説明

癌転移抑制用トリテルペン誘導体及び該トリテルペン誘導体を用いた癌転移抑制用組成物

【課題】 悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマなどの腫瘍細胞の転移に対し優れた抑制作用を有する癌転移抑制物質及びこれを含有する組成物を提供すること。
【解決手段】 式(I)又は(II)で表される癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【化1】


式中、Rは水酸基、または−O−CO−R´を表し、R´は炭素数1〜23のアルキル基、または炭素数6〜23の含芳香環基を表す。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリテルペン誘導体の用途に関するものであり、詳しくは、特定機能に基づき発現する癌転移抑制能を有する癌転移抑制用トリテルペン誘導体、及び該化合物を用いた医薬品、健康機能食品等の癌転移抑制用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌細胞が原発巣から遠く離れた組織や臓器に移転する過程は、(i)癌細胞が原発巣から離脱する、(ii)基底膜を破り周囲の組織へ浸潤する、(iii)血管やリンパ管に進入し血液やリンパ液の流れによって遠隔の組織に運ばれる、(iv)再び血管やリンパ管から組織に侵入・増殖し新たに転移巣を形成する、といった流れをたどる(例えば、非特許文献1参照。)。癌は原発巣にとどまる限り、外科手術等で対処し易いが、転移を起こすと一般に予後が悪く、転移を起こし易い癌は悪性と考えられる。
【0003】
悪性黒色腫はごく初期であれば外科手術による切除で治癒する例も多いが、病状の進行に伴い、放射線療法や化学療法が併用されることになる。悪性黒色腫は転移を起こし易く、癌のなかでもこれらの治療の効果が低いとされている。抗癌剤としては、ダカルバジン等があり、免疫療法も期待され試みられているが、未だ確立した治療法とはなっていないのが実情である。
【0004】
このように、癌の転移は最も解明の進んでいない分野の一つであり、転移の過程の一部に直接作用して効果を示す癌転移抑制薬は実用化されていない。
【非特許文献1】"α-Melanocyte-stimulating hormone blocks invasion of reconstituted basement membrane (Matrigel) by murine B16 melanoma cells"; Jun Murata, Koichi Ayukawa, Masaru Ogasawara, Hideaki Fujii, Ikuo Saiki; Invasion Metastasis (1997), 17, pp.82-93.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み開発されたものであり、その目的は、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマなどの腫瘍細胞の転移に対し優れた抑制作用を有する癌転移抑制物質及びこれを含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者等は、癌細胞内におけるアクチンポリマーの脱重合が促進されると癌細胞の運動能が抑制され、これにより極めて高い癌転移抑制効果が奏されることを見出すと同時に、特定のトリテルペン誘導体がかかる機能に基づく癌転移抑制能を有することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、式(I)又は(II)で表される癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩に係わる。
【化1】

【0008】
式中、Rは水酸基、または−O−CO−R´を表し、R´は炭素数1〜23のアルキル基、または炭素数6〜23の含芳香環基を表す。
【化2】

【0009】
本発明において、前記癌転移抑制用トリテルペン誘導体は、癌細胞の運動能抑制機能を有することを特徴とするものであり、該癌細胞の運動能抑制機能は、癌細胞内におけるアクチンポリマーの脱重合を促進することにより癌細胞の運動能を抑制するものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様において、前記癌細胞は、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマから選択される少なくとも1つである。
【0011】
本発明はまた、前記癌転移抑制用トリテルペン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する癌転移抑制剤に係わる。
