説明

疾患を診断および監視するためのグリカンマーカー

本発明は、前癌状態または早期癌状態と相関するグリコシル化の変化を検出するための超高感度法を提供する。癌は検出が早いほど完全に回復する可能性が増加するので、本発明は、治療上有用な早期検出、診断、病期分類および予後判定の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疾患の診断および監視に関するものであり、より具体的には癌の診断および監視に関する。
【0002】
優先権の主張
本願は、35USC§119(e)の規定により、2002年12月20日に出願されたU.S. Patent Application Serial No. 60/435,586に基づく優先権を主張し、その全内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
生物の生理機能における糖質の重要性は認識されている。糖は代謝において決定的な役割を果たすだけでなく、ほとんど全ての生理学的過程に関与している。例えば、細胞表面に見いだされ、タンパク質および脂質に結合している直鎖糖は、特徴的な細胞シグナチャーとなり、細胞と細胞とのコミュニケーションを媒介し、細胞内シグナル伝達を活発に組織化する。タンパク質および他の生体高分子の表面に見いだされる分岐糖および直鎖糖は、特徴的なタンパク質シグナチャーとなり、タンパク質の局在化およびターゲティングを媒介し、タンパク質の機能および効力を活発に調整し、薬物動態を安定化し、治療(臨床)効能に影響を及ぼすことができる。
【0004】
糖の調節およびプロセシングの変化は、いくつかの異常な生理的状態と相互に関連づけられているが、十分な感度を有する検出方法がないため、これらのマーカーの有用性は糖質が著しく変化している状態(これは一般に著しく進行した疾患状態と相関する)に限定されてきた。本発明は、疾患後期だけでなく疾患初期にも関係し得るより微細な糖変化の検出を可能にする、増加した感度を有する新規な方法を提供する。
【発明の開示】
【0005】
概要
本発明は、前癌状態、早期癌状態、または癌状態と相関するグリコシル化の変化(例えば細胞形質転換または転移と相関する変化)を検出するための超高感度診断法の発見に基づいている。
【0006】
一局面として、本発明は、前もって選択した標的糖タンパク質、例えば癌のマーカー、例えば前立腺特異抗原(PSA)、α-フェトプロテイン(AFP)、または癌胎児性抗原(CEA)などを含む試料を用意することによって、被験者を評価する方法を提供する。試料は、被験者に由来する任意の体液または組織、例えば尿、血液、血清、精液、唾液、糞便、または組織などを含むがこれらに限定されず、試料は非濃縮試料であるか、常法によって濃縮することができる。標的糖タンパク質の糖プロファイル(glycoprofile)は、試料中の標的糖タンパク質量が約1000ng/ml未満、例えば約500、250、100、75、50、25、20、10、5、4、3、2、1、0.5、0.1ng/ml未満である標的糖タンパク質、例えば約0.1ng/ml〜1μg/mlの標的糖タンパク質を検出するのに十分な感度を有する方法を使って決定される。一部の態様では、試料が、糖プロファイルを決定するために使用する方法の検出限界よりも多量の標的糖タンパク質、例えば1000ng/mlより多量の標的糖タンパク質を有する。平均質量が約20,000Daであるとすると、これは、約5pM〜50nM、すなわち約5フェムトモル/ml〜約50ピコモル/mLの標的糖タンパク質に相当する。一部の態様では、被験者が所定の臨床状態、例えば一組の病期のうちの1つ、例えばある障害の進行段階に対応する病期の1つ、例えば癌、前癌状態、良性状態、または無病状態(no condition)を有することを、糖プロファイルが示す(本明細書で使用する「無病状態」とは、前もって選択した標的糖タンパク質に関係する良性状態、前癌状態または癌状態を、被験者が全く持っていないことを意味する)。
【0007】
第2の局面として、本発明は、被験者由来の試料を用意することによって、被験者を評価する方法を提供する。一部の態様では、試料は以下のどれを含んでもよい。約0.1ng/ml〜1μg/ml;約5pM〜50nM、例えば約5フェムトモル/ml〜約50ピコモル/ml;約1μg未満;または約50pmol未満の、前もって選択した標的糖タンパク質。次に、標的分子の糖プロファイルが決定され、一部の態様では、被験者が所定の臨床段階、例えばある障害の進行状態に対応する一組の病期のうちの1つを有すること、例えば被験者が癌、前癌状態、良性状態、または無病状態を有することを、糖プロファイルが示す。
【0008】
第3の局面として、本発明は、被験者由来の試料を用意し、前もって選択した標的糖タンパク質を例えば免疫精製法などによって試料から単離し、その標的タンパク質を酵素と接触させることにより、被験者の臨床状態を評価する方法を特徴とする。酵素は固定化酵素(例えばビーズに結合した酵素)であることができる。酵素は、例えば二官能性架橋剤(ビス(スルホスクシンイミジル)スベラートおよび/またはジメチルアジポイミデートを含むが、これらに限らない)を使って抗体をビーズに化学的に結合するなど、当技術分野において公知の任意の方法を使って、ビーズに結合することができる。次に、標的タンパク質の糖プロファイルを決定する。一部の態様では、被験者が所定の臨床状態、例えばある障害の進行段階に対応する一組の病期のうちの1つを有すること、例えば被験者が癌、前癌状態、良性状態、または無病状態を有することなどを、糖プロファイルが示す。
【0009】
一つの態様では、標的糖タンパク質の糖プロファイルの決定が、一つまたは複数の前もって選択したグリカンを前記標的分子から、例えば酵素的に(例えばPNGase F、PNGase A、EndoH、EndoF、O-グリカナーゼ、および/または一つまたは複数のプロテアーゼ、例えばトリプシン、またはLysC)または化学的に(例えば無水ヒドラジン(N)を使って、または還元的もしくは非還元的β脱離(O)を使って)、除去することを含み得る。
【0010】
もう一つの態様では、例えば酵素消化または化学的消化など、一つまたは複数の実験的制約をグリカンに課すことができる。
【0011】
一部の態様では、一つまたは複数の方法工程を反復することができる。この反復は、被験者への処置の適用前、適用中および/または適用後に、処置の有効性を監視するために行うことができる。
【0012】
一部の態様では、試料が、約50pmol未満の標的糖タンパク質、約10pmol未満の標的糖タンパク質、約1.0pmol未満の標的糖タンパク質、約0.5pmol未満の標的糖タンパク質、約0.1pmol未満の標的糖タンパク質、約0.05pmol未満の標的糖タンパク質、約0.01pmol未満の標的糖タンパク質、または約0.005pmol未満の標的糖タンパク質を含み得る。
【0013】
さらにもう一つの態様では、糖プロファイルの決定が、標的分子に結合している一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列の一つまたは複数を決定することを含む。糖プロファイルは、CE、例えばCE/LIF、NMR、質量分析(MALDIおよびESIの両方)、ならびに蛍光検出HPLCから選択される方法によって決定することができる。
【0014】
一部の態様では、糖プロファイルの決定が、シアリル化、シアル酸の修飾(硫酸化を含む)、分岐、バイセクティング(bisecting)N-アセチルグルコサミンの有無、またはグリコシル化部位数の変化のうち、一つまたは複数の変化を検出することを含む。一部の態様では、糖プロファイルの決定が、例えばN結合型および/またはO結合型オリゴ糖の、β1→6分岐構造の変化を検出することを含む。一部の態様では、糖プロファイルの決定が、ルイス抗原の変化を検出すること、例えば、とりわけルイス抗原レベル、シアリル化および/またはフコシル化などの変化を検出することを含む。
【0015】
一部の態様では、被験者が、細胞増殖および/または分化障害、例えば癌、例えば癌腫、肉腫、転移性障害、または造血系新生物障害、例えば白血病などを有する疑いがある。一部の態様では、被験者が癌を有すること、または被験者が前障害状態、例えば前癌状態を有すること、または被験者が良性腫瘍、良性過形成、例えばBPHなどの良性状態を有すること、または被験者が無病状態であること、すなわち正常であることを、糖プロファイルが示す。一部の態様では、被験者が癌を有すること、または被験者が前障害状態、例えば前癌状態を有すること、または被験者が良性腫瘍、良性過形成、例えばBPHなどの良性状態を有することを、一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が示す。一部の態様では、癌が、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、または肝細胞癌である。
【0016】
一部の態様では、一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が、さらに、癌の病期および/または癌の成長速度、および/または予後を示す。
【0017】
一部の態様では、被験者が癌を持たず、かつ/または一つまたは複数の良性過形成、例えば良性前立腺肥大、または前癌状態、例えば癌に進行しそうな状態を有する。
【0018】
一部の態様では、被験者が約0〜4ng/mL、約4〜10ng/mLまたは約10〜20ng/mL以上のPSAレベルを有する。
【0019】
一部の態様では、被験者が、標的タンパク質の糖プロファイルの変化を特徴とする障害、例えば細胞増殖および/または分化障害、例えば癌について、スクリーニングを受けている。一部の態様では、被験者が以前に、糖に基づかない別の診断方法、例えば理学的検査、免疫診断検査、例えば血中もしくは尿中などのタンパク質レベルの検出、イメージング、例えばX線、MRI、CAT、超音波など、または生検によって、疾患に関して陰性の検査結果を得ている。一部の態様では、第2の非糖プロファイル診断検査も、例えば糖プロファイル決定前に、決定と同時に、または決定後に行われる。
【0020】
一部の態様では、上記方法は、基準糖プロファイル、例えば公知の正常、良性、前癌、または癌状態と相関する基準糖プロファイルを用意し、標的糖タンパク質の糖プロファイルを前記基準と比較することも含み得る。基準は本明細書に記載するデータベースに含めることができる。糖プロファイルの比較は、本発明の方法によって決定された任意のデータ(標的糖タンパク質の一つまたは複数の選択したグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列を含むが、これらに限らない)を基準と比較することを含むことができる。この比較は診断、病期分類、予後、または監視を可能にする。
【0021】
第4の局面として、本発明は、標的タンパク質を含む被験者由来の試料を用意し、標的タンパク質を免疫精製し、標的タンパク質を固定化酵素と接触させ、標的タンパク質の糖プロファイルを決定し、そして任意で、先の工程を一回または複数回反復することにより、被験者を監視する方法を提供する。工程の反復は被験者への処置の適用後に行うことができる。
【0022】
第5の局面として、本発明は、被験者由来の試料を用意し、標的タンパク質を免疫精製法で単離し、標的タンパク質を一つまたは複数の固定化酵素と接触させ、標的タンパク質の糖プロファイルを決定することにより、腫瘍の転移能を決定する方法であって、その糖プロファイルが腫瘍の転移能を示す方法を提供する。
【0023】
第6の局面として、本発明は、複数の記録を含むデータベースを提供する。各記録は以下に挙げるデータの一つまたは複数を含むことができる。
被験者由来の試料から単離された、ある障害に関係する標的糖タンパク質の糖プロファイルに関するデータ;
被験者の状態に関するデータ、例えば被験者が癌、前癌状態、良性状態、または無病状態を有するかどうか、および任意の臨床転帰データ、例えば転移、再発、寛解、回復、または死亡など;
被験者に適用された任意の処置に関するデータ;
処置に対する被験者の応答に関するデータ、例えば処置の効力など;
被験者に関する個人データ、例えば年齢、性別、学歴など、および/または
環境データ、例えば環境中のある物質の存在、前もって選択した地理的区域における居住、および前もって選択した業務の遂行など。一部の態様では、被験者由来の試料中の標的糖タンパク質の糖プロファイルを本明細書に記載の方法を使って決定することによって得られるデータを登録することにより、データベースが作成される。
【0024】
