説明

発泡成形体の製造方法

【課題】表面の外観に優れ、発泡成形体のセル構造が均一かつ微細である発泡成形体を製造することが可能な発泡成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】プロピレン系樹脂と、このプロピレン系樹脂100質量部に対してクエン酸塩を0.1質量部〜1.0質量部と、を含有するプロピレン系樹脂組成物を溶融させ、溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を含有させる溶融工程と、この溶融工程により得られる溶融樹脂を、可動側金型と固定側金型との間に形成されるキャビティ内に充填する充填工程と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を発泡させる発泡工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、機械的性質、耐薬品性等に優れ、経済性とのバランスにおいて極めて有用なため各成形分野に広く用いられている。
ポリプロピレンの発泡成形体が得られる組成物又はポリプロピレン発泡成形体を得る手段として、例えば、メタロセン担持型触媒を用いて製造された、プロピレン及びα,ω−ジエンからなる共重合体、該共重合体に発泡剤が含有されたポリプロピレン系樹脂組成物、該組成物を加熱、溶融、混練、発泡成形した発泡成形体、ならびに、該発泡成形体を成形した発泡成形体が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−316510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたポリプロピレン系樹脂組成物は、必ずしも発泡性が充分ではなく、高発泡倍率の発泡成形体、あるいは、緻密な発泡セル構造を有する発泡成形体を得ることは困難である。
以上の課題に鑑み、本発明は表面の外観に優れ、発泡成形体のセル構造が均一かつ微細である発泡成形体を製造することが可能な発泡成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はプロピレン系樹脂と、このプロピレン系樹脂100質量部に対してクエン酸塩を0.1質量部〜1.0質量部と、を含有するプロピレン系樹脂組成物を溶融させ、溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を含有させる溶融工程と、この溶融工程により得られる溶融樹脂を、可動側金型と固定側金型との間に形成されるキャビティ内に充填する充填工程と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を発泡させる発泡工程と、を有することを特徴とする発泡成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、表面の外観に優れ、発泡成形体のセル構造が均一かつ微細である発泡成形体を製造することが可能な発泡成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例で用いた熱可塑性樹脂発泡成形体の斜視図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る方法により得られる発泡成形体は、クエン酸塩を含有したプロピレン系熱樹脂組成物に物理発泡剤を溶解し、発泡成形させて得られるものである。
以下、本発明の原料として用いられるプロピレン系樹脂組成物について説明した後、本発明に係る製造方法について説明する。
〔プロピレン系樹脂組成物〕
本発明で用いられるプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系樹脂と、クエン酸塩とを含有する。
【0009】
(プロピレン系樹脂)
プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体及びプロピレン−エチレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
プロピレン−エチレン共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体又は、プロピレン−エチレンブロック共重合体が挙げられる。ここで、プロピレン−エチレンブロック共重合体とは、プロピレン単独重合体成分と、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分とからなる共重合体をいう。
上記プロピレン単独重合体及びプロピレン−エチレン共重合体の中で、発泡成形体の剛性、耐熱性又は硬度を高めるという観点から、プロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体又は、プロピレン−エチレンブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0010】
プロピレン単独重合体の13C−NMRによって測定されるアイソタクチック・ペンタッド分率は0.95以上が好ましく、さらに好ましくは0.98以上である。プロピレン−エチレンブロック共重合体中のプロピレン単独重合体成分の、13C−NMRによって測定されるアイソタクチック・ペンタッド分率は0.95以上が好ましく、さらに好ましくは0.98以上である。
【0011】
アイソタクチック・ペンタッド分率とは、A. ZambelliらによってMacromolecules, 第6巻, 第925頁(1973年)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピ−クの帰属は、Macromolecules, 第8巻, 第687頁(1975年)に基づいて行う。
【0012】
上記プロピレン単独重合体の135℃のテトラリン溶媒中で測定される極限粘度([η])、ブロック共重合体のプロピレン単独重合体成分の135℃のテトラリン溶媒中で測定される極限粘度([η])、ランダム共重合体の135℃のテトラリン溶媒中で測定される極限粘度([η])は、0.7dl/g〜5dl/gであり、好ましくは0.8dl/g〜4dl/gである。
【0013】
