説明

異物検知方法およびロボット

【課題】任意の部位に取り付けられた盗聴器や盗撮器などの異物の有無を検知可能とする。
【解決手段】ロボット1は、車輪201、筐体200、上腕202、前腕203、ハンド204をそれぞれ回転可能に連結した関節300、関節301、関節302、関節303を有する。ロボット1は、各関節に備えたモータで部材を回転し、関節ごとにモータの軸回りの慣性モーメントを検出する。ロボット1は、検出された慣性モーメントの値と異物が付着していないときの慣性モーメントとを比較し、部材に付着した異物があるか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物検知方法およびロボットに関し、特に任意の部位に取り付けられた盗撮器や盗聴器などの異物の有無を検知する異物検知方法およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動型ロボット(以下、「ロボット」と記す)が商品化され、一般家庭に普及し始めている。このようなロボットは、ユーザからの指令や周囲の状況に応じて自律的に行動できるようになっている。また、ロボットの作業空間や移動空間、およびロボットと接する人々や物体を認識するため、視覚機能としてのカメラや、人間とのコミュニケーションを実現するため、周囲の声や音を聞き取る聴覚機能としてのマイクロフォンが搭載されている。
【0003】
ところで、最近、無線などにより遠隔操作できるロボットが見受けられるようになってきた。このようなロボットでは、ロボットに搭載されたカメラやマイクロフォンなどを用いることで、遠隔地からでも家庭内や事務所内の音の収集や、撮影が可能である。よって、当該ロボットが不正使用されることで盗聴や盗撮など、ロボット使用者などのプライバシーが侵害されたり、業務上秘密としていた情報などが盗撮されたりすることのないよう十分に考慮する必要がある。
【0004】
このような状況を考慮して、ロボットが遠隔操作装置に画像情報を送信している間、外部に向けて音や光などの警告を発し、周囲の人に画像情報を送信していることを容易に認識させ、不正な使用を防止する方法が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0005】
この方法では、ロボットに搭載されたカメラからの画像情報を、遠隔操作装置(たとえば無線通信機能を備えたパーソナルコンピュータ)に送信している間は、音声やLEDの点滅により、外部に警告を発するようにしている。
【0006】
また、工作用ロボットなどにおいては、ロボット本体の手首部に力センサを備え、作業中に複数の工具を必要に応じて自動的に交換して作業を行うロボットが提案されている。
【0007】
このロボットでは、ロボット本体に着脱される物の正常・異常を判断するため、力センサに複数の工具のそれぞれを装着した場合と、いずれの工具も装着しない場合との各々に関する重量・重心データを用意し、工具の装着または脱離のときに力センサによって検出される荷重値にもとづいて交換した工具の正常・異常を判断していた(たとえば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2002−331482号公報
【特許文献2】特開平7−237165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ロボットに搭載されたカメラ、マイクロフォンとは別に、無線式の盗聴器や盗撮器(以後、「異物」という)が、前述のロボットに取り付けられることによって、ロボットの遠隔操作の有無に関わらず、家庭内を盗聴、盗撮される可能性についても十分に考慮する必要がある。
【0009】
しかし、本体に着脱される物の正常・異常を判断する従来のロボットでは、力センサのあるところだけ着脱される物の正常・異常を判断でき、力センサのないところでは、判断できないといった課題があった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するものであり、任意の部位に取り付けられた盗聴器や盗撮器などの異物の有無を検知可能とする異物検知方法およびロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のロボットは、複数の部材を連結した関節を中心に複数の部材の少なくともいずれかの部材を回転させる駆動部と、駆動部に対して部材を回転させるための制御信号を出力する制御部と、関節での回転軸まわりの第1の慣性モーメントを検出する検出部と、第1の慣性モーメントの値と異物の付着がない場合の関節での回転軸まわりの第2の慣性モーメントの値とを比較し、複数の部材の少なくともいずれかの部材に付着した異物の有無を判断する異物判断部とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、ロボットが有する任意の部材に付着している異物の有無を検知することができる。
【0013】
また、異物判断部は、第1の慣性モーメントの値の方が第2の慣性モーメントの値よりも大きいときに異物が付着していると判断するようにしてもよい。
【0014】
これによれば、さらに、部材に異物が付着していることを検知することが可能となる。
【0015】
また、関節が複数あり、検出部は、複数の関節それぞれでの回転軸まわりの第1の慣性モーメントを順次に検出し、異物判断部は、関節ごとに検出された第1の慣性モーメントの値それぞれに対して異物の付着の有無を判断し、判断された複数の判断結果にもとづいて異物が付着している部材を特定するようにしてもよい。
【0016】
これによれば、さらに、異物が付着している部材を特定することができる。
【0017】
また、制御部は、第1の慣性モーメントの検出を行わない関節に係る駆動部を所定の姿勢に保持させるようにしてもよい。
【0018】
これによれば、さらに、検出を行う関節に係る駆動部での回転軸まわりの慣性モーメントをあらかじめ特定でき、工場出荷時などに、所定の姿勢での慣性モーメントを実測した値を記憶することが可能となる。これにより、慣性モーメントを検出するときの姿勢と同じ姿勢で慣性モーメントを実測して記憶すれば、複雑な慣性モーメントの設計値の計算が不要となるだけでなく、設計上の誤差による影響も同時に低減できる。
【0019】
また、制御部は、第1の慣性モーメントの検出を行う関節に係る駆動部に対しては所定の回転を行うための制御信号を出力し、第1の慣性モーメントの検出を行わない関節に係る駆動部に対しては、所定の姿勢として第1の慣性モーメントの検出を行う関節に係る駆動部での回転軸まわりの第1の慣性モーメントを最小にするための姿勢をさせる制御信号を出力するようにしてもよい。
【0020】
