説明

発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法

【課題】焼酎粕等の発酵残渣中から効率良く金属イオンを除去することのできる発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法を提供すること。
【解決手段】発酵残渣を濃縮して発酵残渣濃縮液を生成する濃縮工程と、前記濃縮工程で得られた発酵残渣濃縮液側から陽イオン交換性の隔膜を介して一価陽イオンを透過、除去する金属イオン除去工程とを有し、好ましくは、前記濃縮工程は、前記発酵残渣中の固形分を15%以上に濃縮することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法に関し、詳しくは、発酵残渣中から効率良く金属イオンを除去することのできる発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1993年に日本を含む多数の国々でロンドン条約(廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)が採択された。発酵蒸留残渣は現在同条約の除外品目として認められているが、現実問題としてはこのまま従来の海洋投棄を継続することは困難な情勢であり、全量陸上処理することを目標に業界での努力がなされてきた。
【0003】
発酵蒸留残渣、例えば焼酎粕には通常水分と固形分が含まれ、水分は90重量%以上含まれ、固形分には多量のたんぱく質、でん粉、繊維分等が含まれている。
【0004】
かかる発酵蒸留残渣の陸上処理として焼却処理も考えられるが、焼却設備や助燃剤としての燃料コストの負担が大きくなるため、好ましい手法とは言えない。
【0005】
飼料価格の高騰の影響もあいまって、近年、発酵蒸留残渣を家畜飼料として利用する動きが高まっている。
【0006】
焼酎粕は、クエン酸などのオキシカルボン酸類、グルタミン酸などのアミノ酸類、ポリフェノール類などを含有するほか、粗タンパク成分も含まれているので家畜飼料の原料としての価値が高い。しかし、焼酎粕は外気温下で半日乃至一日放置すると腐敗臭が発生し、家畜の嗜好性も低下してしまうため、濃縮することが行われている。
【0007】
焼酎粕はクエン酸や酢酸などの腐敗を防止する成分を比較的多く含有している。そこで、固形分が5〜10%しかない焼酎粕を濃縮し、粗タンパク量やクエン酸濃度などを上げることによって飼料価値や腐敗防止性(抗菌性)を改善することができる。
【0008】
黒糖焼酎の焼酎粕は、芋、米、麦などの他の焼酎粕に比べて濃縮が容易であるが、黒糖焼酎の焼酎粕濃縮液には、カリウムが高濃度で含まれており、このカリウム含量の多い飼料を牛等の家畜に与えると、カリウムに対するマグネシウムやカルシウム含量が低くなってしまい、生理障害を引き起こすおそれがある。このため、焼酎粕等の発酵蒸留残渣を濃縮して飼料とする場合は、濃縮液中のカリウムイオン等の金属イオンを除去する必要がある。
【特許文献1】特開昭64−38193号公報
【特許文献2】特開2002−362990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、焼酎粕等の発酵残渣中から効率良く金属イオンを除去することのできる発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の課題は以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
発酵残渣を濃縮して発酵残渣濃縮液を生成する濃縮工程と、前記濃縮工程で得られた発酵残渣濃縮液側から陽イオン交換性の隔膜を介して一価陽イオンを透過、除去する金属イオン除去工程とを有することを特徴とする発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【0013】
(請求項2)
前記濃縮工程は、前記発酵残渣中の固形分を15%以上に濃縮することを特徴とする請求項1記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【0014】
(請求項3)
前記金属イオン除去工程は、濃縮液室内に一価イオン交換性の隔膜を有するイオン透析槽を使用し、前記発酵残渣濃縮液を前記濃縮液室内に流通させることにより、前記一価陽イオンを透過、除去することを特徴とする請求項1又は2記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【0015】
(請求項4)
前記発酵残渣は、黒糖もしくは芋を原料とする焼酎粕であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【0016】
(請求項5)
前記濃縮工程は、多重効用缶を用いて前記発酵残渣を濃縮することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、焼酎粕等の発酵残渣中から効率良く金属イオンを除去することのできる発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態を示すフローシートである。同図において、1は被処理液である発酵残渣を貯留する貯留タンク、10は攪拌機である。
【0020】
