説明

発泡固形潤滑剤、該潤滑剤を封入した自在継手および軸受

【課題】潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形や外力による潤滑剤の滲み出し量を必要最小限に留めることができる長寿命で低コストの発泡固形潤滑剤、該潤滑剤を封入した自在継手および軸受を提供する。
【解決手段】発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤であって、上記潤滑成分は、潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つに、融点が 70〜150℃であるワックスを含有し、該ワックスは脂肪酸モノアミド系ワックス、水素硬化油系ワックス、および炭化水素系ワックスから選ばれた少なくとも1つのワックスであり、該潤滑剤を封入した等速自在継手の例で示すと外方部材2、内方部材3、トラック溝4、5、鋼球6、ケージ7、シャフト8、ブーツ9を備えた等速自在継手の内部に、発泡固形潤滑剤10を封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械装置の摺動部や回転部に潤滑油を供給可能な発泡固形潤滑剤、該潤滑剤を封入した自在継手および軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。潤滑剤は大別して液体潤滑剤と固体潤滑剤に分けられるが、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に染み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。
また、潤滑剤の存在下でポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。
このような固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に染み出させるものであり、これを用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立てることを狙ったものである。
【0003】
しかしながら、このような固形潤滑剤を、等速ジョイントの駆動部のような圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形させるために非常に大きな力が必要になり、または非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わって、それを保持する部分にも機械的強度が必要になる。
しかし、固形潤滑剤の強度と充填率は通常、補償的なものであるので、潤滑剤を高充填率で保持することが困難であり、長寿命化を妨げる可能性がある。
そのため、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し起こるような部位においても簡便に使用可能な固形潤滑剤が求められている。
この固形潤滑剤として、例えば、発泡して連通気孔を形成した柔軟な樹脂に潤滑油を含浸し、その気孔内に潤滑油を保持させた含油発泡体も軸受や等速ジョイントの内部に充填して使用されることが知られている(特許文献5参照)。
【0004】
しかし、上記した特許文献1〜特許文献4による技術では固形潤滑剤は、潤滑油保持力は大きいが、柔軟な変形性に欠ける。また、特許文献5の含油発泡体は外力に応じる柔軟な変形性があって圧縮や屈曲変形にも追従することはできるが、潤滑油保持力が小さく、軸受などの高速条件で使用した場合には、潤滑油が急速に抜け出て枯渇する可能性もある。この含油発泡体は、短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるが、長時間の潤滑を要する部分や開放空間で使用すると潤滑油が供給不足になり、または、油保持力が弱いと、余剰の潤滑油は気孔から放出および吸収を繰り返し、絶えず空間内を流動することになる。
このような固形潤滑剤から余剰に染み出した潤滑油は、ゴムなどの外装材に接すると、その素材を潤滑油やその添加剤が化学的に腐食または劣化させるものもある。
また、該潤滑剤を製造する工程では、潤滑油やグリースを確実に含浸させるために多くの製造工程が必要になり、これでは低コスト化の要求に応えることも困難である。
【0005】
そこで、製造工程が簡便で、柔軟で潤滑成分保持力が高い発泡潤滑剤が提案されている(特許文献6参照)。
しかし、特許文献6の発泡潤滑剤も使い方によっては外力や温度上昇による潤滑剤の放出が少ない場合がある。また、耐久性を考慮すると樹脂成分からの潤滑成分の放出は必要最小限であることが望ましい。潤滑成分の放出速度が小さければ、摺動部に必要量の潤滑剤が到達する速度は遅くなる。そのため、潤滑剤が枯渇状態となり摺動部でも摩耗や潤滑不良を引き起こす場合がある。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平11−286601号公報
【特許文献5】特開平9−42297号公報
【特許文献6】特開2007−177226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形や外力による潤滑剤の滲み出し量を必要最小限に留めることができる発泡固形潤滑剤、該潤滑剤を封入した自在継手および軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発泡固形潤滑剤は、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤であって、上記潤滑成分は、潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つに、融点が 70℃〜150℃であるワックスを含有し、該ワックスは脂肪酸モノアミド系ワックス、水素硬化油系ワックス、および炭化水素系ワックスから選ばれた少なくとも1つのワックスであることを特徴とする。なお、本発明においてワックスは常温では固体で、加熱すれば比較的低粘度な液体となる物をいう。
また、上記脂肪酸モノアミド系ワックスが、ステアリン酸アミドワックス、エルカ酸アミドワックス、オレイン酸アミドワックスから選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする。
