説明

画像表示装置

【課題】可変焦点レンズを用いて画像光の波面曲率を調節することが可能な画像表示装置において、可変焦点レンズを小型化するのに適した位置にその可変焦点レンズが配置されることを可能にする。
【解決手段】画像表示装置を、光源部12と、その光源部から出射する光を、表示すべき画像を表す画像光に変換することにより、その画像光を形成する画像光形成部14と、その画像光形成部から出射した画像光をリレーするリレー光学系16であって、そのリレー光学系の内部に、前記画像光が通過する瞳を有するものと、その瞳の位置と概して等しい位置に配置された可変焦点レンズ50であって、可変である焦点距離を有するものと、その可変焦点レンズを駆動して前記焦点距離を変化させることにより、前記リレー光学系から出射する画像光の波面曲率を調節する波面曲率調節部52とを含むように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を光学的に表示する技術に関するものであり、特に、可変焦点レンズを用いて、表示すべき画像を表す画像光の波面曲率を調節する技術の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像を光学的に表示する技術として、例えば、表示すべき画像を表す画像光を直接的に観察者の網膜上に投影し、それにより、観察者が画像を虚像として観察することを可能にする技術や、そのような画像光を物理的なスクリーンに投影し、それにより、観察者が画像を実像として観察することを可能にする技術が存在する。
【0003】
さらに、光源からの光を、表示すべき画像を表す画像光に変換する技術として、例えば、光源から一斉に入射した面状の光を、LCD等、空間変調素子を用いて、各画素ごとに空間的に変調し、それにより、面状の画像光を形成する技術や、光源から入射したビーム状の光であって各画素ごとに強度変調されたものを、スキャナを用いて、2次元方向に走査することによって面状の画像光に変換する技術が存在する。
【0004】
特許文献1は、画像を光学的に表示する装置としてのヘッドマウントディスプレイ装置を開示している。このヘッドマウントディスプレイ装置は、表示すべき画像を表す画像光を直接的に網膜上に投影し、それにより、観察者が画像を虚像として観察することを可能にする技術と、光源から一斉に入射した面状の光を、LCD等、空間変調素子を用いて、各画素ごとに空間的に変調する技術とを採用している。
【0005】
このヘッドマウントディスプレイ装置は、さらに、虚像の位置を奥行き方向に変化させて動画の立体表示を可能にするために、可変焦点レンズを採用している。
【特許文献1】特開平9−297282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、可変焦点レンズを使用すれば、画像光の奥行きを決める光学的物理量、すなわち、画像光の波面曲率を変調することが可能であることを教えている。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、そのような可変焦点レンズの大きさと、それが配置される位置との間に一定の関係があることを教えておらず、よって、特許文献1は、そのような可変焦点レンズを小型化するのに適した配置位置を教えていない。
【0008】
以上説明した事情を背景として、本発明は、可変焦点レンズを用いて画像光の波面曲率を調節することが可能な画像表示装置において、可変焦点レンズを小型化するのに適した位置にその可変焦点レンズが配置されることを可能にすることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
【0010】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
【0011】
(1) 画像を光学的に表示する画像表示装置であって
光源部と、
その光源部から出射する光を、表示すべき画像を表す画像光に変換することにより、その画像光を形成する画像光形成部と、
その画像光形成部から出射した画像光をリレーするリレー光学系であって、そのリレー光学系の内部に、前記画像光が通過する瞳を有するものと、
その瞳の位置と概して等しい位置に配置された可変焦点レンズであって、可変である焦点距離を有するものと、
その可変焦点レンズを駆動して前記焦点距離を変化させることにより、前記リレー光学系から出射する画像光の波面曲率を調節する波面曲率調節部と
を含む画像表示装置。
【0012】
この画像表示装置によれば、当該画像表示装置が、画像光形成部から出射した画像光をリレーするリレー光学系であって、そのリレー光学系の内部に、画像光が通過する瞳を有するものを含むように構成される。さらに、この画像表示装置によれば、その瞳の位置と概して等しい位置に可変焦点レンズが配置される。その可変焦点レンズは、リレー光学系から出射する画像光の波面曲率を調節するために、駆動される。
【0013】
一方、前記リレー光学系の内部を進行する画像光は、その経路全体において光軸に垂直な面での断面の直径(形状)が一定であるわけではなく、そのリレー光学系の瞳の位置において、画像光の前記断面を包含する面の直径(以下、「画像光の直径」と略称する。)が最小となり、その瞳の位置から遠ざかるにつれて、画像光の直径が増加する。また、一般に、リレー光学系の瞳を通過する画像光の直径は、リレー光学系の外部において画像光が有する直径より小さい。
【0014】
したがって、この画像表示装置によれば、可変焦点レンズを、その小型軽量化にとって有利な位置に配置することが可能となり、その結果、当該画像表示装置の小型軽量化が容易となる。さらに、この画像表示装置によれば、可変焦点レンズの小型化のおかげで、焦点距離を変化させる際の可変焦点レンズの応答速度を高速化することが容易となる。
【0015】
本項において、「画像光の波面曲率を調節する」ための用途としては、例えば、観察者の視力に応じて画像光をキャリブレーションするという用途、画像が投影されるスクリーンの幾何学的歪み(画像光に対する設置スクリーンの傾斜や、スクリーン自体の湾曲)に応じて画像光をキャリブレーションするという用途、画像を3次元的に表示するために画像内の各オブジェクトの奥行きを表現するという用途などがある。
【0016】
(2) 前記波面曲率調節部は、前記画像の奥行き情報に基づいて前記波面曲率を変調する変調手段を含む(1)項に記載の画像表示装置。
【0017】
この画像表示装置によれば、画像の立体表示が可能となる。
【0018】
(3) 前記画像は、複数のフレームの列によって構成され、
前記画像光形成部は、各フレームごとに、そのフレームを構成する複数個の画素が一斉に表示されるように、前記画像光を形成する形成手段を含み、
前記波面曲率調節部は、各フレームごとに、各フレームの表示タイミングと同期するように、前記波面曲率を調節する調節手段を含む(1)または(2)項に記載の画像表示装置。
【0019】
この画像表示装置によれば、フレームごとに画像光の波面曲率を異ならせることが可能となる。よって、例えば、同じフレームについては、実現すべき奥行きが一様であるが、フレームごとに、実現すべき奥行きが異なるように、複数のフレームが構成される場合に、それらフレームによって構成される画像を、複数の奥行きを有するように表示することが可能となる。
【0020】
さらに、この画像表示装置によれば、同じフレームについて画像光の波面曲率が各画素ごとに変化するように可変焦点レンズが駆動される場合より、その可変焦点レンズの作動状態が変化する頻度が低下し、それにより、その可変焦点レンズに課されるべき負担が軽減される。
