説明

発光性を有する脂環式ポリイミド

【課題】 発光基を有する新規化合物及びその製造方法、並びに該化合物を有機層に含む有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】脂環族ジアミンと脂環族テトラカルボン酸とから製造されるポリイミドであり、発光基を上記ポリイミド主鎖中に含む新規な全脂環式ポリイミドである。該ポリイミドは対応するポリアミック酸を脱水反応させることにより製造できる。発光基としては縮合多環または縮合複素環構造の化合物が好ましい。発光基のモル分率は0.001以上1以下の範囲である。重合度は10〜2000の範囲である。また、ポリイミド又はポリアミック酸のガラス転移温度は250℃以上であり、かつ硬化後において充分な靭性を有する化合物である。さらに上記ポリマーは波長が390〜800nmの可視領域において、発光量子収率が0.2以上のフォトルミネッセンスを示す化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光基を有する新規化合物及びその製造方法、並びに有機電界発光素子に関する。より詳細には、発光基を有する脂環式ポリイミド及びその前駆体、並びにそれらを用いた有機電界発光素子(以下、適宜「有機EL素子」とも称する。)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELフルカラーディスプレーが実用化され、携帯電話やデジタルカメラのサブパネル等にも搭載されるようになってきた。パネルサイズも3インチクラスから5インチクラスへと進んでおり、将来はテレビに代表される大画面化への展開が期待されている。現在、フラットパネルディスプレーとしては未だ液晶ディスプレーが主流であるが、有機ELディスプレーは、消費電力、解像度、視認性の点で液晶ディスプレーより優れている。更に、有機ELディスプレーには、液晶ディスプレーで用いられている偏光板や光学補償フィルム等を用いる必要がないため、液晶ディスプレーよりはるかに薄く、軽量に作製できるという大きな利点がある。
【0003】
有機ELディスプレーは、基本的には、電極間に設けられた、電子輸送層、発光層、及びホール輸送層の3層、或いは、発光層が電子輸送層かホール輸送層を兼ねた2層から構成されているが、低電圧で駆動するためには、高度に制御された薄膜化技術が不可欠である。
【0004】
有機EL素子は、低分子型と高分子型とに分類されるが、前者が有機分子線蒸着法のようなドライプロセスにより作製されるのに対して、後者はスピンコート法やディップコート法によりウエットプロセスで作製される。従って、高分子系EL素子では製造装置がより簡単であるばかりでなく、均一で大面積の薄膜を高い生産性で低コストに作製できる点で低分子系の有機EL素子より有利である。
【0005】
最近、ウエットプロセスとして、パソコンのプリンター等に広く利用されているインクジェットプリンディング法が注目されている。これにより、高精細なパターンニングが可能となり、溶液の浪費も少なく、マルチカラー化も可能である。
【0006】
高分子系の有機EL素子の他の利点は、機械的強度及び柔軟性である。更に、基板としてガラスの代わりに高分子材料を用いることで、フレキシブルで耐衝撃性の高いELディスプレーの形成も可能となる。また、高分子系の有機EL素子では、低分子系のものよりも結晶化や凝集が起こりにくく、高温条件下での保存や使用が期待される。
【0007】
低分子色素蒸着は、均一な非晶質膜を形成できるが、屋外用や車載用途等で高温条件下に曝されたり、高温下での駆動や素子駆動時に発生するジュール熱等によりしばしば結晶化や凝集が起こるため、有機EL素子に適用された場合に安定性を著しく低下する。
近年、有機EL素子の耐熱性向上のために、低分子色素蒸着層のガラス転移温度をできるだけ高くする検討がなされている。低分子色素の代わりに耐熱性の高い高分子層の使用も有効である。
【0008】
例えば、電子及びホール輸送性基や発光基を耐熱性高分子に結合して、これらの機能性基の凝集を抑制できれば、EL素子の駆動寿命を飛躍的に延ばせる可能性がある。
【0009】
ガラス転移温度が極めて高い耐熱性高分子材料として、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンズイミダゾール等が知られているが、製造法の簡便さ、薄膜化能、膜純度等の観点からポリイミドが最適である。蛍光性(芳香族)ポリイミドを発光層に用いた有機EL素子が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。さらにキャリア輸送特性や発光特性等が改善された実用的なポリイミドが望まれている。
【非特許文献1】S. Matsuda, S. Ando et al., J. Photopolym. Sci. Technol., 17, 241 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記従来における諸問題に鑑みてなされたものであり、発光基を有する新規化合物及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記新規化合物を有機層に含む有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
<1> 下記一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(C−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(C−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(C−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。
【0014】
<2> 下記一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(P−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(P−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(P−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。
【0017】
<3> 前記一般式(C−1)又は一般式(P−1)におけるF1が、各々独立に、下記式(a)で表される基である<1>に記載の化合物。
【0018】
【化3】