【0008】
上記発泡固形潤滑剤は、上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂がゴム状弾性を有し、該樹脂内に含まれる上記潤滑成分がゴム状弾性体の外部応力による変形により滲出性を有することを特徴とする。
また、上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡倍率が、1.1倍〜100 倍であることを特徴とする。
また、上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡・硬化後の連続気泡率が 50%以上である。
【0009】
上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂は、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含み、上記樹脂が分子内にイソシアネート基を 2 重量%以上 6 重量%未満含有するウレタンプレポリマーであり、上記発泡剤が水であり、上記樹脂成分と、上記硬化剤と、上記発泡剤と、上記潤滑成分とを含む混合物全体に対して、上記潤滑成分を 20 重量%〜80 重量%含むことを特徴とする。
また、上記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする。
また、上記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする。
また、上記水の水酸基と、上記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする。
また、上記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
また、上記芳香族ポリアミノ化合物がアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする。
【0010】
上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂は、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含み、上記樹脂成分がポリエーテルポリオールであり、上記硬化剤がポリイソシアネートであり、上記発泡剤が水であり、上記樹脂成分と、上記硬化剤と、上記発泡剤と、上記潤滑成分とを含む混合物全体に対して、上記潤滑成分を 60 重量%〜80 重量%含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の自在継手は、トラック溝とトルク伝達部材との係り合いによって回転トルクが伝達され、上記トルク伝達部材が上記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる自在継手であって、該自在継手の内部に上記発泡固形潤滑剤が封入されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の軸受は、軸受内部に上記発泡固形潤滑剤が封入されてなる軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡固形潤滑剤は、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤であって、上記潤滑成分は、潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つに、融点が 70〜150℃であるワックスを含有し、該ワックスは脂肪酸モノアミド系ワックス、水素硬化油系ワックス、および炭化水素系ワックスから選ばれた少なくとも1つのワックスであるので、発泡固形潤滑剤から放出される潤滑成分量を必要量に保つことができ、また、遠心力などの外力が加わっても潤滑成分が摺動部から移動しにくい。また、局部的に、一時的な潤滑剤不足により摺動部が金属接触状態になったとしても、金属接触により温度が上昇するため、発泡固形潤滑剤の潤滑成分中のワックス成分が溶融し流動性が低下するために摺動部に潤滑剤がすばやく供給され、円滑な潤滑状態を保つことができる。
このため、発泡固形潤滑剤が封入される軸受や自在継手等の機械要素における摺動部等において潤滑剤が(流出しにくいために)不足することなく継続して潤滑機能を十分に果たすことができる。
【0014】
本発明の発泡固形潤滑剤は、潤滑成分と、発泡・硬化して多孔質化する樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなるので、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に保持される。発泡させることで、外部応力に対する自在な変形を可能にし、特に柔軟性を向上させることができる。この潤滑成分は主として樹脂内に存在し、例えば圧縮、屈曲、ねじり、膨張などの外的な因子によって滲み出す潤滑成分量を必要最小限に保ちつつ、必要部位に徐放することができる。
【0015】
以上の結果、本発明の自在継手および軸受は上述の発泡固形潤滑剤を内部に封入しているので従来のグリース使用量の低減、コストダウン、長寿命化、特に自在継手においてはブーツ材への負荷低減、軽量化とコンパクト化を可能にすることができ、工業的に有利な経済的側面だけでなく環境に対する負荷低減、設計の自由度という複数の観点からも社会的重要度の高い技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の発泡固形潤滑剤は、発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を吸蔵してなる発泡固形潤滑剤であって、上記発泡固形潤滑剤の潤滑成分にはワックス成分が添加されているので、発泡固形潤滑剤から放出される潤滑成分量を必要量に保つことができ、また、遠心力などの外力が加わっても潤滑成分が摺動部から移動しにくい。また、局部的に、一時的な潤滑剤不足により摺動部が金属接触状態になったとしても、金属接触により温度が上昇するため、発泡固形潤滑剤の潤滑成分中のワックス成分が溶融し流動性が低下するために摺動部に潤滑剤がすばやく供給され、円滑な潤滑状態を保つことができる。
