発熱体および加熱装置
【課題】電力を節約しながらも利用目的に鑑みた適当な温度範囲で利用可能な発熱体および当該発熱体を用いた加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明の発熱体20は、マイクロ波が照射されることにより自己発熱する一または複数種類の発熱材からなる。発熱体20に対するマイクロ波の照射強度の制御態様が変化する際の発熱体20の温度である特異温度T0が、発熱材の種類、および、必要に応じて重量比率に応じて設定されている。
【解決手段】本発明の発熱体20は、マイクロ波が照射されることにより自己発熱する一または複数種類の発熱材からなる。発熱体20に対するマイクロ波の照射強度の制御態様が変化する際の発熱体20の温度である特異温度T0が、発熱材の種類、および、必要に応じて重量比率に応じて設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱体およびこれを用いた加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器材料やファインセラミックス材料などで形成された被焼成体を焼成して焼成体を製造するためのマイクロ波焼成炉が提案されている。焼成室を構成する発熱体エレメントは高温域用発熱体および低温域用発熱体の2種類以上の発熱材から構成されている。高温域用発熱体はマイクロ波が照射されることにより主として焼成温度付近の高温域で自己発熱するムライト系材料、窒化珪素系材料またはアルミナ等により形成されている。一方、低温域用発熱体はマイクロ波が照射されることにより主として常温を含む低温域で自己発熱するマグネシア、ジルコニア、酸化鉄または炭化珪素等により形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−257725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、被焼成体の焼成等の発熱体の利用目的の達成のため、発熱体に対するマイクロ波の照射強度を一様に高めることは、当該マイクロ波の照射のために要する電力節約の観点から好ましくない。
【0005】
そこで、本発明は、電力を節約しながらも利用目的に鑑みた適当な温度範囲で利用可能な発熱体および当該発熱体を用いた加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は実験により次のような知見を得た。すなわち、自己発熱する発熱材からなる発熱体の温度には、マイクロ波の照射強度に鑑みて発熱体の自己発熱特性が変化する特異点(特異温度)が存在することが知見された。また、当該発熱材の種類等が適当に選定されることにより、特異温度の高低が調節可能であることが知見された。本発明はこれらの知見に鑑みて完成された。
【0007】
第1発明の発熱体は、マイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱材からなる発熱体であって、マイクロ波の照射強度に鑑みて前記発熱体の自己発熱特性が変化する際の前記発熱体の温度である特異温度が、前記発熱材の種類に応じて設定されていることを特徴とする。
【0008】
第2発明の発熱体は、第1発明の発熱体において、マイクロ波が照射されることにより異なる温度域で自己発熱する2種類以上の発熱材からなり、前記発熱材の種類に加えて、前記発熱材のそれぞれの前記発熱体に対する重量比に応じて前記特異温度が設定されていることを特徴とする。
【0009】
第3発明の発熱体は、第1または第2発明の発熱体において、前記発熱体の温度を上昇させる過程で前記発熱体に対するマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する、または、当該マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する際の前記発熱体の温度が前記特異温度として設定されていることを特徴とする。
【0010】
第4発明の加熱装置は、第1〜第3発明のうちいずれか1つの発熱体と、マイクロ波を発振する発振器と、前記発振器への供給電力を制御することにより前記発熱体に照射されるマイクロ波のパワーを調節する制御装置とを備えている加熱装置であって、前記制御装置が、前記発熱体の温度が前記特異温度より低温である状態と、前記発熱体またはその周辺の温度が前記特異温度より高温である状態との別に応じて前記発振器への供給電力の制御態様を変化させることを特徴とする。
【0011】
