説明

発光装置、電子機器、および発光装置の製造方法

【課題】 外部から水分が浸入しにくい封止構造を有する寿命の長い発光装置、該発光装置を備えた電子機器、および該発光装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】 発光装置の製造方法が、素子基板5上の環状の領域に、金属結合または共有結合のいずれかの化学結合によって成り立つ物質からなる封止部材21を形成する工程と、素子基板5上の前記封止部材21に囲まれた部位に、有機発光層を含む有機EL構造体30を形成する工程と、封止基板6上の環状の領域であって、封止部材21に対向する位置に、前記物質からなる封止部材22を形成する工程と、封止部材21,22を接触させ、接点に対して加圧および加熱を行うことにより、封止部材21および22を全周にわたって前記化学結合によって接合させる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子基板上に有機発光層を含む有機EL(Electro Luminescence)構造体が形成された発光装置、該発光装置を備えた電子機器、および該発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光装置に用いられる有機発光層は、水分や、種々の酸化性ガス、腐食性ガスによって容易に劣化し、発光機能が低下する。このため、上記発光装置においては、素子基板上の有機EL構造体を、封止基板および接着剤を用いて封止し、できた密閉空間の内部に乾燥剤を配置するのが一般的である(特許文献1参照)。こうした構成により、有機発光層の配置された密閉空間内に水分等が浸入し、有機発光層が劣化するのをある程度防ぐことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−40586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤の接合面あるいは接着剤自体からは若干の水分が浸入するため、乾燥剤の効果が切れた後は浸入した水分によって有機発光層が劣化してしまうという問題点があった。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、外部から水分が浸入しにくい封止構造を有する寿命の長い発光装置、該発光装置を備えた電子機器、および該発光装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置は、互いに対向して配置された第1の基板および第2の基板と、前記第1の基板の対向面に形成された、有機発光層を含む有機EL構造体と、前記第1の基板の対向面の、前記有機EL構造体を囲む環状の第1の領域に密着するとともに、前記第2の基板の対向面の、前記第1の領域に対向する第2の領域に少なくとも密着し、前記第1の基板と前記第2の基板とを固着させる封止部材とを備え、前記封止部材は、金属結合または共有結合のいずれかの化学結合によって成り立つ物質を含み、前記第1の基板、前記第2の基板、および前記封止部材が囲む空間は、前記第1の基板、前記第2の基板、および前記物質によって密閉されていることを特徴とする。
【0007】
上記構成の発光装置においては、有機EL構造体は、第1の基板、第2の基板、および封止部材が囲む空間(以下「遮蔽空間」とも呼ぶ)にあって、外部から遮蔽されている。ここで、封止部材は、金属結合から成り立つ金属や、共有結合から成り立つ無機物質等の、強固な化学結合によって結合される物質を含む。そして、上記発光装置の遮蔽空間は、こうした物質と、上記両基板によって密閉されている。換言すれば、発光装置の外部と遮蔽空間との間には、第1の基板、第2の基板、上記化学結合によって結合された上記物質のいずれかが必ず存在する。そして、上記化学結合によって結合された物質は、水分を透過しないので、上記遮蔽空間には水分がほとんど浸入しない。よって、上記構成によれば、有機発光層の水分による劣化の少ない、長寿命の発光装置が得られる。
【0008】
上記発光装置において、前記物質は、アルミニウム、金、シリコン、酸化シリコンのいずれか一種であることが好ましい。アルミニウムおよび金は金属結合によって、またシリコンおよび酸化シリコンは共有結合によってそれぞれ成り立つ物質であり、これらのうちの一種を封止部材に用いることにより、水分を透過させにくい封止構造が得られる。
【0009】
上記発光装置においては、前記第2の基板の対向面に乾燥剤が配置されていることが好ましい。こうした構成によれば、仮に遮蔽空間に水分が浸入したとしても、該水分は乾燥剤によって吸収されるので、有機発光層の水分による劣化を防ぐことができる。
【0010】
上記発光装置において、前記封止部材のうち、前記発光装置の外部に露出した部分は、樹脂で覆われていることが好ましい。こうした構成によれば、封止部材は水分を透過しにくい樹脂でさらに覆われるので、遮蔽空間に水分が浸入する可能性をさらに低減させることができる。
