説明

疼痛および炎症の処置のための獣医学用薬学的組成物

本発明は、動物における疼痛および炎症の処置のための、トラマドールと、メロキシカムまたはカルプロフェンとの組み合わせに基づく、獣医学用薬学的組成物に関する。本発明に従う組み合わせ(すなわち、トラマドール(中枢系への作用を有する鎮痛薬)と、メロキシカムまたはカルプロフェン(末梢系への作用を有する抗炎症剤))の効果は、この組み合わせの構成成分の間の相乗作用に起因して、この組み合わせの個々の構成成分の別個の投与後に得られる効果の合計よりもずっと大きい。この相乗効果は、極めて効果的な鎮痛作用を提供し、NSAIDの通常の用量は低減され、それによってその副作用を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、
a)トラマドールと、
b)メロキシカムまたはカルプロフェンと、
の組み合わせを含む、疼痛および炎症の処置のための獣医学用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(導入)
ヒトの居住状況および社会状況におけるイヌおよびネコの融和および共存の増加により、ヒトは、これら動物の食餌、処置および他の必要性に特別なケアおよび注意をささげながら、ほとんど家族のようにこれらの動物を扱うようになっている。
【0003】
その結果、ヒトにおける場合と同様にイヌおよびネコの平均寿命が非常に延び、老齢に関連する健康問題が多様化した。
【0004】
高齢の動物に典型的な多くの変性疾患は、しばしば炎症プロセスが伴う疼痛を含む。
【0005】
さらに、ますます厳格な交配基準により、若齢のイヌにおいてさえ、変性疾患が現れるようになった。このことは、寛骨大腿関節に影響し、最終的に不快感および疼痛を引き起こす遺伝性障害である股関節部形成異常症に当てはまる。冒された動物は後肢に疼痛を感じ、このことにより身体活動が減少し、起き上がること、階上へ歩くこと、走ることなどが困難になる。
【0006】
ネコにおいては、老齢で現れる関節炎は、しばしば、肥満によって悪化する。この肥満は、これらの動物のほとんど座っているライフスタイルおよびしばしば固有の貪欲さにより、ますます一般的になっている。さらに、関節炎は、ネコにおいては処置がより困難である(ネコは、通常の抗炎症剤により感受性であり、高齢になると腎不全になりがちである)。
【0007】
疼痛および炎症の効果的な処置は、特に高齢の動物の場合に、動物のクオリティーオブライフを顕著に向上させる。
【0008】
高齢のイヌの特異的な特徴は、歯科問題の可能性および存在、食欲の欠如、およびしばしば医療製品の不快な香味に起因する、医薬の投与の困難性である。
【0009】
全ての年齢のネコに対しては、その生来の疑い深さに、しばしば非日常の不快なにおいを強烈に嫌うことが伴って、医薬製品を投与することはさらに難しいことですらある。
【0010】
ウマ(特に競走馬)は特に、筋骨格組織(大きなストレスを受け、損傷、微視的損傷(microtrauma)、剥離骨折、および関節軟骨の変性などを生じる)の問題の対象である。
【0011】
特に変形性関節症は、跛行の主要な要因のひとつである。特に重い負荷の結果として最大の磨耗にさらされる関節(椎骨間、頚部、および腰椎、中手指節関節、指節間、膝関節(stifle)、および足関節)における、炎症と変性とが起こる原発性変形性関節症の形態に加えて、骨軟骨症、舟状骨疾患、疲労、または圧力骨折のような特異的な要因に起因する二次変形性関節症もまた存在し得る。関節の腱および靭帯の問題もまた生じ得る。
【0012】
ウマにおいて一般的な他の炎症形態は、舟状骨疾患(掌の蹄の(palmar hoof)炎症)、趾骨瘤(ringbone)(繋(pastern)および蹄骨(coffin)関節の変形性関節症)、および腓骨、飛節内腫(spavin)、板層炎症、および珠腱軟腫(wind gall)のような疾患に起因する炎症である。
【0013】
(先行技術)
メロキシカムおよびカルプロフェンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)のカテゴリーに属する。これらの物質は、長らく、その抗炎症作用、鎮痛作用および解熱作用に起因して、獣医学用医薬において大量に使用されてきた。しかしながら、それらの鎮痛作用は限定的であるとみなされており、そしてそれらの分離した投与は、軽度から中程度の疼痛の処置に対して推奨されるのみである。
【0014】
NSAIDは、「末梢性」鎮痛薬である。なぜなら、NSAIDは、末梢神経系に作用し、侵害受容器の感作を担う炎症を直接的に処置するからである。
