説明

疲労回復剤

【課題】 疲労回復、持久力向上に優れた効果を発揮し、継続使用に適した疲労回復剤、並びに該疲労回復剤を含む医薬、飲食品並びに飼料を提供する。
【解決手段】 γ−リノレン酸並びにγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を疲労回復剤の有効成分として用いる。さらに、γ−リノレン酸並びにγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を医薬、飲食品並びに飼料に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−リノレン酸を含有する疲労回復剤、γ−リノレン酸及びカフェインを含有することを特徴とする疲労回復剤、これらを含有する医薬、飲食品並びに飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、持久力向上や筋肉組織の強化、筋肉疲労回復を目的として、アミノ酸と天然植物類を配合した組成物、末梢血管拡張剤とビタミンB類を配合した組成物等が用いられてきた(特許文献1、2参照。)。しかし、従来の疲労回復剤には、持久力向上や疲労回復の効果が十分でないものや長期間服用した場合の安全性に疑問があるものがあり、さらに、高価で継続使用に適していないものも多かった。
【0003】
高級脂肪酸であるγ−リノレン酸(cis,cis,cis-6,9,12-octadecatrienoic acid)はカルボン酸末端から6,9,12番目の炭素シス型不飽和結合をもつ炭素数18の脂肪酸で、サクラソウ種子油、月見草油、ボラージ油等においてその存在が認められ、その生理作用について多くの研究がなされてきた。γ−リノレン酸は、アレルギー性鼻炎、アレルギー端息、動脈硬化、血栓症及び高脂血症等の疾患等に有効であることが知られている(特許文献3参照。)。
【0004】
また、カフェインはキサンチンアルカロイドの一種であり、多くの食品及び医薬に用いられている。カフェインを含めたキサンチンは、中枢神経系を剌激し、細気管支(smaller bronchi)の平滑筋及び他の平滑筋の収縮部を弛緩させ、肺小動脈の拡張を惹起し、また脂肪の分解を促進し血中遊離脂肪酸量を増加させる作用があり、運動前にカフェインを摂取すると脂肪がより多く利用されることが知られている(非特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、γ−リノレン酸が、疲労回復効果や持久力向上効果を有することについては知られておらず、γ−リノレン酸を有効成分とする疲労回復剤及び該疲労回復剤を含有する医薬や飲食品についても知られていなかった。さらに、γ−リノレン酸及びカフェインを有効成分とする疲労回復剤及び該疲労回復剤を含有する医薬や飲食品についても知られていなかった。
【特許文献1】特開2001−169752号公報
【特許文献2】特開2003−119139号公報
【特許文献3】特開平11−056315号公報
【非特許文献1】Jacques L. et al, J. Apply. physiol., 59(3), 832-837 (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、疲労回復を目的とした種々の医薬、機能性飲食品等が開発されている。しかしながら、これらの医薬、機能性飲食品等の中で、疲労回復、持久力向上等に極めて優れた効果を発揮し、さらに安価で継続使用に適したものは極めて少ないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は、疲労回復、持久力向上等に優れた効果を有し、かつ安価で継続使用に適した疲労回復剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
通常、短時間の激しい運動時には、主にグリコーゲンが分解され、血中グルコースがエネルギー生産に用いられる一方で、長時間の運動時には、主に脂肪(トリグリセリド)が
分解され、アセチルCoAがエネルギー生産に用いられる。従って、マラソンなどの持続的運動を行うためには、脂肪を効率よく分解し、エネルギーを生産する必要がある。
脂肪の遊離脂肪酸への分解を促進する物質として、カフェインやカテコールアミン等が知られているが、脂肪酸のβ酸化を促進する物質については知られていない。従って、脂肪酸のβ酸化を促進する物質を特定し、カフェイン等の脂肪の遊離脂肪酸への分解を促進する物質と組み合わせることで疲労回復や持久力向上に効果的な疲労回復剤を提供することができる。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、γ−リノレン酸が、運動時にカテコールアミンの生成を上昇させ、グリコーゲン分解及び脂肪酸分解を促進する作用を有すること及びこのようなγ−リノレン酸の性質が疲労回復や持久力の向上に特に適していることを発見し、さらにγ−リノレン酸とカフェインの混合物が、運動時に、脂肪分解をより促進すること及び運動後に疲労回復を促進することを発見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明はγ−リノレン酸、γ−リノレン酸及びカフェインを有効成分として含有することを特徴とする疲労回復剤並びにこれらを含む医薬、飲食品及び飼料を提供するものである。
