説明

癌抑制剤

【課題】癌抑制遺伝子を新たに見出してこれを含有する癌抑制剤ならびに該癌抑制遺伝子を用いる癌の診断方法を提供する。
【解決手段】PCDH20遺伝子又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤;PCDH20タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤。PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子を解析する工程を含む癌の診断方法;ならびにPCDH20タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のPCDH20タンパク質を解析する工程を含む癌の診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌抑制遺伝子及び該遺伝子がコードするタンパク質の医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の発症は細胞のタンパク質の変異や量的変化に起因することは古くから知られている。近年の遺伝子工学の発達は特定タンパク質をコードする遺伝子の増幅や癌細胞における遺伝子変異の解析を可能にし、癌研究の分野においても飛躍的な発展をもたらした。これまでに細胞の癌化や癌細胞の異常増殖に関与するいわゆる癌遺伝子の解析及び同定が進んでいる。一方、変異あるいは発現低下により癌化につながる癌抑制遺伝子がここ数年脚光を浴びている。これまでに癌抑制遺伝子として網膜芽細胞腫のRb遺伝子、大腸癌のp53遺伝子及びAPC遺伝子、Wilms腫瘍のWT1遺伝子などが発見されている。WT1遺伝子を活用した癌抑制剤の例も報告されている(特許文献1)。
【0003】
また、癌の発生、進展悪性化、転移などには一つの遺伝子の異常だけでなく複数の遺伝子の異常が関与していることが次第に明らかになりつつあり、さらに多くの未同定の癌遺伝子及び癌抑制遺伝子が存在するものと考えられている。癌抑制効果を有する遺伝子は数多く知られているが、多くの場合、その選別には患者の遺伝子の変異を、染色体DNAを染色することにより視覚化して見つけ出すアプローチ(非特許文献1)や、遺伝子の欠失をLOH(Loss Of Heterozygosity)解析で大まかな範囲を選定した後、重要な遺伝子領域を絞り込むという方法がこれまで行われてきた(特許文献2)。しかし、これらの方法では、判別できるDNA欠失領域が莫大なものとなり、重要な遺伝子領域を絞り込む作業に大量の時間と手間を必要とする欠点を持っており、癌抑制遺伝子を探し出す手段としては限界があった。また、従来の癌病態の分離・識別法では悪性度の判定は困難であった。
【0004】
【特許文献1】WO2003/002142号公報
【特許文献2】WO01/032859号公報
【非特許文献1】Yasuhide Yamashita,et al.,World J Gastroenterol ,11(33):5129−5135,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、癌抑制遺伝子を新たに見出してこれを含有する癌抑制剤を提供することを課題とする。本発明はまた、該癌抑制遺伝子がコードするタンパク質を含有する癌抑制剤を提供することを課題とする。本発明はさらに、該癌抑制遺伝子の発現量、ゲノムDNAのメチル化を計測することによる癌患者の病態の悪性度を診断する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく非小細胞肺癌症例のDNAの部分欠失領域の探索やメチル化度の異なる遺伝子を同定することを精力的に行ってきた。非小細胞肺癌は、さらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、腺扁平上皮癌などの組織型に分類され、肺癌の8割以上を占める。癌細胞の場合、大半はメチル化されていないはずの癌の発生を抑える遺伝子(癌抑制遺伝子)の5’領域に存在するCpG部位が密集したゲノム領域(CpGアイランド)が異常にメチル化され、メッセンジャーRNAへの発現が抑制されていることがある。近年、遺伝子の突然変異と並ぶ、重要な発癌機構として認知されている。本発明は、非小細胞肺癌におけるメチル化DNAを特定するため、新規に開発されたアレイCGH法Inazawa J.,et al., Cancer Sci. 95(7) ,559,2004)により癌で高頻度に欠失した遺伝子をスクリーニングした。さらに、本発明者らは、COBRA(combined bisulfite restriction analysis)法(Toyota M.,et al., Cancer Res.59,2307,1999)とRT−PCR法を組み合わせ、非小細胞肺癌でDNAのメチル化度が高く、発現が著しく抑制されている遺伝子を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明によれば、PCDH20遺伝子(Protocadherin 20; PCDH20、 別名 Protocadherin 13)又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤が提供される。
【0008】
好ましくは、前記遺伝子又はその相同遺伝子はベクターに組み込まれている。
好ましくは、前記ベクターはウイルスベクター又は動物細胞発現用プラスミドベクターである。
好ましくは、前記ウイルスベクターはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである。
好ましくは、前記遺伝子又はその相同遺伝子はリポソームに封入されている。
【0009】
本発明の別の態様によれば、PCDH20タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子を解析する工程を含む、癌の診断方法が提供される。
【0011】
好ましくは、前記解析は遺伝子の変異の検出又は遺伝子の発現量の異常の検出である。
好ましくは、本発明の上記の診断方法は、PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子のメチル化を解析する工程を含む。
【0012】
本発明のさらに別の態様によれば、PCDH20タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のPCDH20タンパク質を解析する工程を含む、癌の診断方法が提供される。
【0013】
好ましくは、前記解析はタンパク質の発現量の異常の検出である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新たに癌抑制機能を見出したPCDH20遺伝子又は該遺伝子がコードするPCDH20タンパク質を含有する癌抑制剤が提供される。これらの薬剤は癌の個別性に基づく治療や癌の予後の改善などの臨床上の観点から、あるいは癌の基礎的研究の観点から非常に有用である。また、PCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化もしくはそのメッセンジャーRNAの発現量を測定することで、非小細胞肺癌患者の悪性度(余命)を予測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様及び実施方法について詳細に説明する。
(1)癌抑制剤
本発明の一態様によれば、本発明の癌抑制剤は有効成分としてPCDH20(Protocadherin 20; PCDH20、 別名 Protocadherin 13)遺伝子又はその相同遺伝子を含む。本発明のもう一つの態様によれば、本発明の癌抑制剤は有効成分としてPCDH20タンパク質又はその相同タンパク質を含む。
【0016】
PCDH20遺伝子の塩基配列及びPCDH20タンパク質のアミノ酸配列は既に知られており(Kools,P.F.J., Van Roy,F., 1999)、PCDH20遺伝子の塩基配列はNational Center for Biotechnology Information のデータベースにAF16963番にて、またPCDH20タンパク質のアミノ酸配列は同データベースにNP073754番にて登録されている。PCDH20遺伝子の塩基配列は配列番号1に記載する通りであり、PCDH20タンパク質は配列番号1の塩基配列の72番目から2846番目までの領域をコードし、そのアミノ酸配列は配列番号2に示される通りである。
【0017】
本明細書において「PCDH20遺伝子」というのは、上記塩基配列で特定されるヒト由来の遺伝子をいい、「PCDH20タンパク質」というのは、該PCDH20遺伝子がコードし、上記アミノ酸配列で特定されるタンパク質をいう。
【0018】
PCDH20遺伝子は、当業者に公知の技術を用いて培養細胞などから取得したcDNAであってもよいし、又は本明細書の配列番号1に記載の塩基配列に基づいてPCR法などにより化学的に合成したものでもよい。PCR法により配列番号1に記載した塩基配列を有するDNAを取得する場合、ヒトの染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを使用してPCRを行う。PCRで増幅したDNA断片は大腸菌などの宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0019】
