説明

発進装置

【課題】摩擦係合装置の冷却性能を高く維持することができる発進装置の実現。
【解決手段】内燃機関に駆動連結される入力部材Iと車輪に駆動連結される出力部材Mとの間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置CLを備えた発進装置SM。摩擦係合装置CLは、一対の摩擦部材31と、押圧部材41と、リターンスプリング49と、保持部材47と、を有し、摩擦係合装置CLを収容するハウジングCH内に所定圧以上の油が満たされており、ハウジングCH内における軸方向で保持部材47と押圧部材41との間の空間V2の径方向内側端部に油を供給する油供給部65bを備え、摩擦係合装置CLの解放状態で、油供給部65bが、径方向に見て押圧部材41及び保持部材47とは重複しない位置に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材との間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置を備えた発進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、駆動力源として内燃機関のみを備える所謂エンジン車両においては、当該車両の発進時に、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材との間の差回転速度を吸収しつつ、これらの間で駆動力を伝達する発進装置が必要である。このような発進装置は、例えば駆動力源として内燃機関及び回転電機を備えるハイブリッド車両において、回転電機を当該発進装置の出力側に駆動連結することによって、内燃機関を切り離した状態で回転電機の駆動力により当該車両を発進させる目的でも利用することができる。
【0003】
このような発進装置として、例えば下記の特許文献1には、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材との間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置を備えた装置が提案されている。このような発進装置では、供給油圧を制御することによって摩擦係合装置の状態を解放状態、スリップ状態、及び完全係合状態の間で適宜切り替え、これにより差回転速度の吸収や内燃機関の分離状態を実現することができる。
【0004】
ここで、特許文献1に記載された発進装置では、一対の摩擦部材(摩擦プレート)の一方(内側摩擦プレート)を径方向内側から支持する内側支持部材(クラッチハブ)は、保持部材(リターンプレート)に対して摩擦部材を軸方向に押圧する押圧部材(ピストン)の押圧方向側を通って径方向外側に延びるように配置されている。そして、ハウジング内における軸方向で、リターンスプリングを保持する保持部材(リターンプレート)と内側支持部材との間に形成される空間の径方向内側端部から油が供給され、供給された油は、ハウジング内において内側支持部材に沿って径方向外側に向かって流れ、摩擦係合装置(湿式多板クラッチ機構)の複数の摩擦プレートを冷却し、その後内側支持部材の押圧方向側を当該内側支持部材に沿って径方向内側に向かって流れてハウジングの外へ排出される。その際、油は、摩擦係合装置を収容するハウジング内に充満された状態で流通する。よって、摩擦係合装置の冷却性能を高く維持することができる。
【0005】
しかし、特許文献1の発進装置では、ハウジング内への油の供給部の径方向外側の空間はかなり幅狭に形成され、径方向に見て当該油の供給部と重複する位置にハウジングの一部や保持部材が配置されている。そのため、ハウジング内に供給された油が内側支持部材に沿って径方向外側に向かって流れる際、保持部材等によって径方向の流れが乱されて流通性が悪化する可能性がある。ハウジング内での油の流通性が悪化すると、摩擦係合装置の冷却性能が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−105615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、摩擦係合装置の冷却性能を高く維持することができる発進装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材との間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置を備えた発進装置の特徴構成は、前記摩擦係合装置は、一対の摩擦部材と、前記一対の摩擦部材を互いに係合させるように軸方向に押圧する押圧部材と、前記押圧部材の押圧方向とは反対方向である反押圧方向に前記押圧部材を付勢するリターンスプリングと、前記リターンスプリングを保持する保持部材と、を有し、前記摩擦係合装置を収容するハウジング内に所定圧以上の油が満たされており、前記ハウジング内における軸方向で前記保持部材と前記押圧部材との間に形成される空間の径方向内側端部に、前記空間へ油を供給する油供給部を備え、前記摩擦係合装置の解放状態で、前記油供給部が、径方向に見て前記押圧部材及び前記保持部材とは重複しない位置に設けられている点にある。
【0009】
なお、「駆動連結」は、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を表し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。ここで、「駆動力」はトルクと同義で用いている。
また、2つの部材の配置に関して、「ある方向に見て重複する」とは、当該方向を視線方向として当該視線方向に直交する各方向に視点を移動させた場合に、2つの部材が重なって見える視点が少なくとも一部の領域に存在することを意味する。よって、「ある方向に見て重複しない」とは、当該方向を視線方向として当該視線方向に直交する各方向に視点を移動させた場合に、2つの部材が重なって見える視点が存在しないことを意味する。
【0010】
上記の特徴構成によれば、ハウジング内に所定圧以上の油が満たされているので、多量の油により、ハウジングの内部に収容される摩擦係合装置を効果的に冷却することができる。その際、軸方向で保持部材と押圧部材との間に形成される空間の径方向内側端部に油を供給する油供給部が、摩擦係合装置の解放状態で径方向に見て押圧部材及び保持部材とは重複しない位置に設けられているので、油供給部から供給される油を、摩擦係合装置の解放状態で乱流をほとんど生じさせることなく上記空間を径方向外側に向かって円滑に流通させることができる。そして、径方向外側に向かって流れる油により、解放状態において所定間隔を隔てて配置された複数の摩擦部材を冷却することができる。従って、上記の特徴構成によれば、ハウジング内での油の流通性の悪化を抑制することができ、摩擦係合装置の冷却性能を高く維持することができる発進装置を提供することができる。
【0011】
ここで、前記押圧部材を押圧するための油が供給される作動油圧室を更に備え、前記保持部材が、円板状に形成されると共に、その外径が前記作動油圧室の外径と等しく、又はそれよりも大きく形成されている構成とすると好適である。
【0012】
この構成によれば、少なくとも作動油圧室の外径に等しい径方向の位置まで径方向に延びる円板状の保持部材により、押圧部材に対して作動油圧室とは反対側となる押圧方向側において、乱流による負圧の発生を抑制することができる。これにより、摩擦係合装置の冷却性能を高く維持したまま、制御性も高く維持することができる。
【0013】
また、前記ハウジングは、前記押圧部材の径方向内側を軸方向に延びる円筒状部を有し、前記油供給部は、前記円筒状部の中を径方向に延びる径方向油路の径方向外側の開口部を有し、複数の前記径方向油路が周方向に分散して設けられると共に、複数の前記リターンスプリングが前記径方向油路よりも径方向外側に周方向に分散して設けられ、複数の前記径方向油路と複数の前記リターンスプリングとが互いに異なる周方向位置に設けられている構成とすると好適である。
【0014】
この構成によれば、押圧部材の径方向内側を軸方向に延びる円筒状部の中を径方向に延びる径方向油路の径方向外側の開口部から、上記空間の径方向内側端部に適切に油を供給することができる。また、上記の構成によれば、複数の径方向油路と複数のリターンスプリングとが互いに異なる周方向位置に設けられているので、径方向油路の開口部から供給された油は、リターンスプリングによって遮られることなく径方向外側に向かって円滑に流通することができる。よって、摩擦係合装置の冷却性能をより高く維持することができる。