【0019】
式(a)中、R3は芳香族基又は脂環族基を表す。
【0020】
<4> 前記一般式(C−2)又は一般式(P−2)におけるF2が、各々独立に、下記式(b)乃至式(e)のいずれかで表される基である<1>又は<2>に記載の化合物。
【0021】
【化4】

【0022】
式(d)中、Xはハロゲン原子を示す。式(d)又は式(e)中、Rは脂肪族基を表す。
【0023】
<5> 前記一般式(C−3)又は一般式(P−3)におけるF3が、各々独立に、下記式(f)又は式(g)で表される基である<1>又は<2>に記載の化合物。
【0024】
【化5】

【0025】
式(g)中、Xはハロゲン原子を表す。
【0026】
<6> ガラス転移温度が250℃以上であり、且つ硬化後において充分な靭性を有する<1>〜<5>のいずれか一項に記載の化合物。
【0027】
<7> 波長が390〜800nmの可視光領域において、発光量子収率が0.2以上のフォトルミネッセンスを示す<1>〜<6>のいずれか一項に記載の化合物。
【0028】
<8> <2>に記載の化合物を脱水反応させる<1>に記載の化合物の製造方法。
【0029】
<9> 一対の電極間に、少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、該少なくとも一層の有機層が、<1>〜<7>のいずれか一項に記載の化合物を含有する有機電界発光素子。
【0030】
本発明は、本発明者による下記の検討及び知見に基づいている。
一般に、ポリイミドは無水ピロメリット酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒中で等モル反応させて高重合度のポリイミド前駆体を得た後、これを基板上に塗布・乾燥して膜などに成形し、加熱硬化して得られる。
しかしながら、一般に使用される上記のような全芳香族ポリイミドでは、その膜中に発光基を導入しても、多くの場合ポリイミド鎖と発光基との間で電荷移動相互作用が生じ、発光基の励起状態の失活が優先的に起こり、無発光性となる。
【0031】
このような発光基−ポリイミド鎖間における電荷移動相互作用を妨害する方法として、本発明者は、ポリイミド前駆体のモノマーであるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの両方とも脂肪族モノマーを使用することが最も有効であることを見出した。これらのモノマーは、化学的、物理的耐熱性の観点から、線状構造のものより環状構造(脂環式)であることが好ましい。
また、発光性分子は、脂環式ポリイミド膜中に単に物理的に分散するよりも、発光性分子の凝集を抑制するという観点から、脂環式ポリイミド鎖に、発光基として共有結合させることが望ましいことを見出したのである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば発光基を有する新規化合物及びその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記新規化合物を有機層に含む有機電界発光素子を提供することができる。
【0033】
具体的には、本発明の新規化合物は、可視光領域に強い発光を示すことから、発光素子、有機EL素子の発光層等に好適に用いることができる。
また、本発明の新規化合物を、フィルム状としたときに、高ガラス転移温度且つ充分な靭性等を有することから、発光素子、有機EL素子の発光層等に有用な薄膜等として好ましく用いることができる。
さらに、本発明の新規化合物は簡便な手法で薄膜化ができることから、かかる点からも発光素子用材料として有用な材料が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
[新規化合物]
本発明の新規化合物は、下記一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物、及び、一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物である。
【0035】
【化6】

【0036】
一般式(C−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(C−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(C−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。
【0037】
【化7】

