説明

画像選択装置、画像選択プログラム、および画像選択方法

【課題】振動環境下でも被写体の鮮明な画像を取得する。
【解決手段】制御部9は、顕微鏡部2を介して撮像部3が撮像した被写体の画像または振動センサ10の出力に基づいて、基板1に生じる振動のパターンを調べ、そのパターンに基づいて撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する。制御部9は、撮像間隔dtでn(=T/dt)枚の観察画像を撮像するための制御を行う。観察画像のデータは画像入力部4により取り込まれ、画像メモリ5に格納される。比較判断部6は各観察画像のコントラスト値を算出し、その比較結果に基づいてn枚の観察画像の中から被写体の鮮明な観察画像を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動環境下において被写体の鮮明な画像を得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)やプラズマディスプレイパネル(PDP;Plasma Display Panel)などのFPD(Flat Panel Display)基板や、半導体チップなどの製造工程では、画像を使った計測や検査が行われる。
【0003】
例えば、FPD基板上に形成された回路パターンの線幅や寸法の計測のため、あるいは、フォトレジスト加工において正しく回路パターンが形成されたか否かの検査のために、FPD基板や半導体ウエハなどの被写体が撮像される。この撮像は多くの場合、顕微鏡を介して行われる。そして、撮像された画像に基づいて計測や検査が行われる。
【0004】
ところが、種々の振動の影響によって、計測や検査のための画像がぼやけることがある。特に、FPD基板や半導体ウエハの計測や検査においては、計測や検査の対象が微細であるため、顕微鏡を介して被写体を拡大して撮像が行われる。よって、振動の影響が画像に現れやすい。
【0005】
例えば、顕微鏡の対物レンズの倍率が高いほど、被写界深度が浅い。よって、顕微鏡の光軸方向のわずかな振動でも画像がぼやける。例えば、10〜20倍程度の低倍率の顕微鏡を使った観察では問題にならない程度の振動でも、より高倍率の顕微鏡を使った場合には、画像がぼやけてしまう。
【0006】
あるいは、光軸方向以外の方向に被写体が振動する場合、その振動による動きが顕微鏡により拡大されて撮像される。よって、大きくぶれた画像が撮像され、画像が不鮮明になることがある。
【0007】
画像がぼやけていると、回路パターンの線幅や寸法を正確に計測することができない。特に、線幅の測定の場合には、回路パターンの線と垂直な方向の振動により横ぶれした画像を用いて計測を行うと、計測結果に致命的な悪影響を及ぼす。また、画像がぼやけていると、微小な欠陥を検出することができない可能性がある。
【0008】
そこで、振動の影響を抑えるために、撮像装置や被写体を載置する装置に防振ゴムなどの緩衝材を取り付けるといった対策がとられている。しかし、振動の発生源、方向、周波数は様々であり、撮像装置と被写体の双方にそれぞれ振動が影響する。よって、完全に振動の影響をなくした環境において撮像を行うことは、実際には非常に困難である。
【0009】
例えば、画像を使った計測を行う計測装置が設置される工場やクリーンルームで発生する振動の発生源は様々である。床自体の振動もあれば、基板を載置するためのステージ用のモータや基板の搬送装置などが引き起こす振動もある。
【0010】
また、FPDの大型化にともなって、FPD基板を載置するステージにはエアキャスタを使った浮上式ステージが採用されることが多い。浮上しているFPD基板は、騒音による空気振動の影響や、クリーンルーム内のダウンフローなどによる風の影響を受けやすく、そのため振動も発生しやすい。
【0011】
また、観察・計測の対象である基板表面に対して垂直な方向の振動だけではなく、水平方向の振動もある。そして、各種の振動の周期は様々に異なっている。一方で、例えば、防振用の緩衝材により軽減可能な振動の周波数の範囲は、緩衝材の性質に応じて決まっている。よって、振動自体を軽減することには限界がある。
【0012】
そこで、振動自体を軽減するだけではなく、様々な振動が発生している環境(以下、「振動環境」ということがある)において撮像された画像における振動の影響を軽減するというアプローチが考えられる。特許文献1〜3はそのようなアプローチの例である。
【0013】
特許文献1に記載の画像撮像装置は、撮像対象物の振動状況を振動計などにより測定し、測定された振動波形のピーク点を撮像タイミングとして検出し、検出した撮像タイミングで撮像対象物を撮像し、それによって、画像が振動から受ける影響を低減している。
【0014】
この画像撮像装置は、振動波形のピーク点では揺れ量の変化が零であり、すなわち振動が一時的に停止した状態であることを利用している。しかし、撮像タイミングの検出から実際の撮像完了まではタイムラグが生じる。
【0015】
特許文献2に記載の方法は、微小時間間隔をおいて撮像対象物を順に複数回撮像し、連続して撮像した2つの画像の各画素の輝度の差を求め、求めた輝度の差の標準偏差を算出し、その標準偏差が許容値の範囲内ならば、上記2つの画像のうち一方を取込画像とする方法である。
【0016】
この方法は、振動が全くない場合は上記2つの画像が一致して標準偏差が零になることに着目した方法である。しかし、算出された標準偏差が小さいからといって、必ずしも取込画像がぶれていないことが保証されるわけではない。
【0017】
特許文献3に記載の基板検査装置は、撮像手段と、顕微鏡手段と、基板像を合焦させるように顕微鏡手段を制御し、基板像の合焦程度を示す合焦信号を出力する合焦手段とを備える。この基板検査装置は、合焦信号に基づき、合焦程度が高くなるタイミングで画像信号を取り込む。
【0018】
この基板検査装置は、一旦合焦されて顕微鏡手段が固定された後は、真の合焦点付近で基板位置が上下し、基板の振動周期の1/2の間隔で合焦程度が高くなることを利用している。しかし、合焦信号に基づくタイミングの検出から実際の撮像完了まではタイムラグが生じ、また、一般には基板の振動は上下方向のみではない。
【0019】
上記のように、画像が受ける振動の影響のうち、上記特許文献1〜3に記載の技術により軽減可能な影響は一部に限られる。
また、計測や検査の対象である被写体に合焦した画像の方が、合焦していない画像よりも計測や検査に適しているのは当然である。しかし、例えば下記の特許文献4や5に記載されたような合焦に関する技術だけでは、振動の影響の軽減という目的の達成は難しい。
【0020】
特許文献4にはコントラスト値を使った自動焦点合わせ方法が記載されている。一般に、対物レンズの焦点深度の範囲内ではコントラスト値はあまり変化せず、再現性も悪い。そこで、特許文献4に記載の方法では、顕微鏡の対物レンズを垂直方向に一定速度で移動させながら予め決められたサンプリング間隔で被撮像物を撮像し、撮像した画像からコントラスト値を算出し、コントラスト値を関数で近似してピーク位置を算出し、ピーク位置に基づいて対物レンズの合焦位置を算出することにより、ピーク位置および合焦位置の再現精度を高めている。
【0021】
しかし、不規則な振動の影響を受ける環境では、この方法による合焦位置の再現精度は低下する。
特許文献5には、合焦位置に基づいて計測対象の光軸方向(例えば上下方向)の変位を計測する画像計測装置が記載されている。この画像計測装置は、1回の走査により計測対象の複数個所の変位を測定するために、駆動モータなどによって撮像系を駆動して、撮像系の計測対象側の焦点位置を光軸方向に計測対象に対して相対移動させながら計測対象を撮像する。そして、この画像計測装置は、撮像された画像内の複数の領域それぞれのコントラスト値を求め、各領域でコントラスト値が最も高くなるときの光軸方向の相対変位を当該領域の計測値として求める。
【0022】
この画像計測装置では、焦点位置と計測対象の相対位置が変化する。よって、計測対象が光軸方向に振動している場合、偶然、焦点位置が計測対象上に位置する場合もあるかもしれない。しかし、この画像計測装置では、光軸方向以外の方向の振動は考慮されていない。
【特許文献1】特許第3377586号公報
【特許文献2】特開平8−65568号公報
【特許文献3】特開平10−213522号公報
【特許文献4】特開平10−232343号公報
【特許文献5】特開2001−66112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記のような従来の技術によれば、特定の場合に振動の影響が軽減された画像を得ることはできるが、様々な方向と様々な周期の振動が合成された振動の影響を被写体が受ける場合については必ずしも考慮されていなかった。そのため、そのような場合に被写体の鮮明な画像を得ることができなかった。
【0024】
そこで本発明は、様々な方向と様々な周期の振動が発生している環境においても、被写体の鮮明な画像を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明による画像選択装置は、被写体に生じる振動に基づいて第1の撮像時間と第1の撮像間隔を導出する導出手段と、前記被写体を載置するステージに対向して配置された顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した観察画像のデータを取り込む取込手段と、前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔から決まる第1の撮像枚数分の前記観察画像のデータを、前記第1の撮像間隔で取り込むように前記取込手段を制御する制御手段と、取り込まれた前記観察画像のデータを格納する格納手段と、前記格納手段に格納された前記観察画像のコントラスト値を算出する算出手段と、前記コントラスト値に基づいて、撮像された前記第1の撮像枚数の前記観察画像の中から1枚以上の観察画像を選択する選択手段と、を備える。
【0026】
