説明

発泡充填具

【課題】中空構造体に対する発泡充填具の配置後においても貫通孔を使用することができるとともに、貫通孔が形成されている部位を発泡体によって効率的に充填するに際して、貫通孔から発泡体が膨出する現象を抑制することができる発泡充填具を提供する。
【解決手段】発泡充填具11には、発泡体を形成する基体12が備えられ、貫通孔33aを有する中空構造体31の内部に配置される。基体12には、貫通孔33aの開口よりも広い開口面積を有して貫通孔33aを取り囲むように配置される開口部12aが形成されている。発泡充填具11には、加熱の際に基体12の流動又は熱膨張に追従する上壁13が備えられ、上壁13はその追従により貫通孔33aの開口の少なくとも一部を閉塞することで基体12の貫通孔33aへの侵入を抑制する。上壁13は、開口部12aの周縁部に設けられるとともに貫通孔33aの周囲に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造体の内部において発泡体を形成して、中空構造体の内部空間に発泡体を充填するための発泡充填具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両のピラー等はインナパネルとアウタパネルとが一体となって構成されることで、中空構造を有している。このような中空構造体の内部空間に、発泡体を充填することによって、中空構造体の振動が抑制されるため、そうした振動に基づく異音の発生が抑制される。また、充填された発泡体によって、中空構造体の内部空間における空気の流通が抑制されるため、空気の流通に基づく異音の発生が抑制される。そして、例えば車両において、中空構造体に起因する異音の発生が抑制される結果、車内の静粛性を確保することができる。従来、中空構造体の内部空間への発泡体の充填には、加熱により発泡体を形成する基体が備えられた発泡充填具が用いられている。こうした発泡充填具は、中空構造体の内部に配置した後、中空構造体とともに加熱されることにより、中空構造体の内部空間には発泡体が充填される。
【0003】
ところで一般に、中空構造体を構成するパネルには、中空構造体の搬送、中空構造体の組み付け、パネル同士の位置決め等に利用される貫通孔が形成されている。このような貫通孔は、その役割を果たした後には通常不要となる。すなわち、使用後の貫通孔は中空構造体の内部に空気を流入する孔となり得るため、異音の発生等の要因となるおそれがある。このため、使用後の貫通孔は、上述した発泡体により被覆することが好ましい。さらに、貫通孔が形成されている部位にも発泡体が充填されることで、中空構造体の振動が好適に抑制される。ところが、貫通孔が形成されている部位に発泡体を充填するに際して、貫通孔を通じて中空構造体の外部に発泡体が膨出して形成されてしまうことがある。このように中空構造体の外部に膨出した発泡体は、不要であることに加えて、そうした発泡体の膨出が極度になれば、発泡体の充填後において、中空構造体に沿って内装部品を取り付ける際の妨げとなったり、膨出した発泡体が視認されることで意匠性が低下したりするといった不具合を招来する。そこで従来、貫通孔から発泡体が膨出して形成される現象を抑制する発泡充填具が提案されている(特許文献1参照)。この発泡充填具は、加熱により発泡する基体と、構造物との接合面に設けられたネットとから構成されている。さらにこのネットは、構造物に設けられている貫通孔よりも小さな目合を有するとともに、構造物の貫通孔を被覆すべく基体に配置されている。この発泡充填具は、加熱により基体が発泡するに際して、発泡体の貫通孔への侵入を、貫通孔を被覆したネットが抑制する。
【特許文献1】特開2001−153231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中空構造体に形成される貫通孔には、中空構造体の内部に発泡充填具を配置した後には全く使用しない貫通孔と、発泡充填具を配置した後に使用される貫通孔とが存在する。上述した従来の発泡充填具は、貫通孔の開口部にネットを介して基体を配置する構成としているため、その発泡充填具が中空構造体に配置された状態において、貫通孔は発泡充填具により閉塞されている。従って、中空構造体に発泡充填具を配置した後の貫通孔の使用は、配置された発泡充填具によって妨げられてしまう。例えば、発泡充填具を配置した後に中空構造体を車両へ組み付ける組み付け工程において、中空構造体を産業用ロボットのアームによって把持させるための貫通孔の場合には、その貫通孔の使用は発泡充填具によって妨げられてしまう。また例えば、車体の電着塗装において中空構造体の内部に侵入した電着液を効率的に排出させるための貫通孔の場合も同様に、その貫通孔の使用は発泡充填具によって妨げられてしまう。すなわち、従来の発泡充填具では、貫通孔が形成されている部位を発泡体によって効率的に充填するに際して、貫通孔からの発泡体の膨出を抑制することができるものの、発泡充填具の配置後において貫通孔の使用が妨げられてしまうという問題があった。
