説明

発電計画支援装置および方法

【課題】回転上昇及び発電出力上昇の時系列パターンをシミュレーションによって得る。
【解決手段】最適起動スケジュール推定手段1は、第一段蒸気温度予測手段3、熱伝達率予測手段4及びメタル温度積算手段9と、第一段メタル温度予測5を備える。第一段メタル温度予測手段5の出力側には、熱応力予測手段6、最適起動計算手段7及びタービン回転数wと発電出力MWの積算手段8を順次接続する。運用条件定義手段2は、時間トレンド保持手段10と起動開始時初期条件保持手段11とを備える。第一段メタル温度予測手段5は、第一段蒸気温度予測手段3、熱伝達率予測手段4及びメタル温度積算手段9から入力した蒸気温度Tfの将来の推移、熱伝達率の推移Hf及びロータメタル温度の将来の推移Tmに基づいて、第一段メタル温度の変化ベクトルdTmを推定する。熱応力予測手段6はロータに発生する熱応力の推移σsを予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン設備の発電計画支援装置および方法に関するもので、特に、タービン設備の停止状態から回転上昇及び発電機出力上昇の起動過程を経て発電運転状態に到達するまでの所要時間を求めることを可能としたものである。
【0002】
本発明の発電計画支援装置は、例えば、タービンロータの熱応力を規定値以下に抑えつつタービンを最短時間で起動させるタービン起動方式を採用する発電設備において、タービン起動計画を策定する時に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
蒸気タービン発電機を停止状態から素早く起動させることは、電力グリッドの需要変動に対する適応力が向上するというだけでなく、環境面や燃料コスト抑制にも貢献する。しかし、起動時間を短縮させようとして高温高圧の蒸気を制限無く蒸気タービンに導入すると、タービンロータに過大な熱応力が発生して設備の寿命を縮めてしまうというジレンマがある。そこで、熱応力を制限範囲に押さえつつ起動時間をできるだけ短縮し得るタービン起動制御の手法が求められる。
【0004】
しかし、実運用における起動時の初期状態は一定で無くかつ起動操作の途中で変化することもあることから、蒸気や熱応力の状態を起動過程にそってモニタリングしながら細かく制御することが重要になる。
【0005】
近年その具体的な解決方法として、起動過程にわたってロータの熱伝達率を逐次に予測し、タービン回転数上昇率と発電機出力上昇率とをリアルタイムに修正することによって、熱応力を制限範囲に抑えながら起動時間を効果的に短縮する制御方法が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−257925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タービンの起動に先立って、発電所の運転担当者は発電する出力とその時刻について電力系統の運用担当者と調整することが求められる。従来の一般的な起動方式では、タービン起動開始直前の初期状態において見込まれる蒸気の温度、圧力あるいはロータのメタル温度といった諸条件から起動スケジュールが確定し、結果として発電出力と時刻の関係も一意に得ることができた。
【0008】
これに対して、特許文献1に記載の熱伝達率の逐次予測による起動方式は、起動過程にそってタービンの状態をモニタリングしながらリアルタイムに制御することを前提としているため、従来手法のように起動前の状態から起動スケジュールを計算して予め発電計画を策定することができない。
【0009】
本発明は、上述した課題を考慮してなされたもので、タービン設備の状態や外部環境の推移に基づいて熱伝達率を逐次に予測しながら最短の起動時間となるようにタービンを起動制御する方式を採用する発電設備において、タービン起動時間に影響をおよぼす運用条件を定義して装置内に登録し、この運用条件に基づいて熱伝達率の逐次予測方式でのタービン起動を実施した場合の熱応力を計算することで、回転上昇及び発電出力上昇の時系列パターンをシミュレーションによって得ることができる発電計画支援装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る発電計画支援装置は、
(1) 現在時刻から未来に亘る予測区間のタービンロータに発生する熱応力を予測してこの予測熱応力を規定値以下に抑えながらタービンの停止状態から発電運転状態に到達するまでの時間が最短となる回転数及び発電出力の上昇過程を計算する最適起動スケジュール推定手段と、
