説明

画像識別装置及びプログラム

【課題】PTP包装済みの錠剤の画像データに基づいて高い精度で錠剤の識別を行うことを可能とする画像識別装置を提供する。
【解決手段】共分散行列算出手段8は、物体像画像の各画素の色ベクトルpの分散共分散行列Sを算出する。固有値・固有ベクトル演算手段9は、分散共分散行列Sの固有値λ及び固有ベクトルφを算出する。CDD演算手段10は、各固有値λから寄与率r=λ/(λ+…+λ)を算出し、色分散記述子D={rφ,…,rφ}を算出する。CDD距離演算手段は、各テンプレート画像の色分散記述子Dαと色分散記述子Dとの距離SCV(D,Dα)を算出する。テンプレート選択手段12は、この距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像を選択し、その番号αを識別結果として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力画像をテンプレート画像と比較して入力画像に最も近似するテンプレート画像を選出することにより入力画像の識別を行う画像識別装置に関し、特に、PTP(press through package)包装がされた錠剤やカプセル等の薬剤の識別を行うのに適した画像識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調剤過誤とは、薬剤師が処方する薬剤やその量を間違えることである。薬局での薬剤の受け渡し時に発生する薬剤過誤は、人命に関わるものであることから、常にその完全な防止策が強く求められている。
【0003】
ところで、薬剤過誤の原因の多くは、薬剤師による処方箋や薬剤ラベルの読み違いといったヒューマン・エラーである。そこで、かかるヒューマン・エラーを防止するためには、薬剤の種別を機械的に識別し薬剤過誤の有無のチェックを行う識別装置の導入が非常に有効である。
【0004】
薬剤過誤のチェックを行う従来の装置としては、特許文献1−3に記載のものが公知である。
【0005】
特許文献1に記載の錠剤の外観検査装置は、PTP包装時に、包装される錠剤の外観検査を行う装置である。薬剤師が処方する錠剤やカプセルの多くはPTP包装がされている。PTP包装とは、錠剤やカプセルの形にへこませたポケット部が形成された透明な硬質樹脂フィルムなどに錠剤を入れ、アルミニウムフィルムなどで封をした包装をいう。特許文献1に記載の外観検査装置は、硬質樹脂フィルムのポケット部に錠剤が充填された後、アルミニウムフィルムで封止する前に錠剤の外観不良を検査することを目的としている。この外観検査装置は、ポケット部に収容された錠剤を撮像してカラー画像データを生成し、このカラー画像データのうち錠剤に相当する部分の複数の画素の中から輝度の高い順に所定数の画素を抽出し、抽出した所定数の画素の輝度の平均値を色成分毎に求め、この平均値を色成分ごとに閾値判定することで、錠剤の外観不良を検出するものである。
【0006】
特許文献2に記載の錠剤の識別装置は、光源により錠剤の表面を照射し、その反射光を受光して反射光のスペクトルに基づいて錠剤の識別を行うものである。
【0007】
特許文献3に記載の錠剤の識別装置は、錠剤の包装容器に、予めバーコードなどの識別情報を付しておき、この識別情報を読み取ることにより錠剤の識別を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−194801号公報
【特許文献2】特開平10−246702号公報
【特許文献3】特開平9−253164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の外観検査装置は、錠剤のPTP包装を行う直前に錠剤の検査を行うものである。しかし、実際の薬局では、錠剤をPTP包装済みの状態で保管されることがあり、処方に際して、既にPTP包装がされた錠剤を取り出して患者に渡すことがある。従って、この場合、PTP包装済みの錠剤の識別検査を行わなければならない。
【0010】
特許文献1の外観検査装置をPTP包装済みの錠剤の識別検査に適用する場合、透明な硬質樹脂フィルムの上方から錠剤を撮像して輝度検査を行うことになる。しかし、この場合、硬質樹脂フィルムにおける照明光の反射状態により、撮影された錠剤画像の輝度が大きく変化する。従って、判別閾値を一意的に決めることが困難であり、特許文献1の外観検査装置では正確な錠剤の識別が困難である。
【0011】
また、錠剤は、色や形状が似通ったものが多くあり、これら似通った錠剤をPTP包装がされた状態で識別する必要がある。従って、特許文献2のように、反射光のスペクトル検査を行う方法では、色や形状が似通った錠剤の識別を正確に行うことは困難である。