【0005】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、中空構造体に対する発泡充填具の配置後においても貫通孔を使用することができるとともに、貫通孔が形成されている部位を発泡体によって効率的に充填するに際して、貫通孔から発泡体が膨出する現象を抑制することができる発泡充填具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、加熱により発泡及び硬化した発泡体を形成する基体が備えられ、貫通孔を有する中空構造体の内部に配置した後に前記基体が加熱されることにより、前記中空構造体の内部空間を前記発泡体で充填する発泡充填具であって、前記基体には、前記貫通孔の開口よりも広い開口面積を有して前記貫通孔を取り囲むように配置される開口部が形成されるとともに、前記加熱の際に前記基体の流動又は熱膨張に追従する移動体が備えられ、該移動体は、前記追従により前記貫通孔の開口の少なくとも一部を閉塞することで前記基体の前記貫通孔への侵入を抑制すべく、前記開口部の周縁部に設けられるとともに前記貫通孔の周囲に配置されることを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、基体の有する開口部は貫通孔を取り囲むようにして配置されるため、貫通孔が形成されている部位を発泡体によって効率的に閉塞することができる。さらに基体には、加熱の際において、基体の流動又は熱膨張に追従する移動体が備えられている。そして移動体は、開口部の周縁部に設けられるとともに貫通孔の周囲に配置される。このように配置された移動体は、貫通孔の開口の少なくとも一部を上述した追従に伴って閉塞することで、基体の貫通孔への侵入を抑制する。このため、発泡体は、中空構造体の内部空間において好適に形成される。加えて、発泡充填具を中空構造体の内部に配置して加熱を開始するまでの間においては、移動体が貫通孔の周囲に配置されるため、移動体が貫通孔の使用を妨げることなく、貫通孔を好適に使用することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発泡充填具において、前記移動体は、前記基体と前記中空構造体との間に介在された底壁と一体に形成されるとともに、前記開口部の周縁部を前記底壁と挟み込む上壁であることを要旨とする。
【0009】
この構成によれば、底壁は基体と中空構造体との間に介在されているため、底壁の移動は抑制される一方で、底壁と一体に形成された上壁は底壁に支持されて移動される。すなわち、上壁が基体の流動又は熱膨張に追従するに際して、上壁は底壁に対して展開されるようにして、貫通孔を塞ぐ方向へ移動される。このため、上壁は貫通孔へ速やかに到達される。このように上壁は、貫通孔の開口の少なくとも一部を速やかに閉塞する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発泡充填具において、前記底壁は、前記基体及び前記中空構造体に対して粘着性を有していることを要旨とする。
この構成によれば、開口部の周縁部を貫通孔の周囲に固定するに際して、底壁の粘着性を利用することができる。このため、貫通孔に対する開口部の位置ずれが抑制されるため、貫通孔をより好適に使用することができる。また、底壁の移動は粘着性によって抑制されるため、上壁は、底壁に対して展開されるようにして、貫通孔を塞ぐ方向へより速やかに移動する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発泡充填具において、前記移動体は、前記基体に対して粘着性を有していることを要旨とする。
この構成によれば、基体に対する移動体の粘着性によって、移動体は基体の流動又は熱膨張に追従し易くなるため、移動体を貫通孔へ速やかに到達させることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発泡充填具において、前記移動体は、シート材であることを要旨とする。
この構成によれば、移動体の構成を簡素化することができる。さらに、移動体の材料を削減することができるとともに、より広い開口面積の貫通孔を閉塞させることが容易である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空構造体に対する発泡充填具の配置後においても貫通孔を使用することができるとともに、貫通孔が形成されている部位を発泡体によって効率的に充填するに際して、貫通孔から発泡体が膨出する現象を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を車両用の中空構造体に適用される発泡充填具に具体化した一実施形態について図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように中空構造体31は、車外側に配置されるアウタパネル32と車内側に配置されるインナパネル33とを備え、これらアウタパネル32とインナパネル33とが一体に接合されることで、その中空構造体31の内部には空間が形成される。インナパネル33には、四角形状の貫通孔33aが形成され、この貫通孔33aは中空構造体31の内部空間と外部空間を連通する。こうした中空構造体31の内部に配置される発泡充填具11は、加熱により発泡体を形成するとともに、その発泡体によって中空構造体31の内部空間を充填するものである。