【0015】
また、前記摩擦係合装置は、内側円筒部により前記一対の摩擦部材の一方を径方向内側から支持する内側支持部材と、外側円筒部により前記一対の摩擦部材の他方を径方向外側から支持する外側支持部材と、を有し、前記内側円筒部に径方向に貫通する内側貫通孔が形成されると共に、前記外側円筒部に径方向に貫通する外側貫通孔が形成され、前記内側貫通孔及び前記外側貫通孔が、径方向に見て前記油供給部と重複する位置に設けられている構成とすると好適である。
【0016】
この構成によれば、油供給部から径方向外側に向かって円滑に流通した油を、内側円筒部に形成される内側貫通孔と外側円筒部に形成される外側貫通孔とを介して複数の摩擦部材同士の間にも円滑に流通させることができる。従って、摩擦係合装置の冷却性能をより一層高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る発進装置を備えたハイブリッド駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】実施形態に係るハイブリッド駆動装置の部分断面図である。
【図3】実施形態に係るハイブリッド駆動装置の要部断面図である。
【図4】実施形態に係るハイブリッド駆動装置に備えられる第四軸受の斜視図である。
【図5】第四軸受等を径方向内側から見た周方向の展開図である。
【図6】油供給部及びリターンスプリングの周方向の位置関係を示す模式図である。
【図7】その他の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態においては、本発明に係る発進装置を、ハイブリッド駆動装置に組み込んで適用した場合を例として説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの概略構成を示す模式図である。ハイブリッド駆動装置Hは、車両の駆動力源として内燃機関E及び回転電機MGの一方又は双方を用いるハイブリッド車両用の駆動装置である。このハイブリッド駆動装置Hは、いわゆる1モータパラレルタイプのハイブリッド駆動装置として構成されている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、詳細に説明する。
【0019】
1.ハイブリッド駆動装置の全体構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの全体構成について説明する。図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、車両の第一の駆動力源としての内燃機関Eに駆動連結される入力軸Iと、車両の第二の駆動力源としての回転電機MGと、発進装置SMと、変速機構TMと、回転電機MGに駆動連結されると共に変速機構TMに駆動連結される中間軸Mと、車輪Wに駆動連結される出力軸Oと、を備えている。発進装置SMに備えられるクラッチCLは、入力軸Iと中間軸Mとの間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられている。また、ハイブリッド駆動装置Hは、カウンタギヤ機構Cと、出力用差動歯車装置DFと、を備えている。これらの各構成は、ケース(駆動装置ケース)1内に収容されている。
【0020】
なお、本実施形態では、互いに同軸上に配置される入力軸I、中間軸M、及びクラッチCLの回転軸心を基準として、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」の各方向を規定している。
【0021】
内燃機関Eは、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す装置であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、内燃機関Eのクランクシャフト等の出力回転軸がダンパDを介して入力軸Iに駆動連結されている。また、入力軸Iは発進装置SMに備えられるクラッチCLを介して回転電機MG及び中間軸Mに駆動連結されており、入力軸IはクラッチCLにより選択的に回転電機MG及び中間軸Mに駆動連結される。このクラッチCLの係合状態では、入力軸Iを介して内燃機関Eと回転電機MGとが駆動連結され、クラッチCLの解放状態では内燃機関Eと回転電機MGとが分離される。
【0022】
回転電機MGは、ステータStとロータRoとを有して構成され、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、回転電機MGは、蓄電装置(図示せず)と電気的に接続されている。本例では、蓄電装置としてバッテリが用いられている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。回転電機MGは、バッテリから電力の供給を受けて力行し、或いは、内燃機関Eが出力するトルクや車両の慣性力により発電した電力をバッテリに供給して蓄電させる。回転電機MGのロータRoは、中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。この中間軸Mは、変速機構TMの入力軸(変速入力軸)となっている。
【0023】
変速機構TMは、中間軸Mの回転速度を所定の変速比で変速して変速出力ギヤGへ伝達する装置である。このような変速機構TMとして、本実施形態では、シングルピニオン型及びラビニヨ型の遊星歯車機構とクラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチ等の複数の係合装置とを備えて構成され、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に備えた自動有段変速機構が用いられている。なお、変速機構TMとして、その他の具体的構成を備えた自動有段変速機構や、変速比を無段階に変更可能な自動無段変速機構、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に備えた手動式有段変速機構等を用いても良い。変速機構TMは、各時点における所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、変速出力ギヤGへ伝達する。
【0024】
変速出力ギヤGは、カウンタギヤ機構Cを介して出力用差動歯車装置DFに駆動連結されている。出力用差動歯車装置DFは、出力軸Oを介して車輪Wに駆動連結されており、当該出力用差動歯車装置DFに入力される回転及びトルクを左右2つの車輪Wに分配して伝達する。これにより、ハイブリッド駆動装置Hは、内燃機関E及び回転電機MGの一方又は双方のトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。
【0025】
なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hでは、入力軸Iと中間軸Mとが同軸上に配置されると共に、出力軸Oが入力軸I及び中間軸Mとは異なる軸上に互いに平行に配置された複軸構成とされている。このような構成は、例えばFF(Front Engine Front Drive)車両に搭載されるハイブリッド駆動装置Hの構成として適している。
【0026】
2.ハイブリッド駆動装置の各部の構成
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの各部の構成について説明する。図2に示すように、ケース1は、少なくとも回転電機MG及び発進装置SMを収容している。ケース1は、回転電機MGや発進装置SM、変速機構TM等の各収容部品の外周を覆うケース周壁2と、当該ケース周壁2の軸第一方向A1側(内燃機関E側であって図2における右側、以下同じ。)の開口を塞ぐ第一支持壁3と、当該第一支持壁3よりも軸第二方向A2側(内燃機関Eとは反対側であって図2における左側、以下同じ。)において軸方向で回転電機MGと変速機構TMとの間に配置される第二支持壁8と、を備えている。更に、図示はしていないが、このケース1は、ケース周壁2の軸第二方向A2側の端部を塞ぐ端部支持壁を備えている。
【0027】