【0021】
本項において、「フレーム」は、例えば、もとのフレームを構成する複数個の画素と同じ画素によって構成されるものと定義したり、もとのフレームを構成する複数個の画素を、同じ目標波面曲率を共有する複数個の画素グループに分割し、それにより、もとのフレームを複数のサブフレームに分割した場合の各サブフレームとして定義することが可能である。
【0022】
(4) 前記画像は、複数個の画素の集まりによって構成され、
前記波面曲率調節部は、各画素または各画素グループごとに、前記波面曲率を調節する調節手段を含む(1)または(2)項に記載の画像表示装置。
【0023】
この画像表示装置によれば、同じフレームにつき、各画素または各画素グループごとに、画像光の波面曲率を異ならせることが可能となる。よって、例えば、同じフレームが複数の奥行きを有する場合に、そのフレームによって構成される画像を、複数の奥行きを有するように表示することが可能となる。
【0024】
本項において、「画素グループ」は、1つの画像またはフレームのうち、同じ奥行きを共有する複数個の画素の集まりを意味しており、それら画素がすべて、同じ画像またはフレーム上において互いに隣接していることを要せず、それら画素は、互いに離散している複数個の画素を含み得る。
【0025】
(5) 前記画像は、複数のフレームの列によって構成され、
各フレームは、複数個の画素の集まりによって構成され、
前記画像光形成部は、各フレームごとに、そのフレームを構成する複数個の画素が、各フレームの表示時間中に、各画素または各画素グループごとに、時分割で順次表示されるように、前記画像光を形成する形成手段を含み、
前記波面曲率調節部は、各画素または画素グループごとに、各画素または画素グループの表示タイミングと同期するように、前記波面曲率を調節する調節手段を含む(1)または(2)項に記載の画像表示装置。
【0026】
この画像表示装置によれば、各画素または画素グループごとに、各画素または画素グループの表示タイミングと同期するように、画像光の波面曲率が調節される。よって、各画素または画素グループにつき、画像の表示と奥行きの実現とが互いに同期するように行われる。
【0027】
この画像表示装置においては、例えば、各画素の元目標波面曲率が、その元目標波面曲率の最大レベル数より少ないように予め定められた数の近似目標波面曲率(複数個の離散値)のうちのいずれかに変換され、その変換された近似目標波面曲率が実現されるように可変焦点レンズが駆動されることが望ましい。このようにすれば、元目標波面曲率ができる限り忠実に実現されるように可変焦点レンズが駆動される場合より、その可変焦点レンズの負担が軽減され、その制御が容易となる。
【0028】
(6) 前記可変焦点レンズは、液晶レンズと、液体レンズと、前記リレー光学系の光軸方向における位置が可変である可動レンズとのうちの少なくとも一つを含む(1)ないし(5)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0029】
(7) 前記画像光形成部は、光スキャナと、フラットパネルディスプレイとのうちの少なくとも一つを含む(1)ないし(6)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0030】
(8) 前記画像光形成部は、前記フラットパネルディスプレイを含み、
そのフラットパネルディスプレイは、液晶ディスプレイと、有機エレクトロルミネッセンスと、デジタルマイクロミラーデバイスとのうちの少なくとも一つを含む(1)ないし(7)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0031】
(9) さらに、
前記リレー光学系の下流に配置された接眼光学系と、
その接眼光学系を、それの光軸方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、前記波面曲率をデフォールト値からオフセットさせる波面曲率オフセット機構と
を含む(1)ないし(8)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0032】
この画像表示装置によれば、例えば、観察者の視力に応じて接眼光学系の位置を調節することが可能となり、よって、観察者の視力の良否にかかわらず、観察者が画像を鮮明に観察することが可能となる。
【0033】
(10) さらに、
前記可変焦点レンズを、前記リレー光学系の光軸に対して直角な方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、当該可変焦点レンズの、前記リレー光学系に対する相対的な位置をキャリブレーションするキャリブレーション機構を含む(1)ないし(9)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0034】
この画像表示装置によれば、例えば、観察者の視力に応じて可変焦点レンズの位置を調節することが可能となり、よって、観察者の視力の良否にかかわらず、観察者が画像を鮮明に観察することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1には、本発明の第1実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10が概念的に示されている。このヘッドマウントディスプレイ装置10は、図示しない観察者の頭部に装着されて使用される形式の画像表示装置である。
【0037】
このヘッドマウントディスプレイ装置10は、概略的には、光源から一斉に入射した面状の光を、空間変調素子を用いて、各画素ごとに空間的に変調し、そのようにして形成された画像光を観察者の瞳孔を経て直接的に観察者の網膜上に投影し、それにより、観察者が画像を虚像として観察することを可能にするように構成されている。
【0038】
具体的には、このヘッドマウントディスプレイ装置10は、光源部12と、画像光形成部14と、リレー光学系16と、接眼光学系18とを、それらの順に、互いに直列に並ぶように備えている。
【0039】
光源部12は、光源としての白色LED20と、その白色LED20からの白色光をコリメートするコリメートレンズ22とを含むように構成されている。白色LED20は、LEDドライバ24によって駆動され、それにより、白色光を発光する。
【0040】
画像光形成部14は、フラットパネルディスプレイ(空間変調素子の一例)としてのLCD(液晶ディスプレイ)30を含むように構成されている。LCD30は、コリメートレンズ22からの白色光を、各画素ごとに、3色の成分光(RGB)に分解するカラーフィルタ(RGBフィルタ)と、各成分光の透過度を制御する液晶パネルとを含むように構成されている。その液晶パネルは、複数個の画素を有しており、各画素ごとに、各成分光の透過度を制御する。
【0041】
LCD30のいくつかの例が特開平11−194313号公報に開示されており、その公報は、引用によって本明細書に全体的に合体させられる。LCD30は、LCDドライバ32によって駆動され、それにより、白色LED20から出射した白色光に対して空間変調を施す。
【0042】
本実施形態においては、画像光形成部14がフラットパネルディスプレイを主体として構成されているが、これに限定されることなく、例えば、光スキャナを主体として構成することが可能である。この場合、このヘッドマウントディスプレイ装置10は、網膜走査型ディスプレイ装置とも称される。
