説明

発光装置

【課題】 冷却効率の優れたかつ冷却液路不良の修復が容易な冷却構造を備えるレーザ装置を提供する。
【解決手段】 半導体レーザ素子が配設される基板(1)のヒートシンク側に、レーザ素子と対応してエッチング領域(10)を設け、このエッチング領域をヒートシンクの溝領域(14)と結合させて、冷却液路(19)を形成する。基板を冷却液で直接冷却することにより、冷却効率を改善する。特に、このエッチング領域のエッチング表面は凹凸面であり、冷却液の乱流が生じやすく、また冷却液との接触面積が広くなり、冷却効率を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般に、発光装置に関し、特に、レーザダイオードなどの発光素子の発光時の発熱による温度上昇を抑制する冷却部材を備える発光装置の構成に関する。より特定的には、この発明は、半導体レーザダイオードがアレイ状に配列されるレーザダイオードバー(LDバー)を効率的に冷却する冷却構造を備えるレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、小型、軽量、高効率および長寿命等の特徴を有しており、光通信および光情報処理等の応用分野の光源として広く用いられている。この半導体レーザは鋭いスペクトルを有する放出光を生成するため、この半導体レーザを集積化して高出力化を図り、高出力固体レーザの励起用光源として用いられたり、また、この半導体レーザダイオードアレイ(LDバー)の出力を集光して高出力半導体レーザ加工装置として用いるなどの用途が実現されている。
【0003】
このような半導体レーザダイオードアレイ(LDバー)から高光パワーを出力させる場合、この半導体レーザの電気−光変換効率が、通常、50%程度であり、光パワー出力と同程度以上の多量の発熱が生じる。この発熱による熱飽和により、半導体レーザの出力の飽和が生じ、流入電流に応じてその出力光パワーを増大させることができなくなる。このため、LDバーを冷却する冷却装置が不可欠となる。このような冷却装置として、LDバーとヒートシンクとを接触させ、このヒートシンク内を冷却液を流すことにより、半導体レーザの発熱を抑制する構成が一般的に用いられる。
【0004】
このヒートシンク内に形成される冷却水路の構成としては、たとえば特開2003−8273号公報においては、LDバーが載置される領域下部に、マイクロチャネルと呼ばれる微小水路を形成し、各半導体レーザに対応して、冷却水をマイクロチャネルに沿って流すことにより、LDバーと冷却水との熱交換を行なう構成が示されている。
【0005】
また、このマイクロチャネル方式の冷却装置の場合、冷却装置の内部構造(ヒートシンク内部構造)が複雑となるという問題が生じる。この問題を解決することを目的とする構成が、たとえば特開2004−186212号公報に示されている。この特開2004−186812号公報においては、冷却水路が形成された水冷ブロックに接触してヒートシンクを設け、このヒートシンク上にレーザダイオードアレイおよびこのレーザダイオードに駆動電流を供給する電流供給回路を配置する。このレーザダイオードアレイは、熱伝導度の優れたヒートスプレッダを介してヒートシンクに結合される。この特開2004−186212号公報は、単に水冷ブロック上に平板状のヒートシンクを設けることにより、この冷却水路の形状を簡略化し、冷却装置の構成の簡略化および信頼性の改善を図る。
【0006】
また、同様、冷却装置の構成を簡略化することを目的とする構成が、特開2004−193228号公報に示されている。この特開2004−193228号公報においては、ヒートシンク端部のレーザダイオードアレイを載置する領域に直線状に冷却水路を形成し、この直線状の冷却水路と直交する方向に冷却水排出口および冷却水導入口に接続する冷却水路を形成する。したがって、冷却水路がコの字状に形成され、冷却水路の屈曲部において冷却水の乱流を生じさせ、効率的に、レーザダイオードアレイの除熱を行なうことを図る。
【0007】
また、簡易な回路構成で効率的に熱交換を行なうことを意図するヒートシンクの構造が、特開平8−139479号公報に示されている。この特開平8−139479号公報に示される構成においては、ヒートシンクのレーザダイオードアレイの下部領域に、内壁に凹凸面が形成された冷却領域を配置し、この冷却領域に対向して、銅製パイプで形成される水溜め部が設けられる。この水溜め部においては、レーザダイオードに対応して細孔が設けられ、加圧水路から導入される冷却水を細孔から冷却領域に向かって噴射する。この冷却領域に噴射された冷却水は、同様にヒートシンク内に設けられた空洞部を排出口水路として排出される。この特開平8−139479号公報においては、水溜め部に設けた細孔から冷却水を噴射することにより、冷却部に高圧で冷却液を噴射して、レーザダイオードから発生された熱を効率的に取除くことを図る。