これによれば、さらに、異物付着の有無の検出を行う部材の回転運動に対して、検出を行わない部材が及ぼす影響を抑えるように慣性モーメントを最小にさせる姿勢をロボットにとらせることができ、異物をより検出しやすくすることができる。
【0021】
また、制御部は、第1の慣性モーメントの検出を行わない部材を静止状態に保持させるようにしてもよい。
【0022】
これによれば、さらに、部材を可動して壁、床面などの静止構造物に当接して一時的に固定状態にさせることができ、慣性モーメントの検出時に回転された部材により発生する揺れを低減でき、検出誤差を低減できる。
【0023】
また、第1の慣性モーメントの検出を行わない複数の部材の少なくともいずれかの部材を静止状態に保持するための部材固定部をさらに備え、検出部は、部材固定部により複数の部材の少なくともいずれかの部材が静止状態に保持された後で第1の慣性モーメントを検出するようにしてもよい。
【0024】
これによれば、さらに、異物の有無を特定する部材の場所に応じて、慣性モーメントを検出しない部材を部材固定部により一時的に固定状態にすることができ、ロボット本体の揺れなどの振動を低減でき、検出誤差を低減できる。
【0025】
また、異物判断部で異物が付着していると特定された部材から異物を取り除く異物処置部をさらに備えてもよい。
【0026】
これによれば、さらに、特定された部材に付着した異物を取り除くことができる。
【0027】
また、検出部は、第1の慣性モーメントJを、
T=J×α+D×ω
(T:トルク、α:回転角加速度、D:粘性摩擦係数、ω:回転角速度)
の関係式にもとづいて検出するようにしてもよい。
【0028】
これによれば、さらに、慣性モーメントJを回転運動の運動方程式にもとづいて検出することができる。これにより、静的なモーメントで検出する場合に比べて、慣性モーメントを用いて異物を検出する場は、回転角加速度を大きくすればするほど、質量の小さい異物でも慣性モーメントJを相対的に大きくでき、検出精度を高めることができる。
【0029】
また、関節の温度を検出する温度検出部をさらに備え、検出部は、温度検出部で検出された温度にもとづいて、関係式におけるトルクTまたは粘性摩擦係数Dを補正し、第1の慣性モーメントJを検出するようにしてもよい。
【0030】
これによれば、さらに、関節の温度の変化に応じて関係式を補正できる。これにより、温度依存性のあるグリースによる粘性摩擦係数の変化、温度依存性のあるモータのトルクの変化による誤差を抑えることができ、高い精度で異物を検出することができる。
【0031】
また、本発明の異物検知方法は、複数の部材と、複数の部材を連結した関節と、関節を中心に複数の部材の少なくともいずれかの部材を回転させる駆動部とを備えたロボットを用いた異物検知方法において、関節を中心に複数の部材の少なくともいずれかの部材を駆動部により回転させる駆動ステップと、駆動部に対して部材を回転させるための制御信号を出力する制御ステップと、関節での回転軸まわりの第1の慣性モーメントを検出する検出ステップと、第1の慣性モーメントの値と異物の付着がない場合の関節での回転軸まわりの第2の慣性モーメントの値とを比較し、複数の部材の少なくともいずれかの部材に付着した異物の有無を判断する異物判断ステップとを備えたことを特徴とする。
【0032】
この方法によれば、部材に付着している異物の有無を検知可能となる。
【0033】
また、異物判断ステップは、検出ステップによって検出された慣性モーメントの値と異物の付着がないときの関節での回転軸まわりの慣性モーメントの値とを比較し、検出された慣性モーメントの値の方が大きいときに異物が付着していると判断するようにしてもよい。
【0034】
これによれば、さらに、部材に異物が付着していることを検知することができる。
【0035】
また、異物判断ステップは、第1の慣性モーメントの値の方が第2の慣性モーメントの値よりも大きいときに異物が付着していると判断するようにしてもよい。
【0036】
これによれば、さらに、異物が付着している部材を特定することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、任意の部位に取り付けられた盗聴器や盗撮器などの異物の有無を検知可能とする異物検知方法およびロボットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0039】
本発明の実施の形態におけるロボットは、複数の部材を連結した関節を中心に部材を回転させ、関節での回転軸まわりの慣性モーメントを検出することで、検出された慣性モーメントの値と異物の付着がない場合の関節での回転軸まわりの慣性モーメントの値とを比較し、複数の部材に付着した異物の有無を判断するものである。さらに、複数の部材の関節それぞれでの回転軸まわりの慣性モーメントを順次に検出し、関節ごとに検出された慣性モーメントの値それぞれにもとづいて異物の付着の有無を判断し、判断された複数の判断結果にもとづいて異物が付着している部材を特定するものである。
【0040】
本実施の形態では、倒立二輪型移動部に物をつかむための指を備えるハンドと、ハンドの位置を可変するための2つの腕で構成されるマニピュレータを搭載し、宅内を移動可能なロボットを実施例として説明する。
【0041】
以下、図面を用いてロボットの構成について説明する。図1は本発明の実施の形態のロボットの構成を示す構成図である。
【0042】
図1に示すように、ロボット1は、土台となる筐体200と、一組の車輪201と、上腕202と、前腕203と、物をつかむためのハンド204とを備える。
【0043】
各部材を回転可能に連結した関節300、関節301、関節302、関節303には、モータ(図示せず)がそれぞれ備えてある。モータは、駆動電流により所定のトルクを発生し、各部材を回転させる。なお、モータの軸回りのトルクを歯車やワイヤーによって別の回転軸に増幅して伝達する機構を有してもよい。このような駆動機構については、広く知られている機構を使用して構成することができる。
【0044】
車輪201と筐体200は、関節300の部分で、モータ(図示せず)により連結されている。ロボット1は、モータを回転させ、モータに連結された車輪201を回転させて移動を行う。
【0045】
ロボット1は、移動制御により、あらかじめロボット1の内部に記憶された地図の位置情報と、車輪201の回転検出によるオドメトリを用いた位置情報とを比較し、自己位置を検出しながら目的地へ移動する。なお、超音波センサによる外部環境認識などの情報を用いてもよい。
【0046】
上腕202と筐体200は、関節301の部分で、モータ(図示せず)のシャフトを介して連結されている。また、上腕202は、モータの回転によって、筐体200と連結している関節301の部分を中心に回転する。
【0047】