上記のブローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons(1987−1997)などに記載された方法に準じて行うことができる。
【0020】
本発明において、「PCDH20遺伝子の相同遺伝子」とは、配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子;又は配列番号1に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子いう。また、PCDH20遺伝子の相同遺伝子にはPCDH20遺伝子の断片も含まれる。
【0021】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から60個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個程度を意味する。
【0022】
上記の「癌抑制活性」の程度は特に限定はされないが、好ましくはPCDH20タンパク質が有する癌抑制活性と実質的に同等又はそれ以上の癌抑制活性をいう(以下、本明細書における「癌抑制活性」は同じ意味を示す)。
【0023】
従って、「PCDH20遺伝子の相同遺伝子」は上記に定義される構造と機能を有する限り、由来は問わず、ヒト以外の哺乳動物由来であってもよいし、ヒトなどの哺乳動物由来の遺伝子に対して人工的に変異を導入したものであってもよい。ただし、該遺伝子を後記のごとく癌抑制剤に使用する場合は臨床上の安全性の観点からヒト由来のものが好ましい。
【0024】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、付加又は置換されている塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子」は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。具体的には、上記遺伝子は配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAを利用し、これらDNAに変異を導入することにより取得することができる。例えば、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法などを用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley &Sons (1987−1997)などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0025】
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニー又はプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAなどを挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989などに記載されている方法に準じて行うことができる。
【0026】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0027】
上記の「配列番号1に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、癌抑制活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子」は、上述の通り、一定のハイブリダイゼーション条件下でコロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法などを行うことにより得ることができる。
【0028】
本発明において、「PCDH20タンパク質の相同タンパク質」とは、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列であって、癌抑制活性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質;又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、癌抑制活性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をいう。
【0029】
上記した「配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0030】
上記した「配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、該アミノ酸配列と配列番号2に記載のアミノ酸配列との相同性が少なくとも70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを意味する。
【0031】
PCDH20タンパク質は、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。比較的容易な操作でかつ大量に製造できるという点では、組み換えタンパク質が好ましい。
【0032】
天然由来のタンパク質は、該タンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて単離することができる。化学合成タンパク質は、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法に従って合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。組み換えタンパク質は、該タンパク質をコードする塩基配列(例えば、配列番号1に記載の塩基配列)を有するDNAを好適な発現系に導入することにより生産することができる。
【0033】
なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換又は挿入したアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNA配列の一例を示す配列番号1に記載の塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜製造又は入手することができる。
【0034】
本発明の癌抑制剤の好ましい態様としては、有効成分として上記のPCDH20遺伝子又はその相同遺伝子をベクターに組み込んだ組換えベクターを含む。ベクターとしてはウイルスベクター又は動物細胞発現用ベクター、好ましくはウイルスベクターが用いられる。
【0035】
ウイルスベクターとしてはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。中でも、レトロウイルスベクターは、細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させる可能であるからレトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。
【0036】
動物細胞発現用ベクターとしては例えばpCXN2(Gene, 108, 193−200, 1991)、PAGE207(特開平6−46841号公報)又はその改変体などを用いることができる。
【0037】
上記組換えベクターは適当な宿主に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。組換えベクターがウイルスベクターの場合、これを導入する宿主としてはウイルス生産能を有する動物細胞が用いられ、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞などが挙げられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLVなどが、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来の293細胞などが用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法などで行うことができる。また、組換えベクターが動物細胞発現用ベクターの場合、これを導入する宿主としては大腸菌K12株、HB101株、DH5α株などを使用でき、大腸菌の形質転換は当業者に公知である。
【0038】
得られた形質転換体はそれぞれに適した培地、培養条件により培養する。例えば、大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、培養終了後、通常のDNA単離精製法により得ることができる。
【0039】
また、動物細胞の形質転換体の培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、それを含有するウイルス粒子が培養上清中に放出されるので、ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法などにより得ることができる。