【0011】
上記発光装置において、前記第1の基板、前記第2の基板、および前記封止部材が囲む空間は、前記発光装置の外部の空間に対して負圧になっていることが好ましい。こうした構成によれば、第1の基板および第2の基板は、大気から常に互いの距離を縮める方向の圧力を受けるので、封止部材を介してより強固に固着される。このため、より水分を透過させにくい封止構造が得られる。
【0012】
本発明による電子機器は、上記発光装置を備えることを特徴とする。こうした構成によれば、水分による劣化が起こりにくい発光装置が用いられることによって、信頼性の高い、長寿命の電子機器が得られる。
【0013】
本発明による発光装置の製造方法は、第1の基板上の環状の第1の領域に、金属結合または共有結合のいずれかの化学結合によって成り立つ物質からなる第1の層を形成する工程と、前記第1の基板上の前記第1の領域に囲まれた部位に、有機発光層を含む有機EL構造体を形成する工程と、第2の基板上の環状の領域であって、前記第1の基板に対向させたときに前記第1の領域に重なる第2の領域に、前記物質からなる第2の層を形成する工程と、前記第1の基板および前記第2の基板を、前記第1の層および前記第2の層が接触する状態に対向させ、前記接触した部位に対して加圧および加熱を行いながら貼り合わせることにより、前記第1の層および前記第2の層を前記第1の領域の全周にわたって前記化学結合によって接合させる工程とを有することを特徴とする。
【0014】
上記製造方法によれば、第1の基板上および第2の基板上に、強固な化学結合によって成り立つ物質の層が形成される。そして、これらの層が互いに接する状態で圧力および熱を加えることによって、両層の接点における構成原子または構成分子を原子レベルまたは分子レベルの距離に接近させ、両層を上記化学結合によって接合させる。この接合は、環状の第1の領域の全周にわたって行われるので、有機EL構造体は、第1の基板、第2の基板、第1の層および第2の層によって密閉される。こうしてできた有機EL構造体を含む遮蔽空間と、発光装置の外部との間には、第1の基板、第2の基板、上記化学結合によって結合された上記物質のいずれかが必ず存在する。そして、上記化学結合によって結合された物質は、水分を透過させないので、上記遮蔽空間には水分がほとんど浸入しない。よって、上記方法によれば、有機発光層の水分による劣化の少ない、長寿命の発光装置が得られる。
【0015】
上記発光装置の製造方法においては、前記第1の層を形成する工程の前に、前記第1の基板の表面を研磨する工程を有することが好ましい。また、前記第2の層を形成する工程の前に、前記第2の基板の表面を研磨する工程を有することが好ましい。こうした製造方法によれば、第1の基板上に形成される第1の層および第2の基板上に形成される第2の層の表面を平滑にすることができ、両層を容易に上記化学結合によって接合させることができる。
【0016】
上記発光装置の製造方法においては、前記第1の層を形成する工程の後に、前記第1の層の表面を研磨する工程を有することが好ましい。こうした製造方法によれば、第1の層が、配線等に重ねて形成されて表面に凹凸がある場合であっても、第1の層の表面を平滑にすることができ、容易に第2の層と上記化学結合によって接合させることができる。
【0017】
上記発光装置の製造方法において、前記第1の層および前記第2の層を前記化学結合によって接合させる工程は、大気圧未満の気圧下で行うことが好ましい。こうした製造方法によって製造された発光装置は、大気中に戻すと上記遮蔽空間が大気に対して負圧となり、第1の基板および第2の基板は、大気から常に互いの距離を縮める方向の圧力を受ける。よって、第1の基板および第2の基板は、封止部材を介してより強固に固着される。このため、より水分を透過させにくい封止構造が得られる。こうした効果を高めるために、前記第1の層および前記第2の層を前記化学結合によって接合させる工程は、10-4Pa以下の気圧下(好ましくは10-6Pa以下の気圧下)で行うことがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0019】
(第1の実施形態)
<A.有機ELパネル>
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る有機ELパネル1の分解斜視図である。有機ELパネル1は、互いに対向して配置された「第1の基板」としての素子基板5および「第2の基板」としての封止基板6と、素子基板5の封止基板6に対向する面(以下「素子基板5の対向面」という)上に形成された封止部材21および有機EL構造体30と、封止基板6の素子基板5に対抗する面(以下「封止基板6の対向面」という)上に形成された封止部材22とを有する、ボトムエミッション型の有機ELパネルである。
【0020】
素子基板5および封止基板6は、対向面が平滑なガラス基板からなる。封止部材21,22は、金属結合によって成り立つアルミニウムの薄膜からなる。このアルミニウムは、本発明における「物質」に対応する。
