説明

画像加熱装置

【課題】ニップ部に搬送される記録材の長手方向における変位(例えば連続的な変位)がある場合においても、長手方向の一方の端部側の非通紙部が異常に昇温することを防止でき、高速で大量に画像加熱する画像加熱装置を提供する。
【解決手段】ニップ部へ搬送される記録材の長手方向における変位により非通紙部が変位することを認識する変位認識手段と、ニップ部に対応して長手方向の一方の端部側と他方の端部側とを独立に加熱可能な加熱手段と、を備え、一方の端部側へ変位したと認識する場合に、他方の端部側を一方の端部側に対し相対的に加熱量が小さくなるように加熱制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子写真方式を採用した複写機やプリンター、あるいはファクシミリ等の記録材上にトナー画像形成可能な画像形成装置に搭載される画像加熱装置に関する。画像加熱装置としては、記録材に形成された未定着画像を定着する定着装置や、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢処理加熱装置等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において記録材に担持された未定着トナー像を固着画像として加熱定着させる定着装置として、フィルム加熱方式が普及してきている。フィルム加熱方式の定着装置は、加熱体としてのセラミックヒータと、加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性フィルム(定着フィルム、定着ベルト)を挟ませて定着ニップ部を形成させるものである。この定着ニップ部に未定着トナー画像を形成担持させた記録材を導入し、定着フィルムと一緒に挟持搬送させる。
【0003】
これにより、定着ニップ部において、セラミックヒータの熱を定着フィルムを介して記録材に与え、さらに定着ニップ部の加圧力にて未定着トナー画像を記録材面に定着させるものである。上記のようなフィルム加熱方式の定着装置の特徴として、定着フィルムとして熱容量の小さい部材を用いていることが挙げられる。この場合、定着装置が未定着トナー像を担持した記録材を定着できる温度になるために必要な時間(ウォームアップ時間)を短縮でき、かつ消費電力が小さいという利点がある。
【0004】
一方で、上記のような定着フィルムを用いた場合、定着フィルムは厚さが薄く、熱容量が小さいため、記録材の搬送方向に直交する方向(以下、長手方向と記す。)の熱伝導が劣化する。定着ニップ部の長手方向長さに対して、幅の狭い記録材が通紙された場合には、通紙部は記録材によって熱が奪われる。それに対して、非通紙部は熱が奪われないため、非通紙部の温度は上昇してしまう。幅の狭い記録材は、いわゆる小サイズの記録材であり、例えば、LTRサイズ、A4サイズ縦搬送の画像形成装置であれば、A5、B5サイズ幅以下の記録材である。
【0005】
そこで、従来の定着フィルム方式の定着装置においては、ニップ部でセラミックヒータ上に長手方向の長さの異なる発熱抵抗層をフィルム回動方向(通紙方向)に複数列設置し、通紙される記録材の幅に合った長さの発熱抵抗層を発熱させる方法が提案されている。このようにすれば、小サイズの記録材が通紙された場合でも、非通過域の昇温を抑制できる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−162909公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例は、いわゆる小サイズ紙の場合の端部昇温対策例である。近年は、画像形成装置の高速化、大量の連続印刷にともなって、LTRサイズ(紙幅216mm)機におけるA4サイズ紙(紙幅210mm)通紙時の場合の端部昇温が問題となっている。
【0008】
近年の画像形成装置の高速化により、定着装置内での記録材の搬送速度は非常に速くなっている。そのため、記録材に熱を与えトナー像の記録材への定着性を確保するために、加熱部材は非常に高温の状態になってしまう。また、高速化により、前の記録材と次の記録材の間隔が非常に短くなってしまい、定着装置内の加熱部材は加熱しつづける状態となってしまう。
【0009】
その結果、通紙部では記録材が熱を奪うのに対し、非通紙部では記録材が熱を奪わないために、LTRサイズ機において、A5やB5サイズといった小サイズ記録材の場合だけではなく、A4サイズでも高温になりやすい。大量通紙された場合には、非通紙部の温度が非常に高温になる。例えば、セラミックヒータなどに代表される加熱部材では、加熱部材中の発熱体として、LTRサイズ紙(216mm)の定着性を確保できるような長手方向の長さが要求される。それとともに、A4サイズ紙(210mm)通紙時の発熱体の非通紙部の昇温を抑えることも要求され、そのバランスをとって、長手方向の長さが調整されている。
【0010】
しかし、近年では、大量印刷化によって、連続して大量に印刷される場合が多くなっている。そのため、給紙部には、大量の記録材をセットできるような画像形成装置が多くなっている。大量の記録材が給紙部にセットされる場合、メカ的要因あるいはユーザーの記録材のセットの行い方によって、図10に示すように、搬送方向に直交する方向(長手方向)に偏った状態でセットされるおそれがある。
【0011】
このように、給紙部において、偏りをもってセットされた記録材が連続通紙された場合、定着装置内では、例えば、加熱部材に対して、連続的に右側に偏って通紙される。あるいは逆に左側に偏って通紙されるといった場合が生じる。このような状態で連続通紙された場合、加熱部材に対して通紙域が長手方向にシフトすることになり、左寄りで通紙された場合には右側の非通紙部が広くなる。逆に右寄りで通紙された場合には左側の非通紙部が広くなり、大きく昇温し、定着装置の定着部材の温度に大きな左右差が生じたり、また、長手方向において片側が大きく昇温してしまう。
【0012】
図11には、LTRサイズ機において、A4サイズの記録材が通紙中心から1mmずれて連続通紙された場合の、加熱体としてのヒータの非通紙部領域の温度の上昇の一例を示す。記録材は片寄って搬送される側とは逆の非通紙部で、通紙枚数の増加とともに大きく昇温する。定着装置の構成部材の耐熱温度を超えると、構成部材が劣化して耐久性が乏しくなったり破損したりすることがある。また、構成部材の劣化には至らなくとも、長手方向片側のみ温度が高い状態で記録材が通紙される場合には、ホットオフセットやがさつき等の画像弊害が発生することがある。
【0013】
このように、記録材の通紙位置の微小なずれの影響を考慮すると、LTR機において、近年の画像形成装置の高速化、大量の連続印刷に対応するためには、加熱部材の長手方向長さの合わせ込みのみでは、A4サイズに対応できない。すなわち、A4サイズ紙通紙時の非通紙部昇温の抑制が困難となってきている。また、記録材搬送位置の微小なずれの影響は、上記従来例のような記録材幅に応じた加熱体の伸縮では、対処することが困難である。