【0040】
本発明の癌抑制剤のうち、有効成分としてPCDH20遺伝子又はその相同遺伝子を含む癌抑制剤(以下、遺伝子治療剤という)は、有効成分であるPCDH20遺伝子又はその相同遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、PCDH20遺伝子又はその相同遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0041】
上記基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0042】
また、本発明の遺伝子治療剤は、常法により調製されたリポソームの懸濁液にPCDH20遺伝子を添加し凍結した後融解することにより製造することもできる。リポソームを調製する方法は、薄膜振とう法、超音波法、逆相蒸発法、界面活性剤除去法などがある。リポソームの懸濁液は超音波処理した後、遺伝子を添加するのが遺伝子の封入効率を向上させる上で好ましい。遺伝子を封入したリポソームはそのまま、又は水、生理食塩水などに懸濁して静脈投与することができる。
【0043】
上記遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、あるいは癌原病巣又は予想転移部位に対して、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、遺伝子治療剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0044】
上記遺伝子治療剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0045】
また、本発明の癌抑制剤のうち、有効成分としてPCDH20タンパク質又はその相同タンパク質を含む癌抑制剤(以下、タンパク質製剤という)は、有効成分であるPCDH20タンパク質又はその相同タンパク質に製剤用添加物(例えば、担体、賦形剤など)を含む医薬組成物の形態で提供される。
【0046】
上記タンパク質製剤の形態は特に限定されず、経口投与のための製剤としては例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与のための製剤としては例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤などが挙げられる。
【0047】
上記タンパク質製剤の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与などへの粘膜投与、又は吸入投与など)の何れでもよい。
【0048】
上記タンパク質治療剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日あたり0.001μg/kg体重から1000μg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは0.001μg/kg体重から100μg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0049】
上記癌抑制剤(遺伝子治療剤及びタンパク質製剤の両形態を含む)は、その有効量をヒトを含む哺乳動物に投与することによって癌を抑制するのに使用することができる。上記癌抑制剤はまたその予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳動物に投与することによって癌の予防及び/又は治療をするのに使用することができる。
【0050】
本明細書でいう「癌抑制」とは、癌の発生又は転移・着床を防止するという予防的作用、ならびに癌細胞の増殖を抑制したり、癌を縮小することによって癌の進行を阻止したり、症状を改善させるという治療的作用の両方を含む最も広い意味を有し、いかなる場合においても限定的に解釈されるものではない。
【0051】
本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌の具体例としては、例えば悪性黒色腫、悪性リンパ腫、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽細胞腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記のうち特に好ましい適用対象となる癌は、非小細胞肺癌である。
【0052】
(2)PCDH20遺伝子を用いた癌の診断方法
本発明の癌の診断方法としては、癌の悪性度の診断方法、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための診断方法などを挙げることができる。本発明の癌の診断方法は、PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子を解析する工程を含む。
【0053】
ここで、PCDH20遺伝子の一部とは、配列番号1に記載するPCDH20遺伝子の塩基配列のうち、例えば約10〜30個の連続する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを意味する。検体試料としては、腫瘍が疑われる組織切片、血液、リンパ液、喀痰、肺洗浄液、尿、便、組織培養上清などを用いることができる。
【0054】
上記の「癌抑制剤の適用対象となる癌を選別するための検出」とは組織等における本発明における癌抑制剤が有効に作用する癌の存在の有無を知ることをいう。
【0055】
癌の診断は、PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAをプライマー又はプローブとして用いて検体試料中のPCDH20遺伝子を解析することにより行う。ここで「PCDH20遺伝子を解析する」とは、具体的にはゲノムDNAのメチル化の検出又は遺伝子の発現量の異常を検出することをいう。
【0056】
遺伝子の変異の検出は、上記DNA又はRNAをプライマーとして用いる場合では、例えば選択した2種の配列のプライマーによりPCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理することで、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換する。メチル化されているシトシンは構造上安定であるために、この反応を受けず、ウラシルに変換されない。メチル化の影響を受ける制限酵素と組み合わせて変化したシトシンと非メチル化シトシンを制限酵素切断により解析することにより、メチル化DNAの存在を特定できる(COBRA法)。またPCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理後、この増幅産物をプラスミドに組み込み、宿主細胞を形質転換させて培養し、得られるクローンの塩基配列を解析することにより行うことも可能である。
【0057】
一方、遺伝子の発現量の異常の検出は、上記RNA配列を含むプローブを用いてノーザンハイブリダイゼーション法又はRT−PCR(reverse transcription−polymerase chain reaction)法によって行うことができる。
【0058】
(3)PCDH20タンパク質抗体又はその断片を用いた癌の診断方法
本発明の癌の診断方法は、PCDH20タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のPCDH20タンパク質の量を解析する工程を含む。
【0059】
本方法に用いるPCDH20タンパク質に対する抗体(以下、PCDH20抗体という)は、PCDH20タンパク質の全部又は一部を抗原として、通常の方法で作成することができる。PCDH20タンパク質の一部とは、配列番号2に記載するPCDH20タンパク質のアミノ酸配列のうち、例えば連続する少なくとも6個のアミノ酸、好ましくは少なくとも約8〜10個のアミノ酸、さらに好ましくは、少なくとも約11〜20個のアミノ酸からなるポリペプチドをいう。抗原とするPCDH20タンパク質の全部又は一部の調製法は生物学的手法、化学合成手法いずれでもよい。
【0060】
ポリクローナル抗体は、例えば上記抗原をマウス、モルモット、ウサギなどの動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内などに複数回接種し十分に免疫した後、該動物から採血、血清分離して作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば上記抗原で免疫したマウスの脾細胞と市販のマウスミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作成後、該ハイブリドーマ培養上清、又は該ハイブリドーマ投与マウス腹水から作成することができる。
【0061】
