説明

発泡性耐火塗膜構造及びその形成方法、並びに耐火構造体

【課題】耐ひび割れ性及び薄膜性に優れる発泡性耐火塗膜構造、及び当該発泡性耐火塗膜構造の形成方法を提供する。
【解決手段】発泡性耐火塗膜構造1は、建築用又は土木用の下地材2の上面に形成される発泡性耐火塗膜構造1であって、発泡倍率の異なる少なくとも2種類の発泡性耐火塗膜層が積層された構造を有する。この積層構造は、下地材の上面に積層された第1の発泡性耐火塗膜層11と、第1の発泡性耐火塗膜層11の上面に積層された第2の発泡性耐火塗膜層12とから構成され、第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率は、第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性能に優れた建築用又は土木用の発泡性耐火塗膜構造及びその形成方法、並びに建築用又は土木用の耐火構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用又は土木用の鋼材等の下地材は、火災等により高温雰囲気下に晒されると、その物理的強度が低下して崩壊するおそれがある。そのため、従来、建築用又は土木用の下地材の耐火性能を高めるために、各種の発泡性耐火塗料が用いられている。これらの発泡性耐火塗料を鋼材等に塗布することにより形成した発泡性耐火塗膜は、火災等により高温雰囲気下に晒されると、発泡して断熱層(空気層)を形成し、当該断熱層により鋼材等への熱伝導が遮断される。これにより、鋼材等が直接高温雰囲気下に晒されることなく、鋼材等の物理的強度を維持することができる。
【0003】
発泡性耐火塗膜の耐火性能(断熱効果)は、当該発泡性耐火塗膜の発泡倍率が高いほど向上するが、一方で、発泡性耐火塗膜の発泡倍率が高くなるほど、断熱層が灰化(炭化)する過程で断熱層に生じる引張応力が大きくなり、その結果、当該断熱層にひび割れが生じやすくなる。断熱層に生じたひび割れが鋼材等まで貫通してしまうと、鋼材等が直接高温雰囲気下に晒されてしまい、発泡性耐火塗膜の耐火性能(断熱効果)は著しく低下することになる。
【0004】
そこで、従来、高い耐火性能を発現する技術として、高い発泡倍率を保持しつつ、塗膜素材及び添加材料の選定・配合によってひび割れの発生を抑制し得る各種発泡性耐火塗料が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2001−40290号公報
【特許文献2】特開2004−315812号公報
【特許文献3】特開平6−16975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの発泡性耐火塗膜は、いずれも発泡性耐火塗膜層が単層であって、これに添加する添加材料の種類や添加量を調整することによって、耐ひび割れ性、薄膜性又はコスト等の相反する各性能のバランスをとっているため、塗膜全体としてみると耐火性能はまだ十分とはいえない。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するものであり、耐ひび割れ性及び薄膜性に優れる発泡性耐火塗膜構造、及び当該発泡性耐火塗膜構造の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の発泡性耐火塗膜構造は、建築用又は土木用の下地材の表面に形成された発泡性耐火塗膜構造であって、発泡倍率の異なる少なくとも2種類の発泡性耐火塗膜層が積層された構造を有することを特徴とする(請求項1)。
【0008】
発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が高ければ高いほど、当該発泡性耐火塗膜層が所定の温度雰囲気下に晒されることで発泡して形成した断熱層の耐火性能は上がるが、当該断熱層の強度が低下するため、ひび割れが生じてしまい、結果として断熱効果を発揮することができないおそれがあるが、上記発明(請求項1)によれば、発泡倍率の異なる発泡性耐火塗膜層を積層することで、耐火性能の高い発泡性耐火塗膜層と、高強度の発泡性耐火塗膜層とを積層させることができ、それぞれの発泡性耐火塗膜層が発泡することにより形成された断熱層は、十分な耐火性能を発揮することができるとともに、当該断熱層がひび割れるおそれもない。
【0009】
上記発明(請求項1)においては、前記積層構造は、前記下地材の上面に積層された第1の発泡性耐火塗膜層と、当該第1の発泡性耐火塗膜層の上面に積層された第2の発泡性耐火塗膜層とから構成され、前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率は、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率よりも低いことが好ましい(請求項2)。また、上記発明(請求項2)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率と前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率との比は、1:1.25〜20であることが好ましい(請求項3)。さらに、上記発明(請求項3)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、5〜80倍であって、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、6.25〜100倍であることが好ましい(請求項4)。
【0010】
上記発明(請求項2〜4)によれば、火災等により所定の温度雰囲気下に晒されたとしても、発泡倍率のより高い第2の発泡性耐火塗膜層が発泡し、十分な断熱効果を発揮し得る断熱層を形成するとともに、第1の発泡性耐火塗膜層は第2の発泡性耐火塗膜層よりも発泡倍率が低く、第1の発泡性耐火塗膜層が発泡して高強度の断熱層を形成することができるため、第1及び第2の発泡性耐火塗膜層が発泡することで形成された断熱層にひび割れが生じることがなく、十分な耐火性能を得ることができる。
【0011】
