説明

発熱を抑えた基礎杭構造

【課題】根固め部の発熱を軽減して、より信頼の高い根固め部を形成する。
【解決手段】掘削ロッド30で、杭穴21を掘削し軸部22、拡大根固め部23を形成する(a)(b)。拡大根固め部23内に、セメントより比熱の低い骨材を混入したセメントミルクを注入して、根固め部23内に充填材25を形成する(c)。杭穴21内に既製杭40を沈設して、下端41を拡大根固め部23内に位置させ、地上20で支持する(d)。既製杭40の中空部42内に、冷却パイプ1を埋設し、冷却パイプ1内に冷却液を循環させて拡大根固め部23を冷やし、拡大根固め部23が固化後に基礎杭構造50を構成する(e)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎杭の根固め部造成時の発熱を抑えることを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造の構築に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる先堀り形式の基礎杭構造では、支持地盤に至る杭穴の下端部に根固め液を充填して根固め部として、既製杭を杭穴内に沈設して、下端部を根固め層内に位置させていた。この場合、通常は、杭穴の下端部にセメントミルクを充填して、掘削泥土と攪拌混合して、根固め部を形成していた。また、根固め部の品質をより高める場合には、杭穴底からセメントミルクを充填して、杭穴の下端部の掘削泥土を比重の重いセメントミルクに置換していた。
【0003】
この場合に、使用するセメントは一般的に普通セメントを使用しているが、根固め部が固化するまで既製杭を杭穴に保持しなければならず(通常1日ほど)、施工効率を効率を考慮して早期に固化させるために、早強セメントを使用する場合もあった。
【0004】
一方、ダムなどの大量にコンクリートを打設する構造物では、セメントの水和反応による発熱を抑えた低熱セメントを使用する場合もあった。また、地盤改良の分野では、温度を上げて、水分を蒸発させて地盤改良効果を高める提案もなされていた(特許文献2)、低発熱セメントを使用する場合(特許文献1)もあった。
【0005】
従来の技術では、前記のように、既製杭を埋設する場合には、早期に固化させたり、根固め部の強度を高めたりする必要はあったが、固化強度発現を遅らしたり根固め部の強度を低下させたりすることは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−129829
【特許文献2】特開平11−92205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の技術では、根固め部における発熱については、一切着目されてこなかった。その理由として、根固め部の体積がそう大きくなく、例えば既製杭の杭径φ40cmの場合、根固め部の外径60cm、根固め部の高さ100cm程度であり、この場合には、根固め部の体積は、0.57m程度に過ぎなかった。従って、ダムなどのコンクリート構造体と異なり、そう大きな体積であるとの認識がなかったと考えられる。即ち、基礎杭構造の根固め部では、外周及び底は地盤に接しているので、根固め部で出された水和反応熱は土に放出されると漠然と考えられていた。
【0008】
ところが、従来に比べ高支持力化が進み、根固め部が巨大化し、杭径φ120cm、根固め部の径210cm、根固め部高さ330cmの場合も見られるようになり、この場合には根固め部の体積は11.43cmにもなり、従来の20倍程度にもなっていた。従って、マスコンクリート同様に、コンクリートの発熱を考慮する必要がでてきた。
【0009】
また、この様な根固め部を有する基礎杭では、根固め部の強度が基礎杭の支持力におよぼす影響が無視できなく、極力掘削土砂混入の少ない根固め部を築造するなどの根固め部の品質管理も重要であり、従って水和熱による温度の管理が重要になってきた。
【0010】
また、セメントミルクでは、一般のコンクリートに比べ骨材が無いので、単位体積当たりのセメント量がコンクリートに比べて1.5〜4倍程度となるため、非常に大きな発熱が生じる可能性もあった。また、杭穴充填材として一般に使用されるソイルセメントに比べても同じくらいのセメント量の多さとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこでこの発明では、「前記水硬性材料が固化した状態の比熱」より小さい比熱の骨材又は「冷却液を充填した冷却パイプ」からなる冷却手段を根固め部に埋設したので、前記問題点を解決した。
【0012】
即ちこの発明は、根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設して、以下のように構成することを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造である。