上記のようにして調製したPCDH20タンパク質抗体又はその断片を用いることによって検体試料中のPCDH20タンパク質の発現量を知ることができる。測定には、例えばイムノブロット法、酵素抗体法(EIA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法、免疫細胞染色などの免疫学的方法、又はウェスタンブロット法などが利用できる。ここで、PCDH20タンパク質抗体の断片とは当該抗体の一本鎖抗体断片(scFv)などをいう。また、検体試料としては、腫瘍が疑われる組織切片、血液、リンパ液、喀痰、肺洗浄液、尿、便、組織培養上清などを用いることができる。測定した検体試料中のPCDH20タンパク質の発現量が低い場合は、検体とした組織や細胞においてPCDH20遺伝子の発現が抑制されていることになり、本発明の癌抑制剤の適用対象となる癌を選別することができる。
【0062】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
(1)実験材料
用いた細胞株は扁平上皮細胞株EBC−1,LK−2,PC10,VMRC−LCP,LC−1sq,ACC−LC−73、腺癌細胞株11−18,A549,ABC−1,RERF−LC−OK,VMRC−LCD,SK−LC−3,RERF−LC−KJ、大細胞癌細胞株KNS−62,86−2,LU65,PC−13,ACC−LC−33,NCI−H460,LU99Aを用いた。臨床検体由来の肺癌サンプルに関し、53種の腺癌のパラフィン包埋サンプル、59種の隣接正常部位を含む急速凍結サンプルを使用した。臨床検体由来の癌サンプルは国立がんセンター、長野北信総合病院から入手し、各患者の同意をもってかつ各組織の倫理委員会の承認を得て使用した。また臨床検体供与者は、採取前に放射線、化学療法、免疫療法は施されていない。また、DNAとしてメチル化を阻害した材料を得るため、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を各種細胞に5mMの濃度で5日間添加して培養を行った。ヒストン脱アセチル化効果を観察するため、ヒストン脱アセチル化酵素の非特異的阻害物質であるトリコスタチンA(TSA)を100ng/mlの濃度で細胞回収前12時間添加し培養を行った。
【0064】
(2)アレイCGH法による非小細胞肺癌細胞での欠失DNAの分離
アレイCGH法にて、MCG Whole Genome Array−4500(Inazawa J.,et al., Cancer Sci.95(7),559,2004)を用いて非小細胞肺癌細胞株におけるホモ欠失遺伝子のスクリーニングを行った。癌細胞由来DNAをCy3で標識し、健常人コントロールサンプルのCy5で標識された標識体と混合しハイブリダイゼーション後両者の蛍光シグナルを除した値が、2を底とする対数値で−2.0以下の値を示したBACクローンとその中に含まれる遺伝子を示している(表1)。各種肺癌細胞で欠失領域が見出され癌抑制遺伝子CDKN2を代表とする遺伝子欠失が検出されたが、我々はこれまで癌との関係が論じられていなかったPCDH20遺伝子に着目した。PCDH20遺伝子はBACクローンの番号RP11−307D17の近傍に含まれる遺伝子であり、13番染色体のq21.2領域に存在する。VMRC−LCD細胞株でこの領域の欠失が確認された。
【0065】


【表1】

【0066】
(3)PCDH20遺伝子を含むBACクローンRP11−307D17近傍の構造
VMRC−LCD細胞株で欠失が確認された13番染色体のq21.2近傍のPCDH20遺伝子を含む構造を図1に示す。白抜き矢印で示す欠失領域(Homozygous Deletion)を含む2.5メガベース(Mb)中のPCDH20遺伝子近傍のゲノムDNA構造中には、2個の遺伝子、TDRD3、PCDH20が含まれていた。
【0067】
(4)各種細胞のゲノムにおけるTDRD3およびPCDH20遺伝子の存在
腺癌細胞株(Adeno)11−18, A549,VMRC−LCD,SK−LC−3, ABC−1, RERF−LC−OK, RERF−LC−KJ、扁平上皮細胞株(SCC)EBC−1, LK−2, PC10, VMRC−LCP, LC−1 sq, ACC−LC−73,大細胞癌細胞株(Large) KNS−62,86−2, LU65, PC−13,NCI−H460, ACC−LC−33,LU99A各細胞株から、DNAを抽出しTDRD3(Tudor domain containing protein 3)およびPCDH20遺伝子領域のゲノムの存在についてPCR検出を行った結果を図2に示す。VMRC−LCD細胞株でTDRD3およびPCDH20遺伝子が欠失していることが検出されたが他の細胞株ではゲノムDNAレベルでの欠失が見られなかった。陽性コントロールとしてGAPDH(グリセルアルデヒド−3燐酸−デヒドロゲナーゼ)遺伝子を用いた。
【0068】
(5)PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現
PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量を測定するため正常肺(Normal−lung)をコントロールとし、非小細胞肺癌細胞株20株についてRT−PCRを行った(図3)。RT−PCRの発現量のコントロールとして発現量が細胞種、条件で変化しにくいことで知られるGAPDHを用いた。予想通り、TDRD3およびPCDH20遺伝子がDNA上欠失しているVMRC−LCD細胞株で両者ともメッセンジャーRNAの発現が観られないことが観察された。また、多くの細胞株でDNAは存在するものの、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNA量が低いもしくは全く発現されていない細胞種が存在した(11−18, A549,VMRC−LCD, ABC−1, RERF−LC−OK, RERF−LC−KJ、EBC−1, PC10, LC−1 sq, KNS−62,86−2, LU65, PC−13, ACC−LC−33)。この事象はゲノムレベルの変異ではなくエピジェネティックな機構が遺伝子発現に関与していることを意味する。
【0069】
(6)PCDH20遺伝子のメチル化、脱メチル化状態でのメッセンジャーRNAの発現比較
通常培養条件下、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現をABC−1とLU65の2細胞株について、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を各種細胞に5,10μMの濃度で5日間添加および、ヒストン脱アセチル化酵素の非特異的阻害物質であるトリコスタチンA(TSA)を100ng/mlの濃度で細胞回収前12時間添加する培養を単独あるいは組み合わせて行った。その後、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCRで比較した(図4)。RT−PCRの発現量のコントロールとしてGAPDHを用いた。両細胞株共に、DNAのメチル化阻害剤で転写抑制が解除され、ヒストンの脱アセチル化と相乗的に転写量が上昇することが確認された。
【0070】
(7)PCDH20遺伝子のプロモーター構造とメチル化について
PCDH20遺伝子のエクソン1近傍のDNA配列には典型的なCpGアイランド構造はないが、446塩基(−290塩基から+156塩基:+1は転写開始点)に渡り25個のCpGサイトが存在し、比較的CpGが多いことが示された(図5A)。遺伝子の変異の検出は、選択した2種の配列のプライマーによりPCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理することで、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換する。メチル化されているシトシンは構造上安定であるために、この反応を受けず、ウラシルに変換されない。PCR法で検体試料より調製したDNAの部分配列を増幅させ、亜硫酸水素ナトリウムを処理後、この増幅産物をプラスミドに組み込み、宿主細胞を形質転換させて培養し、得られるクローンの塩基配列を解析することによりメチル化を検出することが可能である(Bisulfite−sequence法)。この方法によりPCDH20遺伝子エクソン1近傍494塩基の範囲(−314から+180領域)についてメチル化を解析した(図5B)。PCDH20遺伝子の発現が観察されないLU65,ABC−1,11−18,EBC−1およびPCDH20遺伝子が発現しているLU99Aをその解析対象とし、25ヶ所存在するCpGサイトについてメチル化している部位は黒で表示し、正常肺組織(Normal−lung)由来DNAと比較した。プロモーター領域のメチル化度とPCDH20遺伝子発現は逆相関し、その高頻度メチル化部位は25ヶ所あるCpGサイトの内、CpG10からCpG15を概ね含んでいることが明らかとなった。
【0071】
