説明

発光装置

【課題】 演色性を効果的に高めた発光装置を提供する。
【解決手段】 発光装置1は、所定波長における強度が最大となる光を出射する光源2と、光源2が出射する光を吸収して所定波長よりも長い第1波長における強度が最大となる蛍光を出射する第1蛍光体(黄色蛍光体)51と、光源2が出射する光を吸収して第1波長よりも長い第2波長における強度が最大となる蛍光を出射する第2蛍光体(赤色蛍光体)52と、を備える。第2蛍光体52の、第1波長における光吸収率の波長依存性の絶対値が、0.6%/nm以下になるようにする。これにより、発光装置1が出射する光の演色性を、効果的に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源と当該光源が出射する光を吸収して蛍光を出射する蛍光体とを備えた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)などに代表される素子を用いた発光装置は、低消費電力や、小型、高輝度、長寿命などの利点があるため、近年様々な用途で利用されている。特に、消費電力が大きい白熱灯などに置き換わる照明装置への利用が、注目されている。
【0003】
一般的に、LEDなどの素子は、白熱灯と異なり白色の光を出力することが困難である。そのため、このような素子を用いた発光装置では、当該素子が出射する光を吸収して蛍光を出射する蛍光体をさらに備え、素子と蛍光体とが出射する光の混色によって、白色の光を出射する。例えば、青色の光を出射するLEDと、黄色の蛍光を出射する蛍光体とを備える発光装置が、既に普及している。
【0004】
しかしながら、上記の発光装置が出射する白色(青色及び黄色の混色)の光は、白熱灯などが出射する白色(輻射による自然光に近い白色)の光と比べて、赤色の成分が少ない(寒色系である)。そのため、このような発光装置では、例えば家庭用の照明装置等に求められる暖色系の白色の光を出射することが、困難である。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、青色の光を出射するLED及び黄色の蛍光を出射する蛍光体に、赤色の蛍光を出射する蛍光体をさらに加えることで、赤色の成分を補った白色の光を出射する発光装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−124501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、不足する色の蛍光を出射可能な蛍光体を、発光装置にさらに備えさせることで、当該発光装置が出射する光の演色性を向上させることができる。しかしながら、このような不足する色の成分を補うだけの単純な混色では、演色性を十分に高めることができないため、問題となる。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、演色性を効果的に高めた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、所定波長における強度が最大となる光を出射する光源と、
前記光源が出射する光を吸収して、前記所定波長よりも長い第1波長における強度が最大となる蛍光を出射する第1蛍光体と、
前記光源が出射する光を吸収して、前記第1波長よりも長い第2波長における強度が最大となる蛍光を出射する第2蛍光体と、を備え、
前記第2蛍光体の、前記第1波長における光吸収率の波長依存性の絶対値が、0.6%/nm以下であることを特徴とする発光装置を提供する。
【0010】
例えば、第2蛍光体の第1波長における光吸収率の波長依存性は、光吸収率の波長に対する傾きとして求めることができる。
【0011】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記所定波長が、420nm以上480nm以下であり、
前記第1波長が、500nm以上580nm以下であり、
前記第2波長が、600nm以上680nm以下であると、好ましい。
【0012】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記第2蛍光体の、前記第1波長における光吸収率の波長依存性の絶対値が、0.4%/nm以下であると、好ましい。
【0013】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記第1蛍光体が出射する蛍光について、前記第1波長における強度の1/2となる波長のうち短い方をλs、長い方をλlと表し、
前記第2蛍光体のある波長λにおける光吸収率をRAbs(λ)と表すとき、
RAbs(λl)/RAbs(λs)が、0.21よりも大きいと、好ましい。
【0014】
さらに、上記特徴の発光装置は、RAbs(λl)/RAbs(λs)が、0.24よりも大きいと、好ましい。
【0015】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記第1蛍光体が、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体であり、
前記第2蛍光体が、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体であると、好ましい。
【0016】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記第2蛍光体の母体が、(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)の組成式で表されるものであると、好ましい。
【0017】
さらに、上記特徴の発光装置は、前記第2蛍光体の母体の組成式(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)におけるbの値が、0以上0.4以下であると、好ましい。
【発明の効果】
【0018】
後述のように、本願発明者の鋭意研究によって、第1蛍光体の蛍光領域における第2蛍光体の光吸収率の波長依存性を小さくすることで、発光装置の演色性を効果的に高めることができるという知見が得られた。上記特徴の発光装置は、第1蛍光体の蛍光領域における第2蛍光体の光吸収率の波長依存性を小さくすることで、演色性を効果的に高めたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る発光装置の概略構造の一例を示す断面図
【図2】共通製造例により得られる黄色蛍光体の特性について示すグラフ
【図3】第1製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフ
【図4】第2製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフ
【図5】第1比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフ
【図6】第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフ
【図7】実施例1〜4及び比較例1〜4について説明する表
【図8】実施例1〜4の発光装置の特性について示すグラフ
【図9】比較例1〜4の発光装置の特性について示すグラフ
【図10】実施例1〜4の発光装置の特性と比較例1〜4の発光装置の特性とを比較して示す表
【図11】第1製造例、第2製造例、第1比較製造例及び第2比較製造例のそれぞれにより得られる赤色蛍光体の特性を比較して示すグラフ
