説明

癌治療のための新規複合体

本発明は、高抗原性、短い半減期という、前記抗癌タンパク質に固有の欠点を克服し、一貫しない修飾部位、非均一な組成物、有意に減少する活性および製品品質の制御の困難性という非特異的な修飾方法に起因する欠点を克服し、最終的にそれを癌の治療と抗癌剤の調製に利用可能なものとするため、特定の修飾剤と特定部位で結合した抗癌タンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性と代謝安定性を示す、組み換えアルギニンデイミナーゼの製造方法に関する。本発明は、また、前記アルギニンデイミナーゼを含む医薬複合体、前記アルギニンデイミナーゼを含む医薬組成物、および、前記アルギニンデイミナーゼと前記医薬組成物とを含むキットを提供する。本発明は、さらに、癌の予防、診断および治療のための前記アルギニンデイミナーゼおよび前記医薬組成物の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
肝癌および悪性黒色腫は、診断後一年以内に大部分の患者が、死に至る疾患である。肝癌は、中国で最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、進行が早く、治癒が困難である。治療の効果は、満足できるものではなく、肝癌を患う患者は、一般的に寿命が短い。これが、肝癌が、「癌の王」と呼ばれる理由である。中国における肝癌での年間死亡率は、10万人あたり20.4人であり、これは、全ての悪性腫瘍の18.8%であることを、近年の調査データは示している。死亡率は、1970年代に3位から2位に上昇し、都市部では肺癌、地方部では胃癌のみに次ぐ。悪性黒色腫も、急性かつ悪性の癌であり、その発生率は、アメリカにおいて最も速く増加している。一方で、皮膚の褐色細胞腫は、全ての皮膚悪性癌の5%であるが、悪性癌で死亡する患者の75%以上は、悪性の黒色腫を患っている。2003年には、約6万人のアメリカ人が黒色腫を患っていると診断され、そのうち1万のケースが致死的である。黒色腫は、早期に治療できなければ、他の癌と異なり、悪性の癌に発達し、高い効率で全身に転移可能である。
【0003】
血液から、ある必須アミノ酸を特異的に除去する方法は、ある種の癌の治療に使用できる。前記方法において、有名な例は、血液中のアスパラギン濃度を下げるためにL−アスパラギナーゼを使用する、急性リンパ性白血病の治療法である。一般的に用いられるL−アスパラギナーゼは、Escherichia coliから単離される。しかし、その固有の抗原性および短い循環半減期のために、前記酵素の適用は極めて制限されている(非特許文献1)。Escherichia coliのL−アスパラギナーゼがポリエチレングリコールで修飾されると、前記半減期は、顕著な延長が可能であり、前記抗原性は、有意な減少が可能である(非特許文献1、2)。ある種の必須アミノ酸の除去により、いくつかの癌は、ある程度治療可能であるが、必須アミノ酸は、正常細胞の成長にも必要である。その結果、血液中のある種の必須アミノ酸の減少は、いくつかの重篤な副作用を招く。
【0004】
いくつかの癌細胞は、正常な細胞とは異なる代謝方式を有することが示されている。癌細胞による特定種類のアミノ酸要求性もまた、正常な細胞とは異なる。この理論に基づけば、例えば、アルギニンのような特定の非必須アミノ酸の分解により、正常な細胞にはほとんど影響無く、例えば、肝癌および悪性黒色腫のようないくつかの癌を制御できることが見いだされた。Pseudomonas pudita由来のあるアルギニンデイミナーゼは、in vitroで癌細胞を阻害し、死滅できる。しかし、Pseudomonas puditaのアルギニンデイミナーゼに固有の欠陥(例えば、中性pH環境の条件下では、酵素の活性が低く、迅速に除去される)により、癌治療への適用には制限があった。分子量46,000DaのMycoplasma arginini由来の別のアルギニンデイミナーゼは、中性pH条件下で活性を維持でき、実験動物モデルにおいて癌の成長を阻害できることが確認された(非特許文献3および特許文献1、これは引用により本明細書に含まれる)。しかし、前記アルギニンデイミナーゼもまた、微生物由来の異種タンパク質として、高抗原性、短い循環半減期、および実験動物の体内で分解されやすいという問題を有する。ポリエチレングリコールを結合させたタンパク質は、半減期の有意な延長、抗原性の減少、癌の治療が可能であることが、いくつかの報告により示されている(非特許文献4)。ポリエチレングリコールとの結合により、アルギニンデイミナーゼを癌の臨床治療に使用することが可能となるが(非特許文献5)、使用される結合様式は、複数部位と異質な修飾であり、これにより、修飾タンパク質の形状が非均一になり、調製の質が制御不能になる。その結果、異なるバッチの修飾タンパク質産物の効能および薬剤代謝の評価は困難であり、一方では、その薬剤固有の非均一性が原因で、患者の臨床治療効果の違いが説明困難である。これにより、異なる癌患者に対する適切な治療計画の処方に大きく悪影響を及ぼしている可能性がある。
【0005】
化学薬剤と比較すると、ポリペプチドおよびタンパク質の薬剤は、毒性/副作用が低く、薬剤耐性がほとんど無い等の利点を持つ。より高い活性、生物学的有効性、および、生体内での低い分解性を達成するために、タンパク質薬剤は、通常、静脈内に投与される。しかし、この状況では、低分子量タンパク質薬剤の半減期は非常に短いと考えられるが、その理由は、分解だけではなく、腎臓を介した迅速な除去にもよる。血液中では、タンパク質の水力半径がアルブミンのそれよりも大きい場合、あるいはタンパク質の分子量が66kDaよりも大きい場合、そのタンパク質は、循環中、安定に保たれる。しかし、より低分子量のタンパク質は、糸球体を介して血液から迅速に除去されうる。このように、血液中で低分子量タンパク質の有効な治療濃度を維持するために、頻繁な静脈内投与が必要となる。このような治療により治療効果を達成できたが、それによって、患者には不便さおよび痛みをもたらし、治療のコストも増大する。一方では、薬剤の長期間の投与により、例えば、免疫反応等の副作用が起こる可能性がある。
【0006】
タンパク質薬剤としてのアルギニンデイミナーゼ(アルギニン脱イミノ基酵素)もまた、短い半減期ならびに生体内での高い除去率という欠点を持っている。さらに、アルギニンデイミナーゼは、病原性微生物由来であるため、より高い抗原性を持ち、これによりヒトの身体に強い免疫反応を誘導する可能性がある。
【0007】
巨大分子重合体を用いたタンパク質修飾は、半減期、生物学的特質および毒素学的特質のような薬剤の動的特質を変化させて制御する一般的な方法である。タンパク質修飾に用いる巨大分子重合体は、他に比べて、優れた水溶性、優れた生体適合性、低い免疫原性を有するべきである。ポリエチレングリコールは、主流のタンパク質修飾分子である。前記ポリエチレングリコールは、両親媒性の性質を持ち、水だけでなく、大部分の有機溶媒に溶解可能である。一方、前記ポリエチレングリコールは、無毒性、無免疫原性で、水溶性が高いため、アメリカ合衆国のFDAと同様に中国のSFDAを含む多くの国の医薬品局により、薬剤調製用の巨大分子重合体として認可されている。例えば、前記ポリエチレングリコールのような巨大分子重合体とタンパク質を結合させることにより、タンパク質の生体内での安定性を増大させ、非特異的な吸収と抗原性を減少させることができる。いったん前記複合体がある分子量に達すると、腎臓による除去率は効果的に減少する。これは、タンパク質薬剤の生体内半減期を延長させる効果的手段である(非特許文献6、7)。ポリエチレングリコール修飾における反応部位として当初用いられたアミノ基は、主に、タンパク質N末端のα−アミノ基と、リジン残基側鎖のε−アミノ基であった。その反応産物は、単一もしくは複数のPEG分子と非特異的に結合したタンパク質分子である。リジン残基側鎖のε−アミノ基修飾は、非特異的な反応部位のために、修飾された異性体を生成する可能性がある。
【0008】
近年、タンパク質N末端のα−アミノ基と、リジン残基側鎖のε−アミノ基との等電点の違いに着目して、タンパク質N末端を特異的に修飾するポリエチレングリコール修飾剤が開発されており、その結果、同一部位が修飾された均一な修飾産物を得ることが可能である。ポリエチレングリコール修飾を受ける他のタンパク質部位は、システイン残基のメルカプト基である。一般的に、メルカプト基の数は、タンパク質のアミノ基の数よりも少ないため、メルカプト基修飾は、より特異的である。遺伝子工学的手法を用いれば、特異的修飾部位として提供するために、今や、タンパク質の任意の位置にシステインの導入が可能である。しかし、修飾部位としてのシステインの導入は、また、一定の制限を有する。なぜなら、システイン残基を有さないタンパク質やポリペプチドにとっては、これにより分子間のクロスリンクが生じ、結果として活性が消失し、また、システイン残基を既に含むタンパク質にとっては、これによりジスルフィド結合の誤ったペア形成が生じ、結果として前記タンパク質は再生不能となる。さらに、タンパク質のカルボキシル基もまた修飾部位として頻繁に用いられる(非特許文献8)。ポリエチレングリコールによる修飾技術は、PEG−アスパラギナーゼ(非特許文献9、Avramis Vassilios I.ら、特許文献2、3)、PEG−アデノシンデアミナーゼ(非特許文献10〜12)、ならびに、PEG−インターフェロンα2aおよびPEG−インターフェロンα2b等(非特許文献13、14,Meng Xiantaiら、特許文献4、Van Vlasselaer Peterら、特許文献5、Ballon Pascal Sebastlanら、特許文献6,Karasiewicz Robertら、特許文献7)のPEG−インターフェロンを含む複数のタンパク質薬剤で使用が成功している。
【0009】
他の代表的な巨大分子修飾剤は、グルカン、ポリスクロース、でんぷん、ポリアラニン、アジピン酸とマロン酸との共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリ1,3−ジオキソラン、エチレンとマレイン酸ヒドラジドとの共重合体、ポリシアル酸、シクロデキストリン等を含む。
【0010】
タンパク質薬剤の半減期の他の延長方法では、タンパク質薬剤の分子量を増加させるためのキャリアーとして使用される血中タンパク質またはその断片を、前記タンパク質薬剤と結合または融合させる。例えば、免疫グロブリンのFc断片は、後者の半減期を延長するために、ターゲットタンパク質と結合させてもよい。例えば、この戦略は、Notch1受容体タンパク質(Kitajewsky Janら、特許文献8)、エリスロポエチン(EPO)(Gillies Stephen D.ら、特許文献9)、ヒトソマトロピン(Kim Young Minら、特許文献10)等に用いられている。血漿アルブミンは、一般的に用いられる他の結合キャリアーであり、抗生物質、抗炎症剤および抗酸化剤(Ezrin Alan Mら、特許文献11、Otagiri Masakiら、特許文献12)等のようなタンパク質に用いられている。
【0011】
