説明

画像形成装置

【課題】キャッピング手段全体を記録ヘッドのノズル面に対して斜めに当接、離間させると、維持回復機構の構成が複雑になり、複数のキャップを1つの保持部材に備える場合に対応することができない。
【解決手段】記録ヘッド34のノズル面をキャッピングするキャップ82aは、キャップホルダ112に対してバネ201で上方向に付勢されて上下動可能に保持され、キャップ82aの長手方向両端部にはガイドピン210、211が設けられ、キャップホルダ212、213にはガイドピン210、211が移動自在に係合する係合穴212、213が形成され、キャップ82aの長手方向両端部の各ガイドピン210、211の天面側高さ位置が異なっていることで、非キャップ状態で、キャップ82aはキャップホルダ112に傾斜して保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置に関し、特に液滴を吐出する記録ヘッド及びその維持回復機構を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機等の画像形成装置として、例えば、液体の液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを含む液体吐出装置を用いて、媒体(以下「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、また、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。)を搬送しながら、液体を用紙に付着させて画像形成(記録、印刷、印写、印字も同義語で用いる。)を行うものがある。
【0003】
なお、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与することをも意味する。また、液体とは記録液、インクに限るものではなく、画像形成を行うことができる液体であれば特に限定されるものではない。また、液体吐出装置とは、液体吐出ヘッドから液体を吐出する装置を意味する。
【0004】
このような液体吐出装置を備えて画像を形成する画像形成装置においては、液体(以下「インク」という。)を吐出する記録ヘッドの性能を維持回復する維持回復機構が備えられる。
【0005】
このヘッドの維持回復機構(装置)は、記録ヘッドのノズル面(ノズルが形成された面)を高い密閉性を保って覆うための保湿用キャップ部材、ノズルから増粘したインクを吸引して排出するための吸引ポンプなどの吸引手段に接続される吸引用キャップ(保湿用キャップと兼用されることもある。)、ノズル面に付着したインクを拭き取って除去するためのワイパ部材(ワイパ、ワイパブレード)、ワイパ部材を清掃するワイパクリーナ(ワイパ清掃部材)、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出を行なうための空吐出受けなどで構成される。
【特許文献1】特開2007−098777号公報
【0006】
ところで、インクジェット式画像形成装置においては、高精度な印刷品質の要求が高まっており、印刷用のインクとして例えば顔料を含むインクが用いられるようになってきている。このような、インクにおいては表面張力が比較的大きく泡立ちが発生しやすい。このため、例えばクリーニング動作の実行によってキャップ部材内にインクを排出させた後、キャップ部材をヘッドから離間させたときに、インクの表面張力によってキャップ部材とヘッドの間に、両者をまたぐようにしてインク膜が生成される。そして、ヘッドがキャリッジと共に印字領域側に移動するとインク膜がキャップ部材側に大きなインク泡となって取り残されるという状態が発生する。
【0007】
その後のキャップ部材内のインクを排出する吸引ポンプ動作において、吸引孔にインク泡がかかっていれば内部の空気を排出するためインク泡は縮小もしくは消滅するが、場合によっては吸引孔にかからない位置でインク泡が残存することがある。このインク泡は吐出ヘッドが次にキャップ部材により封止されるときにヘッドのノズル面と接触して破裂し、この破裂したインク泡はワイピングによって清浄化されたノズル面を再汚染し多色ヘッドにおいては混色を発生させる。また、ノズルに形成されたメニスカスを破壊することがあり不吐出や曲がりといった重大な影響を及ぼすことがある。
【0008】
そこで、特許文献2にはノズル面に当接するキャップ部材とキャップ部材を一体の有底ホルダ部材とからなるキャッピング手段(本願のキャップ部材に相当する部材)をスライダに収納保持し、このスライダを、レバーを用いて傾斜させて移動させることにより、キャッピング手段が記録ヘッドのノズル形成面に対して非平行状態で上下動するようにしたものが記載されている。
【特許文献2】特許第3812809号公報
【0009】
特許文献3にはキャリッジまたは記録ヘッドに、非キャッピング状態においてキャッピング手段の上方をキャリッジ動作に伴い移動する消泡用の凸部を設けることが記載されている。
【特許文献3】特許第3456203号公報
【0010】
その他、キャップ部材の構成に関しては、例えば次のような文献もある。
【特許文献4】特開2005−066904号公報