上記発明(請求項2〜4)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚の合計が、0.5〜10.0mmであることが好ましく(請求項5)、上記発明(請求項2〜5)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚比は、4:1〜1:4であることが好ましい(請求項6)。
【0012】
上記発明(請求項5,6)によれば、膜厚を薄くしたとしても十分な耐火性能を得ることができるとともに、膜厚を薄くすることができるため、発泡性耐火塗膜構造の施工期間を短縮することができ、施工にかかる費用を低減することができる。
【0013】
本発明の建築用又は土木用耐火構造体は、建築用又は土木用の下地材と、前記下地材の上面に設けられた上記発明(請求項1〜6)の発泡性耐火塗膜構造とを備えることを特徴とする(請求項7)。
【0014】
上記発明(請求項7)によれば、鋼材等の下地材の上面に上記発明(請求項1〜6)の発泡性耐火塗膜構造が設けられているため、耐火構造体が火災等により高温雰囲気下に晒されたとしても、鋼材等の物理的強度が低下することがない。
【0015】
本発明の発泡性耐火塗膜構造の形成方法は、建築用又は土木用の下地材の上面に第1の耐火塗料を塗布して第1の発泡性耐火塗膜層を形成し、当該第1の発泡性耐火塗膜層の上面に第2の耐火塗料を塗布して、第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率よりも高い発泡倍率を有する第2の発泡性耐火塗膜層を形成することを特徴とする(請求項8)。
【0016】
上記発明(請求項8)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率と前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率との比は、1:1.25〜20であることが好ましい(請求項9)。また、上記発明(請求項9)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、5〜80倍であって、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、6.25〜100倍であることが好ましい(請求項10)。
【0017】
上記発明(請求項8〜10)によれば、建築用又は土木用の下地材の上面に積層された第1の発泡性耐火塗膜層の上面に、第1の発泡性耐火塗膜層よりも発泡倍率の高い第2の発泡性耐火塗膜層をさらに積層させることで、第1及び第2の発泡性耐火塗膜層が発泡することにより形成した断熱層にひび割れが生じることがなく、十分な耐火性能を有する耐火塗膜構造を形成することができる。
【0018】
上記発明(請求項8〜10)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚の合計が、0.5〜10.0mmであることが好ましく(請求項11)、上記発明(請求項8〜11)においては、前記第1の発泡性耐火塗膜層の膜厚と前記第2の発泡性耐火塗膜層の膜厚との比が、4:1〜1:4であることが好ましい(請求項12)。
【0019】
上記発明(請求項11,12)によれば、膜厚を薄くしたとしても十分な耐火性能を得ることができるとともに、膜厚を薄くすることができるため、発泡性耐火塗膜構造の施工期間を短縮することができ、施工にかかる費用を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐ひび割れ性及び薄膜性に優れる発泡性耐火塗膜構造及び当該発泡性耐火塗膜構造の形成方法、並びにその発泡性耐火塗膜構造を備える耐火構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る耐火構造体について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る耐火構造体の概略構成を示す断面図であり、図2は、本実施形態に係る耐火構造体の概略構成を示す斜視図であり、図3は、本実施形態に係る耐火構造体における発泡性耐火塗膜構造の形成方法を示す概略構成図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る耐火構造体10において、発泡性耐火塗膜構造1は、下地材2の上面に積層された第1の発泡性耐火塗膜層11と、第1の発泡性耐火塗膜層11の上面に積層された第2の発泡性耐火塗膜層12とを有する。なお、本実施形態に係る耐火構造体10の発泡性耐火塗膜構造1は、2層の発泡性耐火塗膜層からなる積層構造を有しているが、これに限定されるものではなく、3層以上の発泡性耐火塗膜層からなる積層構造を有していてもよい。
【0023】
下地材2としては、特に限定されるものではなく、一般に建築又は土木の用途に用いられるものが挙げられる。具体的には、H形鋼、みぞ形鋼、I形鋼、等辺山形鋼、不等辺山形鋼、角形鋼管、丸形鋼管等の通常使用される鉄骨、鋼管、木材、コンクリート等を用いることができる。それ以外にも、軽量鉄骨や木材、コンクリートと他の材料、例えば、金網、メタルラス、石膏ラスボード、ラスカット合板等の下地材;石膏ボード、けい酸カルシウム板、繊維混入セメント珪酸カルシウム板、硬質木片セメント板、パルプ混入石綿セメント板、スラグ石膏セメント板、ガラス繊維混入スラグ石膏板、石綿セメント押出成形板、繊維混入セメントパーライト板等の窯業サイディング板等を用いてもよい。
【0024】
第1の発泡性耐火塗膜層11を形成するために用いられる第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗膜層12を形成するために用いられる第2の発泡性耐火塗料は、例えば、難燃性発泡剤、炭化剤、バインダー、繊維、フィラー等を含むものであることが好ましく、これら以外に、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤等の溶剤、体質顔料、着色顔料等の顔料、増粘剤、界面活性剤、消泡剤等をさらに含むものであってもよい。
