画像形成装置
【課題】抵抗発熱層に傷等の異常が生じたことを精度よく的確に検出する。
【解決手段】抵抗発熱層を有する加熱ベルトの周面に加圧ローラーを押圧してニップ部を形成し、ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置において、加熱ベルトの外周面を、回転軸方向に沿って分割された複数の領域の温度をそれぞれ測定する温度センサー50が設けられている。制御部は、プリント動作時に、各領域のそれぞれ毎に、加熱ベルトの外周面の全周にわたる周方向の温度分布に基づいて測定温度の最大値と最小値との差分を求めて、それぞれが通紙領域または非通紙領域に位置する一対の領域(PxA8とPxB8、PxA7とPxB7等)において得られた差分同士を比較することによって、抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じているかを判定する。
【解決手段】抵抗発熱層を有する加熱ベルトの周面に加圧ローラーを押圧してニップ部を形成し、ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置において、加熱ベルトの外周面を、回転軸方向に沿って分割された複数の領域の温度をそれぞれ測定する温度センサー50が設けられている。制御部は、プリント動作時に、各領域のそれぞれ毎に、加熱ベルトの外周面の全周にわたる周方向の温度分布に基づいて測定温度の最大値と最小値との差分を求めて、それぞれが通紙領域または非通紙領域に位置する一対の領域(PxA8とPxB8、PxA7とPxB7等)において得られた差分同士を比較することによって、抵抗発熱層に周方向に沿った異常が生じているかを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を加熱して記録シートに定着させる定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、画像データに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に、定着装置で定着する構成になっている。定着装置は、記録シート上のトナー画像を加熱して溶融し、記録シートに熱定着させる。
近年、定着装置の加熱手段として、通電によって発熱する抵抗発熱体を用いる抵抗発熱式が採用される傾向にある。特許文献1には、抵抗発熱体を有する加熱ベルト(発熱ベルト)を用いた定着装置が開示されている。この定着装置では、抵抗発熱体を備えた加熱ベルトの周回移動域内に弾性体ロールが設けられており、加熱ベルトが弾性体ロールと加圧ローラーとによって挟まれた状態で周回移動する。加熱ベルトと加圧ローラーとの間には、記録シートが通過する定着ニップ部が形成されている。
【0003】
加熱ベルトに設けられた抵抗発熱体には、加熱ベルトの周回移動方向とは直交する幅方向(加熱ベルトの回転軸方向、記録シートの搬送方向とは直交する方向)の両側の端部に交流電流が供給される。抵抗発熱層は、交流電流が供給されることによってジュール熱を発生する。抵抗発熱層において発生した熱は、定着ニップ部を通過する記録シートに与えられる。これにより、記録シート上のトナー画像が熱定着される。
【0004】
このような定着装置では、記録シートの搬送部材である加熱ベルト自身が発熱し、また、熱源である抵抗発熱層から記録シートまでの距離が短いために、抵抗発熱層の熱を効率よく記録シートに付与することができ、ウォームアップ時および定着動作時のそれぞれにおける消費エネルギー量を抑制することが可能になる。また、熱源である加熱ベルトの熱容量が小さいために、ウォームアップ時間を短くすることができる。
【0005】
抵抗発熱層を用いる定着装置では、ジャム発生時における不適切なジャム処理、記録シートに付着した異物等によって、加熱ベルトに設けられた抵抗発熱層に傷等の損傷が生じるおそれがある。抵抗発熱層に生じた損傷が、抵抗発熱層における電流が流れる方向(加熱ベルトの幅方向)に対して交差している場合、損傷が長くなっていると、損傷の両端付近が局所的に高温になる。
【0006】
これは、以下の理由による。すなわち、周方向に長い損傷が抵抗発熱層に生じると、抵抗発熱層を流れる電流は、損傷の中間付近では加熱ベルトの幅方向に流れることができず、損傷の両端を迂回するように流れる。これにより、損傷の両側の端部付近において局所的に電流が集中し、それぞれの端部付近が過熱状態になり、局所的な高温状態になる。
このように、加熱ベルトが局所的に高温になると、高温オフセット等の画像ノイズが発生するおそれがある。また、損傷がさらに長くなると、損傷の両端部付近での電流密度がさらに上昇し、異常高温状態になるおそれがある。この場合には、加熱ベルトに圧接された加圧ローラーの表面が溶融する等のダメージを受ける可能性がある。このために、加熱ベルトの抵抗発熱層に傷等の損傷が生じた場合に速やかにそれを検出して、画像ノイズの発生、加圧ローラーの損傷等を防止することが好ましい。
【0007】
加熱ベルトの抵抗発熱層に損傷が生じると、損傷の両端付近で局所的な高温状態になることから、加熱ベルトに、局所的に高温になった領域が存在していることを検出できれば、抵抗発熱層に損傷が生じていることを検出することができる。
特許文献2には、加熱ベルトのような発熱回転体の表面温度を検出する方法として、赤外線センサーを用いる構成が開示されている。赤外線センサーは、発熱回転体の表面に対向して、軸方向に沿って移動可能な状態で配置されており、回転状態になった発熱回転体の表面に対向した測定領域の表面温度を検出することができる。
【0008】
特許文献2に記載された赤外線センサーを用いることにより、画像形成(定着動作)時に、加熱ベルトの幅方向の一部領域である測定領域において、加熱ベルトが1回転する間(1回転周期)の温度(平均温度等)を検出することができる。従って、測定領域における加熱ベルトの1回転周期の測定温度が、予め設定された所定の閾値温度よりも高くなっていれば、その測定領域内における抵抗発熱層に損傷が生じているかを判定することができる。ここで、抵抗発熱層の全体にわたって損傷が生じていることを判定するためには、赤外線センサーの測定領域を、加熱ベルトの幅方向の全体にわたって設定すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【特許文献2】特開2000−227732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、幅方向の全体に測定領域を設定すると、誤判定が生じやすい。すなわち、定着ニップ部を記録シートが通過する場合、通紙領域では加熱ベルトの熱が奪われるのに対して、非通紙領域では記録シートによって熱が奪われるおそれがないために、加熱ベルトの表面温度は、通紙領域よりも非通紙領域で高くなる。この場合には、非通紙領域における測定温度が閾値よりも高くなって、非通紙領域において損傷が生じていると誤判定されるおそれがある。
【0011】
このような問題に対して、通紙領域と非通紙領域とに分けて、それぞれ異なる閾値温度を設定すればよいが、そのようにしても、周方向における抵抗発熱層の厚みムラ等に起因して、加熱ベルトの1回転周期に測定される温度がばらつくことによって、抵抗発熱層に損傷が生じていると誤判定されるおそれがある。
また、例えば、複数枚の記録シートに対する定着動作を連続して実行する場合、記録シートは、所定の間隔をあけて定着ニップ部を通過する。従って、通紙領域では、定着ニップを記録シートが通過してから次の記録シートが通過するまでの間は、加熱ベルトの熱が記録シートに奪われない状態になる。このような状態が、加熱ベルトの1回転周期の温度測定中に生じると、赤外線センサーによる測定温度が高くなる。
【0012】
この場合には、測定温度が、通紙領域に対して設定された閾値温度よりも高くなり、抵抗発熱層に損傷が生じていないにもかかわらず、損傷が生じているものと誤判定されるおそれがある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗発熱層における損傷等の異常が生じたことを、高精度で的確に判定することができる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置を備えた画像形成装置であって、前記加熱回転体の回転軸方向に分割された該加熱回転体の外周面の各分割部分を個別の測定領域として、測定領域毎に前記抵抗発熱層の温度を測定するように設けられた温度測定手段と、前記加熱回転体の回転中、前記温度測定手段の測定値をサンプリングし、前記加熱回転体の1回転周期内における各測定領域の温度変化を指標する情報を取得する情報取得手段と、前記ニップ部における通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定されるとともに、非通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定され、前記設定された測定領域の組み合わせ毎の前記情報の比較結果に従って、前記抵抗発熱層における異常の有無を判定する異常判定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の画像形成装置では、例えば、記録シートが連続してニップ部を通過する場合に、通紙領域の測定領域において、1回転周期の間に記録シートが加熱回転体の熱を奪うことによって取得された情報が大きく変動する場合にも、比較される測定領域の両方において取得された情報が同様に変動していることから、その影響を受けることなく、抵抗発熱層における異常の有無を的確に判定することができる。また、非通紙領域についても、同様に、測定温度が比較される測定領域同士が、非通紙領域に属していることから、それぞれの測定領域において同様の温度変動が生じることになり、その温度変動の影響を受けるおそれがない。
【0015】
好ましくは、前記組み合わせは、対となる2つずつの測定領域である組み合わせであることを特徴とする。
好ましくは、前記複数の測定領域の組み合わせにおける一方と他方の測定領域は相互に隣接していないことを特徴とする。
好ましくは、記録シートがシート搬送経路の幅方向の中央を基準として搬送される場合、前記2つずつの測定領域の組み合わせは、前記ニップ部において、前記基準となる中央に対応した位置に対して線対称の位置関係を有していることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記記録シートが、シート搬送経路の幅方向の一方の側縁を基準として搬送される場合、搬送される記録シートの搬送方向とは直交する方向の長さに基づいて、前記2つずつの測定領域の組み合わせが設定されることを特徴とする。
好ましくは、前記定着ニップを通過する記録シートの最小サイズが予め設定されており、前記ニップ部における最小サイズの記録シートの通紙領域内に前記測定領域が4つ以上割り当てられていることを特徴とする。
【0017】
前記情報取得手段は、前記測定領域毎に得られた前記温度変化における最大温度と最小温度との温度差を前記情報として取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の画像形成装置。
好ましくは、前記異常判定手段は、前記測定領域の組み合わせ毎に前記温度差の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以上であった場合に、当該組み合わせにおける一方の測定領域を異常であると判定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンターの構成を説明するための模式図である。
【図2】図1に示すプリンターに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図である。
【図3】図2に示す定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な横断面図である。
【図4】図2に示す定着装置に設けられた加熱ベルトの周回移動方向とは直交する方向である幅方向(回転軸方向)の一方の端部の縦断面図である。
【図5】図2に示す定着装置を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。
【図6】(a)は、異常判定制御に使用される温度検出部の1つの測定領域において、加熱ベルトの周方向に沿って傷が生じた場合における測定温度のサンプリングタイミングの一例を示す模式図、(b)は、(a)に示された傷の周辺部分における加熱ベルトの表面温度を示すグラフである。
【図7】定着装置によって定着動作が実行される場合の加熱ベルトの通紙領域と非通紙領域のそれぞれの表面温度の変化を示すグラフである。
【図8】測定温度の最大値と最小値との温度差を比較する一対のサーモパイルが相互に隣接している場合に、傷が生じていることの判定に影響が生じる可能性があることを示すグラフである。
【図9】中央基準によって記録シートが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分を比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせで説明するための模式図である。
【図10】図9に示す測定領域の組み合わせを示す表である。
【図11】中央基準によって記録シートが搬送される場合における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】(1)〜(11)は、片側基準によって記録シートが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分を比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせによって説明するための模式図である。
【図13】図12に示す測定領域の組み合わせを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る画像形成装置の実施の形態について説明する。
[実施形態1]
<画像形成装置の概略構成>
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンター(以下、単に「プリンター」という)の構成を説明するための模式図である。このカラープリンターは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データ等に基づいて、周知の電子写真方式により、フルカラーあるいはモノクロの画像を記録用紙、OHPシート等の記録シートに形成する。
【0020】
このプリンターは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによるトナー画像を記録シート上に形成する画像形成部Aと、画像形成部Aの下側に配置された給紙部Bとを備えている。給紙部Bは、記録シートSが内部に収容された給紙カセット22を備えており、給紙カセット22内の記録シートSが画像形成部Aに供給される。
【0021】
画像形成部Aには、プリンターのほぼ中央部において一対のベルト周回ローラー23および24に水平状態で巻き掛けられて周回移動可能になった中間転写ベルト18が設けられている。中間転写ベルト18は、図示しないモーターによって、矢印Xで示す方向に周回移動するようになっている。
中間転写ベルト18の下方には、プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kが設けられている。プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の周回移動方向に沿ってその順番で配置されており、それぞれが、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによって中間転写ベルト18上にトナー画像を形成する。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成部Aに対して着脱可能になっている。
【0022】
中間転写ベルト18の上方には、中間転写ベルト18を介して、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの上方に位置するように、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kが配置されている。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kには、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kのそれぞれに収容されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーが供給される。
【0023】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の下方において中間転写ベルト18に対向した状態で回転可能に配置された感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kをそれぞれ有しており、それぞれの感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kから供給されるY、M、C、Kのそれぞれのトナーを用いて画像を形成する。
【0024】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、使用されるトナーの色のみがそれぞれ異なっていること以外は、概略同様の構成になっている。このために、以下においては、主としてプロセスユニット10Yの構成のみを説明して、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの構成の説明は省略する。
プロセスユニット10Yに設けられた感光体ドラム11Yは、矢印Zで示す方向に回転されるようになっている。また、プロセスユニット10Yには、感光体ドラム11Yの下方において、感光体ドラム11Yの表面を一様に帯電する帯電器12Yが設けられている。帯電器12Yは、感光体ドラム11Yに対向して配置されている。
【0025】
プロセスユニット10Yには、帯電器12Yに対して感光体ドラム11Yの回転方向下流側であって、感光体ドラム11Yに対して垂直方向の下方に配置された露光装置13Yと、露光装置13Yによる感光体ドラム11Yの表面の露光位置よりも、感光体ドラム11Yの回転方向下流側に配置された現像器14Yとが設けられている。
露光装置13Yは、帯電器12Yによって一様に帯電された感光体ドラム11Yの表面にレーザ光を照射して静電潜像を形成する。現像器14Yは、感光体ドラム11Yの表面に形成された静電潜像を、Y色のトナーによって現像する。
【0026】
プロセスユニット10Yの上方には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11Yに対向する1次転写ローラー15Yが設けられている。1次転写ローラー15Yは、画像形成部Aに取り付けられている。1次転写ローラー15Yは、転写バイアス電圧が印加されることによって、感光体ドラム11Yとの間に電界を形成する。
なお、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの上方にも、中間転写ベルト18を挟んで各感光体ドラム11M、11C、11Kに対向する1次転写ローラー15M、15C、15Kがそれぞれ設けられている。
【0027】
感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像は、1次転写ローラー15Y、15M、15C、15Kと、感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kとの間にそれぞれ形成される電界の作用によって、中間転写ベルト18上に1次転写される。トナー画像が一次転写された感光体ドラム11Yは、クリーニング部材16Yによってクリーニングされる。
【0028】
なお、フルカラー画像を形成する場合には、各感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像が中間転写ベルト18上の同じ領域に多重転写されるように、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの画像形成動作タイミングがずらされる。
これに対して、モノクロ画像を形成する場合には、選択された1つのプロセスユニット(例えばKトナー用のプロセスユニット10K)のみが動作されることにより、当該プロセスユニットの感光体ドラム(例えば感光体ドラム11K)上にトナー画像が形成されて、形成されたトナー画像が、当該プロセスユニットに対向して配置された1次転写ローラー(例えば1次転写ローラー15K)によって、中間転写ベルト18における所定領域上に転写される。
【0029】
中間転写ベルト18におけるトナー画像が転写された部分は、中間転写ベルト18が周回移動することにより、一方のベルト周回ローラー23が巻き掛けられた端部(図1において右側の端部)へと搬送される。
ベルト周回ローラー23に巻き掛けられた中間転写ベルト18には、シート搬送経路21を挟んで2次転写ローラー19が対向して配置されている。2次転写ローラー19は中間転写ベルト18に圧接されており、両者の間に転写ニップ部が形成されている。2次転写ローラー19には転写バイアス電圧が印加されるようになっており、2次転写ローラー19に転写バイアス電圧が印加されることにより、2次転写ローラー19と中間転写ベルト18との間に電界が形成される。
【0030】
2次転写ローラー19と中間転写ベルト18とによって形成される転写ニップ部には、給紙部Bの給紙カセット22からシート搬送経路21に繰り出された記録シートSが搬送される。中間転写ベルト18上に転写されたトナー画像は、2次転写ローラー19と中間転写ベルト18との間に形成される電界の作用により、転写ニップ部に搬送される記録シートSに2次転写される。
【0031】
転写ニップ部を通過した記録シートSは、2次転写ローラー19の上方に配置された定着装置30に搬送される。定着装置30では、記録シートS上の未定着のトナー画像が加熱および加圧されることによって定着される。トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラー24によって排紙トレイ23上に排出される。
なお、本実施形態のプリンターでは、給紙カセット22内に収容された記録シートSは、搬送方向と直交する幅方向の中央部が、シート搬送経路21の幅方向の中央部に沿った状態(中央基準)で転写ニップ部へ搬送される。従って、記録シートSは、転写ニップ部を中央基準で通過して、定着装置30へ搬送される。これにより、記録シートSは、定着装置30内においても、幅方向の中央部が、搬送経路の幅方向の中央部に沿った状態で搬送される。
【0032】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図、図3は、その模式的な横断面図である。なお、定着装置30では、図1に示すように、記録シートは、下方から上方に向って通過するが、図2においては記録シートの通過方向が、紙面の手前側から奥側になるように、図3においては紙面の右側から左側になるように、定着装置30をそれぞれ示している。
【0033】
図2および図3に示すように、定着装置30は、加圧部材としての加圧ローラー32と、加圧ローラー32に外周面が圧接された状態で回転(周回移動)するように配置された加熱ベルト31と、加熱ベルト31の内周面に圧接されるように加熱ベルト31の回転域(周回移動域)の内部に配置された定着ローラー33とを備えている。
加熱ベルト31には、給電されることによって発熱する抵抗発熱層31b(図4参照)が設けられている。加熱ベルト31は、抵抗発熱層31bが発熱することによって加熱状態になり、加熱された状態で周回移動(回転)する。従って、加熱ベルト31は、加熱回転体を構成している。
【0034】
加熱ベルト31は、例えば、周回移動方向と直交する回転軸方向(幅方向)の長さが、加圧ローラー32の外周面における軸方向長さよりも若干長く、また、加圧ローラー32の直径よりも若干大きな直径を有する円筒形状になっている。加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、それぞれの回転軸同士が平行な状態で、加熱ベルト31の外周面と加圧ローラー32の外周面とが相互に圧接されるように配置されている。
【0035】
加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、相互に圧接されることによって、記録シートSが通過する定着ニップ部Nを形成している。
本実施形態では、搬送経路内を中央基準で搬送される記録シートSは、定着ニップ部Nにおける回転軸方向の中央に、記録シートSの搬送方向と直交する幅方向の中央部が沿った状態で定着ニップ部Nを通過する。
【0036】
図4は、加熱ベルト31の周回移動方向とは直交する方向である軸方向の一方の端部の横断面図である。加熱ベルト31は、例えば、ポリイミド(PI)によって一定の厚さの円筒形状に構成された補強層31aと、補強層31aの外周面上に全周にわたって積層された抵抗発熱層31bとを有している。抵抗発熱層31bは、電流が流れることによってジュール熱を発熱する抵抗発熱材料によって構成されている。
【0037】
抵抗発熱層31bは、軸方向の両側の端部における外周面上に、導電体によって形成された電極部31gがそれぞれ全周にわたって設けられている。各電極部31gは、それぞれ、定着ニップ部Nよりも軸方向の両側(外側)に配置されている。
各電極部31gの外周面には、給電部材37がそれぞれ導電状態で圧接されている。各給電部材37は、定着ニップ部Nに対して加熱ベルト31の回転方向上流側であって、当該定着ニップ部Nに近接した位置において、各電極部31gの外周面に摺接している。
【0038】
両電極部31gの間に位置する抵抗発熱層31bの外周面には、弾性層31cが積層されており、この弾性層31cの外周面上に離型層31dが積層されている。
図2に示すように、給電部材37のそれぞれには、商用の交流電源34の交流電流が電力調整部35によって所定の電力に調整されて、ハーネスを介して供給されるようになっている。
【0039】
各給電部材37は、例えば、カーボン粉と、銅粉等の粉体を混合して焼成した導電ブラシによって構成されている。各給電部材37は、加熱ベルト31が回転することによって、それぞれが圧接された電極部31gに摺接する。これにより、相互に圧接された給電部材37と、電極部31gとの導電状態が維持される。
