説明

発光装置の製造方法、発光装置および電子機器

【課題】発光効率および耐久性に優れる発光装置を容易に製造することができる発光装置の製造方法、かかる発光装置の製造方法により製造された特性に優れる発光装置、および、信頼性の高い電子機器を提供すること。
【解決手段】発光装置の製造方法は、上基板9上に、金属イオンと導電性高分子材料とを含有する陰極8を形成する第1の工程と、TFT回路基板20上に、該TFT回路基板20側から順に、陽極3、正孔輸送層4、発光層5および非共有電子対を有する元素を少なくとも1つ含む電子輸送性の有機化合物を含有する電子輸送層6を形成する第2の工程と、陰極8の上基板9と反対側の面と、電子輸送層6の発光層5側と反対側の面とを接触させ、上基板9とTFT回路基板20を加熱および加圧することにより、陰極8と電子輸送層6とを接合させるとともに、陰極8に含有される金属イオンを、電子輸送層6に拡散させる第3の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置の製造方法、発光装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子(発光装置)は、陰極と陽極との間に少なくとも蛍光性有機化合物を含む薄膜(発光層)を含む有機層を挟んだ構成を有しており、この薄膜に電子および正孔(ホール)を注入して再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光させる素子である。
この有機EL素子は、10V以下の低電圧で、100〜100000cd/m2程度の高輝度の面発光が可能であること、また、蛍光物質の種類を選択することにより、青色から赤色までの発光が可能なこと等の特徴を有し、安価で大面積フルカラー表示を実現し得る素子として注目を集めている。
【0003】
現在、より高性能な有機EL素子を得るため、陰極と発光性有機層(発光層)との間や、陽極と発光層との間に、種々の層を設けるデバイス構造が提案されており、活発な研究が行われている。
このような層の一つに、陰極と発光層との間に設けられる電子輸送層や、さらに電子輸送層と陰極との間に設けられる電子注入層があるが、かかる電子輸送層や電子注入層の性能は、デバイス特性に大きく左右するため、その改良が急がれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、電子輸送性の有機化合物と、仕事関数の低い金属であるアルカリ金属を含む金属化合物とを共蒸着することにより、電子注入層中に金属化合物を混入させることにより、電子注入層の特性の改善を図る構成が提案されている。
ところが、かかる構成の電子注入層を備える有機EL素子では、電子注入層中に含まれる金属化合物が発光層と接触し、発光層中に含まれる発光材料がこの金属化合物との接触により経時的に劣化することに起因して、有機EL素子の発光効率等の特性が低下することから、耐久性の改善が図られているとはいい難いものである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、発光効率および耐久性に優れる発光装置を容易に製造することができる発光装置の製造方法、かかる発光装置の製造方法により製造された特性に優れる発光装置、および、信頼性の高い電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明に係る発光装置の製造方法は、第1の基板上に、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび希土類金属イオンのうちの少なくとも1種の金属イオンと、導電性高分子材料とを含有する陰極を形成する第1の工程と、
第2の基板上に、少なくとも陽極と、発光層と、非共有電子対を有する元素を少なくとも1つ含む電子輸送性の有機化合物を含有し、電子を輸送する機能を有する層とを、この順で前記第2の基板側から形成する第2の工程と、
前記陰極の前記第1の基板側と反対側の面と、前記電子を輸送する機能を有する層の前記発光層側と反対側の面とを接触させ、前記第1の基板および前記第2の基板を加熱および加圧することにより、前記陰極と前記電子を輸送する機能を有する層とを接合させるとともに、前記陰極に含有される前記金属イオンを、前記電子を輸送する機能を有する層に拡散させる第3の工程とを有することを特徴とする。
これにより、電子輸送効率に優れた電子を輸送する機能を有する層を形成することができ、発光効率および耐久性に優れる発光装置を容易に製造することができる。
【0008】
本発明の発光装置の製造方法では、前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、前記金属イオンを、前記陰極側から前記発光層側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配で形成されることが好ましい。
これにより、電子を輸送する機能を有する層に拡散された金属イオンが、発光層に混入するのを確実に防止することができ、金属イオンの混入によって生じる発光層の発光輝度の経時的な低下が抑えられる。すなわち、発光装置は優れた耐久性を有するものとなる。
【0009】
本発明の発光装置の製造方法では、前記第3の工程において、前記第1の基板および前記第2の基板を加熱および加圧するのと同時、またはその直後から、前記第1の基板および前記第2の基板のうちの少なくとも一方に、所定の処理を施すことにより、前記陰極からの前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散を促進させることが好ましい。
これにより、電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を増加させることができ、また、この所定の処理の処理条件を適宜設定することにより、陰極から電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を容易に制御することができる。
【0010】
本発明の発光装置の製造方法では、前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散は、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加することにより促進されることが好ましい。
これにより、比較的簡単な構成で、電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を増加させることができ、また、この所定の処理の処理条件を適宜設定することにより、陰極から電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を容易に制御することができる。
【0011】
本発明の発光装置の製造方法では、前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散は、前記陰極および前記電子を輸送する機能を有する層のうちの少なくとも一方を振動させることにより促進されることが好ましい。
これにより、比較的簡単な構成で、電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を増加させることができ、また、この所定の処理の処理条件を適宜設定することにより、陰極から電子を輸送する機能を有する層への金属イオンの拡散量を容易に制御することができる。
【0012】
本発明の発光装置の製造方法では、前記導電性高分子材料は、エチレンジオキシチオフェン骨格を含む高分子化合物で構成されることが好ましい。
かかる高分子化合物で前記導電性高分子材料を構成すれば、前記金属イオンをドーピングすることにより特に優れた導電性を陰極に発揮させることができる。
本発明の発光装置の製造方法では、前記非共有電子対を有する元素は、N、O、P、S、AsおよびSeのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これにより、前記有機化合物の構造をより安定化させ、陰極から拡散してきた前記金属イオンを安定に捕捉することができる。これにより、電子を輸送する機能を有する層は、その電子輸送能を向上させるのに十分な前記金属イオンを保持することができ、また、前記金属イオンが、発光層との界面近傍にまで拡散するのを抑制することができる。
【0013】
本発明の発光装置の製造方法では、前記電子輸送性の有機化合物は、前記非共有電子対を有する元素を含む縮合複素環化合物またはそれらの誘導体であることが好ましい。
これらの構造を有することにより、前記有機化合物の構造中において、非共有電子対を有する元素への電子密度の偏りがより生じ易くなり、その結果、前記有機化合物の構造の安定化がより確実になされる。
【0014】
本発明の発光装置の製造方法では、前記電子輸送性の有機化合物は、前記非共有電子対を有する元素が2重結合または3重結合により他の元素と結合しており、前記結合を形成する2つの元素の間に分極を有することが好ましい。
これらの構造を有することにより、前記有機化合物の構造中において、非共有電子対を有する元素への電子密度の偏りがより生じ易くなり、その結果、前記有機化合物の構造の安定化がより確実になされる。
【0015】
本発明の発光装置の製造方法では、前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、その厚さをDとし、前記有機化合物に含まれる前記非共有電子対を有する元素の合計数から該元素同士が2重結合または3重結合した結合の数を除いた数をA[個]とし、前記金属イオンの数をB[個]としたとき、前記陰極との界面からD×1/5の厚さにおいて、B/Aが0.2以上となるように形成されることが好ましい。