遺伝子変異の検出法として亜硫酸水素ナトリウムの処理の有無で、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換するがメチル化されているシトシンは構造上安定であるために、この反応を受けず、ウラシルに変換されない。これを鋳型としたPCR検出を行いメチル化の影響を受ける制限酵素と組み合わせて変化したシトシンと非メチル化シトシン由来増幅DNA産物を制限酵素切断により解析することにより、メチル化DNAの存在を特定できる(COBRA法:Bisulfite−PCR法と制限酵素切断法を組み合わせた実験法)。そこで、PCDH20遺伝子のエクソン1近傍のメチル化をCOBRA法により検出した(図5C)。PCDH20遺伝子の発現の低い11−18,ABC−1,EBC−1,LU65, PC−13, ACC−LC−33細胞株では制限酵素TaqIおよびHhaIの切断部位が存在することによりそれぞれ2本、6本の切断DNAが電気泳動上観察された(矢印)。一方、PCDH20遺伝子の発現がみられるSK−LC−3,LK−2,LU99Aおよび正常肺では両制限酵素とも、メチル化に依存した制限酵素切断点が発生しないため、電気泳動上単一バンドを示した(楔印)。
【0072】
(8)レポーターアッセイによるPCDH20遺伝子のプロモーター領域の転写促進効果の測定
PCDH20遺伝子のエクソン1の近傍494塩基の範囲(−314から+180領域)からなる領域およびその断片(図5A)を用いて転写促進活性の有無をレポーターアッセイにより検証した。用いたレポーターアッセイ系は、ホタルルシフェラーゼ酵素のメッセンジャーRNAが発現し、タンパクに変換されて活性のある酵素として働くことによる発光物を測定する方法によった。pGL3−Basicベクター(プロメガ)を用いルシフェラーゼ遺伝子を下流域に配置しPCDH20遺伝子領域1から4をプロモーター解析領域として含むコンストラクト(construct)についてPCDH20遺伝子の発現がみられないABC−1、LU65細胞に導入しその酵素活性を測定した(図6)。494塩基全領域および領域3が両細胞共に高いルシフェラーゼ酵素活性を示したことから、PCDH20遺伝子の転写活性化領域の基本単位は、領域3にあることが判明した。
【0073】
プロモーター領域のメチル化検出法について、亜硫酸水素ナトリウムを処理することで、ゲノムDNA中の非メチル化シトシン(C)を、ウラシル(U)に変換することが可能であるが、この被検DNAに対し亜硫酸水素ナトリウムの処理後変化した部位のウラシルに対応するプライマー対を用いてPCRを行うことにより、特定部位のメチル化の検出を行うことが可能である(Methylation Specific PCR法: MSP)。この方法を利用して肺癌細胞株LU99A,LU65,EBC1およびDNA中にPCDH20遺伝子が存在しないVMRC−LCD株、さらに臨床サンプル由来の隣接正常組織、癌組織から得られたサンプルについて図5Aに表示したMSPプライマーを用いて解析した(図7A; U:非メチル化、M:メチル化、N:正常部位、T:腫瘍部位)。肺癌細胞株ではPCDH20遺伝子の発現のないEBC1,LU65両株のプロモーター部位がメチル化したMSP法での結果となり、PCDH20遺伝子が発現するLU99A細胞ではメチル化されていないという予想通りの結果が得られた。臨床からの非小細胞癌からのMSP法によるメチル化解析では、59サンプル中32サンプルに関して解析が可能であった。また癌組織ならびに隣接正常部位が解析可能であったもの(12サンプル中7サンプル)については7サンプル中4サンプルが癌部位でメチル化が検出され、隣接正常部位ではメチル化が検出されない結果となった(図7A:電気泳動3−4列)。このメチル化の差異が検出されたもの差異がなかったもの(420,425,434)を用いて、さらにPCDH20遺伝子エクソン1近傍494塩基の範囲(−314から+180領域)についてBisulfite−sequence法にてメチル化を解析した(図7B)。メチル化の差異が検出された癌420,425では予想通りCpG10からCpG15領域にメチル化が観察され、その隣接正常部位ではメチル化が非常に少ない結果となった。(メチル化している部位は黒で表示した。)一方、MSP法にてメチル化が観察されなかった434では癌部、隣接正常部位ともに高頻度メチル化は観察されなかった。さらに同サンプルのPCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAをRT−PCRにより検出した(図7C)。メチル化の差異が検出されなかった癌434に比べメチル化の差異が検出された癌420,425では予想通りPCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現が低下していることが確認された。
【0074】
(9)肺癌細胞へのPCDH20遺伝子導入による癌原性の低下
培養条件下において、正常細胞と癌細胞の性質の違いの一つとして、固形物への付着性が知られている。すなわち、正常細胞が増殖するためには固形物に付着することが必要である(足場依存性)。正常細胞は、0.33%前後の軟らかい寒天培地中で培養した場合、浮遊状態では増殖できないが、多くの癌細胞では、足場依存性の性質は失われ、軟寒天培地中でも増殖可能となる。癌細胞は浮遊しているが、軟寒天培地の中を移動できないので、1個の細胞から次々に分裂を繰り返し、1〜3週間の後には細胞塊(コロニー)を形成する。この細胞の軟寒天コロニー形成能は、移植腫瘍形成能と相関することから、悪性度の指標として広く利用されている(Shin,S.I.,et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72, 4435, 1975)。挿入遺伝子のアミノC末端にmycペプチドを付加可能なpCMV3.1ベクター(Stratagene社)にPCDH20完全長cDNAを挿入したものを作成した(pCMV3.1−PCDH20−Myc)。PCDH20遺伝子の発現がみられないABC−1、A549細胞に導入にFuGENE6(ロシュダイアグノスティクス)を用い遺伝子導入した。500mg/mlのG418(ジェネテシン)存在下、軟寒天培地中で3週間培養を行った後、クリスタルバイオレット染色後コロニー数を計測した(図8B)。同時に陰性コントロールのEmpty(pCMV3.1)を導入した実験も行った。上記4種の遺伝子導入した細胞について、遺伝子導入48時間後その細胞溶解液10μgを用いWestern−blot法にてmyc蛋白質の発現と陽性コントロールとしてβ−アクチン蛋白質の発現を観察したところ、予想どうりpCMV3.1−PCDH20−Mycを導入した細胞種にのみpPCDH20−Myc融合蛋白質の存在を確認した(図8A)。ABC−1、A549細胞共に、Emptyに比べ、PCDH20遺伝子を発現させることで有意にコロニー数を低下させることが確認された。この事象は、PCDH20遺伝子が癌細胞の増殖を抑制する機能を有することを示しており、この遺伝子が肺癌細胞で癌抑制遺伝子として機能していることが明らかとなった。
【0075】
(10)PCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化と肺癌患者の生存との関連
用いた非小細胞肺癌患者由来の臨床サンプル59サンプルについてMSP解析を基にサンプル採取時以降の生存情報をKaplan−Meier法にて解析した。縦軸に生存率、横軸に生存期間、細線はPCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化が無かった患者、太線はPCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化が検出された患者を示した(図9A)。Logrank検定によりP値が0.0140を示し両者に有意な相関が観られることが確認された。さらにこれらサンプル中のステージI患者だけの生存情報に関して同様な解析を行った際にもP値が0.0211を示し早期癌でもメチル化と生存期間に有意な相関が観られることが確認された(図9B)。この事実は、PCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化もしくはそのメッセンジャーRNAの発現量を測定することで、非小細胞肺癌患者の悪性度(余命)を予測することが可能であることを意味する。
【0076】
(11)結論
(a)アレイCGH法によるスクリーニングから、そのゲノムDNA中に高頻度メチル化部位を有し、非小細胞肺癌でメッセンジャーRNAの発現が低下するPCDH20遺伝子を単離した。さらに臨床サンプル由来の細胞を用いた実験から、PCDH20遺伝子の発現低下はゲノムDNA中のメチル化を解除することにより回復することも示された。
(b)PCDH20遺伝子のゲノムDNA中の領域(エクソン1近傍)が転写活性化能力を持ち、そのメチル化がそのメッセンジャーRNAレベルでの発現低下に寄与していることが判明した。臨床サンプルの解析からこの領域のメチル化は非小細胞肺癌の進行度のみでは予測できない悪性度(余命)と相関することが明らかとなった。さらに、PCDH20遺伝子の発現が高いことと、この領域のメチル化が逆相関することも判明した。
(c)PCDH20遺伝子を発現していない非小細胞肺癌細胞株へのPCDH20遺伝子移入後の足場依存性実験における細胞増殖能力の低下から、PCDH20遺伝子がタンパクとして発現することが癌細胞としての性質を失う、即ちPCDH20遺伝子は癌抑制遺伝子として機能することが明らかとなった。
【配列表フリーテキスト】
【0077】
SEQUENCE LISTING
<110> Fuji Photo Film Co.
