説明

発熱部品の放熱構造及びこの放熱構造を有している回路装置、並びに、前記放熱構造の製造方法

【課題】スイッチング素子で発生した熱をヒートシンクから逃がすために、両者間で熱伝導が行われる必要がある一方で、スイッチング素子とヒートシンクとの間で電気的に絶縁を行う必要のある回路装置であって、スイッチング素子で発生した熱を効率良くヒートシンクへ伝導させることができる回路装置を提供する。
【解決手段】通電によって発熱するスイッチング素子S1と、このスイッチング素子S1で発生した熱を放散させるためのヒートシンク10と、両者間を電気的に絶縁させる絶縁部材30とを備えている。絶縁部材30は、流動性を有する状態でスイッチング素子S1とヒートシンク10との間に充填してから硬化させた充填材から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部品で発生した熱をヒートシンクから逃がすために発熱部品とヒートシンクとの間で熱伝導が行われる必要がある一方で、発熱部品とヒートシンクとの間で電気的に絶縁を行う必要のある構造及びこの構造を有している回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DC/DCコンバータは、一般的に、スイッチング回路2、トランス3、整流回路4及び平滑回路5を備えている(図2参照)。このDC/DCコンバータでは、スイッチング回路2に入力された直流電圧は、当該スイッチング回路2の機能により交流に変換され、交流電圧がトランス3の1次コイル3aに入力される。そして、トランス3の2次コイル3b側に生じた交流電圧は、整流回路4により整流され、平滑回路5により平滑され、所定の電圧Voutが出力される。
【0003】
前記スイッチング回路2は、4つのスイッチング素子S1〜S4を備えた回路構成からなり、駆動回路6から送信される指令信号に基づいて、スイッチング素子S1〜S4が動作し、直流電源90から入力された直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧をトランス3へ入力させることができる。
【0004】
このようなDC/DCコンバータを構成する各部品及び回路は、発生した熱を逃がすためにヒートシンク(放熱板)に取り付けられているが、その中でも、前記スイッチング素子S1〜S4は、導通損失の他に、オン/オフの切り替えに伴うスイッチング損失が発生するため、スイッチング素子S1〜S4からの放熱対策が特に重要となる。
そこで、スイッチング素子S1〜S4で発生した熱を放散するためのヒートシンクは、熱伝導率が高いことが望ましいことから、例えばアルミ等の金属によって製造されている。
【0005】
このように、スイッチング素子S1〜S4とヒートシンクとの間では、熱伝導が行われる必要があるが、スイッチング素子S1〜S4とアルミ等から成るヒートシンクとの間では、電気的に絶縁させる必要がある。このために、スイッチング素子S1〜S4は樹脂製の絶縁シートを介してヒートシンクに取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−299220号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、スイッチング素子とヒートシンクとの間に、樹脂製の絶縁シートを介在させることで、両者間の電気的な絶縁が達成できる。しかし、スイッチング素子と絶縁シートとの間、及び、絶縁シートとヒートシンクとの間で、相互が接触していない部分が存在していると、絶縁性能の観点では好ましいが、その部分で熱伝導が悪くなり、スイッチング素子で発生した熱が、効率良くヒートシンクへ伝わらないおそれがある。そこで、従来では、スイッチング素子と絶縁シートとの間、及び、絶縁シートとヒートシンクとの間に、グリースを介在させている。
【0008】
グリースを介在させることで、スイッチング素子と絶縁シートとの間の密着度、及び、絶縁シートとヒートシンクとの間の密着度を向上させることができる。しかし、樹脂製の絶縁シートは金属に比べて熱伝導率が高くないことに加えて、一般的なグリースは熱伝導率が低いため、結果として、スイッチング素子からヒートシンクへの熱伝導性能はさほど高いものではない。
【0009】
なお、前記のようなDC−DCコンバータでは、高周波化につれてスイッチング素子等の発熱部品では発熱量がより多くなる。このため、ヒートシンクへの熱伝導性能が低いと、発熱部品での過熱が原因となり、高周波化に対応できないおそれがある。