前記導出手段による前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔の導出の仕方は、実施形態によって様々に異なっていてよい。
例えば、前記画像選択装置が、前記振動に含まれる複数の周波数成分を検出する検出手段をさらに備え、前記導出手段が、前記複数の周波数成分のうち相対的に低い第1の周波数成分に基づいて前記第1の撮像時間を導出し、前記複数の周波数成分のうち相対的に高い第2の周波数成分に基づいて前記第1の撮像間隔を導出してもよい。
【0027】
あるいは、指定された第2の撮像時間と第2の撮像間隔から決まる第2の撮像枚数分の、前記顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した準備画像のデータを、前記第2の撮像間隔で取り込むように、前記制御手段が前記取込手段を制御し、前記格納手段が、取り込まれた前記準備画像のデータを格納してもよい。
【0028】
この場合、前記算出手段が、前記格納手段にデータが格納された前記準備画像のコントラスト値を算出し、撮像された前記第2の撮像枚数の前記準備画像の前記コントラスト値の変化のパターンに基づいて、前記導出手段が前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔とを導出してもよい。あるいは、前記導出手段が、撮像された前記第2の撮像枚数の前記準備画像間の相対的なずれを算出し、前記ずれの変化のパターンに基づいて、前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔とを導出してもよい。
【0029】
前記導出手段は、例えばこれらの方法によって、様々な方向と様々な周期の振動が発生している環境下でも、それらの様々な振動を考慮に入れて、第1の撮像時間と第1の撮像間隔を導出する。
【0030】
また、本発明の別の態様によれば、コンピュータを前記画像選択装置として機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、振動環境下において被写体に発生している様々な方向と様々な周期の振動に基づいた撮像時間と撮像間隔によって、複数枚の観察画像のデータを取り込み、これらの各観察画像のうちコントラストの高い観察画像を選択するので、様々な振動の複合的な影響が全体として見れば小さくなるような時点において行われた撮像による画像、すなわち鮮明な観察画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
以下では、主に大型基板の自動計測装置に本発明を適用した実施形態について、次の順序で説明する。まず、図1と図2を参照して、自動計測装置の構成と動作の概要を説明する。次に、自動計測装置が計測を行う対象の観察画像を選択する選択方法の例を図3から図5を参照して説明する。そして、自動計測装置が第1の撮像時間と第1の撮像間隔を導出する導出方法の例を図6から図9を参照して説明する。最後に、様々な変形例について説明する。
【0033】
図1は、大型基板の自動計測装置に本発明を適用する実施形態における、自動計測装置の機能ブロック図である。また、図2は、大型基板を載置するステージと、大型基板を撮像するのに使われる顕微鏡部および撮像部との位置関係を示す斜視図である。
【0034】
図1の自動計測装置100は、顕微鏡部2、撮像部3、画像入力部4、画像メモリ5、比較判断部6、計測部7、結果出力部8、制御部9、振動センサ10を備える。
本実施形態では、画像入力部4、画像メモリ5、比較判断部6、計測部7、制御部9は、PC(Personal Computer)11により実現される。PC11は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリと、ワーキングエリアとして使われるRAM(Random Access Memory)と、ハードディスク装置等の外部記憶装置と、外部機器との接続インターフェイスと、通信インターフェイスとを備え、これらがバスで相互に接続されたコンピュータである。
【0035】
画像入力部4は、撮像部3との間の接続インターフェイスとしてPC11に装着された画像キャプチャボードにより実現される。また、PC11は、上記の汎用のRAMの他に、画像入力部4を介して入力された画像のデータを格納する専用の画像メモリ5を備えている。画像メモリ5に必要な容量は、後述するように、実施形態によって異なる。
【0036】
比較判断部6と計測部7と制御部9は、例えば、ROM、ハードディスク装置、またはコンピュータ読み取り可能な可搬型記憶媒体などに格納されたプログラムを、CPUがRAMにロードして実行することにより、実現される。
【0037】
また、PC11は、接続インターフェイスを介して、振動センサ10に制御信号を送り、振動センサ10の出力信号を受け取る。
本実施形態において、結果出力部8は、PC11に接続されたモニタディスプレイにより実現される。他の実施形態では、PC11に接続されたプリンタ、スピーカなどによって結果出力部8が実現されてもよい。あるいは、計測結果を用いた処理を行う上位システムに計測結果を転送する、PC11のデータ転送インターフェイスによって、結果出力部8が実現されてもよい。
【0038】
なお、一般には、撮像の対象となる、回路パターンが形成された基板1の表面や、その表面に対向する基板1の裏面には、振動センサ10を取り付けることが許されない。そこで、振動センサ10は、例えば、回路パターンが形成されていない、基板1のマージン部分に取り付けられる。なお、振動センサ10は、非接触式のセンサでも良く、この場合、基板1の上方に配置される。
【0039】
また、本実施形態では、上記導出手段と制御手段が制御部9により実現され、上記取込手段が画像入力部4により実現され、上記格納手段が画像メモリ5により実現され、上記算出手段と選択手段が比較判断部6により実現され、上記検出手段が振動センサ10により実現される。
【0040】
以上のように構成された自動計測装置100の動作の概要は、次のとおりである。
観察および計測の対象すなわち被写体である基板1上の微細なパターンを、顕微鏡部2を介して撮像部3が撮像する。撮像は複数回行われる。撮像された複数の画像の中から、計測に適した鮮明な画像を比較判断部6が選択する。選択された画像に基づいて、基板1上の微細なパターンを構成する線幅を、計測部7が自動的に計測する。計測の結果は結果出力部8が出力する。
【0041】
次に、図2を参照して、基板1を載置するステージと顕微鏡部2および撮像部3との位置関係を説明する。本実施形態における基板1は、FPDの大型ガラス基板であり、図2のステージ12上に載置されている。ステージ12はエアキャスタを用いた浮上式ステージでもよい。
【0042】
以下では図2に示すように、床面に対して鉛直な座標軸をz軸と呼び、z軸と垂直な2つの座標軸をx軸およびy軸と呼ぶ。また、ステージ12の上面が床面に対して水平であるとする。すなわち、xy平面に平行な面上に基板1が載置されているとする。
【0043】
自動計測装置100の制御部9は、ステージ12上でx方向に基板1を動かすための制御も行う。
また、本実施形態では、図2に示すように、z軸に平行な支柱13aおよび13bと、ステージ12の上方で支柱13aと支柱13bの間に渡されたy軸に平行な梁13cとを備えたガントリー13が、ステージ12に固定されている。図2では、図1に示した構成のうち、顕微鏡部2と撮像部3のみを図示し、基板1、PC11、結果出力部8、および振動センサ10は図示を省略した。また、図2ではステージ12の支柱等は省略されている。
【0044】
図2に示すように、顕微鏡部2と撮像部3は互いに固定されている。また、撮像部3は、ガントリー13の梁13cに沿ってy方向に移動可能なように、梁13cに取り付けられている。図1の自動計測装置100の制御部9は、不図示の駆動モータを制御することにより、y方向に撮像部3を動かすことができる。
【0045】
すなわち、基板1をステージ12上でx方向に動かす制御を制御部9が行い、撮像部3に固定された顕微鏡部2とともに撮像部3をy方向に動かす制御も制御部9が行うことにより、自動計測装置100は、基板1上の任意の位置を、顕微鏡部2を介して撮像部3により撮像することができる。上記の説明から明らかなように、ある指定されたy座標で撮像部3が停止しているとき、顕微鏡部2のステージ12に対する相対位置は固定された状態である。
【0046】
また、図2に示すように、顕微鏡部2の対物レンズの光軸はz軸に平行である。本実施形態では、顕微鏡部2が備える合焦機構により対物レンズをz方向に動かすことで、顕微鏡部2の焦点位置を前記基板1上に合わせるものとする。
【0047】
自動計測装置100を用いた計測は、次のように行われる。
後述の第1〜第3の導出方法のいずれかによって、導出手段としての制御部9が予め撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する。ここで、撮像時間Tと撮像間隔dtは、様々な方向と様々な周期の振動の複合的な影響が全体として見れば小さくなるような時点が、少なくとも1回は撮像時点として指定されるように、基板1に生じる振動のパターンに基づいて導出される。
【0048】
そして、撮像部3および顕微鏡部2が、基板1上の計測対象領域を撮像する位置となるように、基板1をx方向に移動し、顕微鏡部2と撮像部3をy方向に移動する制御を制御部9が行う。顕微鏡部2と撮像部3は指定されたy座標で停止する。
【0049】
次に、顕微鏡部2の合焦動作が行われる。この合焦動作は、手動により行ってもよい。あるいは、PC11が不図示のRAMに基板1の設計データを読み込み、その設計データに含まれる基板1の厚みから制御部9が合焦位置を算出して顕微鏡部2に通知し、顕微鏡部2の合焦機構が、その合焦位置に対物レンズを移動させてもよい。あるいは、顕微鏡部2の自動合焦機能により合焦動作を行うようにしてもよい。その場合、1回合焦したら被写体である基板1の動きに追従する制御を行わないよう設定される。
【0050】
