説明

画像形成装置及び方法

【課題】シングルパス方式、マルチパス(シリアル)方式を問わず、クロストークによる画質の悪化(濃度ムラ、ミスト発生など)を抑制することができる画像形成装置及び方法を提供する。
【解決手段】描画すべき画像内容を示すM階調の画像データを誤差拡散法により順次、N階調(ただし、M、NはM>N>1を満たす整数)に量子化する際に、記録ヘッドのノズル配列情報及び各ノズルの流路接続情報から、処理対象の特定画素に対応したノズルと同一流路に接続されているノズルによって記録される画素のうち量子化済みの画素のデータを参照し(S304)、クロストークが起こりやすい場合に、誤差拡散閾値を変更し(S308)、対象画素(特定画素)についてドットの形成(吐出)を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及び方法に係り、特に、多数のノズル(液滴吐出口)を有するインクジェットヘッドを用いた画像形成装置におけるノズル間の流体的相互作用に起因する吐出ばらつきによる画質劣化を抑制する画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インク液を充填したインク室の圧力を上げることでノズルからインク滴を吐出するインクジェットプリンタは、近傍ノズルからの吐出の有無により、吐出インク量(液滴量)並びに吐出速度(液滴の飛翔速度)が変化することが知られている。このような現象を以下、「クロストーク」と呼ぶ。これらは、吐出時におけるインク室のインク量減少に伴い生じるメニスカス力、または吐出に伴う圧力波に起因する。
【0003】
近年、印刷機に対する高速化、低電力化、高画質化の要求から、多数のノズルが二次元的に配列されたラインヘッドを使ったシングルパスによる印刷機が注目されているが、これらの印刷機は、ノズルの高密度化及びヘッド内流路の微細化等により、上記のようなクロストークによる吐出誤差の影響を受けやすい。かかる吐出誤差は、特に高濃度部で濃度ムラ、スジムラ、或いはジャギーとして印刷画像上に現れ、画質の劣化要因となる。
【0004】
上記課題のうち濃度ムラを抑制する技術として、特許文献1、2が知られている。特許文献1では同時に多数のインク滴が吐出された際に生じる濃度ムラを補正するムラ補正方法が開示されており、吐出誤差のうち滴量誤差については、インク通路の容積変化にフィードバックをかけて吐出量を制御することにより画質を向上させる方法が示されている。
【0005】
一方、特許文献2では主に時間的に同一ノズルからインク滴が頻繁に吐出(連続吐出)される際に生じる滴量の減少により生じる濃度ムラ補正方法が開示されている。同文献2によれば、作成した印字データから背圧変動を予測し、当該予測した背圧から濃度変動を予測しその変動をもとに印字データを補正している。
【0006】
また、上記課題のクロストークを抑制する技術として、特許文献3,4が知られている。特許文献3では、同一走査領域に対して記録ヘッドを複数回走査して画像を完成させるマルチパス記録方式(シリアル方式)の印刷機において、間引きマスクパターンを使用してスキャン内で隣接ノズルの同時吐出を抑制する技術が開示されている。
【0007】
一方、特許文献4では、閾値マトリクス法を用い、ノズル列と同じ方向(幅方向)に休止要素を周期的に入れることで、連続して休止状態とされない各吐出口群に含まれる吐出口の数を1以上所定数以下とする方法が提案されており、吐出数を所定数以下にすることによりクロストークを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−218823号公報
【特許文献2】特開2007−237477号公報
【特許文献3】特開2003−266666号公報
【特許文献4】特開2008−280324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に示された濃度ムラ補正の機構を印刷装置に盛り込むことは製造コストの高騰につながる。また、滴量をコントロールすることは一般に困難であるため、濃度ムラを完全に解消することができないという問題もある。一方、特許文献2に開示された方法の場合、補正後の印字データによってもメニスカス変動が生じるはずであり、その濃度ムラを予測するためには、さらにもう一度予測をし直す必要があり、実用上困難である。
【0010】
上記特許文献1、2の課題に対して、特許文献3は隣接ノズルの同時吐出を抑制することを提案しているが、特許文献3の技術はマルチパス(シリアル)方式を前提とするものであり、シングルパス方式の印刷機には適用できない。
【0011】
また、特許文献4の技術の場合、吐出数を所定以下に制限しつつ所要の濃度を得るためには、ノズル数を増やすか、若しくは、滴サイズを大きくする必要があるが、ノズル数を増やすことはコスト増につながり、また滴サイズを大きくすることは粒状の悪化につながる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、シングルパス方式、マルチパス(シリアル)方式を問わず、クロストークによる画質の悪化(濃度ムラ、ミスト発生など)を抑制することができる画像形成装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0014】
(発明1):発明1に係る画像形成装置は、複数のノズルが2次元配列され、これら複数のノズルに連通する複数の流路を有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドのノズル配列情報を記憶するとともに前記複数の流路と前記各ノズルの接続関係を示す流路接続情報を記憶する記憶手段と、描画すべき画像内容を示すM階調の画像データを誤差拡散法により順次、N階調(ただし、M、NはM>N>1を満たす整数)に量子化するハーフトーン処理手段と、前記ハーフトーン処理手段によって前記画像データの特定画素を量子化する際に、前記ノズル配列情報及び前記流路接続情報から当該特定画素の記録を担う前記記録ヘッドのノズルと同一流路に接続されているノズルによって記録される画素のうち量子化済みの画素を特定し、当該特定した量子化済み画素の画素データを基に、当該特定画素の量子化判定の基準となる誤差拡散閾値を変更する閾値決定手段と、前記閾値決定手段で決定された誤差拡散閾値を用いて前記ハーフトーン処理手段により生成されたN階調の画像データに基づいて、前記記録ヘッドの各ノズルからの打滴を制御する打滴制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、誤差拡散法によって対象画像内の各画素を順次量子化するにあたり、量子化済み画素のデータを参照することにより、クロストークの起こりやすさを評価できる。そして、クロストークが起こりやすい場合に、誤差拡散閾値を変更して量子化の処理対象画素(特定画素)についてドットの形成(吐出)を抑制する。これにより、記録ヘッドによる打滴時にクロストークが発生し難いドット配置のドット画像データを得ることができる。このため、当該ドット画像データを基に記録ヘッドの打滴を制御して画像を形成するにあたり、クロストークによる画質の悪化(濃度ムラ、ミスト発生など)を抑制することができる。また、本発明は、シングルパス方式、マルチパス方式のいずれの方式についても適用できる。
【0016】
本発明における「当該特定画素の記録を担う前記記録ヘッドのノズルと同一流路に接続されているノズル」とは、当該特定画素の記録を担うノズルと同一のノズル、及びこれと異なる他のノズルの両方を包含する。
【0017】
なお、M階調の画像データの画素値に関して、高濃度ほど大きな値とするか、低濃度ほど大きな値とするかについては設計次第である。このような画像データの定義に対応し、誤差拡散閾値を用いた量子化の処理については、M階調の画像データの画素値が誤差拡散閾値よりも大きい場合にドットを形成する態様と、画素値が誤差拡散閾値よりも小さい場合にドットを形成する態様の両態様があり得る。
【0018】
前者の態様では誤差拡散閾値を大きい値に変更することによりドットの形成が抑制され、後者の態様では誤差拡散閾値を小さい値に変更することによりドットの形成が抑制される。
【0019】
(発明2):発明2に係る画像形成装置は、発明1において、前記閾値決定手段は、前記特定画素の記録を担うノズルが接続されている前記流路と同一流路に接続されているノズル間の相互作用によるクロストークの影響の大きさを評価するクロストーク評価値を計算するクロストーク評価値演算手段と、前記クロストーク評価値の値に応じて選択される誤差拡散閾値を定めた誤差拡散閾値テーブルを記憶しておく誤差拡散閾値テーブル記憶手段と、を備え、前記特定画素について算出された前記クロストーク評価値から前記誤差拡散閾値テーブルを参照することにより、当該特定画素の量子化に用いる誤差拡散閾値を決定することを特徴とする。
【0020】
かかる態様によれば、誤差拡散法によって各画素を順次量子化する際に、量子化済み画素データを参照し、ノズル配列情報と流路接続情報に基づき、クロストークの影響の程度をクロストーク評価値という指標で評価する。その評価結果から、クロストークによる画質劣化が予測される場合は、誤差拡散閾値を変更し、流路間或いは吐出タイミング間で吐出数を分散させる。これにより、流路間、或いはタイミング間で吐出数が平均化され、画像濃度を維持しつつ、全体としてクロストークの発生が抑制される。
