画像形成装置
【課題】記録材が搬送基準からずれた状態で搬送された場合においても、ファンを大型化することなく、画像不良を発生させずに非通紙部昇温を抑制することができる画像形成装置の提供。
【解決手段】記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度を、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定することで、画像不良を発生させることなく、位置ずれ発生時の端部昇温を抑制することができる。
【解決手段】記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度を、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定することで、画像不良を発生させることなく、位置ずれ発生時の端部昇温を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着手段を有した電子写真複写機や電子写真プリンタ等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置に設けられた定着手段として、フィルム加熱方式のものが知られている。この定着手段は、セラミックス製の基板上に通電発熱抵抗層を有するヒータ、そのヒータと接触しつつ移動するフィルム、そのフィルムと接触しニップ部を形成する加圧ローラと、を有する。未定着のトナー画像を担持した記録材は定着手段のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー画像は記録材に定着される。このタイプの定着手段は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短い、すなわちオンデマンド性に優れているというメリットを有する。したがって、この定着手段を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、1枚目の画像を出力するまでの時間を短く出来る。またこのタイプの定着手段は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
上述した定着手段は、装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最大の記録材(以下、最大サイズ記録材と記す)よりも幅の小さい記録材(以下、小サイズ記録材と記す)を連続で通紙すると非通紙部が昇温する非通紙昇温という課題がある。
【0004】
定着領域を各種サイズ(幅)の記録材が通過する状況においては、記録材が通過する定着領域を通紙域、通紙域外の定着領域を非通紙域と称する。また回転時に通紙域を通過するフィルムなどの加熱部材、または加圧ローラなどの加圧部材の表面部分を通紙域通過表面、回転時に非通紙域を通過する加熱部材の表面部分を非通紙域通過表面と称することにする。
【0005】
最大サイズ記録材を通紙して定着する場合、加熱部材表面は定着領域全長域に渡って略均一な温度分布となる。しかしながら、小サイズ記録材を連続通紙して定着した場合に、加熱部材の非通紙領域の表面温度が過度に上昇する。これは、小サイズ記録材を連続的に通紙すると、小サイズ記録材の通過しない非通紙域では紙による奪熱が無い分だけ、部分的に蓄熱されるためである。
【0006】
一般的に紙による奪熱が増加する条件で、非通紙部昇温は大きくなる。例えば、単位時間当たりの処理枚数が多い(生産性が高い)場合、または記録材の坪量が大きい場合、または記録材が冷却されている低温環境で使用する場合などが挙げられる。
【0007】
小サイズ記録材の連続通紙による非通紙部昇温が生じると、加熱部材や発熱体の支持部材などがその材質固有の耐熱温度を超えて使用されることで装置の耐久寿命が短くなってしまう。
【0008】
非通紙部昇温の抑制方法としては、特許文献1に示された、冷却ファン等の冷却手段を設けて加熱部材の非通紙部昇温部分を直接冷却する方法がある。この方法では、発熱体や加熱部材の非通紙域に温度検知手段を配置し、非通紙域の検知温度に応じた風量の冷却風を非通紙域に積極的に当てることで、非通紙部昇温を抑制することが可能である。またこの方法は、記録材の幅に応じて冷却域を変える制御を行うことで記録材の異なる幅にも対応することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−187816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、定着手段のニップ部で狭持搬送される記録材の幅方向の中央が、画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準から1〜5mm程度ずれて搬送される場合がある(以下、これを位置ずれと称す)。位置ずれの要因としては、例えば、給紙カセットの記録材の側端に接触させて記録材の記録材搬送方向に直交する方向の移動を規制する規制部材の寸法のばらつきがある。また、記録材を定着手段まで搬送する搬送部材の搬送力が記録材搬送方向に直交する方向でばらつきを有する場合も位置ずれは発生する可能性がある。また、ユーザーによる給紙カセットへの記録材の積載の仕方によっても発生する場合がある。このような記録材の位置ずれが発生した場合、相対的に一方の側の非通紙域が広がることになる。
【0011】
位置ずれにより非通紙域が広がると、位置ずれが存在しない、又は、位置ずれが存在しても十分小さい場合と比較して、単位時間あたりに非通紙域に蓄熱する熱量が増大することになる。すなわち、これにより、非通紙部昇温速度も速くなる。
【0012】
ここで、特許文献1のような記録材サイズ(幅)に応じて異なる非通紙域を冷却するために送風領域が可変である送風手段を有した画像形成装置がある。しかしながら、このような画像形成装置は、位置ずれがない場合に合わせて冷却能力が設定されているため、冷却能力が位置ずれした時の非通紙部昇温速度に追いつかず、一時的に非通紙部昇温が悪化する虞がある。
【0013】
また、位置ずれを考慮し、より冷却能力の高い大型のファンを採用することも考えられるものの、装置の大型化に繋がるという課題がある。更に、冷却能力の高い大型のファンを採用したとしても、位置ずれが存在しないもしくは存在しても十分小さい場合と比較して、ファンが動作するまでの時間に加圧ローラなどの非通紙域に蓄積する熱量は大きくなるという点は変わらない。この場合は、非通紙域に蓄熱した熱量の一部が記録材にも回り込み、トナーに過剰な熱量が供給されることによる高温オフセット等の画像不良が発生するという課題もある。
【0014】
一方で、予め位置ずれが存在した場合を想定し、非通紙部昇温が顕著になる前の状態から冷却ファンが動作するよう制御する方法も考えられるものの、位置ずれが存在しない場合には過剰に非通紙域を冷却することになってしまう。その結果、トナーに供給されるはずの熱量が冷却ファンにより奪われてしまうため、加熱不良となり低温オフセット等の画像不良が発生してしまう可能性がある。
【0015】
そこで本発明の目的は、ファンを大型化することなく、記録材が位置ずれした状態で定着されても、画像不良も発生させずに非通紙昇温を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱部と、前記加熱部と共にニップ部を形成する加圧体と、を有し、トナー像を担持した記録材を前記ニップ部で搬送しながら加熱してトナー像を記録材に定着する定着手段と、装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材を前記ニップ部で搬送する際に、前記加熱部の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却するために送風する第1の送風手段と、同じく非通紙域となる他方の端部を冷却するために送風する第2の送風手段と、前記加熱部の、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域の温度を検知する中央温度検知手段と、前記加熱部の、前記第1の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段と、前記加熱部の、前記第2の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段と、を有し、前記中央温度検知手段の検知温度が目標温度になるように、前記加熱部に供給される電力が制御され、前記第1の送風手段は、前記第1の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御され、前記第2の送風手段は、前記第2の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御される画像形成装置において、記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段のうち、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度は、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷却能力の高い大型のファンを用いることなく、記録材が搬送基準からずれた状態で搬送された場合においても画像不良を発生させずに非通紙部昇温を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用可能な画像形成装置の概略断面図
【図2】実施例1の定着手段の横断側面模式図
【図3】実施例1の定着手段の縦断側面模式図
【図4】フィルムの横断側面模式図
【図5】ヒータの一例の構成模式図
【図6】実施例1の定着手段における記録材位置ずれと非通紙域の関係説明図
【図7】位置ずれが存在しない場合および3mmの位置ずれが存在した場合の連続プリント時のフィルムの表面温度分布
【図8】実施例1の定着手段を記録材の導入側から見た図
【図9】実施例1の定着手段を上方から見た図
【図10】実施例1の画像形成時におけるフローチャート
【図11】記録材の位置ずれ量と両端部サブサーミスタ検知温度の差分の絶対値の説明図
【図12】実施例2のファンの動作の制御フローチャート
【図13】実施例3の定着手段の横断面模式図および縦断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に係る定着手段を搭載する画像形成装置の一例の構成模式図である。この画像形成装置は、電子写真方式のレーザープリンタであって、ホストコンピュータ等の外部装置(不図示)より入力する画像情報に応じた画像を記録材に形成するものである。
【0021】
実施例1に示す画像形成装置は、外部装置からプリント指令を入力されると、像担持体として感光ドラム61を矢印方向に所定の速度(プロセススピード)で回転駆動する。その感光ドラム61は、その外周面が帯電器62により所定の極性及び電位に一様に帯電される。その感光ドラム61の外周面の帯電領域に対して露光手段としてのレーザースキャナ63により画像情報の書き込みがなされる。レーザースキャナ63は、外部装置からプリンタに入力される画像情報の時系列電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザー光Lを出力する。そしてレーザースキャナ63は、そのレーザー光Lにより感光ドラム61の帯電領域を走査して露光する。これにより、感光ドラム61表面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。その静電潜像は、現像器64によりトナーを用いてトナー像として現像される。感光ドラム61の外周面のトナー像は感光ドラム61の回転によって感光ドラム61の外周面とこの感光ドラム61の外周面と転写ローラ67の外周面とが接触して形成される転写ニップ部に送られる。
【0022】
一方、給送カセット68のシート積載台68a上に積載されている記録材Pは、所定のタイミングで駆動される給送ローラ69により、ピックアップされ、搬送ローラ70と搬送コロ70aとによりレジスト部へと送られる。レジスト部では、記録材Pの先端をレジストローラ71とレジストコロ71aで形成されるニップ部で一旦受け止めて記録材Pの斜行矯正を行い、所定のタイミングでその記録材Pを転写ニップ部へ給送する。即ち、レジスト部では、感光ドラム61の外周面のトナー像の先端が転写ニップ部に到達した時、記録材Pの先端も転写ニップ部に到達するように記録材Pの搬送のタイミングが制御される。
【0023】
転写ニップ部に給送された記録材Pは転写ニップ部で挟持され搬送される。そしてその記録材Pの搬送過程において転写ローラ67に印加される転写バイアスにより感光ドラム61表面のトナー像が記録材Pに転写され、記録材Pは、感光ドラム51表面から分離されて定着手段72へと搬送される。
【0024】
定着手段72は、未定着トナー像を担持した記録材Pに、定着手段72のニップ部Nで熱と圧力を付与することによって、未定着トナー像を記録材Pに定着する。そして、記録材Pをニップ部Nから排出する。
【0025】
定着手段72のニップ部Nから排出された記録材Pは中間排出ローラ73により排出ローラ74に搬送される。そして排出ローラ74がその記録材Pを排出トレイ75上に排出する。
【0026】
記録材Pが分離した後の感光ドラム61の外周面は、クリーナー65により転写残トナーが除去され、繰り返して作像に供される。
【0027】
実施例1の画像形成装置は、感光ドラム61、帯電器62、現像器64、及び、クリーナー65と、を一体化してプロセスカートリッジ66としている。そのカートリッジ66はプリンタの筐体を構成する画像形成装置本体76に対して着脱可能に装着されている。
【0028】
給送カセット68のシート積載台68aにはサイズの異なる記録材を積載するための移動可能な規制ガイド(不図示)が設けられている。その規制ガイドを記録材Pのサイズに応じて変位させその記録材Pをシート積載台68a上に積載することによって、サイズの異なる各種記録材を給送カセット68から給送ローラ69により一枚ずつピックアップすることができる。
【0029】
実施例1の画像形成装置は、A3サイズ紙対応の画像形成装置であって、プリントスピードが50枚/分(A4横)である。以上が画像形成部の構成である。
【0030】
次に、図2〜図5を用いて定着手段72について説明する。図2は定着手段72の横断側面模式図である。図3は、図2の定着手段72の縦断側面模式図である。図4は、フィルム10の横断側面模式図である。図5は、ヒータ30の一例の構成模式図である。ここからの説明において、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向である。幅とは短手方向の寸法である。また、記録材に関し、幅方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。
【0031】
この定着手段72は、加圧ローラ20を回転駆動しフィルム10を加圧ローラ20の搬送力により回転させるフィルム加熱方式のものである。
【0032】
実施例1に示す定着手段72は、加熱部として、筒状のフィルム10と、フィルム10の内面と接触しフィルム10を加熱するヒータ30と、を有する(図2)。また、フィルム10を介してヒータ30と共にニップ部Nを形成する加圧体としての加圧ローラ20を有する。更に、ヒータ30の保持部材としてのヒータホルダー41と、加圧ステー42と、加圧力を付加する手段としての加圧手段43と、フィルム10の端部規制部材としてのフランジ45と、を有する。ヒータ基板31、フィルム10、ヒータホルダー41、加圧ステー42、及び、加圧ローラ20は、何れも長手方向に細長い部材である。
【0033】
図4において、フィルム10は、耐熱性と可撓性を有する材料によりエンドレスのスリーブ状に形成されている基層11と、その基層11の外周面上に設けられている離型性層12と、を有する。また、定着性及び画質向上のために、その基層11の外周面上で、離型層12の内周面側との間にシリコーンゴムなどの弾性層13を設けても良い。
【0034】
基層11として、ポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂により薄肉の可撓性を有するエンドレスベルトに形成したものを用いている。基層11の材料は耐熱性樹脂に限られず、より熱伝導率の高いステンレス(SUS)、ニッケル(Ni)等の薄肉金属を用いても良い。
【0035】
上記基層11の外周面上には、離型性層(以下、離型層と記す)12として、PFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂を単品もしくはブレンドしてコーティングするか、あるいはチューブを被覆している。PFAとはパーフルオロアルコキシ樹脂のことであり、PTFEとはポリテトラフルオロエチレン樹脂のことであり、FEPとはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂のことである。
【0036】
実施例1では、耐久性と定着性を両立させるために、離型層12の厚みとしては5μm以上50μm以下としている。
【0037】
また、基層11と離型層12の間に弾性層13を設けても良い。弾性層13を設けると、記録材Pの担持する未定着トナー像Tを包み込むことによって、未定着トナー像に均一に熱を与えることができる。
【0038】
実施例1では、弾性層13の厚みとして、50μm以上500μm以下としている。また、弾性層13の熱伝導度としては高い方が良い。具体的には、0.5W/m・K以上であることが好ましい。そのため、ZnO(酸化亜鉛)、Al2O3 (酸化アルミニウム)、SiC(炭化ケイ素)、金属ケイ素等の熱伝導性フィラーをシリコーンゴムに混入し、熱伝導度を調整している。
【0039】
フィルム10において、フィルム10の外径は熱容量が抑えられるため小さい方が良い。従って、実施例1のフィルム10は、画像形成装置の速度(プロセススピード)等の条件を考慮し、基層11の材料にはステンレス(SUS)を用い、基層11の肉厚(厚み)は30μm、基層11の内径は24mmとしている。弾性層13は、熱伝導度1.3W/m・Kのシリコーンゴムを用い、厚みは250μmとしている。離型層12としては、PFAのコーティングを用い、離型層12の厚みは14μmである。
【0040】
図2もしくは図3において、ヒータホルダー41は、液晶ポリマー、フェノール樹脂等の耐熱性樹脂により横断面半円形状樋型に形成されている。ヒータホルダー41の下面(加圧ローラ20側の面)には、ヒータホルダー41の長手方向に沿って凹溝が設けられている。そしてこの凹溝からヒータ30の後述する保護摺動層34が露出するように凹溝によりヒータ30の基板31を保持している。そしてそのヒータホルダー41の外周にはフィルム10がルーズに外嵌されている。フィルム10が外嵌されたヒータホルダー41は、ヒータホルダー41の長手方向両端部が装置フレーム(不図示)に保持されている。
【0041】
図2および図3において、加圧ローラ20は、芯軸部21と、その芯軸部21の外周面上に設けられている少なくとも1層以上の弾性層25と、その弾性層25の外周面上に設けられている離型層24と、を有する。
【0042】
弾性層25は、定着手段72で使用した場合に十分な耐熱性及び耐久性を有し、かつ、好ましい弾性を有している材料が望ましい。シリコーンゴム又はフッ素ゴムなど一般的な耐熱性ゴム材料を用いる場合がある。また、弾性層25の厚さは、所望の幅のニップ部Nを形成することが出来る厚さであれば特に限定されないものの、2〜10mm程度であることが好ましい。
【0043】
離型層24は、弾性層25上にPFAチューブを被せることにより形成しても良いし、フッ素ゴムまたは、PTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂を弾性層25にコーティングすることによって形成しても良い。尚、離型層24の厚さは、加圧ローラ20に充分な離型性を付与することができる厚さであれば特に限定されないものの、20〜100μm程度が好ましい。
【0044】
また、弾性層25と離型層24の間には接着及び通電の目的でプライマー層や接着層が形成される場合がある。
【0045】
実施例1では、芯金21としてはφ22の鉄製芯金を用い、弾性層25には厚み4mmで0.35W/(m・k)のシリコーンゴムを用いた。離型層24としては、PFAのチューブを50um被覆させている。
【0046】
図5はヒータ30の一例の構成模式図である。ヒータ30は、フィルム10の内周面と接触してフィルム10を加熱する板状発熱体である。このヒータ30は長手方向に細長い基板31を有する。基板31は、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板、或いはポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性を有した樹脂材料を用いることがある。その基板31の表面(加圧ローラ20側の面)には、基板31の長手方向に沿って、通電発熱抵抗層32がスクリーン印刷等により線状もしくは細帯状に塗工して形成してある。通電発熱抵抗層の材料は、Ag/Pd(銀パラジウム)、RuO2(二酸化ルテニウム)、Ta2N(窒化タンタル)などを用いる。通電発熱抵抗層32は、厚み10μm程度、幅1〜5mm程度である。また、基板31の表面には、通電発熱抵抗層32に給電するための給電電極33が基板31の長手方向両端部の内側に設けられている。また、基板31の表面には、通電発熱抵抗層32の熱効率を損なわない範囲で通電発熱抵抗層32を保護する保護摺動層34を設けてもよい。ただし、保護摺動層34の厚みは十分薄く、通電発熱抵抗層32の表面性を良好にする程度が好ましい。保護摺動層34としては、ポリイミドやポリアミドイミドなどの耐熱性樹脂やガラスコートなどが用いられることが多い。
【0047】
ヒータ30において、基板31として熱伝導性の良好な窒化アルミ等を使用する場合には、通電発熱抵抗層32は基板31の裏面(加圧ローラ20と反対側の面)に形成しても良い。
【0048】
図2において、加圧ステー42は剛性を有する金属等の材料により横断面下向きU字形状に形成してある。この加圧ステー42は、フィルム10の内側においてヒータホルダー41の上面(加圧ローラ20と反対側の面)の短手方向中央に配置されている。そして装置フレームに保持されているフランジ45を介して加圧ステー42の長手方向両端部を加圧ばね等の加圧手段43により加圧ローラ20の軸線に向けて付勢する。これによってヒータ30の基板31の表面をフィルム10を介して加圧ローラ20表面に加圧し加圧ローラ20の弾性層25が基板31に沿って弾性変形する。これによって加圧ローラ20表面とフィルム10表面との間にトナー像Tの定着に必要な所定幅のニップ部Nが形成される。
【0049】
次に、定着手段72の定着動作について説明する。図3で示した制御手段としての制御部44は、プリント指令に応じて所定の加圧ローラ20の駆動制御シーケンスを実行する。駆動源としてのモータMを駆動して加圧ローラ20の芯軸部21の長手方向端部に設けられている駆動ギアGを回転させる。これにより加圧ローラ20は所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向へ回転する。その際、図2で示したニップ部Nにおける加圧ローラ20表面とフィルム10表面と間に働く摩擦力によってフィルム10に加圧ローラ20の回転方向とは逆向きに回転する回転力が作用する。これにより、フィルム10は、フィルム10の内周面がヒータ30の保護摺動層34に接触しながらヒータホルダー41の外周を加圧ローラ20とほぼ同じ周速度で矢印方向へ従動回転する。
【0050】
また、制御部44は、定着手段72の状態に応じて、後述する温度制御シーケンスを実行し、図5で示した電源37からヒータ30の給電電極33を通じて通電発熱抵抗層32に通電する。まず、ヒータ30の基板31の裏面に、中央温度検知手段としてのメインサーミスタ35が設けられており、それによってヒータ30の温度が検知される。メインサーミスタ35が設けられている記録材搬送方向に直交する方向の位置は、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域内である。実施例1の温度制御シーケンスは、例を挙げると、次のようなものがある。プリント指令がない場合において予備加熱を行うシーケンス、メインサーミスタ35の検知温度が記録材を定着することが可能な目標温度になるようにヒータ30を加熱する立上げを行うシーケンス、その目標温度を維持するプリント温調シーケンスなどである。
【0051】
ここでは例えば、立上げシーケンスを実行した後、プリント温調シーケンスを実行した場合の一連の定着動作について説明する。
【0052】
制御部44は、プリント指令を受けると、立上げシーケンスを実行し、フィルム10を加熱する。装置は、メインサーミスタ35の温度検知信号を制御部44に出力する。次に、制御部44は、メインサーミスタ35からの温度検知信号を取り込み、その温度検知信号に基づいてメインサーミスタ35の検知温度が目標温度であるかどうかを判断する。それが目標温度であると判断すると、プリント温調シーケンスに移行し、その検知温度が目標温度に維持されるよう、通電発熱抵抗層32(ヒータ30)への通電(電力供給量)を制御する。つまり、制御部44は、メインサーミスタ35からの温度検知信号に基づきメインサーミスタ35によるヒータ30の検知温度が目標温度となるように通電発熱抵抗層32に印加される電圧のデューティー比や波数などを制御する。
【0053】
図2において、加圧ローラ20及びフィルム10の回転が安定し、且つ、ヒータ30のメインサーミスタ35の検知温度が目標温度に維持された状態で、未定着トナー像Tを担持する記録材Pがニップ部Nの記録材搬送領域内に搬送される。その記録材Pはニップ部Nで挟持搬送される。その搬送過程において記録材Pにはフィルム10からの熱とニップ部Nの圧力が付加され、トナー像Tは記録材Pの上に定着される。
【0054】
次に、図6を用いて記録材の位置ずれ検知について説明する。図6は、フィルム10及び加圧ローラ20と、記録材Pと、通紙域及び非通紙域と、の記録材搬送方向に直交する方向の位置関係を表した図である。ここで図6(a)は記録材Pの位置ずれが存在しない場合であり、図6(b)は記録材Pの位置ずれが存在する場合である。
【0055】
実施例1の画像形成装置では、装置で搬送可能な全てのサイズの記録材は、その幅方向の中央が画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準に一致するように搬送される。図6のSは記録材Pの幅方向中央を表した仮想線であり、S’は画像形成装置の搬送基準を表した仮想線である。ここで言う「位置ずれ」とは、定着手段72のニップ部で狭持搬送される記録材の幅方向の中央が、画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準から1〜5mm程度ずれて搬送される状態のことである。
【0056】
図6のW1は装置で搬送可能な最大幅の記録材の通紙幅(最大通紙幅)である。実施例1において、この最大通紙幅W1はA4横サイズ幅297mm(A4横送り又はA3縦送り)である。ヒータ30の長手方向の有効発熱領域幅Aはこの最大通紙幅W1よりも少し大きくしてある。図6のW3は装置で通紙可能な最も幅の小さい記録材の通紙幅(最小通紙幅)である。実施例1において、この最小通紙幅W3はB5縦サイズ182mm(B5縦送り)である。W2は上記の最大幅記録材と最小幅記録材の間の幅の記録材Pであるレターサイズ幅279mm(レター横送り又はレジャー縦送り)を示している。
【0057】
図6(a)においては、記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sと装置の搬送基準を表した仮想線S’の記録材搬送方向に直交する方向の位置は等しい。ここで、通紙幅W2の記録材Pを通紙した場合における図中の記録材搬送方向に直交する方向の両端部のそれぞれの非通紙域をa1およびa2と定義する。a1の幅とa2の幅は等しく、最大幅通紙幅W1と通紙幅W2との差分の半分((W1−W2)/2)と一致する。
【0058】
同様に通紙幅W3の記録材Pを通紙した場合における図中の記録材搬送方向に直交する方向の両端部の非通紙域をb1およびb2と定義すると、次式を満たす。
b1=b2=(W1−W3)/2
【0059】
次に、図6(b)を用いて位置ずれが存在した場合の非通紙域について説明する。ここで、非通紙域a1’とa2’の和は、最大幅通紙幅W1と通紙幅W2との差分の幅と等しい。同様に、非通紙域b1’とb2’の和は、位置ずれが存在した場合における最大通紙幅W1と最小通紙幅W3の差分の幅と等しい。図6(b)に示したように、装置の搬送基準を表した仮想線S’に対して、通紙幅W2の記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sが記録材搬送方向に直交する方向で左側にcだけずれて搬送された場合について説明する。非通紙域a1’およびa2’は、位置ずれが存在しない場合のa1およびa2と比較して次のように増減することになる。
a1’=a1−c
a2’=a2+c
【0060】
同様に、通紙幅W3の記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sが記録材搬送方向に直交する方向で左側にcだけずれて搬送された場合、非通紙域b1’およびb2’は、位置ずれが存在しない場合のb1およびb2と比較して次のように増減することになる。
b1’=b1−c
b2’=b2+c
このように位置ずれが存在すると、一方の側の非通紙域が広がり、他方の側の非通紙域は狭まる。
【0061】
次に、位置ずれが存在した場合、および位置ずれが存在しない場合の非通紙部昇温について説明する。図7は、位置ずれが存在しない場合および3mmの位置ずれが存在した場合のフィルム10の長手方向の表面温度を測定した結果を示したグラフである。尚、図7では位置ずれが存在しない場合の結果を破線で示し、3mmの位置ずれが存在した場合の結果を実線で示した。また、図7には左右両端部のサブサーミスタ38aおよび38bの長手方向配設位置も併記した。ここで、画像形成装置として、A3サイズ紙対応のプリントスピードが50枚/分(レター紙横)で加圧ローラ表面移動スピードを(周速)が235.6mm/secであるレーザービームプリンタを使用した。低温低湿環境(15℃/10%)において、レター横サイズ紙(120g/mm2)を50枚/分で25枚連続プリントした時のフィルム10の表面温度を測定した。尚、連続プリント枚数が25枚と少ないため、位置ずれが存在していたとしても非通紙部昇温は小さく、後述する冷却ファンの動作は行われなかった。
【0062】
位置ずれが存在しない場合について説明する。記録材搬送方向の両端部の非通紙域の温度は同程度であった。これに伴い、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分も1.4℃と小さいものであった。また、非通紙部昇温についても、問題になるほどではないことがわかった。
【0063】
次に、位置ずれが存在する場合について説明する。3mmの位置ずれが存在した場合は、記録材搬送方向の両端部の非通紙域の温度差は大きく、位置ずれにより非通域が広がった側の非通紙部昇温が顕著であった。これに伴い、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度差は14.2℃と、位置ずれが存在しない場合と比較して大きくなった。
【0064】
以上により、サブサーミスタ38aの検知温度とサブサーミスタ38bの検知温度の差分を監視することで、特定方向への位置ずれの有無を検知することが可能であることがわかる(以後、位置ずれ検知と記す)。
【0065】
ここから、図2の定着手段の横断側面模式図、図8の定着手段を記録材の導入側から見た図、および図9の定着手段を上方から見た図を用いて、送風冷却器口部50の説明を行う。
【0066】
図2および図9で示した送風冷却機構部50は小サイズ記録材を連続通紙(小サイズジョブ)した際に生じる、フィルム10の非通紙域の昇温を送風により冷却する送風手段としての冷却ファン51を有する。
【0067】
また、この冷却ファン51の風をフィルム10まで誘導する送風ダクト52を有する。この送風ダクト52は、フィルム10に対向する部分に開口部53を有する。また、図8および図9に示した通り、この開口部53の開口幅を記録材Pの幅に応じて調整し冷却ファン51の送風領域を制限するシャッタ54と、このシャッタ54を駆動するシャッタ駆動手段(開口幅調整手段)55を有する。
【0068】
ここで、冷却ファン51、送風ダクト52、送風口53、シャッタ54はフィルム10の長手方向左右部に配置されている。冷却ファン51は、軸流ファンを用いてもよいがシロッコファンなどの遠心ファンを用いてもよい。
【0069】
また、左右のシャッタ54は、送風口53を形成して左右方向に伸びている支持板56の板面に沿って左右方向にスライド移動可能に支持させてある。この左右のシャッタ54をラック歯57とピニオンギア58とで噛みあわせて、ピニオンギア58を不図示のモータで正転または逆転駆動する。これにより、左右のシャッタ54が連動してそれぞれに対応する送風口53に対して左右に開閉動作するようにしてある。上記の支持板56、ラック歯57、ピニオンギア58、モータによりシャッタ駆動手段55が構成されている。
【0070】
制御部44には、ユーザーによる使用する記録材のサイズの入力や、給紙カセットの記録材幅自動検出機構(不図示)といった情報に基づき通紙される記録材の幅がインプットされる。そして、制御回路44は、その情報に基づき、シャッタ駆動手段55を制御する。すなわち、モータを駆動してピニオンギア58を回転させ、ラック歯57によりシャッタ54を移動することで送風口53を記録材幅に応じた量だけ開いて冷却ファン51の送風領域を制限できる。
【0071】