本明細書において、「疲労回復」とは、運動によって蓄積した乳酸等により引き起こされる「疲労」を迅速に回復又は低減すること及び運動時に効率的にグリコーゲンや脂肪を分解することでエネルギーを生産し、持続的な運動を可能にすること、すなわち持久力を向上させることを含む概念である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のγ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインを有効成分として含有する疲労回復剤は、血中カテコールアミン濃度を上昇させグリコーゲン及び脂肪の分解を促進し、疲労回復を促進する効果を有する。特に、γ−リノレン酸及びカフェインを含有する疲労回復剤は、運動後に血中乳酸濃度を迅速に低下させ、乳酸蓄積による筋肉等の疲労回復を促進する効果に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の疲労回復剤は、γ−リノレン酸を有効成分として含有する。
本発明で使用するγ−リノレン酸は、狭義のγ−リノレン酸(C18:3)、ジホモ−γ−リノレン酸(C20:3)及びこれらの誘導体を含む広義のγ−リノレン酸である。なお、本明細書においては、γ−リノレン酸という場合、特に断らない限り、広義のγ−リノレン酸を指すものとする。
【0012】
上記γ−リノレン酸は、ムコール(Mucor)属、モルティエレラ(Mortierella)属及びリゾプス(Rizopus)属等の糸状菌、サクラソウ種子、月見草、ボラージ、黒すぐり及び菜種等の植物、又はスピルリナ等の藻類等から得られるが、これらをそのまま用いることも、これらの抽出物やさらにその精製物を用いることもできる。さらに、微生物由来のγ−リノレン酸、例えば出光興産株式会社製のγ−リノレン酸(製品名:グラノイルHGC(ムコール油)、グラノイルCS(モルティエレラ油))を用いることも、化学合成したもの、植物組織培養等したもの、その他の方法によって製造したもの又は市販されているものを用いることもできる。
【0013】
γ−リノレン酸又はジホモ−γ−リノレン酸の誘導体として、エステル誘導体、例えばエチルエステル、モノ、ジ、トリグリセライド等のグリセロールエステル、リン脂質等及びγ−リノレン酸又はジホモ−γ−リノレン酸と無機、有機の塩基とを等モル比で作用して得られる塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0014】
本発明の疲労回復剤には、狭義のγ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸及びこれら
の誘導体から一種又は二種以上を選択して用いることができる。
【0015】
本発明の疲労回復剤において、γ−リノレン酸は、運動時の血中カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)濃度を上昇させる作用を有する。カテコールアミンは、脂肪細胞、筋肉細胞中の脂肪の分解を促し、エネルギー源として利用できる遊離脂肪酸の生成を促進する働きがある。さらに、γ−リノレン酸が遊離脂肪酸のβ酸化を促進することにより、持続的に効率よくエネルギーが生産され、筋肉細胞等で利用される。
【0016】
本発明の疲労回復剤におけるγ−リノレン酸の含有量は、特に制限されないが、疲労回復剤全体に対して、通常は0.001〜100重量%とするのがよい。
【0017】
本発明の疲労回復剤は、さらにカフェインを含有するものでもよい。
本発明で使用するカフェインは、茶やコーヒー等の天然物をそのまま用いることも、これらの抽出物を用いることも、化学合成、微生物発酵又は植物組織培養等により製造して用いることも、又はその他の方法によって製造して用いることもできる。
【0018】
本発明の疲労回復剤において、カフェインは、脂肪分解を促進する作用及び運動終了後、迅速な血中乳酸濃度の低下を促進する作用を有する。
【0019】
本発明の疲労回復剤におけるカフェインの含有量は、特に制限されないが、疲労回復剤全体に対して、通常は0.01〜50重量%とするのがよい。
【0020】
また、γ−リノレン酸及びカフェインを含有する場合における各成分の含有割合も特に制限されないが、γ−リノレン酸及びカフェインの含有比率が、通常は100:1〜
1:10の範囲、好ましくは100:1〜1:1の範囲、さらに好ましくは100:1〜5:1の範囲とするのがよい。
【0021】
本発明の疲労回復剤の剤型は特に制限されず、具体的には錠剤、丸剤、液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤を例示できる。これらの製剤は、製剤化の常法に準じて調整することができ、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤、抗酸化剤等の添加剤を用いて製剤化してもよい。