第一支持壁3は、少なくとも径方向に延びる形状を有し、本実施形態では径方向及び周方向に延在している。第一支持壁3には軸方向の貫通孔が形成されており、この貫通孔に挿通される入力軸Iが第一支持壁3を貫通してケース1内に挿入されている。第一支持壁3は、軸第二方向A2側に突出する円筒状(ボス状)の軸方向突出部4と一体的に形成されている。第一支持壁3は、回転電機MG及び発進装置SMに対して軸第一方向A1側に配置されており、より具体的には、クラッチCLを収容するクラッチハウジングCH(詳細については後述する)に対して軸第一方向A1側に所定間隔を空けて配置されている。また、第一支持壁3は、回転電機MGの軸第一方向A1側でクラッチハウジングCHを回転可能に支持している。
【0028】
第二支持壁8は、少なくとも径方向に延びる形状を有し、本実施形態では径方向及び周方向に延在している。第二支持壁8には軸方向の貫通孔が形成されており、この貫通孔に挿通される中間軸Mが第二支持壁8を貫通している。第二支持壁8は、軸第一方向A1側に突出する円筒状(ボス状)の軸方向突出部9と一体的に形成されている。第二支持壁8は、回転電機MG及び発進装置SMに対して軸第二方向A2側に配置されており、より具体的にはクラッチハウジングCHに対して軸第二方向A2側に所定間隔を空けて配置されている。また、第二支持壁8は、回転電機MGの軸第二方向A2側でクラッチハウジングCHを回転可能に支持している。
【0029】
第二支持壁8の内部に形成されるポンプ室には、オイルポンプ18が収容されている。本実施形態においては、オイルポンプ18は、インナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプとされている。オイルポンプ18のインナロータは、その径方向の中心部でクラッチハウジングCHと一体回転するようにスプライン連結されている。オイルポンプ18は、クラッチハウジングCHの回転に伴ってオイルパン(図示せず)から油を吸引し、その吸引した油を吐出して、クラッチCLや変速機構TM、回転電機MG等に油を供給する。なお、第二支持壁8及び中間軸M等の内部には、それぞれ油路が形成されており、オイルポンプ18により吐出された油は、不図示の油圧制御装置及びそれらの油路を介して油供給対象となる各部位に供給される。各部位に供給された油は、当該部位の潤滑及び冷却の一方又は双方を行う。本実施形態における油は、「潤滑液」及び「冷却液」の双方の機能を果たし得る「潤滑冷却液」として機能する。
【0030】
入力軸Iは、内燃機関Eのトルクをハイブリッド駆動装置Hに入力するための軸部材である。入力軸Iは、第一支持壁3を貫通する状態で配設されており、図2に示すように、第一支持壁3の軸第一方向A1側でダンパDを介して内燃機関Eの出力回転軸と一体回転するように駆動連結されている。また、入力軸Iの外周面と第一支持壁3に設けられた貫通孔の内周面とに亘って、これらの間を液密状態として軸第一方向A1側(ダンパD側)への油の漏出を抑制するためのシール部材77が配設されている。本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当する。
【0031】
本実施形態では、入力軸Iの軸第二方向A2側の端部の径方向中心部には、軸方向の孔部が形成されている。この孔部に、当該入力軸Iと同軸上に配置される中間軸Mの軸第一方向A1側の端部が進入されている。
【0032】
中間軸Mは、回転電機MGのトルク、及びクラッチCLを介する内燃機関Eのトルク、の一方又は双方を変速機構TMに入力するための軸部材である。本実施形態においては、中間軸Mが本発明における「出力部材」に相当する。中間軸Mは、クラッチハウジングCHにスプライン連結されている。図2に示すように、この中間軸Mは、第二支持壁8を貫通する状態で配設されている。中間軸Mは、第二支持壁8に対して回転可能な状態で径方向に支持されている。本実施形態においては、中間軸Mはその内部に供給油路15及び排出油路16を含む複数の油路を有する。供給油路15は、軸方向に延びると共に、クラッチCLの作動油室H1に連通するように軸方向の所定位置で径方向に延びて中間軸Mの外周面に開口している。排出油路16は、軸方向に延びて軸第一方向A1側の側面に開口している。
【0033】
クラッチCLは、入力軸Iと中間軸Mとの間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられ、内燃機関Eと回転電機MGとを選択的に駆動連結する摩擦係合装置である。本実施形態では、クラッチCLは湿式多板クラッチ機構として構成されている。クラッチCLは、クラッチハブ21、クラッチドラム26、及びピストン41等を備えており、クラッチハウジングCHに収容されている。クラッチハブ21は、入力軸Iの軸第二方向A2側の端部で当該入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。クラッチドラム26はクラッチハウジングCHと一体的に形成されており、当該クラッチハウジングCHを介して中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。
【0034】
本実施形態では、クラッチドラム26と一体化されたクラッチハウジングCHとピストン41との間には液密状態の作動油室H1が形成される。この作動油室H1には、オイルポンプ18により吐出され、油圧制御装置(図示せず)により所定の油圧レベルに調整された圧油が、中間軸Mに形成された供給油路15を介して供給される。作動油室H1に供給される油の油圧レベルに応じて、クラッチCLの係合及び解放が制御される。本実施形態においては、作動油室H1が本発明における「作動油圧室」に相当する。また、ピストン41に対して作動油室H1とは反対側には、循環油室H2が形成される。この循環油室H2には、オイルポンプ18により吐出され、油圧制御装置(図示せず)により所定の油圧レベルに調整された圧油が、クラッチハウジングCHに形成された循環油路65を介して供給される。
【0035】
クラッチハウジングCHは、クラッチCLの周囲、すなわち軸第一方向A1側、軸第二方向A2側、及び径方向外側を覆うように形成されている。そのため、クラッチハウジングCHは、クラッチCLの軸第一方向A1側に配置されて径方向に延びる第一径方向延在部51と、クラッチCLの軸第二方向A2側に配置されて径方向に延びる第二径方向延在部61と、クラッチCLの径方向外側に配置されて軸方向に延びる軸方向延在部68と、を備えている。これらのクラッチCL及びクラッチハウジングCHを主要な構成要素として含む発進装置SMの詳細については、後述する。
【0036】
図2に示すように、回転電機MGは、クラッチハウジングCHの径方向外側に配置されている。回転電機MGは、ケース1に固定されたステータStと、このステータStの径方向内側でクラッチハウジングCHを介して回転自在に支持されたロータRoと、を有する。ステータStとロータRoとは、径方向に微小隙間を空けて対向配置されている。ステータStは、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体として構成されて第一支持壁3に固定されるステータコアと、当該ステータコアに巻装されるコイルと、を備えている。ロータRoは、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体として構成されたロータコアと、当該ロータコアに埋め込まれた永久磁石と、を備えている。
【0037】
本実施形態においては、回転電機MGは、径方向に見てクラッチハウジングCHと重複するように配置されている。本実施形態では、回転電機MGのロータRoが、クラッチハウジングCHを構成する軸方向延在部68の外周部に固定されている。すなわち、ロータRoのロータコアを構成する複数の電磁鋼板のそれぞれの内周面が、軸方向延在部68の外周面に接した状態で固定されている。ロータRoは、軸方向延在部68を介して第一径方向延在部51と第二径方向延在部61とにより径方向内側から支持されている。これにより、クラッチハウジングCHはロータRoを支持するロータ支持部材としても機能し、本実施形態ではクラッチハウジングCHとロータ支持部材とが共通化されて形成されている。そのため、以下では「クラッチハウジングCH」の用語を用いる場合には、「ロータ支持部材」としての意味も含んでいるものとする。
【0038】
また、本実施形態においては、クラッチハウジングCHの軸第一方向A1側で、第一支持壁3と第一径方向延在部51との間に回転センサ11が設けられている。回転センサ11は、回転電機MGのステータStに対するロータRoの回転位置を検出するためのセンサである。本実施形態では、回転センサ11は、ロータRoの径方向内側に、径方向に見て当該ロータRoと重複して配置されている。本例では、第一支持壁3に回転センサ11のセンサステータが固定され、当該センサステータの径方向外側で、第一径方向延在部51に回転センサ11のセンサロータが固定されている。このような回転センサ11としては、例えばレゾルバ等を用いることができる。
