説明

皮内細胞移植のためのデバイスおよび方法

本発明は、頭皮内に毛包誘導細胞を移植するためのデバイスおよび方法に関する。毛包細胞は同一個体のドナー細胞から組織培養法の使用によって生成される。細胞は、予め定められた角度、密度および深さのパラメーター利用して、頭皮内に移植するためのミクロプロジェクションアレイ上に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の組織への生存可能な細胞の投与および移植に関する。より具体的には、本発明は、好ましくは細胞を保持するように適合されている皮膚に穿刺するミクロプロジェクション(microprojection)を使用して、生物体を取り囲む外皮の1層以上の細胞層をとおして生存可能な細胞を経皮的に送達するための細胞移植システムに関する。
【背景技術】
【0002】
年齢および/または疾病による毛髪の喪失(脱毛症)は一般的に起きることである。この問題を矯正する種々の方法が試みられてきた。かつら(wig)、付け毛(toupee)、編み込み(weave)およびなお毛髪上へのスプレー(spray−on−hair)のような方法が利用されてきた。これらの方法は、毛髪の喪失それ自体をもたらした生理学的な変化を停止または好転させるよりもむしろ毛髪の喪失を化粧的に隠すかまたは変装させることによって問題を扱うことを試みている。
【0003】
毛髪の喪失を停止または好転させる先行技術の試みは医薬を利用した。注目される例は、通常、頭皮に局所的に適用されるミノキシジル(minoxidil)(Rogaine(R))である。フィナステリド(finasteride)(Propecia(R))は、毛髪喪失を矯正することを意図したその他の医薬である。それは、経口的に送達される全身性投薬として使用される。これらの製薬学的アプローチは、毛髪喪失を好転させるそれらの効力は可変的であることが証明され、そして実質的なパーセンテージの患者のためには作用しない。
【0004】
製薬学的アプローチに対して、毛包移植が一層大きな成功を提供した。そのような方法は、生存可能な小胞を含有する頭皮の領域から毛包または毛包の集塊を外科的に採取し、それらを毛髪の喪失を被った頭皮の他の領域に移植するというオートロガスな操作を必要とする。
【0005】
初期の操作は毛細胞の比較的大きい集塊の移植を必要とした。この制約は、得られる毛髪の成長について非常に人工的な外観を生じた。より進歩した外科技術が発達した結果、さらにより小さい集塊の移植を可能にして、得られる新しい毛髪の成長の美的特質を改善した。
【0006】
それにもかかわらず、これらの先行技術はある種の制約を有した。主として、存在する小胞の移植は、生存可能な小胞の数を増加しないで、単にそれらの場所を替えるだけである。移植片が、既に有意な毛髪喪失を被っている患者に由来する場合は、全頭皮を完全に回復するのに十分な数の小胞は存在しないであろう。さらに、移植した小胞の寿命は不確かである。さらにまた、毛髪喪失に関する生理学的原因は矯正されなかった。その結果、小胞が死滅する割合は、この移植片の結果として改変されなかったかもしれない。かくして、患者の症状が遺伝的に全頭禿げをもたらす場合、移植操作が進行を変えることはないであろう。移植された小胞は新しい場所において衰退の平常な進行に従うであろう。
【0007】
移植操作のなおその他の短所は、この操作に要求される高い技量レベルである。それらは、無菌条件下で、熟達した医者によって実施されることが必要であり、そして通常は複数回の移植を必然的に伴う。
【0008】
これらの制約を克服するために、生存可能な小胞の数を増加させる試みがなされた。例えば、毛始原細胞の組織培養増殖とこれらの細胞の皮膚への大規模な外科的配置を論じる多数の特許が発行された。特許文献1では、培養した皮膚乳頭細胞を、この細胞が表皮細胞と接触するように真皮中に配置することが、完全に機能的な毛包の形成をもたらすことを開示している。これらの細胞は毛包が形成されるように周囲の細胞の分化を始動させる。引用される操作では、1〜3mmの長さの範囲であり、そして表皮の完全な深さを超える深さまで作られた隙間が皮膚に作成された。細胞は、1000〜1.000,000個の細胞を含有する0.5〜50μlの容量で導入された。
【0009】
その他の例、特許文献2では、皮膚乳頭、毛包の形態学的構成要素が、ドナーの毛包から切除され、次いで組織培養基において増殖された操作が記述されている。この操作では、ヒアルロン酸塩−ゼラチン基質が、直径0.0035インチのワイヤーを含有するニードル(針)の内側に詰め込まれた。ニードル/ワイヤー組み合わせ物が使用されて、皮膚乳頭組織培養フラスコから集密細胞がこすり取られた。ニードル/ワイヤーおよび付着した細胞が培養基に置かれ、そして細胞は約1週間増殖させられた。次いで、小ブレプ(blep)が毛髪の成長が望まれる場所の頭皮中に生成された。ブレプは頭皮中にヒアルロン酸ナトリウムの溶液を注入することによって生成された。ブレプがナイフにより刺され、そしてワイヤーと付着した細胞が次にブレプ中に挿入された。ニードルが除かれ、その後でワイヤーが除かれて、頭皮内のその位置に細胞が残された。