前腕203と上腕202は、関節302の部分で、モータ(図示せず)のシャフトを介して連結されている。また、前腕203は、モータの回転によって、上腕202と連結している関節302の部分を中心に回転する。
【0048】
ハンド204は、たとえば、2本の指で物をつかめるように構成されており、関節303の部分で、前腕203とモータ(図示せず)のシャフトを介して連結されている。また、ハンド204は、モータの回転によって、前腕203と連結している関節303の部分を中心に回転する。また、マニピュレーションでは、たとえば、搭載された画像認識装置によって把持対象物の位置を認識し、上腕202および前腕203およびハンド204の姿勢を制御し、把持制御を行う。
【0049】
つぎに、ロボット1における異物検出部について説明する。
【0050】
異物検出部は、ロボット1に備えられ、各部材に付着した異物の有無を検知するものである。異物検出部は、異物検出のために各関節に備えたモータを駆動し、関節ごとに回転軸まわりの慣性モーメントを検出する。
【0051】
異物検出部は、検出された慣性モーメントの値と異物が付着していない場合の慣性モーメントとを比較し、部材に付着した異物があるか否かを判断する。ここで、異物検出部は、部材の慣性モーメントの値が、異物の質量により異物が付着していないときよりも増加することを利用して、部材に付着した異物があることを検出する。
【0052】
以下、図2を用いて、異物検出部について説明する。図2は、異物検出部の構成を示すブロック図である。
【0053】
図2において、異物検出部は、ロボット1本体を移動するための制御を行う移動制御部150と、ハンド204で物を把持するための制御を行うハンド制御部160と、車輪201を駆動させて異物を検知する車輪異物検知部10と、上腕202を駆動させて異物を検知する上腕異物検知部20と、前腕203を駆動させて異物を検知する前腕異物検知部30と、異物の検出するための制御信号を車輪異物検知部10と上腕異物検知部20と前腕異物検知部30とに出力する異物検出制御部100と、異物を検知したときに処置を行う異物処置部140とを備える。
【0054】
まず、車輪異物検知部10は、関節300での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知するものである。
【0055】
車輪異物検知部10は、車輪駆動部110と、車輪角速度検出部112と、車輪検出部113と、車輪判断部114と、車輪温度検出部115と、を備えている。
【0056】
車輪駆動部110は、異物検出制御部100からの制御信号に応じて、車輪201と筐体200を連結する関節300に備えた一組の車輪モータ111に対して駆動電流を与え、車輪201を回転させる。車輪モータ111の回転指示は異物検出制御部100より行われる。なお、車輪201にブレーキをかけたり、または、壁などの静止構造物に当接させたりして一時的に固定状態とすることによって壁や地面に固定すれば、筐体200を回転させることもできる。また、一組の車輪モータ111は、同期して同じ回転を行うことも、それぞれが異なる回転を行うこともできる。これにより、ロボット1本体の移動時に、異物検出制御部100からの回転指示により、直進することも、蛇行することも、方向を左右に変えることもできる。
【0057】
車輪駆動部110は、回転指示により、速度制御を行いながら車輪モータ111の回転数を所定の回転角速度まで立ち上げる。また、車輪駆動部110は、位置決め制御により車輪モータ111を所定の回転角度でロックすることもできる。この制御の切り替えにより、車輪駆動部110は、車輪モータ111と連結された車輪201を回転させることも、ロックさせることもできる。ロックとは、各関節で連結された部材が所定の回転角度で固定される状態をいう。
【0058】
車輪角速度検出部112は、車輪モータ111の軸回りの回転角速度を検出する。検出された回転角速度から、さらに微分演算により回転角加速度を求めることができる。検出された回転角速度、回転角加速度を回転系の動力学モデルにもとづく運動方程式に代入すれば、慣性モーメントを検出することが可能となる。この慣性モーメントの検出方法についての詳細は後述する。
【0059】
車輪温度検出部115は、車輪モータ111の軸周辺の温度を検出する。この温度を検出することによって、たとえば、車輪モータ111の回転軸に塗布されたグリースなどが温度によりその性質が変わり、粘性摩擦係数が変化する場合に、運動方程式の粘性摩擦係数を温度に応じて補正することが可能となる。同様に、モータのトルク特性が温度で変化する場合に、運動方程式のトルク定数を温度に応じて補正することが可能となる。
【0060】
なお、ロボットの使用環境において想定される温度範囲で温度依存性の少ない、すなわち、特性、性状の安定な部材、材料を使用することによって、車輪温度検出部115を省略することも可能である。
【0061】
車輪検出部113は、車輪モータ111を含む回転系の動力学モデルにもとづく運動方程式から慣性モーメントを演算する演算部(図示せず)を備え、車輪モータ111に対する駆動電流と車輪角速度検出部112で検出された車輪モータ111の軸回りの回転角速度とから、車輪モータ111の軸まわりの慣性モーメントを検出し、その検出値を出力する。このとき、上腕202、前腕203、筐体200を静止した状態に保持する。この慣性モーメントの検出方法についての詳細は後述する。さらに、車輪検出部113は、車輪温度検出部115で検出された車輪モータ111の軸周辺の温度に応じて運動方程式の中で温度に依存する定数を補正するようにしてもよい。これにより、慣性モーメントを検出する精度を高めることができる。温度に依存する定数としては、モータトルクに係る定数、粘性摩擦などに係る定数などがある。
【0062】
車輪判断部114は、異物がロボット1に付着していないときの車輪モータ111の軸回りの慣性モーメントの値をあらかじめ記憶値として保存している。車輪判断部114は、車輪検出部113から出力される慣性モーメントの検出値とあらかじめ記憶されている慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」とし、検出値が記憶値と同じ場合は「異物の付着なし」と判断し、判断結果を出力する。ここでは、「異物の付着あり」と判断したときに「1」を出力し、「異物の付着なし」と判断したときに「0」を出力するものとする。
【0063】
なお、検出値と記憶値とを比較するときは、所定の差以上に差が検出されたときに異物の有無を判断するようにしてもよい。
【0064】
以上のように、車輪異物検知部10は、関節300での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0065】