(2) 停止状態から発電運転状態に到達するまでの起動過程におけるタービンロータの熱応力の推移に影響を及ぼす運用条件を保持して前記最適起動スケジュール推定手段での計算において制約条件として作用する運用条件定義手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、前記最適起動スケジュール推定手段が、
(3) 前記運用条件定義手段で指定される運用条件に基づいてタービン第一段部の蒸気温度の推移を予測する第一段蒸気温度予測手段及びタービン第一段メタル温度の推移を予測する第一段メタル温度予測手段と、
(4) タービン第一段メタル温度の推移の予測値から推定されるタービンロータの熱応力予測値に基づいて回転上昇及び発電機出力上昇の起動過程での予測熱応力を規定値以下に抑えつつタービン起動時間が最短となる回転上昇及び発電出力上昇の推移パターンを計算する最適起動計算手段とを有する、
ことも、本発明の一態様である。
【0012】
さらに、本発明に係る発電計画支援方法は、
(5) 停止状態から発電運転状態に到達するまでの起動過程におけるタービンロータの熱応力の推移に影響を及ぼす運用条件を保持し、
(6) 保持した前記運用条件に基づき、現在時刻から未来に亘る予測区間のタービンロータに発生する熱応力を予測してこの予測熱応力を規定値以下に抑えながらタービンの停止状態から発電運転状態に到達するまでの時間が最短となる回転数及び発電出力の上昇過程を計算する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る発電計画支援装置および方法は、熱伝達率の逐次予測による高速のタービン起動方式を適用した発電設備において、タービン起動の以前に、発電出力とその時刻の関係を推定することによって発電計画の立案を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る発電計画支援装置の実施例1を説明するブロック図。
【図2】実施例1における運用条件定義手段2で指定される運用条件の設定方式を説明するグラフ。
【図3】実施例1における最適起動スケジュールの計算結果を通知する方式について説明するグラフ。
【図4】本発明の実施例2として、実機タービン及びタービン起動制御装置に本発明の装置を接続する構成を説明するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
本発明に係る発電計画支援装置および方法の実施例について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
[実施例1の構成]
図1は、本発明に係る発電計画支援装置および方法の一実施形態を示す構成図である。実施例1の発電計画支援装置は、最適起動スケジュール推定手段1と、その前段に設けられた運用条件定義手段2とから成る。本実施例に係る発電計画支援方法は、この発電計画支援装置を用いて実施される。
【0017】
最適起動スケジュール推定手段1は、第一段蒸気温度予測手段3、熱伝達率予測手段4及びメタル温度積算手段9と、これら各手段3,4,9からの入力データを元にメタル温度dTmを予測する第一段メタル温度予測5を備えている。この第一段メタル温度予測手段5の出力側には、熱応力予測手段6、最適起動計算手段7及びタービン回転数wと発電出力MWの積算手段8が順次接続されている。
【0018】
第一段メタル温度予測手段5の出力側はメタル温度積算手段9の入力側に接続され、第一段メタル温度予測手段5の出力dTmがメタル温度積算手段9に入力される。タービン回転数wと発電出力MWの積算手段8の出力側は前記熱伝達率予測手段4の入力側に接続され、積算手段8の出力値w,MWが熱伝達率予測手段4に入力される。熱伝達率予測手段4は、タービン回転数wと発電出力MWの積算手段8の出力値w,MWに基づいて熱伝達率の推移Hfを計算し、第一段メタル温度予測手段5に出力する。
【0019】
前記運用条件定義手段2は、時間トレンド保持手段10と起動開始時初期条件保持手段11とを備えている。時間トレンド保持手段10は、運用条件としてタービンに流入する蒸気の温度Ts及び圧力Psをタービン起動時点からの時間トレンドとして保持する。この時間トレンド保持手段10が保持するタービンに流入する蒸気の温度Ts及び圧力Psは、前記第一段蒸気温度予測手段3に入力される。前記第一段蒸気温度予測手段3は、この時間トレンド保持手段10から受信したタービンに流入する蒸気の温度Ts及び圧力Psに基づいて、起動過程おけるタービン第一段部の蒸気温度Tfの将来の推移を予測する。この蒸気温度Tfの予測値は、第一段メタル温度予測5に入力される。
【0020】