<120> Cancer suppressing agent
<130> A61197A
<160> 2
<210> 1
<211> 4412
<212> DNA
<213> Homo sapiens
<400> 1
gagggaatgc gcgcagctca caggccctgg gagtgagctg gtgcccggcg acctggcacc 60
cgcgcctgga tatggggcgt ctacatcgtc ccaggagcag caccagctac aggaacctgc 120
cgcatctgtt tctgtttttc ctcttcgtgg gacccttcag ctgcctcggg agttacagcc 180
gggccaccga gcttctgtac agcctaaacg agggactacc cgcgggggtg ctcatcggca 240
gcctggccga ggacctgcgg ctgctgccca ggtctgcagg gaggccggac ccgcagtcgc 300
agctgccaga gcgcaccggt gctgagtgga acccccctct ctccttcagc ctggcctccc 360
ggggactgag tggccagtac gtgaccctag acaaccgctc tggggagctg cacacttcag 420
ctcaggagat cgacagggag gccctgtgtg ttgaaggggg tggagggact gcgtggagcg 480
gcagcgtttc catctcctcc tctccttctg actcttgtct tttgctgctg gatgtgcttg 540
tcctgcctca ggaatacttc aggtttgtga aggtgaagat cgccatcaga gacatcaatg 600
acaacgcccc gcagttccct gtttcccaga tctcggtgtg ggtcccggaa aatgcacctg 660
taaacacccg actggccata gagcatcctg ctgtggaccc agatgttggc attaatgggg 720
ttcagaccta tcgcttactg gactaccatg gtatgttcac cctggacgtg gaggagaatg 780
agaatgggga gcgcaccccc tacctaattg tcatgggtgc tttggacagg gaaacccagg 840
accagtatgt gagcatcatc acagctgagg atggtgggtc tccaccactt ttgggcagtg 900
ccactctcac cattggcatc agtgacatta atgacaattg ccctctcttc acagactcac 960
aaatcaatgt cactgtgtat gggaatgcta cagtgggcac cccaattgca gctgtccagg 1020
ctgtggataa agacttgggg accaatgctc aaattactta ttcttacagt cagaaagttc 1080
cacaagcatc taaggattta tttcacctgg atgaaaacac tggagtcatt aaacttttca 1140
gtaagattgg aggaagtgtt ctggagtccc acaagctcac catccttgct aatggaccag 1200
gctgcatccc tgctgtaatc actgctcttg tgtccattat taaagttatt ttcagacccc 1260
ctgaaattgt ccctcgttac atagcaaacg agatagatgg tgttgtttat ctgaaagaac 1320
tggaacccgt taacactccc attgcgtttt tcaccataag agatccagaa ggtaaataca 1380
aggttaactg ctacctggat ggtgaagggc cgtttaggtt atcaccttac aaaccataca 1440
ataatgaata tttactagag accacaaaac ctatggacta tgagctacag cagttctatg 1500
aagtagctgt ggtggcttgg aactctgagg gatttcatgt caaaagggtc attaaagtgc 1560
aacttttaga tgacaatgat aatgctccaa ttttccttca acccttaata gaactaacca 1620
tcgaagagaa caactcaccc aatgcctttt tgactaagct gtatgctaca gatgccgaca 1680
gcgaggagag aggccaagtt tcatattttc tgggacctga tgctccatca tatttttcct 1740
tagacagtgt cacaggaatt ctgacagttt ctactcagct ggaccgagaa gagaaagaaa 1800
agtacagata cactgtcaga gctgttgact gtgggaagcc acccagagaa tcagtagcca 1860
ctgtggccct cacagtgttg gataaaaatg acaacagtcc tcggtttatc aacaaggact 1920
tcagcttttt tgtgcctgaa aactttccag gctatggtga gattggagta attagtgtaa 1980
cagatgctga cgctggacga aatggatggg tcgccctctc tgtggtgaac cagagtgata 2040
tttttgtcat agatacagga aagggtatgc tgagggctaa agtctctttg gacagagagc 2100
agcaaagctc ctatactttg tgggttgaag ctgttgatgg gggtgagcct gccctctcct 2160
ctacagcaaa aatcacaatt ctccttctag atatcaatga caaccctcct cttgttttgt 2220
ttcctcagtc taatatgtct tatctgttag tactgccttc tactctgcca ggctccccgg 2280
ttacagaagt ctatgctgtc gacaaagaca caggcatgaa tgctgtcata gcttacagca 2340
tcatagggag aagaggtcct aggcctgagt ccttcaggat tgaccctaaa actggcaaca 2400
ttactttgga agaggcattg ctgcagacag attatgggct ccatcgctta ctggtgaaag 2460
tgagtgatca tggttatccc gagcctctcc actccacagt catggtgaac ctatttgtca 2520
atgacactgt cagtaatgag agttacattg agagtctttt aagaaaagaa ccagagatta 2580
atatagagga gaaagaacca caaatctcaa tagaaccgac tcataggaag gtagaatctg 2640
tgtcttgtat gcccacctta gtagctctgt ctgtaataag cttgggttcc atcacactgg 2700
tcacagggat gggcatatac atctgtttaa ggaaagggga aaagcatccc agggaagatg 2760
aaaatttgga agtacagatt ccactgaaag gaaaaattga cttgcatatg cgagagagaa 2820
agccaatgga tatttctaat atttgatatt tcatggtgga ataacacaga gaaatgtttt 2880
aactgacttt ggatcttcat cacctaaaaa agagtgtgtt gatggcagtt ccaatgaagg 2940
acaactaatt tataacttgt tctatattgt aaatagctgt ttacaggttt ttaaatttaa 3000
attcagaggt tataaaatgt gtacagcatt tttaagtgaa aattagtact aacagctata 3060
ggacttgtat ttaaaaaaaa aaaaaaaaaa agcttggaca tggtttgcag ctttcataca 3120
ccaagcagtt gattgataaa acctgggagt aaggtaagaa aaatggaaca aatttttatc 3180
taaaaattcc tgtcaccaca agagggcatc agctgctcct ttgcaggaaa ctggggtatt 3240
gtacttggca gttgtacatg aaattaatga aagagtatat tttaaatata ttgtttttaa 3300
cattaaacaa atatgaaatt aaagtaaatt aaatttcacc ctatttaaac atatgataaa 3360
aaaagaaatg cacttgtaaa cagaatgttt attacctcat aagtgcatat atagtttgaa 3420
agagaaggca ttaaaaagaa gtgcgattcc tttttagcaa ggataaaatc attgccttgt 3480
gttacagatt cagcctgctg aagagtattc cactttctgt gtactcgaat tgctttctgt 3540
ttgctttacc actgcacttg ttattattac aagggaaata gatatataca tacatatata 3600
tattcttcat tacaggaaat gtaactagat attgtgccca agaaaaacag ccagaagcaa 3660
agaaatgctt caatctttag ttgcttcata ggcattcatg acattttagt gctttcacaa 3720
cttgttggtc gtactttata cttgggttat atattagact tttataggct tgaaatcatc 3780
catcacataa gaaaatagaa atcatattaa aagtgaattc ttctagaggc ttgtgtacac 3840