つぎに、上腕異物検知部20は、関節301での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0066】
上腕202と筐体200は、関節301で上腕モータ121により連結されている。上腕202は、上腕モータ121の回転によって、関節301の部分を中心に回転する。
【0067】
上腕異物検知部20は、上腕駆動部120と、上腕角速度検出部122と、上腕検出部123と、上腕判断部124と、上腕温度検出部125と、を備えている。
【0068】
上腕駆動部120は、異物検出制御部100からの制御信号に応じて、上腕202と筐体200を連結する関節301に備えた上腕モータ121に対して駆動電流を与え、上腕202を回転させる。上腕モータ121の回転指示は異物検出制御部100より行われる。このとき、関節300、関節302、関節303は動きがロックされ、静止した状態に制御される。
【0069】
上腕駆動部120は、回転指示により、速度制御を行いながら上腕モータ121の回転数を所定の回転角速度まで立ち上げる。また、上腕駆動部120は、位置決め制御により上腕モータ121を所定の回転角度でロックすることもできる。この制御の切り替えにより、上腕駆動部120は、上腕モータ121と連結された上腕202を回転させることも、ロックさせることもできる。
【0070】
上腕角速度検出部122は、上腕モータ121の軸回りの回転角速度を検出する。
【0071】
上腕温度検出部125は、上腕モータ121の軸周辺の温度を検出する。
【0072】
上腕検出部123は、上腕モータ121を含む回転系の動力学モデルにもとづく運動方程式から慣性モーメントを演算する演算部(図示せず)を備え、上腕モータ121に対する駆動電流と上腕角速度検出部122で検出された上腕モータ121の軸回りの回転角速度とから、上腕モータ121の軸周りの慣性モーメントを検出し、その検出値を出力する。さらに、上腕検出部123は、上腕温度検出部125で検出された上腕モータ121の軸周辺の温度に応じて運動方程式の中で温度に依存する定数を補正するようにしてもよい。
【0073】
上腕判断部124は、異物がロボットに付着していないときの上腕モータ121の軸回りの慣性モーメントの値をあらかじめ記憶値として保存している。上腕判断部124は、上腕検出部123から出力される慣性モーメントの検出値とあらかじめ記憶されている慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」とし、検出値が記憶値と同じ場合は「異物の付着なし」と判断し、判断結果を出力する。ここでは、「異物の付着あり」と判断したときに「1」を出力し、「異物の付着なし」と判断したときに「0」を出力する。
【0074】
以上のように、上腕異物検知部20は、関節301での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0075】
つぎに、前腕異物検知部30は、同様に、関節302での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0076】
上腕202と前腕203は、関節302で前腕モータ131により連結されている。前腕203は、前腕モータ131の回転によって、関節302の部分を中心に回転する。
【0077】
前腕異物検知部30は、前腕駆動部130と、前腕角速度検出部132と、前腕検出部133と、前腕判断部134と、前腕温度検出部135と、を備えている。
【0078】
前腕駆動部130は、異物検出制御部100からの制御信号に応じて、前腕203と上腕202を連結する関節302に備えた前腕モータ131に対して駆動電流を与え、前腕203を回転させる。前腕モータ131の回転指示、およびそのタイミングは異物検出制御部100より行われる。
【0079】
前腕駆動部130は、回転指示により、速度制御を行いながら前腕モータ131の回転数を所定の回転角速度まで立ち上げる。また、前腕駆動部130は、位置決め制御により前腕モータ131を所定の回転角度でロックすることもできる。この制御の切り替えにより、前腕駆動部130は、前腕モータ131と連結された前腕203を回転させることも、ロックさせることもできる。
【0080】
前腕角速度検出部132は、前腕モータ131の軸回りの回転角速度を検出する。
【0081】
前腕温度検出部135は、前腕モータ131の軸周辺の温度を検出する。
【0082】
前腕検出部133は、前腕モータ131を含む回転系の動力学モデルにもとづく運動方程式から慣性モーメントを演算する演算部(図示せず)を備え、前腕モータ131に対する駆動電流と前腕角速度検出部132で検出された前腕モータ131の軸回りの回転角速度とから、前腕モータ131の軸周りの慣性モーメントを検出し、その検出値を出力する。さらに、前腕検出部133は、前腕温度検出部135で検出された前腕モータ131の軸周辺の温度に応じて運動方程式の中で温度に依存する定数を補正するようにしてもよい。
【0083】
前腕判断部134は、異物がロボットに付着していないときの前腕モータ131の軸回りの慣性モーメントの値をあらかじめ記憶値として保存している。前腕判断部134は、前腕検出部133から出力される慣性モーメントの検出値とあらかじめ記憶されている慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」とし、検出値が記憶値と同じ場合は「異物の付着なし」と判断し、判断結果を出力する。ここでは、「異物の付着あり」と判断したときに「1」を出力し、「異物の付着なし」と判断したときに「0」を出力する。
【0084】
以上のように、前腕異物検知部30は、関節302での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0085】
つぎに、移動制御部150は、異物検出を行うときに、車輪201を固定するための車輪止めが設置された場所へロボット1を移動するよう制御する。
【0086】
また、移動制御部150は、異物検出制御部100によって移動開始を指示される。また、移動制御部150は、車輪201を車輪止めに固定したら移動完了を異物検出制御部100へ返す。
【0087】
ハンド制御部160は、異物検出制御部100からの指示により、ハンド204の姿勢や指を所定の状態まで動作させ、ロックする。
【0088】
異物検出制御部100は、ロボット1において異物検出を行うときに、移動制御部150に対して車輪止めへの移動を指示する。また、異物検出制御部100は、ハンド制御部160に対してハンド204を所定の姿勢にロックするように指示する。また、異物検出制御部100は、車輪駆動部110、上腕駆動部120、前腕駆動部130、ハンド制御部160それぞれに対してモータの回転、ロックの指示を行い、異物検出、異物除去を行う。
【0089】
