説明

発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法

【課題】 組付け作業性の容易化を図ることができる発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法を提供する。
【解決手段】 発電機付きエンジン10は、ピストン14をクランク軸16に連結し、クランク軸16と同軸上に発電機20のチャージコイル24を配置するとともに、チャージコイル24をクランクケース12に固定し、チャージコイル24と同軸上にフライホイール25を配置し、フライホイール25に設けた複数の磁石26を、チャージコイル24に備えた複数の鉄心32の周囲に配置したものである。この発電機付きエンジン10は、ピストン15を上死点P1に位置決めした状態で、複数の鉄心32のうち、隣接する一対の鉄心32,32間の中心77に、磁石26の中心79を一致させるように、フライホイール25をクランク軸16に係止する係止手段28を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機用のチャージコイルクランクケースに固定するとともに、回転子をクランク軸に設けた発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エンジンのなかには、自動二輪車用のものとしてキック始動式に構成したものがある。キック始動式のエンジンは、キックスタータを備え、キックスタータを踏み込むと、クランク軸が強制的に回転されてピストンが往復駆動される。
キック始動式のエンジンは、キック始動を容易にするために、ピストンを上死点付近に位置させた状態でキックすることが望ましいとされている。
【0003】
そこで、ピストンが上死点付近に位置したことを運転者が容易に確認できる検出装置を備えたエンジンが知られている。
このエンジンによれば、ピストンが、キック始動に最適な位置にあるか否かを簡単に検出することで、キックスタータによるキック操作を安心しておこなうことができる(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭62−203973号公報
【0004】
特許文献1のエンジンは、キックスタータがキック位置に保持されたときに、ピストンを上死点付近に位置決めする必要がある。
したがって、エンジンを組み付ける際に、ピストンを上死点付近に位置決めし、この状態を保ちながら、キックスタータをキック位置に位置決めする作業が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンのなかには、発電機を組み込んだものがある。
このエンジンは、発電機の磁石(永久磁石)をクランク軸のフライホイールに設け、発電機のチャージコイルをクランクケースに設けたものである。チャージコイルと磁石とを組み合わせることで発電機が構成される。
【0006】
チャージコイルと磁石とを組み合わせた際に、チャージコイルと磁石との間に、磁石の磁力が発生する。この磁力が、ピストンを上死点付近に位置決めすることを難しくする虞がある。
この具体例を以下に説明する。
【0007】
すなわち、エンジンを組み付ける際に、チャージコイルをクランクケースに取り付け、ピストンをコンロッドを介してクランク軸に連結する。
そして、ピストンを上死点に位置決めした状態で、フライホイールをクランク軸に組み付ける。この際に、フライホイールに備えた磁石とチャージコイルとの間に、磁石の磁力が発生する。
【0008】
発生した磁力が不安定な場合、発生した磁力でフライホイールが回動してしまう。フライホイールが回動すると、クランク軸が回転して、ピストンが上死点からずれてしまう。
このため、フライホイールをクランク軸に組み付ける際に、発生した磁力で、フライホイールがクランク軸を中心にして回転しないように保持する必要があり、エンジンの組付けに手間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明は、組付け作業性の容易化を図ることができる発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ピストンをコンロッドでクランク軸に連結し、このクランク軸をクランクケースから突出させ、このクランク軸と同軸上に、発電機のチャージコイルを配置するとともに、このチャージコイルをクランクケースに固定し、このチャージコイルと同軸上にフライホイールを配置し、このフライホイールに設けた複数の磁石を、チャージコイルに備えた複数の鉄心の周囲に配置し、フライホイールをクランク軸に係止させた発電機付きエンジンにおいて、前記ピストンを上死点または下死点に位置決めした状態で、前記複数の鉄心のうち、隣接する一対の鉄心間の中心に、前記磁石の中心を一致させるように、前記フライホイールを前記クランク軸に係止する係止手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