【特許文献5】特開2005−262822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献2に記載されているように、キャッピング手段をスライダに保持してキャッピング手段をスライダに収納保持して全体を斜めに上下動させ、記録ヘッドのノズル面に対してキャップ部材を斜めに当接、離間させる構成では、維持回復機構の構成が複雑になるという課題がある。
【0012】
また、1つのキャッピング手段に複数の異なる目的を持つキャップを備える場合、例えば保湿用キャップと吸引及び保湿兼用キャップを備える場合、複数のキャップすべてが記録ヘッドのノズル面に対して斜めに当接、離間することになり、個々のキャップの姿勢制御を行うことができないという課題もある。
【0013】
また、特許文献3に記載されているように、キャリッジに消泡用の凸部を設けて気泡(インク泡)を破裂させる構成では、キャッピング手段の気泡が破裂したときに周囲にインク滴が飛び散り、飛び散ったインクがノズル面や記録紙搬送部へ付着して吐出不良や混色、用紙の裏汚れなどの課題を生じる。
【0014】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でキャップ部材内での泡の発生を防止し、あるいは、発生する泡を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明に係る画像形成装置は、液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、この記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ部材、このキャップ部材を上下動可能に保持するキャップ保持部材、キャップ部材をキャップ保持部材に対して上方向に付勢する付勢手段を有する維持回復機構とを備え、キャップ部材は、キャッピングしていない状態で、キャップ保持部材に対して長手方向に傾斜して保持されている構成とした。
【0016】
ここで、キャップ部材の長手方向両端部にはガイドピンが設けられ、キャップ保持部材にはガイドピンが移動自在に係合する係合穴又は係合凹部が形成され、キャップ部材の長手方向両端部の各ガイドピンの天面側高さ位置が異なっている構成とできる。
【0017】
また、キャップ部材の長手方向両端部にはガイドピンが設けられ、キャップ保持部材にはガイドピンが移動自在に係合する係合穴又は係合凹部が形成され、キャップ保持部材の各係合穴又は係合凹部の天面側高さ位置が異なっている構成とできる。
【0018】
また、キャップ部材には長手方向の中心位置からずれた位置に吸引孔が形成され、この吸引孔にはキャッピング状態でキャップ部材内を吸引する吸引手段に接続されたチューブが取付けられ、キャップ部材は、吸引孔に近い端部側が高く、遠い端部側が低くなるように傾斜している構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る画像形成装置によれば、キャップ部材は、キャッピングしていない状態で、キャップ保持部材に対して長手方向に傾斜して保持されている構成としたので、キャップ部材を記録ヘッドのノズル面に当接させた状態からキャップ部材を離間させるとき、キャップ部材は長手方向に一端部側から漸次ノズル面から離間するので、泡の発生が低減し、あるいは、キャップ部材の他端部側に移動して小さくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る画像形成装置の一例について図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は同画像形成装置の全体構成を説明する側面説明図、図2は同装置の要部平面説明図である。
この画像形成装置はシリアル型画像形成装置であり、装置本体1の左右の側板21A、21Bに横架したガイド部材である主従のガイドロッド31、32でキャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図2で矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0021】
このキャリッジ33には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための本発明に係る液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド34a、34b(区別しないときは「記録ヘッド34」という。)を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0022】
記録ヘッド34は、それぞれ2つのノズル列を有し、記録ヘッド34aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を、記録ヘッド34bの一方のノズル列はマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。
【0023】
また、キャリッジ33には、記録ヘッド34のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのヘッドタンク35a、35b(区別しないときは「ヘッドタンク35」という。)を搭載している。このヘッドタンク35には、カートリッジ装填部4に着脱自在に装着される各色の記録液カートリッジ10y、10m、10c、10kから、供給ポンプユニット5によって各色の供給チューブ36を介して、各色の記録液が補充供給される。
