説明

画像読取装置及び画像形成装置

【課題】装置側で原稿が載置される向きに応じて適切な画質で読み取り、原稿の向きの違いによる出力画像データの画質の相違を防ぐことを可能とする画像読取装置及び該画像読取装置を含む画像形成装置を提供する。
【解決手段】読取部12にて原稿に対しプレスキャンを実行し、プレスキャンで得られる画像データから濃度分布算出部31が濃度分布を算出し、周波数変換部32が濃度分布を周波数分布へ変換し、判定部33が周波数分布に基づいて原稿が載置された向きを判定し、速度決定部34が判定結果に基づいて通常スキャンの速度を決定する。これにより、原稿の向きに応じた適切な画質で読取部12による読み取りが実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原稿から画像を読み取って画像データを取得する画像読取装置に関する。特に、原稿が載置されるときの向きに応じて適切な画質で画像を読み取り、原稿の向きの違いによる出力画像データの画質の相違を防ぐことを可能とする画像読取装置及び該画像読取装置を含む画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像読取装置は、原稿上のアナログな濃度分布又は色分布を一定の標本化間隔にて読み取り、読み取った各分布に基づき離散的な画像データを取得する。画像読取装置が複写機機又は複合機などの画像形成装置内に含まれている場合、画像読取装置が取得したデジタル画像データに種々の画像処理が行なわれて出力される。
【0003】
画像読取装置が画像を読み取る際の標本化間隔は、得られる画像データに大きな影響を与える。例えば、読み取り対象の原稿の濃度分布の中に、標本化間隔よりも細かく濃淡が変化する部分が有る場合、当該部分は正しく読み込まれない。つまり、標本化間隔の逆数にあたる標本化周波数(サンプリング周波数)を超える高周波成分を有する部分は正しく読み込まれない。このような高周波成分を有する部分は、取得された画像データの中で折り返し雑音として表れる。そこで画像読取装置は、高周波成分をフィルタ処理によって遮断して読み取るようにしてある。しかしながら、高周波成分を遮断することは、画像の情報を一部除去するから、元の画像の再現性を低下させる。画像読取装置が取得した画像データによる元の画像の再現性の低下を防ぐには、標本化間隔を小さくする、即ち解像度を大きくする必要がある。
【0004】
画像読取装置は、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用い、一定の間隔で一列に配列してある素子で構成される読取部を備える。画像読取装置は、読取部を素子の配列方向に直行する方向に原稿に対し相対移動させ、移動中に一定の時間間隔をおいて読み取りを行なう。素子の配列方向を主走査方向、読取部の移動方向を副走査方向とする。画像読取装置の主走査方向の標本化間隔は、素子が配列される間隔Lであり、副走査方向の標本化間隔は、読取部が移動する速度Vと読み取りの時間間隔Tとの積である。
【0005】
読み取りの解像度を大きくする場合、読取部の素子間の間隔Lはより小さく、読取部の移動速度Vはより遅く、読み取りの時間間隔Tはより短くする必要がある。しかしながらこの場合、画像データのサイズは大きくなり、処理及び出力に時間を要する。細かな濃淡部分が無い画像では、細かく標本化する必要が無い場合もある。
逆に、処理及び出力を迅速化するためには、素子の間隔Lを大きくするか、移動速度Vを早くするか、又は読み取りの時間間隔Tを長くすることが必要である。しかしながら、素子の間隔L及び時間間隔Tは、装置の仕様によって固定されるものであり、いずれも長く設定した場合に、装置全体の能力が低下する。
したがって、読み取りの解像度の調整のためには、読取部の素子間の間隔Lは小さく、読み取りの時間間隔Tは短く固定しておき、読取部の移動速度Vを調整することができる構成とする。つまり、副走査方向の解像度のみが調整可能である。副走査方向の解像度が主走査方向の解像度よりも小さく調整された場合、迅速な処理が可能である。しかしながらこのとき、主走査方向と副走査方向とで解像度が異なるので、原稿が載置されるときの向きによっては、画像読取装置により取得される画像データの画質が低下する可能性がある。
【0006】
画像読取装置が画像形成装置に含まれる場合、読取部は、装置に設けられた透明な原稿台の下方などの位置に受光部を上へ向けて設置される。主走査方向及び副走査方向は固定される。一方、ユーザは、画像読取装置を使用する場合に原稿を原稿台に自ら設置する。つまりユーザの意思によって、主走査及び副走査方向に対する原稿の縦横が決まる。したがって、設置された原稿の縦横方向と主走査及び副走査方向との間に角度のずれが生じる場合がある。また、本来は原稿の横方向と主走査方向とが対応し、縦方向と副走査方向とが対応すべきところ、逆に原稿が設置される場合もある。これらの場合、適切な解像度での読み取りがなされない可能性がある。
【0007】
特許文献1には、ユーザが原稿を設置することによって生じた若干の位置のずれ、又は角度を検出し、取得した画像データ簡単に補正することを可能とする画像処理装置の発明が開示されている。特許文献1では、画像処理装置は、原稿中の一部の画像について周波数成分を算出し、算出結果に基づいて原稿の傾き又は位置のずれを検出し、取得した画像データを補正する構成としてある。
【0008】
特許文献2には、等方的なフィルタ処理を行なう構成とすることにより、原稿の縦横方向の違いの影響を受けないようにする画像処理装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−171395号公報
【特許文献2】特開平7−295961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1又は2に開示されている技術を用いた場合、上述のような若干の位置のずれ又は傾きを補正することはできる。しかしながら、読取部の主走査方向と副走査方向とで解像度が異なる場合に、原稿が載置されるときの向きによって、取得される画像データの画質に差異が生じる問題については考慮されていない。
【0011】
上述したように、本来は画像の横方向を主走査方向、縦方向を副走査方向に沿って原稿を設置して画像読取装置に読み取りを行なわせるべき場合であっても、ユーザは縦横逆に原稿を設置することができる。そもそも、画像読取装置を含む装置の設置場所、設置向き、原稿台の形状、又はユーザから見た走査方向の仕様の制約などの条件により、ユーザが原稿の向きを意識して設置できない場合がある。更に、ユーザが意図して縦横を逆に原稿を設置する場合もある。特許文献1又は2の方法を用いる構成で、原稿の向きにかかわらず、取得できる画像データを同一の画質にするためには、L=V*Tを満たして主走査方向及び副走査方向の解像度を同一とする必要がある。しかしながらこの場合、上述したように、常に画像データのサイズが大きくなり、処理時間も長くなる問題が残る。
【0012】
また、原稿の縦方向又は横方向のいずれかに、読取部の移動速度によって定まる副走査方向の解像度を超える高周波数成分が存在した場合、原稿が載置されるときの向きによっては、高周波数成分が存在する方向と副走査方向とが一致する。このとき、原稿の中の高周波数成分の部分は正しく読み込まれず、結果として原稿の画像の再現性が低下する。ユーザが、原稿の縦横を主走査方向及び副走査方向に合わせる向きと意図して載置したとしても、画像によっては、適切な向きであるとは限らない。原稿の向きにかかわらず同一の画質にするためには、高周波数成分を更に遮断する構成が必要となり、取得される画像データの画質は劣化する。
【0013】
更には、読取部の副走査方向の移動速度Vの調整を行なうことが可能な構成であっても、ユーザが判断して移動速度Vを調整するものである。したがって、縦向き又は横向きで設置された原稿の画像の周波数特性に対し、ユーザが調整した副走査方向の移動速度Vが適切であるとは限らない。
【0014】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、装置側で原稿が載置されるときの向きに応じて適切な画質で読み取り、原稿の向きの違いによる出力画像データの画質の相違を防ぐことを可能とする画像読取装置及び該画像読取装置を含む画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る画像読取装置は、原稿上の画像の第1の方向における一又は複数の色成分毎の濃度分布を、第1の方向と異なる第2の方向に順次読み取って画像信号を取得する画像読取装置において、前記画像の一部又は全部における色成分毎の濃度分布を予め取得し、第1及び第2の方向夫々の周波数分布を算出する算出手段と、該算出手段が算出した各周波数分布の比較結果に基づき、読み取り速度を決定する決定手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明では、原稿上の画像の読み取りが行なわれる前に予め、前記画像の色成分毎の濃度分布に基づき、第1及び第2の方向夫々の濃度の周波数分布が算出される。本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較結果、例えば、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かに応じて、第2の方向に対する読み取り速度が決定される。