【0021】
なお、クロストーク評価値を評価判断するための判定基準値は、評価値の上限値を規定する態様と、下限値を規定する態様の両態様がありうる。すなわち、クロストークの影響が大きいほど評価値が大きい値を示すように定義されたクロストーク評価値を用いる場合の判定基準値は、許容範囲の上限を示すものとなる。逆に、クロストークの影響が大きいほど評価値が小さい値を示すように定義されたクロストーク評価値を用いる場合の判定基準値は、下限を示すものとなる。
【0022】
(発明3):発明3に係る画像形成装置は、発明1又は2において、前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズルの同時吐出数、特定の空間周波数で並ぶ画素の打滴、同一ノズルによる特定時間内での吐出数、若しくは、特定の時間周波数による吐出のうち少なくとも一つを抑制するように、前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0023】
クロストークは、(a)同一流路に属するノズルの同時吐出数が多い場合、(b)特定の空間周波数で並ぶ画素を打滴する場合、(c)特定ノズルが連続吐出する場合(短時間で多数の吐出が行われる場合)、(d)特定の時間周波数で吐出が行われる場合に発生しやすい傾向がある。
【0024】
したがって、このようなクロストークが起こりやすい状況を回避するようなドット配置を実現するために、量子化済み画素データを参照しながら誤差拡散閾値を適応的に可変設定することが好ましい。
【0025】
(発明4):発明4に係る画像形成装置は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる画素の前記量子化済み画素データを基に前記誤差拡散閾値を決定することを特徴とする。
【0026】
既述のとおり、同一流路の同時吐出数が多いほどクロストークが発生し易い傾向にある。したがって、同じ流路から同時に吐出される画素数(同一流路からの同時吐出数)を求めて、この値を反映させて誤差拡散閾値を決定することができる。
【0027】
(発明5):発明5に係る画像形成装置は、発明4において、前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴される同時吐出数が所定の規定値よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0028】
誤差拡散閾値を変更することにより、当該閾値を用いた量子化の処理におけるドットの形成確率が変わり、対象画素(特定画素)の吐出を抑制できる。
【0029】
(発明6):発明6に係る画像形成装置は、発明4において、前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる同時吐出数が、当該同一流路とは異なる流路の同時吐出数よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0030】
かかる態様によれば、互いに異なる流路間で同時吐出数が概ね均され、全体としてクロストークの発生が抑制される。
【0031】
(発明7):発明7に係る画像形成装置は、発明4において、前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる同時吐出数が、当該同時タイミングとは異なるタイミングの同時吐出数よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0032】
かかる態様によれば、吐出タイミング間で同時吐出数が概ね均され、全体としてクロストークの発生が抑制される。
【0033】
(発明8):発明8に係る画像形成装置は、発明4乃至7のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズル群で打滴される複数の画素のデータを当該特定画素からの距離の関数として足し合わせた値に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、当該同一流路内で近傍ノズルからの吐出が多いほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0034】
同一流路内で吐出されるノズル間の距離が近いほど、クロストークの影響は大きい傾向にある。したがって、ノズル間の距離(画素間の距離)を考慮した関数としてクロストークの影響を評価し、これを誤差拡散閾値に反映させる態様が可能である。
【0035】
(発明9):発明9に係る画像形成装置は、発明4乃至8のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズル群で打滴される複数の画素のデータについて、これら画素の空間周波数の関数として評価することにより、当該評価に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、特定の空間周波数成分を多く含む場合ほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0036】
記録ヘッドの特性上、ある特定の画素周期(空間周波数)の画素について吐出が行われるとクロストークによって吐出性が悪化しやすい場合がある。このような特定空間周波数を予め実験的に把握しておき、その情報をメモリ等の記憶手段に記憶させておくなどして、当該特定空間周波数の吐出を抑制する態様が好ましい。本態様によれば、吐出画素の空間周波数のファクターを誤差拡散閾値に反映させることができる。
【0037】
(発明10):発明10に係る画像形成装置は、発明1乃至9のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、特定時間内の吐出数が所定値以上の場合、当該特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0038】
かかる態様によれば、同一ノズルによる一定時間内での吐出数の増加が抑制され、他のノズルに吐出が分散される。これにより、ノズル間で吐出数が平均化され、クロストークの発生を抑制することができる。
【0039】
(発明11):発明11に係る画像形成装置は、発明1乃至10のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、特定時間内の吐出数を算出する一方、当該同一ノズルとは異なるノズルで打滴される画素について前記特定時間内の吐出数を算出し、これらノズル間で特定時間内の吐出数が平均化されるように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0040】
かかる態様によれば、ノズル間で特定時間内の吐出数が概ね均され、全体としてクロストークの発生を抑制することができる。
【0041】
(発明12):発明12に係る画像形成装置は、発明1乃至11のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、時間的に吐出が連続する場合は、当該特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0042】
かかる態様によれば、同一ノズルの連続吐出が抑制され、他のノズルによる打滴に振り分けられることになるため、クロストークが抑制される。
【0043】
(発明13):発明13に係る画像形成装置は、発明1乃至12のいずれか1項において、前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される複数の画素のデータについて、打滴時の時間周波数の関数として評価することにより、当該評価に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、特定の時間周波数成分を多く含む場合ほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする。
【0044】
記録ヘッドの特性上、ある特定の打滴周期(時間周波数)で吐出が行われるとクロストークによって吐出性が悪化しやすい場合がある。このような特定時間周波数を予め実験的に把握しておき、その情報をメモリ等の記憶手段に記憶させておくなどして、当該特定時間周波数の吐出を抑制する態様が好ましい。本態様によれば、吐出画素を打滴する際の時間周波数のファクターを誤差拡散閾値に反映させることができる。
【0045】