第5発明の加熱装置は、第4発明の加熱装置において、マイクロ波が前記発熱体に連続的に照射されている状態で、前記制御装置が前記第1状態における前記電力の変化率よりも、前記第2状態における前記電力の変化率が小さくなるように前記電力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発熱体によれば、発熱体に対するマイクロ波の照射強度に鑑みて自己発熱効率が高い温度範囲において当該発熱体が利用されるように、発熱材の種類、または、発熱材の種類および重量比率に応じて特異温度が設定されうる。したがって、発熱体に対するマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体の温度がその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【0013】
当該発熱体を構成要素とする本発明の加熱装置によれば、発熱体の温度が特異温度より低温の状態であるか、発熱体の温度が特異温度より高温の状態であるかの別に応じて発熱体に対するマイクロ波の照射強度の制御態様が変化させられる。したがって、発熱体へのマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体の温度がその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の発熱体を用いた加熱装置(焼成炉)の構成説明図である。
【図2】本発明の発熱体の発熱特性に関する説明図である。
【図3】発熱体の特異温度に応じた加熱装置の制御方法に関する説明図である。
【図4】マイクロ波照射強度と発熱体の温度との関係説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発熱体の実施形態について図面を用いて説明ずる。まず、本発明の一実施形態としての、マイクロ波を用いた加熱によって陶磁器材料またはファインセラミックス等を焼成するための焼成炉(加熱装置)1の構成について図1を用いて説明する。焼成炉1は、高反射率の素材(金属など)により構成されているキャビティ10と、キャビティ10の内側で被焼成体Xが設置される焼成室23を画定する、マイクロ波を透過する断熱材からなる隔壁30と、焼成室23の壁の一部または全部を構成するように配置されている発熱体20とを備えている。また、焼成炉1はキャビティ10の内部空間に接続されている導波管14,24と、導波管14,24を介してキャビティ10の内部空間にマイクロ波を放射する発振器12,22と、導波管14,24を通じて伝播してくるマイクロ波をキャビティ10の内部空間に向けて攪拌するための攪拌羽根18,28と、攪拌羽根18,28の回転駆動源としてのモータ16,26とを備えている。なお、マイクロ波の周波数はたとえば2.45GHzであるが、このほか、28GHz、35GHz等、任意に変更されうる。発振器およびこれに対応する導波管、攪拌羽根、モータの数または配置態様は必要に応じて変更されてもよい。さらに、焼成炉1は発熱体20の温度に応じた信号を出力する温度計21と、温度計21の出力信号に基づいて電源(図示略)から発振器12,22への供給電力を制御することにより発熱体20に照射されるマイクロ波の強度を制御する制御装置100を備えている。たとえば、キャビティ10および隔壁30を貫通する穴を通じて発熱体20を臨む放射温度計が温度計21として採用される。
【0016】
発熱体20はマグネシア、ジルコニア、酸化鉄または炭化珪素等、比較的低温域で自己発熱する低温域発熱材およびアルカリ金属を含有した無機ガラスおよびこれらと同じ組成を持つ結晶質物質等の比較的高温域で自己発熱する高温域発熱材により構成される。アルカリ金属を含有した無機ガラスの例としてはソーダガラス(SiO2−Na2CO3−CaCO3の三元系物質)が、アルカリ金属を含有した無機ガラスと同じ組成を持つ結晶質物質の例としてはLi-Al-Si-O系物質(β−ユークリプタイト、スポジュメン等)がある。低温域発熱材は小さな球形または直方体状チップ状とされて、高温域発熱材で形成した内殻母材に埋め込まれてもよい。高温域発熱材により形成された内殻の外表面に、低温域発熱材により形成した小部品が配備されてもよい。内殻を形成する前の流動性原料の成分として、高温域発熱材と低温域発熱材とが所定の配合比で混合され、その原料が均一攪拌されることで、部分的に低温域発熱材が存在する原料が形成され、その原料が加圧成形、焼成等によって成形されてもよい。そのほか、発熱体20はアルカリ金属を含有した無機ガラスおよびこれらと同じ組成を持つ結晶質物質単体により構成されてもよい。焼成室23の壁の一部または全部を構成する発熱体20は、その一部または全部が隔壁30から離れて配置されていてもよい。これにより、発熱体20により画定される焼成室23からの熱の流出が抑制され、焼成室23の内部温度が均一に維持されうる。
【0017】