第7の局面として、本発明は、被験者由来の試料を用意し、その試料から標的タンパク質を免疫精製し、試料中の標的タンパク質の糖プロファイルを決定することにより、被験者を評価する方法であって、被験者が癌、前癌状態、または良性状態を有することを、試料中の標的タンパク質の糖プロファイルが示す方法を提供する。
【0025】
第8の局面として、本発明は、被験者、例えば前立腺癌を有する疑いがある被験者を評価する方法であって、前記被験者に由来する試料を用意し、その試料からPSAを免疫精製し、試料中のPSAの糖プロファイルを決定することを含み、被験者が前立腺癌、転移性癌、前立腺炎、良性前立腺肥大、または無病状態を有することを、試料中のPSAの糖プロファイルが示す方法を提供する。一部の態様では、糖プロファイルが、より高度の分岐およびシアル酸、(2)異なるフコシル化構造、および/または(3)アンテナアーム(antennary arm)の異なる鎖長のうち、一つまたは複数を含み、そのことが、被験者が前立腺癌を有するか、または前立腺癌を発症する危険があることを示す。一部の態様では、糖プロファイルが正常または基準被験者には存在しない高分子量グリカンの存在を示し、そのことが、被験者が前立腺癌を有するか、または前立腺癌を発症する危険があることを示す。一部の態様では、糖プロファイルが、正常または基準被験者には存在しない分子量約3300のグリカンの存在を含み、そのことが、被験者が前立腺癌を有するか、または前立腺癌を発症する危険があることを示す。被験者は、約0〜4ng/mL、約4〜10ng/mL、約10〜20ng/ml、または20ng/mLの血清PSAレベルを有することができる。
【0026】
第9の局面として、本発明は、被験者、例えば肝癌を有する疑いがある被験者に由来する試料を用意し、その試料からAFPを免疫精製し、そのAFPの糖プロファイルを決定することにより、前記被験者を評価する方法であって、被験者が肝硬変もしくはHCCまたは無病状態を有することを、AFPの糖プロファイルが示す方法を提供する。被験者は、約0〜20ng/mL、約20〜1000ng/mL、または>1000ng/mLの血清AFPレベルを有することができる。
【0027】
第10の局面として、本発明は、被験者、例えば内胚葉組織から生じると思われる一つまたは複数の腫瘍(結腸、胃、肺、膵臓、肝臓、乳房、および食道の癌を含む)を有する疑いがある被験者に由来する試料を用意し、その試料からCEAを免疫精製し、そのCEAの糖プロファイルを決定することにより、前記被験者を評価する方法であって、被験者が肝硬変、炎症性腸疾患、慢性肺疾患、膵炎、または結腸、胃、肺、膵臓、肝臓、乳房もしくは食道の癌を有すること、またはそれらの癌を持ったことがないか、持っていないことを、CEAの糖プロファイルが示す方法を提供する。被験者は、約0〜5ng/mL、約5〜10ng/mL、または>10ng/mLの血清または血漿AFPレベルを有することができる。
【0028】
第11の局面として、本発明は、被験者由来の試料を用意し、前もって選択した標的タンパク質を磁気ビーズに結合した抗体を使って試料から免疫精製し、精製された標的タンパク質を固定化酵素と接触させ、標的タンパク質の糖プロファイルを決定することにより、被験者の状態を評価する方法であって、糖プロファイルが被験者の状態を示す方法を提供する。
【0029】
第12の局面として、本発明は、第1の糖タンパク質を一つまたは複数の候補試薬、例えばレクチン、抗体、および/または多糖結合ペプチド(例えばファージディスプレイによって単離したもの)と接触させ、任意で、第2の糖タンパク質を前記一つまたは複数の候補試薬、例えばレクチン、抗体および/または多糖結合ペプチドと接触させ、第1の糖タンパク質と第2の糖タンパク質との間の糖プロファイルの相違を検出する前記候補試薬の能力を評価することにより、第1の糖プロファイルを有する第1の糖タンパク質と第2の糖プロファイルを有する第2の糖タンパク質との間の糖プロファイルの相違を検出する能力を有する候補試薬を同定する方法を提供する。一部の態様では、第1の糖タンパク質および/または第2の糖タンパク質の糖プロファイルを決定することもできる。一部の態様では、第1および第2の糖タンパク質が、異なる臨床状態(例えば正常、良性過形成、前癌性、癌性、転移性など)を有する被験者から得られる。一部の態様では、第1および第2の糖タンパク質が同じタンパク質コアを有する。
【0030】
第13の局面として、本発明は、患者の状態(例えばある疾患の異なる病期)、異なる予後または臨床転帰と相関する糖タンパク質変化を同定する方法であって、複数の被験者、例えばある疾患の同じ病期にいる被験者および/またはある疾患の異なる病期にいる被験者(病期は標準的な方法によって決定することができる)に由来する試料を用意し、標的糖タンパク質(例えばその疾患の前もって選択した標的糖タンパク質マーカー)の糖プロファイルを決定し、ある被験者の糖プロファイルを別の被験者の糖プロファイルと比較することを含む方法を提供する。次に、得られた糖プロファイル情報を、患者の状態と相互に関連づけることができる。本方法は、例えばある個体および/または複数の個体における疾患の進行をモニターするために、上記工程の反復を含んでもよい。一部の態様では、本方法は、ある個体の状態を監視すること、例えば癌の成長速度、処置の効力などを監視することなどを含む。本方法は、その情報を本明細書に記載するデータベースに登録することを、さらに含んでもよい。
【0031】
本明細書で使用する「試料」という用語は、被験者に由来する任意の体液または組織を指し、尿、血液、血清、精液、唾液、糞便、または組織を含むが、これらに限るわけではない。ここで使用する試料は非濃縮試料であるか、または標準的方法を使って濃縮することができる。
【0032】
本明細書で使用する「糖プロファイル」という用語は、糖タンパク質のグリカンの一つまたは複数の特性を指す。例えば糖プロファイルは、以下に挙げる事項の一つまたは複数を含み得るが、これらに限るわけではない:グリカンの数または配置、N結合型グリカンの数または配置、O結合型グリカンの数または配置、一つまたは複数の結合グリカンの配列、一つまたは複数のグリカンの三次構造、例えば分岐パターン、例えば二本鎖(biantennary)、三本鎖(triantennary)、四本鎖(tetrantennary)など、ルイス抗原の数または配置、フコシル基またはシアリル基の数または配置、無傷の糖タンパク質の分子量または質量、一つまたは複数の実験的制約、例えば(酵素的または化学的)消化を適用した後の糖タンパク質の分子量または質量、糖タンパク質から例えば酵素的にまたは化学的に放出された後のグリカンの一部または全部の分子量または質量、糖タンパク質から放出された後かつ一つまたは複数の実験的制約を適用した後のグリカンの一部または全部の分子量または質量、質量シグナチャー(mass signature)、あるいは電荷。一つの態様では、糖タンパク質が一つまたは複数のレクチンまたは抗体に結合するかどうかを決定することを伴う方法以外の方法によって、糖プロファイルが決定される。
【0033】
本明細書で用いる「標的タンパク質」または「標的糖タンパク質」とは、ある障害(例えば増殖および/または分化障害)の発病、状態、進行または予後と相互に関連づけることができる糖プロファイルに一つまたは複数の変化を示す糖タンパク質を指す。糖タンパク質のアミノ酸(例えば非糖)部分を「コアタンパク質」という。標的糖タンパク質は、例えば、特定の障害に関する危険因子(例えば環境的危険因子または遺伝的危険因子)に基づいて、または被験者が特定の障害を有する可能性を示す先の検査(例えば糖に基づかない検査、血液検査、生検、理学的検査など)に基づいて、前もって選択することができる。次に、その障害に関係する糖タンパク質標的を選択し、その糖プロファイルを本明細書に記載するように決定することができる。
【0034】
増殖および/または分化障害の例には、癌、例えば癌腫、肉腫、転移性障害、または造血系新生物障害、例えば白血病、ならびに増殖性皮膚障害、例えば乾癬または過角化が含まれる。他の骨髄増殖性障害には、真性赤血球増加症、骨髄線維症、慢性骨髄性(骨髄球性)白血病、および原発性血小板血症、ならびに急性白血病、特に赤白血病、および発作性夜間ヘモグロビン尿症が含まれる。転移性腫瘍は、多数の原発性腫瘍タイプ(前立腺、結腸、肺、乳房、および肝臓由来のものを含むが、これらに限らない)から生じ得る。
【0035】
本明細書で使用する「癌」「過剰増殖」および「新生物」という用語は、自律的増殖能を有する細胞、すなわち異常状態、または迅速に増殖する細胞成長を特徴とする状態を指す。過剰増殖および新生物疾患状態は、病的(すなわち疾患状態を特徴づけるまたは構成する)と分類される場合も、非病的(すなわち正常からの逸脱ではあるが、疾患状態には関係しない)と分類される場合もある。この用語は、組織病理学的タイプまたは侵襲性の病期とは無関係に、あらゆるタイプの癌性増殖または発癌過程、転移性組織または悪性形質転換細胞、組織または器官を包含するものとする。「病的過剰増殖」細胞は、悪性腫瘍成長を特徴とする疾患状態に見いだされる。「良性過剰増殖」細胞には、非悪性腫瘍細胞、例えば良性前立腺肥大、肝細胞腺腫、血管腫、限局性結節性過形成、脈管腫、形成異常母斑、脂肪腫、化膿性肉芽腫、脂漏性角化症、皮膚線維腫、角化性棘細胞腫、ケロイドなどを含めることができる。
【0036】
「癌」または「新生物」という用語は、様々な器官系の悪性疾患、例えば肺、乳房、甲状腺、リンパ器官、消化管、および尿生殖路を冒すもの、ならびにほとんどの結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、および/または精巣腫瘍などの悪性疾患を含む腺癌、肺の非小細胞癌、小腸の癌、および食道の癌を包含する。
【0037】
「癌腫」という用語は当技術分野において認知された用語であり、呼吸器系癌、胃腸系癌、泌尿生殖器系癌、精巣癌、乳癌、膵癌、内分泌系癌、および黒色腫を含む上皮組織または内分泌組織の悪性疾患を指す。典型的な癌腫には、頚部、肺、前立腺、乳房、頭頸部、結腸、および卵巣の組織から形成させるものが含まれる。この用語は、例えば癌腫組織および肉腫組織からなる悪性腫瘍を含む癌肉腫も包含する。「腺癌」という用語は、腺組織から派生した癌腫、または腫瘍細胞が認識可能な腺構造を形成する癌腫を指す。
【0038】
「肉腫」という用語は当技術分野において認知された用語であり、間葉由来の悪性腫瘍を指す。
【0039】
増殖障害の他の例には造血系新生物障害が含まれる。本明細書で使用する「造血系新生物障害」という用語は、造血系由来の過形成/新生物細胞、例えば骨髄系統、リンパ球系統もしくは赤血球系統、またはその前駆細胞から生じるものを伴う疾患を包含する。好ましくは、これらの疾患は、低分化型急性白血病、例えば赤芽球性白血病および急性巨核芽球性白血病から生じる。他の例示的骨髄障害には、急性前骨髄性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)および慢性骨髄性白血病(CML)が含まれるが、これらに限るわけではない(Vaickus, L., Ball, E.D., Foon, K.A. (1991) Immune markers in hematologic malignancies. Crit Rev. in Oncol./Hemotol. 11: 267-97に概説されている)。リンパ性悪性疾患には、B細胞系統ALLおよびT細胞系統ALLを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、前リンパ性白血病(PLL)、有毛状細胞性白血病(HLL)、およびワルデンストレーム・マクログロブリン血症(WM)が含まれるが、これらに限るわけではない。悪性リンパ腫の他の形態には、非ホジキンリンパ腫およびその異型、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、大型顆粒リンパ球性白血病(LGF)、ホジキン病、およびリード-シュテルンベルク病が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0040】
本明細書で使用する「前癌」という用語は、処置せずに放置しておけば癌に発展しそうな状態を指す。前癌状態は、一般に、例えば、とりわけ非定型過形成、非定型増殖、異形成、上皮内癌、または上皮内新生物などに関係し得るが、一般的には転移性疾患には関係しない。
【0041】
本明細書で用いる「早期癌」とは、癌性ではあるがあまり進行していない(例えば初期の)病期にある状態を指す。一般に、初期癌はあまり転移していないか、全く転移していない。