異物処置部140は、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134からの判断結果にもとづいて、各部材に付着した異物の有無を判断する。また、異物処置部140は、判断結果に応じて、「異物の付着なし」の場合は、異物検出を終了しロボット1が他の動作に移れるようにする。具体的には、ロボット1は、車輪止めの位置から通常使用される位置に戻り、使用者からの指示を受ける。
【0090】
一方、「異物の付着あり」の場合は、異物処置部140は、ブザーなどの音、LEDなどの光、モニタなどによる表示、などにより異物の付着があること、その異物が付着した部材の位置の情報などを使用者に報知する。さらに、異物の付着位置が特定され、ハンド204により除去可能な場合は、異物を除去するように異物検出制御部100に指示する。これにより、異物検出制御部100は、車輪駆動部110、上腕駆動部120、前腕駆動部130、ハンド制御部160それぞれに対してモータの回転、ロックの指示を行い、異物を除去する。なお、異物の除去が不可能な場合、異物が除去されるまでロボット1の動作を禁止するようにしてもよい。この場合、異物の除去は、たとえばロボット1の使用者が行う。使用者は、異物を除去した後、ロボット1に異物を除去したことを情報として設定する。
【0091】
なお、車輪角速度検出部112、上腕角速度検出部122、前腕角速度検出部132は、ロボット1のマニピュレーションとしても動きの制御に欠かせないものである。
【0092】
つぎに、ロボット1における異物検出の動作について、図3、図4を用いて説明する。
【0093】
図3はロボット1における異物検出の動作を説明するフローチャート、図4(a)は車輪の異物検出時のロボット1の姿勢を説明する説明図、図4(b)は上腕の異物検出時のロボット1の姿勢を説明する説明図、図4(c)は前腕の異物検出時のロボット1の姿勢を説明する説明図である。
【0094】
図3に示すように、ロボット1は、異物検出制御部100により、異物検出の動作指示を移動制御部150、ハンド制御部160、車輪異物検知部10、上腕異物検知部20、前腕異物検知部30に対して行う。
【0095】
まず、ロボット1は、移動制御部150からの指示により、異物検出を行うための場所へ移動する。ロボット1は、図4(a)に示すように、車輪止め210の場所へ移動し(S401)、車輪201を車輪止め210によって地面に固定する(S402)。車輪止め210は、一組の車輪201のそれぞれに対して、ロボット1とは別に地面(宅内ならば床に相当)に設置されている。車輪止め210は、車輪201の回転平面の両側から車輪201をはさみ、摩擦力によって車輪201が回転しないように床面または地面に固定する。なお、車輪止め210は、車輪止め210の間に車輪201が来たことを検出し、車輪201をはさむようにしてもよい。また、車輪止め210の間の距離を徐々に狭く設定し、車輪201が押し当てられることで車輪201が固定される仕組みとしてもよい。
【0096】
なお、筐体200を固定するために、車輪201自体を上下移動可能とする機構部を設け、車輪201を持ち上げることで、筐体200を床面などに当接して固定してもよい。
【0097】
また、慣性モーメントの検出を行わない部材の一部を壁などに当接して固定するようにしてもよい。ハンド204の指で固定している物をつかむことで、固定するようにしてもよい。
【0098】
つぎに、ロボット1は、関節300での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知するための姿勢をとる。
【0099】
ロボット1は、異物検出制御部100から指示された前腕駆動部130、上腕駆動部120、ハンド制御部160により、前腕モータ131、上腕モータ121、ハンド204それぞれのモータを回転させ、異物検出に適した姿勢まで動かしてロックする(S403)。
【0100】
図4(a)に示すように、ロボット1は、車輪モータ111の軸回りの慣性モーメントを極力小さくするために上腕202と前腕203とハンド204を折りたたむ姿勢でロックし、車輪モータ111の回転中心からの質点の半径範囲を小さくする。
【0101】
つぎに、ロボット1は、車輪温度検出部115で車輪モータ111の軸周辺の温度を検出し、その値に応じて動力学モデルの中で、温度に依存する定数などを補正する(S404)。
【0102】
つぎに、ロボット1は、車輪駆動部110により、車輪モータ111を回転させる(S405)。このとき、車輪201は車輪止め210によって地面に固定されているため、車輪モータ111の回転によって筐体200の側が車輪モータ111の軸回りに回転する。これにより、車輪モータ111の軸回りの回転角速度を検出すれば、一体となって回転する筐体200、上腕202、前腕203、ハンド204を含む部材の慣性モーメントの検出が可能となる。
【0103】
つぎに、車輪角速度検出部112は車輪モータ111の軸回りの回転角速度を検出する。さらに、車輪検出部113は、車輪駆動部110が出力する駆動電流に応じて車輪モータ111に発生するトルクと、検出した回転角速度にもとづいて車輪モータ111の軸周りの慣性モーメントを検出し、検出値を出力する(S406)。
【0104】
つぎに、ロボット1は、車輪判断部114により、車輪モータ111の軸回りの慣性モーメントについて、車輪検出部113が出力した慣性モーメントの検出値と、異物が付着していないときの慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きいか否かを判断する。これにより、車輪判断部114は、付着した異物の有無を検知する。車輪判断部114は、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」と判断した「1」を出力し、検出値が記憶値よりも小さい場合は「異物の付着なし」と判断した「0」を判断結果として出力する(S407)。
【0105】
以上のように、ロボット1は、関節300での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知することができる。
【0106】
つぎに、ロボット1は、関節301での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知するための姿勢をとる。
【0107】
ロボット1は、異物検出制御部100から指示された前腕駆動部130、車輪駆動部110、ハンド制御部160により、前腕モータ131、車輪モータ111、ハンド204それぞれのモータを回転させ、異物検出に適した姿勢まで動かしてロックする(S408)。
【0108】