【0039】
3.発進装置の構成
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hに組み込まれた発進装置SMの構成について説明する。この発進装置SMは、内燃機関Eを切り離した状態で回転電機MGの駆動力によりハイブリッド車両を発進させる機能を果たすものである。図3に示すように、本実施形態に係る発進装置SMは、クラッチハウジングCH及びクラッチCLを主要な構成要素として含んでいる。以下、順に説明する。なお、本実施形態においては、クラッチハウジングCHが本発明における「ハウジング」に相当し、クラッチCLが本発明における「摩擦係合装置」に相当する。
【0040】
3−1.クラッチハウジング
クラッチハウジングCHはクラッチCLを収容する部材であり、第一径方向延在部51、第二径方向延在部61、及び軸方向延在部68を備えている。
【0041】
第一径方向延在部51は、全体として板状の部材であり、クラッチCLの軸第一方向A1側に配置されている。第一径方向延在部51は、少なくとも径方向に延びる形状を有し、本実施形態では径方向及び周方向に延在している。第一径方向延在部51には軸方向の貫通孔が形成されており、この貫通孔に挿通される入力軸Iが第一径方向延在部51を貫通してクラッチハウジングCH内に挿入されている。第一径方向延在部51は、軸第一方向A1側に突出する円筒状(ボス状)の軸方向突出部52と一体的に形成されている。軸方向突出部52は、第一径方向延在部51の径方向内側の端部に、入力軸Iの周囲を取り囲むように形成されている。径方向で軸方向突出部52と入力軸Iとの間には、第三軸受73が配設されている。また、径方向で軸方向突出部52と第一支持壁3の軸方向突出部4との間には、第一軸受71が配設されている。本例では、このような第一軸受71として、ボールベアリングを用いている。また、第三軸受73として、ある程度の液密性が確保可能に構成されたシール機能付軸受(ここでは、シールリング付ニードルベアリング)を用いている。第一軸受71と第三軸受73とは、径方向に見て互いに重複して配置されている。なお、本例では軸方向突出部52と第一支持壁3の軸方向突出部4との間にはオイルシール等は配設されておらず、油密構造とはされていない。
【0042】
第二径方向延在部61は、段付形状に形成された全体として板状の部材であり、クラッチCLの軸第二方向A2側に配置されている。第二径方向延在部61は、少なくとも径方向に延びる形状を有し、本実施形態では径方向及び周方向に延在している。第二径方向延在部61には軸方向の貫通孔が形成されており、この貫通孔に挿通される中間軸Mが第二径方向延在部61を貫通してクラッチハウジングCH内に挿入されている。また、本例では、第二径方向延在部61は、その径方向の中央部に軸方向の所定範囲(径方向に見て後述するピストン41の円筒状部43(図3を参照)の軸第二方向A2側の一部と重複する範囲)を占めるように形成された円筒状部63を有する。第二径方向延在部61は、円筒状部63よりも径方向内側の部位が径方向外側の部位よりも軸第一方向A1側に位置するようにオフセットされた形状を有している。また、第二径方向延在部61は、軸方向の所定範囲(ここでは、入力軸Iの軸第二方向A2側の端部とオイルポンプ18との間の範囲)を占めるように形成された第二の円筒状部62と一体的に形成されている。以下では、これらを明確に区別するため、径方向内側に配置される円筒状部62を「内側円筒状部62」とし、径方向外側に配置される円筒状部63を「外側円筒状部63」として説明する。本実施形態においては、内側円筒状部62が本発明における「円筒状部」に相当する。
【0043】
内側円筒状部62は、軸方向の中央部で第二径方向延在部61と一体的に形成されている。すなわち、内側円筒状部62は、第二径方向延在部61に対して軸第一方向A1側及び軸第二方向A2側の双方に突出している。内側円筒状部62は、第二径方向延在部61の径方向内側の端部において中間軸Mの周囲を取り囲んでいる。内側円筒状部62は、その軸方向の一部の内周面が周方向全体に亘って中間軸Mの外周面に当接している。また、径方向で内側円筒状部62と第二支持壁8の軸方向突出部9との間には、第二軸受72が配設されている。本例では、このような第二軸受72として、ボールベアリングを用いている。なお、本例では内側円筒状部62と第二支持壁8の軸方向突出部9との間にはオイルシール等は配設されておらず、油密構造とはされていない。
【0044】
軸方向で内側円筒状部62と入力軸Iとの間には、第四軸受74が配設されている。本実施形態では、このような第四軸受74として、軸方向荷重(スラスト力)を受けることが可能なスラストワッシャーを用いている。第四軸受74は、図4に示すように円環板状に形成されていると共に複数の径方向溝74aと複数の軸方向溝74bとを有する。径方向溝74aは、第四軸受74の内周面と外周面とを連通するように径方向に延びる、凹状に窪んだ形状の溝部であり、本例では軸方向の両面に4つずつそれぞれ周方向に均等に分散して形成されている。また本例では、軸第一方向A1側の4つの径方向溝74aと軸第二方向A2側の4つの径方向溝74aとを合わせた、計8つの径方向溝74aが、周方向に均等に分散して形成されている。また、計8つの径方向溝74aが形成された周方向位置における内周面には、第四軸受74の軸方向の両面を連通するように軸方向に延びる、凹状に窪んだ形状の8つの軸方向溝74bが形成されている。
【0045】
図3に戻って、内側円筒状部62は、中間軸Mと一体回転するように、軸第二方向A2側の端部の内周面において中間軸Mにスプライン連結されている。また、内側円筒状部62は、オイルポンプ18を構成するインナロータと一体回転するように、軸第二方向A2側の端部の外周面において当該インナロータにスプライン連結されている。
【0046】
軸方向延在部68は、少なくとも軸方向に延びる形状を有し、本実施形態では軸方向及び周方向に延在している。軸方向延在部68は、クラッチCLの径方向外側を包囲する円筒型の形状を有しており、第一径方向延在部51と第二径方向延在部61とを、これらの径方向外側端部で軸方向に連結している。本例では、軸方向延在部68は軸第一方向A1側において第一径方向延在部51と一体的に形成されている。また、軸方向延在部68は、軸第二方向A2側において第二径方向延在部61とボルト等の締結部材により連結されている。なお、これらが溶接等により連結された構成としても良い。軸方向延在部68の外周部には、回転電機MGのロータRoが固定されている。
【0047】
3−2.クラッチ
クラッチCLは、クラッチハブ21、クラッチドラム26、摩擦プレート31、ピストン41、リターンプレート47、及びリターンスプリング49を備えている。
【0048】
クラッチCLは、摩擦プレート31として、対となるハブ側摩擦プレート31aとドラム側摩擦プレート31bとを有する。ここで、クラッチCLは、複数(本例では4枚)のハブ側摩擦プレート31aと、複数(本例では4枚)のドラム側摩擦プレート31bと、を有する。ハブ側摩擦プレート31aとドラム側摩擦プレート31bとは、いずれも円環板状に形成されている。また、ハブ側摩擦プレート31aとドラム側摩擦プレート31bとは、軸方向に交互に配置されている。本実施形態においては、一対のハブ側摩擦プレート31a及びドラム側摩擦プレート31bが、本発明における「摩擦部材」に相当する。
【0049】
ハブ側摩擦プレート31a及びドラム側摩擦プレート31bは、互いに対向する軸方向側面が、全体として円環状とされた摩擦当接面とされており、クラッチCLの係合時に双方の摩擦当接面同士が当接可能に対向配置されている。また、ハブ側摩擦プレート31a及びドラム側摩擦プレート31bとの少なくとも一方の軸方向側面には、例えば紙や合成樹脂等を基材とする摩擦材が貼り付けられており、当該摩擦材が摩擦当接面を構成している。例えば、互いに同じ形状を有するセグメント状の複数の摩擦材を周方向に沿って一定の間隔毎に全体として円環状に配置して、摩擦当接面を構成することができる。
【0050】