【0017】
本発明に係る画像読取装置は、線状のイメージセンサと、該イメージセンサに略平行に設置されており、露光及び反射光像の前記イメージセンサへの伝達を行ない、前記イメージセンサに略直交する方向に順次移動して走査する走査ユニットとを含み、原稿上の画像に対して前記走査ユニットを相対移動させると共に順次、イメージセンサにて得られた信号を読み取って画像データを取得する画像読取装置において、前記画像の一部又は全部における色成分毎の濃度分布を予め取得し、前記イメージセンサの線状の方向及び前記走査ユニットの移動方向夫々の周波数分布を算出する算出手段と、該算出手段が算出した各周波数分布の比較に基づき、前記走査ユニットの移動速度を決定する決定手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明では、原稿上の画像を線状のイメージセンサを用いて読み取る前に予め、前記画像の色成分毎の濃度分布に基づき、線状のイメージセンサの列の方向(主走査方向)及びイメージセンサの列の方向と略直交する走査ユニットの移動方向(副走査方向)夫々の濃度の周波数分布が算出される。本発明では、主走査方向における周波数分布と副走査方向における周波数分布との比較結果、例えば、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かに応じて方向に対する走査ユニットの移動速度が決定される。
【0019】
本発明に係る画像読取装置は、前記決定手段は、前記算出手段が算出した周波数分布の比較結果に基づき、前記原稿の天地方向の向きを判定する判定手段を備え、該判定手段による判定結果に応じて読み取り速度を決定するようにしてあることを特徴とする。
【0020】
本発明では、周波数分布の比較に基づき、原稿の天地方向(縦横)の向きが判定される。これにより例えば、原稿が横向きに載置されている場合は読み取り速度を速くして処理を迅速化するか、縦向きに載置されている場合は読み取り速度を緩やかにして細かく読み取るか、又は逆にするなどの決定が可能となる。
【0021】
本発明に係る画像読取装置は、前記決定手段は、前記比較結果が特定の結果である場合、予め決めてある速度に決定するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本発明では、周波数分布の比較に基づいて決定された読み取り速度が、設定されてある速度よりも優先される。ユーザが設定した読み取り速度が、原稿の画像の周波数特性に対して適切であるとは限らないところ、本発明では、自動的に適切な読み取り速度を決定することが可能となる
【0023】
本発明に係る画像読取装置は、前記算出手段は、前記濃度分布を色成分毎に、第1の方向にMk個、第2の方向にSn個のMk行×Sn列の複数の領域に分別して取得するようにしてあり、各行及び各列の濃度の和を算出する手段と、算出した濃度の和から各方向の周波数分布を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0024】
本発明では、原稿上の画像の一部又は全部について、Mk行×Sn列の複数の領域に分別されて、各行及び各列の濃度の和に基づき前記画像の一部又は全部における画像の周波数分布が算出される。Mk行×Sn列の領域への分別とは、例えば各画素であり、この場合、第1の方向の画素値の濃度和、第2の方向の画素値の濃度和が算出される。また、4×4画素分のブロックでもよく、この場合、ブロック毎の濃度和若しくは濃度の平均値を、第1の方向及び第2の方向夫々に加算して、各方向の濃度和が算出される。これにより、比較的安易な演算によって周波数分布の算出が可能である。
【0025】
本発明に係る画像読取装置は、前記算出手段は、各方向の濃度分布をフーリエ変換により周波数成分を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0026】
本発明では、各方向の濃度の和に基づきフーリエ変換によって周波数成分が算出される。高速フーリエ変換(FFT)のアルゴリズムを適用することが可能である。
【0027】
本発明に係る画像読取装置は、前記算出手段は、前記フーリエ変換に用いる窓関数の設定を受け付ける手段を更に備えることを特徴とする。
【0028】
本発明では、フーリエ変換による周波数成分の算出を行なう際の窓関数について、設定を受け付ける。これにより、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かの判定の精度、又は原稿の天地方向の判定の精度を調整することが可能である。
【0029】
本発明に係る画像読取装置は、前記決定手段は、周波数分布を比較するに際し、特定の順位の強度を有する周波数の比較に基づき決定するようにしてあることを特徴とする。
【0030】
本発明では、フーリエ変換により算出された周波数分布を比較するに際し、各々での特定の順位の強度を有する周波数の比較が行なわれる。つまり、夫々の方向で最も強度が高い周波数同士、又は2番目、3番目若しくは4番目の強度の周波数同士の比較が行なわれる。これにより、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かの判定の精度、又は原稿の天地方向の向きの判定の精度を調整することが可能とある。
【0031】
本発明に係る画像読取装置は、前記決定手段は、周波数分布を比較するに際し、所定値以上の強度を有する周波数成分の内、特定の順位の高さを有する周波数の比較結果に基づき決定するようにしてあることを特徴とする。
【0032】
本発明では、フーリエ変換により算出された周波数分布を比較するに際し、所定値以上の強度を有する周波数成分の内、特定の順位の高さを有する周波数の比較が行なわれる。つまり、ある程度強度がある周波数成分の内、各々で強度の順位が高い周波数同士が比較される。これにより、誤判定を減少させ、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かの判定の精度、又は原稿の天地方向の向きの判定の精度を調整することが可能である。
【0033】
本発明に係る画像読取装置は、前記決定手段が予め取得する濃度分布の前記画像における範囲、又は位置の設定を受け付ける手段を更に備えることを特徴とする。
【0034】
本発明では、予め取得される濃度分布の範囲又は位置の設定が外部から受け付けられる。範囲又は位置の設定により、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かの判定の精度、又は原稿の天地方向の向きの判定の精度を調整することが可能となる。
【0035】
本発明に係る画像形成装置は、上述のいずれか1つに記載の画像読取装置を備え、該画像読取装置によって取得した画像データに基づき出力画像を形成する画像形成手段を備えることを特徴とする。
【0036】
本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較結果、例えば、いずれの方向に高周波成分が存在するか否かに応じて読み込み速度が決定されて読み込みがされる。これにより、原稿の向きによらない画質にて画像の読み取りが可能となり、結果的に形成する画像への影響が非常に少ない。
【0037】
本発明に係る画像形成装置は、前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、出力画像を形成するためのパラメータを決定する手段を備えることを特徴とする。
【0038】
本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較に基づき、適切な間隔で読み取りがなされるのみならず、適切なパラメータを用いて出力画像を生成することが可能となる。
【0039】
本発明に係る画像形成装置は、複数の量子化テーブルを記憶してある記憶部と、前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記複数の量子化テーブルの内のいずれか1つを選択し、出力画像に画像圧縮処理を行なう手段とを更に備えることを特徴とする。
【0040】
本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較に基づき、適切な間隔で読み取りがなされるのみならず、適切な量子化テーブルを用いて出力画像を圧縮して生成し、出力することが可能となる。
【0041】
本発明に係る画像形成装置は、複数のフィルタと、前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記複数のフィルタの内のいずれか1つを選択し、出力画像にフィルタ処理を行なう手段とを更に備えることを特徴とする。
【0042】
本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較に基づき、適切な間隔で読み取りがなされるのみならず、適切なフィルタ処理がなされて出力画像を生成し、出力することが可能となる。
【0043】
本発明に係る画像形成装置は、前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記画像の一部又は全部が文字領域であるか、又は網点領域であるかを判定する領域判定手段を更に備えることを特徴とする。
