説明

画像形成材料、平版印刷版原版及び平版印刷版の作製方法

【課題】現像ラチチュード、画像形成性及び画像部強度のいずれにも優れ、且つ、像様露光後、現像処理に至るまでに経時した場合でも現像性の低下が抑制された赤外線感応性ポジ型画像形成材料、それを適用した画像形成性と画像部耐刷性とに優れた赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版、並びに、該平版印刷版原版を使用した平版印刷版の製版方法を提供する。
【解決手段】 支持体上に、カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層とを、順次備える画像形成材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線感応性画像形成材料、それを用いた赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版及び平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の感光性組成物が可視画像形成材料や平版印刷版材料として使用されている。特に、平版印刷分野における近年のレーザーの発展は目覚ましく、特に近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レーザー・半導体レーザーは高出力かつ小型の物が容易に入手できるようになっている。コンピュータ等のディジタルデータから直接製版する際の露光光源として、これらのレーザーは非常に有用である。
赤外線レーザー用ポジ型平版印刷版原版は、アルカリ可溶性のバインダー樹脂と、光を吸収し熱を発生する赤外線吸収剤等とを必須成分とする。この赤外線吸収剤等が、未露光部(画像部)では、バインダー樹脂との相互作用によりバインダー樹脂の現像液に対する溶解性を実質的に低下させる現像抑制剤として働き、露光部(非画像部)では、発生した熱により赤外線吸収剤等とバインダー樹脂との相互作用が弱まり、アルカリ現像液に溶解して平版印刷版を形成する。
しかしながら、このような赤外線感応性のポジ型画像形成材料を適用した平版印刷版材料では、未露光領域における画像形成層の強度と、露光領域におけるアルカリ水溶液への溶解性との差(ディスクリミネーション;以下、溶解ディスクリと称する)が充分に得られず、画像形成に適する現像条件(現像ラチチュード)が狭いために、活性度の落ちた疲労現像液で現像すると残膜が生じたり、活性度の高い現像液で現像すると所望されない画像部強度低下が生じたりする懸念があった。
【0003】
現像ラチチュードの問題を解決するために、非画像部をより容易に現像し得る、即ち、アルカリ水溶液に対する溶解性がより良好な特性を有する材料からなる記録層を用いることが考えられるが、このような記録層は、画像部領域においても化学的に弱くなり、通常印刷における耐久性、更には、現像液や印刷中に使用されるインキ洗浄溶剤、プレートクリーナー等によりダメージを受け易くなるなど、耐薬品性に劣るといった問題があった。
この問題を解決する目的で、記録層を重層化し、記録層近傍にアルカリ可溶性の高い下層を設け、露光により上層が除去されると下層の高いアルカリ可溶性により残膜の発生を抑制して現像ラチチュードを改良する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
画像記録層を重層化する場合、通常は、下層と上層とを逐次塗布することで画像記録層を作製するが、重層構造の利点を生かすためには、上層と下層との界面が明確である必要があり、上層塗布時に、上層と下層との混合が起こらないようにすることが重要である。
上層と下層との相溶による界面混合を防止する方法として、一般的には、下層にスルホンアミド等の極性基を有するバインダーポリマーを導入することで下層の極性を向上させ、上層/下層間の極性差を広げる方法がある。しかしながら、上層と下層との層間混合を抑制しうるスルホンアミド等が有する極性基はpKaが高く、現像ラチチュードが狭くなるという問題があった。一方、現像ラチチュードが良好なカルボン酸基を有するバインダーポリマーを下層に用いると、極性の問題で下層と上層との層間混合が起こり易くなり、上層をうまく形成することができないという問題があった。
重層構造の特性を生かしつつ、画像形成性、現像ラチチュードや溶解ディスクリ、未露光部領域における耐久性の向上を目的として、重層構造のいずれかの層、好ましくは下層に多官能アミン化合物を添加し、複数の官能基とバインダーポリマーとの間に多点で相互作用を形成させ、未露光部の強度を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法によっても、露光部の溶解性向上は十分に得られず、さらなる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−218914
【特許文献2】特開2005−181734
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、現像ラチチュード、画像形成性及び画像部強度のいずれにも優れ、且つ、像様露光後、現像処理に至るまでに経時した場合でも現像性の低下が抑制された赤外線感応性ポジ型画像形成材料、それを適用した、画像形成性と画像部耐刷性に優れた赤外線感応性用ポジ型平版印刷版原版、及び、該平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下に示す本発明の手段により解決された。
<1> 支持体上に、カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層とを、順次備える画像形成材料。
<2> 前記一価の塩基性化合物が、窒素原子を含む塩基性化合物である前記<1>に記載の画像形成材料。
<3> 前記一価の塩基性化合物がオニウムヒドロキシドであることを特徴とする前記<1>に記載の画像形成材料。
<4> 前記オニウムヒドロキシドが下記一般式(1)〜(4)で表される構造より選択される化合物であることを特徴とする前記<3>に記載の画像形成材料。
【化1】

(式中、R〜R17は一価の置換基を表す。R〜R、R〜R、R〜R11、R12〜R17は連結して環状構造をとってもよい。)
<5> 前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーの主鎖構造が、アクリル樹脂、アセタール樹脂、及びポリウレタンから選択される前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
【0007】
<6> 前記アクリル樹脂が、N−置換マレイミド及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマー由来の構造単位を含む共重合体である前記<5>に記載の画像形成材料。
<7> 前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーの主鎖構造が、ポリウレタンである前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
<8> 前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーが、(A−1)カルボン酸基を有するポリマーと(A−2)一価の塩基性化合物とを含有する塗布液組成物を塗布、乾燥することで得られる前記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
<9> 前記(A−1)カルボン酸基を有するポリマーのカルボン酸価が0.01mmol/g〜3.00mmol/gの範囲である前記<8>に記載の画像形成材料。
<10> 前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーのカルボン酸価が0.001mmol/g〜2.00mmol/gの範囲である前記<1>〜<9>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
<11> 前記熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層が、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する前記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
<12> 前記熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層が、さらに赤外線吸収剤を含む前記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の画像形成材料。
<13> 前記<1>〜<12>のいずれか1つに記載の画像形成材料からなる赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版。
<14> 前記<13>に記載の平版印刷版原版を赤外線により画像露光する露光工程と、pH8.5〜10.8のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程と、をこの順で含む平版印刷版の作製方法。
<15> 前記アルカリ水溶液が、さらにアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を含む前記<14>に記載の平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像形成性及び画像部強度のいずれにも優れ、且つ、像様露光後、現像処理に至るまでに経時した場合でも現像性の低下が抑制された赤外線感応性ポジ型画像形成材料、それを用いた画像形成性と画像部耐刷性とに優れ、焼きだめ性の良好な平版印刷版原版、さらには、該平版印刷版原版を用いた平版印刷版の製版方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の画像形成材料は、カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーを下層に含有することを特徴とする。これによる優れた効果の作用機構は明確ではないが、以下のように推定している。
本発明者等の検討により、カルボン酸基を有するバインダーポリマーを下層に用いた場合、pKaが低く現像ラチチュードが良好であるものの、極性が低く溶解ディスクリを付与できないことがあることが分かってきた。これは下層の極性が低く上層と相溶してしまうためであると考えられる。これに対し、本発明においては、バインダーポリマーが有するカルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成していることにより、下層としての極性が著しく向上したため、界面での上層との相溶が抑制され、溶解ディスクリが付与可能となった。その結果、重層構造の特徴である画像形成性と画像部の強度との両立が可能となったものと考えている。
すなわち、カルボン酸基と一価の塩基性化合物とを用いて塩構造を形成させることにより、極性が向上し、さらに露光部で塩構造が形成されることにより現像液の浸透性が向上する。そのため現像液の浸透性が良化し、画像様に露光した後、現像まで保存した場合でも、経時による現像性劣化が起こらなかったものと考える。
また、一般的に、バインダーポリマー中のカルボン酸基と塩基性化合物とにより塩構造を形成した場合、耐久性(耐刷性)が低下することが懸念される。しかし、そのような場合であっても、本発明によればその好ましい態様において、バインダーポリマーの主鎖構造に、凝集性の強いアクリル樹脂、ブチラール樹脂、或いはポリウレタンを選択して用いることにより、耐久性(耐刷性)の低下が効果的に抑制され、現像ラチチュード、画像形成性(溶解ディスクリ)が、さらに改善できたものと推測する。
なお、「一価の」塩基性化合物において優れた効果を奏する理由については以下のように推定される。つまり、2価以上の多価化合物により例えばカルボン酸と架橋構造を作ってしまうと、現像性及び現像ラチチュードが悪化する方向となりえる。一価の化合物であればそのような架橋構造を生じず、良好な特性が得られるものと考えられる。また、本発明においては、上層と下層の相溶を抑制する観点から、後述するように、塩基性化合物の共役酸はそのpKaが8〜20であることが好ましい。一方、このような強塩基側で2価以上の化合物となると上記の架橋構造を一層作りやすくなるので、現像性及び現像ラチチュードはさらに避けがたいものとなる。この観点からも、本願発明において一価の塩基性化合物を適用することが効果的であり好ましい。
なお、本明細書において「塩構造を形成する」とは、そこで定義される化合物ないし基がそのまま塩をなすことのほか、当該化合物ないし塩の一部が組み合わされて塩をなすことを意味する。例えば、特定の化合物のアニオンが解離してカチオン部分のみがCOO基と塩を形成していてもよい。このとき、上記塩構造に含まれない残基は特定の層中に含まれても、含まれていなくてもよい。また、上記「塩構造」が画像形成材料の層中で解離して存在していてもよい。
【0010】
〔画像形成材料〕
本発明の画像形成材料は、支持体上に、カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層とを、順次備えてなる。
ここで「順次備える」とは、支持体上に、下層と上層とがこの順に配置されることを意味し、所望により、その他の層、例えば、下塗り層、表面保護層など任意の層をさらに有していてもよい。本発明においては、効果の観点から、下層と上層とは隣接して形成される。
以下、本発明の画像形成材料について、その構成を順次説明する。
<カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含む下層>
本発明で使用される下層は、(A)カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含むものであるが、本発明の効果を損なわない限り、所望により、その他の添加剤を含んでもよい。
下層に含まれるバインダーポリマーは、カルボン酸基を有するポリマーに一価の塩基性化合物を作用させ、カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物との塩を形成していれば特に制限はなく使用される。
下層の形成方法としては、(A−1)カルボン酸基を有するバインダーポリマーと、(A−2)一価の塩基性化合物と(B)赤外線吸収剤とを含む下層形成用塗布液を調整し、これを支持体或いは下塗り済みの支持体上に塗布し、乾燥する方法が挙げられ、下層形成用塗布液を塗布、乾燥することで下層を形成する工程中に、(A−1)バインダーポリマーの有するカルボン酸基の少なくとも一部と(A−2)一価の塩基性化合物とにより塩構造が形成される。
【0011】
(A−1)カルボン酸基を有するポリマー
本発明において、下層に用いられるバインダーポリマーであるカルボン酸基を有するポリマーは、分子内にカルボン酸基を有するポリマーであれば特に限定されない。
ポリマーの主鎖骨格としては、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂などが挙げられ、これらのいずれであってもよいが、画像形成性、耐刷性、製造適性の観点からポリアセタール、及び、ポリウレタンが好ましい。なかでも、耐刷性、製造適性の観点から、ポリウレタンが最も好ましい。
好ましい主鎖構造を有するポリマーについて説明する。
【0012】
(ポリウレタン)
本発明において下層の形成に用いられるカルボン酸基を有するポリウレタンとは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物とヒドロキシル基を2つ以上有する化合物の縮合反応により生成されるポリマーであって、分子内にカルボン酸基を有するポリウレタンであれば特に制限はない。カルボン酸基を有するポリウレタンとしては、特開2003−177533号公報、特開2004−170525号公報、特開2004−239951号公報、特開2004−157459号公報、特開2005−250158号公報に記載の構造のポリウレタンが好ましく用いられる。
以下、好ましいポリウレタンの態様の一つである、エチレン性不飽和単量体を、2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下、ラジカル重合させて得られる重合体(一種のマクロモノマー)をポリオール成分として、ポリイソシアネートと反応させて得られたポリウレタンについて説明する。
このようなポリウレタン樹脂の製造方法については、例えば、特開平4−178416、特開平4−178417等の各公報に記載されている方法を挙げることができる。
【0013】
前記ポリオール成分の形成に使用されるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−t−オクチル、クロロエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、テトラヒドロアクリレートの如きアクリル酸エステル類;フェニルアクリレート、フルフリルアクリレートの如きアリールアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレートヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートの如きメタクリル酸エステル類;フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレートの如きアリールメタクリレート類;
【0014】
アクリルアミドまたはその誘導体としては、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ヘプチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミドの如きN−アルキルアクリルアミド類;N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−ナフチルアクリルアミド、N−ヒドロキシフェニルアクリルアミドの如きN−アリールアクリルアミド類;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジイソブチルアクリルアミド、N,N−ジエチルヘキシルアクリルアミド、N,N−ジシクロヘキシルアクリルアミドの如きN,N−ジアルキルアクリルアミド類;N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミドの如きN,N−アリールアクリルアミド類;
【0015】
メタクリルアミドまたはその誘導体としては、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−t−ブチルメタクリルアミド、N−エチルヘキシルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミドの如きN−アルキルメタクリルアミド類;N−フェニルメタクリルアミド、N−ナフチルメタクリルアミドの如きN−アリールメタクリルアミド類;N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジプロピルメタクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミドの如きN,N−ジアルキルメタクリルアミド類;N,N−ジフェニルメタクリルアミドの如きN,N−ジアリールメタクリルアミド類;N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−エチル−N−フェニルメタクリルアミドの如きメタクリルアミド誘導体;
【0016】
酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルチミン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリル、アリルオキシエタノールの如きアリル化合物類;ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロロフェニルエーテル、ビニル−2,4−ジクロロフェニルエーテル、ビニルナフチルエーテル、ビニルアントラニルエーテルの如きビニルエーテル類;ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロロ安息香酸ビニル、テトラクロロ安息香酸ビニル、ナフトエ酸ビニルの如きビニルエステル類;
【0017】
メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ドデシルスチレン、ベンジルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、テトラクロロスチレン、ペンタクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、2−ブロモ−4−トリフルオロメチルスチレン、4−フルオロ−3−トリフルオロメチルスチレンの如きスチレン類;クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、クロトン酸、グリセリンモノクロトネートの如きクロトン酸エステル類;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチルの如きイタコン酸ジアルキル類;ジメチルマレート、ジブチルフマレートの如きマレイン酸あるいはフマール酸のジアルキル類;マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−2−メチルフェニルマレイミド、N−2,6−ジエチルフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミドの如きマレイミド類;その他、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
本発明に係るポリウレタンの原料として好適なポリオール成分であるマクロモノマーの具体例〔例示化合物(MM−1)〜(MM−24)〕を、作製に用いた連鎖移動剤、原料モノマーとその添加量(モル%)及び分子量を表示することにより例示するが、本発明はこれに制限されない。
【0018】
【化2−1】

