説明

発酵型土壌形成のための有用微生物内包生分解マイクロカプセル製剤及びその製造方法ならびに土壌改質方法

【課題】 本発明は、酵母菌や乳酸菌という発酵型土壌形成に役立つ有用微生物の生物活性を保持したまま固定化量が多く、簡便に製造できるマイクロカプセルおよびその製造方法ならびに作物の高品質、高収穫および連作障害の改質方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 発酵型土壌形成に役立つ有用微生物および水中でゲル形成性を有する保護材ポリマーを含有する水溶液を、壁材ポリマーとなる生分解性ポリマーを含有する有機溶媒から成る有機相中に添加して乳化させることにより、有用微生物を内包する保護材ポリマーを含有する水滴微粒子が有機相中に分散したW/O/Wエマルションを調製し、該W/Oエマルションを水相に添加して乳化させてW/O/Wエマルションを調製し、該W/O/Wエマルションから、加温または加温・減圧により、有機溶媒を蒸発・除去して壁材ポリマーを結晶化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を固定化するための技術分野に属し、特に発酵型土壌形成のための有効な有用微生物を失活させることなく固定化した生分解マイクロカプセルを簡便に製造することのできる新規な技術と発酵型土壌形成のための製剤の提供および土壌改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平7−204495(特許文献1)には、中空多孔性微粒子の製造法として、微生物のような粒子を分散させた組成物をノズルからガスで吹き出しながらカプセルを形成させる技術が記述されている。しかし、このカプセル化技術は、精巧なノズル手段を備える装置を用いる煩雑な操作を要するという欠点を有する。
【0003】
廃タイヤを原料として製造された活性炭に酵母菌や乳酸菌を定着させたものを土壌改質基材として用いる技術が記述されている(特開2000−248278(特許文献2))。しかし、廃タイヤよりの活性炭製造の煩雑さおよび活性炭への微生物の定着に関しても微生物の高密度定着は望めない。さらにこの基材を土壌改良材に適用しても土中に骨格となる廃タイヤより製造される活性炭基材は残留してしまうという欠点を有する。
【0004】
特開平10−182264には、土壌改良材をセラミック造粒体に入れ土壌改質材としての利用が報告されているが、これを環境中に排出した際にも同様にセラミック材質が残留してしまうという欠点を有する。
【0005】
【特許文献1】特開平7−204495号公報
【特許文献2】特開2000−248278号公報
【特許文献3】特開平10−182264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、酵母菌や乳酸菌という発酵型土壌形成に役立つ有用微生物の生物活性を保持したまま固定化量が多く、簡便に製造できるマイクロカプセルおよびその製造方法ならびに有用微生物の有機物分解過程で植物に有効な生理活性物質を生成する発酵型土壌に転換させることにより、作物の高品質、高収穫および連作障害の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の工程からなることを特徴とする有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法および該方法により得られる有用微生物固定化生分解マイクロカプセルあるいはこれを製剤化した土壌改良材さらに土壌改質方法に関するものである。
第1に、有用微生物を内包した保護材ポリマーを生分解性を有する壁材ポリマーが覆う構造を持つ微生物固定化生分解マイクロカプセルを製造する方法であって、
(1) 前記微生物及び水中でゲル形成性を有する前記保護材ポリマーを含有する水溶液を、前記壁材ポリマーとなる疎水性ポリマーを含有する有機溶媒であって前記壁材ポリマーを溶解する有機溶媒と乳化させることにより、前記微生物を内包する前記保護材ポリマーを含有する水滴微粒子が前記有機相中に分散したW/Oエマルションを調製する工程、
(2) 前記工程(1)で得られたW/Oエマルション水相に添加して乳化させることによりW/O/Wエマルションを調製する工程、および
(3) 前記工程(2)で得られたW/O/Wエマルションから、加温または加温・減圧により、前記有機溶媒を蒸発・除去して前記壁材ポリマーを結晶化させる工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