隣接する一対の鉄心間の中心に、磁石の中心を一致させた。これにより、隣接する一対の鉄心のうち、一方の鉄心に磁石のN極を臨ませるとともに、他方の鉄心に磁石のS極を臨ませることができる。
よって、N極が一方の鉄心に及ぼす磁力と、S極が他方の鉄心に及ぼす磁力とが一致する。これにより、磁石を静止させた状態に保つことが可能になり、フライホイールがクランク軸とともに回転することを阻止する。
【0012】
このように、クランク軸が回転することを防ぐことで、ピストンを上死点や下死点に静止させた状態に保つことができる。
したがって、フライホイールをクランク軸に組み付ける際に、フライホイールを所定位置に保持する手間を省くことができる。
【0013】
請求項2は、前記係止手段を凸状の係止部と、凹状の係止部とで構成し、凸状の係止部および凹状の係止部のうち、一方の係止部を前記クランク軸に設け、他方の係止部を前記フライホイールに設け、他方の係止部から、前記磁石の中心までの角度を、一方の係止部から、前記隣接する一対の鉄心間の中心までの角度に合わせたことを特徴とする。
【0014】
一方の係止部をクランク軸に設け、他方の係止部をフライホイールに設けた。そして、一方の係止部から、隣接する一対の鉄心間の中心までの角度に、他方の係止部から、磁石の中心までの角度を合わせた。
よって、エンジンを組み付ける際に、それぞれの係止部を係止するだけの簡単な組付け工程で、隣接する一対の鉄心間の中心に、磁石の中心を一致させることができる。
【0015】
請求項3は、前記凸状の係止部はキーで、前記凹状の係止部は、前記キーに係止可能な係止溝であることを特徴とする。
【0016】
凸状の係止部をキーとし、凹状の係止部を、キーに嵌め込み可能な係止溝とした。
キーおよび係止溝を係止手段として兼用することで、係止手段を新たに設ける必要がない。
これにより、部品点数の増加を抑えて、構成を簡素に保つことができる。
【0017】
請求項4は、ピストンをコンロッドでクランク軸の連結ピンに連結し、このクランク軸をクランクケースから突出させ、このクランク軸と同軸上に、発電機のチャージコイルを配置するとともに、このチャージコイルをクランクケースに固定し、このチャージコイルと同軸上にフライホイールを配置し、このフライホイールに設けた複数の磁石を、チャージコイルに備えた複数の鉄心の周囲に配置し、フライホイールをクランク軸に係止させた発電機付きエンジンの組付方法において、前記クランク軸の中心と前記連結ピンの中心とを結んだ線を基準線とし、この基準線上のクランク軸に、凸状の係止部および凹状の係止部の一方を備えるとともに、前記フライホイールに、凸状の係止部および凹状の係止部の他方を備える工程と、他方の係止部から所定角離れた位置に、前記複数の磁石のうち、1個の磁石の中心を合わせる工程と、前記連結ピンに連結した前記ピストンを上死点または下死点に配置する工程と、前記一方の係止部に対して前記所定角離れた位置に、前記複数の鉄心のうち、隣接する一対の鉄心間の中心を合わせる工程と、前記チャージコイルを前記クランクケースに固定する工程と、前記一方の係止部に、前記他方の係止部を係止することで、フライホイールをクランク軸に組み付ける工程と、からなることを特徴とする。
【0018】
ピストンを上死点または下死点に配置することで、クランク軸に設けた一方の係止部が所定位置に位置決めされる。一方の係止部に対して所定角離れた位置に、一対の鉄心間の中心を合わせる。この状態で、チャージコイルをクランクケースに固定する。
次に、一方の係止部に、他方の係止部を係止してフライホイールをクランク軸に組み付ける。
【0019】
隣接する一対の鉄心間の中心に、磁石の中心が一致する。隣接する一対の鉄心のうち、一方の鉄心に磁石のN極が臨み、他方の鉄心に磁石のS極が臨む。
よって、一方の鉄心に対するN極の磁力と、他方の鉄心に対するS極の磁力とが均一になり、磁石を静止した状態に保持することができる。
【0020】
これにより、フライホイールを静止状態に保ち、ピストンを上死点または下死点に静止させた状態に保つことができる。