なお、各給電部材37としては、導電ブラシを用いる構成に限るものではなく、電極部31gとの摺接によって導電状態を維持できる構成になっていれば、導電ブラシ以外のものを用いてもよい。例えば、給電部材37を、金属等の導電体で構成してもよく、また、絶縁体等の表面にCu、Ni等をメッキした構成とすることも可能である。さらに、各給電部材37は、周回移動する電極部31gのそれぞれに接触した状態で回転するローラー等のような回転体としてもよい。
【0040】
加熱ベルト31には、加圧ローラー32が圧接された外周面の位置から、周方向に180度離れた外周面の位置に対向して、加熱ベルト31の外周面の温度を測定する温度検出部50が設けられている。温度検出部50は、対向する加熱ベルト31の外周面の温度を、回転軸方向の全域にわたって測定するように、例えば、第1温度センサー51と第2温度センサー52とを有している。
【0041】
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、それぞれ、例えば、複数のサーモパイル(本実施形態では8個のサーモパイル)を直線状に配列したマルチアレイサーモパイルが使用されており、それぞれのサーモパイルの配列方向が加熱ベルト31の幅方向に沿うように配置されている。第1温度センサー51は、加熱ベルト31の幅方向の中央部から一方の端部までが測定範囲となるように、また、第2温度センサー52は、加熱ベルト31の幅方向の中央部から他方の端部までが測定範囲となるように配置されている。
【0042】
第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれのサーモパイルは、加熱ベルト31の幅方向の全域を複数の領域に分割した場合におけるそれぞれの領域(測定領域)Pxの一定面積の温度を個別に測定するように構成されている。
第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれは、8個のサーモパイルの測定領域Pxが、加熱ベルト31の外周面上において、ほぼ等しい面積で、加熱ベルト31の幅方向全域に亘って隙間なく並ぶように、加熱ベルト31の表面から所定の距離をあけて配置されている。第1温度センサー51および第2温度センサー52の各サーモパイルは、加熱ベルト31の外周面における測定領域内で、一定面積の範囲の平均温度を測定する。第1温度センサー51および第2温度センサー52によって測定される加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31に損傷等の異常が生じていることを検出するため、および、加熱ベルト31の表面温度が所定値に制御するために使用される。
【0043】
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに生じた損傷等の異常を、その発生場所にかかわらずに検出できるように、各サーモパイルの測定領域Pxが、加熱ベルト31の幅方向の全域にわたって連続している必要がある。この場合、隣接する測定領域Pxの端部同士が相互に重なった状態になっていてもよく、また、隣接する測定領域Pxの端部同士が重なることなく接した状態になっていてもよい。
【0044】
なお、本実施形態において、第1温度センサー51における8個のサーモパイルのそれぞれの加熱ベルト31上の8個の測定領域Pxを、幅方向の中央部から、第1温度センサー51によって測定できる加熱ベルト31の幅方向の一方の端部にかけて、第1測定領域PxA1〜第8測定領域PxA8とする。また、第2温度センサー52における8個のサーモパイルのそれぞれの加熱ベルト31上の8個の測定領域Pxを、加熱ベルト31における幅方向の中央部から第2温度センサー52によって測定できる加熱ベルト31の幅方向の他方の端部にかけて、第1測定領域PxB1〜第8測定領域PxB8とする。
【0045】
なお、温度検出部50は、第1温度センサー51および第2温度センサー52の2つを設ける必要はなく、1つの温度センサーによって、加熱ベルト31の幅方向の全域にわたって、その表面温度を検出するようにしてもよい。この場合、温度センサーは、1つのマルチサーモパイルアレイによって構成してもよく、また、複数のサーモパイルを並べる構成等としてもよい。いずれの場合にも、加熱ベルト31上には幅方向に沿って複数の測定領域Pxが形成される。
【0046】
なお、加熱ベルト31上における幅方向に沿った測定領域Pxの数は、特に限定されるものではなく、加熱ベルト31の幅方向長さ、各測定領域の面積、必要とされる測定精度等に基づいて、適宜、設定される。測定領域の個数は、通常、5〜20個程度である。測定領域Pxの数が多くなる場合には、サーモパイルの個数を増加してもよいが、所定個数のサーモパイルをそれぞれ有する複数のマルチサーモパイルアレイを加熱ベルト31の幅方向に沿って並べて使用してもよい。
【0047】
第1温度センサー51および第2温度センサー52として、複数のマルチアレイサーモパイルを用いる構成の場合には、視野角が広いことから、マルチアレイサーモパイルの個数を減らすことができる。これにより、第1温度センサー51および第2温度センサー52を小型化することができるために、省スペース化が可能である。
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52としては、サーモパイル、マルチアレイサーモパイルを用いる構成に限らず、サーモグラフィを用いる構成等であってもよい。いずれの場合にも、第1温度センサー51および第2温度センサー52は、定着ニップ部Nを形成する加熱ベルト31の外周面の温度を全域にわたって検出できる複数の測定領域を有している。
【0048】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52として、サーモパイル、マルチアレイサーモパイル、サーモグラフィのいずれを用いても、第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれは、加熱ベルト31の表面に対向して固定された状態で、加熱ベルト31の表面おける温度を幅方向の所定範囲にわたって測定できる。従って、第1温度センサー51および第2温度センサー52に、それぞれの測定領域を移動させる機構を設ける必要がない。これにより、第1温度センサー51および第2温度センサー52に測定領域を移動させるための複雑な機構を用いる必要がなく、第1温度センサー51および第2温度センサー52を簡潔な構成とすることができ、故障等によって信頼性が低下することを抑制できる。
【0049】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52を加熱ベルト31の表面に対向して固定する構成に代えて、例えば、1つのサーモパイルを、加熱ベルト31の幅方向に沿って移動させる構成、あるいは、1つのサーモパイルの測定範囲が加熱ベルト31の幅方向に沿って往復移動するようにサーモパイルを揺動(首振り運動)させる構成としてもよい。この場合には、サーモパイルを移動させる機構が必要になるために、その機構に故障等が生じる可能性がある。これにより信頼性が低下するおそれがあるものの、1つのサーモパイルがあればよいために、経済性が向上する。
【0050】
さらに、1つのサーモパイルを加熱ベルト31の周辺において固定状態として、加熱ベルト31の幅方向に沿って照射される光が、固定されたサーモパイルに向けて反射させる反射装置を設ける構成としてもよい。この場合、反射装置として、例えば、反射鏡を高速で移動させる構成とすれば、第1温度センサー51および第2温度センサー52自体を高速で移動させる場合に比べて、部品点数が少なく簡潔な構成とすることができる。これにより、故障等の発生を低減することができる。
【0051】
加熱ベルト31における補強層31a上に設けられた抵抗発熱層31bは、耐熱性樹脂に、導電性フィラーおよび高イオン導電体粉末を一様に分散させて所定の円筒形状に成型されたものであり、全周にわたって一様な電気抵抗率に調整されている。
抵抗発熱層31bを構成する耐熱性樹脂としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が使用されるが、PIが最も耐熱性に優れているために好ましい。このために、本実施形態では、PIを用いている。
【0052】
導電性フィラーとしては、電気抵抗率が低い(導電性が高い)金属材料の粉末と、電気抵抗率が高い(導電性が低い)炭素化合物粉末とを用いることが好ましい。高イオン導電体粉末としては、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)等の無機化合物中の高イオン導電体粉末を用いることが好ましい。金属材料の粉末としては、Ag、Cu、Al、Mg、Ni等の金属材料の微粒子が好適である。炭素化合物粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブが好適である。
【0053】
高イオン導電体粉末は、抵抗発熱層31bの機械的強度を低下させるおそれはないが、高イオン導電体粉末および高抵抗の炭素化合物粉末だけでは、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を、商用電源を用いた500〜1500W程度の電力の定着装置を所定の発熱量になるように調整することが容易でない。このために、低抵抗の金属粉末も用いられている。このように、金属粉末と、炭素化合物粉末と、高イオン導電体粉末とを用いることにより、機械的強度を低下させることなく、抵抗発熱層31bを所定の電気抵抗率に容易に調整することができる。
【0054】
なお、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、2種類以上の材料によって構成してもよい。
また、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、繊維状になっていることが好ましい。金属粉末、炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれが繊維状になっていることによって、それぞれが接触する確率が高くなり、パーコレーションしやすくなるためである。
【0055】
高イオン導電体粉末としてヨウ化銀(AgI)またはヨウ化銅(CuI)を用いると、抵抗変化率が大きく変化して急激に抵抗値が低下する温度(相転移点)が存在するために、非通紙領域における過昇温を防止する効果は顕著になる。AgIの場合、相転移点は、通常147℃であるが、AgIの粒径に依存するために、粒径が小さいほど低温にすることができる。CuIの場合も同様である。
【0056】
従って、定着温度に応じて、AgIまたはCuIとして混合する材料の粒径を適宜選択することにより、所定の相転移点とすることができる。特に、材料の粒径が小さい場合には、硝酸銀(AgNO3)水溶液、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液および銀イオン伝導性の有機ポリマーであるPVP(Poly-N−vinyl-2-pyrrolidone)の水溶液を、常温および常圧下において混合、ろ過、乾燥するという簡便な方法によって、AgIまたはCuIを合成することができる。また、溶液の濃度、混合手順を変更することによって、10nm〜50nmの範囲で、異なるサイズのナノ粒子とすることができる。
【0057】
金属粉末の粒径は、0.01〜10μm程度が好ましく、このような粒径とすることにより、高抵抗である炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、全体にわたって線状に絡み合い、全体として均一な電気抵抗率を有する抵抗発熱層31bとすることができる。
耐熱性樹脂中に分散される導電性フィラーは、耐熱性樹脂に対して、低抵抗の金属粉末が、50〜300重量%、高抵抗の炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、5〜100重量%であることが好ましい。金属粉末、炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、いずれも、300重量%よりも多くなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が低下しすぎるおそれがあり、50重量%よりも少なくなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が高くなりすぎるおそれがある。このように、300重量%よりも多くなる場合および50重量%よりも少なくなる場合のいずれにおいても、所定の体積抵抗率に調整することは容易ではない。このことから、50〜300重量%とすることが好ましい。
【0058】
抵抗発熱層31bの厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が好ましい。
抵抗発熱層31bの電気抵抗率は、抵抗発熱層31bに供給される電力、印加される電圧、抵抗発熱層31bの厚さ、定着ローラー33の直径および軸方向長さ等に基づいて、任意に設定されるが、好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度、より好ましくは、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・m程度である。
【0059】
なお、抵抗発熱層31bの体積抵抗率を調整するために、金属合金、金属間化合物等の導電性粒子を適宜混入してもよい。また、抵抗発熱層31bの機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカ(金属の針状単結晶)、酸化チタン、チタン酸カリウム等を混入してもよい。
さらに、抵抗発熱層31bの熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム、アルミナ等を混入してもよい。
【0060】
また、抵抗発熱層31bを安定的に製造するために、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤等を混入してもよい。
抵抗発熱層31bは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電性フィラーを均一に分散させた状態で、円柱形状の金型に塗布してイミド転化させることによって製造することができる。
【0061】
加熱ベルト31の弾性層31cは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって構成されている。本実施形態では、弾性層31cとしてシリコーン(Si)ゴムが用いられている。
加熱ベルト31の離型層31dは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性が付与されている。離型層31dの厚さは、5〜100μm程度が好ましい。フッ素系チューブとしては、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の商品名「PFA350−J」、「451HP−J」、「951HP Plus」等が好適である。
【0062】
離型層31dは、定着ニップ部Nを通過する際に接触した記録シートSが容易に剥離されるような剥離性を有している。
この離型層31dは、例えば、水との接触角が90°以上、好ましくは110°以上であって、表面粗さRaが0.01〜50μm程度が好ましい。離型層31dは、導電性であってもよい。本実施形態では、離型層31dとしてPFAを用いている。
【0063】
補強層31a、抵抗発熱層31b、弾性層31cおよび離型層31dのそれぞれは、所定の一定の厚さになっており、これらによって構成された加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されていない状態で、所定の直径の円筒形状を維持する剛性を有している。加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されることによる定着ローラー33の変形に追従して、加圧ローラー32の外周面に沿った状態に変形する。
【0064】
なお、加熱ベルト31は、上述したような4層構造に限るものではなく、抵抗発熱層31bと離型層31dとの2層構造であってもよい。また、いずれの場合にも、絶縁のためにPI、PPS等の樹脂層をさらに設ける構成であってもよい。なお、いずれの場合にも、抵抗発熱層31bは、離型層31dよりも内周側に位置していればよい。
各電極部31gを構成する導電体は、例えば、Cu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、抵抗発熱層31bに対して直接、化学メッキあるいは電気メッキすることによって形成することができる。
【0065】
なお、各電極部31gを金属のメッキによって形成する場合は、2種類の金属によってメッキすることが好ましい。例えば、抵抗発熱層31bに対して、Cuを、直接、化学メッキした後に、Cu上にNiを電気メッキすることによって各電極部31gを形成する。
また、各電極部31gは、このような構成に限定されず、Cu、Ni等の金属箔を、導電性接着剤により、抵抗発熱層31b上に接着することによって形成してもよい。
【0066】
さらには、抵抗発熱層31b上に、導電性インク、導電性ペーストを塗布することによって各電極部31gを形成してもよい。また、導電性テープを、抵抗発熱層31bに貼り付けることによっても、各電極部31gを形成することもできる。
図2および図3に示すように、加熱ベルト31の周回移動域内に設けられた定着ローラー33は、軸心部に設けられた芯金33aと、芯金33aの外周面に積層された弾性層33bとを有している。芯金33aの両側の各端部は、弾性層33bの両側の端部からそれぞれ外側に突出した状態になっている。
【0067】
芯金33aは、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体(中実体または中空体)が嵌合された構成になっており、円柱体における軸方向の両側の各端部からは、軸体の両側の各端部がそれぞれ突出している。弾性層33bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性に優れた弾性材料によって構成されている。弾性層の軸方向長さは、加熱ベルト31の軸方向長さにほぼ等しくなっている。
【0068】
加圧ローラー32は、芯金32aと、芯金32aの外周面に積層された弾性層32bと、弾性層32bの外周面に積層された離型層32cとを有している。加圧ローラー32の外径は、20〜100mm程度になっている。
加圧ローラー32の芯金32aは、定着ローラー33の芯金33aと同様に、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体が嵌合された構成になっている。弾性層32bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって、1〜20mm程度の厚さになっている。
【0069】
離型層32cは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等の記録シートに対する離型性を有する材料によって構成されており、例えば、5〜100μm程度の厚さになっている。なお、離型層は、トナーのオフセットを防止するために導電性であってもよい。
【0070】
加圧ローラー32は、定着ローラー33に平行な状態で、図示しない付勢手段(例えば引っ張りバネ)によって、加熱ベルト31に向って付勢されている。これにより、加圧ローラー32の外周面が、加熱ベルト31の外周面に圧接されて、加熱ベルト31が定着ローラー33に押し付けられている。加熱ベルト31と加圧ローラー32との圧接部には、記録シートSが通過する定着ニップ部Nが形成されている。
【0071】
図2に示すように、加圧ローラー32は、定着モーター38によって、図2に矢印D1で示す方向に回転駆動されるようになっている。加熱ベルト31は、加圧ローラー32と定着ローラー33とに圧接されていることにより、加圧ローラー32の回転に追従して、図2に矢印D2で示す方向に回転(周回移動)する。加熱ベルト31に圧接された定着ローラー33は、加熱ベルト31の回転に追従して、圧接部分同士が同方向に周回移動するように回転する。
【0072】
なお、定着装置30は、加圧ローラー32を回転駆動させる構成に代えて、定着ローラー33を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。あるいは、加圧ローラー32および定着ローラー33の両方を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。
定着ニップ部Nには、加圧ローラー32および加熱ベルト31が回転された状態で、しかも、交流電源34から電力調整部35を介して供給される電流によって加熱ベルト31が加熱された状態で、記録シートSが搬送される。
【0073】
定着ニップ部Nに搬送される記録シートSは、幅方向の中央を基準として搬送されるために、記録シートSは、定着ニップ部Nを、加熱ベルト31における幅方向(周回移動方向とは直交する方向)の中央位置と、幅方向(搬送方向とは直交する方向)が一致した状態で通過する。記録シートSは、定着ニップ部Nを通過する間に、加熱状態になった加熱ベルト31によって加圧および加熱されることにより、当該記録シートS上の未定着のトナー画像が定着される。
【0074】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置30では、プリントジョブが指示されると、定着モーター38が駆動される。これにより、加圧ローラー32が回転され、加熱ベルト31が周回移動(回転)する。また、加熱ベルト31が回転状態になると、交流電源34の交流電力が、電力調整部35によって調整されて、両給電部材37間に印加される。加熱ベルト31が回転されていない状態では、交流電源34の交流電力は、給電部材37間に印加されない。
【0075】
この場合、一方の給電部材37に供給される電流は、当該給電部材37に圧接された電極部31gから抵抗発熱層31bを通って他方の電極部31gおよび給電部材37へ流れる。これにより、抵抗発熱層31bは発熱し、加熱ベルト31の全体が発熱状態になる。
このような状態で、加熱ベルト31と加圧ローラー32とが圧接された定着ニップ部Nに、トナー画像が転写された記録シートSが搬送される。そして、記録シートSが定着ニップ部Nを通過する間に、記録シートS上のトナー画像が加熱および加圧されることによって、記録シートS上に定着される。
【0076】
このような定着動作の間に、温度検出部50の第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量が、電力調整部35によって調整されて、加熱ベルト31は、所定の定着温度(例えば180℃)とされる。
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの測定領域Px毎に測定される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷等の異常が発生していることを判定する異常判定制御が実行される。
【0077】
<制御系の構成>
図5は、定着装置30を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。定着装置30は、プリンター全体を制御する制御部60によって制御される。
制御部60には、定着装置30に設けられた温度検出部50の第1温度センサー51および第2温度センサー52の出力(それぞれに設けられた全てのサーモパイルの出力)が与えられている。また、制御部60は、各給電部材37に供給される電力量を調整する電力調整部35、加圧ローラー32を回転させて加熱ベルト31を周回移動させる定着モーター38のそれぞれを制御するように構成されている。
【0078】
なお、図5に示されたシートサイズセンサー41は、本実施形態においては必要なく、後述する実施形態2において使用される。
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、それぞれに設けられた全てのサーモパイルによる測定温度を出力しており、制御部60は、それぞれのサーモパイルによって測定された温度に基づいて、加熱ベルト31における損傷等の異常の有無を判定するようになっている。制御部60は、異常判定制御の結果、加熱ベルト31に、傷等の異常が発生していると判定された場合には、操作パネルに設けられた液晶ディスプレイ等の表示装置28に判定結果を表示する。
【0079】
制御部60は、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の全体の表面温度が、予め設定された所定範囲になるように、電力調整部35を制御して、各給電部材37に供給される電力量を調整する。この場合、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の表面温度が、予め設定された異常高温状態になった場合には、加熱ベルト31に対する電力の供給が停止されるように、制御部60は、電力調整部35を制御する。加熱ベルト31に対する電力の供給を停止する場合の加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31の寸法、材料等によって異なるが、通常、260℃以上の高温である。
【0080】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の全体の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量を電力調整部35によって調整する構成に限らず、例えば、第1温度センサー51および第2温度センサー52とは別に、加熱ベルト31の幅方向の中央部における温度を検出する温度センサーを設けて、その温度センサーの検出結果に基づいて電力調整部35を制御して、各給電部材37に供給される電力量を調整する構成としてもよい。
【0081】
<異常判定制御>
次に、加熱ベルト31における損傷等の異常の有無を判定する異常判定制御の原理について説明する。
加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周方向に沿った傷が発生した場合、傷が発生した部分では、電流は、加熱ベルト31の幅方向に沿って流れることができず、その傷を迂回するように流れる。これにより、傷の両側の端部(周方向の各端部)の周辺部において電流量が増加し、発熱量が増加する。その結果、傷の両側の端部の周辺部では、中央部の周辺部よりも高温になる。