【0042】
本発明にはいくつかの利点がある。例えば、本明細書に記載する方法により、形質転換および/または転移に関係するグリコシル化の変化を同定することが可能になる。本方法は、今までよりもはるかに早い段階で、この同定を行うことを可能にする。さらに本発明は、はるかに早い段階で患者を診断し、よって処置の効力を高め、処置の選択および監視を助ける方法を提供する。本方法は、癌を有することが疑われてさえいない個体(例えば遺伝因子または環境因子により癌の危険がある個体を含む)のスクリーニングにも対応する。
【0043】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験には本明細書に記載するものと類似するまたは等価な方法および材料を使用することができるが、好適な方法および材料を以下に説明する。本明細書で言及する刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はいずれも、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合は、定義を含む本明細書が優先されるだろう。また、材料、方法および実施例は単なる例示であって、限定を意図しない。
【0044】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求項の範囲から明らかになるだろう。
【0045】
詳細な説明
本発明は、前癌状態、早期癌状態、または癌状態と相関するグリコシル化の変化(例えば細胞形質転換または転移に付随して起こる変化)を検出するための超高感度法を提供する。癌は検出が早いほど完全に回復する可能性が増加するので、本発明は、治療上有用な早期検出、診断、病期分類、および予後判定の方法を提供する。
【0046】
異常なグリコシル化は本質的に全ての実験癌タイプおよびヒト癌タイプに見いだされる。とりわけ、N結合型グリカンのβ1→6 GlcNAc分岐構造および順序の変化、O結合型TN抗原およびトムゼン-フリーデンライヒまたはT抗原構造のシアル化の変化、ならびにシアル化および非シアル化ルイス因子(シアリルLex、シアリルLea、およびLey)の発現レベルの変化は、いずれも腫瘍進行と相互に関連づけられている。
【0047】
一般に、任意のN結合型糖タンパク質の糖質部分は、このトリマンノシルコアに付加される単糖の構造と位置に基づいて、3つの主なカテゴリの1つ、すなわち高マンノース型、ハイブリッド型、または複合型に分類することができる。これらの構造はいずれもタンパク質への結合がアミノ酸アスパラギンを介している(N結合型)。N結合型糖では、還元末端コアが厳密に保存されており(Man3GlcNAc2)、グリコシルアミン結合は常にGlcNAc残基を介している。N結合型オリゴ糖の著しい多様性は、コアモチーフを越えたオリゴ糖鎖の変化に起因する。第1に、コアの二本鎖アームの異なる延長があり得る。第2に、変化は三本鎖および四本鎖構造をもたらす分岐の増加によって生じ得る。この場合は、数種類のN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼが二本鎖構造に作用して、より高度に分岐したオリゴ糖を形成させ得る。最後に、例えばコアN-アセチルグルコサミン残基のα1→6フコシル化や、アンテナN-アセチルグルコサミン残基のα1→3フコシル化など、未完成グリカン鎖に他の残基が付加される場合がある。
【0048】
O結合型グリカンは、ペプチド鎖上のセリンまたはスレオニンへのO-グリコシド結合によって、タンパク質に結合する。N結合型糖とは異なり、O結合型糖は、著しい構造多様性を引き起こすいくつかの異なるコアに基づいている。O結合型グリカンはN結合型より一般に小さく、タンパク質上のO結合型グリコシル化の位置を特定するためのコンセンサスモチーフがない。
【0049】
グリコシル化パターンの変化は、タンパク質の特異性および/または構造を変化させ、その結果としてそれらの機能を変化させることが知られており、グリコシル化の変化は腫瘍進行のマーカーであると古くから考えられてきた。ムチン構造の変化は、診断、免疫療法、および潜在的癌ワクチンの開発に、一般腫瘍マーカーとして利用されてきた(Syrigos et al., Anticancer Res 19: 5239-44 (1999);Graham et al., Cancer Immunol Immunother 42: 71-80 (1996))。マウス黒色腫および線維肉腫の腫瘍細胞および転移巣におけるN結合型糖のβ1→6分岐数の増加が、いくつかの実験によって指摘されている(Kawano et al., Glycobiology 1: 375-385 (1991);Bruyneel et al., J. Cell. Sci. 95: 279-86 (1990))。また、いくつかの癌細胞では分岐糖形成の生物学的調節も変化して、糖がより高度に分岐する方向へシフトしているようである(Takano et al., Glycobiology 4: 665-74 (1994):Dennis et al., Semin. Cancer Biol. 2: 411-20 (1991))。三本鎖または四本鎖「異常」構造を形成するために、多くの癌タイプがN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIVおよびVなどの酵素を産生または過剰発現する(Mori et al., J Gastroenterol. Hepatol. 13: 610-9 (1998);Naitoh et al., J. Gastroenterol. Hepatol. 14: 436-45 (1999);Guo et al., J. Cell. Biochem. 79: 370-85 (2000))。グリコシル化の相違は劇的な場合(例えば糖鎖上の分岐数の変化、すなわち二本鎖から三本鎖および四本鎖への変化)と、末端残基または内部残基の微細な変化である場合があることに注意すべきである。
【0050】
癌の診断マーカーとして使用するために研究されてきた糖タンパク質には、肝細胞癌(HCC)のα-フェトプロテイン(AFP)、乳癌のムチン-1(MUC1)、前立腺癌の前立腺特異抗原(PSA)、および内胚葉組織から生じると考えられる腫瘍(結腸、胃、肺、膵臓、肝臓、乳房、および食道の癌を含む)の癌胎児性抗原(CEA)がある。しかし今のところ、これらの診断方法は、マーカーの評価に利用することができる技術によって制約されている。例えば、一般に上昇したPSAレベル(約4ng/mlを超えるレベル)は前立腺癌を示し得るが、増加したPSAレベル(約4〜10ng/ml)は、前立腺炎および良性前立腺肥大またはBPHを含む非悪性状態の結果である場合もある。良性前立腺成長と悪性前立腺成長がどちらもPSAの血漿レベルの増加につながるという事実は、癌のイニシエーション、進行、および病期の指標としてのその使用を混乱させる。したがって、PSA検査は前立腺癌の検出に大きな変革をもたらし、癌処置の効力を推定するためのツールを提供したが、多数の擬陽性をもたらしており、おそらく集団内の多くの人々が不必要な処置を受けている最も重要な一要因であるだろう。
【0051】
多くのタンパク質と同様に、PSAは、そのタンパク質を特徴づけるために用いる技術ならびにそれを単離するために使用する手法に依存して、約26,000〜34,000Daの分子量範囲を有する糖タンパク質である。PSAは、典型的には、そのポリペプチド鎖のアスパラギン45に結合したN結合型糖質鎖を1つ含有する。正常ヒト精液から単離されるPSAの大半は、図1に示すように、末端にシアル酸が付加されていて、コアN-アセチルグルコサミンに1→6結合したフコースを有する、複合型二本鎖糖質鎖(分岐構造が1つの糖質鎖)を含有するようである(Belanger et al., Prostate 27: 187-97 (1995))。したがってヒトPSAは平均で7〜12%(質量パーセント)の糖質を含む。しかし、血清中にはアスパラギンに結合している糖質鎖の構造だけが異なる数種類のPSAアイソフォームが存在することが観察されている(Guo et al., J. Cell. Biochem. 79: 370-85 (2000))。糖質の構造の相違は良性から悪性への疾患状態の変化と相関し得る(Prakash and Robbins, Glycobiology 10 (2): 174-176 (2000))。
【0052】
α-フェトプロテイン(AFP)は、発生中の胎児の肝臓、卵黄嚢、および消化管によって合成され、アルブミンに対して配列相同性を有する、正常胎児血清糖タンパク質である。これは胎児血漿の主要成分であるが、AFPは誕生後急速に循環系から消失し、健常成人の場合、循環系に見いだされるのは10μg/L未満である。AFPは正常妊娠中ならびに肝炎および肝硬変などの良性肝疾患中に上昇する他、癌、特に肝細胞癌および胚細胞(非精上皮腫)癌ならびに精巣胚細胞腫瘍でも上昇し、それほど多くはないが、膵癌、胃癌、結腸癌、および気管支原性癌などの他の悪性疾患でも上昇する。PSAと同様に、AFPレベルも、良性状態と悪性状態とを大まかに識別するために使用することができ、約500ng/mlまでの上昇は一般に悪性疾患に関係しない。AFPは、HCC用の診断および治療ツールとして使用されている。悪性疾患の存在と相関するAFPのシアル化およびフコシル化の相違が検出されている(Naitoh et al., J. Gastroent. Hep. 14: 436-445 (1999))。
【0053】
癌胎児性抗原(CEA)は、腫瘍細胞の形質膜に結合していて、そこから血中に放出され得る、約20kDの複合型免疫グロブリン様糖タンパク質である。これは結腸癌で初めて同定されたが、CEA血中レベルの上昇は結腸癌にも悪性疾患一般にも特異的ではなく、CEAレベルの上昇は、結腸癌以外の様々な癌(膵癌、胃癌、肺癌および乳癌を含む)ならびに、肝硬変、炎症性腸疾患、慢性肺疾患および膵炎を含む良性状態でも検出される。問題を混乱させることに、CEAは喫煙者の最大19パーセントで、また健常対照集団の3パーセントで上昇していることが見いだされているため、単純なCEAレベルは診断目的には有用でない。重要なことに、相違は、正常結腸組織および癌性結腸組織中のCEAの糖質組成だけに観察されるのではなく(Garcia et al., Cancer Res. 51 (20): 5679-86 (1991))、異なる腫瘍源からのCEAでも、個々の糖の総糖質%とモル%の両方に相違が観察されている(DeYoung et al., Aust J Exp Biol Med Sci. 56 (3): 321-31 (1978))。
【0054】
変化したグリコシル化パターンを持ち、それゆえに悪性疾患のマーカーとして潜在的に有用なタンパク質は、HCCで変化したフコシル化を示すα-1-アンチトリプシンおよびトランスフェリンを含めて、他にもいくつか記載されている(Naitoh et al., 前掲)。他の潜在的マーカーには、インスリン様成長因子1(IGF-1)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、特にそのβサブユニット、CA125(一部の乳癌のマーカー)、グアニリルシクラーゼC(GC-C)(一部の結腸直腸癌、膀胱癌および胃癌のマーカー)、核マトリックスタンパク質NMP22および48(NMP22は膀胱癌用、NMP48は前立腺癌用)、α-メチルアシルCoAラセマーゼ(AMACR)(一部の前立腺癌のマーカー)、ならびにCA19-9(膵癌および胃腸(例えば胃)癌)、CA242(膵癌および肺癌)、CA72-4(結腸直腸癌および卵巣癌)およびCA50(膵癌および膀胱癌)がある


【0055】
先行技術の検出方法では感度が不足しているので、今までのところ、これらの潜在的に有用なマーカーは全て、著しく進行した癌症例での使用、または非生理的なインビトロ系での使用に限定されている。オリゴ糖鎖の単糖組成を同定し定量するために、酵素的切断または化学的切断と組み合わせたクロマトグラフィー技術および電気泳動技術が開発されている(Chen et al., Glycobiology 8: 1045-52 (1998);Raju et al., Glycobiology 10: 477-86 (2000))。蛍光ラベル糖鎖解析法(Fluorophore Assisted Carbohydrate Analysis)(FACE)では、その名前が示すとおり、オリゴ糖を蛍光プローブで標識した後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるグリカン構造の分離が行われる(Frado et al., Electrophoresis 21: 2296-308 (2000);Yang et al., Biotechnol Prog 16: 751-9 (2000))。FACE技術およびHPLC技術は極めて強力であるが、特性付けにはマイクログラム量の材料が必要であることが、重大な制約である。さらにまた、オリゴ糖構造を検出するための標識プロトコールおよびゲル/HPLC分離技術は労働集約的でもある。したがって、少量の試料材料に応用することができる方法が、明らかに必要とされている。ピコモル〜フェムトモルの材料しか必要としない本発明は、そのような方法を提供する。