【0024】
一方、給紙トレイ2の用紙積載部(圧板)41上に積載した用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から用紙42を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)43及び給紙コロ43に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44を備え、この分離パッド44は給紙コロ43側に付勢されている。
【0025】
そして、この給紙部から給紙された用紙42を記録ヘッド34の下方側に送り込むために、用紙42を案内するガイド部材45と、カウンタローラ46と、搬送ガイド部材47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備えるとともに、給送された用紙42を静電吸着して記録ヘッド34に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト51を備えている。
【0026】
この搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト51の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。この帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置されている。この搬送ベルト51は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ52が回転駆動されることによって図2のベルト搬送方向に周回移動する。
【0027】
さらに、記録ヘッド34で記録された用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から用紙42を分離するための分離爪61と、排紙ローラ62及び排紙コロである拍車63とを備え、排紙ローラ62の下方に排紙トレイ3を備えている。
【0028】
また、装置本体1の背面部には両面ユニット71が着脱自在に装着されている。この両面ユニット71は搬送ベルト51の逆方向回転で戻される用紙42を取り込んで反転させて再度カウンタローラ46と搬送ベルト51との間に給紙する。また、この両面ユニット71の上面は手差しトレイ72としている。
【0029】
さらに、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド34のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構81を配置している。この維持回復機構81には、記録ヘッド34の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)82a、82b(区別しないときは「キャップ82」という。)と、ノズル面をワイピングするためのワイパ部材(ワイパブレード)83と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け84と、この空吐出受け84に一体形成され、ワイパブレード83に付着したインクを除去するための清掃部材であるワイパクリーナ部85と、ワイパブレード83のクリーニング時にワイパブレード83をワイパクリーナ85側に押し付けるワイパクリーナ86と、キャリッジ22をロックするキャリッジロック87などとを備えている。また、このヘッドの維持回復機構81の下方側には維持回復動作によって生じる廃液を収容するための廃液タンク100が装置本体に対して交換可能に装着される。
【0030】
また、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け88を配置し、この空吐出受け88には記録ヘッド34のノズル列方向に沿った開口部89などを備えている。
【0031】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙トレイ2から用紙42が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙42はガイド45で案内され、搬送ベルト51とカウンタローラ46との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド37で案内されて先端加圧コロ49で搬送ベルト51に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0032】
このとき、帯電ローラ56に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト51が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって用紙42が副走査方向に搬送される。
【0033】
そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド34を駆動することにより、停止している用紙42にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
【0034】