本発明の発熱体20は、マイクロ波の照射強度に鑑みて、発熱体20の自己発熱特性が変化するような(自己発熱効率が著しく向上するような)特異温度T0を有する。ここで、マイクロ波の照射強度(実際には発振器12,22への供給電力)の制御態様と、発熱体20の温度の時間変化態様との関係を示す図2を用いて特異温度T0について説明する。図2から明らかなように発熱体20の温度上昇率を一定またはほぼ一定に維持するため、最初はマイクロ波の照射強度を徐々に強める必要があるが、途中からマイクロ波の照射強度を弱める必要がある。このように発熱体20の温度を制御していく過程で、マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する(またはマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する)時点t0における発熱体20の温度が特異温度T0である。低温域発熱材としてのSiC(重量比率20%)および高温域発熱材としてのLi-Al2O3-SiO(重量比率80%)により構成されている発熱体20の特異温度T0はおよそ740℃であるが、発熱材の種類および重量比率は、特異温度T0が被焼成物Xの焼成温度より低温になるように選定される。発熱体20の利用目的に鑑みて適当な特異温度T0の高低が設定されるように、発熱材の種類および(発熱体20が複数種類の発熱材よりなる場合には)重量比率はさまざまに選定されうる。
【0018】
続いて前記構成の焼成炉1の機能について図3および図4を用いて説明する。まず、制御装置100により発振器12,22およびモータ16,26に電力が供給される。これにより発振器12,22から発振されて導波管14,24を伝播したマイクロ波が、攪拌羽根18,28により攪拌されて隔壁30を介して発熱体20に照射される。この結果、発熱体20が徐々に自己発熱して、発熱体20の温度および焼成室23の内部温度が徐々に上昇していく。制御装置100は、温度計22の出力信号により表わされる発熱体20の温度Tが特異温度T0未満であるか否かを定常的に判定する(図3/STEP002)。制御装置100は発熱体20の温度Tが特異温度T0未満であると判定した場合(図3/STEP002‥YES)、発熱体20の温度が上昇するようにマイクロ波の照射強度を増加させる(図3/STEP004)。これにより、図4に示されているように、発熱体20の温度Tが特異温度T0未満である第1時間帯τ1において発熱体20の温度および被焼成物Xの温度が徐々に上昇していく。なお、被焼成物Xの温度は、キャビティ10および隔壁30を貫通する穴を通じて当該被焼成物Xを臨む放射温度計により測定されうる。
【0019】
一方、制御装置100は発熱体20の温度Tが特異温度T0以上であると判定した場合(図3/STEP002‥NO)、マイクロ波の照射強度を減少またはその上昇率を低下させる(図3/STEP006)。これにより、図4に示されているように、発熱体20の温度Tが特異温度T0以上である第2時間帯τ2において発熱体20の温度および被焼成物Xの温度が徐々に上昇していき、被焼成物Xの焼成温度である1250℃付近に至る。この結果、被焼成物Xが焼成された適当なタイミングで、マイクロ波の照射が停止される。
【0020】
本発明の発熱体20およびこれを用いた焼成炉1によれば、マイクロ波の照射強度に鑑みて自己発熱効率が高い温度範囲において発熱体20が利用されるように、発熱材の種類、または、発熱材の種類および重量比率に応じて特異温度T0が設定されうる。すなわち、マイクロ波の照射強度を低下させてもまたはその増加率を抑制しても発熱体20の温度を維持しうるまたは上昇させうるような特異温度T0以上の温度範囲において、発熱体20が被焼成物Xの焼成等の目的で利用されるように当該特異温度T0が設定されうる。このため、発熱体20の温度を上昇させていく過程で、発熱体20の温度が対象物の焼成、調理などの利用目的に鑑みて適当な温度範囲に至った後においてはマイクロ波照射のための電力消費量をそれまでと同じ態様で上昇させなくても発熱体20の温度をそれまでと同じような態様で上昇させることができる(図2〜図4参照)。したがって、発熱体20へのマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体20の温度Tがその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明はマイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱体またはこれを用いた加熱装置の製造分野、当該発熱体または加熱装置により被加熱物を加熱する必要がある技術分野等において利用されうる。
【符号の説明】
【0022】