【図12】赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性と演色性との関係を示すグラフ
【図13】赤色蛍光体の光吸収率の比(RAbs(λl)/RAbs(λs))と演色性との関係を示すグラフ
【図14】第3比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフ
【図15】bの値と赤色蛍光体の特性との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
<<発光装置の概略構造例>>
最初に、本発明の実施形態に係る発光装置の概略構造の一例について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る発光装置の概略構造の一例を示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、発光装置1は、LEDから成る光源2と、上面に光源2が設けられる基板3と、基板3の上面に設けられ光源2が内側に配置される枠体4と、枠体4の内側に充填されるモールド部5と、光源2と基板3とを電気的に接続する導電性の接着剤6及びワイヤ7と、を備える。
【0022】
光源2は、例えばInGaNを活性層として含む半導体層21と、当該半導体装置を挟持するp側電極22及びn側電極23と、を備える。基板3は、例えばプリント基板から成り、その上面及び下面にかけて、p電極部31及びn電極部32が形成されている。p側電極22及びp電極部31は、接着剤6によって固着されるとともに、電気的に接続される。また、n側電極23及びn電極部32は、ワイヤ7によって電気的に接続される。このように、基板3と光源2とが電気的に接続された状態で、枠体4の内側にモールド部5が充填されて、光源2が封止される。
【0023】
光源2は、p電極部31及び接着剤6やn電極部32及びワイヤ7を介して供給される電力により励起して、青色の光(強度が最大となる波長、即ちピーク波長が、420nm以上480nm以下である光、以下同じ)を出射する。黄色蛍光体51は、光源2が出射する青色の光を吸収して、黄色の蛍光(ピーク波長が、500nm以上580nm以下である光、以下同じ)を出射する。赤色蛍光体52は、光源2が出射する青色の光を吸収して、赤色の蛍光(ピーク波長が、600nm以上680nm以下である光、以下同じ)を出射する。
【0024】
光源2は、上述のLEDに限られず、青色の光を出射可能なLD(Laser Diode)や無機EL(electroluminescence)素子等の公知である種々の素子を、適用可能である。例えば市販品(例えばCree社等)のLEDを、上述の光源2に適用可能である。
【0025】
モールド部5は、透光性樹脂(例えば、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂等)50と、当該透光性樹脂50内に分散されて光源2が出射する光を吸収して(当該光により励起されて)黄色の蛍光を出射する蛍光体(以下、黄色蛍光体とする)51と、当該透光性樹脂50内に分散されて光源2が出射する光を吸収して(当該光により励起されて)赤色の蛍光を出射する蛍光体(以下、赤色蛍光体とする)52と、を備える。透光性樹脂50への黄色蛍光体51及び赤色蛍光体52の分散方法は、どのようなものであっても良く、公知の方法を適用可能である。
【0026】
透光性樹脂50と黄色蛍光体51及び赤色蛍光体52との混合比率は、出射しようとする光の色(例えば、白熱灯が出射するような自然光に近い暖色系の白色)に応じて、適宜選択可能である。具体的に例えば、透光性樹脂50の黄色蛍光体51及び赤色蛍光体52に対する質量比(透光性樹脂50の質量/(黄色蛍光体51及び赤色蛍光体52を合わせた質量))が、5以上50以下の範囲内になるように決定しても良い。また例えば、赤色蛍光体52の黄色蛍光体51に対する質量比(赤色蛍光体52/黄色蛍光体51の質量比)が、0.1以上1以下の範囲内になるように決定しても良い。
【0027】
なお、上述した本発明の実施形態に係る発光装置1は一例に過ぎず、本発明は他の構造の発光装置についても当然に適用可能である。ただし、以下では説明の具体化のために、特に言及しない限り、上述した発光装置1について想定しているものとする。
【0028】
<<黄色蛍光体及び赤色蛍光体の製造方法>>
黄色蛍光体及び赤色蛍光体の製造方法例について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下に挙げる製造方法例の一部(特に、発光装置の実施例が備える黄色蛍光体及び赤色蛍光体を製造し得る製造方法例)は、本発明の発光装置に適用可能な製造方法の例に過ぎず、本発明の発光装置は、当該製造方法例によって得られるものに限定されない。
【0029】
<(発光装置の実施例及び比較例が備える)黄色蛍光体の製造方法>
例えば、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体(組成式YAl12(Y,Al,Oの一部または全部を所定の元素で置換したものを含む)を含む蛍光体。以下同じ。)などを、黄色蛍光体に利用することができる。具体的に例えば、組成式Y3−aCeAl12の蛍光体を、黄色蛍光体に利用することができる。当該黄色蛍光体は、例えば以下に説明する共通製造例によって得られる。なお、以下説明する共通製造例は、後述する発光装置の実施例及び比較例が備える黄色蛍光体を製造し得るものである。
【0030】
[共通製造例]
共通製造例は、組成式Y3−aCeAl12において、a=0.065となる黄色蛍光体を製造するものである。当該共通製造例では、最初に、86.1質量%の酸化イットリウム粉末と、2.1質量%の酸化セリウム粉末と、11.8質量%の酸化アルミニウム粉末と、焼成助剤である所定量のフッ化カルシウム及びリン酸水素アンモニウムを秤量し、メノウ製ボールとナイロンポットとを用いた転動ボールミルにより混合する。次に、得られた混合物を石英ルツボに充填し、95体積%の窒素と5体積%の水素とから成る還元雰囲気において、1550℃で10時間保持する。そして、得られた焼成体をメノウ製乳鉢により粉砕することで、粉末状の黄色蛍光体が得られる。
【0031】
共通製造例により得られる黄色蛍光体の特性について、図2を参照して説明する。図2は、共通製造例により得られる黄色蛍光体の特性について示すグラフである。図2に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を黄色蛍光体に照射した場合における、蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。
【0032】
図2に示すように、共通製造例により得られる黄色蛍光体は、青色の光を吸収して、ピーク波長が558nm、半値幅が115nmである黄色の蛍光を出射する。また、当該黄色蛍光体が出射する蛍光について、ピーク波長における強度の1/2となる波長のうち、波長の短いものをλs(以下同じ)、波長の長いものをλl(以下同じ)とすると、λs=515nm、λl=630nmである。さらに、当該黄色蛍光体の蛍光スペクトルの色度座標は、(x,y)=(0.447,0.534)である。
【0033】
<(発光装置の実施例が備える)赤色蛍光体の製造方法>