したがって、フライホイールをクランク軸に組み付ける際に、フライホイールを所定位置に保持する手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法では、ピストンを上死点や下死点に静止させた状態に保つことで、フライホイールを所定位置に保持する手間を省き、エンジンの組付け作業性の容易化を図ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る発電機付きエンジンを示す斜視図、図2は本発明に係る発電機付きエンジンを示す分解斜視図である。
発電機付きエンジン10は、ケーシング11をクランクケース12およびシリンダブロック13で構成し、シリンダブロック13内に傾斜シリンダ14を内蔵し、傾斜シリンダ14内にピストン15を摺動自在に配置するとともに、クランクケース12内にクランク軸16を収納し、クランク軸16およびピストン15をコンロッド18で連結し、クランクケース12の外側に発電機20を備える。
【0023】
傾斜シリンダ14とは、ベース19に対して所定角度だけ傾斜させたシリンダをいう。ベース19は、クランクケース12の下部に形成された部位である。
【0024】
この発電機付きエンジン10は、クランク軸16の端部21を、クランクケース12の側壁12aから突出させ、端部21と同軸上に、発電機20のチャージコイル24を配置するとともに、このチャージコイル24をクランクケース12の側壁12aに設け、チャージコイル24と同軸上にフライホイール25を配置して、このフライホイール25に設けた複数の磁石(永久磁石)26…をチャージコイル24の周囲に配置し、フライホイール25をクランク軸16の端部21に係止手段28で係止させたものである。
なお、本実施の形態では、磁石26…の個数を6個として例示する。
【0025】
チャージコイル24は、環状の基部31の外周に複数の鉄心32…を放射状に外側に向けて延ばすとともに(図3も参照)、それぞれの鉄心32…を等間隔に設け、鉄心32…にコイル33…を巻き付けた固定子(ステータ)である。
鉄心32…および基部31は、磁石26…で吸着可能な材料(一例として、鉄)で形成された部材である。
このチャージコイル24は、クランクケース12の側壁12aに、4個のボルト35…で取り付けられている。
【0026】
フライホイール25は、中央にボス部36を設け、ボス部36に脚部37…を介してリング部38を設け、リング部38の外周に隆起部39を設けたものである。
隆起部39は、フライホイール25(すなわち、クランク軸16)の回転数を検出するための部材を兼用したものである。
回転数の検出については図3で説明する。
【0027】
リング部38の内周には、6個の磁石26…が等間隔に配置され、それぞれの磁石26…が環状のホルダー41(図3参照)で保持されている。
磁石26…は、リング部38の内周に沿わせて湾曲状に形成されている。
フライホイール25、磁石26…およびホルダー41で回転子42を構成する。
【0028】
ボス部36は、クランク軸16の端部21に嵌合する取付孔44が設けられている。取付孔44を端部21に嵌め込むことにより、リング部38が、チャージコイル24を覆う位置に位置決めされる。
よって、鉄心32…の端部32a…に臨む位置に、磁石26…が配置される。すなわち、鉄心32…の端部32a…の周囲に磁石26…が配置される(図3も参照)。
チャージコイル24および回転子42で発電機20を構成する。
発電機20は、回転子42が回転することで電力を発生させるものである。
【0029】
係止手段28は、クランク軸16の端部21にキー(凸状の係止部)45を備え、フライホイール25のボス部36に係止溝(凹状の係止部)46を備える。
クランク軸16の端部21にキー溝47を形成し、キー溝47にキー45を打ち込むことにより、キー45を端部21に取り付ける。
【0030】
一方、フライホイール25の取付孔44に係止溝46を備える。この係止溝46をキー45に嵌め込むことで、クランク軸16の端部21にフライホイール25を係止する。
これにより、フライホイール25はクランク軸16と一体に回転する。
【0031】
キー45や係止溝46は、クランク軸16にフライホイール25を取り付ける際に、通常用いる部材である。
そこで、凸状の係止部としてキー45を用い、凹状の係止部として係止溝46を用いることで、キー45および係止溝46を係止手段28として兼用することができる。
これにより、係止手段28を新たに設ける必要がないので、部品点数の増加を抑えて、構成を簡素に保つことができる。
なお、キー45を設ける位置や、係止溝46を設ける位置については、図4で詳しく説明する。
【0032】
図3は本発明に係る発電機付きエンジンを示す断面図である。