次に、顕微鏡部2を介して基板1を観察した画像を撮像部3が撮像する。撮像部3は、顕微鏡部2を介して基板1を撮像し、光電変換により得られた電気信号から画像データであるデジタルデータを出力する。撮像部3は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラでもよく、CMOS(Complementary Mental-Oxide Semiconductor)カメラでもよい。
【0051】
そして、撮像部3が撮像した画像(以下、「観察画像」と呼ぶ)のデータを画像入力部4が取り込み、画像入力部4が取り込んだデータを画像メモリ5に格納する。詳しくは後述するが、撮像部3は複数の観察画像を撮像し、撮像された観察画像のデータは順次、画像入力部4により取り込まれて画像メモリ5に格納される。
【0052】
撮像部3によって複数の観察画像が撮像される間、自動計測装置100が設置された部屋の床や自動計測装置100自体が振動することがある。また、自動計測装置100がダウンフロー式のクリーンルームに設置される場合、ダウンフローに影響されて基板1が振動することもある。さらに、騒音による空気振動の影響で基板1が振動することもある。そして、これらの振動の方向および周期は様々に異なり、不規則である。
【0053】
撮像は、このように様々な振動の影響を受けながら、顕微鏡部2の対物レンズと基板1との相対位置が変動する状況下で行われる。したがって、撮像された複数の観察画像それぞれにおける合焦の程度は様々に異なる。
【0054】
比較判断部6は、撮像された複数の観察画像のデータに基づき、計測に適した鮮明な観察画像を、計測用の画像として選択する。比較判断部6の詳しい動作は後述する。
比較判断部6が選択した計測用の観察画像を使って計測部7が計測を行い、結果出力部8がその計測の結果を出力する。本実施形態における結果出力部8はモニタディスプレイであり、計測の結果は、文字・記号・図・画像などによって視覚的に出力される。
【0055】
本実施形態によれば、基板1が様々な振動の影響を受け、基板1と顕微鏡部2の相対位置が変動し続けるような環境においても、複数の観察画像の中から計測に適した鮮明な画像を比較判断部6が選択するので、計測部7による計測の精度が悪化しない。
【0056】
なお、上記で説明した構成は一実施形態における例示である。他の実施形態では、プロセッサを備えた画像キャプチャボードが、制御部9と画像入力部4の双方の機能を実現してもよく、ハードウェア回路が比較判断部6、計測部7、制御部9の機能を実現してもよい。
【0057】
次に、図3のフローチャートを参照して、図1の自動計測装置100が第1の選択方法により観察画像を選択し、計測を行う動作の詳細を説明する。
ステップS101で、撮像時間Tおよび撮像間隔dtを制御部9が導出し、設定する。具体的な導出方法は図6〜図9とともに後述するが、撮像時間Tと撮像間隔dtは基板1に生じる振動のパターンに基づいて導出される。振動のパターンは、例えば周波数スペクトルにより表される。
【0058】
さらにステップS101で制御部9は、下記式(1)により、撮像時間Tと撮像間隔dtから撮像枚数nを算出する。
n=T/dt (1)
なお、撮像時間Tが撮像間隔dtで割り切れない場合、制御部9は、T/dtを切り上げた整数または切り捨てた整数を撮像枚数nとして算出する。
【0059】
次に、ステップS102で、制御部9は画像番号を表す変数kを1に初期化する。
続くステップS103からステップS106の処理は、撮像間隔dtごとに、ステップS101で算出された撮像枚数であるn回繰り返される。
【0060】
ステップS103では、顕微鏡部2を介して基板1を観察したk枚目の観察画像を撮像部3が撮像する。撮像のタイミングは、ステップS101で導出された撮像間隔dtとして制御部9により指示される。それにより、ステップS103のk回目の実行と(k+1)回目の実行との間隔は撮像間隔dtとなる。
【0061】
次に、ステップS104で、撮像された観察画像のデータを画像入力部4が取り込み、画像メモリ5がそのデータを格納する。取り込みのタイミングも、制御部9により指示される。以下では、k枚目の観察画像をImage(k)と表記する。
【0062】
ステップS105では、制御部9がk=nか否かを判断し、すなわち観察画像の撮像がn回行われたか否かを判断し、k=nであれば(撮像がn回行われたら)ステップS107へ、k≠nであればステップS106へ移行する。
【0063】
ステップS106では制御部9がkの値を1つインクリメントする。そして、処理はステップS103に戻る。
以上のように、制御部9がタイミングを指示することにより、撮像間隔dtで撮像されたn枚の観察画像のデータが画像メモリ5に蓄積される。
【0064】
ステップS105でk=nであると判断されると、次に、ステップS107で、画像メモリ5にデータが格納されたすべての画像Image(1)〜Image(n)について、それぞれのコントラスト値Contrast(1)〜Contrast(n)を比較判断部6が算出する。すなわちImage(k)のコントラスト値Contrast(k)について、変数kを1から撮像枚数nまで1ずつインクリメントしながら算出する。
【0065】
ここで、コントラスト値Contrast(k)は、k枚目の観察画像Image(k)のコントラストすなわち鮮明さを表す値である。
一般に、振動の影響が大きい画像では、例えば横ぶれの影響により、画像に写った回路パターンがぼけて不鮮明であり、特に回路パターンのエッジ部分が不鮮明である。換言すれば、そのような画像はコントラストが低い画像である。逆に、振動の影響が小さい画像では、回路パターンやエッジ部分がより鮮明に写っており、コントラストが高い。
【0066】
コントラスト値Contrast(k)(k=1〜n)の具体的な算出方法については、図4とあわせて後述する。なお、コントラスト値Contrast(k)の値が大きいほどコントラストが高く、すべてのkにおいてContrast(k)≧0であるとして以下では説明する。
【0067】
したがって、本実施形態においては、コントラスト値の値が大きい観察画像ほど、コントラストが高く、鮮明で、計測に適している。
ステップS107に続くステップS108では、比較判断部6が、n個のコントラスト値Contrast(1)〜Contrast(n)を比較し、コントラスト値が最大となる画像番号k=maxを求める。
【0068】
そして、ステップS109で、比較判断部6は画像番号maxを計測部7に通知し、計測部7は画像メモリ5から観察画像Image(max)のデータを取り出す。
その後、ステップS110で、観察画像Image(max)のデータを用いて計測部7が計測を実行する。本実施形態では、計測対象であるパターンの線幅を認識するのに必要な各種パラメータ等は予め計測部7に設定されており、計測部7はその設定にしたがって計測を実行する。
【0069】
最後にステップS111で、計測部7が結果出力部8に指示して、計測結果を出力させる。
観察画像Image(max)は、n枚の観察画像の中で最もコントラスト値が高い観察画像である。コントラスト値が高いほど、合焦の程度が高く、鮮明で、計測に適している。
【0070】
つまり、図3にしたがって自動計測装置100が動作することにより、様々な振動の影響を受けながら撮像したn枚の観察画像の中から、最も計測に適した観察画像Image(max)が選択される。そして、観察画像Image(max)を使って計測が行われる。
【0071】
すなわち、本実施形態によれば、撮像時の振動の影響を軽減して、ぶれやぼけの少ない、より鮮明な観察画像が計測用に得られる。換言すれば、振動環境下においても、安定して鮮明な観察画像が得られる。よって、計測の精度が振動によって悪化することを防ぐことができる。
【0072】
また、鮮明な画像が得られると期待される特定の1つのタイミングだけを狙って撮像を行う場合には、撮像のタイミングの指示から実際の撮像までのタイムラグが原因で、期待されたほど鮮明な画像が得られないことがある。しかし、本実施形態では、n枚の観察画像の中から計測に適した観察画像Image(max)を選択するという方法を採用しているので、そのようなタイムラグは考慮しなくてよい。
【0073】
次に、k枚目の観察画像Image(k)のコントラスト値Contrast(k)を比較判断部6が算出する方法の具体例について、図4を参照して説明する。
図4は、ステップS103で撮像された観察画像Image(k)を表す図である。
【0074】
上記のように本実施形態では、顕微鏡部2の対物レンズの光軸はz軸に平行である。また、図4では、観察画像Image(k)上の水平方向と垂直方向の座標軸をそれぞれX軸とY軸として表してある。また、図4における観察画像の左上隅をXY座標系の原点とする。
【0075】
以下では簡単のため、図2に示した3次元座標のx軸と図4のX軸とが平行であり、図2のy軸と図4のY軸とが平行であると仮定して説明する。
本実施形態で比較判断部6は、観察画像Image(k)のデータのうち一部のデータのみをサンプリングして抽出し、そのサンプリングした部分のみを使ってコントラスト値Contrast(k)を算出する。その理由は、コントラスト値Contrast(k)を算出する計算コストを削減するためである。ここで、計算コストとは、メモリ使用量や計算時間である。
【0076】
以下では、コントラスト値Contrast(k)の算出のために観察画像Image(k)から比較判断部6がサンプリングする部分をプロファイルと呼ぶ。図4は、X軸に平行なライン状のi個のプロファイルCx(1)、Cx(2)、……、Cx(i)と、Y軸に平行なライン状のj個のプロファイルCy(1)、Cy(2)、……、Cy(j)がコントラスト値Contrast(k)の算出に使われる例を表している。図4の例において、iとjはいずれも正整数である。
【0077】
X軸に平行なi個のプロファイルはいずれも、X方向の長さが観察画像Image(k)と等しく、Y方向の長さが例えば1画素である。Y軸に平行なj個のプロファイルはいずれも、Y方向の長さが観察画像Image(k)と等しく、X方向の長さが例えば1画素である。