【0012】
また、特許文献3に記載の錠剤の識別装置のように、予めPTP包装にバーコードなどの識別情報を付しておけば、間違えることなく錠剤の識別を行うことが可能である。しかし、現実には、全ての錠剤にバーコードが付されているわけではなく、これを実現するには専用のPTP包装容器や管理システムが別途必要である。
【0013】
そこで、本発明の目的は、PTP包装された錠剤の識別検査に際し、通常の撮影手段で撮影されたPTP包装済みの錠剤の画像データに基づいて高い精度で錠剤の識別を行うことを可能とする画像識別装置及びそのプログラムを提供することにある。
【0014】
尚、本発明はPTP包装された錠剤の識別検査を主目的としてなされたものであるが、本発明はPTP包装された錠剤以外にも、種々の物品の識別検査に適用することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る画像識別装置は、識別の対象である対象画像を記憶する対象画像記憶手段と、
前記対象画像を識別するための複数のテンプレート画像の情報が記憶されたテンプレート記憶手段と、
前記対象画像内から抽出される物体像の画像を記憶する物体像記憶手段と、
前記対象画像記憶手段から前記対象画像を読み出し、当該対象画像から物体像を抽出し、前記物体像記憶手段に格納する物体像抽出手段と、
前記物体像記憶手段に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N;Nは物体像画像の画素数)の平均値ベクトルpaveを下式(1c)により算出する平均値ベクトル演算手段と、
前記平均値ベクトルpave及び前記物体像記憶手段に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルpから、下式(1a)により分散共分散行列Sを算出する共分散行列算出手段と、
前記分散共分散行列Sの固有値λ及び固有ベクトルφ(k=1,…,K;||φ||=1)を算出する固有値・固有ベクトル演算手段と、
前記分散共分散行列Sの各固有値λから下式(1d)により寄与率rを算出し、下式(1e)により定義される色分散記述子Dを算出するCDD演算手段と、
前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像の前記色分散記述子Dα(α=1,…,M;Mはテンプレート画像の数)と前記CDD演算手段が算出する前記色分散記述子Dとの距離SCV(D,Dα)を下式(1f),(1g)により算出するCDD距離演算手段と、
前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像のうち、前記距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別結果として出力するテンプレート選択手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
【数1】

【0017】
この構成により、実験の結果、通常の撮影手段で撮影されたPTP包装済みの錠剤の画像データに基づいて極めて高い精度で錠剤の識別を行うことを可能となることが判明した。
【0018】
尚、本発明においてはPTP包装の持つ重要な特徴である「色」を用いて識別を行う。一般に、PTP包装は、内部に錠剤やカプセルを含み、その表面には文字やマークなどの印刷が施されている。これらはそれぞれ色分けされており、PTP包装ごとにバラエティーに富んだ配色となっている。この事実に着目し、本発明においては色情報を識別のための特徴量として用いることとした。一方、従来から、色に関する記述子は多く提案されている。例えば、MPEG7の動画像検索では「色相分布記述子(Color Layout Descriptor;CLD)」や「代表色記述子(Dominant Color Descriptor;DCD)」などが用いられている。
【0019】
色相分布記述子は、画像中の各画素の色相値(色味)に着目した記述子であり、その出現割合をヒストグラムとして保持したものである。同種の物体はある程度類似した色味を持つと考えられるので、ヒストグラム間の距離を測ることで所望のパターンを発見することができる。しかしながら、色相分布記述子は、色相を持たないグレー画像などでは特徴抽出できないという問題がある。特に、PTP包装された錠剤のように、白色と銀色を主体とするようなものでは、撮影される画像はグレー画像(モノトーン画像)に近いものが多い傾向があり、このような場合には色相分布記述子は識別のための特徴量としては適していない。
【0020】