1‥焼成炉(加熱装置)、20‥発熱体、12,22‥発振器、100‥制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱体およびこれを用いた加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器材料やファインセラミックス材料などで形成された被焼成体を焼成して焼成体を製造するためのマイクロ波焼成炉が提案されている。焼成室を構成する発熱体エレメントは高温域用発熱体および低温域用発熱体の2種類以上の発熱材から構成されている。高温域用発熱体はマイクロ波が照射されることにより主として焼成温度付近の高温域で自己発熱するムライト系材料、窒化珪素系材料またはアルミナ等により形成されている。一方、低温域用発熱体はマイクロ波が照射されることにより主として常温を含む低温域で自己発熱するマグネシア、ジルコニア、酸化鉄または炭化珪素等により形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−257725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、被焼成体の焼成等の発熱体の利用目的の達成のため、発熱体に対するマイクロ波の照射強度を一様に高めることは、当該マイクロ波の照射のために要する電力節約の観点から好ましくない。
【0005】
そこで、本発明は、電力を節約しながらも利用目的に鑑みた適当な温度範囲で利用可能な発熱体および当該発熱体を用いた加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は実験により次のような知見を得た。すなわち、自己発熱する発熱材からなる発熱体の温度には、マイクロ波の照射強度に鑑みて発熱体の自己発熱特性が変化する特異点(特異温度)が存在することが知見された。また、当該発熱材の種類等が適当に選定されることにより、特異温度の高低が調節可能であることが知見された。本発明はこれらの知見に鑑みて完成された。
【0007】
第1発明の発熱体は、マイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱材からなる発熱体であって、マイクロ波の照射強度に鑑みて前記発熱体の自己発熱特性が変化する際の前記発熱体の温度である特異温度が、前記発熱材の種類に応じて設定されていることを特徴とする。
【0008】
第2発明の発熱体は、第1発明の発熱体において、マイクロ波が照射されることにより異なる温度域で自己発熱する2種類以上の発熱材からなり、前記発熱材の種類に加えて、前記発熱材のそれぞれの前記発熱体に対する重量比に応じて前記特異温度が設定されていることを特徴とする。
【0009】
第3発明の発熱体は、第1または第2発明の発熱体において、前記発熱体の温度を上昇させる過程で前記発熱体に対するマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する、または、当該マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する際の前記発熱体の温度が前記特異温度として設定されていることを特徴とする。
【0010】
第4発明の加熱装置は、第1〜第3発明のうちいずれか1つの発熱体と、マイクロ波を発振する発振器と、前記発振器への供給電力を制御することにより前記発熱体に照射されるマイクロ波のパワーを調節する制御装置とを備えている加熱装置であって、前記制御装置が、前記発熱体の温度が前記特異温度より低温である状態と、前記発熱体またはその周辺の温度が前記特異温度より高温である状態との別に応じて前記発振器への供給電力の制御態様を変化させることを特徴とする。
【0011】
第5発明の加熱装置は、第4発明の加熱装置において、マイクロ波が前記発熱体に連続的に照射されている状態で、前記制御装置が前記第1状態における前記電力の変化率よりも、前記第2状態における前記電力の変化率が小さくなるように前記電力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発熱体によれば、発熱体に対するマイクロ波の照射強度に鑑みて自己発熱効率が高い温度範囲において当該発熱体が利用されるように、発熱材の種類、または、発熱材の種類および重量比率に応じて特異温度が設定されうる。したがって、発熱体に対するマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体の温度がその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【0013】