【0022】
本発明の疲労回復剤には、持久力を向上させるとして従来から知られているクレアチニンやコエンザイムQ、L−カルニチン、オクタコサノール、ロイヤルゼリー等やカフェインと同様にカテコールアミンの分泌を促進する作用を有するカプサイシン等の物質を配合することもできる。さらに、γ−リノレン酸の酸化劣化を抑えるため、抗酸化剤(例えば、ビタミンEやビタミンC等)を配合することもできる。
【0023】
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物は、疲労回復のための医薬とすることができる。
この場合において、γ−リノレン酸及びカフェインの含有量は、投与される患者の症状、運動量、年齢、性別、体重等により適宜調整することができ、特に制限されない。γ−リノレン酸の含有量は、通常は0.1〜100mg/kg体重/日の範囲、好ましくは0.2〜50mg/kg体重/日の範囲で投与するのに適した含有量とするのがよい。カフェインの含有量は、通常は0.1〜50mg/kg体重/日の範囲、好ましくは0.5〜20mg/kg体重/日の範囲で投与するのに適した含有量とするのがよい。γ−リノレン酸及びカフェインを含有する場合における各成分の含有割合も特に制限されないが、γ−リノレン酸及びカフェインの含有比率が、通常は100:1〜1:10の範囲となるよ
うに配合するのがよい。
【0024】
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を各種の飲食品に含有させて、疲労回復のための飲食品とすることができる。例えば、飲料類(例えば、ドリンク剤、ミルク飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、ジュース等)、菓子類(例えば、ゼリー、ウエハース、クッキー、キャンディー、スナック菓子等)、調味液類(ドレッシング等)、油脂類(マーガリン等)等に含有させることができる。
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を飲食品に含有させる場合、含有量は摂取する者の体調、運動量、年齢、性別、体重、使用目的等により適宜調整され、特に制限されない。γ−リノレン酸の含有量は、飲食品全体の重量に対して、通常は0.01〜100重量%の範囲とするのがよい。カフェインの含有量は、飲食品全体の重量に対して、通常は0.001〜100重量%の範囲とするのがよい。γ−リノレン酸及びカフェインを含有する場合における各成分の含有割合も特に制限されないが、γ−リノレン酸及びカフェインの含有比率が、通常は100:1〜1:10の範囲となるように配合するのがよい。このような飲食品は、その調製段階の適当な工程において有効成分を添加する以外は常法に準じて慣用の添加剤を添加してもよく、例えば、ビタミン類、ミネラル類、ホルモン類、生理活性物質、甘味料、酸味料、香料、塩分、賦形剤、着色料、保存料、抗酸化剤等を使用することができる。
【0025】
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を含む飲食品は、当該飲食品の包装部分や説明書等の添付文書等に疲労回復に効果がある旨を表示して提供することができる。また、上記表示にさらに、持久力が向上する旨を含めることもできる。
【0026】
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を家畜やペットのために通常用いられる種々の飼料、ペットフード又はペット用サプリメントに含有させて、ヒトを除く動物(以下、「動物」という。)の疲労回復のための飼料とすることもできる。
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を飼料、ペットフード又はペット用サプリメントに含有させる場合、含有量は与える動物の種類、体調、運動量、年齢、性別、体重、使用目的等により適宜調整され、特に制限されない。γ−リノレン酸の含有量は、飼料、ペットフード又はペット用サプリメント全体の重量に対して、通常は0.0001〜100重量%の範囲とするのがよい。カフェインの含有量は、飼料、ペットフード又はペット用サプリメント全体の重量に対して、通常は0.00001〜100重量%の範囲とするのがよい。γ−リノレン酸及びカフェインを含有する場合における各成分の含有割合も特に制限されないが、γ−リノレン酸及びカフェインの含有比率が、通常は100:1〜1:10の範囲、好ましくは100:1〜1:1の範囲となるように配合するのがよい。
このような飼料、ペットフード及びペット用サプリメントは、その調製段階の適当な工程において有効成分を添加する以外は常法に準じて慣用の添加剤を添加してもよく、例えば、ビタミン類、ミネラル類、ホルモン類、生理活性物質、香料、賦形剤、着色料、保存料、抗酸化剤等を使用することができる。