本発明において発酵残渣には、蒸留酒の製造過程でアルコール分を蒸留した後に残存する固形分を多く含んだ液状物が含まれ、例えば芋焼酎粕、麦焼酎粕、米焼酎粕、黒糖焼酎粕またはこれらの混合物などの焼酎粕や、ウィスキーの醗酵過程で生成する蒸留粕なども含まれる。中でもカリウム(K)の多い黒糖を原料とする黒糖焼酎粕もしくは芋を原料とする芋焼酎粕が好ましく、特に黒糖焼酎粕が本発明では好ましい。また、本発明の発酵残渣は生ごみメタン発酵残渣であってもよい。ここでは、発酵残渣として黒糖焼酎粕を用いた場合について説明する。
【0021】
貯留タンク1に貯留された黒糖焼酎粕は、次いで固液分離手段2に送られて固液分離される。固液分離手段2としては、MF膜(精密ろ過膜)、スクリュープレス、ロータリープレス、真空脱水機、フィルタープレスなどを用いることができ、中でもMF膜やスクリュープレスが好ましい。
【0022】
かかる固液分離手段2による固液分離によって黒糖焼酎粕は固形分側と液体分側に分離され、そのうちの液体分側が濃縮手段3に送られ、該濃縮手段3によって濃縮されて黒糖焼酎粕濃縮液(発酵残渣濃縮液)が生成される(濃縮工程)。
【0023】
この濃縮手段3に送られる黒糖焼酎粕はスクリーン処理されていることが好ましい。
【0024】
濃縮手段3としては蒸発缶が好ましく使用でき、蒸発缶としては多重効用缶やスプレー式蒸発缶などを用いることができる。中でも多重効用缶を用いることが好ましく、濃縮度が進むに従い液の粘度が増加してくるため、例えば三井造船株式会社製の減圧強制循環式多重効用型濃縮装置を使用することが好ましい。
【0025】
この濃縮手段3では、後段の金属イオン除去工程における金属イオンの除去効率(電流効率)を高めるため、黒糖焼酎粕中の固形分濃度(TS)を15%以上に濃縮することが好ましく、より好ましくは30%以上に濃縮することである。この濃縮によってイオン透析の処理量を低減できると共に、透析効率(電流効率)も上げることが可能である。
【0026】
かかる濃縮手段3によって濃縮された黒糖焼酎粕濃縮液は、金属イオン除去装置4に送られ、該金属イオン除去装置4によって、濃縮液中の金属イオン、特にカリウムイオン(K+)の除去が行われる(金属イオン除去工程)。
【0027】
本発明において金属イオン除去装置4は、陽イオン交換性の隔膜を介して、濃縮手段3で得られた黒糖焼酎粕濃縮液中から一価陽イオンであるカリウムイオンを透過、除去する。
【0028】
図2は、かかる金属イオン除去装置4の一例を示している。この金属イオン除去装置4は一般的なイオン透析槽(電気透析槽)を用いた例であり、濃縮液室を構成するイオン透析槽40の対向する壁面に陽極41及び陰極42が対向配置され、その間に、被処理液である黒糖焼酎粕濃縮液を流通させる流路43と、該黒糖焼酎粕濃縮液中から除去されたカリウムイオンの濃縮液を流通させる流路44とが交互に配置されており、各流路43と44の間にそれぞれ陽イオン交換膜45と陰イオン交換膜46とが交互に配置されている。陽極41及び陰極42には、チタンに白金等を被覆したエキスパンドメタル等を用いることができる。
【0029】
ここで、陽イオン交換膜45は、一価の陽イオンを選択的に透過する隔膜が用いられる。このため、陽極41と陰極42間に所定の電圧を印加すると、流路43中を流れる黒糖焼酎粕濃縮液側から陽イオン交換膜45を介してカリウムイオン(K+)が、陰極42側に隣接する流路44側に透過し、流路43内の黒糖焼酎粕濃縮液中から除去される。このとき、黒糖焼酎粕濃縮液中の陰イオンも陰イオン交換膜46を介して陽極41側に隣接する流路44側に透過するが、本発明においては黒糖焼酎粕濃縮液中のカリウムイオンが除去されればよく、特に問題はない。
【0030】
なお、図示しないが、黒糖焼酎粕濃縮液及びカリウムイオンの濃縮液は、それぞれ不図示のポンプによって各流路43、44を循環するようになっている。
【0031】
図3は、金属イオン除去装置4の他の例を示している。この金属イオン除去装置4は、陽イオン交換膜45のみを使用した場合であり、イオン透析槽40の対向する壁面に陽極41及び陰極42が対向配置され、その間に、被処理液である黒糖焼酎粕濃縮液の流路43と、該黒糖焼酎粕濃縮液中から除去されたカリウムイオンの濃縮液の流路44とが、間に陽イオン交換膜45を介して配置された組が複数組設けられている。符号47は、バイポーラプレート(複極仕切板)である。
【0032】
この態様でも、黒糖焼酎粕濃縮液及びカリウムイオンの濃縮液を、それぞれ不図示のポンプによって各流路43、44を循環させ、その過程で、陽極41と陰極42間に印加された電圧によって、流路43中の黒糖焼酎粕濃縮液側から陽イオン交換膜45を介して隣接する流路44にカリウムイオンを透過、除去することができる。
【0033】
このように陽イオン交換膜を用いて液体中から陽イオンを透過、除去することは一般に知られている技術であるが、本発明では、この陽イオン交換膜を用いてカリウムイオンを透過、除去するに当たり、その前工程として、黒糖焼酎粕を濃縮して黒糖焼酎粕濃縮液としておく点に特徴を有している。黒糖焼酎粕を濃縮液とした上で金属イオンの除去を実施することにより、黒糖焼酎粕に対してそのまま金属イオンの除去を実施するのに比べて、カリウムイオンの除去率が高まり、それだけカリウムイオン除去のための電流効率が高まるようになる。
【0034】