第2に、保護材ポリマーがアルギン酸ナトリウム、κ−カラギーナン、ポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールから選ばれることを特徴とする上記第1の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第3に、壁材ポリマーがポリ乳酸、ポリεカプロラクタムまたはポリ乳酸とグリコール酸との共重合体から選ばれることを特徴とする上記第1の発明または第2の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第4に、固定化する微生物が酵母菌であることを特徴とする上記第1〜3の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第5に、固定化する微生物が乳酸菌であることを特徴とする上記第1〜3の発明に記載の有用微生物固定化マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第6に、固定化する微生物が酵母菌と乳酸菌との共存であることを特徴とする上記第1〜3の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第7に、有機溶媒がジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選ばれることを特徴とする上記第1〜6の発明のいずれかに記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第8に、上記第1の発明の工程(1)および工程(2)において乳化・分散安定剤を添加することを特徴とする上記第1〜7の発明のいずれかに記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法が提供される。
第9に、上記第1〜8の発明のいずれかの方法によって得られることを特徴とする有用微生物固定化生分解マイクロカプセルが提供される。
第10に、上記第1〜8の発明のいずれかの方法によって得られることを特徴とする生分解マイクロカプセルに固定化された有用微生物が提供される。
第11に、上記第1〜9の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルを堆肥、緑肥、草、稲わら、麦わら、残滓、米ぬか、籾殻、硫安で増量し製剤化した土壌改良材が提供される。
第12に、上記第1〜9の発明に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルあるいは上記第11の発明に記載の土壌改良材を改良すべき地表面に散布するかあるいは土中埋設することで、有用微生物の有機物分解過程で植物に有効な生理活性物質を生成する発酵型土壌への改質方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明により、酵母菌や乳酸菌という発酵型土壌形成に役立つ有用微生物を固定化する生分解マイクロカプセル製剤およびその製造方法を得ることができた。 さらに、有用微生物内包マイクロカプセル製剤あるいは本マイクロカプセル製剤と堆肥を混合した土壌改良材を土壌に散布することで、土壌中において内包された有用微生物を長期に渡りゆっくりと土壌に放出することが可能である。これは、腐敗菌の多い腐敗型土壌を発酵型土壌へと転換させるきっかけを多く作ることができる。また、一度の散布で、持続的な有用微生物の効果を発揮することができる。
さらに、1)土壌における保水性向上、土壌の団粒形成能の増加、2)無機養分の可溶化の促進、4)マイクロカプセルという閉鎖空間により、外部環境や農薬からの保護、長期間の活性の維持、有用微生物の高密度固定化そして積極的な嫌気的反応場を利用できるといった優れた効果がある。
植物に対する有用微生物の効果としては、病害虫発生の抑制、有機物分解過程で植物に有効な生理活性物質を生成する発酵型土壌に転換させることにより、作物の高品質、高収穫および連作障害の軽減ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に従い発酵土壌形成のための有用微生物固定化マイクロカプセルを製造する各工程、並びに、得られたマイクロカプセルの構造および用途に沿って本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明にいう有用微生物とは、発酵型土壌形成に有効な微生物であって、乳酸菌または乳酸菌含有物、あるいは酵母菌または酵母菌含有物である。
本発明にいう有用微生物である乳酸菌あるいは乳酸菌含有物としては、広義の乳酸発酵に関与する菌であれば、乳酸連鎖球菌、乳酸桿菌などすべてのものが使用可能である。乳酸菌の属としては、Lactobacillus属、Pediococcus属、Tetragenococcus属、Carnobacterium属、Vagococcus属、Leuconostoc属、Weissella属、Oenococcus属、Atopobium属、Streptococcus属、Enterococcus属、Lactococcus属などが例示される。また、具体的な菌株としては、シロタカブ、各種のケフィア菌株およびビフィズス菌株などが例示される。乳酸菌含有物としては、市販の乳酸菌製剤(ケフィア菌錠剤、ビイフィズス菌株錠剤など)の粉砕物を利用することができる。乳酸菌を添加するに際しては、これら乳酸菌の1種あるいは2種以上の異なる乳酸菌を組み合わせて使用すると、種々の土壌との適合性がより高まる。