【0014】
このため、特に高速のLTRサイズ用画像形成装置においては、A4サイズ紙が連続通紙された場合には、非通紙部の温度を抑制するために、例えば、A4サイズ通紙時の通紙域端部の加熱体の温度を温度検出素子で検出する。その検出温度から予測される加熱体の非通紙部の温度が、定着装置の構成部材の耐熱温度に達する前に、一定時間印刷動作を休止して非通紙部の温度が前記耐熱温度より十分低下するまで待機する。あるいは、前の記録材の後端と次の記録材の先端の間隔(以下、紙間と記す)を大きくして、紙間中は、定着装置の温調温度をダウンするなどして、上記問題が発生しないようにする必要がある。
【0015】
しかし、大幅にスループットが低下し、生産性が低下するという問題があった。本発明は、ニップ部に搬送される記録材の長手方向における変位(例えば連続的な変位)がある場合においても、長手方向の一方の端部側の非通紙部が異常に昇温することを防止でき、高速で大量に画像加熱する画像加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために本発明は、回動可能であって回動方向に交差する長手方向に加熱可能な加熱回動部材と、前記加熱回動部材に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部に画像を担持した記録材を挟持搬送して前記画像を加熱する画像加熱装置であって、前記ニップ部へ搬送される記録材の前記長手方向における変位により非通紙部が変位することを認識する変位認識手段と、前記ニップ部に対応して前記長手方向の一方の端部側と他方の端部側とを独立に加熱する加熱手段と、前記変位認識手段により非通紙部が前記長手方向において前記一方の端部側へ変位したと認識する場合に、前記加熱手段に関し前記他方の端部側を前記一方の端部側に対し相対的に加熱量が小さくなるように加熱制御する加熱制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニップ部に搬送される記録材の長手方向における変位(例えば連続的な変位)がある場合においても、長手方向の一方の端部側の非通紙部が異常に昇温することを防止でき、高速で大量に画像加熱する画像加熱装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る画像加熱装置における加熱ヒータ(定着ヒータ)の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像加熱装置を搭載した画像形成装置の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る画像加熱装置としての定着装置の概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る画像加熱装置としての定着装置の斜視模型図である。
【図5】本発明の実施形態における記録材通紙時の定着ニップ部の長手方向の位置関係を表す図である。
【図6】本発明の実施形態における加熱体の温度推移を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に関する加熱体温度と記録材搬送位置の関係図である。
【図8】本発明の第3の実施形態における加熱ヒータ(定着ヒータ)の構成図である。
【図9】従来例における加熱体の温度推移を示し、(a)は通紙基準で通紙された場合を示す図、(b)は一方の端部側へ変位した状態で通紙された場合を示す図である。
【図10】従来例における給紙部の記録材積載状態の模型図である。
【図11】従来例における非通紙部の温度推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。
【0020】
《第1の実施形態》
(画像形成装置)
図2は、本発明の実施形態に係る画像加熱装置を搭載したカラー画像形成装置を示す概略構成図である。この画像形成装置は電子写真方式のタンデム型のフルカラープリンタである。画像形成装置の構成は、4つの画像形成部(画像形成ユニット)を備えており、これらの4つの画像形成部は一定の間隔をおいて一列に配置されている。画像形成部は、イエロー色の画像を形成する画像形成部1Yと、マゼンタ色の画像を形成する画像形成部1Mと、シアン色の画像を形成する画像形成部1Cと、ブラック色の画像を形成する画像形成部1Bkである。
【0021】
各画像形成部1Y、1M、1C、1Bkには、それぞれ感光ドラム2a、2b、2c、2dが設置されている。各感光ドラム2a、2b、2c、2dの周囲には、帯電ローラ3a、3b、3c、3d、現像装置4a、4b、4c、4d、転写ローラ5a、5b、5c、5d、ドラムクリーニング装置6a、6b、6c、6dが設置されている。帯電ローラ3a、3b、3c、3dと現像装置4a、4b、4c、4d間の上方には、露光装置7a、7b、7c、7dがそれぞれ設置されている。各現像装置4a、4b、4c、4dには、それぞれイエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナーが収納されている。
【0022】
画像形成部1Y、1M、1C、1Bkの各感光ドラム2a、2b、2c、2dの各1次転写部Nに、転写媒体としての無端ベルト状の中間転写体40が当接している。中間転写ベルト40は、駆動ローラ41、支持ローラ42、2次転写対向ローラ43間に張架されており、駆動ローラ41の駆動によって矢印方向(時計方向)に回転(移動)される。
【0023】
1次転写用の各転写ローラ5a、5b、5c、5dは、各1次転写ニップ部27にて中間転写ベルト40を介して各感光ドラム2a、2b、2c、2dに当接している。2次転写対向ローラ43は、中間転写ベルト40を介して2次転写ローラ44と当接して、2次転写部Mを形成している。中間転写ベルト40の外側の駆動ローラ41近傍には、中間転写ベルト40表面に残った転写残トナーを除去して回収するベルトクリーニング装置45が設置されている。
【0024】
また、2次転写部Mの記録材Pの搬送方向下流側には定着装置12が設置されている。
画像形成動作開始信号が発せられると、所定のプロセススピードで回転駆動される各感光ドラム2a、2b、2c、2dが、それぞれ帯電ローラ3a、3b、3c、3dによって一様帯電(本実施形態では負極性)される。
【0025】
露光装置7a、7b、7c、7dは、入力されるカラー色分解された画像信号をレーザ出力部(不図示)にて光信号にそれぞれ変換する。変換された光信号であるレーザ光を帯電された各感光ドラム2a、2b、2c、2d上にそれぞれ走査露光し、静電潜像を形成する。
【0026】
そして、静電潜像が形成された感光ドラム2a上に、感光ドラム2aの帯電極性(負極性)と同極性の現像バイアスが印加された現像装置4aにより、イエローのトナーを感光体表面の帯電電位に応じて静電吸着させる。この静電吸着により静電潜像を顕像化し、現像像とする。このイエローのトナー像は、1次転写部Nにて1次転写バイアス(トナーと逆極性(正極性))が印加された転写ローラ5aにより、回転している中間転写ベルト40上に1次転写される。イエローのトナー像が転写された中間転写ベルト40は、画像形成部1M側に回転される。