【0015】
発泡充填具11には、加熱により発泡及び硬化した発泡体を形成する基体12が備えられている。本実施形態の基体12は四角形の板状をなすとともに、基体12の中央部には四角形状の開口部12aが形成されている。開口部12aは、インナパネル33の有する貫通孔33aの開口よりも広い開口面積を有しているとともにインナパネル33の貫通孔33aを取り囲むように配置される。
【0016】
基体12を構成する材料は、例えば基材、発泡剤、及び架橋剤を含有する他に、充填剤、可塑剤等を適宜含有して構成されている。基材としては、合成樹脂、エラストマー及びゴムが挙げられる。合成樹脂としては、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、EVA(エチレン/ビニルアセテートコポリマー)等が挙げられる。エラストマーとしては、RB(ポリブタジエンエラストマー)、SBS(スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体)等が挙げられる。ゴムとしては、NR(天然ゴム)、SBR(スチレン/ブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IR(イソプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエン三元共重合体)、UR(ウレタンゴム)、ENR(エポキシ化天然ゴム)、EPM(エチレン/プロピレンゴム)等が挙げられる。発泡剤としてはアゾジカルボンアミド、ジニトロペンタメチレンテトラミン等、架橋剤としては周知のジメチルウレア、ジシアンジアミド、充填剤としては炭酸カルシウム、硫酸バリウム、フェライト、シリカ等が挙げられる。なお、発泡体に要求される機能としては、遮音機能、制振機能の他、剛性を高める機能、補強機能、吸音機能、衝撃吸収機能等が挙げられる。
【0017】
基体12は、その材料を例えば板状に押出成形することにより板状体を形成した後、その板状体を厚さ方向に沿って打ち抜くことによって製造することができる。また基体12は、金型を用いた射出成形によって製造することもできる。
【0018】
移動体としての上壁13は、加熱の際に基体12の流動又は熱膨張に追従するものである。上壁13は、開口部12aの周縁部に設けられるとともに貫通孔33aの周囲に配置される。そして、上壁13は、上述した追従により貫通孔33aの開口の少なくとも一部を閉塞することで、基体12の貫通孔33aへの侵入を抑制する。図3(a)に示すように本実施形態の上壁13は、基体12とインナパネル33との間に介在される底壁14と一体に形成されている。そして、上壁13は、開口部12aの内側面に配置される側壁15を介して、開口部12aの周縁部を底壁14と挟み込む構造を有して設けられている。
【0019】
本実施形態の上壁13は、開口部12aの周縁部において対向して一対設けられるとともに、貫通孔33aの周囲において対向して配置される。このように一対の上壁13を貫通孔33aの周囲に対向して配置することで、貫通孔33aの開口の全体を閉塞させることが容易である。
【0020】
本実施形態の上壁13は、側壁15と底壁14と一体に構成されたシート材である。このように上壁13をシート材とすることで、移動体としての構成について簡素化が図られている。上壁13を構成する材料、すなわちシート材の材料としては、基体12の貫通孔33aへの侵入を抑制する機能を考慮して適宜選択すればよい。例えば、基体12の貫通孔33aへの侵入を好適に抑制するために、上壁13を構成する材料は、基体12から発泡体が形成するまでの過程において、基体12を構成する材料よりも粘度の高い材料が好適である。上壁13を構成する材料の具体例としては、高分子材料(合成樹脂、エラストマー及びゴム)、金属材料等を基材としたものが挙げられる。高分子材料としては、上述した高分子材料が挙げられ、必要に応じて充填剤等の添加剤を配合して粘度特性を調整したものが好適に使用される。またシート材の具体例としては、高分子シート、金属箔、不織布、織布等が挙げられる。
【0021】
