説明

発振回路

【課題】出力高調波が少なく安定性が高いフィルタ帰還型の特性を有し、発振周波数を広い範囲で制御することができる発振回路を提供する。
【解決手段】増幅回路10の出力は、周波数特性の異なる2つのバンドパスフィルタ13、14に分配回路11により所定の比率に分配されて供給される。バンドパスフィルタ13、14の出力は加算回路15により加算される。さらに、この加算後の出力は増幅回路10の入力に帰還され、この増幅回路10により増幅される。このような処理により、増幅回路10の出力の一部が入力側に正帰還され、所定周波数の信号の増幅が繰り返されて、所定周波数にて発振する出力信号Voutが生成される。このとき、制御回路12により、前記分配回路11によって分配される前記所定の比率を変更することにより、出力信号Voutの発振周波数が制御される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発振周波数が制御可能な発振回路に関し、特にPLL検波回路、TVのPIF検波などに用いられるものである。
【0002】
【従来の技術】近年、TVのPIF検波では、VCO(電圧制御発振器)をPLL(フェーズロックドループ)で引き込んだ信号で同期検波を行う方式が主流となっている。PIF検波に用いる発振回路は、発振周波数が数十MHzと高く、また周波数ジッタが少ない安定性の高いものが要求される。このため、図7に示すようなLCによる共振を利用した発振回路を一般的に用いている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述したようなLCによる共振を利用した発振回路では、インダクタ素子Lは集積化できないため、コスト削減、回路の小型化の妨げになっている。さらに、前記発振回路では、電流源の電流量を可変とすることで発振周波数の制御が可能となるものの、発振周波数の変化幅は非常に狭い。
【0004】一方、図8に示すように、増幅回路101の出力をバンドパスフィルタ(BPF)102を介して帰還する発振回路は安定性が高く使いやすい。しかし、中心周波数f0固定のバンドパスフィルタでは発振周波数を制御できない。そこで、図9に示すような、gmアンプ103、104を使ったバイカットフィルタを用いた発振回路とすれば、中心周波数の制御が可能であるため、発振周波数を制御できる。しかし、一般にgmアンプは、ノイズを発生しやすくコントロール電流に比例して周波数が変化するため、感度が高くて安定性が悪く、十分な性能が得られない。
【0005】そこで本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、出力高調波が少なく安定性が高いフィルタ帰還型の特性を有し、発振周波数を広い範囲で制御することができる発振回路を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明に係る発振回路は、互いに周波数特性の異なる複数のフィルタ回路と、前記複数のフィルタ回路の出力を加算及び増幅する加算増幅手段と、前記加算増幅手段の出力を所望の比率で分割して、前記複数のフィルタ回路に供給する分配手段と、前記分配手段における前記比率を設定する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0007】また、本発明に係る発振回路は、差動増幅器を構成する第1、第2のトランジスタと、共にエミッタが接続され、前記エミッタが前記第1のトランジスタのコレクタに接続された第3、第4のトランジスタと、共にエミッタが接続され、前記エミッタが前記第2のトランジスタのコレクタに接続された第5、第6のトランジスタと、前記第3のトランジスタのコレクタが入力部に接続され、出力部が前記第2のトランジスタのベースに接続された第1のフィルタ回路と、前記第5のトランジスタのコレクタが入力部に接続され、出力部が前記第1のトランジスタのベースに接続された第2のフィルタ回路と、前記第3のトランジスタ及び第6のトランジスタのベースに供給される第1のベース電位と、前記第4のトランジスタ及び第5のトランジスタのベースに供給される第2のベース電位とを制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0008】この発明の発振回路は、加算増幅手段の出力を、分配手段で一旦分割して複数のフィルタ回路に供給し、互いに周波数特性の異なる前記複数のフィルタ回路を通してから、前記加算増幅手段の入力に帰還させる。このとき、複数のフィルタ回路に供給する信号の分配比率を制御手段にて変更することにより、発振周波数の制御が可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
【0010】[第1の実施形態]図1は、この発明の第1の実施形態の発振回路の構成を示すブロック図である。