【0027】
画像形成部1Mにおいても、前記同様にして感光ドラム2bに形成されたマゼンタのトナー像が、中間転写ベルト40上のイエローのトナー像上に重ね合わせて、1次転写部Nにて転写される。以下、同様にして中間転写ベルト40上に重畳転写されたイエロー、マゼンタのトナー像上に、画像形成部1C、1Bkの感光ドラム2c、2dで形成されたシアン、ブラックのトナー像を各1次転写部Nにて順次重ね合わせる。これにより、フルカラーのトナー像が中間転写ベルト40上に形成される。
【0028】
そして、中間転写ベルト40上のフルカラーのトナー像先端が2次転写部Mに移動されるタイミングに合わせて、レジストローラ46により記録材(転写材)Pを2次転写部Mに搬送する。2次転写バイアス(トナーと逆極性(正極性))が印加された2次転写ローラ44により、記録材Pにフルカラーのトナー像が一括して2次転写される。フルカラーのトナー像が形成された記録材Pは、定着ユニット12に搬送されて、加熱回動部材としての定着スリーブ20と、駆動回転する加圧ローラ22の間の定着ニップ部で、フルカラーのトナー像を加熱、加圧して記録材P表面に溶融定着させる。その後、外部に排出され、画像形成装置の出力画像となる。そして、一連の画像形成動作を終了する。
【0029】
なお、上記した1次転写時において、感光ドラム2a、2b、2c、2d上に残留している1次転写残トナーは、ドラムクリーニング装置6a、6b、6c、6dによって除去されて回収される。また、2次転写後に中間転写ベルト40上に残った2次転写残トナーは、ベルトクリーニング装置45によって除去されて回収される。
【0030】
(画像加熱装置)
図3は、画像加熱装置としての定着装置12の概略構成模型図である。本実施形態の定着装置12は、定着ベルト加熱方式、加圧用回転体駆動方式(テンションレスタイプ)の装置である。また、図4に本実施形態の定着装置12における、定着ヒータ16、メインサーミスタ18、サブサーミスタ19a及び19bの位置関係を表す斜視模型図を示す。
【0031】
(画像加熱装置の全体構成)
画像加熱装置としての定着装置12は、トナー像を記録材上に加熱定着するもので、通電発熱抵抗層を有する加熱体としてのヒータ16と、記録材とともに移動する第1の回転体としての定着スリーブ20とを備えている。定着スリーブ20は、回動可能であって回動方向に交差する長手方向に加熱可能に設けられる。定着装置12は、更に定着スリーブ20に圧接する第2の回転体としての加圧ローラ22を備え、定着スリーブ20と加圧ローラ22とによって形成される定着ニップ27において、記録材上のトナー像を加熱定着する構成となっている。
【0032】
定着スリーブ20は、ベルト状部材に弾性層を設けてなる円筒状(エンドレスベルト状)の部材で、例えばフィルムが用いられる。また、ヒータ16はヒータホルダ17に保持される。ヒータホルダ17は、横断面略半円弧状樋型の耐熱性・剛性を有する部材で、ヒータ16は、ヒータホルダ17の下面に該ホルダの長手方向に沿って配設されている。ヒータ16とヒータホルダ17はバックアップ部材を構成する。定着スリーブ20は、このヒータホルダ17にルーズに外嵌させてある。
【0033】
ここで、加熱体としての定着ヒータ16は、本実施形態では、セラミックヒータを用いており、構成の詳細は後述する。ヒータホルダ17は、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で形成し、定着ヒータ16を保持し、定着スリーブ20をガイドする役割を果たす。
【0034】
加圧ローラ22は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、シリコーンゴム層を形成し、その上にPFA樹脂チューブを被覆してなる。この加圧ローラ22は芯金の両端部を装置フレーム24の不図示の奥側と手前側の側板間に回転自由に軸受保持させて配設してある。この加圧ローラ22の上側に、前記のヒータ16・ヒータホルダ17・定着スリーブ20等から成る定着スリーブユニットをヒータ16側を下向きにして加圧ローラ22に並行に当接配置する。
【0035】
ヒータホルダ17の両端部を不図示の加圧機構により片側12.5kgf、総圧25kgfの力で加圧ローラ22の軸線方向に附勢する。このことで、定着ヒータ16の下向き面(以下、表面と記す)を定着スリーブ20を介して加圧ローラ22の弾性層に、該弾性層の弾性に抗して、所定の押圧力をもって圧接させる。これにより、加熱定着に必要な所定幅の定着ニップ部27を形成している。加圧機構は、圧解除機構を有し、ジャム処理時等には加圧を解除し、記録材Pの除去が容易な構成となっている。
【0036】
本実施形態では、図4に示すように、第1の温度検出手段であるサブサーミスタ19aと、第2の温度検出手段であるサブサーミスタ19bとを、記録材Pの搬送方向に対して直交する方向(長手方向)に関して異なる位置に配置し、ヒータ16の温度を検出する。
具体的な配置としては、ニップ部において長手方向の中心位置を挟んで一方の側にある第1の位置と、他方の側にある第2の位置に設ける。
【0037】
図3では、2つのサブサーミスタ19a、19bは、同じ視線上にあるため、1つしか図示されていない。メインサーミスタ18は、本実施形態ではヒータホルダ17の上方において定着スリーブ20の内面に弾性的に接触させてあり、定着スリーブ20の内面の温度を検出する。サブサーミスタ19aと19bは、メインサーミスタ18よりも熱源である定着ヒータ16に近い場所に配置されている。本実施形態では、サブサーミスタ19aと19bは、定着ヒータ16の図3及び図4における上向き面(以下、裏面と記す。)に接触させてあり、発熱抵抗層端部の位置での定着ヒータ裏面の温度を検出する。
【0038】
メインサーミスタ18は、ヒータホルダ17に固定支持させたステンレス製のアーム25の先端にサーミスタ素子が取り付けられている。アーム25が弾性揺動することにより、定着スリーブ20の内面の動きが不安定になった状態においても、サーミスタ素子が定着スリーブ20の内面に常に接する状態に保たれる。
【0039】
メインサーミスタ18は、定着スリーブ20の長手方向の中央付近に、サブサーミスタ19aと19bは、定着ヒータ16の中心から等しい距離の端部付近に配設され、それぞれ定着スリーブ20の内面、定着ヒータ16の裏面に接触するよう配置されている。すなわち、サブサーミスタ19a及びサブサーミスタ19bは、ヒータ16の通電発熱抵抗層の、記録材搬送方向に直交する方向(長手方向)に関して、中心から等しい距離の位置に配置されている。
【0040】