例えば、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体(組成式CaAlSiN(Ca,Al,Si,Nの一部または全部を所定の元素で置換したものを含む)を含む蛍光体。以下同じ。)などを、赤色蛍光体に利用することができる。具体的に例えば、組成式(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)の蛍光体を、赤色蛍光体に利用することができる。当該赤色蛍光体は、例えば以下に説明する第1製造例及び第2製造例によって得られる。なお、以下説明する第1製造例及び第2製造例は、後述する発光装置の実施例が備える赤色蛍光体を製造し得るものである。
【0034】
[第1製造例]
第1製造例は、(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)において、b=0及びc(1−b)=0.008となる赤色蛍光体を製造するものである。
【0035】
最初に、29.7質量%の窒化アルミニウム粉末と、33.9質量%のα型窒化ケイ素粉末と、35.5質量%の窒化カルシウム粉末と、1.0質量%の窒化ユーロピウム粉末とを秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用いて10分以上混合する。なお、この窒化ユーロピウムは、金属ユーロピウムをアンモニア中で窒化合成したものである。
【0036】
次に、得られた粉体凝集物を、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて充填する。なお、これまでの工程(粉末原料の秤量、混合及び成形)は、水分1ppm以下かつ酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持するグローブボックス内で行う。
【0037】
粉体凝集物が充填されたるつぼを、99.999体積%及び1MPaの窒素雰囲気で、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉を用いて加熱する。このとき、毎時500℃の昇温速度で1800℃まで昇温し、さらに1800℃で2時間保持する。そして、得られた焼成体をメノウ製乳鉢により粉砕することで、粉末状の赤色蛍光体が得られる。
【0038】
上記のようにして得られた赤色蛍光体の粉末は、CaAlSiN結晶の構造を有するCaAlSiN相を主相(最も多く存在する相。具体的に例えば、50質量%以上存在する相。以下同じ。)とする結晶構造である。なお、当該結晶構造は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって確認された。また、当該赤色蛍光体の粉末に、波長450nmの光を照射したところ、赤色の蛍光の出射が確認された。
【0039】
第1製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光特性について、図3を参照して説明する。図3は、第1製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフである。図3(a)に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を赤色蛍光体に照射した場合における、蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。また、図3(b)に示すグラフは、赤色蛍光体の光吸収スペクトルを示すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は光吸収率(%)である。なお、図3(b)に示すグラフは、第1製造例により得られた粉末状の赤色蛍光体を、自然落下及びタッピングによって深さ5mm及び直径15mmの測定用セルに可能な限り密に充填し、この赤色蛍光体が充填されたセルを、分光光度計及び積分球を備えた測定系で測定することにより得られたものである。
【0040】
図3(a)に示すように、第1製造例により得られる赤色蛍光体は、青色の光を吸収して、ピーク波長が648nm、半値幅が89nmである赤色の蛍光を出射する。また、当該赤色蛍光体の蛍光スペクトルの色度座標は、(x,y)=(0.657,0.340)である。
【0041】
また、図3(b)に示すグラフについて、上述の共通製造例により得られる黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における、当該赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性(光吸収率の波長に対する傾き。以下同じ。)の絶対値を求めると、0.38%/nmである。さらに、図3(b)に示すグラフについて、上述の波長λsにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λs)で、上述の波長λlにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λl)を除した比を求めると、RAbs(λl)/RAbs(λs)=0.25である。
【0042】
[第2製造例]
第2製造例は、(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)において、b=0.33及びc(1−b)=0.023となる赤色蛍光体を製造するものである。
【0043】
最初に、14.3質量%の窒化アルミニウム粉末と、8.9質量%の酸化アルミニウム粉末と、48.9質量%のα型窒化ケイ素粉末と、25.0質量%の窒化カルシウム粉末と、3.0質量%の酸化ユーロピウム粉末とを秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用いて10分以上混合する。
【0044】
次に、得られた粉体凝集物を、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて充填する。なお、これまでの工程(粉末原料の秤量、混合及び成形)は、水分1ppm以下かつ酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持するグローブボックス内で行う。
【0045】
粉体凝集物が充填されたるつぼを、99.999体積%及び1MPaの窒素雰囲気で、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉を用いて加熱する。このとき、毎時500℃の昇温速度で1800℃まで昇温し、さらに1800℃で2時間保持する。そして、得られた焼成体をメノウ製乳鉢により粉砕することで、粉末状の赤色蛍光体が得られる。
【0046】
上記のようにして得られた赤色蛍光体の粉末は、CaAlSiN結晶の構造を有するCaAlSiN相を主相とする結晶構造である。なお、当該結晶構造は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって確認された。また、当該赤色蛍光体の粉末に、波長450nmの光を照射したところ、赤色の蛍光の出射が確認された。
【0047】
第2製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光特性について、図4を参照して説明する。図4は、第2製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフである。図4(a)に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を赤色蛍光体に照射した場合における、蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。また、図4(b)に示すグラフは、赤色蛍光体の光吸収スペクトルを示すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は光吸収率(%)である。なお、図4(b)に示すグラフは、第2製造例により得られた粉末状の赤色蛍光体を、自然落下及びタッピングによって深さ5mm及び直径15mmの測定用セルに可能な限り密に充填し、この赤色蛍光体が充填されたセルを、分光光度計及び積分球を備えた測定系で測定することにより得られたものである。