【0019】
更に、エチレン性不飽和単量体としては、現像性、画像形成性(溶解ディスクリ)、UV耐刷性の観点から、甲田善生、佐藤四郎、本間善夫 共著「新版有機概念図 基礎と応用」に詳しく記載されている無機性値が200以上の基を有するエチレン性不飽和単量体であることが好ましい。
無機性値が200以上の基の例としては、−SO−NH−CO−、−N=N−NH、−SOH、−NH−SO−NH−、−CO−NH−CO−NH−CO−、−CO−NH−CO−NH−、−SONH−、−CS−NH−、−CO−NH−CO−、=N−OH、−NH−CO−NH−、=N−NH−、−CO−NH−NH、−CO−NH−等が挙げられる。これらの基のなかでも、酸基であることが更に好ましい。これらの基の中では、耐刷性、製造適性の観点から、スルホンアミド基を有するものが最も好ましい。これらのエチレン性不飽和単量体は、単一でも使用できるが、複数の混合物として使用してもよい。さらに前記重合体(以下マクロモノマーとも呼ぶ)は、前記好ましい不飽和単量体以外のエチレン性不飽和基を構成成分として含んでよい。
本発明に用いることができるポリウレタンの好ましい具体例として、PU−1〜PU−42を、その原料モノマーと使用したモル比及び得られた特定ポリウレタンの重量平均分子量(Mw)により示すが、前記ポリウレタン樹脂はこれらに限定されないことは言うまでもない。なお、下記の各モノマー名の下に記載の数字は、使用した各モノマーのモル比を表し、PU−1〜PU−42は、表1〜表2に記載した各モノマーの反応生成物としての特定ポリウレタンを意味する。
また、ポリマーの重量平均分子量は、GPC法により測定した値である。
【0020】
【化2−2】

【0021】
【化3】

【0022】
上記表において用いた原料モノマー(イソシアネート、ポリオール)の詳細を以下に示す。なお、MM−○で示されるポリオール成分は、前記例示したマクロモノマーである。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
なかでも、好ましいポリウレタンとして「PU−1」、「PU−25」、「PU−26」、「PU−27」、及び「PU−28」等が挙げられる。
【0026】
(ポリアセタール)
本発明においてカルボン酸基を含むポリマーの主鎖に適用されるポリアセタールは、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとアルデヒド化合物を酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのことを指し、さらに、残存したヒドロキシ基と酸無水物等有する化合物を反応させ方法等により、カルボン酸基等を導入したポリマーも含まれる。より好ましい態様としては、下記一般式(II)で示されるカルボン酸基を導入したポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
上記一般式(II)において、各繰り返し単位の好ましい比率は、p/q/r/s=50−78モル%/1−5モル%/5−28モル%/5−20モル%の範囲である。
、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を有してもよい一価の置換基あるいは単結合であり、mは0〜1の整数である。
、R、R、R、R、及び、Rの好ましい態様としては、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。更に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基などの直鎖アルキル基、カルボン酸が置換したアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基、カルボン酸が置換したフェニル基が挙げられる。
およびR、RおよびRはそれぞれ互いに結合して環構造を形成してもよい。
とRの結合する炭素原子およびRとRの結合する炭素原子間の結合は、単結合、二重結合又は、芳香族性二重結合であり、二重結合または芳香族性二重結合の場合、RとR、RとR、RとR、又は、RとRとは、それぞれ結合して単結合を形成する。上記カルボン酸基含有単位の好ましい具体例としては、下記の例が挙げられる。
【0029】
【化7】

【0030】
以下に本発明に用いられるカルボン酸基を側鎖に有する「ポリアセタール」の好ましい態様を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
【化8】

【0032】
なかでも、ポリアセタールとしては、(PB−4)等が好ましい。
【0033】
上記好ましい主鎖構造を有するポリマー以外で、本発明において好適に使用されるカルボン酸基を有するポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂を主鎖構造とするポリマーが挙げられる。
なお、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
【0034】
(アクリル樹脂)
本発明において、「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アリルエステル、など)、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体を重合成分として有する共重合体のことを言う。
カルボン酸基を含有するモノマー単位としては、特に限定されないが、特開2002−40652号公報、特開2005−300650号公報の段落番号〔0059〕〜〔0075〕に記載のモノマー構造が好ましく用いられる。なかでも、N−置換マレイミド及び置換基を有していてもよい(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマー由来の構造単位を共重合成分として含むアクリル樹脂が好ましい。
(メタ)アクリル酸アミドに由来するモノマー単位としては、特開2007−272134号公報の段落番号〔0061〕〜〔0084〕に記載の(メタ)アクリル酸アミドに由来するモノマー単位が好ましく用いられる。米国特許6,358,669号明細書に記載のN−フェニルマレイミド及びメタクリルアミドをモノマー単位として含有する共重合体も好ましく用いられる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、「メタクリル」のいずれか、或いは、双方を指すものとする。
以下に本発明に用いられる「アクリル樹脂」の好ましい具体的態様〔例示化合物(PA−1)〜(PA−10)〕を、該樹脂が有する構造単位、各構造単位の含有量(モル%)及び重量平均分量(Mw)により示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、ポリマーの重量平均分子量は、GPC法により測定した値である。
【0035】
【化9】