【0043】
また、本実施形態においては、フラットパネルディスプレイの一例としてLCD30が採用されているが、これに限定されることなく、例えば、有機エレクトロルミネッセンスとしたり、デジタルマイクロミラーデバイスとすることが可能である。
【0044】
リレー光学系16は、前段リレーレンズ40と後段リレーレンズ42とを含むように構成されている。前段リレーレンズ40の前側焦点位置にLCD30が、その後側焦点位置に可変焦点レンズ50がそれぞれ配置され、また、後段リレーレンズ42の前側焦点位置に可変焦点レンズ50が配置されている。可変焦点レンズ50は、それの焦点距離が変化させられる。その焦点距離を変化させるために、可変焦点レンズ50は、可変焦点レンズドライバ52によって駆動される。
【0045】
可変焦点レンズ50は、それの屈折率もしくは屈折力またはレンズ形状が可変である液晶レンズまたは液体レンズとすることが可能であるが、これに限定されることなく、例えば、リレー光学系16の光軸方向における位置が可変である可動レンズとすることも可能である。液晶レンズおよび液体レンズのそれぞれについてのいくつかの例が特開2006−285182号公報に開示されており、その公報は、引用によって本明細書に全体的に合体させられる。
【0046】
接眼光学系18は、接眼レンズ60と、その接眼レンズ60からの画像光をユーザの瞳孔に誘導する光ガイドとしてのハーフミラー62とを含むように構成されている。
【0047】
本実施形態においては、その光ガイドがハーフミラー62として構成されているため、ユーザは、ハーフミラー62を通して現実外界を観察すると同時に、接眼レンズ60からの画像光を、ハーフミラー62の反射によって受光して表示画像を観察することが可能である。すなわち、このヘッドマウントディスプレイ装置10は、現実外界に重ねて表示画像を観察可能なシースルー型なのである。
【0048】
図2には、このヘッドマウントディスプレイ装置10が光路図で示されている。可変焦点レンズ50は、リレー光学系16の瞳とちょうど同じ位置、すなわち、前段リレーレンズ40の後側焦点位置と一致し、かつ、後段リレーレンズ42の前側焦点位置と一致する位置に配置されている。なお、図2には、ハーフミラー62が省略されている。
【0049】
図3には、このヘッドマウントディスプレイ装置10のうちの電気的な部分がブロック図で概念的に表されている。このヘッドマウントディスプレイ装置10は、信号処理装置70を備えている。その信号処理装置70は、コンピュータ72と、メモリ部74と、クロック発振器76とを含むように構成されている。
【0050】
この信号処理装置70は、概略的には、外部から入力されたコンテンツを表すデータに基づき、そのコンテンツを表示するために必要な信号を生成し、その信号に基づき、LEDドライバ24を介して白色LED20、LCDドライバ32を介してLCD30、可変焦点レンズドライバ52を介して可変焦点レンズ50をそれぞれ制御する。
【0051】
コンテンツは、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号と、奥行きを表すZ信号とが互いに関連付けられた信号によって表現される。コンピュータ72は、それら信号を入力すると、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号はR/G/Bバッファ78に保存する一方、Z信号はZバッファ80に保存する。
【0052】
コンピュータ72は、各フレームごとに、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号から、LCD30制御用のR画像信号、G画像信号およびB画像信号を生成して、それら画像信号をLCDドライバ32に供給するとともに、Z信号から奥行き信号を生成して、その奥行き信号を可変焦点レンズドライバ52に供給する。コンピュータ72は、クロック発振器76からのクロック信号に基づき、R画像信号、G画像信号およびB画像信号のLCDドライバ32への供給タイミングと、奥行き信号の可変焦点レンズドライバ52への供給タイミングとを互いに同期させる。
【0053】
図3に示すように、メモリ部74には、さらに、キャリブレーションプログラムと、画像表示プログラムと、前記キャリブレーションプログラムの実行に必要なテストパターンデータとが不揮発的に予め記憶されている。
【0054】
図5には、前記キャリブレーションプログラムが概念的にフローチャートで表されている。このキャリブレーションプログラムは、ヘッドマウントディスプレイ装置10の電源(図示しない)がユーザによって投入された後に、1回限り実行される。
【0055】
その実行時には、まず、ステップS101において、テストパターンデータがメモリ部74から読み込まれ、その読み込まれたテストパターンデータに基づき、LCD30が駆動されることにより、テストパターンがユーザの網膜上に直接的に投影される。図6(a)には、そのテストパターンの一例が示されている。このとき、奥行き信号は、奥行きのデフォールト値を表す信号として、可変焦点レンズドライバ52に供給される。
【0056】
次に、ステップS102において、テストパターンがユーザによって鮮明に観察されていることをユーザが示すために「OK」を表すデータが、図示しない入力装置を介して、コンピュータ72に入力されたか否かが判定される。ユーザによって認識されたテストパターンが図6(b)に示すように、不鮮明であるため、ユーザにより、「OK」を表すデータが入力されなかった場合には、ステップS102の判定がNOとなり、ステップS103において、テストパターンの奥行きが現在値から一方向に一定量変化するように、奥行き信号が生成される。その生成された奥行き信号は、可変焦点レンズドライバ52に供給され、その結果、テストパターンの奥行きが変更される。
【0057】
その後、再び、ステップS102において、ユーザにより、「OK」を表すデータが入力されたか否かが判定される。今回も、入力されなかった場合には、再び、ステップS103において、テストパターンの奥行きが現在値から、予め定められた一方向に、一定量だけ変化するように、奥行き信号が生成される。
【0058】
ステップS102およびS103の実行が繰り返された結果、ステップS102の判定がYESとなると、ステップS104において、そのときの奥行きが、奥行きのデフォールト値に対する固定バイアス値に決定される。したがって、その後、本来の画像表示工程においては、画像の目標奥行きが指定されると、その指定値が固定バイアス値で補正され、それにより、ユーザの視力の良否にかかわらず、目標奥行きを有する画像が鮮明にユーザによって観察される。
【0059】
以上で、このキャリブレーションプログラムの実行が終了する。
【0060】
図7には、前記画像表示プログラムが概念的にフローチャートで表されている。この画像表示プログラムは、ヘッドマウントディスプレイ装置10の電源がユーザによって投入された後、ユーザが、表示すべき画像を指定したうえで、図示しない画像スタートスイッチをオンに操作することに応答して実行される。今回は、複数のフレームの列によって表現される画像であるコンテンツ(例えば、奥行きが時間と共に変化するオブジェクトを有する動画や、奥行きは時間と共に変化しないが複数の奥行きを有する1つの静止画)が表示対象としてユーザによって指定されたと仮定する。