【0011】この発振回路は、入力信号を増幅する増幅回路10、この増幅回路10の出力を受け取り第1信号S1、第2信号S2の2つの信号に分配する分配回路11、分配回路11にて2つの信号に分配するときの分配比率を制御する制御回路12、前記第1信号を受け取り、所定の中心周波数f01周辺の狭帯域を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)13、前記第2信号を受け取り、前記中心周波数f01と異なる中心周波数f02周辺の狭帯域を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)14、2つのバンドパスフィルタ13、14の出力を受け取り、加算処理して前記増幅回路10に出力する加算回路15を有している。
【0012】このように構成された発振回路の動作は次のようになる。まず、最初の入力信号が増幅回路10に入力されると、増幅されて分配回路11に入力される。前記最初の入力信号は、電源をオンしたときに回路に発生するノイズ信号等である。この分配回路11に入力された信号は、第1信号S1、第2信号S2の2つの信号に分配される。このとき、第1信号S1と第2信号S2の分配比率は、制御回路12から分配回路11に出力される制御信号CLにより設定される。
【0013】さらに、前記第1信号S1はバンドパスフィルタ(BPF)13に、第2信号S2はバンドパスフィルタ(BPF)14にそれぞれ入力される。このとき、バンドパスフィルタ13、14は、それぞれ異なる中心周波数f01、f02を有している。このため、第1信号S1は、中心周波数f01から離れた周波数成分が除去されて加算回路15に入力される。同様に、第2信号S2は、中心周波数f02から離れた周波数成分が除去されて加算回路15に入力される。前記加算回路15に入力された第1信号S1、第2信号S2は、加算処理されて再び前記増幅回路10に入力される。
【0014】図2(a)は加算回路15から出力される信号の周波数と出力レベルとの関係を示す図であり、図2R>2(b)は前記信号の周波数と位相との関係を示す図である。例えば、分配回路11により第1信号S1と第2信号S2の分配比率が、S1:S2=1:0で分配された場合には、加算回路15から出力される信号は図2(a)、(b)中のAに示すような信号となる。また、第1信号S1と第2信号S2の分配比率が、S1:S2=0:1で分配された場合には、加算回路15から出力される信号は図2(a)、(b)中のBに示すような信号となる。分配比率が、S1:S2=0.5:0.5で分配された場合には、加算回路15から出力される信号は図2(a)、(b)中のCに示すような信号となる。
【0015】このような処理により、増幅回路10の出力の一部が増幅回路10の入力側に正帰還され、所定周波数の信号の増幅が繰り返されることになる。そして、前記所定周波数の信号は、ある値で飽和して発振状態を保持するようになり、所定発振周波数を有する出力信号Voutとして外部に出力される。
【0016】ここでは、制御回路12から分配回路11へ出力される制御信号CLにて設定される分配比率により、第1信号と第2信号を加算した後の信号の周波数が変更される。この周波数は、中心周波数f01と中心周波数f02との間で変更が可能である。このように、増幅回路10に入力される信号を、中心周波数f01と中心周波数f02との間で変更できるため、発振周波数を広い範囲で制御することが可能になる。
【0017】前記バンドパスフィルタ13、14には、図3に示すようなCRで構成する1次のハイパスフィルタ(HPF)とローパスフィルタ(LPF)を組み合わせた簡単な回路を用いることができる。この回路は、コンデンサC1と抵抗R1からなるハイパスフィルタ(HPF)と、抵抗R2とコンデンサC2からなるローパスフィルタ(LPF)を組み合わせたフィルタである。図中のVBは、バイアス電圧である。
【0018】また、バンドパスフィルタ13、14には、アクティブフィルタ、例えば図4に示すようなオペアンプA1、コンデンサC3、C4、抵抗R3、R4で構成する2次のバンドパスフィルタを用いることができる。
【0019】前記バンドパスフィルタ13、14に図3R>3、図4に示すフィルタを用いた場合、半導体基板への集積化が可能となる。これにより、コスト低減、小型化を推進することができる。さらに、図4に示すフィルタを用いた場合、高い選択度Qを得ることができる。これにより、発振周波数の選択特性を高め、高調波を減らすことが可能となる。
【0020】また、前記制御回路12には、例えば図5に示すような回路が用いられる。この回路は、トランジスタQ1〜Q4、電流源I1〜I3からなっている。電流源I1、I2の流す電流の比率を変化させることにより、制御側アンプの出力電流I01、I02の比率をコントロールする。すなわち、出力電流I01、I02の比率を、電流源I1、I2の流す電流の比率に分配できる。これにより、分配回路11により分配される第1信号S1、第2信号S2の分配比率が変更できる。