また、プロピレン単独重合体、ブロック共重合体のプロピレン単独重合体成分、ランダム共重合体のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量分布(Q値、Mw/Mn)は、好ましくは3以上7以下である。
【0014】
上記ブロック共重合体のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分に含有されるエチレン含有量は20質量%〜65質量%、好ましくは25質量%〜50質量%である(ただし、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分の全量を100質量%とする)。
【0015】
上記ブロック共重合体のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分の135℃のテトラリン溶媒中で測定される極限粘度([η]EP)は、1.5dl/g〜12dl/gであり、好ましくは2dl/g〜8dl/gであり、さらに好ましくは3dl/g〜8dl/gである。
【0016】
上記プロピレン単独重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分〜400g/10分であり、好ましくは1g/10分〜300g/10分である。但し、測定温度は230℃で、荷重は2.16kgである。
上記プロピレン−エチレン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分〜200g/10分であり、好ましくは5g/10分〜150g/10分である。但し、測定温度は230℃で、荷重は2.16kgである。
【0017】
プロピレン系樹脂は、溶液重合法、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等によって製造することができる。また、これらの重合法を単独で用いても良く、2種以上の重合法を組み合わせても良い。
プロピレン系樹脂の製造に用いられる触媒としては、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒が挙げられる。好ましいマルチサイト触媒として、チタン原子、マグネシウム原子及びハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられ、また、好ましいシングルサイト触媒として、メタロセン触媒が挙げられる。
【0018】
(クエン酸塩)
プロピレン系樹脂組成物は、クエン酸塩を含含有する。クエン酸塩としてはクエン酸イオンとイオン結合してなる塩であれば特に限定しないが、具体的にはクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でもクエン酸ナトリウムが好ましい。
クエン酸塩はプロピレン系樹脂と予め混合してもよく、射出成形する際に射出成形機のシリンダの途中から注入してもよい。また、クエン酸塩は粉末状の物でも、熱可塑性樹脂とマスターバッチ状になっているものを用いてもよい。
【0019】
クエン酸塩の含有量は、プロピレン系樹脂100質量部に対し、0.1質量部〜1.0質量部である。好ましくは0.1質量部〜0.6質量部であり、より好ましくは0.2質量部〜0.5質量部である。クエン酸塩の含有量が0.1質量部未満であると発泡成形体のセルが粗大となり、1.0質量部を超えるとシルバーストリークが発生する。
【0020】
(エチレン−α−オレフィン共重合体)
プロピレン系樹脂組成物は、エチレンと炭素数4〜20のα−オレフィンが共重合したエチレン−α−オレフィン共重合体を含有していてもよい。
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、エチレン−α−オレフィンブロック共重合体、又は、これらの混合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体が好ましい。
【0021】
α−オレフィンは炭素数4〜20のα−オレフィンである。例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン及び1−エイコセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数4〜12のα−オレフィンが好ましく、1−ブテンがより好ましい。
【0022】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)は1g/10分〜50g/10分であり、より好ましくは10g/10分〜40g/10分であり、さらに好ましくは10g/10分〜35g/10分である。上記の数値の範囲内であるとより微細なセルを有する発泡成形体を得ることが可能となる。
【0023】
エチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、好ましくは0.85g/cm〜0.89g/cmであり、より好ましくは0.85g/cm〜0.88g/cmであり、さらに好ましくは0.86g/cm〜0.88g/cmである。上記の数値の範囲内であると、発泡成形性に優れるプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。また、均一性及び微細性に優れた発泡成形体を得ることができる。
【0024】
エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等によって、所定のモノマーを、メタロセン系触媒を用いて重合する方法が挙げられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、前記プロピレン系樹脂組成物100質量部に対して、好ましく0質量部〜40質量部、より好ましくは5質量部〜30質量部、さらに好ましくは10質量部〜25質量部である。
【0025】
(無機フィラー)
プロピレン系樹脂組成物は、無機フィラーをさらに含有していてもよい。