また、通電によって発熱する部品としては、前記スイッチング素子以外にも様々存在しており、また、このような発熱部品を備えている回路装置は、DC−DCコンバータ以外にも様々存在する。
【0010】
そこで、本発明は、発熱部品で発生した熱をヒートシンクから逃がすために発熱部品とヒートシンクとの間で熱伝導が行われる必要がある一方で、発熱部品とヒートシンクとの間で電気的に絶縁を行う必要のある構造及びこの構造を有する回路装置であって、発熱部品で発生した熱を効率良くヒートシンクへ伝導させることができる構造及びこの構造を有する回路装置、並びに、この構造を得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)前記目的を達成するための本発明の発熱部品の放熱構造は、通電によって発熱する発熱部品と、前記発熱部品で発生した熱を放散させるためのヒートシンクと、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に設けられ両者間を電気的に絶縁させる絶縁部材とを備え、前記絶縁部材は、流動性を有する状態で前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に充填してから硬化させた充填材から成ることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、発熱部品とヒートシンクとの間に設けられている絶縁部材は、流動性を有する状態から硬化した充填材から成るので、製造の際に、発熱部品とヒートシンクとの間にこの絶縁部材を入れた際には流動性を有することで、絶縁部材と発熱部品との間、及び、絶縁部材とヒートシンクとの間を密に接触させることが可能となる。このため、絶縁部材によって、発熱部品とヒートシンクとの間は電気的に絶縁されるが、発熱部品で発生した熱についてはヒートシンクへ効率良く伝えることができる。
そして、前記絶縁部材は、発熱部品とヒートシンクとの間に充填してから硬化させた充填材から成るので、発熱部品とヒートシンクとの間に絶縁部材を確実に介在させた状態に維持できる。つまり、仮に、絶縁部材が流動性を有した状態のままであると、発熱部品とヒートシンクとが接近すると絶縁部材が逃げて両者が接触するおそれがあるが、本発明によればこれを防止することができる。
【0013】
(2)また、前記発熱部品の放熱構造は、前記発熱部品の前記ヒートシンク側の面に取り付けられ当該面よりも外周輪郭形状が大きい導熱板を更に備え、前記絶縁部材は、前記導熱板と前記ヒートシンクとの間に設けられている構成とすることができる。
この場合、発熱部品で発生した熱を逃がす面積が導熱板によって増えるので、発熱部品の熱をより効率良く逃がすことができる。
【0014】
(3)また、前記ヒートシンクは、前記発熱部品が前記絶縁部材を介して取り付けられる第1部材と、前記第1部材と接合される第2部材とを有しているのが好ましい。
この場合、ヒートシンクがたとえ大きくても、当該ヒートシンクが第1部材と第2部材とに分割されていて、ヒートシンク全体よりも小さくした第1部材に発熱部品を組み付けてから、当該第1部材と第2部材とを接合すればよい。
【0015】
(4)また、本発明の回路装置は、通電によって発熱する発熱部品を備えた回路装置であって、前記発熱部品の放熱構造として前記放熱構造を有していることを特徴とする。
本発明によれば、前記放熱構造を有しているので、発熱部品とヒートシンクとの間は電気的に絶縁されるが、発熱部品で発生した熱についてはヒートシンクへ効率良く伝えることができる。そして、発熱部品とヒートシンクとの間に絶縁部材を確実に介在させた状態に維持できる。
【0016】
(5)また、本発明は、通電によって発熱する発熱部品と、前記発熱部品で発生した熱を放散するためのヒートシンクとの間に絶縁部材が設けられ、当該発熱部品と当該ヒートシンクとの間を電気的に絶縁させた発熱部品の放熱構造の製造方法であって、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に隙間を設けた状態とし、流動性を有する状態にある絶縁部材を前記隙間に入れ、当該隙間に入れた前記絶縁部材を硬化させることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、発熱部品とヒートシンクとの間の隙間に、流動性を有する絶縁部材を入れることで、絶縁部材と発熱部品との間、及び、絶縁部材とヒートシンクとの間を密に接触させることが可能となる。このため、絶縁部材によって、発熱部品とヒートシンクとの間を電気的に絶縁させるが、発熱部品で発生した熱についてはヒートシンクへ効率良く伝えることができる放熱構造を得ることができる。