【0036】
アクリル樹脂としては、一価の塩基性化合物との塩構造を形成する前の状態において、カルボン酸価が0.01mmol/g〜3.00mmol/gの範囲のアクリル樹脂であることが好ましい。
上記例示化合物において、特に(PA−3)、(PA−5)、及び(PA−10)等が好ましい。
【0037】
本発明で下層の形成に使用されるカルボン酸基を有するポリマーとしては、分子量(重量平均分子量)は、現像性と耐刷性の観点から、5,000〜500,000のものが好ましく、10,000〜200,000のものがより好ましく、15,000〜100,000のものが最も好ましい。
カルボン酸基を有するポリマーにおけるカルボン酸基の含有量は、現像性と耐刷性とのバランスの観点から、(A−1)バインダーポリマーのカルボン酸価が0.01mmol/g〜3.00mmol/gとなる範囲で含むことがより好ましい。より好ましくは、0.05mmol/g〜2.60mmol/gである。
【0038】
本発明における下層の全固形分中に対するカルボン酸基を有するバインダーポリマーの含有量は、50〜98重量%の添加量で用いられることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂の添加量が50重量%以上であると記録層(感光層)の耐久性に優れ、また、98重量%以下であると、感度、及び、耐久性の両方に優れる。
なお、ここで「固形分」とは、上層を形成するための赤外線感応性ポジ型組成物中の溶剤を除いた成分の合計量を表す。
【0039】
(A−2)一価の塩基性化合物
本発明において下層に用いられる一価の塩基性化合物とは、前述のカルボン酸基を有するポリマー中のカルボン酸と塩構造を形成可能な一価の塩基性化合物を意味し、好ましい例としては、アルカリ金属の水酸化物或いは酸化物、炭酸水素塩、アルコキシド(ROM)、フェノキシド(ArONa)等、アンモニア(気体、又は、水溶液)、ジアリールアミン並びにトリアリールアミンを除くアミン類(ジアリールアミン及びトリアリールアミンは、ほぼ中性に近く、カルボン酸基との塩形成性が不十分であるため)、ピリジン、キノリン、ピペリジン等の複素環塩基、ヒドラジン誘導体、アミジン誘導体、オニウムヒドロキシド、などを挙げることができる。用いられる一価の塩基性化合物は、その共役酸のpKaが8〜20であることが好ましく、10〜18であることが更に好ましく、11〜17であることが最も好ましい。共役酸のpKaが8以下であると溶解ディスクリが低下する懸念があり、pKaが20以上であると化合物の安定性や製造適性が悪化する恐れがあるためである。本明細書においてpKaは特に断らないかぎり、25℃で測定される値を指すものとする。なお、以下に説明する例示化合物はいずれもそのpKaが8〜20の範囲に属するものである。
本発明で用いることのできる上記一価の塩基性化合物のなかでも、アルカリ金属の水酸化物或いは酸化物、炭酸水素塩、アルコキシド(ROM)、フェノキシド(ArONa)、アンモニア(気体、又は、水溶液)、及び、含窒素化合物が好ましく、下記に示す含窒素塩基性化合物、即ち、下記式(A)〜(E)で示される構造を有する含窒素塩基性化合物が好ましく挙げられる。
【0040】
【化10】

【0041】
前記式(A)中、R250、R251及びR252は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表し、ここで、R251とR252とは互いに結合して環を形成してもよい。アルキル基、アリール基は、さらに、ヒドロキシ基、アミド基、エステル基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
【化11】

【0043】
式(E)中、R253、R254、R255及びR256は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基を示す。
これら式(A)〜式(E)で示される好ましい化学構造を含む、本発明に使用しうる一価の塩基性化合物の具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに制限されない。
【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
更に好ましい化合物は、窒素含有環状化合物あるいは一分子中に異なる化学的環境の窒素原子を2個以上有する含窒素塩基性化合物である。窒素含有環状化合物としては、多環構造であることがより好ましい。窒素含有多環環状化合物の好ましい具体例としては、下記一般式(F)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【化14】

【0048】
式(F)中、Y、Zは、各々独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換してもよい直鎖、分岐、又は環状アルキレン基を表す。ここで、ヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、酸素原子が挙げられる。アルキレン基としては、炭素数2〜10個のアルキレン基が好ましく、より好ましくは2〜5個のものである。
アルキレン基が置換基を有する場合の置換基としては、炭素数1〜6個のアルキル基、アリール基、アルケニル基の他、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基が挙げられる。
前記一般式(F)で示される塩基性化合物の具体例としては、下記に示す化合物が挙げられる。
【0049】
【化15】

【0050】
上記一価の塩基性化合物のなかでも、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノナ−5−エンが特に好ましい。
一分子中に異なる化学的環境の窒素原子を2個以上有する含窒素塩基性化合物としては、特に好ましくは、置換もしくは未置換のアミノ基と窒素原子を含む環構造の両方を含む化合物もしくはアルキルアミノ基を有する化合物である。特に好ましい化合物として、グアニジン、1,1−ジメチルグアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、6−ジヒドロキシピリミジン、2−ピラゾリン、3−ピラゾリン、トリメチルイミダゾール、トリフェニルイミダゾール、メチルジフェニルイミダゾール等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0051】
また、オニウムヒドロキシドも一価の塩基性化合物の好ましい態様として挙げられる。オニウムの具体例としては、置換してもよいアンモニウム、置換してもよいスルホニウム塩、置換してもよいホスホニウム塩、置換してもよいピリジニウム塩等が挙げられる。
オニウムヒドロキシドの更に好ましい態様として、一般式(1)〜(4)で表される構造が挙げられる。
【0052】
【化16−1】

【0053】
〜R17は一価の置換基であり、R〜R、R〜R、R〜R11、R12〜R17は連結して環状構造をとってもよい。
〜R17で表される一価の置換基としては、置換してもよいアルキル基、置換してもよい脂環基、置換してもよいヘテロ環基(ヘテロアリール基を含む)、置換してもよいアリール基、置換してもよいアラルキル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20の置換してもよいアラルキル基が更に好ましい。また、特に好ましい態様として、一般式(5)(6)で表される構造が挙げられる。
【0054】
【化16−2】

、R、Rは一般式(1)〜(4)におけると同義であり、好ましい範囲も同様である。L,L’はヘテロ環を形成するために必要な原子群を表す。ヘテロ環は5員または6員環が好ましい。
【0055】
以下に好ましいオニウムヒドロキシドの具体的な化合物を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0056】
【化16−3】

【0057】
これら一価の塩基性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩基性化合物の下層形成用塗布液組成物に対する添加量は、下層全固形分に対し、通常、0.01〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。
【0058】
本発明における下層では、下層形成用塗布液組成物中に、(A−1)カルボン酸基を有するポリマーと(A−2)一価の塩基性化合物とを添加することにより、系中で(A−1)ポリマーの有するカルボン酸基の少なくとも一部が(A−2)一価の塩基性化合物と塩構造を形成することで、本発明の効果を奏する。そのような観点から、(A−1)カルボン酸基を有するポリマーのカルボン酸価としては、現像性と画像部強度の観点から、0.01mmol/g〜3.00mmol/gであることが好ましく、0.05mmol/g〜2.60mmol/gであることがより好ましい。
また。(A−1)カルボン酸基を有するポリマーに対して、塩構造の形成に用いられる(A−2)一価の塩基性化合物の添加量(中和量)は、層間混合抑制、現像性、耐刷性の観点から、カルボン酸基100mol%に対し、10mol%〜100mol%であることが好ましく、15mol%〜80mol%であることがより好ましく、20mol%〜60mol%であることが最も好ましい。
形成された下層中のカルボン酸基が一価の塩基性化合物との塩構造を形成していることは、中和的適法により酸価を測定することで確認することができる。
ここで、塩を形成した後のポリマーのカルボン酸価は、0.001mmol/g〜2.00mmol/gであることが好ましく、0.10mmol/g〜1.80mmol/gであることがより好ましく、0.50mmol/g〜1.60mmol/gであることが最も好ましい。
ポリマーの酸価は、中和滴定により測定することができる。
【0059】
以下に、(A−1)カルボン酸基を有するポリマーと(A−2)一価の塩基性化合物とで形成された塩構造を分子内に有する本発明に好適な(A)バインダーポリマーの具体例を示す。
【0060】
【化16−4】

【0061】
【化17−1】

【0062】
【化17−2】

【0063】
〔赤外線吸収剤〕
本発明の平版印刷版原版は、(B)赤外線吸収剤を下層に含む。
赤外線吸収剤としては、赤外光を吸収し熱を発生する染料であれば特に制限はなく、赤外線吸収剤として知られる種々の染料を用いることができる。
本発明に用いることができる赤外線吸収剤としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料などの染料が挙げられる。本発明において、これらの染料のうち、赤外光又は近赤外光を少なくとも吸収するものが、赤外光又は近赤外光を発光するレーザーでの利用に適する点で好ましく、シアニン染料が特に好ましい。
【0064】
そのような赤外光又は近赤外光を少なくとも吸収する染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等の各公報に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の各公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の各公報に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
また、染料として米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物等が、市販品としては、エポリン社製のEpolight III−178、Epolight III−130、Epolight III−125等が特に好ましく用いられる。
また、染料として特に好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0065】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明における上層に使用した場合に、高い重合活性を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0066】
【化18】

【0067】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す。Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、又はヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0068】
【化19】

【0069】
上記式中、Xaは後述するZaと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0070】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、RとRとは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0071】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。
、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。
、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。但し、一般式(a)で示されるシアニン色素がその構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合は、Za-は必要ない。好ましいZaは、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0072】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができる。
上層が含有する赤外線吸収剤として特に好ましくは、以下に示すシアニン染料Aでる。
【0073】
【化20】

