説明

異常検知方法、異常検知システム、及び異常検知プログラム

【課題】プラント等の設備において、異常を高感度、早期に検知することが可能な異常検知方法およびシステムを提供する。
【解決手段】設備の状態を表現する方法の提供において、多次元センサの出力信号を対象とし、(1)正常な学習データ生成、(2)部分空間法などによる異常測度の算出、(3)線形予測法などによる、観測データと学習データの移動軌跡の評価と誤差の算出、(4)異常測度と移動軌跡による、設備の状態表現、(5)異常判定を行う。なお、事例ベースの異常検知は、学習データを部分空間法でモデル化し、観測データと部分空間の距離関係に基づき、異常候補を検知するものとし、移動軌跡は、線形予測法によるモデリングに基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントや設備などの異常を早期に検知する異常検知方法、異常検知システム及び異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社では、ガスタービンの廃熱などを利用して地域暖房用温水を供給したり、工場向けに高圧蒸気や低圧蒸気を供給したりしている。石油化学会社では、ガスタービンなどを電源設備として運転している。このようにガスタービンなどを用いた各種プラントや設備において、その異常を早期に発見することは、社会へのダメージを最小限に抑えることができ、極めて重用である。
【0003】
ガスタービンや蒸気タービンのみならず、水力発電所での水車、原子力発電所の原子炉、風力発電所の風車、航空機や重機のエンジン、鉄道車両や軌道、エスカレータ、エレベータ、MRIなどの医療機器、半導体やフラットパネルディスプレイ向けの製造・検査装置、機器・部品レベルでも、搭載電池の劣化・寿命など、早期に異常を発見しなければならない設備は枚挙に暇がない。最近では、健康管理のため、脳波測定・診断に見られるように、人体に対する異常(各種症状)検知も重要になりつつある。
【0004】
このため、例えば米国のSmart Signal社では、特許文献1や特許文献2に記載のように、おもにエンジンを対象に、異常検知の業務をサービスしている。そこでは、過去のデータをデータベース(DB)としてもっておき、観測データと過去の学習データとの類似度を独自の方法で計算し、類似度の高いデータの線形結合により推定値を算出して、推定値と観測データのはずれ度合いを出力する。General Electric社のように、特許文献3の内容を見ると、異常検知をk−meansクラスタリングにより検出している例もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,952,662号明細書
【特許文献2】米国特許第6,975,962号明細書
【特許文献3】米国特許第6,216,066号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stephan W. Wegerich; Nonparametric modeling of vibration signalfeatures for equipment health monitoring、AerospaceConference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE, Volume 7, Issue, 2003Page(s):3113-3121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般には、観測データをモニタし、設定したしきい値と比較して、異常を検知するシステムがよく用いられている。この場合は、各観測データであるところの測定対象の物理量などに着目してしきい値を設定するため、設計ベースの異常検知であると言える。
【0008】
この方法は、設計が意図しない異常は検知が困難であり、見逃しが発生し得る。例えば、設備の稼動環境や、稼動年数による状態変化、運転条件、部品交換の影響などにより、設定したしきい値が妥当とは言えなくなる。
【0009】
一方、Smart Signal社が用いている、事例ベースの異常検知に基づく手法では、学習データを対象に、観測データと類似度の高いデータの線形結合により推定値を算出し、推定値と観測データのはずれ度合いを出力するため、学習データの準備次第で、設備の稼動環境や、稼動年数による状態変化、運転条件、部品交換の影響などを考慮できる。
【0010】
しかし、Smart Signal社の手法は、データをスナップショットとして扱っており、時間的な振舞いを考慮していない。さらに、観測データになぜ異常が含まれるのかは、別途説明が必要である。General Electric社のk−meansクラスタリングのような、物理的意味が希薄な特徴空間内での異常検知では、さらに異常の説明は困難である。説明が困難な場合は、誤検出として扱われることになる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、事例ベースの異常検知手法が、学習データの準備次第で、設備の稼動環境や、稼動年数による状態変化、運転条件、部品交換の影響などを考慮できるという点を保ったまま、観測データや学習データの時間的変動も含めた質も評価可能とする。これらにより、異常を高感度、早期に検知することが可能な異常検知方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、設備の状態を表現する方法の提供において、設備に付加した多次元センサの出力信号を対象とし、多変量解析による事例ベースの異常検知に基づき、ほぼ正常な学習データを準備し、これからの逸脱の度合いを、観測データから学習データまでの距離と、観測データや学習データの時間的な移動軌跡などによって表現する。
【0013】
具体的には、(1)(ほぼ)正常な学習データ生成、(2)部分空間法などによる観測データの異常測度の算出、(3)線形予測法などによる、観測データと学習データ(学習データは観測ごと、或いは一定のかたまりの単位で選ばれたデータ)の移動軌跡の評価と誤差の算出、(4)異常測度或いは/及び移動軌跡による、設備の状態表現、(5)異常判定、(6)異常の種類の特定、(7)異常の発生時期の推定を行う。
【0014】
なお、事例ベースの異常検知は、学習データを部分空間法などでモデル化し、観測データと部分空間の距離関係に基づき、異常候補を検知するものとし、移動軌跡は、線形予測法によるモデリングに基づく。
【0015】
また、観測データごとに、学習データに含まれる個々のデータに対し、類似度の高い上位k個のデータを求め、これにより部分空間を生成する。上記kは固定値でなく、観測データごとに適切な値とすべく、観測データからの距離が所定範囲内にある学習データを選択する。学習データを最低個数から選択個数まで順次増やして投影距離が最小になるものを選んでもよい。