【0044】
本発明では、第1の方向における周波数分布と第2の方向における周波数分布との比較に基づき、適切な間隔で読み取りがなされるのみならず、各領域が文字領域であるか、網点領域であるかの判定を参照することが可能となる。量子化テーブルを用いて出力画像を圧縮して生成し、出力することが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明による場合、原稿上の画像の第1の方向(例えば主走査方向)及び第2の方向(例えば副走査方向)の内の、高周波成分が存在する方向の濃度分布を、より細かな標本化間隔で読み取るように、第2の方向の読み取り速度を決定することが可能となる。第1の方向に高周波成分が存在する場合は第2の方向の読み取り速度を速くし、第2の方向に高周波成分が存在する場合は第2の方向の読み取り速度を緩やかにするなどの調整が可能となる。
これにより、画像の中で変化が細かい方向の情報量を増やして適切な画質で画像データを取得し、原稿の向きの違いによる読み取り時の画像の劣化を低減することができる。
特に、文章を含む原稿を対象とした場合に有効に、読み取り速度が決定される。文章が含まれる原稿では、和文、中文又は英文のいずれでも、行内の文字間の間隔よりも行間の間隔の方が広いので、行方向と行と直交する方向とでは周波数分布が異なる。文字自体も複数の線が集まって構成されるので、周波数分布に対し、比較的高周波成分の強度が強くなるように影響する。したがって、文字列を含む原稿では行方向と行方向に直交する方向とでは、周波数分布が異なるので、原稿の向きが読み取りの精度に大きく影響する。
【0046】
より具体的には、原稿の向きによっては取得できる画像の画質が劣化する可能性が有る場合に、ユーザが原稿の向きを置き換えることなしに、適切な画質での読み取りの実行が可能となる。又は、読み取り速度の変更をユーザに知らせ、読み取りをより速やかに、より適切な画質で実行することができる。
【0047】
更に、原稿上の画像の第1の方向及び第2の方向の周波数特性に応じて、適切な画像圧縮方法、フィルタ処理の内容を変更することが可能となる。これにより、原稿の向きにかかわらず、取得できるデジタル画像データの画質又は符号化データ量を適切なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態1の画像読取装置の構成を概略的に示す概略図である。
【図2】実施の形態1の画像読取装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1における画像読取装置における読み取りから出力までの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】プレスキャン時に濃度分布算出部が各方向の濃度分布を算出する方法の概要を示す概念図である。
【図5】プレスキャン時に濃度分布算出部が各方向の濃度分布を算出する方法の概要を示す概念図である。
【図6】プレスキャン時に濃度分布算出部が各方向の濃度分布を算出する方法の概要を示す概念図である。
【図7】判定部の判定方法及び速度決定部による決定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】判定部の判定方法及び速度決定部による決定方法の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態2における画像読取装置の構成を示すブロック図である。
【図10】実施の形態3における画像読取装置の構成を示すブロック図である。
【図11】実施の形態4の画像形成装置の構成を概略的に示す概略図である。
【図12】実施の形態4の画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
【0050】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の画像読取装置1の構成を概略的に示す概略図であり、図2は、画像読取装置1の構成を示すブロック図である。画像読取装置1は、CCD(Charge Coupled Device)を用いたスキャナであり、原稿の一面に記録されたカラー画像からの反射光像をRGBのアナログ信号として読み取り、読み取ったRGB信号を出力する。
【0051】
画像読取装置1は、上面に透明なガラス板からなる原稿台10を有する略直方体形状の筐体11内部に設けられている。画像読取装置1は、読取部12、演算部13、記憶部14、及び出力部15を備える。
【0052】
読取部12は、走査ユニット21、光学レンズ22及びイメージセンサ23を備える。イメージセンサ23は、フォトダイオード等の受光素子を一定の間隔Lで一列に並べた線状のCCDセンサで構成されている。イメージセンサ23は、原稿台10の短手方向の側面下方に、受光素子群の受光方向が原稿台10と略平行となるように、筐体11内部側に向けて設置されている。このときの受光素子の列の方向が主走査方向である。走査ユニット21は、イメージセンサ23同様に長細い直方体形状をなし、原稿台10の短手方向の側面の内、イメージセンサ23と反対側の下方に短手方向と略平行に設置されている。走査ユニット21は、原稿を露光する露光ランプ、原稿からの反射光像をイメージセンサ23へ導くためのミラーを備える。走査ユニット21は、演算部13からの制御信号に基づき、原稿台10の下面に沿って長手方向に移動することができる。このときの走査ユニット21の移動方向が副走査方向である。光学レンズ22は走査ユニット21から入射された反射光像をイメージセンサ23上に結像させる。イメージセンサ23が、結像された反射光像を順次光電変換して電気信号として出力する。
これにより、読取部12は、原稿上の画像を読み取り、白黒画像における白黒の濃淡の情報、又はカラー画像におけるRGBの各色成分の濃度の情報に分解してラインデータとして出力する。
【0053】
演算部13は、読取部12により得られたラインデータに基づき各々特定の演算処理を行なう濃度分布算出部31、周波数変換部32、判定部33、及び速度決定部34を含む。また、演算部13は、画像読取装置1から出力するための画像を生成する出力画像生成処理部35を含む。演算部13はCPUを用い、図示しないROM(Read Only Memory)に記憶してあるプログラムを実行することによって濃度分布算出部31、周波数変換部32、判定部33、速度決定部34、及び出力画像生成処理部35の機能を実現するようにしてもよい。
【0054】
濃度分布算出部31は、読取部12にてスキャンを行ない、原稿上の画像を複数の領域に分け、各領域における主走査方向と副走査方向の濃度分布を夫々取得する。濃度分布算出部31は、取得した濃度分布を記憶部14に記憶する。記憶した濃度分布は、処理後に消去することが可能である。濃度分布算出部31による処理の詳細については後述する。
【0055】
周波数変換部32は、濃度分布算出部31が算出した主走査方向及び副走査方向夫々の濃度分布を、周波数成分に変換する処理を行なう。変換処理の詳細については後述する。周波数変換部32は、変換後の各方向の周波数分布を記憶部14に記憶する。記憶した各方向の周波数分布の情報は、処理後に消去することが可能である。
【0056】
判定部33は、主走査方向及び副走査方向夫々の周波数分布について、所定の強度を有する周波数どうしを比較し、例えば、主走査方向の周波数が副走査方向の周波数よりも高い場合、横向きに置かれていると判定し、逆の場合に縦向きに置かれていると判定する。判定方法の詳細については後述する。
【0057】
速度決定部34は、判定部33による判定結果に基づき、読み取り速度Vを決定する。決定方法の詳細については後述する。
【0058】
出力画像生成処理部35は、読取部12にて読み取った画像を出力部15から出力するための処理を行なう。この場合の処理とは、出力部15からの出力方法に応じたデジタルデータへの変換、画像圧縮、印刷用紙への印字のための色変換、フィルタ処理等である。
【0059】
記憶部14は、フラッシュメモリ又はSSD等の不揮発性メモリ、及びSRAM(Static Random Access Memory)又はDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリを夫々用いる。記憶部14は、揮発性メモリに、演算部13の処理によって発生して処理終了後に消去し得る情報を一時的に記憶する。また記憶部14は、不揮発性メモリに、演算部13が処理のために参照する情報を予め記憶している。
【0060】
出力部15は、演算部13の出力画像生成処理部35が生成したデジタル画像データを出力する。この場合の出力とは、印刷用紙への印字、表示装置での表示、他の画像処理装置への送信、又は、画像読取装置1外に設けられている記憶装置への記憶を含む。
【0061】
このように構成される画像読取装置1は、読取部12にて通常のスキャンを行なう前に予め、スキャン速度(走査ユニット21の移動速度)を決定するためのスキャンを実行する。当該スキャンを、通常のスキャンと区別するためにプレスキャンと呼ぶ。画像読取装置1は、プレスキャンで得られた情報に基づいて原稿台10上の原稿の向き(縦又は横)を判定し、判定結果又は周波数分布に応じてスキャン速度を決定して通常のスキャン(以後、通常スキャンと呼ぶ)を行なう。