【0021】通常、バンドパスフィルタを用いた帰還による発振回路は、バンドパスフィルタが共振周波数f0で、出力ゲインが最大で、位相が0度になるため、この帰還ゲインを1にすることにより、ほぼf0で発振し、高調波が少なく安定性が高い。
【0022】この実施形態では、前述したように、それぞれf01、f02の共振周波数(中心周波数)をもつバンドパスフィルタ13、バンドパスフィルタ14へ入力される電流の分配比率を変えることにより、これら電流の加算後の特性は図2(a)に示す中心周波数f01とf02との間で変化する。すなわち、バンドパスフィルタ13、14へ出力される電流の分配比率を変えることにより、バンドパスフィルタの中心周波数f0を変化させるのと同じ特性が得られる。これを用いてバンドパスフィルタの中心周波数f0を制御することで、この実施形態の発振回路における発振周波数を変化させることができる。
【0023】前記バンドパスフィルタは、図3に示すようにCRで構成することにより、外付けLが不用となり集積化が可能となる。また、図4に示すような固定のアクティブフィルタを用いてQを上げることにより、周波数の選択特性を高め、高調波を減らすことが可能である。さらに、中心周波数f01と中心周波数f02の間隔を狭めることにより、制御電圧などの変動に対する感度を下げることができ、純度の高い安定した発振が可能となる。
【0024】以上説明したようにこの第1の実施形態によれば、出力高調波が少なく安定性が高いバンドパスフィルタ帰還型の特性を保ちながら、発振周波数の変更を行うことができる。
【0025】[第2の実施形態]図6は、この発明の第2の実施形態の発振回路の構成を示す図である。
【0026】この発振回路は、前記第1の実施形態における加算回路15、増幅回路10、及び分配回路11を、図6に示すような回路構成により実現したものである。その他の構成は、前記第1の実施形態と同様である。
【0027】この発振回路は、次のように構成されている。図6に示すように、トランジスタQ11、Q12のそれぞれのエミッタ間には抵抗R11が配置され、トランジスタQ11のエミッタとGND(接地電位点)との間には電流源I11が配置されている。さらに、トランジスタQ12のエミッタとGNDとの間には、電流源I12が配置されている。これにより、差動増幅器が構成されている。
【0028】前記トランジスタQ11のコレクタにはトランジスタQ13、Q14のエミッタが接続され、前記トランジスタQ12のコレクタにはトランジスタQ15、Q16のエミッタが接続される。前記トランジスタQ13、Q16のベース同士が接続され、この接続点が制御回路12の第1端子に接続される。前記トランジスタQ14、Q15のベース同士が接続され、この接続点が制御回路12の第2端子に接続される。
【0029】前記トランジスタQ13のコレクタはバンドパスフィルタ13の入力部に接続され、前記トランジスタQ15のコレクタはバンドパスフィルタ14の入力部に接続される。そして、前記バンドパスフィルタ13の出力部はトランジスタQ12のベースに接続され、前記バンドパスフィルタ14の出力部はトランジスタQ11のベースに接続される。
【0030】このように構成された発振回路は、次のように動作する。
【0031】まず、前記トランジスタQ13、Q16のベース電位と、前記トランジスタQ14、Q15のベース電位を、制御回路12により変化させる。これにより、トランジスタQ13、Q16のコレクタと、トランジスタQ14、Q15のコレクタとに出力を分配し、出力比率を設定する。
【0032】こうして、トランジスタQ13のコレクタの出力をバンドパスフィルタ13を通してトランジスタQ12のベースに帰還する。また、トランジスタQ15のコレクタの出力をバンドパスフィルタ14を通してトランジスタQ11のベースに帰還する。前記トランジスタQ11、Q12から構成される差動増幅器は、入力されたコレクタの出力を加算し増幅して、分配回路として働くトランジスタQ13、Q14のエミッタ、及びトランジスタQ15、Q16のエミッタに出力する。これらエミッタに入力された電流は、前記トランジスタQ13〜Q16から構成される分配回路により分配されて、再びバンドパスフィルタ13、14に出力される。
【0033】このような処理により、差動増幅器の出力の一部が差動増幅器の入力側に正帰還され、所定周波数の信号の増幅が繰り返されることになる。そして、前記所定周波数の信号は、ある値で飽和して発振状態を保持するようになり、所定発振周波数を有する出力信号Voutとして外部に出力される。
【0034】このような発振回路では、回路途中に余分なアンプや抵抗などが入らないため、周波数制限が少なく、バンドパスフィルタの特性がそのまま発振特性となり、高周波まで安定した発振が可能である。また、図1に示す加算回路、増幅回路、及び分配回路は、きわめて簡単な回路にて構成できる。また、この第2の実施形態においても、バンドパスフィルタ13、14に図3及び図4に示す回路を、制御回路12に図5に示す回路を用いることができる。
【0035】以上説明したようにこの第2の実施形態によれば、出力高調波が少なく安定性が高いバンドパスフィルタ帰還型の特性を保ちながら、発振周波数の変更を行うことができる。