上壁13を構成する材料は、合成樹脂、エラストマー及びゴムから選ばれる少なくとも一種の高分子材料を基材としたものが好適である。このような高分子材料から構成された上壁13は、基体12及びその基体12から形成される発泡体に対して密着性が良好であるため、基体12の発泡硬化過程において同基体12の発泡圧が上壁13全体に好適に加わり、その結果、所望の発泡態様が阻害されることなく発泡体を得ることができるとともに、充填性を十分に確保することができる。また、高分子材料から構成された上壁13では、上壁13による制振機能等も発揮させることが可能である。また、上壁13は、その構成の簡素化することができるとともに制振機能等を発揮させることができるという観点から、高分子シートが好適である。
【0022】
上壁13は、基体12の流動又は熱膨張に追従し易くするという観点から、基体12に対して粘着性を有していることが好適であり、上述した観点から粘着性を有する高分子シートが好適である。また底壁14は、貫通孔33aに対する開口部12aの位置ずれを抑制するという観点から、基体12及びインナパネル33に対して粘着性を有していることが好適である。
【0023】
上壁13、側壁15及び底壁14は、シート材に接着層を設けることによる接着、シート材の粘着性を利用した粘着、金型を用いたインサート成形等によって基体12に設けることができる。本実施形態の上壁13、側壁15及び底壁14は、シート材の粘着性を利用して基体12に貼着されている。
【0024】
本実施形態の発泡充填具11は、図2に示すようにインナパネル33に底壁14を貼着した後、インナパネル33とアウタパネル32とを接合することにより、中空構造体31の内部に配置される。このとき、図2及び図3(a)に示すように発泡充填具11の開口部12aは貫通孔33aを取り囲むように配置されるとともに、移動体は貫通孔33aの周囲に配置される。ところで、中空構造体31が有する貫通孔33aには、中空構造体31の内部に発泡充填具11が配置された後に使用する貫通孔33aが存在する。このような貫通孔33aとしては、例えば中空構造体31の組み付け工程において中空構造体31を産業用ロボットのアームによって確実に把持させるための貫通孔33a、車体の電着塗装において中空構造体31の内部に侵入した電着液を効率的に排出させるための貫通孔33a等が挙げられる。本実施形態の発泡充填具11によれば、中空構造体31に対する発泡充填具11の配置後においても、貫通孔33aは開口部12aを通じて中空構造体31の内部空間と外部空間とが連通した状態である。このため、発泡充填具11の配置後においても、貫通孔33aを好適に使用することができる。
【0025】
続いて、発泡充填具11が配置された中空構造体31は、例えば車両の乾燥工程において車両が乾燥炉を通じることで加熱される。そして、基体12の昇温に伴って、基体12は徐々に流動性を有する状態となる。また、基体12の昇温に伴って、基体12が発泡を開始する。すなわち基体12は、その昇温に伴って熱膨張する。そして図3(b)に示すように、上壁13は基体12の流動又は熱膨張に追従する。本実施形態では、基体12とインナパネル33との間に底壁14が介在されているため、底壁14の移動は抑制される一方で、底壁14と一体に形成された上壁13は底壁14に支持されて移動される。すなわち上壁13は、底壁14に対して展開されるようにして、貫通孔33aを塞ぐ方向へ移動される。このように上壁13が基体12の流動又は熱膨張に追従することで、上壁13は貫通孔33aへ優先的に到達する。そして、上壁13は貫通孔33aの開口を速やかに閉塞するため、図3(c)に示すように貫通孔33aの開口を閉塞した上壁13により、貫通孔33aへの基体12の侵入は好適に抑制される。
【0026】
このように貫通孔33aへの基体12の侵入が抑制された状態で、発泡した基体12は硬化して発泡体16が形成されるとともに、貫通孔33aが形成されている部位は、その発泡体16によって好適に充填される。
【0027】
発泡体16が充填された中空構造体31では、中空構造体31の振動、中空構造体31の内部における空気の流通等が抑制される。このため、その中空構造体31が装着された車両においては車内の静粛性等が確保される。
【0028】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 基体12には、その加熱の際に基体12の流動又は熱膨張に追従する上壁13が備えられている。そして上壁13は、開口部12aの周縁部に設けられるとともに貫通孔33aの周囲に配置されることにより、貫通孔33aの開口を加熱に伴って閉塞することで基体12の貫通孔33aへの侵入を抑制する。このため、発泡体16は、中空構造体31の内部空間において好適に形成される。すなわち、貫通孔33aから発泡体16が膨出する現象を抑制することができる。その結果、貫通孔33aから膨出した発泡体16を取り除く手間を省くことができるため、中空構造体31に沿って内装部品等を容易に取り付けることができる。また、膨出した発泡体16が視認されることで意匠性が低下するといった不具合を抑制することができる。