【0062】
図3は、実施の形態1における画像読取装置1における読み取りから出力までの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0063】
原稿台10に原稿が載置された場合、画像読取装置1はプレスキャンを行なう(ステップS1)。プレスキャンにて演算部13は、イメージセンサ23が逐次出力するラインデータを取得し、各ラインの濃度分布を取得する。プレスキャンでは、演算部13はSSライン分の濃度分布を取得する。同時に演算部13は、濃度分布算出部31により、主走査方向及び副走査方向夫々の周波数分布を算出するための算出処理を行なう。
【0064】
プレスキャン時の走査ユニット21の移動速度は、速度V2に予め設定してある。速度V2は、通常スキャンの速度V1と同一でもよいし、異なってもよい。好ましくは、速度V2がV2=L/Tとなるように設定される。このときLは、フォトダイオード間の間隔、Tは副走査方向の読み取り時間間隔、即ち標本化間隔である。つまり、副走査方向の解像度が、主走査方向の解像度と同一になるように設定されていることが好ましい。
【0065】
演算部13は、周波数変換部32により、濃度分布算出部31により算出した濃度分布を領域毎、色成分毎に周波数成分へ変換する(ステップS2)。
【0066】
演算部13は、判定部33により、原稿の向き(天地方向)を判定する(ステップS3)。
【0067】
演算部13は、速度決定部34により、ステップS3による判定結果、並びに初期的に設定してある走査ユニット21の速度V1、及びプレスキャン時の走査ユニット21の速度V2に基づき、最適なスキャン速度(読み取り速度)Vを決定する(ステップS4)。
【0068】
次に、読取部12がステップS4にて決定されたスキャン速度Vにて通常スキャンを実行し、原稿上の画像を読み取る(ステップS5)。
【0069】
演算部13は、出力画像生成部により、通常スキャンによって得られたラインデータを基に出力画像を生成する(ステップS6)。
【0070】
出力部15が、生成された出力画像を出力し(ステップS7)、処理を終了する。
【0071】
図3のフローチャートに示した各処理手順について、詳細を説明する。
まず、ステップS1のプレスキャン時に、濃度分布算出部31が行なう濃度分布の算出処理について詳細を説明する。
図4から図6は、プレスキャン時に濃度分布算出部31が各方向の濃度分布を算出する方法の概要を示す概念図である。図4は、上部に載置される原稿の範囲を示し、下部に原稿に対するイメージセンサ23を概略的に表す。イメージセンサ23は、間隔Lで一列に並べられたMM個の素子(フォトダイオード等)で構成される。プレスキャン時、演算部13はイメージセンサ23のMM個の素子の内の一部を用いてもよいし全部を用いてもよい。なお、演算部13は、一部の素子を用いる場合、単一の領域に対応する素子を用いてもよいし、所定の間隔をおいた任意の複数の領域に対応する素子を用いてもよい。いずれの場合も可能とするために、演算部13は、プレスキャン時にはラインデータをK個の領域(K≧1)に分別して取得する。各領域を、図4に示すように端から順にμ1、μ2、…、μk、…、μKと呼ぶ。領域μ1、μ2、…、μk、…、μKは、各々M1、M2、…、Mk、…、MK個の素子に対応する。領域μkにおいて、端からxk番目の素子で読み取られる原稿上の位置をxk画素目とする。なお、M1+M2+…+Mk+…+MK≦MMであり、各領域で、対応する素子は重複しない。また、M1+M2+…+Mk+…+MK≦OM/Lである。このときOMは、原稿の主走査方向の大きさである。
【0072】
イメージセンサ23が、受光素子が並ぶ方向と略直交する方向に、原稿に対して相対的に移動することでスキャンが行なわれる。実際には、走査ユニット21が移動し、各時点での原稿からの反射結像をイメージセンサ23にて捉える。当該方向が副走査方向である。プレスキャンでは、イメージセンサ23が副走査方向に相対移動する場合、演算部13は、通常スキャンと同様に原稿全体を読み取ってもよいし、狭い範囲で読み取ってもよい。また、狭い範囲で読み取る場合、単一の領域に対応する範囲で読み取ってもよいし、離隔した複数の領域で読み取ってもよい。いずれの場合も可能とするために、演算部13はプレスキャン時には原稿範囲をN個の領域(N≧1)に分別して取得する。各領域を、図4に示すように原稿範囲上のスキャン開始部分から順に、σ1、σ2、…、σn、…、σNと呼ぶ。領域σ1、σ2、…、σn、…、σNでは、イメージセンサ23は速度V2で相対移動し、σ1、σ2、…、σn、…、σNの外では、速度V3で相対移動する。速度V3はV2よりも速く、好ましくは走査ユニット21の移動速度Vの取りうる最も速い速度である。領域σ1、σ2、…、σn、…、σNでは、イメージセンサ23が相対移動(走査ユニット21が移動)している間に、読取部12は時間間隔Tで各々S1、S2、…、Sn、…、SN回の標本化を行ない、演算部13が夫々のラインデータを取得する。なお、S1+S2+…+Sn+…+SN=SSであり、各領域は重複しない。また、S1+S2+…+Sn+…+SN≦OS/(V2×T)である。OSは、原稿の副走査方向の大きさである。
【0073】
これにより、プレスキャンによって演算部13は、図5に示すような主走査方向及び副走査方向に沿って分けられた領域に分別してラインデータを取得する。領域は夫々、(μ1,σ1)、(μ2,σ1)、…、(μk,σn)、…、(μK,σN)である。図6は、領域(μk,σn)を拡大したものである。各領域における画素数は、M1×S1、M2×S1、…、Mk×Sn、…、MK×SNである。各領域で取得される濃度の情報は、1個以上の色成分の次元を有する。モノクロにて読み込まれる場合、濃度の情報は1成分であり、カラーにて読み込まれる場合、濃度の情報はRGBの3成分である。そこで、領域(μk,σn)における主走査方向にxk画素目、副走査方向にynライン目の画素のc番目の色成分の濃度の情報をp(xn,yn,c)と表記する(図6のハッチング部分)。
【0074】
上述のように各画素の濃度の情報を取得すると共に演算部13は、濃度分布算出部31によって、周波数分布を算出するための濃度分布算出処理を実行する。濃度分布算出部31は、各領域にて、主走査方向及び副走査方向の濃度分布を算出する。具体的には、各領域の1ライン目から順に、各画素の濃度の情報を用いて濃度分布を算出する。
【0075】
図6に示す領域(μk,σn)を例にとり説明する。濃度分布算出部31は、1ライン目即ち領域(μk,σn)における最初の標本化時に得られるMk画素分の濃度情報p(1,1,c)〜p(Mk,1,c)を夫々、主走査方向の濃度分布m(1,c,k,n)〜m(Mk,c,k,n)として記憶する。つまり濃度分布算出部31は、1ライン目の濃度情報p(1,1,c)〜p(Mk,1,c)を用い、夫々
m(1,c,k,n) =p(1,1,c)、
m(2,c,k,n) =p(2,1,c)、…、
m(Mk,c,k,n)=p(Mk,1,c)
として記憶する。
また、濃度分布算出部31は、得られたMk画素分の濃度情報p(1,1,c)〜p(Mk,1,c)を加算し、副走査方向の濃度分布s(1,c,k,n)として記憶する。つまり、濃度分布算出部31は1ライン目の濃度情報p(1,1,c)〜p(Mk,1,c)を取得する都度、
s(1,c,k,n) =p(1,1,c)、
s(1,c,k,n) =s(1,c,k,n)+p(2,1,c)、…、
s(1,c,k,n) =s(1,c,k,n)+p(Mk,1,c)
と加算する。
【0076】
濃度分布算出部31は、2ライン目からSnライン目までの濃度情報は以下のように処理する。濃度分布算出部31は、2ライン目の濃度情報p(1,2,c)〜p(Mk,2,c)を夫々、主走査方向の濃度分布m(1,c,k,n)〜m(Mk,c,k,n)に加算する。つまり、
m(1,c,k,n) =m(1,c,k,n) +p(1,2,c)、
m(2,c,k,n) =m(2,c,k,n) +p(2,2,c)、…
m(Mk,c,k,n)=m(Mk,c,k,n)+p(Mk,2,c)
として記憶する。
また、濃度分布算出部31は、2ライン目の濃度情報p(1,2,c)〜p(Mk,2,c)を順に加算して副走査方向の濃度分布s(2,c,k,n)を算出する。つまり、
s(2,c,k,n) =p(1,2,c)、
s(2,c,k,n) =s(2,c,k,n)+p(2,2,c)、…、
s(2,c,k,n) =s(2,c,k,n)+p(Mk,2,c)
と加算する。
【0077】
濃度分布算出部31は、領域(μk,σn)については上述の計算をSnライン目まで繰り返す。これにより最終的には、図6中の破線に示すように、m(1,c,k,n)〜m(Mk,c,k,n)には、主走査方向の濃度(画素値)の合計が保存され、s(1,c,k,n)〜s(Sn,c,k,n)には、副走査方向の濃度(画素値)の合計が保存される。濃度分布算出部31は、領域(μk,σn)に対して算出したm(1,c,k,n)〜m(Mk,c,k,n)、及びs(1,c,k,n)〜s(Sn,c,k,n)を記憶部14に記憶する。これらの数値は処理が終了した場合に記憶部14から消去され得る。濃度分布算出部31は、濃度分布を各色成分について算出する。また、濃度分布算出部31は、領域(μ1,σ1)、(μ2,σ1)、…、(μK,σN)の全部又は一部について夫々、同様に主走査方向及び副走査方向の濃度分布を色成分毎に算出する。