(発明14):発明14に係る画像形成方法は、複数のノズルが2次元配列され、これら複数のノズルに連通する複数の流路を有する記録ヘッドのノズル配列情報を記憶手段に記憶するとともに前記複数の流路と前記各ノズルの接続関係を示す流路接続情報を前記記憶手段に記憶する記憶工程と、描画すべき画像内容を示すM階調の画像データを誤差拡散法により順次、N階調(ただし、M、NはM>N>1を満たす整数)に量子化するハーフトーン処理工程と、前記ハーフトーン処理工程によって前記画像データの特定画素を量子化する際に、前記ノズル配列情報及び前記流路接続情報から当該特定画素の記録を担う前記記録ヘッドのノズルと同一流路に接続されているノズルによって記録される画素のうち量子化済みの画素を特定し、当該特定した量子化済み画素の画素データを基に、当該特定画素の量子化判定の基準となる誤差拡散閾値を変更する閾値決定工程と、前記閾値決定工程で決定された誤差拡散閾値を用いて前記ハーフトーン処理工程により生成されたN階調の画像データに基づいて、前記記録ヘッドの各ノズルからの打滴を制御する打滴制御工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、インクジェットヘッドにおけるノズルの配列形態及びその流路構造に合わせて、クロストークが発生し難いドット配置を決定することができる。これにより、クロストークに起因する濃度ムラやミスト発生などを抑制することができ、高画質の画像形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ノズルレイアウトと画像データアドレス(画素位置)の関係を模式的に示した平面図
【図2】各画素の吐出タイミングとノズル番号の関係を模式的に示した説明図
【図3】画素データの入れ替えによって同時吐出が抑制される例を示した説明図
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置における処理手順を示すフローチャート
【図5】図4におけるハーフトーン処理のフローチャート
【図6】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図
【図7】インクジェットヘッドの構造例を示す図
【図8】インクジェットヘッドの他の構造例を示す平面透視図
【図9】図7中のA−A線に沿う断面図
【図10】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【図11】他の実施形態に係るインクジェットヘッドを構成するヘッドモジュールをノズル面側から見た図
【図12】図11に示したヘッドモジュール内の流路構造を示した図
【図13】ヘッドモジュール内部の流路構造を示す拡大図
【図14】図13中のB−B線に沿う断面図
【図15】図11に示したヘッドモジュールのノズルレイアウトを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0049】
<クロストーク発生要因とその抑制方法の説明>
図1は、インクジェットヘッドにおけるノズルレイアウトと、当該レイアウトの各ノズルからの打滴によりトッド記録が可能な画像データアドレス(画素位置)の関係を模式的に示した平面図である。ここでは説明を簡単にするために、2次元配列のノズルレイアウトの一例として、5行×5列の斜めマトリクス配列を例に説明するが、本発明の実施に際してノズルレイアウトは特に限定されない。
【0050】
図1において、太線矩形で示した符号1−1、1−2、1−3,1−4、1−5、2−1、2−2、・・・、5−5はそれぞれノズルの位置を示している。当該ノズルレイアウトを有するインクジェットヘッドと記録用紙(記録媒体)とを図1の矢印S方向(+y方向)に相対移動させ、適宜のタイミングでノズルからのインクの吐出を行うことにより、所望の画素位置にドットを形成する(所望の画像を形成する)ことができる。
【0051】
図中符号11で示した斜めの実線は、ノズル1−1,1−2,1−3,1−4,1−5に対してインクを供給するインク流路である。当該インク流路11に接続されるノズル群(ノズル1−1〜1−5)を「第1ノズル列」と呼ぶことにする。
【0052】
同様に、符号12は第2ノズル列に属するノズル2−1,2−2,2−3,2−4,2−5に対してインクを供給するインク流路、符号13は第3ノズル列に属するノズル3−1,3−2,3−3,3−4,3−5に対してインクを供給するインク流路、符号14は第4ノズル列に属するノズル4−1,4−2,4−3,4−4,4−5に対してインクを供給するインク流路、符号15は第5ノズル列に属するノズル5−1,5−2,5−3,5−4,5−5に対してインクを供給するインク流路である。
【0053】
各インク流路11〜15は供給側共通流路10に接続されており、供給側共通流路10の上流端である供給接続口10Aは図示せぬ管路を介してインクタンク(不図示)に接続される。供給接続口10Aからヘッド内に導入されたインクは、供給側共通流路(本流路)10から複数本に枝分かれした支流路に当たるインク流路11〜15を通って各ノズル1−1〜5−5に対応する圧力室(不図示)に供給される。
【0054】
図1に示したノズルレイアウトにおいて、同一インク流路に接続されるノズルは、画像データの画素位置(つまり、画像データアドレス)を表すxy座標系において、一定の周期で配置されている。すなわち、同一インク流路に属する隣接2ノズルの相対的な位置関係は、+x方向に1画素間隔、−y方向に4画素間隔という一定の空間的サイクルで配置されている。x方向の配置周期Tx、y方向の配置周期Tyとすると、(Tx,Ty)=(1,−4)の周期でノズルが配置されている。
【0055】
同一流路に属するノズルとは、例えば、符号12のインク流路に関して言えば、ノズル2−1〜2−5のことである。また、同一流路において隣接するノズルとは、例えば、ノズル2−3に関しては、ノズル2−2、2−4のことである。
【0056】
図1に示す流路構造の場合、クロストークの発生が問題となる「同一流路」は、ノズルに対応する圧力室が直接的に連通しているインク流路11〜15である。インク流路11〜15が連結されている供給側共通流路10については、ノズル間の相互作用(クロストーク)を媒介する流路に該当しない。
【0057】
つまり、インク吐出時のクロストークは、同一のインク流路11〜15に属するノズル群の中で発生する。第1ノズル列に属するノズル群は、同一のインク流路11に接続されており、この同じインク流路11を介して繋がるノズル間でクロストークが発生し得る。各インク流路12〜15についても同様であり、それぞれ同一のインク流路に接続されているノズル群の中でクロストークの発生が問題となる。
【0058】
クロストークは、同一流路内で吐出数が多いほど起こりやすい。特に、同一インク流路に属するノズルからの同時吐出数が多い場合に、特に起こりやすい。また、ヘッド内の流路構造の特性から、特定ノズルから吐出が連続する場合、若しくは、吐出周波数が特定周波数である場合に起こりやすい傾向がある。このようなクロストークの発生傾向に鑑み、クロストークを抑制するためには、上記観点からクロストークが起きにくいドット配置となるドット画像データに変更することが効果的である。
【0059】
図2を用いてさらに具体的に説明する。図2は、同一流路に属する4つのノズル31、32、33、34(左からノズル番号1,2,3,4とした)と、各吐出タイミングごとのドット画像データとの対応関係を示した。図示の便宜上、各ノズル31〜34の位置を対応する画素セルの左上角隅に丸印を重ねて描いた。
【0060】
これらのノズルと画像データアドレスの対応関係は、ノズルレイアウトに依存する。図2(A)では、各吐出タイミングにおけるノズルレイアウトと画像データアドレスの関係を示したものである。
【0061】
画像データアドレスの各セル内に記載した括弧内の数字は、吐出タイミングTと、ノズル番号Nを(T,N)で表している。図2(A)では、(8,1)、(8,2)、(8,3)、(8,4)の画素について打滴(吐出)を行うような画像データであることを示している。(8,1)、(8,2)、(8,3)、(8,4)が吐出画素であり、これら以外の画素位置は非吐出画素とする。つまり、吐出タイミングT=8でノズル番号1,2,3,4の各ノズルが全て同時に吐出するような画像データであることを示している。
【0062】
画像データにおける吐出画素の配列は、横方向(x方向)に1画素周期、縦方向(y方向)に4画素周期となっているが、同一流路に属するノズル31〜34のレイアウトも同様の配列周期になっているため、画像データ上で互いに離れている画素同士であっても、ノズルレイアウト上は同一インク流路に属する隣接ノズルで吐出されることになる。
【0063】
図2(A)に示した吐出位置の場合、吐出タイミングT=8において、同一流路に属する4ノズルが同時に吐出しており、このような場合は当該同一流路内の同時吐出数が多いのでクロストークが発生しやすい。
【0064】
これに対し、図2(B)は元画像から吐出画素(ドット)を少しずつずらしたものである。具体的には、図2(A)の元画像における(8,1)、(8,2)、(8,3)の吐出画素に代えて、図2(B)では、それぞれ(12,2)、(7,2)、(9,3)を吐出画素とし、(8,1)、(8,2)、(8,3)は非吐出画素とした。
【0065】
このように、吐出画素を僅かにずらしたことにより、図2(B)では、吐出タイミングT=7〜9、12に打滴が分散され、各吐出タイミングで同時に複数打たれるドットは存在しない。つまり、吐出タイミングT=7でノズル番号2のノズルが吐出し、T=8でノズル番号4、T=9でノズル番号3、T=12でノズル番号2がそれぞれ吐出する。このように、吐出画素(12,2)、(7,2)、(9,3)、(8,4)に対応した4つのドットは全て異なるタイミングで打滴される。このようなドット配置の場合、図2(A)と比較してクロストークは抑制される。