【0078】
比較判断部6は、これら(i+j)個のプロファイルそれぞれのコントラスト値を算出し、算出した(i+j)個のコントラスト値の総和を算出し、その総和を観察画像Image(k)のコントラスト値Contrast(k)として求める。各プロファイルのコントラスト値は、例えば、その1つのプロファイル内において隣接するすべての2画素の組についての、2画素の輝度の差分の絶対値の総和である。
【0079】
次に、図5のフローチャートを参照して、図1の自動計測装置100が第2の選択方法により観察画像を選択し、計測を行う動作の詳細を説明する。図3にしたがって自動計測装置100が動作する場合、n枚の観察画像Image(1)〜Image(n)すべてのデータを格納するのに十分な容量が画像メモリ5に必要である。しかし、図5にしたがって自動計測装置100が動作する場合、画像メモリ5は、2枚の観察画像のデータを格納することができれば十分である。
【0080】
以下では説明の便宜上、画像メモリ5内の2つの領域を第1領域および第2領域と呼び、第1領域および第2領域の容量はそれぞれ、1枚の観察画像のデータを格納するのに十分な容量であるとする。第1領域および第2領域のうち一方が、次に撮像する観察画像のデータを格納する領域として使われ、他方が、今まで撮像した観察画像のうち最もコントラスト値の大きい観察画像のデータを格納する領域として使われる。
【0081】
また、図3の説明と同様に、コントラスト値Contrast(k)の値が大きいほどコントラストが高く、すべてのkにおいてContrast(k)≧0であるとする。
図5のステップS201では、制御部9が、図3のステップS101と同様に撮像時間Tと撮像間隔dtを導出して設定し、撮像枚数nを算出する。
【0082】
続いて、ステップS202で制御部9は、画像番号kを1に初期化し、コントラスト値が最大の画像の画像番号maxを0に初期化し、次に撮像する観察画像、すなわちk(=1)枚目の観察画像のデータを格納すべき領域として第1領域を指定する。さらにステップS202で制御部9は、後のステップS206の処理の便宜上、Contrast(max)=0と定義する。
【0083】
ステップS202に続くステップS203からステップS209の処理は、撮像間隔dtごとに、ステップS201で算出された撮像枚数であるn回繰り返される。
ステップS203では、顕微鏡部2を介して撮像部3がk枚目の観察画像Image(k)を撮像する。図3の処理と同様に撮像タイミングが指示され、それにより、ステップS203のk回目の実行と(k+1)回目の実行との間隔は撮像間隔dtとなる。
【0084】
次にステップS204で、撮像された観察画像のデータを画像入力部4が取り込む。取り込まれたデータは、k枚目の観察画像Image(k)のデータを格納すべき領域として指定された、画像メモリ5内の第1領域または第2領域に格納される。
【0085】
続いてステップS205で、画像メモリ5に格納された観察画像Image(k)のデータに基づき、比較判断部6が、観察画像Image(k)のコントラスト値Contrast(k)を算出する。
【0086】
そして、ステップS206で比較判断部6が、コントラスト値Contrast(k)とContrast(max)を比較する。Contrast(k)の方が大きければ、処理はステップS207に進み、そうでなければ、処理はステップS208に進む。
【0087】
ステップS207は、観察画像Image(1)〜Image(k)のうちで観察画像Image(k)のコントラスト値が最大であるときに実行される。ステップS207では制御部9が、次のように動作することにより、コントラスト値が最大の観察画像Image(max)として観察画像Image(k)を記録する。
【0088】
現在、観察画像Image(k)を格納する領域として第1領域が指定され、観察画像Image(max)を格納する領域として第2領域が指定されている場合、制御部9は、観察画像Image(max)を格納する領域として第1領域を指定し、次の観察画像Image(k+1)を格納する領域として第2領域を指定する。
【0089】
逆に、現在、観察画像Image(max)を格納する領域として第1領域が指定され、観察画像Image(k)を格納する領域として第2領域が指定されている場合、制御部9は、次の観察画像Image(k+1)を格納する領域として第1領域を指定し、観察画像Image(max)を格納する領域として第2領域を指定する。
【0090】
さらに、ステップS207では、コントラスト値が最大の観察画像の番号maxの値を制御部9がkに更新し、最大のコントラスト値Contrast(max)=Contrast(k)を比較判断部6が記憶する。
【0091】
以上により、ステップS207では、コントラスト値が最大の観察画像Image(max)として観察画像Image(k)が記録される。ステップS207の実行後、処理はステップS208に進む。
【0092】
ステップS208では、制御部9がk=nか否かを判断し、すなわち観察画像の撮像、保存、コントラスト値の算出等の一連の処理がn回行われたか否かを判断し、k=nであれば(撮像等がn回行われたら)ステップS210へ、k≠nであればステップS209へ移行する。
【0093】
ステップS209では制御部9がkの値を1つインクリメントする。そして、処理はステップS203に戻る。
ステップS208でk=nであると判断されると、次に、ステップS210で、比較判断部6が画像番号maxを計測部7に通知し、計測部7は、観察画像Image(max)のデータを格納した画像メモリ5内の第1領域または第2領域から、観察画像Image(max)のデータを取り出す。
【0094】
そして、ステップS211で計測部7は、観察画像Image(max)のデータを用いて計測を実行する。最後にステップS212で、計測部7が結果出力部8に指示して、計測結果を出力させる。
【0095】
図5にしたがって自動計測装置100が動作することにより、図3に示した実施形態と同様の効果が得られる。さらに、図5に示した実施形態によれば、画像メモリ5に必要な容量も削減することができる。
【0096】
次に、図6から図9を参照して、撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する導出方法の例を3つ説明する。上記のとおり、撮像時間Tと撮像間隔dtの導出は、図3のステップS101または図5のステップS201において行われる。
【0097】
図6は、撮像時間Tと撮像間隔dtの第1の導出方法を示すフローチャートである。
ステップS301で、振動測定期間T1が制御部9に設定される。
振動測定期間T1は、PC11に接続されたキーボードまたはポインティングデバイス等の入力機器を介して、オペレータが手動で制御部9に設定してもよい。あるいは、予め決められた検査工程のタクトタイムから制御部9が振動測定期間T1を算出してもよい。または、実験的に振動測定期間T1の適切な値を予め決めてPC11の備えるハードディスク装置等に記憶しておき、その記憶された値を制御部9が読み出してもよい。
【0098】
次にステップS302で、設定された振動測定期間T1の間、振動センサ10が、x、y、z各方向の振動を測定し続け、測定結果を制御部9に出力する。振動センサ10が検出する物理量である変量は、変位、速度、加速度のいずれでもよい。これらの変量は時間で微分または積分することにより相互に変換可能である。例えば、振動センサ10として振動計や加速度センサ等を用いることができる。ステップS302での出力は時間領域で表されている。
【0099】
振動測定期間T1の経過後、ステップS303で、振動センサ10が測定したx、y、z各方向の振動をそれぞれ、制御部9が周波数領域に変換し、周波数スペクトルを得る。なお、振動センサ10が直接検出する物理量によっては、周波数領域への変換の前に、測定された物理量を必要に応じて制御部9が変換する。
【0100】
続いてステップS304で、制御部9は、周波数スペクトルに基づいて、撮像時間Tと撮像間隔dtとを導出し、設定する。
具体的には、制御部9は、ステップS303で得られた周波数スペクトルに含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に低い1つまたは複数の周波数成分に基づいて撮像時間Tを導出する。また、制御部9は、ステップS303で得られた周波数スペクトルに含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に高い1つまたは複数の周波数成分に基づいて撮像間隔dtを導出する。
【0101】
例えば、ステップS303で得られた周波数スペクトルに含まれる周波数成分のうち最も低い周波数をfL1、最も高い周波数をfH1とすると、
dt<(1/fH1)<(1/fL1)<T (2)
となるように、制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtを決定する。なお、ここで「最も低い周波数」とは、x方向、y方向、z方向それぞれの振動の周波数スペクトルに含まれる周波数成分のうち最も低い周波数同士を比較して、その3つの周波数の中で最も低い周波数という意味である。「最も高い周波数」についても同様である。
【0102】
あるいは、スペクトルの大きさが閾値a1より大きくなる周波数成分のうちで、最も低い周波数をfL2、最も高い周波数をfH2とすると、
dt<(1/fH2)<(1/fL2)<T (3)
となるように、スペクトルの大きさに対して閾値a1を設定し、制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtを決定してもよい。
【0103】
また、低周波と高周波の振動を比較すると、同じ振幅なら高周波の振動の方がコントラストへの影響が大きい。よって、定数である閾値a1のかわりに、周波数fに応じて変化する関数a2(f)を使って式(3)における周波数fH2とfL2が定義されてもよい。ここで、関数a2(f)は、周波数fが大きくなるほど値が小さくなる単調減少関数である。