このため、発泡固形潤滑剤が封入される軸受や自在継手等の機械要素における摺動部等において潤滑剤が(流出しにくいために)不足することなく継続して潤滑機能を十分に果たすことができる。
なお、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されるとは、後述する潤滑油やグリースなどの液体・半固体状の潤滑成分が発泡・硬化した樹脂や硬化剤と反応することなく、化合物にならないで含まれることをいう。
【0017】
本発明に用いる発泡固形潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油などの潤滑成分を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。よって、該発泡固形潤滑剤を例えば等速自在継手内部で固化させた後冷却する過程において、発泡固形潤滑剤が収縮し、等速自在継手の鋼球を抱き込んだとしても屈曲・変形時に必要なエネルギーが小さいために容易に変形することができ、回転トルクが大きくなるという問題を防ぐことができる。また、発泡部分すなわち多孔質な部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。
また、本発明に用いる発泡固形潤滑剤は潤滑成分と、樹脂成分とを含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填して成形することが可能である。
また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより発泡固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
【0018】
発泡固形潤滑剤の潤滑成分にワックスを添加することにより、比較的低温時(常温)ではその流動性を抑え潤滑必要部位に留まることができるが、金属接触等により機械要素の摺動部で温度が上昇するとワックスが溶けるために潤滑成分の流動性が向上し、潤滑剤の必要な場所へすばやく供給される。
【0019】
発泡固形潤滑剤の潤滑成分に添加するワックスは、融点が 70〜150℃のものであり、該ワックスが分子内にアミド結合を有する場合、該アミド結合はモノアミド結合であるワックスである。融点が 70℃未満であると軟化する(流動性が上がる)温度が低いため、必要以上に流動してしまい潤滑剤が必要な場所から移動してしまう恐れがあるし、150℃をこえると、融点が高すぎて必要なときにワックスが溶融しない場合があり、目的の流動性の低下が得られず摺動部に潤滑成分の供給が遅れる場合がある。また、ワックスの融点が高いと、ワックスを溶融・分散させる際に潤滑成分を高温に上昇させる必要があり、潤滑成分自体の劣化を引き起こす要因となる。
また、エチレンビスステアリン酸アミドのようなワックス分子内にアミド結合を2個以上持つものは適さない。発泡固形潤滑剤作製時に、樹脂成分が硬化しないからである。その理由は明らかではないが、アミド結合を2個以上持つワックスは、必然的に分子量が大きくなるために、ウレタン分子との相溶性が発生するためと考えられる。
【0020】
本発明において潤滑成分に添加するワックスは脂肪酸モノアミド系ワックス、水素硬化油系ワックス、および炭化水素系ワックスから選ばれた少なくとも1つのワックスであることが好ましい。脂肪酸モノアミド系ワックスは、飽和脂肪酸モノアミド、不飽和脂肪酸モノアミドのいずれでも使用できる。好ましい脂肪酸モノアミドとしては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。また、上記水素硬化油系ワックスとしては硬化ひまし油等が挙げられ、炭化水素系ワックスとしてはパラフィンワックス等が挙げられる。
本発明の発泡固形潤滑剤の樹脂成分をポリウレタンとする場合、ワックスの中でも特に好ましいのは脂肪酸モノアミドであり、脂肪酸モノアミドの中でもステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドから選ばれた少なくとも1つを使用することがもっとも好ましい。
【0021】
また、発泡固形潤滑剤の潤滑成分に添加するワックスの添加量は、潤滑成分量に対して 1 重量%〜15 重量%、さらに好ましくは 2 重量%〜10 重量%である。1 重量%未満の場合は常温での流動性の低下が得られず、15 重量%をこえる場合には潤滑成分の流動性が低下しすぎるため潤滑必要箇所に行きにくくなり好ましくない。
【0022】
これらのワックスを潤滑成分へ添加する方法としては、発泡固形潤滑剤作製時に原料の1つとして投入してもよいし、あらかじめ潤滑成分の全部または一部を採用したワックスの融点以上に加熱の上、均一に混合して用いてもよい。ワックスの融点が、発泡固形潤滑剤の作製温度以上の場合は、後者の方法をとることが好ましい。
また、本発明の発泡固形潤滑剤は、さらに潤滑性能を向上させるために、グリース等の他の潤滑剤を補助潤滑剤として併用させることもできる。
【0023】
本発明において発泡固形潤滑剤を構成する発泡・硬化して多孔質化する樹脂としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0024】
発泡固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍以上 100 倍未満がよい。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、100 倍以上の時には外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。発泡倍率としては 1.1 倍〜10 倍が望ましい。
【0025】
本発明において発泡固形潤滑剤の発泡後の連続気泡率が 50 %以上であり、好ましくは 50 %以上 90 %以下である。連続気泡率が 50 %未満の場合は、樹脂成分(固形成分)の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。なお、 90 %をこえると潤滑剤の保油性の低下および潤滑剤の放出量が多くなることで長期使用に不利となったり、発泡固形潤滑剤自体の強度(耐久性)が低下したりするおそれがでる。
【0026】