【0066】
<誤差拡散法を利用したクロストークの抑制方法>
以下に、クロストークを抑制する方法として、誤差拡散法を使う方法を示す。既述のとおり、同一インク流路に属するノズルについて同一タイミング吐出数が多いとクロストークを起こしやすい。このため、同一流路の同時吐出数が多くなる場合は、当該画素について誤差拡散閾値を変更することで打滴を抑制し、その誤差を周囲の未量子化画素に拡散する。誤差を拡散させる画素範囲並びに誤差の配分係数(拡散係数)については、適宜設計可能である。この拡散された誤差の濃度分は、同時吐出していない箇所(別の画素)で打滴される可能が高くなるので、全体として濃度を維持しつつ、同時吐出する確率が減る。その結果、クロストークが抑制される。
【0067】
図3にその模式図を示す。
【0068】
図3は、誤差拡散法による量子化処理中の画像データの模式図である。同図では、最左上隅の画素から右方向へ、また、上の行から下の行へと順次、処理の対象画素(注目画素)を移動させながら各画素について2値化を行う。符号40が現在の注目画素であり、この注目画素よりも左側の画素及び上側の画素(図中白抜きで示したセル)は量子化済みの画素である。セル中に数字「1」を付した画素はドットの記録を行う吐出画素(インクを吐出する画素)であることを示しており、セル中に無記入の画素は2値化結果のデータ「0」を省略したものであり、ドットの記録を行わない非吐出画素を示している。
【0069】
また、注目画素40並びに他の未量子化画素のセル中に付した数字「0.2」は、画素のデータ値(連続階調の値)を「0」〜「1」の範囲に相対化したものであり、例えば、256階調では約「51」に相当する。図中丸印で示したノズル37、38、39は、同一のインク流路に接続されているものとする。図3では、量子化済み画素領域において、既に当該同一流路に属する2つのノズル38、39が同時吐出を行うようにドット配置が決定されている状態で、注目画素40について量子化を行う様子を示している。
【0070】
この場合、同一流路に属する2つのノズル38、39が同時に吐出を行うため、更に注目画素40について吐出を行うと、同時吐出数が増加してクロストークの影響が大きくなる。このため、クロストーク抑制の観点から、当該注目画素40については吐出を抑制することが望ましい。そのために、当該注目画素40の量子化判定に使用する閾値(誤差拡散閾値)を変更する。ここでは、閾値を大きい値に設定するほど、吐出が抑制されるものとして、閾値を通常の値よりも大きい値に変更する。これにより、当該注目画素40はドットの形成が抑制され、当該量子化によって発生する画素値の誤差は周囲の未量子化画素に分配され、周囲画素の吐出確率が高められることになる。
【0071】
以下、この方法を適用した具体的な実施形態を説明する。
【0072】
<インクジェット記録装置への適用>
まず、本実施形態に係るインクジェット記録装置における処理プロセスの全体の構成を説明する。図4は、処理手順を示すフローチャートである。
【0073】
入力画像として連続階調画像(例えば、8ビット、256階調の画像データ)が入力される(ステップS102)。この連続階調画像に対してハーフトーン処理を行い(ステップS104)、ドット画像データ(ドットの有無を示す2値画像データ)に変換する。このステップS104におけるハーフトーン処理の手段として誤差拡散法を適用する。ハーフトーン処理は、一般に、M値(M≧3)の階調画像データをN値の階調画像データに変換する。ただし、M、Nは1<N<Mを満たす整数である。
【0074】
なお、本例では、2値(ドットのオン/オフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、ドットサイズの種類(例えば、大ドット、中ドット、小ドットなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことも可能である。この場合、量子化判定用の閾値(誤差拡散閾値)は、多段階に設定される。
【0075】
本実施形態では、このハーフトーン処理において、量子化済み画素データを参照しながらクロストークの影響を評価して誤差拡散閾値を適応的に変化させることで、クロストークが発生しにくいドット配置を決定している。詳細は後述する(図5)。
【0076】
ステップS104のハーフトーン処理にて得られたドット画像データとノズルレイアウトから、各タイミングにおける各ノズルの打滴の有無が決定される。図4のフローチャートでは、当該生成されたドット画像データを「ハーフトーン済み画像」と表記した(ステップS106)。
【0077】
こうして、クロストークの発生を抑制するようにドット配置が決定されたドット画像データ(ハーフトーン済み画像)が得られる(ステップS106)。そして、当該ドット画像データから各タイミングにおけるノズル制御のデータを生成し、このデータに基づき印字を行う(ステップS108)。
【0078】
次に、ハーフトーン処理の内容について説明する。図5はハーフトーン処理のフローチャートである。図5は連続階調画像内の注目画素(特定画素)を量子化する際の手順を示す処理フローであり、画像内の全画素について、図5のフローが繰り返される。
【0079】
まず、注目画素の画素値を読み込む(ステップS302)。なお、ここでいう「画素値」とは、入力画像のデータとして注目画素に元々与えられている値と、量子化済み画素から当該注目画素に拡散された誤差の累積値(累積誤差)との和である。図3の場合、「0.2」である。次いで、当該注目画素と同一流路かつ同時タイミングの吐出に係るノズルの量子化済み画素データを読み込む(図5のステップS304)。図3の場合、注目画素40の打滴を担うノズル37と同一流路に属するノズル38、39の画素が吐出画素となっているため、これらの画素のデータ(それぞれ「1」)を読み込む。
【0080】
次に、図5のステップS302、304で取得したこれらデータを用いてクロストーク特性値(「クロストーク評価値」に相当)を計算する(ステップS306)。
【0081】
「クロストーク特性値」とはクロストークを起こす程度を評価した評価値であり、例えば、同一流路で同時に吐出されるノズルの数で定義される。この値は、量子化された画像データと、画像データにおける吐出タイミングと対応するノズルの関係(つまり、図1で説明した画像データアドレスとノズルと吐出タイミングの関係)から計算できる。例えば、図1のように、ノズルの配列周期が一定である場合には、その配列周期で画素をシフトして足し合わせることにより、同時打滴数を簡単に計算することができる。
【0082】
クロストーク特性値としては、上記の同時打滴数(同時吐出ノズル数)以外に、以下に示す値を採用することができる。クロストーク特性値の算出方法の例を以下にまとめた。
【0083】
[クロストーク特性値の算出方法例]
(例1)クロストークは、同一流路にて同時タイミングにて打たれるドットの数が多いと起こる、という傾向に鑑み、クロストーク特性値として、同一流路同時タイミング吐出数を評価する。
【0084】
(例2)同一流路内で同時吐出ノズルの距離が近ければ近いほどクロストークへの影響は大きい、という傾向に鑑み、クロストーク特性値を、同一流路における同時吐出ノズルの距離の関数として定義し、評価判定を行う。例えば、同一流路同時吐出ノズルのうち、隣接するノズルの数を数える。または、同一流路内の同時吐出するノズルを、対象ノズルからの距離の減少関数として足し合わせる。
【0085】
(例3)特定の打滴時間間隔(すなわち、「時間周波数」)或いは特定の画素周期(すなわち、「空間周波数」)で吐出されると吐出性が悪化するヘッド特性を持つ場合には、これを避けるように、当該特定周波数の吐出の有無をクロストーク特性値に反映させる。例えば、特定ノズルが連続吐出、或いは、特定画素周期で吐出しているか否かを判定する。
【0086】
さらには、上記の例1〜3のうちから複数選択してもよい。また、上記の例1〜3のうちから選択した複数のものを重み付けしてある評価値を作ってもよい。例えば、例1〜3の各値に適宜の重み付け係数をかけて線形結合した値を評価値とすることができる。
【0087】
このようにしてクロストーク特性値を算出し(ステップS306)、求めたクロストーク特性値にしたがって誤差拡散閾値(量子化判定用の閾値)を決定する(ステップS308)。すなわち、算出されたクロストーク特性値から、クロストークを起こす可能性が高いと判断された場合は、誤差拡散の閾値を変更し、当該クロストークが起きる画素についてのドットの形成を抑制する。例えば、閾値以上の画素値を持つ画素にドットを形成する2値化処理を行う場合、当該クロストークが起きるところではドットの形成を抑制するように、誤差拡散の閾値を通常の閾値(以下、「第1閾値」という。)よりも大きな値の閾値(以下、「第2閾値」という。)へと変更する。
【0088】
この閾値変換(閾値の決定)の処理は、クロストーク特性値に対して対応する閾値を規定した誤差拡散閾値テーブルを参照して行う。最も単純な例としては、クロストーク特性値が所定の判定基準値よりも小さい場合については閾値a1(「第1閾値」に相当)を用い、クロストーク特性値が所定の判定基準値よりも大きい場合については閾値a2(「第2閾値」に相当)を用いるように誤差拡散閾値テーブルが定められる。もちろん、クロストーク特性値の値に応じて、更に細かく(多段階に)誤差拡散閾値を変更する態様も可能である。