図4(b)に示すように、ロボット1は、上腕モータ121の軸回りの慣性モーメントを極力小さくするために前腕203とハンド204を折りたたむ姿勢でロックし、上腕モータ121の回転中心からの質点の半径範囲を小さくする。
【0109】
つぎに、ロボット1は、上腕温度検出部125で上腕モータ121の軸周辺の温度を検出し、その値に応じて動力学モデルの中で、温度に依存する定数などを補正する(S409)。
【0110】
つぎに、ロボット1は、上腕駆動部120により、上腕モータ121を回転させる(S410)。このとき、筐体200、車輪201は固定され、前腕203およびハンド204はロックによって上腕202と共に回転する。これにより、上腕モータ121の軸回りの回転角速度を検出すれば、一体となって回転する上腕202、前腕203、ハンド204を含む部材の慣性モーメントの検出が可能となる。
【0111】
つぎに、上腕角速度検出部122は、上腕モータ121の回転角速度を検出する。さらに、上腕検出部123は、上腕駆動部120が出力する駆動電流に応じて上腕モータ121に発生するトルクと、検出した回転角速度にもとづいて上腕モータ121の軸周りの慣性モーメントを検出し、検出値を出力する(S411)。
【0112】
つぎに、ロボット1は、上腕判断部124により、上腕モータ121の軸回りの慣性モーメントについて、上腕検出部123が出力した慣性モーメントの検出値と、異物が付着していない状態における慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きいか否かを判断する。これにより、上腕判断部124は、付着した異物の有無を検知する。上腕判断部124は、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」と判断した「1」を出力し、検出値が記憶値よりも小さい場合は「異物の付着なし」と判断した「0」を判断結果として出力する(S412)。
【0113】
以上のように、ロボット1は、関節301での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0114】
つぎに、ロボット1は、関節302での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知するための姿勢をとる。
【0115】
ロボット1は、異物検出制御部100から指示された上腕駆動部120、車輪駆動部110、ハンド制御部160により、上腕モータ121、車輪モータ111、ハンド204それぞれのモータを回転させ、異物検出に適した姿勢まで動かしてロックする(S413)。
【0116】
図4(c)に示すように、ロボット1は、前腕モータ131の軸回りの慣性モーメントを極力小さくするためにハンド204を折りたたむ姿勢でロックし、前腕モータ131の回転中心からの質点の半径範囲を小さくする。
【0117】
つぎに、ロボット1は、前腕温度検出部135で前腕モータ131の軸周辺の温度を検出し、その値に応じて動力学モデルの中で、温度に依存する定数などを補正する(S414)。
【0118】
つぎに、ロボット1は、前腕駆動部130により、前腕モータ131を回転させる(S415)。このとき筐体200、車輪201、上腕202は固定され、ハンド204は前腕203と共に回転する。これにより、前腕モータ131の軸回りの回転角速度を検出すれば、一体となって回転する前腕203、ハンド204を含む部材の慣性モーメントの検出が可能となる。
【0119】
つぎに、前腕角速度検出部132は、前腕モータ131の回転角速度を検出する。さらに、前腕検出部133は、前腕駆動部130が出力する駆動電流に応じて前腕モータ131に発生するトルクと、検出した回転角速度にもとづいて前腕モータ131の軸周りの慣性モーメントを検出し、検出値を出力する(S416)。
【0120】
つぎに、ロボット1は、前腕判断部134により、前腕モータ131の軸回りの慣性モーメントについて、前腕検出部133が出力した慣性モーメントの検出値と、異物が付着していないときの慣性モーメントの記憶値とを比較し、検出値が記憶値よりも大きいか否かを判断する。これにより、前腕判断部134は、異物の有無を検知する。前腕判断部134は、検出値が記憶値よりも大きい場合は「異物の付着あり」と判断した「1」を出力し、検出値が記憶値よりも小さい場合は「異物の付着なし」と判断した「0」の判断結果を出力する(S417)。
【0121】
以上により、ロボット1は、関節302での慣性モーメントの検出により異物の有無を検知する。
【0122】
つぎに、ロボット1は、異物処置部140により、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134の判断結果の出力にもとづき、異物付着の有無を判断し、さらに場所を特定する。このとき、各判断結果出力がすべて「0」の場合は「異物の付着なし」と判断し、いずれかの判断結果が「1」ならば、「異物の付着あり」と判断する(S418)。
【0123】
ロボット1は、「異物の付着なし」と判断した場合、車輪201の車輪止め210を解除し、通常の操作を行う場所に移動し、使用者の操作指示を受け付け、異物検出を終了する(S419)。
【0124】
一方、ロボット1は、「異物の付着あり」と判断した場合、異物の付着があることをブザーやモニタ表示によって報知し(S420)、異物が除去されるまで移動を禁止する。ハンド204により異物の除去が可能であれば異物除去を行う(S421)。
【0125】
なお、異物処置部140はロボット1本体における異物付着の有無を判断したが、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134の判断結果の出力にもとづき、さらに、部位を特定するようにしてもよい。たとえば、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134の判断結果がそれぞれ「1」、「0」、「0」であった場合、上腕202より先には異物の付着がないことがわかるので、筐体200に異物が付着していることを特定できる。また、判断結果がそれぞれ「1」、「1」、「0」であった場合、筐体200または上腕202に異物が付着していることを特定できる。このように、順次に検出された判断結果を用いることで、異物が付着している部位を特定できる。
【0126】
特定された異物の位置を報知すれば、外見では見つけにくい部位に異物が付着していても、使用者は容易に見つけて除去することができる。さらに、ロボット1が備えるハンド204で異物を指ではさんで除去するのが可能であれば、除去処置を行うことができる。なお、アームの振動によって除去してもよい。
【0127】
また、各部位ごとに慣性モーメントを検出せず、たとえば車輪モータ111の軸回りの慣性モーメントのみを検出し、S408からS417までを省略するようにしてもロボット1本体における異物の付着の有無を判断できる。