本発明において発泡固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した発泡固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂成分重量−試料Aの樹脂成分重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂成分重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0027】
本発明において発泡固形潤滑剤に用いられる樹脂成分には、耐熱性および柔軟性に優れ、低コスト化が可能となるウレタンプレポリマーを用いることが好ましい。
この発泡固形潤滑剤は、上記ウレタンプレポリマーが発泡・硬化して多孔質化された固形物であり、かつ潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる発泡固形潤滑剤である。この発泡固形潤滑剤は潤滑成分保持力に優れ、外力による変形を受けても潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に抑制し、かつ安価に製造できる。
【0028】
本発明に使用できるウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得られ、イソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。
反応するモノマー(=活性水素基を有する化合物)の種類によって、カプロラクトン系、エステル系、エーテル系などに分類される。エーテル系にはタケネートL−1170(三井化学ポリウレタン社製)、L−1158(三井化学ポリウレタン社製)、コロネート4090(日本ポリウレタン社製)がある。また、エステル系としてはコロネート4047(日本ポリウレタン社製)などがあり、カプロラクトン系にはタケネートL-1350(三井化学ポリウレタン社製)、タケネートL-1680(三井化学ポリウレタン社製)、サイアナプレン7−QM(三井化学ポリウレタン社製)、プラクセルEP1130(ダイセル化学工業社製)などが挙げられる。
また、末端基をイソシアネート基に変性したオリゴマーやプレポリマー化合物も使用することが出来る。このような化合物としては末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールや水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体が挙げられる。末端イソシアネート変性ポリエーテルポリオールにはコロネート1050(日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。また、水酸基末端ポリブタジエンのイソシアネート変性体には poly-bd MC50(出光興産社製)や poly-bd HTP9(出光興産社製)が挙げられる。
これらウレタンプレポリマーは目的とする機械的性質などに応じて 2 種類以上を混合して使用することができる。
【0029】
本発明では、イソシアネート基含有量が 2 重量%以上 6 重量%未満のウレタンプレポリマーを使用できる。イソシアネート基(−NCO)の含有量が 2 重量%未満であると発泡性と弾力性の両立が難しくなるし、 6 重量%以上であると硬度が大きくなりすぎて反発弾性が大きくなり外力による変形を受けるときに発熱等を起こしやすくなる。
また、イソシアネート基は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0030】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、活性水素を有する化合物が好ましく、官能基がアミノ基であるポリアミノ化合物、官能基が水酸基であるポリオール化合物が挙げられる。
ポリアミノ化合物としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミノ化合物が挙げられる。
【0031】
上記ポリアミノ化合物の中でも芳香族アミノ化合物が低コストであり、物性が優れているため、好ましく、特にアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ジアミノ化合物が好ましい。本発明においては、発泡と共に硬化させる工程を経るため、隣接位の置換基によりアミノ基の反応性が抑制されるためと考えられる。
【0032】
ウレタンプレポリマーをポリアミノ化合物で硬化させるとウレタンおよびウレア結合を分子内に有する発泡固形潤滑剤となる。ウレア結合を生成させることによって分子中のウレタン結合密度を下げることになり、伸びや反発弾性が向上する。また、ウレア結合を生成させることによって剛性を与えることができる。
【0033】
ポリオール化合物としては、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオールが挙げられる。ポリオール化合物の中ではトリメチロールプロパンが好ましい。
【0034】
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基(−NCO)と、該イソシアネート基と反応する硬化剤の官能基との割合は、官能基がアミノ基または水酸基である場合、当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲である。
ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基と硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)、そして発泡剤である水の水酸基(−OH)との割合で発泡固形潤滑剤の発泡倍率や柔軟性、弾力性等が定まる。硬化剤のアミノ基(−NH2 )または水酸基(−OH)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(−NCO)とを当量で反応させると、発泡剤である水と反応するイソシアネート基(−NCO)が消失してしまうため、(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲が好ましい。また、発泡剤である水の水酸基と、硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲である。