制御部44は、記録材の幅の情報がA3サイズなどの大サイズ記録材であるときは、シャッタ駆動手段を制御して、図8(a)及び図9(a)のように、シャッタ54で送風口53を完全に閉ざした全閉位置に移動する。また、記録材の幅の情報がLTR横サイズ幅の小サイズ記録材であるときは、図8(b)、図9(b)のようにシャッタ54を移動させ、送風口がレター横サイズに応じた分だけ開く。またレター縦送り、B5縦送りなどの小サイズ記録材である時は、シャッタ54を、それぞれの記録材の非通紙部に対応する部分だけ送風口53を開いた位置に移動する。
【0072】
ここでは、実施例1における送風冷却機構部50のファン51の動作について説明する。尚、説明のため、図9で記録材搬送方向に直交する方向に2つ配設されたファン51をそれぞれ第1の送風手段としてのファン51a及び第2の送風手段としてのファン51bと呼ぶこととする。
【0073】
装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材をニップ部で搬送する際に、ファン51aはヒータ30の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却し、ファン51bは非通紙域となる他方の端部を冷却する。
【0074】
また、ヒータ30の、ファン51aで送風する上記の非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段としてのサブサーミスタ38aと、ファン51bで送風する上記の非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段としてのサブサーミスタ38bを有する。
【0075】
尚、サブサーミスタ38aおよび38bは、それぞれ温度を検知するヒータ30の非通紙域に対応するフィルム10の基層内面に弾性的に接触させて配設させてもよい。
【0076】
以降、Tsub_aをサブサーミスタ38aの検知温度、及び、Tsub_bをサブサーミスタ38bの検知温度と、定義する。
【0077】
図9で示した、制御部44はサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度Tsubを基準に、各々の送風冷却機構部50のファン51aおよび51bの動作開始及び停止を行う。すなわち冷却ファン51aの動作開始及び停止を決定するのは、サブサーミスタ38aの検知温度Tsub_aとし、冷却ファン51bの動作開始又は停止を決定するのは、サブサーミスタ38bの検知温度Tsub_bとする。
【0078】
実施例1では、ファン51aは、サブサーミスタ38aの検知温度がファンの動作開始温度Tfan_on以上となった場合に動作開始し、サブサーミスタ38aの検知温度が、ファン動作停止温度Tfan_off以下となった場合に動作停止するようにした。実施例1では、ファン51bは、サブサーミスタ38bの検知温度がファンの動作開始温度Tfan_on以上となった場合に動作開始し、サブサーミスタ38bの検知温度が、ファン動作停止温度Tfan_off以下となった場合に動作停止するようにした。記録材の位置ずれがない場合のファンの動作開始温度Tfan_onは、T_refとする。
【0079】
ここで、非通紙域の温度上昇速度及び温度分布が記録材サイズ(幅)によって異なるので、ファン51aおよび51bを動作するファン動作開始温度T_refを記録材のサイズ(幅)に応じて異なるものにしても良い。フィルム10の耐久性を高めるために、記録材のサイズ(幅)毎に非通紙域の温度の最大値がフィルム使用上限温度以下となるように設定すれば良い。
【0080】
また、実施例1ではTfan_offをT_refよりも10℃低くして、冷却ファンにより効率的に冷却を行い、かつ過剰な冷却を防止する。
【0081】
次に、制御部44は記録材幅Wに基づいたシャッタ54の制御信号をシャッタ駆動手段55に送り、モータを駆動させてシャッタ54を記録材幅Wに合わせた位置に移動させる。すなわち、記録材幅によって異なる非通紙域に応じた量だけ送風口部分を開放することでファン51aおよび51bからの風を定着手段72の非通紙域に当てるのである。風を当てることにより非通紙域は冷却され温度が低下する。
【0082】
図10に基づいて、記録材を連続プリントした場合の非通紙部昇温についての説明をする。尚、説明するのは、前述のプリント温調シーケンスが実行されている状態である。
【0083】
プリント信号を受信すると(Step1)、ヒータ30への通電を開始し、定着手段72の温度立上げシーケンスを開始する。メインサーミスタ35の検知温度が目標温度に達すると、その目標温度を維持するようにプリント温調シーケンスおよびプリント動作を開始し、画像形成を行う(Step2)。またプリント信号に含まれる記録材の情報に基づき(Step3)、シャッタ54の開口量を決定する(Step4)。次に位置ずれ検知が有効な状態かどうか判断し(Step5)、有効な場合は、以下の式によりサブサーミスタ38aの検知温度とサブサーミスタ38bの検知温度の差分の絶対値ΔTを計算する(Step6)。
ΔT=|Tsub_a−Tsub_b|
【0084】
ここで、Step5の位置ずれ検知有効判断に関して説明する。上記の通り、位置ずれ検知はStep6のΔTの計算から行う。ここで、ΔTの計算の直前までに前のプリントジョブで何れかのファンが動作していた場合、位置ずれによるΔTの変動に加え、ファンの冷却によるΔTの変動もありえるため、結果的に位置ずれの検知が精度良く行われない可能性がある。そのため、位置ずれ検知は、全てのファンが動作停止してから所定時間経過後に実施する必要がある。また、位置ずれ検知は、記録材を所定枚数定着した後に実施しても良い。
【0085】
そして、ΔTが所定値以上であるか判断し(Step7)、所定値以上の場合、Tsub_a及びTsub_bのうち高温の側のファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizure、他方のTfan_onをT_refとする。
【0086】
ここでT_ichizureは、記録材の位置ずれがある場合における冷却ファンの動作開始温度であり、位置ずれがない場合の冷却ファンの動作開始温度T_refよりも低い温度である。尚、ΔTおよび位置ずれ検知有効判断の詳細に関しては後述する。
【0087】
これにより、記録材の位置ずれで非通紙部昇温速度が大きくなる側(記録材が寄った側と反対側)のファンを、位置ずれのない場合よりも低い動作開始温度で動作させることで、早期から非通紙部昇温を抑制することが可能となる(Step8)。一方、Step7でΔTが所定値より小さい場合は、位置ずれが存在していたとしても、非通紙部昇温に対する寄与は小さいことが予想されるため、ファンの動作開始温度はT_refとする(Step9)。
【0088】
プリントを継続した場合には、少なくとも一方のサブサーミスタの温度Tsubがファン動作開始温度Tfan_onよりも高くなると(Step10)、そのサブサーミスタの有る側のファンは、予め規定されたファンの動作処理を行う(Step11)。ファンの動作開始後、画像形成が終了していなければ(Step12)、Step3へ戻る。
【0089】
ここで、Step10で両側のサブサーミスタの温度Tsubがファン動作開始温度Tfan_onよりも低い場合も、画像形成が終了していなければ(Step13)同様にStep3に戻る。
【0090】
次にStep11のファン動作処理に関して説明する。尚、図10ではこれまで説明してきたフローとは別に、ファン動作処置と記述して図中右側で説明している。まず、サーミスタ検知温度がTfan_on以上である全てのファンの動作を開始する(Step20)。ここで全てと説明したのは、両方のサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度がTfan_on以上である場合を想定したためである。当然であるが、一方の側のサブサーミスタの検知温度のみがTfan_on以上であった場合は、それに対応したファンのみ動作させる。次に画像形成が終了であるか判断し(Step21)、画像形成が終了していれば、Tfan_offと関係なく、動作しているファンの動作を停止し(Step22)、ファン動作処理を終了する。Step21で画像形成が終了していない場合は、今度はサーミスタ検知温度がTfan_offより低いかどうかを判断する(Step23)。そして、Tfan_offより低い側のファンの動作を停止する(Step24)。これは、ファンにより非通紙域が所定温度まで冷却された場合の、ファン動作停止の処理である。Step24で全てのファンが停止状態となったら(Step25)、ファン動作処理を終了する。またStep23で全てのサブサーミスタの検知温度がTfan_off以上であった場合、およびStep25で全てのファンが動作停止状態にない場合は次のようにする。Step20に戻り、再度サブサーミスタの検知温度を監視し、ファン動作開始温度以上であるかを判断する。すなわちファン動作処理においては、各々のサブサーミスタの検知温度を監視し、Tfan_on以上であればファンを動作開始し、Tfan_offより小さければ、ファンの動作停止をするという処理を繰り返す。尚、繰り返しの説明になるが、ここで言うTfan_onはStep5からStep9までの判断により異なる。本説明においては、ΔTが所定値以上である場合は、サブサーミスタの検知温度が高温の側のTfan_onをT_ichizureとし、他方の側のTfan_onをT_refとした。また本説明においては、ΔTが規定値より小さい場合は、何れの側においてもTfan_onをT_refとした。
【0091】
ここで、実施例1では、Step7のΔTが所定値以上であればΔTの値に関わらず、高温側のファン動作開始温度をT_ichizureに変更した。しかしながら、ΔTの値が大きければ、それだけ大きな位置ずれが発生していることが想定できるため、ΔTが大きい程、高温側のファン動作開始温度を低くして早期に非通紙部昇温を抑制しても良い。
【0092】
また、実施例1では、Step7のΔTが所定値以上の場合、低温側のファン動作閾値を一律T_refとするようにした。しかしながら、Step7でΔTが所定値以上であった場合は、低温側では位置ずれによって通紙域に風が当たっている状態が予想される。従って、端部昇温速度も遅いので、低温側のファン動作開始温度を位置ずれがない場合のファン動作開始温度(T_ref)よりも高めに設定しても良い。
【0093】
実施例1の冷却ファンの制御を用いて、非通紙部昇温がより顕著な側のファン動作開始プリント枚数、サブサーミスタで検知した非通紙部昇温の最大到達温度、高温オフセット、および低温オフセットの有無を評価した。評価にはA3サイズ紙対応のプリントスピードが50枚/分(レター紙横)で加圧ローラ表面移動スピードを(周速)が235.6mm/secであるレーザープリンタを使用した。
【0094】
また、次のような条件下で評価を行った。記録材Pは図6の装置の搬送基準から長手方向(記録材搬送方向に直交する方向)で左側に3mm位置ずれした状態で、低温低湿環境(15℃/10%)にて、レター横サイズ紙(120g/mm2)を50枚/分で500枚連続プリントした。実施例1においては、前のプリントジョブでファンを動作させていた場合は、冷却ファン51aおよび51bの両方が動作を停止してから5枚以上画像形成された場合に、位置ずれ検知有効とする。こうすることで、冷却ファン51aもしくは51bの過去の動作が位置ずれ検知精度に影響しないようにする。また、ΔTが所定値以上であった場合には冷却ファンの動作開始温度Tfan_onを265℃(T_ref)から10℃下げて255℃(T_ichizure)とした。ここでその時の開口幅から送風される風量は、0.062m^3/minとした。これは、実施例1の条件において、定着手段72の非通紙部過昇温の防止および画像不良低減という観点での最適条件であった。
【0095】
ここでは、位置ずれを判断する所定値を10℃とする。その理由について図11を用いて説明する。図11は上記の条件で連続プリントを実施した際の、記録材Pの位置ずれ量と、各位置ずれ量における連続プリント枚数毎のΔTの関係を示したものである。尚、ここで示したのは、連続プリントの1枚目から20枚目の結果であり、何れの条件でも冷却ファンは動作していなかった。図11において、実線は1mmの位置ずれが存在した場合、一点鎖線は3mmの位置ずれが存在した場合、点線は5mmの位置ずれが存在した場合の連続プリント枚数とΔTの関係である。図から位置ずれを判断する所定値を5とした場合、位置ずれの検知タイミングは、1mm位置ずれ時は連続プリントが18枚目、3mm位置ずれ時は連続プリントが9枚目、5mm位置ずれ時は連続プリント5枚目であることがわかる。
【0096】
このように、位置ずれを判断する所定値を比較的小さく設定した場合、少ないプリント枚数で位置ずれを検知することができる。しかしながら、比較的位置ずれ量が小さく、冷却ファンの動作を早期に行う必要がない場合においても、位置ずれが存在すると検知する可能性がある。図11より、位置ずれを判断する所定値を5℃として、位置ずれが存在すると検知した場合、位置ずれ量が1mmと小さい場合でも連続プリントの18枚目で位置ずれが存在すると判断するため、T_ichizureで冷却ファンを動作してしまう。その結果、実施例1の評価では、実際に低温オフセットの発生が認められた。
【0097】
次に、位置ずれを判断する所定値を比較的大きな15℃に設定した場合、過剰冷却による弊害は抑制できるものの、位置ずれの検知に要する連続プリント枚数が増え、T_ichizureで冷却ファンを動作する動作開始タイミングが遅くなった。また位置ずれが大きく非通紙部昇温速度が速い場合においては、位置ずれを検知する前にサブサーミスタが通常の冷却ファン動作開始温度T_refを検知してしまい、T_ichizureでの冷却開始ができない恐れもある。図11より、位置ずれを判断する所定値が15℃以上で位置ずれが存在すると検知した場合、位置ずれ量が小さい場合にT_ichizureで冷却ファンが動作し低温オフセットが発生することは認められなかった。一方で、位置ずれ量5mmと大きい場合においては、位置ずれが検知された時点でサブサーミスタがT_refである265℃を検知してしまった。よって、T_ichizureである255℃(T_ref−10℃)での冷却ファン動作が行えず、定着手段72が過昇温してしまうことが認められた。
【0098】
以上のように、位置ずれを判断する所定値は、上記のような弊害を勘案し決定する必要がある。実施例1においては、位置ずれを判断する所定値を10℃とすることで、位置ずれ量が小さい場合及び大きい場合においても非通紙部昇温の抑制と画像不良の抑制を両立することが可能となった。
【0099】
表1には実施例1の冷却ファン制御を用いた場合の、非通紙部昇温がより顕著な側のファン動作開始プリント枚数、サブサーミスタで検知した非通紙部昇温の最大到達温度、高温オフセット、および低温オフセットの有無をまとめる。また、表1には比較のため、比較例1として位置ずれ検知を実施せず、冷却ファンの動作開始温度をT_refのままとして、実施例1と同様に記録材Pは図6の長手方向左側に3mm位置ずれした状態での結果を併記した。また、比較例2として位置ずれ検知を実施せず、冷却ファンの風量を0.093m^3/minと大きくして、実施例1と同様に記録材Pは図6の長手方向左側に3mm位置ずれした状態での結果も併記した。さらに比較例3として、位置ずれ検知を実施せず、記録材Pの位置ずれがない状態で、冷却ファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizure(T_ref−10℃)とした場合の結果も併記した。尚、これら以外の条件は実施例1と同様で行った。
【0100】
【表1】
【0101】
表1より、比較例1では、定着手段72は装置寿命に影響を及ぼす可能性がある温度までオーバーシュートした。これは、位置ずれにより非通紙部が広がった側の非通紙部昇温速度が大きく、位置ずれがない場合を想定したファン動作開始温度T_refで冷却ファンを動作しても、冷却能力が追いつかないためである。また冷却ファンが動作するまでの間、非通紙域に蓄熱された熱量の一部が記録材Pに回り込み、高温オフセットの画像不良の発生が認められた。
【0102】
次に、比較例2では、比較例1と比べて冷却ファンの風量を増加させたことにより、位置ずれにより非通紙部が広がった側の非通紙部昇温速度でも対応できて、一時的な定着手段の過昇温は防止できた。
しかしながら、位置ずれを想定して、風量の大きいより大型のファンを採用する必要があるので、装置が大型化してしまうという課題がある。更に、比較例2でも、高温オフセットの画像不良の発生が認められた。
【0103】
ここで、繰り返しになるが、高温オフセットの発生の理由を説明しておく。比較例2のように、風量をより大きくしたとしても、ファンの動作開始タイミングが変わらなければ、冷却ファンが動作するまでの間、加圧ローラに熱が蓄積し続ける。その結果、ファンが動作開始しても、その蓄積した熱量奪うのに時間を要し、熱が記録材に回り込み、トナーの過剰な熱を加えてしまうことが原因である。