【0029】
さらに、基体12の有する開口部12aは貫通孔33aを取り囲むようにして配置されるため、貫通孔33aが形成されている部位を発泡体16によって効率的に閉塞することができる。加えて、発泡充填具11を中空構造体31の内部に配置して加熱を開始するまでの間においては、上壁13が貫通孔33aの周囲に配置されることにより、貫通孔33aを好適に使用することができる。
【0030】
(2) 上壁13は、基体12とインナパネル33との間に介在された底壁14と一体に形成されるとともに、開口部12aの周縁部を底壁14と挟み込む構造を有して設けられている。このため、基体12が加熱されるに際して、底壁14の移動は抑制される一方で、底壁14と一体に形成された上壁13は底壁14に支持されて移動される。すなわち、上壁13が基体12の流動又は熱膨張に追従するに際して、上壁13は底壁14に対して展開されるようにして、貫通孔33aを塞ぐ方向へ移動される。このため、上壁13は貫通孔33aへ速やかに到達される。このように上壁13は、貫通孔33aの開口を速やかに閉塞するため、貫通孔33aから発泡体16が膨出する現象を抑制する効果を高めることができる。
【0031】
(3) 底壁14は、基体12及びインナパネル33に対して粘着性を有しているため、貫通孔33aに対する開口部12aの位置ずれを抑制することができる。このため、発泡充填具11の配置後において、位置ずれした開口部12aが貫通孔33aの使用を妨げることを抑制することができる結果、貫通孔33aをより好適に使用することができる。さらに、開口部12aの位置ずれが抑制されるため、図3(c)に示すように貫通孔33aが形成されている部位に発泡体16を確実に充填することが容易である。加えて、基体12の加熱開始後においては、底壁14の移動は粘着性によって抑制されるため、上壁13は、底壁14に対して展開されるようにして、貫通孔33aへ向かってより速やかに移動する。このように上壁13は、貫通孔33aの開口をより速やかに閉塞するため、貫通孔33aから発泡体16が膨出する現象を抑制する効果をより高めることができる。
【0032】
(4) 上壁13は基体12に対して粘着性を有している。従って、基体12に対する上壁13の粘着性によって、上壁13は基体12の流動又は熱膨張に追従し易くなるため、上壁13を貫通孔33aへ速やかに到達させることができる。このため、このように上壁13は、貫通孔33aの開口をより速やかに閉塞するため、貫通孔33aから発泡体16が膨出する現象を抑制する効果をより高めることができる。
【0033】
(5) 上壁13はシート材であるため、上壁13の構成を簡素化することができる。さらに、上壁13の材料を削減することができるとともに、より広い開口面積の貫通孔33aを閉塞させることが容易である。また、本実施形態の上壁13は、底壁14と一体に形成されたシート材であるため、上壁13及び底壁14を備えた発泡充填具11の構成を簡略化することができる。
【0034】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・ 開口部12aの形状は四角形状に限定されず、前記開口部12aを例えば円形状、三角形状等に変更してもよい。また開口部12aを、貫通孔33aの個数等に応じて複数設けることもできる。
【0035】
・ 基体12において開口部12aを形成する位置は、インナパネル33において貫通孔33aが形成されている位置に応じて適宜変更される。例えば図4に示すように、貫通孔33aの位置に応じて基体12の縁部に開口部12aを形成してもよい。
【0036】
・ 基体12は四角形に限定されず、例えば中空構造体の内部形状等に応じて、四角形以外の多角形状、円形状等に適宜変更してもよい。また、基体12は板状に限定されず、ブロック状等に変更してもよい。
【0037】
・ 上壁13の形状及び個数は、特に限定されない。例えば図4及び図5(a)に示すように、舌片状の上壁13を1つ設けることもできる。この移動体においても、図5(b)に示すように、貫通孔33aを閉塞することができる。
【0038】
・ 側壁15を省略して、上壁13と底壁14とを一体に形成してもよい。
・ 上壁13と底壁14とを異なる材料から構成してもよい。また、上壁13の形状と底壁14の形状とは異なってもよい。
【0039】
・ 前記上壁13は、貫通孔33aの全体を閉塞するように構成されているが、貫通孔33aの一部を閉塞するように上壁13を構成してもよい。このように構成した場合であっても、上壁13が、貫通孔33aへ基体12が侵入する際の抵抗となり、貫通孔33aから発泡体16が膨出して形成される現象を抑制することができる。
【0040】