【0048】
図4(a)に示すように、第2製造例により得られる赤色蛍光体は、青色の光を吸収して、ピーク波長が643nm、半値幅が100nmである赤色の蛍光を出射する。また、当該赤色蛍光体の蛍光スペクトルの色度座標は、(x,y)=(0.628,0.369)である。
【0049】
また、図4(b)に示すグラフについて、上述の共通製造例により得られる黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における、当該赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値を求めると、0.43%/nmである。さらに、図4(b)に示すグラフについて、上述の波長λsにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λs)で、上述の波長λlにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λl)を除した比を求めると、RAbs(λl)/RAbs(λs)=0.24である。
【0050】
<(発光装置の比較例が備える)赤色蛍光体の製造方法>
例えば、Euを賦活剤として添加したBaSi系の蛍光体や、Euを賦活剤として添加したSrSi系の蛍光体も、赤色蛍光体に利用することができる。これらの赤色蛍光体は、例えば以下に説明する第1比較製造例や第2比較製造例によって得られる。なお、以下説明する第1比較製造例及び第2比較製造例は、後述する発光装置の比較例が備える赤色蛍光体を製造し得るものである。
【0051】
[第1比較製造例]
第1比較製造例は、Euを賦活剤として添加したBaSi系の蛍光体から成る赤色蛍光体を製造するものである。
【0052】
最初に、44.1質量%のα型窒化ケイ素粉末と、55.5質量%の窒化バリウム粉末と、0.4質量%の窒化ユーロピウム粉末とを秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用いて10分以上混合する。なお、この窒化ユーロピウムは、金属ユーロピウムをアンモニア中で窒化合成したものである。
【0053】
次に、得られた粉体凝集物を、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて充填する。なお、これまでの工程(粉末原料の秤量、混合及び成形)は、水分1ppm以下かつ酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持するグローブボックス内で行う。
【0054】
粉体凝集物が充填されたるつぼを、99.999体積%及び1MPaの窒素雰囲気で、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉を用いて加熱する。このとき、毎時500℃の昇温速度で1600℃まで昇温し、さらに1600℃で2時間保持する。そして、得られた焼成体をメノウ製乳鉢により粉砕することで、粉末状の赤色蛍光体が得られる。
【0055】
上記のようにして得られた赤色蛍光体の粉末は、BaSi結晶の構造を有するBaSi相を主相とする結晶構造である。なお、当該結晶構造は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって確認された。また、当該赤色蛍光体の粉末に、波長365nmの光を照射したところ、赤色の蛍光の出射が確認された。
【0056】
第1比較製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光特性について、図5を参照して説明する。図5は、第1比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフである。図5(a)に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を赤色蛍光体に照射した場合における、蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。また、図5(b)に示すグラフは、赤色蛍光体の光吸収スペクトルを示すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は光吸収率(%)である。なお、図5(b)に示すグラフは、第1比較製造例により得られた粉末状の赤色蛍光体を、自然落下及びタッピングによって深さ5mm及び直径15mmの測定用セルに可能な限り密に充填し、この赤色蛍光体が充填されたセルを、分光光度計及び積分球を備えた測定系で測定することにより得られたものである。
【0057】
図5(a)に示すように、第1比較製造例により得られる赤色蛍光体は、青色の光を吸収して、ピーク波長が650nm、半値幅が107nmである赤色の蛍光を出射する。また、当該赤色蛍光体の蛍光スペクトルの色度座標は、(x,y)=(0.663,0.337)である。
【0058】
また、図5(b)に示すグラフについて、上述の共通製造例により得られる黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における、当該赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値を求めると、0.75%/nmである。さらに、図4(b)に示すグラフについて、上述の波長λsにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λs)で、上述の波長λlにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λl)を除した比を求めると、RAbs(λl)/RAbs(λs)=0.18である。
【0059】
[第2比較製造例]
第2比較製造例は、Euを賦活剤として添加したSrSi系の蛍光体から成る赤色蛍光体を製造するものである。
【0060】
最初に、54.3質量%のα型窒化ケイ素粉末と、45.1質量%の窒化ストロンチウム粉末と、0.6質量%の窒化ユーロピウム粉末とを秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用いて10分以上混合する。なお、この窒化ユーロピウムは、金属ユーロピウムをアンモニア中で窒化合成したものである。
【0061】
次に、得られた粉体凝集物を、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて充填する。なお、これまでの工程(粉末原料の秤量、混合及び成形)は、水分1ppm以下かつ酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持するグローブボックス内で行う。
【0062】
粉体凝集物が充填されたるつぼを、99.999体積%及び1MPaの窒素雰囲気で、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉を用いて加熱する。このとき、毎時500℃の昇温速度で1600℃まで昇温し、さらに1600℃で2時間保持する。そして、得られた焼成体をメノウ製乳鉢により粉砕することで、粉末状の赤色蛍光体が得られる。
【0063】