メインサーミスタ18、及びサブサーミスタ19a、19bは、加熱制御手段としての通電制御手段21に接続される。通電制御手段21は、メインサーミスタ18、サブサーミスタ19a、19bの検出結果をもとに、定着ヒータ16の温調制御内容を決定する。また、通電制御手段21は、連続通紙中には、サブサーミスタ19a、19bの検出結果をもとに、通電発熱抵抗層への通電比率を決定する。なお、本明細書において、通電比率とは、商用電源の交流波形の電圧変化の周期に対し、ヒータに通電される時間の割合である。各通電発熱抵抗層に対する通電比率の決定については後述する。
【0041】
図3の23と26は、装置フレーム24に組付けた入り口ガイドと定着排紙ローラである。入り口ガイド23は、二次転写ニップを抜けた記録材Pが、定着ニップ部27に正確にガイドされるよう、転写材を導く役割を果たす。本実施形態の入り口ガイド23は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂により形成されている。
【0042】
加圧ローラ22は、不図示の駆動手段により矢印の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。この加圧ローラ22の回転駆動による、該加圧ローラ22の外面と定着スリーブ20との定着ニップ部27における圧接摩擦力により、円筒状の定着スリーブ20に回転力が作用する。そして、定着スリーブ20は、その内面側が定着ヒータ16の下向き面に密着して摺動しながら、ヒータホルダ17の外回りを矢印の時計方向に従動回転する。定着スリーブ20の内面にはグリスが塗布され、ヒータホルダ17と定着スリーブ20内面との摺動性を確保している。
【0043】
このようにして、加圧ローラ22が回転駆動され、それに伴って円筒状の定着スリーブ20が従動回転状態になり、また定着ヒータ16に通電がなされる。定着ヒータ16が昇温して所定の温度に立ち上げ温調された状態において、定着ニップ部27に、未定着トナー像を担持した記録材Pが入り口ガイド23に沿って案内されて導入される。そして、定着ニップ部27において、記録材Pのトナー像担持面側が定着スリーブ20の外面に密着し、定着スリーブ20と一緒に定着ニップ部27を挟持搬送されていく。
【0044】
この挟持搬送過程において、定着ヒータ16の熱が定着スリーブ20を介して記録材Pに付与され、記録材P上の未定着トナー像が記録材P上に加熱・加圧されて溶融定着される。定着ニップ部27を通過した記録材Pは、定着スリーブ20から曲率分離され、定着排紙ローラ26で排出される。
【0045】
(ヒータ構成)
図1に本実施形態における定着ヒータ16の構成を示す。本実施形態の定着ヒータ16は、裏面発熱型の構造である。すなわち、100はアルミナ、窒化アルミ等のセラミック材料により形成される高熱伝導性基板である。基板100は長手方向に細長い形状であり、加圧ローラ22との間で形成される定着ニップ部27の幅よりも幅が広く形成してある。
【0046】
また、高熱伝導性基板100の定着ニップ部27とは反対側に、長手方向に沿って、例えば銀パラジウム(Ag/Pd)等の導電材料からなる通電発熱抵抗層を形成してある。本実施形態では、ニップ部における回動方向(通紙方向)に複数列の通電発熱抵抗部(長手方向の中心から互いに異なる方向に変位した中心を備える2列の通電発熱抵抗部)を備える。具体的には、2系列の通電発熱抵抗層(第1の通電発熱抵抗層101及び第2の通電発熱抵抗層102)をスクリーン印刷等の手段によって基板上に形成してある。また、通電発熱抵抗層101及び102の上には、ガラス等からなる絶縁保護層106を形成してある。
【0047】
本実施形態では、通電発熱抵抗層101と102は、それぞれ長手方向長さ219.5mmである。しかしながら、図1に示すように、長手方向に関しては位置をずらして配設されている。具体的には、記録材の通紙基準の位置を長手中心とすると、通電発熱抵抗層101は左側に1.75mmずれ、通電発熱抵抗層102は右側に1.75mmずれた状態である。
【0048】
そのため、長手方向において、通電発熱抵抗層101と102が両方とも存在する領域は、長手中心から左右端部に向かって108mmの領域であり、長手方向全体では216mmとなる。通電発熱抵抗層101及び102の一方のみが存在する領域が長手方向端部において、左右とも3.5mm存在することとなる。また、長手方向において、通電発熱抵抗層101及び102の少なくともどちらか一方が存在する領域を発熱領域と定義すると、発熱領域の長さは223mmである。発熱領域の長手中心は記録材の通紙基準と同様である。
【0049】
今後の説明を分かり易くするため、記録材の搬送中心、すなわち、通電発熱抵抗層101及び102をあわせて考えた場合の中心をXとする。また、左側にずれている、通電発熱抵抗層101の長手左側端部位置をY1、右側端部位置をY2とする。右にずれている通電発熱抵抗層102の長手左側端部位置をZ1と右側端部位置をZ2と定義しておく。本定義を用いると、Y1−Z2間=223mmであり、Y1−Z1間及びZ2−Y2間が3.5mmとなる。
【0050】
また、通電発熱抵抗層101及び102のどちらも、長手全体での抵抗値は同様であり、また、長手方向の単位長さあたりの抵抗値も略均一である。また、ヒータ16の裏面にはサブサーミスタ19a及び19bが当設している。サブサーミスタ19aは発熱中心から99mm左側に、19bは99mm右側にそれぞれ位置し、ヒータ16の温度を検出している。
【0051】
(ヒータの発熱分布)
図1で、記録材通紙時には、通電発熱抵抗層101は、電極部103、104間に不図示の電源より給電され、通電発熱抵抗層102は電極部103、105間に同じく不図示の電源から給電され、それぞれ発熱する。上記電極部に印加される電圧のデューティ比や波数等を適切に制御することによって、定着スリーブ20の温度を所望の温度に保ち、記録材上のトナー像の加熱を行う。すなわち、メインサーミスタ18の温度が目標温度を維持するように通電発熱抵抗層101及び102への通電が制御される。ここで、それぞれの通電発熱抵抗層101及び102への不図示の供給用電源はそれぞれ独立しており、通電発熱抵抗層101及び102への通電比率は変更可能である。
【0052】
通電発熱抵抗層101及び102に共に同様の通電比率で通電が行われた場合には、それぞれの通電発熱抵抗層が同様の発熱をする。そのため、ヒータ16としては、発熱中心Xに対し、長手方向で左右対称な発熱分布となる。これに対し、例えば、通電発熱抵抗層101への通電比率に対して、通電発熱抵抗層102への通電比率を多くした場合には、通電発熱抵抗層102の方が発熱量が大きくなる。この場合、通電発熱抵抗層101のみが存在するY1−Z1間の発熱量に対し、通電発熱抵抗層102のみが存在するY2−Z2間の発熱量の方が大きくなる。
【0053】
また、通電比率の関係を逆にすれば、Y1−Z1間の発熱量を大きくすることもできる。即ち、片方の通電発熱抵抗層に対する、もう一方の通電発熱抵抗層への通電比率を変化させることで、長手方向端部の発熱量をコントロールすることができる。
【0054】
(通電発熱抵抗層への通電比率の制御)
1)サブサーミスタ検出温度と非通紙部温度