【0021】
封止部材21は、素子基板5の対向面に、有機EL構造体30を囲む環状に形成されている。封止部材21が形成されている環状の領域が、本発明における「第1の領域」に対応する。同様に、封止部材22は、封止基板6の対向面であって、封止部材21に対向する環状の領域に形成されている。封止部材22が形成されている環状の領域が、本発明における「第2の領域」に対応する。
【0022】
図1(a)においては、説明の便宜上、素子基板5および封止基板6が分離されて描かれているが、実際には図1(b)のように密着して配置されている。図1(b)中のA−A線における側断面図は、図4(c)に示されている。
【0023】
ここで、図2を用いて有機EL構造体30について詳述する。図2は、有機ELパネル1の側断面図であって、図4(c)の拡大図である。有機EL構造体30は、陰極50、有機発光層60、正孔注入層70、画素電極23(陽極)、およびTFT(Thin Film Transistor)素子123を含む回路素子層11を備えている。
【0024】
回路素子層11は、酸化シリコン(SiO2)を主体とする下地保護層281、ゲート絶縁層282、第1層間絶縁層283と、アクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化膜284とを含む。これらの層は、この順に素子基板5上に積層されている。また、下地保護層281とゲート絶縁層282の間にはシリコン層241が、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283との間にはTFT素子123のゲート電極242が、第1層間絶縁層283と平坦化膜284との間にはTFT素子123のソース電極243およびドレイン電極244がそれぞれ形成されている。
【0025】
シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされている。なお、ゲート電極242は、図示しない走査線の一部である。また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、図示しない電源線の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0026】
画素電極23は、平坦化膜284の表面上に形成されるとともに、該平坦化膜284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続された、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極である。そして、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0027】
正孔注入層70および有機発光層60は、画素電極23および平坦化膜284に重ねて、この順で積層されている。有機発光層60に重ねて形成された陰極50は、例えばカルシウムを厚さおよそ20nm程度に形成し、その上にITOなどの透明導電膜を積層させ、さらに画素電極23に対向する領域(画素領域)にアルミニウムを厚さ200nm程度に形成した積層構造の電極とし、アルミニウムを反射層として機能させたものである。
【0028】
有機ELパネル1は、TFT素子123がオンした画素において、画素電極23および陰極50の間に電圧信号を印加することにより、有機発光層60に駆動電流を流すとともに、該駆動電流に応じて有機発光層60を発光させる装置である。有機発光層60において発生した光のうち、図2の下方向に進んだ光は素子基板5をそのまま透過し、図2の上方向に進んだ光は陰極50で反射されて下方向に進み、素子基板5を透過する。こうして、有機ELパネル1は、素子基板5の側から光を射出する。
【0029】
以上のような構成を有する有機EL構造体30のうち、特に有機発光層60は、水分や、種々の酸化性ガス、腐食性ガスによって容易に劣化し、発光機能が低下する。このため、有機ELパネル1は、有機EL構造体30を外部から遮蔽する遮蔽空間を備えている。以下、図4(c)を用いてこうした構造について説明する。
【0030】
図4(c)において、素子基板5および封止基板6は、封止部材21,22によって固着されている。ここで、封止部材21,22は、接合部215を介して一体に接合されている。図4(c)中ではこれらを鎖線によって区画しているが、実際には、封止部材21から接合部215を経て封止部材22に至る経路は一様な金属結合によって結合されたアルミニウムで満たされており、封止部材21,22および接合部215は、化学的に一体な封止部材20を形成している。こうした封止部材21および22の一体的な接合は、封止部材21(22)の環状の領域の全周にわたってなされている。
【0031】