【0012】
また、本発明は、前記癌転移抑制用トリテルペン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する健康機能食品に係わる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマ等の転移抑制に特に有効な癌転移抑制用医薬品並びに健康食品の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る癌転移抑制用トリテルペン誘導体は、以下に示す式(I)又は(II)により表される。
【化3】

【0015】
式中、Rは水酸基、または−O−CO−R´を表し、R´は炭素数1〜23のアルキル基、または炭素数6〜23の含芳香環基を表す。R´の具体例としては、フェニル(C−)、トリル(CH−)、ベンジル(CCH−)、フェネチル(CCHCH−)、スチリル(CCH=CH−)、ナフチル(C10−)等を挙げることができる。
【化4】

【0016】
上述したように、本発明に係る癌転移抑制用トリテルペン誘導体およびその薬学的に許容される塩(以下において、「本発明のトリテルペン誘導体」という。)による癌転移抑制作用は、癌細胞内におけるアクチンポリマーの脱重合が促進されることにより癌細胞の運動能が抑制されることに基づき発現するものであり、本発明による癌細胞の運動能抑制作用は、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマ等の癌細胞に対して特に有効に作用する。
【0017】
本発明のトリテルペン誘導体はそのまま、あるいは慣用の担体等と共に、癌転移抑制を目的とする医療処置のための医薬として(以下、「癌転移抑制剤」という。)、あるいは食品分野において、健康機能食品等として用いられる。
【0018】
まず、医薬用途に係る本発明の癌転移抑制剤について説明する。本発明の癌転移抑制剤は、例えば、経口投与、非経口投与することができ、非経口投与としては、注射、経皮投与、直腸投与、眼内投与等により投与され得、これらの投与経路に応じて、適切な薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤等と組み合わされ製剤化することができる。経口投与に適した剤型としては、特に限定されるものではないが、固体、半固体、液体等の状態のものが含まれ、具体的には、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等を挙げることができる。本発明の癌転移抑制剤の投与量は、投与形態、投与経路、対象とする疫病の程度や段階等に応じて適宜設定、調節することができるが、通常は、活性成分として、一日当たり質量で約0.0001〜5000mg、好ましくは0.001〜500mg、より好ましくは0.01〜100mgであり、一回投与量として0.01mg、0.2mg、1mg、5mg、10mg、50mg、100mg、250mgおよび500mg等が設定されるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の癌転移抑制剤を錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤等に製剤化する手段としては、公知の製剤化方法を用いることができ、本発明のトリテルペン誘導体を賦形剤、潤滑剤等と混合し、更に必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、浸潤剤、保存剤等と混合することにより行うことができる。これらの添加成分の具体例としては、でん粉、乳糖のような糖類、ヒドロキシプロピルセルロースのようなセルロース誘導体、ゼラチン、タルク、ステアリン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0020】
注射による投与としては、皮下、皮内、静脈内、筋肉内等に投与することができ、かかる投与方法において用いられる注射用製剤の製剤化方法としては、通常用いられる方法を用いることができる。具体的には、本発明のトリテルペン誘導体を、植物性油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステル、プロピレングリコールのような水性又は非水性の溶媒中に溶解又は懸濁し、あるいは乳化させ、更に必要により、可溶化剤、浸透圧調節剤、乳化剤、安定剤及び保存料のような従来用いられている添加剤と共に製剤化することができる。
【0021】
経皮投与としては、対象となる皮膚の状態等に応じて軟膏剤、乳化剤、パスタ剤、ハップ剤、リニメント剤、ローション剤、懸濁剤等として投与することができ、かかる投与方法において用いられる経皮投与用製剤の製剤化方法としては、通常用いられる方法を用いることができる。例えば、軟膏剤は、本発明のトリテルペン誘導体を公知の方法によりワセリン、パラフィン等の疎水性基材、又は親水ワセリン、ポリエチレングリコール等の親水性基材と練り合わせることにより製剤化することができる。