代表色記述子は、画像中の代表的な色をいくつか抽出し、その各代表色がどの程度出現するかを保持したものである。代表色記述子は、画像がいくつかの色で構成されていることが確定的であれば、その画像をうまく特徴付けることが可能である。しかしながら、実際の画像の構成色は一定数であるとは限らず、また、代表色抽出の際のクラスタリングにおいて、良好な閾値の設定やクラスタリング失敗への対処といった問題が残る。
【0021】
そこで、本発明においては、薬剤パッケージに含まれる色情報を効率的に保持することが可能な色に関する記述子として、式(1e)により定義される色分散記述子(Color Distribution Descriptor:CDD)Dを新たに考案し、これを識別に使用する特徴量として用いる。色分散記述子Dは、計算も非常に高速で行うことが可能である。また、従来手法とは異なり、グレー画像にも対応し、パラメータの設定や調整も全く必要としない。さらに、主成分分析という統計手法に基づくため、照明光の反射等による多少のノイズなどの外乱に対しては大きな影響を受けない。また、色分散記述子Dでは、サイズは常に固定のK要素(RGB画像(K=3)の場合は9要素)となり非常にコンパクトであり、記述子の性能検証実験を行った結果、1秒間に訳120パッケージを処理できることが実証されており、識別精度は98%を達成し、極めて高速・高精度であることが実証された。その詳細については、後述する。
【0022】
また、本発明において、前記テンプレート選択手段は、前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像のうち、前記距離SCV(D,Dα)が小さい方から所定の個数のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別候補結果として出力するように構成することもできる。
【0023】
これにより、距離SCV(D,Dα)が近似する候補が複数ある場合に、それら複数の候補を識別候補結果として出力させることができる。
【0024】
また、本発明のプログラムは、コンピュータに読み込ませて実行させることにより、コンピュータを上述の画像識別装置として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、通常の撮影手段で撮影されたPTP包装された錠剤の画像データに基づいて、照明光の反射によるノイズの影響や、PTP包装に特有の画像の色彩の単調性(モノトーン性)の影響を大きく受けることなく、極めて高い精度で錠剤の識別を行うことが可能となる。従って、薬剤の処方現場において、ヒューマン・エラーによる薬剤過誤を有効に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る画像識別装置の構成を表す図である。
【図2】PTP包装された錠剤のサンプルの画像データの一例を示す図である。
【図3】式(1g)における距離d(rφ,rα,Kφα,K)の例である。
【図4】距離SCS,SEV,SCVを用いた場合の認識率を比較した結果を表す図である。
【図5】CDDとSCDの累積認識率の比較を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0028】
〔1〕構成
図1は、本発明の実施例1に係る画像識別装置の構成を表す図である。図1において、本実施例の画像識別装置1は、撮影装置2で撮影されるPTP包装された錠剤の画像データに基づき、その錠剤の種類を識別するための装置である。画像識別装置1は、対象画像記憶手段3、テンプレート記憶手段4、物体像記憶手段5、物体像抽出手段6、平均値ベクトル演算手段7、共分散行列演算手段8、固有値・固有ベクトル演算手段9、CDD演算手段10、CDD距離演算手段11、テンプレート選択手段12、出力装置13、及びテンプレート格納手段14を備えている。尚、これらの構成は、専用のLSIや汎用のFPGA等のプログラマブル論理デバイスを用いて、ハードウェア的に構成してもよいが、プログラムとしてソフトウェアにより構成し、コンピュータに読み込ませて実行することで、機能的に図1の画像識別装置1を実現するようにしてもよい。
【0029】
対象画像記憶手段3は、撮影装置2で撮影される画像データを記憶する。撮影装置2においては、識別の対象であるPTP包装された錠剤の画像である対象画像が撮影される。この対象画像が対象画像記憶手段3に格納される。
【0030】
テンプレート記憶手段4は、対象画像を識別するためのM個(M>1)のテンプレート画像の情報が記憶される。テンプレート画像とは、PTP包装された各種の錠剤のサンプルを撮影した画像である。ここで、テンプレート記憶手段4に記憶するのは、テンプレート画像そのものではなく、テンプレート画像から算出される色分散記述子Dである。以下では、α番目(α=1,…,M)のテンプレート画像の色分散記述子DをDαと記す。