【0038】
一般式(P−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(P−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(P−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。
【0039】
なお、以下の説明においては、本発明の新規化合物である一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物、及び、一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物を、「本発明の化合物」と総称する場合がある。
以下、本発明の化合物について詳細に説明する。
【0040】
本発明の化合物のうち、一般式(C−1)、(C−2)、又は(C−3)で表される化合物は、具体的には、その構造中に発光基を含む脂環式ポリイミドである。以下の説明では、一般式(C−1)、(C−2)、又は(C−3)で表される化合物を、「発光基含有脂環式ポリイミド」と称する場合がある。
本発明の化合物のうち、一般式(P−1)、(P−2)、又は(P−3)で表される化合物は、上記発光基を含む脂環式ポリイミド前駆体として用いることができる。以下の説明では、一般式((P−1)、(P−2)、又は(P−3)で表される化合物を、「発光基含有脂環式ポリイミド前駆体」と称する場合がある。
【0041】
ここで、本発明において「発光基」とは、芳香族基(例えば、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、テトラフェニル、ナフタレン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ベンゾピレン、ペリレン、コロネン等の残基)、或いは、複素芳香族基(例えば、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ビピリジル、キノリン、カルバゾール、アクリジン等の残基)を分子内に含有し、共有結合によりポリイミド骨格中或いは末端に導入された残基を意味する。発光基の具体的な態様については後に説明する。
【0042】
一般式(C−1)、(C−2)、(C−3)について詳細に説明する。
1で表される4価の脂環族基としては、下式で表される残基が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化8】

【0044】
一般式(C−1)中、R2で表される2価の脂環族基としては、下式で表される残基が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
【化9】

【0046】
一般式(C−1)中、F1は2価の発光基を表す。
1で表される2価の発光基としては、下記式(a)で表される基であることが好ましい。
【化10】

【0047】
上記式(a)中、R3は芳香族基又は脂環族基を表す。
3で表される芳香族基としては、下式で表される残基が例として挙げられる。
【0048】
【化11】

【0049】
3で表される脂環族基としては、下式で表される残基が例として挙げられる。
【0050】
【化12】

【0051】
一般式(C−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲であり、0.005以上0.5以下の範囲であることがより好ましい。
一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物は、分子量(Mw)が10000〜1000000(好ましくは、20000〜100000)の化合物である。
【0052】
一般式(C−2)中、R1で表される4価の脂環族基は、一般式(C−1)における4価の脂環族基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(C−2)中、R2で表される2価の脂環族基は、一般式(C−1)における2価の脂環族基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0053】
一般式(C−2)中、F2は1価の発光基を表す。F2で表される2価の発光基としては、下記式(b)、式(c)、式(d)、又は式(e)で表される基であることが好ましい。
【化13】

【0054】
式(d)中、Xはハロゲン原子を示す。式(d)又は式(e)中、Rは脂肪族基を表す。Rとして表される脂肪族基として具体的には、下式で表される残基が挙げられる。
【0055】
【化14】

【0056】
また、式(d)中、Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも塩素原子、臭素原子、フッ素原子がより好ましい。
【0057】
一般式(C−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲あり、20〜1000の範囲であることがより好ましく、50〜700の範囲であることがさらに好ましい。
【0058】
一般式(C−3)中、R1で表される4価の脂環族基は、一般式(C−1)における4価の脂環族基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(C−3)中、R2で表される2価の脂環族基は、一般式(C−1)における2価の脂環族基と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0059】
一般式(C−3)中、F3は2価の発光基を表す。F3で表される2価の発光基としては、下記式(f)又は(g)で表される基であることが好ましい。
【0060】
【化15】

【0061】
上記式(g)中、Xはハロゲン原子を表す。
Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも塩素原子、臭素原子、フッ素原子がより好ましい。
【0062】
一般式(C−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、該重合度としては、10〜2000の範囲であり、20〜1000の範囲であることがより好ましく、50〜700の範囲であることがさらに好ましい。
【0063】
一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物中、F1、F2、又はF3で表される発光基は、上記各一般式で表される化合物に対して、0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%の範囲で導入される。
【0064】
また、後述する発光基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合反応性、膜の透明性、発光特性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、上記発光基以外の発光基や芳香族基を含んでいてもよい。
【0065】
一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド)は、その前駆体として用いられる、後述する一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物の重合反応性の観点から、下記式(h)で表される部分構造を主成分とする化合物であることがより好ましい。
【0066】
【化16】