【0025】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれる難燃性発泡剤としては、例えば、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、リン酸メラミン等のリン酸化合物が挙げられ、これらが単独で含まれていてもよいし、混合されて含まれていてもよい。これらのリン酸化合物が第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれていることで、これらの発泡性耐火塗料を塗布することにより形成した第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12は、火災等により高温雰囲気下に晒されると、発泡して、火炎の勢いによってひび割れることのない耐火層を形成することができ、耐火性能を長時間保持することができる。
【0026】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれる炭化剤としては、例えば、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、テトラペンタエントリトール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの炭化剤は、単独で発泡性耐火塗料に含まれていてもよいし、混合して含まれていてもよい。
【0027】
第1の発泡性耐火塗料における炭化剤の配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、5〜70質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。また、第2の発泡性耐火塗料における炭化剤の配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、10〜80質量部であることが好ましく、15〜55質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれるバインダーとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の合成樹脂が挙げられる。これらの合成樹脂は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、これらの合成樹脂は、水性エマルジョン等の形態で第1及び第2の発泡性耐火塗料に含まれていることが好ましい。
【0029】
第1の発泡性耐火塗料におけるバインダーの配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、40〜350質量部(固形分換算)であることが好ましく、80〜180質量部(固形分換算)であることがさらに好ましい。また、第2の発泡性耐火塗料におけるバインダーの配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、30〜300質量部(固形分換算)であることが好ましく、60〜160質量部(固形分換算)であることがさらに好ましい。
【0030】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール繊維、スラグウール繊維、パルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、鋼繊維等が挙げられる。これらは、単独で含まれていてもよいし、混合して含まれていてもよい。
【0031】
第1の発泡性耐火塗料における繊維の配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、20〜100質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることがさらに好ましい。また、第2の発泡性耐火塗料におけるフィラーの配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、5〜85質量部であることが好ましく、15〜45質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料に含まれるフィラーとしては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、マイカ等が挙げられる。これらは単独で含まれていてもよいし、2種以上が混合して含まれていてもよい。
【0033】
第1の発泡性耐火塗料におけるフィラーの配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、15〜200質量部であることが好ましく、30〜100質量部であることがさらに好ましい。また、第2の発泡性耐火塗料におけるフィラーの配合量は、リン酸化合物100質量部に対して、10〜160質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態に係る耐火構造体10における発泡性耐火塗膜構造1の第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12は、火災等により高温雰囲気下に晒されると発泡して耐火層を形成する。第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡開始温度は、通常100〜600℃であり、好ましくは200〜400℃である。
【0035】
火災等により高温雰囲気下に晒されたとき、本実施形態に係る発泡性耐火塗膜構造1を有する下地材2の表面温度は、当該発泡性耐火塗膜構造1の表面温度(第2の発泡性耐火塗膜層12の表面温度)の1/2以下であることが好ましく、特に1/3以下であることが好ましい。下地材2の表面温度が、発泡性耐火塗膜構造1の表面温度の1/2を超えると、発泡性耐火塗膜構造1の断熱効果が十分ではなく、また第1及び第2の発泡性耐火塗膜層11,12が発泡して形成した耐火層(断熱層)にひび割れが生じるおそれがある。
【0036】