【0015】
NSAIDの作用機序は、アラキドン酸の異化、および引き続くプロスタグランジン(PG)の合成の阻害に関する。プロスタグランジンは、炎症および侵害受容器の末梢感作の主要なメディエーターである。しかしながら、プロスタグランジン(PG)合成の阻害はまた、消化器、造血系、および腎臓においてNSAIDの多数の副作用を引き起こし、このことが中期/長期処置においてその使用を不得策なものにする。
【0016】
薬物動態に関しては、NSAIDは、経口投与によって与えられようと非経口投与によって与えられようと、迅速で完全な吸収と、血清タンパク質との結合に起因する適度の分配容量(約10%)とを示し、そして主に尿により排出される。
【0017】
食物は、いくつかのNSAIDの経口吸収を低減させ得るか、または他の薬理学的相互作用を引き起こす。
【0018】
注射可能な調製物はアルカリ性である傾向があり、そして脈管周囲の領域に蓄積した場合、壊死または疼痛を引き起こし得る。
【0019】
異なる動物種の間では、排泄速度にもかなりの差異が存在する。
【0020】
トラマドールは、二重の作用機序を有する中枢系鎮痛薬である:トラマドールは、μアヘン剤レセプター、δアヘン剤レセプターおよびκアヘン剤レセプターの純粋な非選択的アゴニスト(μレセプターにより大きな親和性がある)であり、中枢シナプスレベルでの疼痛および炎症のノルアドレナリン作用性伝達およびセロトニン作用性伝達のモジュレーターである。結果的にトラマドールは、疼痛および炎症を阻害する両方の系:オピオイド系およびモノアミン作用性系に対して作用する。
【0021】
トラマドールは、効果的で迅速な鎮痛作用と、優秀な全身耐容性プロフィールとを組み合わせる。モルヒネのような他の中枢系鎮痛薬とは異なり、治療的用量で投与された場合、トラマドールは呼吸器低下を引き起こさず、良好な心血管耐容性を有し、そして胃腸の運動性に影響しない。結果的に、トラマドールは、異なるタイプおよび要因の、急性および慢性の、中程度または重篤な疼痛の処置のための第一候補薬物である。
【0022】
経口投与後のトラマドールの鎮痛効果は非経口投与後に記録されるものと顕著には異ならないことに留意することが重要である。
【0023】
6つの動物種(マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギおよびイヌ)について実施されたトラマドールの薬物動態研究は:
−使用される処方にかかわらず、優秀な吸収。筋肉内経路によって投与された場合、吸収はほとんど完全(total)である;
−2時間以内のピーク血漿濃度;
−血漿タンパク質との適度の結合;
−投与経路に関わらず、イヌにおいては約2.5時間の半減期の、主に腎臓経路による排泄。
【0024】
NSAIDは、動物において疼痛および炎症を処置するために最も頻繁に使用されている薬物である。
【0025】
非特許文献1は、イヌにおける変形性関節症の処置におけるカルプロフェンの使用を記載する。
【0026】
非特許文献2は、癌腫に罹患したイヌにおける疼痛の処置におけるピロキシカムの使用を記載する。
【非特許文献1】P.Vasseurら、JAVMA,20,807(1995)
【非特許文献2】D.Knappら、J.Vet.Int.Med.,8,27(199)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0027】
(発明の説明)
トラマドールとメロキシカムまたはカルプロフェンとの組み合わせが、家畜における疼痛および炎症の処置において特に効果的であることが、今回見出された。
【0028】
従って、本発明は、家畜における疼痛および炎症の処置のための、トラマドールと、メロキシカムまたはカルプロフェンとの組み合わせに基づく獣医学用薬学的組成物に関する。
【0029】
より具体的には、本発明は、イヌ、ネコおよびウマのようなペットにおける疼痛および炎症の処置のための、トラマドールと、メロキシカムまたはカルプロフェンとの組み合わせに基づく組成物に関する。
【0030】
本発明に従う組み合わせ(すなわち、トラマドール(中枢系への作用を有する鎮痛薬)と、メロキシカムまたはカルプロフェン(末梢系への作用を有する抗炎症剤))の効果は、この組み合わせの構成成分の間の相乗作用に起因して、この組み合わせの個々の構成成分の別個の投与後に得られる効果の合計よりもずっと大きい。この相乗効果は、極めて効果的な鎮痛作用を提供し、NSAIDの通常の用量を低減し、それによってその副作用を低減させることを可能にする。
【0031】