そして、絶縁部材を硬化させることにより得られた放熱構造は、発熱部品とヒートシンクとの間に絶縁部材を確実に介在させた状態に維持できる。
【0018】
(6)また、前記製造方法において、金型内で、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に隙間を設けた状態とし、前記絶縁部材として流動性を有する状態にある樹脂を前記金型内の前記隙間に注入するのが好ましい。
この場合、樹脂モールド成型により絶縁部材を形成しつつ、当該絶縁部材を介して発熱部品をヒートシンクに組み付け、前記放熱構造を製造することができる。
【0019】
(7)さらに、前記製造方法において、前記ヒートシンクは、前記発熱部品が取り付けられる第1部材と、前記第1部材と接合される第2部材とに分割されており、前記発熱部品と前記第1部材との間の隙間に、流動性を有する状態にある前記絶縁部材を入れ、当該絶縁部材を硬化させてから、前記第1部材を前記第2部材に接合するのが好ましい。
この場合、ヒートシンクがたとえ大きくても、当該ヒートシンクが第1部材と第2部材とに分割されていて、ヒートシンク全体よりも小さくした第1部材に発熱部品を組み付けてから、当該第1部材と第2部材とを接合すればよいので、前記絶縁部材を設ける作業では、大きいままであるヒートシンク全体を取り扱う必要がなくなり、製造が簡単となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、発熱部品とヒートシンクとの間を電気的に絶縁することができる一方で、従来のようにグリースを使用しなくても、発熱部品と絶縁部材との間、及び、絶縁部材とヒートシンクとの間を密に接触させることが可能となり、発熱部品からヒートシンクへの熱伝導性能を高くすることができる。そして、絶縁部材を硬化させることにより、発熱部品とヒートシンクとの間に絶縁部材を確実に介在させた状態に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】DC−DCコンバータの構成を説明する説明図である。
【図2】DC−DCコンバータの回路図である。
【図3】スイッチング素子及びその周囲を示している断面斜視図である。
【図4】DC/DCコンバータの製造方法を説明する説明図である。
【図5】(a)は、スイッチング素子及びその周囲を示している平面図であり、(b)は側方断面図である。
【図6】スイッチング素子及びその周囲を断面で示している第2実施形態の説明図である。
【図7】スイッチング素子及びその周囲を断面で示している第3実施形態の説明図である。
【図8】スイッチング素子及びその周囲を断面で示している第4実施形態の説明図である。
【図9】スイッチング素子及びその周囲を断面で示している第5実施形態の説明図である。
【図10】スイッチング素子及びその周囲を断面で示している第6実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施の形態では、本発明の回路装置を、DC/DCコンバータとして説明する。
図1は、DC−DCコンバータの構成を説明する説明図であり、図2は、その回路図である。DC/DCコンバータは、入力端子N1,N2に直流電源90が接続され、この直流電源90から供給される直流電圧Vinを、より低い直流電圧Voutに変換し、出力端子N3,N4から出力することができる。
【0023】
図2を参照しながら図1により説明すると、このDC/DCコンバータは、入力端子N1,N2と、1次側高圧線L1a(図2参照)と1次側低圧線L1bとの間に設けられたコンデンサ1及びスイッチング回路2と、スイッチング回路2に接続され電圧を変換するトランス3とを備えている。
さらに、DC/DCコンバータは、トランス3の2次側に設けられ当該トランス3から出力された交流を整流する整流回路4と、整流された電流(電圧)を平滑する平滑回路5と、出力端子N3,N4とを備えている。
【0024】
前記コンデンサ1は、直流電源90から出力された直流電圧Vinを平滑化する。
図例のスイッチング回路2は、4つのスイッチング素子S1〜S4を有している回路構成からなり、フルブリッジ型となっている。すなわち、図2において、スイッチング素子S1,S2の一端同士が互いに接続され、スイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続されている。これら一端同士の接続部それぞれは、トランス3の1次コイル3aと接続されている。そして、スイッチング素子S1,S3の他端同士が互いに接続され、スイッチング素子S2,S4の他端同士が互いに接続され、これらの他端同士の接続部それぞれは、入力端子N1,N2と接続されている。