第2の発泡性耐火塗膜層12は、第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率よりも高い発泡倍率を有する。第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率よりも第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率が高いことで、第1の発泡性耐火塗膜層11が発泡して形成した断熱層は、第2の発泡性耐火塗膜層12が発泡して形成した断熱層よりも高強度であるため、第1及び第2の発泡性耐火塗膜層11,12が発泡して形成した断熱層にひび割れが生じるおそれがない。
【0037】
発泡性耐火塗膜層11,12の発泡倍率は、発泡性耐火塗膜層11,12の周辺温度によって変動するものではあるが、例えば、第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率は、5〜80倍であることが好ましく、8〜60倍であることがより好ましく、10〜40倍であることが特に好ましい。また、第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率は、6.25〜100倍であることが好ましく、10〜80倍であることがより好ましく、15〜60倍であることが特に好ましい。したがって、第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率と第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率との比は、1:1.25〜20であることが好ましく、1:1.5〜10であることが特に好ましい。
【0038】
第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12の膜厚は、第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率や、当該発泡性耐火塗膜層11,12を有する鋼材等に要求される耐火性能等によって適宜調整することができる。一般に、第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12の300℃における発泡倍率が、それぞれ2〜100倍である場合、第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12の膜厚の合計は、0.5〜10.0mmであることが好ましく、0.75〜6.0mmであることがより好ましく、1.0〜4.0mmであることが特に好ましい。膜厚の合計が0.5mm未満であると、十分な耐火性能が得られないおそれがあり、10.0mmを超えると、施工の手間が増大するのみでなく、断熱層が脱落する危険性が増大するおそれがある。
【0039】
第1の発泡性耐火塗膜層11の膜厚と第2の発泡性耐火塗膜層12の膜厚との比は、4:1〜1:4であることが好ましい。この範囲内であれば、第1及び第2の発泡性耐火塗膜層11,12の特徴が十分に発揮され、より一体的で均質な断熱層を得ることができるとともに、耐ひび割れ性に優れた発泡性耐火塗膜構造1を形成することができる。
【0040】
図3に示すように、本実施形態に係る耐火構造体10における発泡性耐火塗膜構造1の形成方法は、まず、下地材2に接着剤、防錆塗料等を塗布して下地塗膜層3を形成する(図3a)。特に下地材2が、金属製の鋼材や鋼管等である場合には、防錆塗料を塗布することが好ましい。
【0041】
次に、この下地塗膜層2の上に第1の発泡性耐火塗料を塗布して、自然乾燥等することにより、第1の発泡性耐火塗膜層11を形成する(図3b)。そして、第1の発泡性耐火塗膜層11の上面に第2の発泡性耐火塗料を塗布して、自然乾燥等することにより、第2の発泡性耐火塗膜層12を形成し、発泡性耐火塗膜構造1を形成する(図3c)。
【0042】
第1の発泡性耐火塗料及び第2の発泡性耐火塗料を塗布する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー、コテ、ローラー、刷毛等を使用して塗布することができる。
【0043】
なお、このようにして形成した発泡性耐火塗膜構造1(第2の発泡性耐火塗膜層12)の上面に、光反射塗料、蛍光塗料等を塗布したり、仕上用モルタル、タイル等を貼り付けたりして、仕上材層4を形成してもよいし(図3d)、耐候性透明塗料、防汚塗料、耐磨耗材、撥水材、防水材等を塗布して、保護材層5をさらに形成してもよい(図3e)。
【0044】
このようにして形成した発泡性耐火塗膜構造1は、火災等により周辺温度が所定温度になると、第1の発泡性耐火塗膜層11及び第2の発泡性耐火塗膜層12が発泡して、断熱層を形成することができる。この第1の発泡性耐火塗膜層11の発泡倍率が、第2の発泡性耐火塗膜層12の発泡倍率よりも低いことで、形成した断熱層にひび割れが生じるおそれはない。したがって、本実施形態に係る耐火構造体10は、火災等により高温雰囲気下に晒されたとしても、下地材2が直接火炎等に晒されることはなく、十分な耐火性能を発揮することができ、下地材2の物理的強度を維持することができる。
【0045】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
〔使用材料〕
(1)発泡性耐火塗料A(Cafco社製,商品名:Spray film WB2,発泡倍率:約40〜60倍(ISO834加熱曲線に従った加熱条件下で60分加熱))
【0048】
(2)発泡性耐火塗料B(Cafco社製,商品名:Spray film WB3,発泡倍率:約20〜32倍(ISO834加熱曲線に従った加熱条件下で60分加熱))
【0049】
(3)CFT用コンクリート
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
骨材:硬質砂岩砕石(茨城県岩瀬産,20〜5mm)
混和剤:石灰系膨張材含有高充填コンクリート用混和剤(商品名:太平洋フィラミック,太平洋マテリアル社製,配合量:22kg/m
空気量:5.0%
コンクリート中のモルタル分の膨張率:0.1%
スランプフロー:50cm
【0050】