【特許文献1】特開2003−8273号公報
【特許文献2】特開2004−186212号公報
【特許文献3】特開2004−193228号公報
【特許文献4】特開平8−139479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの特許文献1から4に示される構成においては、被冷却体のレーザダイオードは、ヒートシンクに形成された載置領域に配置される。したがって、この被冷却体のレーザダイオードと冷却水との間には、ある厚みを有するヒートシンク本体壁が介在しており、その熱交換効率は、ヒートシンクの本体壁の熱抵抗の影響を受ける。したがって、たとえば無酸素銅などの熱伝導率に優れた(熱抵抗の低い)ヒートシンク材が用いられても、その熱交換率は十分であるとはいえない。特に、固体レーザ励起およびレーザ加工などの用途において用いられる場合、要求される光出力パワーが増大してきており、応じて発熱量も増大する。したがって、このような高出力パワー用途において、ヒートシンク内に形成された冷却水路を流れる冷却水により間接的に被冷却体のレーザダイオードと熱交換を行なう方式では、十分に発熱を抑制することができなくなるという問題が生じる。
【0009】
また、特許文献4に示される構成においては、ヒートシンク内部の空洞壁に形成される冷却部領域に凹凸面が形成され、この凹凸面に冷却水を噴射している。この特許文献4は、厚さ1mm程度の銅板からなるヒートシンク内に形成された空洞部に凹凸面を有する冷却領域を形成することが記載されているものの、どのようにこの凹凸面をレーザダイオードに対応して形成するかについては何ら開示していない。
【0010】
それゆえ、この発明の目的は、効率的に半導体レーザ素子等の発光素子の冷却を行なうことのできる冷却構造を備える発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るレーザ装置は、第1主表面に発光素子部が形成される基板と、この基板の第2主表面に対向して配置される冷却部材を含む。この冷却部材は、基板を直接冷却液で冷却するように冷却液と基板とが接触するように発光素子と対応して形成される冷却液路を含む。
【発明の効果】
【0012】
この発明に従う発光装置においては、半導体発光素子の基板領域が、直接冷却液により冷却される。したがって、冷却液と半導体レーザ素子の基板領域の間には、ヒートシンク側壁などの熱抵抗成分は存在せず、効率的に熱交換を行なって発熱を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う発光装置(以下、単にレーザ装置と称す)の断面構造を概略的に示す図である。図1において、レーザ装置は、基板1の主表面に形成される多層膜反射鏡2と、この多層膜反射鏡2表面上に互いに離間して配置されるN型クラッド層3と、N型クラッド層3上に形成される発光層4と、発光層4上に形成されるP型クラッド層5と、P型クラッド層5上に形成されるP型電極6と、このP型電極6上に形成される多層膜反射鏡7を含む。
【0014】
基板1は、たとえば、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、または炭化シリコン(SiC)等の導電性材料で構成され、シリコンSiに比べて耐熱性に優れ、また、熱抵抗成分が小さい。
【0015】
多層膜反射鏡2は、複数の半導体レーザ素子に共通に基板1の主表面に連続的に形成される。半導体レーザ素子LDは、多層膜反射鏡7、P型電極6、P型クラッド層5、発光層4、N型クラッド層3、多層膜反射鏡2、基板1およびこの基板1下側表面に形成されるN電極8により形成される。半導体レーザ素子LDは、互いに絶縁膜9により分離される。
【0016】
半導体レーザ素子LDは、いわゆる面発光レーザであり、多層膜反射鏡7の反射率が多層膜反射鏡2の反射率よりも低く、反射鏡2および7の間で反射した光が、多層膜反射鏡7を透過して発振光が出力される。
【0017】
基板1の下側表面(第2主表面)に形成されるN電極8は、半導体レーザ素子LDに対応してエッチング除去され、基板1の第2主表面には、エッチング領域10が形成される。図1においては、このエッチング領域10は、断面がテーパ形状を有する溝領域に形成されるように示される。このエッチング領域10の形成方法については、後に詳細に説明する。
【0018】
この基板1の第2主表面に対向して、ヒートシンク12が設けられる。ヒートシンク12は、たとえば無酸素銅などの熱伝導率の高い材料で構成される。ヒートシンク12には、基板1の第2主表面に形成されるエッチング領域10に対応して、溝領域14が形成される。ヒートシンク12は、その表面に形成される接合層16により、エッチング領域10と溝領域14とが位置合わせして密着されるように、N型電極8と接合される。このエッチング領域10および溝領域14により、空洞領域が形成され、この空洞領域により、冷却液が流れる冷却水路19が形成される。冷却水路19を流れる冷却液は、純水またはアルコール等の熱交換率の高い冷却液である。