【0016】
顧客へのサービス形態としては、異常検知を行う手法をプログラムとして実現し、これを、メディア媒体やオンラインサービスにより顧客に提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、観測データの時間的な軌跡が明瞭に視認でき、異常の説明性が格段に向上する。また、準備された学習データのうち、観測データに連動して選ばれるデータの軌跡も視認性が向上し、設備の状態をより的確に表現できる。これらにより、微弱な設備異常も早期に検知できる。
【0018】
これらによって、ガスタービンや蒸気タービンなどの設備のみならず、水力発電所での水車、原子力発電所の原子炉、風力発電所の風車、航空機や重機のエンジン、鉄道車両や軌道、エスカレータ、エレベータ、そして機器・部品レベルでは、搭載電池の劣化・寿命など、種々の設備・部品において異常の早期・高精度な発見が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の異常検知システムが対象とする設備、多次元時系列信号、及びイベント信号の一例である。
【図2】図2は多次元時系列信号の一例である。
【図3】図3は本発明の異常検知システムの構成図である。
【図4】図4は複数の識別器を用いた、事例ベースの異常検知手法の説明図である。
【図5】図5は識別器の一例である部分空間法の説明図である。
【図6】図6は部分空間法にて学習データの選択を説明する図である。
【図7】図7は特徴変換の説明図である。
【図8】図8は部分空間法により算出した異常測度の説明図である。
【図9】図9は部分空間法にて算出した残差ベクトルの軌跡の説明図である。
【図10】図10は部分空間法にて算出した残差ベクトルの各残差成分信号の説明図である。
【図11】図11は複数の異常が発生した時の部分空間法にて算出した残差ベクトルの軌跡の説明図である。
【図12】図12は部分空間法による異常検知と観測データの線形予測法の誤差を示した例である。
【図13】図13は線形予測法の一般的説明図である。
【図14】図14は部分空間法による残差ノルムと線形予測法による残差ノルムを示した例である。
【図15】図15は部分空間法による残差ノルムと線形予測法による残差ノルムを示した他の例である。
【図16】図16は観測データ或いは学習データに対する線形予測の係数分布を示したものである。
【図17】図17は観測データの時間経過分布と、観測データおよび学習データに対する線形予測法の係数を説明したものである。
【図18】図18は本発明を実行するプロセッサ周辺の構成図である。
【図19】図19は本発明の全体構成を示す図である。
【図20】図20は本発明の動作フローを示す図である。
【図21】図21は各センサ信号のネットワーク関係を示す図である。
【図22】図22は本発明による異常検知、原因診断の構成を示す図である。
【図23】図23は本発明によるコンポーネント情報の一例を示す図である。
【図24】図24は本発明の遠隔監視を主体とした異常検知・診断システムを示す図である。
【図25】図25は本発明の保守履歴情報の詳細および保守履歴情報の関連付けを示す図である。
【図26】図26は残差ベクトルの始点の軌跡を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例】
【0021】
図1は本発明の異常検知システムが対象とする設備、センサ信号、イベント信号の一例である。センサ信号の種類は、数十から数万個存在する。設備の規模、設備が故障したときの社会的ダメージなどにより、センサ信号の種類が決まる。
【0022】
対象は、多次元・時系列のセンサ信号であり、発電電圧,排ガス温度,冷却水温度、冷却水圧力、運転時間などである。設置環境のたぐいもモニタされる。センサのサンプリングタイミングも、同様に、数十msから数十秒程度まで、いろいろなものがある。イベント信号は、設備の運転状態、故障情報、保守情報などからなる。
【0023】
図2は、センサ信号を、時刻を横軸に並べたものである。また、図3は、事例ベースに基づいて異常を検知する方法を示したものである。特徴抽出・選択・変換12、クラスタリング16、学習データ選択15からなり、多次元時系列センサ信号に対して、多変量解析により識別部13にて、正常データから見て、はずれ値となる観測センサデータを抽出する。
【0024】
クラスタリング16では、センサデータを運転状態などに応じて、モード別にいくつかのカテゴリにデータを分ける。センサデータ以外に、イベントデータ(設備の運転状態、アラーム情報など)を用いて、分析結果に基づき、学習データの選択や異常診断を行うこともある。イベントデータは、クラスタリング16への入力として、イベントデータに基づいてモード別にいくつかのカテゴリにデータを分けることもできる。
【0025】
分析部17では、イベントデータの分析と解釈を行う。さらには、識別部13において、複数の識別器を用いた識別を行い、結果を統合部14において統合することにより、よりロバストな異常検知も実現できる。異常の説明メッセージは、統合部14において出力される。
【0026】
図4に事例ベースに基づく異常検知手法を示す。この異常検知において、11は多次元時系列信号取得部、12は特徴抽出/選択/変換部、13は識別器、14は統合(グローバル異常測度)、15は主に正常事例からなる学習データを示している。
【0027】
多次元時系列信号取得部11から入力された多次元時系列信号は、特徴抽出/選択/変換部12で次元が削減され、複数の識別器13により識別され、統合(グローバル異常測度)14によりグローバル異常測度が判定される。主に正常事例からなる学習データ15も複数の識別器13により識別されて、グローバル異常測度の判定に用いられると共に、主に正常事例からなる学習データ15自体も取捨選択され、蓄積・更新が行われて精度の向上が図られる。
【0028】
図4には、ユーザがパラメータを入力する操作PCも図示している。ユーザ入力のパラメータは、データのサンプリング間隔、観測データの選択、異常判定のしきい値などである。データのサンプリング間隔は、例えば、何秒おきにデータを取得するかを指示するものである。
【0029】
観測データの選択は、センサ信号のどれをおもに使うかを指示するものである。異常判定のしきい値は、算出した、モデルからの偏差・逸脱、はずれ値、乖離度、異常測度などと表現した、異常らしさの値を2値化するしきい値である。
【0030】
図4に示される複数の識別器13はいくつかの識別器(h1、h2、・・・)を準備し、それらの多数決をとる(統合14)ことが可能である。即ち、異なる識別器群(h1、h2、・・・)を用いたアンサンブル(集団)学習が適用できる。例えば、第一の識別器は投影距離法、第二の識別器は局所部分空間法、第三の識別器は線形回帰法と言ったものである。事例データに基づくものならば、任意の識別器が適用可能である。