これにより、前記有機化合物に対して前記金属イオンを過不足なく存在させることができ、前記有機化合物の構造をより確実に安定化させることができる。また、前記金属イオンの作用による陰極から電子を輸送する機能を有する層への電子の注入効率の向上を十分に図ることができる。このようなことから、電子を輸送する機能を有する層の特性をより向上させることができる。
【0016】
本発明の発光装置の製造方法では、前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、その厚さをDとし、前記有機化合物に含まれる前記非共有電子対を有する元素の合計数から該元素同士が2重結合または3重結合した結合の数を除いた数をA[個]とし、前記金属イオンの数をB[個]としたとき、前記陰極との界面からD×2/3の厚さにおいて、B/Aが0.1以下となるように形成されることが好ましい。
これにより、電子を輸送する機能を有する層に含まれる前記金属イオンが発光層に拡散するのを確実に防止することができる。
【0017】
本発明に係る発光装置は、本発明の発光装置の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、特性に優れる発光装置が得られる。
本発明に係る電子機器は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の発光装置の製造方法、発光装置および電子機器について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、本発明の発光装置を適用したアクティブマトリクス型表示装置の実施形態について説明する。
図1は、本発明の発光装置を適用したアクティブマトリクス型表示装置の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示すアクティブマトリクス型表示装置の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0019】
図1に示すアクティブマトリクス型表示装置(以下、単に「表示装置」と言う。)10は、TFT回路基板(対向基板)20と、この基体20上に設けられた発光素子1と、TFT回路基板20に対向する上基板9とを有している。
TFT回路基板20は、基板21と、この基板21上に形成された回路部22とを有している。
【0020】
基板(第2の基板)21は、表示装置10を構成する各部の支持体となるものであり、上基板(第1の基板)9は、例えば、発光素子1を保護する保護層等として機能するものである。
また、本実施形態の表示装置10は、基板21側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板21は、実質的に透明(無色透明、着色透明、半透明)とされ、一方、上基板9は、特に、透明性は要求されない。
【0021】
基板21および上基板9は、いずれも、可撓性基板または硬質基板で構成されていてもよいが、本実施形態では、基板21が硬質基板で構成され、上基板9が可撓性基板で構成されている。
このような基板21には、各種ガラス材料基板が好適であるが、各種高硬度の樹脂基板を用いることもできる。
【0022】
一方、上基板9には、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンのようなポリエーテル系樹脂等を主材料として構成される基板を用いることができる。中でも、ポリイミド系樹脂は、熱膨張率や熱収縮率が小さいため、ポリイミド系樹脂を主材料とする基板は、熱収縮率を低く抑えることができる。また、ポリエステル系樹脂を主材料として構成される基板は、寸法安定性が良いという利点がある。
【0023】
さらに、このような樹脂材料に充填材、繊維を入れて積層したり、前熱処理や架橋度を調整することにより、上基板9の収縮率を低下させて、寸法安定性を向上させることもできる。
なお、上基板9を構成する可撓性基板は、樹脂材料の他、例えば、セラミックス材料、金属材料、炭素繊維等のような炭素系材料を主材料として構成することもできる。
【0024】
基板21の平均厚さは、特に限定されないが、1〜30mm程度であるのが好ましく、5〜20mm程度であるのがより好ましい。一方、上基板9の平均厚さも、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
回路部22は、基板21上に形成された下地保護層23と、下地保護層23上に形成された駆動用TFT(スイッチング素子)24と、第1層間絶縁層25と、第2層間絶縁層26とを有している。
【0025】
駆動用TFT24は、半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
このような回路部22上に、各駆動用TFT24に対応して、それぞれ、発光素子1が設けられている。また、隣接する発光素子1同士は、隔壁部(バンク)31により区画されている。
【0026】
本実施形態では、各発光素子1の陽極3は、画素電極を構成し、各駆動用TFT24のドレイン電極245に配線27により電気的に接続されている。また、各発光素子1の電子輸送層6は、一体的に形成されており、陰極8は、共通電極とされている。
表示装置10は、単色表示であってもよく、各発光素子1に用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0027】
以下、発光素子1について詳述する。
図1に示すように、発光素子1は、陽極3と、陰極8と、陽極3と陰極8との間に、陽極3側から順に、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層(電子を輸送する機能を有する層)6が介挿されている。
陽極3は、正孔輸送層4に正孔を注入する電極である。
【0028】
この陽極3の構成材料(陽極材料)としては、仕事関数が大きく、導電性に優れ、また透光性を有する材料を用いるのが好ましい。
このような陽極材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムと酸化亜鉛との複合物)、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0029】
陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。陽極3の厚さが薄すぎると、陽極3としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陽極3が厚過ぎると、陽極材料の種類等によっては、光の透過率が著しく低下し、有機EL素子1の構成がボトムエミッション型の場合、実用に適さなくなるおそれがある。
【0030】
一方、陰極8は、電子輸送層6に電子を注入する電極である。
本発明では、この陰極8は、導電性高分子材料を主材料として構成され、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび希土類金属イオンのうちの少なくとも1種の金属イオン(以下、単に「金属イオン」と言うこともある。)を含有している。
ここで、例えば、陰極8を金属膜で構成すると、金属のマイグレーションや、金属膜の表面粗さに起因して、陽極3と陰極8との間でショートが生じるおそれがある。さらに、陽極3と陰極8との間での電圧印加を繰り返し行ったときに、金属が有する触媒作用により、この陰極8表面と接触して設けられる有機膜(本実施形態では、電子輸送層6)が金属に対して不安定な有機材料で構成されていると、この有機材料が変質・劣化するおそれがあるという問題があった。
【0031】
これに対して、本発明のように、陰極8を、導電性高分子材料を主材料として構成することにより、前述したような金属膜の特性に起因して生じるショートや有機材料の変質・劣化を確実に防止することができる。
さらに、本発明では、この陰極8(後述する陰極形成用材料)に金属イオンが含まれていることから、後述する発光装置の製造方法によって表示装置10を製造する際に、第1の積層体101と第2の積層体102との接合工程で、陰極8に含まれる金属イオンが電子輸送層6中に拡散することとなる。これにより、電子輸送効率に優れた電子輸送層6を得ることができる。その結果、得られる表示装置10は、陽極3と陰極8間に印加する電圧が比較的低い場合でも、高輝度が得られるものとなる。すなわち、低電圧駆動で、発光効率特性に優れた表示装置10とすることができる。
【0032】
導電性高分子材料としては、高分子鎖中に共役系の結合を有することにより導電性を発揮するものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンジオキシチオフェン骨格のようなチオフェン骨格、パラフェニレン骨格、パラフェニレンビニレン骨格のようなフェニレン骨格、ピロール骨格、スチレン骨格およびアセチレン骨格等のうちの1種または2種以上を有する高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、ピロール骨格を有する高分子化合物を用いるのが好ましく、特に、ポリピロールを用いるのがより好ましい。ピロール骨格を有する高分子化合物は、金属イオン、または金属をドーピングすることにより特に優れた導電性を発揮するものであることから、陰極8の構成材料として好適に用いることができる。金属をドーピングする際、導電性高分子中にドーピングされた金属は、電子を導電性高分子に与え、金属イオンとなる。よって、ドーピングされる前の状態が金属状態であっても、ドーピングされた後は、導電性高分子中では、金属イオンとして存在する。