上記のようにして得られた赤色蛍光体の粉末は、SrSi結晶の構造を有するSrSi相を主相とする結晶構造である。なお、当該結晶構造は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって確認された。また、当該赤色蛍光体の粉末に、波長365nmの光を照射したところ、赤色の蛍光の出射が確認された。
【0064】
第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光特性について、図6を参照して説明する。図6は、第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフである。図6(a)に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を赤色蛍光体に照射した場合における、蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。また、図6(b)に示すグラフは、赤色蛍光体の光吸収スペクトルを示すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は光吸収率(%)である。なお、図6(b)に示すグラフは、第2比較製造例により得られた粉末状の赤色蛍光体を、自然落下及びタッピングによって深さ5mm及び直径15mmの測定用セルに可能な限り密に充填し、この赤色蛍光体が充填されたセルを、分光光度計及び積分球を備えた測定系で測定することにより得られたものである。
【0065】
図6(a)に示すように、第2比較製造例により得られる赤色蛍光体は、青色の光を吸収して、ピーク波長が642nm、半値幅が106nmである赤色の蛍光を出射する。また、当該赤色蛍光体の蛍光スペクトルの色度座標は、(x,y)=(0.657,0.343)である。
【0066】
また、図6(b)に示すグラフについて、上述の共通製造例により得られる黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における、当該赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値を求めると、0.83%/nmである。さらに、図6(b)に示すグラフについて、上述の波長λsにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λs)で、上述の波長λlにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λl)を除した比を求めると、RAbs(λl)/RAbs(λs)=0.17である。
【0067】
なお、上述した黄色蛍光体及び赤色蛍光体の光吸収率の測定や、後述する蛍光体の光吸収率の測定において、例えば、「大久保和明 他 『NBS標準蛍光体の量子効率測定』照明学会誌 第83巻 第2号、p.87(1999)」に記載の測定方法を適用可能である。
【0068】
<<発光装置の実施例及び比較例>>
以下、本発明の実施形態に係る発光装置の実施例1〜4と、発光装置の比較例1〜4とをそれぞれ挙げるとともに、これらの発光装置について図面を参照して説明する。
【0069】
最初に、実施例1〜4及び比較例1〜4について、図7を参照して説明する。図7は、実施例1〜4及び比較例1〜4について説明する表である。
【0070】
図7に示すように、実施例1及び実施例3の発光装置は、第1製造例により得られた赤色蛍光体を備え、実施例2及び実施例4の発光装置は、第2製造例により得られた赤色蛍光体を備える。一方、比較例1及び比較例3の発光装置は、第1比較製造例により得られた赤色蛍光体を備え、比較例2及び比較例4の発光装置は、第2比較製造例により得られた赤色蛍光体を備える。また、図7に示すように、実施例1及び実施例2の発光装置は、出射する光のピーク波長が450nmの光源を備え、実施例3及び実施例4の発光装置は、出射する光のピーク波長が460nmの光源を備える。一方、比較例1及び比較例2の発光装置は、出射する光のピーク波長が450nmの光源を備え、比較例3及び比較例4の発光装置は、出射する光のピーク波長が460nmの光源を備える。なお、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置は、共通製造例により得られた黄色蛍光体を備える。また、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置は、同様の光源(例えば、商品名:EZR、Cree社製)、同様の透光性樹脂(例えば、商品名:KER2500、信越シリコーン社製)を備える。
【0071】
また、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置のそれぞれは、出射する光が電球色となるように(例えば、色度座標(x,y)=(0.451〜0.452,0.408〜0.409)になるように)調整されている。具体的には、モールド部を構成する透光性樹脂と黄色蛍光体及び赤色蛍光体の質量比や、赤色蛍光体と黄色蛍光体との質量比が、それぞれの発光装置において調整されている。
【0072】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置の特性について、図8〜図10を参照して説明する。図8は、実施例1〜4の発光装置の特性について示すグラフである。また、図9は、比較例1〜4の発光装置の特性について示すグラフである。また、図10は、実施例1〜4の発光装置の特性と比較例1〜4の発光装置の特性とを比較して示す表である。
【0073】
図8(a)は、実施例1の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図8(b)は、実施例2の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図8(c)は、実施例3の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図8(d)は、実施例4の発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。また、図8(a)〜(d)のグラフの横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。
【0074】
図9(a)は、比較例1の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図9(b)は、比較例2の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図9(c)は、比較例3の発光装置の発光スペクトルを示すグラフであり、図9(d)は、比較例4の発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。また、図9(a)〜(d)のグラフの横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。
【0075】
図10に示す表は、図8及び図9に示すグラフから求められる特性を示したものである。図10(a)は、光源のピーク波長が450nmである実施例1及び実施例2の発光装置の特性と、同様に光源のピーク波長が450nmである比較例1及び比較例2の発光装置の特性とを比較して示した表である。一方、図10(b)は、光源のピーク波長が460nmである実施例3及び実施例4の発光装置の特性と、同様に光源のピーク波長が460nmである比較例3及び比較例4の発光装置の特性とを比較して示した表である。