下層に赤外線吸収剤を添加する際の添加量としては、下層全固形分に対し、0.01〜50重量%であることが好ましく、0.1〜30重量%であることがより好ましく、1.0〜30重量%であることが特に好ましい。添加量が0.01重量%以上であると、高感度となり、また、50重量%以下であると、層の均一性が良好であり、層の耐久性に優れる。
【0074】
本発明に係る下層には、(A)一価の含窒素塩基性化合物とカルボン酸基とにより形成された塩構造を分子内に有するポリマー及び(B)赤外線吸収剤に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、所望により他の成分を含有してもよい。
例えば、(A)一価の塩基性化合物とカルボン酸基とにより形成された塩構造を分子内に有するポリマーとは構造の異なるアルカリ可溶性樹脂(他のアルカリ可溶性樹脂と称する)などが挙げられる。
【0075】
〔他のアルカリ可溶性樹脂〕
本発明において、「アルカリ可溶性」とは、pH8.5〜13.5のアルカリ水溶液に標準現像時間の処理で可溶であることを意味する。
下層に用いられる他のアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に、フェノール性水酸基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の酸性の官能基を有するものが好ましく、このような、アルカリ可溶性を付与する酸性の官能基を有するモノマーを10モル%以上含む樹脂が挙げられ、20モル%以上含む樹脂がより好ましい。アルカリ可溶性を付与するモノマーの共重合成分が10モル%以上であると、アルカリ可溶性が十分得られ、また、現像性に優れる。
【0076】
また、アルカリ可溶性樹脂としては、ノボラック樹脂も好ましく挙げられる。
本発明に用いることができるノボラック樹脂としては、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい。)混合ホルムアルデヒド樹脂等のノボラック樹脂やピロガロールアセトン樹脂が好ましく挙げられる。
また更に、米国特許第4,123,279号明細書に記載されているように、t−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂、オクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂のような、炭素数3−8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体が挙げられる。また、その重量平均分子量(Mw)が500以上であることが好ましく、1,000〜700,000であることがより好ましい。また、その数平均分子量(Mn)が500以上であることが好ましく、750〜650,000であることがより好ましい。分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
【0077】
前記他のアルカリ可溶性樹脂は、重量平均分子量が2,000以上、かつ数平均分子量が500以上のものが好ましく、重量平均分子量が5,000〜300,000で、かつ数平均分子量が800〜250,000であることがより好ましい。また、前記他のアルカリ可溶性樹脂の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
本発明の画像記録材料の下層に所望により含まれる他のアルカリ可溶性樹脂は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明における下層の全固形分中に対する他のアルカリ可溶性樹脂の含有量は、0〜98重量%の添加量で用いられる。また、前記(A−1)側鎖にカルボン酸基を有するポリマー100質量部に対し、80質量部以下の割合で含みうる。
【0078】
<熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層>
本発明の画像形成材料の上層は、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する赤外線感応性のポジ型記録層である。
上層における熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する機構には特に制限はなく、バインダー樹脂を含み、加熱された領域の溶解性が向上するものであれば、いずれも用いることができる。画像形成に利用される熱としては、赤外線吸収剤を含む下層が露光された場合に発生する熱が挙げられる。
熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層としては、例えば、ノボラック、ウレタン等の水素結合能を有するアルカリ可溶性樹脂を含む層、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と溶解抑制作用のある化合物とを含む層、アブレーション可能な化合物を含む層、などが挙げられる。
また、上層に、更に赤外線吸収剤を添加することにより、上層で発生する熱も画像形成に利用することができる。赤外線吸収剤を含む上層の構成としては、例えば、赤外線吸収剤と水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と溶解抑制作用のある化合物とを含む層、赤外線吸収剤と水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂と熱により酸を発生する化合物とを含む層などが挙げられる。
【0079】
以下、上層に含まれる成分について説明する。
〔水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂〕
本発明に係る上層には、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有することが好ましい。アルカリ可溶性樹脂を含有することで、赤外線吸収剤とアルカリ可溶性樹脂が有する極性基との間に相互作用が形成され、ポジ型の感光性を有する層が形成される。
一般的な水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂については以下に詳述するが、中でも、例えば、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂等を好ましく挙げることができる。
本発明に用いることができるアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又は、これらの混合物であることが好ましい。
このような酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、フェノール性水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の官能基を有することが好ましい。したがって、このような樹脂は、上記官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー混合物を共重合することによって好適に生成することができる。前記官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸の他に、下式で表される化合物及びその混合物が好ましく例示できる。なお、下式中、R
は水素原子又はメチル基を表す。
【0080】
【化21】

【0081】
本発明に用いることができるアルカリ可溶性樹脂としては、上記重合性モノマーの他に、他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。この場合の共重合比としては、フェノール性水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基、活性イミド基等の官能基を有するモノマーのようなアルカリ可溶性を付与するモノマーを10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むものがより好ましい。アルカリ可溶性を付与するモノマーの共重合成分が10モル%以上であると、アルカリ可溶性が十分得られ、また、現像性に優れる。
【0082】
使用可能な他の重合性モノマーとしては、下記に挙げる化合物を例示することができる。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、等のアルキルアクリレートやアルキルメタクリレート。2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のその他の窒素原子含有モノマー。N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−2−メチルフェニルマレイミド、N−2,6−ジエチルフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、等のマレイミド類。
これらの他のエチレン性不飽和モノマーのうち、好適に使用されるのは、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、(メタ)アクリロニトリルである。
【0083】
また、アルカリ可溶性樹脂としては、下層において好ましい他の樹脂として挙げたノボラック樹脂も好ましく挙げられる。
本発明に用いることができるノボラック樹脂としては、上層において説明した樹脂と同様のものが挙げられ、好ましい例も同様である。
【0084】
前記水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂は、重量平均分子量が2,000以上、かつ数平均分子量が500以上のものが好ましく、重量平均分子量が5,000〜300,000で、かつ数平均分子量が800〜250,000であることがより好ましい。また、前記アルカリ可溶性樹脂の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
本発明の画像記録材料の上層におけるアルカリ可溶性樹脂は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明における上層の全固形分中に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量は、全固形分中、2.0〜99.5重量%であることが好ましく、10.0〜99.0重量%であることがより好ましく、20.0〜90.0重量%であることが更に好ましい。アルカリ可溶性樹脂の添加量が2.0重量%以上であると記録層(感光層)の耐久性に優れ、また、99.5重量%以下であると、感度、及び、耐久性の両方に優れる。
【0085】
〔酸発生剤〕
画像記録層の上層には、感度向上の観点から、酸発生剤を含有することが好ましい。
本発明において酸発生剤とは、光又は熱により酸を発生する化合物であり、赤外線の照射や、100℃以上の加熱によって分解し酸を発生する化合物を指す。発生する酸としては、スルホン酸、塩酸等のpKaが2以下の強酸であることが好ましい。この酸発生剤から発生した酸が触媒として機能し、前記酸分解性基における化学結合が開裂して酸基となり、上層のアルカリ水溶液に対する溶解性がより向上するものである。
【0086】
本発明において好適に用いられる酸発生剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。具体的には、US4,708,925号や特開平7−20629号に記載されている化合物を挙げることができる。特に、スルホン酸イオンを対イオンとするヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましい。ジアゾニウム塩としては、米国特許第3,867,147号記載のジアゾニウム化合物、米国特許第2,632,703号明細書記載のジアゾニウム化合物や特開平1−102456号及び特開平1−102457号の各公報に記載されているジアゾ樹脂も好ましい。また、米国特許第5,135,838号や米国特許第5,200,544号に記載されているベンジルスルホナート類も好ましい。さらに、特開平2−100054号、特開平2−100055号及び特願平8−9444号に記載されている活性スルホン酸エステルやジスルホニル化合物類も好ましい。他にも、特開平7−271029号に記載されている、ハロアルキル置換されたS−トリアジン類も好ましい。
さらに、前記特開平8−220752号公報において、「酸前駆体」として記載されている化合物、或いは、特開平9−171254号号公報において「(a)活性光線の照射により酸を発生し得る化合物」として記載されている化合物なども本発明の酸発生剤として適用しうる。
【0087】
なかでも、感度と安定性の観点から、酸発生剤としてオニウム塩化合物を用いることが好ましい。以下、オニウム塩化合物について説明する。
本発明において好適に用い得るオニウム塩化合物としては、赤外線露光、及び、露光により赤外線吸収剤から発生する熱エネルギーにより分解して酸を発生する化合物として知られる化合物を挙げることができる。本発明に好適なオニウム塩化合物としては、感度の観点から、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する、以下に述べるオニウム塩構造を有するものを挙げることができる。
本発明において好適に用いられるオニウム塩としては、公知のジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、アジニウム塩等が挙げられ、なかでも、トリアリールスルホニウム、又は、ジアリールヨードニウムのスルホン酸塩、カルボン酸塩、BF4-、PF6-、ClO4-などが好ましい。
本発明において酸発生剤として用いうるオニウム塩としては、下記一般式(III)〜一般式(V)で表されるオニウム塩が挙げられる。
【0088】
【化22】

【0089】
式(III)中、Ar11とAr12は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、または炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。Z11-はハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、スルホン酸イオン、および、ペルフルオロアルキルスルホン酸イオン等フッ素原子を有するスルホン酸イオンからなる群より選択される対イオンを表し、好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、アリールスルホン酸イオン、及びペルフルオロアルキルスルホン酸である。
式(IV)中、Ar21は、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基または、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。Z21-はZ11-と同義の対イオンを表す。
式(V)中、R31、R32及びR33は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、または炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。Z31-はZ11-と同義の対イオンを表す。
【0090】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(III)で示されるオニウム塩([OI−1]〜[OI−10])、一般式(IV)で示されるオニウム塩([ON−1]〜[ON−5])、及び一般式(V)で示されるオニウム塩([OS−1]〜[OS−6])の具体例を以下に挙げる。
【0091】
【化23】

【0092】
【化24】

【0093】
【化25】

【0094】
【化26】

【0095】
また、一般式(III)〜一般式(V)で表される化合物の別の例としては、特開2008−195018公報の段落番号〔0036〕〜〔0045〕において、ラジカル重合開始剤の例として記載の化合物を、本発明における酸発生剤として好適に用いることができる。
【0096】
本発明に用いられる酸発生剤として好ましいオニウム塩の別の例として、下記一般式(VI)で表されるアジニウム塩化合物が挙げられる。
【0097】
【化27】

【0098】
一般式(VI)中、R41、R42、R43、R44、R45、及びR46は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、または一価の置換基を表す。
一価の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、置換アミノ基、置換カルボニル墓、水酸基、置換オキシ基、チオール基、チオエーテル基、シリル基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、スルホ基、置換スルホニル基、スルホナト基、置換スルフィニル基、ホスホノ基、置換ホスホノ基、ホスホナト基、置換ホスホナト基、等が挙げられ、導入可能な場合にはさらに置換基を有していてもよい。
【0099】
一般式(VI)で表される化合物としては、一般式(VI)で表される化合物における特定構造の骨格(カチオン部)が、R41を介して結合し、カチオン部が分子中に2個以上含まれる化合物(多量体型)も包含され、このような化合物も好適に用いられる。
41-はZ11-と同義の対イオンを表す。
上記一般式(VI)で示されるアジニウム塩化合物の具体例としては、特開2008−195018公報の段落番号〔0047〕〜〔0056〕に記載の化合物を挙げることができる。
また、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号ならびに特公昭46−42363号の各公報に記載のN−O結合を有する化合物群もまた、本発明における酸発生剤として好適に用いられる。
本発明に用いうる酸発生剤のより好ましい例として、下記化合物(PAG−1)〜(PAG−5)が挙げられる。
【0100】
【化28】

