説明

異種金属部材の接合方法

【課題】ガルバニック腐食の懸念を何等顧慮することなく、接合部の健全性を効果的に高め得る異種金属部材の接合方法を提供すること。
【解決手段】 Al板2と鋼板4とを重ね合わせ、Al板2の側から、回転工具10のショルダ部材14の先端に同軸的に位置せしめたプローブ16を、回転させつつ、その先端が鋼板4の直上に達するように差し込み、摩擦撹拌して、それらAl板2及び鋼板4を接合せしめるに際して、回転工具10として、プローブ16がショルダ部材14とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式回転工具を用い、プローブ16をAl板2に差し込んで、Al板と鋼板4の摩擦撹拌接合を行なった後、プローブ16を、Al板2に形成された摩擦撹拌部18から引き抜く一方、かかる引き抜きによって生じるプローブ穴を、摩擦撹拌部18の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属部材の接合方法に係り、特に、材質が異なり、また硬度も異なる二つの金属部材の板状部を重ね合わせて、その重ね合わせ部分を接合する際に、接合部の健全性を高め得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護や省エネルギーの観点から、自動車の排出する有害ガスや二酸化炭素の発生の抑制、燃費の向上等が、要請されている。そして、そのような要請に応えるためには、自動車の軽量化が最も有効であるところから、ボデー部材や各種の部品において、鋼材からアルミニウム材への材質の転換が、盛んに検討されている。しかしながら、自動車を構成するボデー部材や各種部品の材料の全てをアルミニウム材料にすることは、コスト的にも困難であり、このため、アルミニウム材を用いる場合においては、鋼とアルミニウムとの異種金属間の接合、所謂ハイブリッド接合が避けられず、この異種金属接合が、重要な課題となっている。
【0003】
また、かかるアルミニウム材と鋼材との異種金属部材間の接合は、上述せる如き自動車に代表される輸送機の分野のみならず、家電製品、建材等の構造物等、各種の分野においても、要請され、そこでは、その強固な接合が求められている。更に、アルミニウム材料だけでなく、銅材料の如き軟質金属からなる材料と、鋼の如き硬質金属からなる材料との異種金属接合においても、その強固な接合が求められている。
【0004】
ところで、従来より、金属材の接合において一般的に用いられている溶融溶接法にて、アルミニウム材と鋼等の鉄材とを接合すると、その接合時に各金属が溶融して、それらの接合界面には、脆くて硬い金属間化合物(Fe2 Al5 、FeAl3 等)が生成され、これによって、接合強度が弱くなるといった問題があった。このため、異種金属接合において、充分な接合強度を確保するために、かしめやリベット接合、ボルト接合等の機械的接合、爆着、接着、回転摩擦圧接等、各種の接合法が検討されてきているのであるが、その何れの手法も、接合の作業性や接合部の信頼性、意匠性、接合コスト等の点において、実用化するには、多かれ少なかれ、何等かの問題を内在している。
【0005】
そこで、本願出願人は、先に、特許文献1において、接合時の入熱が少なく、被接合材を溶融させずに塑性流動化せしめた状態で固相接合する摩擦撹拌接合手法(Friction Stir Welding )にて、軟質のアルミニウム材と硬質の鋼部材とを接合する方法を提案した。より具体的には、硬質の裏当て部材の上に、接合対象である軟質のアルミニウム材と鋼材とを、アルミニウム材が上になるように重ね合わせて拘束し、その重ね合わせ部に対して、軸回りに高速回転せしめたロッド状の回転工具のショルダー面から突出するピン状の硬質プローブを、ショルダー面がアルミニウム材の表面に接するまで、且つプローブの先端が硬質の鋼材に接しないように差し込んで、摩擦熱を発生せしめ、そして、その摩擦熱にて塑性流動化したアルミニウム材を硬質プローブで撹拌して、アルミニウム材と鋼材とを接合する方法を提案したのであり、これによって、金属間化合物の発生を有利に抑制乃至は防止して、アルミニウム材と鋼材との間の確実な接合を図り、引張剪断による接合強度(継手強度)を有利に向上し得ることを明らかにしたのである。
【0006】