そして、記録ヘッド34のノズルの維持回復を行うときには、キャリッジ33をホーム位置である維持回復機構81に対向する位置に移動して、キャップ部材82によるキャッピングを行ってノズルからの吸引を行うノズル吸引、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出などの維持回復動作を行うことにより、安定した液滴吐出による画像形成を行うことができる。
【0035】
次に、この画像形成装置における維持回復機構81の概要について図3ないし図5を参照して説明する。なお、図3は同維持回復機構の模式的概略構成図、図4は同じく要部拡大説明図、図5は同じく平面説明図である。
この維持回復機構81は、維持装置フレーム111に、キャップホルダ112に保持されたキャップ82a、82bと、清浄化手段としての弾性体を含むワイパ部材83と、ワイパクリーナ86とがそれぞれ昇降可能(上下動可能)に保持されている。
【0036】
そして、ワイパ部材83と吸引用となるキャップ82aとの間には筒状の空吐出受け84が配置され、この空吐出受け84のワイパ部材83側上端部はワイパ部材83に付着したインクを掻き落とすワイパクリーナ部85が形成されている。ワイパ部材83のクリーニングを行うときにはワイパクリーナ86でワイパ部材83をワイパクリーナ部85に押し付けた状態でワイパ部材83を下降させることにより、ワイパ部材83に付着したインクを空吐出受け84側に掻き落す。
【0037】
ここで、ワイパクリーナ86は、ワイパ部材83に当接してワイピングによってワイパ部材83に付着したインクを清掃するためのクリーナコロ181を、クリーナホルダ182の上端部に回転自在に装着している。このクリーナホルダ182は支軸184によってフレーム111に揺動自在に装着し、図示しない引っ張りスプリングでワイパ部材83に当接しない退避位置側に揺動付勢している。また、クリーナホルダ182を揺動させるためにリンク部材188を設けている。
【0038】
また、空吐出受け84内には、ワイパ部材83に対する清掃によってワイパクリーナ部85に転移したインクを掻き落す掻き落し機構190を設けている。この掻き落し機構190は、後述するコロ126が回転することで、このコロ126に設けられたボス191によって掻き落し部材192に揺動されることにより、ワイパクリーナ部85に転移したインクを掻き落す動作を行う。
【0039】
また、印字領域に最も近い側のキャップ82aには可撓性チューブ119を介して吸引手段であるチュービングポンプ(吸引ポンプ)120を接続し、キャップ82aのみを吸引(回復)及び保湿用キャップ(以下単に「吸引用キャップ」という。)とし、キャップ82bは単なる保湿用キャップとしている。したがって、記録ヘッド34の回復動作を行うときには、回復動作を行う記録ヘッド34を吸引用キャップ82aによってキャッピング可能な位置に選択的に移動させる。
【0040】
また、これらのキャップ82a、82b、ワイパ部材83などの下方にはフレーム111に回転自在に支持したカム軸121を配置し、このカム軸121には、キャップホルダ112を昇降させるためのキャップカム122と、ワイパ部材83を昇降させるためのワイパカム124、空吐出受け84内で空吐出される液滴がかかる回転体としてのコロ126と、ワイパクリーナ86を揺動させるためのクリーナカム128と、キャリッジロック87を昇降させるためのキャリッジロックカム129をそれぞれ設けている。
【0041】
ここで、キャップ82はキャップホルダ112とともにキャップカム122により昇降させられる。ワイパ部材83はワイパカム124により昇降させられ、下降時にワイパクリーナ86が進出して、このワイパクリーナ86のクリーナコロ181と空吐出受け84のワイパクリーナ部85とに挟まれながら下降することで、ワイパ部材83に付着したインクが空吐出受け84内に掻き落とされる。
【0042】
そして、チュービングポンプ120及びカム軸121を回転駆動するために、モータ131の回転をモータ軸131aに設けたモータギヤ132に、チュービングポンプ120のポンプ軸120aに設けたポンプギヤ133を噛み合わせ、更にこのポンプギヤ133と一体の中間ギヤ134に中間ギヤ135を介して一方向クラッチ137付きの中間ギヤ136を噛み合わせ、この中間ギヤ136と同軸の中間ギヤ138に中間ギヤ139を介してカム軸121に固定したカムギヤ140を噛み合わせている。なお、クラッチ137付きの中間ギヤ136、138の回転軸である中間軸141はフレーム111にて回転可能に保持している。
【0043】
次に、この維持回復機構81におけるキャップ82の保持機構及び昇降機構(上下動機構)の詳細について図6及び図7を参照して説明する。なお、図6はキャップ保持昇降機構部の側面説明図、図7は同じくキャップ保持機構の側面説明図である。
キャップ82は、キャップ保持部材であるキャップホルダ112に昇降可能(上下動可能)に保持され、キャップ82とキャップホルダ112との間には、キャップホルダ112に対してキャップ82を上方に付勢するスプリング201が介装されている。
【0044】
キャップホルダ112は、スライダ202に前後方向(記録ヘッド34のノズルの並び方向)に移動可能に保持され、このスライダ202が前後端に設けたガイドピン204、205をフレーム111に形成したガイド溝206に摺動可能に嵌め合わせることで、スライダ202に連結されるキャップカム122によって、スライダ202、キャップホルダ112及びキャップ82全体が上下動できる構成としている。