発電機付きエンジン10は、フライホイール25と連結部材51とで冷却ファン53を挟持し、冷却ファン53に隣接させてリコイルスタータ55を配置し、リコイルスタータ55のラチェット56を連結部材51の係止孔51a…(図2参照)に連結し、このリコイルスタータ55をスタータカバー57に回転自在に取り付け、スタータカバー57をファンカバー58に取り付け、ファンカバー58をクランクケース12の側壁12aに取り付けたものである。
【0033】
ここで、冷却ファン53を取り付ける方法について説明する。
すなわち、フライホイール25に対して冷却ファン53を同軸上に配置した状態で、フライホイール25のボス部36に、支持壁部61の開口部61aを嵌め込む。支持壁部61とボス部36とが面一になる。
支持壁部61は、冷却ファン53の支持壁を構成する部材である。
【0034】
この支持壁部61およびボス部36に連結部材51の底部52を当て、底部52をボス部36に、3本のボルト63…で締め付けるとともに、ねじ部64にナット65を締め付ける。
ねじ部64は、クランク軸16の端部21に形成されたねじである。
ボルト63…を締め付けるとともに、ナット65を締め付けることにより、フライホイール25と底部52とで支持壁部61を挟持する。
これにより、フライホイール25に冷却ファン53が取り付けられる。
【0035】
なお、フライホイール25に設けた隆起部39は、フライホイール25(すなわち、クランク軸16)の回転数を検出するための部材を兼用したものである。
すなわち、隆起部39に近接可能に回転数検出センサー59を設ける。この回転数検出センサー59で隆起部39を検知することで、フライホイール25の回転数を検出する。
【0036】
すなわち、フライホイール25の回転数を検出する隆起部39を、磁石26…の位置決め部材として兼用した。
これにより、磁石26…の位置決め部材を新たに設ける必要がないので、部品点数の増加を抑えて、構成を簡素に保つことができる。
【0037】
図4は本発明に係る発電機付きエンジンのチャージコイルと磁石との位置関係を説明する図、図5は本発明に係る発電機付きエンジンの要部拡大図である。
なお、構成の理解を容易にするために、12個の鉄心32…を、それぞれ32a〜32l(アルファベット「エル」の小文字)とし、6個の磁石26…を、それぞれ26a〜26fとして説明する。
【0038】
キー溝47の中心が、基準線74上に位置するようにキー溝47を形成する。
基準線74は、クランク軸21の中心71と連結ピン72の中心73とを結んだ線である。連結ピン72は、コンロッド18の大端部が回転自在に連結するピンである。
キー溝47にキー45が設けられ、キー45は基準線74上に設けられてる。
このキー45は、ピストン15を上死点P1に位置決めした状態で、水平線75から角度θ1だけ上向きに傾斜させた位置に保持される。
【0039】
このキー45を基準にしてチャージコイル24のコイル取付角が決められている。
すなわち、チャージコイル24の12個の鉄心32a〜32lのうち、基準線74に対して上側近傍に位置する一対の鉄心32,32を、鉄心32a,32bとする。一対の鉄心32a,32bは、互いに隣接する鉄心である。
【0040】
チャージコイル24は、鉄心間中心77が基準線74からコイル取付角θ2だけ傾斜した位置に位置決めされている。
このチャージコイル24は、クランクケース12の側壁12aに、4本のボルト35で固定されている。
鉄心間中心77とは、隣接する一対の鉄心32a,32b間の中心線をいう。
なお、残りの鉄心32c〜32lは、鉄心32bから時計回り方向に順次等間隔に設けられている。
【0041】
加えて、キー45を基準にして磁石26…の磁石取付角が決められている。
すなわち、フライホイール25の係止溝46は、隆起中心線78に対して下方に角度θ2離れた位置に形成されている。
隆起中心線78とは、隆起部39の中心線をいう。
【0042】
そして、磁石26aは、磁石中心79を隆起中心線78に一致させて配置されている。
磁石中心79とは、磁石26aの中心線をいう。
磁石26aは、一方の端部81がN極、他方の端部82がS極である。
この磁石26aを基準にして、残りの5個の磁石26b〜26fが時計回り方向に順次等間隔に配置されている。
【0043】
この発電機付きエンジン10によれば、ピストン15を上死点P1に配置した状態において、係止溝46から磁石中心79までの取付角度θ2は、キー45から鉄心間中心77までの取付角度θ2に合わせられる。
これにより、磁石26aの磁石中心79が、一対の鉄心32a,32b間の鉄心間中心77と一致する。
【0044】