【0082】
図6(a)は、温度検出部50における1つのサーモパイルの測定領域Pxが周方向に移動する範囲において、加熱ベルト31の周方向に沿った傷Kaが生じた場合に、傷Kaを測定領域Pxの内部に含むサーモパイルによる測定温度のサンプリングタイミングの一例を示す模式図である。
なお、加熱ベルト31の周回移動方向(回転方向)は、矢印D1で示す方向になっている。
【0083】
図6(b)は、図6(a)に示された傷Kaの周辺部における加熱ベルト31の表面温度の変化を示すグラフである。
図6(b)に示すように、加熱ベルト31は、傷Kaの長手方向両側の各端部の周辺部において最も高温になり、長手方向の中央部の周辺部において最も低温になっている。
図6(a)に示すように、傷Kaを測定領域Px内に含むサーモパイルは、測定領域Px内における一定面積の範囲の平均温度を所定のタイミングでサンプリングする。例えば、傷Kaに対して、5回のサンプリングタイミング(第1回〜第5回のサンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5)で、一定面積の範囲(以下、それぞれのサンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5におけるサーモパイルの周方向における測定範囲を、第1回測定範囲RA1、第2回測定範囲RA2、第3回測定範囲RA3、第4測定範囲RA4、第5測定範囲RA5とする)の測定温度をサンプリングする。
【0084】
図6(a)に、第1回〜第5回の各測定範囲RA1〜RA5と傷Kaとの関係を示している。この場合、第3回のサンプリングタイミングSP3における第3回測定範囲RA3の中心が、傷Kaの長手方向の中央に一致している。第1回のサンプリングタイミングSP1に対応した第1回測定範囲RA1は、傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の局所的な高温領域(図6(a)および(b)に点線で示す高温領域AHa)を含んでいるが、高温領域AHaとは周方向にずれた状態になっているために、この高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいる。これにより、その第1回測定温度TA1(第1回測定範囲RA1の平均温度)は、高温領域AHaの実際の温度よりも低くなっている。
【0085】
なお、第1回〜第5回の測定範囲RA1〜RA5のそれぞれの第1回〜第5回の測定温度TA1〜TA5を、図6(b)のグラフにおいて△印で示している。この場合の第1回測定温度TA1は、例えば、200℃程度になっている。
次の第2回目のサンプリングタイミングSP2に対応した第2回測定範囲RA2も、傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいるために、その第2回測定温度TA2(第2回測定範囲RA2の平均温度)も、高温領域AHaにおける実際の温度よりも低くなっている。
【0086】
さらに、傷Kaにおける長手方向の中央部を含む第3回目のサンプリングタイミングSP3に対応した第3回測定範囲RA3では、局所的に低温になった領域(低温領域ALa)を含んでいるが、第3回測定範囲RA3が低温領域ALaよりも高温になった領域を広く含んでいるために、その第3回測定温度TA3(第3回測定範囲RA3の平均温度)は、実際の低温領域ALaの温度よりも高く、例えば、160℃になっている。但し、この場合、第3回測定範囲RA3の中心位置が、短い傷Kaにおける長手方向の中央部に一致していることにより、第3回測定範囲RA3は低温領域ALaよりも温度低下が小さな領域を広く含んでいるために、第3回測定温度TA3と実際の温度との差は小さくなっている。
【0087】
第4回のサンプリングタイミングSP4に対応した第4回測定範囲RA4は、傷Kaにおける回転方向上流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第4回測定温度TA4は、第2回測定範囲RA2における第2回測定温度TA2と同程度になっている。
さらに、第5回のサンプリングタイミングSP5に対応した第5回測定範囲RA5においても、短い傷Kaにおける回転方向上流側の端部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第5回測定温度TA5は、第1回測定範囲RA1における第1回測定温度TA1と同程度(200℃程度)になっている。
【0088】
この場合、第1サンプリングタイミングSP1での第1測定温度TA1(高温領域AHaを含む第1回測定範囲RA1の平均温度、例えば200℃)が最高温度(最大値)Tmaxになっている。また、第3サンプリングタイミングSP3での第3測定温度TA3(低温領域を含む第3回測定範囲RA3の平均温度、例えば160℃)が最低温度(最小値)Tminになっている。
【0089】
このように、加熱ベルト31の周方向に沿った傷が抵抗発熱層31bに生じている場合、傷の両側の各端部が局所的な高温領域(AHa)となり、両端部間の中央部が低温領域(ALa)になることから、サーモパイルの測定領域Pxが加熱ベルト31の周方向に全周にわたって相対的に移動する間にサンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppが大きくなる(例えば、30℃程度)。
【0090】
なお、サーモパイルの測定領域Px内において、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷が生じていない場合には、その測定領域Pxが加熱ベルト31の全周にわたって相対移動することによる測定温度の温度変化が小さく、定着温度(180℃)程度のほぼ一定値になる。従って、この場合には、サンプリングされたサーモパイルの測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppは小さい(例えば5℃以下)。
【0091】
このことから、本実施形態では、全ての測定領域Pxにおいて全周にわたる温度分布が得られるように、各サーモパイルによる測定温度を所定のタイミングでサンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppをそれぞれ求め、求められた温度差Tppを、別の1つの測定領域において求められた温度差Tppとそれぞれ比較して、両温度差Tppの差分ΔTppが、予め設定された閾値Tthよりも大きくなっている場合に、当該組み合わせにおける測定領域のうち、温度差Tppが大きくなっている一方の測定領域Px内の抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていると判定するようになっている。
【0092】
この理由について、以下に説明する。図7は、定着装置30の定着ニップ部Nに、複数の記録シートSが連続して搬送されて、それぞれの記録シートS上のトナー画像が定着される場合に、回転状態になった加熱ベルト31の表面温度を、通紙領域および非通紙領域のそれぞれにおいて測定した場合の温度変化を示すグラフである。但し、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bには傷等の損傷は生じていない。なお、図7において、点線が通紙領域における測定温度、実線が非通紙領域における測定温度をそれぞれ示している。
【0093】
図7に示すように、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する加熱が開始されてから所定の定着温度に達するまでの間、すなわち、記録シートSが定着ニップ部Nに搬送されていない状態では、加熱ベルト31の回転とともに、加熱ベルト31の表面温度は上昇する。
この場合、通紙領域および非通紙領域のそれぞれにおいて、加熱ベルト31の表面温度は、全周にわたって一定ではなく、周方向に沿って温度が変化している。この温度変化は、加熱ベルト31における抵抗発熱層31bの厚さが不均一であること等によって生じており、加熱ベルト31の1回転毎に、ほぼ同様の温度変化になっている。
【0094】
加熱ベルト31が所定の定着温度に達して、記録シートSが連続して定着ニップ部Nを通過する場合には、通紙領域では、1枚の記録シートが定着ニップ部Nを通過してから次の記録シートSが定着ニップ部Nに進入するまでの間に、加熱ベルト31の表面温度が大きく上昇する。これに対して、非通紙領域においては、記録シートSが通過しないために、通紙領域のような温度上昇は生じず、周方向に沿った温度変化は、定着温度に達するまでに生じる温度変化とほぼ同様になっている。
【0095】
従って、組み合わされた一対のサーモパイルのいずれか一方の測定領域Pxが、通紙領域に含まれ、他方が非通紙領域に含まれる場合には、それぞれのサーモパイルで測定される温度差Tpp同士の差分ΔTppが大きくなり、所定の閾値(Tth)以上になるおそれがある。この場合には、両方の測定領域Pxに対応する抵抗発熱層31bに傷が生じていないにもかかわらず、いずれか一方に対応する抵抗発熱層31bに傷が生じているものと誤判定するおそれがある。
【0096】
このように、通紙領域と非通紙領域とでは、記録シートSが定着ニップ部Nを通過する際に、加熱ベルト31の表面における温度変化が大きく異なることから、本実施形態では、一対のサーモパイルの両方の測定領域Pxが通紙領域に含まれるか、または、両方の測定領域Pxが非通紙領域に含まれるように、第1温度センサー51における1つのサーモパイルと、第2温度センサー52における1つのサーモパイルとの組み合わせを予め設定している。
【0097】
なお、ニップ部における通紙領域および非通紙領域の長さは搬送される記録シートSによって異なる。しかしながら、本実施形態のプリンターでは、記録シートSが中央基準で搬送されるために、ニップ部における加熱ベルト31の幅方向に沿った長さの中央の基準位置に対して、線対称の位置関係の測定領域同士が、それぞれ通紙領域に含まれるか、または、それぞれ非通紙領域に含まれる。このことから、本実施形態では、搬送される記録シートSのサイズを検出することなく、線対称の位置関係の測定領域同士が組み合わされるように、一対のサーモパイルの組み合わせを予め設定している。
【0098】
また、抵抗発熱層31bに傷Kaが生じている場合に、その傷Kaが含まれる測定領域Px(以下、対象測定領域PxOとする)に対して電流の流れる方向(通電方向)の下流側に隣接する測定領域(以下、比較測定領域PXRとする)では、傷Kaに対して通電方向の下流側に位置する部分において、対象測定領域PxOから加熱ベルト31の幅方向に沿って電流が流れ込むことができず、その部分の電流密度が低下するおそれがある。
【0099】
この場合には、比較測定領域PxRにおける測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppは、傷Kaが生じていないにもかかわらず大きくなる。その結果、相互に隣接する対象測定領域PxOと比較測定領域PxRにおける温度差Tpp同士を比較しても、閾値温度Th以上の差分ΔTppにならず、対象測定領域PxOに傷Kaが生じていることを検出することができないおそれがある。
【0100】
図8は、抵抗発熱層31bに傷Kaが生じている場合に、その傷Kaが含まれる対象測定領域PxOと組み合わされる比較測定領域PxRが、対象測定領域PxOに隣接していることによって、温度差Tppの差分ΔTppに影響が生じる可能性があることを示すグラフである。図8のグラフにおいて、横軸は、対象測定領域PxOに対する比較測定領域PxRとの相対的な位置を示しており、横軸の数値「1」は、対象測定領域PxOに対して比較測定領域PxRが1つ隣りであること(相互に隣接した状態であること)を示しており、「2」〜「5」はそれぞれ、2つ〜5つ隣りであることを示している。
【0101】
図8のグラフの縦軸は、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとのそれぞれにおいて得られた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tpp同士の差分ΔTppを示している。
対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとが相互に隣接している場合には、比較測定領域PxRにおける傷Kaが隣接する部分において、対象測定領域PxOの傷Kaによって電流が流入せずに温度が低くなると、比較測定領域PxRにおける温度差Tppが大きくなるおそれがある。このために、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとのそれぞれにおいて求められた温度差Tpp同士の差分ΔTppが、24℃程度の小さな値になっている。この場合には、対象測定領域PxOに傷Kaが生じていることを的確に検出することができないおそれがある。
【0102】
これに対して、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとの間に1つ以上の測定領域Pxが存在することにより、比較測定領域PxRでの測定温度は、対象測定領域PxO内に生じた傷Kaの影響が小さく、対象測定領域PxOおよび比較測定領域PxRのそれぞれでの温度差Tpp同士の差分ΔTppは30℃以上になっている。
以上ことから、本実施形態では、温度差Tpp同士を比較する一対のサーモパイルの組み合わせは、それぞれの測定領域Px同士が相互に隣接しないように、第1温度センサー51における第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52における第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8のそれぞれとの組み合わせを設定している。
【0103】
図9は、中央基準搬送によって記録シートSが搬送される本実施形態において、傷Kaが生じていることを判定する際に、前記温度差Tpp同士を相互に比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域Pxに基づいて説明するための模式図、図10は、その測定領域Pxの組み合わせを示す表である。
なお、加熱ベルト31は、幅方向長さが366mmになっており、従って、幅方向の中心線CLから両側の各端縁までの距離は183mmになっている。中央基準で搬送される記録シートSの搬送方向と直交する方向(幅方向)の中央は、当該中心線CLに一致している。
【0104】
また、図10には、温度検出部50における第1温度センサー51の第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8と、第2温度センサー52における第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8とのそれぞれにおいて、加熱ベルト31の幅方向中心線CLから外側端(幅方向から遠い方の端)までの距離を表示している。
第1温度センサー51における各サーモパイルの第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52の第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8のそれぞれとは、加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称に位置している。
【0105】
なお、中央基準によって搬送される記録シートSの最小サイズは、加熱ベルト31の幅方向に沿った長さが90mmであり、図9に、定着ニップ部Nに搬送される最小サイズの記録シートを模式的に示している。また、図9には、A4サイズの記録シートSが、幅方向(長さ210mm)を加熱ベルト31の幅方向に沿った状態として中央基準で定着ニップ部Nに搬送される場合(図7において「A4T」として示す)についても示している。
【0106】
記録シートSが中央基準で搬送される場合には、例えば最小サイズの記録シートSの定着ニップ部Nにおける通紙領域は、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1および第2の測定領域PxA1およびPxA2、PxB1およびPxB2の4つに含まれる。この場合、第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8およびPxB3〜PxB8のそれぞれは非通紙領域に含まれる。
【0107】
同様に、A4サイズの記録シートSが、幅方向を加熱ベルト31の幅方向に沿った状態で搬送される場合(図7に示された「A4T」の場合)には、通紙領域が、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1〜第5の測定領域PxA1〜PxA5、PxB1〜PxB5に含まれ、第6〜第8の測定領域PxA6〜PxA8、PxB6〜PxB8のそれぞれは非通紙領域に含まれる。
【0108】
記録シートSが中央基準搬送で搬送される本実施形態では、第1温度センサー51の測定領域PxA1〜PxA8のいずれかが、通紙領域の一部を含む場合には、その測定領域とは加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して線対称の位置にある第2温度センサー51の測定領域は、通紙領域の一部を含むことになる。同様に、第1温度センサー51の測定領域PxA1〜PxA8のいずれかが、非通紙領域に含まれる場合には、その測定領域とは加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称の位置にある第2温度センサー51の測定領域は非通紙領域に含まれることになる。
【0109】
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1測定領域PxA1およびPxB1、第2測定領域PxA2およびPxB2以外は、加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称の位置にある第1温度センサー51の第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52の第3〜第8の測定領域PxB3〜PxB8のそれぞれとの間に、1つ以上の測定領域Pxが存在する。このことから、第1温度センサー51の第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8に対応するサーモパイルのそれぞれと、第2温度センサー52の第3〜第8の測定領域PxB3〜PxB8に対応するサーモパイルのそれぞれとが組み合わされている。
【0110】
これに対して、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1測定領域PxA1およびPxB1は相互に隣接している。従って、相互に隣接する第1温度センサー51の第1測定領域PxA1に対応するサーモパイルと、第2温度センサー52の第1測定領域PxB1に対応するサーモパイルとが組み合わされないように設定されている。
【0111】
このために、第1温度センサー51の第1測定領域PxA1に対応するサーモパイルに対しては、第2温度センサー52の第2測定領域PxB2に対応するサーモパイルを組み合わせており、第1温度センサー51の第2測定領域PxA2に対応するサーモパイルに対しては、第2温度センサー52の第1測定領域PxB1に対応するサーモパイルを組み合わせている。
【0112】
以上により、加熱ベルト31の幅方向における全域の温度を測定する第1温度センサー51の全てのサーモパイルと、第2温度センサー51の全てのサーモパイルとの組み合わせは、組み合わされたサーモパイルの測定領域Px同士が相互に隣接せず、また、組み合わされたサーモパイルの両方の測定領域Pxが、通紙領域に含まれるか、または非通紙領域に含まれている。このようにして設定された全て(8組)のサーモパイルの組み合わせは、制御部60に予め記憶されている。
【0113】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれのサーモパイルの測定領域Pxは、最小サイズの記録シートSの通紙領域内に4つ以上の測定領域Pxが含まれるように、それぞれの加熱ベルト31の幅方向に沿った長さが設定されている。最小サイズの記録シートSの通紙領域内に3つ以下の測定領域Pxしか含まれない場合には、温度差Tppが比較される一対の測定領域Pxが相互に隣接しないように設定することができないためである。
【0114】
図11は、制御部60によって実行される異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。この異常判定制御は、プリントジョブが指示されると、温度検出部50における第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれに設けられた全てのサーモパイルによって、それぞれの測定領域Px内の温度を測定し、予め設定された一対の測定領域Pxの組み合わせに対応した一対のサーモパイルのそれぞれによって測定された温度の最高値Tmaxおよび最低値Tminの温度差Tppを比較して、両者の差分ΔTppが閾値Th以上の場合に、抵抗発熱層31bに周方向に沿った傷が生じていると判定する。
【0115】
異常判定制御は、プリントジョブが指示されて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bにおける温度調整制御が開始されることにより開始される。従って、定着装置30のウォームアップ時、定着動作実行時のいずれにおいても、異常判定制御は実行される。
異常判定制御が開始されると、図11に示すように、制御部60は、まず、加熱ベルト31の回転周期toを決定する(図11のステップS11参照、以下同様)。なお、加熱ベルト31の回転周期toは、定着装置30へ搬送される記録シートSが普通紙であるか厚紙であるかに基づいて決定される。例えば、定着装置30へ搬送される記録シートSが普通紙の場合には、記録シートSの搬送速度が厚紙の場合よりも速く設定されるために、加熱ベルト31の回転周期toは短くなる。これに対して、記録シートSが厚紙の場合には、加熱ベルト31の回転周期toは長くなる。
【0116】
次いで、いずれかのサーモパイルによって、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が発生していると判定された回数をカウントする異常カウンターをリセット状態(Ck=0)とする(ステップS12)。異常カウンターは、サーモパイルによる測定温度がノイズ等の影響を受けている場合に、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が生じていると誤って判定されることを防止するために設けられている。異常カウンターによって誤判定が防止されることについては後述する。
【0117】
次いで、制御部60は、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調整制御が継続して実行されているかを確認する(ステップS13)。
加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調整制御が実行されていることが確認されると(ステップS13において「YES」)、各サーモパイルの測定温度による異常判定の制御タイミングを決定するために、タイマーによる経過時間tの計測を開始する(ステップS14)。
【0118】
その後、タイマーによる計測時間tが、加熱ベルト31の回転周期toに達するまで、全てのサーモパイルによって測定された温度を、所定のサンプリングタイミングでサンプリングする(ステップS15)。そして、タイマーによる計測時間tが、加熱ベルト31の回転周期toに達すると、その回転周期toの間にサンプリングされた全てのサーモパイルの測定温度Tから、最高温度Tmaxと最低温度Tminとを抽出して、それらの温度差Tppを演算する(ステップS16)。その後は、所定時間(例えば1秒)が経過する毎に1回の回転周期toが終了したものとして、1秒が経過した時点を回転周期toの終了時点とした回転周期toの間に得られる全てのサーモパイルの測定温度Tから、最高温度Tmaxと最低温度Tminとの温度差Tppの演算を繰り返す。
【0119】
このようにして温度差Tppの演算が繰り返される度に、図9および図10に示された測定領域の組み合わせに対応した一対のサーモパイルのそれぞれの温度差Tpp同士の差分ΔTppを、一対のサーモパイルの組み合わせ毎に演算する(ステップS17)。そして、演算された全ての差分ΔTppを、予め設定された所定の閾値Thと比較する(ステップS18)。
【0120】
この場合、全てのサーモパイルの組み合わせにおける温度差Tpp同士の差分ΔTppの全てが、閾値Th以上になっていない場合には(ステップS18において「NO」)、全ての測定領域Pxにおいて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷による異常が生じていないものと判断して、ステップS12に戻り、異常カウンターのカウント数をリセット状態(Ck=0)とする。その後、ステップS13以降の処理を繰り返すことによって、温度差Tppの演算と、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎の差分ΔTppの演算と、演算された全ての差分ΔTppと閾値Thとの比較とが実行される。
【0121】
このような繰り返しにおいて、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっている場合には(ステップS18において「YES」)、異常カウンターのカウント数Ckを1回分だけ増加させる(ステップS19)。そして、増加された異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccになっているかを確認する(ステップS20)。
【0122】
この場合、異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Cc(例えば3回)に達していない場合には(ステップS20において「NO」)、サーモパイルによる測定温度がノイズ等の影響によって正しく測定されないことにより、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が生じていると誤って判定された可能性があるとして、ステップS13に戻る。そして、ステップS13以降の処理が繰り返される。異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccに達するまでは、ステップS13〜S20の処理が繰り返される。