【0022】
直腸投与としては、例えば坐薬として投与することができ、坐薬の製剤化方法としては、通常用いられる方法が用いられ得る。具体的には、本発明のトリテルペン誘導体を、体温で融解するが室温では固化しているカカオバター、カーボンワックス、ポリエチレングリコール等の賦形剤と混合し、成形することにより、製剤化することができる。
【0023】
次に、健康機能食品として用いられる本発明の癌転移抑制用組成物について説明する。
本発明のトリテルペン誘導体は、いわゆる健康機能食品への用途としても有用であり、例えば、菓子、清涼飲料等の飲料、野菜又は果実加工品、畜肉製品、調味料等として広く適用可能である。その形態としては、特に限定されるものではなく、例えば粉末、固形、溶液等であり得る。上述したような食品類に本発明のトリテルペン誘導体を配合する場合には、本発明のトリテルペン誘導体を精製された化学物質として配合する場合のほか、本発明のトリテルペン誘導体を含有するキク科等の植物やその加工品として、あるいは適当な溶媒によるそれらの抽出物、また更にその抽出物を適当な方法により分画したものとして配合することができる。かかる健康機能食品中への本発明のトリテルペン誘導体の配合量としては、目的や製品形態等に応じて適宜設定することができる。一般的には、ドリンク剤等の溶液又は懸濁液等の場合、例えば、30ml中、活性成分として0.001〜100mgであり、好ましくは0.01〜10mg、より好ましくは0.1〜5mgである。また、タブレット等粉末固形製品の場合は、例えば、300mg中、活性成分として0.001〜50mgであり、好ましくは0.01〜10mg、より好ましくは0.1〜2mgである。
【0024】
本発明のトリテルペン誘導体を健康機能食品として利用する場合、甘味料、酸味料、保存料、香料、着色料、賦形剤、安定剤、湿潤剤、吸収促進剤、pH調整剤等の種々の添加成分を配合することができる。これら添加成分の具体例としては、キノコ抽出液、人参抽出液のような各種食品抽出エキス溶液、キノコ抽出物、人参抽出物のような各種食品抽出エキス、ハチミツ、環状オリゴ糖、還元麦芽糖、トレハロース、乳糖、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[トリテルペン誘導体の調製]
本発明に係るトリテルペン誘導体1乃至3の調製例を以下に示す。
【0027】
(調製例1)トリテルペン誘導体1(ルペオール)の調製
本発明に係るトリテルペン誘導体1(ルペオール;式(I)中、Rが水酸基の化合物)を、以下に示す手段により抽出、単離した。
タンポポ根生薬(蒲公英根、ウチダ和漢薬)350gを破砕した後、エタノール5Lを用いて抽出を行い、これを濾過した。この抽出操作を更に4回繰り返した後、得られた濾液を減圧乾固し、粗抽出物(24.6g)を得た。
【0028】
得られた粗抽出物をクロロホルム−メタノール−蒸留水(4:4:3、1L)で分液操作を行い、クロロホルム層と水層に分離した。本発明者等が選抜、樹立したマウスメラノーマ細胞 B16由来 α-MSH 高感受性株B16 2F2 分化誘導活性が検出されたクロロホルム層について、その画分を減圧乾固した(7.5g)。さらに、得られた抽出物を、n-ヘキサン−クロロホルム(1:1)の溶媒を用いてシリカゲルクロマトグラフィーに付し、n-ヘキサン−クロロホルム(1:1)、(1:3)、クロロホルム−メタノール(3:1)、(1:1)で順次溶出した後、その活性を調べた。活性は主にn-ヘキサン−クロロホルム(1:3)を用いて溶出された画分に検出されたため(1.2g)、更にこの画分を、クロロホルム−メタノール(1:9)を用いてCosmosil 75C18(ナカライテスク株式会社)による逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィに付して精製し、無色針状物質のルペオール(89.6mg)を得た。
【0029】
得られたルペオールの物性値と各種スペクトルの結果を以下に示す。
【0030】