以上のような構成により、有機EL構造体30は、素子基板5、封止基板6、および封止部材20によってつくられた遮蔽空間によって密封されている。特に、封止部材20は、素子基板5および封止基板6の間を、金属結合によって成り立つ物質、すなわちアルミニウムで隙間なく埋めているので、水分や外気を透過させず、高い遮蔽性に貢献している。また、上記遮蔽空間は、外気(大気)に対して負圧になっており、素子基板5および封止基板6は、大気から常に互いの距離を縮める方向の圧力を受けるので、封止部材20を介してより強固に固着される。
【0032】
このように、有機ELパネル1は、接着剤を用いず、金属結合のアルミニウムからなる封止部材20によって素子基板5および封止基板6を固着させる構成となっているので、有機EL構造体30の配置された遮蔽空間に水分や外気が浸入しにくく、有機発光層60の劣化が少ない。このため有機ELパネル1は、信頼性が高く、寿命が長いという特徴を有する。
【0033】
<B.有機ELパネルの製造方法>
続いて、図3の工程図を用いて上記の有機ELパネル1の製造方法について説明する。図3において、工程P11から工程P13は素子基板5を製造するための工程であり、工程P21および工程P22は封止基板6を製造するための工程である。工程P31は、素子基板5および封止基板6を組み合わせて有機ELパネル1を製造するための工程である。工程P11から工程P13と、工程P21および工程P22とは、それぞれ独立に行われる。
【0034】
まず、工程P11では、素子基板5を構成するガラス基板の対向面を研磨する。該研磨は、酸化セリウム等を研磨剤とするメカニカルポリシング処理によって行われる。
【0035】
次に、工程P12では、素子基板5の対向面に封止部材21を形成する。この工程は、素子基板5にアルミニウムをスパッタしてアルミニウムの薄膜を形成し、該薄膜をフォトエッチング処理(すなわち、フォトリソグラフィ処理及びエッチング処理)することによって行われる。こうして得られた封止部材21の表面は、工程P11において素子基板5の表面が研磨されているため、高い平滑度を有している。具体的には、表面粗さの指標である最大高さRmaxが10nm以下であるような平滑度を有している。この工程で形成される封止部材21が、本発明における「第1の層」に対応する。
【0036】
続く工程P13では、素子基板5の対向面のうち封止部材21に囲まれた領域に、既知の成膜技術等を用いて有機EL構造体30を形成する。以上の工程P11から工程P13を経て素子基板5が完成する(図4(a)参照)。
【0037】
一方、工程P21では、封止基板6を構成するガラス基板の対向面を研磨する。該研磨は、酸化セリウム等を研磨剤とするメカニカルポリシング処理によって行われる。
【0038】
次に、工程P22では、封止基板6の対向面に封止部材22を形成する。この工程は、封止基板6にアルミニウムをスパッタしてアルミニウムの薄膜を形成し、該薄膜をフォトエッチング処理(すなわち、フォトリソグラフィ処理及びエッチング処理)することによって行われる。こうして得られた封止部材22の表面は、工程P21において封止基板6の表面が研磨されているため、高い平滑度を有している。具体的には、表面粗さの指標である最大高さRmaxが10nm以下であるような平滑度を有している。この工程で形成される封止部材22が、本発明における「第2の層」に対応する。以上の工程P21および工程P22を経て封止基板6が完成する(図4(a)参照)。
【0039】
工程P31では、封止部材21,22を接合し、素子基板5および封止基板6を固着させる。以下、図4(b)を参照しながら工程P31における処理について説明する。この工程は、気圧が10-4Pa(好ましくは10-6Pa)に保たれた真空チャンバー85の内部で行われる。
【0040】
まず、素子基板5および封止基板6を、封止部材21と封止部材22とが全周にわたって接する状態に対向させる。この状態は、単に両基板を重ね合わせただけの状態であって、封止部材21と封止部材22とは互いに分離しており、接合されていない。
【0041】
次に、素子基板5の対向面と反対の面に押圧ヘッド81を圧接させ、封止基板6の対向面と反対の面に押圧ヘッド82を圧接させる。ここで、押圧ヘッド81,82は、それぞれ封止部材21,22が形成された環状の領域に対応する領域において素子基板5または封止基板6に接触するヘッドであって、素子基板5および封止基板6との接触部は、約200℃の高温に保たれている。このように、押圧ヘッド81,82によって封止部材21と封止部材22との接点に対して加圧および過熱を行うことで、該接点における封止部材21,22の構成原子を原子レベルの距離に接近させ、金属結合によって接合させる。こうした封止部材21および22の接合は、封止部材21(22)の環状の領域の全周にわたってなされる。押圧ヘッド81,82の温度は、封止部材21を接合させる観点からは高い方が好ましいが、あまりに高温になると素子基板5上の有機EL構造体30が破壊されるため、約200℃が適当である。こうして素子基板5と封止基板6とが固着され、有機ELパネル1が完成する。
