説明

発光ダイオード及びその製造方法

【課題】LEDチップと、該LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光物質を担持して成る不織布を備えた発光ダイオードにおいて、不織布への蛍光物質の担持が容易な発光ダイオードを実現する。
【解決手段】LEDチップ20と、蛍光体28を担持して成る不織布30を備えた発光ダイオードにおいて、上記不織布30を構成する繊維32間に、蛍光体28を保持可能な空隙34を多数形成し、以て、繊維32間の上記空隙34に蛍光体28を保持せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光ダイオードチップ(LEDチップ)と、該LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光物質を担持して成る不織布を備えた発光ダイオード(LED)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、先に、蛍光体を担持させて成る不織布をLEDチップ上に配置したLED(特開2006−60099)や、蛍光体を担持させて成る不織布でLEDチップを覆ったLED(特開2006−147925)を提案した。
図6は、蛍光体を担持させて成る不織布でLEDチップを覆ったLEDを示すものであり、このLED60は、絶縁材料より成る基板62上に、LEDチップ64を接続・固定して成る。
また、上記基板62の表面から側面を経て裏面にまで延設された一対の外部電極66a,66bが相互に絶縁された状態で形成されている。
【0003】
上記LEDチップ64上面の一方の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ68を介して、一方の外部電極66aに接続されると共に、LEDチップ64上面の他方の電極(図示せず)は、ボンディングワイヤ68を介して、他方の外部電極66bに接続されている。
【0004】
上記LEDチップ64及びボンディングワイヤ68は、基板62上に載置された蛍光体70を担持して成るドーム状の不織布72で覆われている。
不織布72は、多数の繊維が立体的に絡み合って形成されていることから、単位体積当たりの繊維の表面積が極めて大きいものであり、また、図6に示すように、繊維73間には空隙75が多数形成されているものである。
蛍光体70は、上記不織布72を構成する繊維73の表面に担持されているものである(図6及び図7)。
【0005】
上記LEDチップ64及び不織布72は、基板62上に配置された所定高さを備えた枠部材74で囲繞されていると共に、該枠部材74内に透光性材料を充填して形成された透光性の蓋部材76によって封止されている。
【0006】
上記発光ダイオード60にあっては、一対の外部電極66a,66bを介してLEDチップ64に電圧が印加されると、LEDチップ64が発光して、上記蛍光体70を励起させる紫外線や可視光等の光が放射される。この光が、LEDチップ64を覆うドーム状の不織布72に担持された蛍光体70に照射され、所定波長の可視光等の光に波長変換された後、透光性の蓋部材76を透過して外部へ放射されるのである。
【0007】
上記発光ダイオード60は、LEDチップ64をドーム状の不織布72で覆い、該不織布72を構成する繊維73の表面に蛍光体70を担持せしめたことから、蛍光体70で波長変換される光を、蛍光体70で反射された反射光として取り出すことができる。このため、光の取出し効率が向上し、高輝度化を図ることができるのである。しかも、LEDチップ64が不織布72で覆われているので、LEDチップ64から放射されたほぼ全ての光を、蛍光体70を担持した不織布72に照射することができる。
また、上記発光ダイオード60は、単位体積当たりの繊維73の表面積が極めて大きい不織布72を構成する繊維73の表面に蛍光体70を担持せしめたことから、蛍光体70の量及び表面積を飛躍的に増大させることができるのである。
【特許文献1】特開2006−60099
【特許文献2】特開2006−147925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来のLED60は、不織布72を構成する繊維73の表面に、樹脂等を介して蛍光体70を接着したり、或いは、不織布72を構成する繊維73の表面を溶融させて蛍光体70を溶着することにより、繊維73の表面に蛍光体70を担持していたことから、不織布70への蛍光体70の担持が煩雑であった。
【0009】
この発明は、従来の上記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、LEDチップと、該LEDチップの発光を所定波長の光に変換する波長変換用の蛍光物質を担持して成る不織布を備えた発光ダイオードにおいて、不織布への蛍光物質の担持が容易な発光ダイオードと、該発光ダイオードの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係る発光ダイオードは、発光ダイオードチップと、蛍光物質を担持して成る不織布を備えた発光ダイオードにおいて、上記不織布を構成する繊維間に、蛍光物質を保持可能な空隙を多数形成し、以て、繊維間の上記空隙に蛍光物質を保持せしめたことを特徴とする。
【0011】
上記不織布は、繊維の直径が、蛍光物質の平均粒径の±50%以内であり、また、0.3〜0.9g/cmの繊維密度、20〜80g/mの目付を有するものが好適である。
【0012】