無機フィラーとしては、ガラスビーズ、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウィスカー、タルク、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、セピオライト、ワラストナイト、アロフェン、イモゴライト、繊維状マグネシウムオキシサルフェート、硫酸バリウム、ガラスフレーク等が挙げられるが、好ましくはタルク及び繊維状マグネシウムオキシサルフェートであり、より好ましくはタルクである。無機フィラーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜50μmであり、より好ましくは0.1μm〜30μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。ここで無機フィラーの平均粒子径とは、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水、アルコール等の分散媒中に向きフィラーを懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことである。
【0027】
無機フィラーの表面は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類あるいは他の界面活性剤で処理されていてもよいし、処理されていなくてもよい。
【0028】
無機フィラーの含有量としては、前記プロピレン系樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜60質量部、より好ましくは1質量部〜30質量部、さらに好ましくは1質量部〜10質量部である。
【0029】
(強化繊維)
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物は、強化繊維をさらに含有していてもよい。
本発明に用いられる強化繊維としては、アラミド繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、綿、麻等の有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チッ化ケイ素繊維、ジルコニア繊維、ケイ酸カルシウム繊維、酸化マグネシウム繊維、マグネシウムオキシサルフェート繊維、水酸化マグネシウム繊維、石膏繊維等の無機繊維、ステンレス、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタン、錫、亜鉛、マグネシウム、白金、ベリリウム、これらの金属種の合金、又は、これらの金属種とリンとの化合物等からなる金属による金属繊維が挙げられる。
【0030】
(添加剤)
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物は、添加剤を含有してもよい。
本発明に用いられる添加剤としては、例えば、中和剤、酸化防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、分散剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、造核剤、難燃剤、気泡防止剤、架橋剤、着色剤、顔料等が挙げられる。
【0031】
プロピレン系樹脂組成物のメルトフローレート(測定温度は230℃、荷重は2.16kg)は、好ましくは40g/10分〜200g/10分であり、より好ましくは40g/10分〜150g/10分であり、さらに好ましくは40g/10分〜120g/10分である。
【0032】
プロピレン系樹脂組成物は、各成分を混練することにより製造することができ、混練に用いられる装置としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロール等が挙げられる。混練温度は170℃〜250℃であり、混練時間は20秒〜20分である。また、プロピレン系樹脂組成物に含有される各成分の混練は同時に行ってもよく、分割して行ってもよい。例えば樹脂組成物の各成分を所定量計量し、タンブラー等で均一に予備混合する工程と、予備混合物を溶融混練する工程を含むことが好ましい。
【0033】
〔熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法〕
本発明に係る発泡成形体の製造方法は、上記のプロピレン系樹脂組成物を溶融させ、溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を含有させる溶融工程と、この溶融工程により得られる溶融樹脂を、一対の金型間に形成されるキャビティ内に充填する充填工程と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を発泡させる発泡工程と、を有する。
本発明に係る製造方法では、射出成形機を用いて射出発泡成形することが好ましい。射出発泡成形は、ガスアシスト成形、メルトコア成形、インサート成形、コアバック成形、2色成形等の成形方法と組み合して行ってもよい。
【0034】
溶融工程では、まずプロピレン系樹脂組成物を射出成形機のホッパに投入し、所定温度で溶融させる。次いで、射出成形機のノズル又はシリンダ内に超臨界状態の物理発泡剤を注入し、溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に物理発泡剤を含有させる。
超臨界状態の物理発泡剤は樹脂への溶解性が高く、短時間で溶融状態のプロピレン系樹脂組成物中に均一に拡散することができるため、発泡倍率が高く、均一なセル構造をもつ発泡成形体を得ることができる。
溶融工程で用いられる物理発泡剤は、超臨界状態であれば特に制限されないが、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることが好ましい。このうち、二酸化炭素、窒素であることが好ましく、二酸化炭素を用いることがより好ましい。物理発泡剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
充填工程は、射出成形機に取り付けられた一対の金型間に形成されるキャビティ内に、溶融工程で得られた物理発泡剤を含有する溶融状態のプロピレン系樹脂組成物(以下、溶融樹脂という)を充填する工程である。金型は可動側金型と固定側金型とからなり、これらの間に形成されるキャビティの形状は特に限定されるものではない。溶融樹脂のキャビティ内への充填は、単軸射出、多軸射出、高圧射出、低圧射出、プランジャーを用いる射出方法等により行われることが好ましい。
なお、キャビティへの溶融樹脂の注入量は、注入終了直後の時点でキャビティ容積すべてが溶融樹脂で充満される量であることが好ましい。