【0045】
キャップ82の長手方向両端部にはガイドピン210、211が設けられ、キャップホルダ112にはガイドピン210、211が係合する係合穴212、213(凹部;溝を含む、であってもよい。)が設けられている。
【0046】
また、キャップ82の底面にはガイド軸215が設けられ、キャップホルダ112のフランジ部112aに設けた長穴形状の長穴216(図8参照)に上下動可能に挿通され、キャップ82はキャップホルダ112に対して上下動可能に装着保持されている。キャップ82とキャップホルダ112との間に介装したスプリング201はキャップ82を上方向(キャッピング時にノズル面側に押圧する方向)に付勢している。
【0047】
吸引用キャップ82は、図9に示すように、記録ヘッド34の液滴を吐出するノズルを形成したノズル面34n(後述の図11参照)に当接する弾性部材からなる当接部材221と、この当接部材221を保持し、ノズルから吐出又は吸引されたインクを受ける凹部222を形成する凹部形成部材223とを有し、当接部材221と凹部形成部材223は一体成形で形成している。
【0048】
当接部材221は、例えば、ブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、EPDM、スチレン系エラストマーなどの弾性体で形成している。また、凹部形成部材223は、撥水剤、例えばフッ素系撥水剤を含有するHDPE、PP,PTFEなどの樹脂部材で形成している。
【0049】
また、凹部形成部材223には、平坦な段差部225を形成して、この段差部225に吸水性を備えた例えばPVAなどの多孔質材からなる吸収体226を配置し、吸収体226の底面と段差部225との間、あるいは、吸収体226の周面と凹部形成部材223の側壁面227との間を接着剤やシール充填剤などで密着接合している。
【0050】
さらに、吸引用キャップ82aには凹部形成部材223には凹部222に連通する吸引孔224を形成し、スライダ202及びキャップホルダ112を挿通して、キャップ82aの短手方向に対してキャップ中央位置、長手方向で中央位置からずれた位置に下方からチューブ119を這い回して接続している。
【0051】
ここで、吸引用キャップ82aの長手方向両端部のガイドピン210、211は、図10に示すように、キャッピング方向(上下方向)での高さ位置を異ならせて配置している。つまり、キャップ82aの吸引チューブ119に近い端部側のガイドピン210の天面高さ位置を吸引チューブ119から遠い端部側のガイドピン211の天面高さ位置に対して高さYだけ低くしている。一方、キャップホルダ112の係合穴212、213は端面側の高さ位置を同じに形成している。なお、ガイドピン210、211の「天面」とは、非キャップ状態で、キャップホルダ112の係合穴212、213に当接する部分を意味し、断面形状が矩形状である場合に限らず、円形状や楕円形状であっても係合穴212、213の端面に当接する部分を含む意味である。
【0052】
したがって、キャップ82aをキャップホルダ112に保持してキャッピングしていない状態(キャップ82aで記録ヘッドのノズル面を密封していない状態)では、図7に示すように、スプリング201、201の付勢力によって上方に付勢されているので、キャップ82aは相対的に高さの低いガイドピン210側の高さが相対的に高さの高いガイドピン211側の高さよりも高くなって、キャップ82aは長手方向に沿って傾斜して保持された状態になる。
【0053】
このように構成した維持回復機構81において、例えば記録ヘッド34aの維持回復動作を行うときには、図11に示すように、キャリッジ33を記録ヘッド34aがキャップ82aによるキャッピング位置まで移動させた後、図12に示すように、キャップホルダ112を上昇させて、図13に示すように、記録ヘッド34のノズル面34nをキャップ82aでキャッピングするとともに、キャリッジロック87が上昇してキャリッジ33の図示しない凹部などに嵌合してキャリッジ33の移動をロックする。このキャッピング状態で、吸引ポンプ120が駆動されることで記録ヘッド34aのノズルからインクを吸引するノズル吸引(吸引回復動作)が行われる。
【0054】
なお、このキャップ82aによって記録ヘッド34aのノズル面34nをキャッピングしている状態では、キャップ82aが長手方向に傾斜してキャップホルダ112に保持されているので、図13に示すように、キャップ82aの当接部材221は、キャッピングにより、非キャッピング時の高さをH1とするとキャッピング時はH2となり、この(H1−H2)をニップつぶれ量H3とすると、ガイドピン210、211の天面高さの差Yとの関係はH3<Yとする。
【0055】
このキャッピング状態からキャップホルダ112を下降させると、バネ201、201で上方向に付勢されているキャップ82aは相対的に上昇しながらキャップホルダ112とともに下降して記録ヘッド34aのノズル面34nから離間する。このとき、キャップ82aの長手方向両端部のガイドピン210、211の高さの違いにより、図14に示すように、キャップ82aは傾きながらガイドピン211の端部側、すなわち、吸引チューブ119から遠い側の端部側から離間する。
【0056】