従って、本発明に従う組成物は、中期間/長期間にわたって実施され得る、より効果的で安全な抗炎症性かつ疼痛排除処置を可能にし、そして2つの活性構成物のうちの一方のみからなる薬物よりも大きな有効性および耐容性を、明白な治療的利点、より良好な鎮痛結果、および限定的な副作用とともに示す。
【0032】
本発明に従う組み合わせは、疼痛性状態または炎症性状態(例えば、特にイヌ、ネコおよびウマなどのペットにおける、骨格筋系の炎症、軟性組織または硬性組織の炎症、関節疾患、関節炎、変形性関節症、通風性関節炎、筋炎、板層炎症、外傷の後遺症、癌によって引き起こされる疼痛を含む任意の起源の疼痛、乳房炎およびウマの仙痛)の処置に使用される。
【0033】
本発明に従う組み合わせは、高齢の動物の筋肉内疾患において、または腎不全、胃腸障害および止血変調などの共動性の病的状態の事象において、特に有用である。
【0034】
本発明に従う組成物は、動物への経口投与または非経口投与に適した様式で処方され得、そしてその最終の使用のために受容可能な賦形剤、希釈剤、充填剤、およびアンチケーキング剤(anti−caking agent)を使用して、「Remington’s Pharmaceutical Handbook」、Mack Publishing Co.,N.Y.,USAに記載されているもののような薬学的技術において周知の慣習的な方法に従って調製され得る。
【0035】
経口投与用の組成物の例は、水分散性錠剤、味のよい(palatable)錠剤、味のよい丸薬(boli)、口内ゲル(oral gel)または口内ペースト(oral paste)、およびドロップである。
【0036】
非経口投与用の組成物の例は、注射可能溶液である。
【0037】
経口組成物は、単位用量あたり以下の量で活性成分を含む:
a)約25mgと約50mgとの間のトラマドール;および
b)約2.5mgと2.5mgとの間のメロキシカム;または約10mgと約50mgとの間のカルプロフェン。
【0038】
非経口組成物は、単位用量(1mlアンプル)あたり以下の量で活性成分を含む:
a)約25mgと約50mgとの間のトラマドール;および
b)約1mgと約5mgとの間のメロキシカム;または約25mgと約50mgとの間のカルプロフェン。
【0039】
本発明に従う組成物は、活性構成物の以下の用量を提供するような様式で投与されなければならない:
a)トラマドール:体重1kgあたり1mg〜4mg;および
b)メロキシカム:体重1kgあたり2.5mg〜2.5mg;またはカルプロフェン:体重1kgあたり2.5mg〜2mg。
【実施例】
【0040】
本発明に従う組成物の例を、以下に挙げる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛および炎症の処置のための獣医学用薬学的組成物であって、
a)トラマドールと、
b)メロキシカムまたはカルプロフェンと、
の組み合わせを含む、組成物。
【請求項2】
経口投与用の、請求項1に記載の組成物であって、
単位用量あたり以下の量で活性成分を含む、組成物:
a)約25mgと約50mgとの間のトラマドール;および
b)約2.5mgと2.5mgとの間のメロキシカム;または約10mgと約50mgとの間のカルプロフェン。
【請求項3】
非経口投与用の、請求項1に記載の組成物であって、
単位用量あたり以下の量で活性成分を含む、組成物:
a)約25mgと約50mgとの間のトラマドール;および
b)約1mgと約5mgとの間のメロキシカム;または約25mgと約50mgとの間のカルプロフェン。
【請求項4】
動物における疼痛および炎症の処置のための、獣医学的使用のための医薬の調製のための、トラマドールと、メロキシカムまたはカルプロフェンとの組み合わせの、使用。
【請求項5】
前記動物がペットである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記ペットが、イヌ、ネコおよびウマである、請求項5に記載の使用。

【公表番号】特表2009−537506(P2009−537506A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510566(P2009−510566)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001251
【国際公開番号】WO2007/135505
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508341278)
【Fターム(参考)】