【0076】
図10に示す表におけるRa及びR9のそれぞれは、演色性を評価した値である。Raは、所定の複数色の演色性を評価した値を平均化して得られる平均演色評価数であり、R9は、赤色の演色性を評価した値を示す特殊演色評価数である。Ra及びR9の値が大きいほど、演色性が高い発光装置であることを示している。
【0077】
また、図10に示す表におけるTCP、Duv、x及びyは、発光装置が出射する光の色を示すものである。上述のように、x及びyは、色度座標を示す値である。TCPは、相関色温度(対象となる光を、黒体放射線軌跡上の光とみなして求める色温度)を示す値である。Duvは、対象となる光と黒体放射軌跡とのずれを示す値である。図10に示すように、実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置のそれぞれが出射する光は、電球色になっている。
【0078】
図10(a)に示すように、実施例1及び実施例2の発光装置は、比較例1及び比較例2の発光装置と比較して、Ra及びR9が大きい。即ち、実施例1及び実施例2の発光装置は、比較例1及び比較例2の発光装置よりも演色性が高く、特に赤色の演色性が高くなっている。また、図10(b)に示すように、実施例3及び実施例4の発光装置は、比較例3及び比較例4の発光装置と比較して、Ra及びR9が大きい。即ち、実施例3及び実施例4の発光装置は、比較例3及び比較例4の発光装置よりも演色性が高く、特に赤色の演色性が高くなっている。
【0079】
したがって、実施例1〜4の発光装置は、例えば家庭用の照明装置等に求められる暖色系の白色の光を、出射することが可能である。特に、実施例3の発光装置の演色性(Ra=82.8、R9=42.8)は、室内用蛍光灯の主流である3波長蛍光管の演色性(Ra=81、R9=26)をも上回っている。
【0080】
上述のように、実施例1〜4の発光装置は、比較例1〜4の発光装置よりも演色性が高い。この要因について、以下図11〜図13を参照して説明する。図11は、第1製造例、第2製造例、第1比較製造例及び第2比較製造例のそれぞれにより得られる赤色蛍光体の特性を比較して示すグラフである。図12は、赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性と演色性との関係を示すグラフである。図13は、赤色蛍光体の光吸収率の比(RAbs(λl)/RAbs(λs))と演色性との関係を示すグラフである。
【0081】
図11に示すグラフは、ピーク波長450nmの光(青色の光)を、第1製造例、第2製造例、第1比較製造例及び第2比較製造例のそれぞれにより得られる赤色蛍光体に照射した場合におけるそれぞれの蛍光スペクトルを示したものであり、横軸は波長(nm)、縦軸は強度(任意の強度で規格化したもの)である。図12(a)は、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性を横軸、Raを縦軸としてその関係を示したグラフであり、図12(b)は、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性を横軸、R9を縦軸としてその関係を示したグラフである。また、図13(a)は、RAbs(λl)/RAbs(λs)を横軸、Raを縦軸としてその関係を示したグラフであり、図13(b)は、RAbs(λl)/RAbs(λs)を横軸、R9を縦軸としてその関係を示したグラフである。また、図12及び図13に示すグラフは、上述の実施例1〜4及び比較例1〜4の発光装置の特性に基づいて得られたものである。
【0082】
図11に示すように、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光スペクトルと、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光スペクトルとを比較すると、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光スペクトルの方が、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光スペクトルよりも、長波長成分が大きくなっている。
【0083】
一般的な知見(例えば、上述の特許文献1の知見)に基づく場合、長波長成分が大きい赤色蛍光体を用いるほど、発光装置が出射する光の演色性が向上すると考えられる。即ち、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体を用いた発光装置の方が、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体を用いた発光装置よりも、発光装置が出射する光の演色性が高くなると考えられる。
【0084】
しかしながら、実際は、図10を参照して説明したように、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体を用いた発光装置の方が、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体を用いた発光装置よりも、発光装置が出射する光の演色性が高くなる。これは、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における光吸収率の波長依存性が、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体よりも小さいことに起因しているものと推測される。
【0085】
具体的に例えば、上述のように第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における光吸収率の波長依存性は、0.5%/nm以下である。これに対して、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における光吸収率の波長依存性は、0.7%/nm以上となっている。
【0086】
さらに、図3(b)〜図6(b)に示した光吸収スペクトルを示すグラフにおいて、波長が550nm近傍よりも短い領域では、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収率が、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収率よりも、小さくなっている。一方、波長が550nm近傍よりも長い領域では、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収率が、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収率よりも、大きくなっている。即ち、黄色蛍光体が出射する蛍光の波長が含まれる領域(以下、蛍光領域とする)において、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収量(当該蛍光領域における光吸収率の積分値、以下同じ)と、第1比較製造例及び第2比較製造例により得られる赤色蛍光体の光吸収量とは略等しくなっている。
【0087】
以上の通り、発光装置の演色性は、赤色蛍光体の光吸収量ではなく、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収スペトルの形状に依存している。具体的には、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収スペトルの形状がなだらかである(光吸収率の波長依存性が小さい)ほど、発光装置の演色性が高くなる。