【0031】
図5は、識別器13における識別手法の例を示したものである。図5の左側に、投影距離法を示す。投影距離法は、モデルからの偏差を求めるものである。一般的には、各クラス(カテゴリ)のデータの自己相関行列を固有値分解して、固有ベクトルを基底として求める。値が大きい、上位何個かの固有値に対応する固有ベクトルを用いる。
【0032】
未知パターンq(最新の観測パターン)が入力されると、部分空間への正射影の長さ、或いは部分空間への投影距離を求める。多次元時系列信号では、基本的に正常部を対象とするため、未知パターンq(最新の観測パターン)から正常クラスまでの距離を求めて、これを偏差(残差)とする。そして、偏差が大きいと、はずれ値と判断する。
【0033】
このような部分空間法では、異常値が若干混ざっていても、次元削減し、部分空間にした時点で、その影響が緩和される。部分空間法適用のメリットである。正常クラスは、設備の運転パターンなどを踏まえ、まえもって複数クラスに分けておく。ここには、イベント情報を使ってもよいし、図3のクラスタリング16にて実行してもよい。
【0034】
なお、投影距離法では、各クラスの重心を原点とする。各クラスの共分散行列にKL展開を適用して得られた固有ベクトルを基底として用いる。いろいろな部分空間法が立案されているが、距離尺度を有するものならば、はずれ度合いが算出可能である。なお、密度の場合も、その大小により、はずれ度合いを判断可能である。投影距離法は、正射影の長さを求めることから、類似度尺度である。
【0035】
このように、部分空間にて距離や類似度を計算し、はずれ度合いを評価することになる。投影距離法などの部分空間法は、距離に基づく識別器のため、異常データが利用できる場合の学習法として、辞書パターンを更新するベクトル量子化や距離関数を学習するメトリック学習を使うことができる。
【0036】
図5の右側に、識別器13における識別手法の別の例を示す。局所部分空間法と呼ばれる方法である。未知パターンq(最新の観測パターン)に近いk個の多次元時系列信号を求め、各クラスの最近傍パターンが原点となるような線形多様体を生成し、その線形多様体への投影距離が最小となるクラスに未知パターンを分類する。局所部分空間法も部分空間法の一種である。kは、パラメータである。異常検知では、未知パターンq(最新の観測パターン)から正常クラスまでの距離を求めて、これを偏差(残差)とする。
【0037】
この手法では、例えば、k個の多次元時系列信号を用いて形成される部分空間への、未知パターンq(最新の観測パターン)からの正射影した点を推定値として算出することもできる。
【0038】
また、k個の多次元時系列信号を、未知パターンq(最新の観測パターン)に近い順に並べ替え、その距離に反比例した重み付けを行って、各信号の推定値を算出することもできる。投影距離法などでも、同様に推定値を算出できる。
【0039】
パラメータkは、通常は1種類に定めるが、パラメータkをいくつか変えて実行すると、類似度に応じて対象データを選択することになり、それらの結果から総合的な判断となるため、一層効果的である。
【0040】
さらには、図6に示すように、kの値として、観測データごとに適切な値とすべく、観測データからの距離が所定範囲内にある学習データを選択し、しかも学習データを最低個数から選択個数まで順次増やして投影距離が最小になるものを選んでもよい。
【0041】
これは、投影距離法にも適用できる。具体的手順は、下記の通りである。
1.観測データと学習データの距離を算出し、昇順に並替え。
2.距離 d<th かつ 個数k以下となる学習データを選択。
3.j=1〜k個の範囲で投影距離を算出し、最小値を出力。
【0042】
ここで、しきい値thは、距離の頻度分布から、実験的に定める。図6において、左側の分布が、観測データから見た、学習データの距離の頻度分布を表している。この例では、設備のON,OFFに応じて、学習データの距離の頻度分布が双峰的になっている。二つの山の谷が、設備のONからOFFへ、または逆のOFFからONへの過渡期を表している。
【0043】
この考えは、レンジサーチと呼ばれる概念であり、これを学習データ選択に応用したと考える。SmartSignal社の方法にも、このレンジサーチ形の学習データ選択の概念は適用可能である。なお、局所部分空間法では、異常値が若干混ざっていても、局所部分空間にした時点で、その影響が大きく緩和される。
【0044】
なお、図示していないが、LAC(Local Average classifier)法と呼ぶ識別では、k近傍データの重心を局所部分空間と定義する。そして、未知パターンq(最新の観測パターン)から重心までの距離を求めて、これを偏差(残差)とする。
【0045】
図5に示した、識別器13における識別手法の例は、プログラムとして提供される。なお、単に、1クラス識別の問題と考えれば、1クラスサポートベクターマシンなどの識別器も適用可能である。この場合、高次空間に写像する、radial basis functionなどのカーネル化が使えることになる。
【0046】
1クラスサポートベクターマシンでは、原点に近い側が、はずれ値、即ち異常になる。ただし、サポートベクターマシンは、特徴量の次元は大きくても対応できるが、学習データ数が増えると計算量が膨大となるという欠点もある。
【0047】
このため、MIRU2007(画像の認識・理解シンポジウム、Meeting on Image Recognition and Understanding 2007)にて発表されている、「IS−2−10 加藤丈和,野口真身,和田俊和(和歌山大),酒井薫,前田俊二(日立);パターンの近接性に基づく1クラス識別器」などの手法も適用可能であり、この場合、学習データ数が増えても、計算量は膨大なものとならないというメリットがある。
【0048】
このように、低次元モデルで多次元時系列信号を表現することにより、複雑な状態を分解でき、簡単なモデルで表現できるため、現象を理解しやすいという利点がある。また、モデルを設定するため、SmartSignal社の方法のように完全に、データを完備する必要はない。
【0049】
図7は、図3にて使われる多次元時系列信号の次元を削減する特徴変換の例を示したものである。主成分分析以外にも、独立成分分析、非負行列因子分解、潜在構造射影、正準相関分析など、いくつかの手法が適用可能である。図7に、方式図と機能を併せて示した。
【0050】
主成分分析は、PCAと呼ばれ、M次元の多次元時系列信号を、次元数rのr次元多次元時系列信号に線形変換し、ばらつき最大となる軸を生成するものである。KL変換でも構わない。次元数rは、主成分分析により求めた固有値を降順に並べ、大きい方から加算した固有値を全固有値の和で割り算した累積寄与率なる値に基づいて決める。