【0123】
その後、ステップS18において、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっていることが所定の回数Ccにわたって連続して検出されて、異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccになった場合には(ステップS20において「YES」)、サーモパイルの測定温度がノイズ等に影響されることなく正常に測定されて、異常判定が正確に行われたものと判定する。
【0124】
この場合には、操作パネルに設けられた表示部28に、異常が生じていることを表示する(ステップS23)。この場合、プリント動作を禁止する必要があることも同時に表示する構成としてもよい。その後、異常判定制御は終了する。
なお、異常が生じていると判定された場合には、異常が生じていると見なされるサーモパイルの測定領域Pxの位置(加熱ベルト31の幅方向位置)を、表示部28に表示するようにしてもよい。また、複数個所に異常が生じていると判定される場合には、複数の異常が生じていることを表示する構成、さらには、その表示とともに、それぞれの異常が生じているそれぞれの加熱ベルト31の幅方向位置を表示部28に表示する構成としてもよい。
【0125】
ステップS13以降の処理が繰り返されている間に、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっていることが、所定の回数(3回)にわたって連続して検出される前に、全てのサーモパイルの組み合わせにおける温度差Tpp同士の差分ΔTppが、閾値Th以上になっていない状態であることが検出された場合には(ステップS18において「NO」)、ステップS12に戻り、異常カウンターのカウント数Ckをリセット状態(Ck=0)として、その後、ステップS13以降の処理を繰り返す。
【0126】
また、ステップS13以降の処理が繰り返されている間に、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調節が実行されていない状態であることが検出されると(ステップS13において「NO」)、プリントジョブが終了したものとして、異常判定制御は終了する。
以上のように、本実施形態では、記録シートSが中央基準によって搬送されてプリントジョブが実行される間に、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれによって検出される最高温度Tmaxと最低温度Tminとの温度差Tppを比較して、両温度差Tppの差分ΔTppに基づいて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bにおける傷等の異常の発生を検出している。
【0127】
この場合、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxの両方とも、通紙領域に含まれているか、または、非通紙領域に含まれているために、記録シートが連続して搬送されることによる通紙領域での温度変化量の変動が生じても、その温度変化量による影響がキャンセルされるために、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を高精度で検出することができる。
【0128】
また、抵抗発熱層の厚さが周方向に不均一になっていることにより、それぞれの測定領域Pxにおいて温度変化量の変動が生じても、その温度変化量による影響がキャンセルされる。このことによっても、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を高精度で検出することができる。
さらに、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向に相互に隣接していないために、いずれか一方の測定領域Px内に、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じている場合に、他方の測定領域Pxが、傷等の影響によって生じる温度変化の影響を受けることなく、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていることを、より精度よく検出することができる。
【0129】
なお、本実施形態では、抵抗発熱層31bが給電されることによって加熱ベルト31の加熱が開始されていれば、抵抗発熱層31bの全体の温度が上昇するために、その上昇時における温度変化量に基づいて、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を検出することができる。従って、加熱ベルト31が定着温度に達していないウォーミングアップ時にも、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を検出することができる。
【0130】
[実施形態2]
本実施形態では、記録シートSが中央基準によって搬送されて定着ニップ部を通過する構成ではなく、記録シートSが、搬送方向と直交する方向の一方の側縁を、搬送経路における幅方向の一方の側縁部に沿わせて搬送する片側基準で搬送されて定着ニップ部を通過する構成になっている。
【0131】
本実施形態においても、第1温度センサー51および第2温度センサー52における全てのサーモパイルのそれぞれによって温度差Tppが求められると、求められた温度差Tppが、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に比較される。本実施形態こおいても、一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxが相互に隣接しないように、しかも、一対のサーモパイルの両方の測定領域Pxが通紙領域に含まれるか、または、両方の測定領域Pxが非通紙領域に含まれるように設定される。
【0132】
図12は、片側基準搬送によって記録シートSが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせによって説明するための模式図である。また、図13は、図12に示す測定領域Pxの組み合わせを示す表である。
なお、本実施形態では、第1温度センサー51における8個のサーモパイルの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向の一方の側縁部に位置する測定領域Px(前記実施形態1における第8測定領域PxA8に相当)を第1測定領域Px1とし、この第1測定領域Px1から加熱ベルト31の幅方向の中央部にかけて順番に配置された7つの測定領域Px(前記実施形態1における第7測定領域PxA7〜PxA1に相当)を、順番に、それぞれ、第2測定領域Px2〜第8測定領域Px8としている。
【0133】
また、第2温度センサー52における8個のサーモパイルの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向の中央部おいて、第8測定領域Px8に隣接する測定領域Px(前記実施形態1における第1測定領域PxB1に相当)を第9測定領域Px9とし、加熱ベルト31の幅方向の他方の側縁にかけて順番に配置された7個の測定領域Px(前記実施形態1における第2測定領域PxB2〜PxB8に相当)を、順番に、それぞれ、第10測定領域Px10〜第16測定領域Px16としている。
【0134】
なお、全ての測定領域Pxにおける両側の端部に位置する第1測定領域Px1と第16測定領域Px16とは、それぞれ、給電部材37が圧接された電極部31gになっているために、搬送される記録シートSのサイズにかかわらず、常に非通紙領域に含まれる。
記録シートSは、搬送方向と直交する一方の側縁が、第1測定領域Px1と第2測定領域Px2との境界部分に沿うように片側基準で搬送される。このために、搬送される記録シートSの搬送方向に直交する方向の長さdmm(通紙領域に相当)によって、定着ニップ部Nの非通紙領域に含まれる測定領域Pxの個数が異なる。
【0135】
最小サイズの記録シートS(d=90)が搬送される場合(図12における(1)の場合)には、第2〜第5の測定領域Px2〜Px5が通紙領域に含まれる。この場合、第6測定領域Px6は、通紙領域の一部しか含んでいないために非通紙領域に含まれるものとすると、第6〜第16の測定領域Px6〜Px16は非通紙領域に含まれる。このために、通紙領域に含まれる4つの第2測定領域Px2〜第5測定領域Px5から選択される一対の測定領域同士が相互に隣接しないように、第2測定領域Px2と第4測定領域Px4、第3測定領域Px3と第5測定領域Px5とがそれぞれ組み合わされている。
【0136】
非通紙領域に含まれる第6〜第16の測定領域Px6〜Px16は、選択される一対の測定領域Px同士が、相互に隣接せず、しかも、加熱ベルト31の幅方向中心線CL(第8測定領域Px8と第9測定領域Px9との境界)に対して相互に対称になる測定領域Px同士、あるいは相互に対称な位置に近接している測定領域Px同士が、それぞれ組み合わされる。
【0137】
このために、第6測定領域Px6と第11測定領域Px11、第7測定領域Px7と第9測定領域Px9、第8測定領域Px8と第10測定領域Px10とがそれぞれ組み合わされており、第12〜第16の測定領域Px12〜Px16のそれぞれは、第1測定領域Px1と組み合わされている。
なお、搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、最小サイズの記録シートSよりも長く、第2〜第5の測定領域Px2〜Px5の長さよりも短い範囲(90<d≦104(mm)、この範囲を第1範囲とする)であれば、測定領域の組み合わせは同じである。
【0138】
搬送される記録シートSの長さd(通紙領域)が、第1範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第6測定領域Px6の長さ以下の範囲(104<d≦126(mm)、この範囲を第2範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第6測定領域Px6が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されている。これにより、第4測定領域Px4は、第6測定領域Px6と第2測定領域Px2との両方に組み合わされている。非通紙領域に含まれる第11測定領域Px11は、第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第1範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0139】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第2範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第7測定領域Px7の長さ以下の範囲(126<d≦152mm、この範囲を第3範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第7測定領域Px7が第5測定領域Px5との組み合わせに変更されており、従って、第5測定領域Px5は、第7測定領域Px7と第3測定領域Px3との両方に組み合わされている。非通紙領域に含まれる第9測定領域Px9は、第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第2範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0140】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第3範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第8測定領域Px8の長さ以下の範囲(152<d≦178(mm)、この範囲を第4範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第8測定領域Px8が第6測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第2測定領域Px2と第6測定領域Px6との組み合わせは削除されている。非通紙領域に含まれる第10測定領域Px10が第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第3範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0141】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第4範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第9測定領域Px9の長さ以下の範囲(178<d≦204(mm)、この範囲を第5範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第9測定領域Px9が第7測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第5測定領域Px5と第7測定領域Px7との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第4範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0142】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第5範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第10測定領域Px10の長さ以下の範囲(204<d≦226(mm)、この範囲を第6範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第10測定領域Px10が第8測定領域Px8との組み合わせに変更され、第6測定領域Px6が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されている。従って、第4測定領域Px4は、第6測定領域Px6と第2測定領域Px2との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第5範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0143】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第6範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第11測定領域Px11の長さ以下の範囲(226<d≦247(mm)、この範囲を第7範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第11測定領域Px11が第6測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第6測定領域Px6と第4測定領域Px4との組み合わせが削除されている。その他の組み合わせは、第6範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0144】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第7範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第12測定領域Px12の長さ以下の範囲(247<d≦267(mm)、この範囲を第8範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第12測定領域Px12が第5測定領域Px5との組み合わせに変更されており、第5測定領域Px5は、第3測定領域Px3と第12測定領域Px12との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第7範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0145】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第8範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第13測定領域Px13の長さ以下の範囲(267<d≦287(mm)、この範囲を第9範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第13測定領域Px13が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されており、第4測定領域Px4は、第2測定領域Px2と第13測定領域Px13との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第8範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0146】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第9範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第14測定領域Px14の長さ以下の範囲(287<d≦309(mm)、この範囲を第10範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第14測定領域Px14が第3測定領域Px3との組み合わせに変更されて、第3測定領域Px3と第5測定領域Px5との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第9範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0147】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第10範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第15測定領域Px15の長さ以下の範囲(309<d≦330(mm)、この範囲を第11範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第15測定領域Px15が第2測定領域Px2との組み合わせに変更されて、第2測定領域Px2と第4測定領域Px4との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第10範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0148】
以上のように、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせが、搬送される記録シートSにおける搬送方向と直交する方向の長さdmmに基づいて設定されて、制御部60に記憶されている。
また、本実施形態では、記録シートSの搬送方向とは直交する方向の長さdmmによって、一対のサーモパイルの組み合わせが変更されるために、搬送される記録シートSのサイズを検出するシートサイズセンサー41(図5参照)が設けられている。このシートサイズセンサー41は、例えば、片側基準で搬送される記録シートSの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するラインセンサーによって構成される。
【0149】
なお、シートサイズセンサー41としては、このような構成に限らず、例えば、給紙カセットに収容された記録シートの側縁に接することによって記録シートの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するように、給紙カセット22内に設ける構成としてもよい。
また、シートサイズセンサー41を設けることなく、例えば操作パネルに、記録シートSのサイズをユーザーが入力する入力手段を設けて、その入力手段によって入力される情報に基づいて記録シートSの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するようにしてもよい。
【0150】
本実施形態では、前述した中央基準搬送の実施形態とは、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせが異なること以外は同様になっており、図11に示されたフローチャートにおいて、タイマーによる計測時間を開始するステップS15に続いて、記録シートSにおける搬送方向とは直交する方向の長さdmmを検出する処理と、検出された長さdmmに基づいて、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせを決定する処理とが実行されることになる。
【0151】
その後は、図11に示されたフローチャートにおけるステップS16以降の処理が実行される。
従って、本実施形態においても、それぞれの測定領域Pxが相互に隣接せず、しかも、両方とも通紙領域か非通紙領域に含まれる一対のサーモパイルによる測定温度の最大値と最小値との温度差Tppを比較することによって、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていることを検出しているために、抵抗発熱層31bに傷等の異常を高精度で検出することができる。
【0152】
[変形例]
なお、上記の各実施形態では、第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれのサーモパイルによって所定のサンプリングタイミングで測定される測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppを求めて、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に温度差Tppを比較する構成であったが、このような構成に限らず、例えば、各サーモパイルによる測定温度の最大値Tmaxあるいは平均温度を、それぞれ温度変化の指標値として求めて、求められた最大値Tmax同士あるいは平均温度同士を、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に比較する構成としてもよい。
【0153】
また、上記の各実施形態では、記録シートSが中央基準で搬送されるプリンターと、記録シートSが片側基準で搬送されるプリンターとのそれぞれについて説明したが、記録シートSを中央基準搬送と片側基準搬送とに切り替えることができるプリンターにおいても本発明は適用できる。このようなプリンターの場合には、記録シートSが、中央基準搬送と片側基準搬送のいずれで搬送されるかを検出して、中央基準搬送の場合には、実施形態1において説明した異常判定制御を実行し、片側基準搬送の場合には、実施形態2において説明した異常判定制御を実行する構成とされる。
【0154】
さらに、上記の実施形態では、定着ローラー33と加熱ベルト31とをそれぞれ別体として、加熱ベルト31の周回移動域内に定着ローラー33を配置する構成としたが、このような構成に限らず、定着ローラー33の外周面に抵抗発熱層31bを一体的に設けることによって加熱回転体を構成してもよい。
また、加熱ベルト31に加圧手段としての加圧ローラー32を圧接させて定着ニップ部Nを形成する構成であったが、定着ニップ部Nを形成するための加圧手段は、加圧ローラー32に限らずベルトを用いてもよい。さらには、加圧手段は、加圧ローラー32、ベルト等のように回転している必要がなく、固定的に設けられた加圧部材等を用いてもよい。
【0155】
さらに、上記の実施形態では、定着装置30の電源として、商用の交流電源を用いる構成であったが、直流電源を用いる構成であってもよい。
また、本発明に係る画像形成装置は、タンデム型等のカラープリンターに限るものではなく、モノクロ画像を形成するプリンターであってもよい。さらには、プリンターに限らず、複写機、複合機(MFP)、FAX等(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれであってもよい)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、プリント動作時に、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層に異常が生じたことを的確に検出する技術として有用である。
【符号の説明】
【0157】
30 定着装置
31 加熱ベルト
31a 補強層
31b 抵抗発熱層
31c 弾性層
31d 離型層
31g 電極部
32 加圧ローラー
33 定着ローラー
37 給電部材
50 温度検出部
51 第1温度センサー
52 第2温度センサー
60 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を加熱して記録シートに定着させる定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、画像データに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に、定着装置で定着する構成になっている。定着装置は、記録シート上のトナー画像を加熱して溶融し、記録シートに熱定着させる。
近年、定着装置の加熱手段として、通電によって発熱する抵抗発熱体を用いる抵抗発熱式が採用される傾向にある。特許文献1には、抵抗発熱体を有する加熱ベルト(発熱ベルト)を用いた定着装置が開示されている。この定着装置では、抵抗発熱体を備えた加熱ベルトの周回移動域内に弾性体ロールが設けられており、加熱ベルトが弾性体ロールと加圧ローラーとによって挟まれた状態で周回移動する。加熱ベルトと加圧ローラーとの間には、記録シートが通過する定着ニップ部が形成されている。
【0003】
加熱ベルトに設けられた抵抗発熱体には、加熱ベルトの周回移動方向とは直交する幅方向(加熱ベルトの回転軸方向、記録シートの搬送方向とは直交する方向)の両側の端部に交流電流が供給される。抵抗発熱層は、交流電流が供給されることによってジュール熱を発生する。抵抗発熱層において発生した熱は、定着ニップ部を通過する記録シートに与えられる。これにより、記録シート上のトナー画像が熱定着される。