【0061】
この画像表示プログラムの実行が開始されると、まず、ステップS201において、フレームの番号FNが1にセットされる。次に、ステップS202において、表示すべきコンテンツのうち今回のフレームを表す画像信号が元画像信号として入力される。その元画像信号は、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号とZ信号とを含んでいる。
【0062】
続いて、ステップS203において、その元画像信号からZ信号が抽出され、そのZ信号が奥行き信号に変換される。具体的には、Z信号によって表現される奥行きの最大レベル数より少ない数(本実施形態においては、6)が、可変焦点レンズ50によって実現される奥行きの最大レベル数に設定されており、このステップS203においては、実際のZ信号が、6つの奥行きレベルのうち最も近似するものを表す奥行き信号に変換される。
【0063】
図8には、可変焦点レンズ50によって実現される6つの奥行きレベルが表示モード0−5として表記されている。表示モード0は、ディオプターが0である状態(焦点距離が無限大である状態)で画像を表示するためのモードである。表示モード1−5は、ディオプターが−0.5、−1.0、−1.5、−2.0および−2.5である状態で画像をそれぞれ表示するためのモードである。
【0064】
したがって、このステップS203の実行が終了すると、今回のフレームを構成する各画素ごとに、6つの表示モードのうちのいずれかが割り当てられることになる。
【0065】
図7に示すように、ステップS203の実行が終了すると、ステップS204において、図8に示すように、今回のフレームが、表示モード数と同数のサブフレームに分割される。具体的には、今回のフレームに属する複数個の画素が、同じ表示モード(同じディオプター)を割り当てられた複数個の画素グループに分割され、各表示モードごとに、1つのサブフレームが構成される。
【0066】
例えば、図9(a)に示すように、今回のフレーム番号が1である場合には、図9(b)に示すように、サブフレーム番号SFNが1であるサブフレームが、表示モードが0である画素についてのみ、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号を有するように構成される。このことは、サブフレーム番号SFNが2−6であるそれぞれのサブフレームについても同様である。
【0067】
なお付言するに、各サブフレームを構成する複数個の画素のうち、各サブフレームに対応する奥行きを有しない画素については、R光、G光およびB光のいずれも透過しないようにLCD30が制御されるように、サブフレームの画像信号が生成される。
【0068】
図7に示すように、ステップS204の実行が終了すると、ステップS205において、LEDドライバ24がオンされ、それにより、白色LED20が点灯させられる。続いて、ステップS206において、各サブフレームごとに、R輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号がそれぞれ、LCD30制御用のR画像信号、G画像信号およびB画像信号に変換される。さらに、各サブフレームごとに、それらR画像信号、G画像信号およびB画像信号がLCDドライバ32に供給される。
【0069】
その後、ステップS207において、各サブフレームごとに、奥行き信号(6つの表示モードのうちのいずれかを表す信号)が、可変焦点レンズドライバ52に供給される。このステップS207の実行は、ステップS206の実行と同期するように行われる。
【0070】
続いて、ステップS208において、今回のフレームが、今回の画像のうちの最終フレームであるか否かが判定される。今回のフレームは最終フレームではないと仮定すると、ステップS208の判定がNOとなり、その後、ステップS209において、フレーム番号FNが1だけインクリメントされた後、ステップS202に移行する。
【0071】
ステップS202−S209の実行がすべてのフレームについて実行された結果、ステップS208の判定がYESとなると、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
【0072】
図10(a)−(c)には、このヘッドマウントディスプレイ装置10が、可変焦点レンズ50の表示モードが0であって、ディオプターが0である場合と、可変焦点レンズ50の表示モードが3であって、ディオプターが−1.5である場合と、可変焦点レンズ50の表示モードが5であって、ディオプターが−2.5である場合とについてそれぞれ、光路図で示されている。
【0073】
なお付言するに、例えば、図10(a)には、LCD30から3つのビームが出射するように示されているが、これは、ある瞬間において、LCD30を構成する複数個の画素のうち、同じ表示モード(=0)、換言すれば、同じ奥行きすなわち焦点距離が割り当てられた3つの画素から3つのビームがそれぞれ同時に出射して可変焦点レンズ50に入射する様子を説明するためである。
【0074】
このように、本実施形態においては、奥行きが同じ画素のみが存在するように複数の独自のサブフレームが作成され、そのうえで、各サブフレームごとに、可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられて、各サブフレームごとの焦点距離すなわち奥行きが実現される。
【0075】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、説明の便宜上、信号処理装置70が前記(1)項における「波面曲率調節部」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図7におけるステップS202、S203およびS207を実行する部分が、前記(2)項における「変調手段」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図7におけるステップS204およびS206を実行する部分が、前記(3)項における「形成手段」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図7におけるステップS207を実行する部分が、同項における「調節手段」の一例を構成していると考えることが可能である。
【0076】
さらに、本実施形態においては、説明の便宜上、コンピュータ72のうち、図5に示すキャリブレーションプログラムを実行する部分が、前記(1)項における「波面曲率調節部」の別の一例を構成していると考えることが可能である。
【0077】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対して、接眼レンズ60が移動可能である点でのみ異なり、他の点では共通するため、接眼レンズ60の移動についてのみ説明する。
【0078】
図11には、接眼レンズ60を、それの光軸方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、画像光の波面曲率をデフォールト値からオフセットさせる波面曲率オフセット機構100が示されている。
【0079】
波面曲率オフセット機構100は、ヘッドマウントディスプレイ装置10のうちのハウジング(静止部材)102に取り付けられている。
【0080】