【0051】
独立成分分析は、ICA(Independent Component Analysis)と呼ばれ、非ガウス分布を顕在化する手法として効果がある。非負行列因子分解は、NMF((Non-negative Matrix Factorization)と呼ばれ、行列で与えられるセンサ信号を、非負の成分に分解する。
【0052】
教師なしとしたものは、本実施例のように、異常事例が少なく、活用できない場合に、有効な変換手法である。ここでは、線形変換の例を示した。非線形の変換も適用可能である。
【0053】
上述した特徴変換は、標準偏差で正規化する正準化なども含め、学習データと観測データを並べて同時に実施する。このようにすれば、学習データと観測データを同列に扱うことができる。
【0054】
図8に、事例ベースに基づく異常検知の結果の一例を示す。同図の上側が、観測信号のうちのひとつを表し、下側が多次元時系列センサ信号を対象にした多変量解析により算出した異常測度を表示している。観測信号が、徐々に低下し、設備停止に至った例である。
【0055】
異常測度が定めたしきい値以上になれば(あるいは、設定した回数以上、異常測度がしきい値を超えれば)、異常ありと判定する。この例では、設備停止に至る前に、異常予兆を検知でき、しかるべき対策が実施できる。
【0056】
図9は、残差パターンによる異常発生の予兆検知技術の説明図である。図9は、残差パターンの類似度算出の手法を示している。図9は、局所部分空間法により求めた各観測データの正常重心に対応し、各時点でのセンサ信号Aとセンサ信号Bとセンサ信号Cの正常重心からの偏差が空間内の軌跡として表現されている。
【0057】
図9では、時刻t−1、時刻t、時刻t+1を経過する観測データの残差系列が矢印のついた点線で示されている。観測データ及び異常事例それぞれの類似度は、それぞれの偏差の内積(A・B)を算出して推定することができる。また、内積(A・B)を大きさ(ノルム)で割って、角度θで類似度を推定することも可能である。観測データの残差パターンに対して類似度を求め、その軌跡により、発生すると予測される異常を推測する。
【0058】
具体的には、図9には、異常事例Aの偏差、異常事例Bの偏差、異常事例Cの偏差が示されている。矢印のついた点線で示されている観測データの偏差系列パターンを見ると、時刻tでは異常事例Bに近いが、その軌跡からは、異常事例Bではなく、異常事例Aの発生を予測することができる。
【0059】
異常事例を予測するために、異常事例が発生するまでの偏差(残差)時系列の軌跡データをデータベース化しておき、観測データの偏差(残差)時系列パターンと軌跡データベースに蓄積された軌跡データの時系列パターンの類似度を算出して異常発生の予兆を検知することができる。
【0060】
このような軌跡を、GUI(Graphical User Interface)にてユーザに表示すると、異常の発生状況が視覚的に表現でき、対策などにも反映しやすい。
【0061】
図10は、図9のセンサ信号A、B,C等に対応した複数の観測データの偏差(残差)信号の時間的推移を示している。図10にて、11/17の時刻で、例えば、ジャケット水圧が低下するといった異常事態が発生するが、時刻t−1,t,t+1において観測データの残差信号を検出し、軌跡データベースに蓄積された軌跡データの時系列パターンの類似度を算出して、特定の異常発生の予兆を検知することができる。特に、どのセンサが異常現象を呈しているかを識別できる。なお、図10の一番上側のデータは、異常測度である。
【0062】
図11に、複合事象の異常事例の場合を示す。同図では、異常事例A(例:排気温度異常)が最初に発生し、4日後に、異常事例B(例:発電出力異常)が発生した場合を示している。
【0063】
異常はいずれも徐々に大きくなるタイプのものである。異常事例Aが発生する前は正常であるが、ある面に沿って、データが変動している。異常事例Aが発生した時点から、この面と直交する方向に逸脱が始まっている。
【0064】
総合的な残差のみを時間的経緯を無視して追跡していると、異常現象を理解しづらいが、残差ベクトルの時間経緯を追えると、現象が手に取るように分かる。理論的には、複合事象の各事象のベクトル加算演算を行うことにより、複合事象の異常発生の予兆を検知することができ、残差ベクトルが、的確に異常を表現することが分かる。過去の異常事例A,Bなどの軌跡が既知としてデータベースにあれば、これらと照合して、異常の種類を特定(診断)できる。
【0065】
図12に、観測データや学習データの時間的な移動軌跡の表現形態の一例を示す。
局所部分空間法による残差ベクトルv_lscと線形予測誤差ベクトルv_lpcの合成ベクトルに着目したものである。局所部分空間法による残差ベクトルv_lscが、ある時刻からステップ状に大きくなっており、異常が発生した様子が分かる。
【0066】
一方、異常が発生した時点で、線形予測誤差ベクトルv_lpcも(図では、第2成分を示した)、大きな変動が見られる。これらのデータから、正常境界を基準に観測データがどこにあり(図では、正常から離れた)、どの方向に進んでいるか(図では、ステップ状に離れた)、正常境界から遠ざかっているのか(図では、こちらに該当)、正常境界に戻っているのか?などを、視覚的に表現できる。
【0067】
図13は、線形予測法の基本式を説明したものである。詳しい説明は省くが、過去のデータ、時刻t-j(j=1からp)の観測データxt-jを用いて、次の時刻tのデータxtを二乗誤差最小基準で(ユールウォーカ方程式を解いて)、予測するものであり、過去のデータの線形結合を表す係数αが重要となる。この係数により、過去のデータをモデル化していることになる。なお、線形結合で表現したが、高次の表現も可能である。すなわち、xt-jに関する線形結合を、xt-jのn乗の線形結合として表現すればよい。
【0068】
図14と図15に、局所部分空間法(LSC)による残差ノルムと線形予測(LPC)の残差ノルム(誤差ノルム)の例を示す。図14では、LSC残差(異常測度)が小さく、LPC残差(予測誤差)が大きいことから、異なる状態に遷移する過渡期を表すか(学習データは準備されている)、学習データのカバー範囲を超える長期変動を表わしていると考えられる。
【0069】
図15では、LSC残差(異常測度)が徐々に大きくなり、LPC残差(予測誤差)が小さいことから、過去事例にないセンサドリフトを表わしていると考えられる。
【0070】
図16は、観測センシングデータに対する線形予測(LPC)の係数αを、それらの値を軸にとり、分布を示したものを示す。ここでは、主成分分析によって、寄与率の高い上位3主成分を表示した。この上位α値を軸とする空間において、そのデータの分布から、観測センシングデータの振舞いをカテゴリ分けできる(図において、カテゴリAやB、Kなどに場合分けできる)。