上記範囲よりも硬化剤の量が少なくなると発泡固形潤滑剤の強度等の物性が著しく低下するばかりでなく、ウレタンエラストマーとして硬化しない場合もある。
【0035】
上記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の他の例は、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含み、上記樹脂成分がポリエーテルポリオールであり、上記硬化剤がポリイソシアネートであり、上記発泡剤が水であり、上記樹脂成分と、上記硬化剤と、上記発泡剤と、上記潤滑成分とを含む混合物全体に対して、上記潤滑成分を 60〜80 重量%含む樹脂である。
【0036】
ポリエーテルポリオールとしては低分子ポリオールのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)付加物およびアルキレンオキサイドの開環重合物が挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが含まれる。
ポリエーテルポリオールを例示すれば旭硝子社製の商品名プレミノールが挙げられる。プレミノールは 5000〜12000 の分子量を有するポリエーテルポリオールである。
【0037】
上記ポリエーテルポリオールを硬化させる硬化剤として用いるポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートおよびその混合物、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートが挙げられる。市販品として日本ポリウレタン社製:コロネートT80などが挙げられる。
【0038】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独でもしくは混合して使用できる。特に好ましいものとして炭化水素系潤滑油、炭化水素系グリース、または炭化水素系潤滑油と炭化水素系グリースとの混合物が挙げられる。
炭化水素系潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、フッ素油、シリコーン油等も使用することができる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
炭化水素系グリースは炭化水素油を基油とするグリースであり、基油としては上述の炭化水素系潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートポリアミンの反応で、それぞれ得られる。また、エステル系合成油、エーテル系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等を基油としたグリースも使用できる。
【0039】
本発明において発泡固形潤滑剤は、上記潤滑成分と、上記ウレタンプレポリマーや上記ポリエーテルポリオールなどの樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、樹脂成分がウレタンプレポリマーの場合、混合物全体に対して、20〜80 重量%、好ましくは 40〜60 重量%である。潤滑成分が 20 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しない場合がある。
樹脂成分がポリエーテルポリオールの場合、上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、60〜80 重量%である。潤滑成分が 60 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡固形潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しない場合がある。
【0040】
本発明において発泡固形潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
発泡固形潤滑剤を製造するときの各成分を混合する方法としては、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが好ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0042】
本発明において発泡固形潤滑剤を発泡させる手段は、原料にイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水を用いることが好ましい。
また、必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0043】
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑成分が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した樹脂内に吸蔵されることにより潤滑成分の高充填化と材料物性の高伸化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑成分を含浸させる後含浸法では潤滑成分保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑成分が供給不足となる。
【0044】
発泡固形潤滑剤は、潤滑対象部材内に潤滑成分および樹脂を含む混合物を流し込んだ後、発泡・硬化させてもよく、また常圧で発泡・硬化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工し、潤滑対象部材内に組み込むこともできる。
形状が複雑な潤滑対象部材内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、発泡成形体を得るための成形金型や研削工程等も不要であることから、本発明では、混合物を発泡・硬化前に潤滑対象部材内に流し込み、該部材内において発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。該方法を採用することで、製造工程が簡易となり低コスト化が図れる。
なお、潤滑対象部材としては、上記自在継手および軸受の他、ボールねじ、リニアガイド、球面ブッシュ等が挙げられる。
【0045】