【0101】
これらの酸発生剤を本発明における上層を構成するポジ型感光性組成物中に含有させる場合、これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
酸発生剤を上層に添加する場合の、好ましい添加量は、上層の全固形分に対し0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%の範囲である。添加量が上記範囲において、酸発生剤添加の効果である感度の向上が見られるとともに、非画像部における残膜の発生が抑制される。
【0102】
〔酸増殖剤〕
本発明における上層には、酸増殖剤を添加してもよい。
本発明における酸増殖剤とは、比較的に強い酸の残基で置換された化合物であって、酸触媒の存在下で容易に脱離して新たに酸を発生する化合物である。すなわち、酸触媒反応によって分解し,再び酸(以下、一般式でZOHと記す)を発生する。1反応で1つ以上の酸が増えており、反応の進行に伴って加速的に酸濃度が増加することにより、飛躍的に感度が向上する。この発生する酸の強度は,酸解離定数(pKa)として3以下であり、さらに2以下であることが好ましい。これよりも弱い酸であると,酸触媒による脱離反応を引き起こすことができない。
このような酸触媒に使用される酸としては、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェニルスルホン酸等が挙げられる。
【0103】
酸増殖剤は、WO95/29968号、WO98/24000号、特開平8−305262号、特開平9−34106号、特開平8−248561号、特表平8−503082号、米国特許第5,445,917号、特表平8−503081号、米国特許第5,534,393号、米国特許第5,395,736号、米国特許第5,741,630号、米国特許第5,334,489号、米国特許第5,582,956号、米国特許第5,578,424号、米国特許第5,453,345号、米国特許第5,445,917号、欧州特許第665,960号、欧州特許第757,628号、欧州特許第665,961号、米国特許第5,667,943号、特開平10−1598号等に記載の酸増殖剤を1種、或いは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0104】
本発明における酸増殖剤の好ましい具体例としては、例えば、特開2001−66765公報段落番号〔0056〕〜〔0067〕に記載される化合物を挙げることができる。なかでも、例示化合物(ADD−1)、(ADD−2)、(ADD−3)として記載された下記化合物を好適に用いることができる。
【0105】
【化29】