in vitroでタンパク質薬剤を血中タンパク質キャリアーと直接結合させることに加えて、薬剤タンパク質に、生体内分子への化学的反応活性または高い親和性を与えるために、薬剤タンパク質のin vitroでの修飾も可能である。これにより前記薬剤タンパク質は、体内に入って血中成分との反応が可能になり、より長い半減期を有する巨大分子または化合物を形成する。一つの例は、血中タンパク質または細胞表面タンパク質のメルカプト基と反応できるマレイミドを持つ活性基で修飾された、抗ウイルス性の小ペプチド抗RSVである(Bridon Dominique Pら、特許文献13)。もう一つの例は、生体内アルブミンへのタンパク質の親和性を増大させるために、前記タンパク質表面のアミノ酸残基へのアシル化反応による脂肪酸の導入である。血中に投与されると、前記タンパク質は、アルブミンとより大きな複合体を形成でき、それによって、前記タンパク質の半減期は延長される。前記方法は、長期間作用するインスリンの製造に用いられている(非特許文献6、15)。
【0012】
徐放性製剤は、タンパク質薬剤の生体内半減期の他の延長方法である。前記タンパク質薬剤は、医薬用キャリアー内に配置される。前記医薬用キャリアーは、化学的巨大分子、または、タンパク質を緩やか且つ持続的に放出可能な物理的装置であってよく、それにより前記タンパク質は、キャリアーから緩やかに放出され、その結果、安定した生体内薬剤濃度が維持される。一般的に用いられる徐放性製剤には、ヒドロゲル、マイクロカプセル、マイクロバルーン、リポソーム、微小浸透圧ポンプ等が含まれる(非特許文献16〜18)。リポソームは、二重膜構造を有する中空球体形の極微粒子である。前記二重膜は、両親媒性分子から構成されており、前記両親媒性分子の大部分はリン脂質であり、親水性の内室を形成する。前記親水性タンパク質薬剤は、リポソームの前記内室に封入されており、このため、生体内での緩やかな放出が可能であり、血中での前記タンパク質濃度を維持し、前記半減期を延長する。具体例は、神経成長因子(Hou Xinpuら、特許文献14)およびヘモグロビン(Farmer Martha Cら、特許文献15)等である。微小浸透圧ポンプは、半透膜の外部浸透圧と内部浸透圧との違いを用いることにより、内容物の緩やかな放出を制御する物理的装置であり、実験動物モデルにおいて、種々の化学的および生物学的薬剤の緩やかな放出の研究に広く用いられている。
【0013】
【非特許文献1】Park YKら、Anticancer Res., 1: 373-376 (1981)
【非特許文献2】Kamisald Yら、J Pharmacol. Exp. Ther., 216: 410-414(1981)
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【非特許文献4】Ensor CMら、Cancer Research, 62: 5443-5550 (2002)
【非特許文献5】Ascierto PAら、J. Clin. Oncol., 22: 1815-1822および23: 7660-7668 (2005)
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【非特許文献7】Harris JMら、Nat. Rev. Drug Discov. 2003 Mar 2(3): 214-21
【非特許文献8】Veronese FMら、Drug Discov. Today. 2005 Nov 1;10(21):1451-8
【非特許文献9】Graham ML Adv. Drug Deliv. Rev. 55, 1293-1302
【非特許文献10】Levy Yら、J. Pediatr. 113, 312-317
【非特許文献11】Davis Sら、Clin Exp. Immunol. 46: 649-652
【非特許文献12】Hershfield MSら、N Engl J Med 316 : 589-596
【非特許文献13】Bailon Pら、C. Bioconjug. Chem. 12, 195-202
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【非特許文献19】Metselaar JMら、Mini Rev. Med. Chem. 4, 319-329 (2002)
【特許文献1】US特許005474928号公報
【特許文献2】国際公開WO1999/039732号パンフレット
【特許文献3】US特許006689762号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/077421号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2004/076474号パンフレット
【特許文献6】US2004/030101A1号公報
【特許文献7】EP000593868A1号公報
【特許文献8】国際公開WO2005/111072号パンフレット
【特許文献9】国際公開WO2005/063808号パンフレット
【特許文献10】国際公開WO2005/047337号パンフレット
【特許文献11】国際公開WO2001/017568号パンフレット
【特許文献12】EP001571212A1号公報
【特許文献13】国際公開WO2000/069902号パンフレット
【特許文献14】CN1616087
【特許文献15】US特許004911929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の主要な目的は、アルギニンデイミナーゼの抗原性の減少、前記タンパク質の生体内での代謝的特質の改善、前記タンパク質へのより高い安定性およびより長い生体内半減期の提供である。これにより、前記タンパク質を癌の臨床治療に使用可能であり、また、患者の生理的な痛みだけでなく、経済的負担をも減少させる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、修飾剤とアルギニンデイミナーゼとにより形成される複合体を提供し、前記修飾剤は、アルギニンデイミナーゼの半減期を延長可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用する前記修飾剤は、共有結合を介してアルギニンデイミナーゼに付加されてもよい。これらの修飾剤は、巨大分子、タンパク質分子またはそれらの断片、ペプチド、小分子またはその他の化合物から選択できる。本発明に使用可能な前記巨大分子は、例えば、平均分子量が5,000から100,000Da、好ましくは5,000から60,000Da、より好ましくは5,000から40,000Da、最も好ましくは20,000から40,000Daの範囲のポリエチレングリコールを含む。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記複合体は、ポリエチレングリコール分子と結合したアルギニンデイミナーゼ分子である。
【0018】
ポリエチレングリコールとアルギニンデイミナーゼとにより形成される本発明の前記複合体において、前記結合部位は、アルギニンデイミナーゼにおける、N末端アミノ酸残基のα−アミノ基、リジン残基側鎖のε−アミノ基、システイン残基側鎖のメルカプト基、アスパラギン酸残基側鎖のカルボキシル基、グルタミン酸残基側鎖のカルボキシル基、チロシン残基側鎖の水酸基、セリン残基側鎖の水酸基、スレオニン残基側鎖の水酸基からなる群から選択された一つの基またはそれらの組合せである。前記結合部位は、好ましくは、アルギニンデイミナーゼのN末端アミノ酸残基のα−アミノ基である。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記複合体は、ポリエチレングリコール分子と結合したアルギニンデイミナーゼ分子であって、前記結合部位は、アルギニンデイミナーゼのN末端アミノ酸残基のα−アミノ基である。
【0020】
本発明の他の実施形態において、前記複合体は、付加されたシステイン残基のメルカプト基でポリエチレングリコール分子と結合したアルギニンデイミナーゼ分子であって、前記付加されたシステイン残基は、前記アルギニンデイミナーゼ分子のN末端、C末端または内部領域に、システイン残基またはシステイン残基を含むペプチド鎖の付加により導入される。
【0021】
本発明の他の実施形態において、前記複合体は、特定部位でポリエチレングリコール分子と結合したアルギニンデイミナーゼ分子であって、前記特定部位は、前記アルギニンデイミナーゼ分子のアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基のカルボキシル基である。
【0022】
本発明の他の実施形態において、前記複合体は、特定部位でポリエチレングリコール分子と結合したアルギニンデイミナーゼ分子であって、前記特定部位は、前記アルギニンデイミナーゼ分子のチロシン、セリンまたはスレオニン残基の水酸基である。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記複合体における前記アルギニンデイミナーゼの前記修飾部位は、一つであり限定されている。
【0024】
本発明の複合体に使用できるタンパク質は、アルブミン、免疫グロブリン、サイロキシン結合性タンパク質、トランスサイレチン、トランスフェリン、フィブリノゲンおよびそれらの断片からなる群から選択される。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記複合体は、アルブミンと結合したアルギニンデイミナーゼを含む。前記複合体は、アルギニンデイミナーゼ一分子の一つ以上のアルブミンとの結合により形成される。前記複合体は、化学的修飾、融合発現または他の方法を介して得られてもよい。好ましくは、アルブミンは、ヒト血清アルブミンまたはその断片である。本発明の他の実施形態において、前記複合体は、免疫グロブリンFc断片と結合したアルギニンデイミナーゼを含む。前記複合体は、アルギニンデイミナーゼ一分子の一つ以上の免疫グロブリンFc断片との結合により形成される。前記複合体は、化学的修飾または融合発現または他の方法のいずれを介して得られてもよい。好ましくは、前記Fc断片は、ヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の断片である。
【0026】
本発明の前記複合体は、また、小分子または小ペプチドまたは他の化合物で修飾されたアルギニンデイミナーゼも含み、前記修飾されたアルギニンデイミナーゼは、生体内で他の分子もしくは成分と反応または結合可能であり、それにより、修飾されたアルギニンデイミナーゼは、生体内の他の分子または成分とのより大きな複合体を形成できる。前述の修飾されたアルギニンデイミナーゼは、血液成分のアミノ基、水酸基またはメルカプト基と共有結合を形成できる反応基を含む。前記反応基は、例えば、アルブミンのメルカプト基のような血液成分と反応可能なマレイミドであってもよい。このようにして、本発明の前記複合体は、アルブミンまたは免疫グロブリンのようないくつかの血液成分に強い親和性を有し、より大きな複合体の形成を可能にする。
【0027】
本発明の前記複合体は、また、他の分子または小ペプチドで修飾されたアルギニンデイミナーゼを含む。例えば、前記アルギニンデイミナーゼは、グリコシル化、リン酸化またはアシル化された産物であってもよく、その修飾部位は、本来のタンパク質配列に存在するアミノ酸残基または変異により発生したアミノ酸残基である。
【0028】
修飾剤とアルギニンデイミナーゼとにより形成される本発明の前記複合体は、また、アルギニンデイミナーゼと、タンパク質、小分子またはキャリアーとして機能する他の物質を含む他のキャリアーとの間で、非共有結合により形成される複合体であってもよい。