なお、CFT用コンクリートにおける空気量はJIS−A1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法−空気室圧力方法」に従って測定した値、モルタル分の膨張率はJSCE−F 542−1999「充填モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法」に従って測定した値、スランプフローはJIS−A1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に従って測定した値である。
【0051】
〔試験方法〕
試験体を耐火炉内に設置し、一般的な耐火試験での加熱条件である、ISO834加熱曲線に従って60分間の耐火試験を行った。このとき60分経過時点での鋼材表面の最高温度が角形鋼管柱で500℃未満、H形鋼柱では550℃未満で合格と判断した。また、CFT柱(鋼管充填コンクリート柱)については、RABT60加熱曲線に従って60分間の耐火試験を実施し、鋼材の表面温度が350℃未満で合格と判断した。
【0052】
〔実施例1〕
角形鋼管柱(200×200×12mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料A及び発泡性耐火塗料Bを1:1の割合(質量比)で順次塗布し、発泡性積層耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性積層耐火塗膜の厚みは1.60mmであった。この発泡性積層耐火塗膜の外表面に仕上・保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体について、以下のようにして耐火試験を行った。
【0053】
耐火試験は、試験体を耐火炉内に設置し、一般的な耐火試験での加熱条件である、ISO834加熱曲線に従って60分間の耐火試験を行った。実施例1に係る試験体を対価試験に供した結果、耐火試験による鋼管柱表面の最高温度は442℃であり、耐火基準に合格した。
【0054】
〔比較例1〕
角形鋼管柱(200×200×12mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料Aのみを塗布して発泡性耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性耐火塗膜の厚みは、1.55mmであった。この発泡性耐火塗膜の外表面に仕上・保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体を実施例1と同様の条件で耐火試験に供した。耐火試験による鋼管柱表面の最高温度は562℃であり、耐火基準を満たさなかった。また、発泡した耐火塗膜層には鋼材表面まで貫通したひび割れが確認された。
【0055】
〔比較例2〕
角形鋼管柱(200×200×12mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料Bのみを塗布して発泡性耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性耐火塗膜の厚みは、1.80mmであった。この発泡性耐火塗膜の外表面に仕上・保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体を実施例1と同様の条件で耐火試験に供した。耐火試験による鋼管柱表面の最高温度は506℃であり、耐火基準を満たさなかった。
【0056】
〔実施例2〕
H形鋼柱(300×300×10×15mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料A及び発泡性耐火塗料Bを1:1の割合(質量比)で順次塗布して、発泡性積層耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性積層耐火塗膜の厚みは、1.55mmであった。この発泡性積層耐火塗膜の外表面に仕上・保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体を実施例1と同様の条件で耐火試験に供した。耐火試験による鋼管柱表面の最高温度は526℃であり、耐火基準に合格した。
【0057】
〔比較例3〕
H形鋼柱(300×300×10×15mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料Bのみを塗布して発泡性耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性耐火塗膜の厚みは、1.80mmであった。この発泡性耐火塗膜の外表面に仕上・保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体を実施例1と同様の条件で耐火試験に供した。耐火試験による鋼管柱表面の最高温度は581℃であり、耐火基準を満たさなかった。
【0058】
〔実施例3〕
角形鋼管柱(300×300×19mm,長さ800mm)の内部にコンクリートを打設した鋼管充填コンクリート(CFT)柱を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料A及び発泡性耐火塗料Bを1:1の割合(質量比)で順次塗布して、発泡性積層耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性積層耐火塗膜の厚みは3.5mmであった。この発泡性積層耐火塗膜の外表面に仕上材(一液反応硬化形水系ウレタン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューウレタン)及び保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体について、RABT60加熱曲線に従って耐火試験を行った。耐火試験によるCFT柱表面の最高温度は331℃であり、耐火基準に合格した。
【0059】
〔比較例4〕