DC/DCコンバータは更に駆動回路6を備えていて、この駆動回路6から送信される指令信号に基づいてスイッチング素子S1〜S4が動作し、直流電源90から入力された直流電圧を交流電圧に変換することができる。
【0025】
前記トランス3は、1次コイル3aおよび2次コイル3bを有しており、スイッチング回路2から1次コイル3aに入力された交流電圧を変圧し、交流電圧を出力する。
前記整流回路4は、一対の整流ダイオード41,42を有する全波整流型である。また、この整流回路4は、センタータップ型の全波整流方式となっていて、トランス3から出力された交流電圧の各半波を、それぞれ整流ダイオード41,42によって個別に整流して直流電圧を得る構成である。
前記平滑回路5は、インダクタ50とコンデンサ59とを有している。この平滑回路5では、整流回路4で整流された直流電圧を平滑化し、出力端子N3と出力端子N4との間に、所定の電圧Vout(Vout>Vin)を得ることができる。
【0026】
このような構成を備えたDC−DCコンバータでは、前記スイッチング回路2のスイッチング素子S1〜S4、他の部品及び回路(以下、これらをまとめて構成部品ともいう)は、通電によって発熱する発熱部品であることから、放熱対策が必要となる。そこで、DC/DCコンバータは、スイッチング素子S1〜S4等の構成部品で発生した熱を放散させるためのヒートシンク10(図1参照)を備えている。
【0027】
ヒートシンク10は、例えば熱伝導率が高く軽量であることが望ましいことから、アルミ製であり、さらに、本実施形態では、ヒートシンク10は、DC/DCコンバータを構成するための基材となっている。すなわち、ヒートシンク10上に、前記構成部品がすべて設置されている。構成部品が設置される側の面(設置面)を、ヒートシンク10の上面として説明する。なお、ヒートシンク10の上面には、樹脂製のカバー部材27が取り付けられ、構成部品はカバー部材27によって覆われる。なお、図1はカバー部材27が取り外された状態を示している。
【0028】
スイッチング素子S1〜S4は、導通損失の他、オン/オフの切り替えに伴うスイッチング損失が発生するため、特に放熱対策が重要となる。そこで、スイッチング素子S1〜S4(スイッチング回路2)における放熱のための構造(放熱構造)を、図3により説明する。
図3は、スイッチング素子及びその周囲を示している断面斜視図である。なお、本実施形態では、スイッチング回路2は4つのスイッチング素子S1〜S4を有しているが、各素子及びその周囲部の構成はそれぞれ同じであるため、図3では、代表してスイッチング素子S1を示している。
【0029】
ヒートシンク10は、ヒートシンク本体となる平板状のベース部11と、このベース部11から突出しているフィン部12とを有している。フィン部12は、ベース部11のうちの、前記構成部品が設置されている側とは反対側に突出していて、ヒートシンク10は、当該フィン部12によって反対側の面(下面)が凹凸形に形成されている。
ベース部11の上面側には、スイッチング素子S1〜S4を取り付ける部位として、一段高くなった台座部11bが形成され、この台座部11bはベース部11と一体である(ベース部11の一部である)。
【0030】
スイッチング素子S1は、ヒートシンク10側となる下面に導体板部(ドレイン端子)21を有していることから、このスイッチング素子S1を、ヒートシンク10との間で電気的に絶縁させる必要がある。このため、スイッチング素子S1とヒートシンク10のベース部11との間に絶縁部材30が設けられている。
【0031】
本実施形態の絶縁部材30は樹脂製であるが、さらに、流動性を有する状態でスイッチング素子S1とヒートシンク10との間に充填してから硬化させた樹脂製の充填材から成る。すなわち、絶縁部材30は、絶縁性能を有する材料である他に、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間に入れる際及び入れた状態では流動性を有するが、入れた後に硬化し、最終的には固化するものである。具体的には、絶縁部材30として熱硬化性樹脂を採用している。これは、スイッチング素子S1は使用により温度が上昇するため、熱可塑性樹脂ではなく、熱硬化性樹脂を採用している。
また、絶縁部材30の材質としてさらに好ましいものとして、熱伝導率が0.2W/mK以上(10W/mK以下)であるものが好ましく、さらに、0.5W/mK以上であるものが好ましい。
【0032】