【0056】
一部の態様では、本発明の方法は、糖タンパク質の糖プロファイルを決定することを含むことができる。特性は、無傷の糖タンパク質のグリカンを解析するか、解析の前に糖タンパク質からグリカンを放出させるか、または無傷の糖タンパク質を消化して、得られた一つまたは複数の糖ペプチド断片に結合しているグリカンを解析することによって、決定することができる。決定することができるグリカンの特性には、糖構造の一部または全部の質量、糖の化学ユニットの電荷、糖の化学ユニットのアイデンティティ、糖の化学ユニットのコンフォメーション、糖の総電荷、糖の硫酸基の総数、酢酸基の総数、リン酸基の総数、カルボキシル基の存在および数、アルデヒドまたはケトンの存在および数、糖の色素結合、糖の置換基の組成比、陰イオン糖(anionic sugar) 対 中性糖の組成比、ウロン酸の存在、酵素感受性、糖の化学ユニット間の結合、電荷、分岐点、分岐数、各分枝中の化学ユニットの数、分岐または非分岐糖のコア構造、各分枝の疎水性および/または電荷/電荷密度、分岐糖のコアにおけるGlcNAcおよび/またはフコースの有無、分岐糖の延長されたコアにおけるマンノースの数、糖の分岐鎖上のシアル酸の有無、糖の分岐鎖上のガラクトースの有無が含まれる。
【0057】
グリカンの特性は、当技術分野において公知の任意の手段によって同定することができる。特性を同定するために使用する手法は特性のタイプに依存し得る。方法には、例えばキャピラリー電気泳動(CE)、NMR、質量分析(MALDIとESIの両方)ならびに蛍光検出HPLCなどがあるが、これらに限るわけではない。例えば分子量は、質量分析を含む数種類の方法で決定することができる。グリカンの分子量を決定するための質量分析の使用は当技術分野においては周知である。質量分析は、生成した断片(例えば酵素的切断によるもの)の質量の報告におけるその正確さ(±1ダルトン)ゆえに、そしてまたpM域の試料濃度しか必要でないことから、グリカンなどのポリマーを特徴づけるための強力なツールとして使用されてきた。例えば、Rhomberg, et al., PNAS USA 95, 4176-4181 (1998)、Rhomberg, et al., PNAS USA 95, 12232-12237 (1998)、およびErnst, et al. PNAS USA 95, 4182-4187 (1998)などの刊行物には、多糖断片の分子量を同定するためのマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)が記載されている。当技術分野において公知の他のタイプの質量分析、例えば電子スプレーMS、高速原子衝撃質量分析(FAB-MS)、および衝突活性解離質量分析(CAD)なども、グリカンまたはグリカン断片の分子量の同定に使用することができる。置換基または化学ユニットの組成比(全体的な置換基または化学ユニットの量およびタイプ)は、キャピラリー電気泳動などの当技術分野において公知の方法論を使って決定することができる。グリカンの各化学ユニットまたはグリカンの断片を分離するために、グリカンには、酵素的分解または化学的分解などの実験的制約を課すことができる。次に、キャピラリー電気泳動を使ってこれらのユニットを分離することにより、グリカン中に存在する置換基または化学ユニットの量およびタイプを決定することができる。
【0058】
質量分析データは、グリカンが酵素または化学薬品による分解を受けた後のグリカン断片サイズに関する情報を確認するための貴重なツールである。グリカンの分子量を同定した後、それを他の公知グリカンの分子量と比較することができる。質量分析データから得られる質量は1ダルトン(1D)の正確さを有するので、酵素消化によって得られる一つまたは複数のグリカン断片のサイズを正確に決定することができ、置換基(すなわち存在する硫酸基および酢酸基)の数を決定することができる。分子量を比較する技術の一つは、質量線(mass line)を作成し、未知グリカンの分子量をその質量線と比較することにより、同じ分子量を有するグリカンの分集団を決定することである。本明細書で用いる「質量線」とは、特有配列を有する考え得る各グリカンタイプに関する情報をグリカンの分子量に基づいて蓄積している情報データベース、好ましくは、グラフまたはチャートの形をしたものである。したがって質量線は特定の分子量を有するいくつかのグリカンを記載することができる。例えば2ユニット多糖(すなわち二糖)は、2つの糖に対応する分子量に、32の考え得るポリマーを有する。したがって質量線は、与えられた断片(考え得る二糖、四糖、六糖、八糖、十六糖までの全て)の特定の長さに特定の質量を一意的に割り当てて、その結果を表にすることにより、作成することができる。
【0059】
分子量に加えて、他の特性も、当技術分野において公知の方法を使って決定することができる。置換基または化学ユニットの組成比(全体的な置換基または化学ユニットの量およびタイプ)は、キャピラリー電気泳動などの当技術分野において公知の方法論を使って決定することができる。グリカンの各化学ユニットを分離するために、グリカンには、酵素的分解または化学的分解などの実験的制約を課すことができる。次に、キャピラリー電気泳動を使ってこれらのユニットを分離することにより、グリカン中に存在する置換基または化学ユニットの量およびタイプを決定することができる。また、グリカンの分子量に基づく計算を使って、置換基または化学ユニットの数を決定することができる。糖プロファイルの決定を助けるために、いくつかの実験的制約を課すことができる。例えば、多糖の一つまたは複数の化学ユニットを酵素的に除去することにより、糖を分解または修飾することができる。例えばシアル酸、フコース、ガラクトース、グルコース、キシロース、GlcNAc、および/またはGalNAcの一つまたは複数を多糖部分から除去することができる。多糖部分から化学ユニットを除去するために使用することができる酵素の例には、ガラクトース後のα1→3グリコシド結合を切断するためのα-ガラクトシダーゼ、ガラクトース後のβ1→4結合を切断するためのβ-ガラクトシダーゼ、シアル酸後のα2→3グリコシド結合を切断するためのα2→3シアリダーゼ、シアル酸後のα2→6結合を切断するためのα2→6シアリダーゼ、フコース後のα1→2グリコシド結合を切断するためのα1→2フコシダーゼ、フコース後のα1→3グリコシド結合を切断するためのα1→3フコシダーゼ、フコース後のα1→4グリコシド結合を切断するためのα1→4フコシダーゼ、フコース後のα1→6グリコシド結合を切断するためのα1→6フコシダーゼ、GlcNAc後のβ1→2、β1→4、またはβ1→6結合を切断するためのN-アセチルグルコサミニダーゼなどがある。
【0060】
糖部分の構造および組成は、例えば酵素分解によって解析することができる。各タイプの単糖および特定の単糖と多糖鎖との間の様々なタイプの結合について、修飾酵素が存在する。例えばガラクトシダーゼは、ガラクトース後のグリコシド結合を切断するために使用することができる。ガラクトースはα1→3グリコシド結合またはβ1→4結合によって多糖鎖中に存在してもよい。α-ガラクトシダーゼはガラクトース後のα1→3グリコシド結合を切断するために使用することができ、β-ガラクトシダーゼはガラクトース後のβ1→4結合を切断するために使用することができる。β-ガラクトシダーゼの供給源にはS. pneumoniaeがある。また、シアル酸後のα2→3、α2→6、α2→8、またはα2→9結合を特異的に切断するために、様々なシアリダーゼを使用することができる。例えば、A. urefaciens由来のシアリダーゼは全てのシアル酸を切断するのに対して、他の酵素は結合位置に対する選択性を示す。シアリダーゼ(S. pneumoniae)はほとんどもっぱらα2→3結合を切断するが、シアリダーゼII(C. perringens)はα2→3結合およびα2→6結合だけを切断する。フコースはα1→2、α1→3、α1→4、およびα1→6グリコシド結合のどれによっても多糖に結合することができ、フコース後のこれらの結合のそれぞれを切断するフコシダーゼを使用することができる。α-フコシダーゼII(X. manihotis)はフコース後のα1→2結合だけを切断するが、ウシ腎臓由来のα-フコシダーゼはα1→6結合だけを切断する。GlcNAcは多糖鎖と3種類の結合を形成することができる。それらはβ1→2結合、β1→4、結合およびβ1→6結合である。多糖鎖中のGlcNAc残基を切断するために、様々なN-アセチルグルコサミニダーゼを使用することができる。ナタマメ由来のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼは、非還元末端β1→2、3、4、6結合N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチルガラクトサミンをオリゴ糖から切断するために使用することができ、一方、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(ニワトリ肝臓)は末端α1→3結合N-アセチルガラクトサミンを糖タンパク質から切断する。N結合型オリゴ糖のコア配列中のGlcNAc後のβ結合を切断するには、アスパルチル-N-アセチルグルコサミニダーゼなどの他の酵素を使用することができる。
【0061】
マンノース、グルコース、キシロース、およびN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)などの他の特異的単糖で多糖を分解するための酵素も知られている。
【0062】
分岐アイデンティティ、すなわち多糖が一本鎖、二本鎖、三本鎖、または四本鎖であるかどうかを決定するために使用することができる分解酵素もある。特定の分枝数を有する多糖は切断するが異なる分枝数を有する多糖は切断しない様々なエンドグリカンを利用することができる。例えばEndoF2は二本鎖構造だけを切るエンドグリカンである。したがって、二本鎖構造を三本鎖および四本鎖構造と識別するために、これを使用することができる。
【0063】
また、化学ユニットの置換基の存在および数を決定するために、修飾酵素を使用することもできる。例えば、スルファターゼを使って硫酸基を除去すること、またはスルホトランスフェラーゼを使って硫酸基を付加することなどにより、酵素を使って硫酸基の有無を決定することができる。
【0064】
グルクロン酸後およびイズロン酸後のグリコシド結合で切断するために、それぞれグルクロニダーゼおよびイズロニダーゼを使用することもできる。同様に、結合特異的にガラクトース残基を切断する酵素、および結合特異的にマンノース残基を切断する酵素も存在する。
【0065】
この方法によって検出されるグリカンの特性は、グリカンまたはユニットの任意の構造特性であることもできる。例えば、グリカンの特性はグリカンの分子質量または長さであることができる。他の態様では、特性が、置換基またはユニットの組成比、多糖の基本ビルディングブロックのタイプ、疎水性、酵素感受性、親水性、二次構造およびコンフォメーション(すなわち、らせんの位置)、置換基の空間的分布、化学ユニット間の結合、分岐点の数、分岐多糖のコア構造、ある一組の修飾と別の一組の修飾との比(すなわち、それぞれのその位置における硫酸化、アセチル化、またはリン酸化の相対量)、タンパク質の結合部位であることができる。
【0066】