この波面曲率オフセット機構100は、ユーザの操作に応じて機械的に作動することにより、接眼レンズ60を、それの光軸上において変位させるように構成されている。具体的には、この波面曲率オフセット機構100は、ユーザによって操作される操作部(例えば、回転つまみ)104と、ハウジング102に固定された静止部106と、その静止部106に対して相対的に直線変位可能に支持された直線可動部108とを備えている。その直線可動部108に接眼レンズ60が固定されている。
【0081】
この波面曲率オフセット機構100は、さらに、操作部104によって回転させられる回転部110と、その回転部110の回転運動を直線可動部108の直線運動に変換する運動変換機構112とを備えている。その運動変換機構112は、例えば、直線可動部108のめねじと、回転部110のおねじとが互いに螺合されたねじ機構として構成することが可能である。また、この波面曲率オフセット機構100は、よく知られたマイクロメータに採用される変位機構と構造的に共通するように設計することが可能である。
【0082】
したがって、ユーザは、この波面曲率オフセット機構100により、接眼レンズ60をデフォールト位置から所望の向きに所望の量で変位させることが可能となる。よって、ユーザは、表示画像を見ながら、それが鮮明に見えるように接眼レンズ60の位置を調節し、その結果、画像光の波面曲率をデフォールト値から適量だけオフセットさせることが可能となる。
【0083】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対して、可変焦点レンズ50が移動可能である点でのみ異なり、他の点では共通するため、可変焦点レンズ50の移動についてのみ説明する。
【0084】
図12には、可変焦点レンズ50を、リレー光学系16の光軸に対して直角な方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、可変焦点レンズ50の、リレー光学系16に対する相対的な位置をキャリブレーションするキャリブレーション機構120が示されている。
【0085】
このキャリブレーション機構120は、第2実施形態における波面曲率オフセット機構100と共通する構成を有しており、操作部104、静止部106、直線可動部108、回転部110および運動変換機構112を含むように構成されている。直線可動部108に、可変焦点レンズ50が固定されている。
【0086】
ユーザは、このキャリブレーション機構120により、可変焦点レンズ50をデフォールト位置から所望の向きに所望の量で変位させることが可能となる。よって、ユーザは、表示画像を見ながら、それが鮮明に見えるように可変焦点レンズ50の位置を調節し、その結果、画像光の波面曲率をデフォールト値から適量だけオフセットさせることが可能となる。
【0087】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対して、画像表示プログラムの内容の点でのみ異なり、他の点では共通するため、画像表示プログラムについてのみ説明する。
【0088】
第1実施形態においては、各サブフレームごとに可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられるが、本実施形態においては、各画素ごとに可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられる。第1実施形態と同様に、本実施形態においても、同じフレームに属する複数個の画素にそれぞれ、各画素のZ信号に基づき、6つの表示モードのうちのいずれかが割り当てられる。
【0089】
図13には、本実施形態における画像表示プログラムが概念的にフローチャートで表されている。この画像表示プログラムが実行されると、まず、ステップS301において、フレーム番号FNが1にセットされ、次に、ステップS302において、今回のコンテンツを表す画像信号のうち今回のフレームに対応する部分が元画像信号として入力される。
【0090】
続いて、ステップS303において、画素番号PNが1にセットされる。その後、ステップS304において、今回の画素に対応するR輝度信号、G輝度信号およびB輝度信号がそれぞれ、LCD30用のR画像信号、G画像信号およびB画像信号に変換され、それらR画像信号、G画像信号およびB画像信号がLCDドライバ32に出力される。
【0091】
なお付言するに、今回の画素を反映したR画像信号、G画像信号およびB画像信号は、LCD30のうち、今回の画素に対応する電極についてしか供給されず、他の画素に対応する電極については、R光、G光およびB光のいずれも透過しないようにLCD30が制御される。
【0092】
続いて、ステップS305において、今回の画素に対応するZ信号に、6つの表示モードのうちのいずれかを表す奥行き信号が割り当てられることにより、そのZ信号が、対応する奥行き信号に変換される。
【0093】
その後、ステップS306において、その奥行き信号が可変焦点レンズドライバ52に出力される。このステップS306の実行は、ステップS304の実行と同期するように行われる。続いて、ステップS307において、今回の画素が、今回のフレームを構成する複数個の画素のうち最後の画素であるか否かが判定される。今回は、最終画素ではないと仮定すると、その判定がNOとなり、ステップS308において、画素番号PNが1だけインクリメントされ、その後、ステップS304に移行する。
【0094】
ステップS304−S308の実行が繰り返された結果、ステップS307の判定がYESとなると、ステップS309において、今回のフレームが、今回の画像のうちの最終フレームであるか否かが判定される。今回のフレームは最終フレームではないと仮定すると、ステップS309の判定がNOとなり、その後、ステップS310において、フレーム番号FNが1だけインクリメントされた後、ステップS302に移行する。
【0095】
ステップS302−S310の実行がすべてのフレームについて実行された結果、ステップS309の判定がYESとなると、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
【0096】
図14(a)−(c)には、このヘッドマウントディスプレイ装置10が、可変焦点レンズ50の表示モードが0であって、ディオプターが0である場合と、可変焦点レンズ50の表示モードが3であって、ディオプターが−1.5である場合と、可変焦点レンズ50の表示モードが5であって、ディオプターが−2.5である場合とについてそれぞれ、光路図で示されている。
【0097】
なお付言するに、例えば、図14(a)には、LCD30から1つのビームが出射するように示されているが、これは、ある瞬間において、LCD30を構成する複数個の画素のうち、今回の表示モード(=0)、換言すれば、今回の奥行きすなわち焦点距離が割り当てられた今回の画素のみから1つのビームが出射して可変焦点レンズ50に入射する様子を説明するためである。
【0098】
このように、本実施形態においては、各画素ごとに、可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられて、各画素ごとの焦点距離すなわち奥行きが実現される。