【0106】
これらの酸増殖剤を上層中に添加する場合の添加量としては、固形分換算で、0.01〜20重量%,好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。酸増殖剤の添加量が上記範囲において、酸増殖剤を添加する効果が充分に得られ、感度向上が達成されるとともに、画像部の膜強度低下が抑制され、特定ポリウレタンに起因する優れた膜強度が維持される。
【0107】
更に、本発明における上層中には、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を併用することができる。上層自体は、特に非画像部領域において、アルカリ可溶性を発現することを要するため、この特性を損なわない樹脂を選択する必要がある。この観点から、併用可能な樹脂としては、水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂が挙げられる。一般的な水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂については以下に詳述するが、中でも、例えば、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂等を好ましく挙げることができる。
また、混合する量としては、前記水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂に対して50重量%以下であることが好ましい。
【0108】
〔赤外線吸収剤〕
本発明に係る上層には、下層と同様に、赤外線吸収剤を含んでもよい。
赤外線吸収剤としては、赤外光を吸収し熱を発生する染料であれば特に制限はなく、前述した、下層において用いうる赤外線吸収剤を上層にも同様に用いることができる。
特に好ましい染料は、前記一般式(a)で表されるシアニン染料である。
【0109】
上層に赤外線吸収剤を含有することで、高感が良好となる。
上層における赤外線吸収剤の添加量としては、上層全固形分に対し、0.01〜50重量%であることが好ましく、0.1〜30重量%であることがより好ましく、1.0〜10重量%であることが特に好ましい。添加量が0.01重量%以上であることで感度が改良され、また、50重量%以下であると、層の均一性が良好であり、層の耐久性に優れる。
【0110】
〔その他の添加剤〕
前記下層及び上層を形成するにあたっては、上記の必須成分の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。以下に挙げる添加剤は、下層のみに添加してもよいし、上層のみに添加してもよいし、両方の層に添加してもよい。
【0111】
〔現像促進剤〕
前記上層及び/又は下層には、感度を向上させる目的で、酸無水物類、フェノール類、有機酸類を添加してもよい。
酸無水物類としては環状酸無水物が好ましく、具体的に環状酸無水物としては、米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシテトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。非環状の酸無水物としては、無水酢酸などが挙げられる。
フェノール類としては、ビスフェノールA、2,2’−ビスヒドロキシスルホン、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
有機酸類としては、特開昭60−88942号公報、特開平2−96755号公報などに記載されており、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。 上記の酸無水物、フェノール類及び有機酸類の下層又は上層の全固形分に占める割合は、0.05〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%がより好ましく、0.1〜10重量%が特に好ましい。
【0112】
〔界面活性剤〕
上層及び/又は下層には、塗布性を良化するため、また、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、特開昭62−170950号公報、特開平11−288093号公報、特開2003−57820号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
両性活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
界面活性剤の下層又は上層の全固形分に占める割合は、0.01〜15重量%が好ましく、0.01〜5重量%がより好ましく、0.05〜2.0重量%が更に好ましい。
【0113】
〔焼出し剤/着色剤〕
上層及び/又は下層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼出し剤及び着色剤としては、例えば、特開2009−229917号公報の段落番号〔0122〕〜〔0123〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物を本発明にも適用しうる。
これらの染料は、下層又は上層の全固形分に対し、0.01〜10重量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜3重量%の割合で添加することがより好ましい。
【0114】
〔可塑剤〕
上層及び/又は下層には、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を添加してもよい。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
これらの可塑剤は、下層又は上層の全固形分に対し、0.5〜10重量%の割合で添加することが好ましく、1.0〜5重量%の割合で添加することがより好ましい。
【0115】
〔ワックス剤〕
上層には、キズに対する抵抗性を付与する目的で、表面の静摩擦係数を低下させる化合物を添加することもできる。具体的には、米国特許第6,117,913号明細書、特開2003−149799号公報、特開2003−302750号公報、又は、特開2004−12770号公報に記載されているような、長鎖アルキルカルボン酸のエステルを有する化合物などを挙げることができる。
添加量として好ましいのは、上層中に占める割合が0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。
【0116】
<下層及び上層の形成>
本発明の平版印刷版原版における下層及び上層は、通常、前記各成分を溶剤に溶かして、適当な支持体上に塗布することにより形成することができる。
ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。
【0117】
なお、下層及び上層は、原則的に2つの層を分離して形成することが好ましい。
2つの層を分離して形成する方法としては、例えば、下層に含まれる成分と、上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法が挙げられ、本発明においては、下層に(A)一価の塩基性化合物とカルボン酸基とにより形成された塩構造を分子内に有するポリマーを用いているために、層間界面での相溶が効果的に抑制される。
なお、2層を分離して形成する他の手法として上層を塗布した後、急速に溶剤を乾燥、除去さる方法等が挙げられるが、この方法を併用することで、層間の分離が一層良好に行われることになる。
以下、これらの方法について詳述するが、2つの層を分離して塗布する方法はこれらに限定されるものではない。
【0118】
下層に含まれる成分と上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法としては、上層用塗布液を塗布する際に、下層に含まれる成分のいずれもが不溶な溶剤系を用いるものである。これにより、二層塗布を行っても、各層を明確に分離して塗膜にすることが可能になる。例えば、下層成分として、上層成分であるアルカリ可溶性樹脂を溶解するメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等の溶剤に不溶な成分を選択し、該下層成分を溶解する溶剤系を用いて下層を塗布・乾燥し、その後、アルカリ可溶性樹脂を主体とする上層をメチルエチルケトンや1−メトキシ−2−プロパノール等で溶解し、塗布・乾燥することにより二層化が可能になる。
【0119】
次に、2層目(上層)を塗布後に、極めて速く溶剤を乾燥させる方法としては、ウェブの走行方向に対してほぼ直角に設置したスリットノズルより高圧エアーを吹きつけることや、蒸気等の加熱媒体を内部に供給されたロール(加熱ロール)よりウェブの下面から伝導熱として熱エネルギーを与えること、あるいはそれらを組み合わせることにより達成できる。
【0120】
本発明の平版印刷版原版の支持体上に塗布される下層成分の乾燥後の塗布量は、0.5〜4.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.6〜2.5g/mの範囲にあることがより好ましい。0.5g/m以上であると、耐刷性に優れ、4.0g/m以下であると、画像再現性及び感度に優れる。
また、上層成分の乾燥後の塗布量は、0.05〜1.0g/mの範囲にあることが好
ましく、0.08〜0.7g/mの範囲であることがより好ましい。0.05g/m以上であると、現像ラチチュード、及び、耐傷性に優れ、1.0g/m以下であると、感
度に優れる。
下層及び上層を合わせた乾燥後の塗布量としては、0.6〜4.0g/mの範囲にあ
ることが好ましく、0.7〜2.5g/mの範囲にあることがより好ましい。0.6g
/m以上であると、耐刷性に優れ、4.0g/m以下であると、画像再現性及び感度に優れる。
【0121】
上記本発明の画像記録材料は、耐久性に優れた樹脂パターン形成を必要とする種々の分野、例えば、レジスト、ディスプレイ、平版印刷版原版などの種々の分野に適用しうるが、好感度で記録可能であり、画像形成性に優れ、形成された画像部の耐久性が良好であることから、以下に詳述する赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版へ適用することにより本発明の効果が著しいといえる。
<赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版>
本発明の平版印刷版原版は、前記本発明の画像形成材料からなる。本発明の画像形成材料を平版印刷版原版に適用する際には、後述するように、親水性表面を有する支持体を選択して用いる。
本発明の平版印刷版原版は、親水性の表面を有する支持体上に、(A)カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーと(B)赤外線吸収剤とを含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層とを、順次備える
【0122】
<支持体>
本発明の画像記録材料に使用される支持体としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙、又は、プラスチックフィルム等が挙げられる。
【0123】
なお、本発明の画像形成材料を平版印刷版原版に適用する場合の支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は10重量%以下であることが好ましい。
【0124】
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みは、0.1〜0.6mmであることが好ましく、0.15〜0.4mmであることがより好ましく、0.2〜0.3mmであることが特に好ましい。
【0125】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を行ってもよい。アルミニウム支持体の表面処理については、例えば、特開2009−175195号公報の〔0167〕〜〔0169〕に詳細に記載されるような、界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理、表面の粗面化処理、陽極酸化処理などが適宜、施される。
陽極酸化処理を施されたアルミニウム表面は、必要により親水化処理が施される。
親水化処理としては、2009−175195号公報の〔0169〕に開示されている如き、アルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法、フッ化ジルコン酸カリウム或いは、ポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0126】
<下塗層>
本発明の画像記録材料を平版印刷版原版に適用する場合には、必要に応じて支持体と下層との間に下塗層を設けることができる。
下塗層成分としては、種々の有機化合物が用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン等のアミノ基を有するホスホン酸類、有機ホスホン酸、有機リン酸、有機ホスフィン酸、アミノ酸類、並びに、ヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等が好ましく挙げられる。また、これら下塗層成分は、1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。下塗層に使用される化合物の詳細、下塗層の形成方法は、特開2009−175195号公報の段落番号〔0171〕〜〔0172〕に記載され、これらの記載は本発明にも適用される。
有機下塗層の被覆量は、2〜200mg/mであることが好ましく、5〜100mg
/mであることがより好ましい。被覆量が上記範囲であると、十分な耐刷性能が得られ
る。
【0127】
<バックコート層>
本発明の平版印刷版原版の支持体裏面には、必要に応じてバックコート層が設けられる。かかるバックコート層としては、特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物及び特開平6−35174号公報記載の有機又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好ましく用いられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OCなどの
ケイ素のアルコキシ化合物が安価で入手し易く、それから得られる金属酸化物の被覆層が耐現像液に優れており特に好ましい。
上記のようにして作製された平版印刷版原版は、画像様に露光され、その後、現像処理を施される。
【0128】
<平版印刷版の製版方法>
本発明の平版印刷版の作製方法は、前記本発明の赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版を赤外線により画像様に露光する露光工程と、pH8.5〜10.8のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程と、をこの順で含むことを特徴とする。
本発明の平版印刷版の作製方法によれば、焼きだめ性が良好となり、得られた平版印刷版は、非画像部の残膜に起因する汚れの発生がなく、画像部の強度、耐久性に優れる。
以下、本発明の製版方法の各工程について詳細に説明する。
【0129】
<露光工程>
本発明の平版印刷版の製版方法は、本発明の赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版を画像様に露光する露光工程を含む。
本発明の平版印刷版原版の画像露光に用いられる活性光線の光源としては、近赤外から赤外領域に発光波長を持つ光源が好ましく、固体レーザー、半導体レーザーがより好ましい。中でも、本発明においては、波長750〜1,400nmの赤外線を放射する固体レーザー又は半導体レーザーにより画像露光されることが特に好ましい。
レーザーの出力は、100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましい。
平版印刷版原版に照射されるエネルギーは、10〜300mJ/cmであることが好
ましい。上記範囲であると、硬化が十分に進行し、また、レーザーアブレーションを抑制し、画像が損傷を防ぐことができる。
【0130】
本発明における露光は、光源の光ビームをオーバーラップさせて露光することができる。オーバーラップとは、副走査ピッチ幅がビーム径より小さいことをいう。オーバーラップは、例えば、ビーム径をビーム強度の半値幅(FWHM)で表したとき、FWHM/副走査ピッチ幅(オーバーラップ係数)で定量的に表現することができる。本発明ではこのオーバーラップ係数が、0.1以上であることが好ましい。
【0131】
本発明に使用することができる露光装置の光源の走査方式は、特に限定はなく、円筒外面走査方式、円筒内面走査方式、平面走査方式などを用いることができる。また、光源のチャンネルは単チャンネルでもマルチチャンネルでもよいが、円筒外面方式の場合にはマルチチャンネルが好ましく用いられる。
【0132】
<現像工程>
本発明の平版印刷版の製版方法は、pH8.5〜10.8のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程を含む。
現像工程に使用されるpH8.5〜10.8のアルカリ水溶液(以下、「現像液」ともいう。)は、pH8.5〜10.8のアルカリ水溶液であり、pH9.0〜10.0であることがより好ましい。また、前記現像液は、界面活性剤を含むことが好ましく、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤を少なくとも含むことがより好ましい。界面活性剤は処理性の向上に寄与する。
前記現像液に用いられる界面活性剤は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、及び、両性の界面活性剤のいずれも用いることができるが、既述のように、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が好ましい。
本発明の現像液に用いられるアニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0133】
本発明の現像液に用いられるカチオン系界面活性剤としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0134】
本発明の現像液に用いられるノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0135】
本発明の現像液に用いられる両性イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例は、特開2008−203359〔0255〕〜〔0278〕、特開2008−276166〔0028〕〜〔0052〕等に記載されているものを用いることができる。
【0136】
また、水に対する安定な溶解性あるいは混濁性の観点から、HLB値が、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。
【0137】
前記現像液に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン界面活性剤が好ましく、スルホン酸又はスルホン酸塩を含有するアニオン性界面活性剤及び、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するノニオン界面活性剤が特に好ましい。
界面活性剤は、単独又は組み合わせて使用することができる。
界面活性剤の現像液中における含有量は、0.01〜10重量%が好ましく、0.01〜5重量%がより好ましい。
【0138】
前記現像液をpH6〜13.5に保つためには、緩衝剤として炭酸イオン、炭酸水素イオンが存在することで、現像液を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。炭酸イオン、炭酸水素イオンを現像液中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を現像液に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
現像液のpHは、現像可能であれば特に限定されないが、pH8.5〜10.8の範囲であることが好ましい。
【0139】
炭酸塩及び炭酸水素塩の総量は、現像液の全重量に対して、0.3〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%が特に好ましい。総量が0.3重量%以上であると現像性、処理能力が低下せず、20重量%以下であると沈殿や結晶を生成し難くなり、さらに現像液の廃液処理時、中和の際にゲル化し難くなり、廃液処理に支障をきたさない。
【0140】
また、アルカリ濃度の微少な調整、非画像部感光層の溶解を補助する目的で、補足的に他のアルカリ剤、例えば有機アルカリ剤を併用してもよい。有機アルカリ剤としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタ
ノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。これらの他のアルカリ剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
前記現像液には上記の他に、湿潤剤、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、有機溶剤、無機酸、無機塩などを含有することができる。ただし、水溶性高分子化合物を添加すると、特に現像液が疲労した際に版面がベトツキやすくなるため、添加しないことが好ましい。
【0141】
湿潤剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン等が好適に用いられる。湿潤剤は単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。湿潤剤は、現像剤の全重量に対し、0.1〜5重量%の量で使用されることが好ましい。
【0142】
防腐剤としては、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ベンズトリアゾール誘導体、アミジングアニジン誘導体、第四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン、グアニジン等の誘導体、ダイアジン、トリアゾール誘導体、オキサゾール、オキサジン誘導体、ニトロブロモアルコール系の2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノール等が好ましく使用できる。種々のカビ、殺菌に対して効力のあるように2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。防腐剤の添加量は、細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、現像液の全重量に対して、0.01〜4重量%の範囲が好ましい。
【0143】
キレート化合物としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類又はホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。上記キレート剤のナトリウム塩、カリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。キレート剤は現像液組成中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加量は、現像液の全重量に対して、0.001〜1.0重量%が好適である。
【0144】
消泡剤としては、一般的なシリコーン系の自己乳化タイプ、乳化タイプ、ノニオン系の化合物を使用することができ、HLB値が5以下の化合物であることが好ましい。シリコーン消泡剤が好ましい。その中で乳化分散型及び可溶化等がいずれも使用できる。消泡剤の含有量は、現像液の全重量に対して、0.001〜1.0重量%の範囲が好適である。
【0145】
有機酸としては、クエン酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、サリチル酸、カプリル酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、レブリン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸などが挙げられる。有機酸は、そのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩の形で用いることもできる。有機酸の含有量は、現像液の全重量に対して、0.01〜0.5重量%が好ましい。
【0146】
有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、“アイソパーE、H、G”(エッソ化学(株)製)、ガソリン、若しくは、灯油等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、又は、ハロゲン化炭化水素(メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、トリクレン、モノクロルベンゼン等)や、極性溶剤が挙げられる。
【0147】
極性溶剤としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール等)、ケトン類(メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸エチル、乳酸メチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、その他(トリエチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、N−フェニルエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン等)等が挙げられる。
【0148】
また、上記有機溶剤が水に不溶な場合は、界面活性剤等を用いて水に可溶化して使用することも可能である。現像液が有機溶剤を含有する場合は、安全性、引火性の観点から、溶剤の濃度は40重量%未満が好ましい。
【0149】
無機酸及び無機塩としては、リン酸、メタリン酸、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ニッケルなどが挙げられる。無機塩の含有量は、現像液の全重量に対し、0.01〜0.5重量%が好ましい。
【0150】
現像の温度は、現像可能であれば特に制限はないが、60℃以下であることが好ましく、15〜40℃であることがより好ましい。自動現像機を用いる現像処理においては、処理量に応じて現像液が疲労してくることがあるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。現像及び現像後の処理の一例としては、アルカリ現像を行い、後水洗工程でアルカリを除去し、ガム引き工程でガム処理を行い、乾燥工程で乾燥する方法が例示できる。また、他の例としては、炭酸イオン、炭酸水素イオン及び界面活性剤を含有する水溶液を用いることにより、前水洗、現像及びガム引きを同時に行う方法が好ましく例示できる。よって、前水洗工程は特に行わなくともよく、一液を用いるだけで、更には一浴で前水洗、現像及びガム引きを行ったのち、乾燥工程を行うことが好ましい。現像の後は、スクイズローラ等を用いて余剰の現像液を除去してから乾燥を行うことが好ましい。
【0151】
現像工程は、擦り部材を備えた自動処理機により好適に実施することができる。自動処理機としては、例えば、画像露光後の平版印刷版原版を搬送しながら擦り処理を行う、特開平2−220061号公報、特開昭60−59351号公報に記載の自動処理機や、シリンダー上にセットされた画像露光後の平版印刷版原版を、シリンダーを回転させながら擦り処理を行う、米国特許5148746号、同5568768号、英国特許2297719号に記載の自動処理機等が挙げられる。中でも、擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動処理機が特に好ましい。
【0152】
本発明に使用する回転ブラシロールは、画像部の傷つき難さ、さらには、平版印刷版原版の支持体における腰の強さ等を考慮して適宜選択することができる。回転ブラシロールとしては、ブラシ素材をプラスチック又は金属のロールに植え付けて形成された公知のものが使用できる。例えば、特開昭58−159533号公報、特開平3−100554号公報に記載のものや、実公昭62−167253号公報に記載されているような、ブラシ素材を列状に植え込んだ金属又はプラスチックの溝型材を芯となるプラスチック又は金属のロールに隙間なく放射状に巻き付けたブラシロールが使用できる。
ブラシ素材としては、プラスチック繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロン6.6、ナイロン6.10等のポリアミド系、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキル等のポリアクリル系、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系の合成繊維)を使用することができ、例えば、繊維の毛の直径は20〜400μm、毛の長さは5〜30mmのものが好適に使用できる。
回転ブラシロールの外径は30〜200mmが好ましく、版面を擦るブラシの先端の周速は0.1〜5m/secが好ましい。回転ブラシロールは、複数本用いることが好ましい。
【0153】
回転ブラシロールの回転方向は、平版印刷版原版の搬送方向に対し、同一方向であっても、逆方向であってもよいが、2本以上の回転ブラシロールを使用する場合は、少なくとも1本の回転ブラシロールが同一方向に回転し、少なくとも1本の回転ブラシロールが逆方向に回転することが好ましい。これにより、非画像部の感光層の除去がさらに確実となる。更に、回転ブラシロールをブラシロールの回転軸方向に揺動させることも効果的である。
【0154】
現像工程の後、連続的又は不連続的に乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥は熱風、赤外線、遠赤外線等によって行う。
本発明の平版印刷版の作製方法において好適に用いられる自動処理機としては、現像部と乾燥部とを有する装置が用いられ、平版印刷版原版に対して、現像槽で、現像とガム引きとが行なわれ、その後、乾燥部で乾燥されて平版印刷版が得られる。
【0155】
また、耐刷性等の向上を目的として、現像後の印刷版を非常に強い条件で加熱することもできる。加熱温度は、通常200〜500℃の範囲である。温度が低いと十分な画像強化作用が得られず、高すぎる場合には支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を生じる恐れがある。
このようにして得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に好適に用いられる。
【実施例】
【0156】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、これら実施例では、本発明の画像形成材料を最適な使用態様である平版印刷版原版に適用した例を挙げている。
【0157】
[合成例]
<O−10の合成>
(N−ベンジル−N−メチルピペリジニウムクロリドの合成)
コンデンサーおよび撹拌機を取り付けた200mL3つ口フラスコにN−メチルピペリジン7.63g、アセトニトリル50mLを、を秤取した。この溶液中に塩化ベンジル8.86gを15分かけて滴下した。反応液を70℃にて3時間加熱、攪拌した後、冷却し、析出した粉体を濾取することにより、N−ベンジル−N−メチルピペリジニウムクロリド15.6gを得た。本粉体が目的物であることは、NMRスペクトル、MSスペクトル、IRスペクトルにて確認した。
(O−10(N−ベンジル−N−メチルピペリジニウムヒドロキシド)の合成)
コンデンサーおよび撹拌機を取り付けた100mL3つ口フラスコに、水酸化カリウム2.92g、メタノール20mLを秤量し、N−ベンジル−N−メチルピペリジニウムクロリド10.0gをメタノール23mLに溶解させたものを10分間で滴下した。室温下、1時間攪拌し、析出した塩化カリウムを濾別した。この濾液に酸化銀0.44gを添加し、室温下、1時間攪拌した。析出した塩化銀および未反応の酸化銀を濾別し、N−ベンジル−N−メチルピペリジニウムヒドロキシドの20%溶液43.6gを得た。本溶液が目的物であることは、NMRスペクトル、MSスペクトル、IRスペクトルにて確認した。
【0158】
<PN−53の合成>
(PU−1の合成)
コンデンサーおよび撹拌機を取り付けた1L3つ口フラスコに、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(東京化成工業(株)製)53.65g、N,N−ジメチルアセトアミド591gを秤取し、反応液を50℃とし、均一溶液とした。ミリオネートMT(日本ポリウレタン製)80.08g、2,4−トリレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)13.93g、ネオスタンU−600(日東化成(株)製:ビスマス触媒)0.80gをこの順に添加し、80℃、4時間反応させた。反応液にメタノール5gを加えてクエンチし、ポリウレタン(PU−1)の20%溶液を得た。反応液を水1.5Lにあけ、ポリウレタンを析出させた。これを濾取、洗浄、乾燥し、バインダーポリマー(PU−1)を得た。目的物は、NMRスペクトル、IRスペクトル、GPC(ポリスチレン換算)を測定することにより確認した。
(PN−53の合成)
上記で得られた(PU−1)の20%溶液40gに上記で得られた(O-10)の20%溶液5.77gを添加し、室温下、1時間攪拌した。得られた溶液を水500mLにあけ、ポリウレタンを析出させた。これを濾取、洗浄、乾燥し、バインダーポリマー(PN−53)を得た。目的物は、NMRスペクトル、IRスペクトル、GPC(ポリスチレン換算)を測定することにより確認した。
【0159】
<実施例1〜36、比較例1〜5>
〔支持体の作製〕
厚さ0.3mmのJIS A 1050アルミニウム板をパミス−水懸濁液を研磨剤として回転ナイロンブラシで表面を砂目立てした。このときの表面粗さ(中心線平均粗さ)は0.5μmであった。水洗後、10%苛性ソーダ水溶液を70℃に温めた溶液中に浸漬して、アルミニウムの溶解量が6g/mになるようにエッチングした。水洗後、30%硝酸水溶液に1分間浸漬して中和し、十分水洗した。その後に、0.7%硝酸水溶液中で、陽極時電圧13ボルト、陰極時電圧6ボルトの矩形波交番波形電圧を用いて20秒間電解粗面化を行い、20%硫酸の50℃溶液中に浸漬して表面を洗浄した後、水洗した。粗面化後のアルミニウムシートに、20%硫酸水溶液中で直流を用いて多孔性陽極酸化皮膜形成処理を行った。電流密度5A/dmで電解を行い、電解時間を調節して、表面に重量4.0g/mの陽極酸化皮膜を有する基板を作製した。この基板を100℃1気圧において飽和した蒸気チャンバーの中で10秒間処理して封孔率60%の基板(a)を作成した。基板(a)をケイ酸ナトリウム2.5重量%水溶液で30℃10秒間処理して表面親水化を行って、平版印刷版用支持体〔A〕を得た。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/mあった。
【0160】
〔下塗層の形成〕
上述の様に作製された支持体〔A〕上に、以下に示す下塗り液1を塗布した後、80℃で15秒間乾燥し、下塗層を設けて支持体〔C〕とした。乾燥後の被覆量は、15mg/mであった。
〔下塗り液1〕
・分子量2.8万の下記共重合体 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0161】
【化30】