このように、クランク軸16にキー45を設け、フライホイール25に係止溝46を設けた。そして、キー45から鉄心間中心77までの取付角度θ2に、係止溝46から、磁石中心79までの角度を合わせた。
よって、キー45に係止溝46を係止するだけの簡単な組付け工程で、鉄心間中心77に磁石中心79を一致させることができる。
【0045】
ところで、発電機20は、12個の鉄心32…と、6個の磁石26…とを備える。磁石26の個数は、鉄心32…の個数の半分であり、磁石26の全長は、鉄心32…の2個分の長さに相当する。
したがって、磁石中心79および鉄心間中心77が一致することにより、磁石26aの一方の端部81(すなわち、N極)が鉄心32bに臨み、磁石26aの他方の端部82(すなわち、S極)が鉄心32aに臨む。
チャージコイル24の鉄心32a,32bおよび基部31は、磁石26aで吸着可能な材料(一例として、鉄)で形成された部材である。
【0046】
よって、一方の端部81(N極)から他方の端部82(S極)に向けて発生する磁力84は、鉄心32b、基部31および鉄心32aを経て他方の端部82(S極)に到達する。
すなわち、一方の端部81(N極)および鉄心32b間に発生する磁力84と、他方の端部82(S極)および鉄心32a間に発生する磁力84とは、それぞれ同じ強さである。
【0047】
これにより、一方の端部81(N極)が鉄心32bに及ぼす磁力と、他方の端部82(S極)が鉄心32aに及ぼす磁力とが一致する。
したがって、磁石26aは、一方の端部81(N極)が鉄心32bに臨み、他方の端部82(S極)が鉄心32aに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0048】
そして、残りの5個の磁石26b〜26fのうち、磁石26bは、磁石26aと同様に、磁石中心79が、一対の鉄心32c,32d間の鉄心間中心77と一致する。
磁石26bは、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32dに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32cに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0049】
また、磁石26cは、磁石26aと同様に、磁石中心79が、一対の鉄心32e,32f間の鉄心間中心77と一致する。
磁石26cは、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32fに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32eに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0050】
さらに、磁石26dは、磁石26aと同様に、磁石中心79が、一対の鉄心32g,32h間の鉄心間中心77と一致する。
磁石26dは、一方の端部(N極)が鉄心32hに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32gに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0051】
また、磁石26eは、磁石26aと同様に、磁石中心79が、一対の鉄心32i,32j間の鉄心間中心77と一致する。
磁石26eは、一方の端部(N極)が鉄心32jに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32iに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0052】
さらに、磁石26fは、磁石26aと同様に、磁石中心79が、一対の鉄心32k,32l間の鉄心間中心77と一致する。
磁石26fは、一方の端部(N極)が鉄心32lに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32kに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0053】
次に、本発明に係る発電機付きエンジン10の組付方法を図6〜図8に基づいて説明する。
図6(a),(b)は本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において係止手段を備える工程を説明する図である。
(a)において、クランク軸16の端部21にキー溝47を形成する。
このキー溝47の中心は、基準線74上に位置する。
