説明

画像処理装置及び画像処理方法

【課題】
レーダ画像と、レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像について、静止物標に関する外部情報を取得することなく、エコーの揺らぎによる影響を抑制した上で静止物標を除去する画像処理装置及び画像処理方法を提供する。
【解決手段】
レーダ信号処理の下で画像を生成する画像処理装置であって、レーダ画像と、前記レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像との積集合として前記画像を得る演算手段を備えることを特徴とする。また、前記レーダ画像と前記真航跡画像とが二値化され、かつ両者の論理積が前記積集合として求められることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ画像と、レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像について演算処理をして画像を出力する画像処理装置及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動物標の捕捉追尾を行う捕捉追尾装置において、本来ならば他船等の移動物標を捕捉追尾対象とするべきところを、誤って陸地等の静止物標を捕捉追尾対象と判断してしまう問題があった。これは、レーダ受信信号に陸地等の静止物標で反射した受信信号が混在することによるものである。
【0003】
陸地が捕捉追尾されることにより、まるで他船が陸地の上を航行しているがごとく画面上に映し出される「乗り移り」という現象が起こる。このような現象は航行上大きな障害となっている。
【0004】
上記問題を解決するためには、レーダにて受信されたレーダ受信信号が極座標形式から直交座標形式に画像化されたレーダ画像や、レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像上に存在する静止物標の画像を除去することが有効である。
【0005】
たとえば特許文献1では、レーダ画像について今回のスキャンと前回のスキャンで得られたレーダ画像の比較において、画像上の変化がある座標には移動物標が存在し、変化がない座標には静止物標が存在すると判断されることにより、レーダ画像から静止物標の画像が除去されて移動物標のみが抽出される技術を示している。ここにいうスキャンとは空中線が1回転する期間をいう。前記比較は簡易な論理演算であることを特徴としている。
【0006】
また、特許文献2ではレーダ画像と同じ範囲の海図情報をもとにレーダ画像上の陸地等の静止物標の位置が特定されることにより、静止物標の画像が除去される技術を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−15408号公報
【特許文献2】特開平11−23707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法のような単純な画像の比較ではエコーの揺らぎによる影響を排除できないことから静止物標を完全には除去できない。エコーの揺らぎとは、レーダ画像上にて静止物標を連続して観察したとき、動かないはずの静止物標の位置が微妙にずれる等、刻々と変化する状態を意味する。原因として、信号処理上の距離分解能の影響やレーダ装置自体の揺らぎ等の外的要因が挙げられる。エコーの揺らぎによる影響を受けると、特に静止物標の輪郭部分の画像が移動物標として誤って残存してしまう問題があった。
【0009】
また、特許文献2の方法では海図情報のような外部情報を装置内に有することで記憶領域上の大きな範囲を占有するため、記憶領域が小さい装置には組み込めないという問題があった。
【0010】
本発明は、静止物標に関する外部情報を取得することなく、エコーの揺らぎによる影響を抑制した上で静止物標を除去する画像処理装置及び画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る画像処理装置は、レーダ信号処理の下で画像を生成する画像処理装置であって、レーダ画像と、前記レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像との積集合として前記画像を得る演算手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、前記レーダ画像と前記真航跡画像とが二値化され、かつ両者の論理積が前記積集合として求められることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る画像処理方法はレーダ画像と、前記レーダ画像に施された真航跡処理により得られた真航跡画像との積集合として前記画像を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーダ画像とレーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像について、静止物標に関する外部情報を取得することなく少ないメモリ領域を使った比較的容易な画像処理が施されることにより、エコーの揺らぎによる影響を抑制した上で静止物標が除去された画像を出力できる。