しかしながら、このような摩擦撹拌接合法にて接合される接合材(継手)にあっては、回転工具のショルダー面を与える工具本体とプローブとが一体的な構造とされており、そのために、上記した摩擦撹拌接合操作が終了した後、回転工具を接合部から引き抜くと、かかる回転工具のプローブに対応した穴が接合部(摩擦撹拌部)に残存して、その表面に開口することとなり、そして、そのようなプローブ跡を示す穴の存在は、得られる接合材の塗装等において、液溜りの問題を生じることに加えて、穴底部における腐食の問題を発生させる懸念を内在するものであった。即ち、それらアルミニウム材と鋼材との摩擦撹拌接合において、アルミニウム材側から差し込まれた回転工具のプローブは、その先端が鋼材表面の近接位置まで達するようにして摩擦撹拌作用を惹起し、それらアルミニウム材と鋼材とが充分な接合強度にて接合され得るように、摩擦撹拌領域が形成されることとなるのであるが、その際、アルミニウム材と鋼材との界面、特に鋼材表面に存在する酸化物やFe金属成分、Znメッキ等が、摩擦撹拌部内に巻き込まれることなく、プローブ穴底部の表面に露呈することがあり、その場合において、プローブ穴内に水が浸入したりすると、それらとアルミニウム材のアルミニウム金属との間において、異種金属接触腐食、所謂ガルバニック腐食(電気的な腐食)が惹起される恐れがあったのである。
【0007】
また、特許文献2においても、異種金属材料を摩擦撹拌接合する手法が提案され、そこでは、低融点の材料側から接合界面を突き抜けて、高融点の材料側まで、摩擦撹拌治具のプローブの先端を挿入する手法が、明らかにされているが、プローブの材質としては、通常、鋼製のものが用いられているところから、この手法をアルミニウム材と鋼材の接合に適用すると、プローブが鋼材によって損耗され、治具の寿命が極めて短くなるといった問題がある。
【0008】
一方、本願出願人は、特許文献3において、複数の重ね合わせたアルミニウム材に対して、回転工具本体とは別体とした圧入プローブを、回転させながら圧入して、摩擦撹拌した後、かかる圧入プローブを引き抜く一方、それによる圧入穴(プローブ)を他所からの素材にて埋め込むようにすることによって、接合部分に圧入プローブの圧入穴が残らないようにしたアルミニウム材の点接合方法を明らかにしたが、そこでは、複数のアルミニウム材を対象として、それらを摩擦撹拌接合法にて点接合する手法が、明らかにされているに過ぎない。
【0009】
【特許文献1】特開2003−275876号公報
【特許文献2】特開2003−170280号公報
【特許文献3】特開2001−259863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、材質が異なり、また、硬度の異なる複数の金属材料の板状部を重ね合わせて、その重ね合わせ部分を摩擦撹拌接合する際に、ガルバニック腐食の懸念を何等顧慮することなく、接合部の健全性を効果的に高め得る異種金属部材の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、上記した課題の解決のために、軟質金属からなる第一の部材と硬質金属からなる第二の部材とを重ね合わせ、該第一の部材側から、軸回りに回転せしめられる回転工具のショルダ部材の先端に同軸的に位置せしめたプローブを、回転させつつ、その先端が該第二の部材の直上に達するように差し込み、摩擦撹拌して、それら第一及び第二の部材を接合せしめるに際して、前記回転工具として、前記プローブが前記ショルダ部材とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式回転工具を用い、該プローブを前記第一の部材に差し込んで、前記第一及び第二の部材の摩擦撹拌接合を行なった後、該プローブを、該第一の部材に形成された摩擦撹拌部から引き抜く一方、かかる引き抜きによって生じるプローブ穴を、該摩擦撹拌部の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにしたことを特徴とする異種金属部材の接合方法を、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に従う異種金属部材の接合方法によれば、回転工具として複動式回転工具を用い、プローブがショルダー部材とは別個に軸方向に移動可能とされているところから、第一の部材と第二の部材の摩擦撹拌作用による固相接合を行なった後、かかるプローブを引き抜き、そして、それによって生じるプローブ穴を、形成された摩擦撹拌部の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにすることが出来ることとなり、以て、プローブ穴が埋め込まれることにより、そのようなプローブ穴の底部に、それら第一の部材と第二の部材の界面、特に、第二の部材の表面の酸化物や第二の部材の金属成分、更には、その表面加工成分等が存在していても、それらは、摩擦撹拌部の他部位から流入した材料によって埋め込まれ、外部には露呈するようなことがないところから、第一の部材側が水に接触せしめられる場合があっても、それによって、第一の部材の金属成分との間において電池が構成されて、ガルバニック腐食が発生するような懸念は何等生じることがないのである。