他のタイプの特性を同定する方法を当業者は容易に確認することができ、それらは一般に特性のタイプおよびグリカンのタイプに依存し得る。そのような方法には、例えばキャピラリー電気泳動(CE)、NMR、質量分析(MALDIとESIの両方)、および蛍光検出HPLCなどがあるが、これらに限るわけではない。例えば疎水性は逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使って決定することができる。酵素感受性は、グリカンを酵素に曝露し、そのような曝露後に存在する断片の数を決定することによって、同定することができる。キラリティーは円偏光二色性を使って決定することができる。タンパク質結合部位は、質量分析、等温熱量計、およびNMRによって決定することができる。結合はNMRおよび/またはキャピラリー電気泳動を使って決定することができる。酵素修飾(分解でないもの)も、酵素分解と同様の方法で、すなわち基質を酵素に曝露し、MALDI-MSを使って基質が修飾されるかどうかを決定することによって、決定することができる。例えばスルホトランスフェラーゼはオリゴ糖鎖に硫酸基を転移させ、それに付随して80Daの増加を引き起こすことができる。コンフォメーションは、モデリングおよび核磁気共鳴(NMR)によって決定することができる。硫酸化の相対量は組成解析によって決定するか、ラマン分光法によって大雑把に決定することができる。
【0067】
多糖の電荷および他の特性を同定する方法は、Venkataraman, G., et al., Science, 286, 537-542 (1999)、およびU.S. Patent Applications Serial Nos. 09/557,997 and 09/558,137(どちらも2000年4月24日出願)に記載されており、これらは参照として本明細書に組み入れられる。本明細書に記載の用途に適した他の方法は当業者に知られている。例えばKeiser, et al., Nature Medicine 7 (1), 1-6 (January 2001)、Venkataraman, et al., Science 286, 537-542 (1999)を参照されたい。また、利用することができる具体的技術については、HaroのU.S. Patent No. 6,190,522、Jacksonの5,340,453、Klockの6,048,707も参照されたい。
【0068】
キャピラリーゲル電気泳動法では、反応試料を直径の小さいゲル充填キャピラリーで解析することができる。キャピラリーの小さい直径(50ミクロン)は、電気泳動中に生成する熱を効率よく散逸させる。したがって、過剰なジュール加熱を伴わずに高い電場強度を使用して(400V/m)、分離時間を1反応ランあたり約20分まで短縮させ、従来のゲル電気泳動よりも分解能を高めることができる。また、多くのキャピラリーを並行して解析することにより、生成するグリカン情報を増幅させることもできる。特に、レーザー誘起蛍光検出キャピラリー電気泳動法(CE-LIF)を使用して、正確な構造決定を達成することができる(Krylov et al., J. Chromatogr. B741: 31-35 (2000)、Song et al., Anal. Biochem. 304 (1): 126-9 (2002)、Monsarrat et al., Glycobiology 9 (4): 335-42 (1999))。
【0069】
一局面として、本発明は、一つまたは複数の解析技術(例えばU.S. Patent Application No. 10/244,805に記載の技術)を使って解析した場合に公知の特性を有する公知グリカン分子に関するデータを含有する複数の記録を含むデータベースの構築および使用を含むことができる。例えば公知グリカンは、公知の組成、構造、および分子量を有する標的糖タンパク質、糖類、オリゴ糖、または多糖であることができる。特性は、とりわけキャピラリー電気泳動、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル浸透および/またはイオン交換クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)、酵素による修飾、例えば細胞外酵素または細胞内酵素による消化、化学的消化、または化学修飾などの技術を使って得られるデータであることができる。本プロセスは分子全体またはその一部を使って行うことができる。結果をさらに定量化することもできる。データベース中の各記録は、以下に挙げるデータの一つまたは複数を含むことができる:公知グリカンを単離した被験者の状態に関するデータ、例えば正常、癌、前癌、良性など;グリカンの一つまたは複数の特性と被験者の状態との相関関係に関するデータ;予後データ;治療データ(ある与えられた化合物の投与およびその後の当該化合物の効果など);任意の癌の成長に関するデータなど。一部の態様では、記録が、処置の存在(例えば、化合物、例えば薬(例:ホルモン)、ビタミン、食物または食品添加物の投与)、環境因子の存在(例えば環境中のある物質の存在)、遺伝因子、または年齢などの身体因子の存在のうち、一つまたは複数に関するデータを含むことができる。
【0070】
データベースは、本明細書に記載する記録のそれぞれについて様々なデータを記憶することができる任意の種類の記憶システムであってよい。例えばデータベースはフラットファイル、リレーショナルデータベース、データベース中の表、コンピュータ可読揮発性または不揮発性メモリ中のオブジェクト、コンピュータプログラムによるアクセスが可能なデータ、例えばコンピュータ可読記憶媒体上のアプリケーションプログラムファイルのリソースフォークに記憶されたデータなどであることができる。好ましくは、データベースはコンピュータ可読媒体(例えばコンピュータメモリまたは記憶装置)中にある。
【0071】
形質転換過程に付随して起こるグリコシル化の変化の性質を決定するために本発明の超高感度法を使用し終えたら、得られた情報を使って他の診断ツール、例えばELISAおよび/またはレクチン結合技術に基づくキットなどを開発することができる。したがって、本明細書に記載の方法を使って得られる情報は、癌の発病に伴うグリコシル化変化の正確な他のアッセイを開発するための情報を提供するために使用することができる。また、本発明の方法は、標的タンパク質上のグリカンの質量およびアイデンティティを、与えられた疾患状態または病期と相互に関連づけて、簡単な質量決定だけを用いる迅速な病期分類を可能にするために使用することもできる。この情報は医師にとって、例えば処置を選択する際に有用である。例えば、医師に特定の処置方針を選択させ、かつ/または選択した処置方針の経過を医師が監視することを可能にする。例えば、癌が転移性になりそうにないことを標的糖タンパク質の糖プロファイルが示したとすると、医師は、化学療法または放射線療法を使用しないという選択をすることができる。
【0072】
実施例
以下の実施例では本発明をさらに詳しく説明するが、以下の実施例は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
材料および方法
免疫精製した標的タンパク質の特性解析
ウェスタンブロッティングに続いて銀染色(タンパク質を検出するため)および/または糖タンパク質ECL化学発光(糖質を検出するため)(Amersham)を行うことにより、標的タンパク質およびグリカンの純度を調べた。後者のアッセイでは、糖質残基を過ヨウ素酸で酸化した後、ビオチンヒドラジドに結合させる。シグナルは、製造者の指示に従って他の化学発光検出系の場合と同様に発生させた。グリコシル化されていないタンパク質はシグナルを出さない。これらの検出系は、固定化抗体カラムからの溶出物の試験に適しており、さらなる特性付けに必要な情報を与えるだろう。単離した材料にきれいなタンパク質バンドがひとたび検出されたら、直ちにMS配列決定に進んだ。通常、糖タイピングには免疫精製で十分である。
【0074】
無傷のタンパク質またはペプチド断片のMALDI-MSによる糖質構造決定
上記のステップで回収されたタンパク質が比較的純粋であることが決定されたら、無傷のタンパク質を直接MALDI-MSで調べた。また、適切なタンパク質分解酵素を使って得たペプチドを解析することもできた。適切なタンパク質分解酵素(例えばクロストリパインまたはキモトリプシン)によって生成する糖質部分含有小ペプチドを単離し、MSによって調べることができる。これらの糖ペプチドは約9〜13アミノ酸長で、質量分析データをより容易に、正確に、かつ高感度(材料の必要量は1ピコモル未満)に取得することができる約1000〜4500Daの範囲の分子量を有する。上述のようにMALDI-MSは極めて高感度であり、数ピコモル以下の材料しか必要としない。質量の正確さは約0.1〜0.01%程度だった。糖ペプチドの場合、解析は、典型的には、2,5-ジヒドロキシ安息香酸または(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)を用いるポジティブモードで完遂される。次に、信号対雑音比が最大になるように、装置の加速電圧およびグリッド電圧を体系的に変化させる。
【0075】
MS解析用または配列決定用のオリゴ糖の調製
アフィニティー精製したタンパク質から、PNGase F(New England Biolabs)と共にインキュベートすることによって、N結合型グリカンを遊離させた。アミン誘導体化磁気ビーズ(Pierce)に共有結合させたPNGase Fを使用することにより、約1〜10μg以上の糖タンパク質を消化して、50ng〜1μgの多糖を得た(より少量またはより多量を使用することもでき、また、例えばビス(スルホスクシンイミジル)スベラートまたはジメチルアジポイミデートなどの二官能性架橋剤を使ってビーズに化学的架橋することなどにより、他の酵素をビーズに結合することもできる)。タンパク質はまず95℃で10分間変性させた後、PNGase Fと共に37℃で終夜インキュベートした。次に、3倍体積の冷エタノールを試料に加え、氷上で1時間インキュベートすることにより、タンパク質を沈殿させて、遊離したグリカンを溶液中に残した。5分間遠心分離した後、上清を集めて、SpeedVacで乾燥した。次に、乾燥したグリカンを水に再懸濁し、GlycoClean H活性炭カートリッジ(Glyko)で精製した。次に、溶出した試料を凍結乾燥し、配列決定またはMALDI解析のために水100μlに再懸濁することにより、最終濃度を約10μM/Lにした。
【0076】
単離されたグリカンのMALDI-MSによる糖質構造の決定
水中の300mMスペルミンを含む2,5-ジヒドロキシ安息香酸マトリックスを使って、N結合型グリカンを解析した。約50フェムトモル〜100pmol、一般に5〜20pmolの範囲のグリカン試料1マイクロリットル(1μl)をMALDI-MSプレートに加え、直ちに1μlの飽和マトリックス溶液を添加した。次に、解析に先立って、試料を乾燥させた(Mechref and Novotny, Journal of the American Society for Mass Spectrometry 9: 1293-1302 (1998)、Mechref and Novotny, Analytical Chemistry 70: 455-463 (1998))。あるいは、ペプチドとの糖複合体形成を使用することもできる(Venkataraman et al., Science 286: 537-42. (1999)、Rhomberg et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 4176- 81 (1998))。配列解析の場合は、製造者の説明書(Glyko, Inc.)に従って酢酸ナトリウム緩衝液に適当なグリコシダーゼ(例えばシアリダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはN-アセチルヘキソサミニダーゼ)を加え、適当なインキュベーション措置後に糖構造の質量を測定した。血清由来PSAのN結合型オリゴ糖のMALDI-MSによる配列決定には次の戦略が含まれる。すなわち、一連のグリコシダーゼを使って、非還元末端からアスパラギン残基にN結合しているN-アセチルグルコサミンまでの配列を、読み取ることができる。
【0077】
質量-アイデンティティ関係の決定
試料中の標的タンパク質上のグリカンの質量が決定されたら、その質量を、当技術分野において公知の方法を使って、それらのグリカンのアイデンティティと関係づける。例えばU.S. Patent No. 5,607,859、USSN 09/558,137、WO 00/65521を参照されたい。一例として、正常PSAに関する質量-アイデンティティ関係は、以下にのように決定されるだろう。
【0078】