【0015】
また、レーダ画像とレーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像について、二値化された上で画像処理が施されることにより、更に使用されるメモリ領域を少なくした上で静止物標が除去された画像を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る画像処理装置のブロック図である。
【図2】本実施形態における論理演算の流れを示すフローチャートである。
【図3】本実施形態における論理演算の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施形態による画像処理の流れとその効果をモデル化した図である。
【図5】画面上横方向の画素数がX、縦方向の画素数がYの二値化画像について画素番号jと座標位置の対応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る画像処理装置の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。図2は本実施形態に係る画像処理装置の第一画像演算部103における演算の流れを、また図3は第二画像演算部107における演算の流れを示すフローチャートである。図4は本実施形態の処理過程とその効果について船舶に搭載されたレーダのレーダ画像と真航跡画像を例に説明する図である。図5は本実施形態に係る画像処理について、画像上の画素の位置を指定する方法を説明する図である。
【0018】
図1において、本実施形態に係る画像処理装置では初段に配置された第一画像演算部103にレーダ画像と、レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像が入力される。ここで真航跡処理とは、観測地点となるレーダの位置とは無関係に他物標の移動量を絶対位置で記憶、表示させるための画像処理を意味する。これに対し、観測地点となるレーダの位置を基準として他物標の移動量を相対位置で記憶、表示させる航跡処理を相対航跡処理とする。
【0019】
第一画像演算部103の出力は画像記憶部105と最終段に配置された第二画像演算部107に入力される。画像記憶部105の出力は第一画像演算部103の出力と共に第二画像演算部107に入力される。第二画像演算部107の出力はレーダ画像と共に捕捉追尾装置に入力される。
【0020】
第一画像演算部103はレーダ画像と真航跡画像について論理演算をする。画像記憶部105は第一画像演算部103が出力した画像を記憶する。第二画像演算部107は第一画像演算部103が出力した画像と画像記憶部105が過去のスキャン時に記憶した画像の論理演算をする。
【0021】
レーダ画像と真航跡画像は二値化画像である。レーダ画像は、レーダ装置にてレーダ受信信号からレーダ画像に画像化される際に二値化される。ここでいう二値とは物標の有無であり、レーダ受信信号の受信電力の大きさについて定められた適当な閾値に基づき、閾値以上ならば物標が存在し、閾値以下ならば物標が存在しないとして区別される。
【0022】
二値化されたレーダ画像をE(j)とし、真航跡画像をT(j)とする。物標が存在する座標はE(j)=1、存在しない座標はE(j)=0である。またレーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像も同様に、真航跡が存在する座標はT(j)=1、存在しない座標はT(j)=0である。
【0023】
ここでnはレーダ送受信信号のスキャン回数を表す整数である。変数jは画像を形成する画素の座標位置を直交座標系において指定する画素番号である。二値化画像について、画素番号jと座標位置の対応を図5に示す。図5に示した画像は画面上横方向の画素数がX、縦方向の画素数がYである。図5上にて黒く示された画素501はE(j)=1又はT(j)=1、白く示された画素503はE(j)=0又はT(j)=0である。画像の画素数をMとするとM=X×Yで、jは0<j<Mである。
【0024】
レーダ画像E(j)と真航跡画像T(j)は第一画像演算部103に入力される。船舶に搭載されたレーダのレーダ画像E(j)を図4(A)に、真航跡画像T(j)を図4(B)にそれぞれ示す。図4(A)のレーダ画像上には、他船の画像と陸地の画像が存在する。また、図4(B)の真航跡画像上には連続した時間における他船の移動量が表示されている。
【0025】