【0019】
図1に示すように、冷却水路19を流れる冷却液は、直接基板1に直接接触し、直接、基板1と熱交換を行なう。従来の冷却構造のように、ヒートシンクの側壁を介して冷却液が基板またはN電極と熱交換を行なう構成に比べて、冷却効果を改善することができる。特に、エッチング領域10においては、エッチング処理により表面に凹凸面が形成されるため、冷却液と基板1との接触領域が増大し、またこの凹凸面により冷却液の乱流が生じるため、熱交換効率をより改善することができ、効率的に発熱を除去することができる。
【0020】
この図1に示すレーザ装置において、基板1の第2主表面においては、半導体レーザ素子LDの間の領域にエッチング領域10が形成される。したがって、半導体レーザ素子LDにおいては、P電極6およびN電極8は対向して配置されており、基板1に、たとえ窪み状のエッチング領域10を形成しても、レーザ素子の電流経路は悪影響を受けず、したがって、何らレーザ発振動作に対し悪影響は及ぼさない。
【0021】
図2は、図1に示すレーザ装置の平面レイアウトの1例を概略的に示す図である。この図2に示すレーザ装置においては、ヒートシンク12の表面に、レーザダイオードアレイLDBが載置される。このレーザダイオードアレイ(LDバー)LDBには、複数の半導体レーザ素子LDが離間して配置される。このレーザダイオードアレイLDB下部には、エッチング領域10およびヒートシンクの溝部とにより、冷却水路19が形成される。
【0022】
ヒートシンク12が、冷却液導入口21に連通する中空冷却水路20を含む。この中空冷却水路20は、レーザダイオードアレイLDBに沿っ延在する長辺を有する矩形形状を1例として有し、冷却水路19と連通する。
【0023】
レーザダイオードアレイLDBの他方側において、またヒートシンク12は、冷却液排出口22に連通する中空冷却水路24を含む。この中空冷却水路24も、またレーザダイオードアレイLDBの冷却水路19と連通し、冷却液導入口21から導入されて冷却水路19を介して流れた冷却液を、排出口22へ導く。
【0024】
この配置においては、半導体レーザ素子LDは、面発光レーザであり、このヒートシンク12と接触する面と垂直方向に光を放出する。このヒートシンク12上部において、レーザダイオードアレイLDBを載置する領域(上部領域)を設けることにより、この空洞冷却水路20および24と冷却水路19とを連通させることができる。この構成の場合、半導体レーザ素子LDは、その端部(端面)が絶縁膜9により覆われており、ヒートシンク12の端部にレーザダイオード素子LDが接触しても、発光素子部はヒートシンクと電気的に絶縁されており何ら問題は生じない。
【0025】
図3は、レーザ装置の全体の構成の他の構成を概略的に示す図である。この図3に示すレーザ装置においては、レーザダイオードアレイLDBに配置される半導体レーザ素子LDが、図3の紙面に平行な方向にレーザ光hνを放出する。この半導体レーザ素子LDからのレーザ光hνは、図示しないマイクロレンズなどにより集光される。
【0026】
レーザダイオードアレイLDBの基板領域に対向してヒートシンク12が配置される。このヒートシンク12においては、その上部表面に冷却液導入口31が形成され、この冷却液導入口31に連通して冷却水路19に連通する中空領域32が形成される。
【0027】
冷却水路19の下部には、また冷却水路19と連通する中空領域34が形成される。この中空領域34は、ヒートシンク裏面(低部)に形成された冷却液排出口36に連通する。
【0028】
したがって、この冷却液導入口31から導入された冷却液が、中空領域32から冷却水路19へ導入され、この冷却水路19を半導体レーザ素子LDに沿って流れた冷却液は、再び、下部に形成される中空領域34を介して排出口36から排出される。
【0029】
したがって、この図3に示すようにレーザ装置の発光面が、紙面垂直方向の場合においても、確実に、このレーザダイオードアレイLDBの基板領域に形成される冷却水路19により、直接冷却することができる。この図3に示す構成の場合、レーザ装置をスタックし、二次元レーザダイオードアレイを形成することが容易に実現することができる。
【0030】
図4は、図3に示すヒートシンク12の構成の一例を概略的に示す図である。図4において、ヒートシンク12は、上側カバー部30と、本体38と、下側カバー部33を含む。上側カバー部30には、冷却液を導入する導入口31と、この上側カバー部30の下面に冷却液導入口31と連通する深堀領域32が形成される。この深堀領域32は上側カバー部30の厚さよりも小さな深さを有し、冷却液案内溝として作用する。
【0031】
本体38には、レーザダイオードアレイLDBのエッチング領域10に対応して、冷却水路を形成する溝領域14が、その上面から下面に連続的に形成される。このエッチング領域10および溝領域14により、冷却水路19が形成される。