また、本発明に係る発光ダイオードの製造方法は、振動する蛍光物質が充満した雰囲気中に上記不織布を導入することにより、不織布を構成する繊維間の空隙に蛍光物質を保持せしめたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る発光ダイオードは、不織布を構成する繊維間に、蛍光物質を保持可能な空隙を多数形成したので、接着や溶着をすることなく、繊維間の空隙に蛍光物質を保持させるだけで、蛍光物質を不織布に容易に担持することができる。
【0014】
また、本発明に係る発光ダイオードの製造方法は、振動する蛍光物質が充満した雰囲気中に不織布を導入することにより、不織布を構成する繊維間の空隙に蛍光物質を保持せしめるものであり、蛍光物質に振動が与えられているため、不織布の内部にまで蛍光物質を行き渡らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明に係る発光ダイオードの実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る発光ダイオード10を示すものであり、この発光ダイオード10は、樹脂等の絶縁材料より成り、孔12が形成された略リング状の枠体14と、第1のリードフレーム16及び第2のリードフレーム18を有している。
第1のリードフレーム16は、上記枠体14の底面14aの略全面を覆う先端部16aと、枠体14を貫通して外方へ向かって水平方向に取り出される後端部16bを有している。第1のリードフレーム16の先端部16aの一部は上記孔12内に露出しており、該孔12内に露出した第1のリードフレーム16の先端部16aに、LEDチップ20をダイボンドすることにより、第1のリードフレーム16とLEDチップ20底面の一方の電極(図示せず)とを電気的に接続している。
【0016】
また、第2のリードフレーム18は、上記枠体14を貫通して孔12内に露出する先端部18aと、枠体14の外方へ向かって水平方向に取り出されている後端部18bを有しており、第2のリードフレーム18の先端部18aと、上記LEDチップ20上面の他方の電極(図示せず)とをボンディングワイヤ22を介して電気的に接続して成る。
上記LEDチップ20は、電圧が印加されると、後述する蛍光体を励起する波長の紫外線や青色可視光等の光を発光し、例えば、窒化ガリウム系半導体結晶で構成されている。
【0017】
上記第1のリードフレーム16の先端部16aと、第2のリードフレーム18の先端部18aは、上下方向に所定の間隙を設けて対向配置されることにより、相互に絶縁されている。
また、上記枠体14の孔12内には、シリコン樹脂等より成る透光性のコーティング材24を充填してLEDチップ20を封止して成る。
【0018】
上記枠体14の上端には、段部26が形成されており、該段部26上に、微粒子状の蛍光体28を担持して成る円盤状の不織布30(図2参照)が載置されている。この結果、上記LEDチップ20の上方に、蛍光体28を担持した不織布30が配置されることとなる。
【0019】
上記不織布30は、図3及び図4に示すように、多数の繊維32が立体的に絡み合って形成されるものであり、繊維32間には多数の空隙34(図4参照)が形成されており、また、多数の繊維32が立体的に絡み合っているため、単位体積当たりの繊維32の表面積が極めて大きいものである。
また、上記繊維32は、透光性を備えており、レーヨン等のセルロース系の化学繊維、ガラス繊維等の短繊維或いは長繊維から成る。
【0020】
図4に示すように、蛍光体28は、不織布30を構成する繊維32間の空隙34に保持されている。
すなわち、不織布30を構成する繊維32は、その直径が、蛍光体28の平均粒径の±50%以内と成されている。
また、上記繊維32で構成される不織布30の繊維密度は、0.3〜0.9g/cm、目付は20〜80g/mと成されている。
而して、蛍光体28の平均粒径の±50%の範囲内の直径を有する繊維32で不織布30を構成すると共に、不織布30の繊維密度を0.3〜0.9g/cm、目付を20〜80g/mと成したことから、繊維32間に、上記蛍光体28を保持可能な空隙34が多数形成されるのである。
【0021】
上記の通り、不織布30を構成する繊維32間に、蛍光体28を保持可能な空隙34が多数形成されているので、微粒子状の蛍光体28を不織布30表面に吹付塗布すれば、繊維32間の空隙34に蛍光体28が保持される。
尚、上記空隙34の大きさは、蛍光体28より小さいものから大きいものまで多種多様であり、吹付けられた蛍光体28の相当量は、蛍光体28より大きい空隙34を通って不織布30内部にまで達するため、不織布30の表面近傍にのみ蛍光体28が分布することはない。
また、微粒子状の蛍光体28に振動を与え、振動する蛍光体28が充満した雰囲気中に不織布30を導入することによっても、繊維32間の空隙34に蛍光体28が保持させることができる。この場合、蛍光体28に振動が与えられているため、不織布30の内部にまで蛍光体28を行き渡らせることができる。
【0022】
上記蛍光体28は、紫外線や青色可視光等の光の照射を受けると、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換するものであり、例えば以下の組成のものを用いることができる。
紫外線を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体28として、MS:Eu(Mは、La、Gd、Yの何れか1種)、0.5MgF・3.5MgO・GeO:Mn、2MgO・2LiO・Sb:Mn、Y(P,V)O4:Eu、YVO4:Eu、(Sr,Mg)3(PO4):Sn、Y:Eu、CaSiO:Pb,Mn等がある。