融点213 - 214℃; [α]25+26.6°(c 1.00, クロロホルム); IR (KBr) νmax 3600-3100, 3000-2800, 1639, 1454, 1379, 1295, 1187, 1041, 883 cm-1; H-NMR (CDCl3) δ 4.69, 4.57 (each 1H, br. s, H2-29), 3.20 (1H, dd, J=10.8, 4.4 Hz, 3α-H), 2.38 (1H, m, H2-2), 1.69 (3H, s, H3-30), 1.04 (3H, s), 0.98 (3H, s), 0.96 (3H, s), 0.85 (3H, s), 0.80 (3H, s), 0.77 (3H, s); 13C-NMR (CDCl3) δ 150.9 (s, C-20), 109.3 (t, C-29), 79.0 (d, C-3), 55.3 (d, C-5), 50.5 (d, C-9), 48.3 (d, C-19), 48.0 (d, C-18), 43.0 (s, C-14), 42.9 (s, C-17) 40.8 (s, C-8), 40.0 (t, C-16), 38.9 (s, C-4), 55.3 (d, C-5), 38.8 (t, C-1), 38.1 (d, C-13), 37.2 (s, C-10), 36.6 (t, C-22), 34.3 (t, C-7), 29.9 (t, C-15), 28.0 (q, C-23), 27.5 (t, C-2), 27.4 (t, C-21), 25.2 (t, C-12), 21.0 (t, C-11), 19.3 (q, C-30), 18.3 (t, C-6), 18.0 (q, C-28), 16.1 (q, C-25), 16.0 (q, C-26), 15.4 (q, C-24), 14.6 (q, C-27); EIMS m/z 426 (4), 370 (2), 316 (10), 257 (8), 207 (58), 189 (50), 135 (45), 109 (100); HREIMS m/z 426.3866 (C30H50O1 calcd: 426.3861)。
【0031】
ルペオールの化学構造については、HREIMSの結果からトリテルペン化合物と考えられ、H-NMRで特徴的なδ 3.20ppmに典型的な水酸基の付け根に相当する3αプロトン由来のダブルタブレット(J = 10.8, 4.4 Hz)プロトンが現れることから、3位β−水酸基の存在が示唆され、また13C-NMRでの多重度測定の結果などから、ルパン型五環性トリテルペン化合物のルペオール[= lup-20(29)-en-3β-ol]であると推定された。そこで、試薬としてのルペオールと、混融試験ならびにIR及びH-NMR、13C-NMRスペクトルを直接比較し、その化学構造を確認した。
【0032】
(調製例2)トリテルペン誘導体2(ルペニルパルミテート)の調製
本発明に係るトリテルペン誘導体2(ルペニルパルミテート;式(I)中、Rが−O−CO−(CH14CH(R´が炭素数15のアルキル基)であるパルミチン酸エステル)を、以下に示す手段により合成、精製した。
【0033】
ルペオール(30mg)とパルミチン酸(40mg)を、室温(25℃)において乾燥テトラヒドロフラン3mLに溶解させた後、濃硫酸0.5mLを加え、これを1時間静置した。得られた反応液を氷冷下において飽和食塩水に注入し、クロロホルムを用いて抽出を2回繰り返した。得られたクロロホルム溶液を、重曹水、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下において溶媒を除去し、ルペニルパルミテート(無色柱状結晶物質、65mg)を得た。
【0034】
なお、式(I)中、Rが−O−CO−CH(R´がメチル基)であるエステル誘導体(ルペニルアセテート)は、ルペオールを無水酢酸−ピリジンを用いてアセチル化することにより得ることができ、その他の本発明に係るエステル誘導体(式(I)中、Rが−O−COR´)は、市販されている炭素数2〜23のアルキル酸、アリール酸、ベンジル酸の遊離酸化合物あるいはメチルエステル体化合物とルペオールを、前述の濃硫酸処理によってエステル結合させることにより得ることができる。
【0035】
ルペニルパルミテートの物理データを以下に示す。
【0036】
融点 94-96℃;[α]25D +52.7°(c 0.30, クロロホルム); IR (KBr) νmax 3000-2800, 1728, 1640, 1465, 1380, 1320, 1255, 1179, 1147, 1116, 1038, 977, 879 cm-11H-NMR (CDCl3) δ 4.69, 4.57 (each 1H, br s, H2-29), 4.49 (1H, dd, J=10.8, 5.6 Hz, 3(H), 2.38 (1H, m, H2-2), 2.29 (2H, t, J=7.2 Hz, H2-2’), 1.69(3H, s, H3-30), 1.30-1.20 (パルミチン酸部分アルキル鎖プロトン), 1.05 (3H, s), 0.96 (3H, s), 0.87 (3H, t, J=8.4 Hz, H3-16’), 0.85 (6H, s), 0.80 (3H, s); 13C-NMR (CDCl3) δ 179.6 (s, C-1’), 150.8 (s, C-20), 109.4 (t, C-29), 80.6 (d, C-3), 55.4 (d, C-5), 50.4 (d, C-9), 48.3 (d, C-19), 48.0 (d, C-18), 43.0 (s, C-14), 42.9 (s, C-17), 40.9 (s, C-8), 40.0 (t, C-16), 38.4 (t, C-1), 38.0 (d, C-13), 37.1 (s, C-10), 35.6 (t, C-22), 34.8 (t, C-2’), 34.2 (t, C-7), 31.9 (t, C-15’), 29.9 (t, C-15), 29.7-29.6 (12C, each t, C-3’〜 C-14’), 28.0 (q, C-23), 27.5 (t, C-21), 25.2 (2C, each t, C-2, C-12), 21.0 (t, C-11), 19.3 (q, C-30), 18.2 (t, C-6), 18.0 (q, C-28), 16.6 (q, C-16’), 16.2 (q, C-25), 16.0 (q, C-26), 14.5 (C-27), 14.0 (C-24); EIMS m/z 664 (25), 649 (13), 408 (40), 368 (40), 256 (55), 236 (60), 189 (70), 149 (85), 123 (90), 109 (92), 95 (100); HREIMS m/z 664.6125 (C46H80O2, calcd: 664.6158)。
【0037】
(調製例3)トリテルペン誘導体3(ルペオン)の調製
本発明に係るトリテルペン誘導体3(ルペオン;式(II)で表される化合物)を、以下に示す手段により合成、精製した。
無水ジクロロメタン(2mL)にルペオール(100mg)を溶解させた溶液に、クロロクロム酸ピリジニウム(50mg)を添加し、室温で2時間攪拌した。反応産物をジエチルエーテル(5mL)に溶解し、フロリジルカラムに通過させ、10倍容量のジエチルエーテルで溶出した。得られた溶出液から減圧濃縮により溶媒を除去し、ルペオン(無色針状結晶物質、60mg)を得た。試薬としてのルペオンと、混融試験ならびにIR及びH-NMR、13C-NMRスペクトルを直接比較し、その化学構造を確認した。
【0038】
(実施例1)
B16 2F2を、10%牛胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地で培養した。ボイデンチャンバーは、24ウェル培養プレートに上室として8μmポアサイズのポリカーボネートフィルター付きのインサートを用いた型を使用した(コーニング社製;商品名 COSTARTRANSWELL)。B16 2F2細胞を0.1%牛血清アルブミン添加ダルベッコ変法イーグル培地で1×10cells/mLに調製し、前記調製例1で製造したルペオールを最終濃度1〜20μMとなるように添加し、5×10cells/ mLの細胞懸濁液を準備した。また、チャンバーの下室ウェルには予め上室と同濃度のルペオールを含む0.1%牛血清アルブミン添加ダルベッコ変法イーグル培地600μLを入れた後、上室をセットした。上室にB16 2F2細胞5×10cells/ mLを100μL入れ、37℃、5%CO雰囲気下に6時間インキュベートした。その後、フィルターを取り出し、フィルター下面に遊走したB16 2F2細胞を固定後、ヘマトキシリン染色液にて染色し、顕微鏡下で遊走細胞数を算定した。
【0039】
図1に結果を示す。なお、図1において、Migration Index (%)は、無添加の区での遊走細胞数を100とした場合の百分率を表し、以下において、本発明のトリテルペン誘導体が有するB16 2F2細胞遊走阻害能は、このMigration Index (%)により評価される。また、図1中、*印は無添加の区と比較して危険率0.01未満で有意な差があることを示す。
【0040】
図1より、本発明のトリテルペン誘導体は、癌細胞の運動能抑制機能を有することが明らかとなった。
【0041】
(実施例2)
実施例1に対し、本発明のトリテルペン誘導体として、ルペオールに替えて前記調製例に従い製造したルペオン、ルペニルアセテートを使用した以外は実施例1と同様にして実験を行った。その結果、ルペオン、ルペニルアセテート10μMの濃度におけるMigration Indexは、各々29.2%、39.7%であり、この場合も優れたB16 2F2細胞遊走阻害能を有することが明らかとなった。
【0042】
(実施例3)