記録材の通紙位置に対する、サブサーミスタ19a及び19bの検出温度、非通紙部の温度について、先ず説明する。ここで、記録材通紙時には、通電発熱抵抗層101及び102への通電は、同様の通電比率で行っている。即ち、メインサーミスタ18の検出温度が目標温度となるように決定される通電発熱抵抗層101への通電比率をD1、通電発熱抵抗層102への通電比率をD2とすると、D1=D2で制御を行っている。
【0055】
図5に、定着ニップ部にA4サイズ紙が通紙された場合の様子を示す。16は上記の加熱体としての定着ヒータであり、101及び102は定着ヒータ16の裏面に設けられている発熱抵抗層である。A4サイズ紙が通紙基準通りにXを中心として通紙された場合(実線の場合)、本実施形態の構成では、A4紙の両端部から6.5mmの領域、即ち、紙端から通電発熱抵抗層の端部までの領域が非通紙部となる。
【0056】
図5の左右方向(長手方向)で、図5の左側に関しては、記録材の端部から通電発熱抵抗層101の端Y1までが非通紙部となる。また、右側に関しては、記録材の端部から通電発熱抵抗層102の端部Z2までが非通紙部となる。この場合、左右方向(長手方向)の非通紙部の長さは同様になるため、非通紙部の温度上昇は左右で同様となる。
【0057】
これに対し、記録材が片側に寄って通紙された場合(図5の破線の場合)、具体的にはA4サイズ紙が右側に1.5mm寄った場合を説明する。この場合、発熱領域の長手中心Xに対し、記録材の長手中心は1.5mmずれ、非通紙部は左右で領域の長さが異なってしまう。記録材端部から通電発熱抵抗層端Y1までは、8mmとなる。また、記録材端部から通電発熱抵抗層102の端Z2までは5mmとなる。そのため、非通紙部の領域が広いY1側の温度が上昇し、従来例で説明したような問題が生じる可能性があった。
【0058】
図9に、A4サイズ紙、坪量80g/mmの紙を連続通紙した場合の、サブサーミスタ19a及び19bの検出結果Ta及びTbと非通紙部の温度のモニタ結果を示す。なお、非通紙部の測定は、紙端から等しい距離の位置(本結果は紙端から3mmの位置)の発熱抵抗体上にKタイプの熱電対を設置して測定した。以下、熱電対によって測定した非通紙部温度について、サブサーミスタ19aと同じ側の温度をHa、サブサーミスタ19bと同じ側の温度をHbと記す。ここで、通電発熱抵抗層101及び102への通電比率は同等(D1=D2)で制御した。
【0059】
図9(a)は、A4紙が通紙基準通りに通紙された場合の結果であり、図9(b)は通紙基準に対して、右側に1.5mm寄って通紙された場合の結果である。図9(a)に示すように、A4紙を連続通紙した場合、通紙基準通りに通紙された場合にはTaとTbが同じ温度上昇カーブになる。これに対し、図9(b)に示すように、長手方向の通紙位置ずれ量が大きいと、片側の非通紙部の温度が急激に上昇する。
【0060】
図9(b)に示すように、基準に対し右側に1.5mm寄って通紙された場合には、通紙基準で通紙された場合に比べ、非通紙部の領域が広くなる側であるサブサーミスタ19a側の温度Ta及び非通紙部の温度Haが高くなっている。また、サブサーミスタ19a及び19bの温度検出結果Ta及びTbの上昇カーブと、それぞれの側の非通紙部の温度Ha及びHbの温度上昇カーブが対応した動きになっていることが分かる。これらの結果から、両側の非通紙部の温度Ha及びHbを、サブサーミスタ19a及び19bの検出温度Ta及びTbから予測することができる。
【0061】
2)通電発熱抵抗層に対する通電比率の変更
以下、本実施形態における通電発熱抵抗層への通電制御について詳細に説明する。図3において、制御回路部21は、サブサーミスタ19aと19bの温度検出結果TaとTbから、その差Ta−Tbを計算する。そして、加熱制御手段としての制御回路部21は、サブサーミスタ19aと19bにより検出される温度の差が所定値に至った場合に上述した加熱制御を実行する。即ち、サブサーミスタ19aと19bにより検出される温度差の絶対値が10度以上(|Ta−Tb|≧10℃)となる場合に、一方の通電発熱抵抗層への通電比率に対する、他方の通電発熱抵抗層への通電比率の比を変更する。
【0062】
以下、記録材の通紙位置が、通紙基準Xに対し、右側に1.5mmずれている場合を詳細に説明する。記録材が連続通紙されるにつれて、|Ta−Tb|の値は大きくなっていくため、非通紙部領域が広い側であるサブサーミスタ19a側は大きく昇温してしまう。そこで、このように片側のみ大きく昇温することを防止するため、サブサーミスタ19a側の発熱量を減らす必要があり、Y1−Z1間の発熱量をY2−Z2間の発熱量に比べて小さくすることが好ましい。
【0063】
通電発熱抵抗層102に対する、通電発熱抵抗層101への通電比率を小さくすれば、Y1−Z1間の発熱量を、Y2−Z2間の発熱量に比べて小さくすることができる。本実施形態では、Ta−Tb≧10℃となった時点で、通電発熱抵抗層101への電力投入量を、通電発熱抵抗層102の電力投入量に対して10%減少させる。
【0064】
具体的に説明すれば、先ず記録材連続通紙初期には、通電発熱抵抗層101へ通電比率D1で通電し、102には同じ値となる通電比率D2で通電していたとする。即ち、D1=D2であり、共に300Wの電力投入で、合計600Wの電力を投入していたとする。次に、Ta―Tb≧10℃となった時点では、通電発熱抵抗層101への通電比率をD1−5%とし、電力投入量を約285Wにする。
また、通電発熱抵抗層102への通電比率をD2+5%とし、の電力投入量を315Wにする。このようにすることで、通電発熱抵抗層101の発熱量は減少し、Y1−Z1間の発熱量を減らすことができる。かつ、ヒータ16としての電力投入量は600Wのままであるため、定着スリーブ20の長手中央部での温度は一定のままとなる。
【0065】
これらを図6に示す。記録材(紙)の長手方向の位置が、通紙基準に対して片方に寄って搬送された場合、TaとTbの差が通紙枚数が増えるに連れて徐々に大きくなっていく。しかし、TaとTbの差が10℃になった時点で、サブサーミスタ19a側である、Y1−Z1間の発熱量を減らすため、通電発熱抵抗層101への通電比率を5%減少させ、投入電力量を減らす。また、通電発熱抵抗層102への通電比率を5%増加させ、投入電力量を増やす。そうすることで、次の記録材通紙からは、図6の実線で示すように、TaとTbの温度差が小さくなるように推移していく。
【0066】
このように、TaとTbの差が規定の値になった場合に、通電発熱抵抗層101及び102への通電量を変更する。これにより、記録材が、搬送方向に直交する方向(長手方向)に連続的に変位して搬送された場合でも、定着ヒータ16の発熱分布に大きな左右差をもたらすことが防止できる。また、定着ニップ27中で、記録材搬送方向の一方のみが大きく昇温することを防止できる。
【0067】