【0036】また、前記第1、第2の実施形態では、分配回路の出力とバンドパスフィルタを2つ設けたが、3つ以上設けてもよく、制御回路により適当な切り換え、電流の分配を行うことにより、より高いQを保ちながら、より広範囲に発振周波数を変更することができる。
【0037】図1に示すように、加算回路は増幅回路の前段に設けているが、各々のバンドパスフィルタの後段に増幅回路を設けて、これら増幅回路の後段に加算回路を設けても効果は同じである。出力は複数あるため、信号経路は容易に差動化でき、高周波に適した回路となる。
【0038】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、出力高調波が少なく安定性が高いフィルタ帰還型の特性を有し、発振周波数を広い範囲で制御することができる発振回路を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施形態の発振回路の構成を示すブロック図である。
【図2】前記発振回路における加算回路から出力される信号の周波数特性を示す図である。
【図3】前記発振回路におけるバンドパスフィルタの構成例を示す回路図である。
【図4】前記発振回路におけるバンドパスフィルタの他の構成例を示す回路図である。
【図5】前記発振回路における制御回路の構成例を示す回路図である。
【図6】この発明の第2の実施形態の発振回路の構成を示す図である。
【図7】従来のLC発振回路の一例である。
【図8】従来の帰還型発振回路の一例である。
【図9】従来のバイカットフィルタを用いた発振回路の一例である。
【符号の説明】
10…増幅回路
11…分配回路
12…制御回路
13…バンドパスフィルタ(BPF)
14…バンドパスフィルタ(BPF)
15…加算回路
A1…オペアンプ
C1〜C4…コンデンサ
I1〜I3…電流源
I11、I12…電流源
R1〜R4…抵抗
R11…抵抗
Q1〜Q4…トランジスタ
Q11〜Q16…トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに周波数特性の異なる複数のフィルタ回路と、前記複数のフィルタ回路の出力を加算及び増幅する加算増幅手段と、前記加算増幅手段の出力を所望の比率で分割して、前記複数のフィルタ回路に供給する分配手段と、前記分配手段における前記比率を設定する制御手段と、を具備することを特徴とする発振回路。
【請求項2】 前記加算増幅手段は、前記複数のフィルタ回路の出力を加算する加算手段と、前記加算手段の出力を増幅する増幅手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】 前記加算増幅手段は、前記複数のフィルタ回路の出力を増幅する複数の増幅手段と、前記複数の増幅手段の出力を加算する加算手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の発振回路。
【請求項4】 差動増幅器を構成する第1、第2のトランジスタと、共にエミッタが接続され、前記エミッタが前記第1のトランジスタのコレクタに接続された第3、第4のトランジスタと、共にエミッタが接続され、前記エミッタが前記第2のトランジスタのコレクタに接続された第5、第6のトランジスタと、前記第3のトランジスタのコレクタが入力部に接続され、出力部が前記第2のトランジスタのベースに接続された第1のフィルタ回路と、前記第5のトランジスタのコレクタが入力部に接続され、出力部が前記第1のトランジスタのベースに接続された第2のフィルタ回路と、前記第3のトランジスタ及び第6のトランジスタのベースに供給される第1のベース電位と、前記第4のトランジスタ及び第5のトランジスタのベースに供給される第2のベース電位とを制御する制御手段と、を具備することを特徴とする発振回路。
【請求項5】 前記フィルタ回路は、互いに中心周波数の異なるバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の発振回路。
【請求項6】 前記バンドパスフィルタは、ハイパスフィルタとローパスフィルタを組み合わせた回路であることを特徴とする請求項5に記載の発振回路。
【請求項7】 前記バンドパスフィルタは、アクティブフィルタであることを特徴とする請求項5に記載の発振回路。
【請求項8】 前記加算増幅手段は、差動増幅器からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−315914(P2000−315914A)
【公開日】平成12年11月14日(2000.11.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−123789
【出願日】平成11年4月30日(1999.4.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】