【0033】
また、本発明では、陰極8に金属イオンを含む構成、すなわち導電性高分子材料に金属イオンがドーピングされた構成となっている。かかる構成とすることにより、導電性高分子材料すなわち陰極8としての導電性を向上させることができる。
金属イオンとしては、後述する表示装置10の製造方法で説明するように、本発明では、陰極8に含まれる金属イオンを電子輸送層6中に拡散させる構成となっていることから、後述する電子輸送層6に含まれる金属イオンと同様のものが挙げられる。また、陰極8における金属イオンの含有量は、第1の積層体101と第2の積層体102との接合工程を行う前の、陰極8における金属イオンの含有量から、接合工程によって電子輸送層6に拡散した金属イオンの量を差し引いた残部となる。接合工程を行う前の陰極8における金属イオンの含有量、陰極8から拡散して電子輸送層6に含まれる金属イオンの量については、後述する。
【0034】
陰極8の平均厚さは、特に限定されないが、5〜150nm程度であるのが好ましく、10〜100nm程度であるのがより好ましい。陰極8の厚さが薄すぎると、陰極8としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陰極8が厚過ぎると、後述する第1の積層体101の可撓性が低下するおそれがある。
なお、陰極8の上基板9側を覆うように補助電極(図示せず)を設けるようにしてもよい。これにより、陰極8に含まれる導電性高分子材料および金属イオンの組み合わせにより、たとえ陰極8の電気抵抗が大きくなったとしても、陰極8と補助電極とが共通陰極として機能することから、共通陰極全体としての導電性を向上させることができる。
【0035】
なお、補助陰極は、陰極8を覆って酸素や水分等から陰極8を保護する機能をも有している。
この補助陰極は、導電性を有する金属微粒子により構成されている。
金属微粒子としては、化学的に安定な導電性材料であれば特に限定されず、例えば、Al(アルミニウム)、Au(金)、Ag(銀)のような金属やその合金等が好適に用いられる。
【0036】
補助陰極の厚さは、特に限定されないが、100〜500nm程度であるのが好ましく、150〜250nm程度であるのがより好ましい。
正孔輸送層4は、陽極3から注入された正孔を発光層5まで輸送する機能を有するものである。
この正孔輸送層4の構成材料(正孔輸送材料)としては、各種の高分子材料や、各種の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0037】
高分子の正孔輸送材料としては、例えば、ポリアリールアミンのようなアリールアミン骨格を有するもの、フルオレン−ビチオフェン共重合体のようなフルオレン骨格を有するもの、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
また、前記化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0038】
一方、低分子の正孔輸送材料としては、例えば、1,1’−ビス(4−ジ−パラ−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミンのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニル−パラ−フェニレンジアミンのようなフェニレンジアミン系化合物、N−フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物等が挙げられる。
このような正孔輸送層4の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0039】
また、陽極3と正孔輸送層4との間には、例えば、陽極3からの正孔注入効率を向上させる正孔注入層を設けるようにしてもよい。
この正孔注入層の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニンや、4,4‘,4‘‘−トリス(N,N‐フェニル‐3‐メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等が挙げられる。
【0040】
なお、上述したような正孔輸送層4および正孔注入層は、陽極3、発光層5、電子輸送層6および陰極8の組み合わせ等によっては省略することもできる。
発光層5上には、電子輸送層6が設けられている。この電子輸送層6は、陰極8から注入された電子を、発光層5まで輸送する機能を有するものである。
本発明では、この電子輸送層6は、非共有電子対を有する元素を少なくとも1つ含む電子輸送性の有機化合物(以下、単に「電子輸送性の有機化合物」または「有機化合物」と言うこともある。)を主材料として構成され、後述の表示装置10の製造方法における、第1の積層体101と第2の積層体102との接合工程で、陰極8中の金属イオンが拡散してきたものを含有している。
【0041】
この電子輸送層6おいて、金属イオンは、陰極8中から拡散してきたものであることから、陰極8側から発光層5側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配で含まれている。
このように、本発明では、電子輸送層6は、電子輸送性の有機化合物(電子を輸送する機能を有する有機化合物)の他に、金属イオンを含む構成となっていることから、優れた電子輸送性を発揮する。これにより、この表示装置10は、陽極3と陰極8間に印加する電圧が比較的低くても、発光層5に効率よく電子が注入され、高輝度を得ることができる。
【0042】
この電子輸送特性の向上は、金属イオンがアルカリ金属、アルカリ土類金属や希土類金属であり、仕事関数が低い金属であるため、陰極8から電子輸送層6への電子の注入効率が向上することと、金属イオンが有機化合物に含まれる非共有電子対を有する元素との間において、化学的相互作用(例えば、イオン結合、配位結合等)を生じることにより、有機化合物のエネルギー準位が相対的に変化すること、すなわち、HOMO(最高占有分子軌道)とLUMO(最低非占有分子軌道)が相対的に低い準位に変化することにより、電子注入障壁が小さくなり、その結果、陰極8からの電子注入がより容易になることによるものと推察される。電子輸送特性および陰極8からの電子注入効率が向上した結果、発光素子1において、発光層5への電子注入がより効果的に行われ、発光輝度が上昇し、駆動電圧が低下する。さらには、HOMO準位の低下により、再結合しなかった正孔が陰極8に送られることが抑制され、発光層5と電子輸送層6との界面において効果的に正孔が蓄積される。その結果、これら正孔は再び再結合に寄与することが可能となり、発光効率が向上する。
【0043】
そして、金属イオンは、この電子輸送層6でにおいて、前述したように、陰極8側から発光層5側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配を有して含まれている。
ここで、電子輸送層6中に、金属イオンが均一な濃度で含まれていると、電子輸送層6の発光層5との界面付近に存在する金属イオンが、時間経過および電圧印加の繰り返しに伴って、発光層5中に拡散する。そして、発光層5中において、金属イオンと発光材料とが接触することにより、発光材料が変質・劣化することとなり、発光層5の発光輝度が低下してしまうという問題が生じる。
【0044】
これに対して、本発明では、電子輸送層6おいて、金属イオンが、陰極8側から発光層5側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配で含まれていることから、発光層5との界面付近では、金属イオンの濃度が極めて低いか、実質的に金属イオンが存在しないものとすることができる。すなわち、電子輸送層6に、金属イオンと発光層5中に含まれる発光材料とが接触するのを防止するバリア層としての機能をも発揮させることができる。その結果、電子輸送層6に含まれる金属イオンが発光層5に拡散するのを防止または抑制することができ、金属イオンが発光層5に混入することによる発光輝度の経時的な低下が抑えられる。すなわち、発光素子1(表示装置10)は優れた耐久性を有するものとなる。
【0045】
ここで、電子輸送性の有機化合物に含まれる非共有電子対を有する元素としては、N、P、As、Sb、Biのような第5B族に属する元素、O、S、Se、Te、Poのような第6B族に属する元素、F、Cl、Br、I、Atのような第7B族に属する元素が挙げられるが、N、O、P、S、AsおよびSeのうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これらの元素は、適度に電気陰性度が高いため、有機化合物の構造中において電子を当該元素側に若干偏らせることができる。このため、有機化合物と金属イオンとの化学的相互作用をより高めることができ、その結果、有機化合物の構造をより安定化させ、陰極8から拡散してきた金属イオンを安定に捕捉することができる。これにより、電子輸送層6は、その電子輸送能を向上させるのに十分な金属イオンを保持することができ、また、金属イオンが、発光層5との界面近傍にまで拡散するのを抑制することができる。また、これら元素は適度に結合次数が高いため、金属イオンと相互作用する不対電子を有し、かつ他の元素とも容易に結合を形成する。その結果、多様な有機化合物中に挿入することが可能となる。
【0046】