なお、本実施形態では、サブサーミスタ19aの検出温度Taの方がサブサーミスタ19bの検出温度Tbよりも高く推移している場合で説明した。つまり、記録材通紙位置が、通紙基準Xから右側にずれている場合である。逆に、記録材の通紙位置が、通紙基準に対して、左側にずれている場合には、サブサーミスタ19bの検出温度Tbの方が高くなるのは言うまでもない。この場合には、通電発熱抵抗102への通電比率を減らし、投入電力量を減じ、通電発熱抵抗層101への通電比率を増やし、投入電力量を増加させれば良い。
【0068】
また、上記のように、Ta―Tb≧10℃となり、通電発熱抵抗層101への投入電力量を減じたにも拘らず、記録材の通紙が進むにつれて、再度Ta―Tb≧10℃になる場合がある。例えば、想定以上に記録材の通紙位置が右側に寄っている場合である。この場合には、再度Ta―Tb≧10℃となった時点で、再び、通電発熱抵抗層101への通電比率を減らし、投入電力量を減ずればよい。すなわち、|Ta−Tb|≧10℃となる毎に、高い温度を検出しているサブサーミスタのある側の発熱量を減らすように、通電発熱抵抗層101及び102への投入電力量を変化させれば良い。
【0069】
また、本実施形態では、ヒータ16に当設しているサブサーミスタ19a及び19bの検出温度を基に、非通紙部の温度を予測する例を示したが、これに限定されるものではない。即ち、例えば、定着スリーブ20の長手端部付近の温度をモニタする温度検出素子を設けてあっても良い。定着スリーブ20の長手左右における温度差を基に、本実施形態と同様の通電比率の変更を行えば、同様の効果が得られる。また、例えば、加圧ローラ22の長手左右における温度差をモニタ可能な温度検出素子を設けてあっても良い。
【0070】
更に、ヒータ16上の構成に関しても、本実施形態の構成に限定されるものではない。即ち、複数の通電発熱抵抗層が形成されており、そのうちの少なくとも1本が、長手方向の中心である、通紙基準に対して、左右で非対称な発熱分布であればよい。その上で、前記複数の通電発熱抵抗層がそれぞれ独立に通電制御可能であれば、本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0071】
《第2の実施形態》
本実施形態では、5枚通紙ごとにTaとTbの差に基づいて通電発熱抵抗層の通電比を変更する。なお、画像形成装置の構成や、定着装置12の構成は第1の実施形態の場合と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0072】
図7に、従来例における、記録材を5枚連続通紙した場合の、サブサーミスタ19a、19bの検出温度Ta、Tbの差を示している。さらに、サブサーミスタ19a側、19b側それぞれの記録材の端から等しい距離の位置(本実施形態の場合、紙の端部から3mm)での非通紙部の温度Ha、Hbの差と記録材の搬送位置の基準位置(中心)からのずれ量の関係を示す。
【0073】
なお、図7は、A4サイズ、坪量80/gm2の紙を25℃/60%環境で通紙した場合の結果である。グラフの縦軸はTa−Tb及びHa−Hbの値であり、紙が右寄りで通紙された場合、Taの温度が大きくなるため、正の値、逆に紙が左寄りで通紙された場合にはTbの温度が大きくなる。そのため、負の値となっている。また、非通紙部の定着ヒータ裏面の温度Ha、Hbは、定着ヒータ16の裏面に熱電対を設置して測定した。
【0074】
図7に示すように、TaとTbの差、及びHaとHbの差は、A4紙の搬送位置の基準位置からのずれと1対1の関係であり、記録材搬送位置がずれるほど温度差は大きくなっていることがわかる。紙通紙位置が、中央の場合には、TaとTb、HaとHbともに差は0となっている。
【0075】
本実施形態では、図7に示した結果を基に、記録材が5枚通紙される毎に、次の5枚の通紙時の通電発熱抵抗層101及び102への通電比率を設定する。以下、表1に、A4サイズ、坪量80g/m2の紙を連続通紙する場合の5枚通紙ごとの通電発熱抵抗層101及び102への通電比率の変更量を示す。
【表1】

【0076】
ここで、表1中で、Ta−Tb及びHa−Hbの値が正の場合には、記録材が右側にずれて通紙されており、サブサーミスタ19a側の温度が高いことを示す。逆に負の場合には、記録材が左側にずれて通紙されており、サブサーミスタ19b側の温度が高いことを示す。記録材の通紙開始時は、通電発熱抵抗層101へは通電比率D1で、通電発熱抵抗層102へは通電比率D2で通電される。このとき、D1=D2であり、メインサーミスタ18の温度が目標温度となるように決定されている。この状態で記録材が5枚通紙された後にTa−Tbを求める。
【0077】
このとき、表1に従い、例えば、Ta−Tb=10℃であった場合には、次の記録材5枚通紙中には、通電発熱抵抗層101へはD1−10%の通電比率で、通電発熱抵抗層102へはD2+10%の通電比率で通電する。また、例えば、Ta−Tb=5℃であった場合には、次の記録材5枚通紙中には、通電発熱抵抗層101へはD1−5%の通電比率で、通電発熱抵抗層102へはD2+5%の通電比率で通電する。ここで、記録材5枚通紙後のTa−Tb=10℃の場合とは、図7によると、記録材が2mm右側にずれて通紙された場合である。また、Ta−Tb=5℃の場合とは、記録材が1mm右側にずれて通紙された場合である。
【0078】
本実施形態では、加熱制御手段としての制御回路部21は、一定の通紙枚数ごとに温度差が所定値に至ったかを判断し、所定値に至った場合に通電発熱抵抗層101及び102への通電比率を変更する加熱制御を実行する。そして、通電比率の変更は、温度差に応じて異なるように加熱制御を実行する。
【0079】
このように、本実施形態では、上記の表1に従って通電発熱抵抗層101及び102への通電比率を変更させることにより、記録材通紙位置が通紙基準から大きくずれている場合ほど、通電発熱抵抗層101及び102への通電比率の変更量を大きくする。この結果、記録材通紙位置の通紙基準からのずれの大きさに応じて、適切な発熱分布に制御することが可能となる。
【0080】
記録材の連続通紙開始から5枚が通紙され、1回目の通電比率の変更が行われた後、次の5枚通紙後においても、サブサーミスタ19a及び19bの検出温度の差Ta−Tbが0にならない場合がある。この場合には、表1に従い、再度、Ta−Tbの値に応じて、通電発熱抵抗層101及び102への通電比率を変更すればよい。以後、本変更を繰り返す。また、5枚通紙後に、|Ta−Tb|<1となっていた場合には、次の記録材5枚通紙時には、通電発熱抵抗層101及び102への通電比率の変更は行わない。
【0081】
これまで説明してきたように、サブサーミスタ19a及び19bの検出温度の差である、Ta−Tbに応じて、記録材5枚通紙ごとに通電発熱抵抗層101及び102への通電比率を変更する。このようにすることにより、記録材が、搬送方向に直交する方向に連続的にずれて搬送された場合でも、定着ヒータ16の発熱分布に大きな左右差をもたらすことが防止できる。また、定着ニップ部27中で、記録材搬送方向の一方のみが大きく昇温することを防止できる。また、記録材の通紙5枚ごとという高頻度で通電比率の変更を行うため、より正確に定着ヒータ16の発熱分布を制御できる。