図4は、このような絶縁部材30によってスイッチング素子S1とヒートシンク10との間が絶縁されているDC/DCコンバータの製造方法を説明する説明図である。
本実施形態では、金型25を用いたトランスファ成形により製造が行われる。なお、金型25内に充填して絶縁部材30とするための充填材は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂とすることができる。
【0033】
図4(a)に示しているように、金型25には凹部25aが形成されていて、この凹部25a内にスイッチング素子S1が設置されている。図3に示しているように、スイッチング素子S1には、上面側に開口している孔22が形成されているため、この孔22に、例えば金型25に形成した突起25bを嵌合させることで、スイッチング素子S1は金型25の凹部25aに位置決めされる(図4(a)参照)。又は、金型25に対するスイッチング素子S1の位置決めは、当該スイッチング素子S1から突出している端子24を用いても良い。
【0034】
そして、この金型25とヒートシンク10とを接近させ、凹部25aとヒートシンク10の上面13とにより囲まれたキャビティ7を形成する(図4(b)参照)。
キャビティ7の高さ(深さ)Hは、スイッチング素子S1の高さhよりも大きく設定されているため(H>h)、スイッチング素子S1の下面と、ヒートシンク10の上面13との間には、隙間gが形成される。
【0035】
この隙間gは、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間の絶縁性能を確保することができる最小の距離に設定されている。すなわち、この距離(隙間g)が過大であるとスイッチング素子S1からヒートシンク10への熱伝導性能が低下するため、隙間gが所定の値となるように、スイッチング素子S1の高さhを考慮して、キャビティ7の高さHは設定される。
【0036】
そして、図外のトランスファ成形機から、前記キャビティ7に絶縁部材30とするための樹脂R(充填材)を注入する(図4(c)参照)。
すなわち、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間に前記隙間gを設けた状態とし、常温では流動性を有する状態にある熱硬化性の樹脂Rを、当該隙間gを含むキャビティ7に注入し、当該キャビティ7に充填した樹脂Rを所定の温度で加熱することで硬化させる。
【0037】
この製造方法によれば、キャビティ7に注入した流動性を有する樹脂Rが、当該キャビティ7の各部すべてに回り込むことができるので、スイッチング素子S1とヒートシンク10との隙間gにも、当該樹脂Rが浸入し、両者間に隙間が残らないように当該樹脂Rをキャビティ7に充填することが可能となる。したがって、この樹脂Rをキャビティ7内で硬化させることで、硬化した樹脂Rとスイッチング素子S1との間、及び、当該硬化した樹脂Rとヒートシンク10との間を密に接触させることが可能となる。
【0038】
樹脂Rが硬化した後、金型25とヒートシンク10とを分離させると、図4(d)に示しているように、硬化した樹脂Rが絶縁部材30となって、ヒートシンク10上に当該絶縁部材30を介してスイッチング素子S1が設けられた構造が得られる。
この製法によって得られた構造では、硬化した樹脂Rは、電気的に絶縁性能を有していることから、当該樹脂Rから成る絶縁部材30によって、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間を電気的に絶縁させることができる。そして、この絶縁部材30とスイッチング素子S1との間、及び、この絶縁部材30とヒートシンク10との間は密に接触しているので、スイッチング素子S1で発生した熱については、絶縁部材30を介してヒートシンク10へ効率良く伝導させることができる。
【0039】
しかも、前記隙間gが所定の値として小さく設定されていることで、絶縁部材30のうちのスイッチング素子S1とヒートシンク10との間の部分30a(図4(d)参照)は、充分な絶縁性能を有しながらも、熱伝導性能を損なわない厚さtとなっている。
また、樹脂Rが硬化することで絶縁部材30を構成することにより、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間に絶縁部材30を確実に介在させた状態に維持できる。つまり、仮に、絶縁部材が流動性を有した状態のままであると、スイッチング素子S1とヒートシンク10とが接近すると絶縁部材30が逃げて(流れて)両者が接触するおそれがあるが、これを防止することができる。
【0040】