【0004】
このような定着装置では、記録シートの搬送部材である加熱ベルト自身が発熱し、また、熱源である抵抗発熱層から記録シートまでの距離が短いために、抵抗発熱層の熱を効率よく記録シートに付与することができ、ウォームアップ時および定着動作時のそれぞれにおける消費エネルギー量を抑制することが可能になる。また、熱源である加熱ベルトの熱容量が小さいために、ウォームアップ時間を短くすることができる。
【0005】
抵抗発熱層を用いる定着装置では、ジャム発生時における不適切なジャム処理、記録シートに付着した異物等によって、加熱ベルトに設けられた抵抗発熱層に傷等の損傷が生じるおそれがある。抵抗発熱層に生じた損傷が、抵抗発熱層における電流が流れる方向(加熱ベルトの幅方向)に対して交差している場合、損傷が長くなっていると、損傷の両端付近が局所的に高温になる。
【0006】
これは、以下の理由による。すなわち、周方向に長い損傷が抵抗発熱層に生じると、抵抗発熱層を流れる電流は、損傷の中間付近では加熱ベルトの幅方向に流れることができず、損傷の両端を迂回するように流れる。これにより、損傷の両側の端部付近において局所的に電流が集中し、それぞれの端部付近が過熱状態になり、局所的な高温状態になる。
このように、加熱ベルトが局所的に高温になると、高温オフセット等の画像ノイズが発生するおそれがある。また、損傷がさらに長くなると、損傷の両端部付近での電流密度がさらに上昇し、異常高温状態になるおそれがある。この場合には、加熱ベルトに圧接された加圧ローラーの表面が溶融する等のダメージを受ける可能性がある。このために、加熱ベルトの抵抗発熱層に傷等の損傷が生じた場合に速やかにそれを検出して、画像ノイズの発生、加圧ローラーの損傷等を防止することが好ましい。
【0007】
加熱ベルトの抵抗発熱層に損傷が生じると、損傷の両端付近で局所的な高温状態になることから、加熱ベルトに、局所的に高温になった領域が存在していることを検出できれば、抵抗発熱層に損傷が生じていることを検出することができる。
特許文献2には、加熱ベルトのような発熱回転体の表面温度を検出する方法として、赤外線センサーを用いる構成が開示されている。赤外線センサーは、発熱回転体の表面に対向して、軸方向に沿って移動可能な状態で配置されており、回転状態になった発熱回転体の表面に対向した測定領域の表面温度を検出することができる。
【0008】
特許文献2に記載された赤外線センサーを用いることにより、画像形成(定着動作)時に、加熱ベルトの幅方向の一部領域である測定領域において、加熱ベルトが1回転する間(1回転周期)の温度(平均温度等)を検出することができる。従って、測定領域における加熱ベルトの1回転周期の測定温度が、予め設定された所定の閾値温度よりも高くなっていれば、その測定領域内における抵抗発熱層に損傷が生じているかを判定することができる。ここで、抵抗発熱層の全体にわたって損傷が生じていることを判定するためには、赤外線センサーの測定領域を、加熱ベルトの幅方向の全体にわたって設定すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【特許文献2】特開2000−227732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、幅方向の全体に測定領域を設定すると、誤判定が生じやすい。すなわち、定着ニップ部を記録シートが通過する場合、通紙領域では加熱ベルトの熱が奪われるのに対して、非通紙領域では記録シートによって熱が奪われるおそれがないために、加熱ベルトの表面温度は、通紙領域よりも非通紙領域で高くなる。この場合には、非通紙領域における測定温度が閾値よりも高くなって、非通紙領域において損傷が生じていると誤判定されるおそれがある。
【0011】
このような問題に対して、通紙領域と非通紙領域とに分けて、それぞれ異なる閾値温度を設定すればよいが、そのようにしても、周方向における抵抗発熱層の厚みムラ等に起因して、加熱ベルトの1回転周期に測定される温度がばらつくことによって、抵抗発熱層に損傷が生じていると誤判定されるおそれがある。
また、例えば、複数枚の記録シートに対する定着動作を連続して実行する場合、記録シートは、所定の間隔をあけて定着ニップ部を通過する。従って、通紙領域では、定着ニップを記録シートが通過してから次の記録シートが通過するまでの間は、加熱ベルトの熱が記録シートに奪われない状態になる。このような状態が、加熱ベルトの1回転周期の温度測定中に生じると、赤外線センサーによる測定温度が高くなる。
【0012】
この場合には、測定温度が、通紙領域に対して設定された閾値温度よりも高くなり、抵抗発熱層に損傷が生じていないにもかかわらず、損傷が生じているものと誤判定されるおそれがある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗発熱層における損傷等の異常が生じたことを、高精度で的確に判定することができる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置を備えた画像形成装置であって、前記加熱回転体の回転軸方向に分割された該加熱回転体の外周面の各分割部分を個別の測定領域として、測定領域毎に前記抵抗発熱層の温度を測定するように設けられた温度測定手段と、前記加熱回転体の回転中、前記温度測定手段の測定値をサンプリングし、前記加熱回転体の1回転周期内における各測定領域の温度変化を指標する情報を取得する情報取得手段と、前記ニップ部における通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定されるとともに、非通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定され、前記設定された測定領域の組み合わせ毎の前記情報の比較結果に従って、前記抵抗発熱層における異常の有無を判定する異常判定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の画像形成装置では、例えば、記録シートが連続してニップ部を通過する場合に、通紙領域の測定領域において、1回転周期の間に記録シートが加熱回転体の熱を奪うことによって取得された情報が大きく変動する場合にも、比較される測定領域の両方において取得された情報が同様に変動していることから、その影響を受けることなく、抵抗発熱層における異常の有無を的確に判定することができる。また、非通紙領域についても、同様に、測定温度が比較される測定領域同士が、非通紙領域に属していることから、それぞれの測定領域において同様の温度変動が生じることになり、その温度変動の影響を受けるおそれがない。
【0015】
好ましくは、前記組み合わせは、対となる2つずつの測定領域である組み合わせであることを特徴とする。
好ましくは、前記複数の測定領域の組み合わせにおける一方と他方の測定領域は相互に隣接していないことを特徴とする。
好ましくは、記録シートがシート搬送経路の幅方向の中央を基準として搬送される場合、前記2つずつの測定領域の組み合わせは、前記ニップ部において、前記基準となる中央に対応した位置に対して線対称の位置関係を有していることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記記録シートが、シート搬送経路の幅方向の一方の側縁を基準として搬送される場合、搬送される記録シートの搬送方向とは直交する方向の長さに基づいて、前記2つずつの測定領域の組み合わせが設定されることを特徴とする。
好ましくは、前記定着ニップを通過する記録シートの最小サイズが予め設定されており、前記ニップ部における最小サイズの記録シートの通紙領域内に前記測定領域が4つ以上割り当てられていることを特徴とする。
【0017】
前記情報取得手段は、前記測定領域毎に得られた前記温度変化における最大温度と最小温度との温度差を前記情報として取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の画像形成装置。
好ましくは、前記異常判定手段は、前記測定領域の組み合わせ毎に前記温度差の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以上であった場合に、当該組み合わせにおける一方の測定領域を異常であると判定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンターの構成を説明するための模式図である。
【図2】図1に示すプリンターに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図である。
【図3】図2に示す定着装置における主要部の構成を説明するための模式的な横断面図である。
【図4】図2に示す定着装置に設けられた加熱ベルトの周回移動方向とは直交する方向である幅方向(回転軸方向)の一方の端部の縦断面図である。
【図5】図2に示す定着装置を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。
【図6】(a)は、異常判定制御に使用される温度検出部の1つの測定領域において、加熱ベルトの周方向に沿って傷が生じた場合における測定温度のサンプリングタイミングの一例を示す模式図、(b)は、(a)に示された傷の周辺部分における加熱ベルトの表面温度を示すグラフである。
【図7】定着装置によって定着動作が実行される場合の加熱ベルトの通紙領域と非通紙領域のそれぞれの表面温度の変化を示すグラフである。
【図8】測定温度の最大値と最小値との温度差を比較する一対のサーモパイルが相互に隣接している場合に、傷が生じていることの判定に影響が生じる可能性があることを示すグラフである。
【図9】中央基準によって記録シートが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分を比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせで説明するための模式図である。
【図10】図9に示す測定領域の組み合わせを示す表である。
【図11】中央基準によって記録シートが搬送される場合における異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】(1)〜(11)は、片側基準によって記録シートが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分を比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせによって説明するための模式図である。
【図13】図12に示す測定領域の組み合わせを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る画像形成装置の実施の形態について説明する。
[実施形態1]
<画像形成装置の概略構成>
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンター(以下、単に「プリンター」という)の構成を説明するための模式図である。このカラープリンターは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データ等に基づいて、周知の電子写真方式により、フルカラーあるいはモノクロの画像を記録用紙、OHPシート等の記録シートに形成する。
【0020】
このプリンターは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによるトナー画像を記録シート上に形成する画像形成部Aと、画像形成部Aの下側に配置された給紙部Bとを備えている。給紙部Bは、記録シートSが内部に収容された給紙カセット22を備えており、給紙カセット22内の記録シートSが画像形成部Aに供給される。
【0021】
画像形成部Aには、プリンターのほぼ中央部において一対のベルト周回ローラー23および24に水平状態で巻き掛けられて周回移動可能になった中間転写ベルト18が設けられている。中間転写ベルト18は、図示しないモーターによって、矢印Xで示す方向に周回移動するようになっている。
中間転写ベルト18の下方には、プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kが設けられている。プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の周回移動方向に沿ってその順番で配置されており、それぞれが、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによって中間転写ベルト18上にトナー画像を形成する。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成部Aに対して着脱可能になっている。
【0022】
中間転写ベルト18の上方には、中間転写ベルト18を介して、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの上方に位置するように、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kが配置されている。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kには、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kのそれぞれに収容されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーが供給される。
【0023】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の下方において中間転写ベルト18に対向した状態で回転可能に配置された感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kをそれぞれ有しており、それぞれの感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kから供給されるY、M、C、Kのそれぞれのトナーを用いて画像を形成する。
【0024】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、使用されるトナーの色のみがそれぞれ異なっていること以外は、概略同様の構成になっている。このために、以下においては、主としてプロセスユニット10Yの構成のみを説明して、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの構成の説明は省略する。
プロセスユニット10Yに設けられた感光体ドラム11Yは、矢印Zで示す方向に回転されるようになっている。また、プロセスユニット10Yには、感光体ドラム11Yの下方において、感光体ドラム11Yの表面を一様に帯電する帯電器12Yが設けられている。帯電器12Yは、感光体ドラム11Yに対向して配置されている。
【0025】
プロセスユニット10Yには、帯電器12Yに対して感光体ドラム11Yの回転方向下流側であって、感光体ドラム11Yに対して垂直方向の下方に配置された露光装置13Yと、露光装置13Yによる感光体ドラム11Yの表面の露光位置よりも、感光体ドラム11Yの回転方向下流側に配置された現像器14Yとが設けられている。
露光装置13Yは、帯電器12Yによって一様に帯電された感光体ドラム11Yの表面にレーザ光を照射して静電潜像を形成する。現像器14Yは、感光体ドラム11Yの表面に形成された静電潜像を、Y色のトナーによって現像する。
【0026】
プロセスユニット10Yの上方には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11Yに対向する1次転写ローラー15Yが設けられている。1次転写ローラー15Yは、画像形成部Aに取り付けられている。1次転写ローラー15Yは、転写バイアス電圧が印加されることによって、感光体ドラム11Yとの間に電界を形成する。
なお、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの上方にも、中間転写ベルト18を挟んで各感光体ドラム11M、11C、11Kに対向する1次転写ローラー15M、15C、15Kがそれぞれ設けられている。
【0027】
感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像は、1次転写ローラー15Y、15M、15C、15Kと、感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kとの間にそれぞれ形成される電界の作用によって、中間転写ベルト18上に1次転写される。トナー画像が一次転写された感光体ドラム11Yは、クリーニング部材16Yによってクリーニングされる。
【0028】
なお、フルカラー画像を形成する場合には、各感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像が中間転写ベルト18上の同じ領域に多重転写されるように、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの画像形成動作タイミングがずらされる。
これに対して、モノクロ画像を形成する場合には、選択された1つのプロセスユニット(例えばKトナー用のプロセスユニット10K)のみが動作されることにより、当該プロセスユニットの感光体ドラム(例えば感光体ドラム11K)上にトナー画像が形成されて、形成されたトナー画像が、当該プロセスユニットに対向して配置された1次転写ローラー(例えば1次転写ローラー15K)によって、中間転写ベルト18における所定領域上に転写される。
【0029】
中間転写ベルト18におけるトナー画像が転写された部分は、中間転写ベルト18が周回移動することにより、一方のベルト周回ローラー23が巻き掛けられた端部(図1において右側の端部)へと搬送される。
ベルト周回ローラー23に巻き掛けられた中間転写ベルト18には、シート搬送経路21を挟んで2次転写ローラー19が対向して配置されている。2次転写ローラー19は中間転写ベルト18に圧接されており、両者の間に転写ニップ部が形成されている。2次転写ローラー19には転写バイアス電圧が印加されるようになっており、2次転写ローラー19に転写バイアス電圧が印加されることにより、2次転写ローラー19と中間転写ベルト18との間に電界が形成される。
【0030】
2次転写ローラー19と中間転写ベルト18とによって形成される転写ニップ部には、給紙部Bの給紙カセット22からシート搬送経路21に繰り出された記録シートSが搬送される。中間転写ベルト18上に転写されたトナー画像は、2次転写ローラー19と中間転写ベルト18との間に形成される電界の作用により、転写ニップ部に搬送される記録シートSに2次転写される。
【0031】
転写ニップ部を通過した記録シートSは、2次転写ローラー19の上方に配置された定着装置30に搬送される。定着装置30では、記録シートS上の未定着のトナー画像が加熱および加圧されることによって定着される。トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラー24によって排紙トレイ23上に排出される。
なお、本実施形態のプリンターでは、給紙カセット22内に収容された記録シートSは、搬送方向と直交する幅方向の中央部が、シート搬送経路21の幅方向の中央部に沿った状態(中央基準)で転写ニップ部へ搬送される。従って、記録シートSは、転写ニップ部を中央基準で通過して、定着装置30へ搬送される。これにより、記録シートSは、定着装置30内においても、幅方向の中央部が、搬送経路の幅方向の中央部に沿った状態で搬送される。
【0032】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図、図3は、その模式的な横断面図である。なお、定着装置30では、図1に示すように、記録シートは、下方から上方に向って通過するが、図2においては記録シートの通過方向が、紙面の手前側から奥側になるように、図3においては紙面の右側から左側になるように、定着装置30をそれぞれ示している。
【0033】
図2および図3に示すように、定着装置30は、加圧部材としての加圧ローラー32と、加圧ローラー32に外周面が圧接された状態で回転(周回移動)するように配置された加熱ベルト31と、加熱ベルト31の内周面に圧接されるように加熱ベルト31の回転域(周回移動域)の内部に配置された定着ローラー33とを備えている。
加熱ベルト31には、給電されることによって発熱する抵抗発熱層31b(図4参照)が設けられている。加熱ベルト31は、抵抗発熱層31bが発熱することによって加熱状態になり、加熱された状態で周回移動(回転)する。従って、加熱ベルト31は、加熱回転体を構成している。
【0034】
加熱ベルト31は、例えば、周回移動方向と直交する回転軸方向(幅方向)の長さが、加圧ローラー32の外周面における軸方向長さよりも若干長く、また、加圧ローラー32の直径よりも若干大きな直径を有する円筒形状になっている。加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、それぞれの回転軸同士が平行な状態で、加熱ベルト31の外周面と加圧ローラー32の外周面とが相互に圧接されるように配置されている。
【0035】
加熱ベルト31と加圧ローラー32とは、相互に圧接されることによって、記録シートSが通過する定着ニップ部Nを形成している。
本実施形態では、搬送経路内を中央基準で搬送される記録シートSは、定着ニップ部Nにおける回転軸方向の中央に、記録シートSの搬送方向と直交する幅方向の中央部が沿った状態で定着ニップ部Nを通過する。
【0036】
図4は、加熱ベルト31の周回移動方向とは直交する方向である軸方向の一方の端部の横断面図である。加熱ベルト31は、例えば、ポリイミド(PI)によって一定の厚さの円筒形状に構成された補強層31aと、補強層31aの外周面上に全周にわたって積層された抵抗発熱層31bとを有している。抵抗発熱層31bは、電流が流れることによってジュール熱を発熱する抵抗発熱材料によって構成されている。
【0037】
抵抗発熱層31bは、軸方向の両側の端部における外周面上に、導電体によって形成された電極部31gがそれぞれ全周にわたって設けられている。各電極部31gは、それぞれ、定着ニップ部Nよりも軸方向の両側(外側)に配置されている。
各電極部31gの外周面には、給電部材37がそれぞれ導電状態で圧接されている。各給電部材37は、定着ニップ部Nに対して加熱ベルト31の回転方向上流側であって、当該定着ニップ部Nに近接した位置において、各電極部31gの外周面に摺接している。
【0038】
両電極部31gの間に位置する抵抗発熱層31bの外周面には、弾性層31cが積層されており、この弾性層31cの外周面上に離型層31dが積層されている。
図2に示すように、給電部材37のそれぞれには、商用の交流電源34の交流電流が電力調整部35によって所定の電力に調整されて、ハーネスを介して供給されるようになっている。
【0039】
各給電部材37は、例えば、カーボン粉と、銅粉等の粉体を混合して焼成した導電ブラシによって構成されている。各給電部材37は、加熱ベルト31が回転することによって、それぞれが圧接された電極部31gに摺接する。これにより、相互に圧接された給電部材37と、電極部31gとの導電状態が維持される。
なお、各給電部材37としては、導電ブラシを用いる構成に限るものではなく、電極部31gとの摺接によって導電状態を維持できる構成になっていれば、導電ブラシ以外のものを用いてもよい。例えば、給電部材37を、金属等の導電体で構成してもよく、また、絶縁体等の表面にCu、Ni等をメッキした構成とすることも可能である。さらに、各給電部材37は、周回移動する電極部31gのそれぞれに接触した状態で回転するローラー等のような回転体としてもよい。
【0040】
加熱ベルト31には、加圧ローラー32が圧接された外周面の位置から、周方向に180度離れた外周面の位置に対向して、加熱ベルト31の外周面の温度を測定する温度検出部50が設けられている。温度検出部50は、対向する加熱ベルト31の外周面の温度を、回転軸方向の全域にわたって測定するように、例えば、第1温度センサー51と第2温度センサー52とを有している。
【0041】
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、それぞれ、例えば、複数のサーモパイル(本実施形態では8個のサーモパイル)を直線状に配列したマルチアレイサーモパイルが使用されており、それぞれのサーモパイルの配列方向が加熱ベルト31の幅方向に沿うように配置されている。第1温度センサー51は、加熱ベルト31の幅方向の中央部から一方の端部までが測定範囲となるように、また、第2温度センサー52は、加熱ベルト31の幅方向の中央部から他方の端部までが測定範囲となるように配置されている。
【0042】
第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれのサーモパイルは、加熱ベルト31の幅方向の全域を複数の領域に分割した場合におけるそれぞれの領域(測定領域)Pxの一定面積の温度を個別に測定するように構成されている。
第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれは、8個のサーモパイルの測定領域Pxが、加熱ベルト31の外周面上において、ほぼ等しい面積で、加熱ベルト31の幅方向全域に亘って隙間なく並ぶように、加熱ベルト31の表面から所定の距離をあけて配置されている。第1温度センサー51および第2温度センサー52の各サーモパイルは、加熱ベルト31の外周面における測定領域内で、一定面積の範囲の平均温度を測定する。第1温度センサー51および第2温度センサー52によって測定される加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31に損傷等の異常が生じていることを検出するため、および、加熱ベルト31の表面温度が所定値に制御するために使用される。
【0043】
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに生じた損傷等の異常を、その発生場所にかかわらずに検出できるように、各サーモパイルの測定領域Pxが、加熱ベルト31の幅方向の全域にわたって連続している必要がある。この場合、隣接する測定領域Pxの端部同士が相互に重なった状態になっていてもよく、また、隣接する測定領域Pxの端部同士が重なることなく接した状態になっていてもよい。