【0010】
これらの引用文献は、生存可能な毛包誘導細胞を培養し、それを患者の頭皮に接種することが可能であることを示している。しかしながら、これらの先行技術の方法は、単調で退屈な操作と高い技量レベルを要するので、毛髪喪失のための処置としてそれらを比較的実用性に欠けるものにさせる。
【0011】
かくして、高い割合の真の毛髪の回復を提供し、伝統的な毛髪移植技術よりも高い技量を必要とせず、利用可能かつ生存可能な毛包の総数を増加し、そして頭皮の有意な部分を速やかに処置する、毛髪喪失の処置に対するニーズが残されている。
【0012】
したがって、本発明の目的は、ミクロプロジェクションアレイを使用して毛包を経皮的に送達することによって毛髪の喪失を処置する方法を提供することである。
【特許文献1】Oliver、米国特許第4,919,664号
【特許文献2】Barrows,WO02/060039
【発明の開示】
【0013】
上記目的ならびに以下に記述され、そして明らかになるであろうそれらにしたがって、本発明は、複数の角質層−穿刺ミクロプロジェクションおよび少なくとも1個のミクロプロジェクションの上に堆積された毛包誘導細胞の調合物を有するミクロプロジェクションアレイを用いて患者に毛包を移植するための経皮送達システムを包含する。
【0014】
好ましくは、アレイのミクロプロジェクションは調合物を保持するように形造られる。1つの実施態様では、空洞(cavity)は対称的かつ凹面である。また、空洞は、挿入に際して調合物を保持し、そして組織からのミクロプロジェクションの撤去に際して調合物の放出を可能にするように形造られた保持バリヤーを含有する。さらに、空洞は、ミクロプロジェクションの広い面または狭い縁に配置されてもよい。
【0015】
若干の実施態様では、ミクロプロジェクションは、また、調合物をはずすのを容易にするために空洞に圧力を伝えるように形造られた圧力導管を有する。
【0016】
本発明のその他の態様では、ミクロプロジェクションは、所望の創傷路(wound path)を生じるように形造られた絶対方向(absolute orientation)を有する。例えば、絶対方向は、シートに対するミクロプロジェクションの角度、例えば約45〜90度であってもよい。絶対方向は、所望の毛包の方向をもたらすように形造られる。
【0017】
本発明の1つの実施態様では、調合物はミクロプロジェクションの特定の部分に選択的に適用される。例えば、ミクロプロジェクションは、水性調合物が空洞内のみに保持されるように、空洞上を除いて疎水性コーティングを有してもよい。
【0018】
その他の実施態様では、調合物は、挿入の間それを保持するのを助けるためにミクロプロジェクション上で凍結される。調合物は、ミクロプロジェクションが角質層を通して一旦挿入されると融解されて毛包誘導細胞を送達させることができる。
【0019】
なおその他の実施態様では、生体被浸食性(bioerodible)ポリマーがミクロプロジェクションに適用され、そして調合物がポリマー中に組み込まれる。アレイは、ポリマーが浸食されて毛包誘導細胞を送達するまで組織内に残される。
【0020】
好ましくは、本発明のデバイスおよび方法は、培養した同一個体間の(autologous)皮膚乳頭細胞の移植に対向される。あるいはまた、同種間および異種間の細胞もまた使用できる。
【0021】
本発明の方法は、一般に、複数の角質層−穿刺ミクロプロジェクションおよび少なくとも1個のミクロプロジェクションの上に堆積された毛包誘導細胞の調合物を有するミクロプロジェクションアレイを提供し、毛包誘導細胞のミクロプロジェクション調合物が角質層の下の組織に送達されるように患者にミクロプロジェクションアレイを適用する段階を含む。好ましくは、本方法は、ミクロプロジェクション上に調合物の実質的な部分を保持し、ミクロプロジェクションの撤去の際に調合物を放出することを含む。
【0022】
本発明の実施態様では、方法はまた、所望の創傷路を生成するためにミクロプロジェクションの絶対方向および相対方向を選択することを含む。好ましくは、毛包の方向付けは、所望の創傷路の生成によって影響される。
【0023】
また本発明の方法は、ミクロプロジェクションアレイにより毛包誘導細胞を経皮的に移植することによって患者の毛髪を成長させることを含む。
【0024】
本発明のなおその他の方法は、ミクロプロジェクションアレイを提供し、そしてミクロプロジェクションアレイ上に毛包誘導細胞の調合物を堆積させることによる毛髪喪失の処置デバイスの形成である。
【0025】
本発明の1つの態様では、少なくとも1個のミクロプロジェクションは、調合物がミクロプロジェクションに適用される場合、調合物が非疎水性の空洞にのみ保持されるように、非疎水性の空洞を除く疎水性材料を有する。
【0026】
本発明のその他の態様では、調合物はミクロプロジェクションアレイ上で凍結される。あるいはまた、調合物は、アレイの少なくとも1個のミクロプロジェクションに適用される生体被浸食性ポリマー中に含有されてもよい。
[発明の詳細の記述]