【0042】
上記接合に際し、封止部材21,22の構成原子が入り混じって、封止部材21または封止部材22のいずれが起源なのかが判然としない領域が発生する。この領域が、接合後の有機ELパネル1を示す図4(c)において、接合部215として描かれている。図4(c)中では、封止部材21,22および接合部215を鎖線によって区画しているが、実際には、封止部材21から接合部215を経て封止部材22に至る経路は一様な金属結合によって結合されたアルミニウムであり、化学的に一体な封止部材20を形成している。
【0043】
なお、上記接合後、有機ELパネル1は真空チャンバー85から取り出される。このとき、素子基板5、封止基板6および封止部材20が形成する空間は外部から遮蔽されているので、外気(大気)に対して負圧が維持される。
【0044】
以上の工程を経て、接着剤を用いず、金属結合のアルミニウムからなる封止部材20によって素子基板5および封止基板6が固着された構成の有機ELパネル1が製造される。
【0045】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、封止部材20にアルミニウムを用いるが、これに代えて、共有結合によって成り立つ酸化シリコン(SiO2)を用いた構成とすることもできる。以下では、こうした構成の本発明の第2の実施形態について説明する。
【0046】
本実施形態の有機ELパネル2の斜視図は図1(a)に示されている。また、有機ELパネル2の製造工程は、図3に示されている。これらの図から分かるように、有機ELパネル2の構成および製造方法は、封止部材20,21,22、および接合部215が酸化シリコンからなる点を除けば第1の実施形態の有機ELパネル1と同じである。
【0047】
図1(b)のA−A線における側断面図は図4(c)に示されている。図4(c)においては、封止部材21,22および接合部215を鎖線で区画しているが、実際には、封止部材21から接合部215を経て封止部材22に至る経路は一様な共有結合によって結合された酸化シリコンで満たされており、封止部材21,22および接合部215は、化学的に一体な封止部材20を形成している。ここで、共有結合によって成り立つ酸化シリコンも、第1の実施形態における金属結合のアルミニウムと同様に、水分や気体を透過しにくいという特徴を有する。こうした封止部材21および22の一体的な接合は、封止部材21(22)の環状の領域の全周にわたってなされている。
【0048】
このように、有機ELパネル2は、接着剤を用いず、共有結合の酸化シリコンからなる封止部材20によって素子基板5および封止基板6を固着させる構成となっているので、有機EL構造体30の配置された遮蔽空間に水分や外気が浸入しにくく、有機発光層60の劣化が少ない。このため有機ELパネル2も、第1の実施形態の有機ELパネル1と同様、信頼性が高く、寿命が長いという特徴を有する。
【0049】
ところで、酸化シリコンは絶縁性材料であるので、素子基板5上に金属配線が形成されている場合であっても、該金属配線に重ねて形成することができる。以下、図5を用いてこうした場合の封止部材21の形成方法について説明する。
【0050】
図5(a)は、封止部材21としての酸化シリコンが配置された後の素子基板5を、図1(a)中のB−B線に相当する位置において切断したときの側断面図である。この図に示すように、素子基板5上には複数の金属配線51が形成されている。金属配線51は、有機EL構造体30に延設される電源線等として形成された配線である。素子基板5上には、金属配線51に重ねて、酸化シリコンからなる封止部材21がさらに配置されている。封止部材21の表面には、金属配線51の形状に起因する凹凸が残っている。
【0051】
この後、上記凹凸を解消させるために、封止部材21の表面を研磨する(図5(b))。該研磨は、酸化セリウム等を研磨剤とするメカニカルポリシング処理によって行われる。こうして得られた封止部材21の表面は、高い平滑度を有しており、具体的には、表面粗さの指標である最大高さRmaxが10nm以下であるような平滑度を有している。
【0052】
以上のような形成方法を経て形成された封止部材21は、凹凸のある金属配線51に重ねて形成されたにも関わらず、封止基板6の封止部材22と接合させるのに十分な平滑度を有するので、上記第1の実施形態と同様の製造方法によって封止部材22と接合させることができる。
【0053】
(第3の実施形態)
上記第1の実施形態に係る有機ELパネル1においては、封止基板の対向面に乾燥剤を配置してもよい。図6は、こうした構成の有機ELパネル3の側断面図を示したものである。図6において、封止基板6の対向面には、凹部69が形成されており、該凹部69の段差に嵌め込むような形で、乾燥剤55が配置されている。乾燥剤55は、素子基板5と封止基板6との間の空間に存在する水分や酸素等を吸収して、有機EL構造体30がこれらの水分や酸素等によって劣化するのを防ぐためのものである。