【0032】
下側カバー部33は、その上面に、下側−カバー部33のアツミよりも深さの浅い深堀領域34が形成される。この深堀領域34は、下側カバー部を貫通する冷却液排水口36と連通する。この深堀領域34は、冷却水路19を介して流出された冷却液をすべて受けて、排出口36へ導く。
【0033】
本体38は、レーザダイオードアレイLDBと接合される面においてのみ冷却水路を形成する溝領域14が形成されて、端面は平坦である。したがって、この上側カバー部30、本体38および下側カバー部33をねじなどにより一体的に結合することにより、冷却液導入口31から導入された冷却液が、深堀領域32を介して冷却水路19へ導かれ、次いで、下側カバー部33に形成される深堀領域34に集められて、最終的に冷却液排出口36から排出される。
【0034】
この図3および図4に示される構成において、冷却液導入口および冷却液排出口はヒートシンクの上下面ではなく、その側面に形成されても良い。
【0035】
このヒートシンク19の具体的構成は、図2および図4に示される構成に限定されず、レーザダイオードアレイLDBの基板領域に形成されるエッチング領域10に対向して、冷却水路がヒートシンクに形成される構成であればよい。
【0036】
次に、基板領域に対してエッチング領域10を設ける方法について、具体的に説明する。
【0037】
図5は、レーザ装置の基板1のエッチング領域10の構造の一例を概略的に示す図である。この図5に示すように、基板1の裏面(第2主表面)には、N電極8が形成される。このN電極8に対し、エッチング処理を施し、基板1の第2主表面を露出させる。
【0038】
この基板1が、たとえばGaNを主要構成要素とする場合、KOH(水酸化カリウム)によるウエットエッチングを行った場合、エッチング領域10の表面には凹凸面40が形成される。この場合、80℃、8規定のKOH中に、基板1を浸漬した場合、約10μm/h程度の速度でエッチングが進行する。この条件の場合、凹凸面40のピッチは、1μm程度であり、また、凹凸面40の凹凸形状は、底面形状が六角形のピラミッド形状となる。この基板1の第2主表面のエッチング領域10に、凹凸面40をウエットエッチングにより形成することにより、冷却液との接触面積が大きくなり、また、この凹凸面40により冷却液の対流が生じ、効率的に熱交換を行なうことができる。
【0039】
このKOHをエッチング液としてウエットエッチングを行なう場合、N電極8に対しマスクをする必要がある。KOHエッチング液に対する安定なマスク材としては、チタンTi等のメタルを利用することが可能である。チタンTiをエッチングマスクとしてエッチング領域10を形成した場合、エッチング工程後、このチタンをN電極として利用することができ、別の電極層を形成する工程を省略することができる。ただし、エッチングマスクとしてチタンTiを利用する場合でも、チタンTiが、エッチング液により少し溶解するため、このエッチング深さに応じて、Tiエッチングマスクの膜厚を、エッチング深さ程度厚くする必要がある。
【0040】
図6は、エッチング領域10の他の構造を概略的に示す図である。図6に示す構成においては、エッチング領域10には、深堀溝部42が形成される。この深堀溝部42は、たとえばダイシングを浅く行なうことにより、所定の深さのダイシングラインが溝部として形成される。この後、先の図5において示すエッチング領域と同様のウエットエッチングを行なうことにより、このダイシング領域の表面に凹凸面を形成する。深堀溝部42の断面形状は、このダイシングを行なうブレードの形状により、所望の形状に設定することができる。このダイシングの後に、ウエットエッチングを行なうことにより、基板1に対するダイシングのダメージを除去することができ、また深堀溝部42の表面に凹凸面を形成することができる。
【0041】
この図6に示すエッチング領域10の構成の場合、基板1と冷却液の接触面積をより増大させることができ、より効率的に、熱交換を行なうことができる。
【0042】
また、この深堀溝部42を形成する場合、ダイシングを行なう方法に代えて、塩化ボロン(BCL3)または塩素ガス(CL2)を用いてドライエッチングを行なうことにより、溝部を形成することも考えられる。この場合、ドライエッチングにより、正確に、断面が鋭角な溝領域を形成することができる。このドライエッチングを行なう場合、エッチングレートとしては、100nm/min程度で行なって、所望の深さに、エッチング領域10に急峻な側壁を有する溝領域を形成することができる。
【0043】
このドライエッチング法を行なう場合には、ウエットエッチング時と異なり、凹凸面がエッチング面に形成される度合いは小さい。しかしながら、溝部を形成することにより、基板1と冷却液の接触面積を大きくすることができ、冷却効率を改善することができる。