これは本発明者の次のような知見による。すなわち、陽イオン交換膜を使用するイオン透析ではカリウムやナトリウムの他にプロトンも同様に透過し、しかも、プロトンの膜中の透過速度(輸率も関与する)はアルカリ金属イオンよりも通常、一桁以上大きくなる。また、焼酎粕は比較的強い酸性であり、そのため、プロトンの透過量が大きくなって、アルカリ金属除去の電流効率は大きく低下する。焼酎粕のpHは4弱程度であり、これは主にクエン酸などの有機酸によるものである。そのため、濃縮した液でもpHがあまり低下することはない(プロトン濃度は大きくならない。)。したがって、アルカリ金属イオン除去に関する電流効率は濃縮した液ほど、向上することになる。
【0035】
このようにしてカリウムイオンが除去された黒糖焼酎粕濃縮液は、家畜の配合飼料として用いられる。
【0036】
以上は、発酵残渣として黒糖焼酎粕を用いたが、他の焼酎粕や生ごみメタン発酵残渣の場合も同様にして濃縮液中から一価陽イオンを効率良く除去することができ、得られた濃縮液は配合飼料もしくは肥料として利用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0038】
試験装置として図4に示す金属イオン除去装置を用い、黒糖焼酎粕からのカリウムイオン除去試験を行った。
【0039】
図4において、400は電解液(カリウムイオン等の濃縮液)、401はこの電解液を貯留するイオン透析槽、402はチタンに白金を被覆した円筒形状をしたエキスパンドメタルからなる陽極、403はチタンに白金を被覆した棒状の陰極である。404は陽極402の外周に巻き付けられた陽イオン交換膜(有効長5cm、内径約3mm)、405は陽極402と電気的に接続するリード線、406は陰極403と電気的に接続するリード線である。
【0040】
407はT字管であり、陽イオン交換膜404を巻き付けた陽極402の下端に液密状に取り付けられている。T字管407の下端部407aは閉塞され、中途部から側方に分岐する分岐部407bに、イオン透析槽401の側壁を貫通して外部に突出する流入管408が接続されている。
【0041】
また、409はT字管であり、陽イオン交換膜404を巻き付けた陽極402の上端に液密状に取り付けられている。T字管409の上端部409aは閉塞され、この閉鎖部分を貫通するように上記リード線405が挿入されている。T字管409の中途部から側方に分岐する分岐部409bに、イオン透析槽401の側壁を貫通して外部に突出する流出管410が接続されている。
【0042】
この試験装置の陽極402の内側に、710μmのスクリーン処理を行った未濃縮の黒糖焼酎粕(固形分濃度TS=4.5%)と、黒糖焼酎粕濃縮液(固形分濃度TS=15%)を、それぞれ約5mL/分の流量で流通させ、両極間に約3Vの電圧を印加して陽イオン交換膜402によってカリウムイオンを除去した。このときの槽温度は19℃であった。
【0043】
【表1】

【0044】
その結果、表1に示すように、未濃縮の黒糖焼酎粕中からカリウムイオンが除去される際の電流効率が約11%であったのに対し、TS=15%まで濃縮した場合、約38%まで上昇し、濃縮によるカリウムイオンの除去効率の向上効果が確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態を示すフローシート
【図2】金属イオン除去装置の一例を示す図
【図3】金属イオン除去装置の他の一例を示す図
【図4】実施例に用いた金属イオン除去装置の試験装置を示す図
【符号の説明】
【0046】
1:貯留タンク
10:攪拌機
2:固液分離装置
3:濃縮装置
4:金属イオン除去装置
40:イオン透析槽
41:陽極
42:陰極
43、44:流路
45:陽イオン交換膜
46:陰イオン交換膜
47:バイポーラプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵残渣を濃縮して発酵残渣濃縮液を生成する濃縮工程と、前記濃縮工程で得られた発酵残渣濃縮液側から陽イオン交換性の隔膜を介して一価陽イオンを透過、除去する金属イオン除去工程とを有することを特徴とする発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【請求項2】
前記濃縮工程は、前記発酵残渣中の固形分を15%以上に濃縮することを特徴とする請求項1記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオン除去工程は、濃縮液室内に一価イオン交換性の隔膜を有するイオン透析槽を使用し、前記発酵残渣濃縮液を前記濃縮液室内に流通させることにより、前記一価陽イオンを透過、除去することを特徴とする請求項1又は2記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【請求項4】
前記発酵残渣は、黒糖もしくは芋を原料とする焼酎粕であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。
【請求項5】
前記濃縮工程は、多重効用缶を用いて前記発酵残渣を濃縮することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発酵残渣を用いた飼料もしくは肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−142203(P2010−142203A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326352(P2008−326352)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】