【0054】
このような構成によれば、仮に水分等が封止部材20を透過して遮蔽空間内に浸入したとしても、あるいは遮蔽空間内で水分等が発生したとしても、これらを乾燥剤55で吸収することによって、有機発光層60の劣化を防ぐことができる。
【0055】
上記構成の有機ELパネル3の製造方法は、基本的に図3に示す第1の実施形態に係る有機ELパネル1の製造方法と同じである。有機ELパネル1の製造方法との差異は、工程P22の後であって工程P31の前に、乾燥剤形成工程を有する点である。
【0056】
(第4の実施形態)
上記第3の実施形態に係る有機ELパネル3においては、封止部材20のうち、外部に露出した部分をさらに樹脂で覆ってもよい。図7は、こうした構成の有機ELパネル4の側断面図を示したものである。図7において、封止部材20のうち、外部に露出した部分は、樹脂56によってモールドされている。樹脂56は、水分や酸素等を透過させにくいので、このような構成によれば、水分等の遮蔽空間内への浸入をさらに抑えることができる。よって、有機発光層60の劣化をより確実に防ぐことができる。
【0057】
上記構成の有機ELパネル4の製造方法は、基本的に第3の実施形態に係る有機ELパネル3の製造方法と同じである。有機ELパネル3の製造方法との差異は、工程P31の後に、樹脂形成工程を有する点である。
【0058】
(電子機器への搭載例)
本発明を適用した有機ELパネル1ないし4は、例えば、図8に示す画像形成装置80に用いられる。この例において、有機ELパネル1ないし4は、アレイ状に整列された発行画素を有するラインヘッドとして用いられている。図8は、画像形成装置80の構造を示す概略図である。画像形成装置80は、上記ラインヘッドが組み込まれたラインヘッドモジュール101K,101C,101M,101Yを備えており、これらを対応する同様な構成である4個の感光体ドラム(像担持体)41K,41C,41M,41Yの露光装置にそれぞれ配置したタンデム方式として構成されたものである。
【0059】
この画像形成装置80は、駆動ローラ91と従動ローラ92とテンションローラ93とを備え、これら各ローラに中間転写ベルト90を、図8中矢印方向(反時計方向)に循環駆動するよう張架したものである。この中間転写ベルト90に対して、感光体ドラム41K,41C,41M,41Yが所定間隔で配置されている。これら感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、その外周面が像担持体としての感光層となっている。
【0060】
ここで、上記符号中のK、C、M、Yは、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエローを意味し、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエロー用の感光体であることを示している。
なお、これら符号(K、C、M、Y)の意味は、他の部材についても同様である。感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、中間転写ベルト90の駆動と同期して、図8中矢印方向(時計方向)に回転駆動するようになっている。
【0061】
各感光体ドラム41(K、C、M、Y)の周囲には、それぞれ感光体ドラム41(K、C、M、Y)の外周面を一様に帯電させる帯電手段(コロナ帯電器)42(K、C、M、Y)と、この帯電手段42(K、C、M、Y)によって一様に帯電させられた外周面を感光体ドラム41(K、C、M、Y)の回転に同期して順次ライン走査するラインヘッドモジュール101(K、C、M、Y)とが設けられている。ここで、ラインヘッドモジュール101(K、C、M、Y)は、ヘッドケースによってラインヘッドとレンズアレイと集光レンズとが互いにアライメントされた状態で一体化されたものである。
【0062】
また、ラインヘッドモジュール101(K、C、M、Y)で形成された静電潜像に現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)とする現像装置44(K、C、M、Y)と、現像装置44(K、C、M、Y)で現像されたトナー像を一次転写対象である中間転写ベルト90に順次転写する転写手段としての一次転写ローラ45(K、C、M、Y)とが設けられている。また、転写された後に感光体ドラム41(K、C、M、Y)の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニング装置46(K、C、M、Y)が設けられている。
【0063】
各ラインヘッドモジュール101(K、C、M、Y)は、各ラインヘッドのアレイ方向(有機EL素子3の整列方向)が感光体ドラム41(K、C、M、Y)の回転軸に平行となるように設置されている。そして、各ラインヘッドモジュール101(K、C、M、Y)の発光エネルギーピーク波長と、感光体ドラム41(K、C、M、Y)の感度ピーク波長とが略一致するように設定されている。