【0011】
本発明にいう有用微生物である酵母菌あるいは酵母菌含有物は、酵母菌として、子嚢菌類酵母(酵母菌属としては、Saccharomyces、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces diastaticus、 Saccharomyces uvarumなどが例示される)、イースト、アルコール酵母、キラー酵母、醤油酵母、食用酵母、飼料酵母、清酒酵母、担子菌類酵母、パン酵母、ビール酵母、不完全酵母菌類、ぶどう酒酵母、味噌酵母などが例示される。酵母菌含有物として、市販の酵母菌製剤の粉砕物が挙げられる。これらの市販の酵母菌製剤(例えば、ビールの醸造残渣を精製したもの)は、やはり取り扱い性にも優れているのみならず、後述するように、土壌改質のためのマイクロカプセルの使用時に乳酸菌の栄養源となる各種ミネラル類を含んでいるため有利である。
【0012】
有用微生物である酵母菌あるいは酵母菌含有物は、発酵土壌形成効果をより一層改善させるために添加される。酵母菌を添加するに際しては、これら酵母菌の1種あるいは2種以上の異なる酵母菌を組み合わせて使用すると、種々の土壌との適合性がより高まる。
【0013】
W/Oエマルションの調製:
本発明に従い有用微生物固定化マイクロカプセルを得るには、先ず、目的の有用微生物および水中でゲル形成性を有し微生物の保護材となるポリマーを含有する水溶液(内水相)を、マイクロカプセルの壁材となる疎水性ポリマーを含有する有機溶媒から成る有機相に添加して乳化させることによりW/Oエマルションを調製する。
先願の特願2003−132626で微生物を固定化するマイクロカプセルの製造法が記述されている。先願では、W/Oエマルションを調製する際に、有機溶媒A(マイクロカプセル壁材となるポリマーに対して良溶媒)と有機溶媒B(良溶媒より高沸点であるマイクロカプセル壁材となるポリマーに対して貧溶媒)とを混合し、目的の微生物および水中でゲル形成性を有し微生物の保護材となるポリマーを含有する水溶液(内水相)に分散させ調製することが記載されている。本出願では、マイクロカプセル壁材となるポリマーに対して良溶媒である有機溶媒のみを使用し、微生物入りW/Oエマルションを作成している。これが先願(特願2003−132626)と異なる点である。
【0014】
本発明において、目的の微生物に対する保護材となるポリマーは、当該微生物に対して適合性を有し水中でゲル形成性を有するものであれば特に制限されないが、好ましい保護材ポリマーとしては、アルギン酸ナトリウム、κ−カラギーナン、ポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールが挙げられる。
【0015】
これらのポリマーは、水中で軽くゲル化して目的の微生物とともに水溶液を呈するような状態で使用すればよい。すなわち、微生物を固定化する手段としてこれらのポリマーが従来用いられていたように当該ポリマーの沈殿を生じさせ固化させることは必要でない。保護材ポリマーのゲル化を促進するような操作・処理を付加すること、例えば、アルギン酸ナトリウムやκ−カラギーナンを用いる場合において微量のカルシウムやアルミニウムのような金属イオンを存在させたり、ポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールを用いる場合において温度変化を与えることは好ましいが必須の条件ではない。この点に関し、目的の微生物中には一般に培養中の培地に含まれていた微量の金属イオンが残存し、これによってゲル化が促進させることから、アルギン酸ナトリウムやκ−カラギーナンは特に好ましい。
【0016】
本発明においてマイクロカプセルの壁材となるポリマーは、化学的および機械的特性に優れ固定化担体用として知られた生分解性高分子材料が適用されるが、好ましい例として、ポリ乳酸、ポリ乳酸とグリコール酸との共重合体またはポリεカプロラクタムが挙げられる。
【0017】
本発明におけるW/Oエマルション調製工程において用いられる有機相は、上記のような壁材ポリマーとなる疎水性ポリマーを含有するとともに壁材ポリマーを溶解する有機溶媒から成る。有機溶媒としてジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイド、酢酸エチル等が挙げられる。
【0018】
かくして、目的の有用微生物および保護材ポリマーを含有する水溶液(内水相)を、撹拌下にある上記のごとき有機相に添加して乳化させることにより、当該微生物を内包する保護材ポリマーを含有する水滴微粒子が有機相中に分散したW/Oエマルションが得られる。