10μMルペオールを用い、ヒト由来メラノーマ、神経芽細胞腫、神経膠芽腫、アストロサイトーマ、肺腺癌、腎腺癌、繊維肉腫、骨肉腫、胃癌由来、子宮頸癌、膵臓癌、膀胱癌の遊走能に対する阻害能を、実施例1と同様に評価した。データは、4穴の平均値により示した。その結果、前記癌細胞の中で、メラノーマ(Migration Index = 40.8%)、神経芽細胞腫(Migration Index = 39.7%)、神経膠芽腫(Migration Index = 39.8%)、及びアストロサイトーマ(Migration Index = 43.3%)に対して特に優れた遊走阻害能を発現することが明らかとなった。
【0043】
(実施例4)
B16 2F2細胞を、10%牛胎児血清添加ダルベッコ変法イーグル培地で1×10cells/mL(1mL)に調製し、ルペオールを最終濃度10μMとなるように添加した。37℃、5%CO雰囲気下に12時間インキュベートした。B16 2F2細胞を固定後、Alexa-Fluora 488-Phalloidin溶液にて染色し、蛍光顕微鏡下で細胞内アクチンポリマー(=ストレスファイバー)を観察した。図2に結果を示す。
【0044】
図2において、未処理のB16 2F2細胞ではアクチンの重合(図中の白矢印)が認められるのに対し、ルペオール処理したB16 2F2細胞ではアクチンポリマーは観察されず、アクチンポリマーの脱重合が認められた。この結果より、ルペオールによるB16 2F2細胞の運動能抑制機能は、アクチンポリマーの脱重合が促進されることに基づくものであることが考察される。
【0045】
(実施例5)
本発明に係る注射剤用癌転移抑制剤は、例えば、以下の手段により調製することができる。
【0046】
成分 配合量
本発明のトリテルペン誘導体 10 mg
ポリオキシエチレン水素化ひまし油60 400 mg
エタノール 1mLとするのに必要な量
常法により本発明のトリテルペン誘導体及びポリオキシエチレン水素化ひまし油60をエタノールに溶解させ、上記成分組成からなる溶液を調整する。得られる溶液は、適量の生理食塩水で希釈して、静脈内注入により投与することができる。
【0047】
(実施例6)
本発明に係る健康機能食品(タブレット)は、例えば、以下の成分組成において製造することができる。
【0048】
本発明のトリテルペン誘導体 0.5 mg
還元麦芽糖 87.8 mg
トレハロース 41.2 mg
乳糖 16.5 mg
ショ糖脂肪酸エステル 6.2 mg
デキストリン 147.8 mg
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ルペオールによるB16 2F2細胞遊走阻害能の評価結果を示すグラフ。
【図2】ルペオールによるアクチンポリマーの脱重合性を示す顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)又は(II)で表される癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【化1】

式中、Rは水酸基、または−O−CO−R´を表し、R´は炭素数1〜23のアルキル基、または炭素数6〜23の含芳香環基を表す。
【化2】

【請求項2】
前記癌転移抑制用トリテルペン誘導体が、癌細胞の運動能抑制機能を有することを特徴とする、請求項1に記載の癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記癌細胞の運動能抑制機能が、癌細胞内におけるアクチンポリマーの脱重合を促進することにより癌細胞の運動能を抑制するものである、請求項2に記載の癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記癌細胞が、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、神経膠芽腫およびアストロサイトーマから選択される少なくとも1つである、請求項2または3に記載の癌転移抑制用トリテルペン誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の癌転移抑制用トリテルペン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する癌転移抑制剤。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の癌転移抑制用トリテルペン誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する健康機能食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−151902(P2006−151902A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347054(P2004−347054)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【出願人】(398050261)株式会社坂本バイオ (11)
【Fターム(参考)】