クラッチハブ21は、円筒状に形成され複数のハブ側摩擦プレート31aを径方向内側から保持する円筒状部22と、円筒状部22と入力軸Iとを連結するように径方向に延びる円板状部24と、を有する。円筒状部22の外周面には、軸方向に延びる複数のスプライン溝が周方向に分散して形成されている。ハブ側摩擦プレート31aの内周面には、円筒状部22のスプライン溝と係合するスプライン歯が形成されている。これにより、ハブ側摩擦プレート31aは、クラッチハブ21により径方向内側から支持された状態で当該クラッチハブ21に対して相対回転が規制されると共に軸方向に摺動自在に保持されている。また、円筒状部22には、当該円筒状部22の内周面と外周面とを連通して径方向に貫通するように形成された内側貫通孔23が形成されている。本例では、内側貫通孔23は、周方向に分散して複数形成されると共に、それぞれ軸方向及び周方向に所定幅を有して形成されたスリット状貫通孔とされている。本実施形態においては、クラッチハブ21が本発明における「内側支持部材」に相当し、円筒状部22が本発明における「内側円筒部」に相当する。
【0051】
円板状部24は、径方向及び周方向に延在する円環板状の部材であり、円筒状部22と一体的に形成されている。円板状部24は、入力軸Iの軸第二方向A2側の端部から径方向外側に向かって延びるように配置されている。また、円板状部24は、リターンプレート47に対して軸第一方向A1側を通って径方向外側に向かって延びるように配置されている。円板状部24は、その径方向外側の端部において円筒状部22の軸第一方向A1側の端部と一体化されている。なお、円板状部24の径方向内側の端部は、溶接等により入力軸Iと一体回転するように連結されている。円板状部24は、円筒状部22及びこの円筒状部22に保持された複数のハブ側摩擦プレート31aを、径方向内側から支持している。軸方向で円板状部24と第一径方向延在部51との間には、第五軸受75が配設されている。本例では、このような第五軸受75として、軸方向荷重(スラスト力)を受けることが可能なスラストワッシャーを用いている。この第五軸受75は、第四軸受74と同様の形状を有しており、複数の径方向溝と複数の軸方向溝とを有する。
【0052】
クラッチドラム26は、円筒状に形成されている。クラッチドラム26は、複数のドラム側摩擦プレート31bを径方向外側から保持している。クラッチドラム26の内周面には、軸方向に延びる複数のスプライン溝が周方向に分散して形成されている。ドラム側摩擦プレート31bの外周面には、クラッチドラム26のスプライン溝と係合するスプライン歯が形成されている。これにより、ドラム側摩擦プレート31bは、クラッチドラム26により径方向外側から支持された状態で当該クラッチドラム26に対して相対回転が規制されると共に軸方向に摺動自在に保持されている。また、クラッチドラム26には、当該クラッチドラム26の内周面と外周面とを連通して径方向に貫通するように形成された外側貫通孔27が形成されている。本例では、外側貫通孔27は、周方向に分散して複数形成されると共に、それぞれ軸方向及び周方向に所定幅を有して形成されたスリット状貫通孔とされている。本実施形態においては、クラッチドラム26が本発明における「外側支持部材」に相当し、当該クラッチドラム26は、本発明における「外側円筒部」としても機能している。
【0053】
クラッチドラム26は、軸方向延在部68の径方向内側に、当該軸方向延在部68との間に所定間隔を空けて配置されている。すなわち、クラッチドラム26の外周面と軸方向延在部68の内周面とが径方向に所定間隔を空けて対向するように、クラッチドラム26が配置されている。言い換えれば、クラッチドラム26の外周面と軸方向延在部68の内周面との間に径方向隙間S1が形成されている。この径方向隙間S1により、軸方向及び周方向に延在する円筒状の空間が形成される。また、本実施形態では、クラッチドラム26は、その軸第一方向A1側の端部を、第一径方向延在部51から隔てた状態で配置されている。これにより、上記径方向隙間S1は、クラッチハウジングCH内において軸第一方向A1側に開口している。
【0054】
ピストン41は、複数の摩擦プレート31を互いに係合させるように軸方向に押圧する部材であり、全体として円環状に形成されている。ピストン41は、中心部に設けられた貫通孔を介して内側円筒状部62に挿通されている。また、ピストン41の外周面には、クラッチドラム26のスプライン溝と係合するスプライン歯が形成されている。これにより、ピストン41は、クラッチドラム26により径方向外側から支持された状態で当該クラッチドラム26に対して相対回転が規制されると共に軸方向に摺動自在に保持されている。ピストン41は、その径方向の中央部に軸方向の所定範囲(径方向に見て外側円筒状部63の軸第一方向A1側の一部、又はクラッチハブ21の円筒状部22の軸第二方向A2側の一部と重複する範囲)を占めるように形成された円筒状部43を有する。円筒状部43は、外側円筒状部63に対して径方向外側に、当該外側円筒状部63に接して配置されている。本実施形態においては、ピストン41が本発明における「押圧部材」に相当する。
【0055】
また、ピストン41は、円筒状部43の径方向外側に、全体として円環状の押圧部42を有する。この押圧部42は、クラッチCLの係合時に摩擦プレート31(本例では、ドラム側摩擦プレート31b)の軸第二方向A2側の側面に当接可能に、当該摩擦プレート31に対向配置されている。また、ピストン41は、円筒状部43の径方向内側に、全体として円環状の円板状部44を有する。円板状部44は、クラッチハブ21の円筒状部22の径方向内側に、径方向に見て当該円筒状部22と重複する位置に配置されている。円板状部44は、軸第一方向A1側に突出する円筒状(ボス状)の軸方向突出部45と一体的に形成されている。軸方向突出部45は、円板状部44の径方向内側の端部に形成されている。また、軸方向突出部45は、内側円筒状部62に対して径方向外側に、当該内側円筒状部62のうち軸第一方向A1側に突出する部分に接して配置されている。
【0056】
外側円筒状部63の外周面には、周方向に連続する凹溝が形成されており、当該凹溝にOリング等のシール部材78が配設されている。これにより、外側円筒状部63とピストン41の円筒状部43との間が液密とされている。また、内側円筒状部62のうち第二径方向延在部61に対して軸第一方向A1側に突出する部分の外周面には、周方向に連続する凹溝が形成されており、当該凹溝にOリング等のシール部材79が配設されている。これにより、内側円筒状部62とピストン41の軸方向突出部45との間が液密とされている。このようにして、第二径方向延在部61及び内側円筒状部62とピストン41との間に、液密状の作動油室H1が形成されている。この作動油室H1は、その径方向外側がピストン41の円筒状部43の内周面により画定され、径方向内側が内側円筒状部62の外周面により画定されている。なお、円筒状部43及び軸方向突出部45の軸方向の延在長さは、それぞれピストン41のストローク範囲(軸方向の可動範囲)の長さよりも大きい値に設定されている。
【0057】
リターンプレート47は、全体として円環状に形成された板状の部材であり、クラッチハブ21の円筒状部22の径方向内側に、径方向に見て当該円筒状部22と重複する位置に配置されている。また、リターンプレート47は、軸方向でピストン41とクラッチハブ21の円板状部24との間に配置されている。すなわち、リターンプレート47は、ピストン41に対して軸第一方向A1側に配置されると共に、クラッチハブ21の円板状部24に対して軸第二方向A2側に配置されている。ここで、軸方向でリターンプレート47とクラッチハブ21の円板状部24との間に形成される空間が第一空間V1であり、軸方向でリターンプレート47とピストン41との間に形成される空間が第二空間V2である。リターンプレート47は、中心部に設けられた貫通孔を介して内側円筒状部62に挿通されている。リターンプレート47は、内側円筒状部62の外周面に係止されたスナップリングにより軸第一方向A1側への移動が規制された状態で固定されている。本実施形態では、リターンプレート47は、その外径が作動油室H1の外径よりも小さく形成されている。なお、ここでは、「作動油室H1の外径」は、作動油室H1の径方向外側を画定する円筒状部43の内径を意味している。本実施形態においては、リターンプレート47が本発明における「保持部材」に相当し、第二空間V2が本発明における「空間」に相当する。
【0058】