【0029】
本発明の前記複合体は、生体適合性キャリアーを有する徐放性製剤を形成していてもよい。前記徐放性製剤は、マイクロカプセル、ヒドロゲル、マイクロスフェア、微小浸透圧ポンプまたはリポソームからなる群から選択された形態であってもよい。
【0030】
前記複合体または前記徐放性製剤に使用される前記アルギニンデイミナーゼは、Mycoplasma hominisMycoplasma arthritidisもしくはMycoplasma arginini由来であるか、または、前記アルギニンデイミナーゼは、遺伝子組み換え技術を介したクローニングで調製された、Mycoplasma hominisMycoplasma arthritidisもしくはMycoplasma argininiのアルギニンデイミナーゼである。
【0031】
本発明の一つの具体的な実施形態において、前記複合体または前記徐放性製剤中に含まれる前記アルギニンデイミナーゼは、好ましくはMycoplasma hominis由来であり、その野生型は、配列番号1に示す配列を有する。より好ましくは、本発明の前記複合体または前記徐放性製剤中に含まれる前記アルギニンデイミナーゼは、E. coliに発現させた野生型の組み換えMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼであり、それは、配列番号1または配列番号2に示す配列を有する。
【0032】
本発明の前記複合体または徐放性製剤において、前記アルギニンデイミナーゼは、アルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体またはそれらの組合せであってもよく、好ましくは、Mycoplasma属由来アルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体またはそれらの組合せであり、より好ましくは、Mycoplasma hominis由来アルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体またはそれらの組合せである。例えば、本発明の前記複合体において、アルギニンデイミナーゼの前記誘導体は、N末端またはC末端に長さ1〜15アミノ酸残基の付加的ペプチド、好ましくは、N末端に付加Hisタグを含むペプチドMGGSHHHHH(配列番号5)を有する配列であり、配列番号3または配列番号4に示す配列を有する。
【0033】
本発明は、また、本発明の複合体または徐放性製剤および薬学上許容できるキャリアーを含む医薬組成物を提供する。
【0034】
本発明は、また、本発明の前記複合体、組成物または徐放性製剤、および、それらの使用説明書を含むキットを提供する。
【0035】
本発明は、また、前述したアルギニンデイミナーゼを含む複合体の製造方法を提供する。前記方法は、巨大分子重合体をアルギニンデイミナーゼと混合する工程、ならびに、溶液、温度、pHおよび反応モル比を含む適切な条件下で反応させる工程を含む。好ましくは、前記方法で用いられるpHは、pH3〜pH10である。前述した方法では、前記複合体産物は、例えば、イオン交換カラムまたはゲルろ過を介して精製されてもよい。
【0036】
本発明は、また、癌の予防、診断および治療、ならびに、他のアルギニン関連疾患の予防、診断または治療における、アルギニンデイミナーゼを含む複合体、組成物、徐放性製剤または前述したキットの使用を提供する。
【0037】
本発明は、また、アルギニンデイミナーゼの生体内半減期の延長方法を提供する。前記方法は、アルギニンデイミナーゼと修飾剤との間で複合体を形成する工程、または、アルギニンデイミナーゼもしくはアルギニンデイミナーゼを含む複合体および生体適合物質を含む徐放性製剤を提供する工程を含む。
【0038】
本発明のこれらおよび他の側面は、後述の発明の詳細な説明で明らかにされる。前述の一般的な説明および後述の詳細な説明は、実施例と同様に、説明目的のために過ぎず、本発明の範囲の限定を意図していないことは、理解されるべきである。
【0039】
図1は、Mycoplasma hominis由来の野生型アルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を示す(配列番号1)。
図2は、E. coli、酵母または哺乳類の細胞に発現させた野生型Mycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を示す(配列番号2)。
図3は、E. coliに発現させたMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼ誘導体のアミノ酸配列を示す(配列番号3)。
図4は、E. coli、酵母または哺乳類の細胞に発現させたMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼ誘導体のアミノ酸配列を示す(配列番号4)。
図5は、実験動物における、N末端の単一部位にポリエチレングリコールを結合させたアルギニンデイミナーゼ(ADI)の低抗原性を示すグラフである。平均体重25g前後の9匹の健康な昆明マウスを3つの群に分け、アルギニンデイミナーゼ、N末端の単一部位が20kDaのポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位がポリエチレングリコールで非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼのそれぞれを、尾部静脈に注入した。投薬量は、15mg/体重kgに設定した。
図6は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、その完全な生化学的活性を保持することを示すグラフである。アルギニンデイミナーゼを、最終濃度10μg/mlとなるように100μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、アルギニンデイミナーゼの基質としてL−アルギニンを、最終濃度10μmol/Lとなるように加えた。前記反応混合システムは、37℃の水槽で10分間インキュベートし、それから、前記混合液を取り出し、メーカーの使用説明書に従ってアッセイキットを用いてL−アルギニン濃度の変化を測定した。
図7は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、その完全な癌細胞増殖阻害活性を保持することを示すグラフである。マウスの悪性黒色腫細胞(B16/F10)を、対数増殖期までDMEM(10%血清添加)で培養した。そして、前記細胞を血清欠乏条件下で12時間、饑餓状態とした。10%ウシ胎児血清と二種類の抗生物質とを含む正常培地を前記癌細胞に加えた。治療群は、アルギニンデイミナーゼ、および、修飾アルギニンデイミナーゼ(単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを含む)により、それぞれ最終濃度10μg/mlで治療し、コントロール群は、等量の通常の生理食塩水を加えた。
図8は、マウス癌モデルの治療における、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの活性を表す。平均体重約20gのC57マウスに、B16/F10悪性黒色腫細胞を、マウス一匹あたり2×10細胞となるように腋窩下に接種した。その翌日、前記マウスを、一群あたり8匹のマウスとなるようにランダムに群に分けた。ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(アルギニンデイミナーゼ5mg/体重kg(1.7U/マウス)、連日投与)、および治療群とした。前記治療群には、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを、それぞれ3日に一回および7日に一回の間隔で投与した。Aは尾部静脈に投与した群であり、Bは皮下に投与した群である。
図9は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、癌を持つマウスの生存期間を有意に延長したことを示すグラフである。平均体重約20gのC57マウスに、B16/F10悪性黒色腫細胞を、マウス一匹あたり2×10細胞となるように、腋窩下に接種した。その翌日、前記マウスを、一群あたり8匹のマウスとなるようにランダムに群に分けた。それぞれ、ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(化学的癌阻害薬、連日投与)、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いる治療群(治療の間隔は7日に一回とした)とした。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明のアルギニンデイミナーゼは、別途示さない限り、アルギニンデイミナーゼを保持するいかなる微生物由来であってもよい。好ましくは、前記アルギニンデイミナーゼは、配列番号1で示すように、野生型Mycoplasma hominisである。本発明のアルギニンデイミナーゼは、野生型アルギニンデイミナーゼ(つまり、天然に存在する形態)、または、活性を有するそれらの変異体、断片、異性体もしくは誘導体、またはそれらの組合せを含む。アルギニンデイミナーゼは、E. coliで発酵、精製(配列番号1および配列番号2で示すように)、動物細胞で発現、または、酵母で発酵(配列番号2で示すように)させることができる。中でも、動物細胞に発現させた野生型Mycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、酵母に発現させた組み換えMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列を有するか、または、この配列のN末端に10アミノ酸未満の挿入または欠失を有する。また、E. coliに発現させた組み換えMycoplasma hominisは、配列番号1または/および配列番号2に示す配列を有する。
【0041】
本発明は、低抗原性と長い半減期とを有するある種のアルギニンデイミナーゼ製品を提供する。未修飾のアルギニンデイミナーゼと比較すると、それは、癌細胞の成長を阻害する活性を保つだけでなく、低抗原性、生体内でのより高い安定性、より長い生体内半減期をも有する。
【0042】
ポリエチレングリコールまたは「PEG」とは、エチレンオキシドと水との線状または分岐状縮合重合体をいい、一般式H(OCHCHOHで表され、nは少なくとも4である。「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、およその平均分子量を示すため、末尾の数字と組み合わせて用いられる。例えば、PEG20,000とは、平均分子量約20,000Daのポリエチレングリコールをいい、PEG40,000とは、平均分子量約40,000Daのポリエチレングリコールをいう。
【0043】