【0089】
こうして、決定された閾値と画素値を比較し(ステップS310)、その比較結果からドットの形成を行うか(ステップS312)、ドットの形成を行わないか(ステップS314)を決定する。そして、ステップS310又はS312による量子化によって発生する画素値の誤差を周囲近傍の未量子化画素に拡散する(ステップS316)。すなわち、当該誤差の拡散範囲に該当する未量子化画素の画素値は、それぞれ所定の重み係数(配分係数)で分配された誤差が加算され、新たな画素値に更新される。
【0090】
上記のように、クロストーク特性値に応じて誤差拡散閾値を変更する処理を行うことにより、クロストークが起こりやすい画素ではドットの形成が抑制される。また、かかるドット形成の抑制により、その分濃度が落ちることに関しては、周囲の未量子化画素に量子化誤差が拡散されるため、周りの特にクロストークの起こらないところでドット形成が促進されることになる。こうして、平均的な濃度を維持しつつ、全体として、同一流路の同時吐出数が減り、クロストークを低減することができる。
【0091】
以後、注目画素を次の画素に変更して、ステップS302〜ステップS314の処理を繰り返し、全ての画素について量子化を行う。これにより、クロストークが発生しにくいドット画像データが得られる。
【0092】
本例の図4ステップS104で示したハーフトーン処理を行う信号処理手段及びその工程が「閾値決定手段(工程)」を包含する「ハーフトーン処理手段(工程)」に相当する。
【0093】
また、ハーフトーン処理(ステップS104)で得られたハーフトーン済み画像(ステップS106)に基づいて印字(ステップS108)を行う制御回路等を含んだ制御手段及びその工程は「打滴制御手段(工程)」に相当する。
【0094】
図5のステップS304で条件に該当する量子化済み画像データを特定する際に必要なノズル配列情報及びインク流路構造の情報を格納しておく手段(工程)が「記憶手段(工程)」に相当する。また、図5のステップS304〜S308で示した手順で誤差拡散閾値を決定する演算処理手段及びその工程が「閾値決定手段(工程)」に相当する。そして、ステップS308において誤差拡散閾値を変更する際に参照する誤差拡散閾値テーブルのデータを格納しておく手段(工程)が「誤差拡散閾値テーブル記憶手段(工程)」に相当する。
【0095】
これら各手段(工程)は、装置に搭載される中央演算処理装置(CPU)及びメモリその他の周辺回路を含んだ電子回路のハードウエアと、演算処理の手順等を規定したプログラムなどのソフトウエアとの組合せによって実現される。
【0096】
なお、インクジェット記録装置内でハーフトーン処理を実施する態様に限らず、ホストコンピュータなど外部装置においてハーフトーン処理を行い、ハーフトーン処理済みのドット画像データをインクジェット記録装置に提供する構成も可能である。この場合、ハーフトーン処理機能を有する外部装置とインクジェット記録装置との組合せが「画像形成装置」に該当するものと解釈できる。
【0097】
<インクジェット記録装置の構成例>
図6は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100の構成図である。このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0098】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122を備えて構成される。
【0099】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0100】
本例のインクジェット記録装置100では、記録媒体124として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体124を使用することができる。給紙部112において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ150に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体124として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0101】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0102】
図6に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
【0103】
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
【0104】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0105】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0106】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム170、用紙抑えローラ174、及びインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170に固定された記録媒体124は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yからインクが付与される。
【0107】
インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0108】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0109】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0110】
上述のように、記録媒体124の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、描画ドラム170によって記録媒体124を一定の速度で搬送し、この搬送方向(副走査方向)について、記録媒体124と各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体124の画像形成領域に画像を記録することができる。かかるフルライン型(ページワイド)ヘッドによるシングルパス方式の画像形成は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドによるマルチパス方式を適用する場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
【0111】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0112】
また、本発明の適用範囲はライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、記録媒体124の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを記録媒体124の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると記録媒体124の幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の記録媒体124の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して記録媒体124の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
【0113】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図6に示すように、乾燥ドラム176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
【0114】
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0115】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。
【0116】
各温風噴出しノズル182から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ180の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0117】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0118】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0119】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0120】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ188は、定着ドラム184に対して圧接するように配置されており、定着ドラム184との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体124は、定着ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0121】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、紫外線(UV)露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置100は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ188)の代わりに、記録媒体124上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。