【0067】
一般式(P−1)、(P−2)、及び(P−3)について詳細に説明する。
一般式(P−1)中、R1、R2、F1、及びXは、それぞれ、前記一般式(C−1)におけるR1、R2、F1、及びXと同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物は、分子量(Mw)が10〜2000(好ましくは、20〜1000)の化合物である。
【0068】
一般式(P−2)中、R1、R2、F2、及びn1は、それぞれ、前記一般式(C−2)におけるR1、R2、F2、及びn1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(P−3)中、R1、R2、F3、及びn2は、それぞれ、前記一般式(C−3)におけるR1、R2、F3、及びn2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0069】
一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)又は(P−3)で表される化合物は、前記一般式(C−1)表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)又は(C−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド)の前駆体として用いられる。また、例えば、後に詳述する有機EL素子の発光層等に適用する場合であれば、これらの化合物自体を、当該有機層中に含有させることもできる。
【0070】
一般式(P−1)、(P−2)、又は(P−3)で表される化合物は、脂環式ジアミン及び脂環式テトラカルボン酸二無水物と共に、発光基を含有する、ジアミン、モノアミン、及び酸無水物から選択される化合物を用いて合成される。
【0071】
脂環式ジアミンとしては、例えば、前記R2で表される2価の脂環族基として例示した構造を含むジアミン化合物が挙げられる。
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、前記R1で表される4価の脂環族基として例示した構造を含むテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
発光基を含有するジアミンとしては、例えば、前記式(a)で表される構造の両末端にアミノ基を有するジアミン化合物が挙げられる。
発光基を含有するモノアミンとしては、例えば、前記式(b)〜式(e)で表される構造の片末端にアミノ基を有するモノアミン化合物が挙げられる。
発光基を含有する酸無水物としては、例えば、前記式(f)又は式(g)で表される構造にジカルボン酸無水物基が結合したものが挙げられる。
上記の各化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記脂環式ジアミン以外にも、発光基含有脂環式ポリイミド前駆体の重合反応性、膜の透明性、発光特性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、他の脂肪族又は芳香族ジアミンを使用することもできる。
脂環式ジアミン以外に使用可能な他の脂肪族ジアミンとしては特に限定されないが、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0073】
脂環式ジアミン以外に使用可能な芳香族ジアミンとしては特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0074】
また、発光基含有ポリイミド前駆体の重合反応性、膜の透明性、発光特性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、上記脂環式テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物成分を部分的に使用しても差し支えない。共重合可能な酸二無水物としては特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分としてこれらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0075】
一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物(発光基含有脂環式ポリイミド前駆体)は、より具体的には、以下の方法により得られる。
まず、発光基含有ジアミンと脂環式ジアミンとを重合溶媒に溶解し、この溶液にジアミン成分の総量と等モルの脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、室温で1〜72時間攪拌する。この際、モノマー濃度は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度の発光基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
モノマー濃度が高いほど高重合度のイミド基含有ポリイミド前駆体が得られる傾向があるが、上記の上限濃度以上で重合を行うと、反応溶液中の塩が溶解しにくくなる傾向が高くなるため、あまり好ましくない。一般式(P−1)における共重合組成(X)、即ち発光基含有量はX=0.0001〜0.7の範囲であり、より好ましくは0.001〜0.5の範囲である。
【0076】
一般式(P−2)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド前駆体)は、より具体的には、以下の方法により得られる。
まず、脂環式ジアミン(Aモル)と発光基含有モノアミン(Bモル)を重合溶媒に溶解し、この溶液に脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末(A+(B/2)モル)を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、室温で1〜72時間攪拌する。この際、モノマー濃度は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度の発光基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。 発光基の含有量((B/2)/(A+(B/2)モル)×100)は0.01〜70%の範囲であり、より好ましくは0.1〜50%の範囲である。
【0077】
一般式(P−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド前駆体)は、より具体的には、以下の方法により得られる。
まず、脂環式ジアミン(A+(B/2)モル)を重合溶媒に溶解し、この溶液に脂環式テトラカルボン酸二無水物粉末(Aモル)及び発光基含有酸無水物(Bモル)を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、室温で1〜72時間攪拌する。この際、モノマー濃度は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度の発光基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。発光基の含有量(B/2)/(A+(B/2)モル)×100は0.01〜50%の範囲であり、より好ましくは0.1〜30%の範囲である。
【0078】
重合溶媒としてはN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒及び、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が使用可能である。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0079】
一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド前駆体)の固有粘度は高いほどよいが、少なくとも0.1dL/g以上であることが好ましく、0.5dL/g以上であることがより好ましい。0.1dL/gを下回ると、製膜性が著しく悪くなり、キャスト膜にひび割れ等が生じる場合がある。
【0080】
[一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)又は(C−3)で表される化合物の製造方法]
一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)又は(C−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド)は、一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)又は(P−3)で表される化合物(発光基含有脂環式ポリイミド前駆体)を脱水反応させることにより得ることができる。即ち、前記発光基含有脂環式ポリイミド前駆体を重合し、得られた前駆体をフィルム状等に成形した後、これを加熱等により脱水閉環(イミド化)反応することで得ることができる。
【0081】
具体的な態様を以下に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
発光基含有脂環式ポリイミド前駆体溶液を、基板上(或いは、有機EL素子に適用する場合であれば、例えばホール輸送層等の有機層上)に塗布し、40℃〜150℃範囲で乾燥し、製膜する。この膜を200℃〜400℃、好ましくは220℃〜350℃の温度で熱処理することでポリイミド膜が得られる。加熱時間は、5分〜3時間程度である。
熱イミド化反応は真空中又は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましいが、あまり高温にしないかぎり空気中でも可能である。
なお、イミド化反応は、ポリイミド前駆体膜を脱水試薬と反応させて化学的に行うこともできる。
【0082】
本発明の発光基含有脂環式ポリイミドのガラス転移温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
本発明でいうガラス転移温度(Tg)とは、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における動的粘弾性測定により得られた損失ピークから求められたものをいう。
本発明の発光基含有脂環式ポリイミドは、充分な靭性を有していることが好ましい。
本発明でいう「靭性」とは、ポリイミド膜の強靭さの程度を意味する。「靭性」は、ポリイミド膜を180°折り曲げて、折り目をつけた際(180°折曲試験)、膜が破断しない場合に「靭性」があると判断することができる。具体的には、例えば、膜厚が1nm〜5μmのポリイミド膜を成膜し、これを180°折り曲げて、折り目をつけた際に、膜が破断しない場合に「靭性」があると判断される。
【0083】
本発明の化合物は、波長が390〜800nmの可視光領域において、発光量子効率が0.2以上のフォトルミネッセンスを示すことが好ましい。
【0084】
以上説明した、本発明の化合物は発光性を有することから、有機EL素子の有機層用材料(好ましくは発光層用材料)、などに好適に用いることができる。
【0085】
(有機電界発光素子)
有機EL素子(以下、素子と同義で用いる。)は、一対の電極を有し、電界印加時に、陽極、正孔注入層、又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、又は電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する素子である。
【0086】
本発明の化合物は、発光性を有するために、有機EL素子の有機層用材料として好適に利用でき、好ましくは有機EL素子の発光層用材料として好適に利用できる。
【0087】
本発明の有機EL素子の構成としては、基板上に陰極と陽極を有し、両電極の間に、本発明の化合物を少なくとも一層の有機(化合物)層に含む。
本発明の化合物を含む有機(化合物)層の態様としては、(1)本発明の発光基含有脂環式ポリイミドにより形成されたポリイミド薄膜を有機層とする態様、(2)本発明の化合物を、有機層形成用塗布液中に組成物を構成する成分として含有させ、これを塗布・乾燥して有機層とする態様、のいずれであってもよい。