【0128】
また、各部位に分けて検出すれば、異物付着による慣性モーメントの増加分を相対的に大きくでき、異物付着の有無をより高い精度で判断することができる。
【0129】
また、車輪止め210によって車輪201を床面に固定し、車輪201以外の部位の慣性モーメントを検出するようにしたが、逆に筐体200を床面に固定するようにして、車輪201を回転させ、車輪201の慣性モーメントを検出するようにしてもよい。
【0130】
具体的には、筐体200に伸縮自在な脚を設け、ロボット1は、この脚を車輪201が浮くまで伸ばすことで、筐体200を床面に固定してもよい。ロボット1は、筐体200を床面に固定した後で車輪201を回転させることで、車輪201の慣性モーメントを検出できる。これにより、ロボット1は、車輪201に付着した異物の有無を検出できる。
【0131】
このように、車輪201を上下移動して筐体200を固定する機構部、車輪201を浮かすために筐体200に備えた伸縮自在な脚、車輪201を固定するための車輪止め210など、慣性モーメントを検出しない部材を固定するための部材固定部(図示せず)を設けることで、慣性モーメントの検出時に部材を回転させたときに発生する揺れを防止でき、検出誤差を低減できる。
【0132】
このように、慣性モーメントの検出を行わない部材を静止状態に保持させることで、慣性モーメントの検出時に回転された部材により発生するロボット本体の揺れを防止でき、検出誤差を低減できる。また、異物の有無を特定する部材の場所に応じて、静止させる部材を変更することで、異物の場所を精度よく特定できる。
【0133】
また、ロボット1は、搭載されているバッテリーの充電が終了した後で異物検出を行ってもよいし、ロボット1が何ら作業を行っていない待機状態のときに行ってもよいし、待機状態が所定の時間以上続いたときに行ってもよい。
【0134】
ロボット1において、異物検出を充電終了後に行われる場合、定期的に充電がなされるため、異物が付着しているのを長期間見逃すことがない。また、車輪止め210の場所で充電を行えばS401への移動を省略することができ、移動に要する時間を短縮できる。
【0135】
ロボット1において、異物検出を待機状態のときに行えば、作業効率を落とすことがない。
【0136】
また、S401からS421まで、異常が発生しない場合を説明したが、たとえば、モータの異常、前腕203などの障害物への衝突など、正常に慣性モーメントを検出できない場合も想定される。これを回避するため、回転角度を検出するセンサや衝突を検出するセンサ、故障を検出するセンサなどを用いてロボット1の異常を検出し、異物検出を中止するようにしてもよい。
【0137】
つぎに、慣性モーメントの検出方法について詳細に説明する。
【0138】
DCモータにおいて、モータへの入力電流を時変数I、モータの回転角速度を時変数ω、モータの回転角加速度をα、モータのトルク定数をK、モータの回転軸まわりの慣性モーメントをJ、粘性摩擦係数をDとすると、トルクTは、以下の運動方程式よって表わされることが知られている。
【0139】
T=K×I
=J×α+D×ω
本実施の形態において、電流Iは、車輪駆動部110、上腕駆動部120、前腕駆動部130が、それぞれ車輪モータ111、上腕モータ121、前腕モータ131に与える駆動電流である。
【0140】
また、回転角速度ωは、車輪角速度検出部112、上腕角速度検出部122、前腕角速度検出部132で検出された検出信号である。また、回転角加速度αは回転角速度ωを微分することにより求められたものである。
【0141】
また、トルク定数K、粘性摩擦係数D、慣性モーメントJは、ロボット1の設計の段階で既知のものである。これにより、もし、ロボット1の部材に異物が付着すると、異物の重量により、慣性モーメントJの値が設計値より大きくなる。この慣性モーメントJの変化を検出することで、異物の付着を判断できる。
【0142】
このように、慣性モーメントを利用して異物を検出することで、回転角加速度を大きくすればするほど、質量の小さい異物でも、慣性モーメントJを相対的に大きくでき、検出精度を高めることができる。この効果は、静的なモーメントでは得られない効果である。
【0143】
また、車輪検出部113、上腕検出部123、前腕検出部133は、それぞれ入力された回転角速度ωから回転角加速度αを求め、駆動電流I、および既知のトルク定数K、粘性摩擦係数Dで定まる運動方程式から最小二乗法などにより慣性モーメントJを検出することができる。検出方法は、最小二乗法によらず、既知の様々な手法を適用してもよい。
【0144】
また、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134は、ロボット1の姿勢に動力学モデルにもとづいて慣性モーメントの設計値を求め、記憶値として記憶してもよい。また、車輪判断部114、上腕判断部124、前腕判断部134は、工場出荷時などに、あらかじめ慣性モーメントを検出するときの姿勢をロボット1にさせ、その姿勢での慣性モーメントを実測した値を記憶するようにしてもよい。検出するときの姿勢と同じ姿勢で慣性モーメントを実測して記憶すれば、複雑な慣性モーメントの設計値の計算が不要となるだけでなく、設計上の誤差による影響も同時に低減できる。
【0145】
なお、粘性摩擦係数Dは、特にモータの回転軸に塗布されたグリースなどの性質により、温度によって変化する場合がある。このため、ロボット1は、車輪温度検出部115、上腕温度検出部125、前腕温度検出部135が検出した温度に応じて、慣性モーメントの検出時に粘性摩擦係数Dを補正する。これにより、より高い精度で慣性モーメントを検出することができる。もちろん温度依存性の小さいグリースを用いれば、このような補正は省略することができる。また、慣性モーメントの検出に係るもので、温度依存の少ないものが使用されるならば、車輪温度検出部115、上腕温度検出部125、前腕温度検出部135を省略することは可能である。
【0146】
また、筐体200、上腕202、前腕203の順に慣性モーメントを検出したが、逆の順番に検出するようにしてもよい。
【0147】
また、ロボット1の慣性モーメントを検出するとき、関節部での慣性モーメントを最小にするための姿勢は、上腕、前腕を折りたたむようにしてもよいし、上腕、前腕を伸縮可能な構造とし、縮めてもよい。
【0148】
以上のように、本発明によれば、特別なセンサを用いることなく任意の部位に付着された異物の有無を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明によれば、任意の部位に取り付けられた盗聴器や盗撮器などの異物の有無を検知可能であり、異物検知方法およびロボットなどに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明の実施の形態におけるロボットの構成を示す構成図