【0104】
さらに、比較例3では、位置ずれが存在しない状態において、実施例1で位置ずれを検知した場合相当のファン動作開始温度T_ichizure(T_ref−10℃)でファンを動作した。その結果、最大到達温度および高温オフセットに関しては、問題は認められなかった。しかしながら、位置ずれがないのにもかかわらず、冷却ファンを早い段階で動作させているため、定着手段から過剰な熱量を奪ってしまい低温オフセットが発生した。
【0105】
このように、位置ずれ検知を実施していないこれら比較例においては、定着手段の過昇温もしくは、画像不良の発生の両者を抑制することはできなかった。
【0106】
一方、実施例1においては、連続プリント21枚時点で位置ずれを検知した。そして、ファン動作開始温度T_ichizureをT_ref−10℃とした。その後、連続プリントが進み比較例より早期の31枚目に冷却ファンの動作することができた。これにより早期から非通紙昇温を抑制できたため、定着手段の過昇温も比較例2とほぼ同等の水準で抑えることができた。さらに、より早期に冷却ファンの動作開始を行うことができたため、高温オフセットも発生しなかった。
【0107】
このように実施例1では、連続プリント中の記録材Pの位置ずれを検知し、位置ずれにより非通紙部昇温が顕著となった側(記録材が寄った側と反対側)の冷却ファンをより低い動作開始温度で動作するものである。その効果として、冷却ファンの風量を増やすことなく、過剰に冷却することなく、位置ずれ発生時の端部昇温速度上昇を抑制できる。
【実施例2】
【0108】
実施例2は、実施例1と記録材Pの位置ずれ検知を行うタイミングが異なる。実施例1では位置ずれ検知を連続プリント(プリント温調シーケンス)の間に行っていたのに対して、実施例2では立上げシーケンス等の間に行う。実施例2で想定しているのは、実施例1において実行される連続プリント枚数が少なかった場合である。
【0109】
すなわち、記録材Pの位置ずれが存在した状態で連続プリント実行したことにより、非通紙域への蓄熱度合いは大きいものの、プリント枚数が少ないために非通紙部昇温が顕著になる前にプリント動作が終了してしまう場合が考えられる。この場合、サブサーミスタ38が、位置ずれが存在した場合の冷却ファン動作閾値温度T_ichizureを検知する前に連続プリントが終了する可能性がある。この状態で前回の連続プリントから、時間を経ずに次の連続プリントが実行された場合、前回までの連続プリントにおいて非通紙域に蓄熱した熱量が失われず、結果的に非通部昇温に不利な状態で次回の連続プリントが実行される虞がある。この場合、実施例1を採用したとしても、位置ずれにより非通紙域が広がった側の非通紙部昇温速度が非常に速い。従って、連続プリント中に位置ずれを検知した時点でサブサーミスタ38の検知温度は、既に位置ずれが存在しない場合の冷却ファン動作閾値温度であるT_refに到達していまっている場合がある。そのため連続プリント実行前に、位置ずれが検知可能であれば、予め位置ずれに応じた冷却ファンの動作開始温度を設定しておくのが望ましい。実施例2では、これらの状況を鑑みてなされる措置である。尚、その他の構成は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0110】
前述の通り、非通紙部昇温は、記録材Pが通過しない非通紙域において、記録材Pによる奪熱が無い分だけ、部分的に蓄熱されるために発生する。ここで、定着手段72を構成する部材のうち、例えば加圧ローラ20に比較的熱容量の大きな部材を採用した場合、連続プリントを実行中でなくとも、これまでの記録材Pの搬送位置の履歴が加圧ローラ20の長手方向の温度むらとして残る場合がある。そして加圧ローラ20の温度むらは、サブサーミスタ38で検知することが可能である。これまでの連続プリントで位置ずれが発生した場合、位置ずれにより非通紙域が広がった側の加圧ローラ20にはより多くの熱量が蓄積されている。よって、立上げシーケンス実行中のサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTから前回の連続プリント時の位置ずれを検知することができる。ここで前回の連続プリントで位置ずれが発生した場合、給紙カセットの用紙の状態が変わらなければ、次回以降の連続プリントの際にも同等の位置ずれが発生することが想定される。そこで、立上げシーケンス実行中に、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTが所定値以上であれば、サブサーミスタの検知温度の高い側(記録材が寄った側と反対)の冷却ファンの動作開始温度をT_refよりも低い温度に変更する。その結果、早期に冷却ファンを動作することで非通紙部昇温を抑制することが可能となる。
【0111】
図12を用いて実施例2のフローを説明する。まず、プリント信号を受信すると(Step30)、ヒータ30への通電を開始し、定着手段72の温度立上げシーケンスを開始する(Step31)。次にこれからプリントされる記録材Pの給紙カセットが、前回プリントに使用されたものと同じであるか判断する(Step32)。さらに前回プリント時からカセットの開閉が無いか判断する(Step33)。Step32、およびStep33で、給紙カセットが前回と同じであり、かつ前回プリント時から給紙カセットの開閉が無い場合は、位置ずれ検知が有効かどうか判断する(Step34)。ここで位置ずれ検知有効判断に関しては、実施例1で説明済みのため、説明は省く。位置ずれ検知が有効であると判断された場合、両端部のサブサーミスタ38aと38bの検知温度の差分の絶対値であるΔTを計算する(Step35)。そしてΔTが所定値以上であるか判断し(Step36)、所定値以上であればより高温を検知した側のファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizureに、他方のTfan_onをT_refとする(Step37)。ここでT_ichizureは実施例1同様にT_refより低い。一方、Step36でΔTが所定値より小さい場合は、両方のファンの動作開始温度をT_refとする(Step38)。またStep32からStep34までにおいて、ひとつのStepでもYesに該当しなかった場合もStep38へ移行する。これは、前回プリントとこれから行うプリントにおいて、記録材Pの位置ずれの状況が異なっている可能性がある場合の措置である。その後、プリント温調シーケンスに移行して画像形成を開始し(Step39)、記録材情報の入手(Step40)と、冷却ファンのシャッタ開口(Step41)を実行する。連続プリント中においてサブサーミスタ検知温度がTfan_on以上であれば(Step42)、予め規定されたファンの動作処理を行う(Step43)。ファン動作処理実施後、画像形成が終了していなければ(Step45)、Step42へ戻る。ここで、Step42で両側のサブサーミスタの検知温度Tsubがファン動作閾値温度よりも低い場合も、画像形成が終了していなければ(Step44)同様にStep42へ戻る。尚、Step50からStep55までのフローに関しては実施例1で説明したStep20からStep25までのフローと同じであるため、説明は省略する。
【0112】
実施例2では、位置ずれ検知有効判断は、冷却ファン51aおよび51bの両方が動作を停止した状態で10秒以上経過した後で行う。これは、直前プリントでの冷却ファン51aもしくは51bの冷却動作によって、位置ずれ検知精度が低下するのを十分に小さくするためである。そして立上げシーケンス実行中にサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTが15℃以上であった場合、サブサーミスタの検知温度の高い側の冷却ファンの動作開始温度T_ichizureをT_refから10℃下げる。これにより、直前までの連続プリントにおいて、加圧ローラに位置ずれに起因した非通紙域の蓄熱が行われていたとしても、効果的に冷却ファンを動作することが可能となり、非通紙域の過昇温と画像不良の発生は認められなかった。
【0113】
さらに立上げシーケンスの実施中にサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値が所定値以上であった場合、一方の側の非通紙域に蓄熱している熱量が他方の非通域と比べて大きいことがわかる。この場合、サブサーミスタの検知温度が高い側では、より非通紙部昇温に不利な状態で連続プリントが始まることとなり、定着手段72の過昇温や画像不良が発生する可能性が高まる。そのため、記録材Pが定着手段72を通過する温調シーケンス中のファン動作開始温度Tfan_onの他に、立上げシーケンス中等の記録材Pが定着手段72を通過しないファン動作開始温度Tfan_on_2を別途設けても良い。そして、立上げシーケンスの最中から冷却ファンを動作させることで、定着手段の非通紙部昇温に不利になる側を予め冷却し、非通紙昇温を抑制した状態で連続プリントを実行しても良い。
【実施例3】
【0114】
実施例3は、実施例1及び2と記録材Pの位置ずれ検知する手段が異なる。実施例1及び2では、記録材の位置ずれ検知をサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTから行った。これに対して、実施例3では記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部を検知する記録材端部検知手段を用いて行う。尚、その他の構成は実施例1および2と同様であるため説明を省く。
【0115】
図13は実施例3における記録材端部検知手段の配設位置を示した図である。ここで図13(a)は記録材端部検知手段の配設位置を示した定着手段の横断面図であり、図13(b)は記録材端部検知手段の検知範囲を示した定着手段の縦断面図である。
【0116】
まず図13(a)を用いて、記録材端部検知手段の配設位置の説明をする。ここで、記録材端部検知手段とは、定着手段72の記録材搬送方向上流に配設し、記録材Pの長手方向の端部を検知する部材である。実施例3では、記録材Pを定着手段72に案内する上側記録材案内部材80に、発光部を下向きにした発光素子82を配接し、下側記録材案内部材81に、受光部を上向きにした受光素子83を配接した、いわゆるラインセンサーを設けた。ここで発光素子から照射される検知光は記録材Pにより遮られる。すなわち記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部の位置を、発光素子の長手方向の発光面積と、受光素子の長手方向の受光面積の差から把握することで、位置ずれの検知を行うことが可能である。
【0117】
次に、図13(b)を用いて、記録材端部検知手段の検知範囲について説明する。図13(b)は前述の位置ずれが存在した際の非通紙域の説明を行った図6(b)に、本実施例の記録材端部検知手段の検知範囲を追加したものである。記録材端部検知手段の検知範囲は当然であるが記録材Pの位置ずれが存在しうる範囲を網羅していることが望ましい。実施例3においては、記録材Pの想定される最大位置ずれ量が5mmである。そのため、定着動作が可能である発熱領域幅Aの長手方向端部位置から、最小通紙幅であるB5縦サイズ182mm(B5縦送り)が5mm位置ずれした場合の長手方向端部位置が検知可能な範囲に、2対の記録材端部検知手段を配設した。
【0118】
記録材端部検知手段を用いる位置ずれ検知は、実施例1及び2のサブサーミスタ38aおよび38bを用いた位置ずれ検知よりも検知が早い段階で終えることができる。実施例1および2の位置ずれ検知は、全てのファンが動作停止してから一定期間経過した後に位置ずれ検知を行うのに対して、実施例3の位置ずれ検知は、その必要がないためである。
【0119】
尚、実施例3においては、ラインセンサーを例に挙げて説明したが、記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部が検知できるものであれば、これに限るものではない。例えば、定着手段72の記録材搬送方向上流の端部に、記録材Pが通過することにより回動する検知フラグと、検知フラグの回動を検知する光学センサーを備えた複数個の検知部材を配設してもよい。
【0120】
また、実施例3の構成では、サブサーミスタ38aおよび38bは、位置ずれ検知で用いないので、必ずしも必要ではない。
【0121】
サブサーミスタを用いずに、記録材端部検知手段の位置ずれ検知量と、連続プリント時の非通紙部昇温速度と、冷却ファンの非通紙域冷却効果との関係が予測できる場合は、予測に基づいて冷却ファン51aおよび51bを動作、停止すれば良い。
【0122】
尚、実施例1から3の定着手段の加熱部は、フィルムと、フィルムの内面と接触してフィルムを加熱するヒータを有する構成であった。しかしながら、加熱部はこれに限らない。たとえば、フィルムと、フィルムに内包されるヒータと、フィルムの内面と接触するニップ形成部材と、フィルムを介してニップ形成部材と共にニップ部を形成する加圧体を有する構成でも良い。
【符号の説明】
【0123】
10 フィルム
20 加圧ローラ
50 送風冷却機構部
51 ファン
53 開口部
54 シャッタ
72 定着手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着手段を有した電子写真複写機や電子写真プリンタ等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置に設けられた定着手段として、フィルム加熱方式のものが知られている。この定着手段は、セラミックス製の基板上に通電発熱抵抗層を有するヒータ、そのヒータと接触しつつ移動するフィルム、そのフィルムと接触しニップ部を形成する加圧ローラと、を有する。未定着のトナー画像を担持した記録材は定着手段のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー画像は記録材に定着される。このタイプの定着手段は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短い、すなわちオンデマンド性に優れているというメリットを有する。したがって、この定着手段を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、1枚目の画像を出力するまでの時間を短く出来る。またこのタイプの定着手段は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
上述した定着手段は、装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最大の記録材(以下、最大サイズ記録材と記す)よりも幅の小さい記録材(以下、小サイズ記録材と記す)を連続で通紙すると非通紙部が昇温する非通紙昇温という課題がある。
【0004】
定着領域を各種サイズ(幅)の記録材が通過する状況においては、記録材が通過する定着領域を通紙域、通紙域外の定着領域を非通紙域と称する。また回転時に通紙域を通過するフィルムなどの加熱部材、または加圧ローラなどの加圧部材の表面部分を通紙域通過表面、回転時に非通紙域を通過する加熱部材の表面部分を非通紙域通過表面と称することにする。
【0005】
最大サイズ記録材を通紙して定着する場合、加熱部材表面は定着領域全長域に渡って略均一な温度分布となる。しかしながら、小サイズ記録材を連続通紙して定着した場合に、加熱部材の非通紙領域の表面温度が過度に上昇する。これは、小サイズ記録材を連続的に通紙すると、小サイズ記録材の通過しない非通紙域では紙による奪熱が無い分だけ、部分的に蓄熱されるためである。
【0006】
一般的に紙による奪熱が増加する条件で、非通紙部昇温は大きくなる。例えば、単位時間当たりの処理枚数が多い(生産性が高い)場合、または記録材の坪量が大きい場合、または記録材が冷却されている低温環境で使用する場合などが挙げられる。
【0007】
小サイズ記録材の連続通紙による非通紙部昇温が生じると、加熱部材や発熱体の支持部材などがその材質固有の耐熱温度を超えて使用されることで装置の耐久寿命が短くなってしまう。
【0008】
非通紙部昇温の抑制方法としては、特許文献1に示された、冷却ファン等の冷却手段を設けて加熱部材の非通紙部昇温部分を直接冷却する方法がある。この方法では、発熱体や加熱部材の非通紙域に温度検知手段を配置し、非通紙域の検知温度に応じた風量の冷却風を非通紙域に積極的に当てることで、非通紙部昇温を抑制することが可能である。またこの方法は、記録材の幅に応じて冷却域を変える制御を行うことで記録材の異なる幅にも対応することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−187816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、定着手段のニップ部で狭持搬送される記録材の幅方向の中央が、画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準から1〜5mm程度ずれて搬送される場合がある(以下、これを位置ずれと称す)。位置ずれの要因としては、例えば、給紙カセットの記録材の側端に接触させて記録材の記録材搬送方向に直交する方向の移動を規制する規制部材の寸法のばらつきがある。また、記録材を定着手段まで搬送する搬送部材の搬送力が記録材搬送方向に直交する方向でばらつきを有する場合も位置ずれは発生する可能性がある。また、ユーザーによる給紙カセットへの記録材の積載の仕方によっても発生する場合がある。このような記録材の位置ずれが発生した場合、相対的に一方の側の非通紙域が広がることになる。