この発明は、単一部位がPEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、ある種の癌の治療および癌の転移阻害に有意な効果をも有するという、驚くべき発見に基づいている。複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、単一部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを比較すると、単一部位が特異的に修飾された前記アルギニンデイミナーゼは、低抗原性、優れた癌阻害活性を有するだけでなく、より高い活性、より優れた均一性をも有し、また、異なるバッチの製品品質の再現性が、非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼよりはるかに優れている。このため、臨床での癌治療および抗癌剤の調製に利用可能である。
【0044】
本発明において、アルギニンデイミナーゼのコード遺伝子は、いかなる出所、例えば、微生物、組み換え生物工学、またはこれらのいかなる組合せによっても、得られ、クローン化され、または、製造されてもよい。好ましくは、アルギニンデイミナーゼは、Mycoplasma属の微生物からクローン化される。より好ましくは、前記アルギニンデイミナーゼは、Mycoplasma argininiMycoplasma hominisMycoplasma arthritidis、またはこれらのいかなる組合せによっても、クローン化される。特に、本発明で用いられる前記アルギニンデイミナーゼは、配列番号1で示すアミノ酸配列を一つ以上有してもよい。
【0045】
アルギニンデイミナーゼの変異体とは、アミノ酸の置換、欠失、挿入により得られるタンパク質分子をいう。アルギニンデイミナーゼの断片とは、配列番号1の任意のより小さな部分に属する配列をいう。前記配列は、酵素による切断によって得られ、遺伝子操作を介して発現され、また、ポリペプチド合成により得られることが可能である。アルギニンデイミナーゼの異性体とは、野生型アルギニンデイミナーゼと同一のアミノ酸配列を有するが、タンパク質の2次もしくは3次構造の違い、または、局所アミノ酸の光学活性の違いを含めた、異なる立体構造を持つ分子をいう。前記異性体は、天然に生じる変異体であってもよいし、または、人工的なデザインにより得られてもよい。アルギニンデイミナーゼの誘導体とは、野生型アルギニンデイミナーゼの修飾により生じる産物をいう。修飾とは、リン酸分子もしくは炭水化物分子のような一つ以上の小分子、または、20アミノ酸未満のオリゴペプチドを、タンパク質の任意のアミノ酸において、前記タンパク質に共有結合させることをいう。好ましい実施形態において、前記誘導体は、3〜10アミノ酸からなってもよいHisタグを含むペプチドの付加により、N末端が修飾されたアルギニンデイミナーゼであってもよい。前記誘導体は、好ましくは、配列番号3または配列番号4に示す配列を有し、配列番号3または配列番号4に示す配列の派生配列を含む。アルギニンデイミナーゼの前記活性変異体、断片、異性体または誘導体の前記組合せとは、製品が前述した修飾を2つ以上同時に有することを意味し、例えば、制限されないが、断片の変異体または修飾された変異体等である。
【0046】
本発明は、より長い半減期を有するある種のアルギニンデイミナーゼの製品を提供する。この製品は、アルギニンデイミナーゼとアルギニンデイミナーゼでない修飾成分とからなる。前記アルギニンデイミナーゼは、前述のように定義され、また、修飾成分は、いかなる形態でもよく、制限されないが、巨大分子重合体、タンパク質分子、ペプチド、または他のいかなる形態の化学物質をも含む。アルギニンデイミナーゼおよび修飾成分は、安定した複合体または安定した組成物を形成するために、共有結合または非共有相互作用のいずれかで結合する。この製品は、アルギニンデイミナーゼの生物学的活性を有し、未修飾のアルギニンデイミナーゼと比べて、より長い生体内半減期、および、はるかに低い抗原性を有する。したがって、それは抗癌剤として供給できる。
【0047】
本発明の一実施形態において、それは、修飾剤とアルギニンデイミナーゼとの複合体、つまり修飾されたアルギニンデイミナーゼを提供する。本明細書で用いられる「複合体」という言葉は、修飾されたアルギニンデイミナーゼをいう。修飾とは、アルギニンデイミナーゼに共有結合により直接的または間接的に一つ以上の修飾剤を結合させることをいう。前記修飾剤は、生体適合性であり、アルギニンデイミナーゼの血中半減期を増加できる、重合体またはタンパク質またはそれらの断片であってもよい。前記修飾剤は、アルギニンデイミナーゼと化学的に結合していてもよいし、融合発現によりアルギニンデイミナーゼと結合していてもよい。
【0048】
前述の巨大分子重合体とは、非ペプチド巨大分子重合体をいい、それ自身の生物活性を有しても有していなくてもよい。適切な重合体には、ポリエノール化合物、ポリエーテル化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアミノ酸、ジビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、N−(2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミド、多糖、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリンまたはその断片、ポリ−アルキル−エチレングリコールおよびその誘導体、ポリ−アルキル−エチレングリコールとその誘導体との共重合体、ポリビニルエチルエーテル、a,P−ポリ[(2−ヒドロキシエチル)−DL−アスパルタミド]、ポリカルボン酸、ポリオキシエチレン−オキシメチレン、ポリアクリロイルモルホリン、アミノ化合物とオキシオレフィンとの共重合体、ポリヒアルロン酸、ポリオキシラン、エタン二酸とマロン酸との共重合体、ポリ(1,3−ジオキソラン)、エチレンとマレイン酸ヒドラジドとの共重合体、ポリシアル酸、シクロデキストリン等が含まれるが、これには限定されない。好ましくは、前記重合体は、ポリエチレングリコールである。
【0049】
前述のポリエノール化合物は、制限されないが、ポリエチレングリコール(モノメトキシポリエチレングリコールおよびモノヒドロキシポリエチレングリコールを含む)、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリブテノール等および、脂質のような、それらの誘導体を含む。
【0050】
前記ポリエーテル化合物は、ポリアルキレングリコール(HO((CHO)H)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン(HO((CHO)H)、ポリビニルアルコール((CHCHOH))を含むが、それらには制限されない。
【0051】
前述のポリアミノ酸は、制限されないが、一種類のアミノ酸の重合体、二種以上のアミノ酸の共重合体、例えば、ポリアラニンを含む。
【0052】
前述の多糖は、制限されないが、グルコサンおよびその誘導体、例えば、硫酸デキストラン、セルロースおよびその誘導体(メチルセルロースとカルボキシメチルセルロースを含む)、でんぷんおよびその誘導体、ポリスクロース等を含む。
【0053】
本発明の具体的な一実施形態において、アルギニンデイミナーゼは、タンパク質またはペプチドと結合しており、一つ以上のタンパク質またはペプチドが直接的または間接的にアルギニンデイミナーゼと結合している。前記タンパク質は、天然に存在するタンパク質またはその断片であってよく、制限されないが、好ましくは、天然に存在するヒト血清タンパク質またはその断片であり、制限されないが、サイロキシン結合性タンパク質、トランスサイレチン、a1−酸性糖タンパク質、トランスフェリン、フィブリノゲン、免疫グロブリン、アルブミンおよびそれらの断片を含む。タンパク質の「断片」とは、タンパク質全体よりも小さいが、キャリアーとしての前記タンパク質の機能を保持する、前記タンパク質の任意の部分をいう。アルギニンデイミナーゼは、共有結合を介して直接的または間接的に前記キャリアータンパク質と結合する。直接的な結合とは、アルギニンデイミナーゼの一つのアミノ酸が、前記キャリアータンパク質の一つのアミノ酸と、ペプチド結合またはジスルフィド結合を介して直接結合することを意味する。間接的な結合とは、アルギニンデイミナーゼとキャリアータンパク質との間における、もともとそれらの間に存在していた化学基、または生物学的もしくは化学的な方法で付加された特異的な化学基を介しての結合、または前述した結合の組合せをいう。
【0054】
本発明の一実施形態において、ポリエチレングリコール(PEG)修飾されたアルギニンデイミナーゼは、アルギニンデイミナーゼがPEG一分子と共有結合により結合するという点で特徴づけられる。アルギニンデイミナーゼの結合部位は、N末端α−アミノ基、リジン残基側鎖のε−アミノ基、システイン残基のメルカプト基、アスパラギン酸残基側鎖のカルボキシル基、グルタミン酸残基側鎖のカルボキシル基のうち一つであってよく、好ましくは、制限されないが、N末端α−アミノ基である。結合に用いる全てのポリエチレングリコール分子は、分子量が1,000〜100,000Da、制限されないが好ましくは5,000〜40,000Da、制限されないがより好ましくは20,000〜40,000Daである、線状の分子または分岐状の分子であってもよい。単一部位で修飾された製品を形成するために、PEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼのN末端α−アミノ基を用いることが好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態において、化学的な反応基と、血中の特定物質と反応して生体内で安定な共有結合を形成する能力とを有する、化学的に反応性のある、修飾アルギニンデイミナーゼが関与する。そのような物質には、制限されないが、血中のアミノ基、水酸基、メルカプト基等と反応して共有結合を形成できる一つの反応基を有する分子を含む。前記活性基は、例えば、制限されないが、アルブミンのような移動可能な血液タンパク質を含む(制限されない)血液タンパク質のメルカプト基と反応可能なマレイミドが好ましい。
【0056】
本発明の具体的な一実施形態において、アルギニンデイミナーゼを含む前記複合体は、特定組成物を有する複合体分子であり、アルギニンデイミナーゼと他の分子との間の非共有結合を介して形成される。この複合体は、癌の成長を阻害する活性を有し、アルギニンデイミナーゼよりも長い生体内半減期を有する。
【0057】
本発明の他の実施形態は、アルギニンデイミナーゼを含む徐放性組成物に関する。前記徐放性組成物は、アルギニンデイミナーゼまたはその複合体と医薬用キャリアーとからなる安定した組成物である。この組成物におけるアルギニンデイミナーゼは、生物学的活性を依然有しており、同時に、薬剤の薬物動態学上の性質を変化させるキャリアーのために、その生体内半減期は延長されている。化学的または物理的な前記徐放性物質は、制限されないが、生体内徐放技術に用いられることが好ましい。好ましい実施形態において、アルギニンデイミナーゼまたはその複合体、それらの組成物は、リポソームに包埋されている。他の好ましい実施形態において、アルギニンデイミナーゼまたはその複合体、それらの組成物は、微小浸透圧ポンプに含まれている。
【0058】
