行うコントラスト強調手段と、
前記コントラスト強調を行った赤外線画像に対して人物検出を行う人物検出手段と、
前記注目輝度での人物の検出後、新たな前記注目輝度での人物を検出するために該注目
輝度を更新する注目輝度更新手段と
を備える画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記対象輝度範囲設定手段は、前記注目輝度の画素が前記赤外線画像中に存在するか否
かを判断し、該注目輝度の画素が存在する場合に、前記対象輝度範囲を設定する手段であ
り、
前記注目輝度更新手段は、前記対象輝度範囲設定手段によって前記対象輝度範囲が設定
されなかった場合にも、新たな前記注目輝度を用いて人物を検出するために該注目輝度を
更新する手段である画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記赤外線画像を複数の小領域に分割する画像分割手段を備え、
前記注目輝度設定手段、および前記注目輝度更新手段は、前記小領域毎に、それぞれの
処理を実行する手段である画像処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記対象物の表面温度と前記赤外線画像の輝度との対応関係を記憶している対応関係記
憶手段と、
人物の表面が取り得る所定の温度範囲を記憶している温度範囲記憶手段と
を備え、
前記注目輝度設定手段および前記注目輝度更新手段は、前記温度範囲が前記対応関係に
よって対応付けられる輝度範囲の中から、前記注目輝度を設定あるいは更新する手段であ
る画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記対象物の表面温度と前記赤外線画像の輝度と対応関係を記憶している対応関係記憶
手段と、
一人の人物の表面が取り得る温度幅として10℃以下の所定の温度幅を記憶している温
度幅記憶手段と
を備え、
前記対象輝度範囲設定手段は、前記温度幅が前記対応関係によって対応付けられる輝度
幅を有する輝度範囲を、前記対象輝度範囲として設定する手段である画像処理装置。
【請求項6】
対象物の表面温度を二次元的な輝度分布によって表した赤外線画像の中から人物を検出
する画像処理方法であって、
前記赤外線画像中から選択した一の輝度を注目輝度として設定する第1の行程と、
前記注目輝度を含んで所定の輝度幅を有する輝度範囲を、人物を検出するための対象輝
度範囲として設定する第2の行程と、
前記対象輝度範囲に含まれる画像のコントラストが所定比率で拡大されるように、前記
赤外線画像に対してコントラスト強調を行う第3の行程と、
前記コントラスト強調を行った赤外線画像に基づいて、前記注目輝度での人物を検出す
る第4の行程と、
前記注目輝度での人物検出後、新たな前記注目輝度での人物を検出するための該注目輝
度を更新する第5の行程と
を備える画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83822(P2012−83822A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227241(P2010−227241)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】