【0071】
これらの係数も学習データとして蓄積しておけば、係数のカテゴリから、現在の状態をカテゴリ分けでき、異常の判定にも使うことができる。過去に発生した異常事例の種類が蓄積できていれば、この異常時のα値分布との照合により、異常診断を行うこともできる。これらの検知や診断には、線形予測(LPC)の係数α値を対象に部分空間法を使うことができる。
【0072】
さらに、学習データに対する線形予測(LPC)の係数αもカテゴリ分けできる。ここでは、局所部分空間法などで選ばれた学習データに対して、線形予測(LPC)の係数αを求める。これにより、学習データの振舞いをカテゴリ分けでき、学習データの質評価を行うことが可能となる。
【0073】
図17は、すこし複雑なデータに対し、線形予測係数の時系列的振舞いを調べた結果を示す。図17の上段が、観測データの分布を示す。主成分分析により、寄与率の高い上位3主成分を表示したものである。図では分かりづらいが、徐々にドリフトがあり、かつ異常が発生している。
【0074】
図17の下段は、線形予測係数αのうち、時間的に近い項の係数を二つ示したものである。横軸は時刻を示す。特に、観測データのみならず、選択された学習データに対しても、線形予測を行っている。この時系列的振舞いから、後半に、観測データと学習データの予測係数が大きな不一致が見られ、異常が発生していることが読み取れる。
【0075】
この事例では、局所部分空間法のパラメータkを増やすと、学習データの予測係数αが安定なことから、観測データに線形近似できない振舞いが起きていると結論できる。ただし、局所部分空間法のパラメータkが小さいと、学習データの予測係数αが不安定なことから、学習データの密度も疎(過去事例が少ない)であることが分かる。
【0076】
学習データに、経時変化への対応能力が乏しいことも考えられ、別の学習データ(例えば、昨年度に取得した学習データ、同じ運転パターン時の学習データ、同じ季節の学習データなど)に移行すべきことを表しているとも考えられる。なお、この例では、線形予測係数αのうち、時間的に近い項の係数二つを選んだが、観測データに時刻が近い係数が支配的であった。
【0077】
図18に、本発明の異常検知システムのハードウェア構成を示す。異常検知を実行するプロセッサ119に、対象とするエンジンなどのセンサデータを入力し、欠損値の修復などを行って、データベースDB121に格納する。プロセッサ119は、取得した観測センサデータ、学習データからなるDBデータを用いて、異常検知を行う。表示部120では、各種表示を行い、異常信号の有無や、後述する異常説明のメッセージを出力する。トレンドを表示することも可能とする。イベントの解釈結果も表示可能とする。
【0078】
上記ハードウェアとは別に、これに搭載するプログラムを、メディア媒体やオンラインサービスにより顧客に提供することもできる。
【0079】
データベースDB121は、熟練エンジニアらがDBを操作できる。特に、異常事例や対策事例を教示でき、格納できる。(1)学習データ(正常)、(2)異常データ、(3)対策内容が、格納される。データベースDBを、熟練エンジニアらが手を加えられる構造にすることにより、洗練された、有用なデータベースができあがることになる。また、データ操作は、学習データ(個々のデータや重心位置など)を、アラームの発生や部品交換に伴い、自動的に移動させることにより行う。また、取得データを自動的に追加することも可能である。異常データがあれば、データの移動に、一般化ベクトル量子化などの手法も適用できる。
【0080】
また、図11にて説明した過去の異常事例A、Bなどの軌跡を、データベースDB121に格納し、これらと照合して、異常の種類を特定(診断)する。この場合、軌跡をN次元空間内のデータとして表現し、格納する。
【0081】
図19に、異常検知、及び異常検知後の診断を示す。図19において、設備からの時系列信号から、時系列信号の特徴抽出・分類24により、異常を検知する。設備は、1台のみとは限らない。複数台の設備を対象にしてもよい。同時に、各設備の保守のイベント(アラームや作業実績など。具体的には、設備の起動、停止、運転条件設定、各種故障情報、各種警告情報、定期点検情報、設置温度などの運転環境、運転累積時間、部品交換情報、調整情報、清掃情報など)などの付帯情報を取り込み、異常を高感度に検知する。
【0082】
同図に示すように、予兆検知25により早期に予兆として発見できれば、故障となって稼動停止となる前に、何らかの対策がうてることになる。そして、部分空間法などにより予兆検知し、イベント列照合なども加えて総合的に予兆かどうか判断し、この予兆に基づき、異常診断を行い、故障候補の部品の特定やいつ当該部品が故障停止に至るかなどを推測する。そして、必要な部品の手配を、必要なタイミングで行う。
【0083】
異常診断26は、予兆を内包しているセンサを特定する現象診断と、故障を引き起こす可能性のあるパーツを特定する原因診断に分けると考えやすい。異常検知部では、異常診断部に対して、異常の有無という信号のほか、特徴量に関する情報を出力する。異常診断部は、これらの情報をもとに診断を行う。
【0084】
図20において、観測データ、学習データ、イベント解析の結果を用いて、まず観測データと学習データの乖離度(類似度)を算出する。イベントデータ(アラーム情報など)は、例えば、学習データの選択に用いる。次に、観測データと学習データの乖離度(類似度)に基づき、異常候補の有無を判定する(しきい値は外部より設定する)。同時に、異常候補の影響度を算出する。ここでは、各クラスにおけるk近傍データの平均と観測データの距離を用いて観測データの識別を行う(LAC法と呼ばれる)。さらに、異常候補の種類を特定する。
【0085】
次に、観測データと、選ばれた学習データに対して、線形予測を行い、状態をそれぞれ表現する。表現された状態に基づき、学習データ群(例えば、季節ごと、運転パターンごとの学習データ)の選定更新を行う。選ばれるか、更新された学習データは、選択・更新を表す情報が、外部に出力される。
【0086】
具体的には、図16にて説明した、線形予測係数のカテゴリに応じて、学習データの質評価を行い、別の学習データを選択したり、学習データの更新を実施する。また、図示していないが、学習データの線形予測時に、残差ベクトルの長さが大きくなったときに(設定したしきい値を超えたときに)、別の学習データを選択したり、学習データの更新を実施してもよい。
【0087】
最終的に、これらの情報を元に、異常候補から、異常の判定を行う。いくつかの異常判定ロジックは、例えば、次の通りである。
1)観測データに対する、異常測度ベクトルと線形予測誤差ベクトルの合成値と、設定したしきい値の比較