【0099】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、説明の便宜上、コンピュータ72のうち、図13におけるステップS302、S304、S305およびS306を実行する部分が、前記(2)項における「変調手段」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図13におけるステップS305およびS306を実行する部分が前記(4)項における「調節手段」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図13におけるステップS304を実行する部分が、前記(5)項における「形成手段」の一例を構成し、コンピュータ72のうち、図13におけるステップS305およびS306を実行する部分が、同項における「調節手段」の一例を構成していると考えることが可能である。
【0100】
さらに、本実施形態においては、説明の便宜上、コンピュータ72のうち、図5に示すキャリブレーションプログラムを実行する部分が、前記(1)項における「波面曲率調節部」の別の一例を構成していると考えることが可能である。
【0101】
なお付言すれば、本実施形態においては、各フレームの表示中、各画素ごとに、可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられて画像光の波面曲率が変調されるが、実質的に同じ奥行きを共有する各画素グループごとに、可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられて画像光の波面曲率が変調される態様で本発明を実施することが可能である。この態様によれば、各画素ごとに可変焦点レンズ50の作動状態が切り換えられる場合より、可変焦点レンズ50の作動頻度が低下し、それにより、可変焦点レンズ50の負担が軽減される。
【0102】
さらに付言するに、図19に例示されるように、焦点距離が必ずしも一致しない複数のオブジェクトが、互いにオーバラップする部分を有することなく配置された画像については、すべての画素につき、1個の画素に1個の焦点距離が割り当てられる。この種の画像を表示するための複数枚のサブフレームは、図20に例示される。この例においては、すべての画素につき、1個の画素が1枚のサブフレームに割り当てられる。
【0103】
これに対し、図21に例示されるように、焦点距離が必ずしも一致しない複数のオブジェクトのうちの少なくとも一部が、互いにオーバラップする部分を有するように配置された画像については、一部の画素につき、1個の画素に複数個の焦点距離が割り当てられる。この種の画像を表示するための複数枚のサブフレームは、図22に例示される。
【0104】
この例においては、一部の画素につき、1個の画素が複数枚のサブフレームに割り当てられる。この種の画像が表示されると、観察者は、各々透明でピント位置が互いに異なる複数個のオブジェクトがレイアー状に重なっているように知覚することになる。この例においては、複数枚のサブフレームがレイアー構造を成していると考えることが可能である。
【0105】
本発明によれば、それら2種類の画像のいずれについても、画像を正しく表示することができる。
【0106】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する点が多いため、その共通点については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略し、第1実施形態とは異なる点についてのみ詳細に説明する。
【0107】
図15は、本発明の第5実施形態に従う液晶プロジェクタ140である。この液晶プロジェクタ140は、画像を物理的なスクリーンに投影し、それにより、観察者に画像を表示する形式の画像表示装置である。
【0108】
この液晶プロジェクタ140は、概略的には、光源から一斉に入射した面状の光を、空間変調素子を用いて、各画素ごとに空間的に変調し、そのようにして形成された画像光をスクリーン上に投影し、それにより、観察者が画像を実像として観察することを可能にするように構成されている。
【0109】
具体的には、この液晶プロジェクタ140は、第1実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10と同様に、光源部12と、画像光形成部14と、リレー光学系16とを、それらの順に、互いに直列に並ぶように備えている。この液晶プロジェクタ140は、ヘッドマウントディスプレイ装置10とは異なり、接眼光学系18は備えていない。
【0110】
図15に示すLEDドライバ24、LCDドライバ32および可変焦点レンズドライバ52は、図3に示す信号処理装置70によって制御される。図16には、その信号処理装置70のうちのメモリ部74の内容が概念的に表されている。図16に示すように、メモリ部74には、第1実施形態と同様に、キャリブレーションプログラムと、画像表示プログラムと、テストパターンデータとが不揮発的に予め記憶されている。それらプログラムおよびデータは、第1実施形態と共通するため、重複した説明を省略する。
【0111】
このメモリ部74には、さらに、独自のプログラムとして、画像歪みキャンセルプログラムと、その画像歪みキャンセルプログラムの実行に必要な焦点距離分布パターンデータとが不揮発的に予め記憶されている。
【0112】
図17には、その画像歪みキャンセルプログラムが概念的にフローチャートで表されている。
【0113】
この画像歪みキャンセルプログラムは、液晶プロジェクタ140が画像を投影しようとするスクリーン142が、その液晶プロジェクタ140の光軸に対して十分に直角でなかったり、または、そのスクリーン142自体が湾曲しているために、スクリーン142上において表示画像が幾何学的に歪んでしまってピンボケになってしまう場合に、その画像の歪みをソフトウエアによってキャンセルするために実行される。
【0114】
具体的には、この画像歪みキャンセルプログラムは、スクリーン142に照射する画像光の波面曲率の分布すなわち焦点距離の分布を、スクリーン142上に投影される画像の幾何学的歪みがキャンセルされるように、再設定するように実行される。
【0115】
さらに具体的には、この画像歪みキャンセルプログラムは、画像の幾何学的歪みをキャンセルするために効果的である焦点距離分布を表す焦点距離分布パターンを複数種類、用意している。
【0116】
図18には、焦点距離分布パターンの例として、4種類の焦点距離分布パターンが示されている。焦点距離分布パターンNo.1は、表示画像の左側から右側に向かうにつれて焦点距離が順に短くなるパターンである。焦点距離分布パターンNo.2は、表示画像の左側から右側に向かうにつれて焦点距離が順に長くなるパターンである。焦点距離分布パターンNo.3は、表示画像の上側から下側に向かうにつれて焦点距離が順に短くなるパターンである。焦点距離分布パターンNo.4は、表示画像の上側から下側に向かうにつれて焦点距離が順に長くなるパターンである。
【0117】
図17には、前記画像歪みキャンセルプログラムが概念的にフローチャートで表されている。この画像歪みキャンセルプログラムは、液晶プロジェクタ140の、図示しない電源がユーザによって投入されたことに応答して実行される。
【0118】
その実行時には、まず、ステップS401において、ユーザにより、図示しない入力装置を介して、「画像歪みキャンセルモード」が選択されたか否かが判定される。今回は、「画像歪みキャンセルモード」が選択されなかったと仮定すると、直ちにこの画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了する。
【0119】