【0122】
インラインセンサ190は、記録媒体124に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0123】
(排紙部)
図6に示すように、定着部120に続いて排紙部122が設けられている。排紙部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。
【0124】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0125】
<インクジェットヘッドの構造> 次に、インクジェットヘッドの構造について説明する。各色に対応するインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
【0126】
図7(a) はヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図7(b) はその一部の拡大図である。また、図8はヘッド250の他の構造例を示す平面透視図、図9は記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル251に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図7中のA−A線に沿う断面図)である。
【0127】
図7に示したように、本例のヘッド250は、インク吐出口であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)253をマトリクス状に2次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0128】
記録媒体124の送り方向(矢印S方向;副走査方向)と略直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に記録媒体124の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図7(a) の構成に代えて、図8(a)に示すように、複数のノズル251が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール250’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体124の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成する態様や、図8(b)に示すように、ヘッドモジュール250”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様もある。
【0129】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており(図7(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル251への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)254が設けられている。なお、圧力室252の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。 図9に示すように、ヘッド250は、ノズル251が形成されたノズルプレート251Aと圧力室252や共通流路255(図1で説明したインク流路11〜15に相当)等の流路が形成された流路板252P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート251Aは、ヘッド250のノズル面(インク吐出面)250Aを構成し、各圧力室252にそれぞれ連通する複数のノズル251が2次元的に形成されている。
【0130】
流路板252Pは、圧力室252の側壁部を構成するとともに、共通流路255から圧力室252にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口254を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図9では簡略的に図示しているが、流路板252Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0131】
ノズルプレート251A及び流路板252Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0132】
共通流路255はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に供給される。
【0133】
圧力室252の一部の面(図10において天面)を構成する振動板256には、個別電極257を備えたピエゾアクチュエータ258が接合されている。本例の振動板256は、ピエゾアクチュエータ258の下部電極に相当する共通電極259として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室252に対応して配置されるピエゾアクチュエータ258の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0134】
個別電極257に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ258が変形して圧力室252の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル251からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ258が元の状態に戻る際、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に再充填される。
【0135】
かかる構造を有するインク室ユニット253を図7(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル251が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0136】
また、本発明の実施に際してヘッド250におけるノズル251の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図7で説明したマトリクス配列に代えて、一列の直線配列、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0137】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0138】
<制御系の説明>
図10は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置100は、通信インターフェース270、システムコントローラ272、メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278、プリント制御部280、画像バッファメモリ282、ヘッドドライバ284等を備えている。
【0139】
通信インターフェース270は、ホストコンピュータ286から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース270にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ286から送出された画像データは通信インターフェース270を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦メモリ274に記憶される。
【0140】
メモリ274は、通信インターフェース270を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ272を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ274は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0141】