さらに、前記製造方法では、金型25内で、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間に隙間gを設けた状態とし、絶縁部材30として流動性を有する状態にある樹脂Rを前記金型25内の隙間gに注入することから、樹脂モールド成型により絶縁部材30を形成しつつ、この絶縁部材30を介してスイッチング素子S1をヒートシンク10に一体として組み付けることができ、DC/DCコンバータのスイッチング回路2部分を簡単に製造することが可能となる。すなわち、樹脂モールド成型により絶縁部材30を形成すると同時に、スイッチング素子S1をヒートシンク10に固定することもできる。すなわち、樹脂Rが硬化することにより、スイッチング素子S1をヒートシンク10に保持する(接着させる)機能を有している。
【0041】
特に、本実施形態では、スイッチング素子S1の側面23(図4(d)及び図5参照)側にも樹脂Rが回り込んで、当該樹脂Rが硬化した側部回り込み部30bが形成されているので、前記保持する機能を高めることができる。
さらに、側部回り込み部30bは、スイッチング素子S1の全周を囲んでいるため、前記保持する機能をより高めることができる。特に図例では、この側部回り込み部30bが、スイッチング素子S1の側面23の全高さにわたって形成されているので、前記保持する機能をより一層高めることができる。
【0042】
このように、樹脂Rが充填され固化していることから、スイッチング素子S1をヒートシンク10に強固に固定することができる。
なお、図5(a)の平面図及び(b)の側面図に示しているように、スイッチング素子S1の端子24は、一側面23側にある樹脂R(側部回り込み部30b)を貫通した構成となる。端子24のうちの側部回り込み部30bを貫通している部分を貫通部24aとして示している。そして、図5(b)に示しているように、端子24の先端部が、回路基板6aに半田6bによって接続されている。
【0043】
図6は、他の実施形態の説明図であり、スイッチング素子S1及びその周囲を断面で示している。
本実施形態では、スイッチング素子S1のヒートシンク10側の面40に導熱板41が取り付けられている。導熱板41は、スイッチング素子S1の前記面40よりも外周輪郭形状が大きい部材であり、また、熱伝導率が絶縁部材30よりも高い材質から成る。例えば、導熱板41は、銅板等の金属板から成る。
なお、本実施形態は、導熱板41を有している以外、前記実施形態と同じ構成であり、製造方法も同様である。
【0044】
スイッチング素子S1の前記面40は、前記実施形態と同様に導体板部(ドレイン端子)21から構成されていて、前記のとおり樹脂モールド成型を行う前に、前記面40と導熱板41とは密に接着されている。
したがって、前記樹脂モールド成型によれば、絶縁部材30は、導熱板41とヒートシンク10の上面13との間に設けられた構成となる。
このような導熱板41を備えていることで、スイッチング素子S1で発生した熱を逃がす面積が増えるので、スイッチング素子S1の熱をより効率良く逃がすことができる。
なお、図6では、スイッチング素子毎に1枚の導熱板41が取り付けられているが、図10に示しているように、四つのスイッチング素子S1〜S4が、共通する1枚の導熱板41に取り付けられていてもよい。
【0045】
図7は、さらに別の実施形態の説明図であり、スイッチング素子S1及びその周囲を断面で示している。
本実施形態では、ヒートシンク10が分割構造となっている。すなわち、ヒートシンク10は、スイッチング素子S1が絶縁部材30を介して取り付けられる第1部材61と、この第1部材61と接合される第2部材62とを有している。
【0046】
具体的に説明すると、第2部材62は、ヒートシンク本体を構成する前記ベース部11の大部分から成り、この第2部材62の上面の平坦部分62aに、スイッチング回路2(スイッチング素子S1〜S4)以外の前記構成部品が取り付けられる。そして、第2部材62のうち、スイッチング素子S1〜S4を取り付けるべき部分には、凹部63が形成されている。凹部63の内周輪郭形状及び深さは、第1部材61の外周輪郭形状及び厚さと同じであり、この凹部63に第1部材61が嵌め込まれる。
第1部材61は、スイッチング素子S1(又はスイッチング素子S1〜S4のすべて)を搭載するだけの大きさを有していて、図例では板形状である。第1部材61と第2部材62とは同じ材質(アルミ製)から成る。
【0047】
そして、第1部材61は、第2部材62の凹部63に嵌め込まれた状態で、ネジ等の止め部材64によって第2部材62に固定される。