【図2】同異物検出部の構成を示すブロック図
【図3】同ロボットにおける異物検出の動作を説明するフローチャート
【図4】(a)同車輪の異物検出時のロボットの姿勢を説明する説明図(b)同上腕の異物検出時のロボットの姿勢を説明する説明図(c)同前腕の異物検出時のロボットの姿勢を説明する説明図
【符号の説明】
【0151】
1 ロボット
10 車輪異物検知部
20 上腕異物検知部
30 前腕異物検知部
100 異物検出制御部
110 車輪駆動部
111 車輪モータ
112 車輪角速度検出部
113 車輪検出部
114 車輪判断部
115 車輪温度検出部
120 上腕駆動部
121 上腕モータ
122 上腕角速度検出部
123 上腕検出部
124 上腕判断部
125 上腕温度検出部
130 前腕駆動部
131 前腕モータ
132 前腕角速度検出部
133 前腕検出部
134 前腕判断部
135 前腕温度検出部
140 異物処置部
150 移動制御部
160 ハンド制御部
200 筐体
201 車輪
202 上腕
203 前腕
204 ハンド
210 車輪止め
300,301,302,303 関節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を連結した関節を中心に前記複数の部材の少なくともいずれかの部材を回転させる駆動部と、
前記駆動部に対して前記部材を回転させるための制御信号を出力する制御部と、
前記関節での回転軸まわりの第1の慣性モーメントを検出する検出部と、
前記第1の慣性モーメントの値と異物の付着がない場合の前記関節での回転軸まわりの第2の慣性モーメントの値とを比較し、前記複数の部材の少なくともいずれかの部材に付着した異物の有無を判断する異物判断部と、
を備えることを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記異物判断部は、前記第1の慣性モーメントの値の方が前記第2の慣性モーメントの値よりも大きいときに異物が付着していると判断することを特徴とする請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記関節が複数あり、
前記検出部は、複数の前記関節それぞれでの回転軸まわりの前記第1の慣性モーメントを順次に検出し、
前記異物判断部は、前記関節ごとに検出された前記第1の慣性モーメントの値それぞれに対して異物の付着の有無を判断し、判断された複数の判断結果にもとづいて異物が付着している部材を特定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の慣性モーメントの検出を行わない関節に係る駆動部を所定の姿勢に保持させることを特徴とする請求項3に記載のロボット。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の慣性モーメントの検出を行う関節に係る駆動部に対しては所定の回転を行うための制御信号を出力し、前記第1の慣性モーメントの検出を行わない関節に係る駆動部に対しては、前記所定の姿勢として前記第1の慣性モーメントの検出を行う関節に係る駆動部での回転軸まわりの前記第1の慣性モーメントを最小にするための姿勢をさせる制御信号を出力することを特徴とする請求項4に記載のロボット。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の慣性モーメントの検出を行わない部材を静止状態に保持させることを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載のロボット。
【請求項7】
前記第1の慣性モーメントの検出を行わない前記複数の部材の少なくともいずれかの部材を静止状態に保持するための部材固定部をさらに備え、
前記検出部は、前記部材固定部により前記複数の部材の少なくともいずれかの部材が静止状態に保持された後で前記第1の慣性モーメントを検出することを特徴とする請求項6に記載のロボット。
【請求項8】
前記異物判断部で異物が付着していると特定された部材から前記異物を取り除く異物処置部をさらに備えたことを特徴とする請求項3から請求項7までのいずれか1項に記載のロボット。
【請求項9】
前記検出部は、前記第1の慣性モーメントJを、
T=J×α+D×ω
(T:トルク、α:回転角加速度、D:粘性摩擦係数、ω:回転角速度)
の関係式にもとづいて検出することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のロボット。
【請求項10】
前記関節の温度を検出する温度検出部をさらに備え、
前記検出部は、前記温度検出部で検出された前記温度にもとづいて、前記関係式における前記トルクTまたは前記粘性摩擦係数Dを補正し、前記第1の慣性モーメントJを検出することを特徴とする請求項9に記載のロボット。
【請求項11】
複数の部材と、前記複数の部材を連結した関節と、前記関節を中心に前記複数の部材の少なくともいずれかの部材を回転させる駆動部とを備えたロボットを用いた異物検知方法において、
前記関節を中心に前記複数の部材の少なくともいずれかの部材を前記駆動部により回転させる駆動ステップと、
前記駆動部に対して前記部材を回転させるための制御信号を出力する制御ステップと、
前記関節での回転軸まわりの第1の慣性モーメントを検出する検出ステップと、
前記第1の慣性モーメントの値と異物の付着がない場合の前記関節での回転軸まわりの第2の慣性モーメントの値とを比較し、前記複数の部材の少なくともいずれかの部材に付着した異物の有無を判断する異物判断ステップと、
を備えたことを特徴とする異物検知方法。
【請求項12】
前記異物判断ステップは、前記第1の慣性モーメントの値の方が前記第2の慣性モーメントの値よりも大きいときに異物が付着していると判断することを特徴とする請求項11に記載の異物検知方法。
【請求項13】
前記関節が複数あり、
前記検出ステップは、複数の前記関節それぞれでの回転軸まわりの前記第1の慣性モーメントを順次に検出し、
前記異物判断ステップは、前記関節ごとに検出された前記第1の慣性モーメントの値それぞれに対して異物の付着の有無を判断し、判断された複数の判断結果にもとづいて異物が付着している部材を特定することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の異物検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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