【0013】
従って、本発明においては、プローブ穴が残らないところから、得られた異種金属接合材における塗装の液溜り等の問題が回避されることに加えて、ガルバニック腐食が発生する懸念も効果的に解消され得ることとなって、摩擦撹拌接合部の品質が向上され、以て、その健全性が有利に高められ得ることとなったのである。
【発明の態様】
【0014】
ところで、本発明は、以下に列挙する如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、その他、以下の記載に基づき、当業者によって想到され得る種々なる態様においても、実現することが可能である。
【0015】
(1)軟質金属からなる第一の部材と硬質金属からなる第二の部材とを重ね合わせ、該第一の部材側から、軸回りに回転せしめられる回転工具のショルダ部材の先端に同軸的に位置せしめたプローブを、回転させつつ、その先端が該第二の部材の直上に達するように差し込み、該第一の部材の摩擦撹拌を行ない、それら第一及び第二の部材を接合せしめるに際して、前記回転工具として、前記プローブが前記ショルダ部材とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式回転工具を用い、該プローブを前記第一の部材に差し込んで、前記第一及び第二の部材の摩擦撹拌接合を行なった後、該プローブを、該第一の部材に形成された摩擦撹拌部から引き抜く一方、かかる引き抜きによって生じるプローブ穴を、該摩擦撹拌部の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにしたことを特徴とする異種金属部材の接合方法。
【0016】
(2)前記ショルダ部材の外周面にバリ抑え筒体が外挿されて、前記第一の部材の表面に当接せしめられることにより、該ショルダ部材の周りにおけるバリの発生が抑制乃至は阻止され得るようになっている態様(1)に記載の異種金属部材の接合方法。
このような態様によれば、バリ抑え筒体の存在により、プローブの差し込みにて、ショルダー部材の回りに摩擦撹拌部から押し出されて発生するバリが効果的に抑制乃至は阻止され得ることとなるのであり、また、そのような押し出される材料が、バリ抑え筒体の当接によって、摩擦撹拌部内に押し込められるようになるところから、第二の部材の表面に存在する酸化物やその金属成分が、摩擦撹拌部の界面に沿って、第一の部材の表面にまで塑性流動することが、効果的に阻止されて、摩擦撹拌部の中に押し止められるようになるところから、そのような界面を通じて移動せしめられた第二の部材表面の金属成分等に基づいて、ガルバニック腐食が惹起される懸念も、効果的に解消され得ることとなる。
【0017】
(3)前記第二の部材と前記プローブの先端との間の距離が、10μmから前記第一の部材の厚さの20%までの値とされている態様(1)又は態様(2)に記載の異種金属部材の接合方法。
このような態様に従って、第二の部材の表面と回転工具から突き出されるプローブの先端との間の距離を規制して、かかるプローブの先端を第二の部材の表面の直上に位置せしめることにより、第一の部材のみを撹拌して、第一の部材と第二の部材の界面に新生面を効果的に出すことが出来、そしてそれによって、それら部材の接合強度を有利に高めて、その接合部の品質のバラツキを効果的に解消せしめ得ることとなる。
【0018】
(4) 前記ショルダ部材が、前記第一の部材に対する位置制御により、軸方向に移動せしめられる一方、前記プローブの差込み深さが、差込み荷重に基づいて制御されるようになっている態様(1)乃至態様(3)の何れかに記載の異種金属部材の接合方法。
このような態様に従って、ショルダ部材の軸方向の移動を位置制御によって行なう一方、プローブの差し込み深さを、その差し込み荷重に基づいて制御せしめることにより、それらショルダ部材とプローブの軸方向の移動制御を効果的に行なうことが出来、以て、第一の部材の厚さが変化した場合においても、有利に対応することが出来るのである。
【0019】
(5)前記第一の部材が、アルミニウムを材質としている一方、前記第二の部材が鉄を材質としている態様(1)乃至態様(4)の何れかに記載の異種金属部材の接合方法。
【0020】