起動開始時初期条件保持手段11は、タービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiを定義して保持する。このロータメタルの温度Tmiは、前回タービンが停止してから経過した時間等によって定まるものであることから、起動開始時初期条件保持手段11に予め定義して保持する。このロータメタルの温度Tmiは、前記メタル温度積算手段9に入力される。
【0021】
前記メタル温度積算手段9は、このロータメタルの温度Tm及び前記第一段メタル温度予測手段5の出力dTmを受信して、ロータメタル温度の将来の推移Tmを求める。このロータメタルの温度の推移Tmは、第一段メタル温度予測5に入力される。
【0022】
前記第一段メタル温度予測手段5は、第一段蒸気温度予測手段3、熱伝達率予測手段4及びメタル温度積算手段9から入力した蒸気温度Tfの将来の推移、熱伝達率の推移Hf及びロータメタル温度の将来の推移Tmに基づいて、第一段メタル温度の変化ベクトルdTmを推定する。
【0023】
[実施例1の作用]
次に、前記のような構成を有する実施例1の作用を説明する。
【0024】
(1)第一段蒸気温度予測手段3
まず、最適スケジュール推定手段1の第一段蒸気温度予測手段3では、運用条件定義手段2で定義される運用条件に基づいて起動過程におけるタービン第一段部の蒸気温度Tfの将来の推移を予測する。
【0025】
本実施例1では、運用条件としてタービンに流入する蒸気の温度Ts及び圧力Psをタービン起動時点からの時間トレンドとして時間トレンド保持手段10に保持することとする。蒸気の温度Ts及び圧力Psは、タービン起動過程途中の特定の段階に対応して蒸気供給設備の能力(タービンから見た外部機器)、例えばコンバインドサイクル発電設備であればガスタービンや排熱回収ボイラといった機器の性能や運用基準に従って起動時の時間推移が決まってくる。すなわち、タービン第一段部の蒸気温度Tfの将来の推移に影響を及ぼす蒸気の温度Ts及び圧力Psについて、起動過程に沿った時間トレンドとして予め時間トレンド保持手段10に保持しておく。Ts及びPsを保持するためのデータの形式としては、時間軸に対して表形式でTs及びPsの推移を示すデータを保持する方式が単純な方法として考えられる。
【0026】
ここで、第一段蒸気温度予測手段3での計算周期が同等かより細かな時間分解能のデータを保持することが精度上好ましい。あるいは、タービン起動開始後の時間に対してTsとPsの上昇過程を示す数式でも良い。
【0027】
図2は、運用条件定義手段2で指定される運用条件の設定方式を説明するための例である。本実施例1ではタービン起動開始時点のタービン入口蒸気温度Tsの初期状態21とタービン入口蒸気圧力Psの初期状態22及びTsの時間変化率23とPsの時間変化率24、さらにTsの上限25とPsの上限26が示されている。
【0028】
また、タービン起動開始後の経過時間に関わりなく、個別の条件によってTsあるいはPsの変化率が切替わるように運用される場合がある。本実施例1では、切替条件として発電出力200MW到達時においてPsが一定値から5kg/cm2/minに切り替わる場合27を示した。このような条件式を運用条件定義手段2に保持しておくことが有効である。
【0029】
(2)第一段メタル温度予測手段5
次に、第一段メタル温度予測手段5において、下記の熱伝達方程式(1)により、第一段メタル温度Tmのk時点(k)の推移を逐次に予測する。
Tm(k)=Tm(k-1)+Hf(k){Ts(k-1)-Tm(k-1)}…(1)
但し、Tm(k):将来時点の第一段メタル温度
Tm(k-1):現在時点での第一段メタル温度
Tf(k-1):現在時点の第一段蒸気温度
Hf(k):将来時点の熱伝達率
【0030】
そして、第一段メタル温度予測手段5では、下記の式(2) により単位時間毎の第一段メタル温度の変化ベクトルdTmを推定する。
dTm=Tm(k)-Tm(k-1)…(2)
【0031】
このためには第一段蒸気温度Tf、熱伝達率の推移Hf及びメタル温度Tmの3つパラメータの推移を得る必要があるが、このうち第一段蒸気温度Tfは前記第一段蒸気温度予測手段3で予測されている。また、熱伝達率の推移Hfについては熱伝達率予測手段4において、タービン回転数wと発電出力MWに対する比例モデルによって、k時点のHfを下記の式(3) のように計算できる。
Hf(k)=a・w(k)+b・MW(k)…(3)
但し、a,bは比例定数
w(k)は将来時刻におけるタービン回転数
MW(k)は将来時刻における発電出力
【0032】