軸方向でピストン41とリターンプレート47との間(第二空間V2)には、リターンスプリング49が配置されている。このようなリターンスプリング49は複数設けられており、本例では12個のリターンスプリング49が周方向に分散して配置されている。本例では、2個一組のリターンスプリング49が6組、周方向に均等に分散して配置されている。リターンスプリング49は、リターンプレート47により軸第一方向A1側から保持された状態で、軸第二方向A2側に向かってピストン41を付勢している。
【0059】
リターンプレート47によって反力が支持されたリターンスプリング49の付勢力により、ピストン41は軸第二方向A2側に向かって付勢されている。従って、作動油室H1に供給される油の油圧レベルが所定値未満の状態では、一対の摩擦プレート31a,31bは摩擦当接面同士を隔てて配置され、クラッチCLは解放状態にある。油圧制御装置(図示せず)を介して、作動油室H1へ油圧レベルが所定値以上の油が供給されると、ピストン41は、リターンスプリング49の付勢力に逆らって軸第一方向A1側に移動して、一対の摩擦プレート31a,31bを、摩擦当接面同士を接触させるように押圧する。このピストン41の押圧状態では、クラッチCLは係合状態となっている。作動油室H1に供給される油の油圧レベルが所定値未満となると、リターンスプリング49の付勢力によりピストン41が軸第二方向A2側に移動し、クラッチCLは再度解放状態(ピストン41の反押圧状態)となる。なお、ピストン41が軸方向に移動する際には、円筒状部43の内周面が外側円筒状部63の外周面に対して摺動すると共に、軸方向突出部45の内周面が内側円筒状部62の外周面に対して摺動する。
【0060】
なお、本発明においては、複数の摩擦プレート31に対してピストン41が押圧力を作用させる方向を当該ピストン41の「押圧方向」と言い、本実施形態では軸第一方向A1に一致している。また、複数の摩擦プレート31に対してピストン41が押圧力を作用させる方向とは反対方向を当該ピストン41の「反押圧方向」と言い、本実施形態では軸第二方向A2に一致している。従って、本実施形態では、ある部材の配置等に関して「軸第一方向A1側」は「押圧方向側」と同じであり、「軸第二方向A2側」は「反押圧方向側」と同じである。
【0061】
4.発進装置内における油の流通構造
次に、以上のような構成を備えた発進装置SMのクラッチハウジングCH内(循環油室H2内)における油の流通構造について説明する。本実施形態においては、油圧制御装置(図示せず)により所定の油圧レベルに調整された油が、循環油路65を介して循環油室H2に供給される。ここで、本実施形態においては、上記のとおり軸方向突出部52と入力軸Iとの間に配設される第三軸受73は、ある程度の液密性が確保可能に構成されている。更に、内側円筒状部62の軸方向の一部の内周面が周方向全体に亘って中間軸Mの外周面に当接している。そのため、クラッチハウジングCH内の循環油室H2は液密状態とされ、油が供給されることにより、循環油室H2内は基本的には所定圧以上の油で満たされた状態となる。そして、当該所定圧以上の油で満たされた状態を維持しながら、循環油室H2内を油が流通している。以下、より詳細に説明する。
【0062】
本実施形態では、クラッチCLの解放状態(ピストン41の反押圧状態)で、当該ピストン41は、軸方向に所定間隔を空けた状態でリターンプレート47に近接して配置される。つまり、軸方向突出部45の軸第一方向A1側の側面がリターンプレート47の軸第二方向A2側の側面に近接して配置されると共に、これらの間には所定の軸方向隙間S2が形成される。ここでは、「近接」は、循環油路65の一部を構成する後述する径方向油路65bの径方向外側の開口を塞がない程度に僅かに離間していることを意味している。なお、本実施形態では、クラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)では、径方向油路65bの径方向外側の開口が軸方向突出部45によって塞がれて軸方向隙間S2は形成されないか、或いは、仮に軸方向隙間S2が形成されていたとしても径方向油路65bの径方向外側の開口がほとんど塞がれる構成となっている。
【0063】
そして、本実施形態では、ピストン41の軸方向突出部45の径方向内側に配置される内側円筒状部62から、第一空間V1の径方向内側端部及び第二空間V2の径方向内側端部のそれぞれに、直接的に油が供給される構造を採用している。そのため、本実施形態においては、内側円筒状部62の中(内部)には、軸方向に延びる軸方向油路65aと、軸方向油路65aから分岐して径方向に延びる径方向油路65bと、が形成されている。本例では、6つの軸方向油路65aが周方向に均等に分散して形成されており、これに対応して6つの径方向油路65bが周方向に均等に分散して形成されている。なお、本実施形態では、これらの軸方向油路65a及び径方向油路65bにより、循環油路65が構成されている。
【0064】
軸方向油路65aは、内側円筒状部62の中を軸方向に沿って延びて、リターンプレート47よりも軸第一方向A1側で、内側円筒状部62の軸第一方向A1側の側面に開口している。また、径方向油路65bは、リターンプレート47よりも軸第二方向A2側で、内側円筒状部62の中を径方向に沿って延びて、内側円筒状部62の外周面に開口している。なお、径方向油路65bの開口位置は、軸方向隙間S2の軸方向位置に一致している。これにより、径方向油路65bは、軸方向隙間S2の径方向内側に、径方向に見て当該軸方向隙間S2と重複するように開口している。
【0065】
本実施形態においては、内側円筒状部62に形成された循環油路65を介して供給される油の一部は、当該循環油路65の一部を構成する軸方向油路65aを通って、内側円筒状部62の軸第一方向A1側の側面に形成された第一開口部P1から第一空間V1の径方向内側端部(ここでは、第一空間V1の最内周部)に流入する。また、循環油路65を介して供給される油の他の一部は、当該循環油路65の他の一部を構成する径方向油路65bを通って、内側円筒状部62の外周面に形成された第二開口部P2から第二空間V2の径方向内側端部(ここでは、第二空間V2の最内周部)に流入する。本実施形態においては、第二開口部P2を有する径方向油路65bが本発明における「油供給部」に相当する。
【0066】
ここで、上記のとおり第四軸受74には、8つの軸方向溝74bが周方向に均等に分散して形成されていると共に、内側円筒状部62には、6つの軸方向油路65aが周方向に均等に分散して形成されている。このように、本実施形態では、内側円筒状部62と第四軸受74との接触面において、6つの軸方向油路65aと8つの軸方向溝74bとがそれぞれ周方向に均等に分散して形成されており、軸方向油路65aと軸方向溝74bとは、互いに異なるピッチで形成されている。
【0067】
軸方向油路65aの内径及び軸方向溝74bの周方向幅は、6つの軸方向油路65aのうちの1つと8つの軸方向溝74bのうちの1つとが少なくとも連通するような範囲内の値に設定されている。径方向内側から見た内側円筒状部62及び第四軸受74を周方向に展開して示した図5には、二組の軸方向油路65a及び軸方向溝74bが互いに連通している様子が示されている(図5においては、当該部分を太線で表示している)。これにより、軸方向油路65aから供給される油を、第四軸受74の位相によらずに、軸方向溝74bに連通する径方向溝74aを介して適切に径方向外側へと導くことができる。なお、ここでは、「第四軸受74の位相」は、第四軸受74の特定の部位に注目した場合における当該部位の周方向位置を表す概念として用いている。また、軸方向溝74bを介して油を第一径方向延在部51と第四軸受74との接触面に供給して、これらの間の潤滑を行うことができる。
【0068】
このように、循環油室H2内において、リターンプレート47とクラッチハブ21の円板状部24との間の第一空間V1の径方向内側端部(ここでは、第一空間V1の最内周部)に流入した油は、第四軸受74に形成された径方向溝74a及び軸方向溝74bを通って径方向外側に向かって流れる。
【0069】
また、循環油室H2内において、ピストン41とリターンプレート47との間の第二空間V2の径方向内側端部(ここでは、第二空間V2の最内周部)に流入した油は、第二空間V2を径方向外側に向かって流れる。このとき、本実施形態では、クラッチCLの解放状態(ピストン41の反押圧状態)で、軸方向隙間S2の径方向内側に形成される径方向油路65bは、径方向に見てピストン41及びリターンプレート47の双方と重複しない位置に設けられている。本例では、径方向油路65bは、ピストン41の軸方向突出部45の軸第一方向A1側の側面よりも更に軸第一方向A1側となる位置であって、かつ、板状に形成されたリターンプレート47の軸第二方向A2側の側面よりも更に軸第二方向A2側となる位置に設けられている。このようにして径方向油路65bは、クラッチCLの解放状態(ピストン41の反押圧状態)で、ピストン41が軸方向で占有する領域及びリターンプレート47が軸方向で占有する領域の双方に対して、異なる軸方向位置となるように設けられている。よって、径方向油路65bから供給された油は、ピストン41及びリターンプレート47によって流れを乱されることなく、第二空間V2を径方向外側に向かって円滑に流通することができる。