・ 底壁14を省略して、上壁13のみによって貫通孔33aの開口の少なくとも一部を閉塞するように構成してもよい。なお、底壁14を省略した場合には、基体12とインナパネル33との間において、接着剤を用いた接着層、粘着部材を用いた粘着層等を介在させることで、基体12をインナパネル33に固定することができる。また、粘着性を有する材料から基体12を構成し、基体12をインナパネル33に粘着して固定してもよい。
【0041】
・ 移動体は上壁13に限定されない。例えば、基体12の厚さに応じて、側壁15を貫通孔33aの開口の少なくとも一部を閉塞する移動体として構成することもできる。
・ 貫通孔33aの用途は特に限定されず、例えば中空構造体31を車両に取り付ける際に車両に対して位置決めするための位置決め用の貫通孔等であってもよい。すなわち、発泡充填具11を配置してから加熱するまでの間に使用される貫通孔であれば、上述した発泡充填具11と同様の作用効果を発揮させることができる。
【0042】
・ 発泡充填具11を、中空構造体31の内部空間の全体について、発泡体16で充填するように構成してもよいし、内部空間の所定の部位のみを発泡体16で充填するように構成してもよい。
【0043】
・ 前記中空構造体31は水平に配置されているが、図4及び図5(a)に示すように傾斜して配置された中空構造体31に発泡充填具11を適用することもできる。このように傾斜して配置された中空構造体31であっても、図5(b)に示すように貫通孔33aは上壁13により閉塞されるとともに貫通孔33aへ基体12が侵入することを抑制することができる。
【0044】
・ 発泡充填具11の配置されるパネルは前記インナパネル33に限定されない。すなわち、中空構造体の形状、構成するパネルの数等は特に限定されない。
・ 中空構造体の用途は、特に限定されず、例えば車両のピラー、カバー、ドアパネル、ロッカーパネル等の中空構造体、建造物におけるパネル等の中空構造体等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態の発泡充填具、及び分解状態の中空構造体を示す斜視図。
【図2】発泡充填具の配置された中空構造体について一部を切り欠いて示す斜視図。
【図3】(a)は図2のA−A線断面図、(b)は基体の発泡過程を示す断面図、(c)は発泡体が充填された状態を示す断面図。
【図4】発泡充填具の変形例について中空構造体の一部を切り欠いて示す斜視図。
【図5】(a)は図4のB−B線断面図、(b)は発泡体が充填された状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
11…発泡充填具、12…基体、12a…開口部、13…移動体としての上壁、14…底壁、15…側壁、16…発泡体、31…中空構造体、32…アウタパネル、33…インナパネル、33a…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により発泡及び硬化した発泡体を形成する基体が備えられ、貫通孔を有する中空構造体の内部に配置した後に前記基体が加熱されることにより、前記中空構造体の内部空間を前記発泡体で充填する発泡充填具であって、
前記基体には、前記貫通孔の開口よりも広い開口面積を有して前記貫通孔を取り囲むように配置される開口部が形成されるとともに、前記加熱の際に前記基体の流動又は熱膨張に追従する移動体が備えられ、該移動体は、前記追従により前記貫通孔の開口の少なくとも一部を閉塞することで前記基体の前記貫通孔への侵入を抑制すべく、前記開口部の周縁部に設けられるとともに前記貫通孔の周囲に配置されることを特徴とする発泡充填具。
【請求項2】
前記移動体は、前記基体と前記中空構造体との間に介在された底壁と一体に形成されるとともに、前記開口部の周縁部を前記底壁と挟み込む上壁である請求項1に記載の発泡充填具。
【請求項3】
前記底壁は、前記基体及び前記中空構造体に対して粘着性を有している請求項2に記載の発泡充填具。
【請求項4】
前記移動体は、前記基体に対して粘着性を有している請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発泡充填具。
【請求項5】
前記移動体は、シート材である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発泡充填具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−80933(P2008−80933A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262393(P2006−262393)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000101905)イイダ産業株式会社 (47)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】