ここで、タービン起動開始時はタービン回転数wと発電出力MWは共に0であるが、後述の最適起動計算手段7において計算される回転数上昇率及び発電出力上昇率を逐次積算することで得られる。
【0033】
一方、ロータメタル温度の将来の推移Tmに関しては、タービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiが前回タービンが停止してから経過した時間等によって定まるものであることから、運用条件定義手段2の起動開始時初期条件保持手段11にTmiを予め定義して保持する。従って、タービン起動開始直後の最初の計算を第一段メタル温度予測手段5にて実施する際には、最初にメタル温度積算手段9においてTmiを選択して第一段メタル温度の予測値を計算する。2回目以降の計算においては、第一段メタル温度予測手段5自身で算出する第一段メタル温度の変化ベクトルdTmを逐次積算することで、その都度、第一段メタル温度を更新して計算に使用する。
【0034】
(3)熱応力予測手段6
熱応力予測手段6では、第一段メタル温度の変化ベクトルdTm及びタービンロータの金属材料特性とロータの構造から定まるロータ半径方向の温度分布から、ロータに発生する熱応力の推移を予測する。例えば、時刻kにおけるタービンロータに発生するロータ表面熱応力計算式は、タービンロータを無限長の円筒(無限円筒)と仮定して半径方向の熱分布のみを考慮する。タービンロータを半径方向に例えば10分割し、1制御周期をさらに10分割したモデルを用いると、タービンロータの回転体における熱応力を求める式は、次の(4)(5)式の状態空間モデルで表わされる。
【0035】
Xe(k)=Ae・Xe(k-1)+Be・Tm(k)…(4)
σs(k)=Ce・Xe(k)…(5)
但し、Ae,Be,Ce:ロータ材料の行列係数
Xe(k):現在時刻kにおけるロータの半径方向要素の温度分布
σs(k):現在時刻kにおけるロータの表面熱応力
【0036】
ここで、式(4)(5)におけるXe(k),Tm(k),Ae,Be,Ceは、次の式(6) により表示される。
【数1】

【0037】
式(6) における各定数、各変数は、次の式(7)により表示される。
【数2】

【0038】
式(6)(7)における各定数、変数は次の通りである。
Tm(k):サンプル時刻kの第一段メタル温度
Tj(k):サンプル時刻kの第j分割目のロータ内部温度
σs(k):サンプル時刻kのロータ表面熱応力
C(j),D(j):ロータメッシュ係数
E,F,G,H,EK:ロータ材料・外形・熱伝達係数
Ro:ロータ外形半径
ΔR:ロータ外形半径/分割数(10)
【0039】
式(4)(5)で表される熱応力計算式から現在時刻kに対して未来のmステップ先までの熱応力を予測する熱応力予測モデルは次の式(8)の状態空間モデルで表わされる。
【数3】

【0040】
式(8)が第一段メタル温度変化予測ベクトル[Tm]を入力とする熱応力予測モデルである。そこで、前記第一段メタル温度予測手段5で求めた予測区間の予測第一段メタル温度変化率dTm(k+j)(j=1,2,…,m)から式(8)を用いて予測区間での予測熱応力σs(k+j)(j=1,2,…,m)を計算することができる。
【0041】
(4)最適起動計算手段7
最適起動計算手段7では、タービンロータの熱応力予測値σsに基づいて、回転上昇及び発電機出力上昇の起動過程での予測熱応力を規定値以下に抑えつつタービン起動時間が最短となる最適タービン昇速率信号dwopt及び最適発電出力上昇率信号dMWoptの推移パターンを計算する。
【0042】
前記熱伝達予測手段4で予測区間の熱伝達率hf(k+j)(j=1,2,…,m)を表わす式(6)、第一段メタル温度予測手段5で計算された予測区間での予測第一段メタル温度変化率Tm(k+j)を表わす式(1)、及び熱応力予測手段6で予測区間の熱応力予測モデルを表わす式(8)から、予測熱応力σs(k+j)は、操作量である予測区間におけるタービン昇速率パターンdw(k+j)(j=0,1,2,…,m−1)の非線形関数で表されることがわかる。
【0043】
最適起動計算手段7では、発電プラント起動中のタービンロータに発生する熱応力をある規定値以下に抑えつつ最短の起動時間を実現するタービン昇速率パターンを求める最適化問題を次のように定式化している。
【0044】
制約条件:ある与えられた熱応力規定値σmaxに対して次式を満足させる。
【数4】

【0045】
また、必要に応じて操作量に上下限値を設ける。
【数5】

【0046】
ここで、操作量下限値dwminは、タービンロータのクリティカル回転数域か否かによって一例として次のように切り替える。
【0047】