素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0088】
本発明において、有機層とは、具体的には、発光層の他、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、保護層などを意味し、これらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであってもよい。
【0089】
本発明において、有機層の好ましい態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。更に、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。また、発光層としては一層だけでもよく、また、第一発光層、第二発光層、第三発光層等に発光層を分割してもよい。さらに、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0090】
本発明における発光層は、発光材料として本発明の化合物の少なくとも一種を含んで構成されることが好ましい。発光層の態様としては、(1)本発明の発光基含有脂環式ポリイミドにより形成されたポリイミド薄膜自体を発光層としてもよいし、(2)本発明の化合物を、発光層形成用塗布液中に組成物を構成する成分として含有させ、これを塗布・乾燥して発光層とする態様のいずれであってもよい。
本発明の化合物が発光層中に、発光材料として上記(2)の態様により含有される場合、発光層中には、本発明の化合物のみが発光材料として含まれていてもよいし、他の発光材料を含有してもよく、ホスト材料と発光材料の混合層として構成されてもよい。
他の発光材料は、蛍光発光材料でも燐光発光材料であってもよく、発光材料は1種であっても2種以上であってもよい。
ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましい。ホスト材料は1種であっても2種以上であってもよく、例えば、電子輸送性のホスト材料とホール輸送性のホスト材料を混合した構成が挙げられる。さらに、発光層中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいてもよい。
【0091】
また、発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0092】
本発明に使用できる蛍光発光材料の例としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2004−146067号の段落番号[0027)、特開2004−103577号の段落番号[0057)等に記載のものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0093】
また、本発明に使用できる燐光発光材料は、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができる。例えば、特開2004−221068号の段落番号[0051]から[0057)等に記載のものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0094】
本発明の有機EL素子における、基板、電極、各有機層、その他の層、等の他の構成要素については、例えば、特開2004−221068号の段落番号[0013)から[0082)、特開2004−214178号の段落番号[0017)から[0091)、特開2004−146067号の段落番号[0024)から[0035)、特開2004−103577号の段落番号[0017)から[0068)、特開2003−323987号の段落番号[0014)から[0062)、特開2002−305083号の段落番号[0015)から[0077)、特開2001−172284号の段落番号[0008)から[0028)、特開2000−186094号の段落番号[0013)から[0075)、特表2003−515897号の段落番号[0016)から[0118)等に記載のものが本発明においても同様に適用することができる。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
陽極は、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物などを用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料である。具体例としては酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、およびこれらとITOとの積層物などが挙げられ、好ましくは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からITOが好ましい。陽極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜500nmである。
【0096】
陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層などの負極と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。陰極の材料としては金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物を用いることができ、具体例としてはアルカリ金属(例えばLi、Na、K等)及びそのフッ化物又は酸化物、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)及びそのフッ化物又は酸化物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金又はそれらの混合金属、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属、インジウム、イッテリビウム等の希土類金属等が挙げられ、好ましくは仕事関数が4eV以下の材料であり、より好ましくはアルミニウム、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属等である。陰極は、上記化合物及び混合物の単層構造だけでなく、上記化合物及び混合物を含む積層構造でもよい。例えば、アルミニウム/フッ化リチウム、アルミニウム/酸化リチウムの積層構造が好ましい。陰極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜1μmである。
【0097】
有機層(発光層、及び他の有機層)の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、更に好ましくは10nm〜500nmである。
【0098】
有機層の形成方法は、特に限定されるものではないが、分子積層法、コーティング法(スプレーコート法、ディップコート法、含浸法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スピンコート法、フローコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、エアードクターコート、ブレードコート法、スクイズコート法、トランスファーロールコート法、キスコート法、キャストコート法、エクストルージョンコート法、ワイヤーバーコート法、スクリーンコート法等)、インクジェット法、印刷法、転写法などの方法が用いられ、好ましくはコーティング法である。
【0099】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
【0100】
本発明における有機電界発光素子は、例えば、以下のようにして作製できる。
洗浄したITO基板を蒸着装置に入れ、銅フタロシアニンを5nm蒸着し、この上に、NPD(N,N’−ジ−α−ナフチル−N,N’−ジフェニル)−ベンジジン)を40nm程度蒸着で形成する。この上に、本発明の化合物とホスト材料とを、本発明の化合物が質量比で50%以下(好ましくは0.1〜20%)になるように(有機)溶媒等に溶解して塗布組成物を作成する。この塗布組成物をスピンコーティングなどで有機層(厚みは)を形成する。この上に、適宜BAlq、Alq(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム錯体)等の層を形成する。この上に、フッ化リチウムを3nm蒸着した後、アルミニウム60nmを蒸着して本発明の素子を得ることができる。得られた素子は、電極間に直流定電圧を、印加して発光させることができる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における「固有粘度」「ガラス転移温度」「5%質量減少温度(Td5)」「発光量子収率」は、以下のようにして測定したものである。
【0102】
<固有粘度>
0.5質量%のポリイミド前駆体溶液について、オストワルド粘度計を用い、温度30℃における固有粘度を測定した。
【0103】
<ガラス転移温度>
各実施例で得られたポリイミド膜について、ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分での昇温過程における損失エネルギーピーク温度からガラス転移温度を求めた。
【0104】
<5%質量減少温度(Td5)>
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、各実施例で得られたポリベンゾオキサゾール膜サンプルの初期質量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0105】
<発光量子収率>
発光基含有ポリイミド膜について、励起波長における吸光度で規格化された発光面積強度を蛍光分光光度計(日立F−4500)にて測定し、ポリメチルメタクリレート膜中に分散された基準物質、N,N−ビス(2,5−tert−ブチルフェニル)3,4,9,10−ペリレンジカルボキシイミド(蛍光量子収率φ=0.95)の規格化発光面積強度との比較から相対法により、発光基含有ポリイミド膜の発光量子収率を求めた。
【0106】
(実施例1)
4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)9.98mmolを攪拌機付密閉反応容器中に入れ、モレキュラーシーブス4Aで充分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。次いで、下記式(i)に示す発光基含有ジアミン0.02mmolを少量のN,N−ジメチルアセトアミド中150℃で短期間加熱して室温にもどすことで、あらかじめ溶解しておいたものを同じ反応容器に加えた。この溶液に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末10mmolを徐々に加えた。溶質濃度15質量%で重合を開始し、室温で48時間撹拌して赤色透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液は、室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定したイミド基含有ポリイミド前駆体の固有粘度は1.52dL/gであった。
この重合溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して、靭性のある発光基含有ポリイミド前駆体膜を得た。このポリイミド前駆体膜を基板上、真空中200℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、膜厚10μmの脂環式ポリイミド膜を得た。このポリイミド膜について180°折曲試験を行ったところ、膜の破断は起こらず、靭性が見られた。動的粘弾性測定から得られたガラス転移点は320℃であった。また、窒素中における5%質量減少温度は423℃と高い熱安定性を示した。
発光スペクトルは540nm及び580nmにダブレットピークを示し、発光量子収率は0.79と極めて高い値であった。
【0107】
【化17】