2)観測データに対する異常測度ベクトルと、観測データに対する線形予測係数ベクトルの合成値と、設定したしきい値の比較
3)観測データに対する線形予測係数ベクトルと線形予測誤差ベクトルの合成値と、設定したしきい値の比較
4)観測データに対する異常測度ベクトルと、学習データに対する線形予測係数ベクトルの合成値と、設定したしきい値の比較
5)観測データに対する線形予測係数ベクトルと、学習データに対する線形予測係数ベクトルの合成値と、設定したしきい値の比較
6)学習データに対する線形予測係数の変化に連動した、学習データ群の評価・選定(イベント情報も活用)
7)上記の組合せ
【0088】
これら以外にも、特徴選択との組合せ、イベント情報との組合せや、ほかとの組合せも考えられる。係数も加味して選択されたセンサ信号は、異常発生時に結びつきが強いことを表しており、有用な情報である。これらを事例ごとに集めれば、対象設備のモデル化ができる。
【0089】
図21に、得られた、各センサ信号の異常への影響度の情報から、各センサ信号のネットワークを作成した例を示す。基本的な温度、圧力、電力などのセンサ信号に関して、異常への影響度の割合に基づき、センサ信号間に重みを付与できる。
【0090】
こういった関連性ネットワークができると、設計者が意図しない信号間の連動性、共起性、相関性などが明示でき、異常の診断時にも有用である。ネットワークの生成は、各センサ信号の異常への影響度のほか、相関、類似度、距離、因果関係、位相の進み/遅れなどの尺度で、これを生成することができる。
【0091】
<対象設備のモデル;選択されたセンサ信号のネットワーク>
図22に異常検知、原因診断の部分に関して、さらにその構成を示す。図22において、複数のセンサからデータを取得するセンサデータ取得部、ほぼ正常データからなる学習データ、学習データをモデル化するモデル生成部、観測データとモデル化した学習データの類似度により観測データの異常の有無を検知する異常検知部、各信号の影響度を評価するセンサ信号の影響度評価部、各センサ信号の関連性を表すネットワーク図を作成するセンサ信号ネットワーク生成部、異常事例、各センサ信号の影響度、選択結果などからなる関連データベース、設備の設計情報からなら設計情報データベース、原因診断部、診断結果を格納する関連データベース、および入出力からなる。
【0092】
設計情報データベースには、設計情報以外の情報も含み、エンジンを例にとると、年式、モデル、図23に示すコンポーネント、部品表(BOM)、過去の保守情報(オンコール内容、異常発生時のセンサ信号データ、調整日時、撮像画像データ、異音情報、交換部品情報など)、原因診断ツリー(設計者が作成した簡易ツリー。症例により枝分かれして、交換を要するユニットや部品を特定する)、稼動状況情報、輸送・据付時の検査データなどを含む。
【0093】
図23に示したコンポーネントは、電気部品のブロックに関する情報である。この構成の特徴は、各センサ信号の関連性を表すネットワークを用いて、これとコンポーネント情報を結びつけ、原因診断支援を図るものである。センサ信号の影響度から生成される各センサ信号の関連性を表すネットワークが、原因診断の知識材料となる。診断では、複数の事例の中の現象、部位、処置を表す要素(曖昧な表現)間の連結性に基づき、現象が発生した時、対策処置の可能性リストを提示する。
【0094】
具体的には、例えば、医療用機器の例では、画像にゴーストが発生するといった現象に対し、各センサ信号の関連性を表すネットワークを用いて、コンポーネント要素であるケーブルと結びつけ、ケーブルシールド処理を対策処置の可能性リストのひとつとして提示する。
【0095】
なお、上述した線形予測は、観測データのみならず、学習データ(観測データが取得されるたびに選ばれた学習データ)にも適用可能であることを改めて記しておく。
【0096】
上述したいくつかの実施例に関する総合的効果をさらに補足する。たとえば、発電設備を所有している会社では、機器の保守費用削減を希望しており、保証期間中に機器を点検、部品交換を実施している。これは時間ベースの設備保全と言われている。
【0097】
しかし、最近は機器の状態を見て、部品交換を実施する状態ベースの保全に移行しつつある。状態保全を実施するには、機器の正常・異常データを収集する必要があり、このデータの量、質が状態保全の品質を決めてしまう。
【0098】
しかし、異常データの収集は、まれなケースも多く、大型の設備になるほど、異常データを収集することは困難である。従って、正常データから、はずれ値を検出することが重要となる。上述したいくつかの実施例によれば、
(1)正常データから、異常を検知できる、
(2)データ収集が不完全でも精度の高い異常検知が可能となる、
(3)異常データが包含されていても、この影響を許容できる、
といった直接的効果に加え、
(4)ユーザにとって、異常現象を視覚的に捉えやすく、現象を理解しやすい、
(5)設計者にとって、異常現象を視覚的に捉えやすく、物理現象との対応をとりやすい、
(6)エンジニアの知識を活用できる
(7)物理モデルも併用できる、
(8)演算負荷が大きく、処理時間を要する異常検知手法も搭載適用できる
と言った副次的な効果がある。
【0099】
図24は、本発明の遠隔監視を主体とした異常検知・診断システムを示している。図24において、顧客のサイトに設置された設備に取り付けられたセンサからのセンサ信号が遠隔にて取得される。また、センサ信号に基づくアラーム発報にて、保守員が顧客サイトに赴き、診断を行い、必要に応じて調整や部品交換を行う。診断結果は、作業報告書にまとめられる。アラーム発報には、顧客からの電話連絡も含まれる。
【0100】
ここで問題は、過去事例の活用である。顧客のサイトでの作業時に、現象が過去事例と照合できれば、早期に診断が終了し、設備のダウンタイムも少ない時間にて収まるが、不具合の現象をうまく言葉なりコードで表現できないと、過去事例と照合できず、結局のところ過去事例は活用できない。
【0101】
そこで、本実施例では、バグオブワーヅ(bag of words)の概念を用いる。即ち、アラーム発報、作業報告書、交換部品のコードなどから、キーワードやコードや言葉の発生頻度、ヒストグラムを作成し、このヒストグラムの分布形状を特徴とみなして、カテゴリに分類する。同様に、センサ信号も、カテゴリに分類する。
【0102】
図24の異常検知・診断システムにおいては、分類視点としては、交換部品の例が示されているが、分類視点として、ほかの定義のカテゴリを準備してもよい。なお、バグオブワーヅ(bag of words)以外のパターン統計手法も使うことができる。
【0103】
図25は、図24の異常検知・診断システムの保守履歴情報の詳細、及びアラーム発報、作業報告書、部品交換データの保守履歴情報の関連付けを示したものである。図25において、オンコールデータは、電話連絡のデータを意味している。