【0078】
次に、図3のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS2の周波数変換部32が行なう周波数成分への変換について詳細を説明する。周波数成分の変換の方法は種々あるが、実施の形態1では、周波数変換部32は、以下に示す式(1−1)、式(1−2)のように主走査方向及び副走査方向夫々についてフーリエ変換を用いて行なう。
【0079】
【数1】

【0080】
式(1−1)、式(1−2)においてm(xk,c,k,n)は、矩形領域(μk,σn)の色成分cのXY座標系における座標xkの位置にある画素の濃度(画素値)である(図6の破線)。同様にs(yn,c,k,n)は、矩形領域(μk,σn)の色成分cのXY座標系における座標ynの位置(ynライン目)にある画素の濃度(画素値)である。Mkは領域(μk,σn)内のx軸方向(主走査方向)の画素数である。Snは領域(μk,σn)内のy軸方向(副走査方向)の画素数である。
fm(uk,c,k,n)はm(xk,c,k,n)をフーリエ変換したものであり、fs(vn,c,k,n)はs(yn,c,k,n)をフーリエ変換したものである。ukは、x軸方向(主走査方向)の周波数であり、y軸方向(副走査方向)の周波数である。
【0081】
なお、上述の式(1−1)、及び式(1−2)を用いて周波数変換を行なう前に、濃度情報p(xk,yn,c,k,n)に、窓関数と呼ばれる関数により求められる数値w(xk,yn,c,k,n)を乗算することも可能である。窓関数は公知の種々の関数を使用することが可能であり、それらの種々の関数を切り替えて使用することにより、後述する原稿の向きの判定の精度を調整することが可能となる。比較的使用頻度が高い関数として、以下式(2)に示すハミング関数の例を挙げる。
【0082】
【数2】

【0083】
式(2)においてw(xk,yn,c,k,n)は、領域毎のp(xk,yn,c,k,n)と同数算出される数値である。
【0084】
周波数変換部32は、式(1−1)及び式(1−2)を用いて算出したfm(uk,c,k,n)及びfs(vn,c,k,n)から、更に式(3−1)及び式(3−2)を用いて周波数分布Fm(uk,c,k,n)及びFs(vn,c,k,n)を算出する。
Fm(uk,c,k,n)=|fm(uk,c,k,n)|…(3−1)
Fs(vn,c,k,n)=|fs(vn,c,k,n)|…(3−2)
【0085】
周波数変換部32は、領域(μk,σn)に対して算出した周波数分布Fm(uk,c,k,n)及びFs(vn,c,k,n)を記憶部14に記憶する。これらの数値は処理が終了した場合に記憶部14から消去され得る。周波数変換部32はFm(uk,c,k,n)及びFs(vn,c,k,n)を、領域(μ1,σ1)、(μ2,σ1)、…、(μK,σN)の全部又は一部について夫々、同様に色成分毎に算出し、記憶部14に記憶する。
【0086】
次に、図3のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS3の判定部33が行なう判定処理、及びステップS4の速度決定部34が行なう決定処理について、詳細を説明する。ステップS3及びステップS4の処理は、相互に、判定対象の原稿の種類に応じて関連する。したがって、以下に示すような複数の判定及び決定の方法が、頻繁に用いる原稿の種類に応じて切り替え可能に構成されていることが好ましい。
【0087】
まず、原稿の向き、即ち原稿の天地方向の、主走査方向及び副走査方向に対する向きによって、原稿の周波数特性が、読み取りの処理、画像処理、出力処理に影響を与え得る点について説明する。
読取部12における主走査方向の周波数特性と副走査方向の周波数特性とでは、原理が異なるから当然に異なる。主走査方向はイメージセンサ23の光電素子の配列間隔Lで定まり、副走査方向はイメージセンサ23の相対移動(走査ユニット21の移動)の速度V及び読み取りの時間間隔Tによって定まるからである。更に、読み取り対象の原稿の周波数特性が天地の方向(文字が読める向き)と、天地の方向に直交する方向(文字が横向き)とで異なる場合、ユーザが原稿を載置するときの向きによって、読み取られた画像データの主走査方向の周波数特性と副走査方向の周波数特性とでは一般的に異なる。特に、一方向に高周波成分が含まれる原稿の場合、より高周波の成分を含む方向が、主走査方向及び副走査方向の内の解像度の低い方向と一致したときに、当該方向の高周波成分が失われて画質が低下する要因となる。
このような原稿の天地の方向又は直交する方向に高周波成分が含まれる原稿の例として、代表的且つ使用頻度が高いものとして、文章を含む原稿がある。
文章を含む原稿では、原稿上のある領域に、文字が縦又は横に密に連なって行を構成し、更に複数の行が行と直交する方向に、行内の文字の間隔よりも広い間隔で並べられて文章が構成される。このため、文字の並びに由来する周波数成分は、行の方向と、行に直交する方向とで異なる。文章を構成する文字夫々も、様々な形状の要素、及び様々な方向の線分が複数に集まって構成されるから、文字の並びに由来する周波数成分よりも高周波成分に強度を示す。特に、漢字のような画数の多い文字を含む場合、ある程度の強度を持つ周波数が、より高周波にまで及ぶので、高周波成分に強い強度を有する周波数分布となる傾向が顕著である。
【0088】
そこで、判定部33の判定方法及び速度決定部34による決定方法の例として、以下の2つの例を挙げる。なお判定方法及び決定方法は以下の方法に限られない。なお、以下の例では天地方向が主走査方向と一致する場合を縦向き(文字が読める向き)とし、副走査方向と一致する場合を横向き(文字が横向き)としている。天地方向が副走査方向と一致する場合を縦向きとする場合は、判定結果が以下の例と逆になる。判定部33及び速度決定部34は、濃度分布算出部31が算出した濃度分布及び周波数変換部32が算出した周波数分布に基づき、周波数又は各周波数の強度を利用し、より最適な方法で判定又は決定を行なう。
【0089】
(方法1)
図7は、判定部33の判定方法及び速度決定部34による決定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図3のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS3及びS4の詳細に対応する。なお、以下に示す方法1は、欧文の文章を含む原稿に適している。
【0090】
判定部33は、周波数変換部32が算出した各領域の色成分毎の周波数分布Fm(uk,c,k,n)、Fs(vn,c,k,n)の内夫々、強度がi番目(最初はi=1)に大きい周波数を算出する(ステップS31)。即ち、判定部33は、Fm(ukmin ,c,k,n)〜Fm(ukmax ,c,k,n)でi番目に大きい値をとるukと、Fs(vnmin ,c,k,n)〜Fs(vnmax ,c,k,n)でi番目に大きい強度をとるvnを算出する。ここで、ukmin 、vnmin は、判定に用いる周波数の最小値であり、好ましくは2〜10Hz程度の適当な数値を設定する。ukmax 、vnmax は、判定に用いる周波数の最大値であり、好ましくはMk/2、Sn/2以下程度の数値を設定する。
【0091】
判定部33は、ステップS31で算出した最大の強度を有する主走査方向の周波数と、副走査方向の周波数とを比較し、まず、uk/Mkがvn/Snよりも小さいか否かを判断する(ステップS32)。判定部33は、ステップS32で小さいと判断した場合(S32:YES)、原稿は正しく縦向きに、即ち天地方向が主走査方向に一致して載置されていると判定する(ステップS33)。判定部33は、ステップS32でuk/Mkがvn/Sn以上であると判断した場合(S32:NO)、uk/Mkがvn/Snより大きいか否かを判断する(ステップS34)。判定部33は、ステップS34でuk/Mkがvn/Snより大きいと判断した場合(S34:YES)、原稿は横向きに、即ち天地方向が副走査方向に一致して載置されていると判定する(ステップS35)。判定部33は、ステップS34でuk/Mkがvn/Snと等しいと判断した場合(S34:NO)、iに1を加算し(ステップS36)、処理をステップS31へ戻す。
【0092】
判定部33は、判定結果を記憶部14に記憶する(ステップS37)。
【0093】
次に速度決定部34が、記憶部14に記憶してある判定結果に基づき、原稿が縦向きか否かを判断する(ステップS38)。速度決定部34は、原稿が縦向きであると判断した場合(S38:YES)、速度Vを初期的に設定してある速度V1に決定し(ステップS39)、処理を終了する。一方、速度決定部34は、原稿が横向きであると判断した場合(S38:NO)、速度V1<V≦V2を満たす速度Vを最適なスキャン速度と決定する(ステップS40)。このとき速度決定部34は、速度VをステップS31で算出したvnを用いて算出するか、又は記憶部14に記憶してあるLUT(ルックアップテーブル)を参照して決定する。
【0094】
(方法2)