また、この電子輸送性の有機化合物は、I:非共有電子対を有する元素を含む芳香族環を有するものや、II:非共有電子対を有する元素が2重結合または3重結合により他の元素と結合しており、前記結合を形成する2つの元素の間に分極を有することが好ましい。これらの構造を有することにより、有機化合物の構造中において、非共有電子対を有する元素への電子密度の偏りがより生じ易くなり、その結果、有機化合物の構造の安定化がより確実になされる。
Iの具体例としては、例えば、下記化1に示す化合物、またはこれらのうちの任意の2種以上の組み合わせが挙げられる。なお、下記化1に示す化合物において、Qは、それぞれ独立して、N、O、P、S、AsまたはSeを示す。
【0047】
【化1】

【0048】
また、IIの具体例としては、例えば、下記化2に示す化合物、またはこれらのうちの任意の2種以上の組み合わせが挙げられる。例えば、Q、Qの組み合わせとして、C=O、N=O、P=O、S=O、Se=O、C=S、P=Sのような二重結合、C≡Nのような三重結合等が挙げられる。ここで、QよりもQの方が結合次数が多いこととする。よって、QはQ以外の元素またはフェニル基、アルキル基などの基と結合している。
【0049】
【化2】

【0050】
また、有機化合物は、IおよびIIの両方を併せ持っていてもよい。
以上のような特徴を有し、かつ電子輸送能に優れる有機化合物としては、例えば、下記化3〜10に示す化合物、またはその誘導体が挙げられる。これらの有機化合物を主材料とし、陰極8からの金属イオンが拡散された電子輸送層6は、特に優れた電子輸送効率および耐久性を有するものとなる。
【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
【化9】

【0058】
【化10】

【0059】
一方、金属イオンとしては、有機化合物の種類に応じて、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび希土類金属イオンのうちの少なくとも1種を適宜選択すればよい。具体的には、有機化合物として、例えば、前記化4で表される縮合複素環化合物またはその誘導体を用いる場合には、金属イオンとして、Li、Cs、Ca、Mg、Ybのようなものが好適に選択される。
【0060】
また、電子輸送層6における金属イオンの濃度勾配は、電子輸送性を有する有機化合物の種類によっても若干異なるが、次のような濃度とされるのが好ましい。
すなわち、電子輸送層6の全厚をDとし、有機化合物に含まれる非共有電子対を有する元素の合計数から、非共有電子対を有する元素同士が2重結合または3重結合した結合の数を除いた数をA[個]とし、金属イオンの数をB[個]としたとき、陰極8との界面からD×1/5の厚さにおいて、B/Aが0.2以上であるのが好ましく、0.2〜0.5程度であるのがより好ましい。D×1/5の厚さにおいてB/Aの大きさを前記範囲とすることにより、有機化合物に対して金属イオンを過不足なく存在させることができ、有機化合物の構造をより確実に安定化させることができる。また、金属イオンの作用による陰極8から電子輸送層6への電子の注入効率の向上を十分に図ることができる。このようなことから、電子輸送層6の特性をより向上させることができる。
【0061】
また、陰極8との界面からD×2/3の厚さにおいて、B/Aは、0.1以下であるのが好ましく、0.01〜0.05程度であるのがより好ましい。D×2/3の厚さにおいてB/Aの大きさを前記範囲とすることにより、電子輸送層6中において、有機化合物との間に化学的相互作用を生じない金属イオンの数を十分に少なくできるとともに、電子輸送層6の発光層5との界面付近では、金属イオンが実質的に存在しないものとすることができ、電子輸送層6に含まれる金属イオンが発光層5に拡散するのを確実に防止することができる。その結果、時間経過および電圧印加の繰り返しに伴う発光素子1の発光輝度の低下を好適に防止することができる。
【0062】
電子輸送層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。
なお、電子輸送層6は、上述したような単層体で構成されるものだけでなく、積層体で構成されるものであってもよい。この場合、陰極8と接触する層は、上記で電子輸送層6として説明した構成となっており、それ以外の層は、電子輸送性を有する有機材料で構成されていればよい。
【0063】
電子輸送性を有する有機材料としては、特に限定されず、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)のようなベンゼン系化合物(スターバースト系化合物)、ナフタレンのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセンのようなクリセン系化合物、8−ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)を配位子とする錯体のような各種金属錯体等が挙げられる。
【0064】
陽極3と陰極8との間に通電(電圧を印加)すると、正孔輸送層4中を正孔が、また、電子輸送層6中を電子が移動し、発光層5において正孔と電子とが再結合する。そして、発光層5ではエキシトン(励起子)が生成し、このエキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
発光層5の構成材料(発光材料)としては、各種の高分子材料や、各種の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0065】
高分子の発光材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレンのようなポリアセチレン系化合物、ポリ(パラ−フェンビニレン)(PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)のようなポリチオフェン系化合物、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)のようなポリフルオレン系化合物等が挙げられる。
【0066】
一方、低分子の発光材料としては、例えば、ジスチリルベンゼン(DSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレンのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物等が挙げられる。
発光層5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0067】
次に、本発明の発光装置の製造方法を、上述した表示装置10を製造する場合を一例にして説明する。
本実施形態の表示装置10は、上基板9上に陰極8を形成した第1の積層体101と、TFT回路基板20上に、陽極3、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6を順次形成した第2の積層体102とを接合することにより製造される。
【0068】
以下、この表示装置10の製造方法(本発明の発光装置の製造方法)について詳述する。
[1]第1の積層体および第2の積層体の作製工程
[1−1]第1の積層体の作製工程(第1の工程)
A:まず、上基板9を用意し、この上基板9上に陰極8を形成する。
本工程Aでは、まず、前述したような導電性高分子材料と金属イオンとを含む陰極形成用材料(液状材料)を調製する。これは、導電性高分子材料を溶媒または分散媒に溶解または分散するとともに、この導電性高分子材料を含む溶媒または分散媒に、アルカリ金属、アルカリ土類金属または希土類金属のうちの少なくとも1種の金属化合物を溶解し、金属化合物から金属イオンを解離させることにより調製することができる。
【0069】
また、導電性高分子材料を含有する溶液または分散液と、金属イオンを含有する溶液をそれぞれ個別に調製した後、混合するようにしてもよい。この際、それぞれの溶液または分散液に使用する溶媒または分散媒は、分離せず、混合が可能ならば異なっていても良い。これにより、単一の溶媒または分散媒に対する導電性高分子材料と金属化合物の溶解性が大きく異なり、所望の量比で混合することが困難な場合においても、陰極形成用材料の調製が可能となる。
【0070】
金属化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、アセチル酢酸塩等の有機酸塩のような塩類、塩化物、臭化物のようなハロゲン化物、メトキシド、エトキシドのようなアルコキシド類、アセチルアセトナトのような脱離しやすい配位子を有する金属錯体等が挙げられるが、金属塩および金属錯体のうちの少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。これらの金属化合物は、大気中において比較的安定であるため、取り扱いが容易であり、また、金属イオンを解離し易いことからも好ましい。
【0071】
陰極形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、導電性高分子材料を溶解または分散させた分散媒に、直接、金属化合物を溶解する場合には、この溶媒が、金属化合物を容易に溶解して金属イオンを解離するものであるのが好ましい。また、導電性高分子材料の溶液または分散液と金属化合物の溶液とを、それぞれに別に用意する場合には、金属化合物の溶液に用いる溶媒が、金属化合物を容易に溶解して金属イオンを解離するものであるのが好ましい。
【0072】
そのような溶媒としては、プロトン性極性溶媒が好適に用いられる。