tactggttgt tttagttggg ccttttatat gaaagttata ctgtacttat ctttttgttg 3900
ttgtttaggt ttgttgacta ccatttctgg cttcctttct ttggttttgg attaaatcca 3960
acagtttatt tgtaagccct gcagcagatt tctttgataa tttagctttt actgaatctc 4020
ttgcaatgaa gaaagctatt tcatcagtga tttatcactt tcaattcatt gtgtgagctg 4080
gaaatattat tttatatgag agctatagca aaataatctg tataaacaag gaatgtgtta 4140
gcttaaactg gatcatttta ctttttggca tcatgcatct gtactgtacc aaaagtgttt 4200
atatgtctgc aaattaaagg tatatatttt cataatttct ttctcacttt tagcatttta 4260
tatttgaaca tgggcttgtt atttcactga agtgcctgtc atttgtttgt ttttagggtt 4320
aaatgtgggt aacctgtagt attctgctat actaaagttt atattaaatg aattcattac 4380
tcaattaaac attgggtaaa ttattaaaaa aa 4412
<210> 2
<211> 924
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 2
Met Gly Arg Leu His Arg Pro Arg Ser Ser Thr Ser Tyr Arg Asn Leu
1 5 10 15
Pro His Leu Phe Leu Phe Phe Leu Phe Val Gly Pro Phe Ser Cys Leu
20 25 30
Gly Ser Tyr Ser Arg Ala Thr Glu Leu Leu Tyr Ser Leu Asn Glu Gly
35 40 45
Leu Pro Ala Gly Val Leu Ile Gly Ser Leu Ala Glu Asp Leu Arg Leu
50 55 60
Leu Pro Arg Ser Ala Gly Arg Pro Asp Pro Gln Ser Gln Leu Pro Glu
65 70 75 80
Arg Thr Gly Ala Glu Trp Asn Pro Pro Leu Ser Phe Ser Leu Ala Ser
85 90 95
Arg Gly Leu Ser Gly Gln Tyr Val Thr Leu Asp Asn Arg Ser Gly Glu
100 105 110
Leu His Thr Ser Ala Gln Glu Ile Asp Arg Glu Ala Leu Cys Val Glu
115 120 125
Gly Gly Gly Gly Thr Ala Trp Ser Gly Ser Val Ser Ile Ser Ser Ser
130 135 140
Pro Ser Asp Ser Cys Leu Leu Leu Leu Asp Val Leu Val Leu Pro Gln
145 150 155 160
Glu Tyr Phe Arg Phe Val Lys Val Lys Ile Ala Ile Arg Asp Ile Asn
165 170 175
Asp Asn Ala Pro Gln Phe Pro Val Ser Gln Ile Ser Val Trp Val Pro
180 185 190
Glu Asn Ala Pro Val Asn Thr Arg Leu Ala Ile Glu His Pro Ala Val
195 200 205
Asp Pro Asp Val Gly Ile Asn Gly Val Gln Thr Tyr Arg Leu Leu Asp
210 215 220
Tyr His Gly Met Phe Thr Leu Asp Val Glu Glu Asn Glu Asn Gly Glu
225 230 235 240
Arg Thr Pro Tyr Leu Ile Val Met Gly Ala Leu Asp Arg Glu Thr Gln
245 250 255
Asp Gln Tyr Val Ser Ile Ile Thr Ala Glu Asp Gly Gly Ser Pro Pro
260 265 270
Leu Leu Gly Ser Ala Thr Leu Thr Ile Gly Ile Ser Asp Ile Asn Asp
275 280 285
Asn Cys Pro Leu Phe Thr Asp Ser Gln Ile Asn Val Thr Val Tyr Gly
290 295 300
Asn Ala Thr Val Gly Thr Pro Ile Ala Ala Val Gln Ala Val Asp Lys
305 310 315 320
Asp Leu Gly Thr Asn Ala Gln Ile Thr Tyr Ser Tyr Ser Gln Lys Val
325 330 335
Pro Gln Ala Ser Lys Asp Leu Phe His Leu Asp Glu Asn Thr Gly Val
340 345 350
Ile Lys Leu Phe Ser Lys Ile Gly Gly Ser Val Leu Glu Ser His Lys
355 360 365
Leu Thr Ile Leu Ala Asn Gly Pro Gly Cys Ile Pro Ala Val Ile Thr
370 375 380
Ala Leu Val Ser Ile Ile Lys Val Ile Phe Arg Pro Pro Glu Ile Val
385 390 395 400
Pro Arg Tyr Ile Ala Asn Glu Ile Asp Gly Val Val Tyr Leu Lys Glu
405 410 415
Leu Glu Pro Val Asn Thr Pro Ile Ala Phe Phe Thr Ile Arg Asp Pro
420 425 430
Glu Gly Lys Tyr Lys Val Asn Cys Tyr Leu Asp Gly Glu Gly Pro Phe
435 440 445
Arg Leu Ser Pro Tyr Lys Pro Tyr Asn Asn Glu Tyr Leu Leu Glu Thr
450 455 460
Thr Lys Pro Met Asp Tyr Glu Leu Gln Gln Phe Tyr Glu Val Ala Val
465 470 475 480
Val Ala Trp Asn Ser Glu Gly Phe His Val Lys Arg Val Ile Lys Val
485 490 495
Gln Leu Leu Asp Asp Asn Asp Asn Ala Pro Ile Phe Leu Gln Pro Leu
500 505 510
Ile Glu Leu Thr Ile Glu Glu Asn Asn Ser Pro Asn Ala Phe Leu Thr
515 520 525
Lys Leu Tyr Ala Thr Asp Ala Asp Ser Glu Glu Arg Gly Gln Val Ser
530 535 540
Tyr Phe Leu Gly Pro Asp Ala Pro Ser Tyr Phe Ser Leu Asp Ser Val
545 550 555 560
Thr Gly Ile Leu Thr Val Ser Thr Gln Leu Asp Arg Glu Glu Lys Glu
565 570 575
Lys Tyr Arg Tyr Thr Val Arg Ala Val Asp Cys Gly Lys Pro Pro Arg
580 585 590
Glu Ser Val Ala Thr Val Ala Leu Thr Val Leu Asp Lys Asn Asp Asn
595 600 605
Ser Pro Arg Phe Ile Asn Lys Asp Phe Ser Phe Phe Val Pro Glu Asn
610 615 620
Phe Pro Gly Tyr Gly Glu Ile Gly Val Ile Ser Val Thr Asp Ala Asp
625 630 635 640
Ala Gly Arg Asn Gly Trp Val Ala Leu Ser Val Val Asn Gln Ser Asp
645 650 655
Ile Phe Val Ile Asp Thr Gly Lys Gly Met Leu Arg Ala Lys Val Ser
660 665 670
Leu Asp Arg Glu Gln Gln Ser Ser Tyr Thr Leu Trp Val Glu Ala Val
675 680 685
Asp Gly Gly Glu Pro Ala Leu Ser Ser Thr Ala Lys Ile Thr Ile Leu
690 695 700
Leu Leu Asp Ile Asn Asp Asn Pro Pro Leu Val Leu Phe Pro Gln Ser
705 710 715 720
Asn Met Ser Tyr Leu Leu Val Leu Pro Ser Thr Leu Pro Gly Ser Pro
725 730 735
Val Thr Glu Val Tyr Ala Val Asp Lys Asp Thr Gly Met Asn Ala Val
740 745 750
Ile Ala Tyr Ser Ile Ile Gly Arg Arg Gly Pro Arg Pro Glu Ser Phe
755 760 765
Arg Ile Asp Pro Lys Thr Gly Asn Ile Thr Leu Glu Glu Ala Leu Leu
770 775 780
Gln Thr Asp Tyr Gly Leu His Arg Leu Leu Val Lys Val Ser Asp His