本発明は、また、アルギニンデイミナーゼまたはその複合体または組成物を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物は、アルギニンデイミナーゼを含む医薬組成物と適切な医薬用キャリアーとから構成される。この発明で用いられる前記医薬用キャリアーは、選択された服用量および濃度で接触しても細胞または哺乳類に無毒なキャリアー、賦形剤または安定化剤を含む。生理学的に許容できる一般的に使用されるキャリアーは、水溶性のpH緩衝液である。生理学的に許容できるキャリアーの例は、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液および他の有機酸緩衝液のような溶液;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量ポリペプチド(10残基以下);血清アルブミン、グルチン、免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリジンのようなアミノ酸;単糖、二糖、および、グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムイオンのような塩を形成する対イオン;および/または、Tween(登録商標)、PEGならびにPLURONICS(登録商標)のような非イオン性界面活性剤を含む。
【0059】
アルギニンデイミナーゼまたはその複合体の前記医薬組成物は、医薬組成物を形成するために、一般的に、医薬用キャリアー(賦形剤)と組み合わせることができる。前記医薬用キャリアーは、そのような組成物を安定化させ、または、活性剤の吸収を増加もしくは減少させるために使用できる一つ以上の生理学的に許容できる化合物を含んでもよい。生理学的に許容できる化合物は、例えば、グルコース、スクロースもしくはデキストリンのような炭水化物、アンチスコルビン酸もしくはグルタチオンのような抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、脂質のような保護吸収促進剤、活性剤の除去もしくは加水分解を減少できる成分、賦形剤もしくは他の安定化剤、および/または、緩衝液を含む。
【0060】
他の生理学的に許容できる化合物は、加湿剤、乳化剤、分散剤、または、微生物の増殖もしくは影響の阻害に特に有用な防護剤を含む。フェノールおよびアンチスコルビン酸を含め、様々な防護剤が広く知られている。生理学的に許容できる化合物を含む医薬用キャリアーの選択は、例えば、前記活性剤の投与経路および特定の生理化学的特質に依存することを、当業者であれば予期できる。
【0061】
好ましい前記賦形剤は、殺菌され、通常不良な材料を含まない。これらの化合物は、通常のよく知られた殺菌技術により、殺菌できる。
【0062】
本発明は、また、前述のアルギニンデイミナーゼまたはその複合体、組成物および取り扱い説明書を含むキットを提供する。
【0063】
本発明は、また、アルギニンデイミナーゼの前述の複合体または組成物の製造方法に関する。特に、本発明は、N末端の単一部位にPEGを結合させたアルギニンデイミナーゼの複合体の製造方法に関する。
【0064】
本発明は、また、癌の成長および転移の阻害と同様に、癌および他のアルギニン関連疾患の予防、診断または治療の方法を提供し、前記方法において、低抗原性、高い活性および長い半減期を有するアルギニンデイミナーゼの前記複合体または組成物は、制限されないが、薬剤として含まれる。前記方法での治療に適した癌は、制限されないが、肺癌、肝癌、胃癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、リンパ腫、大腸癌、乳癌、前立腺癌、口腔癌、鼻咽腔癌、子宮頸癌、白血病、悪性黒色腫、肉腫、腎臓癌、胆道癌等が含まれる。N末端の単一部位にPEGを結合させたアルギニンデイミナーゼの複合体は、癌治療に使用するのが好ましいが、これに制限はされない。
【0065】
本発明は、また、癌および他のアルギニン関連疾患の予防、診断または治療において、アルギニンデイミナーゼの前記複合体もしくは組成物またはその両方の投与経路を提供する。投与経路は、制限されないが、静脈内注射、点滴、静脈管内投与、動脈管内投与、筋内注射、腹腔内投与、経口投与、吸入投与、皮下投与、経皮投与、直腸投与、膣内投与、鼻粘膜投与、口腔粘膜投与、眼内投与または他の投与経路を含む。
【0066】
本発明は、また、抗癌剤調製における、アルギニンデイミナーゼの前記複合体もしくは組成物またはその両方の用途および使用法を提供する。
【0067】
PEGは、アルギニンデイミナーゼのN末端アミノ酸残基に直接的に結合され、一カ所が修飾されたタンパク質産物が精製される。前述単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、実験動物でほとんど免疫反応を誘導しない、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼと、類似する低抗原性を有する。その一方、前述単一部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼは、等モル濃度の複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも高い活性を有する。また、前記単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、癌を患うマウスの同時並行治療において、前記複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも高い癌活性抑制活性を示す。前記単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも、HPLCにおいて、はるかに優れた材料の均質性と単一性を示す。単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記製造方法は、修飾材料のより高い利用率を有する、つまり、より少ない巨大分子材料で、より多くの修飾産物を産生できる。
【0068】
N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記複合体は、同一の投薬量である、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、単一部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも、癌細胞の増殖およびマウスの癌成長に対するより高い阻害活性、ならびに、より高い安定性および酵素活性を有することが証明されている。さらに、前者は、より優れた組成物の均一性、純度、構造上の均一性および異なるバッチでの製品品質の再現性を有する。さらに、前記N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの修飾製品は、抗原性を効果的に減少し、アルギニンデイミナーゼの代謝を減速できるため、生体内の薬物動態学実験において、アルギニンデイミナーゼの半減期を増加させる。好ましい実施形態において、前記N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼ複合体は、癌治療と抗癌剤の調製とに使用できる。
【0069】
同時に、前記PEGが非直接的に結合したアルギニンデイミナーゼ、または、PEGが直接的に結合した他の種類のタンパク質を比較すると、前記PEGがN末端に直接結合したアルギニンデイミナーゼは、製造効率と酵素活性が数倍も増加している。つまり、同レベルの癌阻害を達成するための、前記直接的に結合したアルギニンデイミナーゼの投薬量は、はるかに少ない。それぞれの前記アルギニンデイミナーゼは、PEG一分子により修飾されているが、同一分子量である前記複数のPEG分子で修飾されたアルギニンデイミナーゼと比較すると、前者は、抗原性の低下および半減期の増加という点で同程度の効果を有する。
【0070】
“ポリ(エチレングリコール)(PEG)結合アルギニンデイミナーゼ:PEG製剤の薬理特性への効果”Journal of Controlled Release, 80: 259-271(2002)において、F.W. Holtsbergと彼の同僚らは、PEGでアルギニンデイミナーゼを修飾する方法を紹介した。通常の反応条件下、PEG剤のアルギニンデイミナーゼに対するモル比40:1が、20kDa以下の全てのPEGに用いられ、モル比50:1が、30kDa以上の全てのPEGに用いられたことが記載されている。そして、反応効率は、主として95%以上であった。我々の実験では、PEG剤のアルギニンデイミナーゼに対するモル比は、2:1が用いられ、反応効率は、通常70%に達したため、製造効率は10倍以上に増加している。Bioconjugate Chem. 2006, 17, 618-630のインターフェロンβ−1bのような、他の単一PEG修飾されたタンパク質と比較すると、反応効率は約5倍に増加している。
【0071】
同じ論文でF.W. Holtsbergらは、一般的な反応条件下では、複数PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの酵素活性は、40%〜65%低下したが、前記単一PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼは、以前の修飾時の酵素活性と同レベルの活性を有し、複数PEG修飾された製品の2倍であったと述べている。
【0072】
C.M.Ensorら、Cancer Research, 62: 5443-5450 (2002)、Mike A. Clarkら、WO9851784、および、Mike A. Clarkら、WO2002044360では、複数PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの投薬量は、マウス癌モデルにおいて5IU/マウス/週であるが、我々の実験では、1.7IU/マウス/週の投薬量でも際だった癌抑制を達成した。我々の実験の投薬量は、以前に報告された投薬量の1/3にまで減少したことが分かる。
【0073】
本発明の前記単一PEG修飾したアルギニンデイミナーゼは、F.W. Holtsbergら、Journal of Controlled Release, 80: 259-271(2002)、Mike A. Clarkら、WO9851784、および、Asciertoら、Journal Of Clinical Oncology, 23:7660-7668(2005)において報告されたように、抗原性の減少レベルが、前記同一分子量の複数PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼと同程度であった。また、半減期の延長という点では、単一PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼを毎週用いることによっても、際だった治療効果が達成される。
【0074】
Bioconjugate Chem. 2006, 17, 618-630のインターフェロンβ−1bのような、他の単一PEG修飾されたタンパク質は、約10倍に増加した半減期を有し、本発明の前記単一PEG修飾されたアルギニンデイミナーゼは、約20倍にまで増加した半減期を有する。
【実施例】
【0075】
実施例1:アルギニンデイミナーゼN末端へのPEGの結合