(6)軟質金属からなる第一の部材と硬質金属からなる第二の部材とを接合してなる異種金属接合材であって、態様(1)乃至態様(5)の何れか一つに記載の方法により接合してなることを特徴とする異種金属接合材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0022】
先ず、図1においては、本発明に従って点接合される、材質が異なり且つ硬度の異なる二枚の金属板2、4が、上下方向に重ね合わされた状態で配置されている。そして、それら二枚の金属板2,4は、目的とする摩擦撹拌点接合のために、従来と同様にして、位置固定にクランプされており、また、下側の金属板4の裏面には、図示はしないが、裏当て治具が配置されて、それら二枚の金属板2、4を支持し得るようになっている。
【0023】
そして、それら二枚の金属板2、4のうち、上側に位置せしめられた金属板2は、第一の部材であって、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、銅、銅合金等、各種金属材料の中でも、比較的に軟質の材料からなる金属板材であり、一方、下側に位置する金属板4は、第二の部材であって、例えば、鉄若しくはその合金からなる鋼材や鉄材等の硬質金属からなる金属板材である。そして、それらの中でも、上側の金属板2としては、アルミニウム材質のものが、また、下側の金属板4としては、鉄材質のものが好適に用いられ、それら材質の金属板の接合に対して、本発明手法が有利に適用されることとなる。
【0024】
一方、それら重ね合わされた二枚の金属板2、4の上側のもの、換言すれば、金属板2の側には、従来と同様な、鋼製の複動式の回転工具10が、配置せしめられている。この回転工具10は、底面がショルダ面12とされた、円筒状の工具本体であるショルダ部材14と、その中心孔に挿入位置せしめられたロッド(円柱)状のプローブ16とを備え、それらショルダ部材14とプローブ16とが、それらの軸回りに、高速回転せしめられ得るようになっていると共に、それらの軸方向に独立して移動せしめられ得るようにしたものであって、公知の各種の複動式構造において、それらショルダ部材14やプローブ16が作動せしめられ得るようになっている。なお、それらプローブ16とショルダ部材14の、少なくとも、上側金属板2に接触乃至は押し付けられ、また差し込まれる部位は、かかる金属板2よりも硬質の材料にて形成されており、それらの損耗が防止されるようになっている。
【0025】
そして、それら二枚の金属板2、4を、本発明に従う摩擦撹拌接合手法にて接合せしめるに際しては、先ず、回転工具10を高速回転させつつ、そのプローブ16を軟質金属からなる第一の部材である上側の金属板2側より差し込むことが行なわれる。その際、回転工具10を構成するショルダ部材14とプローブ16とは、一体的に回転せしめられる他、それぞれ独立して、回転させられるようにすることも可能である。また、プローブ16の先端は、ショルダ面12とほぼ面一となるように、ショルダ部材14内に引き込まれた状態において、回転工具10、具体的にはショルダ部材14下面のショルダ面12が金属板2表面に軽く押し当てられ、そこが摩擦発熱させられる一方、プローブ16がショルダ部材14から突出せしめられて、金属板2内に差し込まれ、その先端が、硬質金属からなる第二の部材である下側の金属板4の直上に達するようにされる。図2は、そのようなプローブ16が金属板4の直上に達した状態を示している。
【0026】
なお、このように、プローブ16をショルダ部材14と面一にした状態で、上側の金属板2表面に当接して、摩擦撹拌接合を開始せしめることにより、差し込み初期のバリの発生を効果的に抑制乃至は阻止し得る利点を享受することが出来るのであるが、勿論、そのような作動方式のみに限定されるものではなく、公知の各種の複動式回転工具の作動方法が、適宜に採用され得るところであって、例えば、プローブ16をショルダ部材14から突き出した状態において、上側の金属板2に対して、プローブ16の差し込みを行なうことも可能である。
【0027】
また、そのような回転工具10の高速回転下における、ショルダ面12の当接やプローブ16の差し込みによって進行せしめられる摩擦撹拌作用により、図2に示される如く、ショルダ面12の下方で、プローブ16の回りに、上側の金属板2の材料のみの撹拌によって形成される摩擦撹拌部18が形成され、そして、この摩擦撹拌部18が下側の金属板4の新生面に接触することによって、二枚の金属板2、4の摩擦撹拌接合が実現されるのである。
【0028】