【0070】
また、本実施形態においては、径方向油路65bよりも径方向外側に設けられる12個のリターンスプリング49は、上記のとおり2個ずつ一組とされた6組が周方向に均等に分散して配置されている。本実施形態では、図6に模式的に示すように、6つの径方向油路65bと6組のリターンスプリング49の対とが、全体として周方向に均等に分散して配置されている。これにより、これら6つの径方向油路65bと12個のリターンスプリング49とは、互いに異なる周方向位置に設けられている。つまり、それぞれの径方向油路65bから径方向外側に向かって延びる6つの仮想の油路を想定した場合に、当該6つの仮想の油路がいずれも、12個のリターンスプリング49のいずれとも干渉しないような位置関係で、径方向油路65bとリターンスプリング49とが配置されている。よって、径方向油路65bから供給された油は、リターンスプリング49によっても流れを乱されることなく、第二空間V2を径方向外側に向かって円滑に流通することができる。
【0071】
第一空間V1を径方向外側に向かって流れた油と、第二空間V2を径方向外側に向かって流れた油とは、リターンプレート47の径方向外側(円筒状部22の径方向内側)で合流する。本実施形態においては、円筒状部22に形成された内側貫通孔23は、径方向に見て径方向油路65bと重複する位置に設けられている。そのため、合流した油は、内側貫通孔23を介して円筒状部22とクラッチドラム26との間の空間に円滑に流入して、径方向外側に流れる際にハブ側摩擦プレート31aとドラム側摩擦プレート31bとを冷却することができる。更に本実施形態においては、クラッチドラム26に形成された外側貫通孔27は、径方向に見て径方向油路65b及び内側貫通孔23と重複する位置に設けられている。そのため、摩擦プレート31a,31bを冷却した油は外側貫通孔27を介して円滑に径方向隙間S1に流れ、当該径方向隙間S1を軸第一方向A1側に向かって流れた後、軸方向でクラッチハブ21の円板状部24と第一径方向延在部51との間に形成される第三空間V3を径方向内側に向かって流れる。油は、第五軸受75に形成された径方向溝及び軸方向溝を通って更に径方向内側に向かって流れ、第三空間V3の径方向内側端部に到達する。
【0072】
第三空間V3の径方向内側端部に到達した油の大部分は、入力軸Iの外周面に開口する径方向の連通孔を介して循環油室H2から排出され、中間軸Mの内部に形成された排出油路16を通ってオイルパン(図示せず)に戻される。第三空間V3の径方向内側端部に到達した油の他の一部は、第三軸受73を通って軸第一方向A1側に向かって僅かずつ漏出し、第三軸受73の径方向外側に配置された第一軸受71を潤滑する。第一軸受71を潤滑した後の油は、ステータStのコイルエンド部を冷却した後、オイルパン(図示せず)に戻される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る発進装置SMでは、クラッチCLの解放状態(ピストン41の反押圧状態)で、それぞれの径方向油路65bが、径方向に見てピストン41及びリターンプレート47とは重複しない位置に設けられていると共に、全てのリターンスプリング49とは異なる周方向位置に設けられている。更に、内側貫通孔23及び外側貫通孔27の双方が、径方向に見て径方向油路65bと重複する位置に設けられている。そのため、径方向油路65bを介して第二開口部P2から第二空間V2の径方向内側端部に流入した油は、ピストン41、リターンプレート47、及びリターンスプリング49によって遮られることなく円滑に第二空間V2の径方向外側端部に到達し、更に内側貫通孔23及び外側貫通孔27を介して、クラッチCLの解放状態において所定隙間を隔てて配置された複数の摩擦プレート31a,31bの間を円滑に流れる。このように、本実施形態では、クラッチハウジングCH内(循環油室H2内)での油の流通性が非常に良好であるので、クラッチCL(ここでは、特に複数の摩擦プレート31a,31b)の冷却性能を高く維持することが可能となっている。
【0074】
なお、クラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)では、複数の摩擦プレート31a,31bの摩擦当接面は互いに接触して配置されるので、これらの間を油は流れにくい。また、複数の摩擦プレート31a,31bは互いに摺動することなく一体回転するので、発熱は起こらない。そのため、元来、クラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)では、複数の摩擦プレート31a,31bの冷却を行うことは特に予定していない。よって、本実施形態のようにクラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)で第二開口部P2の全部又は大部分が軸方向突出部45によって塞がれ、当該第二開口部P2を介して第二空間V2の径方向内側端部に油が流入できず、又は流入しにくい構成となっていたとしても、特に問題はない。
【0075】
5.その他の実施形態
最後に、本発明に係る発進装置の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される特徴構成は、その実施形態でのみ適用されるものではなく、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される特徴構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0076】
(1)上記の実施形態においては、リターンプレート47の外径が作動油室H1の外径よりも小さく形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば図7に示すように、リターンプレート47の外径が作動油室H1の外径(ピストン41の円筒状部43の内径)と等しく形成された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、少なくとも作動油室H1の外径に等しい径方向の位置まで径方向に延びるリターンプレート47により、第二空間V2において、乱流による負圧の発生を抑制することができる。これにより、クラッチCLの冷却性能を高く維持したまま、更に制御性も高く維持することができる。なお、リターンプレート47の外径が作動油室H1の外径(ピストン41の円筒状部43の内径)よりも大きく形成された構成としても好適であり、この場合も上記と同様の有利な効果を得ることができる。
【0077】
(2)上記の実施形態においては、内側円筒状部62の中を、径方向油路65bが径方向に沿って延びるように形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば径方向油路65bが、内側円筒状部62の中を径方向に対して傾斜した方向に沿って延びるように形成された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この点に関しては、軸方向油路65aについても同様であり、当該軸方向油路65aが、内側円筒状部62の中を軸方向に対して傾斜した方向に沿って延びるように形成された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0078】
(3)上記の実施形態においては、複数の径方向油路65bと複数のリターンスプリング49とが、互いに異なる周方向位置に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、複数の径方向油路65bの一部又は全部と複数のリターンスプリング49の一部又は全部とが、同じ周方向位置に設けられた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0079】