システムコントローラ272は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ272は、通信インターフェース270、メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278等の各部を制御し、ホストコンピュータ286との間の通信制御、メモリ274の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ288やヒータ289を制御する制御信号を生成する。
【0142】
ROM290には各種制御プログラムや各種のパラメータ等が格納されており、システムコントローラ272の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。
【0143】
メモリ274は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0144】
モータドライバ276は、システムコントローラ272からの指示にしたがってモータ288を駆動するドライバである。図10では、装置内の各部に配置される様々なモータを代表して符号288で図示している。
【0145】
ヒータドライバ278は、システムコントローラ272からの指示にしたがって、ヒータ289を駆動するドライバである。図10では、装置内の各部に配置される様々なヒータを代表して符号289で図示している。
【0146】
プリント制御部280は、システムコントローラ272の制御に従い、メモリ274内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドット画像データ)をヘッドドライバ284に供給する制御部である。
【0147】
ドット画像データは、入力された多階調の画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(たとえば、RGB各色について8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置100で使用するインクの各色の色データ(本例では、KCMYの色データ)に変換する処理である。
【0148】
ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色の色データに対して、図5で説明した誤差拡散法で各色のドットデータ(本例では、KCMYのドットデータ)に変換する処理である。
【0149】
プリント制御部280において所要の信号処理が施され、得られたドットデータに基づいて、ヘッドドライバ284を介してヘッド250のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0150】
プリント制御部280には画像バッファメモリ282が備えられており、プリント制御部280における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ282に一時的に格納される。また、プリント制御部280とシステムコントローラ272とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0151】
ヘッドドライバ284には、ヘッド250の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0152】
本例に示すインクジェット記録装置100は、ヘッド250の各ピエゾアクチュエータ258に対して、共通の駆動電力波形信号を印加し、各ピエゾアクチュエータ258の吐出タイミングに応じて各ピエゾアクチュエータ258の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、各ピエゾアクチュエータ258に対応するノズル251からインクを吐出させる駆動方式が採用されている。
【0153】
本実施形態の場合、図10に示したプリント制御部280が「打滴制御手段」に相当する。また、プリント制御部280、又はこれとシステムコントローラ272の組合せが図4及び図5で説明したハーフトーン処理及び閾値決定処理を行う手段に相当する。図10に示したROM290又はメモリ274は、ヘッドのノズル配列情報及び流路接続情報を記憶する「記憶手段」並びに、誤差拡散閾値テーブルを記憶しておく「誤差拡散閾値テーブル記録手段」に相当する。
【0154】
<他のノズルレイアウト例について>
図11は他の構成例に係るヘッドモジュールをノズル面側から見た図である。図11においてy方向が記録媒体の送り方向(副走査方向)であり、x方向は記録媒体の幅方向(主走査方向)である。このヘッドモジュール300は、x方向に対して角度γの傾きを有するv方向に沿った長辺側の端面と、y方向に対して角度αの傾きを持つw方向に沿った短辺側の端面とを有する平行四辺形の平面形状となっている。図11に示すヘッドモジュール300をx方向に複数個つなぎ合わせることにより、フルライン型のラインヘッドを構成できる。図11において、符号380はノズルを表す。
【0155】
図12は、ヘッドモジュール内部の流路構造を示した透視平面図である。図12のように、図中のw方向に沿うノズル列ごとに、それぞれノズル列を挟んで供給側インク流路310と、回収側インク流路320が設けられている。w方向に沿って設けられた供給側インク流路310は、供給側共通流路本流330から分岐した支流路となっており、供給側共通流路本流330は図示せぬ供給接続口を介して図示せぬインクタンクに接続される。また、回収側インク流路320は回収側共通流路本流340から分岐した支流路となっており、回収側共通流路本流340は図示せぬ接続口を介して図示せぬ回収タンクに接続される。
【0156】
図13は、ヘッドモジュール内部の流路構造を示す拡大図であり、図14は図13中のB−B線に沿う断面図である。これらの図面において、符号400は圧力室、402は供給側インク流路310と各圧力室400とを繋ぐ個別供給路、404は圧力室400からノズル380に繋がるノズル流路、406はノズル流路404と回収側インク流路320とを繋ぐ個別回収路である。図14における符号420はノズルプレート、430は流路基板、440は振動板、450はピエゾアクチュエータ(圧電素子)である。符号460はピエゾアクチュエータ450の可動空間454を確保しつつ、ピエゾアクチュエータ450の周囲を封止するカバープレートである。
【0157】
図には示されていないが、このカバープレート460の上方に供給側インク室及び回収側インク室が形成され、それぞれ不図示の連通路を介して流路基板470内の供給側共通流路本流330、回収側共通流路本流340に連結されている。
【0158】
供給側インク流路310から個別供給路402を介して圧力室400に供給されたインクは、ノズル流路404を通ってノズル380から吐出される。また、吐出に使用されない余剰インクは、ノズル流路404から個別回収路406を介して回収側インク流路320に回収される。
【0159】
図15は、ヘッドモジュール300におけるノズルレイアウト500の平面模式図である。なお、図15では、図示の便宜上、副走査方向(y方向)とw方向に沿うノズル列のなす角度αについて、図12に示した角度αよりも大きく描いている。
【0160】
図15において、各ノズル380には、x方向の位置に応じたノズル番号(「1」〜「162」)が付されている。このノズルレイアウト500は、第1バンド501、第2バンド502、第3バンド503、第4バンド504の4つのノズル群領域から構成される。w方向に沿ってノズルが並んだノズル列は、それぞれ32個のノズルが並んだものとなっている。また、w方向のノズル列の各列間のx方向間隔(S1、S2、S3、S4)はそれぞれ等しく、一定の値である。
【0161】
図示のように、w方向に沿って並ぶ32個のノズル380が各バンド(501〜504)に区分けされるため、各バンドにおけるw方向のノズル列は、それぞれ8個のノズルが並んで構成される。ここに示したノズル380は、4種類の異なるバンドパターンで配列されている。すなわち、図中左から、右に向かって順に、「1-4-2-3」、「1-3-4-2」、「1-3-2-4」、「1-2-4-3」の4種類のバンドパターンを有する。
【0162】
図中最左に示した「1-4-2-3」のバンドパターンは、x方向の最左ノズル380のノズル番号が「1」であり、このノズル番号「1」は第1バンド501に属する。ここから+x方向に順次隣接するドットを形成するノズル380は、ノズル番号「2」、「3」、「4」の順であり、これらはそれぞれ第4バンド504、第2バンド502、第3バンド503に属する。このように、x方向に連続して並ぶノズル番号の属するバンドの順序が、第1バンド501→第4バンド504→第2バンド502→第3バンド503の順で周期的に繰り返されるノズル配列パターンを「1-4-2-3」のバンドパターンと呼んでいる。
【0163】
ノズル番号「4」の次にx方向に隣接するノズルは、ノズル番号「5」であり、これは第1バンド501に属する。以下同様にして、「1-4-2-3」のバンドパターンは、ノズル番号「32」に到達するまで繰り返される。
【0164】
続いて、ノズルレイアウトは、「1-3-4-2」バンドパターンに移行する。ノズル番号「33」は、第2バンド502に属しており、厳密には「1-4-2-3」、「1-3-4-2」のいずれのパターンにも該当しないが、ノズル番号「34」から始まるノズルの並びは「1-3-4-2」バンドパターンとなる。「1-3-4-2」バンドパターンはノズル番号「64」まで繰り返される。