【0082】
よって、ヒータ16のみならず、定着スリーブ20及び、加圧ローラ22の長手方向端部における温度も左右で同様となる状態で、記録材の連続通紙が可能となる。その結果、定着装置として、高寿命化が図られる。また、記録材の長手端部の片側のみホットオフセットや、がさつき等の画像不良が発生するという問題も、より効果的に防止できる。
【0083】
本実施形態では、記録材を連続通紙する場合に、5枚ごとに通電発熱抵抗層101及び101への通電比率を変更する例を示した。しかしながら、本構成の意味するところは、一定枚数ごとに通電比率の変更を行うことである。すなわち、例えば、記録材の通紙3枚ごとに通電比率の変更を行ってもよい。
【0084】
《第3の実施形態》
本実施形態では、定着ヒータ16として、3系統の通電発熱抵抗層を有する場合を説明する。画像形成装置の構成は第1の実施形態(図2)と同様であり、定着ヒータ16以外の定着装置12の構成も第1の実施形態(図2)と同様である。本実施形態における定着ヒータ16の構成を図8に示す。また、サブサーミスタ19a及び19bの配置も図8に示す。200はアルミナ、窒化アルミ等のセラミック材料により形成される高熱伝導性基板であり、加圧ローラ22との間で形成される定着ニップ部27の幅よりも広く形成してある。
【0085】
本実施形態における定着ヒータ16は、3系統の通電発熱抵抗層を基板200上に有する。即ち、高熱伝導性基板200の定着ニップ部27とは反対側に、長手方向に沿って、例えば銀パラジウム(Ag/Pd)等の導電材料からなる3系統の通電発熱抵抗層を有している。具体的には、第1列として長手方向の中心をその中心とする第1の通電発熱抵抗部201を備え、かつ、第2列として長手方向の一方の端部側と他方の端部側とに独立して設けられる第2の通電発熱抵抗部202と第3の通電発熱抵抗部203を備える。
【0086】
本実施形態では、第1の通電発熱抵抗層201及び第2の通電発熱抵抗層202、第3の通電発熱抵抗層203が、スクリーン印刷等の手段によって基板上に形成されている。また、通電発熱抵抗層201及び202、203の上には、ガラス等からなる絶縁保護層206が形成されている。なお、通電発熱抵抗層201は、長さ220mmで形成されており、図8の記録材の通紙基準位置Xに対し、長手両端部方向へ110mmであり、左右対称の形状である。通電発熱抵抗層202及び通電発熱抵抗層203は、ともに長さ20mmである。
【0087】
通電発熱抵抗層202は、通紙基準Xに対し、左側へ92.5mmの位置から112.5mmの位置までの領域に形成されている。また、通電発熱抵抗層203は、通紙基準Xに対し、右側へ92.5mmの位置から112.5mmの位置に形成されている。即ち、通電発熱抵抗層202及び203は、通紙基準Xに対し対称に形成されている。通電発熱抵抗層201、202、203への不図示の供給用電源は、それぞれ独立しており、通電発熱抵抗層201、202、203への通電比率は変更可能である。
【0088】
記録材の通紙時には、メインサーミスタ18の検出温度が目標に維持されるように、各通電発熱抵抗層へ独立に通電がなされる。本実施形態の場合、記録材通紙中は主に通電発熱抵抗層201への通電がなされる。通電発熱抵抗層202及び203は、記録材の長手端部における熱量不足を補うために補助的に通電がなされる。即ち、LTRサイズの記録材が連続通紙される場合には、通電発熱抵抗層202、203は比較的大きな通電比率で通電がなされ、記録材の長手端部の定着不良を防止する。そして、A4サイズの記録材が連続通紙される場合には、通電発熱抵抗層202、203は比較的小さな通電比率で通電がなされ、非通紙部の異常な昇温を防止する。
【0089】
記録材の通紙開始時には、通電発熱抵抗層202及び203へは、同様の通電比率で通電がなされ、ヒータ16としては、左右均等に発熱する。この場合これまでも説明してきたように、記録材が通紙基準Xからずれて通紙された場合には、ヒータ16の片側のみが大きく昇温することになる。即ち、サブサーミスタの検出温度Ta及びTbの一方のみが高い温度を検出することになる。このような場合には、高い温度を検出している側の通電発熱抵抗層への通電比率を減少させれば良い。
【0090】
例えば、記録材が右に寄って通紙され、サブサーミスタ19aの検出温度Taが大きい場合、通電発熱抵抗層202への通電比率を減じる。このようにすることで、ヒータ16の左側のみが大きく昇温することが防止できる。
【0091】
本実施形態の特徴としては、第1、第2の実施形態とは異なり、通電発熱抵抗層202及び203の通電比率を独立に制御することによって、ヒータ16の長手端部の発熱量を左右非対象に制御できることである。通電発熱抵抗層202及び203の通電比率を変更したとしても、通電発熱抵抗層201への通電比率を変更しないため、長手中央部は安定した温度で制御することが可能である。
【0092】
更に言えば、本構成の定着ヒータ16を用いれば、記録材が通紙基準からずれて通紙されていたとしても、サブサーミスタ19a、19bの検出温度を常に一定とするように制御することも可能である。即ち、記録材の通紙中に常にサブサーミスタ19a及び19bの検出温度Ta、Tbをモニタしておき、Ta及びTbが一定となるように、通電発熱抵抗層への通電比率を設定する。
【0093】
このようにすることによって、サブサーミスタの検出温度Ta及びTbが一定となるようにヒータ16の温度を制御できるため、非通紙部の温度Ha及びHbも一定以上に昇温することはない。この結果、記録材が通紙基準からずれて連続通紙された場合にも、長手方向片側のみが高温になることによる、ホットオフセットやがさつき等の画像弊害の発生を抑制できる。
【0094】
以上、説明してきたように、本実施形態の図8の構成の定着ヒータ16を用いることによって、記録材は通紙基準からすれて通紙された場合でも、ヒータ16の発熱分布に左右差が生じることを防止できる。
【0095】
(変形例1)
上述した実施形態においては、加熱手段として、ニップ部における回動方向に複数列の通電発熱抵抗部を備えることを示したが、これに限らず、ニップ部における回動方向に単数列の通電発熱抵抗部を備えるものであっても良い。この場合、例えば長手方向の両端部を除く領域に第1の通電発熱抵抗部、長手方向の一方の端部に第2の通電発熱抵抗部、長手方向の他方の端部に第3の通電発熱抵抗部を、一列になるよう夫々独立に設ける。
【0096】
(変形例2)
上述した実施形態においては、ニップ部へ搬送される記録材の長手方向における変位により非通紙部が変位することを認識する変位認識手段として、ニップ部における長手方向の第1の位置、第2の位置に設けられる温度検出手段を用いた。即ち、一方の側にある第1の位置と、他方の側にある第2の位置の温度に関し、第2の位置が第1の位置に対し温度が高いと検出される場合に、一方の端部側への変位があると認識したが、本発明はこれに限られない。例えば、ニップ部の手前で、記録材の長手方向における変位、あるいは非通紙部の長手方向における変位を光学的に直接検出するようにしても良い。