本発明の自在継手を等速自在継手に利用した例としては、ボールフィクストジョイント(以下、BJと記す)の他、アンダーカットフリージョイント(以下、UJと記す)などが挙げられる。このようなBJやUJのトルク伝達部材(鋼球)数は6個または8個の場合がある。
BJやUJに発泡固形潤滑剤を封入した場合、潤滑剤が必要な部位のみに充填されることになるため、低コスト化・軽量化に寄与できると共に、使用される作動角が大きいことから圧縮・屈曲を受けやすく、摺動部へ潤滑剤が供給されやすい。
また、摺動式等速自在継手に利用した例としては、ダブルオフセットジョイント(以下、DOJと記す)、トリポードジョイント(以下、TJと記す)、クロスグルーブジョイントなどが挙げられる。DOJのトルク伝達部材(鋼球)数は6個または8個の場合がある。
また、不等速自在継手としては、クロスジョイントなどが挙げられる。
【0046】
本発明の自在継手を図1〜図3に基づいて説明する。図1は本発明の発泡固形潤滑剤を封入した自在継手の一実施形態であるBJの一部切欠断面図を、図2は本発明の他の実施形態であるDOJの一部切欠断面図を、図3は本発明の他の実施形態であるTJの一部切欠断面図を、それぞれ示す。
図1に示すように、BJ1は外方部材2の内面および球形の内方部材3の外面に軸方向の六本または八本のトラック溝4、5を等角度に形成し、そのトラック溝4、5間に組み込んだトルク伝達部材6をケージ7で支持し、このケージ7の外周を球面7aとし、かつ内周を内方部材3の外周に適合する球面7bとしている。
また、外方部材2の外周とシャフト8の外周とをブーツ9で覆い、外方部材2と、球形の内方部材3と、トラック溝4、5と、トルク伝達部材6と、ケージ7と、シャフト8とに囲まれた空間に発泡固形潤滑剤10が封入されている。
【0047】
図2に示すように、DOJ11は外方部材12の内面および球形の内方部材13の外面に軸方向の六本または八本のトラック溝14、15を等角度に形成し、そのトラック溝14、15間に組み込んだトルク伝達部材16をケージ17で支持し、このケージ17の外周を球面17aとし、かつ内周を内方部材13の外周に適合する球面17bとし、各球面17a、17bの中心(イ)、(ロ)を外方部材12の軸心上において軸方向に位置をずらしてある。
また、外方部材12の外周とシャフト18の外周とをブーツ19で覆い、外方部材12と、球形の内方部材13と、トラック溝14、15と、トルク伝達部材16と、ケージ17と、シャフト18とに囲まれた空間に発泡固形潤滑剤20が封入されている。
【0048】
図3に示すように、TJ21は外方部材22の内面に軸方向の三本の円筒形トラック溝23を等角度に形成し、外方部材22の内側に組み込んだトリポード部材24には三本の脚軸25を設け、各脚軸25の外側にトルク伝達部材である球面ローラ26を嵌合し、そのトルク伝達部材である球面ローラ26と脚軸25との間にニードル27を組み込んでトルク伝達部材である球面ローラ26を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、そのトルク伝達部材である球面ローラ26を上記トラック溝23に嵌合してある。
また、外方部材22の外周とシャフト28の外周とをブーツ29で覆い、外方部材22と、トラック溝23と、トリポード部材24と、シャフト28とに囲まれた空間に発泡固形潤滑剤30が封入されている。
【0049】
このようなTJやDOJについては、軸方向に摺動しろが必要なため、グリースなどの既存の潤滑剤を用いた場合は上述したBJなどの固定式ジョイントよりも封入空間容積が多くなる。
しかしながら発泡固形潤滑剤(図1の10、図2の20、図3の30)は、必要な部位にのみ充填が可能であるため、DOJやTJに発泡固形潤滑剤を封入する場合に低コスト化と軽量化への寄与度がより大きくなる。
【0050】
本発明の軸受の一例を図4に示す。図4は本発明の発泡固形潤滑剤を封入した深溝玉軸受の縦断面図である。
図4に示すように深溝玉軸受31は、外周面に内輪転走面32aを有する内輪32と内周面に外輪転走面33aを有する外輪33とが同心に配置され、内輪転走面32aと外輪転走面33aとの間に複数個の転動体34が配置される。転動体34は保持器35により保持され、少なくとも転動体34の周囲に本発明の発泡固形潤滑剤37が封入される。シール部材36は、内輪32および外輪33の軸方向両端開口部38a、38bにそれぞれ外輪33等に固定されて設けられる。シール部材36は、発泡固形潤滑剤37から徐放される潤滑成分の漏洩を防止する。
【0051】
この発明は、実施形態で説明した上記軸受に限らず、種々の形式の転がり軸受に広く適用可能である。例として、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ軸受、円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受、すべり軸受などが挙げられる。
【実施例】
【0052】
実施例1〜実施例6および比較例1
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材3、ケージ7およびトルク伝達部材である鋼球6を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )を準備した。次に表1に示す組成のうち(e)、(i)、(j)を(j)ワックスの融点以上で混合し、ワックスを一度溶解した後、潤滑成分に充分に分散させた。次に表1に示す組成のうち(a)、(d)、および前出の(e)、(i)、(j)の混合物を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解した(b)、(h)を加えて素早く混合した。最後に(C)を投入し撹拌した後、前述ジョイントに 18.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30 分間放置しジョイント内の発泡固形潤滑剤を硬化させ、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け発泡固形潤滑剤を封入した等速自在継手試験片を得た。
得られた試験片を以下に示す耐久性試験に供し、寿命時間を測定した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果を表1に併記する。
【0053】
<等速自在継手を用いた耐久性試験>