【0162】
〔下層の形成〕
得られた下塗り済の支持体〔C〕に、下記組成の下層形成用塗布液組成物(I)を、ワイヤーバーで塗布したのち、150℃の乾燥オーブンで40秒間乾燥して塗布量を1.3g/mとなるようにし、下層を設けた。下層を設けた後、下記組成の上層形成用塗布液組成物(II)をワイヤーバーで塗布し上層を設けた。塗布後150℃40秒間の乾燥を行い、下層と上層を合わせた塗布量が1.7g/mとなる赤外線レーザー用感光性平版印刷版原版を得た。
(下層形成用塗布液組成物(I))
・表1記載のポリマー 3.5g
・表1記載の一価の塩基性化合物又は比較塩基性化合物 (表1に記載の量:g)
・赤外線吸収剤(IR色素(1):下記構造) 0.2g
・エチルバイオレットの対アニオンを6−ヒドロキシ−β−ナフタレンスルホン酸
にした染料 0.15g
・ビスフェノールスルホン 0.3g
・テトラヒドロフタル酸 0.4g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業(株)製)
0.02g
・メチルエチルケトン 30g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 15g
・γ−ブチロラクトン 15g
【0163】
【化31】

【0164】
比較例5で用いた比較塩基性化合物は、下記構造の多官能アミン化合物であり、表1中には、比較化合物Dと記載した。
【0165】
【化32】

【0166】
(上層形成用塗布液組成物(II))
・ノボラック樹脂 0.68g
(m−クレゾール/p−クレゾール/フェノール=3/2/5、Mw8,000)
・赤外線吸収剤(IR色素(1):上記構造) 0.045g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業(株)製)
0.03g
・メチルエチルケトン 15.0g
・1−メトキシ−2−プロパノール 30.0g
【0167】
得られた平版印刷版原版を用いて、以下の評価を行い、結果を下記表1に示す。
[未露光部保持時間の評価]
得られた平版印刷版原版を富士フイルム(株)製現像液DT−2(希釈して、電導度43mS/cmとしたもの)を仕込んだ現像浴に、時間を変えて浸漬した。画像濃度が、現像液未浸漬のものと比べ、95%となった浸漬時間を、未露光部保持時間とした。
[露光部現像時間]
平版印刷版原版をCreo社製Trendsetterにて露光エネルギーを変えて、テストパターンを画像状に描き込みを行った。その後、富士フイルム(株)製現像液DT−2(希釈して、電導度43mS/cmとしたもの)を仕込んだ現像浴に、時間を変えて浸漬した。画像濃度が、Al支持体の画像濃度と同等になった浸漬時間を露光部現像時間とした。
[現像ラチチュードの評価]
得られた平版印刷版原版をCreo社製Trendsetterにてビーム強度9w、ドラム回転速度150rpmでテストパターンを画像状に描き込みを行った。その後、下記組成のアルカリ現像液の、水の量を変更することにより希釈率を変えて電導度を変化させたものを仕込んだ、富士フイルム(株)製PSプロセッサー900Hを用い、液温を30℃に保ち、現像時間22秒で現像した。この時、画像部が溶出されず、かつ、現像不良の感光層残膜に起因する汚れや着色がなく良好に現像が行えた現像液の電導度の一番高いものと、一番低い物の差を現像ラチチュードとして評価した。その結果を表1に示す。
【0168】
[耐刷性の評価]
平版印刷版原版をCreo社製Trendsetterにて、ビーム強度9w、ドラム回転速度150rpmで、テストパターンを画像状に描き込みを行った。その後、富士フイルム(株)製現像液DT−2(希釈して、電導度43mS/cmとしたもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP940Hを用い、現像温度30℃、現像時間12秒で現像を行った。これを、小森コーポレーション(株)製印刷機リスロンを用いて連続して印刷した。この際、どれだけの枚数が充分なインキ濃度を保って印刷できるかを目視にて測定し、耐刷性を評価した。なお、耐刷性は、比較例1の耐刷数を1.0とした際の相対値として示した。
〔バーニング処理後の耐刷性の評価〕
上記耐刷性の評価同様に現像して得られた平版印刷版の版面を水洗後、富士フイルム(株)製のバーニング整面液BC−7で拭いた後、約270℃で2分間、バーニング処理を行った。その後、水洗し、富士フイルム(株)製ガムFP−2Wを水で体積を2倍に希釈した液で版面を処理した。その後、耐刷性の評価同様に、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、バーニング処理後の耐刷性を評価した。なお、耐刷性は、比較例1の耐刷数を1.0とした際の相対値として示した。
【0169】
[現像カスの評価]
上記露光部現像時間の評価と同様の手法で、12秒間現像液に浸漬して得られた平版印刷版を、更に蒸留水を仕込んだ現像浴に20秒間浸漬した平版印刷版の版面を目視で観察した。付着物が全くなく、現像浴中にもカスが浮いていないものを「◎」、付着物はないが、現像浴中に細かな現像カスが見られるものを「○」、付着物はないが、現像浴中に大きな現像カスが見られるものを「△」、明らかに着色成分(現像カス)が付着しているものを「×」として評価した。
[耐薬品性の評価]
実施例の平版印刷版原版を、上記耐刷性の評価と同様にして露光・現像および印刷を行った。この際、5,000枚印刷する毎に、クリーナー(富士フイルム社製、マルチクリーナー)で版面を拭く工程を加え、耐薬品性を評価した。この時の耐刷性が、前述の耐刷枚数の95%〜100%であるものを◎、80%〜95%であるものを○、60〜80%であるものを△、60%以下を×とした。クリーナーで版面を拭く工程を加えた場合であっても、耐刷指数に変化が小さいほど耐薬品性に優れるものと評価する。結果を以下の表1に示す。
【0170】
[強制経時後の露光部現像時間]
得られた平版印刷版原版を50℃の恒温室にて8時間強制経時した後、上記露光部現像時間の評価と同様の手法で露光部現像時間の評価を行った。
[現像液]
・D ソルビット 2.5質量%
・水酸化ナトリウム 0.85質量%
・ノニオン性界面活性剤:ポリエチレングリコールラウリルエーテル
(重量平均分子量1,000) 0.5質量%
・水 96.15質量%
【0171】
【表1】