(1) 前記根固め部は、水硬性材料からなる充填材を固化してなり、前記充填材内に冷却手段を埋設してなる。
(2) 前記冷却手段は、「前記水硬性材料が固化した状態の比熱」より小さい比熱の骨材を混入させてなる。
【0013】
また、他の発明は、根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設して、以下のように構成することを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造である。
(1) 前記根固め部は、水硬性材料からなる充填材を固化してなり、前記充填材内に冷却手段を埋設してなる。
(2) 前記冷却手段は、冷却液を充填した冷却パイプから構成する。
【0014】
また、前記において、以下のように構成したことを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造である。
(1) 冷却パイプは、その両開口を地上に突出させ、該開口を地上の循環装置に連結して、前記冷却パイプ内に冷却手段を循環させる構成とした。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、「水硬性材料が固化した状態の比熱」より小さい比熱の骨材を混入させてなる冷却手段を充填材に入れて、根固め部内に充填するので、セメント等の水硬性材料の反応熱を骨材で吸収して、水硬性反応が行われている部分から反応熱を吸収できる。従って、根固め部で発生した反応熱を地盤側への放熱を促進できる。
【0016】
また、根固め部の充填材内に冷却液を入れてなる冷却パイプを埋設するので、充填材の反応熱を吸収して、根固め部から反応熱を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(a)〜(f)はこの発明の基礎杭構造の構築方法を説明する縦断面図である。
【図2】図2(a)〜(e)はこの発明の基礎杭構造の実施例の縦断面図である。
【図3】図3(a)(b)はこの発明の基礎杭構造の実施例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1) この発明の冷却手段は、杭穴の根固め部に充填する充填材は水硬性材料に、「前記水硬性材料が固化した状態の比熱」より小さい比熱の骨材を混入させて構成する。
「水硬性材料」は、掘削泥土と置換したセメントミルク、あるいはセメントミルクに掘削泥土を撹拌混合してなるソイルセメントなど、水にセメントをベースとした材料で、さらに細骨材を混ぜたモルタルや、更に粗骨材を混ぜたコンクリートのいずれも含む概念である。
通常コンクリートの比熱は0.84であり、例えば、
・砂:約0.2
・ガラス:0.1〜0.2
・鉄:0.1
であり、これらの材料を使用する。この場合、良質な(充分な強度等を有する)材料の場合には、骨材として、作用することが考えられ、充填材の固化強度をさらに高めることもできる。
【0019】
(2) また、この発明は、杭穴21の根固め部23内に冷却液を充填した冷却パイプ1を配置して、冷却手段を構成する。この場合、杭穴21内には既製杭40が埋設されているので、既製杭40と杭穴21壁の間、既製杭40の中空部42を通して、根固め部23内に冷却パイプ1を至らせる。
この場合、通常は、冷却パイプ1は地上20に開放して、冷却液を循環させて使用する(図1(e)、図2)。また、冷却パイプ1を閉塞して、構成することもできる(図3)。
【0020】
(3) また、充填材25に比熱が小さな材料からなる冷却手段を混入したものを根固め部23に埋設して、さらに冷却パイプ1を配置して、根固め部23を冷却することもできる。
【0021】
(4) また、これらの場合、充填材25に、セメントの固化遅延材を使用することにより、ゆっくり固化反応をさせることにより、発熱時間をずらして、更に発熱量を軽減することもできる。
【実施例1】
【0022】
図面に基づき、この発明の実施例を説明する。
【0023】
1.基礎杭構造の構築
【0024】
(1) 地上20から掘削ロッド30で、杭穴21を掘削する。この場合、杭穴21は、軸部22に続き支持地盤に至った部分で底24を拡大して、拡大根固め部23を形成する(図1(a)(b))。
【0025】
(2) 掘削ロッド30を引き上げる際に、掘削ロッド30の下端部から拡大根固め部23内にセメントミルクを注入して、拡大根固め部23内の掘削泥土を、セメントミルクに置換して充填材25として、拡大根固め部23内に充填される(図1(c))。また、この状態で、拡大根固め部23の上方には、セメントミルクと掘削泥土とを撹拌混合して形成したソイルセメントが充填されている。