目的の耐久性の向上が得られているか評価するために、等速自在継手試験片を以下の条件で実機評価を行なった。試験中に外方部材表面温度が 100℃をこえたものは、異常温度上昇として試験打ち切りとした。また、規定時間後に試験片内部を点検し、摩耗やピーリング等の内部損傷が見られなかったものもしくは内部損傷が見られたが軽微で継続運転可能なものを可と判定して「○」を、損傷が激しく継続運転不可能なものを不可と判定して「×」を記録する。
・トルク 451 N・m
・角度 6 deg
・回転数 580 rpm
・試験時間 300 時間
【0054】
実施例7、実施例8および比較例2
最初に、図1に示す、外方部材2、内方部材3、ケージ7およびトルク伝達部材である鋼球6を組み付けた固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN社製:EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )を準備した。表1に示す成分量(組成)で、ポリエーテルポリオールにシリコーン系整泡剤、鉱油、アミン系触媒、発泡剤としての水を加え、90℃で加熱しよく撹拌した(なお、事前に鉱油とワックスとをワックスの融点以上で充分に混合し、ワックスを鉱油に分散させておいた)。これにイソシアネートを加えてよく撹拌した後、前述ジョイントに 16.0 g 封入した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃に設定した恒温槽で 15分間放置し硬化させ、ブーツ、シャフトなど他の部区を組み付け発泡固形潤滑剤を封入した等速自在継手試験片を得た。得られた試験片について実施例1同様の項目を測定した。結果を表1に併記する。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜実施例8は試験終了後も継続運転可能で、良好な結果であった。比較例1および比較例2は潤滑成分にワックスを添加したが、結果は不可であった。比較例1は、発泡固形潤滑剤が硬化(固化)しなかった。比較例2は、発泡固形潤滑剤の連続気泡率が 50%以下であったため、必要箇所(鋼球−トラック部やケージ球面部等の摺動部)へ潤滑剤が充分に供給されなかったものと推測する。
【0057】
実施例9および実施例10
表2に示す組成のうち(e)、(i)、(j)をワックスの融点以上で混合し、ワックスを一度溶解した後、潤滑成分に充分に分散させた。次に表2に示す組成のうち(a)、(d)、および(e)、(i)、(j)の混合物を 80℃でよく混合し、次に 120℃で溶解したアミン系硬化剤(b)、アミン系触媒(h)を加えて素早く混合した。最後に水(c)を投入し撹拌して得た混合物を、テーパ軸受(NTN社製、30204 外径サイズ 47 mm )の内部空間に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30分間放置し硬化させ、発泡固形潤滑剤を封入した軸受試験片を得た。得られた軸受試験片を以下に示す初期特性試験および寿命試験に供し、初期特性の発現状況および寿命時間を測定した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき発泡固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。これらの結果を表2に併記する。
【0058】
<軸受を用いた初期特性試験>
目的の初期特性が得られているか評価するために、得られた軸受試験片について、Fa=Fr=67 N の荷重を負荷し、80℃で 5000 rpm で 10 時間回転させた。試験後分解し、ローラ大端部にすべり痕が見られなかったものを可として「○」を、すべり痕が観察されたものを不可として「×」を記録する。
【0059】
<軸受を用いた寿命試験>
初期特性試験が可であったものについて、引き続き寿命試験を行なった。得られた試験片にラジアル荷重 67 N 、スラスト荷重 67 N を負荷し、80℃で 5000 rpm で回転させ、回転軸を駆動している電動機の入力電流が制限電流を超過した時(回転トルクが始動トルクの 2 倍をこえた時)までの寿命時間を測定した。
【0060】
実施例11および実施例12
表2に示す組成でポリエーテルポリオール(g)にシリコーン系整泡剤(d)、潤滑油(i)、アミン系触媒(h)、発泡剤としての水(c)を加え、90℃で加熱しよく撹拌した。これにイソシアネートを加えてよく撹拌して得た混合物を、テーパ軸受(NTN社製:30204 外径サイズ 47 mm )の内部空間に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、90℃で 15分間放置し硬化させて、発泡固形潤滑剤を封入した軸受試験片を得た。実施例9同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
【0061】
比較例3
表2に示す組成で実施例9および実施例10と同様の手順で軸受試験片を作成したが、発泡固形潤滑剤は硬化(固化)しなかった。
【0062】
比較例4
表2に示す組成で実施例11および実施例12と同様の手順で軸受試験片を作成したが、潤滑成分にワックスは添加しなかった。実施例9同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の発泡固形潤滑剤は、潤滑成分を保持する発泡固形潤滑剤の潤滑成分保持力を向上させるとともに、発泡固形潤滑剤の変形による潤滑剤の滲み出し量を必要最小限に留めることができ、長寿命で低コスト化の要望に応じ得る。このため、各種産業機械用および自動車用等に用いられる各種転がり軸受、自在継手等に封入する発泡固形潤滑剤として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の発泡固形潤滑剤を封入した自在継手の一実施形態である等速自在継手を示す一部切欠断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態である等速自在継手を示す一部切欠断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態である等速自在継手を示す一部切欠断面図である。
【図4】本発明の発泡固形潤滑剤を封入した深溝玉軸受を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 等速自在継手BJ