【0044】
なお、図1に示す接合層16は、金または金合金で構成することにより、電蝕などによる腐食を防止することができる。この場合、半導体レーザ素子LDのN電極8も金で形成し、接合層16も金で形成することにより、金−金接合を固溶により形成することができ、確実な接合を形成することができ、また電蝕等による腐食を防止することができる。
【0045】
この場合、図7に示すように、冷却水路19の冷却液に接触する面にも、金または金合金層を形成することにより、この冷却液による腐食を防止することができる。この場合、冷却水路19のエッチング領域10および溝部14表面には、酸化シリコン膜が形成されてもよい。この場合、図7に示すように基板1のエッチング領域10およびヒートシンク12の溝領域14表面に、金、金合金または酸化シリコンで保護膜44aおよび44bを形成することにより、冷却水路19を流れる冷却液による基板1およびヒートシンク12の腐食を防止することができる。
【0046】
これらの保護層44aおよび44bが形成される場合においても、エッチング領域10の表面に凹凸部が形成されており、この保護層44aおよび44bの膜厚を比較的薄くすることにより、表面の凹凸形状を保護層44aの表面形状にも反映させることができ、同様、冷却水路19における冷却液の基板1との接触面積を等価的に大きくすることができる。また、保護層44aの表面に凹凸が形成されない場合においても、エッチング領域10の基板1の表面に凹凸面が形成されているために、保護層44aとエッチング領域10の基板との接触面積を十分大きくすることができ、保護層44aの熱抵抗が十分小さいため、等価的に、冷却液と基板1との接触面積を大きくすることができる。
【0047】
なお、このN電極8および接合層16は、基板1の溝部形成時のウエットエッチングに対するマスクとなるチタンで形成されてもよい。N電極8および接合層16を同一材料の金属または合金で形成することにより、容易に固溶による接合を形成することができ、腐食を防止することができまた、冷却液の漏れを防止することができる。
【0048】
以上のように、この発明の実施の形態1に従えば、基板領域を直接、冷却液で冷却するように構成しており、効率的に熱交換を行なって、レーザ素子を冷却することができる。
【0049】
なお、基板1の溝部のエッチング領域10表面にのみまたはヒートシンク12の溝領域表面のみに保護膜が形成されてもよい。耐腐食性の小さい部分にのみ保護層を形成することにより、冷却液による腐食を防止することができる。
【0050】
[実施の形態2]
図8は、この発明の実施の形態2に従うレーザ装置の要部の構成を概略的に示す図である。この図8に示すレーザ装置は、図1に示すレーザ装置と以下の点でその構成が異なる。すなわち、ヒートシンク12において、このヒートシンク12自体を冷却するための冷却水路50が設けられる。この図8に示すレーザ装置の他の構成は、図1に示すレーザ装置の構成と同じであり、対応する部分には同一参照番号を付し、その詳細説明は省略する。
【0051】
この図8に示す構成の場合、ヒートシンク本体が、冷却水路50を流れる冷却液により冷却され、その温度上昇が抑制される。したがって、接合層16を介しての、基板1とヒートシンク12の間の熱交換をより効率的に行なうことができる。従って、冷却水路19による基板1の冷却のみならず接合層16を熱交換領域として利用することができ、より冷却効率を改善することができる。
【0052】
この冷却水路50は、各レーザ素子LDに対応して配置されても良く、また、所定数のレーザ素子LDに対応して配置されても良い。
【0053】
以上のように、この発明の実施の形態2に従えば、ヒートシンク本体を冷却する冷却水路50を、基板直冷用の冷却水路19と別に設けており、ヒートシンク12の温度上昇を抑制でき、より効率的に、基板とヒートシンクとの間の熱交換を行なうことができる。
【0054】
[実施の形態3]
図9は、この発明の実施の形態3に従うレーザ装置の要部の構成を概略的に示す図である。この図9に示すレーザ装置においては、冷却水路55が、半導体レーザ素子LDと整列して配置されるように形成される。この冷却水路55は、ヒートシンク12表面に形成される溝領域64と、基板1の裏面に形成されるエッチング領域60を含む。この図9に示すレーザ装置の他の構成は、図1に示すレーザ装置の構成と同じであり、対応する部分には同一参照番号を付し、その詳細説明は省略する。
【0055】
エッチング領域60は、実施の形態1のエッチング領域10と同じ同様であり、形成される位置が異なるだけである。冷却水路55が半導体レーザ素子の発光層直下部に形成される。このレーザ装置において最も発熱の大きい部分は、半導体レーザ素子LDにおいて電流閉込めによる発振動作が行なわれる領域である。したがって、この発熱の最も大きい領域に対応して冷却水路55を配置することにより、効率的に半導体レーザ素子LDにおける発熱を吸収することができる。