【0108】
(実施例2)
攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)9.8mmol及び1−アミノピレン0.4mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで充分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末10mmolを徐々に加えた。溶質濃度15質量%で重合を開始し、室温で72時間撹拌して透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液は、室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定したイミド基含有ポリイミド前駆体の固有粘度は1.22dL/gであった。
この重合溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して、靭性のある発光基含有ポリイミド前駆体膜を得た。このポリイミド前駆体膜を基板上、真空中200℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、膜厚10μmの靭性のある脂環式ポリイミド膜を得た。このポリイミド膜について180°折曲試験を行ったところ、膜の破断は起こらず、靭性が見られた。動的粘弾性測定から得られたガラス転移点は320℃であった。また、窒素中における5%質量減少温度は423℃と高い熱安定性を示した。発光スペクトルは395nmにピークを示し、発光量子収率は0.36と高い値であった。
【0109】
(実施例3)
攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)10mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで充分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末9.5mmol及び2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物粉末1.0mmolを徐々に加えた。溶質濃度15質量%で重合を開始し、室温で48時間撹拌して透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液は、室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定したイミド基含有ポリイミド前駆体の固有粘度は1.15dL/gであった。
この重合溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して、靭性のある発光基含有ポリイミド前駆体膜を得た。このポリイミド前駆体膜を基板上、真空中200℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、膜厚10μmの靭性のある脂環式ポリイミド膜を得た。このポリイミド膜について180°折曲試験を行ったところ、膜の破断は起こらず、靭性が見られた。動的粘弾性測定から得られたガラス転移点は320℃であった。また窒素何中における5%質量減少温度は423℃と高い熱安定性を示した。発光スペクトルは390nmにピークを示し、発光量子収率は0.40と高い値であった。
【0110】
(実施例4)
攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)10mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで充分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末9.5mmol及び4−ブロモ−1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物粉末1.0mmolを徐々に加えた。溶質濃度15質量%で重合を開始し、室温で48時間撹拌して透明、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液は、室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。
N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定したイミド基含有ポリイミド前駆体の固有粘度は0.86dL/gであった。この重合溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して、靭性のある発光基含有ポリイミド前駆体膜を得た。このポリイミド前駆体膜を基板上、真空中200℃で1時間、更に300℃で1時間、段階的に昇温して熱イミド化を行い、膜厚10μmの靭性のある脂環式ポリイミド膜を得た。このポリイミド膜について180°折曲試験を行ったところ、膜の破断は起こらず、靭性が見られた。動的粘弾性測定から得られたガラス転移点は320℃であった。また窒素何中における5%質量減少温度は423℃と高い熱安定性を示した。発光スペクトルは537nmにピークを示し、発光量子収率は0.20と高い値であった。
【0111】
(実施例5)
4−ブロモ−1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物の代わりに、4−クロロ−1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を用いた以外は、実施例4に記載した方法と同様に発光基含有ポリイミド前駆体を重合した。得られたポリイミド前駆体の固有粘度は0.78dL/gであった。実施例4と同様な条件でポリイミド膜を作製し、実施例4と同等な膜物性が得られた。発光スペクトルは522nmにピークを示し、発光量子収率は0.33と高い値であった。
【0112】
(実施例6)
1−アミノピレンの代わりに下記式(j)に示す発光基含有モノアミンを用いた以外は、実施例2に記載した方法と同様に発光基含有ポリイミド前駆体を重合した。得られたポリイミド前駆体の固有粘度は1.31dL/gであった。同様な条件でポリイミド膜を作製し、実施例2と同等な膜物性が得られた。発光スペクトルは517nmにピークを示し、発光量子収率は0.90と極めて高い値であった。
【0113】
【化18】