N結合型グリコシル化部位に典型的に見いだされるオリゴ糖鎖の様々なビルディングブロックの分子量を、表1に示す。一例として、正常組織由来のPSAは、特定の順序で(すなわち図1に示す順序で)配列されたこれらのビルディングブロックを有する。腫瘍細胞において分岐糖形成の生化学経路が異なると、追加の分枝がPSAオリゴ糖コアに付加され得る。追加の分枝の導入(すなわち悪性疾患の発病と相関する三本鎖構造の形成)は、一般に、質量変化(例えば正常PSA由来のPSAオリゴ糖を約657Da上回る質量変化)をもたらすだろう。同様に、四本鎖糖の質量は、一般に、PSA上の正常二本鎖糖構造と比較して1,022Da増加するだろう。オリゴ糖の質量差は本明細書に記載のMALDI-MS技術を使って容易に監視することができる。
【0079】
一例として、血清(正常)から単離されるPSAは、一般に、2370.2Daの質量を有する二本鎖型の主要なグリコシル化を持っている。しかし、癌細胞(例えばLnCaP細胞)から単離されるPSAは、一般に、2370.2Daの二本鎖構造に加えて、三本鎖糖(3026.8Da)および四本鎖糖(3392.1Da)に相当する追加の分子種を持っている。正常細胞と癌細胞に由来するPSAの質量スペクトルにおけるこの特徴的な相違は、図3に示すように、「質量-アイデンティティ」相関を確立するために使用することができる。これは任意の標的タンパク質について行うことができる。この質量-アイデンティティスペクトル中の各ピークは、一群の分子(二本鎖、三本鎖または四本鎖)を表すが、それら各群内の微細な変化はこれらのピークのさらなる分裂をもたらし得るということに注意することが重要である。例えば、上述の質量は、各鎖について末端シアル酸残基の存在を含めて計算した。これは、そうである場合もあるし、常にそうであるとは限らない場合もある。例えば、三本鎖構造中の鎖のうち(3つではなく)2つだけが末端シアル酸を有するかもしれない。その場合は、質量が相応に変化することになり、本明細書に記載するMS法を使えば、そのような変化は容易に検出される。腫瘍細胞由来の標的糖タンパク質(例えばPSA)との比較で「正常」な標的糖タンパク質(例えばPSA)を表すオリゴ糖の質量シグナチャーは、この解析から容易に得ることができる。癌細胞内、例えばLNCaP細胞などの前立腺癌細胞内でのグリカン代謝の体系的な変化に対応する再現性のある相違は、本方法を使って同定することができるだろう。
【0080】
(表1)N結合型糖タンパク質に見いだされる一般的モノマーおよびそれらの分子量の表

【0081】
質量-アイデンティティ関係の疾患状態または病期との相関
様々な公知の疾患状態および病期を有する被験者から得た試料、例えばIMPATH(BioClinical Partners, Inc、マサチューセッツ州フランクリン)などの試料バンクから入手した試料を解析する。一般的には病歴がわかっている被験者を選択する。試料中の標的タンパク質上のグリカンの質量を決定し、それらのグリカンのアイデンティティと関係づけたら、グリカンの質量-アイデンティティと疾患状態または病期とを相互に関連づける。一例として、グリコシル化の変化を、疾患状態(例えば非癌正常状態、非癌過形成状態(例えば良性前立腺肥大(BPH))、非癌炎症状態(例えば前立腺炎、増殖性炎症性萎縮(proliferative inflammatory atrophy(PIA))、前癌状態(例えば前立腺上皮内新形成(PIN))または癌状態(例えば前立腺癌(PCa))を含むが、これらに限らない)と相互に関連づけることができる。グリコシル化の変化は、例えばTNM(腫瘍のみ(T)、リンパ節への拡がり(N)、または転移(M))などの体系、または他の分類体系(グリーソン分類/グリーソンスコアまたは他の分類体系を含むがこれらに限らない)などを使って、病期と相互に関連づけることもできる。限定するわけではないが一例として前立腺癌を取り上げると、以下の分類体系が役立ち得る:I(A)期の癌は直腸内触診(DRE)では感知することができず、症状を何も引き起こさず、前立腺外に拡がっていない、II(B)期の癌はDREで感知できるか、またはPSAが増加するが、前立腺外には拡がっていない、III(c)期の癌は前立腺外の近傍組織まで拡がっている、IV(D)期の癌はリンパ節または身体の他の部分まで拡がっている。当技術分野において知られている、疾患を例えば臨床的にまたは病理学的に病期分類する、他の任意の体系を使用することができる。
【0082】
実施例1
LNCaP細胞中のPSAの糖タイピング
LnCaP細胞からのPSAの単離
LnCaP細胞を、10%FBSを含有するRPMI1640培地で48〜72時間、平板培養し、培養物を温かいHBSSで洗浄した後、新しい培地を加えた。24〜48時間後に培養上清を集め、-20℃で凍結した。PSA測定は、融解した上清に対して、市販のマウス抗ヒトPSAモノクローナル抗体(TandemE PSA Immunoenzymatic Assay、Hybritech、カリフォルニア州サンディエゴ)を使って行った。結果は一般に、ng/ml PSA/106細胞として表される。このアッセイの感度の限界は約0.2ng/mlである


【0083】
簡単に述べると、抗PSA抗体結合ゲルを使って、培地からPSAを精製した。Immunopure架橋キット(Pierce、イリノイ州ロックフォード)を使って、ポリクローナルウサギ抗ヒトPSA抗体(Donn et al., Prostate 14, 237-49 (1989))(AXL685、Accurate Chemical & Scientific Corporation)を、プロテインGセファロースに結合した。架橋前にプロテインGセファロースをImmunopure結合緩衝液で平衡化してから、濃度3〜4mg-IgG/ml-ゲルの抗PSA IgGと混合した。室温で穏やかに上下反転させることによって溶液を混合した。30〜60分後に、ゲルを緩衝液で洗浄し、DMP(ジメチルピメルイミデート)の溶液を使って、室温で1〜2時間、抗体を結合させた。Immunopureブロッキング緩衝液を使って、残存活性部位をブロックした。未結合IgGをグリシン-HCl(pH2.5)で溶出させ、ゲルを洗浄した後、0.02%アジ化ナトリウム含有PBS中に保存した。免疫精製のために、PSA含有培地を洗浄した抗PSA結合ゲルと共にインキュベートした。室温で30〜60分間インキュベートした後、未結合画分を取り除き、PBSで3〜4回ゲルを洗浄した。次に、結合しているPSAを、等体積の100mM酢酸を使ってバッチ法で溶出させた。得られた画分(3または4)を回集し、Speed Vacを使って濃縮した。次に、濃縮した画分をSDS-PAGEで分解することにより、図4に示すように、純度および分子サイズを確認した。場合によっては、溶出した画分を、50mlのTris-HCl(pH8.5)を含むチューブに入れ、回収されたPSAの濃度を見積もるために使用した(Hybritechキット)(Qian et al., Clin. Chem. 43: 352-9. (1997))。
【0084】
単離後に、PSAを、本明細書に記載するように解析した。
【0085】
実施例2
ヒト血清中のPSAの糖タイピング
ヒト血清からのPSAの単離:
血清試料中に存在するPSAが90%を超えて精製されると推定される固相アフィニティー捕捉法が開発されている(Hurst et al., Anal. Chem. 71: 4727-33. (1999))。全ての反応を滅菌低付着1.5mL微量遠心チューブ(VWR)で行った。アミノ-ポリスチレンビーズ(3〜3.4 mm、5%w/v;Spherotech, Inc.)を、炭酸ナトリウム緩衝液中の0.5%グルタルアルデヒドで処理した。過剰の試薬を除去するために洗浄した後、炭酸緩衝液中のウサギ抗ヒトPSA抗体(Accurate Chemical & Scientific Corporation)を、室温で数時間結合させた。ビーズを洗浄した後、10mg/mLシアノ水素化ホウ素ナトリウムを1時間半反応させて、抗体を共有結合によりその場に固定した。誘導体化されたビーズを穏やかに浸透しながらヒト血清と室温で2時間混合した。捕捉後に、試料をPBSで5回洗浄し、1:3:2 ギ酸/水/アセトニトリルで溶出した。
【0086】
単離後に、無傷のPSAを本明細書に記載するように解析した。図5は、本方法によって正常ヒト血清から単離され解析されたPSAが比較的純粋な単一物であり、実験的に決定した分子量は28,478.3Daであることを示している。この分子量は、一フコシル化二本鎖糖構造を有する主要PSAポリペプチドの理論分子質量に極めてよく一致している。これらの結果は、本方法がヒト血清から単離されたPSAに応用できることを証明している。同様の方法を使って、選択した任意の標的マーカータンパク質、例えばAFPまたはCEAを単離することができる。
【0087】
実施例3
MALDI-MSに基づくPSA由来N結合型グリカンの配列決定
正常PSAをCalbiochemから入手するか、健常男性ボランティアの血清試料(IMPATHと呼ばれる臨床団体から入手)から精製し、本明細書に記載するようにグリカンをタンパク質から分離した。簡単に述べると、PNGase F消化後にPSAのグリカン構造を単離し、直接MALDI-MSで解析した。図6Aに示すように、無傷のグリカン構造の解析により、2369.5の質量が得られたが、これはコアフコースと2つの末端シアル酸とを有する二本鎖構造(理論質量2370.2;図7)と一致する。シアリダーゼで処理すると質量は582.6減少したが、これは2つのシアル酸残基の喪失に合致する(図6Bおよび図7)。アシアロ試料にガラクトシダーゼを加えると質量はさらに324.1減少したが、これは新生鎖から2つのガラクトース残基が切断されたことに起因する(図6Cおよび図7)。最後に、試料をN-アセチルグルコサミニダーゼで処理することにより、2つのN-アセチルグルコサミン残基の喪失に一致する質量減少が起こった(図6Dおよび図7)。
【0088】
これらの結果は、本方法がPSAに由来するN結合型グリカンの組成の決定に応用できることを実証している。また、酵素の特異性および酵素処理時に観察される質量シフトに基づいて、未知オリゴ糖の配列を決定することもできる。すなわち明瞭なオリゴ糖構造を未知試料に割り当てることができる。これらの結果は、本方法が、質量アイデンティティ関係の割り当てに必要な構造情報を提供するのに役立つことを裏付けている。また、この実験は、1マイクログラム未満の量、すなわちインビボ試料から入手できる量の材料で成し遂げられたことから、これらの方法を生理学的試料に応用できることが実証された。同様の方法を使って、任意の標的タンパク質、例えばAFPおよびCEAの糖タンパク質を決定することができる。
【0089】
実施例4
正常個体および癌患者に由来するPSA糖タイプの比較
前立腺癌を患っている個体のPSAを、図8Aに概説したように、1mLの血清試料から単離した。簡単に述べると、低アフィニティーポリクローナル抗体(Scripps Labs、カリフォルニア州サンディエゴ)で被覆した磁気ビーズ(Millipore Corp.)上にPSAを捕捉した。100%アセトニトリル/0.1%TFA溶液でPSAを溶出し、そのまま解析するか、または消化後にグリカンを別個に解析した。免疫精製後の典型的な収率は、抗PSA ELISAによる測定で、60〜80%だった(表2)。一部の実験では、PSAタンパク質+グリコシル化を、実施例2で概説したように、MALDI MSで直接解析した。これらの実験では、癌患者由来のPSAが複数の物体からなり、その多くは28.5kDaより大きい分子質量を持っていた。あるいは、PSAのグリコシル化を、酵素的手段(実施例3に記載したようにPNGaseを使用)または化学的手段(実質上、Wolff et al. Prep Biochem Biotechnol. 29 (1): 1-21 (1999)に記載されているとおりに、ヒドラジン分解を使用)によって切断した。
【0090】
PNGaseによる消化後の解析結果を図8Bに示す。癌を有する個体から得た試料中のPSAのN結合型グリカンの直接解析は、それが正常PSA(すなわち癌を有さない正常個体から得た試料中のPSA、図6Aと図8Bを比較すること)中に見いだされるものとは同じでなく、より高度な分岐および他の修飾を有する分子種を有すること(すなわち、正常個体から得た試料中には存在しない図8Bの約3300のピークを参照)を示した。完全なPSA糖タンパク質と単離されたグリカンの質量を両方とも調べたところ、癌試料から得られるPSAの糖型は、(1)癌におけるPSA糖型がより高度な分岐およびシアル酸を有すること、(2)癌におけるPSA糖型が異なるフコシル化構造を有すること、および(3)癌由来のPSA中のアンテナアームの鎖長が正常個体におけるものとは異なることを含めて、いくつかの重要な相違を持っていることが明らかになった。癌患者から得たいくつかの試料は、不適切に加工された低分子量グリカンも示す(図8C)。完全なグリカンおよび単離されたグリカンのこれらの2つの解析が、別個の、しかし相補的な情報を与えたという事実に注目すべきである。