第一画像演算部103は、真航跡画像Tから静止物標のエコーを除去して移動物標の真航跡を抽出する。移動物標の真航跡は、真航跡が存在し(T(j)=1)且つエコーが存在しない(E(j)=0)座標に存在する。よって、第一画像演算部103は、レーダ画像Eと真航跡画像Tにおける同じ座標位置の画素について式(1)の論理演算をする。論理演算の結果を第1の抽出画像Pとする。第一画像演算部103における論理演算の流れを第一画像演算として図2のフローチャートに示す。図2において、S201の論理演算を画像の画素数と同じ回数繰り返す処理の流れを示す。
【数1】

【0026】
(j)=1の座標は、第一画像演算部103において式(1)の結果、移動物標の真航跡のみが存在すると判断された座標である。しかし、エコーの揺らぎによる影響を受けてP(j)=1の座標には陸地等の静止物標の画像が残存する。図4(C)は、第一画像演算部より図4(A)のレーダ画像と(B)の真航跡画像について第一画像演算が施され、出力された第1の抽出画像である。図4(C)上では、特に陸地の輪郭部分が誤って他船の真航跡と共に抽出されている。
【0027】
そこで、第二画像演算部107がエコーの揺らぎによる影響を抑制する。第一画像演算部103が出力した第1の抽出画像P(j)が第二画像演算部107と画像記憶部105に入力される。第二画像演算部107は第1の抽出画像P(j)から静止物標の輪郭部分の画像を除去し、更に現スキャンで新たに加わった真航跡のみを抽出する。画像記憶部105は、第二画像演算部107において論理演算の対象とされる第1の抽出画像P(j)を過去のスキャン時の複数回に亘って記憶する。
【0028】
第二画像演算部107には現スキャンの第1の抽出画像P(j)と共に、前スキャンで画像記憶部105が記憶した第1の抽出画像Pn−1(j)が入力される。第二画像演算部107は現スキャンの第1の抽出画像P(j)と前スキャンで画像記憶部105が記憶した第1の抽出画像Pn−1(j)における同じ座標位置の画素について論理演算する。前スキャンで画像記憶部105が過去のスキャン時に記憶した第1の抽出画像を図4(X)に示す。図4(X)に示した画像上には過去の航跡と、残存した陸地の輪郭部分が存在する。
【0029】
エコーの揺らぎによる影響を受けて移動物標の真航跡として抽出されてしまった静止物標の画像は、画面上にて毎スキャンごとに微妙に動く。ただし、物標自体が動く場合とは異なり、その動きは隣接する複数の画素を、一定の限られた狭い範囲内にとどまりながら不規則に移動することが多い。よって第1の抽出画像P(j)と前スキャンの第1の抽出画像Pn−1(j)においてエコーの揺らぎにより抽出された静止物標の画像には、隣接する複数の座標を不規則に移動する上で同じ座標にもしばしば表れるという特徴がある。
【0030】
また、現スキャンで新たに加わった真航跡は現スキャンの第1の抽出画像P(j)に存在する(P(j)=1)一方、前回スキャンの第1の抽出画像Pn−1には存在しない(Pn−1(j)=0)という特徴がある。そこで、第二画像演算部107は第1の抽出画像P(j)と前スキャンの第1の抽出画像Pn−1(j)について式(2)の論理演算をする。論理演算の結果を第2の抽出画像Q(j)とする。
【数2】

【0031】
更に、毎スキャンごとに静止物標の位置が画面上にて微妙に動くというエコーの揺らぎの特性を鑑みて、第二画像演算部107は式(2)における論理演算の対象として画像記憶部105が過去のスキャン時のk回に亘って記憶した第1の抽出画像Pn―k(j)を加えて式(3)の論理演算を行う。式(3)の論理演算により、第1の抽出画像にて複数回に亘って同じ座標に表れた静止物標の画像が除去される。第二画像演算部107における論理演算の流れを第二画像演算として図3のフローチャートに示す。図3において、S301の論理演算を、過去のスキャン時のk回に亘って記憶した第1の抽出画像Pn―k(j)を対象として、画像の画素数と同じ回数繰り返す処理の流れを示す。
【数3】

【0032】
(j)=1の座標は、第二画像演算部107において静止物標の画像は存在せず、現スキャンで新たに加わった真航跡のみが存在すると判断された座標である。第二画像演算部107にて、図4(C)の第1の抽出画像に残存していた陸地の輪郭部分が除去され、現スキャンで加わった移動物標の真航跡が抽出された第2の抽出画像を図4(Y)に示す。
【0033】
第2の抽出画像は画像処理装置から出力されて、画像処理装置に接続された捕捉追尾装置109に入力される。捕捉追尾装置109は、入力されたレーダ画像に対して捕捉追尾処理をする際に、第2の抽出画像を利用して捕捉追尾対象を決定する。第2の抽出画像の利用方法として、たとえば捕捉追尾対象の決定に際して捕捉追尾対象が現スキャンで新たに加わった真航跡の周辺に絞られることを利用する。たとえば、捕捉追尾装置109に入力される真航跡画像についてあらかじめ通常の捕捉追尾処理を施してから、最終的に捕捉追尾対象を決定する段階において、第2の抽出画像上にてQ(j)=1となった座標に最も近い候補を捕捉追尾対象として定める方法がある。
【0034】
また捕捉追尾装置109は、第2の抽出画像においてQ(j)=1となった座標周辺のある一定範囲内に限定して捕捉追尾処理することが可能である。たとえば図4(Z)に示すように第2の抽出画像上にてQ(j)=1となった座標に近い範囲に限定して捕捉追尾対象を探すことで、全画面上において探すよりも計算量が少なくなり、捕捉追尾処理に要する時間が短縮される。