【0104】
なお、式(2)あるいは式(3)を満たす撮像時間Tと撮像間隔dtは無数に存在するが、制御部9は撮像時間Tと撮像間隔dtの値を一意に定めねばならない。そこで、例えば、予め決められた係数α(1<α)と係数β(0<β<1)を使って、
T=α・(1/fL1) (4)
dt=β・(1/fH1) (5)
または
T=α・(1/fL2) (6)
dt=β・(1/fH2) (7)
のように制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtを算出してもよい。ここで、経験的に、βは1/2未満であることが好ましく、その理由は次のように説明可能である。
【0105】
例えば、式(5)においてβ=1/2と仮定する。また、考慮すべき周波数成分のうち最も高い周波数成分である周波数fH1の振動の変位が0となるタイミングで、偶然1枚目の観察画像を撮像したと仮定する。
【0106】
この場合、周波数fH1の振動の変位が0となり速度が最大となるタイミングで、2枚目以降の観察画像の撮像も繰り返される。よって、周波数fH1の振動の影響が軽減された観察画像は得られない。
【0107】
逆に、式(5)においてβ=1/2と仮定し、周波数fH1の振動の変位が最大となり速度が0となるタイミングで、偶然1枚目の観察画像を撮像したと仮定する。この場合、2枚目以降の観察画像の撮像も、周波数fH1の振動の速度が0となるタイミングで行われる。よって、周波数fH1の振動の影響をなくすことができる。
【0108】
このように、β=1/2において、観察画像から周波数fH1の振動の影響を除去しようとした場合、1枚目の観察画像の撮像タイミングにおける、周波数fH1の振動の位相に大きく依存してしまう。
【0109】
一方で、βが1/2より小さければ、1枚目の観察画像の撮像タイミングにおける周波数fH1の振動の位相によらず、周波数fH1の振動の速度が最大となるタイミングを外して撮像された観察画像が存在することが保証される。
【0110】
そして、単に速度が最大となるタイミングを外すだけではなく、十分な長さの撮像時間Tがあれば、周波数fH1の振動が比較的小さな速度となるタイミングで観察画像を撮像するチャンスが必ず訪れる。つまり、周波数fH1の振動の影響が比較的抑えられた観察画像が必ず得られる。
【0111】
したがって、βは1/2未満の小さな値であることが好ましい。ただし、撮像部3の仕様により定められた連写可能な最短間隔よりも撮像間隔dtを短くすることはできない。
なお、αの値が大きいほど、撮像枚数であるnの値も大きくなり、より鮮明な画像が得られる見込みも高まる。ただし、検査工程のタクトタイム内に撮像時間Tが納まるようにするには、αの値が大きすぎてはならない。よって、αの値は、タクトタイムなどから実験的に好適な値を予め調べておくことが好ましい。
【0112】
もちろん、制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtの値を一意に定める方法は、式(4)と(5)、あるいは式(6)と(7)による計算だけではない。例えば、係数αやβは定数でなくてもよく、周波数fL1またはfL2の値に応じてαの値が段階的に変化して定義されていてもよい。係数βについても同様である。
【0113】
他にも、例えば、周波数の下限fdと上限fuの組に時間を対応づけて登録したデータベースを予め作成しておいてもよい。この場合、制御部9が、
fd≦fL1<fu (8)
なる検索条件でデータベースを検索し、検索された下限fdと上限fuの組に対応づけられた時間を、撮像時間Tとして設定することができる。撮像間隔dtについても類似のデータベースの検索による方法で定めることが可能である。なお、撮像時間Tと撮像間隔dtに関するこれらのデータベースに記憶する数値は、実験的に適切な値を選ぶことが好ましい。
【0114】
また、上記の例では、式(4)において1つの周波数fL1に基づいて撮像時間Tが算出されている。しかし、複数の周波数に基づいて撮像時間Tを算出してもよい。例えば、制御部9は、ステップS303で得られた周波数スペクトルから、相対的に低い周波数成分を複数個取り出し、複数の周波数それぞれの逆数の重み付け和を撮像時間Tとして算出してもよい。その算出に使われる重みは、例えば、式(2)を満たすように予め決められている。同様に、複数の周波数成分を用いて撮像間隔dtを算出することも可能である。
【0115】
このように、ステップS304における具体的な撮像時間Tと撮像間隔dtの導出方法は実施形態に応じて様々である。しかし、周波数スペクトルに含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に低い周波数成分である周波数fL1またはfL2に基づいて撮像時間Tが導出され、相対的に高い周波数成分である周波数fH1またはfH2に基づいて撮像間隔dtが導出される点は共通である。
【0116】
なお、図1には1つの振動センサ10のみを図示したが、基板1と撮像部3の双方に振動センサを取り付けてもよい。その場合、ステップS302では、2つの振動センサの出力の差分を制御部9が算出し、その差分をステップS303以降の処理に用いてもよい。
【0117】
また、複数の振動センサを基板1に取り付けてもよい。その場合、ステップS302では、それら複数の振動センサの出力の算術平均値あるいは加重平均値を制御部9が算出し、その算出した値をステップS303以降の処理に用いてもよい。加重平均のための重みは、例えば、複数の振動センサの取り付け位置に基づいて決められる。
【0118】
あるいは、複数の振動センサを利用する場合に、制御部9がステップS302で平均値を算出しなくてもよい。つまり、制御部9は、ステップS303で複数の振動センサからの出力をそれぞれ周波数領域へ変換し、ステップS304で複数の周波数スペクトルを使って撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してもよい。
【0119】
次に、撮像時間Tと撮像間隔dtを決定する第2の導出方法を、図7のフローチャートを参照して説明する。第2の導出方法は、予備的な撮像を含む。その予備的な撮像で得られる画像を以下では「準備画像」と呼ぶ。
【0120】
ステップS401で、予備的撮像の撮像時間T1と撮像間隔dt1が制御部9に設定される。撮像時間T1と撮像間隔dt1は、オペレータが手動で制御部9に設定してもよい。あるいは、予め決められた検査工程のタクトタイムから制御部9が撮像時間T1を算出してもよい。
【0121】
また、撮像部3が連写可能な最短の間隔を、制御部9が撮像間隔dt1として設定してもよい。ステップS401で設定するために、実験的に撮像間隔dt1を予め定めておく場合は、撮像部3が連写可能な最短の間隔から始めて徐々に間隔を長くしていき、適切な撮像間隔dt1を探してもよい。
【0122】
なお、図6の振動測定期間T1と図7の撮像時間T1とを同じ符号で表したのは、撮像時間Tと撮像間隔dtの導出に必要な時間という意味で図6の振動測定期間T1と図7の撮像時間T1は同じだからである。
【0123】
また、ステップS401では、制御部9が、下記式(9)により、設定された撮像時間T1と撮像間隔dt1から撮像枚数mを算出する。
m=T1/dt1 (9)
なお、撮像時間T1が撮像間隔dt1で割り切れない場合、制御部9は、T1/dt1を切り上げた整数または切り捨てた整数を撮像枚数mとして算出する。
【0124】
続いて、ステップS402で、制御部9は画像番号を表す変数kを1に初期化する。
その後のステップS403からステップS407の処理は、撮像間隔dt1ごとに、ステップS401で算出された撮像枚数であるm回繰り返される。
【0125】
ステップS403では、顕微鏡部2を介して基板1を観察したk枚目の準備画像を撮像部3が撮像し、ステップS404で、撮像された準備画像のデータを画像入力部4が取り込み、画像メモリ5がその準備画像のデータを格納する。なお、図3や図5の処理と同様に撮像のタイミングが指示され、それにより、ステップS403のk回目の実行と(k+1)回目の実行との間隔は撮像間隔dt1となる。
【0126】
ステップS405では、比較判断部6がk枚目の準備画像のコントラスト値Contrast(k)を算出し、記憶する。ステップS405は、図3のステップS107や図5のステップS205と同様である。
【0127】
続いてステップS406では、制御部9がk=mか否かを判断し、すなわち準備画像の撮像、保存、コントラスト値の算出がm回行われたか否かを判断し、k=mであれば(撮像等がm回行われたら)ステップS408へ、k≠mであればステップS407へ移行する。
【0128】
ステップS407では制御部9がkの値を1つインクリメントする。そして、処理はステップS403に戻る。
ステップS406でk=mであると判断されると、次に、ステップS408で、制御部9が、記憶されたコントラスト値Contrast(1)〜Contrast(m)を、撮像間隔dt1でサンプリングされたm個の信号とみなし、時系列のm個の値を周波数領域に変換する。
【0129】
続いてステップS409で、制御部9は、ステップS408で得られた周波数スペクトルに基づいて撮像時間Tと撮像間隔dtとを導出し、設定する。ステップS409の具体的な動作は実施形態に応じて様々だが、ステップS409は図6のステップS304と同様なので説明を省略する。
【0130】
次に、図8と図9を参照して、撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する第3の導出方法を説明する。図8は第3の導出方法のフローチャートであり、図9は第3の導出方法で行われるパターンマッチングについて説明する模式図である。
【0131】
第3の導出方法も、第2の導出方法と同様に予備的な撮像を含む。第3の導出方法において予備的な撮像で得られる画像は、上記と同様に「準備画像」と呼ぶ。
また、第3の導出方法では、顕微鏡部2の自動合焦機能が常にオンになっており、基板1の振動に追従して常に自動合焦が行われる。なお、第3の導出方法では次のことを仮定している。