また、このような摩擦撹拌接合操作において、回転工具10(具体的には、プローブ16)が、二枚の金属板2、4の重ね合わせ部に対して、差し込み過ぎになると、プローブ16の先端が硬質金属からなる第二の部材である下側の金属板4に接触して磨耗する恐れがあり、一方、その差し込み深さが浅過ぎると、それら二枚の金属板2、4の界面の撹拌が不充分となって、充分な接合強度(継手強度)が確保し難くなるところから、かかるプローブ16の先端と下側の金属板4との間の距離:dは、一般に、10μm以上、上側の金属板2の厚さの20%以下となるように、回転工具10が差し込まれるようにすることが望ましい。
【0029】
次いで、かかる図2に示される摩擦撹拌接合が終了した状態から、回転工具10が離脱せしめられることとなるが、その際、単に、回転工具10を摩擦撹拌部18から引き離すだけでは、プローブ16の抜けた穴(プローブ穴)が、そのまま、摩擦撹拌部18に残り、そのために、前述せる如きガルバニック腐食の懸念等の問題を内在するようになるところから、本発明にあっては、例えば、図3に示されるように、回転工具10を構成するプローブ16を軸方向上方に移動せしめて、摩擦撹拌部18から引き抜くようにする一方、ショルダ部材14を軸方向下方に移動せしめて、そのショルダ面12にて摩擦撹拌部18の上面を押圧して、押し込むようにすることにより、プローブ16の引き抜きによって生じる穴が、摩擦撹拌部18の他の部位からの材料の流動によって、埋め込まれるようにされる。
【0030】
なお、かかるプローブ16の引き抜きによって生じる穴の具体的な埋め込み操作としては、プローブ16の上昇(引き抜き)と同時に、ショルダ部材14の下降(押し込み)を行なう他、前者の上昇の開始から少し遅れて、後者の下降を開始したり、或いは、前者の上昇が完了した後、後者の下降を開始する等の操作が、適宜に採用され得、また、回転工具10を摩擦撹拌部18から離脱せしめた後、適当な押圧部材による押圧操作を加えて、摩擦撹拌部18の他の部位からの材料の流動を行なって、プローブ穴が埋め込まれるようにすることも、可能である。
【0031】
そして、回転工具10が、二つの金属板2、4の接合部(摩擦撹拌部18)から離脱され、また、プローブ穴の埋め込みが済むと、図4に示されるように、摩擦撹拌部18には、プローブ16によって形成される穴が、実質的に消失せしめられた状態とされるのである。尤も、そのようなプローブ穴は、痕跡が残る程度まで、或いはそれが確認できないほど完全に消失せしめられる必要はなく、プローブ16が差し込まれた最大深さにおける底部が充分に覆蓋されるように、摩擦撹拌部18の他の部位から流動せしめられる材料によって埋め込まれておれば、ある程度の深さを持った穴として存在していても、何等、差支えない。
【0032】
このようにして、摩擦撹拌部18からのプローブ16の引き抜きによって生じる穴が、摩擦撹拌部18の他の部位、特に、周辺部からの材料の流動によって埋め込まれることにより、プローブ穴の底部に存在する下側の金属板4の表面の酸化物や、その金属成分等は、摩擦撹拌部18の材料にて覆われ、その内部に押し止められた状態となって、表面には露呈するようなことがなくなるところから、かかる摩擦撹拌部18の表面に水が存在するような場合にあっても、摩擦撹拌部18を構成する上側金属板2の材料との間に構成される電池によって、ガルバニック腐食現象が惹起される懸念を全く回避することが出来、以て、摩擦撹拌接合部(18)の健全性、ひいては信頼性を有利に高め得ることとなるのである。
【0033】
また、そのようなプローブ16の引き抜き穴であるプローブ穴が埋め込まれて、図4に示される如く、摩擦撹拌部18の表面に実質的にプローブ穴が存在しない状態とされることにより、そこにおける液溜りの問題も、効果的に解消され、これによって、接合部の健全性の向上にも寄与し得ることとなった他、接合部表面の意匠性の向上を有利に図り得たのである。
【0034】
ところで、本発明は、上述の如き形態において実施される他、また、図5に示される如き形態においても、有利に実施され得るものである。
【0035】
かかる図5に示される摩擦撹拌手法による接合工程においては、回転工具10のショルダ部材14の外周面に、円筒状のバリ抑え筒体20が外挿されて、配置されており、このバリ抑え筒体20の下降によって、裏当て治具22にて支持されている、重ね合わされた二枚の金属板2、4を、上方から押し付け得るようになっている。
【0036】