【0044】
なお、本実施形態において、第1温度センサー51における8個のサーモパイルのそれぞれの加熱ベルト31上の8個の測定領域Pxを、幅方向の中央部から、第1温度センサー51によって測定できる加熱ベルト31の幅方向の一方の端部にかけて、第1測定領域PxA1〜第8測定領域PxA8とする。また、第2温度センサー52における8個のサーモパイルのそれぞれの加熱ベルト31上の8個の測定領域Pxを、加熱ベルト31における幅方向の中央部から第2温度センサー52によって測定できる加熱ベルト31の幅方向の他方の端部にかけて、第1測定領域PxB1〜第8測定領域PxB8とする。
【0045】
なお、温度検出部50は、第1温度センサー51および第2温度センサー52の2つを設ける必要はなく、1つの温度センサーによって、加熱ベルト31の幅方向の全域にわたって、その表面温度を検出するようにしてもよい。この場合、温度センサーは、1つのマルチサーモパイルアレイによって構成してもよく、また、複数のサーモパイルを並べる構成等としてもよい。いずれの場合にも、加熱ベルト31上には幅方向に沿って複数の測定領域Pxが形成される。
【0046】
なお、加熱ベルト31上における幅方向に沿った測定領域Pxの数は、特に限定されるものではなく、加熱ベルト31の幅方向長さ、各測定領域の面積、必要とされる測定精度等に基づいて、適宜、設定される。測定領域の個数は、通常、5〜20個程度である。測定領域Pxの数が多くなる場合には、サーモパイルの個数を増加してもよいが、所定個数のサーモパイルをそれぞれ有する複数のマルチサーモパイルアレイを加熱ベルト31の幅方向に沿って並べて使用してもよい。
【0047】
第1温度センサー51および第2温度センサー52として、複数のマルチアレイサーモパイルを用いる構成の場合には、視野角が広いことから、マルチアレイサーモパイルの個数を減らすことができる。これにより、第1温度センサー51および第2温度センサー52を小型化することができるために、省スペース化が可能である。
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52としては、サーモパイル、マルチアレイサーモパイルを用いる構成に限らず、サーモグラフィを用いる構成等であってもよい。いずれの場合にも、第1温度センサー51および第2温度センサー52は、定着ニップ部Nを形成する加熱ベルト31の外周面の温度を全域にわたって検出できる複数の測定領域を有している。
【0048】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52として、サーモパイル、マルチアレイサーモパイル、サーモグラフィのいずれを用いても、第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれは、加熱ベルト31の表面に対向して固定された状態で、加熱ベルト31の表面おける温度を幅方向の所定範囲にわたって測定できる。従って、第1温度センサー51および第2温度センサー52に、それぞれの測定領域を移動させる機構を設ける必要がない。これにより、第1温度センサー51および第2温度センサー52に測定領域を移動させるための複雑な機構を用いる必要がなく、第1温度センサー51および第2温度センサー52を簡潔な構成とすることができ、故障等によって信頼性が低下することを抑制できる。
【0049】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52を加熱ベルト31の表面に対向して固定する構成に代えて、例えば、1つのサーモパイルを、加熱ベルト31の幅方向に沿って移動させる構成、あるいは、1つのサーモパイルの測定範囲が加熱ベルト31の幅方向に沿って往復移動するようにサーモパイルを揺動(首振り運動)させる構成としてもよい。この場合には、サーモパイルを移動させる機構が必要になるために、その機構に故障等が生じる可能性がある。これにより信頼性が低下するおそれがあるものの、1つのサーモパイルがあればよいために、経済性が向上する。
【0050】
さらに、1つのサーモパイルを加熱ベルト31の周辺において固定状態として、加熱ベルト31の幅方向に沿って照射される光が、固定されたサーモパイルに向けて反射させる反射装置を設ける構成としてもよい。この場合、反射装置として、例えば、反射鏡を高速で移動させる構成とすれば、第1温度センサー51および第2温度センサー52自体を高速で移動させる場合に比べて、部品点数が少なく簡潔な構成とすることができる。これにより、故障等の発生を低減することができる。
【0051】
加熱ベルト31における補強層31a上に設けられた抵抗発熱層31bは、耐熱性樹脂に、導電性フィラーおよび高イオン導電体粉末を一様に分散させて所定の円筒形状に成型されたものであり、全周にわたって一様な電気抵抗率に調整されている。
抵抗発熱層31bを構成する耐熱性樹脂としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が使用されるが、PIが最も耐熱性に優れているために好ましい。このために、本実施形態では、PIを用いている。
【0052】
導電性フィラーとしては、電気抵抗率が低い(導電性が高い)金属材料の粉末と、電気抵抗率が高い(導電性が低い)炭素化合物粉末とを用いることが好ましい。高イオン導電体粉末としては、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)等の無機化合物中の高イオン導電体粉末を用いることが好ましい。金属材料の粉末としては、Ag、Cu、Al、Mg、Ni等の金属材料の微粒子が好適である。炭素化合物粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブが好適である。
【0053】
高イオン導電体粉末は、抵抗発熱層31bの機械的強度を低下させるおそれはないが、高イオン導電体粉末および高抵抗の炭素化合物粉末だけでは、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を、商用電源を用いた500〜1500W程度の電力の定着装置を所定の発熱量になるように調整することが容易でない。このために、低抵抗の金属粉末も用いられている。このように、金属粉末と、炭素化合物粉末と、高イオン導電体粉末とを用いることにより、機械的強度を低下させることなく、抵抗発熱層31bを所定の電気抵抗率に容易に調整することができる。
【0054】
なお、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、2種類以上の材料によって構成してもよい。
また、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、繊維状になっていることが好ましい。金属粉末、炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれが繊維状になっていることによって、それぞれが接触する確率が高くなり、パーコレーションしやすくなるためである。
【0055】
高イオン導電体粉末としてヨウ化銀(AgI)またはヨウ化銅(CuI)を用いると、抵抗変化率が大きく変化して急激に抵抗値が低下する温度(相転移点)が存在するために、非通紙領域における過昇温を防止する効果は顕著になる。AgIの場合、相転移点は、通常147℃であるが、AgIの粒径に依存するために、粒径が小さいほど低温にすることができる。CuIの場合も同様である。
【0056】
従って、定着温度に応じて、AgIまたはCuIとして混合する材料の粒径を適宜選択することにより、所定の相転移点とすることができる。特に、材料の粒径が小さい場合には、硝酸銀(AgNO3)水溶液、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液および銀イオン伝導性の有機ポリマーであるPVP(Poly-N−vinyl-2-pyrrolidone)の水溶液を、常温および常圧下において混合、ろ過、乾燥するという簡便な方法によって、AgIまたはCuIを合成することができる。また、溶液の濃度、混合手順を変更することによって、10nm〜50nmの範囲で、異なるサイズのナノ粒子とすることができる。
【0057】
金属粉末の粒径は、0.01〜10μm程度が好ましく、このような粒径とすることにより、高抵抗である炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、全体にわたって線状に絡み合い、全体として均一な電気抵抗率を有する抵抗発熱層31bとすることができる。
耐熱性樹脂中に分散される導電性フィラーは、耐熱性樹脂に対して、低抵抗の金属粉末が、50〜300重量%、高抵抗の炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、5〜100重量%であることが好ましい。金属粉末、炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、いずれも、300重量%よりも多くなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が低下しすぎるおそれがあり、50重量%よりも少なくなると、抵抗発熱層31bの電気抵抗率が高くなりすぎるおそれがある。このように、300重量%よりも多くなる場合および50重量%よりも少なくなる場合のいずれにおいても、所定の体積抵抗率に調整することは容易ではない。このことから、50〜300重量%とすることが好ましい。
【0058】
抵抗発熱層31bの厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が好ましい。
抵抗発熱層31bの電気抵抗率は、抵抗発熱層31bに供給される電力、印加される電圧、抵抗発熱層31bの厚さ、定着ローラー33の直径および軸方向長さ等に基づいて、任意に設定されるが、好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度、より好ましくは、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・m程度である。
【0059】
なお、抵抗発熱層31bの体積抵抗率を調整するために、金属合金、金属間化合物等の導電性粒子を適宜混入してもよい。また、抵抗発熱層31bの機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカ(金属の針状単結晶)、酸化チタン、チタン酸カリウム等を混入してもよい。
さらに、抵抗発熱層31bの熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム、アルミナ等を混入してもよい。
【0060】
また、抵抗発熱層31bを安定的に製造するために、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤等を混入してもよい。
抵抗発熱層31bは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電性フィラーを均一に分散させた状態で、円柱形状の金型に塗布してイミド転化させることによって製造することができる。
【0061】
加熱ベルト31の弾性層31cは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって構成されている。本実施形態では、弾性層31cとしてシリコーン(Si)ゴムが用いられている。
加熱ベルト31の離型層31dは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性が付与されている。離型層31dの厚さは、5〜100μm程度が好ましい。フッ素系チューブとしては、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の商品名「PFA350−J」、「451HP−J」、「951HP Plus」等が好適である。
【0062】
離型層31dは、定着ニップ部Nを通過する際に接触した記録シートSが容易に剥離されるような剥離性を有している。
この離型層31dは、例えば、水との接触角が90°以上、好ましくは110°以上であって、表面粗さRaが0.01〜50μm程度が好ましい。離型層31dは、導電性であってもよい。本実施形態では、離型層31dとしてPFAを用いている。
【0063】
補強層31a、抵抗発熱層31b、弾性層31cおよび離型層31dのそれぞれは、所定の一定の厚さになっており、これらによって構成された加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されていない状態で、所定の直径の円筒形状を維持する剛性を有している。加熱ベルト31は、加圧ローラー32が圧接されることによる定着ローラー33の変形に追従して、加圧ローラー32の外周面に沿った状態に変形する。
【0064】
なお、加熱ベルト31は、上述したような4層構造に限るものではなく、抵抗発熱層31bと離型層31dとの2層構造であってもよい。また、いずれの場合にも、絶縁のためにPI、PPS等の樹脂層をさらに設ける構成であってもよい。なお、いずれの場合にも、抵抗発熱層31bは、離型層31dよりも内周側に位置していればよい。
各電極部31gを構成する導電体は、例えば、Cu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、抵抗発熱層31bに対して直接、化学メッキあるいは電気メッキすることによって形成することができる。
【0065】
なお、各電極部31gを金属のメッキによって形成する場合は、2種類の金属によってメッキすることが好ましい。例えば、抵抗発熱層31bに対して、Cuを、直接、化学メッキした後に、Cu上にNiを電気メッキすることによって各電極部31gを形成する。
また、各電極部31gは、このような構成に限定されず、Cu、Ni等の金属箔を、導電性接着剤により、抵抗発熱層31b上に接着することによって形成してもよい。
【0066】
さらには、抵抗発熱層31b上に、導電性インク、導電性ペーストを塗布することによって各電極部31gを形成してもよい。また、導電性テープを、抵抗発熱層31bに貼り付けることによっても、各電極部31gを形成することもできる。
図2および図3に示すように、加熱ベルト31の周回移動域内に設けられた定着ローラー33は、軸心部に設けられた芯金33aと、芯金33aの外周面に積層された弾性層33bとを有している。芯金33aの両側の各端部は、弾性層33bの両側の端部からそれぞれ外側に突出した状態になっている。
【0067】
芯金33aは、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体(中実体または中空体)が嵌合された構成になっており、円柱体における軸方向の両側の各端部からは、軸体の両側の各端部がそれぞれ突出している。弾性層33bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性に優れた弾性材料によって構成されている。弾性層の軸方向長さは、加熱ベルト31の軸方向長さにほぼ等しくなっている。
【0068】
加圧ローラー32は、芯金32aと、芯金32aの外周面に積層された弾性層32bと、弾性層32bの外周面に積層された離型層32cとを有している。加圧ローラー32の外径は、20〜100mm程度になっている。
加圧ローラー32の芯金32aは、定着ローラー33の芯金33aと同様に、一定の直径の軸体に、直径が10〜30mm程度のアルミニウム、鉄等の金属製の円柱体が嵌合された構成になっている。弾性層32bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって、1〜20mm程度の厚さになっている。
【0069】
離型層32cは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等の記録シートに対する離型性を有する材料によって構成されており、例えば、5〜100μm程度の厚さになっている。なお、離型層は、トナーのオフセットを防止するために導電性であってもよい。
【0070】
加圧ローラー32は、定着ローラー33に平行な状態で、図示しない付勢手段(例えば引っ張りバネ)によって、加熱ベルト31に向って付勢されている。これにより、加圧ローラー32の外周面が、加熱ベルト31の外周面に圧接されて、加熱ベルト31が定着ローラー33に押し付けられている。加熱ベルト31と加圧ローラー32との圧接部には、記録シートSが通過する定着ニップ部Nが形成されている。
【0071】
図2に示すように、加圧ローラー32は、定着モーター38によって、図2に矢印D1で示す方向に回転駆動されるようになっている。加熱ベルト31は、加圧ローラー32と定着ローラー33とに圧接されていることにより、加圧ローラー32の回転に追従して、図2に矢印D2で示す方向に回転(周回移動)する。加熱ベルト31に圧接された定着ローラー33は、加熱ベルト31の回転に追従して、圧接部分同士が同方向に周回移動するように回転する。
【0072】
なお、定着装置30は、加圧ローラー32を回転駆動させる構成に代えて、定着ローラー33を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。あるいは、加圧ローラー32および定着ローラー33の両方を定着モーター38によって回転させる構成としてもよい。
定着ニップ部Nには、加圧ローラー32および加熱ベルト31が回転された状態で、しかも、交流電源34から電力調整部35を介して供給される電流によって加熱ベルト31が加熱された状態で、記録シートSが搬送される。
【0073】
定着ニップ部Nに搬送される記録シートSは、幅方向の中央を基準として搬送されるために、記録シートSは、定着ニップ部Nを、加熱ベルト31における幅方向(周回移動方向とは直交する方向)の中央位置と、幅方向(搬送方向とは直交する方向)が一致した状態で通過する。記録シートSは、定着ニップ部Nを通過する間に、加熱状態になった加熱ベルト31によって加圧および加熱されることにより、当該記録シートS上の未定着のトナー画像が定着される。
【0074】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置30では、プリントジョブが指示されると、定着モーター38が駆動される。これにより、加圧ローラー32が回転され、加熱ベルト31が周回移動(回転)する。また、加熱ベルト31が回転状態になると、交流電源34の交流電力が、電力調整部35によって調整されて、両給電部材37間に印加される。加熱ベルト31が回転されていない状態では、交流電源34の交流電力は、給電部材37間に印加されない。
【0075】
この場合、一方の給電部材37に供給される電流は、当該給電部材37に圧接された電極部31gから抵抗発熱層31bを通って他方の電極部31gおよび給電部材37へ流れる。これにより、抵抗発熱層31bは発熱し、加熱ベルト31の全体が発熱状態になる。
このような状態で、加熱ベルト31と加圧ローラー32とが圧接された定着ニップ部Nに、トナー画像が転写された記録シートSが搬送される。そして、記録シートSが定着ニップ部Nを通過する間に、記録シートS上のトナー画像が加熱および加圧されることによって、記録シートS上に定着される。
【0076】
このような定着動作の間に、温度検出部50の第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量が、電力調整部35によって調整されて、加熱ベルト31は、所定の定着温度(例えば180℃)とされる。
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの測定領域Px毎に測定される加熱ベルト31の表面温度に基づいて、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷等の異常が発生していることを判定する異常判定制御が実行される。
【0077】
<制御系の構成>
図5は、定着装置30を制御する制御系の主要部の構成を説明するためのブロック図である。定着装置30は、プリンター全体を制御する制御部60によって制御される。
制御部60には、定着装置30に設けられた温度検出部50の第1温度センサー51および第2温度センサー52の出力(それぞれに設けられた全てのサーモパイルの出力)が与えられている。また、制御部60は、各給電部材37に供給される電力量を調整する電力調整部35、加圧ローラー32を回転させて加熱ベルト31を周回移動させる定着モーター38のそれぞれを制御するように構成されている。
【0078】
なお、図5に示されたシートサイズセンサー41は、本実施形態においては必要なく、後述する実施形態2において使用される。
第1温度センサー51および第2温度センサー52は、それぞれに設けられた全てのサーモパイルによる測定温度を出力しており、制御部60は、それぞれのサーモパイルによって測定された温度に基づいて、加熱ベルト31における損傷等の異常の有無を判定するようになっている。制御部60は、異常判定制御の結果、加熱ベルト31に、傷等の異常が発生していると判定された場合には、操作パネルに設けられた液晶ディスプレイ等の表示装置28に判定結果を表示する。
【0079】
制御部60は、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の全体の表面温度が、予め設定された所定範囲になるように、電力調整部35を制御して、各給電部材37に供給される電力量を調整する。この場合、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の表面温度が、予め設定された異常高温状態になった場合には、加熱ベルト31に対する電力の供給が停止されるように、制御部60は、電力調整部35を制御する。加熱ベルト31に対する電力の供給を停止する場合の加熱ベルト31の表面温度は、加熱ベルト31の寸法、材料等によって異なるが、通常、260℃以上の高温である。
【0080】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52によって検出される加熱ベルト31の全体の表面温度に基づいて、交流電源34から各給電部材37に供給される電力量を電力調整部35によって調整する構成に限らず、例えば、第1温度センサー51および第2温度センサー52とは別に、加熱ベルト31の幅方向の中央部における温度を検出する温度センサーを設けて、その温度センサーの検出結果に基づいて電力調整部35を制御して、各給電部材37に供給される電力量を調整する構成としてもよい。
【0081】
<異常判定制御>
次に、加熱ベルト31における損傷等の異常の有無を判定する異常判定制御の原理について説明する。
加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに、加熱ベルト31の周方向に沿った傷が発生した場合、傷が発生した部分では、電流は、加熱ベルト31の幅方向に沿って流れることができず、その傷を迂回するように流れる。これにより、傷の両側の端部(周方向の各端部)の周辺部において電流量が増加し、発熱量が増加する。その結果、傷の両側の端部の周辺部では、中央部の周辺部よりも高温になる。
【0082】
図6(a)は、温度検出部50における1つのサーモパイルの測定領域Pxが周方向に移動する範囲において、加熱ベルト31の周方向に沿った傷Kaが生じた場合に、傷Kaを測定領域Pxの内部に含むサーモパイルによる測定温度のサンプリングタイミングの一例を示す模式図である。
なお、加熱ベルト31の周回移動方向(回転方向)は、矢印D1で示す方向になっている。
【0083】
図6(b)は、図6(a)に示された傷Kaの周辺部における加熱ベルト31の表面温度の変化を示すグラフである。
図6(b)に示すように、加熱ベルト31は、傷Kaの長手方向両側の各端部の周辺部において最も高温になり、長手方向の中央部の周辺部において最も低温になっている。
図6(a)に示すように、傷Kaを測定領域Px内に含むサーモパイルは、測定領域Px内における一定面積の範囲の平均温度を所定のタイミングでサンプリングする。例えば、傷Kaに対して、5回のサンプリングタイミング(第1回〜第5回のサンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5)で、一定面積の範囲(以下、それぞれのサンプリングタイミングSP1、SP2、SP3、SP4、SP5におけるサーモパイルの周方向における測定範囲を、第1回測定範囲RA1、第2回測定範囲RA2、第3回測定範囲RA3、第4測定範囲RA4、第5測定範囲RA5とする)の測定温度をサンプリングする。
【0084】
図6(a)に、第1回〜第5回の各測定範囲RA1〜RA5と傷Kaとの関係を示している。この場合、第3回のサンプリングタイミングSP3における第3回測定範囲RA3の中心が、傷Kaの長手方向の中央に一致している。第1回のサンプリングタイミングSP1に対応した第1回測定範囲RA1は、傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の局所的な高温領域(図6(a)および(b)に点線で示す高温領域AHa)を含んでいるが、高温領域AHaとは周方向にずれた状態になっているために、この高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいる。これにより、その第1回測定温度TA1(第1回測定範囲RA1の平均温度)は、高温領域AHaの実際の温度よりも低くなっている。
【0085】
なお、第1回〜第5回の測定範囲RA1〜RA5のそれぞれの第1回〜第5回の測定温度TA1〜TA5を、図6(b)のグラフにおいて△印で示している。この場合の第1回測定温度TA1は、例えば、200℃程度になっている。
次の第2回目のサンプリングタイミングSP2に対応した第2回測定範囲RA2も、傷Kaにおける回転方向下流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいるために、その第2回測定温度TA2(第2回測定範囲RA2の平均温度)も、高温領域AHaにおける実際の温度よりも低くなっている。
【0086】
さらに、傷Kaにおける長手方向の中央部を含む第3回目のサンプリングタイミングSP3に対応した第3回測定範囲RA3では、局所的に低温になった領域(低温領域ALa)を含んでいるが、第3回測定範囲RA3が低温領域ALaよりも高温になった領域を広く含んでいるために、その第3回測定温度TA3(第3回測定範囲RA3の平均温度)は、実際の低温領域ALaの温度よりも高く、例えば、160℃になっている。但し、この場合、第3回測定範囲RA3の中心位置が、短い傷Kaにおける長手方向の中央部に一致していることにより、第3回測定範囲RA3は低温領域ALaよりも温度低下が小さな領域を広く含んでいるために、第3回測定温度TA3と実際の温度との差は小さくなっている。