組み換えアルギニンデイミナーゼ(Protgen社)を10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.0)で透析した。タンパク質濃度は、UV分光光度計(Agilent Technologies社)を用いて280nmの吸光度測定により決定し、そして4mg/mlに調整した。20kDaまたは40kDaのPEGとの結合時、40mgの20kD PEG(mPEG-ButyrALD 20kDa、Nektar社)固体、または、80mgの40kD PEG(mPEG-ButyrALD 40kDa、Nektar社)固体を10mlのタンパク質溶液(40mgのタンパク質含有)に加え、PEG固体が完全に溶解し、PEGとアルギニンデイミナーゼとのモル比が2:1になるまで、前記混合液を室温で攪拌した。還元剤としてCHBNNa(Sigma社)を、最終濃度20mMになるように加え、溶液のpH値を7に調整した。10時間室温で静置した後、大部分のアルギニンデイミナーゼは、モノPEG化により修飾され、少量のアルギニンデイミナーゼは、複数部位で修飾されていた。前記溶液は、イオン強度を下げるために希釈した後、カラムクロマトグラフィーで直接的に精製でき、または、10倍に希釈した後、短期間4℃で保存できる。
【0076】
実施例2:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの陰イオン交換カラムによる精製
20kDaまたは40kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼを、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(Bio-Rad社)で精製した。反応後の前記混合液のpH値は7に調整した。10mM−Trisを含む平衡化緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したカラムに、サンプルを充填した。前記サンプルの充填後、前記クロマトグラフィーカラムを、カラム体積の3倍の平衡化緩衝液で溶出してから、10mM Trisおよび0−1M NaClを含む緩衝液(pH7.0)を用いて、勾配的溶出を行った。反応に関与しないPEGは、前記カラムと結合しないが、そのピークは、最小限の充填により、浸透および洗浄の間に出現した。前記溶出ピークは、複数部位で修飾されたアルギニンデイミナーゼ、単一部位で特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、未修飾のアルギニンデイミナーゼの順番で出現した。280nmでの吸光度にしたがって、異なる画分を回収できる。
【0077】
実施例3:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの血中半減期の有意な増加
PEG修飾の延長された有効性を評価するために、マウスにおけるアルギニンデイミナーゼおよびPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの半減期をそれぞれ測定した。6匹の健康な昆明マウス(平均体重約25g)(Vitalriver実験動物センター)を2つの群に分け、アルギニンデイミナーゼおよび20kD PEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼを、投薬量15mg/体重kgで、尾部静脈を介して注入した。そして、2、10、30分、1、2、4、8、16、24、48、72、96、120、144、168時間後に、血液サンプルを尾部静脈から回収した。血漿は−80℃に保存した。採血後、アルギニンデイミナーゼおよびPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの濃度を、それぞれサンドウィッチELISAにより測定した。生体内での薬物動態学的解析の結果は、アルギニンデイミナーゼの生体内半減期は、20kD PEGで修飾した後、平均4時間から72時間に増加したことを示す。
【0078】
実施例4:実験動物における、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの低抗原性
前記単一部位PEG修飾後の抗原性の減少を調べるために、アルギニンデイミナーゼ、単一部位がPEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼにより誘導される免疫反応を測定した(図5)。9匹の健康な昆明マウス(平均体重約25g)(Vitalriver実験動物センター)を3つの群に分け、アルギニンデイミナーゼ、N末端の単一部位が20kD PEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを、投薬量15mg/体重kgで、尾部静脈を介して注入した。血液サンプルは、1、7、14、21日後、尾部静脈から回収した。血漿は−80℃に保存した。採血後、各群のマウスの血中のアルギニンデイミナーゼに対する抗体のタイター量を、それぞれサンドウィッチELISAにより測定した。免疫学的解析の結果により、N末端の単一部位が20kD PEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼにより誘導される抗体のタイター量は、野生型未修飾アルギニンデイミナーゼにより誘導されるそれよりも約10,000倍低く、複数部位がPEGで非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼで誘導されるそれよりもちょうど2−3倍高いだけであることが示された。
【0079】
実施例5:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの完全な生化学活性の維持
単一部位がPEGで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いて、その酵素活性が修飾により減少しているか否かを調べた(図6)。アルギニンデイミナーゼを、最終濃度10μg/mlとなるように100mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に加え、さらにアルギニンデイミナーゼの基質としてL−アルギニンを最終濃度10μMとなるように加えた。前記混合反応システムを、37℃の水槽で10分間インキュベートし、Blood Urea Nitrogen (BUN)キット(G-Cell Biotechnologies社)でL−アルギニンの濃度変化を測定した。この結果、未修飾のアルギニンデイミナーゼ、および、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、いずれも17U/mgであることが示された。これは、単一部位が20kDaのPEGで特異的に修飾されても、前記酵素活性には有意な影響が無いことを意味する。我々は、また、コントロールとして、複数部位がPEGで非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いた。この結果、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの同一のモル濃度での前記酵素活性のわずか50−60%であることが示された。これは、複数部位がPEGで非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性の有意な減少を意味する。
【0080】
実施例6:N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼによる癌細胞増殖の抑制活性
マウスB16/F10悪性黒色腫細胞の増殖に対する、20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの阻害効果を観察した(図7)。マウス悪性黒色腫細胞(B16/F10、ATCC # CRL-6475(米国登録商標))を、10%の血清含有DMEM培地(Hyclone社)で対数増殖期まで培養し、続いて、血清を欠くDMEMで12時間饑餓状態に置いた。10%ウシ胎児血清と二種類の抗生物質(それぞれ10μg/mlのストレプトマイシンおよびアンピシリン、Sigma社)とを含む通常培地を加えた。治療群に対しては、アルギニンデイミナーゼ、および、修飾されたアルギニンデイミナーゼ(単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを含む)を最終濃度10μg/mlになるように加えた。一方、コントロール群に対しては、通常の生理食塩水を等量加えた。37℃で24時間インキュベートした後、細胞培養皿のウェルに、最終濃度0.25mg/mlになるようにMTTを加え、前記細胞を37℃のインキュベーター(Thermo Electron社)で6時間インキュベートし、最後に、DMSO(Shanghai Sangon Biological Engineering Technology & Services社)に溶解させた。細胞数は顕微鏡下で計測した。一つのプレート上の3つの異なる視野における細胞を数え、前記阻害率を算出した。その結果、アルギニンデイミナーゼの癌増殖阻害率は40%であったが、一方、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの細胞増殖阻害率は変わらないことが示された。しかし、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、単一部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼの約70%でしかない。これは、特異的にPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記酵素活性は、完全に維持されており、複数部位が修飾されたアルギニンデイミナーゼと比較すると、特異的にPEG修飾されたアルギニンデイミナーゼは、in vitroでより良く癌細胞の増殖を阻害できることを意味する。
【0081】
実施例7:マウス癌モデルの治療における、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの活性
マウスB16/F10悪性黒色腫細胞に対する20kDaのPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの、生体内での阻害効果を観察した(図8A、B)。平均体重約20gの各C57マウス(Vitalriver実験動物センター)の腋窩下に、2×10のB16/F10悪性黒色腫細胞を注入した。翌日、群あたり8匹となるように、前記マウスをランダムに群に分けた。ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(アルギニンデイミナーゼ5mg/体重kg(1.7U/マウス)、連日投与)、および、治療群とした。前記治療群は、それぞれ、3日に一回、および、7日に一回、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを投与する治療を施す群である。癌接種マウスをランダムに群分けした後、14日間、尾部静脈への注射(図8A)、ならびに、背部および頸部からの皮下注射(図8B)により投与した。その後、15日目に、前記マウスを殺し、癌の重量を測定した。抗癌効能を評価するために、癌阻害率を以下のように算出した。