【0027】
γ−リノレン酸又はγ−リノレン酸及びカフェインの混合物を含む飼料は、当該飼料の包装部分や説明書等の添付文書等に動物の疲労回復に効果がある旨を表示して提供することができる。
【実施例】
【0028】
(1)飼育方法
ウイスター系オスラット(6齢週、約200g)をγ−リノレン酸投与群(S群)、γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)、オリーブ油投与群(コントロール群、C群)の3群(1群、7匹)に分け、それぞれに、一日100kcal(100ml)の液体
食を与えて、2ヶ月間飼育した。ラットに与えた上記液体食の配合を表1に示す。液体食は、大豆油を含み、リノール酸、α−リノレン酸等の必須脂肪酸を含む。コントロールとして用いたオリーブ油はオレイン酸を主成分とし、リノール酸を含み、γ−リノレン酸は含まない。γ−リノレン酸として、ムコール油(出光興産株式会社製)を用いた。ムコール油は0.2g/g油のγ−リノレン酸を含む。
【0029】
【表1】

【0030】
(2)遊泳実験
飼育開始後1週目は、すべてのラットを遊泳装置に入れ、水流を与えないで15分間の遊泳実験を行った。2週目、3週目及び4週目は、すべてのラットを遊泳装置に入れ、0.59L/秒の水流を与えて15分間の遊泳実験を行った。上記遊泳実験に用いた遊泳装置を図1に示した。上記遊泳実験において、(a)遊泳状況の視覚的観察及び(b)遊泳時間の測定を行なった。
【0031】
(a)遊泳状況の視覚的観察
各群の遊泳状況は以下のとおりであった。
いずれも、1週目の遊泳実験では、最初の数分は継続して泳ぐ状態が続いた。数分後からは休むことと泳ぐことを繰り返しながら、15分間の遊泳実験を終えた。
2週目の遊泳実験では、γ−リノレン酸投与群(S群)は初めの約2分間の運動量が激しく、装置の壁を登ろうとする動作を繰り返した。その後は、水流の発生口の方向に向かって泳ぐ状態が続いた。6〜7分後、体力を使い果たし、水流圧に耐え切れず後方に流された。また、2週目以降、3週目、4週目と時間を経るにつれて、遊泳時間が長くなった。
γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)は、初めの数分間の運動量が大変激しく、壁に登ろうとする動作を繰り返した。現に壁を登ったラットがあった。6〜7分までは壁を登ろうとする動作を繰り返し、その後泳ぎ始めた。15分間の遊泳実験を通して激しい運動量であった。γ−リノレン酸投与群(S群)と同様に2週目以降、3週目、4週目と時間を経るにつれて、遊泳時間が長くなった。
コントロール群(C群)は、初めの1分くらいは、装置の壁を登ろうとする動作を繰り返したが、その後は水流の発生口の方向に向かって泳ぎ始めた。15分間の遊泳実験を通して、γ−リノレン酸投与群(S群)及びγ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)に比して安定した運動量であった。
γ−リノレン酸投与群(S群)又はγ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)の運動量は、コントロール群(C群)の運動量と比較して、明らかに大きかった。特に、γ−
リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)の運動量は最も激しかった。
このことから、γ−リノレン酸の摂取によって持久力が向上したこと及びγ−リノレン酸とカフェインの同時摂取によって、持久力が大きく向上したことが分かる。
【0032】
(b)遊泳時間の測定
上記遊泳状況の視覚的観察と並行して、2週目〜4週目の各群の遊泳時間を測定した。遊泳時間は、遊泳実験開始からラットが水圧に負けて図1の遊泳装置の後方にある板に2回到達するまでの時間とした。遊泳時間の測定結果を表2に示した。
2週目、3週目及び4週目の何れにおいても、γ−リノレン酸投与群(S群)、γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)はコントロール群(C群)に比較して平均遊泳時間が長かった。また、各群において2週目、3週目、4週目の順に平均遊泳時間が長かった。
【0033】
【表2】

【0034】
(3)血清ケトン体濃度及び血清カテコールアミン濃度の測定
上記遊泳実験開始から6週目に、実施例1で用いた各群のラット6匹をそれぞれ、図1の遊泳装置に入れ、水流を与えないで10分間自由遊泳させた。30分の休憩後、再びラットを上記遊泳装置に入れ、0.59L/秒の水流を与えて5分間自由遊泳させた。遊泳後直ちにラット股間から採血を行い、(a)血清中のアセトアセテート、3−ヒドロキシブチレート及びトータルケトン体濃度並びに(b)血清中のカテコールアミン濃度をHPLCにより測定した。
【0035】
(a)ケトン体濃度の測定結果
ケトン体濃度の測定結果を表3に示した。