当該発熱体を構成要素とする本発明の加熱装置によれば、発熱体の温度が特異温度より低温の状態であるか、発熱体の温度が特異温度より高温の状態であるかの別に応じて発熱体に対するマイクロ波の照射強度の制御態様が変化させられる。したがって、発熱体へのマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体の温度がその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の発熱体を用いた加熱装置(焼成炉)の構成説明図である。
【図2】本発明の発熱体の発熱特性に関する説明図である。
【図3】発熱体の特異温度に応じた加熱装置の制御方法に関する説明図である。
【図4】マイクロ波照射強度と発熱体の温度との関係説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発熱体の実施形態について図面を用いて説明ずる。まず、本発明の一実施形態としての、マイクロ波を用いた加熱によって陶磁器材料またはファインセラミックス等を焼成するための焼成炉(加熱装置)1の構成について図1を用いて説明する。焼成炉1は、高反射率の素材(金属など)により構成されているキャビティ10と、キャビティ10の内側で被焼成体Xが設置される焼成室23を画定する、マイクロ波を透過する断熱材からなる隔壁30と、焼成室23の壁の一部または全部を構成するように配置されている発熱体20とを備えている。また、焼成炉1はキャビティ10の内部空間に接続されている導波管14,24と、導波管14,24を介してキャビティ10の内部空間にマイクロ波を放射する発振器12,22と、導波管14,24を通じて伝播してくるマイクロ波をキャビティ10の内部空間に向けて攪拌するための攪拌羽根18,28と、攪拌羽根18,28の回転駆動源としてのモータ16,26とを備えている。なお、マイクロ波の周波数はたとえば2.45GHzであるが、このほか、28GHz、35GHz等、任意に変更されうる。発振器およびこれに対応する導波管、攪拌羽根、モータの数または配置態様は必要に応じて変更されてもよい。さらに、焼成炉1は発熱体20の温度に応じた信号を出力する温度計21と、温度計21の出力信号に基づいて電源(図示略)から発振器12,22への供給電力を制御することにより発熱体20に照射されるマイクロ波の強度を制御する制御装置100を備えている。たとえば、キャビティ10および隔壁30を貫通する穴を通じて発熱体20を臨む放射温度計が温度計21として採用される。
【0016】
発熱体20はマグネシア、ジルコニア、酸化鉄または炭化珪素等、比較的低温域で自己発熱する低温域発熱材およびアルカリ金属を含有した無機ガラスおよびこれらと同じ組成を持つ結晶質物質等の比較的高温域で自己発熱する高温域発熱材により構成される。アルカリ金属を含有した無機ガラスの例としてはソーダガラス(SiO2−Na2CO3−CaCO3の三元系物質)が、アルカリ金属を含有した無機ガラスと同じ組成を持つ結晶質物質の例としてはLi-Al-Si-O系物質(β−ユークリプタイト、スポジュメン等)がある。低温域発熱材は小さな球形または直方体状チップ状とされて、高温域発熱材で形成した内殻母材に埋め込まれてもよい。高温域発熱材により形成された内殻の外表面に、低温域発熱材により形成した小部品が配備されてもよい。内殻を形成する前の流動性原料の成分として、高温域発熱材と低温域発熱材とが所定の配合比で混合され、その原料が均一攪拌されることで、部分的に低温域発熱材が存在する原料が形成され、その原料が加圧成形、焼成等によって成形されてもよい。そのほか、発熱体20はアルカリ金属を含有した無機ガラスおよびこれらと同じ組成を持つ結晶質物質単体により構成されてもよい。焼成室23の壁の一部または全部を構成する発熱体20は、その一部または全部が隔壁30から離れて配置されていてもよい。これにより、発熱体20により画定される焼成室23からの熱の流出が抑制され、焼成室23の内部温度が均一に維持されうる。
【0017】
本発明の発熱体20は、マイクロ波の照射強度に鑑みて、発熱体20の自己発熱特性が変化するような(自己発熱効率が著しく向上するような)特異温度T0を有する。ここで、マイクロ波の照射強度(実際には発振器12,22への供給電力)の制御態様と、発熱体20の温度の時間変化態様との関係を示す図2を用いて特異温度T0について説明する。図2から明らかなように発熱体20の温度上昇率を一定またはほぼ一定に維持するため、最初はマイクロ波の照射強度を徐々に強める必要があるが、途中からマイクロ波の照射強度を弱める必要がある。このように発熱体20の温度を制御していく過程で、マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する(またはマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する)時点t0における発熱体20の温度が特異温度T0である。低温域発熱材としてのSiC(重量比率20%)および高温域発熱材としてのLi-Al2O3-SiO(重量比率80%)により構成されている発熱体20の特異温度T0はおよそ740℃であるが、発熱材の種類および重量比率は、特異温度T0が被焼成物Xの焼成温度より低温になるように選定される。発熱体20の利用目的に鑑みて適当な特異温度T0の高低が設定されるように、発熱材の種類および(発熱体20が複数種類の発熱材よりなる場合には)重量比率はさまざまに選定されうる。