【0132】
・自動合焦は、顕微鏡部2が対物レンズをz方向に移動させることによって行われる。
・顕微鏡部2は、自動合焦のための対物レンズの移動量を制御部9に出力することができる。
【0133】
・自動合焦は、基板1の振動に十分に追従することができる速度で行われる。
図8の処理は次のように行われる。まず、ステップS501で、予備的撮像の撮像時間T1と撮像間隔dt1が制御部9に設定される。また、制御部9が撮像枚数mを式(9)にしたがって算出する。ステップS501は図7のステップS401と同様なので詳しい説明は省略する。
【0134】
続いてステップS502で、制御部9が撮像のタイミングを指示し、その指示にしたがって顕微鏡部2を介して撮像部3が基板1を撮像する。ステップS502の撮像で得られる1枚目の準備画像を以下では特に「基準画像」と呼ぶ。
【0135】
基準画像の撮像時にも顕微鏡部2による自動合焦が行われており、自動合焦時の対物レンズのz方向の移動量dz(1)が顕微鏡部2から制御部9へ出力される。ここで括弧内の「1」は、基準画像が1枚目の準備画像であることに対応する。制御部9は、移動量dz(1)をPC11のRAMに記憶する。
【0136】
ステップS503では、撮像された基準画像のデータを画像入力部4が取り込み、画像メモリ5が基準画像のデータを格納する。
ここで、k枚目の準備画像と基準画像とのx方向のずれをdx(k)と表し、k枚目の準備画像と基準画像とのy方向のずれをdy(k)と表すことにする。k=1のとき、1枚目の準備画像は基準画像であるから、
dx(1)=dy(1)=0 (10)
である。
【0137】
そこで、ステップS503の次のステップS504では、制御部9がずれdx(1)とdy(1)をともに0に設定する。
次のステップS505では、制御部9が画像番号を表す変数kを2に初期化する。
【0138】
その後のステップS506からステップS510の処理は、撮像間隔dt1ごとに、ステップS501で算出された撮像枚数であるmから1を減じた(m−1)回繰り返される。
【0139】
ステップS506では、ステップS502と同様にして、自動合焦時の移動量dz(k)を記録しつつ、顕微鏡部2を介して撮像部3が準備画像を撮像する。
次のステップS507では、k枚目の準備画像のデータを画像入力部4が取り込み、画像メモリ5がk枚目の準備画像のデータを格納する。
【0140】
そして、ステップS508で、k枚目の準備画像と基準画像とのずれdx(k)とdy(k)を制御部9が算出し、PC11のRAMに記憶する。ここで、図9を参照してステップS508の動作について説明する。
【0141】
図9には、1枚目の準備画像である基準画像20aと、2枚目の準備画像20bと、3枚目の準備画像20cが示してある。基準画像20a、準備画像20b、準備画像20cには、それぞれ基板1上の回路パターンが写っている。これらの画像上に写った回路パターンを以下では「21a、21b、21c」なる符号により参照する。
【0142】
k=2のとき、制御部9は、基準画像20aと準備画像20bのデータを使ってパターンマッチング処理を行う。それにより、制御部9は、基準画像20aにおける回路パターン21aと、準備画像20bにおける回路パターン21bとが対応することを認識する。
【0143】
換言すれば、制御部9は、基準画像20aにおける回路パターン21aが、準備画像20bにおいてどの位置に存在するのかを、パターンマッチング処理により認識する。したがって、制御部9は、その認識に基づいて回路パターン21aと21bの位置のずれ、すなわちdx(2)とdy(2)を算出することができる。
【0144】
図9では、ずれを分かりやすく示すために、準備画像20bと20cに、基準画像20aにおける回路パターン21aの位置が点線で示してある。以下ではこの点線で示された回路パターン21aを、基準パターン22と呼ぶ。
【0145】
ずれdx(2)は、回路パターン21bと基準パターン22のx方向のずれであり、ずれdy(2)は、回路パターン21bと基準パターン22のy方向のずれである。
なお、図4を参照して説明したのと同様に、本実施形態においても、図2に示した3次元座標のx軸と、撮像部3が撮像した画像のX軸(図4のX軸でもあり、図9のX軸でもある)が平行であると仮定している。また、図2のy軸と、撮像部3が撮像した画像のY軸(図4のY軸でもあり、図9のY軸でもある)が平行であると仮定している。
【0146】
この仮定のもとでは、図2のx座標とy座標の組で表された基板1上の位置と、図9のX座標とY座標の組で表された画像上の画素の位置とを相互に変換することが可能である。その変換のパラメータは、撮像時の基板1のx座標と、撮像時の撮像部3のy座標と、レンズの倍率や焦点距離などの顕微鏡部2の仕様と、画素数などの撮像部3の仕様とに基づいて決定される。
【0147】
パターンマッチング処理により直接得られるのは、XY座標系を使って表された回路パターン21bと基準パターン22とのずれである。よって、制御部9は、上記のパラメータにしたがってX方向のずれをx方向のずれに変換し、Y方向のずれをy方向のずれに変換することにより、dx(2)とdy(2)を算出する。
【0148】
k=3の場合も同様である。つまり、制御部9は、基準画像20aと準備画像20cを使ってパターンマッチング処理を行い、準備画像20cにおける回路パターン21cと基準パターン22とのずれであるdx(3)とdy(3)を算出する。
【0149】
図9には示していないが、k≧4の場合も同様にして、k枚目の準備画像と基準画像20aとのずれdx(k)とdy(k)を、制御部9が図8のステップS508で算出する。
【0150】
ここで図8の説明に戻ると、ステップS509では、制御部9がk=mか否かを判断し、すなわち基準画像も含めて準備画像の撮像と保存がm回行われ、2〜m枚目の準備画像に対してそれぞれ基準画像とのずれが算出されたか否かを判断し、k=mであれば(撮像等がm回行われたら)ステップS511へ、k≠mであればステップS510へ移行する。
【0151】
ステップS510では、制御部9がkの値を1つインクリメントする。そして、処理はステップS506に戻る。
ステップS509でk=mであると判断されると、次に、ステップS511で、制御部9が、記憶されたx方向のずれdx(1)〜dx(m)と、y方向のずれdy(1)〜dy(m)と、自動合焦時の対物レンズのz方向の移動量dz(1)〜dz(m)をそれぞれ、サンプリングされたm個の信号とみなして、周波数領域に変換する。
【0152】
ここで、上記の仮定より、自動合焦は基板1の振動に十分追従可能な速度で行われるため、記憶されている移動量dz(k)は、k枚目の準備画像の撮像時における、基板1のz方向の変位を表す量であるとみなせる。したがって、ステップS511の変換の結果、基板1にx方向、y方向、z方向にそれぞれ生じた振動の周波数スペクトルがそれぞれ得られる。
【0153】
続いてステップS512で、制御部9は、周波数スペクトルに基づいて撮像時間Tと撮像間隔dtとを導出し、設定する。ステップS512の具体的な動作は実施形態に応じて様々だが、ステップS512は図6のステップS304や図7のステップ409と同様なので説明を省略する。
【0154】
なお、第3の導出方法では、画像に要求されるコントラストの高さはパターンマッチング処理よりも計測処理の方が高いということを利用している。すなわち、多少不鮮明な画像を使っても、ある程度の精度でパターンマッチングを行うことができるのに対し、より鮮明でコントラストの高い画像を使わないと、必要な精度での計測処理はできない。このことから、制御部9がまず第3の導出方法によって、振動の影響によるぶれを含む可能性のあるm枚の準備画像を利用して撮像時間Tと撮像間隔dtを導出し、その後、n枚の観察画像を撮像部3が撮像し、n枚の観察画像の中からコントラストの高い鮮明な観察画像を比較判断部6が選択し、選択された観察画像を用いて計測部7が計測を行う。
【0155】
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、様々に変形可能である。以下にその例をいくつか述べる。
上記では、複数の観察画像の中から1枚の観察画像を選択する2通りの選択方法と、撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する3通りの導出方法を例示した。しかし、選択方法や導出方法は、例示したこれらの方法に限られない。また、選択方法と導出方法の組み合わせ方は任意である。
【0156】
そして、上記の説明から分かるように、第2と第3の導出方法を採用する場合は、図1の振動センサ10は使われないので、省略可能である。すなわち、第2と第3の導出方法には、必要なハードウェアが少ないという利点がある。
【0157】
また、図3と図5には、撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してから観察画像を選択することが表現されているが、導出と選択のタイミングは、実施形態に応じて様々である。
例えば、工場において複数枚のFPD基板が1つのロットとして管理されている場合がある。この場合、自動計測装置100は、ロットのはじめに1回だけ撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してもよい。そして、1つのロットに対しては同じ撮像時間Tと撮像間隔dtの値を使って、観察画像の選択と計測を繰り返してもよい。
【0158】
例えば、基板1がガラス基板上に回路パターンを形成してなるFPD基板であり、第1の導出方法を採用する場合、回路パターンが形成される前の素ガラスに1つまたは複数の振動センサ10を取り付け、ロットのはじめに1回だけ撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してもよい。
【0159】