785 790 795 800
Gly Tyr Pro Glu Pro Leu His Ser Thr Val Met Val Asn Leu Phe Val
805 810 815
Asn Asp Thr Val Ser Asn Glu Ser Tyr Ile Glu Ser Leu Leu Arg Lys
820 825 830
Glu Pro Glu Ile Asn Ile Glu Glu Lys Glu Pro Gln Ile Ser Ile Glu
835 840 845
Pro Thr His Arg Lys Val Glu Ser Val Ser Cys Met Pro Thr Leu Val
850 855 860
Ala Leu Ser Val Ile Ser Leu Gly Ser Ile Thr Leu Val Thr Gly Met
865 870 875 880
Gly Ile Tyr Ile Cys Leu Arg Lys Gly Glu Lys His Pro Arg Glu Asp
885 890 895
Glu Asn Leu Glu Val Gln Ile Pro Leu Lys Gly Lys Ile Asp Leu His
900 905 910
Met Arg Glu Arg Lys Pro Met Asp Ile Ser Asn Ile
915 920
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、アレイCGH法で得られた非小細胞肺癌細胞株VMRC−LCDで欠失している染色体13番21.2から21.31領域の遺伝子構造、ならびにこの遺伝子領域に存在するRP−11 BACクローン、および遺伝子を示す。
【図2】図2は、腺癌細胞株(Adeno)11−18, A549,VMRC−LCD,SK−LC−3, ABC−1, RERF−LC−OK, RERF−LC−KJ、扁平上皮細胞株(SCC)EBC−1, LK−2, PC10, VMRC−LCP, LC−1 sq, ACC−LC−73,大細胞癌細胞株(Large) KNS−62,86−2, LU65, PC−13,NCI−H460, ACC−LC−33,LU99A各細胞株から、DNAを抽出しTDRD3およびPCDH20遺伝子領域の特異的プライマーにてPCRを行い電気泳動にてゲノム中の各遺伝子の存在について検出を行った結果を示す。下段に陽性コントロールとしてGAPDHによる検出を行った。
【図3】図3は、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現を測定するため正常肺(Normal−lung)をコントロールとし、非小細胞肺癌細胞株20株(11−18, A549,VMRC−LCD,SK−LC3,ABC−1, RERF−LC−OK, RERF−LC−KJ、EBC−1,LK2, PC10,VMRC−LCP, LC−1 sq,ACC−LC−73, KNS−62,86−2, LU65, PC−13,NCI−H460,ACC−LC−33,LU99A)についてTDRD3およびPCDH20遺伝子のRT−PCRを行った電気泳動像を示す。RT−PCRの発現量のコントロールとしてGAPDHを用いた。
【図4】図4は、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現をABC−1とLU65の2細胞株について、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤である5−アザ−デオキシシチジン(5−aza−dCyd)を各種細胞に5,10μMの濃度で5日間添加および、ヒストン脱アセチル化酵素の非特異的阻害物質であるトリコスタチンA(TSA)を100ng/mlの濃度で細胞回収前12時間添加する培養を単独あるいは組み合わせて行った後、PCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAの発現量をRT−PCR後電気泳動で比較した結果を示す。RT−PCRの発現量のコントロールとしてGAPDHを用いた。
【図5】図5のAは、PCDH20遺伝子のエクソン1近傍のDNA構造を示す。CG sitesとはこの遺伝子領域でのCpG配列が存在する部位を示す。Bisulfite sequenceは癌細胞のPCDH20遺伝子のエクソン1近傍のDNA領域中の494塩基の範囲(−314から+180領域)についてCpGサイトでのメチル化を亜硫酸水素ナトリウム処理後に塩基配列変化を解析した領域を示す。Bisulfite−PCR assayはCpGサイトでのメチル化を亜硫酸水素ナトリウム処理後にシトシン(C)からウラシル(U)に変化したものを認識可能な制限酵素TaqIとHhaIで切断解析した領域と各々の制限酵素の切断部位を示す。MSPはCpG10からCpG15の位置で亜硫酸水素ナトリウム処理前後での塩基変異を正確に認識可能なフォーワードプライマー位置と、リバースプライマー位置を示している。Promoter assay regionはPCDH20遺伝子の転写開始点近傍のレポーターアッセイ用に使用した、4種の遺伝子領域を示す。図5のBは、PCDH20遺伝子の発現が観察されないLU65,ABC−1,11−18,EBC−1およびPCDH20遺伝子が発現しているLU99A、正常肺組織(Normal−lung)由来DNAを用い、PCDH20遺伝子のエクソン1近傍のDNA領域中の25ヶ所存在するCpGサイトでのメチル化を亜硫酸水素ナトリウム処理後に塩基配列解析し、メチル化のあった領域を黒く示した。図5のCは、PCDH20遺伝子の発現の低い(Expression(−))11−18,ABC−1,EBC−1,LU65, PC−13, ACC−LC−33細胞株、PCDH20遺伝子の発現がみられる(Expression(+))SK−LC−3,LK−2,LU99Aおよび正常肺について制限酵素TaqIおよびHhaIの切断パターンをCOBRA法により解析した電気泳動像を示す。CpGのCからUへの変異により制限酵素切断され、発生するフラグメント位置を矢印で、切断点がない場合のフラグメント位置を楔形で示した。
【図6】図6Aは、PCDH20遺伝子のエクソン1の近傍494塩基の範囲(−314から+180領域)からなる領域およびその断片(図5.A)を用いてPCDH20遺伝子の発現がみられないABC−1、LU65細胞に導入し転写促進活性の有無をルシフェラーゼ酵素活性によるレポーターアッセイ結果を示す。
【図7】図7Aは、MSP法による肺癌細胞株LU99A,LU65,EBC1,VMRC−LCD株、臨床サンプル由来の隣接正常組織、癌組織両者が解析可能であった6サンプル、癌組織のみ16サンプルについて図.5Aに表示したMSPプライマーを用いて解析した結果を示す(U:非メチル化、M:メチル化、N:正常部位、T:腫瘍部位)。図7Bは、メチル化の差異が検出された420,425、差異がなかった434を用いて、Bisulfite−sequence法にてメチル化を解析した結果を示す。メチル化している部位は黒で表示した。図7Cは、420,425、434のPCDH20遺伝子のメッセンジャーRNAをRT−PCRにより検出した結果を示す。発現量のコントロールとしてGAPDHを下段に示した。
【図8】図8Aは、pCMV3.1、pCMV3.1−PCDH20−MycをABC−1、A549細胞に導入48時間後の細胞溶解液10μgを用いWestern−blot法にてmyc蛋白質の発現と陽性コントロールとしてβ−アクチン蛋白質の発現を観察した結果を示す。図8Bは、上記4種の組み合わせで、軟寒天培地中で3週間培養を行った後、クリスタルバイオレット染色後コロニー数を計測した結果を示す。
【図9】図9Aは、非小細胞肺癌患者由来の臨床サンプル59サンプルについてMSP解析を基にサンプル採取時以降の生存情報をKaplan−Meier法にて表示した。縦軸に生存率、横軸に生存期間、細線はPCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化が無かった患者、太線はPCDH20遺伝子プロモーター領域のメチル化が検出された患者を示す。図9Bは、ステージI患者39サンプルについてだけの生存情報に関して図9Aと同様な解析を行った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCDH20遺伝子又はその相同遺伝子を含有する癌抑制剤。
【請求項2】
前記遺伝子又はその相同遺伝子がベクターに組み込まれている、請求項1に記載の癌抑制剤。
【請求項3】
前記ベクターがウイルスベクター又は動物細胞発現用プラスミドベクターである、請求項2に記載の癌抑制剤。
【請求項4】
前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである、請求項3に記載の癌抑制剤。
【請求項5】
前記遺伝子又はその相同遺伝子がリポソームに封入されている、請求項1に記載の癌抑制剤。
【請求項6】
PCDH20タンパク質又はその相同タンパク質を含有する癌抑制剤。
【請求項7】
PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNA又はRNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子を解析する工程を含む、癌の診断方法。
【請求項8】
前記解析が遺伝子の変異の検出又は遺伝子の発現量の異常の検出である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PCDH20遺伝子の全部又はその一部を含むDNAを用いて検体試料中のPCDH20遺伝子のメチル化を解析する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
PCDH20タンパク質に対する抗体又はその断片を用いて検体試料中のPCDH20タンパク質を解析する工程を含む、癌の診断方法。
【請求項11】
前記解析がタンパク質の発現量の異常の検出である、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−254318(P2007−254318A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78786(P2006−78786)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】