これに対し、今回は、「画像歪みキャンセルモード」が選択されたと仮定すると、ステップS402において、焦点距離分布パターンNo.1が今回の焦点距離分布パターンとして選択され、さらに、その選択された焦点距離分布パターンに基づき、奥行き信号が、1フレーム全体について作成される。
【0120】
続いて、ステップS403において、その作成された奥行き信号と、前記テストパターンデータとに基づき、例えば図6(a)に示すテストパターンが、今回の焦点距離分布パターンのもとに表示される。
【0121】
その後、ステップS404において、そのテストパターンがユーザによって鮮明に観察されていることをユーザが示すために「OK」を表すデータが、図示しない入力装置を介して、コンピュータ72に入力されたか否かが判定される。
【0122】
今回は、「OK」を表すデータが入力されたと仮定すると、ステップS404の判定がYESとなり、この画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了し、以後、今回の焦点距離分布パターンが、バイアスとして、前記画像表示プログラムの実行によって作成された奥行き信号に付加される。
【0123】
これに対し、今回は、「OK」を表すデータが入力されなかったと仮定すると、ステップS404の判定がNOとなり、ステップS405に移行する。
【0124】
ステップS405においては、焦点距離分布パターンNo.2が今回の焦点距離分布パターンとして選択され、さらに、その選択された焦点距離分布パターンに基づき、奥行き信号が、1フレーム全体について作成される。
【0125】
続いて、ステップS406において、その作成された奥行き信号と、前記テストパターンデータとに基づき、テストパターンが、今回の焦点距離分布パターンのもとに表示される。
【0126】
その後、ステップS407において、「OK」を表すデータが入力されたか否かが判定される。今回は、「OK」を表すデータが入力されたと仮定すると、ステップS407の判定がYESとなり、この画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了し、以後、今回の焦点距離分布パターンが、バイアスとして、前記画像表示プログラムの実行によって作成された奥行き信号に付加される。
【0127】
これに対し、今回は、「OK」を表すデータが入力されなかったと仮定すると、ステップS407の判定がNOとなり、ステップS408に移行する。
【0128】
ステップS408においては、焦点距離分布パターンNo.3が今回の焦点距離分布パターンとして選択され、さらに、その選択された焦点距離分布パターンに基づき、奥行き信号が、1フレーム全体について作成される。
【0129】
続いて、ステップS409において、その作成された奥行き信号と、前記テストパターンデータとに基づき、テストパターンが、今回の焦点距離分布パターンのもとに表示される。
【0130】
その後、ステップS410において、「OK」を表すデータが入力されたか否かが判定される。今回は、「OK」を表すデータが入力されたと仮定すると、ステップS410の判定がYESとなり、この画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了し、以後、今回の焦点距離分布パターンが、バイアスとして、前記画像表示プログラムの実行によって作成された奥行き信号に付加される。
【0131】
これに対し、今回は、「OK」を表すデータが入力されなかったと仮定すると、ステップS410の判定がNOとなり、ステップS411に移行する。
【0132】
ステップS411においては、焦点距離分布パターンNo.4が今回の焦点距離分布パターンとして選択され、さらに、その選択された焦点距離分布パターンに基づき、奥行き信号が、1フレーム全体について作成される。
【0133】
続いて、ステップS412において、その作成された奥行き信号と、前記テストパターンデータとに基づき、テストパターンが、今回の焦点距離分布パターンのもとに表示される。
【0134】
その後、ステップS413において、「OK」を表すデータが入力されたか否かが判定される。今回は、「OK」を表すデータが入力されたと仮定すると、ステップS413の判定がYESとなり、この画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了し、以後、今回の焦点距離分布パターンが、バイアスとして、前記画像表示プログラムの実行によって作成された奥行き信号に付加される。
【0135】
これに対し、今回は、「OK」を表すデータが入力されなかったと仮定すると、ステップS413の判定がNOとなり、ステップS414に移行する。
【0136】
このステップS414においては、ユーザにより、図示しない入力装置を介して、「モード終了」が選択されたか否かが判定される。今回は、「モード終了」が選択されたと仮定すると、この画像歪みキャンセルプログラムの実行が終了し、一方、今回は、「モード終了」が選択されなかったと仮定すると、ステップS402に戻り、再度、テストパターンが、異なる焦点距離分布パターンのもとに表示される。
【0137】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、説明の便宜上、コンピュータ72のうち、図17に示す画像歪みキャンセルプログラムを実行する部分が、前記(1)項における「波面曲率調節部」の別の一例を構成していると考えることが可能である。
【0138】
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の第1実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10を概念的に表す系統図である。
【図2】図1に示すヘッドマウントディスプレイ装置10を示す光路図である。
【図3】図1に示すヘッドマウントディスプレイ装置10のうち電気的な部分を概念的に表すブロック図である。
【図4】図3に示すメモリ部74の内容を概念的に表すブロック図である。
【図5】図4に示すキャリブレーションプログラムを概念的に表すフローチャートである。
【図6】図6(a)は、図5に示すキャリブレーションプログラムの実行によって表示されるテストパターンを示す正面図であり、図6(b)は、そのテストパターンが観察者によって不鮮明に認識される様子を説明するための正面図である。
【図7】図4に示す画像表示プログラムを概念的に表すフローチャートである。
【図8】図7に示す画像表示プログラムの実行によって1つのフレームが複数のサブフレームに分割される様子と、複数の表示モードと複数のディオプターとの対応関係とを説明するための表である。
【図9】図9(a)は、R輝度信号、G輝度信号、B輝度信号およびZ信号を各フレームごとに示すタイムチャートであり、図9(b)は、図7に示す画像表示プログラムの実行によって1つのフレーム(FN=1)が6つのサブフレーム(SFN=1−6)に分割される様子を説明するためのタイムチャートである。
【図10】図10(a)は、図1に示すヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが0であるときに示す状態を示す光路図であり、図10(b)は、図1に示すヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが3であるときに示す状態を示す光路図であり、図10(c)は、図1に示すヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが5であるときに示す状態を示す光路図である。