【0087】
第4回のサンプリングタイミングSP4に対応した第4回測定範囲RA4は、傷Kaにおける回転方向上流側の端部の周辺部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第4回測定温度TA4は、第2回測定範囲RA2における第2回測定温度TA2と同程度になっている。
さらに、第5回のサンプリングタイミングSP5に対応した第5回測定範囲RA5においても、短い傷Kaにおける回転方向上流側の端部の高温領域AHaを含んでいるが、高温領域AHaよりも低い温度の領域を広く含んでいることから、第5回測定温度TA5は、第1回測定範囲RA1における第1回測定温度TA1と同程度(200℃程度)になっている。
【0088】
この場合、第1サンプリングタイミングSP1での第1測定温度TA1(高温領域AHaを含む第1回測定範囲RA1の平均温度、例えば200℃)が最高温度(最大値)Tmaxになっている。また、第3サンプリングタイミングSP3での第3測定温度TA3(低温領域を含む第3回測定範囲RA3の平均温度、例えば160℃)が最低温度(最小値)Tminになっている。
【0089】
このように、加熱ベルト31の周方向に沿った傷が抵抗発熱層31bに生じている場合、傷の両側の各端部が局所的な高温領域(AHa)となり、両端部間の中央部が低温領域(ALa)になることから、サーモパイルの測定領域Pxが加熱ベルト31の周方向に全周にわたって相対的に移動する間にサンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppが大きくなる(例えば、30℃程度)。
【0090】
なお、サーモパイルの測定領域Px内において、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷が生じていない場合には、その測定領域Pxが加熱ベルト31の全周にわたって相対移動することによる測定温度の温度変化が小さく、定着温度(180℃)程度のほぼ一定値になる。従って、この場合には、サンプリングされたサーモパイルの測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppは小さい(例えば5℃以下)。
【0091】
このことから、本実施形態では、全ての測定領域Pxにおいて全周にわたる温度分布が得られるように、各サーモパイルによる測定温度を所定のタイミングでサンプリングして、サンプリングされた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppをそれぞれ求め、求められた温度差Tppを、別の1つの測定領域において求められた温度差Tppとそれぞれ比較して、両温度差Tppの差分ΔTppが、予め設定された閾値Tthよりも大きくなっている場合に、当該組み合わせにおける測定領域のうち、温度差Tppが大きくなっている一方の測定領域Px内の抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていると判定するようになっている。
【0092】
この理由について、以下に説明する。図7は、定着装置30の定着ニップ部Nに、複数の記録シートSが連続して搬送されて、それぞれの記録シートS上のトナー画像が定着される場合に、回転状態になった加熱ベルト31の表面温度を、通紙領域および非通紙領域のそれぞれにおいて測定した場合の温度変化を示すグラフである。但し、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bには傷等の損傷は生じていない。なお、図7において、点線が通紙領域における測定温度、実線が非通紙領域における測定温度をそれぞれ示している。
【0093】
図7に示すように、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する加熱が開始されてから所定の定着温度に達するまでの間、すなわち、記録シートSが定着ニップ部Nに搬送されていない状態では、加熱ベルト31の回転とともに、加熱ベルト31の表面温度は上昇する。
この場合、通紙領域および非通紙領域のそれぞれにおいて、加熱ベルト31の表面温度は、全周にわたって一定ではなく、周方向に沿って温度が変化している。この温度変化は、加熱ベルト31における抵抗発熱層31bの厚さが不均一であること等によって生じており、加熱ベルト31の1回転毎に、ほぼ同様の温度変化になっている。
【0094】
加熱ベルト31が所定の定着温度に達して、記録シートSが連続して定着ニップ部Nを通過する場合には、通紙領域では、1枚の記録シートが定着ニップ部Nを通過してから次の記録シートSが定着ニップ部Nに進入するまでの間に、加熱ベルト31の表面温度が大きく上昇する。これに対して、非通紙領域においては、記録シートSが通過しないために、通紙領域のような温度上昇は生じず、周方向に沿った温度変化は、定着温度に達するまでに生じる温度変化とほぼ同様になっている。
【0095】
従って、組み合わされた一対のサーモパイルのいずれか一方の測定領域Pxが、通紙領域に含まれ、他方が非通紙領域に含まれる場合には、それぞれのサーモパイルで測定される温度差Tpp同士の差分ΔTppが大きくなり、所定の閾値(Tth)以上になるおそれがある。この場合には、両方の測定領域Pxに対応する抵抗発熱層31bに傷が生じていないにもかかわらず、いずれか一方に対応する抵抗発熱層31bに傷が生じているものと誤判定するおそれがある。
【0096】
このように、通紙領域と非通紙領域とでは、記録シートSが定着ニップ部Nを通過する際に、加熱ベルト31の表面における温度変化が大きく異なることから、本実施形態では、一対のサーモパイルの両方の測定領域Pxが通紙領域に含まれるか、または、両方の測定領域Pxが非通紙領域に含まれるように、第1温度センサー51における1つのサーモパイルと、第2温度センサー52における1つのサーモパイルとの組み合わせを予め設定している。
【0097】
なお、ニップ部における通紙領域および非通紙領域の長さは搬送される記録シートSによって異なる。しかしながら、本実施形態のプリンターでは、記録シートSが中央基準で搬送されるために、ニップ部における加熱ベルト31の幅方向に沿った長さの中央の基準位置に対して、線対称の位置関係の測定領域同士が、それぞれ通紙領域に含まれるか、または、それぞれ非通紙領域に含まれる。このことから、本実施形態では、搬送される記録シートSのサイズを検出することなく、線対称の位置関係の測定領域同士が組み合わされるように、一対のサーモパイルの組み合わせを予め設定している。
【0098】
また、抵抗発熱層31bに傷Kaが生じている場合に、その傷Kaが含まれる測定領域Px(以下、対象測定領域PxOとする)に対して電流の流れる方向(通電方向)の下流側に隣接する測定領域(以下、比較測定領域PXRとする)では、傷Kaに対して通電方向の下流側に位置する部分において、対象測定領域PxOから加熱ベルト31の幅方向に沿って電流が流れ込むことができず、その部分の電流密度が低下するおそれがある。
【0099】
この場合には、比較測定領域PxRにおける測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppは、傷Kaが生じていないにもかかわらず大きくなる。その結果、相互に隣接する対象測定領域PxOと比較測定領域PxRにおける温度差Tpp同士を比較しても、閾値温度Th以上の差分ΔTppにならず、対象測定領域PxOに傷Kaが生じていることを検出することができないおそれがある。
【0100】
図8は、抵抗発熱層31bに傷Kaが生じている場合に、その傷Kaが含まれる対象測定領域PxOと組み合わされる比較測定領域PxRが、対象測定領域PxOに隣接していることによって、温度差Tppの差分ΔTppに影響が生じる可能性があることを示すグラフである。図8のグラフにおいて、横軸は、対象測定領域PxOに対する比較測定領域PxRとの相対的な位置を示しており、横軸の数値「1」は、対象測定領域PxOに対して比較測定領域PxRが1つ隣りであること(相互に隣接した状態であること)を示しており、「2」〜「5」はそれぞれ、2つ〜5つ隣りであることを示している。
【0101】
図8のグラフの縦軸は、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとのそれぞれにおいて得られた測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tpp同士の差分ΔTppを示している。
対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとが相互に隣接している場合には、比較測定領域PxRにおける傷Kaが隣接する部分において、対象測定領域PxOの傷Kaによって電流が流入せずに温度が低くなると、比較測定領域PxRにおける温度差Tppが大きくなるおそれがある。このために、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとのそれぞれにおいて求められた温度差Tpp同士の差分ΔTppが、24℃程度の小さな値になっている。この場合には、対象測定領域PxOに傷Kaが生じていることを的確に検出することができないおそれがある。
【0102】
これに対して、対象測定領域PxOと比較測定領域PxRとの間に1つ以上の測定領域Pxが存在することにより、比較測定領域PxRでの測定温度は、対象測定領域PxO内に生じた傷Kaの影響が小さく、対象測定領域PxOおよび比較測定領域PxRのそれぞれでの温度差Tpp同士の差分ΔTppは30℃以上になっている。
以上ことから、本実施形態では、温度差Tpp同士を比較する一対のサーモパイルの組み合わせは、それぞれの測定領域Px同士が相互に隣接しないように、第1温度センサー51における第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52における第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8のそれぞれとの組み合わせを設定している。
【0103】
図9は、中央基準搬送によって記録シートSが搬送される本実施形態において、傷Kaが生じていることを判定する際に、前記温度差Tpp同士を相互に比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域Pxに基づいて説明するための模式図、図10は、その測定領域Pxの組み合わせを示す表である。
なお、加熱ベルト31は、幅方向長さが366mmになっており、従って、幅方向の中心線CLから両側の各端縁までの距離は183mmになっている。中央基準で搬送される記録シートSの搬送方向と直交する方向(幅方向)の中央は、当該中心線CLに一致している。
【0104】
また、図10には、温度検出部50における第1温度センサー51の第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8と、第2温度センサー52における第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8とのそれぞれにおいて、加熱ベルト31の幅方向中心線CLから外側端(幅方向から遠い方の端)までの距離を表示している。
第1温度センサー51における各サーモパイルの第1〜第8の測定領域PxA1〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52の第1〜第8の測定領域PxB1〜PxB8のそれぞれとは、加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称に位置している。
【0105】
なお、中央基準によって搬送される記録シートSの最小サイズは、加熱ベルト31の幅方向に沿った長さが90mmであり、図9に、定着ニップ部Nに搬送される最小サイズの記録シートを模式的に示している。また、図9には、A4サイズの記録シートSが、幅方向(長さ210mm)を加熱ベルト31の幅方向に沿った状態として中央基準で定着ニップ部Nに搬送される場合(図7において「A4T」として示す)についても示している。
【0106】
記録シートSが中央基準で搬送される場合には、例えば最小サイズの記録シートSの定着ニップ部Nにおける通紙領域は、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1および第2の測定領域PxA1およびPxA2、PxB1およびPxB2の4つに含まれる。この場合、第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8およびPxB3〜PxB8のそれぞれは非通紙領域に含まれる。
【0107】
同様に、A4サイズの記録シートSが、幅方向を加熱ベルト31の幅方向に沿った状態で搬送される場合(図7に示された「A4T」の場合)には、通紙領域が、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1〜第5の測定領域PxA1〜PxA5、PxB1〜PxB5に含まれ、第6〜第8の測定領域PxA6〜PxA8、PxB6〜PxB8のそれぞれは非通紙領域に含まれる。
【0108】
記録シートSが中央基準搬送で搬送される本実施形態では、第1温度センサー51の測定領域PxA1〜PxA8のいずれかが、通紙領域の一部を含む場合には、その測定領域とは加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して線対称の位置にある第2温度センサー51の測定領域は、通紙領域の一部を含むことになる。同様に、第1温度センサー51の測定領域PxA1〜PxA8のいずれかが、非通紙領域に含まれる場合には、その測定領域とは加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称の位置にある第2温度センサー51の測定領域は非通紙領域に含まれることになる。
【0109】
また、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1測定領域PxA1およびPxB1、第2測定領域PxA2およびPxB2以外は、加熱ベルト31の幅方向中心線CLに対して対称の位置にある第1温度センサー51の第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8のそれぞれと、第2温度センサー52の第3〜第8の測定領域PxB3〜PxB8のそれぞれとの間に、1つ以上の測定領域Pxが存在する。このことから、第1温度センサー51の第3〜第8の測定領域PxA3〜PxA8に対応するサーモパイルのそれぞれと、第2温度センサー52の第3〜第8の測定領域PxB3〜PxB8に対応するサーモパイルのそれぞれとが組み合わされている。
【0110】
これに対して、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれの第1測定領域PxA1およびPxB1は相互に隣接している。従って、相互に隣接する第1温度センサー51の第1測定領域PxA1に対応するサーモパイルと、第2温度センサー52の第1測定領域PxB1に対応するサーモパイルとが組み合わされないように設定されている。
【0111】
このために、第1温度センサー51の第1測定領域PxA1に対応するサーモパイルに対しては、第2温度センサー52の第2測定領域PxB2に対応するサーモパイルを組み合わせており、第1温度センサー51の第2測定領域PxA2に対応するサーモパイルに対しては、第2温度センサー52の第1測定領域PxB1に対応するサーモパイルを組み合わせている。
【0112】
以上により、加熱ベルト31の幅方向における全域の温度を測定する第1温度センサー51の全てのサーモパイルと、第2温度センサー51の全てのサーモパイルとの組み合わせは、組み合わされたサーモパイルの測定領域Px同士が相互に隣接せず、また、組み合わされたサーモパイルの両方の測定領域Pxが、通紙領域に含まれるか、または非通紙領域に含まれている。このようにして設定された全て(8組)のサーモパイルの組み合わせは、制御部60に予め記憶されている。
【0113】
なお、第1温度センサー51および第2温度センサー52におけるそれぞれのサーモパイルの測定領域Pxは、最小サイズの記録シートSの通紙領域内に4つ以上の測定領域Pxが含まれるように、それぞれの加熱ベルト31の幅方向に沿った長さが設定されている。最小サイズの記録シートSの通紙領域内に3つ以下の測定領域Pxしか含まれない場合には、温度差Tppが比較される一対の測定領域Pxが相互に隣接しないように設定することができないためである。
【0114】
図11は、制御部60によって実行される異常判定制御の処理手順を示すフローチャートである。この異常判定制御は、プリントジョブが指示されると、温度検出部50における第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれに設けられた全てのサーモパイルによって、それぞれの測定領域Px内の温度を測定し、予め設定された一対の測定領域Pxの組み合わせに対応した一対のサーモパイルのそれぞれによって測定された温度の最高値Tmaxおよび最低値Tminの温度差Tppを比較して、両者の差分ΔTppが閾値Th以上の場合に、抵抗発熱層31bに周方向に沿った傷が生じていると判定する。
【0115】
異常判定制御は、プリントジョブが指示されて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bにおける温度調整制御が開始されることにより開始される。従って、定着装置30のウォームアップ時、定着動作実行時のいずれにおいても、異常判定制御は実行される。
異常判定制御が開始されると、図11に示すように、制御部60は、まず、加熱ベルト31の回転周期toを決定する(図11のステップS11参照、以下同様)。なお、加熱ベルト31の回転周期toは、定着装置30へ搬送される記録シートSが普通紙であるか厚紙であるかに基づいて決定される。例えば、定着装置30へ搬送される記録シートSが普通紙の場合には、記録シートSの搬送速度が厚紙の場合よりも速く設定されるために、加熱ベルト31の回転周期toは短くなる。これに対して、記録シートSが厚紙の場合には、加熱ベルト31の回転周期toは長くなる。
【0116】
次いで、いずれかのサーモパイルによって、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が発生していると判定された回数をカウントする異常カウンターをリセット状態(Ck=0)とする(ステップS12)。異常カウンターは、サーモパイルによる測定温度がノイズ等の影響を受けている場合に、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が生じていると誤って判定されることを防止するために設けられている。異常カウンターによって誤判定が防止されることについては後述する。
【0117】
次いで、制御部60は、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調整制御が継続して実行されているかを確認する(ステップS13)。
加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調整制御が実行されていることが確認されると(ステップS13において「YES」)、各サーモパイルの測定温度による異常判定の制御タイミングを決定するために、タイマーによる経過時間tの計測を開始する(ステップS14)。
【0118】
その後、タイマーによる計測時間tが、加熱ベルト31の回転周期toに達するまで、全てのサーモパイルによって測定された温度を、所定のサンプリングタイミングでサンプリングする(ステップS15)。そして、タイマーによる計測時間tが、加熱ベルト31の回転周期toに達すると、その回転周期toの間にサンプリングされた全てのサーモパイルの測定温度Tから、最高温度Tmaxと最低温度Tminとを抽出して、それらの温度差Tppを演算する(ステップS16)。その後は、所定時間(例えば1秒)が経過する毎に1回の回転周期toが終了したものとして、1秒が経過した時点を回転周期toの終了時点とした回転周期toの間に得られる全てのサーモパイルの測定温度Tから、最高温度Tmaxと最低温度Tminとの温度差Tppの演算を繰り返す。
【0119】
このようにして温度差Tppの演算が繰り返される度に、図9および図10に示された測定領域の組み合わせに対応した一対のサーモパイルのそれぞれの温度差Tpp同士の差分ΔTppを、一対のサーモパイルの組み合わせ毎に演算する(ステップS17)。そして、演算された全ての差分ΔTppを、予め設定された所定の閾値Thと比較する(ステップS18)。
【0120】
この場合、全てのサーモパイルの組み合わせにおける温度差Tpp同士の差分ΔTppの全てが、閾値Th以上になっていない場合には(ステップS18において「NO」)、全ての測定領域Pxにおいて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに傷による異常が生じていないものと判断して、ステップS12に戻り、異常カウンターのカウント数をリセット状態(Ck=0)とする。その後、ステップS13以降の処理を繰り返すことによって、温度差Tppの演算と、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎の差分ΔTppの演算と、演算された全ての差分ΔTppと閾値Thとの比較とが実行される。
【0121】
このような繰り返しにおいて、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっている場合には(ステップS18において「YES」)、異常カウンターのカウント数Ckを1回分だけ増加させる(ステップS19)。そして、増加された異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccになっているかを確認する(ステップS20)。
【0122】
この場合、異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Cc(例えば3回)に達していない場合には(ステップS20において「NO」)、サーモパイルによる測定温度がノイズ等の影響によって正しく測定されないことにより、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに異常が生じていると誤って判定された可能性があるとして、ステップS13に戻る。そして、ステップS13以降の処理が繰り返される。異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccに達するまでは、ステップS13〜S20の処理が繰り返される。
【0123】
その後、ステップS18において、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっていることが所定の回数Ccにわたって連続して検出されて、異常カウンターのカウント数Ckが予め設定された所定の回数Ccになった場合には(ステップS20において「YES」)、サーモパイルの測定温度がノイズ等に影響されることなく正常に測定されて、異常判定が正確に行われたものと判定する。
【0124】
この場合には、操作パネルに設けられた表示部28に、異常が生じていることを表示する(ステップS23)。この場合、プリント動作を禁止する必要があることも同時に表示する構成としてもよい。その後、異常判定制御は終了する。
なお、異常が生じていると判定された場合には、異常が生じていると見なされるサーモパイルの測定領域Pxの位置(加熱ベルト31の幅方向位置)を、表示部28に表示するようにしてもよい。また、複数個所に異常が生じていると判定される場合には、複数の異常が生じていることを表示する構成、さらには、その表示とともに、それぞれの異常が生じているそれぞれの加熱ベルト31の幅方向位置を表示部28に表示する構成としてもよい。
【0125】
ステップS13以降の処理が繰り返されている間に、いずれか1組のサーモパイルの組み合わせによって得られた差分ΔTppが閾値Th以上になっていることが、所定の回数(3回)にわたって連続して検出される前に、全てのサーモパイルの組み合わせにおける温度差Tpp同士の差分ΔTppが、閾値Th以上になっていない状態であることが検出された場合には(ステップS18において「NO」)、ステップS12に戻り、異常カウンターのカウント数Ckをリセット状態(Ck=0)として、その後、ステップS13以降の処理を繰り返す。
【0126】
また、ステップS13以降の処理が繰り返されている間に、加熱ベルト31の抵抗発熱層31bに対する温度調節が実行されていない状態であることが検出されると(ステップS13において「NO」)、プリントジョブが終了したものとして、異常判定制御は終了する。
以上のように、本実施形態では、記録シートSが中央基準によって搬送されてプリントジョブが実行される間に、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれによって検出される最高温度Tmaxと最低温度Tminとの温度差Tppを比較して、両温度差Tppの差分ΔTppに基づいて加熱ベルト31の抵抗発熱層31bにおける傷等の異常の発生を検出している。
【0127】
この場合、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxの両方とも、通紙領域に含まれているか、または、非通紙領域に含まれているために、記録シートが連続して搬送されることによる通紙領域での温度変化量の変動が生じても、その温度変化量による影響がキャンセルされるために、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を高精度で検出することができる。
【0128】
また、抵抗発熱層の厚さが周方向に不均一になっていることにより、それぞれの測定領域Pxにおいて温度変化量の変動が生じても、その温度変化量による影響がキャンセルされる。このことによっても、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を高精度で検出することができる。