プロトン性極性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の単価アルコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールのようなアルコール類、酢酸、ギ酸、(メタ)アクリル酸のようなカルボン酸類、エチレンジアミン、ジエチルアミンのようなアミン類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのようなアミド類、フェノール、p−ブチルフェノールのようなフェノール類、アセチルアセトン、マロン酸ジエチルのような活性メチレン化合物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
中でも、プロトン性極性溶媒としては、水およびアルコール類のうちの少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。水やアルコール類は、金属化合物の溶解性が高いため、プロトン性極性溶媒として、水およびアルコール類のうちの少なくとも1種を主成分とするものを用いることにより、金属化合物から確実に金属イオンを解離させることができ、陰極形成用材料の調製が容易となる。
【0074】
特に、アルコール類としては、炭素数が1〜7(好ましくは炭素数1〜4)の単価アルコールが好ましい。このような炭素数の単価アルコールは、金属化合物の溶解性が高い。
例えば、金属化合物として炭酸セシウム(CsCO)を単価アルコール(R−OH)に溶解すると、以下のような反応により、Csイオン(金属イオン)が解離する。
CsCO+2ROH → 2Cs(OR)+CO+H
Cs(OR)+HO → Cs+OH+ROH
【0075】
次いで、調製した陰極形成用材料を上基板9上に供給した後、乾燥(脱溶媒)することによって被膜を形成した後、必要に応じて、この被膜に対して後処理(例えば加熱による焼成、焼成温度以下での加熱、赤外線の照射、超音波の付与等)を施す。これにより、上基板9上に陰極8が得られる。
陰極形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。かかる塗布法を用いることにより、陰極を比較的容易に形成することができる。
【0076】
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
この工程で形成される陰極8の金属イオン濃度は、後工程[2]において、陰極8に含有される金属イオンが、電子輸送層6に、前述の適正な濃度勾配を有して拡散し得るように設定される。具体的には、導電性高分子材料、金属イオンおよび有機化合物の種類や、接合条件等によっても若干異なるが、0.1〜50.0wt%程度であるのが好ましく、1.0〜20.0wt%程度であるのがより好ましい。これにより、陰極8に含有される金属イオンを、電子輸送層6に、前述の適正な濃度勾配を有するように確実に拡散させることができる。
【0077】
また、本工程に先立って、上基板9の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、上基板9の上面を親液性を付与すること、上基板9の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、上基板9の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
以上のようにして、上基板9上に陰極8が形成された第1の積層体101が得られる。
【0078】
[1−2]第2の積層体の作製工程(第2の工程)
B:まず、基板21を用意し、基板21上に、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとして、プラズマCVD法等により、平均厚さが約200〜500nmの酸化シリコンを主材料として構成される下地保護層23を形成する。
C:次に、下地保護層23上に、駆動用TFT24を形成する。
まず、基板21を約350℃に加熱した状態で、下地保護層23上に、例えばプラズマCVD法等により、平均厚さが約30〜70nmのアモルファスシリコンを主材料として構成される半導体膜を形成する。
【0079】
次いで、半導体膜に対して、レーザアニールまたは固相成長法等により結晶化処理を行い、アモルファスシリコンをポリシリコンに変化させる。
ここで、レーザアニール法では、例えば、エキシマレーザでビームの長寸が400mmのラインビームを用い、その出力強度は、例えば200mJ/cm程度に設定される。また、ラインビームについては、その短寸方向におけるレーザ強度のピーク値の90%に相当する部分が各領域毎に重なるようにラインビームを走査する。
【0080】
次いで、半導体膜をパターニングして島状とし、各島状の半導体膜241を覆うように、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとして、プラズマCVD法等により、平均厚さが約60〜150nmの酸化シリコンまたは窒化シリコン等を主材料として構成されるゲート絶縁層242を形成する。
【0081】
次いで、ゲート絶縁層上に、例えば、スパッタ法等により、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステンなどの金属を主材料として構成される導電膜を形成した後、パターニングし、ゲート電極243を形成する。
次いで、この状態で、高濃度のリンイオンを打ち込んで、ゲート電極243に対して自己整合的にソース・ドレイン領域を形成する。なお、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域となる。
【0082】
D:次に、駆動用TFT24に電気的に接続されるソース電極244およびドレイン電極245を形成する。
まず、ゲート電極243を覆うように、第1層間絶縁層25を形成した後、コンタクトホールを形成する。
次いで、コンタクトホール内にソース電極244およびドレイン電極245を形成する。
【0083】
E:次に、ドレイン電極245と陽極3とを電気的に接続する配線(中継電極)27を形成する。
まず、第1層間絶縁層25上に、第2層間絶縁層26を形成した後、コンタクトホールを形成する。
次いで、コンタクトホール内に配線27を形成する。
【0084】
F:次に、第2層間絶縁層26上に、配線27に接触するように陽極(画素電極)3を形成する。
この陽極3は、ゲート電極243と同様にして形成することができる。
G:次に、第2層間絶縁層26上に、各陽極3を区画するように、隔壁部31を形成する。
【0085】
隔壁部31は、絶縁膜を形成した後、パターニングすること等により形成することができる。
絶縁膜(隔壁部31)の構成材料は、耐熱性、撥液性、インク溶剤耐性、下地層との密着性等を考慮して選択される。
このような材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂のような有機材料や、SiOのような無機材料が挙げられる。
【0086】
特に、陽極3が酸化物材料を主材料として構成される場合には、隔壁部31の構成材料としては、SiOを用いるのが好ましい。これにより、陽極3と隔壁部31との密着性の向上を図ることができる。
また、撥液性を示す隔壁部31は、例えば、フッ素系樹脂を用いて形成することや、隔壁部31の表面にフッ素プラズマ処理を施すこと等により得ることができる。
【0087】
また、隔壁部31の開口の形状は、例えば、円形、楕円形、四角形、六角形等の多角形等、いかなるものであってもよい。
なお、隔壁部31の開口の形状を多角形とする場合には、角部は丸みを帯びているのが好ましい。これにより、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6を、液状材料を用いて形成する場合には、この液状材料を、隔壁部31の内側の空間の隅々にまで確実に供給することができる。
このような隔壁部31の高さは、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6の合計の厚さに応じて適宜設定され、特に限定されないが、1〜2μm程度とするのが好ましい。かかる高さとすることにより、十分に隔壁としての機能が発揮される。
【0088】
H:次に、各陽極3上に、それぞれ、正孔輸送層4を形成する。
この正孔輸送層4は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等を用いた気相プロセスや、スピンコート法(バイロゾル法)、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等を用いた液相プロセス等で形成することができる。
なお、これらの方法は、正孔輸送層の構成材料の熱安定性や、溶媒への溶解性等の物理的特性および/または化学的特性を考慮して選択される。
【0089】
これらの方法の中でも、インクジェット法(液滴吐出法)を用いた液相プロセスにより形成するのが好ましい。インクジェット法を用いることにより、正孔輸送層4の薄膜化、画素サイズの微小化を図ることができる。また、正孔輸送層形成用の液状材料を、隔壁部31の内側に選択的に供給することができるため、液状材料のムダを省くことができる。
具体的には、正孔輸送層形成用の液状材料を、インクジェットプリント装置のヘッドから吐出し、各陽極3上に供給し、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)した後、必要に応じて、150℃程度で短時間の加熱処理を施す。
【0090】
用いる液状材料は、前述したような正孔輸送材料を溶媒または分散媒に溶解または分散することにより調製される。