【0018】
続いて前記構成の焼成炉1の機能について図3および図4を用いて説明する。まず、制御装置100により発振器12,22およびモータ16,26に電力が供給される。これにより発振器12,22から発振されて導波管14,24を伝播したマイクロ波が、攪拌羽根18,28により攪拌されて隔壁30を介して発熱体20に照射される。この結果、発熱体20が徐々に自己発熱して、発熱体20の温度および焼成室23の内部温度が徐々に上昇していく。制御装置100は、温度計22の出力信号により表わされる発熱体20の温度Tが特異温度T0未満であるか否かを定常的に判定する(図3/STEP002)。制御装置100は発熱体20の温度Tが特異温度T0未満であると判定した場合(図3/STEP002‥YES)、発熱体20の温度が上昇するようにマイクロ波の照射強度を増加させる(図3/STEP004)。これにより、図4に示されているように、発熱体20の温度Tが特異温度T0未満である第1時間帯τ1において発熱体20の温度および被焼成物Xの温度が徐々に上昇していく。なお、被焼成物Xの温度は、キャビティ10および隔壁30を貫通する穴を通じて当該被焼成物Xを臨む放射温度計により測定されうる。
【0019】
一方、制御装置100は発熱体20の温度Tが特異温度T0以上であると判定した場合(図3/STEP002‥NO)、マイクロ波の照射強度を減少またはその上昇率を低下させる(図3/STEP006)。これにより、図4に示されているように、発熱体20の温度Tが特異温度T0以上である第2時間帯τ2において発熱体20の温度および被焼成物Xの温度が徐々に上昇していき、被焼成物Xの焼成温度である1250℃付近に至る。この結果、被焼成物Xが焼成された適当なタイミングで、マイクロ波の照射が停止される。
【0020】
本発明の発熱体20およびこれを用いた焼成炉1によれば、マイクロ波の照射強度に鑑みて自己発熱効率が高い温度範囲において発熱体20が利用されるように、発熱材の種類、または、発熱材の種類および重量比率に応じて特異温度T0が設定されうる。すなわち、マイクロ波の照射強度を低下させてもまたはその増加率を抑制しても発熱体20の温度を維持しうるまたは上昇させうるような特異温度T0以上の温度範囲において、発熱体20が被焼成物Xの焼成等の目的で利用されるように当該特異温度T0が設定されうる。このため、発熱体20の温度を上昇させていく過程で、発熱体20の温度が対象物の焼成、調理などの利用目的に鑑みて適当な温度範囲に至った後においてはマイクロ波照射のための電力消費量をそれまでと同じ態様で上昇させなくても発熱体20の温度をそれまでと同じような態様で上昇させることができる(図2〜図4参照)。したがって、発熱体20へのマイクロ波の照射に要する電力を節約しながらも、当該発熱体20の温度Tがその利用目的に鑑みて適当な温度に調節されうる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明はマイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱体またはこれを用いた加熱装置の製造分野、当該発熱体または加熱装置により被加熱物を加熱する必要がある技術分野等において利用されうる。
【符号の説明】
【0022】
1‥焼成炉(加熱装置)、20‥発熱体、12,22‥発振器、100‥制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱材からなる発熱体であって、
マイクロ波の照射強度に鑑みて前記発熱体の自己発熱特性が変化する際の前記発熱体の温度である特異温度が、前記発熱材の種類に応じて設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項2】
請求項1記載の発熱体において、
マイクロ波が照射されることにより異なる温度域で自己発熱する2種類以上の発熱材からなり、
前記発熱材の種類に加えて、前記発熱材のそれぞれの前記発熱体に対する重量比に応じて前記特異温度が設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項3】
請求項1または2記載の発熱体において、