図8は、判定部33の判定方法及び速度決定部34による決定方法の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。図3のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS3及びS4の詳細に対応する。なお、以下に示す方法2は、和文、中文の文章を含む原稿に適している。
【0095】
判定部33は、周波数変換部32が算出した各領域の色成分毎の周波数分布Fm(uk,c,k,n)、Fs(vn,c,k,n)の各々で、色成分毎及び周波数毎に、閾値Mth(uk,c)、Sth(vn,c)と比較する(ステップS41)。判定部33は、色成分毎に、M(uk,c,k,n)>Mth(uk,c)となる周波数ukth1、ukth2、…、ukthm、…、ukthMと、S(vn,c,k,n)>Sth(vn,c)となる周波数vnth1、vnth2、…、vnths、…、vnthSとを抽出する(ステップS42)。ここで閾値であるMth(uk,c)及びSth(vn,c)は各々単一の値で設定されてもよい。また、閾値Mth(uk,c)及びSth(vn,c)は、成分毎及び/又は周波数毎に、異なる値で設定されてもよい。
次に判定部33は、強度が閾値を超える周波数ukth1〜ukthM又はvnth1〜vnthSの最大値であるukthMとvnthSを特定する(ステップS43)。判定部33は、ukthM/MkがvnthS/Sn以上であるか否かを判断する(ステップS44)。判定部33は、ukthM/MkがvnthS/Sn以上であると判断した場合(S44:YES)、原稿は正しく縦向きに、即ち天地方向が主走査方向に一致して載置されていると判定する(ステップS45)。判定部33はukthM/MkがvnthS/Snよりも小さいと判断した場合(S44:NO)、原稿は横向きに、即ち天地方向が副走査方向に一致して載置されていると判定する(ステップS46)。
【0096】
判定部33は、判定結果を記憶部14に記憶する(ステップS47)。
【0097】
次に速度決定部34が、記憶部14に記憶してある判定結果に基づき、初期的に設定してある速度V1を元に、周波数R1を所定の方法、例えばR1=V2/V1*SNで算出するか、又はLUTを参照して求め(ステップS48)、求めた周波数R1とvnthSとを比較し、vnthSが求めた周波数R1以上であるか否かを判断する(ステップS49)。速度決定部34は、vnthSが周波数R1以上であると判断した場合(S49:YES)、周波数Rがvnよりも大きくなるように速度Vを所定の演算、例えばV=V2/R*SNで算出するか、もしくは予め設定したLUTを参照して求める(ステップS50)。周波数決定部は、vnthSが周波数R1より小さいと判断した場合(S49:NO)、速度を、初期的に設定してある速度V1に決定する(ステップS51)。
【0098】
このような処理により、画像読取装置1は、文章を含む原稿を対象とした場合に有効に、読み取り速度が決定することができる。画像読取装置1は、原稿が載置される向きによっては取得できる画像の画質が劣化する可能性が有る場合に、ユーザが原稿の向きを置き換えることなしに、適切な画質での読み取りを行なうことが可能となる。
【0099】
実施の形態1では、プレスキャン及び通常スキャンのいずれでも読取部12を用いる構成とした。しかしながら、プレスキャン専用の読取部を新たに設ける構成としてもよい。原稿範囲の一部のみをスキャンして判定するときには、プレスキャン専用の読取部は最初から領域μ1、μ2、…、μKに分別されていてもよい。演算部13も、濃度分布算出部31、周波数変換部32、判定部33、及び速度決定部34と、出力画像生成処理部35とで夫々別個に設ける構成としてもよい。記憶部14も、プレスキャン用の記憶部と、通常スキャン用の記憶部とで別個に設ける構成としてもよい。
【0100】
実施の形態1では、画像読取装置1はカラー画像を読み取る構成とした。しかしながら、本発明はこれに限らず、モノクロの濃度分布を取得して原稿の縦横を判定する構成としてもよいことは勿論である。
【0101】
また、実施の形態1では、画像読取装置1は、プレスキャンと通常スキャンとは別の処理として行なう構成とした。しかしながら本発明はこれに限らず、画像読取装置1は、通常スキャンをプレスキャンの処理と併せて行なう構成としてもよい。この場合、画像読取装置1は、速度V1で通常スキャンを行ないながら、濃度分布算出及び周波数変換の処理を行ない、原稿の一部の領域に基づき原稿の向きを判定する。そして画像読取装置1は、読み取り速度Vを初期的に設定してあるV1と異なるものに決定した場合、通常スキャンを中断し、決定した速度で再び通常スキャンを実行する。このときの中断のタイミングは、原稿の内のどの程度の領域を判定に用いるかの設定による。
【0102】
(実施の形態2)
図9は、実施の形態2における画像読取装置1の構成を示すブロック図である。実施の形態2における画像読取装置1は、表示部16と操作部17とを備えること、及び表示部16と操作部17とを用いた処理以外については実施の形態1における画像読取装置1の構成と同様である。したがって、共通する構成には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0103】
実施の形態2の画像読取装置1は、読取部12、演算部13、記憶部14、及び出力部15以外に、表示部16と操作部17とを備える。表示部16は、液晶パネル等を用いたタッチパネル式のディスプレイである。演算部13は、表示部16に文字又は画像を表示させ、ユーザに通知することができる。操作部17は、ディスプレイに組み込まれたタッチパネルである。ディスプレイとは別に設けられたボタンと共に構成されてもよい。演算部13は、操作部17にて検知されるユーザの操作内容に応じた信号を受け付ける。演算部13は、表示部16及び操作部17を用い、プレスキャン後に、ユーザにスキャン速度を速度V1から切り替える旨を表示する。又は演算部13は、プレスキャン後に、速度を速度V1から切り替えるか、若しくは、そのまま速度V1を利用するかの選択画面を表示する。
【0104】
更に演算部13は、表示部16に詳細な設定画面として、原稿上の画像のうちのいずれの範囲及び位置の濃度分布を用いるか否かを選択する画面を表示することができる。操作部17は画面上のボタンをユーザが押下したことを検知し、対応する信号を演算部13へ通知する。これにより演算部13は、濃度分布を取得する範囲の設定を受け付ける。
【0105】
更に演算部13は、表示部16に詳細な設定画面として、周波数変換処理に用いる窓関数の選択画面を表示させることができる。操作部17は画面上のボタンをユーザが押下したことを検知し、対応する信号を演算部13へ通知する。これにより演算部13は、使用する窓関数の設定を受け付けることが可能である。なお、表示部16には窓関数を直接的に選択可能に表示するのではなく、原稿の種類を表示させ、欧文の原稿なのか、中文、和文の原稿なのか、写真を含む原稿なのかをユーザに選択させてもよい。そして演算部13は、選択された原稿の種類に適するとして関連付けてある窓関数を使用するようにしてもよい。
【0106】
実施の形態2における画像読取装置1は、表示部16及び操作部17を備えるので、通常スキャンをプレスキャンの処理と併せて行なう構成とした場合も、読み取り速度Vを初期的に設定してあるV1と異なるものに決定して通常スキャンを中断したときに、ユーザに通常スキャンを新たに決定した適切な速度Vで実行し直すか、又は簡易な読み取りなので初期的な速度V1での読み取りを続行するかを選択する画面を表示し、選択を受け付けてもよい。
【0107】
(実施の形態3)
図10は、実施の形態3における画像読取装置1の構成を示すブロック図である。実施の形態3における画像読取装置1は、出力画像生成処理部35が画像圧縮処理部351を備えて画像圧縮処理を行なって出力すること以外については、実施の形態1における画像読取装置1の構成と同様である。したがって、共通する構成には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0108】
実施の形態3の画像読取装置1は、出力画像生成処理部35が画像圧縮処理部351を備え、記憶部14には、画像圧縮処理部351が参照する量子化テーブル141が記憶されている。
【0109】
出力部15は、1つの画素についてRGBの3つの色成分で8ビット、又はグレースケールで8ビットからなるJPEG圧縮したデジタル画像データを他の装置へ出力する。そのために出力画像生成処理部35は出力画像生成処理を実行するに際し、画像圧縮処理部351にて、判定部33が記憶部14に記憶した原稿の縦横の判定結果を参照し、原稿の向きに応じた量子化テーブル141を用いてJPEG圧縮処理を行なう。具体的には、画像圧縮処理部351は、判定結果が横向きである場合、横向き用の量子化テーブル141を記憶部14から読み出してこれを用いる。また、画像圧縮処理部351は、判定結果が横向きである場合、横向き用のジグザグスキャンに対応するテーブルを記憶部14から読み出して用いてもよい。
【0110】