また、液状材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素等の各種無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等のケトン系溶媒、エタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン化合物系溶媒、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0091】
なお、陽極3上に供給された液状材料は、流動性が高く(粘性が低く)、水平方向(面方向)に広がろうとするが、陽極3が隔壁部31により囲まれているため、所定の領域以外に広がることが阻止され、正孔輸送層4(発光素子1)の輪郭形状が正確に規定される。
なお、乾燥の方法は、前記陰極の形成工程で説明したものと同様である。
【0092】
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面を親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、上基板9に酸素プラズマ処理を施す場合と同様である。
【0093】
I:次に、各正孔輸送層4上(陽極3のTFT回路基板20と反対側)に、発光層5を形成する。
この発光層5も、気相プロセスや液相プロセスにより形成することができるが、前述したのと同様の理由から、インクジェット法(液滴吐出法)を用いた液相プロセスにより形成するのが好ましい。また、インクジェット法を用いることにより、複数色の発光層5を設ける場合には、各色毎にパターンの塗り分けを容易に行うことができるという利点もある。
【0094】
J:次に、発光層5上に、各発光層5および各隔壁部31を覆うように電子輸送層6を形成する。
この電子輸送層6も、気相プロセスや液相プロセスにより形成することができるが、前述したのと同様の理由から、インクジェット法(液滴吐出法)を用いた液相プロセスにより形成するのが好ましい。
【0095】
なお、発光層5上に供給する電子輸送層形成用材料の調製に用いる溶媒としては、発光層5を膨潤または溶解し難いものであるのが好ましい。これにより、発光材料の変質・劣化や、発光層5が溶解し、膜厚が極端に減少することを防止することができる。その結果、発光素子1の発光効率の低下を防止することができる。
以上のようにして、TFT回路基板20上に、TFT回路基板20側から陽極3、正孔輸送層4、発光層5および電子輸送層6がこの順で形成(積層)された第2の積層体102が得られる。
【0096】
[2]第1の積層体と第2の積層体との接合工程(第3の工程)
次に、第1の積層体101と第2の積層体102とを接合する。
まず、第1の積層体101と第2の積層体102とを、予め形成したアライメントマーク(図示せず)同士が一致するように位置合わして、一端側(図2中右側)において、第1の積層体101の下面と第2の積層体102の上面とを接触させる。
【0097】
次に、この状態で、第1の積層体101および第2の積層体102を、第1の積層体101の下面(陰極の上基板側と反対側の面)と第2の積層体102の上面(電子輸送層の発光層側と反対側の面)とを接触させた箇所において、一対のローラ900a、900b間に挟持されるように接合装置に設置する。これにより、第1の積層体101(上基板9)および第2の積層体102(基板21)が加圧される。
【0098】
また、このとき、第1の積層体101の他端部を、接合装置のローラ900aより上方において移動可能に設けられた支持部910に固定する。これにより、第1の積層体101は、撓んだ状態で、接合装置に設置(セット)される。
また、各ローラ900a、900bには、それぞれ、図示しない加熱手段(例えばヒータ等)が設けられており、第1の積層体101および第2の積層体102は、一対のローラ900a、900bで挟持された部分が加熱される。
【0099】
次に、図2(b)および(c)に示すように、各ローラ900a、900bを他端側(図2中左側)に向かって移動させる。
これにより、一対のローラ900a、900bで挟持された部分において、電子輸送層6と陰極8とが順次接合され、接合体が得られる。
このような接合方法によれば、第1の積層体101が第2の積層体102に対して、一端側から他端側に向かって順に接合されるため、電子輸送層6と陰極8との境界部から空気を排除することができ、これらの界面に気泡が残存することを防止することができる。その結果、電子輸送層6と陰極8との界面付近の密着性を向上させることができる。また、界面において発生する歪応力や熱的ダメージを軽減することもできる。
【0100】
また、陰極8が主として導電性高分子材料で構成されていることから、この陰極8の表面を平坦な面とすることができ、その結果、電子輸送層6と陰極8とを接触させて、これらを接合する際に、電子輸送層6にピンホールが生じてしまうのを確実に防止することができる。
さらに、この接合工程では、上述したような接合方法で陰極8と電子輸送層6とを接合することにより、陰極8に含まれる金属イオンが、電子輸送層6との界面を越えて電子輸送層6中に拡散する。これにより、電子輸送層6中には、金属イオンが陰極8側から発光層5側に向かって濃度が低くなる濃度勾配で含まれることとなる。
【0101】
この接合工程において、電子輸送層6と陰極8との接合状態、および、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散量は、加熱の温度、加圧の圧力および電子輸送層6と陰極8とを接合する速度によって制御される。
加熱の温度は、電子輸送層6および陰極8のうちのいずれか軟化点温度の低い層の軟化点温度(ガラス転移温度)か、または、それより若干低い温度程度とするのが好ましく、これらの層の構成材料等によっても若干異なり、特に限定されないが、40〜120℃程度であるのが好ましく、60〜100℃程度であるのがより好ましい。加熱の温度が低過ぎると、電子輸送層6と陰極8とを十分に接合できないおそれがあり、また、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散量も不十分となるおそれがある。一方、加熱の温度が高過ぎると、各層に変質・劣化が生じるおそれがある。
【0102】
この際、軟化点温度の低い層、すなわち、この工程で、その軟化点温度か、またはそれより低い温度程度とされる層は、陰極8であるのが好ましい。これにより、陰極8に含まれる金属イオンを、電子輸送層6に効率よく拡散させることができる。
また、この際の加圧の圧力は、前記加熱の温度等によっても若干異なり、特に限定されないが、0.1〜10kgf/cm程度であるのが好ましく、0.2〜5kgf/cm程度であるのがより好ましい。加圧の圧力が小さ過ぎると、電子輸送層6と陰極8とを十分に接合できないおそれがあり、また、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散量も不十分となるおそれがある。一方、加圧の圧力を前記上限値を超えて大きくしても、圧力を大きくするのに見合う効果の増大が期待できない。
【0103】
また、電子輸送層6と陰極8とを接合する速度、すなわち、各ローラ900a、900bの移動速度も、特に限定されないが、5〜50mm/秒程度であるのが好ましく、10〜40mm/秒程度であるのがより好ましい。これにより、電子輸送層6と陰極8とを確実に接合することができ、また、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散を確実に行うことができる。
【0104】
また、この接合工程では、第1の積層体101および第2の積層体102を加熱および加圧するのと同時、またはその直後から、第1の積層体101および第2の積層体102のうちの少なくとも一方に、所定の処理を施すことにより、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散を促進させるようにしても良い。これにより、電子輸送層6への金属イオンの拡散量を増加させることができ、また、この所定の処理の処理時間等の処理条件を適宜設定することにより、陰極8から電子輸送層6への金属イオンの拡散量を容易に制御することができる。
【0105】
このような所定の処理としては、特に限定されないが、例えば、陽極3と陰極8との間に電圧を印加することにより、電子輸送層6および陰極8の内部に電界を生じさせる方法や、第1の積層体101および第2の積層体102のうちの少なくとも一方を振動させる方法等が挙げられる。これらの方法によれば、比較的簡単な構成で、電子輸送層6への金属イオンの拡散量を確実に増加させることができるとともに、電子輸送層6への金属イオンの拡散量を容易に制御することができる。
【0106】
これらの方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いるようにしてもよい。
なお、電圧を印加する方法において、陽極3と陰極8との間に印加する電圧は、1〜50V程度であるのが好ましく、5〜15V程度であるのがより好ましい。電圧が前記下限値よりも低過ぎると、電子輸送層6への金属イオンの拡散を促進する効果が十分に得られないおそれがある。また、電圧が前記上限値よりも高すぎると、第1の積層体101および第2の積層体102を構成する各層に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0107】