【0035】
以上、本実施例に係る画像処理装置は、レーダ画像と真航跡画像から静止物標の画像を除去する。静止物標の画像を除去する際は、エコーの揺らぎによる影響を抑制して静止物標の輪郭部分も除去することで移動物標のみが正しく抽出された画像を出力できる。
【0036】
出力された画像は捕捉追尾装置に入力され、捕捉追尾装置は捕捉追尾対象候補から静止物標が除外された上で捕捉追尾対象を決定できることから陸地等の静止物標が誤って捕捉追尾対象とされることなく、結果的に静止物標への誤追尾を防止できる。更には従来問題となっていた、陸地への「乗り移り」を防止できる。
【0037】
本実施形態による画像処理装置は二値化画像について論理演算して抽出画像を出力することから演算量や画像抽出の過程で記憶させるデータ量が少なく、更には海図等の静止物標に関する外部情報等を必要としないため、使用するメモリを小さくできる。
【0038】
また本実施形態による画像処理装置は、一般的なレーダ装置が備えているレーダ画像と真航跡画像について比較的簡易な論理演算をして抽出画像を出力することから、複雑な装置や複雑な処理の付加を必要としない。よって静止物標の画像を除去して移動物標を抽出する装置として容易に提供できる。
【0039】
尚、上述した実施形態に係る画像処理装置は、出力した抽出画像が捕捉追尾装置に入力されるが、捕捉追尾装置に限らずその他機器に入力して更なる画像処理を施すことも可能であり、出力した抽出画像の使用方法について本実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0040】
本実施形態における画像記憶部105は記憶装置に限定されず、遅延器等の素子でも対応できる。第1の抽出画像P(j)を過去のスキャン時のk回に亘って記憶する際、回数kはエコーの揺らぎの度合いやメモリ容量等を検討した上で自由に決定できる。
【0041】
また、本実施例に示したようにレーダ画像や真航跡画像を二値化画像に変換した後に処理する構成に限定されず、座標系や配列の構成等は不問である。
【0042】
従って、画像処理の対象となる画像の範囲はレーダ画像や真航跡画像の全体に及ぶとは限らず、画像の一部分のみを対象とすることも可能である。
【0043】
更に、たとえば灯台等に固定されて海上を監視するような定点観測レーダにおいては、
レーダ自体が静止していることから、レーダ画像に航跡処理が施された航跡画像は、その航跡処理が真航跡処理、相対航跡処理のいずれであっても同じ体様を呈する。定点観測レーダ画像に相対航跡処理が施されると、他物標の移動量が静止している定点観測レーダを基準とした相対位置、すなわち絶対位置で記憶されることにより真航跡処理画像と同じ画像が得られるためである。よって、定点観測レーダにおいてはその航跡処理が真航跡処理でなくとも、レーダ画像とレーダ画像に航跡処理が施された航跡画像について本実施形態と同様の画像処理が施されることにより、同じ効果が得られることは言うまでもない。
【0044】
以上、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲内において多用な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
101 画像処理装置
103 第一画像演算部
105 画像記憶部
107 第二画像演算部
109 捕捉追尾装置
501 レーダ画像にて物標が存在する座標、真航跡画像にて航跡が存在する座標
503 レーダ画像にて物標が存在しない座標、真航跡画像にて航跡が存在しない座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ信号処理の下で画像を生成する画像処理装置であって、
レーダ画像と、前記レーダ画像に真航跡処理が施された真航跡画像との積集合として前記画像を得る演算手段を備えた
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置において、
前記レーダ画像と前記真航跡画像とが二値化され、かつ両者の論理積が前記積集合として求められる
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
レーダ画像と、前記レーダ画像に施された真航跡処理により得られた真航跡画像との積集合として前記画像を得る
ことを特徴とする画像処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−112422(P2011−112422A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267145(P2009−267145)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】