【0114】
(比較例1)
4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物から得られた脂環式ポリイミド前駆体溶液に、前記式(i)に示す発光基含有ジアミンを実施例1と同様の濃度になるように溶解し、これをガラス板に塗布して60℃、2時間で乾燥して、発光基含有ジアミンを単に物理的に分散させたポリイミド前駆体膜を得た。これを実施例1と同様に熱イミド化を行い、ポリイミド膜を得た。しかしながら発光スペクトルは殆ど観測されなかった。これは式(i)に示す化合物が分子内電荷移動消光により元来無蛍光性であるためであり、ポリイミド前駆体膜中に単に物理的分散させるのみでは主鎖中に結合せず、目的の発光性ポリイミド膜を得ることはできなかったためである。
【0115】
(比較例2)
4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)10mmolを攪拌機付密閉反応容器中に入れ、モレキュラーシーブス4Aで充分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末9.98mmol及び3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物0.02mmolを徐々に加えた。溶質濃度15質量%で重合を開始し、室温で72時間撹拌したが、重合溶液は赤色に懸濁したままであった。これについて実施例1と同様にポリイミド膜を作製し、発光スペクトルを測定したが、発光は全く観測されなかった。これは3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物が如何なる溶媒にも不溶であり、通常の重合方法ではポリイミド主鎖中に発光基を導入できなかっためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(C−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(C−2)で表される化合物、又は一般式(C−3)で表される化合物。
【化1】