【0056】
この図9に示す構成の場合、半導体レーザ素子LDにおいてP電極6直下の領域に、N電極8は形成されず、このN電極8は、半導体レーザ素子LD間の領域に形成される。しかしながら、基板1は、導電性材料で形成されており、発光層4直下部に電極8が形成されていない場合においても、電流は十分に、この基板1内を拡散して、N電極8に到達することができ、十分に半導体レーザ素子において、その発光効率を低下させることなくレーザ発振を行なわせることができる。
【0057】
以上のように、この発明の実施の形態3に従えば、半導体レーザ素子の発光層直下部に冷却水路を直接基板領域を液冷するように形成しており、レーザ発振効率を低下させることなく冷却効率をより改善することができる。
【0058】
[実施の形態4]
図10は、この発明の実施の形態4に従うレーザ装置の要部の断面構造を概略的に示す図である。ヒートシンクには、冷却液を導入する冷却液導入路75と、各半導体レーザ素子LDに対応して形成される冷却液噴射口76と、この噴射口76から噴射された冷却液を排出する冷却液排出路77とが形成される。断面構造においては、ヒートシンクに形成される溝領域82は、冷却液排出路77と連通し、このヒートシンクの溝領域82に対応して、基板1には、エッチング領域60が形成される。ヒートシンクの冷却水路74は、溝領域82とエッチング領域60とで形成される。冷却水路74に対応して冷却液噴射口76が形成される。この冷却水路74は、半導体レーザ素子と整列して形成され、冷却液噴射口76からの噴射冷却液により基板領域を冷却する。
【0059】
この半導体レーザ素子LDの構成は、先の図9に示す半導体レーザ素子LDの構成と同じであり、対応する部分には同一参照番号を付し、その詳細説明は省略する。
【0060】
冷却液導入路75は、ヒートシンク底部領域70とヒートシンク中間領域71の間に形成され、冷却液排出路77は、ヒートシンク中間領域71とヒートシンク上部領域72の間に形成される。このヒートシンク上部領域72は、その領域または形状が、溝部領域82により規定される。冷却液噴出口76は、このヒートシンク71において、冷却水路74と冷却液導入路75とを導通するように形成される。
【0061】
この図10に示すレーザ装置の構成においては、冷却液導入路75を流れる冷却液が、冷却液噴出口76を介して冷却水路74へ噴出される。この噴出された冷却液90は、基板1のエッチング領域60へ噴射液91として噴射され、基板1を冷却する。この噴射冷却液91は、基板1面(エッチング領域)に噴射された後、衝突エネルギにより冷却液排出路77へ、排出冷却液92として排出される。
【0062】
基板1が、エッチング領域60において、噴射冷却液91により冷却されるため、基板1に対して、等価的に冷却液の流速を高くすることができ、また、基板1との熱交換後冷却液が排出冷却液92となって排出されるため、常に、基板1に対しては熱交換前の冷却液を噴射させることができ、基板1の冷却効率を改善することができる。また、冷却水路の冷却液の表面領域においてのみ熱交換する構成に較べて、噴射冷却液のほぼ全体を熱交換に利用することができ、熱交換に寄与する冷却液量を増大させることができ、熱交換効率を改善することができる。
【0063】
図11は、図10に示すヒートシンクの構成の一例を概略的に示す図である。冷却液噴出口76は、ピンホールとして、複数口整列して、冷却水路に対応して形成されてもよいが、図11においては、図面を簡略化するため、この冷却液噴出口76は、スリット状に形成される場合の構成を、一例として示す。
【0064】
また、ヒートシンクは、一体的に形成されてよいものの、この図11においては、冷却液導入路および冷却液排出路の構成をより明確に示すために、ヒートシンクを、中間領域において上部領域および下部領域の2つの領域に分割した構成を示す。
【0065】
図11において、ヒートシンクの上部領域(上面)72およびヒートシンク中間領域71の間に、空洞路が、冷却液排出路77として形成される。このヒートシンク上部領域72の、冷却水路74に対応する領域に、溝領域82が形成される。この溝領域82は、冷却液排出路77と連通する。この溝領域82の底部領域において、ヒートシンク中間領域71にまで到達する噴射口76が、1例としてスリット状に形成される。
【0066】
ヒートシンク中央領域71とヒートシンク底部領域70の間の領域において、冷却液導入路を形成する空洞路75が形成される。このヒートシンク中央領域71表面から冷却液導入路75にまで連通する冷却液噴出口76が、スリット状に形成される。この冷却液導入路75に連通する噴射口76が、冷却水路74に連通する噴射口76と位置合わせされて形成される。
【0067】