【0088】
一般的な知見に基づくと、黄色蛍光体の蛍光領域において、赤色蛍光体の光吸収率が大きい場合、発光装置の外部に出射される黄色の光の強度が低下し、演色性が低下するようにも思われる。しかしながら、上述の通り実際には、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性が大きい(短波長から長波長にかけて光吸収率が大きく変動する)ほど、演色性が低くなる。したがって、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性が小さくなるように規定することで、発光装置の演色性を効果的に高めることができる。
【0089】
ここで、図12及び図13を参照して、発光装置の演色性を高めるための具体的な条件について説明する。
【0090】
まず、図12に示すように、発光装置の演色性を示すRa及びR9は、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値が0.6%/nm以下になると、急激に大きくなる。即ち、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値を、0.6%/nm以下(好ましくは0.43%/nm以下、さらに好ましくは0.4%/nm以下)にすることで、発光装置の演色性を効果的に高めることが可能になる。
【0091】
また、図13に示すように、発光装置の演色性を示すRa及びR9は、上述の波長λs,λlにおける赤色蛍光体のそれぞれの光吸収率の比RAbs(λl)/RAbs(λs)が0.21より大きくなると、急激に大きくなる。即ち、RAbs(λl)/RAbs(λs)を、0.21より大きくする(さらに好ましくは0.24よりも大きくする)ことで、発光装置の演色性を効果的に高めることが可能になる。
【0092】
<<赤色蛍光体の最適化>>
図10に示したように、第1製造例により得られる赤色蛍光体を備えた実施例1及び実施例3の方が、第1製造例により得られる赤色蛍光体を備えた実施例2及び実施例4よりも、演色性(Ra及びR9)が高くなる。これは、上述の通り、第1製造例により得られる赤色蛍光体の方が、第2製造例により得られる赤色蛍光体よりも、光吸収率の波長依存性が小さいことに起因するためである。以下では、光吸収率の波長依存性が小さい赤色蛍光体の製造方法(即ち、赤色蛍光体の最適化)について、図面を参照して説明する。
【0093】
[第3比較製造例]
最初に、第3比較製造例について説明する。第3比較製造例は、(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)において、b=0.45及びc(1−b)=0.023となる赤色蛍光体を製造するものである。
【0094】
第3比較製造例は、17.4質量%の窒化アルミニウム粉末と、44.4質量%のα型窒化ケイ素粉末と、20.1質量%の酸化ケイ素粉末と、20.1質量%の窒化カルシウム粉末と、3.1質量%の窒化ユーロピウム粉末とに対して、第1製造例及び第2製造例と同様の製造方法を適用することで、赤色蛍光体を得る。このようにして得られた赤色蛍光体の粉末は、CaAlSiN結晶の構造を有するCaAlSiN相を主相とする結晶構造である。なお、当該結晶構造は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)によって確認された。また、当該赤色蛍光体の粉末に、波長450nmの光を照射したところ、赤色の蛍光の出射が確認された。
【0095】
第3比較製造例により得られる赤色蛍光体の蛍光特性について、図14を参照して説明する。図14は、第3比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性について示すグラフである。図14に示すグラフは、赤色蛍光体の光吸収スペクトルを示すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は光吸収率(%)である。なお、図14に示すグラフは、第3比較製造例により得られた粉末状の赤色蛍光体を、自然落下及びタッピングによって深さ5mm及び直径15mmの測定用セルに可能な限り密に充填し、この赤色蛍光体が充填されたセルを、分光光度計及び積分球を備えた測定系で測定することにより得られたものである。
【0096】
図14に示すグラフについて、上述の共通製造例により得られる黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における、当該赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値を求めると、0.62%/nmである。さらに、図14に示すグラフについて、上述の波長λsにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λs)で、上述の波長λlにおける当該赤色蛍光体の光吸収率RAbs(λl)を除した比を求めると、RAbs(λl)/RAbs(λs)=0.19である。
【0097】
第3比較製造例により得られる赤色蛍光体は、第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体と同様に、CaAlSiN結晶の構造を有する。しかしながら、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長(558nm)における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性の絶対値は0.6%/nm以上であり、RAbs(λl)/RAbs(λs)は0.21より小さい。即ち、当該赤色蛍光体は、上述した発光装置の演色性を効果的に高める条件を満たしておらず、例えば暖色系の光を出射する発光装置には適用し難いものとなっている。
【0098】
ここで、赤色蛍光体の組成式(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)におけるbの値と、赤色蛍光体の特性との関係について、図15を参照して説明する。図15は、bの値と赤色蛍光体の特性との関係を示すグラフである。図15(a)は、bの値を横軸、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性を縦軸としてその関係を示したグラフであり、図15(b)は、bの値を横軸、RAbs(λl)/RAbs(λs)を縦軸としてその関係を示したグラフである。また、図15に示すグラフは、上述の第1製造例及び第2製造例により得られる赤色蛍光体の特性と、第3比較製造例により得られる赤色蛍光体の特性とに基づいて得られたものである。
【0099】
図15(a)に示すように、bの値を0.4より大きくすると、黄色蛍光体が出射する蛍光のピーク波長における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性が、急激に大きくなる。また、図15(b)に示すように、bの値を0.4より大きくすると、上述の波長λs,λlにおける赤色蛍光体のそれぞれの光吸収率の比RAbs(λl)/RAbs(λs)が、急激に小さくなる。
【0100】
したがって、bの値を0以上0.4以下にする(好ましくは0.33以下、さらに好ましくは0.3以下にする)ことで、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性を小さくして、発光装置の演色性を効果的に高めることが可能になる。
【0101】