【0165】
続いて、ノズルレイアウトは、「1-3-2-4」バンドパターンに移行する。ノズル番号「65」、「66」、「67」は厳密には「1-3-4-2」、「1-3-2-4」のいずれのパターンにも該当しないが、これに続くノズル番号「68」から始まるノズルの並びは「1-3-2-4」のバンドパターンとなる。
【0166】
ノズル番号「95」の後は、「1-2-4-3」バンドパターンに移行する。ノズル番号「96」、「97」、「98」は厳密には「1-3-2-4」、「1-2-4-3」のいずれのパターンにも該当しないが、ノズル番号「99」から始まるノズルの並びは「1-2-4-3」のバンドパターンとなる。
【0167】
ノズル番号「126」の後は、「1-4-2-3」バンドパターンに移行する。ノズル番号「127」、「128」は厳密には「1-2-4-3」、「1-4-2-3」のいずれのパターンにも該当しないが、ノズル番号「129」から始まるノズルの並びは「1-4-2-3」のバンドパターンとなる。
【0168】
上記のように、x方向について4種類のバンドパターンを繰り返しながら、多数のノズルが二次元配列される。
【0169】
このようなノズルレイアウト500についても、各ノズル380と図12、図13で説明した流路構造の関係から同一流路の同時吐出数などを把握することができ、本発明を適用することが可能である。
【0170】
<他の装置への応用例>
上記の実施形態では、画像形成装置の一例として、印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得るインクジェットシステムにも広く適用できる。
【符号の説明】
【0171】
10…供給側共通流路、11,12,13,14,15…インク流路、31,32,33,34,37,38,39…ノズル、40…注目画素、100…インクジェット記録装置、124…記録媒体、172M,172K,172C,172Y…インクジェットヘッド、251…ノズル、272…システムコントローラ、274…メモリ、290…ROM、280…プリント制御部、300…ヘッドモジュール、310…供給側インク流路、320…回収側インク流路、380…ノズル、400…圧力室、402…個別供給路、406…個別回収路、500…ノズルレイアウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが2次元配列され、これら複数のノズルに連通する複数の流路を有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドのノズル配列情報を記憶するとともに前記複数の流路と前記各ノズルの接続関係を示す流路接続情報を記憶する記憶手段と、
描画すべき画像内容を示すM階調の画像データを誤差拡散法により順次、N階調(ただし、M、NはM>N>1を満たす整数)に量子化するハーフトーン処理手段と、
前記ハーフトーン処理手段によって前記画像データの特定画素を量子化する際に、前記ノズル配列情報及び前記流路接続情報から当該特定画素の記録を担う前記記録ヘッドのノズルと同一流路に接続されているノズルによって記録される画素のうち量子化済みの画素を特定し、当該特定した量子化済み画素の画素データを基に、当該特定画素の量子化判定の基準となる誤差拡散閾値を変更する閾値決定手段と、
前記閾値決定手段で決定された誤差拡散閾値を用いて前記ハーフトーン処理手段により生成されたN階調の画像データに基づいて、前記記録ヘッドの各ノズルからの打滴を制御する打滴制御手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記閾値決定手段は、前記特定画素の記録を担うノズルが接続されている前記流路と同一流路に接続されているノズル間の相互作用によるクロストークの影響の大きさを評価するクロストーク評価値を計算するクロストーク評価値演算手段と、
前記クロストーク評価値の値に応じて選択される誤差拡散閾値を定めた誤差拡散閾値テーブルを記憶しておく誤差拡散閾値テーブル記憶手段と、を備え、
前記特定画素について算出された前記クロストーク評価値から前記誤差拡散閾値テーブルを参照することにより、当該特定画素の量子化に用いる誤差拡散閾値を決定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズルの同時吐出数、特定の空間周波数で並ぶ画素の打滴、同一ノズルによる特定時間内での吐出数、若しくは、特定の時間周波数による吐出のうち少なくとも一つを抑制するように、前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる画素の前記量子化済み画素データを基に前記誤差拡散閾値を決定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴される同時吐出数が所定の規定値よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる同時吐出数が、当該同一流路とは異なる流路の同時吐出数よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項4において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路から同時タイミングで打滴が行われる同時吐出数が、当該同時タイミングとは異なるタイミングの同時吐出数よりも多い場合に、前記量子化の処理対象としている前記特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズル群で打滴される複数の画素のデータを当該特定画素からの距離の関数として足し合わせた値に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、当該同一流路内で近傍ノズルからの吐出が多いほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、前記同一流路に接続されているノズル群で打滴される複数の画素のデータについて、これら画素の空間周波数の関数として評価することにより、当該評価に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、特定の空間周波数成分を多く含む場合ほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、特定時間内の吐出数が所定値以上の場合、当該特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、特定時間内の吐出数を算出する一方、当該同一ノズルとは異なるノズルで打滴される画素について前記特定時間内の吐出数を算出し、これらノズル間で特定時間内の吐出数が平均化されるように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される画素のうち、時間的に吐出が連続する場合は、当該特定画素について吐出を抑制するように前記誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項において、
前記閾値決定手段は、特定画素の記録を担うノズルと同一ノズルで打滴される複数の画素のデータについて、打滴時の時間周波数の関数として評価することにより、当該評価に基づいて前記誤差拡散閾値を決定するものであり、特定の時間周波数成分を多く含む場合ほど、当該特定画素について吐出を抑制するように誤差拡散閾値を変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
複数のノズルが2次元配列され、これら複数のノズルに連通する複数の流路を有する記録ヘッドのノズル配列情報を記憶手段に記憶するとともに前記複数の流路と前記各ノズルの接続関係を示す流路接続情報を前記記憶手段に記憶する記憶工程と、
描画すべき画像内容を示すM階調の画像データを誤差拡散法により順次、N階調(ただし、M、NはM>N>1を満たす整数)に量子化するハーフトーン処理工程と、
前記ハーフトーン処理工程によって前記画像データの特定画素を量子化する際に、前記ノズル配列情報及び前記流路接続情報から当該特定画素の記録を担う前記記録ヘッドのノズルと同一流路に接続されているノズルによって記録される画素のうち量子化済みの画素を特定し、当該特定した量子化済み画素の画素データを基に、当該特定画素の量子化判定の基準となる誤差拡散閾値を変更する閾値決定工程と、
前記閾値決定工程で決定された誤差拡散閾値を用いて前記ハーフトーン処理工程により生成されたN階調の画像データに基づいて、前記記録ヘッドの各ノズルからの打滴を制御する打滴制御工程と、
を備えたことを特徴とする画像形成方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−152709(P2011−152709A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15696(P2010−15696)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】