【0091】
(表2)癌患者の血清からのPSAの典型的収率

【0092】
本発明をその詳細な説明と共に記述したが、上記の説明は、本願特許請求の範囲によって定義される本発明を例示しようとするものであって、本発明を限定するものではないことを理解すべきである。他の局面、利点および変更も、本願特許請求の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】正常前立腺血清抗原(PSA)上に存在するグリカン構造の図である。
【図2】N結合型糖の基本分岐パターンの図である。
【図3】PSAの分岐パターンに関する質量-アイデンティティ関係を表す図である。
【図4】正常PSAおよび形質転換PSA(LNCaP細胞由来)から得られるオリゴ糖のPAGE解析の結果を示すゲルの写真である。ANTS標識試料をゲル電気泳動によって分離した。レーン1、デキストラン標準品(Glyko);レーン2、フコースを含まないアシアロ二本鎖オリゴ糖;レーン3、フコースを含むアシアロ二本鎖オリゴ糖;レーン4、アシアロ三本鎖オリゴ糖マーカー(2,2,6);レーン5、シアリダーゼで処理した正常PSA由来のオリゴ糖;レーン6、形質転換PSAから放出されたオリゴ糖。
【図5】正常ヒト血清由来の全PSAの質量分析図である。
【図6】A:PSAから精製された無傷のグリカンの質量分析図である。B:PSAから精製されたシアリダーゼ処理グリカンの質量分析図である。C:PSAから精製されたガラクトシダーゼ処理グリカンの質量分析図である。D:PSAから精製されたヘキソサミニダーゼ処理グリカンの質量分析図である。
【図7】図6A〜6Dに示す質量分析プロファイルから決定されるPSAのグリカンの構造を表す図である。
【図8】A:血液からPSAを精製する方法を示すフローチャートである。B:癌患者由来のPSAから単離されたグリカンの質量分析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前もって選択した標的糖タンパク質を含む被験者由来の試料を用意する工程、および
1000ng/ml未満の量の標的糖タンパク質を検出することができる方法を使って標的糖タンパク質の糖プロファイル(glycoprofile)を決定する工程、
を含む被験者の臨床状態を評価する方法であって、被験者が所定の臨床状態を有することを、糖プロファイルが示す方法。
【請求項2】
i.約0.1ng/ml〜1μg/ml、
ii.約5pM〜50nM、
iii.約5フェムトモル/ml〜50ピコモル/ml、
iv.約1μg未満、または
v.約50pmol未満
の前もって選択した標的糖タンパク質を含む試料を用意する工程、および
標的糖タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者を評価する方法であって、被験者が所定の臨床状態を有することを、糖プロファイルが示す方法。
【請求項3】
被験者由来の試料を用意する工程、
前もって選択した標的糖タンパク質を免疫精製法で単離する工程、
標的糖タンパク質を酵素と接触させる工程、および
標的糖タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者の臨床状態を評価する方法であって、被験者が所定の臨床状態を有することを、糖プロファイルが示す方法。
【請求項4】
糖プロファイルを決定する前に試料が濃縮される、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
試料が尿、血液、血清、精液、唾液、糞便、または組織を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
標的糖タンパク質が癌のマーカーである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
標的糖タンパク質が、PSA、AFP、およびCEAからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
標的糖タンパク質がPSAである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
標的糖タンパク質の糖プロファイルが、500ng/ml未満の量の標的糖タンパク質を検出することができる方法を使って決定される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
標的糖タンパク質の糖プロファイルが、250ng/ml未満の量の標的糖タンパク質を検出することができる方法を使って決定される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
標的糖タンパク質の糖プロファイルが、100ng/ml未満の量の標的糖タンパク質を検出することができる方法を使って決定される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
標的糖タンパク質の糖プロファイルが、10ng/ml未満の量の標的糖タンパク質を検出することができる方法を使って決定される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
所定の臨床状態が、ある障害の病期である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
所定の臨床状態が、ある癌の病期である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
所定の臨床状態が、癌、前癌状態、良性状態、および無病状態(no condition)からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
糖プロファイルの決定が、一つまたは複数の前もって選択したグリカンを標的糖タンパク質から除去することを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
グリカンが酵素的に除去される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
グリカンが、PNGase F、PNGase A、EndoH、EndoF、およびO-グリカナーゼからなる群より選択される酵素を使って除去される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
グリカンがプロテアーゼを使って除去される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
グリカンがトリプシンまたはLysCを使って除去される、請求項16記載の方法。
【請求項21】
グリカンが化学的に除去される、請求項16の方法。
【請求項22】
グリカンが無水ヒドラジン、還元的β脱離、または非還元的β脱離を使って除去される、請求項16記載の方法。
【請求項23】
決定が、標的糖タンパク質に結合しているグリカンに一つまたは複数の実験的制約を課すことを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
実験的制約がグリカンの酵素消化または化学的消化である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
グリカンに一つまたは複数の実験的制約を課すことをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項26】
実験的制約がグリカンの酵素消化または化学的消化である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
糖プロファイルの決定が、標的糖タンパク質に結合している一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列の一つまたは複数を決定する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
上記ステップの一つまたは複数を反復することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
試料が50pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
試料が10pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
試料が1.0pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
試料が0.5pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
試料が0.1pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
試料が0.05pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
試料が0.01pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
試料が0.005pmol未満の選択した標的分子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
決定が、CE、CE/LIF、NMR、MALDI質量分析、ESI質量分析、および蛍光検出HPLCから選択される方法による、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
決定がCE/LIFによる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
決定がMALDI-MSによる、請求項37記載の方法。
【請求項40】
被験者が細胞増殖および/または分化障害を有する疑いがある、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
障害が癌である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
癌が、癌腫、肉腫、転移性障害、および造血系新生物障害からなる群より選択される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
造血系新生物障害が白血病である、請求項41記載の方法。
【請求項44】
被験者が癌を有することを糖プロファイルが示す、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
被験者が前障害状態を有することを糖プロファイルが示す、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
前障害状態が前癌状態である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
被験者が良性状態を有することを糖プロファイルが示す、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
良性状態が良性腫瘍または良性過形成である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
良性過形成が良性前立腺肥大(BPH)である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
被験者が癌を有することを、一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が示す、請求項26記載の方法。
【請求項51】
被験者が前癌状態を有することを、一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が示す、請求項26記載の方法。
【請求項52】
癌が乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、または肝細胞癌である、請求項50記載の方法。
【請求項53】
癌が乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、または肝細胞癌である、請求項44記載の方法。
【請求項54】