癌阻害率=[(ネガティブコントロール群の癌重量―治療群の癌重量)/ネガティブコントロール群の癌重量]×100%
その結果、3日ごとおよび7日ごとの尾部静脈注入による治療群の前記癌阻害率は、それぞれ40%および30%であり、3日ごとおよび7日ごとの皮下注入による治療群の前記癌阻害率は、それぞれ35%および30%であることが示された。単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害活性を比較すると、同一の実験条件下、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害率は、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記癌阻害率よりも、10%高いことが示された。その結果、未修飾のアルギニンデイミナーゼには、有意な癌阻害活性が無いこと、特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼは、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼよりも高い生体内での癌阻害活性を有すること、特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの前記抗癌効能は、延長された投与間隔でも、維持されることが示された。
【0082】
実施例8:癌マウスの生存期間の延長における、N末端の単一部位がPEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの有意な効果
B16/F10悪性黒色腫細胞を有するC57マウスの生存期間に対する、単一部位が40kD PEGで修飾されたアルギニンデイミナーゼの治療効果を観察した(図9)。平均体重約20gの各C57マウスの腋窩下に、2×10のB16/F10悪性黒色腫細胞を注入した。翌日、群あたり8匹となるように、前記マウスをランダムに群に分けた。それぞれ、ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(化学的癌阻害薬、連日投与)、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いた治療群(治療間隔は7日に一回とした)とした。ランダムに群分けした後、癌の平均直径が約2cmに達した時点で、癌接種マウスに、背部および頸部から皮下注射により投与した。治療を16日間行ったが、その間にも各実験群のマウスは次々と死亡した。前記治療効果は、各群のマウスの平均生存期間に基づいて評価した。その結果、前記ネガティブコントロール群、前記ポジティブコントロール群および前記治療群のマウスの前記平均生存期間は、それぞれ15、19、22日間であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、Mycoplasma hominis由来の野生型アルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を示す(配列番号1)。
【図2】図2は、E. coli、酵母または哺乳類の細胞に発現させた野生型Mycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼのアミノ酸配列を示す(配列番号2)。
【図3】図3は、E. coliに発現させたMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼ誘導体のアミノ酸配列を示す(配列番号3)。
【図4】図4は、E. coli、酵母または哺乳類の細胞に発現させたMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼ誘導体のアミノ酸配列を示す(配列番号4)。
【図5】図5は、実験動物における、N末端の単一部位にポリエチレングリコールを結合させたアルギニンデイミナーゼ(ADI)の低抗原性を示すグラフである。平均体重25g前後の9匹の健康な昆明マウスを3つの群に分け、アルギニンデイミナーゼ、N末端の単一部位が20kDaのポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位がポリエチレングリコールで非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼのそれぞれを、尾部静脈に注入した。投薬量は、15mg/体重kgに設定した。
【図6】図6は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、その完全な生化学的活性を保持することを示すグラフである。アルギニンデイミナーゼを、最終濃度10μg/mlとなるように100μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、アルギニンデイミナーゼの基質としてL−アルギニンを、最終濃度10μmol/Lとなるように加えた。前記反応混合システムは、37℃の水槽で10分間インキュベートし、それから、前記混合液を取り出し、メーカーの使用説明書に従ってアッセイキットを用いてL−アルギニン濃度の変化を測定した。
【図7】図7は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、その完全な癌細胞増殖阻害活性を保持することを示すグラフである。マウスの悪性黒色腫細胞(B16/F10)を、対数増殖期までDMEM(10%血清添加)で培養した。そして、前記細胞を血清欠乏条件下で12時間、饑餓状態とした。10%ウシ胎児血清と二種類の抗生物質とを含む正常培地を前記癌細胞に加えた。治療群は、アルギニンデイミナーゼ、および、修飾アルギニンデイミナーゼ(単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを含む)により、それぞれ最終濃度10μg/mlで治療し、コントロール群は、等量の通常の生理食塩水を加えた。
【図8】図8は、マウス癌モデルの治療における、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼの活性を表す。平均体重約20gのC57マウスに、B16/F10悪性黒色腫細胞を、マウス一匹あたり2×10細胞となるように腋窩下に接種した。その翌日、前記マウスを、一群あたり8匹のマウスとなるようにランダムに群に分けた。ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(アルギニンデイミナーゼ5mg/体重kg(1.7U/マウス)、連日投与)、および治療群とした。前記治療群には、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼ、および、複数部位が非特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを、それぞれ3日に一回および7日に一回の間隔で投与した。Aは尾部静脈に投与した群であり、Bは皮下に投与した群である。
【図9】図9は、N末端の単一部位がポリエチレングリコールで特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼが、癌を持つマウスの生存期間を有意に延長したことを示すグラフである。平均体重約20gのC57マウスに、B16/F10悪性黒色腫細胞を、マウス一匹あたり2×10細胞となるように、腋窩下に接種した。その翌日、前記マウスを、一群あたり8匹のマウスとなるようにランダムに群に分けた。それぞれ、ネガティブコントロール群(通常の生理食塩水)、ポジティブコントロール群(化学的癌阻害薬、連日投与)、単一部位が特異的に修飾されたアルギニンデイミナーゼを用いる治療群(治療の間隔は7日に一回とした)とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾剤とアルギニンデイミナーゼとにより形成される複合体であって、前記修飾剤が、前記アルギニンデイミナーゼの生体内半減期を延長可能である複合体。
【請求項2】
前記修飾剤が、前記アルギニンデイミナーゼに共有結合されている、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記修飾剤が、巨大分子重合体、タンパク質およびその断片、ペプチド、小分子または他の化合物からなる群から選択される、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
前記巨大分子重合体が、ポリエノール化合物、ポリエーテル化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアミノ酸、ジビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、N−(2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミド、多糖、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、ポリ−アルキル−エチレングリコールおよびその誘導体、ポリ−アルキル−エチレングリコールとその誘導体との共重合体、ポリビニルエチルエーテル、a,P−ポリ[(2−ヒドロキシエチル)−DL−アスパルタミド]、ポリカルボン酸、ポリオキシエチレン−オキシメチレン、ポリアクリロイルモルホリン、アミノ化合物とオキシオレフィンとの共重合体、ポリヒアルロン酸、ポリオキシラン、エタン二酸とマロン酸との共重合体、ポリ(1,3−ジオキソラン)、エチレンとマレイン酸ヒドラジドとの共重合体、ポリシアル酸またはシクロデキストリンからなる群から選択される、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
前記ポリエーテル化合物が、ポリアルキレングリコール(HO((CHO)H)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン(HO((CHO)H)、ポリビニルアルコール((CHCHOH))またはそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4記載の複合体。
【請求項6】
前記ポリエノール化合物が、ポリエチレングリコール(モノメトキシポリエチレングリコールおよびモノヒドロキシポリエチレングリコールを含む)、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリブテノールまたは他のポリエノール化合物、および、脂質のようなそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4記載の複合体。
【請求項7】
前記ポリエノール化合物が、好ましくはポリエチレングリコールであり、より好ましくはモノメトキシポリエチレングリコールである、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールが、線状または分岐状である、請求項7記載の複合体。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールが、5,000から100,000Da、好ましくは5,000から60,000Da、より好ましくは5,000から40,000Da、最も好ましくは20,000から40,000Daの範囲の平均分子量を有する、請求項7記載の複合体。