(a) クリティカル回転数域のとき、操作量下限値dwminは、下記の通りとなる。
【数6】

【0048】
(b) クリティカル回転数域以外のとき、操作量下限値dwminは、下記の通りとなる。
【数7】

【0049】
これにより、クリティカル回転数域ではタービン昇速率はHOLDされず必ず値dwmin以上のタービン昇速率とすることができる。蒸気タービンの定格回転数を例えば3600rpmとするとクリティカル回転数域は900rpm〜3300rpmの範囲である。
【0050】
最適起動計算手段7では、予測区間におけるタービン昇速率パターンdw(k+j)(j=0,1,2,…,m-1)の最適化を図るために、下記の目的関数の最大化が図られる。
【数8】

【0051】
この最適化は、m変数非線形最適化問題であり、準Newton法によるライン探索等の手法により解くことができる。最終的には、先頭の最適操作量dw(k)を現在時刻kにおける最適タービン昇速率として決定し、最適タービン昇速率信号dwoptを得ることができる。
【0052】
最適起動計算手段7は、予測区間におけるタービン昇速率パターン(及び発電機負荷上昇率パターン)の最適化を定式化して計算することができる。この定式化において、設計変数dw(k-j)(j=0,1,2,…,m-1)に対して、予測区間での各ステップにおけるタービン昇速率が常に一定という下記の(11)式の拘束条件を付加させる。
【数9】

【0053】
(11)式によれば、予測区間におけるタービン昇速率パターンの最適化問題は、m変数最適化から1変数最適化へと大幅に簡略化させることができ、タービン起動制御装置10を実機に実装する上で有利になる。
【0054】
なお、以上の説明は最適タービン昇速率信号dwoptを得る場合について説明したが、最適発電出力上昇率信号dMWoptの推移パターンの計算も同様な手法で実施できる。
【0055】
(5)タービン回転数wと発電出力MWの積算手段8
タービン回転数wと発電出力MWの積算手段8では、前回時点の回転数w及び発電出力MWに、前記最適起動計算手段7によって得られた今回の計算サイクルにおける上昇分dwopt及びdMWoptを加算して、熱伝達率予測手段4の次回の計算サイクルで使う回転数w及び発電出力MWを生成する。すなわち、積算手段8で得られた回転数w及び発電出力MWは、前記熱伝達予測手段4に入力され、次回の熱伝達率の推移Hfを計算するために使用される。
【0056】
この結果として、図3に示すように、予測熱応力31は熱応力制限値32の範囲内で押さえながら、起動時間が最短となる回転数wの上昇過程33及び発電出力の上昇過程34からなる最適起動スケジュールが計算されて、発電設備の運転要員に通知される。
【0057】
さらに、前記実施例1の最適起動スケジュール推定手段1に、所定発電機出力に到達する時刻を指定してタービン起動操作の開始時刻を算出する起動操作開始時刻算出手段を設け、この起動操作開始時刻算出手段に対して起動完了時刻35を予め設定することによって、タービン起動操作を開始すべき時刻36を知ることができる。そのため、上記の発電計画支援装置においては、タービンの熱応力を逐次に予測して最短の起動時間となるようにタービンの起動制御を行う発電設備において、所要の起動時間を推定できるようになり、起動操作を開始すべき時刻を予め知ることで計画的な設備運用が可能になる。
【0058】
[実施例1の効果]
前記の通り、特許文献1の発明では、第一段メタル温度予測手段5に対して、第一段蒸気温度予測手段3からの予測第一段蒸気温度と現在時刻の第一段メタル温度を入力し、これに熱伝達手段からの熱伝達率の推移Hfを加えて予測第一段メタル温度変化率dTmを得ていた。これに対して、実施例1では、起動開始時初期条件保持手段11に保持させておいたタービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiをメタル温度積算手段9に入力する。そして、このメタル温度積算手段9において、熱応力予測手段6から得られた予測熱応力σsとタービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiに基づいて、第一段メタル温度変化予測ベクトル[Tm]を計算する。
【0059】
その結果、実施例1では、タービン起動時間に影響をおよぼすタービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiを考慮して、熱伝達率の逐次予測方式でのタービン起動を実施した場合の熱応力を計算することが可能になる。
【0060】