この第1部材61が凹部63に嵌め込まれる際には、既に、第1部材61には絶縁部材30を介してスイッチング素子S1が取り付けられている。このスイッチング素子S1の第1部材61への取り付けは、前記モールド成型によって行われる。
【0048】
すなわち、図4で示したヒートシンク10全体の代わりに、本実施形態では第1部材61のみが用いられる。具体的に説明すると、ヒートシンク10は、スイッチング素子S1が取り付けられる第1部材61と、凹部63による嵌合及び止め部材64によって前記第1部材61と接合される第2部材62とに予め分割されている。そして、スイッチング素子S1と第1部材61との間に隙間gを設けた状態とし、この隙間gに、流動性を有する状態にある絶縁部材30を入れ、この絶縁部材30を硬化させてから、この第1部材61を第2部材62に接合する。
【0049】
ここで、図1に示したDC−DCコンバータでは、前記のとおり、ヒートシンク10は、多くの構成部品を設置する基板を兼ねていることから、大きな構成となっている。そこで、本実施形態によれば、ヒートシンク10が大きくても、小さな第1部材61と、この第1部材61よりも大きな第2部材62とに分割されていることから、小さくした第1部材61にスイッチング素子S1を組み付けてから、この第1部材61を第2部材と接合すればよい。このため、図4に示したモールド成型を用いて絶縁部材30を設ける作業において、大きいままであるヒートシンク10全体を取り扱う必要がなくなり、製造が簡単となる。
【0050】
なお、本実施形態では、第2部材62に凹部63が形成された場合を説明したが、凹部63を省略してもよく、この場合、第2部材62の上面の平坦な部分に、第1部材61が載った状態となって第2部材62と接合されてもよい。
また、四つのスイッチング素子S1〜S4が共通する一つの第1部材61に取り付けられていてもよい。
【0051】
以上のように、前記各実施形態によれば、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間に設けられている絶縁部材30は、流動性を有する状態から硬化した充填材からなるので、製造の際に、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間にこの絶縁部材30を入れた際には流動性を有することで、両者間に隙間が残らないように絶縁部材30を充填することが可能となる。
そして、この絶縁部材30が硬化すると、当該絶縁部材30とスイッチング素子S1との間、及び、当該絶縁部材30とヒートシンク10との間を密に接触させることが可能となる。特に、スイッチング素子S1の下面に凹凸部があっても、流動性を有する充填材は、その凹凸部に沿って浸入することができ、密着状態が得られる。
【0052】
このため、絶縁部材30との間の接触熱抵抗を小さくすることができ、硬化した絶縁部材30によって、スイッチング素子S1とヒートシンク10との間は電気的に絶縁されるが、スイッチング素子S1で発生した熱についてはヒートシンク10へ効率良く伝えることができる。
以上より、DC/DCコンバータを高周波化することで、スイッチング素子S1での発熱量が増加しても、ヒートシンク10を通じてこの熱を効率良く放散させることができる。すなわち、本発明によれば、熱対策が施されて高周波化に対応できるDC/DCコンバータを得ることができる。
【0053】
なお、従来では、スイッチング素子とヒートシンクとの間に、樹脂製の絶縁シートと、密着度を高めるためにグリースを用いていた。樹脂製の絶縁シートは熱伝導率が高くないことに加えて、一般的なグリースも熱伝導率が低いため、結果として、スイッチング素子からヒートシンクへの熱伝導性能はさほど高いものではなかった。また、グリースには、熱伝導率が高いものも存在しているが、このようなグリースは高価である。このため、このようなグリースを採用すると、DC/DCコンバータがコストアップされてしまう。
しかし、本発明によれば、前記グリースを採用しなくてよいため、DC/DCコンバータのコスト低減に貢献することができる。
【0054】
前記各実施形態では、スイッチング素子S1の下面(ヒートシンク10側の面40)側と側面23側とに、樹脂Rが設けられて絶縁部材30を構成したが、図8に示しているように、スイッチング素子S1の上面42側にも樹脂Rが回り込んで、固化した構成であってもよい。この場合、スイッチング素子S1をヒートシンク10により強固に固定することが可能となる。
【0055】
また、前記各実施形態では、一つのスイッチング素子毎をヒートシンク10又は第1部材61に取り付ける場合を説明したが、図9に示しているように、各実施形態において、複数(図例では4つ)のスイッチング素子S1〜S4を一度にまとめて樹脂モールド成型することで、一体とする構成であってもよい。