トータルケトン体濃度は、コントロール群(C群)に比べて、γ−リノレン酸投与群(S群)及びγ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)で何れも大きい値であった。特に、γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)では、非常に大きい値であった。これより、γ−リノレン酸の摂取によって、脂肪の分解が促進され、さらにγ−リノレン酸+カフェインの同時摂取によって、脂肪の分解が大きく促進されたことが分かる。
【0036】
【表3】

【0037】
(b)カテコールアミン濃度の測定結果
カテコールアミン濃度の測定結果を表4に示した。
さらに、γ−リノレン酸投与群のうち1匹のラットは、5分間の自由遊泳をさせないでカテコールアミン濃度を測定した。その結果、遊泳をさせないラットは、すべてのカテコールアミン濃度が、遊泳させたコントロール群(C群)、γ−リノレン酸投与群(S群)及びγ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)に比べて著しく低かった。これより、非運動時にはγ−リノレン酸は血中のカテコールアミン濃度を上昇させないと考えられる。
遊泳させたラットの血中アドレナリン濃度は、コントロール群(C群)に比べて、γ−リノレン酸投与群(S群)及びγ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)で何れも高い値であり、ドーパミンにおいても同様の高い傾向の値を示した。特に、γ−リノレン酸投与群(S群)においては、顕著に高いアドレナリンの濃度及びドーパミン濃度を示した。これより、γ−リノレン酸が運動時に血中アドレナリン濃度及び血中ドーパミン濃度を高める作用を有していることが分かる。
【0038】
【表4】

【0039】
(4)血中乳酸濃度の経時変化
各群のラット1匹について、上記6週目の5分間の遊泳実験後の経時的な血中乳酸濃度を測定し、血中乳酸濃度の変化を図2に示した。血中乳酸濃度は血液乳酸測定器(ラクテート・プロセンサー、Lactate pro,ARKAY社)を用いて、尾静脈の血液を用いて測定した。
γ−リノレン酸投与群(S群)では、遊泳実験後5分経過時に最大の血中乳酸濃度を示した。30分経過時には、最大乳酸濃度の約60%の濃度まで低下し、その後も徐々に低下し、60分経過時には、最大乳酸濃度の約40%の濃度にまで低下した。
γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)では、遊泳実験後5分経過時に最大の血中乳酸濃度を示した。遊泳実験後30分経過時には、最大乳酸濃度の約50%の濃度にまで低下し、60分経過時には、最大乳酸濃度の約30%の濃度にまで低下した。
乳酸濃度の低下速度を下記式(1)により求めた。
(最大乳酸濃度−60分経過時乳酸濃度)/(60分−最大乳酸濃度到達時間(分))
・・・(1)
その結果、コントロール群(C群)は、最大乳酸濃度到達時間が15分、乳酸濃度低下速度が0.10mmol/l/分、γ−リノレン酸投与群(S群)は、最大乳酸濃度到達時間が5分、乳酸濃度低下速度が、0.14mmol/l/分、γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)は、最大乳酸濃度到達時間が5分、乳酸濃度低下速度が0.15mmol/l/分であった。
このことより、γ−リノレン酸投与群(S群)、γ−リノレン酸+カフェイン投与群(SK群)ではコントロール群(C群)に比べて約1.5倍の速さで血中乳酸濃度が低下したことが分かる。すなわち、γ−リノレン酸並びにγ−リノレン酸及びカフェインの混合物は、乳酸により引き起こされる疲労を迅速に回復する効果を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例で用いた遊泳装置の図。
【図2】遊泳実験後の時間経過と血中乳酸濃度の関係を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−リノレン酸を有効成分として含有する疲労回復剤。
【請求項2】
さらにカフェインを含有することを特徴とする、請求項1に記載の疲労回復剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の疲労回復剤を含む医薬。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の疲労回復剤を含む飲食品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の疲労回復剤を含む飼料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−282644(P2006−282644A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108615(P2005−108615)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】