素ガラスと回路パターンが既に形成されたガラス基板とでは、厚みや質量が異なるが、その差はわずかなので、振動の影響の受け方に大きな差はない。また、素ガラスには、「回路パターンを避けて振動センサ10を設置しなくてはならない」といった制約がないので、任意の位置に振動センサ10を設置することができる。
【0160】
もちろん、1枚の基板ごとに制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してもよいし、1枚の基板の1箇所を計測するたびに制御部9が撮像時間Tと撮像間隔dtを導出してもよい。
【0161】
あるいは、基板の厚みや大きさ、ステージ12の構造などによっては、基板の中央部がたわんだり、基板の中央部と端部で振幅が異なったりすることがある。この場合、基板のx座標と撮像部3のy座標に応じて、複数組の撮像時間Tと撮像間隔dtを予め導出しておいてもよい。そして、基板1のある位置を撮像する場合には、撮像時の基板1のx座標と撮像部3のy座標に応じた撮像時間Tと撮像間隔dtにしたがって、自動計測装置100が撮像を行ってもよい。
【0162】
上記のように素ガラスに複数の振動センサ10を取り付ける方法によれば、振動測定期間T1の1回の測定に基づいて、x座標とy座標に応じた複数組の撮像時間Tと撮像間隔dtを制御部9が予め導出することも可能である。
【0163】
また、回路パターンが積層されていく基板の製造工程において、1層積層されて1つ工程が進むたびに計測または検査を行う場合がある。その場合、工程ごとに1回ずつ、工程に固有の撮像時間Tと撮像間隔dtを制御部9が導出してもよい。この場合も、複数の基板に対して同じ撮像時間Tと撮像間隔dtが使われる。
【0164】
以上のように、撮像時間Tと撮像間隔dtの導出を行う頻度は任意であり、「1日に1回」などの頻度を予め定めておいてもよい。
ただし、撮像時間Tと撮像間隔dtの導出において予備的撮像を行う場合は、計測や検査等のために使う観察画像を撮像するときと同じ条件で、顕微鏡部2の光学系を設定しておく必要がある。なぜなら、振動の影響は、例えば顕微鏡部2の対物レンズの倍率や被写界深度に応じて異なるためである。
【0165】
また、上記の3つの導出方法は、被写体に生じる振動のパターンを予め調べて、そのパターンに基づいて撮像時間Tと撮像間隔dtを導出するという点で共通しており、周波数スペクトルによって振動のパターンを示すという点でも共通している。しかし、実施形態によっては、周波数スペクトル以外の方法で振動のパターンを表してもよい。
【0166】
なお、2つ以上の導出方法を組み合わせてもよい。例えば、予め素ガラスに振動センサ10を取り付けて振動を測定し、周波数スペクトルを求めておく。そして、計測対象の回路パターンが基板1上に形成されてから、予備的撮像を行い、コントラスト値また基準画像とのずれから周波数スペクトルを求める。その後、制御部9は、求めた2種類の周波数スペクトルの双方を考慮して、撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する。
【0167】
本発明の適用対象も、実施形態によって様々である。図1には、基板1上の線幅を計測する自動計測装置100に本発明を適用する実施形態を例示したが、本発明は、被写体を撮像した画像を使う処理一般に適用可能である。
【0168】
例えば、線幅を計測する処理に限らず、被写体の特定の部分の長さ、寸法、または面積などを計測する処理一般に、本発明を適用することができる。例えば、被写体がFPD基板や半導体ウエハである場合、回路パターンを構成する線の幅や線同士の間隔、回路パターンが形成された領域の面積やx方向・y方向の長さなどが計測の対象である。本発明によれば、振動環境下においても、鮮明な画像が得られるので計測の精度が悪化しない。
【0169】
また、画像に写った特定の部分の長さ、面積、色などの外観に基づいて、被写体を検査する処理にも、本発明を適用することができる。本発明によれば、振動環境下においても、鮮明な画像が得られるので検査の精度が悪化しない。
【0170】
あるいは、被写体に対して加工または修理等の処理を行う前に、加工または修理の対象箇所を、被写体を撮像した画像に基づいて特定することがある。本発明によれば、振動環境下においても、鮮明な画像が得られるので、加工または修理の必要な箇所の位置を高い精度で特定することが可能である。
【0171】
このように、本発明は、被写体を撮像した画像に基づいて何らかの処理を行う場合一般に適用可能である。そして、本発明によれば、振動源・振動方向・振動周期などが異なる様々な振動の影響が避けられない振動環境下においても、画像に基づく処理に適した鮮明な画像を選択することができ、振動の影響で処理の精度が悪化するのを防ぐことができる。
【0172】
また、図1の例における基板1はFPDの大型ガラス基板だが、計測・検査・加工・修理等の処理の対象、すなわち被写体は任意である。また、被写体の大きさや形状も任意である。例えば、半導体ウエハの検査装置に本発明を適用してもよい。
【0173】
なお、図2のステージ12やガントリー13は、FPDの大型ガラス基板である被写体の大きさおよび形状に適した構造体の例である。被写体の大きさまたは形状によっては、図2とは異なる方法で、被写体を載置するステージ12に対する顕微鏡部2の相対位置を固定してもよい。
【0174】
さらに、コントラスト値の算出方法も、実施形態に応じて様々である。例えば、ライン状のプロファイルの幅は、図4の例のように1画素ではなく、複数画素でもよい。
また、プロファイルはX軸とY軸に平行でなくてもよい。プロファイルの形状と位置は実施形態によって様々でよい。例えば、画像Image(k)の対角線をプロファイルとして利用してもよく、曲線状、矩形状、あるいは円形状など、様々な形状のプロファイルを利用することができる。
【0175】
あるいは、計測や検査の対象が画像Image(k)中の特定の領域に限定されることが基板1の設計データから判明している場合は、その特定の領域をプロファイルとして利用してもよい。また、例えば、計測の対象が回路パターンの線幅であり、その回路パターンの線はX軸に平行に形成されているはずであると基板1の設計データから明らかな場合、比較判断部6は、設計データに基づいて、Y軸に平行なライン状の1つのプロファイルのみを使ってコントラスト値を算出してもよい。
【0176】
例えば、線幅を計測すべき回路パターンの線の両端点の、図2に示した3次元座標系におけるx座標は、設計データと、撮像時の基板1の位置から比較判断部6が算出することができる。この両端点のx座標をそれぞれx0とx1とする。また、図9に関して、XY座標系による座標をxy座標系による座標に変換することが可能であると説明したが、当然、逆変換も可能である。
【0177】
したがって、比較判断部6は、x座標x0とx1をX座標に変換することにより、回路パターンの線の両端点の、画像上のX座標であるX0とX1を算出することができる。そこで、比較判断部6は、X0≦P≦X1なる適当な値Pを選んで、X=Pなる位置にある、Y軸に平行なライン状の1つのプロファイルのみを使ってコントラスト値を算出してもよい。
【0178】
また、プロファイル同士の間隔は等しくてもよいが、場合によっては複数のプロファイルを不規則な間隔で配置することが好ましい。
例えば、基板1上に規則的にパターンが形成されている場合、複数のプロファイルが等間隔に配置されていると、偶然、すべてのプロファイルが、パターンの形成されていない背景部分に位置してしまうことがある。その結果、算出されたコントラスト値が意味を持たないことがある。そのため、複数のプロファイルを不規則な間隔で配置することが好ましい場合がある。
【0179】
また、プロファイルの個数は任意である。経験的には、図4のようにライン状のプロファイルを利用する場合、図4で説明したiとjを3以上とすることが好ましい。なぜなら、経験的には、iとjが3以上のとき、少なくとも1つのプロファイルが基板1上のパターンが存在する位置と重なることが多いからである。すなわち、設計データと関係なくプロファイルが配置される場合であっても、iとjが3以上のときには、経験的に、プロファイルから算出されるコントラスト値が画像Image(k)全体のコントラストを反映している場合が多い。
【0180】
あるいは、コントラスト値Contrast(k)を算出するのに、画像Image(k)全体のデータを使ってもよい。例えば、画像Image(k)全体における輝度の分散値に基づいてコントラスト値Contrast(k)を算出してもよい。比較判断部6が、画像Image(k)内において隣接する2画素のすべての組について、2画素の輝度の差分の絶対値の総和を算出して、コントラスト値Contrast(k)として用いることも可能である。
【0181】
上記に例示した以外にも、画像のコントラスト値を算出する任意の方法を利用可能である。また、画像はグレースケールの輝度画像でもよく、カラー画像でもよい。
なお、図7の方法で撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する場合、図7のステップS405におけるコントラスト値の算出方法は、図3のステップS107または図5のステップS205におけるコントラスト値の算出方法と同じ方法でもよく、異なる方法でもよい。
【0182】
また、上記の実施形態では、x方向、y方向、z方向の振動をすべて考慮して撮像時間Tと撮像間隔dtを導出している。しかし、画像を使った処理の目的や、処理に必要とされる精度や、実際に発生する振動の傾向によっては、特定の方向の振動を考慮しなくてもよい場合がある。例えば、ある特定の方向の振動が画像のクオリティにそれほど大きく影響しないのならば、その特定の方向の振動を必ずしも考慮する必要はない。
【0183】
そのような場合には、撮像時間Tと撮像間隔dtの導出に際して、x方向、y方向、z方向のすべての振動を考慮しなくてもよい。例えば、z方向の振動は顕微鏡部2の対物レンズの被写界深度の範囲に収まる程度に過ぎず、一方でx方向とy方向の振動の影響は大きい、という場合があるかもしれない。その場合に、x方向とy方向の振動のみを考慮して撮像時間Tと撮像間隔dtを導出するように、上記実施形態を変形してもよい。