【0056】
今回開示した実施形態は、本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等な意味、及び、範囲内での全ての変更が含まれる。
例えば、前記実施形態では、通電によって発熱する発熱部品を、スイッチング素子として説明したが、発熱部材は、これ以外のパワー半導体等の他の部品であってもよい。
また、絶縁部材30は、熱硬化性樹脂以外に熱可塑性樹脂等の樹脂であってもよく、絶縁性能を有していること、及び、流動性を有する状態から後に硬化することを条件として、紫外線等の特定の光で硬化する材料(樹脂)、複数の材料が混合されることにより硬化する材料(樹脂)、接着剤、等であってもよい。
【0057】
さらに、前記実施形態は、回路装置としてDC/DCコンバータを説明したが、AC/DCコンバータであってもよい。この場合、図2のスイッチング回路2が省略され、交流電圧が入力端子N1,N2(トランス3の1次側)に入力される構成となる。また、発熱部品及びヒートシンクを有する回路装置は、このようなDC/DCコンバータ等の変換器以外の機器であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
10:ヒートシンク、 25:金型、 30:絶縁部材、 40:ヒートシンク側の面、 41:導熱板、 61:第1部材、 62:第2部材、 S1〜S4:スイッチング素子(発熱部品)、 g:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電によって発熱する発熱部品と、前記発熱部品で発生した熱を放散させるためのヒートシンクと、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に設けられ両者間を電気的に絶縁させる絶縁部材と、を備え、
前記絶縁部材は、流動性を有する状態で前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に充填してから硬化させた充填材から成ることを特徴とする発熱部品の放熱構造。
【請求項2】
前記発熱部品の前記ヒートシンク側の面に取り付けられ当該面よりも外周輪郭形状が大きい導熱板を更に備え、
前記絶縁部材は、前記導熱板と前記ヒートシンクとの間に設けられている請求項1に記載の発熱部品の放熱構造。
【請求項3】
前記ヒートシンクは、前記発熱部品が前記絶縁部材を介して取り付けられる第1部材と、前記第1部材と接合される第2部材とを有している請求項1又は2に記載の発熱部品の放熱構造。
【請求項4】
通電によって発熱する発熱部品を備えた回路装置であって、
前記発熱部品の放熱構造として請求項1〜3のいずれか一項に記載の放熱構造を有していることを特徴とする回路装置。
【請求項5】
通電によって発熱する発熱部品と、前記発熱部品で発生した熱を放散するためのヒートシンクとの間に絶縁部材が設けられ、当該発熱部品と当該ヒートシンクとの間を電気的に絶縁させた発熱部品の放熱構造の製造方法であって、
前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に隙間を設けた状態とし、流動性を有する状態にある絶縁部材を前記隙間に入れ、当該隙間に入れた前記絶縁部材を硬化させることを特徴とする発熱部品の放熱構造の製造方法。
【請求項6】
金型内で、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの間に隙間を設けた状態とし、前記絶縁部材として流動性を有する状態にある樹脂を前記金型内の前記隙間に注入する請求項5に記載の発熱部品の放熱構造の製造方法。
【請求項7】
前記ヒートシンクは、前記発熱部品が取り付けられる第1部材と、前記第1部材と接合される第2部材とに分割されており、
前記発熱部品と前記第1部材との間の隙間に、流動性を有する状態にある前記絶縁部材を入れ、当該絶縁部材を硬化させてから、前記第1部材を前記第2部材に接合する請求項5又は6に記載の発熱部品の放熱構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−100874(P2011−100874A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255060(P2009−255060)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】