この場合、セメントミルクに固化遅延剤からなるセメントの反応熱を軽減する混和剤を混ぜることもできる。
【0026】
(3) 続いて、通常の方法で杭穴21内に既製杭40を下降して、既製杭40の下端41を拡大根固め部23内に位置させ、地上20で既製杭40の上端部を支持する(図1(d))。既製杭40は、上下に開放した中空部42を有し、この状態で、拡大根固め部23内では既製杭40の外面43側及び中空部42は充填材25に充たされている(図1(d))。また、この状態で杭穴21の軸部22では、内に既製杭40の外面43と中空部42内は、ソイルセメントからなる杭周固定液で充たされている。
【0027】
(4) 続いて、既製杭40の中空部42内に、冷却パイプ1を埋設する。冷却パイプ1は、並列した縦部2、3の両端2a、3端を地上20に位置させて、中間部を既製杭40の中空部42内に下降して、下部折返し部5を既製杭40の下端41から下方に突出させる(図1(e))。下部折返し部5は、両縦部2、3の下端3b、3bを、直線状の下横部4で連結した略U字状に形成され、下横部4が拡大根固め部23の底24に沿って配置される。
冷却パイプ1は、例えば、外径D:1000cm、内径D:740cmの既製杭40の場合、外径2.7cmを使用する(図1(e))。
根固め部が高さL:3000cmの場合、
根固め部23に位置する縦部2、3の長さL:2700cm 、横部の長さL:500cmで、延べで、
×2+L=5900cm
の長さが根固め部内に位置する。
従って、表面積は、
2.7×π×5900=50020cm
程度となる。
【0028】
(5) 続いて、冷却パイプ1内に、縦部2、3の上端を循環装置に連結して、冷却液(例えば、水)を循環させる。循環装置は、冷却液槽、ポンプ、温度センサー、各種弁からなる(図示していない)。
通常、現場で調達する水の場合、通常5℃〜20℃程度の温度であり、前記のように表面積 で冷却できるので、充分に冷却することができる。
この場合、既製杭40の下端部に温度センサーを設置して、あるいは別途温度センサーを設けたロッドを下降して、拡大根固め部内に温度センサーを位置させ、拡大根固め部23内の温度を計測しながら、最適な温度の冷却液を循環させることもできる(図示していない)。
また、冷却パイプ1の縦部2、3の上端2a、3aで温度を測定して、拡大根固め部23を通過する前後での温度を計測して、温度差から拡大根固め部23内の発熱量を計測して、冷却液の温度を調節することもできる(図示していない)。
【0029】
(6) 拡大根固め部23が固化したらならば、冷却パイプ1を埋設した状態で基礎杭構造50を構成する(図1(e))。
この場合、冷却パイプ1内の冷却液は、そのまま残置し、あるいは冷却液を地上20で抜いて空洞とすることもできる。さらに、空洞となった冷却パイプ1内で、少なくとも拡大根固め部23に位置する部分にセメントミルク等の固化物を充填することもできる(図示していない)。
また、冷却パイプ1内の暖められた熱を、地上で利用することもできる。
【0030】
2.他の実施例
【0031】
(1) 前記実施例において、充填材25として、掘削泥土と置換したセメントミルクとしたが、冷却手段を混入した材料とすることもできる。
例えば、充填材25として、セメントに骨材となる砂、樹脂粒、金属粉などセメントと比較して比重の小さい素材を1種または複数使用し、所定量の水、必要であれば混和剤を混錬して、構成する。セメントは普通セメント、早強セメント、低熱セメント、高炉セメントなど水硬性材料であればよい。混和剤は減水剤、遅延剤、流動化剤など特に限定しない。
【0032】
(2) また、前記実施例において、冷却パイプ1の下折返し部5は、直線状の下横部4で形成したが、螺旋状に形成することもできる(図2)。この場合には、冷却パイプ1の長さを長くできるので、拡大根固め部23の充填材25に接する冷却パイプ1の表面積を増加でき、冷却能力を強化できる。またとりわけ、冷却パイプから冷却液を抜いて、冷却パイプ1内にモルタルなどの水硬性材料を充填すれば、冷却パイプが補強材料となる。従って、鉛直荷重が作用した際に最も影響力のある既製杭40下方の拡大根固め部23内を強化できる。
この場合、パイプからなる下螺旋部7を、軸を縦にして、既製杭40の下端41よりも下方に配置して、下螺旋部7の上端7aを縦部2の下端2bを、下螺旋部7の下端7bを縦部3の下端3bに連結する(図2(a)(b))。この場合、既製杭40の内径Dより小さな外径の下螺旋部7とし(図2(a))、あるいは、既製杭40の外径Dより径の大きな下螺旋部7として配置する(図2(b))。
また、下螺旋部8を、軸を横にして配置することもできる。既製杭40の外径Dより長い長さの下螺旋部8を、軸を横にして配置して、下螺旋部8の一端8aを一方の縦部2の下端2aに、他端8bを他方の縦部3の下端3aに連結する(図2(c))。