(4)上記の実施形態においては、内側貫通孔23及び外側貫通孔27の双方が、径方向に見て径方向油路65bと重複する位置に設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、内側貫通孔23及び外側貫通孔27の一方又は双方が、径方向油路65bとは異なる軸方向位置に設けられ、径方向に見て径方向油路65bとは重複しない位置に設けられた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。或いは、クラッチハブ21の円筒状部22及びクラッチドラム26に、内側貫通孔23及び外側貫通孔27の一方又は双方が設けられていない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0080】
(5)上記の実施形態においては、第一空間V1の径方向内側端部及び第二空間V2の径方向内側端部のそれぞれに油が供給される構造を採用している場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本発明においては、第一空間V1の径方向内側端部に油が供給されることは必須ではなく、第二空間V2の径方向内側端部のみに油が供給される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、例えば内側円筒状部62の中に形成される循環油路65を、軸方向に延びる軸方向油路65aと、リターンプレート47よりも軸第二方向A2側の所定位置で当該軸方向油路65aから屈曲して径方向に延びる径方向油路65bと、により構成し、内側円筒状部62の外周面のうち、第二空間V2に面する部位にのみ循環油路65が開口する構成を採用することができる。
【0081】
(6)上記の実施形態においては、クラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)では、第二開口部P2の全部又は大部分が軸方向突出部45によって塞がれ、言い換えれば、油供給部を構成する径方向油路65b及び第二開口部P2が径方向に見てピストン41と重複する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、クラッチCLの係合状態(ピストン41の押圧状態)においても、クラッチCLの解放状態(ピストン41の反押圧状態)と同様に、径方向油路65bが径方向に見てピストン41及びリターンプレート47とは重複しない位置に設けられた構成とすることも当然に可能である。
【0082】
(7)上記の実施形態においては、クラッチハブ21が入力軸Iと一体回転するように駆動連結されると共に、クラッチドラム26が中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、これらの間の駆動連結関係を入れ替え、クラッチハブ21が中間軸Mと一体回転するように駆動連結されると共に、クラッチドラム26が入力軸Iと一体回転するように駆動連結された構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0083】
(8)上記の実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hが、FF(Front Engine Front Drive)車両に搭載される場合に適した複軸構成とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば変速機構TMの出力軸を、入力軸I及び中間軸Mと同軸上に配置すると共に直接的に出力用差動歯車装置DFに駆動連結させた、一軸構成のハイブリッド駆動装置Hとすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成のハイブリッド駆動装置Hは、FR(Front Engine Rear Drive)車両に搭載される場合に適している。
【0084】
(9)上記の実施形態においては、本発明に係る発進装置を、車両の駆動力源として内燃機関E及び回転電機MGの双方を備えたハイブリッド車両用のハイブリッド駆動装置Hに組み込んで適用した場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば車両の駆動力源として内燃機関Eのみを備えた所謂エンジン車両用の駆動装置に本発明を組み込んで適用することも可能である。この場合、本発明に係る発進装置は、車両の発進時に、内燃機関Eに駆動連結される入力軸Iと車輪Wに駆動連結される中間軸Mとの間の差回転速度を吸収しつつこれらの間で駆動力を伝達する機能を果たす。
【0085】
(10)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と変速機構に駆動連結される出力部材との間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置を備えた発進装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
SM 発進装置
E 内燃機関
I 入力軸(入力部材)
M 中間軸(出力部材)
W 車輪
CH クラッチハウジング(ハウジング)
CL クラッチ(摩擦係合装置)
21 クラッチハブ(内側支持部材)
22 円筒状部(内側円筒部)
23 内側貫通孔
26 クラッチドラム(外側支持部材、外側円筒部)
27 外側貫通孔
31 摩擦プレート(摩擦部材)
31a ハブ側摩擦プレート
31b ドラム側摩擦プレート
41 ピストン(押圧部材)
47 リターンプレート(保持部材)
49 リターンスプリング
62 内側円筒状部(円筒状部)
65b 径方向油路
V2 第二空間(空間)
P2 第二開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材との間の駆動力の伝達及び遮断を切替可能に設けられる摩擦係合装置を備えた発進装置であって、
前記摩擦係合装置は、一対の摩擦部材と、前記一対の摩擦部材を互いに係合させるように軸方向に押圧する押圧部材と、前記押圧部材の押圧方向とは反対方向である反押圧方向に前記押圧部材を付勢するリターンスプリングと、前記リターンスプリングを保持する保持部材と、を有し、
前記摩擦係合装置を収容するハウジング内に所定圧以上の油が満たされており、
前記ハウジング内における軸方向で前記保持部材と前記押圧部材との間に形成される空間の径方向内側端部に、前記空間へ油を供給する油供給部を備え、
前記摩擦係合装置の解放状態で、前記油供給部が、径方向に見て前記押圧部材及び前記保持部材とは重複しない位置に設けられている発進装置。
【請求項2】
前記押圧部材を押圧するための油が供給される作動油圧室を更に備え、
前記保持部材が、円板状に形成されると共に、その外径が前記作動油圧室の外径と等しく、又はそれよりも大きく形成されている請求項1に記載の発進装置。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記押圧部材の径方向内側を軸方向に延びる円筒状部を有し、
前記油供給部は、前記円筒状部の中を径方向に延びる径方向油路の径方向外側の開口部を有し、
複数の前記径方向油路が周方向に分散して設けられると共に、複数の前記リターンスプリングが前記径方向油路よりも径方向外側に周方向に分散して設けられ、
複数の前記径方向油路と複数の前記リターンスプリングとが互いに異なる周方向位置に設けられている請求項1又は2に記載の発進装置。
【請求項4】
前記摩擦係合装置は、内側円筒部により前記一対の摩擦部材の一方を径方向内側から支持する内側支持部材と、外側円筒部により前記一対の摩擦部材の他方を径方向外側から支持する外側支持部材と、を有し、
前記内側円筒部に径方向に貫通する内側貫通孔が形成されると共に、前記外側円筒部に径方向に貫通する外側貫通孔が形成され、
前記内側貫通孔及び前記外側貫通孔が、径方向に見て前記油供給部と重複する位置に設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の発進装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67804(P2012−67804A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211152(P2010−211152)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】