CFT柱(300×300×19mm,長さ800mm)を下地材として使用し、下地材の表面に防錆材(下塗り材,商品名:シアナミドボーゴ,商品名:シアナミドボーゴ速乾,大日本塗料社製)を塗布した。その表面に発泡性耐火塗料Bのみを塗布して、発泡性耐火塗膜を形成した。乾燥後の発泡性耐火塗膜の厚みは、4.00mmであった。この発泡性耐火塗膜の外表面に仕上材(液反応硬化形水系ウレタン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューウレタン)及び保護材(水系アクリルシリコン樹脂塗料,大日本塗料社製,商品名:DNTビューシリコン)をさらに塗布して、試験体を作製した。この試験体について実施例3と同様の条件にて耐火試験を行った。耐火試験によるCFT柱表面の最高温度は401℃であり、耐火基準を満たさなかった。また、発泡層にはCFT柱表面まで貫通したひび割れが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、建築用下地材、又は土木用下地材の耐火性能の向上、耐火塗膜の施工期間の短縮、及び施工費用の低減に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る耐火構造体の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る耐火構造体の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る耐火構造体における発泡性耐火塗膜構造の形成方法を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0062】
1…発泡性耐火塗膜構造
11…第1の発泡性耐火塗膜層
12…第2の発泡性耐火塗膜層
2…下地材
10…耐火構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築用又は土木用の下地材の上面に形成された発泡性耐火塗膜構造であって、
発泡倍率の異なる少なくとも2種類の発泡性耐火塗膜層が積層された構造を有することを特徴とする発泡性耐火塗膜構造。
【請求項2】
前記積層構造は、前記下地材の上面に積層された第1の発泡性耐火塗膜層と、当該第1の発泡性耐火塗膜層の上面に積層された第2の発泡性耐火塗膜層とから構成され、
前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率は、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の発泡性耐火塗膜構造。
【請求項3】
前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率と前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率との比は、1:1.25〜20であることを特徴とする請求項2に記載の発泡性耐火塗膜構造。
【請求項4】
前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、5〜80倍であって、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、6.25〜100倍であることを特徴とする請求項3に記載の発泡性耐火塗膜構造。
【請求項5】
前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚の合計が、0.5〜10.0mmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の発泡性耐火塗膜構造。
【請求項6】
前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚の比は、4:1〜1:4であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の発泡性耐火塗膜構造。
【請求項7】
建築用又は土木用の下地材と、
前記下地材の上面に設けられた請求項1〜6のいずれかに記載の発泡性耐火塗膜構造と
を備えることを特徴とする建築用又は土木用耐火構造体。
【請求項8】
建築用又は土木用の下地材の上面に第1の耐火塗料を塗布して第1の発泡性耐火塗膜層を形成し、当該第1の発泡性耐火塗膜層の上面に第2の耐火塗料を塗布して、第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率よりも高い発泡倍率を有する第2の発泡性耐火塗膜層を形成することを特徴とする発泡性耐火塗膜構造の形成方法。
【請求項9】
前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率と前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率との比は、1:1.25〜20であることを特徴とする請求項8に記載の発泡性耐火塗膜構造の形成方法。
【請求項10】
前記第1の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、5〜80倍であって、前記第2の発泡性耐火塗膜層の発泡倍率が、6.25〜100倍であることを特徴とする請求項9に記載の発泡性耐火塗膜構造の形成方法。
【請求項11】
前記第1の発泡性耐火塗膜層と前記第2の発泡性耐火塗膜層との膜厚の合計が、0.5〜10.0mmであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の発泡性耐火塗膜構造の形成方法。
【請求項12】
前記第1の発泡性耐火塗膜層の膜厚と前記第2の発泡性耐火塗膜層の膜厚との比が、4:1〜1:4であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の発泡性耐火塗膜構造の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−132166(P2007−132166A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328844(P2005−328844)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】