【0036】
充填工程における温度条件は、射出成形機のシリンダ面温度が150℃〜300℃、好ましくは180℃〜270℃であり、より好ましくは200℃〜260℃であり、キャビティ面温度が0℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃、より好ましくは40℃〜60℃である。
シリンダ温度が150℃未満では溶融樹脂をキャビティ内に充填することが困難となり、また、得られる発泡成形体の外観が悪化することがある。シリンダ温度が300℃より高いと溶融樹脂が熱により劣化されてしまい得られる発泡成形体の機械物性が低下するおそれがある。
キャビティ面温度が0℃未満では溶融樹脂をキャビティ内に充填することが困難になり、また得られる発泡成形体の外観が悪化することがある。キャビティ面温度が100℃以上では発泡成形体を冷却するに要する時間が長くなりすぎるおそれがある。
溶融樹脂をキャビティ内に充填する際の射出成形機の背圧は、2MPa〜30MPa、好ましくは5MPa〜20MPaである。背圧をこのような範囲とすることにより、溶融樹脂がシリンダ内で発泡してしまうのを防止することができる。
【0037】
充填工程前の金型キャビティ内の圧力は特に限定されないが、好ましくは大気圧以下、より好ましくは大気圧未満である。そのため、上記溶融工程の後に、金型キャビティ内の圧力を大気圧未満とする工程をさらに有していてもよい。
大気圧以下の圧力となった金型キャビティに溶融樹脂を供給するため、溶融樹脂とキャビティ壁面との間にガスが入り込むことがなく、得られる発泡成形体は表面に凹みが少ない、外観がより良好なものとなる。
【0038】
発泡工程はキャビティ内に充填された溶融樹脂を発泡させる工程である。溶融樹脂を発泡させる方法としては、キャビティの容積を拡大して発泡させる方法が挙げられる。具体的には、可動側金型を後退させてキャビティを拡大させる方法(コアバック)が挙げられる。
【0039】
このような工程により得られる発泡成形体の発泡倍率は、1.5倍〜5倍であることがより好ましく、2倍〜4倍であることがさらに好ましい。ここで本発明でいう発泡倍率とは、溶融工程前の原料ペレットの密度を発泡成形体全体の密度で除した値をいう。なお、本発明における原料ペレットとは、クエン酸塩以外の原料を溶融混練させたものをいう。
【0040】
本発明の発泡成形体は電気部品や自動車用部品、その他の工業用製品などの用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(1)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)
下記の方法で調製した固体触媒成分を用いて気相重合法により製造した。
MFR:80g/10分
プロピレン−エチレンブロック共重合体全体の固有粘度[η]:1.4dl/g
プロピレン単独重合体部分の固有粘度[η]:0.8dl/g
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のプロピレン−エチレンブロック共重合体
全体に対する質量比率:12質量%
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分の固有粘度[η]EP:7.0dl/g
プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のエチレン単位含量:32質量%
【0043】
(2)エチレン−α−オレフィン共重合体(B)
エチレン−ブテン共重合体ゴム
商品名:CX5505(住友化学(株)製)
密 度:0.878(g/cm
MFR(190℃、2.16kg荷重):14(g/10分)
【0044】
(3)有機過酸化物(C)
商品名:パーカドックス14R−P(ビス(t−ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン(化薬アクゾ(株)製))
【0045】
(4)クエン酸ナトリウム(D)
(5)クエン酸(E)
(6)重曹(F)
【0046】
[評価方法]
(1)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重21.2Nなる条件で測定した。
【0047】
(2)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の構造分析
(2−1)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の固有粘度
(2−1−a)プロピレン単独重合体成分の固有粘度:[η]
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の第1セグメントであるプロピレン単独重合体成分の固有粘度:[η]はその製造時に、第1工程であるプロピレン単独重合体の重合後に重合槽内よりプロピレン単独重合体を取り出し、取り出されたプロピレン単独重合体の[η]を測定して求めた。
【0048】
(2−1−b)プロピレン−エチレンランダム共重合体成分の固有粘度:[η]EP
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の第2セグメントであるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分の固有粘度:[η]EPは、プロピレン単独重合体成分の固有粘度:[η]とプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体の固有粘度:[η]をそれぞれ測定し、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体に対する質量比率:Xを用いて次式から計算により求めた。
[η]EP=[η]/X−(1/X−1)[η]
[η]:プロピレン単独重合体部分の固有粘度(dl/g)
[η]:プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体の固有粘度(dl/g)
【0049】
(2−1−c)プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体に対する質量比率:X