【0019】
W/O/Wエマルションの調製:
上述のようにして得られたW/Oエマルションを水相に添加して乳化させることによりW/O/Wエマルションが調製される。すなわち、攪拌機を用いて、一般的には50〜15000rpmの速度で撹拌されている外水相にW/Oエマルションを添加する。
【0020】
このW/O/Wエマルション調製工程および既述のW/Oエマルション調製工程は、一般に、乳化・分散安定剤を添加しながら実施される。ここで、本発明に用いる乳化・分散安定剤とは、有用微生物及びカプセル壁材ポリマーが溶解した溶媒を乳化・分散できれば特に制限はなく、水に相溶しない溶媒あるいは水に添加することができるもの、例えば、ポリオキシエチレンが付加したトリあるいはジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンが付加したアルコールエーテル、ポリオキシエチレンが付加したソルビタンオレエート等のツイーン系界面活性剤、ソルビタンオレエート等のスパン系界面活性剤、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物、フェノールスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物、イソブチレン−無水マレイン酸の共重合体やポリカルボン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムおよびアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等、ポリグリセノール縮合リシノレイン酸エステル、モノラウリン酸デカグリセリン、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、第三リン酸カルシウム、L−グルタミン酸ジオレイルリビトールが挙げられ、これらの少なくとも1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
得られるW/O/Wエマルションは、既述したようなW/Oエマルションの微粒子を含有する有機相(壁材ポリマー、有機溶媒を含む)粒子が水相中に分散したものである。
【0022】
有機溶媒の蒸発・除去:
以上のようにしてW/O/Wエマルションを調製できれば、該エマルションから液中乾燥法により加温・減圧を行い、有機溶媒を徐々に除去する。
【0023】
この工程中、壁材ポリマーは有機溶媒から次第にエマルション粒子中を外方に向かって移行しながら結晶化して外壁を形成する。また、この時、有機溶媒の種類、組成、液中乾燥速度、昇温温度等をコントロールすることでカプセル形状のコントロールが可能となる。
【0024】
以上のようにして有機溶媒を蒸発・除去しながら壁材ポリマーを結晶化させる工程が終われば、適当な後処理、例えば、デカンテーション、遠心分離もしくは濾過またはこれらを組み合わせた処理を行った後、洗浄することにより、所望の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルを得ることができる。
【0025】
マイクロカプセルの構造:
本調製条件に従い上述のように製造される有用微生物内包マイクロカプセルの特徴は、内部がマトリックス状、多核状あるいは単核であり、有機溶媒の種類、組成、液中乾燥速度、昇温温度等をコントロールすることでカプセル形状のコントロールが可能となる。
カプセル外殻は多孔質構造であり、そして、このカプセル内は、微細孔を通してつながっている構造を有する。調製条件により、微細孔は数nm〜10μmの範囲で、自由に制御可能である。この構造は、カプセル内部に内包した微生物が外部に容易く漏出しないために必要である。
【0026】
さらに本発明によって得られるマイクロカプセルは、微生物を高密度に内包でき、細孔の大きさを自由に制御することができる。マイクロカプセルの大きさは、10〜1000μmと自由に制御できる。
図1には、本発明によって得られるマイクロカプセルの構造の典型例として後述の実施例で用いている有用微生物内包マイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真を示している。
【0027】
本調製条件によって得られるカプセルは土壌改良剤として土壌に散布した際、生分解性のカプセル壁材の土壌での分解速度から数ヶ月から1年以上にわたり有用微生物を放出し続けることができることから、発酵型土壌に転換するきっかけを増やすことが可能である。
【0028】
(5)用途:
本発明によって得られる生分解マイクロカプセルは有用微生物として酵母菌、乳酸菌それぞれを固定化あるいは酵母菌と乳酸菌を共存固定化したものである。これらの有用微生物固定化生分解マイクロカプセル単独あるいは有用微生物固定化生分解マイクロカプセルと堆肥、緑肥、草、稲わら、麦わら、残滓、米ぬか、籾殻、硫安で増量し製剤化した土壌改質資材を用いて土壌に散布あるいは土中埋設する。マイクロカプセル化された有用微生物の効果により、腐敗型土壌を発酵型土壌への土壌改質が可能となる。