また、紫外線を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体28として、BaMgAl1627:Eu,Mn、ZnSiO4:Mn、(Ce,Tb,Mn)MgAl1119、LaPO4:Ce,Tb、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、SrAl:Eu、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、YAl12:Tb、Y(Al,Ga)12:Tb、YAl12:Ce、Y(Al,Ga)12:Ce等がある。
更に、紫外線を青色可視光に変換する青色発光用の蛍光体28として、(SrCaBa)(PO)Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、(Sr,Mg)7:Eu、Sr7:Eu、Sr:Sn、Sr(PO4Cl:Eu、BaMgAl1627:Eu、CaWO4、CaWO4:Pb、ZnS:Ag,Cl、ZnS:Ag,Al、(Sr,Ca,Mg)10(PO)Cl:Eu等がある。
また、青色可視光を発光するLEDチップ20を用いて白色光を得る場合等において、LEDチップ20から放射される青色可視光を緑色可視光に変換する緑色発光用の蛍光体28として、Y(Al,Ga)12:Ce、SrGa:Eu、CaScSi12:Ce、SrSiON:Eu、β−SiAlON:Eu等がある。
さらに、青色可視光を発光するLEDチップ20を用いた場合等において、LEDチップ20から放射される青色可視光を赤色可視光に変換する赤色発光用の蛍光体28として、(Sr,Ca)S:Eu、(Ca,Sr)Si:Eu、CaSiN:Eu、CaAlSiN:Eu等がある。
上記赤色発光用の蛍光体28、緑色発光用の蛍光体28、青色発光用の蛍光体28を適宜選択・混合して用いることで、種々の色の発色が可能である。
尚、上記蛍光体28は、有機、無機の蛍光染料や、有機、無機の蛍光顔料を含むものである。
【0023】
本発明の上記LED10にあっては、第1のリードフレーム16及び第2のリードフレーム18を介してLEDチップ20に電圧が印加されると、LEDチップ20が発光して、上記蛍光体28を励起させる波長の紫外線や青色可視光等の光が放射される。この光が、LEDチップ20の上方に配置されている不織布30に担持された蛍光体28に照射され、所定波長の可視光等の光に波長変換された後、外部へ放射されるのである。
【0024】
而して、本発明のLED10にあっては、不織布30を構成する繊維32間に、蛍光体28を保持可能な空隙34が多数形成されているので、接着や溶着をすることなく、繊維32間の空隙34に蛍光体28を保持させるだけで、蛍光体28を不織布30に容易に担持することができる。
【0025】
蛍光物質としては、上記した蛍光体28だけでなく、蛍光ガラスや蛍光樹脂等、紫外線や青色可視光等の光の照射を受けた場合に、この光を所定波長の可視光等の光に波長変換する全ての物質を含むものである。
蛍光ガラスは、ガラス材料に蛍光材料を添加して形成される透明体であり、また、蛍光樹脂は、エポキシ樹脂等の樹脂材料に蛍光材料を添加して形成される透明体である。これら蛍光ガラスや蛍光樹脂を微粒子状と成し、蛍光体28の場合と同様に、上記不織布30に担持させれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る発光ダイオードを模式的に示す断面図である。
【図2】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す斜視図である。
【図3】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す部分拡大図である。
【図4】蛍光体を担持した不織布を模式的に示す要部拡大図である。
【図5】従来の発光ダイオードを模式的に示す断面図である。
【図6】従来の発光ダイオードの不織布を構成する繊維を模式的に示す拡大図である。
【図7】従来の発光ダイオードの不織布を構成する繊維を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 発光ダイオード
12 孔
14 枠体
16 第1のリードフレーム
18 第2のリードフレーム
20 LEDチップ
24 コーティング材
28 蛍光体
30 不織布
32 繊維
34 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードチップと、蛍光物質を担持して成る不織布を備えた発光ダイオードにおいて、上記不織布を構成する繊維間に、蛍光物質を保持可能な空隙を多数形成し、以て、繊維間の上記空隙に蛍光物質を保持せしめたことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
上記不織布は、繊維の直径が、蛍光物質の平均粒径の±50%以内であり、また、0.3〜0.9g/cmの繊維密度、20〜80g/mの目付を有することを特徴とする請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光ダイオードの製造方法であって、振動する蛍光物質が充満した雰囲気中に上記不織布を導入することにより、不織布を構成する繊維間の空隙に蛍光物質を保持せしめたことを特徴とする発光ダイオードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−3791(P2010−3791A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159923(P2008−159923)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000122690)岡谷電機産業株式会社 (135)
【Fターム(参考)】