さらに、予め設定された一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向に相互に隣接していないために、いずれか一方の測定領域Px内に、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じている場合に、他方の測定領域Pxが、傷等の影響によって生じる温度変化の影響を受けることなく、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていることを、より精度よく検出することができる。
【0129】
なお、本実施形態では、抵抗発熱層31bが給電されることによって加熱ベルト31の加熱が開始されていれば、抵抗発熱層31bの全体の温度が上昇するために、その上昇時における温度変化量に基づいて、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を検出することができる。従って、加熱ベルト31が定着温度に達していないウォーミングアップ時にも、抵抗発熱層31bにおける異常の発生を検出することができる。
【0130】
[実施形態2]
本実施形態では、記録シートSが中央基準によって搬送されて定着ニップ部を通過する構成ではなく、記録シートSが、搬送方向と直交する方向の一方の側縁を、搬送経路における幅方向の一方の側縁部に沿わせて搬送する片側基準で搬送されて定着ニップ部を通過する構成になっている。
【0131】
本実施形態においても、第1温度センサー51および第2温度センサー52における全てのサーモパイルのそれぞれによって温度差Tppが求められると、求められた温度差Tppが、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に比較される。本実施形態こおいても、一対のサーモパイルのそれぞれの測定領域Pxが相互に隣接しないように、しかも、一対のサーモパイルの両方の測定領域Pxが通紙領域に含まれるか、または、両方の測定領域Pxが非通紙領域に含まれるように設定される。
【0132】
図12は、片側基準搬送によって記録シートSが搬送される場合における測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせを、それぞれの測定領域の組み合わせによって説明するための模式図である。また、図13は、図12に示す測定領域Pxの組み合わせを示す表である。
なお、本実施形態では、第1温度センサー51における8個のサーモパイルの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向の一方の側縁部に位置する測定領域Px(前記実施形態1における第8測定領域PxA8に相当)を第1測定領域Px1とし、この第1測定領域Px1から加熱ベルト31の幅方向の中央部にかけて順番に配置された7つの測定領域Px(前記実施形態1における第7測定領域PxA7〜PxA1に相当)を、順番に、それぞれ、第2測定領域Px2〜第8測定領域Px8としている。
【0133】
また、第2温度センサー52における8個のサーモパイルの測定領域Pxは、加熱ベルト31の幅方向の中央部おいて、第8測定領域Px8に隣接する測定領域Px(前記実施形態1における第1測定領域PxB1に相当)を第9測定領域Px9とし、加熱ベルト31の幅方向の他方の側縁にかけて順番に配置された7個の測定領域Px(前記実施形態1における第2測定領域PxB2〜PxB8に相当)を、順番に、それぞれ、第10測定領域Px10〜第16測定領域Px16としている。
【0134】
なお、全ての測定領域Pxにおける両側の端部に位置する第1測定領域Px1と第16測定領域Px16とは、それぞれ、給電部材37が圧接された電極部31gになっているために、搬送される記録シートSのサイズにかかわらず、常に非通紙領域に含まれる。
記録シートSは、搬送方向と直交する一方の側縁が、第1測定領域Px1と第2測定領域Px2との境界部分に沿うように片側基準で搬送される。このために、搬送される記録シートSの搬送方向に直交する方向の長さdmm(通紙領域に相当)によって、定着ニップ部Nの非通紙領域に含まれる測定領域Pxの個数が異なる。
【0135】
最小サイズの記録シートS(d=90)が搬送される場合(図12における(1)の場合)には、第2〜第5の測定領域Px2〜Px5が通紙領域に含まれる。この場合、第6測定領域Px6は、通紙領域の一部しか含んでいないために非通紙領域に含まれるものとすると、第6〜第16の測定領域Px6〜Px16は非通紙領域に含まれる。このために、通紙領域に含まれる4つの第2測定領域Px2〜第5測定領域Px5から選択される一対の測定領域同士が相互に隣接しないように、第2測定領域Px2と第4測定領域Px4、第3測定領域Px3と第5測定領域Px5とがそれぞれ組み合わされている。
【0136】
非通紙領域に含まれる第6〜第16の測定領域Px6〜Px16は、選択される一対の測定領域Px同士が、相互に隣接せず、しかも、加熱ベルト31の幅方向中心線CL(第8測定領域Px8と第9測定領域Px9との境界)に対して相互に対称になる測定領域Px同士、あるいは相互に対称な位置に近接している測定領域Px同士が、それぞれ組み合わされる。
【0137】
このために、第6測定領域Px6と第11測定領域Px11、第7測定領域Px7と第9測定領域Px9、第8測定領域Px8と第10測定領域Px10とがそれぞれ組み合わされており、第12〜第16の測定領域Px12〜Px16のそれぞれは、第1測定領域Px1と組み合わされている。
なお、搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、最小サイズの記録シートSよりも長く、第2〜第5の測定領域Px2〜Px5の長さよりも短い範囲(90<d≦104(mm)、この範囲を第1範囲とする)であれば、測定領域の組み合わせは同じである。
【0138】
搬送される記録シートSの長さd(通紙領域)が、第1範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第6測定領域Px6の長さ以下の範囲(104<d≦126(mm)、この範囲を第2範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第6測定領域Px6が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されている。これにより、第4測定領域Px4は、第6測定領域Px6と第2測定領域Px2との両方に組み合わされている。非通紙領域に含まれる第11測定領域Px11は、第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第1範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0139】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第2範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第7測定領域Px7の長さ以下の範囲(126<d≦152mm、この範囲を第3範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第7測定領域Px7が第5測定領域Px5との組み合わせに変更されており、従って、第5測定領域Px5は、第7測定領域Px7と第3測定領域Px3との両方に組み合わされている。非通紙領域に含まれる第9測定領域Px9は、第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第2範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0140】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第3範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第8測定領域Px8の長さ以下の範囲(152<d≦178(mm)、この範囲を第4範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第8測定領域Px8が第6測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第2測定領域Px2と第6測定領域Px6との組み合わせは削除されている。非通紙領域に含まれる第10測定領域Px10が第1測定領域Px1との組み合せに変更されている。その他の組み合わせは、第3範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0141】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第4範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第9測定領域Px9の長さ以下の範囲(178<d≦204(mm)、この範囲を第5範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第9測定領域Px9が第7測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第5測定領域Px5と第7測定領域Px7との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第4範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0142】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第5範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第10測定領域Px10の長さ以下の範囲(204<d≦226(mm)、この範囲を第6範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第10測定領域Px10が第8測定領域Px8との組み合わせに変更され、第6測定領域Px6が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されている。従って、第4測定領域Px4は、第6測定領域Px6と第2測定領域Px2との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第5範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0143】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第6範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第11測定領域Px11の長さ以下の範囲(226<d≦247(mm)、この範囲を第7範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第11測定領域Px11が第6測定領域Px6との組み合わせに変更されており、第6測定領域Px6と第4測定領域Px4との組み合わせが削除されている。その他の組み合わせは、第6範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0144】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第7範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第12測定領域Px12の長さ以下の範囲(247<d≦267(mm)、この範囲を第8範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第12測定領域Px12が第5測定領域Px5との組み合わせに変更されており、第5測定領域Px5は、第3測定領域Px3と第12測定領域Px12との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第7範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0145】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第8範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第13測定領域Px13の長さ以下の範囲(267<d≦287(mm)、この範囲を第9範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第13測定領域Px13が第4測定領域Px4との組み合わせに変更されており、第4測定領域Px4は、第2測定領域Px2と第13測定領域Px13との両方に組み合わされている。その他の組み合わせは、第8範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0146】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第9範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第14測定領域Px14の長さ以下の範囲(287<d≦309(mm)、この範囲を第10範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第14測定領域Px14が第3測定領域Px3との組み合わせに変更されて、第3測定領域Px3と第5測定領域Px5との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第9範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0147】
搬送される記録シートSの長さdmm(通紙領域)が、第10範囲よりも長く、第2測定領域Px2〜第15測定領域Px15の長さ以下の範囲(309<d≦330(mm)、この範囲を第11範囲とする)の場合には、新たに通紙領域に含まれる第15測定領域Px15が第2測定領域Px2との組み合わせに変更されて、第2測定領域Px2と第4測定領域Px4との組み合わせは削除されている。その他の組み合わせは、第10範囲における組み合わせに等しくなっている。
【0148】
以上のように、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせが、搬送される記録シートSにおける搬送方向と直交する方向の長さdmmに基づいて設定されて、制御部60に記憶されている。
また、本実施形態では、記録シートSの搬送方向とは直交する方向の長さdmmによって、一対のサーモパイルの組み合わせが変更されるために、搬送される記録シートSのサイズを検出するシートサイズセンサー41(図5参照)が設けられている。このシートサイズセンサー41は、例えば、片側基準で搬送される記録シートSの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するラインセンサーによって構成される。
【0149】
なお、シートサイズセンサー41としては、このような構成に限らず、例えば、給紙カセットに収容された記録シートの側縁に接することによって記録シートの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するように、給紙カセット22内に設ける構成としてもよい。
また、シートサイズセンサー41を設けることなく、例えば操作パネルに、記録シートSのサイズをユーザーが入力する入力手段を設けて、その入力手段によって入力される情報に基づいて記録シートSの搬送方向と直交する方向に沿った長さを検出するようにしてもよい。
【0150】
本実施形態では、前述した中央基準搬送の実施形態とは、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせが異なること以外は同様になっており、図11に示されたフローチャートにおいて、タイマーによる計測時間を開始するステップS15に続いて、記録シートSにおける搬送方向とは直交する方向の長さdmmを検出する処理と、検出された長さdmmに基づいて、測定温度の最大値と最小値との差分Tppを比較する一対のサーモパイルの組み合わせを決定する処理とが実行されることになる。
【0151】
その後は、図11に示されたフローチャートにおけるステップS16以降の処理が実行される。
従って、本実施形態においても、それぞれの測定領域Pxが相互に隣接せず、しかも、両方とも通紙領域か非通紙領域に含まれる一対のサーモパイルによる測定温度の最大値と最小値との温度差Tppを比較することによって、抵抗発熱層31bに傷等の異常が生じていることを検出しているために、抵抗発熱層31bに傷等の異常を高精度で検出することができる。
【0152】
[変形例]
なお、上記の各実施形態では、第1温度センサー51および第2温度センサー52のそれぞれのサーモパイルによって所定のサンプリングタイミングで測定される測定温度の最大値Tmaxと最小値Tminとの温度差Tppを求めて、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に温度差Tppを比較する構成であったが、このような構成に限らず、例えば、各サーモパイルによる測定温度の最大値Tmaxあるいは平均温度を、それぞれ温度変化の指標値として求めて、求められた最大値Tmax同士あるいは平均温度同士を、予め設定された一対のサーモパイルの組み合わせ毎に比較する構成としてもよい。
【0153】
また、上記の各実施形態では、記録シートSが中央基準で搬送されるプリンターと、記録シートSが片側基準で搬送されるプリンターとのそれぞれについて説明したが、記録シートSを中央基準搬送と片側基準搬送とに切り替えることができるプリンターにおいても本発明は適用できる。このようなプリンターの場合には、記録シートSが、中央基準搬送と片側基準搬送のいずれで搬送されるかを検出して、中央基準搬送の場合には、実施形態1において説明した異常判定制御を実行し、片側基準搬送の場合には、実施形態2において説明した異常判定制御を実行する構成とされる。
【0154】
さらに、上記の実施形態では、定着ローラー33と加熱ベルト31とをそれぞれ別体として、加熱ベルト31の周回移動域内に定着ローラー33を配置する構成としたが、このような構成に限らず、定着ローラー33の外周面に抵抗発熱層31bを一体的に設けることによって加熱回転体を構成してもよい。
また、加熱ベルト31に加圧手段としての加圧ローラー32を圧接させて定着ニップ部Nを形成する構成であったが、定着ニップ部Nを形成するための加圧手段は、加圧ローラー32に限らずベルトを用いてもよい。さらには、加圧手段は、加圧ローラー32、ベルト等のように回転している必要がなく、固定的に設けられた加圧部材等を用いてもよい。
【0155】
さらに、上記の実施形態では、定着装置30の電源として、商用の交流電源を用いる構成であったが、直流電源を用いる構成であってもよい。
また、本発明に係る画像形成装置は、タンデム型等のカラープリンターに限るものではなく、モノクロ画像を形成するプリンターであってもよい。さらには、プリンターに限らず、複写機、複合機(MFP)、FAX等(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれであってもよい)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、プリント動作時に、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層に異常が生じたことを的確に検出する技術として有用である。
【符号の説明】
【0157】
30 定着装置
31 加熱ベルト
31a 補強層
31b 抵抗発熱層
31c 弾性層
31d 離型層
31g 電極部
32 加圧ローラー
33 定着ローラー
37 給電部材
50 温度検出部
51 第1温度センサー
52 第2温度センサー
60 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置を備えた画像形成装置であって、
前記加熱回転体の回転軸方向に分割された該加熱回転体の外周面の各分割部分を個別の測定領域として、測定領域毎に前記抵抗発熱層の温度を測定するように設けられた温度測定手段と、
前記加熱回転体の回転中、前記温度測定手段の測定値をサンプリングし、前記加熱回転体の1回転周期内における各測定領域の温度変化を指標する情報を取得する情報取得手段と、
前記ニップ部における通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定されるとともに、非通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定され、前記設定された測定領域の組み合わせ毎の前記情報の比較結果に従って、前記抵抗発熱層における異常の有無を判定する異常判定手段と、
を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記組み合わせは、対となる2つずつの測定領域である組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記複数の測定領域の組み合わせにおける一方と他方の測定領域は相互に隣接していないことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
記録シートがシート搬送経路の幅方向の中央を基準として搬送される場合、前記2つずつの測定領域の組み合わせは、前記ニップ部において、前記基準となる中央に対応した位置に対して線対称の位置関係を有していることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録シートが、シート搬送経路の幅方向の一方の側縁を基準として搬送される場合、搬送される記録シートの搬送方向とは直交する方向の長さに基づいて、前記2つずつの測定領域の組み合わせが設定されることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記定着ニップを通過する記録シートの最小サイズが予め設定されており、
前記ニップ部における最小サイズの記録シートの通紙領域内に前記測定領域が4つ以上割り当てられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記情報取得手段は、前記測定領域毎に得られた前記温度変化における最大温度と最小温度との温度差を前記情報として取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記異常判定手段は、前記測定領域の組み合わせ毎に前記温度差の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以上であった場合に、当該組み合わせにおける一方の測定領域を異常であると判定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項1】
抵抗発熱層を有する加熱回転体の外周面に加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通過させて熱定着させる定着装置を備えた画像形成装置であって、
前記加熱回転体の回転軸方向に分割された該加熱回転体の外周面の各分割部分を個別の測定領域として、測定領域毎に前記抵抗発熱層の温度を測定するように設けられた温度測定手段と、
前記加熱回転体の回転中、前記温度測定手段の測定値をサンプリングし、前記加熱回転体の1回転周期内における各測定領域の温度変化を指標する情報を取得する情報取得手段と、
前記ニップ部における通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定されるとともに、非通紙域内の全測定領域において複数の測定領域の組み合わせが設定され、前記設定された測定領域の組み合わせ毎の前記情報の比較結果に従って、前記抵抗発熱層における異常の有無を判定する異常判定手段と、
を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記組み合わせは、対となる2つずつの測定領域である組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記複数の測定領域の組み合わせにおける一方と他方の測定領域は相互に隣接していないことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
記録シートがシート搬送経路の幅方向の中央を基準として搬送される場合、前記2つずつの測定領域の組み合わせは、前記ニップ部において、前記基準となる中央に対応した位置に対して線対称の位置関係を有していることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録シートが、シート搬送経路の幅方向の一方の側縁を基準として搬送される場合、搬送される記録シートの搬送方向とは直交する方向の長さに基づいて、前記2つずつの測定領域の組み合わせが設定されることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記定着ニップを通過する記録シートの最小サイズが予め設定されており、
前記ニップ部における最小サイズの記録シートの通紙領域内に前記測定領域が4つ以上割り当てられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記情報取得手段は、前記測定領域毎に得られた前記温度変化における最大温度と最小温度との温度差を前記情報として取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記異常判定手段は、前記測定領域の組み合わせ毎に前記温度差の差分を算出し、前記差分が所定の閾値以上であった場合に、当該組み合わせにおける一方の測定領域を異常であると判定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−92726(P2013−92726A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236032(P2011−236032)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
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