【0104】
図25の下図は、現象、原因、処置といった作業のキーワードである。現象は、アラーム、機能不良(画質など)、動作不良などであり、より詳細な分類をもつ。原因は、故障部位の特定にあたる。処置には、再起動でなおるもの(完全に直ったわけではない)、調整を要したもの、部品交換に至ったものがある。
【0105】
図26は、残差ベクトルの始点の軌跡の説明図である。図26の左上の図は、設備の状態が異なる2種類(AとB)を取り得る場合、局所部分空間は状態Aと状態Bに対応したものになると予想される。状態Aと状態Bは、例えば、運転ONとOFFや、負荷の状態の違いなどである。
【0106】
ただし、状態Aや状態Bにおいても、季節変動などの変動があり得る。図26の左下の図は、この季節変動を示したものである。観測データと前もって記憶していた学習データの半年間の変動の様子を示したものである。
【0107】
このため、局所部分空間はそれぞれの位置で変動する。従って、残差ベクトルの始点に着目すると、これらの状態変化や季節変動などの変動を表現できる。
【0108】
図26の右上の図は、残差ベクトルの始点の軌跡を示したものである。これは、季節変動に対応した軌跡を示している。同図から分かるように、残差ベクトルの始点は、半年間の時期によって異なる変動を示している。
【0109】
図26の右下の図は、この残差ベクトルの始点の軌跡に対して、線形予測係数を示したものである。太線の部分は、残差ベクトルの始点が流動的であり、かつ方向がやや不安定であることを示している。
【0110】
このように、残差ベクトルの始点の軌跡に着目すれば、設備の状態を的確に表現できることがわかる。なお、状態Aや状態Bのそれぞれの部分空間が、図14、図15の局所部分空間に対応している。
【0111】
なお、すでに示した図11では、異常測度ベクトルの終点の動きが表現されている。このベクトルの動きの速度を算出すれば、異常事例Aに至る時間を推測できる。或いは、異常事例Aに至る過去の異常測度ベクトルの終点の動きを記憶し、格納しておけば、これらとの照合により、異常事例Aに至る経緯のなかで、現在の状態を把握でき、異常の発生時期を推測できる。
【0112】
また、図18の例では、プロセッサ119で異常測度ベクトルの「始点」や「終点」の動きを算出し、これをデータベース121に記憶しておく。そして、新規に観測データが入力されると、プロセッサ119で異常測度ベクトルの「始点」や「終点」の動きを算出し、データベース121から読み出した過去の異常測度ベクトルの「始点」や「終点」の動きと照合し、異常発生日を>予測し、これを表示部120にて表示する。データベース121に格納するデータには異常情報も付加しておく。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、プラント、設備の異常検知として利用することが出来る。
【符号の説明】
【0114】
11 多次元時系列信号取得部
12 特徴抽出/選択/変換部
13 識別器
14 統合(幾つかの識別器の出力を統合。グローバルな異常測度を出力)
15 主に正常事例からなる学習データベース(学習データを選択する)
16 クラスタリング
24 時系列信号の特徴抽出・分類
25 予兆検知
26 異常診断
119 プロセッサ
120 表示部
121 データベース(DB)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、かつ、線形予測により上記取得データの時系列的振舞いをモデル化し、モデルからの予測誤差を算出し、異常測度と予測誤差の双方を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知方法。
【請求項2】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、かつ、線形予測により上記取得データの時系列的振舞いをモデル化し、モデルからの予測誤差を予測誤差ベクトルとして算出し、異常測度ベクトルと予測誤差ベクトルの合成を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする請求項1に記載の異常検知方法。
【請求項3】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、定めた次数、或いはデータ取得のたびにデータ間の距離に基づいて次数を決定し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルからの予測誤差を算出し、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知方法。
【請求項4】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルからの予測誤差を算出し、対象の運転状態を表すイベント情報と予測誤差を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知方法。
【請求項5】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時系列的振舞いを用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知方法。
【請求項6】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、算出された異常測度と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータとを用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知方法。
【請求項7】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、異常の種類を特定することを特徴とする異常検知方法。
【請求項8】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡に基づいて、異常の種類を特定することを特徴とする異常検知方法。
【請求項9】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出する際、取得データに類似した学習データを選択して、これを用いることを特徴とする異常検知方法。
【請求項10】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、幾つかの学習データから、現在の状態に適した学習データの選択を行うことを特徴とする異常検知方法。