また、積層体の少なくとも一方を振動させる方法において、振動の周波数は、1〜1×10kHz程度であるのが好ましく、10〜1×10kHz程度であるのがより好ましい。周波数が、前記範囲を下回る場合には、電子輸送層6への金属イオンの拡散を促進する効果が十分に得られないおそれがある。また、周波数を前記範囲を超えて大きくしても、それ以上の効果の増加が期待できない。
【0108】
[3]熱処理工程
次に、必要に応じて、得られた接合体に対して熱処理(ポストベーク処理)を施す。
これにより、第1の積層体101と第2の積層体102との接合に際して、第1の積層体101および第2の積層体102に内部応力が生じた場合でも、この内部応力を緩和することができ、各層同士の界面において容易に剥離が生じるのを防止することができる。
【0109】
この際の加熱の温度は、接合体が備える有機物層の構成材料のうち、最もガラス転移温度が低い構成材料の当該ガラス転移温度より低い温度に設定するのが好ましい。これにより、各層への熱的ダメージが生じるのを防止しつつ、内部応力を確実に緩和することができる。
また、この際の加熱の時間は、前記加熱の温度等によっても若干異なるが、10〜120分程度であるのが好ましく、30〜90分程度であるのがより好ましい。これにより、各層への熱的ダメージが生じるのを防止しつつ、内部応力を確実に緩和することができる。
【0110】
なお、本工程[3]を省略して、得られた接合体をそのまま完成品とすることもできる。
以上のように、本発明の発光装置の製造方法では、第1の積層体101と第2の積層体102とを接合するという比較的簡単な構成で、表示装置10を製造することができる。
また、これら接合体同士の接合工程で、陰極8中の金属イオンが、電子輸送層6中に拡散する。これにより、電子輸送層6中には、陰極8側から発光層5側に向かって、濃度が低くなるような濃度勾配を有して、金属イオンが含有された状態になる。
【0111】
このように、電子輸送層6を、電子輸送性の有機化合物(電子を輸送する機能を有する有機化合物)の他に、金属イオンを含む構成とすることにより、電子輸送層6は優れた電子輸送性を発揮する。これにより、この表示装置10は、陽極3と陰極8間に印加する電圧が比較的低くても、発光層5に効率よく電子が注入され、高輝度を得ることができる。
そして、金属イオンは、この電子輸送層6でにおいて、前述したように、陰極8側から発光層5側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配を有して含まれていることから、電子輸送層6に、金属イオンと発光層5中に含まれる発光材料とが接触するのを防止するバリア層としての機能をも発揮させることができる。その結果、電子輸送層6に含まれる金属イオンが発光層5に拡散するのを防止または抑制することができ、発光素子1(表示装置10)を優れた耐久性を有するものとすることができる。
【0112】
<電子機器>
このような表示装置(本発明の発光装置)10は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0113】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0114】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0115】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0116】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0117】
ケース1302の内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0118】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0119】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
以上、本発明の発光装置の製造方法、発光装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【実施例】
【0120】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.表示装置の製造
以下の各実施例および各比較例では、それぞれ、10個の表示装置を製造した。
(実施例1)
<1> まず、平均厚さ1mmのポリカーボネートフィルム基板を用意し、アセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理を施した。
【0121】
<2> 次に、ポリピロールの分散液を用意し、金属化合物としての炭酸セシウム(CsCO)の水溶液を調製した。そして、この分散液および水溶液を、次工程<3>で形成される陰極内に含まれる金属イオンの濃度が50.0wt%となるように混合した。これにより陰極形成用材料を得た。
<3> この調製した陰極形成用材料を、基板上に、スピンコート法により塗布した後、ホットプレート上で、130℃×10分間でアニール処理を行った。これにより、基板上に平均厚さ10nmの陰極を形成した。
以上の工程により、第1の積層体を作製した。
【0122】
<4> 次に、平均厚さ5mmの透明なガラス基板を用意し、このガラス基板上に、前述したようにして回路部を形成した。
<5> 次に、回路部上に、真空蒸着法により、平均厚さ150nmのITO膜を形成した後、フォトリソグラフィー法およびエッチング法を用いてパターニングすることにより、陽極(画素電極)を得た。また、このとき、アライメントマークを形成した。
そして、この回路部および陽極が形成された基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理を施した。
【0123】
<6> 次に、各陽極の縁部を覆うように、ポリイミド(絶縁性の感光性樹脂)を塗布した後、露光することにより、隔壁部を形成した。
<7> 次に、隔壁部の内側に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)の水分散液を、インクジェット法により供給した後、ホットプレート上で、大気圧下200℃×10分間でアニール処理を行った。これにより、陽極層上に平均厚さ60nmの正孔輸送層を形成した。
【0124】
<8> 次に、隔壁部の内側に、ポリジオクチルフルオレンとジオクチルフルオレンとベンゾチアジアゾールの交互共重合体(F8BT)とを溶解したキシレン溶液をインクジェット法により供給した後、乾燥した。これにより、正孔輸送層上に平均厚さ70nmの発光層を形成した。
<9> 次に、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(下記化11に示す有機化合物)をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解することにより電子輸送層形成用材料を調製した。そして、発光層および隔壁部の上に、この電子輸送層形成用材料をスピンコート法により供給した後、ホットプレート上で、130℃×10分間でアニール処理を行った。これにより、発光層および隔壁部の上に、電子輸送層を形成した。
【0125】
【化11】

【0126】
以上の工程により、第2の積層体を作製した。
<10> 次に、電子輸送層と陰極とを、一端側において接触させ、これらを、図2に示すようにして、他端側に向かって順に接合して、図1に示すのと同様の接合体を得、これを表示装置の完成品とした。
なお、このときの条件は、加熱の温度:150℃、加圧の圧力:1kgf/cm、ローラの移動速度:10mm/秒とした。
また、この接合は、支持部により、ポリカーボネートフィルム基板の他端部を、一端側に向かって押圧した状態で行った。
以上の工程により、表示装置を作製した。
【0127】
(実施例2)
前記工程<10>において、一対のロールの内部に配設された電極によって、第1の積層体および第2の積層体の厚さ方向に6Vの電圧を印加して第1の積層体と第2の積層体とを接合した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
(実施例3)
前記工程<10>において、第1の積層体および第2の積層体に、周波数:50kHzの振動を付与しつつ第1の積層体と第2の積層体とを接合した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
【0128】
(実施例4)
前記工程<9>において、電子輸送層形成用材料として、1,1’−チオカルボニルジイミダゾール(下記化6に示す有機化合物)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
(実施例5)
前記工程<2>において、陰極形成用材料を調製する際に用いる金属化合物として、塩化イッテルビウム(YbCl)を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
(実施例6)
前記工程<2>において、陰極形成用材料を調製する際に用いる導電性高分子材料として、ポリピロールに代えてポリパラフェニレンビニレンを使用した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
【0129】
(比較例1)
前記工程<2>において、陰極形成用材料を、金属化合物を混合せずに調製した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
(比較例2)