【0031】
物体像記憶手段5は、対象画像内から抽出される物体像の画像を記憶する。
【0032】
物体像抽出手段6は、対象画像記憶手段3から対象画像を読み出し、当該対象画像から物体像を抽出し、物体像画像として物体像記憶手段5に格納する。対象画像から物体像を抽出する方法は、エッジ検出による領域抽出等、既に種々の方法が知られており、それら公知の方法により物体像の抽出が行われる。
【0033】
平均値ベクトル演算手段7は、物体像記憶手段5に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N;Nは物体像画像の画素数)の平均値ベクトルpaveを式(1c)により算出する。
【0034】
共分散行列演算手段8は、平均値ベクトルpave及び物体像記憶手段5に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N)から、式(1a)により分散共分散行列Sを算出する。色ベクトルpは、その要素に画素の各色成分の輝度値を有するベクトルであり、画素の色数Kと同じ次元を有する。通常のRGB画像の場合には、K=3であるが、CMYK画像の場合にはK=4、グレー画像の場合にはK=1となる。
【0035】
固有値・固有ベクトル演算手段9は、分散共分散行列Sの固有値λ及び固有ベクトルφ(k=1,…,K;||φ||=1)を算出する。固有値λ及び固有ベクトルφの算出は周知の方法を用いる。
【0036】
CDD演算手段10は、分散共分散行列Sの各固有値λ(k=1,…,K)から下式(1d)により寄与率rを算出し、式(1e)により定義される色分散記述子Dを算出する。
【0037】
CDD距離演算手段11は、テンプレート記憶手段4に記憶された各テンプレート画像の色分散記述子Dα(α=1,…,M;Mはテンプレート画像の数)とCDD演算手段10が算出する色分散記述子Dとの距離SCV(D,Dα)を式(1f),(1g)により算出する。
【0038】
テンプレート選択手段12は、テンプレート記憶手段4に記憶された各テンプレート画像のうち、距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別結果として出力する。尚、本実施例では、テンプレート選択手段12は、距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像の番号のみを出力するものとしているが、必要に応じて、距離SCV(D,Dα)が小さい方から所定の個数のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別候補結果として出力するようにしてもよい。
【0039】
出力装置13は、ディスプレイ、プリンタ、外部記憶装置等により構成される出力装置であり、テンプレート選択手段12が出力する識別結果や識別候補結果を表示、印刷、記憶等する。
【0040】
テンプレート格納手段14は、各種の錠剤のサンプルを撮影した画像データに基づいて、物体像抽出手段6、平均値ベクトル演算手段7、共分散行列演算手段8、固有値・固有ベクトル演算手段9、及びCDD演算手段10によって生成される各テンプレート画像の色分散記述子Dαをテンプレート記憶手段4に格納する。
【0041】
〔2〕動作
以上のように構成された本実施例に係る画像識別装置1について、以下その動作を説明する。尚、画像識別装置1では、事前準備として、PTP包装された各種の錠剤のサンプルを撮影して各テンプレート画像の色分散記述子Dα(α=1,…,M)をテンプレート記憶手段4に保存しておく。そして、その後、実際に検査を行うPTP包装された錠剤の識別を行う。
【0042】
(1)テンプレート情報作成処理
(1−1)まず、撮影装置2は、PTP包装された錠剤のサンプルを撮影し、そのサンプルの画像データ(対象画像)が対象画像記憶手段3に保存される。図2にPTP包装された錠剤のサンプルの画像データの一例を示す。
【0043】
(1−2)次に、物体像抽出手段6は、サンプルの画像データからサンプルの物体像を切り出し、切り出されたサンプルの物体像は物体像記憶手段5に保存される。
【0044】
(1−3)次に、平均値ベクトル演算手段7は、物体像記憶手段5に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N;Nは物体像画像の画素数)の平均値ベクトルpaveを式(1c)により算出する。
【0045】