基準線74とは、クランク軸21の中心71と連結ピン72の中心73とを結んだ線をいう。
キー溝47にキー45を設けることで、キー45を基準線74上に設ける。キー45は、凸状の係止部を構成する。
【0054】
(b)において、フライホイール25の係止溝46を、隆起中心線78に対して下方に角度θ2離れた位置に形成する。係止溝46は、凹状の係止部を構成する。
凹状の係止部としての係止溝46、および、凸状の係止部としてのキー45で、係止手段28(図2参照)を構成する。
【0055】
そして、隆起中心線78に、磁石26aの磁石中心79を合わせた状態で、磁石26aをフライホイール25に設ける。
換言すれば、係止溝46から所定角θ2離れた位置に、磁石中心79を合わせ、この状態で磁石26aが設けられている。
この磁石26aを基準にして、残りの5個の磁石26b〜26fを時計回り方向に順次等間隔にフライホイール25に設ける。
これにより、回転子42を得る。
【0056】
図7(a),(b)は本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法においてチャージコイルを備える工程を説明する図である。
(a)において、ピストン15を上死点P1に配置する。この状態において、キー45の中心、すなわち、基準線74は、水平線75から角度θ1だけ上向きに傾斜させた位置に保持される。
【0057】
(b)において、キー45を基準にしてチャージコイル24のコイル取付角を決める。
すなわち、チャージコイル24の12個の鉄心32a〜32lのうち、一対の鉄心32a,32bを基準線74に対して上側近傍に位置させる。
一対の鉄心32a,32bは、互いに隣接する鉄心である。
【0058】
そして、一対の鉄心32a,32bの鉄心間中心77を、基準線74からコイル取付角θ2だけ上向きに傾斜させた位置に位置決めする。
換言すれば、一対の鉄心32a,32bの鉄心間中心77を、キー45から所定角θ2だけ離れた位置に位置決めする。
この状態で、チャージコイル24を、クランクケース12の側壁12aにボルト35…で取り付ける。
【0059】
図8(a),(b)は本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において回転子を備える工程を説明する図である。
(a)において、回転子42を取り付ける。すなわち、フライホイール25の取付孔44を、クランク軸16の端部21に差し込む。
同時に、フライホイール25の係止溝46をキー45に嵌め込む。
【0060】
フライホイール25の係止溝46が、隆起中心線78に対して下方に角度θ2離れた位置に形成されている。加えて、隆起中心線78に、磁石26aの磁石中心79を合わせた状態で、磁石26aがフライホイール25に設けられている。
よって、フライホイール25の係止溝46をキー45に嵌め込むことで、磁石26aの磁石中心79が、一対の鉄心32a,32b間の鉄心間中心77と一致する。
これにより、磁石26aの一方の端部81(すなわち、N極)が鉄心32bに臨み、磁石26aの他方の端部82(すなわち、S極)が鉄心32aに臨む。
【0061】
(b)において、残りの5個の磁石26b〜26fのうち、磁石26bも、磁石26aと同様に、磁石26bの一方の端部(N極)が鉄心32dに臨み、磁石26bの他方の端部(S極)が鉄心32cに臨む。
磁石26cも、磁石26aと同様に、磁石26cの一方の端部(N極)が鉄心32fに臨み、磁石26cの他方の端部(S極)が鉄心32eに臨む。
【0062】
磁石26dも、磁石26aと同様に、磁石26dの一方の端部(N極)が鉄心32hに臨み、磁石26dの他方の端部(S極)が鉄心32gに臨む。
磁石26eも、磁石26aと同様に、磁石26eの一方の端部(N極)が鉄心32jに臨み、磁石26eの他方の端部(S極)が鉄心32iに臨む。
磁石26fも、磁石26aと同様に、磁石26fの一方の端部(N極)が鉄心32lに臨み、磁石26fの他方の端部(S極)が鉄心32kに臨む。
【0063】
図9は本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において回転子が備えられた状態を説明する図である。
磁石26aは、一方の端部81(N極)から他方の端部82(S極)に向けて磁力84が発生する。この磁力84は、鉄心32b、基部31および鉄心32aを経て他方の端部82(S極)に到達する。
すなわち、一方の端部81(N極)および鉄心32b間に発生する磁力84と、他方の端部82(S極)および鉄心32a間に発生する磁力84とは、それぞれ同じ強さになる。
【0064】