同様に、特許文献1の発明では、第一段蒸気温度は、発電プラント固有の関数として主蒸気圧力及び主蒸気温度の2変数で推定され、運用条件による時間トレンドとしては考慮されていなかった。これに対して、実施例1では、運用条件としてタービンに流入する蒸気の温度Ts及び圧力Psをタービン起動時点からの時間トレンドとして時間トレンド保持手段10に保持し、これを第一段蒸気温度予測手段3におけるタービン第一段部の蒸気温度Tfの予測に使用する。
【0061】
その結果、タービン起動時間に影響をおよぼす運用条件を定義して装置内に登録し、この運用条件に基づいて熱伝達率の逐次予測方式でのタービン起動を実施した場合の熱応力を計算することが可能になる。
【0062】
以上の通り、実施例1によれば、運用条件定義手段2の時間トレンド保持手段10に保持しておいた運用条件の時間トレンドに基づく蒸気圧力Ps及び蒸気温度Ts、起動開始時初期条件保持手段11に保持しておいたタービン起動開始時点のロータメタルの温度Tmiを、第一段メタル温度予測の演算に使用することで、タービン設備の運用条件も考慮した回転上昇及び発電出力上昇の時系列パターンを、シミュレーションによって得ることができる。
【実施例2】
【0063】
図4は、この発電計画支援装置および方法を用いた他の実施例として、実機のタービンを制御する場合の信号切り替えについて説明するものである。
【0064】
すなわち、タービン起動前の発電計画を策定する時点においては、実施例1の通り、最適起動スケジュール推定手段1を運用条件定義手段2と接続し規定の運用条件に基づく起動スケジュールを推定することができる。これに対して、実施例2のように、最適起動スケジュール推定手段1の各出力接点を実機タービンに附属するセンサ類や制御装置と接続させることにより、最適起動スケジュール推定手段1を活用した実機タービンの制御が可能になる。
【0065】
[実施例2の構成]
図4において、符号40は発電機、41は実機タービン、42はタービン起動制御装置、43はタービン入口蒸気温度及び圧力の検出センサ、44はロータメタル温度検出センサ、45は発電機の回転数及び発電出力検出センサである。前記実機タービン41には、蒸気の供給配管46が接続され、この蒸気供給配管46に制御弁47が設けられている。この制御弁47は、前記タービン軌道制御装置42に設けられた回転数・発電出力制御手段48によってその開閉度が制御される。
【0066】
前記タービン入口蒸気温度及び圧力の検出センサ43は、第一段蒸気温度予測手段3への入力点50に接続されている。ロータメタル温度検出センサ44は、第一段メタル温度予測手段5への入力点51として接続されている。回転数及び発電出力検出センサ45は、熱伝達率予測手段4への入力点52として接続されている。最適起動計算手段7の出力点53は、タービン起動制御装置42の回転数・発電出力制御手段48を介して制御弁47に接続されている。
【0067】
[実施例2の作用・効果]
前記のような構成を有する実施例2においては、実機タービン41及びタービン起動制御装置42と最適起動スケジュール推定手段との接続点46,47,48,49を切り替え可能に構成する。これにより、実施例2では、運用条件制御手段2からの時間トレンドや起動開始時初期条件と、最適起動計算手段7で得られる回転上昇及び発電出力上昇の推移パターンを切り替え、これらから得られた情報に基づいて実機のタービンを制御することが可能になる。その結果、発電計画で使用した機能をシームレスに活用して実機タービンを起動制御することが可能になる。
【符号の説明】
【0068】
1…最適起動スケジュール推定手段
2…運用条件定義手段
3…第一段蒸気温度予測手段
4…熱伝達率予測手段
5…第一段メタル温度予測
6…熱応力予測手段
7…最適起動計算手段
8…w,MW積算手段
9…メタル温度積算手段
10…時間トレンド保持手段
11…起動開始時初期条件保持手段
21…タービン入口蒸気温度初期値
22…タービン入口蒸気圧力初期値
23…タービン入口蒸気温度変化率
24…タービン入口蒸気圧力変化率
25…タービン入口蒸気温度最大値
26…タービン入口蒸気圧力最大値
27…タービン入口蒸気圧力変化率切替条件
31…予測熱応力の推移
32…熱応力規定値
33…回転数上昇過程
34…発電出力上昇過程
35…起動完了指定時刻
36…起動操作開始時刻
40…発電機
41…実機タービン
42…タービン起動制御装置
43…タービン入口蒸気温度及び圧力の検出センサ
44…ロータメタル温度検出センサ
45…回転数及び発電出力検出センサ
46…蒸気供給配管
47…制御弁
48…回転数・発電出力制御手段
50…第一段蒸気温度予測手段への入力点