(1−4)次に、共分散行列演算手段8は、平均値ベクトルpave及び物体像記憶手段5に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N)から、式(1a)により分散共分散行列Sを算出する。ここで、分散共分散行列Sは、K×K個の要素を有する正方行列である。最初に撮影される対象画像がRGB画像の場合、K=3であり、分散共分散行列Sは3×3要素の正方行列となる。
【0046】
(1−5)次に、固有値・固有ベクトル演算手段9は、分散共分散行列Sの固有値λ及び固有ベクトルφ(k=1,…,K)を算出する。
【0047】
(1−6)CDD演算手段10は、分散共分散行列Sの各固有値λから式(1d)により寄与率rを算出し、式(1e)により定義される色分散記述子Dを算出する。
ここで、固有値λ及び固有ベクトルφは、それぞれ、K個ずつ算出される。固有ベクトルφについては、定数倍の自由度があるが、ここでは規格化条件||φ||=1を満たすように固有ベクトルφを算出する。各固有ベクトルφは、色ベクトルpの分布の3つの主軸方向にそれぞれ向いた単位ベクトルを表している。また、固有値λは、k番目の主軸に沿った分散を表している。従って、式(1d),(1e)における寄与率rは、各主軸方向の色ベクトルpの分布の分散の比率を表している。また、ここでは説明の便宜のため、λ≧λ≧λ≧0,0≦r≦r≦r≦1であるとする。
【0048】
もし、PTP包装された錠剤が殆どグレースケール画像に近いもの(例えば、銀色のシート上に白い錠剤が封入され黒い印字がされている場合など)であれば、主軸φが支配的な役割を果たし、他の主軸φ,φは殆ど意味をなさないことになる。この場合、r≒1,r≒0,r≒0となる。故に、式(1d)の寄与率rは、重み係数として用いるのに適していることが分かる。以下では、ベクトルrφを「寄与ベクトル」と呼ぶ。色分散記述子Dは、色ベクトルpの分布のK個の寄与ベクトルrφの組である。
【0049】
(1−7)最後に、テンプレート格納手段14は、CDD演算手段10により算出される色分散記述子Dを、α番目(α=1,…,M;Mはテンプレート画像の数)のテンプレート画像の色分散記述子Dαとして、テンプレート記憶手段4に格納する。
【0050】
以上の(1−1)〜(1−7)の操作を、M個のPTP包装された錠剤のサンプルについて繰り返し実行する。これにより、テンプレート記憶手段4には、M組のテンプレート画像の色分散記述子Dα(α=1,…,M)が蓄積されることになる。
【0051】
(2)錠剤識別処理
上記(1)のテンプレート情報作成処理を行うことにより事前準備ができた後、次に、以下のような錠剤識別処理によりPTP包装された錠剤の識別を行う。
【0052】
(2−1)まず、撮影装置2は、識別の対象であるPTP包装された錠剤を撮影し、その画像データを対象画像として対象画像記憶手段3に保存する。
【0053】
(2−2)次に、上述の(1−2)〜(1−6)と同様の処理動作によって、対象画像の色分散記述子D={rφ,…,rφ}を算出する。
【0054】
(2−3)次に、CDD距離演算手段11は、テンプレート記憶手段4に記憶された各テンプレート画像の色分散記述子Dα(α=1,…,M;Mはテンプレート画像の数)とCDD演算手段10が算出する色分散記述子Dとの距離SCV(D,Dα)を下式(1f),(1g)により算出する。
【0055】
色分散記述子D,Dαの距離SCV(D,Dα)は、式(1f),(1g)により定義される。ここで、||・||はL1ノルムを表し、ベクトルx=[x,…,x]のL1ノルムは、||x||=|x|+…+|x|で計算される。図3に、式(1g)における距離d(rφ,rα,kφα,k)の例を図示する。固有ベクトルφの符号に関しては不定性が残るため、固有ベクトルφの符号に関しては、正でも負でも同じ距離となるように式(1g)のような定義をした。
【0056】
(2−4)最後に、テンプレート選択手段12は、テンプレート記憶手段4に記憶された各テンプレート画像のうち、距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別結果として出力する。出力装置13は、テンプレート選択手段12が出力する識別結果を表示、印刷等により出力する。
【0057】
〔3〕動作の評価
まず、距離SCV(D,Dα)の定義である式(1f)の妥当性を評価するために、他の距離の定義SEV(D,Dα),SCS(D,Dα)との比較を行った。距離SEV(D,Dα)は、式(1f)においてr=1としたものであり、次式(2)で定義する。
【0058】
【数2】

【0059】
また、距離SCS(D,Dα)は、コサイン類似度であり、次式(3)で定義する。
【0060】
【数3】

【0061】