これらの図11に示す上側領域および下側領域のヒートシンクを一体的に形成することにより、冷却水路74に対応する領域に噴射口76を形成して、この冷却水路74に連通する冷却液排出路77を形成することができる。この構造において、冷却液導入路75をX方向に冷却液が加圧されて流れる場合、噴射口76により、Z方向に冷却液がその圧力により噴出され、冷却水路74において噴射冷却液が生成され、その後、この冷却水路74の溝領域82に連通する冷却液排出路77により、冷却液が排出される。
【0068】
この冷却液排出路77を流れる冷却液は、図示しない排出口により、ポンプ等により強制的に排出されてもよい。またこれに代えて、Y方向の一方側に、各冷却液排出路77と連通するメインの排出路を設け、このメインの排出路を、冷却機(チラー)に結合される排出口に接続してもよい。
【0069】
なお、この冷却液導入路75および冷却液排出路77の断面形状は矩形形状に形成されている。しかしながら、これらの冷却液導入路75および冷却液排出路77の断面形状は、たとえば楕円形状であってもよい。
【0070】
また、この噴射口76がスリット状に連続的に形成されているものの、前述のようにピンホール状に、複数個離散して噴射口76が形成されてもよい。また、冷却液導入口75および冷却液排出路77は、それぞれ個別的に分離されたたとえばパイプ状の空洞管が複数本配列されて形成されてもよい。
【0071】
以上のように、この発明の実施の形態4に従えば、冷却水路に対し、噴射口からの噴射冷却液を噴出するように構成しており、噴射冷却液で基板を急速に冷却することができ、冷却効率を改善することができる。
【0072】
[実施の形態5]
図12は、図12は、この発明の実施の形態5に従うレーザ装置の冷却構造を概略的に示す図である。図12においては、レーザ装置のヒートシンク100と、このヒートシンク100に形成される冷却水路102を示す。このヒートシンク100に形成される冷却水路102の構成としては、実施の形態1から3のいずれの構成が用いられてもよい。このヒートシンク本体には、冷却液導入口104と冷却液搬出口106が設けられる。このヒートシンク100へは、冷却液が、チラー(冷却機)110から供給される。このチラー110は、冷却液搬出口112と冷却液搬入口114を含む。このチラー110の冷却液送出口112は、たとえばチューブなどの連結管120およびフィルタ115を介してヒートシンク100の冷却液導入口104に結合される。このヒートシンク100の冷却液排出口106は、たとえばチューブなどの連結管122を介してチラー110の冷却液搬入口114に結合される。
【0073】
フィルタ115は、径d2以上の粒子の通過を防止する。ヒートシンク100に形成される冷却水路102の径はd1であり、冷却液導入口104から導入される冷却液に含まれる粒子の最大径は、フィルタ115によりd2に制限され、冷却水路102の径d1よりも小さい。したがって、ヒートシンク100において、冷却液のパーティクルにより、冷却水路102が遮断されまたは冷却水路が狭くなり、冷却効率が低下するのを防止することができる。
【0074】
この図12に示す冷却構造の構成の場合、フィルタ115が径の大きなパーティクルにより詰った場合、フィルタ115の交換を行なうだけで、冷却液搬送路を修復することができ、ヒートシンク100の交換を行なう必要がなく、容易に冷却液搬送路の詰りに対応することができる。また、フィルタ115の価格は、レーザ装置本体の価格に比べて安価であり、冷却液の詰りに起因するレーザ装置の故障をレーザ装置全体の交換を行なうことなく行なうことができる。
【0075】
なお、フィルタ115は、ヒートシンク100の冷却液導入口に脱着可能に取付けられていればよく、任意の構造のフィルタを利用することができる。
【0076】
以上のように、この発明の実施の形態5に従えば、ヒートシンクの冷却水路に対しては、この冷却水路の径よりも小さな径を有する冷却液流路を介して冷却液を導入しており、ヒートシンクの冷却水路の詰りを確実に防止することができる。また、このヒートシンクの冷却水路の径よりも小さな透過径の小さなフィルタを設けることにより、径の大きなパーティクルに起因する冷却水路の詰りをフィルタの交換により修復することができ、装置の修繕を容易に行なうことができ、また冷却水路詰りに起因する修復を安価に行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
この発明に従うレーザ装置は、高出力が要求される発光装置、特に固体半導体レーザ励起用のレーザ装置およびレーザ加工用のレーザ装置に適用することができる。
【0078】
また、レーザ素子の構造としては、面発光レーザに限定されず、基板面と平行な方向に発光するレーザ素子に対しても本発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置の要部の断面構造を概略的に示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置の平面レイアウトを概略的に示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置のヒートシンク載置時の他の構成を概略的に示す図である。