【0011】
位置ずれにより非通紙域が広がると、位置ずれが存在しない、又は、位置ずれが存在しても十分小さい場合と比較して、単位時間あたりに非通紙域に蓄熱する熱量が増大することになる。すなわち、これにより、非通紙部昇温速度も速くなる。
【0012】
ここで、特許文献1のような記録材サイズ(幅)に応じて異なる非通紙域を冷却するために送風領域が可変である送風手段を有した画像形成装置がある。しかしながら、このような画像形成装置は、位置ずれがない場合に合わせて冷却能力が設定されているため、冷却能力が位置ずれした時の非通紙部昇温速度に追いつかず、一時的に非通紙部昇温が悪化する虞がある。
【0013】
また、位置ずれを考慮し、より冷却能力の高い大型のファンを採用することも考えられるものの、装置の大型化に繋がるという課題がある。更に、冷却能力の高い大型のファンを採用したとしても、位置ずれが存在しないもしくは存在しても十分小さい場合と比較して、ファンが動作するまでの時間に加圧ローラなどの非通紙域に蓄積する熱量は大きくなるという点は変わらない。この場合は、非通紙域に蓄熱した熱量の一部が記録材にも回り込み、トナーに過剰な熱量が供給されることによる高温オフセット等の画像不良が発生するという課題もある。
【0014】
一方で、予め位置ずれが存在した場合を想定し、非通紙部昇温が顕著になる前の状態から冷却ファンが動作するよう制御する方法も考えられるものの、位置ずれが存在しない場合には過剰に非通紙域を冷却することになってしまう。その結果、トナーに供給されるはずの熱量が冷却ファンにより奪われてしまうため、加熱不良となり低温オフセット等の画像不良が発生してしまう可能性がある。
【0015】
そこで本発明の目的は、ファンを大型化することなく、記録材が位置ずれした状態で定着されても、画像不良も発生させずに非通紙昇温を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱部と、前記加熱部と共にニップ部を形成する加圧体と、を有し、トナー像を担持した記録材を前記ニップ部で搬送しながら加熱してトナー像を記録材に定着する定着手段と、装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材を前記ニップ部で搬送する際に、前記加熱部の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却するために送風する第1の送風手段と、同じく非通紙域となる他方の端部を冷却するために送風する第2の送風手段と、前記加熱部の、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域の温度を検知する中央温度検知手段と、前記加熱部の、前記第1の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段と、前記加熱部の、前記第2の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段と、を有し、前記中央温度検知手段の検知温度が目標温度になるように、前記加熱部に供給される電力が制御され、前記第1の送風手段は、前記第1の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御され、前記第2の送風手段は、前記第2の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御される画像形成装置において、記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段のうち、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度は、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷却能力の高い大型のファンを用いることなく、記録材が搬送基準からずれた状態で搬送された場合においても画像不良を発生させずに非通紙部昇温を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用可能な画像形成装置の概略断面図
【図2】実施例1の定着手段の横断側面模式図
【図3】実施例1の定着手段の縦断側面模式図
【図4】フィルムの横断側面模式図
【図5】ヒータの一例の構成模式図
【図6】実施例1の定着手段における記録材位置ずれと非通紙域の関係説明図
【図7】位置ずれが存在しない場合および3mmの位置ずれが存在した場合の連続プリント時のフィルムの表面温度分布
【図8】実施例1の定着手段を記録材の導入側から見た図
【図9】実施例1の定着手段を上方から見た図
【図10】実施例1の画像形成時におけるフローチャート
【図11】記録材の位置ずれ量と両端部サブサーミスタ検知温度の差分の絶対値の説明図
【図12】実施例2のファンの動作の制御フローチャート
【図13】実施例3の定着手段の横断面模式図および縦断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に係る定着手段を搭載する画像形成装置の一例の構成模式図である。この画像形成装置は、電子写真方式のレーザープリンタであって、ホストコンピュータ等の外部装置(不図示)より入力する画像情報に応じた画像を記録材に形成するものである。
【0021】
実施例1に示す画像形成装置は、外部装置からプリント指令を入力されると、像担持体として感光ドラム61を矢印方向に所定の速度(プロセススピード)で回転駆動する。その感光ドラム61は、その外周面が帯電器62により所定の極性及び電位に一様に帯電される。その感光ドラム61の外周面の帯電領域に対して露光手段としてのレーザースキャナ63により画像情報の書き込みがなされる。レーザースキャナ63は、外部装置からプリンタに入力される画像情報の時系列電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザー光Lを出力する。そしてレーザースキャナ63は、そのレーザー光Lにより感光ドラム61の帯電領域を走査して露光する。これにより、感光ドラム61表面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。その静電潜像は、現像器64によりトナーを用いてトナー像として現像される。感光ドラム61の外周面のトナー像は感光ドラム61の回転によって感光ドラム61の外周面とこの感光ドラム61の外周面と転写ローラ67の外周面とが接触して形成される転写ニップ部に送られる。
【0022】
一方、給送カセット68のシート積載台68a上に積載されている記録材Pは、所定のタイミングで駆動される給送ローラ69により、ピックアップされ、搬送ローラ70と搬送コロ70aとによりレジスト部へと送られる。レジスト部では、記録材Pの先端をレジストローラ71とレジストコロ71aで形成されるニップ部で一旦受け止めて記録材Pの斜行矯正を行い、所定のタイミングでその記録材Pを転写ニップ部へ給送する。即ち、レジスト部では、感光ドラム61の外周面のトナー像の先端が転写ニップ部に到達した時、記録材Pの先端も転写ニップ部に到達するように記録材Pの搬送のタイミングが制御される。
【0023】
転写ニップ部に給送された記録材Pは転写ニップ部で挟持され搬送される。そしてその記録材Pの搬送過程において転写ローラ67に印加される転写バイアスにより感光ドラム61表面のトナー像が記録材Pに転写され、記録材Pは、感光ドラム51表面から分離されて定着手段72へと搬送される。
【0024】
定着手段72は、未定着トナー像を担持した記録材Pに、定着手段72のニップ部Nで熱と圧力を付与することによって、未定着トナー像を記録材Pに定着する。そして、記録材Pをニップ部Nから排出する。
【0025】
定着手段72のニップ部Nから排出された記録材Pは中間排出ローラ73により排出ローラ74に搬送される。そして排出ローラ74がその記録材Pを排出トレイ75上に排出する。
【0026】
記録材Pが分離した後の感光ドラム61の外周面は、クリーナー65により転写残トナーが除去され、繰り返して作像に供される。
【0027】
実施例1の画像形成装置は、感光ドラム61、帯電器62、現像器64、及び、クリーナー65と、を一体化してプロセスカートリッジ66としている。そのカートリッジ66はプリンタの筐体を構成する画像形成装置本体76に対して着脱可能に装着されている。
【0028】
給送カセット68のシート積載台68aにはサイズの異なる記録材を積載するための移動可能な規制ガイド(不図示)が設けられている。その規制ガイドを記録材Pのサイズに応じて変位させその記録材Pをシート積載台68a上に積載することによって、サイズの異なる各種記録材を給送カセット68から給送ローラ69により一枚ずつピックアップすることができる。
【0029】
実施例1の画像形成装置は、A3サイズ紙対応の画像形成装置であって、プリントスピードが50枚/分(A4横)である。以上が画像形成部の構成である。
【0030】
次に、図2〜図5を用いて定着手段72について説明する。図2は定着手段72の横断側面模式図である。図3は、図2の定着手段72の縦断側面模式図である。図4は、フィルム10の横断側面模式図である。図5は、ヒータ30の一例の構成模式図である。ここからの説明において、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向である。幅とは短手方向の寸法である。また、記録材に関し、幅方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。
【0031】
この定着手段72は、加圧ローラ20を回転駆動しフィルム10を加圧ローラ20の搬送力により回転させるフィルム加熱方式のものである。
【0032】
実施例1に示す定着手段72は、加熱部として、筒状のフィルム10と、フィルム10の内面と接触しフィルム10を加熱するヒータ30と、を有する(図2)。また、フィルム10を介してヒータ30と共にニップ部Nを形成する加圧体としての加圧ローラ20を有する。更に、ヒータ30の保持部材としてのヒータホルダー41と、加圧ステー42と、加圧力を付加する手段としての加圧手段43と、フィルム10の端部規制部材としてのフランジ45と、を有する。ヒータ基板31、フィルム10、ヒータホルダー41、加圧ステー42、及び、加圧ローラ20は、何れも長手方向に細長い部材である。
【0033】
図4において、フィルム10は、耐熱性と可撓性を有する材料によりエンドレスのスリーブ状に形成されている基層11と、その基層11の外周面上に設けられている離型性層12と、を有する。また、定着性及び画質向上のために、その基層11の外周面上で、離型層12の内周面側との間にシリコーンゴムなどの弾性層13を設けても良い。
【0034】
基層11として、ポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂により薄肉の可撓性を有するエンドレスベルトに形成したものを用いている。基層11の材料は耐熱性樹脂に限られず、より熱伝導率の高いステンレス(SUS)、ニッケル(Ni)等の薄肉金属を用いても良い。
【0035】
上記基層11の外周面上には、離型性層(以下、離型層と記す)12として、PFA、PTFE、FEPなどのフッ素樹脂を単品もしくはブレンドしてコーティングするか、あるいはチューブを被覆している。PFAとはパーフルオロアルコキシ樹脂のことであり、PTFEとはポリテトラフルオロエチレン樹脂のことであり、FEPとはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂のことである。
【0036】
実施例1では、耐久性と定着性を両立させるために、離型層12の厚みとしては5μm以上50μm以下としている。
【0037】
また、基層11と離型層12の間に弾性層13を設けても良い。弾性層13を設けると、記録材Pの担持する未定着トナー像Tを包み込むことによって、未定着トナー像に均一に熱を与えることができる。
【0038】
実施例1では、弾性層13の厚みとして、50μm以上500μm以下としている。また、弾性層13の熱伝導度としては高い方が良い。具体的には、0.5W/m・K以上であることが好ましい。そのため、ZnO(酸化亜鉛)、Al2O3 (酸化アルミニウム)、SiC(炭化ケイ素)、金属ケイ素等の熱伝導性フィラーをシリコーンゴムに混入し、熱伝導度を調整している。
【0039】
フィルム10において、フィルム10の外径は熱容量が抑えられるため小さい方が良い。従って、実施例1のフィルム10は、画像形成装置の速度(プロセススピード)等の条件を考慮し、基層11の材料にはステンレス(SUS)を用い、基層11の肉厚(厚み)は30μm、基層11の内径は24mmとしている。弾性層13は、熱伝導度1.3W/m・Kのシリコーンゴムを用い、厚みは250μmとしている。離型層12としては、PFAのコーティングを用い、離型層12の厚みは14μmである。
【0040】
図2もしくは図3において、ヒータホルダー41は、液晶ポリマー、フェノール樹脂等の耐熱性樹脂により横断面半円形状樋型に形成されている。ヒータホルダー41の下面(加圧ローラ20側の面)には、ヒータホルダー41の長手方向に沿って凹溝が設けられている。そしてこの凹溝からヒータ30の後述する保護摺動層34が露出するように凹溝によりヒータ30の基板31を保持している。そしてそのヒータホルダー41の外周にはフィルム10がルーズに外嵌されている。フィルム10が外嵌されたヒータホルダー41は、ヒータホルダー41の長手方向両端部が装置フレーム(不図示)に保持されている。
【0041】
図2および図3において、加圧ローラ20は、芯軸部21と、その芯軸部21の外周面上に設けられている少なくとも1層以上の弾性層25と、その弾性層25の外周面上に設けられている離型層24と、を有する。
【0042】
弾性層25は、定着手段72で使用した場合に十分な耐熱性及び耐久性を有し、かつ、好ましい弾性を有している材料が望ましい。シリコーンゴム又はフッ素ゴムなど一般的な耐熱性ゴム材料を用いる場合がある。また、弾性層25の厚さは、所望の幅のニップ部Nを形成することが出来る厚さであれば特に限定されないものの、2〜10mm程度であることが好ましい。
【0043】
離型層24は、弾性層25上にPFAチューブを被せることにより形成しても良いし、フッ素ゴムまたは、PTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂を弾性層25にコーティングすることによって形成しても良い。尚、離型層24の厚さは、加圧ローラ20に充分な離型性を付与することができる厚さであれば特に限定されないものの、20〜100μm程度が好ましい。
【0044】
また、弾性層25と離型層24の間には接着及び通電の目的でプライマー層や接着層が形成される場合がある。
【0045】
実施例1では、芯金21としてはφ22の鉄製芯金を用い、弾性層25には厚み4mmで0.35W/(m・k)のシリコーンゴムを用いた。離型層24としては、PFAのチューブを50um被覆させている。
【0046】
図5はヒータ30の一例の構成模式図である。ヒータ30は、フィルム10の内周面と接触してフィルム10を加熱する板状発熱体である。このヒータ30は長手方向に細長い基板31を有する。基板31は、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板、或いはポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性を有した樹脂材料を用いることがある。その基板31の表面(加圧ローラ20側の面)には、基板31の長手方向に沿って、通電発熱抵抗層32がスクリーン印刷等により線状もしくは細帯状に塗工して形成してある。通電発熱抵抗層の材料は、Ag/Pd(銀パラジウム)、RuO2(二酸化ルテニウム)、Ta2N(窒化タンタル)などを用いる。通電発熱抵抗層32は、厚み10μm程度、幅1〜5mm程度である。また、基板31の表面には、通電発熱抵抗層32に給電するための給電電極33が基板31の長手方向両端部の内側に設けられている。また、基板31の表面には、通電発熱抵抗層32の熱効率を損なわない範囲で通電発熱抵抗層32を保護する保護摺動層34を設けてもよい。ただし、保護摺動層34の厚みは十分薄く、通電発熱抵抗層32の表面性を良好にする程度が好ましい。保護摺動層34としては、ポリイミドやポリアミドイミドなどの耐熱性樹脂やガラスコートなどが用いられることが多い。