2、12、22 外方部材
3、13 内方部材
4、5、14、15、23 トラック溝
6、16 トルク伝達部材(鋼球)
7、17 ケージ
7a、17a 球面
7b、17b 球面
8、18、28 シャフト
9、19、29 ブーツ
10、20、30 発泡固形潤滑剤
11 等速自在継手DOJ
21 等速自在継手TJ
24 トリポード部材
25 脚軸
26 トルク伝達部材(球面ローラ)
27 ニードル
31 深溝玉軸受
32 内輪
32a 内輪転走面
33 外輪
33a 外輪転走面
34 転動体
35 保持器
36 シール部材
37 発泡固形潤滑剤
38a、38b 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡・硬化して多孔質化する樹脂内に潤滑成分を含んでなる発泡固形潤滑剤であって、
前記潤滑成分は、潤滑油およびグリースから選ばれた少なくとも1つに、融点が 70〜150℃であるワックスを含有し、該ワックスは脂肪酸モノアミド系ワックス、水素硬化油系ワックス、および炭化水素系ワックスから選ばれた少なくとも1つのワックスであることを特徴とする発泡固形潤滑剤。
【請求項2】
前記脂肪酸モノアミド系ワックスが、ステアリン酸アミドワックス、エルカ酸アミドワックス、オレイン酸アミドワックスから選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項3】
前記発泡固形潤滑剤は、前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂がゴム状弾性を有し、該樹脂内に含まれる前記潤滑成分がゴム状弾性体の外部応力による変形により滲出性を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項4】
前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡倍率が、1.1〜100 倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項5】
前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂の発泡・硬化後の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項6】
前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂は、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含み、
前記樹脂が分子内にイソシアネート基を 2 重量%以上 6 重量%未満含有するウレタンプレポリマーであり、
前記発泡剤が水であり、
前記樹脂成分と、前記硬化剤と、前記発泡剤と、前記潤滑成分とを含む混合物全体に対して、前記潤滑成分を 20〜80 重量%含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項7】
前記ウレタンプレポリマーは、エステル系ウレタンプレポリマー、カプロラクトン系ウレタンプレポリマー、およびエーテル系ウレタンプレポリマーから選ばれた少なくとも1つのウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項6記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項8】
前記イソシアネート基と、該イソシアネート基と反応する前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(硬化剤の官能基/NCO)=1/(1.1〜2.5)の範囲であることを特徴とする請求項6または請求項7記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項9】
前記水の水酸基と、前記硬化剤の官能基との割合が当量比で(水の水酸基/硬化剤の官能基)=1/(0.7〜2.0)の範囲であることを特徴とする請求項6、請求項7または請求項8記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項10】
前記硬化剤が芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項11】
前記芳香族ポリアミノ化合物がアミノ基の隣接位に置換基を有する芳香族ポリアミノ化合物であることを特徴とする請求項10記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項12】
前記発泡・硬化して多孔質化する樹脂は、樹脂成分と、硬化剤と、発泡剤とを含み、
前記樹脂成分がポリエーテルポリオールであり、前記硬化剤がポリイソシアネートであり、
前記発泡剤が水であり、
前記樹脂成分と、前記硬化剤と、前記発泡剤と、前記潤滑成分とを含む混合物全体に対して、前記潤滑成分を 60〜80 重量%含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤。
【請求項13】
トラック溝とトルク伝達部材との係り合いによって回転トルクが伝達され、前記トルク伝達部材が前記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる自在継手であって、
該自在継手の内部に請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤が封入されていることを特徴とする自在継手。
【請求項14】
軸受内部に発泡固形潤滑剤が封入されてなる軸受であって前記発泡固形潤滑剤は、請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の発泡固形潤滑剤であることを特徴とする軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−18734(P2010−18734A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181531(P2008−181531)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】