前記工程<2>において、陰極形成用材料を、金属化合物を混合せずに調製し、前記工程<9>において、電子輸送層形成用材料を、前記化11に示す有機化合物の他に、金属化合物として炭酸セシウム(CsCO)を添加して調製した以外は、前記実施例1と同様にして、表示装置を製造した。
【0130】
(比較例3)
前記工程<1>〜<3>において、陰極を次のようにして形成した以外は、前記実施例1と同様にして、発光素子を製造した。
まず、平均厚さ1mmのポリカーボネートフィルム基板を用意し、アセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理を施した。
この基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ200nmのAl層および平均厚さ1500nmのAl層を形成することにより陰極を得た。
【0131】
2.評価
2−1.金属イオンの存在の確認
各実施例で製造した表示装置について、それぞれ、電子輸送層中に存在する金属イオンの存在を、二次イオン質量分析法(SIMS法)により確認した。
なお、この二次イオン質量分析は、SIMS装置(Physical Electronics社製、「ADEPT1010」)を用いて行った。
【0132】
その結果、各実施例における電子輸送層中には、いずれも、金属イオンが存在しており、陰極から金属イオンが拡散していることが確認できた。
さらに、各実施例において、この金属イオンは、陰極との接触面側に偏在しており、発光層との接触面側には存在していないことが確認できた。これにより、電子輸送層は、金属イオンが発光層と接触するのを防止するバリア層としても機能していることが確認できた。
【0133】
2−2.発光効率の評価
各実施例および各比較例で製造した表示装置について、陽極と陰極との間に10Vの電圧を印加したときの電流値および輝度を測定することにより、発光輝度(cd/m)を求めた。
2−3.耐久性の評価
各実施例および各比較例で製造した表示装置について、陽極と陰極との間に、25Vの電圧を100回繰り返し印加した後、ショートの発生状況を調べた。また、ショートが発生しなかった表示装置について、10Vの電圧を印加したときの発光輝度(cd/m)を前記2−2と同様にして求めた。
2−2(発光効率の評価)および2−3(耐久性の評価)の評価結果を、下記表1に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
なお、表1には、各評価結果について、それぞれ、2−2(発光効率の評価)の比較例1で測定された発光輝度(cd/m)を「1」としたときの相対値として示した。
表1に示すように、各実施例で製造した表示装置は、いずれも、2−2(発光効率の評価)において、高輝度を得ることができた。また、2−3(耐久性の評価)に示すように、高電圧を繰り返し印加した後においても、ショートが発生せず、高輝度が維持されており耐久性に優れていた。
【0136】
これに対して、比較例1のように陰極への金属化合物の添加を省略して製造した表示装置は、耐久性には優れるものの、高輝度を得ることができなかった。
また、比較例2のように電子輸送層に直接金属化合物を添加して製造した表示装置は、初期時においては高輝度が得られるものの、高電圧の繰り返し印加により、輝度の低下が顕著に認められ、耐久性に劣るものであった。
さらに、比較例3のように陰極を金属膜で構成することにより製造した表示装置は、初期時においては高輝度が得られるものの、高電圧の繰り返し印加により、ショートが発生したため輝度の測定が不可能となり、耐久性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の発光装置を適用したアクティブマトリクス型表示装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すアクティブマトリクス型表示装置の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0138】
1……発光素子 3……陽極 4……正孔輸送層 5……発光層 6……電子輸送層 8……陰極 9……上基板 10……表示装置 20……TFT回路基板 21……基板 22……回路部 23……下地保護層 24……駆動用TFT 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 25……第1層間絶縁層 26……第2層間絶縁層 27……配線 31……隔壁部 101……第1の積層体 102……第2の積層体 900a、900b……ローラ 910……支持部 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよび希土類金属イオンのうちの少なくとも1種の金属イオンと、導電性高分子材料とを含有する陰極を形成する第1の工程と、
第2の基板上に、少なくとも陽極と、発光層と、非共有電子対を有する元素を少なくとも1つ含む電子輸送性の有機化合物を含有し、電子を輸送する機能を有する層とを、この順で前記第2の基板側から形成する第2の工程と、
前記陰極の前記第1の基板側と反対側の面と、前記電子を輸送する機能を有する層の前記発光層側と反対側の面とを接触させ、前記第1の基板および前記第2の基板を加熱および加圧することにより、前記陰極と前記電子を輸送する機能を有する層とを接合させるとともに、前記陰極に含有される前記金属イオンを、前記電子を輸送する機能を有する層に拡散させる第3の工程とを有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、前記金属イオンを、前記陰極側から前記発光層側に向かって濃度が低くなるような濃度勾配で形成される請求項1に記載の発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程において、前記第1の基板および前記第2の基板を加熱および加圧するのと同時、またはその直後から、前記第1の基板および前記第2の基板のうちの少なくとも一方に、所定の処理を施すことにより、前記陰極からの前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散を促進させる請求項1または2に記載の発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散は、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加することにより促進される請求項3に記載の発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記電子を輸送する機能を有する層への前記金属イオンの拡散は、前記陰極および前記電子を輸送する機能を有する層のうちの少なくとも一方を振動させることにより促進される請求項3または4に記載の発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記導電性高分子材料は、エチレンジオキシチオフェン骨格を含む高分子化合物で構成される請求項1ないし5のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記非共有電子対を有する元素は、N、O、P、S、AsおよびSeのうちの少なくとも1種である請求項1ないし6のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記電子輸送性の有機化合物は、前記非共有電子対を有する元素を含む縮合複素環化合物またはそれらの誘導体である請求項1ないし7のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記電子輸送性の有機化合物は、前記非共有電子対を有する元素が2重結合または3重結合により他の元素と結合しており、前記結合を形成する2つの元素の間に分極を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、その厚さをDとし、前記有機化合物に含まれる前記非共有電子対を有する元素の合計数から該元素同士が2重結合または3重結合した結合の数を除いた数をA[個]とし、前記金属イオンの数をB[個]としたとき、前記陰極との界面からD×1/5の厚さにおいて、B/Aが0.2以上となるように形成される請求項2ないし9のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項11】
前記第3の工程において、前記陰極と接合された後の前記電子を輸送する機能を有する層は、その厚さをDとし、前記有機化合物に含まれる前記非共有電子対を有する元素の合計数から該元素同士が2重結合または3重結合した結合の数を除いた数をA[個]とし、前記金属イオンの数をB[個]としたとき、前記陰極との界面からD×2/3の厚さにおいて、B/Aが0.1以下となるように形成される請求項2ないし10のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の発光装置の製造方法により製造されたことを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項12に記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−165988(P2008−165988A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350696(P2006−350696)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】