【0029】
本発明の有用微生物内包マイクロカプセルを製造するにあたっては、一般に、微生物保護ポリマーを0.01〜10wt%(W/V)、目的の有用微生物を0.01〜70wt%(W/V)添加したものを内水相として用意する。有機相は、カプセルの壁材ポリマーを1〜30wt%(W/V)、有機溶媒を50〜95wt%(W/V)、乳化剤を0.1〜10wt%(W/V)の割合で混合したものを用意する。外水相は、蒸留水40〜80wt%(W/V)、分散安定剤を0.5〜60wt%(W/V)の割合で混合したものを用意する。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1
内水相12.5mlに対し、1%(W/V)のアルギン酸ナトリウム水溶液、乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリックス)1.6wt%(W/V)を添加したものを用意した。有機相は、25mlに対し、カプセル壁材であるポリεカプロラクタムを5wt%(W/V)、有機溶媒としてジクロロメタンを92wt%(W/V)、乳化剤としてソルビタンモノオレエートを3wt%(W/V)用意した。また外水相は、600mlに対し、蒸留水、69wt%(W/V)、分散安定剤としてポリビニルアルコールを1%(W/V)、第三リン酸カルシウム10%スラリーを30%(W/V)の割合で混合した。
上記のように調製した内水相をマグネチックスターラーにて撹拌している有機相に加え、5℃にて10分間撹拌することで、W/Oエマルションを形成した。そのW/Oエマルションを撹拌下(100rpm)にある5℃の外水相に添加し、30分撹拌することで、W/O/Wエマルションを形成した。
その後撹拌しながら、25℃に昇温し1時間撹拌、さらに30℃に昇温、700hPaに減圧し、3時間撹拌させることでジクロロメタンを除去した。
調製したマイクロカプセルは0.5M塩酸水溶液600gを添加させ、10分間撹拌後桐山ロートにて濾過し、蒸留水で洗浄した後回収した。マイクロカプセルの全体図および断面図を図1に示す。走査型電子顕微鏡の観察では、粒子径は50〜200μmであった。
【0032】
実施例2
実施例1により得た乳酸菌内包マイクロカプセル1gを正確に量り取り、803培地(0.5wt%(W/W) ポリペプトン、0.5wt%(W/W) 酵母エキス、5wt%(W/W) グルコース、0.2wt%(W/W) ラクトース、0.05wt%(W/W) Tween80、0.1wt%(W/W) MgSO・7HOの組成からなる)100mlに添加する。これをインキュベータ内37℃にて3日間静置させ、3日後の糖質(グルコース)の乳酸への転化率をガスクロマトグラフィーにて分析することで乳酸菌の乳酸生成に基づく活性を評価した。活性評価の結果を図2に示す。
【0033】
実施例3
乳酸菌内包マイクロカプセルによる発酵型土壌形成の確認試験を以下の手順により行った。稲わら6gを乾燥土壌0.7kgに添加し、これをオートクレーブで121℃、15分間滅菌後、乳酸菌内包マイクロカプセル2.5gを混ぜ試験用ポットに充填した。これをインキュベーター内で静置させ、24h毎の乳酸生成量をガスクロマトグラフィーにより分析した。サンプリングに関しては、以下の手順に従った。試験用ポット内部には中空糸を通し、中空糸の一端から脱イオン水を流通させた。もう一端を定量ポンプで吸引することで中空糸内部に流通させた溶液を24h毎に採取した(図3)。乳酸生成量の結果を図4以下に示す。
【0034】
実施例4
発酵型土壌における植物への成長効果を確認するためにコマツナの種子発芽試験を行った。有用微生物内包マイクロカプセルを滅菌処理した土壌に蒔き、24時間毎(96時間まで)に土壌を1g採取し、蒸留水100mlを加え60℃にて3時間栄養分を抽出した。各時間における抽出した留分を濾過し、得られたろ液をシャーレに10ml入れ、コマツナの種子を30粒蒔き、室温で1−7日後の発芽した種子の累積数を確認し、発酵型土壌の腐熟度を評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
比較例2
市販の微生物資材(有用微生物を土と一緒に混合したもの)1gを正確に計り取り、803培地100mlに添加した。これをインキュベータ内で37度にて3日間静置させ、3日後の糖質(グルコース)の乳酸への転化率をガスクロマトグラフィーにて分析することで市販の微生物資材に存在する乳酸菌の乳酸生成に基づく活性を評価した。活性評価の結果を図2に示す。
【0037】
ガスクロマトグラフィー分析
乳酸の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。カラムはキャピラリーカラム(長さ30m、直径0.25mm)を用いた。分析条件は、試料気化室温度が250℃、検出器(FID)は250℃、カラムオーブンは、60℃で2℃/minにて84℃まで昇温した。サンプル注入量は1μLとした。