【0064】
現像装置44(K、C、M、Y)は、例えば、現像剤として非磁性一成分トナーを用いる。そして、その一成分現像剤を例えば供給ローラで現像ローラへ搬送し、現像ローラ表面に付着した現像剤の膜厚を規制ブレードで規制し、その現像ローラを感光体ドラム41(K、C、M、Y)に接触させあるいは押圧せしめることにより、感光体ドラム41(K、C、M、Y)の電位レベルに応じて現像剤を付着させ、トナー像として現像するものである。
【0065】
このような4色の単色トナー像形成ステーションにより形成された黒、シアン、マゼンタ、イエローの各トナー像は、一次転写ローラ45(K、C、M、Y)に印加される一次転写バイアスによって中間転写ベルト90上に順次一次転写される。そして、中間転写ベルト90上で順次重ね合わされてフルカラーとなったトナー像は、二次転写ローラ66において用紙等の記録媒体Pに二次転写され、さらに定着部である定着ローラ対61を通ることで記録媒体P上に定着される。その後、排紙ローラ対62によって装置上部に形成された排紙トレイ68上に排出される。
【0066】
なお、図8中の符号63は多数枚の記録媒体Pが積層保持されている給紙カセット、64は給紙カセット63から記録媒体Pを一枚ずつ給送するピックアップローラ、65は二次転写ローラ66の二次転写部への記録媒体Pの供給タイミングを規定するゲートローラ対、66は中間転写ベルト90との間で二次転写部を形成する二次転写手段としての二次転写ローラ、67は二次転写後に中間転写ベルト90の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニングブレードである。
【0067】
この画像形成装置80は、本発明に係る有機ELパネル1ないし4を有するラインヘッドモジュール101が露光手段として備えられている。このため、画像形成装置80は、水分等による発光機能の劣化が生じにくく、寿命が長いという特徴を有する。
【0068】
なお、本発明を適用した有機ELパネル1ないし4は、上記画像形成装置80の他、携帯電話機、モバイルコンピュータ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器、プロジェクタなどの各種電子機器に表示装置として組み込んで用いることもできる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0070】
(変形例1)
上記第1の実施形態では、封止部材20に用いる金属結合の物質としてアルミニウムを用いているが、これに代えて金または銅等を用いることもできる。また、上記第2の実施形態では、封止部材20に用いる共有結合の物質として酸化シリコンを用いているが、これに代えてシリコン等を用いることもできる。これらの構成によっても、上記各実施形態と同様に、水分等を透過させにくい封止構造が得られる。
【0071】
(変形例2)
上記各実施形態の製造方法においては、図3に示す工程P12(封止部材21を形成)および工程P22(封止部材22を形成)の後に、封止部材21,22を研磨する工程を入れてもよい。このような製造方法によれば、封止部材21,22の表面の平滑度がさらに向上するので、工程P31における接合をより容易に行うことができる。
【0072】
(変形例3)
上記第2の実施形態において、素子基板5上の金属配線51に重ねて封止部材21を形成し、これを研磨して平坦化したが、これに代えて図9に示す次のような方法を用いることもできる。すなわち、素子基板5上であって金属配線51の形成されていない領域に、樹脂等からなる平坦化パターン57を配置する(図9(a))。こうして金属配線51の形状による凹凸が解消された後に、封止部材21を形成する(図9(b))。こうした方法によっても、平滑な表面を有する封止部材21を形成することができる。なお、封止部材21の形成後、さらに封止部材21の表面を研磨してもよい。
【0073】
(変形例4)
上記各実施形態において、封止基板6上の封止部材22は、素子基板5上の封止部材21に対向する環状の領域にのみ形成されているが、本発明の実施にあたってはこの構成に限定されない。例えば、封止基板6の対向面全体に封止部材22を形成し、封止部材21に対しては、封止部材21の形作る環状の領域においてのみ接合するような構成とすることもできる。このような構成によれば、封止基板6上の封止部材22をパターニングする工程を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)は、本発明に係る有機ELパネルの分解斜視図、(b)は斜視図。
【図2】有機EL構造体の詳細な構造を示す側断面図。
【図3】本発明に係る有機ELパネルの製造方法を示す工程図。
【図4】本発明に係る有機ELパネルの製造方法を示し、(a)は接合前の有機ELパネルの側断面図、(b)は接合工程を説明するための側断面図、(c)は完成した有機ELパネルの側断面図。