前記発熱体の温度を上昇させる過程で前記発熱体に対するマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する、または、当該マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する際の前記発熱体の温度が前記特異温度として設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の発熱体と、マイクロ波を発振する発振器と、前記発振器への供給電力を制御することにより前記発熱体に照射されるマイクロ波のパワーを調節する制御装置とを備えている加熱装置であって、
前記制御装置が、前記発熱体の温度が前記特異温度より低温である状態と、前記発熱体またはその周辺の温度が前記特異温度より高温である状態との別に応じて前記発振器への供給電力の制御態様を変化させることを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
請求項4記載の加熱装置において、
マイクロ波が前記発熱体に連続的に照射されている状態で、前記制御装置が前記第1状態における前記電力の変化率よりも、前記第2状態における前記電力の変化率が小さくなるように前記電力を制御することを特徴とする加熱装置。
【請求項1】
マイクロ波が照射されることにより自己発熱する発熱材からなる発熱体であって、
マイクロ波の照射強度に鑑みて前記発熱体の自己発熱特性が変化する際の前記発熱体の温度である特異温度が、前記発熱材の種類に応じて設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項2】
請求項1記載の発熱体において、
マイクロ波が照射されることにより異なる温度域で自己発熱する2種類以上の発熱材からなり、
前記発熱材の種類に加えて、前記発熱材のそれぞれの前記発熱体に対する重量比に応じて前記特異温度が設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項3】
請求項1または2記載の発熱体において、
前記発熱体の温度を上昇させる過程で前記発熱体に対するマイクロ波の照射強度の時間変化率が閾値を超えて低下する、または、当該マイクロ波の照射強度の時間変化率の正負が反転する際の前記発熱体の温度が前記特異温度として設定されていることを特徴とする発熱体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の発熱体と、マイクロ波を発振する発振器と、前記発振器への供給電力を制御することにより前記発熱体に照射されるマイクロ波のパワーを調節する制御装置とを備えている加熱装置であって、
前記制御装置が、前記発熱体の温度が前記特異温度より低温である状態と、前記発熱体またはその周辺の温度が前記特異温度より高温である状態との別に応じて前記発振器への供給電力の制御態様を変化させることを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
請求項4記載の加熱装置において、
マイクロ波が前記発熱体に連続的に照射されている状態で、前記制御装置が前記第1状態における前記電力の変化率よりも、前記第2状態における前記電力の変化率が小さくなるように前記電力を制御することを特徴とする加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−182476(P2010−182476A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23496(P2009−23496)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月5日 特定非営利活動法人日本電磁波エネルギー応用学会発行の「GLOBAL CONGRESS ON MICROWAVE ENERGY APPLICATIONS(GCMEA 2008 MAJIC 1ST)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人科学技術振興機構 革新技術開発研究事業、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月5日 特定非営利活動法人日本電磁波エネルギー応用学会発行の「GLOBAL CONGRESS ON MICROWAVE ENERGY APPLICATIONS(GCMEA 2008 MAJIC 1ST)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人科学技術振興機構 革新技術開発研究事業、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】
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