【図11】本発明の第2実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10のうち、波面曲率オフセット機構100を接眼光学系18と共に示す側面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10のうち、キャリブレーション機構120をリレー光学系16と共に示す側面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10のうちのメモリ部74に記憶されている画像表示プログラムを概念的に表すフローチャートである。
【図14】図14(a)は、第4実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが0であるときに示す状態を示す光路図であり、図14(b)は、第4実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが3であるときに示す状態を示す光路図であり、図14(c)は、第4実施形態に従うヘッドマウントディスプレイ装置10が可変焦点レンズ50の表示モードが5であるときに示す状態を示す光路図である。
【図15】本発明の第5実施形態に従う液晶プロジェクタ140を概念的に表す系統図である。
【図16】図15に示す液晶プロジェクタ140のうちのメモリ部74の内容を概念的に表すブロック図である。
【図17】図16に示す画像歪みキャンセルプログラムを概念的に表すフローチャートである。
【図18】図17に示す画像歪みキャンセルプログラムを実行するために用いられる複数種類の焦点距離分布パターンを示す平面図である。
【図19】本発明の適用可能範囲を説明するために、焦点距離が必ずしも一致しない複数のオブジェクトが、互いにオーバラップする部分を有することなく配置された画像の一例を示す正面図である。
【図20】図19に示す画像を表示するために生成される複数枚のサブフレームを示す正面図である。
【図21】本発明の適用可能範囲を説明するために、焦点距離が必ずしも一致しない複数のオブジェクトのうちの少なくとも一部が、互いにオーバラップする部分を有するように配置された画像の一例を示す正面図である。
【図22】図21に示す画像を表示するために生成される複数枚のサブフレームを示す正面図である。
【符号の説明】
【0140】
10 ヘッドマウントディスプレイ装置
12 光源部
14 画像光形成部
16 リレー光学系
18 接眼光学系
20 白色LED
30 LCD
50 可変焦点レンズ
60 接眼レンズ
70 信号処理装置
72 コンピュータ
100 波面曲率オフセット機構
120 キャリブレーション機構
140 液晶プロジェクタ
142 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を光学的に表示する画像表示装置であって、
光源部と、
その光源部から出射する光を、表示すべき画像を表す画像光に変換することにより、その画像光を形成する画像光形成部と、
その画像光形成部から出射した画像光をリレーするリレー光学系であって、そのリレー光学系の内部に、前記画像光が通過する瞳を有するものと、
その瞳の位置と概して等しい位置に配置された可変焦点レンズであって、可変である焦点距離を有するものと、
その可変焦点レンズを駆動して前記焦点距離を変化させることにより、前記リレー光学系から出射する画像光の波面曲率を調節する波面曲率調節部と
を含む画像表示装置。
【請求項2】
前記波面曲率調節部は、前記画像の奥行き情報に基づいて前記波面曲率を変調する変調手段を含む請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記画像は、複数のフレームの列によって構成され、
前記画像光形成部は、各フレームごとに、そのフレームを構成する複数個の画素が一斉に表示されるように、前記画像光を形成する形成手段を含み、
前記波面曲率調節部は、各フレームごとに、各フレームの表示タイミングと同期するように、前記波面曲率を調節する調節手段を含む請求項1または2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記画像は、複数個の画素の集まりによって構成され、
前記波面曲率調節部は、各画素または各画素グループごとに、前記波面曲率を調節する調節手段を含む請求項1または2に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記画像は、複数のフレームの列によって構成され、
各フレームは、複数個の画素の集まりによって構成され、
前記画像光形成部は、各フレームごとに、そのフレームを構成する複数個の画素が、各フレームの表示時間中に、各画素または各画素グループごとに、時分割で順次表示されるように、前記画像光を形成する形成手段を含み、
前記波面曲率調節部は、各画素または画素グループごとに、各画素または画素グループの表示タイミングと同期するように、前記波面曲率を調節する調節手段を含む請求項1または2に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記可変焦点レンズは、液晶レンズと、液体レンズと、前記リレー光学系の光軸方向における位置が可変である可動レンズとのうちの少なくとも一つを含む請求項1ないし5のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記画像光形成部は、光スキャナと、フラットパネルディスプレイとのうちの少なくとも一つを含む請求項1ないし6のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記画像光形成部は、前記フラットパネルディスプレイを含み、
そのフラットパネルディスプレイは、液晶ディスプレイと、有機エレクトロルミネッセンスと、デジタルマイクロミラーデバイスとのうちの少なくとも一つを含む請求項1ないし7のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項9】
さらに、
前記リレー光学系の下流に配置された接眼光学系と、
その接眼光学系を、それの光軸方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、前記波面曲率をデフォールト値からオフセットさせる波面曲率オフセット機構と
を含む請求項1ないし8のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項10】
さらに、
前記可変焦点レンズを、前記リレー光学系の光軸に対して直角な方向に移動させて任意の位置で停止させることにより、当該可変焦点レンズの、前記リレー光学系に対する相対的な位置をキャリブレーションするキャリブレーション機構を含む請求項1ないし9のいずれかに記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−180758(P2009−180758A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17043(P2008−17043)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】