【請求項10】
アルギニンデイミナーゼ一分子が、ポリエチレングリコール一分子と結合している、請求項7記載の複合体。
【請求項11】
前記結合部位が、アルギニンデイミナーゼにおける、N末端アミノ酸残基のα−アミノ基、リジン残基側鎖のε−アミノ基、システイン残基側鎖のメルカプト基、アスパラギン酸残基側鎖のカルボキシル基、グルタミン酸残基側鎖のカルボキシル基、チロシン残基側鎖の水酸基、セリン残基側鎖の水酸基、および、スレオニン残基側鎖の水酸基からなる群から選択される一つ、または、それらの組合せである、請求項7から10のいずれか一項記載の複合体。
【請求項12】
アルギニンデイミナーゼ分子が、ポリエチレングリコール分子と結合しており、前記結合部位が、アルギニンデイミナーゼのN末端アミノ酸残基のα−アミノ基である、請求項7から11のいずれか一項記載の複合体。
【請求項13】
アルギニンデイミナーゼが、ポリエチレングリコール分子と、付加されたシステイン残基におけるメルカプト基で結合しており、前記付加されたシステイン残基が、前記アルギニンデイミナーゼ分子のN末端、C末端または内部領域に、システイン残基またはシステイン残基を含むペプチド鎖の付加により導入されている、請求項7から11のいずれか一項記載の複合体。
【請求項14】
アルギニンデイミナーゼ分子が、特定部位でポリエチレングリコール分子と結合しており、前記特定部位が、前記アルギニンデイミナーゼ分子におけるアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基のカルボキシル基である、請求項7から11のいずれか一項記載の複合体。
【請求項15】
アルギニンデイミナーゼ分子が、特定部位でポリエチレングリコール分子と結合しており、前記特定部位が、前記アルギニンデイミナーゼ分子のチロシン残基、セリン残基またはスレオニン残基の水酸基である、請求項7から11のいずれか一項記載の複合体。
【請求項16】
前記アルギニンデイミナーゼの前記修飾部位が、一つであり限定されている、請求項7から15のいずれか一項記載の複合体。
【請求項17】
前記タンパク質が、アルブミン、免疫グロブリン、サイロキシン結合性タンパク質、トランスサイレチン、トランスフェリン、フィブリノゲン、およびそれらの断片からなる群から選択される、請求項3記載の複合体。
【請求項18】
アルギニンデイミナーゼ一分子が、一つ以上のアルブミン分子、好ましくはヒト血清アルブミンまたはその断片と結合している、請求項17記載の複合体。
【請求項19】
前記アルギニンデイミナーゼ分子が、一つ以上の免疫グロブリンのFc断片、好ましくはヒト免疫グロブリンIgGのFc断片と結合している、請求項17記載の複合体。
【請求項20】
前記アルギニンデイミナーゼ分子が、小分子または小ペプチドまたは他の化合物と結合しており、前記複合体が、生体内の他の分子または成分と反応または結合可能であり、それにより、前記複合体が、生体内の他の分子または成分とより大きな複合体を形成可能である、請求項3記載の複合体。
【請求項21】
前記複合体が、血液成分のアミノ基、水酸基またはメルカプト基と共有結合を形成可能な反応基を含む、請求項20記載の複合体。
【請求項22】
前記反応基が、アルブミンのような血液成分のメルカプト基と反応可能なマレイミドである、請求項21記載の複合体。
【請求項23】
前記複合体が、アルブミンまたは免疫グロブリンまたは他のタンパク質のようないくつかの血液成分に強い親和性を有し、それにより、より大きな複合体が形成可能である、請求項20記載の複合体。
【請求項24】
前記複合体が、グリコシル化、リン酸化またはアシル化されたアルギニンデイミナーゼ分子のような、小分子または小ペプチドで修飾されたアルギニンデイミナーゼ分子であって、前記修飾部位が、野生型タンパク質におけるアミノ酸残基または変異により生じたアミノ酸残基である、請求項3記載の複合体。
【請求項25】
前記アルギニンデイミナーゼ分子が、非共有相互作用を介して他のキャリアーと結合し、前記キャリアーが、タンパク質、小分子、または、キャリアーとして機能する他の物質である、請求項1記載の複合体。
【請求項26】
生体適合性キャリアーと、請求項1から25のいずれか一項記載の複合体とにより形成される、徐放性製剤。
【請求項27】
前記徐放性製剤が、マイクロカプセル、ヒドロゲル、マイクロスフェア、微小浸透圧ポンプまたはリポソームからなる群から選択される形態である、請求項26記載の徐放性製剤。
【請求項28】
前記アルギニンデイミナーゼが、Mycoplasma hominisMycoplasma arthritidisもしくはMycoplasma arginini由来である、または、前記アルギニンデイミナーゼが、遺伝子組み換え技術によるクローニングによって調製されるMycoplasma hominisMycoplasma arthritidisもしくはMycoplasma argininiのアルギニンデイミナーゼである、請求項1から27のいずれか一項記載の複合体または徐放性製剤。
【請求項29】
前記アルギニンデイミナーゼが、好ましくはMycoplasma hominis由来であり、その野生型が、配列番号1に示す配列を有する、請求項1から27のいずれか一項記載の複合体または徐放性製剤。
【請求項30】
前記アルギニンデイミナーゼが、より好ましくはE. coliに発現させた野生型組み換えMycoplasma hominisアルギニンデイミナーゼであり、配列番号1または配列番号2に示す配列を有する、請求項1から27のいずれか一項記載の複合体または徐放性製剤。
【請求項31】
前記アルギニンデイミナーゼが、アルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体、またはそれらの組合せ、好ましくは、Mycoplasma属由来のアルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体、またはそれらの組合せ、より好ましくは、Mycoplasma hominis由来のアルギニンデイミナーゼの活性断片、変異体、誘導体、異性体、またはそれらの組合せである、請求項1から27のいずれか一項記載の複合体または徐放性製剤。
【請求項32】
前記アルギニンデイミナーゼ誘導体が、N末端またはC末端に1〜15アミノ酸残基の長さの付加ペプチドの配列を有し、好ましくは、配列番号3または配列番号4に示す配列を有し、前記N末端に付加Hisタグを含むペプチドMGGSHHHHHを有する、請求項31記載の複合体。
【請求項33】
請求項1から27のいずれか一項記載の複合体または徐放性製剤と薬学上許容できるキャリアーとを含む医薬組成物。
【請求項34】
前記薬学上許容できるキャリアーが、リン酸、クエン酸および他の有機酸の緩衝液を含む水溶性のpH緩衝液;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量ポリペプチド(10残基以下);血清アルブミン、グルチンまたは免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンのようなアミノ酸;単糖、二糖、および、グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムイオンのような塩を形成する対イオン;Tween(登録商標)、PEG、PLURONICS(登録商標)のような非イオン性界面活性剤からなる群から選択される、請求項33記載の医薬組成物。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項記載の複合体、組成物または徐放性製剤、および、その使用のための説明書を含むキット。
【請求項36】
巨大分子重合体とアルギニンデイミナーゼとを混合する工程、ならびに、溶液、温度、pHおよび反応モル比を含む適切な条件下で反応させる工程を含む、請求項7から16のいずれか一項記載の複合体を調製する方法。
【請求項37】
前記pHが、pH3〜pH10である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
イオン交換カラムを用いて前記複合体を精製する工程を含む、請求項7から16のいずれか一項記載の複合体を調製する方法。
【請求項39】
ゲルろ過を用いて前記複合体を精製する工程を含む、請求項7から16のいずれか一項記載の複合体を調製する方法。
【請求項40】
癌の予防、診断および治療における、請求項1から35のいずれか一項記載の複合体、組成物、徐放性製剤またはキットの使用。
【請求項41】
前記癌が、肺癌、肝癌、胃癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、リンパ腫、大腸癌、乳癌、前立腺癌、口腔癌、鼻咽腔癌、子宮頸癌、白血病、悪性黒色腫、肉腫、腎臓癌、胆道癌または他の癌からなる群から選択される、請求項40記載の使用。
【請求項42】
他のアルギニン関連疾患の予防、診断または治療における、請求項1から35のいずれか一項記載の複合体、組成物、徐放性製剤またはキットの使用。
【請求項43】
その投与経路が、静脈内注射、点滴、静脈管内投与、動脈管内投与、筋内注射、経口投与、吸入投与、皮下投与、経皮投与、腹腔内投与、直腸投与、膣内投与、鼻粘膜投与、口腔粘膜投与もしくは眼内投与、または他の投与経路からなる群から選択される、請求項40から42のいずれか一項記載の使用。
【請求項44】
抗癌剤の調製における、請求項1から35のいずれか一項記載の複合体、組成物、徐放性製剤またはキットの使用。
【請求項45】
他のアルギニン関連疾患の予防、診断または治療のための医薬品の調製における、請求項1から35のいずれか一項記載の複合体、組成物、徐放性製剤またはキットの使用。
【請求項46】
アルギニンデイミナーゼの半減期の延長方法であって、アルギニンデイミナーゼと、アルギニンデイミナーゼの生体内半減期を延長可能な修飾剤との間で複合体を形成させる工程を含む方法。
【請求項47】
アルギニンデイミナーゼの半減期の延長方法であって、アルギニンデイミナーゼまたはアルギニンデイミナーゼを含む複合体と生体適合物質との間で、徐放性製剤を形成させる工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−523433(P2009−523433A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550618(P2008−550618)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【国際出願番号】PCT/CN2007/000203
【国際公開番号】WO2007/082482
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(506259634)清華大学 (13)
【出願人】(507369132)北京普▲羅▼吉生物科技▲発▼展有限公司 (5)
【氏名又は名称原語表記】Protgen Ltd.
【Fターム(参考)】