【請求項11】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、かつ、線形予測により上記取得データの時系列的振舞いをモデル化し、モデルからの予測誤差を算出し、異常測度と予測誤差の双方を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知システム。
【請求項12】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、かつ、線形予測により上記取得データの時系列的振舞いをモデル化し、モデルからの予測誤差を予測誤差ベクトルとして算出し、異常測度ベクトルと予測誤差ベクトルの合成を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする請求項11に記載の異常検知システム。
【請求項13】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、定めた次数、或いはデータ取得のたびにデータ間の距離に基づいて次数を決定し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルからの予測誤差を算出し、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知システム。
【請求項14】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルからの予測誤差を算出し、対象の運転状態を表すイベント情報と予測誤差を用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知システム。
【請求項15】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時系列的振舞いを用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知システム。
【請求項16】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、算出された異常測度と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータとを用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知システム。
【請求項17】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、異常の種類を特定することを特徴とする異常検知システム。
【請求項18】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡に基づいて、異常の種類を特定することを特徴とする異常検知システム。
【請求項19】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出する際、取得データに類似した学習データを選択して、これを用いることを特徴とする異常検知システム。
【請求項20】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知システムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、幾つかの学習データから、現在の状態に適した学習データの選択を行うことを特徴とする異常検知システム。
【請求項21】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知プログラムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、算出された異常測度と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータとを用いて、異常の有無を検知することを特徴とする異常検知プログラム。
【請求項22】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知プログラムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、この異常測度の時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、幾つかの学習データから、現在の状態に適した学習データの選択を行うことを特徴とする異常検知プログラム。
【請求項23】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知プログラムであって、
線形予測によりモデル化する対象は、観測データ及び学習データであることを特徴とする請求項21または請求項22に記載の異常検知プログラム。
【請求項24】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知プログラムであって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データをモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度を算出し、この異常測度の時間経過に伴う軌跡と、線形予測により取得データをモデル化し、このモデルを形成するパラメータの時間経過に伴う軌跡とに基づいて、観測データや学習データの時間的な移動軌跡などを表現する異常検知プログラム。
【請求項25】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
複数のセンサからデータを取得し、ほぼ正常データからなる学習データを用いてモデル化し、モデル化した学習データを用いて取得データの異常測度をベクトルとして算出し、この異常測度ベクトルの始点あるいは終点の時間経過に伴う軌跡に基づいて、異常を検知し、また異常の種類を特定することを特徴とする異常検知方法。
【請求項26】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
異常測度ベクトルの動きから、異常発生日を予測することを特徴とする請求項25に記載の異常検知方法。
【請求項27】
プラントまたは設備の異常を早期に検知する異常検知方法であって、
過去の異常測度ベクトルの動きを記憶し、これと、現在の異常測度ベクトルの動きを照合し、異常発生日を予測することを特徴とする請求項25に記載の異常検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−145846(P2011−145846A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5555(P2010−5555)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】