【0047】
ヒータ30において、基板31として熱伝導性の良好な窒化アルミ等を使用する場合には、通電発熱抵抗層32は基板31の裏面(加圧ローラ20と反対側の面)に形成しても良い。
【0048】
図2において、加圧ステー42は剛性を有する金属等の材料により横断面下向きU字形状に形成してある。この加圧ステー42は、フィルム10の内側においてヒータホルダー41の上面(加圧ローラ20と反対側の面)の短手方向中央に配置されている。そして装置フレームに保持されているフランジ45を介して加圧ステー42の長手方向両端部を加圧ばね等の加圧手段43により加圧ローラ20の軸線に向けて付勢する。これによってヒータ30の基板31の表面をフィルム10を介して加圧ローラ20表面に加圧し加圧ローラ20の弾性層25が基板31に沿って弾性変形する。これによって加圧ローラ20表面とフィルム10表面との間にトナー像Tの定着に必要な所定幅のニップ部Nが形成される。
【0049】
次に、定着手段72の定着動作について説明する。図3で示した制御手段としての制御部44は、プリント指令に応じて所定の加圧ローラ20の駆動制御シーケンスを実行する。駆動源としてのモータMを駆動して加圧ローラ20の芯軸部21の長手方向端部に設けられている駆動ギアGを回転させる。これにより加圧ローラ20は所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向へ回転する。その際、図2で示したニップ部Nにおける加圧ローラ20表面とフィルム10表面と間に働く摩擦力によってフィルム10に加圧ローラ20の回転方向とは逆向きに回転する回転力が作用する。これにより、フィルム10は、フィルム10の内周面がヒータ30の保護摺動層34に接触しながらヒータホルダー41の外周を加圧ローラ20とほぼ同じ周速度で矢印方向へ従動回転する。
【0050】
また、制御部44は、定着手段72の状態に応じて、後述する温度制御シーケンスを実行し、図5で示した電源37からヒータ30の給電電極33を通じて通電発熱抵抗層32に通電する。まず、ヒータ30の基板31の裏面に、中央温度検知手段としてのメインサーミスタ35が設けられており、それによってヒータ30の温度が検知される。メインサーミスタ35が設けられている記録材搬送方向に直交する方向の位置は、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域内である。実施例1の温度制御シーケンスは、例を挙げると、次のようなものがある。プリント指令がない場合において予備加熱を行うシーケンス、メインサーミスタ35の検知温度が記録材を定着することが可能な目標温度になるようにヒータ30を加熱する立上げを行うシーケンス、その目標温度を維持するプリント温調シーケンスなどである。
【0051】
ここでは例えば、立上げシーケンスを実行した後、プリント温調シーケンスを実行した場合の一連の定着動作について説明する。
【0052】
制御部44は、プリント指令を受けると、立上げシーケンスを実行し、フィルム10を加熱する。装置は、メインサーミスタ35の温度検知信号を制御部44に出力する。次に、制御部44は、メインサーミスタ35からの温度検知信号を取り込み、その温度検知信号に基づいてメインサーミスタ35の検知温度が目標温度であるかどうかを判断する。それが目標温度であると判断すると、プリント温調シーケンスに移行し、その検知温度が目標温度に維持されるよう、通電発熱抵抗層32(ヒータ30)への通電(電力供給量)を制御する。つまり、制御部44は、メインサーミスタ35からの温度検知信号に基づきメインサーミスタ35によるヒータ30の検知温度が目標温度となるように通電発熱抵抗層32に印加される電圧のデューティー比や波数などを制御する。
【0053】
図2において、加圧ローラ20及びフィルム10の回転が安定し、且つ、ヒータ30のメインサーミスタ35の検知温度が目標温度に維持された状態で、未定着トナー像Tを担持する記録材Pがニップ部Nの記録材搬送領域内に搬送される。その記録材Pはニップ部Nで挟持搬送される。その搬送過程において記録材Pにはフィルム10からの熱とニップ部Nの圧力が付加され、トナー像Tは記録材Pの上に定着される。
【0054】
次に、図6を用いて記録材の位置ずれ検知について説明する。図6は、フィルム10及び加圧ローラ20と、記録材Pと、通紙域及び非通紙域と、の記録材搬送方向に直交する方向の位置関係を表した図である。ここで図6(a)は記録材Pの位置ずれが存在しない場合であり、図6(b)は記録材Pの位置ずれが存在する場合である。
【0055】
実施例1の画像形成装置では、装置で搬送可能な全てのサイズの記録材は、その幅方向の中央が画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準に一致するように搬送される。図6のSは記録材Pの幅方向中央を表した仮想線であり、S’は画像形成装置の搬送基準を表した仮想線である。ここで言う「位置ずれ」とは、定着手段72のニップ部で狭持搬送される記録材の幅方向の中央が、画像形成装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準から1〜5mm程度ずれて搬送される状態のことである。
【0056】
図6のW1は装置で搬送可能な最大幅の記録材の通紙幅(最大通紙幅)である。実施例1において、この最大通紙幅W1はA4横サイズ幅297mm(A4横送り又はA3縦送り)である。ヒータ30の長手方向の有効発熱領域幅Aはこの最大通紙幅W1よりも少し大きくしてある。図6のW3は装置で通紙可能な最も幅の小さい記録材の通紙幅(最小通紙幅)である。実施例1において、この最小通紙幅W3はB5縦サイズ182mm(B5縦送り)である。W2は上記の最大幅記録材と最小幅記録材の間の幅の記録材Pであるレターサイズ幅279mm(レター横送り又はレジャー縦送り)を示している。
【0057】
図6(a)においては、記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sと装置の搬送基準を表した仮想線S’の記録材搬送方向に直交する方向の位置は等しい。ここで、通紙幅W2の記録材Pを通紙した場合における図中の記録材搬送方向に直交する方向の両端部のそれぞれの非通紙域をa1およびa2と定義する。a1の幅とa2の幅は等しく、最大幅通紙幅W1と通紙幅W2との差分の半分((W1−W2)/2)と一致する。
【0058】
同様に通紙幅W3の記録材Pを通紙した場合における図中の記録材搬送方向に直交する方向の両端部の非通紙域をb1およびb2と定義すると、次式を満たす。
b1=b2=(W1−W3)/2
【0059】
次に、図6(b)を用いて位置ずれが存在した場合の非通紙域について説明する。ここで、非通紙域a1’とa2’の和は、最大幅通紙幅W1と通紙幅W2との差分の幅と等しい。同様に、非通紙域b1’とb2’の和は、位置ずれが存在した場合における最大通紙幅W1と最小通紙幅W3の差分の幅と等しい。図6(b)に示したように、装置の搬送基準を表した仮想線S’に対して、通紙幅W2の記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sが記録材搬送方向に直交する方向で左側にcだけずれて搬送された場合について説明する。非通紙域a1’およびa2’は、位置ずれが存在しない場合のa1およびa2と比較して次のように増減することになる。
a1’=a1−c
a2’=a2+c
【0060】
同様に、通紙幅W3の記録材Pの幅方向中央を表した仮想線Sが記録材搬送方向に直交する方向で左側にcだけずれて搬送された場合、非通紙域b1’およびb2’は、位置ずれが存在しない場合のb1およびb2と比較して次のように増減することになる。
b1’=b1−c
b2’=b2+c
このように位置ずれが存在すると、一方の側の非通紙域が広がり、他方の側の非通紙域は狭まる。
【0061】
次に、位置ずれが存在した場合、および位置ずれが存在しない場合の非通紙部昇温について説明する。図7は、位置ずれが存在しない場合および3mmの位置ずれが存在した場合のフィルム10の長手方向の表面温度を測定した結果を示したグラフである。尚、図7では位置ずれが存在しない場合の結果を破線で示し、3mmの位置ずれが存在した場合の結果を実線で示した。また、図7には左右両端部のサブサーミスタ38aおよび38bの長手方向配設位置も併記した。ここで、画像形成装置として、A3サイズ紙対応のプリントスピードが50枚/分(レター紙横)で加圧ローラ表面移動スピードを(周速)が235.6mm/secであるレーザービームプリンタを使用した。低温低湿環境(15℃/10%)において、レター横サイズ紙(120g/mm2)を50枚/分で25枚連続プリントした時のフィルム10の表面温度を測定した。尚、連続プリント枚数が25枚と少ないため、位置ずれが存在していたとしても非通紙部昇温は小さく、後述する冷却ファンの動作は行われなかった。
【0062】
位置ずれが存在しない場合について説明する。記録材搬送方向の両端部の非通紙域の温度は同程度であった。これに伴い、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分も1.4℃と小さいものであった。また、非通紙部昇温についても、問題になるほどではないことがわかった。
【0063】
次に、位置ずれが存在する場合について説明する。3mmの位置ずれが存在した場合は、記録材搬送方向の両端部の非通紙域の温度差は大きく、位置ずれにより非通域が広がった側の非通紙部昇温が顕著であった。これに伴い、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度差は14.2℃と、位置ずれが存在しない場合と比較して大きくなった。
【0064】
以上により、サブサーミスタ38aの検知温度とサブサーミスタ38bの検知温度の差分を監視することで、特定方向への位置ずれの有無を検知することが可能であることがわかる(以後、位置ずれ検知と記す)。
【0065】
ここから、図2の定着手段の横断側面模式図、図8の定着手段を記録材の導入側から見た図、および図9の定着手段を上方から見た図を用いて、送風冷却器口部50の説明を行う。
【0066】
図2および図9で示した送風冷却機構部50は小サイズ記録材を連続通紙(小サイズジョブ)した際に生じる、フィルム10の非通紙域の昇温を送風により冷却する送風手段としての冷却ファン51を有する。
【0067】
また、この冷却ファン51の風をフィルム10まで誘導する送風ダクト52を有する。この送風ダクト52は、フィルム10に対向する部分に開口部53を有する。また、図8および図9に示した通り、この開口部53の開口幅を記録材Pの幅に応じて調整し冷却ファン51の送風領域を制限するシャッタ54と、このシャッタ54を駆動するシャッタ駆動手段(開口幅調整手段)55を有する。
【0068】
ここで、冷却ファン51、送風ダクト52、送風口53、シャッタ54はフィルム10の長手方向左右部に配置されている。冷却ファン51は、軸流ファンを用いてもよいがシロッコファンなどの遠心ファンを用いてもよい。
【0069】
また、左右のシャッタ54は、送風口53を形成して左右方向に伸びている支持板56の板面に沿って左右方向にスライド移動可能に支持させてある。この左右のシャッタ54をラック歯57とピニオンギア58とで噛みあわせて、ピニオンギア58を不図示のモータで正転または逆転駆動する。これにより、左右のシャッタ54が連動してそれぞれに対応する送風口53に対して左右に開閉動作するようにしてある。上記の支持板56、ラック歯57、ピニオンギア58、モータによりシャッタ駆動手段55が構成されている。
【0070】
制御部44には、ユーザーによる使用する記録材のサイズの入力や、給紙カセットの記録材幅自動検出機構(不図示)といった情報に基づき通紙される記録材の幅がインプットされる。そして、制御回路44は、その情報に基づき、シャッタ駆動手段55を制御する。すなわち、モータを駆動してピニオンギア58を回転させ、ラック歯57によりシャッタ54を移動することで送風口53を記録材幅に応じた量だけ開いて冷却ファン51の送風領域を制限できる。
【0071】
制御部44は、記録材の幅の情報がA3サイズなどの大サイズ記録材であるときは、シャッタ駆動手段を制御して、図8(a)及び図9(a)のように、シャッタ54で送風口53を完全に閉ざした全閉位置に移動する。また、記録材の幅の情報がLTR横サイズ幅の小サイズ記録材であるときは、図8(b)、図9(b)のようにシャッタ54を移動させ、送風口がレター横サイズに応じた分だけ開く。またレター縦送り、B5縦送りなどの小サイズ記録材である時は、シャッタ54を、それぞれの記録材の非通紙部に対応する部分だけ送風口53を開いた位置に移動する。
【0072】
ここでは、実施例1における送風冷却機構部50のファン51の動作について説明する。尚、説明のため、図9で記録材搬送方向に直交する方向に2つ配設されたファン51をそれぞれ第1の送風手段としてのファン51a及び第2の送風手段としてのファン51bと呼ぶこととする。
【0073】
装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材をニップ部で搬送する際に、ファン51aはヒータ30の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却し、ファン51bは非通紙域となる他方の端部を冷却する。
【0074】
また、ヒータ30の、ファン51aで送風する上記の非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段としてのサブサーミスタ38aと、ファン51bで送風する上記の非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段としてのサブサーミスタ38bを有する。
【0075】
尚、サブサーミスタ38aおよび38bは、それぞれ温度を検知するヒータ30の非通紙域に対応するフィルム10の基層内面に弾性的に接触させて配設させてもよい。
【0076】
以降、Tsub_aをサブサーミスタ38aの検知温度、及び、Tsub_bをサブサーミスタ38bの検知温度と、定義する。
【0077】
図9で示した、制御部44はサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度Tsubを基準に、各々の送風冷却機構部50のファン51aおよび51bの動作開始及び停止を行う。すなわち冷却ファン51aの動作開始及び停止を決定するのは、サブサーミスタ38aの検知温度Tsub_aとし、冷却ファン51bの動作開始又は停止を決定するのは、サブサーミスタ38bの検知温度Tsub_bとする。
【0078】
実施例1では、ファン51aは、サブサーミスタ38aの検知温度がファンの動作開始温度Tfan_on以上となった場合に動作開始し、サブサーミスタ38aの検知温度が、ファン動作停止温度Tfan_off以下となった場合に動作停止するようにした。実施例1では、ファン51bは、サブサーミスタ38bの検知温度がファンの動作開始温度Tfan_on以上となった場合に動作開始し、サブサーミスタ38bの検知温度が、ファン動作停止温度Tfan_off以下となった場合に動作停止するようにした。記録材の位置ずれがない場合のファンの動作開始温度Tfan_onは、T_refとする。
【0079】
ここで、非通紙域の温度上昇速度及び温度分布が記録材サイズ(幅)によって異なるので、ファン51aおよび51bを動作するファン動作開始温度T_refを記録材のサイズ(幅)に応じて異なるものにしても良い。フィルム10の耐久性を高めるために、記録材のサイズ(幅)毎に非通紙域の温度の最大値がフィルム使用上限温度以下となるように設定すれば良い。
【0080】
また、実施例1ではTfan_offをT_refよりも10℃低くして、冷却ファンにより効率的に冷却を行い、かつ過剰な冷却を防止する。
【0081】
次に、制御部44は記録材幅Wに基づいたシャッタ54の制御信号をシャッタ駆動手段55に送り、モータを駆動させてシャッタ54を記録材幅Wに合わせた位置に移動させる。すなわち、記録材幅によって異なる非通紙域に応じた量だけ送風口部分を開放することでファン51aおよび51bからの風を定着手段72の非通紙域に当てるのである。風を当てることにより非通紙域は冷却され温度が低下する。
【0082】
図10に基づいて、記録材を連続プリントした場合の非通紙部昇温についての説明をする。尚、説明するのは、前述のプリント温調シーケンスが実行されている状態である。
【0083】
プリント信号を受信すると(Step1)、ヒータ30への通電を開始し、定着手段72の温度立上げシーケンスを開始する。メインサーミスタ35の検知温度が目標温度に達すると、その目標温度を維持するようにプリント温調シーケンスおよびプリント動作を開始し、画像形成を行う(Step2)。またプリント信号に含まれる記録材の情報に基づき(Step3)、シャッタ54の開口量を決定する(Step4)。次に位置ずれ検知が有効な状態かどうか判断し(Step5)、有効な場合は、以下の式によりサブサーミスタ38aの検知温度とサブサーミスタ38bの検知温度の差分の絶対値ΔTを計算する(Step6)。