一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が癌の病期をさらに示す、請求項50記載の方法。
【請求項55】
一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が癌の成長速度をさらに示す、請求項50記載の方法。
【請求項56】
一つまたは複数のグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列が予後をさらに示す、請求項50記載の方法。
【請求項57】
被験者が癌を有さない、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
被験者が一つまたは複数の良性過形成を有する、請求項57記載の方法。
【請求項59】
良性過形成が良性前立腺肥大である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
被験者が前癌状態を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項61】
被験者が0〜4ng/mL、4〜10ng/mL、10〜20ng/ml、または>20ng/mlのPSAレベルを有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
被験者が標的糖タンパク質の糖プロファイルの変化に関係する障害についてスクリーニングされている、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
障害が細胞増殖または分化障害である、請求項62記載の方法。
【請求項64】
障害が癌である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
被験者が、以前に、糖に基づかない別の診断方法によって、障害に関して陰性の検査結果を得ている、請求項62記載の方法。
【請求項66】
糖に基づかない診断方法が、理学的検査、免疫診断検査、タンパク質レベルの検出、イメージング、または生検の一つまたは複数である、請求項65記載の方法。
【請求項67】
タンパク質レベルの検出が血中または尿中で行われる、請求項66記載の方法。
【請求項68】
イメージング法が、X線、MRI、CAT、および超音波からなる群より選択される、請求項66記載の方法。
【請求項69】
第2の非糖プロファイル診断検査も行われる、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
非糖プロファイル診断検査が、糖プロファイル決定前、糖プロファイル決定と同時、または糖プロファイル決定後の一つまたは複数の時点で行われる、請求項69記載の方法。
【請求項71】
基準を用意する工程、および
標的分子の糖プロファイルを基準と比較する工程、
をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
糖プロファイルの比較が、標的分子の一つまたは複数の選択されたグリカンの存在、濃度、パーセンテージ、組成、または配列を基準と比較する工程の一つまたは複数を含む、請求項71記載の方法。
【請求項73】
比較により病期分類または予後が可能になる、請求項71記載の方法。
【請求項74】
以下を含む、被験者を監視する方法:
(a)標的糖タンパク質を含む被験者由来の試料を用意する工程、
(b)標的糖タンパク質を精製する工程、
(c)標的糖タンパク質を酵素と接触させる工程、
(d)標的糖タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、および
(e)工程a〜dを一回または複数回反復する工程。
【請求項75】
反復が被験者への処置の適用後に行われる、請求項74記載の方法。
【請求項76】
酵素が固定化される、請求項74記載の方法。
【請求項77】
酵素が固定化される、請求項3記載の方法。
【請求項78】
被験者由来の試料を用意する工程、
免疫精製法で標的タンパク質を単離する工程、
標的タンパク質を固定化酵素と接触させる工程、および
標的タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、
を含む腫瘍の転移能を決定する方法であって、糖プロファイルが腫瘍の転移能を示す方法。
【請求項79】
複数の記録を含むデータベースであって、各記録が以下のデータの一つまたは複数を含むデータベース:
(a)被験者由来の試料から単離される、ある障害に関係する標的糖タンパク質の糖プロファイルに関するデータ、
(b)被験者の状態に関するデータ、
(c)被験者に適用された任意の処置に関するデータ、
(d)処置に対する被験者の応答に関するデータ、
(e)被験者に関する個人データ、および
(f)環境データ。
【請求項80】
被験者の状態に関するデータが、被験者が癌、前癌状態、良性状態または無病状態を有するかどうかに関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項81】
被験者の状態に関するデータが、被験者の障害の臨床状態に関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項82】
被験者の障害の臨床状態が、寛解、再発、回復、治癒、改善、転移、慢性、または末期状態を含む、請求項81記載の方法。
【請求項83】
処置に対する被験者の応答に関するデータが処置副作用の効率の一つまたは複数に関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項84】
処置に関するデータが、投与された任意の薬物、投与量、投与スケジュール、およびコンプライアンスの一つまたは複数に関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項85】
被験者に関する個人データが、年齢、性別、学歴、病歴、および家族歴の一つまたは複数に関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項86】
環境データが、環境中のある物質の存在、前もって選択した地理的区域における居住、前もって選択した業務の遂行の一つまたは複数に関する情報を含む、請求項79記載の方法。
【請求項87】
被験者由来の試料を用意する工程、
標的タンパク質を試料から免疫精製する工程、および
試料中の標的タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者を評価する方法であって、被験者が癌、前癌状態、または良性状態を有することを、試料中の標的タンパク質の糖プロファイルが示す方法。
【請求項88】
被験者由来の試料を用意する工程、
PSAを試料から免疫精製する工程、および
試料中のPSAの糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者を評価する方法であって、被験者が癌または良性前立腺肥大を有することまたは有さないことを、試料中のPSAの糖プロファイルが示す方法。
【請求項89】
被験者が0〜4ng/mL、4〜10ng/mL、10〜20ng/ml、または>20ng/mlの血清PSAレベルを有する、請求項88記載の方法。
【請求項90】
被験者が0〜4ng/mLの血清PSAレベルを有する、請求項89記載の方法。
【請求項91】
被験者が4〜10ng/mLの血清PSAレベルを有する、請求項89記載の方法。
【請求項92】
糖プロファイルが、癌を有さない被験者に由来する試料中には存在しない高分子量グリカンの存在を含み、被験者が癌を有することを示す、請求項89記載の方法。
【請求項93】
高分子量グリカンが約3300の分子量を有する、請求項92記載の方法。
【請求項94】
被験者由来の試料を用意する工程、
AFPを試料から免疫精製する工程、および
AFPの糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者を評価する方法であって、被験者が肝硬変またはHCCを有することまたは有さないことを、AFPの糖プロファイルが示す方法。
【請求項95】
被験者が0〜20ng/mL、20〜1000ng/mL、または>1000ng/mlの血清AFPレベルを有する、請求項95記載の方法。
【請求項96】
被験者由来の試料を用意する工程、
CEAを試料から免疫精製する工程、および
CEAの糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者を評価する方法であって、被験者が結腸、胃、肺、膵臓、肝臓、乳房、または食道の癌を有することまたは有さないことを、CEAの糖プロファイルが示す方法。
【請求項97】
被験者が0〜5ng/mL、5〜10ng/mL、または>10ng/mlの血清または血漿CEAレベルを有する、請求項96記載の方法。
【請求項98】
糖プロファイルの決定が、シアリル化の変化、シアル酸の修飾、硫酸化、分岐、バイセクティング(bisecting)N-アセチルグルコサミンの有無、およびグリコシル化部位数の変化のうちの一つまたは複数を検出することを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項99】
糖プロファイルの決定が、N結合型およびO結合型オリゴ糖の一つまたは複数のβ1-6分岐構造の変化を検出することを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項100】
糖プロファイルの決定が、ルイス抗原、シアリル化、およびフコシル化の変化のうちの一つまたは複数を検出することを含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項101】
被験者由来の試料を用意する工程、
前もって選択した標的タンパク質を、磁気ビーズに結合した抗体を使って、試料から免疫精製する工程、
精製した標的タンパク質を固定化酵素と接触させる工程、および
標的タンパク質の糖プロファイルを決定する工程、
を含む被験者の状態を評価する方法であって、糖プロファイルが被験者の状態を示す方法。
【請求項102】
第1の糖プロファイルを有する第1の糖タンパク質と第2の糖プロファイルを有する第2の糖タンパク質との間の糖プロファイルの相違を検出する能力を有する候補試薬を同定する方法であって、一方または両方の糖タンパク質が50pmol未満の量で存在する方法であり、
第1の糖タンパク質を一つまたは複数の候補試薬と接触させる工程、
任意で、第2の糖タンパク質を該一つまたは複数の候補試薬と接触させる工程、および
第1の糖タンパク質と第2の糖タンパク質との間の糖プロファイルの相違を検出する該一つまたは複数の候補試薬の能力を評価する工程、
を含む方法。
【請求項103】
一つまたは複数の候補試薬が、レクチン、抗体、および多糖結合ペプチドからなる群より選択される、請求項102記載の方法。
【請求項104】
多糖結合ペプチドがファージディスプレイによって単離される、請求項103記載の方法。
【請求項105】
第1の糖タンパク質の糖プロファイルを決定することをさらに含む、請求項102記載の方法。
【請求項106】
第2の糖タンパク質の糖プロファイルを決定することをさらに含む、請求項102記載の方法。
【請求項107】
第1および第2の糖タンパク質が異なる臨床状態を有する被験者から得られる、請求項102記載の方法。
【請求項108】
異なる臨床状態が、正常状態、良性過形成障害を有する状態、前癌性障害を有する状態、癌を有する状態、転移性癌を有する状態、寛解状態、癌から回復した状態、前癌性障害から回復した状態、転移性癌から回復した状態、および死亡状態を含む、請求項107記載の方法。
【請求項109】
第1および第2の糖タンパク質が同じタンパク質コアを有する、請求項102記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−515927(P2006−515927A)
【公表日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567433(P2004−567433)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/040547
【国際公開番号】WO2004/066808
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(504346293)モメンタ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】