これにより、一方の端部81(N極)が鉄心32bに及ぼす磁力と、他方の端部82(S極)が鉄心32aに及ぼす磁力とが一致する。
したがって、磁石26aは、一方の端部81(N極)が鉄心32bに臨み、他方の端部82(S極)が鉄心32aに臨む位置、すなわち図示の位置に保持される。
【0065】
また、残りの5個の磁石26b〜26fのうち、磁石26bも、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32dに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32cに臨む位置に保持される。
磁石26cも、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32fに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32eに臨む位置に保持される。
【0066】
磁石26dも、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32hに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32gに臨む位置に保持される。
磁石26eも、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32jに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32iに臨む位置に保持される。
磁石26fも、磁石26aと同様に、一方の端部(N極)が鉄心32lに臨み、他方の端部(S極)が鉄心32kに臨む位置に保持される。
【0067】
これにより、回転子42をチャージコイル24に組み付けた際に、回転子42を静止状態に保ち、ピストン15を上死点P1に保持することができる。
よって、回転子42をクランク軸16に組み付ける際に、回転子42が磁力で回転しないように保持する手間を不要にでき、エンジン10の組付け作業性の容易化を図ることができる。
【0068】
ところで、排気弁や吸気弁を駆動する動弁機構の組立作業は、ピストン15を上死点P1に保持した状態でおこなう必要がある。
よって、回転子42をチャージコイル24に組み付けた際に、ピストン15を上死点P1に保持することで、動弁機構の組立作業性を高めることもできる。
【0069】
なお、前記実施の形態では、ピストン15を上死点P1に位置決めする例について説明したが、これに限らないで、ピストン15を下死点に位置決めする場合にも同様の効果を得ることができる。
【0070】
また、前記実施の形態では、鉄心32…の個数を12個、磁石26…の個数を6個とした例について説明したが、鉄心32…および磁石26…の個数はこれに限定するものではない。
但し、磁石26のN極を、隣接する一対の鉄心32,32の一方に臨ませ、磁石26のS極を、隣接する一対の鉄心32,32の他方に臨ませるためには、隣接する一対の鉄心32,32に1個の磁石26を亘らせた状態に配置する必要がある。
よって、磁石26…の個数をN1、鉄心32…の個数をN2とすると、磁石26…および鉄心32…の個数は、2×N1=N2の関係を満たすように決めることが好ましい。
【0071】
さらに、前記実施の形態では、傾斜シリンダ14を備えたエンジン10を例に説明したが、これに限らないで、例えば、シリンダを鉛直に設けた、いわゆるバーチカルエンジンなどのその他のエンジンに適用することも可能である。
【0072】
また、前記実施の形態では、クランク軸16のキー溝47にキー45を取り付けた後、クランク軸16にフライホイール25を嵌合する際に、キー45に係止溝46を係止させた例について説明したが、キー45係止手順はこれに限定するものではない。
すなわち、クランク軸16にフライホイール25を嵌合させる際に、キー溝47と係止溝46とを合わせ、合わせたキー溝47および係止溝46にキー45を係止させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、発電機用のチャージコイルクランクケースに固定するとともに、回転子をクランク軸に設けた発電機付きエンジンおよび発電機付きエンジンの組付方法への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る発電機付きエンジンを示す斜視図である。
【図2】本発明に係る発電機付きエンジンを示す分解斜視図である。
【図3】本発明に係る発電機付きエンジンを示す断面図である。
【図4】本発明に係る発電機付きエンジンのチャージコイルと磁石との位置関係を説明する図である。