ΔT=|Tsub_a−Tsub_b|
【0084】
ここで、Step5の位置ずれ検知有効判断に関して説明する。上記の通り、位置ずれ検知はStep6のΔTの計算から行う。ここで、ΔTの計算の直前までに前のプリントジョブで何れかのファンが動作していた場合、位置ずれによるΔTの変動に加え、ファンの冷却によるΔTの変動もありえるため、結果的に位置ずれの検知が精度良く行われない可能性がある。そのため、位置ずれ検知は、全てのファンが動作停止してから所定時間経過後に実施する必要がある。また、位置ずれ検知は、記録材を所定枚数定着した後に実施しても良い。
【0085】
そして、ΔTが所定値以上であるか判断し(Step7)、所定値以上の場合、Tsub_a及びTsub_bのうち高温の側のファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizure、他方のTfan_onをT_refとする。
【0086】
ここでT_ichizureは、記録材の位置ずれがある場合における冷却ファンの動作開始温度であり、位置ずれがない場合の冷却ファンの動作開始温度T_refよりも低い温度である。尚、ΔTおよび位置ずれ検知有効判断の詳細に関しては後述する。
【0087】
これにより、記録材の位置ずれで非通紙部昇温速度が大きくなる側(記録材が寄った側と反対側)のファンを、位置ずれのない場合よりも低い動作開始温度で動作させることで、早期から非通紙部昇温を抑制することが可能となる(Step8)。一方、Step7でΔTが所定値より小さい場合は、位置ずれが存在していたとしても、非通紙部昇温に対する寄与は小さいことが予想されるため、ファンの動作開始温度はT_refとする(Step9)。
【0088】
プリントを継続した場合には、少なくとも一方のサブサーミスタの温度Tsubがファン動作開始温度Tfan_onよりも高くなると(Step10)、そのサブサーミスタの有る側のファンは、予め規定されたファンの動作処理を行う(Step11)。ファンの動作開始後、画像形成が終了していなければ(Step12)、Step3へ戻る。
【0089】
ここで、Step10で両側のサブサーミスタの温度Tsubがファン動作開始温度Tfan_onよりも低い場合も、画像形成が終了していなければ(Step13)同様にStep3に戻る。
【0090】
次にStep11のファン動作処理に関して説明する。尚、図10ではこれまで説明してきたフローとは別に、ファン動作処置と記述して図中右側で説明している。まず、サーミスタ検知温度がTfan_on以上である全てのファンの動作を開始する(Step20)。ここで全てと説明したのは、両方のサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度がTfan_on以上である場合を想定したためである。当然であるが、一方の側のサブサーミスタの検知温度のみがTfan_on以上であった場合は、それに対応したファンのみ動作させる。次に画像形成が終了であるか判断し(Step21)、画像形成が終了していれば、Tfan_offと関係なく、動作しているファンの動作を停止し(Step22)、ファン動作処理を終了する。Step21で画像形成が終了していない場合は、今度はサーミスタ検知温度がTfan_offより低いかどうかを判断する(Step23)。そして、Tfan_offより低い側のファンの動作を停止する(Step24)。これは、ファンにより非通紙域が所定温度まで冷却された場合の、ファン動作停止の処理である。Step24で全てのファンが停止状態となったら(Step25)、ファン動作処理を終了する。またStep23で全てのサブサーミスタの検知温度がTfan_off以上であった場合、およびStep25で全てのファンが動作停止状態にない場合は次のようにする。Step20に戻り、再度サブサーミスタの検知温度を監視し、ファン動作開始温度以上であるかを判断する。すなわちファン動作処理においては、各々のサブサーミスタの検知温度を監視し、Tfan_on以上であればファンを動作開始し、Tfan_offより小さければ、ファンの動作停止をするという処理を繰り返す。尚、繰り返しの説明になるが、ここで言うTfan_onはStep5からStep9までの判断により異なる。本説明においては、ΔTが所定値以上である場合は、サブサーミスタの検知温度が高温の側のTfan_onをT_ichizureとし、他方の側のTfan_onをT_refとした。また本説明においては、ΔTが規定値より小さい場合は、何れの側においてもTfan_onをT_refとした。
【0091】
ここで、実施例1では、Step7のΔTが所定値以上であればΔTの値に関わらず、高温側のファン動作開始温度をT_ichizureに変更した。しかしながら、ΔTの値が大きければ、それだけ大きな位置ずれが発生していることが想定できるため、ΔTが大きい程、高温側のファン動作開始温度を低くして早期に非通紙部昇温を抑制しても良い。
【0092】
また、実施例1では、Step7のΔTが所定値以上の場合、低温側のファン動作閾値を一律T_refとするようにした。しかしながら、Step7でΔTが所定値以上であった場合は、低温側では位置ずれによって通紙域に風が当たっている状態が予想される。従って、端部昇温速度も遅いので、低温側のファン動作開始温度を位置ずれがない場合のファン動作開始温度(T_ref)よりも高めに設定しても良い。
【0093】
実施例1の冷却ファンの制御を用いて、非通紙部昇温がより顕著な側のファン動作開始プリント枚数、サブサーミスタで検知した非通紙部昇温の最大到達温度、高温オフセット、および低温オフセットの有無を評価した。評価にはA3サイズ紙対応のプリントスピードが50枚/分(レター紙横)で加圧ローラ表面移動スピードを(周速)が235.6mm/secであるレーザープリンタを使用した。
【0094】
また、次のような条件下で評価を行った。記録材Pは図6の装置の搬送基準から長手方向(記録材搬送方向に直交する方向)で左側に3mm位置ずれした状態で、低温低湿環境(15℃/10%)にて、レター横サイズ紙(120g/mm2)を50枚/分で500枚連続プリントした。実施例1においては、前のプリントジョブでファンを動作させていた場合は、冷却ファン51aおよび51bの両方が動作を停止してから5枚以上画像形成された場合に、位置ずれ検知有効とする。こうすることで、冷却ファン51aもしくは51bの過去の動作が位置ずれ検知精度に影響しないようにする。また、ΔTが所定値以上であった場合には冷却ファンの動作開始温度Tfan_onを265℃(T_ref)から10℃下げて255℃(T_ichizure)とした。ここでその時の開口幅から送風される風量は、0.062m^3/minとした。これは、実施例1の条件において、定着手段72の非通紙部過昇温の防止および画像不良低減という観点での最適条件であった。
【0095】
ここでは、位置ずれを判断する所定値を10℃とする。その理由について図11を用いて説明する。図11は上記の条件で連続プリントを実施した際の、記録材Pの位置ずれ量と、各位置ずれ量における連続プリント枚数毎のΔTの関係を示したものである。尚、ここで示したのは、連続プリントの1枚目から20枚目の結果であり、何れの条件でも冷却ファンは動作していなかった。図11において、実線は1mmの位置ずれが存在した場合、一点鎖線は3mmの位置ずれが存在した場合、点線は5mmの位置ずれが存在した場合の連続プリント枚数とΔTの関係である。図から位置ずれを判断する所定値を5とした場合、位置ずれの検知タイミングは、1mm位置ずれ時は連続プリントが18枚目、3mm位置ずれ時は連続プリントが9枚目、5mm位置ずれ時は連続プリント5枚目であることがわかる。
【0096】
このように、位置ずれを判断する所定値を比較的小さく設定した場合、少ないプリント枚数で位置ずれを検知することができる。しかしながら、比較的位置ずれ量が小さく、冷却ファンの動作を早期に行う必要がない場合においても、位置ずれが存在すると検知する可能性がある。図11より、位置ずれを判断する所定値を5℃として、位置ずれが存在すると検知した場合、位置ずれ量が1mmと小さい場合でも連続プリントの18枚目で位置ずれが存在すると判断するため、T_ichizureで冷却ファンを動作してしまう。その結果、実施例1の評価では、実際に低温オフセットの発生が認められた。
【0097】
次に、位置ずれを判断する所定値を比較的大きな15℃に設定した場合、過剰冷却による弊害は抑制できるものの、位置ずれの検知に要する連続プリント枚数が増え、T_ichizureで冷却ファンを動作する動作開始タイミングが遅くなった。また位置ずれが大きく非通紙部昇温速度が速い場合においては、位置ずれを検知する前にサブサーミスタが通常の冷却ファン動作開始温度T_refを検知してしまい、T_ichizureでの冷却開始ができない恐れもある。図11より、位置ずれを判断する所定値が15℃以上で位置ずれが存在すると検知した場合、位置ずれ量が小さい場合にT_ichizureで冷却ファンが動作し低温オフセットが発生することは認められなかった。一方で、位置ずれ量5mmと大きい場合においては、位置ずれが検知された時点でサブサーミスタがT_refである265℃を検知してしまった。よって、T_ichizureである255℃(T_ref−10℃)での冷却ファン動作が行えず、定着手段72が過昇温してしまうことが認められた。
【0098】
以上のように、位置ずれを判断する所定値は、上記のような弊害を勘案し決定する必要がある。実施例1においては、位置ずれを判断する所定値を10℃とすることで、位置ずれ量が小さい場合及び大きい場合においても非通紙部昇温の抑制と画像不良の抑制を両立することが可能となった。
【0099】
表1には実施例1の冷却ファン制御を用いた場合の、非通紙部昇温がより顕著な側のファン動作開始プリント枚数、サブサーミスタで検知した非通紙部昇温の最大到達温度、高温オフセット、および低温オフセットの有無をまとめる。また、表1には比較のため、比較例1として位置ずれ検知を実施せず、冷却ファンの動作開始温度をT_refのままとして、実施例1と同様に記録材Pは図6の長手方向左側に3mm位置ずれした状態での結果を併記した。また、比較例2として位置ずれ検知を実施せず、冷却ファンの風量を0.093m^3/minと大きくして、実施例1と同様に記録材Pは図6の長手方向左側に3mm位置ずれした状態での結果も併記した。さらに比較例3として、位置ずれ検知を実施せず、記録材Pの位置ずれがない状態で、冷却ファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizure(T_ref−10℃)とした場合の結果も併記した。尚、これら以外の条件は実施例1と同様で行った。
【0100】
【表1】
【0101】
表1より、比較例1では、定着手段72は装置寿命に影響を及ぼす可能性がある温度までオーバーシュートした。これは、位置ずれにより非通紙部が広がった側の非通紙部昇温速度が大きく、位置ずれがない場合を想定したファン動作開始温度T_refで冷却ファンを動作しても、冷却能力が追いつかないためである。また冷却ファンが動作するまでの間、非通紙域に蓄熱された熱量の一部が記録材Pに回り込み、高温オフセットの画像不良の発生が認められた。
【0102】
次に、比較例2では、比較例1と比べて冷却ファンの風量を増加させたことにより、位置ずれにより非通紙部が広がった側の非通紙部昇温速度でも対応できて、一時的な定着手段の過昇温は防止できた。
しかしながら、位置ずれを想定して、風量の大きいより大型のファンを採用する必要があるので、装置が大型化してしまうという課題がある。更に、比較例2でも、高温オフセットの画像不良の発生が認められた。
【0103】
ここで、繰り返しになるが、高温オフセットの発生の理由を説明しておく。比較例2のように、風量をより大きくしたとしても、ファンの動作開始タイミングが変わらなければ、冷却ファンが動作するまでの間、加圧ローラに熱が蓄積し続ける。その結果、ファンが動作開始しても、その蓄積した熱量奪うのに時間を要し、熱が記録材に回り込み、トナーの過剰な熱を加えてしまうことが原因である。
【0104】
さらに、比較例3では、位置ずれが存在しない状態において、実施例1で位置ずれを検知した場合相当のファン動作開始温度T_ichizure(T_ref−10℃)でファンを動作した。その結果、最大到達温度および高温オフセットに関しては、問題は認められなかった。しかしながら、位置ずれがないのにもかかわらず、冷却ファンを早い段階で動作させているため、定着手段から過剰な熱量を奪ってしまい低温オフセットが発生した。
【0105】
このように、位置ずれ検知を実施していないこれら比較例においては、定着手段の過昇温もしくは、画像不良の発生の両者を抑制することはできなかった。
【0106】
一方、実施例1においては、連続プリント21枚時点で位置ずれを検知した。そして、ファン動作開始温度T_ichizureをT_ref−10℃とした。その後、連続プリントが進み比較例より早期の31枚目に冷却ファンの動作することができた。これにより早期から非通紙昇温を抑制できたため、定着手段の過昇温も比較例2とほぼ同等の水準で抑えることができた。さらに、より早期に冷却ファンの動作開始を行うことができたため、高温オフセットも発生しなかった。
【0107】
このように実施例1では、連続プリント中の記録材Pの位置ずれを検知し、位置ずれにより非通紙部昇温が顕著となった側(記録材が寄った側と反対側)の冷却ファンをより低い動作開始温度で動作するものである。その効果として、冷却ファンの風量を増やすことなく、過剰に冷却することなく、位置ずれ発生時の端部昇温速度上昇を抑制できる。
【実施例2】
【0108】
実施例2は、実施例1と記録材Pの位置ずれ検知を行うタイミングが異なる。実施例1では位置ずれ検知を連続プリント(プリント温調シーケンス)の間に行っていたのに対して、実施例2では立上げシーケンス等の間に行う。実施例2で想定しているのは、実施例1において実行される連続プリント枚数が少なかった場合である。
【0109】
すなわち、記録材Pの位置ずれが存在した状態で連続プリント実行したことにより、非通紙域への蓄熱度合いは大きいものの、プリント枚数が少ないために非通紙部昇温が顕著になる前にプリント動作が終了してしまう場合が考えられる。この場合、サブサーミスタ38が、位置ずれが存在した場合の冷却ファン動作閾値温度T_ichizureを検知する前に連続プリントが終了する可能性がある。この状態で前回の連続プリントから、時間を経ずに次の連続プリントが実行された場合、前回までの連続プリントにおいて非通紙域に蓄熱した熱量が失われず、結果的に非通部昇温に不利な状態で次回の連続プリントが実行される虞がある。この場合、実施例1を採用したとしても、位置ずれにより非通紙域が広がった側の非通紙部昇温速度が非常に速い。従って、連続プリント中に位置ずれを検知した時点でサブサーミスタ38の検知温度は、既に位置ずれが存在しない場合の冷却ファン動作閾値温度であるT_refに到達していまっている場合がある。そのため連続プリント実行前に、位置ずれが検知可能であれば、予め位置ずれに応じた冷却ファンの動作開始温度を設定しておくのが望ましい。実施例2では、これらの状況を鑑みてなされる措置である。尚、その他の構成は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0110】
前述の通り、非通紙部昇温は、記録材Pが通過しない非通紙域において、記録材Pによる奪熱が無い分だけ、部分的に蓄熱されるために発生する。ここで、定着手段72を構成する部材のうち、例えば加圧ローラ20に比較的熱容量の大きな部材を採用した場合、連続プリントを実行中でなくとも、これまでの記録材Pの搬送位置の履歴が加圧ローラ20の長手方向の温度むらとして残る場合がある。そして加圧ローラ20の温度むらは、サブサーミスタ38で検知することが可能である。これまでの連続プリントで位置ずれが発生した場合、位置ずれにより非通紙域が広がった側の加圧ローラ20にはより多くの熱量が蓄積されている。よって、立上げシーケンス実行中のサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTから前回の連続プリント時の位置ずれを検知することができる。ここで前回の連続プリントで位置ずれが発生した場合、給紙カセットの用紙の状態が変わらなければ、次回以降の連続プリントの際にも同等の位置ずれが発生することが想定される。そこで、立上げシーケンス実行中に、サブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTが所定値以上であれば、サブサーミスタの検知温度の高い側(記録材が寄った側と反対)の冷却ファンの動作開始温度をT_refよりも低い温度に変更する。その結果、早期に冷却ファンを動作することで非通紙部昇温を抑制することが可能となる。
【0111】