【0097】
(変形例3)
上述した実施形態においては、加熱比率を変える場合に、加熱時間としての通電時間を変える、即ち通電比率を変えるようにしたが、これに限らず、例えば加熱電流を変えるようにしても良い。
【0098】
(変形例4)
上述した実施形態においては、加熱制御手段は、変位認識手段により非通紙部が長手方向において一方の端部側へ変位したと認識する場合に、加熱手段に関し他方の端部側を一方の端部側に対し相対的に加熱量が小さくなるように加熱制御した。ここで、加熱量が小さくなるようにとは、加熱をゼロ(加熱停止)とする場合を含むものであり、一方の端部側の加熱量を変えずに、他方の端部側の加熱量をゼロとするよう通電オフとしても良い。
【0099】
(変形例5)
上述した実施形態においては、加熱手段としてのヒータが、回動するフィルム部材の内側で当接するバックアップ部材として兼用されたが、本発明はこれに限らず、加熱手段とバックアップ部材を別個に設けても良い。例えば、バックアップ部材とは独立に、励磁コイルによる電磁誘導方式を用いた加熱手段を用いても良い。
【0100】
(変形例6)
なお、上述した実施形態においては、ニップ部を形成する加圧部材として、回動可能な加圧ローラーを用いたが、固定の加圧パッドを用いることもできる。
【0101】
(変形例7)
上述した実施形態においては、定着部材として回動するフィルムを用いたが、いわゆる定着ローラ(例えば金属製)を用いても良い。
【符号の説明】
【0102】
12・・定着装置、16・・セラミックヒータ、18・・メインサーミスタ、19a、19b・・サブサーミスタ、20・・定着スリーブ、22・・加圧ローラ、27・・定着ニップ部、P・・記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能であって回動方向に交差する長手方向に加熱可能な加熱回動部材と、
前記加熱回動部材に圧接してニップ部を形成する加圧部材と、
を有し、前記ニップ部に画像を担持した記録材を挟持搬送して前記画像を加熱する画像加熱装置であって、
前記ニップ部へ搬送される記録材の前記長手方向における変位により非通紙部が変位することを認識する変位認識手段と、
前記ニップ部に対応して前記長手方向の一方の端部側と他方の端部側とを独立に加熱する加熱手段と、
前記変位認識手段により非通紙部が前記長手方向において前記一方の端部側へ変位したと認識する場合に、前記加熱手段に関し前記他方の端部側を前記一方の端部側に対し相対的に加熱量が小さくなるように加熱制御する加熱制御手段と、
を有することを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記変位認識手段は、前記ニップ部において前記長手方向の中心位置を挟んで一方の側にある第1の位置と、他方の側にある第2の位置に設けられる温度検出手段を備え、前記第2の位置が前記第1の位置に対し温度が高いと検出される場合に、前記一方の端部側への変位があると認識することを特徴とする請求項1に記載の画像加熱装置。
【請求項3】
前記加熱制御手段は、前記第1の位置と前記第2の位置の温度差が所定値に至った場合に前記加熱制御を実行することを特徴とする請求項2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記加熱制御手段は、一定の通紙枚数ごとに前記第1の位置と前記第2の位置の温度差が所定値に至ったかを判断し、所定値に至った場合に前記加熱制御を実行することを特徴とする請求項3に記載の画像加熱装置。
【請求項5】
前記加熱制御手段は、前記変位認識手段により非通紙部が前記長手方向において前記一方の端部側へ変位したと認識する場合に、前記加熱手段に関し前記他方の端部側の加熱比率を前記一方の端部側の加熱比率に対し相対的に小さくすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像加熱装置。
【請求項6】
前記加熱比率は、商用電源の交流波形の電圧変化の周期に対し、前記加熱手段に通電される時間の割合としての通電比率であることを特徴とする請求項5に記載の画像加熱装置。
【請求項7】
前記一方の端部側の通電比率と、前記他方の端部側の通電比率の和が一定であることを特徴とする請求項6に記載の画像加熱装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、前記ニップ部における前記回動方向に複数列の通電発熱抵抗部を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像加熱装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記長手方向の中心から互いに異なる方向に変位した中心を備える2列の通電発熱抵抗部を備えることを特徴とする請求項8に記載の画像加熱装置。
【請求項10】
前記加熱手段は、第1列として前記長手方向の中心をその中心とする第1の通電発熱抵抗部を備え、かつ、第2列として前記長手方向の一方の端部側と他方の端部側とに独立して設けられる第2の通電発熱抵抗部と第3の通電発熱抵抗部を備えることを特徴とする請求項8に記載の画像加熱装置。
【請求項11】
前記変位認識手段は、前記ニップ部において前記長手方向の中心位置を挟んで一方の側にある第1の位置と、他方の側にある第2の位置に設けられる温度検出手段を備え、
前記加熱手段は、前記温度検出手段の検出温度を一定とするように加熱制御することを特徴とする請求項10に記載の画像加熱装置。
【請求項12】
前記加熱回動部材はフィルム部材であり、その内側に当接するバックアップ部材を有し、
前記加圧部材は前記フィルム部材の外側にあって前記フィルム部材を圧接して前記バックアップ部材と共にニップ部を形成することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の画像加熱装置。
【請求項13】
前記加熱手段はヒータであり、前記ヒータは前記バックアップ部材を兼用することを特徴とする請求項12に記載の画像加熱装置。
【請求項14】
前記加圧部材は駆動回転される加圧ローラであることを特徴とする請求項12に記載の画像加熱装置。
【請求項15】
前記加圧部材は固定された加圧パッドであることを特徴とする請求項12に記載の画像加熱装置。
【請求項16】
前記第1の位置、前記第2の位置は、前記長手方向の中心から等しい距離の位置に配置されることを特徴とする請求項2に記載の画像加熱装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−37159(P2013−37159A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172695(P2011−172695)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】