そして、摩擦撹拌接合操作に際しては、回転工具10のショルダ部材14やプローブ16の下降と同時に、或いはそれらの下降に先立って、バリ抑え筒体20が下降せしめられて、上側の金属板2の表面を押圧するようにされる。次いで、回転工具10が下降させられて、前例と同様な摩擦撹拌接合操作が実施されることとなるのであるが、その際、ショルダ部材14のショルダ面12とプローブ16による摩擦撹拌作用にて形成される摩擦撹拌部18から溢れ出すバリが、バリ抑え筒体12の存在によって阻止せしめられるのである。尤も、そのようなバリの溢れ出しが阻止されて、摩擦撹拌部18内に押し止められることによる摩擦撹拌部18の体積の増大を吸収し得るように、ショルダ部材14は、摩擦撹拌操作中において、僅かに後退(上昇)せしめられるようになっている。なお、バリ抑え筒体20は、回転させられることなく、上側の金属板2との間にバリが侵入しないような押圧力を持って、ばね等によって押圧されるようになっているのである。
【0037】
そして、回転工具10による摩擦撹拌操作が終了すると、プローブ16の引き抜き(上昇)、ショルダ部材14の下降による押し込みが行なわれることにより、プローブ16の引き抜き穴が、摩擦撹拌部18の他の部位からの材料の流動によって、埋め込まれるようにされるのであり、更にその後、バリ抑え筒体20の金属板2に対する押圧が解除されるようにして、目的とする金属板2、4の摩擦撹拌接合が実現されるのである。
【0038】
このように、回転工具10のショルダ部材14の回りにバリ抑え筒体20を配置して、ショルダ部材14の先端外周部、換言すれば、ショルダ面12の外周部の回りに発生するバリを抑制することにより、摩擦撹拌部18とそれが形成される上側の金属板2との界面に沿って移動する、下側の金属板4の表面に存在する酸化物や金属板4自体の金属成分が、上側の金属板2の表面にまで塑性流動することが阻止されて、摩擦撹拌部18内に押し止められるようになるところから、そのような界面に存在する金属板4の金属成分が金属板2との間においてガルバニック腐食を惹起せしめる懸念も、効果的に解消され得ることとなるのである。
【0039】
また、本発明に従う異種金属部材の接合方法の実施に際しては、例えば、図6に示されるように、制御装置30によって、プローブ駆動装置32やショルダ部材駆動装置34の作動制御を行ない、プローブ16やショルダ部材14の回転やその軸方向の移動量を制御して、金属板2、4の重ね合わせ部に差し込み、上側の金属板2における有効な摩擦撹拌部18が形成され得るように構成されるのである。なお、ここで、プローブ駆動装置32やショルダ部材駆動装置34は、その何れもが、独立して、回転機能と軸方向の移動機能を有するものであってもよく、また、その何れか一方、例えば、ショルダ部材駆動装置34のみが回転機能と軸方向移動機能を有し、プローブ駆動装置32は、軸方向移動機能のみを有するような構成のものとすることが可能である。そして、それらプローブ駆動装置32及びショルダ部材駆動装置34の作動が、プローブ16やショルダ部材14(ショルダ面12)に作用する荷重に基づいて、また、プローブ16やショルダ部材14の金属板2、4に対する位置関係に基づいて、制御装置30により、荷重制御乃至位置制御せしめられるようになっているのである。
【0040】
具体的には、制御装置30による荷重制御は、ショルダ部材14のショルダ面12に作用する上側の金属板2乃至は摩擦撹拌部18からの荷重(圧力)に基づいて、また、金属板2に差し込まれたプローブ16の先端が、下側の金属板4の表面に接近するに従って上昇する荷重(圧力)に基づいて、それらショルダ部材14やプローブ16の先端位置が、制御装置30によって、制御されるのであり、また、位置制御においては、二枚の金属板2、4の厚さ等が、図示しない入力装置によって、制御装置30に入力せしめられて、それら二枚の金属板2、4に対するショルダ部材14やプローブ16の先端位置が、制御装置30にて制御され、ショルダ部材14のショルダ面12が、上側の金属板2の表面に押し当てられるようにされる一方、プローブ16の先端が、下側の金属板4の直上に位置するように突き出し作動せしめられて、金属板2内において、有効な摩擦撹拌部18が形成されるのである。
【0041】
このような制御装置30によって、プローブ16やショルダ部材14の軸方向移動量をそれぞれ制御することにより、接合されるべき金属板2、4の厚さが変化する等した場合においても、品質の安定した接合状態を確保することが可能となるのである。特に、プローブ16の先端と下側の金属板4との間の距離(d)を精度よく維持することが出来るところから、プローブ16の差し込み過ぎによる下側の金属板4に対する接触の問題、ひいては、プローブ先端部の磨耗の問題や、その差し込み不充分による二枚の金属板2、4界面の撹拌不充分に基づくところの接合強度の低下の問題等が、悉く解消され得ることとなるのである。