図12を用いて実施例2のフローを説明する。まず、プリント信号を受信すると(Step30)、ヒータ30への通電を開始し、定着手段72の温度立上げシーケンスを開始する(Step31)。次にこれからプリントされる記録材Pの給紙カセットが、前回プリントに使用されたものと同じであるか判断する(Step32)。さらに前回プリント時からカセットの開閉が無いか判断する(Step33)。Step32、およびStep33で、給紙カセットが前回と同じであり、かつ前回プリント時から給紙カセットの開閉が無い場合は、位置ずれ検知が有効かどうか判断する(Step34)。ここで位置ずれ検知有効判断に関しては、実施例1で説明済みのため、説明は省く。位置ずれ検知が有効であると判断された場合、両端部のサブサーミスタ38aと38bの検知温度の差分の絶対値であるΔTを計算する(Step35)。そしてΔTが所定値以上であるか判断し(Step36)、所定値以上であればより高温を検知した側のファンの動作開始温度Tfan_onをT_ichizureに、他方のTfan_onをT_refとする(Step37)。ここでT_ichizureは実施例1同様にT_refより低い。一方、Step36でΔTが所定値より小さい場合は、両方のファンの動作開始温度をT_refとする(Step38)。またStep32からStep34までにおいて、ひとつのStepでもYesに該当しなかった場合もStep38へ移行する。これは、前回プリントとこれから行うプリントにおいて、記録材Pの位置ずれの状況が異なっている可能性がある場合の措置である。その後、プリント温調シーケンスに移行して画像形成を開始し(Step39)、記録材情報の入手(Step40)と、冷却ファンのシャッタ開口(Step41)を実行する。連続プリント中においてサブサーミスタ検知温度がTfan_on以上であれば(Step42)、予め規定されたファンの動作処理を行う(Step43)。ファン動作処理実施後、画像形成が終了していなければ(Step45)、Step42へ戻る。ここで、Step42で両側のサブサーミスタの検知温度Tsubがファン動作閾値温度よりも低い場合も、画像形成が終了していなければ(Step44)同様にStep42へ戻る。尚、Step50からStep55までのフローに関しては実施例1で説明したStep20からStep25までのフローと同じであるため、説明は省略する。
【0112】
実施例2では、位置ずれ検知有効判断は、冷却ファン51aおよび51bの両方が動作を停止した状態で10秒以上経過した後で行う。これは、直前プリントでの冷却ファン51aもしくは51bの冷却動作によって、位置ずれ検知精度が低下するのを十分に小さくするためである。そして立上げシーケンス実行中にサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTが15℃以上であった場合、サブサーミスタの検知温度の高い側の冷却ファンの動作開始温度T_ichizureをT_refから10℃下げる。これにより、直前までの連続プリントにおいて、加圧ローラに位置ずれに起因した非通紙域の蓄熱が行われていたとしても、効果的に冷却ファンを動作することが可能となり、非通紙域の過昇温と画像不良の発生は認められなかった。
【0113】
さらに立上げシーケンスの実施中にサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値が所定値以上であった場合、一方の側の非通紙域に蓄熱している熱量が他方の非通域と比べて大きいことがわかる。この場合、サブサーミスタの検知温度が高い側では、より非通紙部昇温に不利な状態で連続プリントが始まることとなり、定着手段72の過昇温や画像不良が発生する可能性が高まる。そのため、記録材Pが定着手段72を通過する温調シーケンス中のファン動作開始温度Tfan_onの他に、立上げシーケンス中等の記録材Pが定着手段72を通過しないファン動作開始温度Tfan_on_2を別途設けても良い。そして、立上げシーケンスの最中から冷却ファンを動作させることで、定着手段の非通紙部昇温に不利になる側を予め冷却し、非通紙昇温を抑制した状態で連続プリントを実行しても良い。
【実施例3】
【0114】
実施例3は、実施例1及び2と記録材Pの位置ずれ検知する手段が異なる。実施例1及び2では、記録材の位置ずれ検知をサブサーミスタ38aおよび38bの検知温度の差分の絶対値ΔTから行った。これに対して、実施例3では記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部を検知する記録材端部検知手段を用いて行う。尚、その他の構成は実施例1および2と同様であるため説明を省く。
【0115】
図13は実施例3における記録材端部検知手段の配設位置を示した図である。ここで図13(a)は記録材端部検知手段の配設位置を示した定着手段の横断面図であり、図13(b)は記録材端部検知手段の検知範囲を示した定着手段の縦断面図である。
【0116】
まず図13(a)を用いて、記録材端部検知手段の配設位置の説明をする。ここで、記録材端部検知手段とは、定着手段72の記録材搬送方向上流に配設し、記録材Pの長手方向の端部を検知する部材である。実施例3では、記録材Pを定着手段72に案内する上側記録材案内部材80に、発光部を下向きにした発光素子82を配接し、下側記録材案内部材81に、受光部を上向きにした受光素子83を配接した、いわゆるラインセンサーを設けた。ここで発光素子から照射される検知光は記録材Pにより遮られる。すなわち記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部の位置を、発光素子の長手方向の発光面積と、受光素子の長手方向の受光面積の差から把握することで、位置ずれの検知を行うことが可能である。
【0117】
次に、図13(b)を用いて、記録材端部検知手段の検知範囲について説明する。図13(b)は前述の位置ずれが存在した際の非通紙域の説明を行った図6(b)に、本実施例の記録材端部検知手段の検知範囲を追加したものである。記録材端部検知手段の検知範囲は当然であるが記録材Pの位置ずれが存在しうる範囲を網羅していることが望ましい。実施例3においては、記録材Pの想定される最大位置ずれ量が5mmである。そのため、定着動作が可能である発熱領域幅Aの長手方向端部位置から、最小通紙幅であるB5縦サイズ182mm(B5縦送り)が5mm位置ずれした場合の長手方向端部位置が検知可能な範囲に、2対の記録材端部検知手段を配設した。
【0118】
記録材端部検知手段を用いる位置ずれ検知は、実施例1及び2のサブサーミスタ38aおよび38bを用いた位置ずれ検知よりも検知が早い段階で終えることができる。実施例1および2の位置ずれ検知は、全てのファンが動作停止してから一定期間経過した後に位置ずれ検知を行うのに対して、実施例3の位置ずれ検知は、その必要がないためである。
【0119】
尚、実施例3においては、ラインセンサーを例に挙げて説明したが、記録材Pの記録材搬送方向に直交する方向の端部が検知できるものであれば、これに限るものではない。例えば、定着手段72の記録材搬送方向上流の端部に、記録材Pが通過することにより回動する検知フラグと、検知フラグの回動を検知する光学センサーを備えた複数個の検知部材を配設してもよい。
【0120】
また、実施例3の構成では、サブサーミスタ38aおよび38bは、位置ずれ検知で用いないので、必ずしも必要ではない。
【0121】
サブサーミスタを用いずに、記録材端部検知手段の位置ずれ検知量と、連続プリント時の非通紙部昇温速度と、冷却ファンの非通紙域冷却効果との関係が予測できる場合は、予測に基づいて冷却ファン51aおよび51bを動作、停止すれば良い。
【0122】
尚、実施例1から3の定着手段の加熱部は、フィルムと、フィルムの内面と接触してフィルムを加熱するヒータを有する構成であった。しかしながら、加熱部はこれに限らない。たとえば、フィルムと、フィルムに内包されるヒータと、フィルムの内面と接触するニップ形成部材と、フィルムを介してニップ形成部材と共にニップ部を形成する加圧体を有する構成でも良い。
【符号の説明】
【0123】
10 フィルム
20 加圧ローラ
50 送風冷却機構部
51 ファン
53 開口部
54 シャッタ
72 定着手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部と、前記加熱部と共にニップ部を形成する加圧体と、を有し、トナー像を担持した記録材を前記ニップ部で搬送しながら加熱してトナー像を記録材に定着する定着手段と、
装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材を前記ニップ部で搬送する際に、前記加熱部の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却するために送風する第1の送風手段と、同じく非通紙域となる他方の端部を冷却するために送風する第2の送風手段と、
前記加熱部の、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域の温度を検知する中央温度検知手段と、前記加熱部の、前記第1の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段と、前記加熱部の、前記第2の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段と、を有し、
前記中央温度検知手段の検知温度が目標温度になるように、前記加熱部に供給される電力が制御され、
前記第1の送風手段は、前記第1の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御され、前記第2の送風手段は、前記第2の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御される画像形成装置において、
記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段のうち、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度は、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
記録材を搬送した際に、前記第1の端部温度検知手段の検知温度と、前記第2の端部温度検知手段の検知温度と、の差分が所定値以上になった場合に、
前記第1の端部温度検知手段の検知温度が前記第2の端部温度検知手段の検知温度よりも高い場合は、前記第1の送風手段の動作開始温度を前記差分が前記所定値よりも小さい場合よりも低く設定され、前記第2の端部温度検知手段の検知温度が前記第1の端部温度検知手段の検知温度よりも高い場合は、前記第2の送風手段の動作開始温度を前記差分の絶対値が前記所定値よりも小さい場合よりも低く設定されることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記差分と前記所定値の比較は、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段の動作を停止してから前記定着手段で所定枚数定着した後に行うことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記差分と前記所定値の比較は、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段の動作を停止してから所定時間経過後に前記位置ずれの検知を行うことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
記録材の記録材搬送方向に直交する方向の幅に応じて、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段から前記加熱部に送風される送風領域を制限するためのシャッタを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記加熱部は筒状のフィルムと、前記フィルムの内面と接触するヒータと、を有し、前記加圧体は、前記ヒータと共に前記フィルムを介して前記ニップ部を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱部は筒状のフィルムと、前記フィルムに内包されるヒータと、前記フィルムの内面と接触するニップ形成部材と、を有し、前記加圧体は、前記ニップ形成部材と共に前記フィルムを介して前記ニップ部を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項1】
加熱部と、前記加熱部と共にニップ部を形成する加圧体と、を有し、トナー像を担持した記録材を前記ニップ部で搬送しながら加熱してトナー像を記録材に定着する定着手段と、
装置で搬送可能な記録材搬送方向に直交する方向の幅が最小である記録材を前記ニップ部で搬送する際に、前記加熱部の記録材搬送方向に直交する方向で非通紙域となる一方の端部を冷却するために送風する第1の送風手段と、同じく非通紙域となる他方の端部を冷却するために送風する第2の送風手段と、
前記加熱部の、装置で搬送可能な全ての記録材が通過する通紙域の温度を検知する中央温度検知手段と、前記加熱部の、前記第1の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第1の端部温度検知手段と、前記加熱部の、前記第2の送風手段で送風する前記非通紙域の温度を検知する第2の端部温度検知手段と、を有し、
前記中央温度検知手段の検知温度が目標温度になるように、前記加熱部に供給される電力が制御され、
前記第1の送風手段は、前記第1の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御され、前記第2の送風手段は、前記第2の端部温度検知手段の検知温度を基準に動作開始するように制御される画像形成装置において、
記録材が装置の記録材搬送方向に直交する方向の搬送基準からずれて搬送された際に、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段のうち、記録材が寄った側と反対側にある送風手段の動作開始温度は、記録材が前記搬送基準からずれないで搬送される場合よりも低く設定されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
記録材を搬送した際に、前記第1の端部温度検知手段の検知温度と、前記第2の端部温度検知手段の検知温度と、の差分が所定値以上になった場合に、
前記第1の端部温度検知手段の検知温度が前記第2の端部温度検知手段の検知温度よりも高い場合は、前記第1の送風手段の動作開始温度を前記差分が前記所定値よりも小さい場合よりも低く設定され、前記第2の端部温度検知手段の検知温度が前記第1の端部温度検知手段の検知温度よりも高い場合は、前記第2の送風手段の動作開始温度を前記差分の絶対値が前記所定値よりも小さい場合よりも低く設定されることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記差分と前記所定値の比較は、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段の動作を停止してから前記定着手段で所定枚数定着した後に行うことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記差分と前記所定値の比較は、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段の動作を停止してから所定時間経過後に前記位置ずれの検知を行うことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
記録材の記録材搬送方向に直交する方向の幅に応じて、前記第1の送風手段及び前記第2の送風手段から前記加熱部に送風される送風領域を制限するためのシャッタを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記加熱部は筒状のフィルムと、前記フィルムの内面と接触するヒータと、を有し、前記加圧体は、前記ヒータと共に前記フィルムを介して前記ニップ部を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱部は筒状のフィルムと、前記フィルムに内包されるヒータと、前記フィルムの内面と接触するニップ形成部材と、を有し、前記加圧体は、前記ニップ形成部材と共に前記フィルムを介して前記ニップ部を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−97055(P2013−97055A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237517(P2011−237517)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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