【0172】
表1の結果より明らかなように、本発明のカルボン酸基を有するポリマーおよび該カルボン酸基を中和可能な一価の塩基性化合物を用いた場合、耐刷性・現像カスを保持したまま、溶解ディスクリ(未露光部保持時間と露光部現像時間の差)、現像ラチチュード、耐薬性が良化していることが分かる。なお、塩基性化合物であっても、多価の塩基性化合物を用いた比較例5の結果より、画像部の強度や耐薬品性に優れるものの、現像性に劣り、現像カスの発生が認められることがわかる。
【0173】
<実施例37〜72、比較例6〜9>
〔支持体の作製〕
実施例1と同様にして、支持体〔A〕を作製した。
〔下塗層の形成〕
実施例1と同様にして、下塗層を有する支持体〔C〕を作製した。
【0174】
〔記録層の形成〕
得られた下塗り済の支持体に、下記組成の下層形成用塗布液組成物(III)を、ワイヤーバーで塗布したのち、150℃の乾燥オーブンで40秒間乾燥して塗布量を1.3g/mとなるようにし、下層を設けた。下層を設けた後、下記組成の上層形成用塗布液組成物(IV)をワイヤーバーで塗布し上層を設けた。塗布後150℃40秒間の乾燥を行い、下層と上層を合わせた塗布量が1.7g/mとなる赤外線レーザー用感光性平版印刷版原版を得た。
【0175】
(下層形成用塗布液組成物(III))
・表2記載のポリマー 3.5g
・エチルバイオレットの対アニオンを6−ヒドロキシ−β−ナフタレンスルホン酸
にした染料 0.15g
・m,p−クレゾールノボラック(m/p比=6/4、重量平均分子量6000)
0.6g
・赤外線吸収剤(IR色素(1)上記構造) 0.25g
・ビスフェノールスルホン 0.3g
・テトラヒドロフタル酸 0.4g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業(株)製)
0.02g
・メチルエチルケトン 30g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 15g
・γ−ブチロラクトン 15g
【0176】
(上層形成用塗布液組成物(IV))
・ノボラック樹脂(m−クレゾール/p−クレゾール/フェノール=3/2/5、Mw8,000) 0.68g
・赤外線吸収剤(IR色素(1):上記構造) 0.045g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業(株)製)
0.03g
・メチルエチルケトン 15.0g
・1−メトキシ−2−プロパノール 30.0g
【0177】
得られた各平版印刷版原版に対して、実施例1と同様の条件で評価を行った結果を下記表2に示す。
【0178】
【表2】

【0179】
表2の結果から明らかなように、本発明の一価の塩基性化合物とカルボン酸基とで形成された塩構造を有するポリマーを下層に用いた場合、耐刷性・現像カスを保持したまま、溶解ディスクリ(未露光部保持時間と露光部現像時間の差)、現像ラチチュード、耐薬性が良化していることが分かる。
【0180】
<実施例73〜122、比較例10〜12>
表1記載のポリマーおよび表1記載の一価の塩基性化合物又は比較塩基性化合物として表3−1および表3−2記載のポリマーおよび一価の塩基性化合物又は比較塩基性化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、支持体、下塗り中間層、記録層を作製して実施例73〜122、比較例10〜12の平版印刷版原版を得た。
実施例73〜122及び比較例10〜12で得た各平版印刷版原版に対して下記評価を行った。
ただし、表3−2記載の一価の塩基性化合物はメタノール溶液または水溶液で提供されるが、固形分換算で表3−2記載の添加量となるように調整した。
[未露光部保持時間の評価]
現像液として下記現像液2を用いた以外は、実施例1と同様にして未露光部保持時間の評価を行った。
[露光部現像時間]
現像液として下記現像液2を用いた以外は、実施例1と同様に露光部現像時間の評価を行った。
[現像ラチチュードの評価]
現像液として下記現像液2を用い、下記現像工程で現像すること以外は、実施例1と同様に現像ラチチュードの評価を行った。
[耐刷性の評価]
現像液として下記現像液2を用い、下記現像工程で現像すること以外は、実施例1と同様に耐刷性の評価を行った。
[バーニング処理後の耐刷性の評価]
現像液として下記現像液2を用い、下記現像工程で現像すること以外は、実施例1と同様にバーニング耐刷性の評価を行った。
[現像カスの評価]
現像液として下記現像液2を用いた以外は、実施例1と同様に現像カスの評価を行った。
[耐薬品性の評価]
現像液として下記現像液2を用い、下記現像工程で現像すること以外は、実施例1と同様に耐薬品性の評価を行った。
[強制経時後の露光部現像時間]
現像液として下記現像液2を用いた以外は、実施例1と同様に露光部現像時間の評価を行った。
(現像工程)
露光後の平版印刷版原版を図1に示す自動現像処理機(現像槽25L、版搬送速度100cm/min、ポリブチレンテレフタレート繊維(毛直径200μm、毛長17mm)植え込んだ外形50mm)のブラシロール1本が搬送方向と同一芳香に毎分200回転(ブラシの先端の周速0.52m/sec)乾燥温度80℃)および下記に示す現像液を用いて温度30℃にて現像を行った。
【0181】
[現像液2]
・水 8963.8g
・炭酸ナトリウム 200g
・炭酸水素ナトリウム 100g
・アニオン性界面活性剤:ニューコールB4SN(商品名:ポリオキシエチレンナフチルエーテル硫酸塩 日本乳化剤(株)製)
300g
・EDTA 4Na 80g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール 0.1g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.1g
(pH=9.7)
結果を表3−1、表3−2に示す
【0182】
【表3−1】

【0183】
【表3−2】

【0184】
表3−1、表3−2の結果より明らかなように、本発明に係るカルボン酸基と一価の塩基性化合物とによる塩構造を分子内に有するポリマーを下層に用いた場合、現像液の処方など、現像条件を変更しても、耐刷性・現像カスを保持したまま、溶解ディスクリ(未露光部保持時間と露光部現像時間の差)、現像ラチチュード、耐薬性が良化していることが分かる。
【0185】
<実施例123〜149、比較例13〜15>
(A)塩構造を分子内有するバインダーポリマーとして表4、表5記載の化合物を用いた他は同様にして、実施例37と同様に、支持体、下塗り中間層、記録層を作製して実施例123〜149、比較例13〜15の平版印刷版原版を作製した。各平版印刷版原版に対して、現像液として現像液3を用いること以外は表3−1、表3−2に記載のものと同様の条件で表3−1、表3−2と同様の評価を行った。結果を下記表4、表5に示した。
[現像液3]
・水 8963.8g
・炭酸ナトリウム 200g
・炭酸水素ナトリウム 100g
・ニューコールB13(ノニオン系界面活性剤 日本乳化剤(株)製) 300g
・EDTA 4Na(緩衝剤) 80g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパンジオール 0.1g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.1g
(pH=9.7)
【0186】
【表4】

【0187】
【表5】

【0188】
表4、表5の結果より明らかなように、本発明に係る平版印刷版原版は、現像条件を変更した場合でも、耐刷性・現像カスを保持したまま、溶解ディスクリ(未露光部保持時間と露光部現像時間の差)、現像ラチチュード、耐薬性が良化していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマー及び赤外線吸収剤を含む下層と、熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層とを、順次備える画像形成材料。
【請求項2】
前記一価の塩基性化合物が、窒素原子を含む塩基性化合物である請求項1に記載の画像形成材料。
【請求項3】
前記一価の塩基性化合物がオニウムヒドロキシドであることを特徴とする請求項1に記載の画像形成材料。
【請求項4】
前記オニウムヒドロキシドが下記一般式(1)〜(4)で表される構造より選択される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の画像形成材料。
【化1】

(式中、R〜R17は一価の置換基を表す。R〜R、R〜R、R〜R11、R12〜R17は連結して環状構造をとってもよい。)
【請求項5】
前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーの主鎖構造が、アクリル樹脂、アセタール樹脂、及びポリウレタンから選択される請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項6】
前記アクリル樹脂が、N−置換マレイミド及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマー由来の構造単位を含む共重合体である請求項5に記載の画像形成材料。
【請求項7】
前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーの主鎖構造が、ポリウレタンである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項8】
前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーが、(A−1)カルボン酸基を有するポリマーと(A−2)一価の塩基性化合物とを含有する塗布液組成物を塗布、乾燥することで得られるポリマーである請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項9】
前記(A−1)カルボン酸基を有するポリマーのカルボン酸価が0.01mmol/g〜3.00mmol/gの範囲である請求項8に記載の画像形成材料。
【請求項10】
前記カルボン酸基を側鎖に有し、該カルボン酸基の少なくとも一部が一価の塩基性化合物と塩構造を形成しているポリマーのカルボン酸価が0.001mmol/g〜2.00mmol/gの範囲である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項11】
前記熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層が、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂を含有する請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項12】
前記熱によりアルカリ水溶液への溶解性が向上する上層が、さらに赤外線吸収剤を含む請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の画像形成材料。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の画像形成材料からなる赤外線感応性ポジ型平版印刷版原版。
【請求項14】
請求項13に記載の平版印刷版原版を赤外線により画像露光する露光工程と、pH8.5〜10.8のアルカリ水溶液を用いて現像する現像工程と、をこの順で含む平版印刷版の作製方法。
【請求項15】
前記アルカリ水溶液が、さらにアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を含む請求項14に記載の平版印刷版の作製方法。

【公開番号】特開2012−73567(P2012−73567A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35514(P2011−35514)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】