【図5】(a)は、金属配線上に封止部材を形成した状態の素子基板の側断面図、(b)は、該封止部材を研磨した後の素子基板の側断面図。
【図6】第3の実施形態に係る有機ELパネルの側断面図。
【図7】第4の実施形態に係る有機ELパネルの側断面図。
【図8】本発明に係る画像形成装置の側断面図。
【図9】(a)は、金属配線間に平坦化パターンを形成した状態の素子基板の側断面図、(b)は、さらに封止部材を形成した状態の素子基板の側断面図。
【符号の説明】
【0075】
1〜4…「発光装置」としての有機ELパネル、5…「第1の基板」としての素子基板、6…「第2の基板」としての封止基板、20…封止部材、21…「第1の層」としての封止部材、22…「第2の層」としての封止部材、215…接合部、30…有機EL構造体、55…乾燥剤、56…樹脂、57…平坦化パターン、60…有機発光層、81,82…押圧ヘッド、85…真空チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された第1の基板および第2の基板と、
前記第1の基板の対向面に形成された、有機発光層を含む有機EL構造体と、
前記第1の基板の対向面の、前記有機EL構造体を囲む環状の第1の領域に密着するとともに、前記第2の基板の対向面の、前記第1の領域に対向する第2の領域に少なくとも密着し、前記第1の基板と前記第2の基板とを固着させる封止部材と
を備え、
前記封止部材は、金属結合または共有結合のいずれかの化学結合によって成り立つ物質を含み、
前記第1の基板、前記第2の基板、および前記封止部材が囲む空間は、前記第1の基板、前記第2の基板、および前記物質によって密閉されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置であって、
前記物質は、アルミニウム、金、シリコン、酸化シリコンのいずれか一種であることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発光装置であって、
前記第2の基板の対向面に乾燥剤が配置されていることを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の発光装置であって、
前記封止部材のうち、前記発光装置の外部に露出した部分は、樹脂で覆われていることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の発光装置であって、
前記第1の基板、前記第2の基板、および前記封止部材が囲む空間は、前記発光装置の外部の空間に対して負圧になっていることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項7】
第1の基板上の環状の第1の領域に、金属結合または共有結合のいずれかの化学結合によって成り立つ物質からなる第1の層を形成する工程と、
前記第1の基板上の前記第1の領域に囲まれた部位に、有機発光層を含む有機EL構造体を形成する工程と、
第2の基板上の環状の領域であって、前記第1の基板に対向させたときに前記第1の領域に重なる第2の領域に、前記物質からなる第2の層を形成する工程と、
前記第1の基板および前記第2の基板を、前記第1の層および前記第2の層が接触する状態に対向させ、前記接触した部位に対して加圧および加熱を行いながら貼り合わせることにより、前記第1の層および前記第2の層を前記第1の領域の全周にわたって前記化学結合によって接合させる工程と
を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の発光装置の製造方法であって、
前記第1の層を形成する工程の前に、前記第1の基板の表面を研磨する工程を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の発光装置の製造方法であって、
前記第2の層を形成する工程の前に、前記第2の基板の表面を研磨する工程を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の発光装置の製造方法であって、
前記第1の層を形成する工程の後に、前記第1の層の表面を研磨する工程を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の発光装置の製造方法であって、
前記第1の層および前記第2の層を前記化学結合によって接合させる工程は、大気圧未満の気圧下で行うことを特徴とする発光装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−87620(P2007−87620A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271488(P2005−271488)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】