51…第一段メタル温度予測手段への入力点
52…熱伝達率予測手段への入力点
53…最適起動計算手段の出力点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止状態から回転上昇と発電機出力上昇からなる起動過程を経て発電運転状態に到達するまでの所要時間を求めるタービン発電機設備の発電計画支援装置において、
現在時刻から未来に亘る予測区間のタービンロータに発生する熱応力を予測してこの予測熱応力を規定値以下に抑えながらタービンの停止状態から発電運転状態に到達するまでの時間が最短となる回転数及び発電出力の上昇過程を計算する最適起動スケジュール推定手段と、
停止状態から発電運転状態に到達するまでの起動過程におけるタービンロータの熱応力の推移に影響を及ぼす運用条件を保持して、この運用条件を前記最適起動スケジュール推定手段での計算において制約条件として指定する運用条件定義手段と、
を備えたことを特徴とする発電計画支援装置。
【請求項2】
前記最適起動スケジュール推定手段は、前記運用条件定義手段で指定される運用条件に基づいてタービン第一段部の蒸気温度の推移を予測する第一段蒸気温度予測手段及びタービン第一段メタル温度の推移を予測する第一段メタル温度予測手段と、
タービン第一段メタル温度の推移の予測値から推定されるタービンロータの熱応力予測値に基づいて回転上昇及び発電機出力上昇の起動過程での予測熱応力を規定値以下に抑えつつタービン起動時間が最短となる回転上昇及び発電出力上昇の推移パターンを計算する最適起動計算手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の発電計画支援装置。
【請求項3】
前記運用条件定義手段で指定される運用条件として、タービンに流入する蒸気温度及び蒸気圧力に関する、タービン停止状態から発電運転状態に到達するまでの時間トレンドを含む請求項1又は2に記載の発電計画支援装置。
【請求項4】
前記運用条件定義手段で指定される運用条件として、タービンに流入する蒸気温度及び蒸気圧力は、タービン起動過程途中の特定の段階に対応して蒸気供給設備の能力に基づいた制限が付されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発電計画支援装置。
【請求項5】
前記運用条件定義手段で指定される運用条件として、タービン起動開始時点のタービン第一段メタル温度を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発電計画支援装置。
【請求項6】
前記最適起動スケジュール推定手段に、所定発電機出力に到達する時刻を指定してタービン起動操作の開始時刻を算出する、起動操作開始時刻算出手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発電計画支援装置。
【請求項7】
前記最適起動スケジュール推定手段に前記運用条件定義手段と実機タービンに設けられたセンサ装置とが切り替え可能に接続され、前記最適起動スケジュール推定手段が前記運用条件定義手段と実機タービンに設けられたセンサ装置からの情報に基づいて回転上昇及び発電出力上昇の推移パターンを推定するものであり、
この最適起動スケジュール推定手段によって推定された回転上昇及び発電出力上昇の推移パターンに基づいて実機のタービンを制御することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発電計画支援装置。
【請求項8】
停止状態から回転上昇と発電機出力上昇からなる起動過程を経て発電運転状態に到達するまでの所要時間を求めるタービン発電機設備の発電計画支援方法において、
停止状態から発電運転状態に到達するまでの起動過程におけるタービンロータの熱応力の推移に影響を及ぼす運用条件を保持し、
保持した前記運用条件に基づき、現在時刻から未来に亘る予測区間のタービンロータに発生する熱応力を予測してこの予測熱応力を規定値以下に抑えながらタービンの停止状態から発電運転状態に到達するまでの時間が最短となる回転数及び発電出力の上昇過程を計算する、
ことを特徴とする発電計画支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−111959(P2011−111959A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268342(P2009−268342)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】