また、下螺旋部9を、位相を変えて二重に形成して、軸を縦にして配置することもできる(図2(d)(e))。この場合には、下螺旋部9では、下端で折り返して、上端9a、9bで上方にのみ開放している。従って、下螺旋部9を縦に配置して、下螺旋部9の一上端9aで、縦部2の下端2bに連結した、他方の上端9bで他の縦部3の下端2に連結する(図2(d)(e))。この場合、より螺旋ピッチが狭い(冷却パイプが長い)下螺旋部9を形成でき、この場合、下螺旋部9の径を既製杭40の内径Dより小さく形成し(図2(d))、あるいは既製杭40の外径Dよりも大径に形成することもできる(図2(e))。
【0033】
(3) また、前記実施例において、冷却パイプ1の開放端、即ち、縦部2、3の上端2a、3aを地上20に位置させ、冷却パイプ1内に冷却液を循環させたが、冷却パイプ1内に冷却液を充填した状態で冷却パイプ1を密封することもできる(図3)。この場合、冷却パイプ1内の冷却液により上部が低温で、下部は高温となるが、自然に温度差が平均化して、下部を冷やすことができる。
また、この場合、冷却パイプ1の下端部に前記図2(b)と同様の下螺旋部7を形成して、縦部2、3の上端2a、3aを既製杭40の上縦部に位置させ、縦部2、3の上端2a、3aを線状の上横部11で連結する(図3(a))。
また、冷却パイプ1の上端にも位相を変えた上螺旋部12を形成して、上螺旋部12は上端が閉塞して、上螺旋部12の下端12a、12bに開放して、下端12aに縦部2の上端2a、下端12bに縦部3の上端3aを夫々連結する(図3(b))。
【0034】
(4) また、前記実施例において、既製杭40を埋設した後に、冷却パイプ1を埋設したが、既製杭40の中空部42に冷却パイプ1を取り付けた状態で、既製杭40と冷却パイプ1を同時に埋設することもできる(図示していない)。
【0035】
(5) また、前記実施例において、冷却パイプ1を既製杭40の中空部42に埋設したが、既製杭40の肉厚内に埋設することもできる(図示していない)。
【0036】
(6) また、前記実施例において、冷却パイプ1を既製杭40よりも先に埋設したが、杭穴21内に冷却パイプ1を先ず埋設して、その後に既製杭40を埋設することもできる(図示していない)。
【0037】
(7) また、前記において、1種類の冷却パイプ1を使用したが、複数個の冷却パイプ1を使用して、更に異なる構造の冷却パイプ1(図1(e)、図2(a)から(e)、図3(a)(b))を組み合わせて使用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
1 冷却パイプ
2、3 冷却パイプの縦部
2a、3a 縦部の上端
2b、3b 縦部の下端
4 冷却パイプの下横部
5 下折返し部
7 下螺旋部
7a 下螺旋部7の上端
7b 下螺旋部7の下端
8 下螺旋部
8a 下螺旋部8の一端
8b 下螺旋部8の他端
9 下螺旋部
9a、9b 下螺旋部9の上端
11 上横部
12 上螺旋部
12a、12b 上螺旋部12の下端
15 上折返し部
20 地上
21 杭穴
22 杭穴の軸部
23 杭穴の拡大根固め部
24 拡大根固め部の底
25 充填材
30 掘削ロッド
40 既製杭
41 既製杭の下端
42 既製杭の中空部
43 既製杭の外面
50 基礎杭構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設して、以下のように構成することを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造。
(1) 前記根固め部は、水硬性材料からなる充填材を固化してなり、前記充填材内に冷却手段を埋設してなる。
(2) 前記冷却手段は、「前記水硬性材料が固化した状態の比熱」より小さい比熱の骨材を混入させてなる。
【請求項2】
根固め部を形成した杭穴内に既製杭を埋設して、以下のように構成することを特徴とする発熱を抑えた基礎杭構造。
(1) 前記根固め部は、水硬性材料からなる充填材を固化してなり、前記充填材内に冷却手段を埋設してなる。
(2) 前記冷却手段は、冷却液を充填した冷却パイプから構成する。
【請求項3】
以下のように構成したことを特徴とする請求項2記載の発熱を抑えた基礎杭構造。
(1) 冷却パイプは、その両開口を地上に突出させ、該開口を地上の循環装置に連結して、前記冷却パイプ内に冷却手段を循環させる構成とした。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−208405(P2011−208405A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76416(P2010−76416)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】