【0184】
なお、図3と図5の処理では、撮像時間Tと撮像間隔dtから撮像枚数nを算出し、画像番号kと撮像枚数nを比較することにより、n枚の観察画像を撮像している。しかし、他の実施形態では、必ずしも撮像枚数nを先に算出しなくてもよい。
【0185】
例えば、撮像間隔dtで撮像を繰り返し、撮像開始時点からの経過時間と撮像時間Tとを比較することによって、n枚の観察画像が得られたか否かを制御部9が判断することもできる。図7と図8における撮像枚数mについても同様である。
【0186】
また、図3と図5の処理では、n枚の観察画像のうちでコントラスト値が最大の観察画像Image(max)が選択され、観察画像Image(max)を用いた計測が実行される。しかし、実施形態によっては、計測や検査等の処理に用いる画像として、必ずしもコントラスト値が最大の観察画像を選択する必要はない。
【0187】
例えば、観察画像を用いて被写体の計測を行う場合に、「コントラスト値が閾値Cより大きければ十分な精度で計測が可能である」と実験等によって予め判明していると仮定する。この場合、例えば、コントラスト値が閾値C以上であるような最初の観察画像Image(k1)が撮像された時点で撮像を終了し、観察画像Image(k1)を用いて計測を行ってもよい。
【0188】
つまり、図5の処理を次のように変形してもよい。
・ステップS205とステップS206の間に新たなステップS213とステップS214を追加する。
【0189】
・ステップS205に続くステップS213では、コントラスト値Contrast(k)と閾値Cを制御部9が比較する。比較した結果、Contrast(k)>CのときステップS214に進み、それ以外のときステップS206に進む。
【0190】
・ステップS214では、ステップS207と同様に、制御部9が、コントラスト値が最大の観察画像Image(max)として観察画像Image(k)を記録する。ステップS214の後、処理はステップS210に進む。
【0191】
以上のように図5の処理を変形することによって、閾値Cよりコントラスト値が大きい観察画像が得られた時点で、その観察画像を使った計測が行われる。よって、撮像時間Tよりも短い時間で撮像が終了することもある。つまり、時間短縮の効果と、不要な計算を避ける効果がある。
【0192】
一方で、n枚の観察画像を撮像しても、閾値Cよりコントラスト値が大きい観察画像が得られない場合もあるが、その場合には、n枚の中でコントラスト値が最大の観察画像Image(max)が計測に使われる。
【0193】
以上のとおり、必ずしもコントラスト値が最大の観察画像を選択されなくともよい。また、選択される観察画像は、1枚でなくてもよい。
例えば、Uが2以上の整数であるとして、コントラスト値が上位U位までの観察画像を比較判断部6が選択し、計測部7がそれらU枚の観察画像に基づいて基板1を計測してもよい。あるいは、コントラスト値が閾値C以上である観察画像がU枚撮像されるか、撮像枚数がn枚に達するまで撮像を繰り返すよう制御部9が撮像部3や画像入力部4を制御してもよい。その結果得られたコントラスト値が閾値C以上である1枚または複数枚の観察画像を使って、計測部7が基板1を計測してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】一実施形態における自動計測装置の機能ブロック図である。
【図2】一実施形態において、大型基板を載置するステージと、大型基板を撮像するのに使われる顕微鏡部および撮像部との位置関係を示す斜視図である。
【図3】自動計測装置が第1の選択方法により観察画像を選択し、計測を行う動作を示すフローチャートである。
【図4】一実施形態におけるコントラスト値の算出方法を説明する図である。
【図5】自動計測装置が第2の選択方法により観察画像を選択し、計測を行う動作を示すフローチャートである。
【図6】自動計測装置が撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する第1の導出方法を示すフローチャートである。
【図7】自動計測装置が撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する第2の導出方法を示すフローチャートである。
【図8】自動計測装置が撮像時間Tと撮像間隔dtを導出する第3の導出方法を示すフローチャートである。
【図9】第3の導出方法で行われるパターンマッチングについて説明する模式図である。
【符号の説明】
【0195】
1 基板
2 顕微鏡部
3 撮像部
4 画像入力部
5 画像格納部
6 比較判断部
7 計測部
8 結果出力部
9 制御部
10 振動センサ
11 PC
12 ステージ
13 ガントリー
13a、13b 支柱
13c 梁
20a 基準画像
20b、20c 準備画像
21a、21b、21c 回路パターン
22 基準パターン
100 自動計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に生じる振動に基づいて第1の撮像時間と第1の撮像間隔を導出する導出手段と、
前記被写体を載置するステージに対向して配置された顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した観察画像のデータを取り込む取込手段と、
前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔から決まる第1の撮像枚数分の前記観察画像のデータを、前記第1の撮像間隔で取り込むように前記取込手段を制御する制御手段と、
取り込まれた前記観察画像のデータを格納する格納手段と、
前記格納手段に格納された前記観察画像のコントラスト値を算出する算出手段と、
前記コントラスト値に基づいて、撮像された前記第1の撮像枚数の前記観察画像の中から1枚以上の観察画像を選択する選択手段と、
を備える画像選択装置。
【請求項2】
前記振動に含まれる複数の周波数成分を検出する検出手段をさらに備え、
前記導出手段は、前記複数の周波数成分のうち相対的に低い第1の周波数成分に基づいて前記第1の撮像時間を導出し、前記複数の周波数成分のうち相対的に高い第2の周波数成分に基づいて前記第1の撮像間隔を導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像選択装置。
【請求項3】
指定された第2の撮像時間と第2の撮像間隔から決まる第2の撮像枚数分の、前記顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した準備画像のデータを、前記第2の撮像間隔で取り込むように、前記制御手段が前記取込手段を制御し、
前記格納手段が、取り込まれた前記準備画像のデータを格納し、
前記算出手段が、前記格納手段にデータが格納された前記準備画像のコントラスト値を算出し、
撮像された前記第2の撮像枚数の前記準備画像の前記コントラスト値の変化のパターンに基づいて、前記導出手段が前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔とを導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像選択装置。
【請求項4】
指定された第2の撮像時間と第2の撮像間隔から決まる第2の撮像枚数分の、前記顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した準備画像のデータを、前記第2の撮像間隔で取り込むように、前記制御手段が前記取込手段を制御し、
前記格納手段が、取り込まれた前記準備画像のデータを格納し、
前記導出手段が、撮像された前記第2の撮像枚数の前記準備画像間の相対的なずれを算出し、前記ずれの変化のパターンに基づいて、前記第1の撮像時間と前記第1の撮像間隔とを導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像選択装置。
【請求項5】
前記選択手段は、複数の前記観察画像のうちで最もコントラストが高い観察画像を選択することを特徴とする請求項1に記載の画像選択装置。
【請求項6】
前記選択手段が選択した前記観察画像を用いて計測または検査を行う計測手段または検査手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または5に記載の画像選択装置。
【請求項7】
被写体に生じる振動に基づいて撮像時間と撮像間隔を導出するステップと、
前記被写体を載置するステージに対向して配置された顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した観察画像のデータを、前記撮像時間と前記撮像間隔から決まる撮像枚数分、前記撮像間隔で取り込むステップと、
前記観察画像のコントラスト値を算出するステップと、
前記コントラスト値に基づいて、撮像された前記撮像枚数の前記観察画像の中から1枚以上の観察画像を選択するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項8】
コンピュータが、
被写体に生じる振動に基づいて撮像時間と撮像間隔を導出し、
前記被写体を載置するステージに対向して配置された顕微鏡手段を介して前記被写体を撮像した観察画像のデータを、前記撮像時間と前記撮像間隔から決まる撮像枚数分、前記撮像間隔で取り込み、
前記観察画像のコントラスト値を算出し、
前記コントラスト値に基づいて、撮像された前記撮像枚数の前記観察画像の中から1枚以上の観察画像を選択する、
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−194584(P2009−194584A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32629(P2008−32629)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】