なお、このとき、キャップ82aのガイド軸215は斜めになるが、ガイド軸215を挿通しているキャップホルダ112側に設けられた穴216は長円形状にしているので、キャップ82aの昇降をスムーズに行われる。
【0057】
ここで、キャップ82aがキャップホルダ112に水平に(傾斜しないで)保持されている構成では、キャップ82aが記録ヘッド34aのノズル面34nから離間するときに当接部材221のニップ部全周が略同時に離間することになり、図15(a)に示すように、キャップ82a全体に覆い被さるようにインク泡301が残存することがある。これに対して、キャップ82aが長手方向片側の端部から離間した場合には、図15(b)に示すように、インク泡が遅れて離間する他方側の端部に向かって(矢印方向に)誘導されて消失し、若しくは、小さなインク泡302となる。
【0058】
この場合、キャップ82aは、非キャッピング状態で、吸引孔224に近い端部側が高く、遠い端部側が低くなるように傾斜している、つまり、キャップ82aが記録ヘッド34aのノズル面34nから離間するときに相対的に遅く離間する側に吸引孔224が近いので、小さなインク泡302が残った場合でも、吸引動作によりインク泡302を容易に消滅させることができる。
【0059】
これに対して、逆に、非キャッピング状態で、キャップ82aの吸引孔224に遠い端部側が高く、近い端部側が低くなるように傾斜させてキャップホルダ112に保持した場合には、図16に示すように、キャップ82a内にインク泡303が吸引孔224から離れた位置に残存してしまい、吸引動作によってインク泡303を消滅させることが困難になる。
【0060】
なお、図15及び図16では吸収体226を設けない状態で説明している。これに対して、吸収体226を設けた場合には図17に示すように吸収体226上にインク泡304が残存する。
【0061】
このように、キャップをキャップ保持部材に傾斜させて保持しているので、キャッピング手段全体を斜めに昇降させる構成に比べて、維持回復機構の構成が簡単になる。特に、1つのキャップ保持手段に異なる用途のキャップ(上述したように吸引と保湿を兼ねたキャップ82aと保湿専用のキャップ82b)を保持する場合、キャップ保持部材ではなく、個々のキャップの姿勢を制御することが重要である。従来のようのキャップ保持手段を含めて全体を斜めに昇降させる構成ではこれに対応することができないのに対し、本発明ではキャップ毎に姿勢制御(姿勢の設定)を行うことが可能になる。
【0062】
また、キャップに設けられた吸引孔に遠い端部側からキャップが離間する構成とすることで、インク泡が残存した場合でも必ず吸引孔側になる。そのため、その後の吸引動作でインク泡の内部に存在する空気を吸引孔から吸引手段で排出することができてインク泡を消滅させることができるようになる。
【0063】
また、キャップ内にノズル面のインク吸収やノズル内部のインク乾燥防止という目的でキャップ内部に多孔質材などの吸収体を配置した場合、この吸収体はその目的からノズル面との距離は近い方が良いものの、吸収体の表面にインク泡が残存した場合、たとえ小さいインク泡でも再キャッピング時にノズル面に接触汚染し易いといった不具合が生じるため、ノズル面と吸収体の距離は1.5〜4mm程度に設定されている。
【0064】
そこで、インク泡が残存した場合でも吸引孔側に誘導できるようにすることで、吸引動作によりインク泡を消滅させることができる。これにより、吸収体とノズル面の距離を少なくすることができるので、ノズル面のインク吸収性向上や空間容積も小さくなるためインク乾燥防止の向上を図れる。
【0065】
また、上記実施形態で説明したように、キャップ内に配置した吸収体は接着剤やシール剤を用いて密着接合している。これによって、吸引効率が向上し、インク泡の消滅を更に高められる他、これまで吸引効率が悪いがために行わざるを得なかった余分な吸引動作を防止し、インクの乾燥防止やポンプ寿命の向上を図ることができる。つまり、一般に吸収体として用いるPVA等の多孔質材は復元力に乏しいことから圧入に適さないので、多孔質材に穴を開けてピンで抑えたり、キャップの一部を突出させ多孔質材の抜け止め防止を行ってきているが、この構造ではキャップと多孔質材の密着性(シール性)が悪く、多孔質材表面以外の隙間が多いため、吸引動作時の吸引効率が低下して必要以上に多く吸引動作を行うため多孔質材に含まれているインクの乾燥や吸引ポンプ寿命の低下を招きやすいという不具合があったが、このような不具合を解消することができる。
【0066】
次に、本発明の他の実施形態に係るキャップ及びキャップ保持部材の構造について図18ないし図20を参照して説明する。なお、図18は同実施形態の要部側面説明図、図19は同じくキャップの側面説明図、図20は同じくキャップ保持部材の側面説明図である。
この実施形態では、図19に示すように、キャップ82aの長手方向両端部のガイドピン210、211は同じ高さ位置に設けている。一方、図20に示すように、キャップホルダ(キャップ保持部材)112の係合穴212と213とは天面の高さ位置を異ならせて形成している。
【0067】
つまり、キャップ82aの吸引チューブ119に近い端部側のガイドピン210が係合するキャップホルダ112の係合穴212の天面高さ位置を吸引チューブ119から遠い端部側のガイドピン211が係合する係合穴213の天面高さ位置に対して高さYだけ高くしている。
【0068】