JPEG圧縮処理には、従来から直交画像符号化及び可変長符号化を組み合わせた符号化方式が用いられている。この画像データ符号化方式に基づき画像圧縮処理部351はまず、画像データの各画素値を色成分変換によって輝度成分と色差成分とに変換する。そして画像圧縮処理部351は、各成分について、所定の大きさのブロックに対応するように分割して処理を行なう。ブロックは、輝度であれば例えば8画素×8画素分である。画像圧縮処理部351は、分割したブロック毎に、ジグザグスキャンの順に直交変換として2次元のDCT(Discrete Cosine Translation:離散コサイン変換)を行なう。これにより、画像圧縮処理部351は、画像データを周波数変換である直流成分と交流成分に変換する。画像圧縮処理部351は、周波数成分を量子化テーブル141で設定してある各周波数成分毎の量子化幅で除算を行なう。これにより、各周波数成分の応じた線形量子化が行なわれる。そして画像圧縮処理部351は、量子化後の値に応じたハフマン符号化による可変長符号化を行ない、符号化データを生成する。
【0111】
線形量子化の際に用いられる量子化幅は、画像の縦軸方向(画像を見るときの縦方向)と横軸方向とでは対象でない場合が多い。原稿及び読み取った画像が、方向によって異なる周波数特性を有する場合、同じ原稿であっても、載置するときの向きが異なるときには、画像の縦横の方向と量子化テーブルの縦横の方向の向きの組み合わせによって線形量子化の結果が異なる。更に、線形量子化によってゼロとなる周波数成分が増えるほど、符号化後のデータサイズが小さくなり、送信効率及び保存効率が向上する。したがって、原稿が載置される向きによって可変長符号化の結果、つまり符号化後のデータのサイズも変わる。また、符号化したデータを復号し、画素値で構成される画像データに復元する場合、符号化とは逆の処理が行なわれる。ただし、線形量子化でゼロとなった周波数成分、その他の演算の過程で丸められた端数は完全に復元しない。したがって、復号後の画像には、モスキートノイズ又はブロックノイズといったノイズが発生し、画質を劣化させる。したがって、原稿が載置される向きによって、符号化されて復号された画像の画質、即ち上述のモスキートノイズ又はブロックノイズの発生度合いも変化する。
【0112】
実施の形態3における画像読取装置1では、原稿が載置される向きに応じて適切な画像圧縮をすることができるので、符号化後のデータのサイズを適切にすることができ、復号したとき画像の画質の違いを防止することができる。
【0113】
(実施の形態4)
図11は、実施の形態4の画像形成装置9の構成を概略的に示す概略図であり、図12は、画像形成装置9の構成を示すブロック図である。画像形成装置9は例えば、複合機能、プリンタ機能、ファックス機能、電子メール通信機能を備えた複合機である。画像形成装置9は、デジタルカラー複写機でもよい。画像形成装置9は、読取部4、演算部5、記憶部6、画像処理部7、画像形成手段としての画像出力部8を備える。画像形成装置9は、表示部及び操作部を兼ねた操作パネル(図示せず)を備えてもよい。
【0114】
読取部4は、上面に透明なガラス板からなる原稿台90を有する略直方体形状の筐体91内部に設けられている。読取部4は走査ユニット41、光学レンズ42及びイメージセンサ43を備える。演算部5は、読取部4により得られたラインデータに基づき各々特定の演算処理を行なう濃度分布算出部51、周波数変換部52、判定部53、及び速度決定部54を含む。これらの構成部は、実施の形態1の画像読取装置1における読取部12及び演算部13における各構成部と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0115】
演算部5は、原稿台90に原稿が載置された場合に読取部4によってプレスキャンを行なう。読取部4は、走査ユニット41を移動させてイメージセンサ43を原稿に対し相対移動させてラインデータを取得し、各ラインデータに基づき濃度分布算出部51により濃度分布の算出を行ない、周波数変換部52により周波数分布へ変換し、判定部53により原稿の縦横を判定し、速度決定部54により速度を決定する。演算部5は決定した速度にて読取部4に通常スキャンを実行させる。
【0116】
通常スキャンが実行された場合、各ラインデータは画像処理部7が入力し、処理を行なう。画像処理部7は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成される。なお、画像処理部7はASICによらず、演算部5と一体でもよいし、他のハードウェアで構成されてもよいし、ソフトウェア的に各処理を実行する構成でもよい。画像処理部7は、A/D変換部71、シェーディング補正部72、入力階調補正部73、領域分離処理部74、色補正部75、黒生成下色除去部76、空間フィルタ処理部77、出力階調補正部78、及び階調再現処理部79を備える。画像処理部7は、上述の各構成部にて所定の処理を実行し、CMYK(C:シアン、M:マゼンダ、Y:イエロー、K:ブラック)のデジタルカラー信号として画像出力部8へ出力する。
【0117】
画像出力部8は、画像処理部7から入力したデジタルカラー信号を所定の媒体に出力する。画像出力部8は、所定の媒体として記録紙に、電子写真方式又はインクジェット方式などの方式を用いて画像を出力し、トレイ81へ排出する。画像出力部8は、所定の媒体としてディスプレイ等の表示装置(図示せず)へ画像を出力してもよい。
【0118】
記憶部6には、フラッシュメモリ又はSSD等の不揮発性メモリ、及びSRAM又はDRAM等の揮発性メモリを夫々用いる。記憶部6は、揮発性メモリに、演算部の処理によって発生して処理終了後に消去し得る情報を一時的に記憶する。また記憶部6は、不揮発性メモリに、演算部5が処理のために参照する情報を予め記憶している。更に記憶部6は、画像処理部7が参照するパラメータ61、フィルタ係数62を記憶している。
【0119】
画像処理部7の各構成部について詳細を説明する。A/D変換部71は、読取部4から入力したRGB信号を、例えば各色成分を10ビットで表わすデジタル信号に変換し、変換後のRGB信号をシェーディング補正部72へ出力する。
【0120】
シェーディング補正部72は、A/D変換部71から出力されたデジタルのRGB信号を入力し、読取部4の照明系、結像系、撮像系などで生じた各種の歪みを取り除く補正処理を行ない、補正後のRGB信号を入力階調補正部73へ出力する。
【0121】
入力階調補正部73は、シェーディング補正部72から出力された補正後のRGB信号に対し、カラーバランスを整える処理を行なう。入力階調補正部73は、また、濃度信号など、後段の画像処理システムが扱いやすい信号に変換する処理を行なう。更に、入力階調補正部73は、下地濃度の除去又はコントラストなどの画質調整処理を施し、処理後のRGB信号を領域分離処理部74へ出力する。
【0122】
領域分離処理部74は、入力階調補正部73から出力された信号を入力する。領域分離処理部74は、画像中の各画素が、黒文字領域、色文字領域、網点領域又は写真領域の何れであるかを判別し、後段の構成部で各領域に適した処理を行なうべく、領域識別信号を生成する。このとき領域分離処理部74は、演算部5の判定部53による判定結果を記憶部6から参照し、判定結果に応じて領域の判別を行なう。領域分離処理部74は、判定結果が横向きであれば横向き用のパラメータ61を記憶部6から読み出す。また、領域分離処理部74は、処理の過程で周波数特性に関する演算を行なう際に近傍の複数の画素を用いて処理を行なうので、演算に使用する近傍画素の画素値を参照する順序を横向き用に変更するようにしてもよい。
領域分離処理は、上述のように画素がどのような画像領域に分類されるのかを判別する処理である。判別の過程では、画素の色又は近傍画素の平均濃度と並んで、近傍画素における周波数特性が利用されるので、同じ原稿であっても、載置するときの向きが異なるときには、画像の縦横の方向の周波数特性の違いと、領域分離処理に用いるパラメータの方向による違いとの組み合わせによって領域の判別処理の結果が異なる。
【0123】
領域分離処理部74は、入力階調補正部73から入力したRGB信号をそのまま色補正部75へ出力すると共に、生成した領域識別信号を黒生成下色除去部76、空間フィルタ処理部77、及び階調再現処理部79へ出力する。
【0124】
色補正部75は、領域分離処理部74から出力されたRGB信号を入力し、CMYの色空間へ変換し、画像出力部8の特性に合わせて色補正を行なう。色補正部75は、補正後のCMY信号を黒生成下色除去部76へ出力する。
【0125】
黒生成下色除去部76は、色補正部75から出力されたCMY信号を入力し、K(ブラック)信号を生成する黒生成処理を行なう。また、黒生成下色除去部76は、入力したCMY信号からK信号を差し引き、新たなCMY信号を生成する処理を行なう。これにより、CMYの3色信号はCMYKの4色信号へ変換される。黒生成下色除去部76は、生成したCMYK信号を空間フィルタ処理部77へ出力する。
【0126】
空間フィルタ処理部77は、黒生成下色除去部76から出力されたCMYK信号を入力する。空間フィルタ処理部77は、領域分離処理部74から出力されている領域識別信号に基づき、記憶部6に記憶されているフィルタ係数62を用いてデジタルフィルタによる空間フィルタ処理を行なう。このとき空間フィルタ処理部77は、演算部5の判定部53による判定結果を記憶部6から参照し、判定結果に応じて空間フィルタ処理を行なう。具体的には、空間フィルタ処理部77は、判定結果が横向きである場合、予め横向き用に記憶してあるフィルタ係数62を参照して用いてもよいし、縦向きの場合のフィルタ係数を元に、横向きの原稿のためのフィルタ係数を演算により算出して用いてもよい。又は、空間フィルタ処理部77は、判定結果が横向きの場合、演算に使用する近傍画素を参照する順序を横向き用に換えるようにしてもよい。