【図5】本発明に係る発電機付きエンジンの要部拡大図である。
【図6】本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において係止手段を備える工程を説明する図である。
【図7】本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法においてチャージコイルを備える工程を説明する図である。
【図8】本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において回転子を備える工程を説明する図である。
【図9】本発明に係る発電機付きエンジンの組付方法において回転子が備えられた状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0075】
10…発電機付きエンジン、12…クランクケース、15…ピストン、16…クランク軸、18…コンロッド、20…発電機、24…チャージコイル、25…フライホイール、26(26a〜26f)…磁石、28…係止手段、32(32a〜32l)…鉄心、45…キー(凸状の係止部)、46…係止溝(凹状の係止部)、71…クランク軸の中心、72…連結ピン、73…連結ピンの中心、74…基準線、77…鉄心間中心(隣接する一対の鉄心間の中心)、79…磁石中心(磁石の中心)、P1…上死点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンをコンロッドでクランク軸に連結し、このクランク軸をクランクケースから突出させ、このクランク軸と同軸上に、発電機のチャージコイルを配置するとともに、このチャージコイルをクランクケースに固定し、このチャージコイルと同軸上にフライホイールを配置し、このフライホイールに設けた複数の磁石を、チャージコイルに備えた複数の鉄心の周囲に配置し、フライホイールをクランク軸に係止させた発電機付きエンジンにおいて、
前記ピストンを上死点または下死点に位置決めした状態で、
前記複数の鉄心のうち、隣接する一対の鉄心間の中心に、前記磁石の中心を一致させるように、前記フライホイールを前記クランク軸に係止する係止手段を備えたことを特徴とする発電機付きエンジン。
【請求項2】
前記係止手段を凸状の係止部と、凹状の係止部とで構成し、
凸状の係止部および凹状の係止部のうち、一方の係止部を前記クランク軸に設け、
他方の係止部を前記フライホイールに設け、
他方の係止部から、前記磁石の中心までの角度を、一方の係止部から、前記隣接する一対の鉄心間の中心までの角度に合わせたことを特徴とする請求項1記載の発電機付きエンジン。
【請求項3】
前記凸状の係止部はキーで、
前記凹状の係止部は、前記キーに係止可能な係止溝であることを特徴とする請求項2記載の発電機付きエンジン。
【請求項4】
ピストンをコンロッドでクランク軸の連結ピンに連結し、このクランク軸をクランクケースから突出させ、このクランク軸と同軸上に、発電機のチャージコイルを配置するとともに、このチャージコイルをクランクケースに固定し、このチャージコイルと同軸上にフライホイールを配置し、このフライホイールに設けた複数の磁石を、チャージコイルに備えた複数の鉄心の周囲に配置し、フライホイールをクランク軸に係止させた発電機付きエンジンの組付方法において、
前記クランク軸の中心と前記連結ピンの中心とを結んだ線を基準線とし、この基準線上のクランク軸に、凸状の係止部および凹状の係止部の一方を備えるとともに、前記フライホイールに、凸状の係止部および凹状の係止部の他方を備える工程と、
他方の係止部から所定角離れた位置に、前記複数の磁石のうち、1個の磁石の中心を合わせる工程と、
前記連結ピンに連結した前記ピストンを上死点または下死点に配置する工程と、
前記一方の係止部に対して前記所定角離れた位置に、前記複数の鉄心のうち、隣接する一対の鉄心間の中心を合わせる工程と、
前記チャージコイルを前記クランクケースに固定する工程と、
前記一方の係止部に、前記他方の係止部を係止することで、フライホイールをクランク軸に組み付ける工程と、
からなることを特徴とする発電機付きエンジンの組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−6594(P2007−6594A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182955(P2005−182955)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】