したがって、キャップ82aをキャップホルダ112に保持してキャッピングしていない状態(キャップ82aで記録ヘッドのノズル面を密封していない状態)では、図18に示すように、前述した図7に示したと同様に、キャップ82aはスプリング201、201の付勢力によって上方に付勢されているので、キャップ82aは相対的に高さの高い係合穴212に係合しているガイドピン210側の高さが相対的に高さの低い係合穴213に係合しているガイドピン211側の高さよりも高くなって、キャップ82aは長手方向に沿って傾斜して保持された状態になる。
【0069】
これにより、前述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0070】
なお、本発明に係る画像形成装置は、インクジェットプリンタ以外にも、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機などにも適用することができる。さらに、インク以外の液体(記録液)、例えばレジスト、医療分野におけるDNA試料などを吐出させる画像形成装置などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る画像形成装置の機構部の全体構成を説明する側面概略構成図である。
【図2】同機構部の要部平面説明図である。
【図3】同装置における維持回復機構の模式的概略構成図である。
【図4】同じく要部拡大説明図である。
【図5】同じく平面説明図である。
【図6】同維持回復機構におけるキャップの保持機構及び昇降機構(上下動機構)の説明に供する側面説明図である。
【図7】同じくキャップ保持機構の側面説明図である。
【図8】同じく要部斜視説明図である。
【図9】同じくキャップの正面断面説明図である。
【図10】同じくキャップの側面説明図である。
【図11】同じくキャッピングの説明に供する説明図である。
【図12】同じくキャッピングの説明に供する説明図である。
【図13】同じくキャッピング状態の説明に供する要部側面説明図である。
【図14】同じくキャッピング状態から離間するときの説明に供する要部側面説明図である。
【図15】キャップに生じる泡の状態を比較例とともに説明する斜視説明図である。
【図16】キャップの非キャッピング状態での傾斜方向が逆の場合の泡の状態の説明に供する斜視説明図である。
【図17】キャップに吸収体を設けた場合に生じる泡の状態の一例の説明する斜視説明図である。
【図18】本発明の他の実施形態に係るキャップ及びキャップ保持部材の構造の説明に供する要部側面説明図である。
【図19】同じくキャップの側面説明図である。
【図20】同じくキャップ保持部材の側面説明図である。
【符号の説明】
【0072】
33…キャリッジ
34、34a、34b…記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
35…ヘッドタンク(液体容器)
81…維持回復機構
82a、82b…キャップ
83…ワイパ部材
84…空吐出受け
112…キャップホルダ(キャップ保持部材)
119…吸引チューブ
201…バネ(付勢手段)
210、211…ガイドピン
212、213…係合穴
224…吸引孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルを有する記録ヘッドと、
この記録ヘッドのノズル面をキャッピングするキャップ部材、このキャップ部材を上下動可能に保持するキャップ保持部材、前記キャップ部材をキャップ保持部材に対して上方向に付勢する付勢手段を有する維持回復機構とを備え、
前記キャップ部材は、キャッピングしていない状態で、前記キャップ保持部材に対して長手方向に傾斜して保持されている
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、前記キャップ部材の長手方向両端部にはガイドピンが設けられ、前記キャップ保持部材には前記ガイドピンが移動自在に係合する係合穴又は係合凹部が形成され、前記キャップ部材の長手方向両端部の各ガイドピンの天面側高さ位置が異なっていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像形成装置において、前記キャップ部材の長手方向両端部にはガイドピンが設けられ、前記キャップ保持部材には前記ガイドピンが移動自在に係合する係合穴又は係合凹部が形成され、前記キャップ保持部材の各係合穴又は係合凹部の天面側高さ位置が異なっていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の画像形成装置において、前記キャップ部材には長手方向の中心位置からずれた位置に吸引孔が形成され、この吸引孔にはキャッピング状態でキャップ部材内を吸引する吸引手段に接続されたチューブが取付けられ、前記キャップ部材は、前記吸引孔に近い端部側が高く、遠い端部側が低くなるように傾斜していることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−302669(P2008−302669A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154258(P2007−154258)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】