(一般式(C−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(C−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(C−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(P−1)で表される繰り返し単位を有する化合物、一般式(P−2)で表される化合物、又は一般式(P−3)で表される化合物。
【化2】

(一般式(P−1)中、Xはモル分率を表し、0.001以上1以下の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F1は2価の発光基を表す。
一般式(P−2)中、n1は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F2は1価の発光基を表す。
一般式(P−3)中、n2は繰り返し単位の重合度を表し、10〜2000の範囲である。R1は4価の脂環族基を表す。R2は2価の脂環族基を表す。F3は2価の発光基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(C−1)又は一般式(P−1)におけるF1が、各々独立に、下記式(a)で表される基である請求項1に記載の化合物。
【化3】

(式(a)中、R3は芳香族基又は脂環族基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(C−2)又は一般式(P−2)におけるF2が、各々独立に、下記式(b)乃至式(e)のいずれかで表される基である請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【化4】

(式(d)中、Xはハロゲン原子を示す。式(d)又は式(e)中、Rは脂肪族基を表す。)
【請求項5】
前記一般式(C−3)又は一般式(P−3)におけるF3が、各々独立に、下記式(f)又は式(g)で表される基である請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【化5】

(式(g)中、Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項6】
ガラス転移温度が250℃以上であり、且つ硬化後において充分な靭性を有する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
波長が390〜800nmの可視光領域において、発光量子収率が0.2以上のフォトルミネッセンスを示す請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項2に記載の化合物を脱水反応させる請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
一対の電極間に、少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、該少なくとも一層の有機層が、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の化合物を含有する有機電界発光素子。

【公開番号】特開2006−307068(P2006−307068A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133143(P2005−133143)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】