【0038】
転化率の決定
グルコースの乳酸への転化率の決定は、以下の式にて算出した。
転化率(%)=(生成した乳酸の生成量/仕込みのグルコースの量)×100
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明によって得られる乳酸菌内包マイクロカプセルの全体(A)および断面(B)を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明によって得られる乳酸菌内包マイクロカプセル製剤と市販の微生物資材に存在する乳酸菌の乳酸生成に基づく活性比較である。
【図3】乳酸菌内包マイクロカプセルによる発酵型土壌形成の確認試験装置である。
【図4】発酵型土壌形成の確認試験装置による試験結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用微生物を内包した保護材ポリマーを、生分解性を有する壁材ポリマーが覆う構造を持つ有用微生物固定化生分解マイクロカプセルを製造する方法であって、
(1) 前記有用微生物及び水中でゲル形成性を有する前記保護材ポリマーを含有する水溶液を、前記壁材ポリマーとなる疎水性ポリマーを含有する有機溶媒であって前記壁材ポリマーを溶解する有機溶媒と乳化させることにより、前記有用微生物を内包する前記保護材ポリマーを含有する水滴微粒子が前記有機相中に分散したW/Oエマルションを調製する工程、
前記工程(1)で得られたW/Oエマルション水相に添加して乳化させることによりW/O/Wエマルションを調製する工程、および
前記工程(2)で得られたW/O/Wエマルションから、加温または加温・減圧により、前記有機溶媒を蒸発・除去して前記壁材ポリマーを結晶化させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
保護材ポリマーがアルギン酸ナトリウム、κ−カラギーナン、ポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
壁材ポリマーがポリ乳酸、ポリεカプロラクタムまたはポリ乳酸とグリコール酸との共重合体から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
固定化する有用微生物が酵母菌であることを特徴とする請求項1〜3に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
固定化する有用微生物が乳酸菌であることを特徴とする請求項1〜3に記載の有用微生物固定化マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
固定化する有用微生物が酵母菌と乳酸菌との共存であることを特徴とする請求項1〜3に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
有機溶媒がジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選ばれることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
工程(1)および工程(2)において乳化・分散安定剤を添加することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの方法によって得られることを特徴とする有用微生物固定化生分解マイクロカプセル。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかの方法によって得られることを特徴とする生分解マイクロカプセルに固定化された有用微生物。
【請求項11】
請求項1〜9に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルを堆肥、緑肥、草、稲わら、麦わら、残滓、米ぬか、籾殻、硫安で増量し製剤化した土壌改良材。
【請求項12】
請求項1〜9に記載の有用微生物固定化生分解マイクロカプセルあるいは請求項11に記載の土壌改良材を改良すべき地表面に散布するかあるいは土中埋設することを特徴とする発酵型土壌への改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−67956(P2006−67956A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257845(P2004−257845)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(593205875)日本有機株式会社 (3)
【出願人】(501493510)
【出願人】(597084696)
【Fターム(参考)】