組成式(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)の赤色蛍光体は、結晶構造をCaAlSiN構造に保ったまま酸素を固溶し得る。当該赤色蛍光体は、bの値が増大して酸素の固溶量が増大すると、光吸収特性が変化して、上述した黄色蛍光体の蛍光領域における光吸収率の波長依存性が増大し得る。そのため、上記組成式におけるbの値を小さくすることで、黄色蛍光体の蛍光領域における赤色蛍光体の光吸収率の波長依存性を低減することができる。
【0102】
<変形等>
[1] 光源は、上述の青色の光を出射する限り、どのようなものを適用しても良い。ただし、発光効率の観点から、ピーク波長が420nm以上480nm以下の光を出射する光源を適用すると、好ましい。また、蛍光体の励起効率をより高く、発光装置のRa及びR9の値をより高くする(演色性を高める)観点から、ピーク波長が440nm以上470nm以下の光を出射する光源、さらにはピーク波長が455nm以上の光を出射する光源を適用すると、特に好ましい。
【0103】
[2] 黄色蛍光体として、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体を例示したが、これ以外の蛍光体を適用しても良い。ただし、Ceを賦活剤として添加したYAG蛍光体は、黄色の蛍光を高効率で出射することができる。そのため、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体を、黄色蛍光体に適用すると、好ましい。特に(Y1−dGd3−e(Al1−fGa12Ce(0≦d≦1、0<e≦0.2、0≦f≦1)の組成式で示される蛍光体は、蛍光効率が高く、蛍光スペクトルが上述の発光装置にとって好適なものとなり得るため、好ましい。なお、dの値を大きくすると、当該蛍光体が出射する蛍光の波長を、長波長化することができる。また、fの値を大きくすると、当該蛍光体が出射する蛍光の波長を、短波長化することができる。一方、dの値を0.8よりも大きくすると、蛍光体の発光効率が急激に低下し得る。
【0104】
[3] 赤色蛍光体として、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体を例示したが、これ以外の蛍光体(例えば、窒化物系の蛍光体や酸窒化物系の蛍光体)を適用しても良い。ただし、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体は、蛍光効率が高く、温度特性等の安定性に優れるとともに、上述のように黄色蛍光体(特に、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体)の蛍光領域において、光吸収率の波長依存性が少ない。そのため、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体を、赤色蛍光体に適用すると、好ましい。
【0105】
[4] 青色の光を出射する光源と、光源が出射する青色の光を吸収して青色よりも波長の長い黄色の蛍光を出射する黄色蛍光体と、光源が出射する青色の光を吸収して黄色よりも波長の長い赤色の蛍光を出射する赤色蛍光体と、を備える発光装置に対して本発明を適用する場合を例示したが、本発明は、他の構成の発光装置にも適用可能である。特に、光を出射する光源と、光源が出射する光を吸収して当該光源が出射する光よりも波長の長い蛍光を出射する第1の蛍光体と、光源が出射する光を吸収して第1の蛍光体が出射する蛍光よりも波長の長い蛍光を出射する第2の蛍光体と、を少なくとも備える発光装置に、適用可能である。
【0106】
具体的に例えば、青色の光を出射する光源と、光源が出射する青色の光を吸収して青色よりも波長の長い緑色の蛍光を出射する緑色蛍光体と、光源が出射する青色の光を吸収して緑色よりも波長の長い赤色の蛍光を出射する赤色蛍光体と、を備える発光装置に対して、本発明を適用しても良い。なお、光源が出射する光は可視光に限られず、紫外光などであっても良い。また、3つ以上の蛍光体を備える発光装置に対して、本発明を適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の発光装置は、家庭用照明や医療用照明、車両用灯具等の各種照明装置に適用されるLED等の発光装置に、好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0108】
1 : 発光装置
2 : 光源
3 : 基板
4 : 枠体
5 : モールド部
50 : 透光性樹脂
51 : 黄色蛍光体
52 : 赤色蛍光体
6 : 接着剤
7 : ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長における強度が最大となる光を出射する光源と、
前記光源が出射する光を吸収して、前記所定波長よりも長い第1波長における強度が最大となる蛍光を出射する第1蛍光体と、
前記光源が出射する光を吸収して、前記第1波長よりも長い第2波長における強度が最大となる蛍光を出射する第2蛍光体と、を備え、
前記第2蛍光体の、前記第1波長における光吸収率の波長依存性の絶対値が、0.6%/nm以下であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記所定波長が、420nm以上480nm以下であり、
前記第1波長が、500nm以上580nm以下であり、
前記第2波長が、600nm以上680nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記第2蛍光体の、前記第1波長における光吸収率の波長依存性の絶対値が、0.4%/nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1蛍光体が出射する蛍光について、前記第1波長における強度の1/2となる波長のうち短い方をλs、長い方をλlと表し、
前記第2蛍光体のある波長λにおける光吸収率をRAbs(λ)と表すとき、
RAbs(λl)/RAbs(λs)が、0.21よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の発光装置。
【請求項5】
RAbs(λl)/RAbs(λs)が、0.24よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第1蛍光体が、Ceを賦活剤として添加したYAG系の蛍光体であり、
前記第2蛍光体が、Euを賦活剤として添加したCaAlSiN系の蛍光体であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第2蛍光体の母体が、(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)の組成式で表されるものであることを特徴とする請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第2蛍光体の母体の組成式(Ca1−cEuAlSiN1−b(SiO)におけるbの値が、0以上0.4以下であることを特徴とする請求項7に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−246462(P2012−246462A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121811(P2011−121811)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】