評価には、図2に示した各種のPTP包装された錠剤を使用し、それぞれの種類について、PTP包装された錠剤を撮影した複数の画像データを使用し、識別率の算出結果を比較した。また、色数についてK=1,2,3の場合についてそれぞれ評価を行った。図4に、距離SCS,SEV,SCVを用いた場合の認識率を示す。図4から明らかなように、距離SCVを用いた場合が最も高い認識率を示しており、K=3の場合に認識率は約98.7%であった。これより、式(1f)で定義する距離SCVを用いるのが妥当であることが裏付けられた。
【0062】
次に、MPEG7で使用されるスケーラブル色記述子(Scalable Color Descriptor;SCD)との認識率の比較を行った。図5にその結果を示す。図5の横軸は、識別候補結果として類似テンプレート画像を距離が小さい方から何個選択したのかを表す選択数であり、縦軸は識別候補の中に正しいテンプレート画像が含まれている割合を表す。図5から分かるように、スケーラブル色記述子(CSD)を用いた場合では、選択数が1のときに認識率が約89%であるのに対し、色分散記述子(CDD)では選択数が1のときに認識率が約98.7%であり、CDDのほうが圧倒的に優れた結果が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1 画像識別装置
2 撮影装置
3 対象画像記憶手段
4 テンプレート記憶手段
5 物体像記憶手段
6 物体像抽出手段
7 平均値ベクトル演算手段
8 共分散行列演算手段
9 固有値・固有ベクトル演算手段
10 CDD演算手段
11 CDD距離演算手段
12 テンプレート選択手段
13 出力装置
14 テンプレート格納手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別の対象である対象画像を記憶する対象画像記憶手段と、
前記対象画像を識別するための複数のテンプレート画像の情報が記憶されたテンプレート記憶手段と、
前記対象画像内から抽出される物体像の画像を記憶する物体像記憶手段と、
前記対象画像記憶手段から前記対象画像を読み出し、当該対象画像から物体像を抽出し、物体像画像として前記物体像記憶手段に格納する物体像抽出手段と、
前記物体像記憶手段に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルp(i=1,…,N;Nは物体像画像の画素数)の平均値ベクトルpaveを下式(1c)により算出する平均値ベクトル演算手段と、
前記平均値ベクトルpave及び前記物体像記憶手段に格納された物体像画像の各画素の色ベクトルpから、下式(1a)により分散共分散行列Sを算出する共分散行列算出手段と、
前記分散共分散行列Sの固有値λ及び固有ベクトルφ(k=1,…,K;||φ||=1)を算出する固有値・固有ベクトル演算手段と、
前記分散共分散行列Sの各固有値λから下式(1d)により寄与率rを算出し、下式(1e)により定義される色分散記述子Dを算出するCDD演算手段と、
前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像の前記色分散記述子Dα(α=1,…,M;Mはテンプレート画像の数)と前記CDD演算手段が算出する前記色分散記述子Dとの距離SCV(D,Dα)を下式(1f),(1g)により算出するCDD距離演算手段と、
前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像のうち、前記距離SCV(D,Dα)が最小のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別結果として出力するテンプレート選択手段と、を備えたことを特徴とする画像識別装置。

【請求項2】
前記テンプレート選択手段は、前記テンプレート記憶手段に記憶された各テンプレート画像のうち、前記距離SCV(D,Dα)が小さい方から所定の個数のテンプレート画像を選択し、選択したテンプレート画像の番号αを識別候補結果として出力することを特徴とする請求項1に記載の画像識別装置。
【請求項3】
コンピュータに読み込ませて実行させることにより、コンピュータを請求項1又は2に記載の画像識別装置として動作させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−98191(P2012−98191A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246946(P2010−246946)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】