【0042】
なお、かくの如き制御装置30によるプローブ16やショルダ部材14の軸方向移動量の制御は、その何れもが、位置制御又は荷重制御の何れか一方にて行なわれるようにする場合の他、その一方を位置制御とし、他方を荷重制御とすることも可能であり、更に、位置制御と荷重制御を組み合わせて、ショルダ部材14又はプローブ16の軸方向移動量を制御するようにすることも、可能である。中でも、ショルダ部材14が上側の金属板2の位置に基づくところの位置制御により、軸方向に移動せしめられる一方、プローブ16の差し込み深さが、その差し込み荷重に基づいて、制御されるようにすることが望ましく、これによって、上側の金属板2の厚さが変化した場合においても、有利に対応することが可能となる。また、ショルダ部材14の軸方向移動を、摩擦撹拌初期においては、位置制御とする一方、摩擦撹拌操作の後半においては、荷重制御とすることも望ましい。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0044】
例えば、上記の実施形態では、摩擦撹拌接合手法として、本発明が有利に適用される点接合方法が採用されているが、回転工具10を金属板2、4に対して相対的にある程度移動せしめて、摩擦撹拌接合を行なうようにした方法にも、本発明は適用可能である。
【0045】
また、接合されるべき第一及び第二の部材(被接合材)として、板材である金属板2、4を用いた例において、本発明の説明が為されているが、また、そのような被接合材の形状としては、板材に何等限定されるものではなく、摩擦撹拌点接合の如き摩擦撹拌接合操作が施される重ね合わせ部が、それぞれ、板状乃至は面板状である限りにおいて、何れの部材も、採用可能である。
【0046】
さらに、回転工具10としては、公知の各種の複動式回転工具が適宜に用いられ得るところであって、そのプローブ16の形状乃至は構造にあっても、ストレートな円柱形状の他、先端に向かって先細りする円錐形状や円錐台形状等、公知の各種の形状が、何れも採用され得、また、その表面に凸起乃至凸条や凹溝等が設けられたものであっても、何等、差支えないのである。また、ショルダ部材14の端面のショルダ面12の形状にあっても、特に限定されるものではなく、平坦面であっても、中央に向かって湾曲する凹面形状であってもよく、従来から公知の形状が、適宜に採用されることとなる。
【0047】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施されるものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0048】
先ず、軟質金属からなる第一の部材(2)として、厚さ:1mmの6000系アルミニウム板材(6016−T4)を準備する一方、硬質金属からなる第二の部材(4)として、厚さ:1mmの鋼板(SPCC)を準備した。
【0049】
次いで、それらアルミニウム板材(2)と鋼板(4)を重ね合わせ、アルミニウム板材の側から、図5に示される如きバリ抑え筒体(20)としてのリング状の鋼製クランプが外挿されてなる回転工具10を用いて、本発明に従う摩擦撹拌接合操作を実施した。
【0050】
具体的には、重ね合わせたアルミニウム板材(2)と鋼板(4)の、下板側となる鋼板(4)の裏面に、裏当て治具(22)を当接して、支持せしめた状態において、複動式の回転工具(10)を用い、先ず、上板側となるアルミニウム板材(2)の上面にリング状の鋼製クランプ(外径:16mm、内径:10mm)を当接せしめ、次いで、外径が10mmのショルダ部材(14)と外径が4mmのプローブ(16)の下端面が面一となるようにして、それらを同一方向に高速回転させた状態において、アルミニウム板材(2)の上面に当接し、その後、プローブ(16)を鋼板(4)の直上100μmの位置まで差し込んで、摩擦撹拌せしめ、図5に示される如き摩擦撹拌部(18)を形成した。
【0051】
次いで、かかる摩擦撹拌接合操作の後、プローブ(16)を、摩擦撹拌部18から引き抜くようにすると同時に、ショルダ部材14を下降せしめて、摩擦撹拌部18の押し込みを行ない、かかるプローブ(16)の引き抜きによって生じた穴を、材料の流動によって埋め込むことにより、摩擦撹拌接合部(18)の表面には、プローブ引き抜き穴が実質的に残存しない、平坦な接合部表面を有するアルミニウム板材−鋼板接合材を得ることが出来た。
【0052】
なお、上記の摩擦撹拌接合操作においては、ショルダ部材(14)の軸方向の移動は、裏当て治具(22)上におけるアルミニウム板材(2)表面の位置情報に基づいて、位置制御する一方、プローブ(16)の差し込み深さが、その差し込み荷重に基づいて制御されるようにした。