(2−1−b)で用いたXは、プロピレン単独重合体成分(第1セグメント)とプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体の結晶融解熱量をそれぞれ測定し、次式を用いて計算により求めた。結晶融解熱量は、示差走査型熱分析(DSC)により測定した。
X=1−(ΔHf)T/(ΔHf)P
(ΔHf)T:ブロック共重合体全体の融解熱量(cal/g)
(ΔHf)P:プロピレン単独重合体部分の融解熱量(cal/g)
【0050】
(3)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)中のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分のエチレン単位含量:(C2´)EP
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分のエチレン単位含量:(C2´)EPは、赤外線吸収スペクトル法によりプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体のエチレン単位含量(C2´)Tを測定し、次式を用いて計算により求めた。
(C2´)EP=(C2´)T/X
(C2´)T:プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体のエチレン単位含量(質量%)
(C2´)EP:プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のエチレン単位含量(質量%

X:プロピレン−エチレンランダム共重合体成分のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体に対する質量比率
【0051】
(4)発泡成形体の外観評価(シルバーストリーク)
発泡成形により得られたポリプロピレン系樹脂組成物からなる発泡成形体3のゲート部1から100mm離れた部位の図1に示した直径60mmの円の範囲(シルバーストリークを評価した部位)2を、目視で評価し、以下に示したとおりに判定した。
○:発泡成形体の表面のシルバーストリークが目視では確認できない
×:シルバーストリークが目立つ
【0052】
(5)セルの微細性及びセルの均一性
発泡成形体を切断して、その断面を顕微鏡(スカラ株式会社製、デジタル現場顕微鏡、DG−3)にて観察し、セル状態を撮影した。撮影した発泡断面で、スキン層近傍と発泡層中央部で任意の500μm角の正方形を選び出し、各正方形中の気泡径を測定し平均値を算出したものを用いた。その結果、セルの微細性に関しては平均セル径が500μm未満であるものを○とし、平均セル径が500μm以上であるものを×とした。セルの均一性に関しては、均一で微細なセル構造を有しているものを○とし、セルの連通が発生しセルの大きさと形状が不均一なセルを有しているものを×とした。
【0053】
〔実施例1〕
表1に示す各成分を所定量、計量し、タンブラーで均一に予備混合した。次いで、二軸混練押出機(日本製鋼所社製TEX44SS 30BW−2V型)を用いて、押出量30kg/hr〜50kg/hr、スクリュー回転数300rpm、ベント吸引下で混練押出して、プロピレン重合体組成物ペレットを製造した。
表中、(C)、(D)、(E)、(F)の配合量は、(A)及び(B)の合計量を100質量部としたときの量であり、発泡剤である二酸化炭素の含有量は、得られる発泡成形体中に含まれる含有量である。
このペレットを用い、射出成形機として、エンゲル社製ES2550/400HL−MuCell(型締力400トン)、金型として、図1に示される成形品部寸法が350mm×450mm、高さ105mm、厚み1.5mmtの箱型形状(ゲート構造:バルブゲート、配置は図1参照)を有するものを用いて発泡成形を実施した。発泡剤としては表1に示す通り、前記射出成形機のシリンダ内に10MPaに加圧された超臨界状態の二酸化炭素を供給し、所定量溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に溶解させ、成形温度250℃、型温50℃で、金型内にフル充填するように射出した。射出充填後2.5秒経過した後、金型のキャビティ壁面を1.5mm後退させキャビティ容積を拡大し、プロピレン系樹脂組成物を発泡させた。そして発泡樹脂を冷却・固化して発泡成形体を得た。得られた成形体の厚みは3.0mmであった。得られた発泡成形体のゲートから150mmの部位(図中の符号1)にて評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例1〜3〕
表1に記載した組成及び発泡剤に変更した以外、実施例1と同様の方法で評価した。
【0055】
【表1】

【符号の説明】
【0056】
1 ゲートから150mm離れた部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系樹脂と、このプロピレン系樹脂100質量部に対してクエン酸塩を0.1質量部〜1.0質量部と、を含有するプロピレン系樹脂組成物を溶融させ、溶融状態のプロピレン系樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を含有させる溶融工程と、
この溶融工程により得られる溶融樹脂を、可動側金型と固定側金型との間に形成されるキャビティ内に充填する充填工程と、
前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を発泡させる発泡工程と、
を有することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記クエン酸塩は、クエン酸ナトリウムである請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
物理発泡剤は、二酸化炭素である請求項1又は2に記載の発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195821(P2011−195821A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34211(P2011−34211)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】