【図4】図3に示すレーザ装置の概略分解組立図である。
【図5】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置の変更例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置の変更例の構成を示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態1に従うレーザ装置の変更例3の構成の断面構造を概略的に示す図である。
【図8】この発明の実施の形態2に従うレーザ装置の要部の断面構造を概略的に示す図である。
【図9】この発明の実施の形態3に従うレーザ装置の要部の断面構造を概略的に示す図である。
【図10】この発明の実施の形態4に従うレーザ装置の要部の断面構造を概略的に示す図である。
【図11】図10に示すレーザ装置のヒートシンクの構成の一例を概略的に示す図である。
【図12】この発明の実施の形態5に従うレーザ装置の冷却構造の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0080】
LD 半導体レーザ素子、1 基板、10 エッチング領域、14 溝領域、12 ヒートシンク本体、16 接合層、8 n電極、19 冷却水路、LDB レーザダイオードアレイ、21 冷却液導入口、22 冷却液排出口、40 凹凸面、42 深彫領域、44a,44b 保護層、50,55 冷却水路、60 エッチング領域、64 溝領域、60 エッチング領域、82 溝領域、70 ヒートシンク底部領域、71 ヒートシンク中間領域、72 ヒートシンク上部領域、74 冷却水路、76 冷却液噴射口、75 冷却液導入路、77 冷却液排出路、100 ヒートシンク、102 冷却水路、104 冷却液導入口、106 冷却液排出口、115 フィルタ、120,122 連結管、110 チラー、112 冷却液送出口、114 冷却液搬入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主表面に発光素子部が形成される基板、および
前記基板の前記第1主表面と対向する第2主表面に対向して配置される冷却部材を備え、前記冷却部材は、前記基板を直接冷却液で冷却するように前記冷却液と前記基板とが接触するように前記発光素子部と対応して形成される冷却液路を備える、発光装置。
【請求項2】
前記基板の前記冷却液路と対応する部分は、少なくともその表面が凹凸形状を有するようにエッチング処理される、請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記基板は、前記冷却液路と対応する部分に形成され前記冷却液が流入する溝部を有する、請求項1記載の発光装置。
【請求項4】
前記冷却部材は、前記冷却液を搬送する流路が形成されるヒートシンクを備え、
前記ヒートシンクは、前記基板と対向する表面に、前記基板表面に形成される電極との接合を形成するための金または金合金層が形成される、請求項1から3のいずれかに記載の発光装置。
【請求項5】
前記基板の前記冷却液路と対応する部分および前記冷却液路の少なくとも一部に形成される腐食保護層をさらに備える、請求項1から4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記保護層は、金またはシリコン酸化膜で形成される、請求項5記載の発光装置。
【請求項7】
前記冷却部材は、前記基板領域と接触する部分に形成される冷却液路と連通しかつその断面積が前記冷却液路よりも小さな冷却液導入路を備える、請求項1から6のいずれかに記載の発光装置。
【請求項8】
前記冷却部材は、前記基板と接触する部分に形成されて、前記冷却液を前記基板に対して噴射する噴流部を備える、請求項1から7のいずれかに記載の発光装置。
【請求項9】
前記基板は、窒化ガリウム、窒化アルミニウムおよび炭化シリコンのいずれかを主要構成要素として含む、請求項1から8のいずれかに記載の発光装置。
【請求項10】
前記冷却液路は、前記発光素子部直下部に形成される、請求項1から9のいずれかに記載の発光装置。
【請求項11】
前記冷却液路は、前記発光素子部の直下部と異なる領域に形成される、請求項1から9のいずれかに記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−86192(P2006−86192A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266892(P2004−266892)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】