【0053】
かかる摩擦撹拌接合操作においては、バリ抑え筒体(20)としてのリング状の鋼製クランプが、ショルダ部材(14)の外周へのバリの発生を抑制したことにより、バリのない、また、Fe分が表面に露出しない摩擦撹拌点接合材を得ることが出来た。また、その接合部は、表面の凹凸が0.05mm以下であり、また、裏面がほぼ平坦な健全なものであることを認めた。更に、その継手の剪断引張試験を行なったところ、2.5KNの破断強度を示し、優れた継手強度を有するものであることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に従う異種金属部材の接合方法の、接合操作前の一つの状態を示す断面説明図である。
【図2】本発明に従う異種金属部材の接合方法における摩擦撹拌工程の一工程を示す断面説明図及びその部分拡大図である。
【図3】本発明に従う異種金属部材の接合方法における、摩擦撹拌接合後のショルダ部材及びプローブを移動させた後の状態を示す断面説明図である。
【図4】本発明に従う異種金属部材の接合方法において、接合された第一及び第二の部材から回転工具を離脱せしめた状態を示す断面説明図である。
【図5】本発明に従う異種金属部材の接合方法において用いられる回転工具の異なるものを用いた、図2に相当する断面説明図である。
【図6】回転工具のプローブやショルダ部材の作動制御の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
2 金属板(第一の部材) 4 金属板(第二の部材)
10 回転工具 12 ショルダ面
14 ショルダ部材 16 プローブ
18 摩擦撹拌部 20 バリ抑え筒体
22 裏当て治具 30 制御装置
32 プローブ駆動装置 34 ショルダ部材駆動装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質金属からなる第一の部材と硬質金属からなる第二の部材とを重ね合わせ、該第一の部材側から、軸回りに回転せしめられる回転工具のショルダ部材の先端に同軸的に位置せしめたプローブを、回転させつつ、その先端が該第二の部材の直上に達するように差し込み、摩擦撹拌して、それら第一及び第二の部材を接合せしめるに際して、
前記回転工具として、前記プローブが前記ショルダ部材とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式回転工具を用い、該プローブを前記第一の部材に差し込んで、前記第一及び第二の部材の摩擦撹拌接合を行なった後、該プローブを、該第一の部材に形成された摩擦撹拌部から引き抜く一方、かかる引き抜きによって生じるプローブ穴を、該摩擦撹拌部の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにしたことを特徴とする異種金属部材の接合方法。
【請求項2】
前記ショルダ部材の外周面にバリ抑え筒体が外挿されて、前記第一の部材の表面に当接せしめられることにより、該ショルダ部材の周りにおけるバリの発生が抑制乃至は阻止され得るようになっている請求項1に記載の異種金属部材の接合方法。
【請求項3】
前記第二の部材と前記プローブの先端との間の距離が、10μmから前記第一の部材の厚さの20%までの値とされている請求項1又は請求項2に記載の異種金属部材の接合方法。
【請求項4】
前記ショルダ部材が、前記第一の部材に対する位置制御により、軸方向に移動せしめられる一方、前記プローブの差込み深さが、差込み荷重に基づいて制御されるようになっている請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の異種金属部材の接合方法。
【請求項5】
前記第一の部材が、アルミニウムを材質としている一方、前記第二の部材が、鉄を材質としている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の異種金属部材の接合方法。
【請求項6】
軟質金属からなる第一の部材と硬質金属からなる第二の部材とを接合してなる異種金属接合材であって、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の方法により接合してなることを特徴とする異種金属接合材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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