【0127】
空間フィルタ処理は、画像の空間周波数特性を補正する処理である。これにより、画像のぼけが除去されたり、線及びエッジが強調されたり、又はモアレ若しくはノイズとなるような周波数成分が除去される。
空間フィルタ処理部77は、更に具体的な演算の手順としてまず、画像データ中の個々の画素について、所定の範囲内にある近傍画素の画素値と、当該画素値と同数のフィルタ係数62で重みつき平均を算出する。このときの所定の範囲内にある近傍画素及びフィルタ係数62は、画像の縦軸方向、及び横軸方向で独立に指定され、画像の向きに影響される。したがって、同じ原稿であっても、載置するときの向きが異なるときには、画像の縦横の方向の周波数特性の違いと、フィルタ係数62の向きによる周波数特性の違いとの組み合わせによってフィルタ処理の結果が異なる。更に、フィルタ処理によって空間周波数成分の分布が変化する。したがって、フィルタ処理の後に画像圧縮処理が行なわれる場合、線又はエッジの強調による周波数成分の増加に伴って符号化データのデータサイズが増加する。逆に周波数成分の除去に伴って符号化データのデータサイズが削減されることもある。これにより、判定結果に基づき使用するフィルタ係数62を予め決めておくことにより、原稿が載置されたときの向きに関わらず出力される画像の画質の相違を防止し、更には符号化データのデータサイズの削減を図ることができる。
空間フィルタ処理部77は、フィルタ処理後のCMYK信号を出力階調補正部78へ出力する。
【0128】
出力階調補正部78は、空間フィルタ処理部77から出力されたCMYK信号を入力する。出力階調補正部78は、入力したCMYK信号に対し、画像出力部8の特性値である網点面積率に変換する出力階調補正処理を行なう。出力階調補正部78は、補正処理後のCMYK信号を階調再現処理部79へ出力する。
【0129】
階調再現処理部79は、出力階調補正部78から出力されたCMYK信号を入力する。階調再現処理部79は、入力されたCMYK信号に対し、領域分離処理部74からの領域識別信号に基づき領域毎に適した処理を行なう。例えば、階調再現処理部79は、黒文字領域と判別された領域について特に文字の再現性を高めるために、画像出力部8における高周波成分の再現に適するような高解像度のスクリーンによる二値化処理又は多値化処理を行なう。
【0130】
このように、画像形成装置9では、画像処理部7における処理の内、縦横の周波数特性の違いによって影響が及ぶような処理について、読取部4のプレスキャン時での判定結果に応じた処理を行なう。これにより、原稿が載置されるときの向きにかかわらず、取得できるデジタル画像データの画質又は符号化データ量を適切なものとすることができる。
【0131】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0132】
1 画像読取装置
12 読取部
21 走査ユニット
23 イメージセンサ
13 演算部
14 記憶部
141 量子化テーブル
16 表示部
17 操作部
31 濃度分布算出部
32 周波数変換部
33 判定部
34 速度決定部
351 画像圧縮処理部
4 読取部
41 走査ユニット
43 イメージセンサ
5 演算部
51 濃度分布算出部
52 周波数変換部
53 判定部
54 速度決定部
61 パラメータ
62 フィルタ係数
74 領域分離処理部
77 空間フィルタ処理部
9 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿上の画像の第1の方向における一又は複数の色成分毎の濃度分布を、第1の方向と異なる第2の方向に順次読み取って画像信号を取得する画像読取装置において、
前記画像の一部又は全部における色成分毎の濃度分布を予め取得し、第1及び第2の方向夫々の周波数分布を算出する算出手段と、
該算出手段が算出した各周波数分布の比較結果に基づき、読み取り速度を決定する決定手段と
を備えることを特徴とする画像読取装置。
【請求項2】
線状のイメージセンサと、該イメージセンサに略平行に設置されており、露光及び反射光像の前記イメージセンサへの伝達を行ない、前記イメージセンサに略直交する方向に順次移動して走査する走査ユニットとを含み、原稿上の画像に対して前記走査ユニットを相対移動させると共に順次、イメージセンサにて得られた信号を読み取って画像データを取得する画像読取装置において、
前記画像の一部又は全部における色成分毎の濃度分布を予め取得し、前記イメージセンサの線状の方向及び前記走査ユニットの移動方向夫々の周波数分布を算出する算出手段と、
該算出手段が算出した各周波数分布の比較に基づき、前記走査ユニットの移動速度を決定する決定手段と
を備えることを特徴とする画像読取装置。
【請求項3】
前記決定手段は、
前記算出手段が算出した周波数分布の比較結果に基づき、前記原稿の天地方向の向きを判定する判定手段を備え、
該判定手段による判定結果に応じて読み取り速度を決定するようにしてあること
を特徴とする請求項1又は2に記載の画像読取装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記比較結果が特定の結果である場合、予め決めてある速度に決定するようにしてあること
を特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の画像読取装置。
【請求項5】
前記算出手段は、
前記濃度分布を色成分毎に、第1の方向にMk個、第2の方向にSn個のMk行×Sn列の複数の領域に分別して取得するようにしてあり、
各行及び各列の濃度の和を算出する手段と、
算出した濃度の和から各方向の周波数分布を算出するようにしてあること
を特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の画像読取装置。
【請求項6】
前記算出手段は、
各方向の濃度分布をフーリエ変換により周波数成分を算出するようにしてあること
を特徴とする請求項5に記載の画像読取装置。
【請求項7】
前記算出手段は、
前記フーリエ変換に用いる窓関数の設定を受け付ける手段を更に備えること
を特徴とする請求項6に記載の画像読取装置。
【請求項8】
前記決定手段は、周波数分布を比較するに際し、特定の順位の強度を有する周波数の比較に基づき決定するようにしてあること
を特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の画像読取装置。
【請求項9】
前記決定手段は、周波数分布を比較するに際し、所定値以上の強度を有する周波数成分の内、特定の順位の高さを有する周波数の比較結果に基づき決定するようにしてあること
を特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の画像読取装置。
【請求項10】
前記決定手段が予め取得する濃度分布の前記画像における範囲、又は位置の設定を受け付ける手段を更に備えること
を特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の画像読取装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の画像読取装置を備え、該画像読取装置によって取得した画像データに基づき出力画像を形成する画像形成手段を備えること
を特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、出力画像を形成するためのパラメータを決定する手段を備えること
を特徴とする請求項11に記載の画像形成装置。
【請求項13】
複数の量子化テーブルを記憶してある記憶部と、
前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記複数の量子化テーブルの内のいずれか1つを選択し、出力画像に画像圧縮処理を行なう手段と
を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載の画像形成装置。
【請求項14】
複数のフィルタと、
前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記複数のフィルタの内のいずれか1つを選択し、出力画像にフィルタ処理を行なう手段と
を更に備えることを特徴とする請求項11から13のいずれか1つに記載の画像形成装置。
【請求項15】
前記算出手段が算出した各方向の周波数成分の比較結果に基づき、前記画像の一部又は全部が文字領域であるか、又は網点領域であるかを判定する領域判定手段
を更に備えることを特徴とする請求項11から14のいずれか1つに記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−85106(P2013−85106A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223310(P2011−223310)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】