本発明を詳細に記述する前に、この発明が、もちろんそれ自体変わってもよい具体的に例示される材料、方法または構造に限定されないことを理解すべきである。かくして、本明細書に記述されるものと類似または等価の多くの材料および方法が本発明の実行において使用できるけれども、好適な材料および方法が本明細書で記述される。
【0027】
また、本明細書で使用される用語は本発明の特定の実施態様のみを記述する目的のためにあり、限定されることを意図するものではない。
【0028】
外に定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が関係する当業者によって普通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
さらに、本明細書に引用されるすべての出版物、特許および特許出願は、前出もしくは後出にかかわらず、完全に引用によってここに組み入れられている。
【0030】
最後に、本明細書および添付される請求項に使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明らかに別に指示しない限り、複数指示物を含む。かくして、例えば、「ミクロプロジェクション(a microprojection)」に関しては2種以上のそのようなミクロプロジェクションを含む、等々。
【0031】
定義
本明細書で使用されるように、用語「ミクロプロジェクション」は、生きている動物、特に哺乳動物、より具体的には、角質層をとおしてヒトの皮膚の、下側の表皮層、または表皮および真皮層中に穿刺もしくは切り込むように適合されている穿刺エレメントを指す。本発明の1つの実施態様では、ミクロプロジェクションは、1000ミクロン未満の突起部の長さを有する。さらなる実施態様では、ミクロプロジェクションは、500ミクロン未満、より好ましくは250ミクロン未満の突起部の長さを有する。ミクロプロジェクションは、典型的には、約5〜50ミクロンの幅と厚さを有する。また、ミクロプロジェクションは、約75〜500ミクロンの幅を有してもよい。ミクロプロジェクションは、種々の形式、例えば。ニードル、中空ニードル、ブレード、ピン、パンチおよびそれらの組み合わせ物において形成されてもよい。それ自体、用語「ミクロプロジェクション」「ミクロプロトルージョン(microprotrusion」、「ミクロブレード」および「ミクロニードル」は、前後を通じて互換性をもって使用される。
【0032】
本明細書で使用されるように、用語「送達メンバー」、「ミクロプロジェクションアレイ」および「ミクロプロジェクションメンバー」は、一般に、角質層を穿刺するために列に配列された複数のミクロプロジェクションを意味する。アレイは、薄いシートから複数のミクロプロジェクションを刻み込んだり、型抜きし、そしてシートの平面からミクロプロジェクションを折り畳んだり、曲げることによって作成して、図1に示され、そして引用によって完全に本明細書に組み入れられているTrautmanらの米国特許第6,083,196号に記述されるような形態を形成してもよい。シートまたはメンバーの面積に関する言及およびシートまたはメンバーの面積についてのいくつかの特性に関する言及は、シートの外側の境界線もしくは境界によって限定された面積を指す。
【0033】
また、ミクロプロジェクションアレイは他の既知の方法、例えば、Zuck、米国特許第6,050,988号に開示されるように、各帯び(strip)の縁に沿ってミクロプロジェクションを有する1個以上の帯びを形成することによって作成されてもよく、これは引用によって完全に本明細書に組み入れられている。本発明により使用されてもよい他のミクロプロジェクションメンバーは、限定されるものではないが、米国特許第6,083,196号、同第6,050,988号、同第6,091,975号、同第5,879,326号および同第5,983,136号に開示されているメンバーを含み、これらは、引用によって完全に本明細書に組み入れられている。
【0034】
本発明は、患者から採取された皮膚乳頭細胞を増殖させるために組織培養技術の使用に頼る。あるいはまた、同種の起源または操作した異種から得られる細胞が使用できる。これらの細胞は、次に、ミクロプロジェクションアレイの使用によって同じ患者の頭皮に移植される。細胞は表皮と接触されるように移植される。これが完全に機能的な毛包の形成をもたらす。この技術の重要な利点は、採取され、そして組織培養操作を開始するために使用できる頭皮上になお残っている十分な生存可能な小胞が存在する場合には、その技術が、患者にとって利用できる毛包の数の増加を提供することである。
【0035】
培養細胞の送達は、ミクロプロジェクションが生物体の外側の外皮、例えば角質層を穿刺し、そしてミクロプロジェクションが個々の外皮内または下の適当な場所に細胞を堆積させる場合に達成される。具体的には、本発明は、毛包の発達とそれに続く新しい毛髪の成長を惹起する目的のために、頭皮内の予定した場所に毛包誘導細胞を移植できるデバイスおよび方法に関する。
【0036】
かくして、本発明の態様はミクロプロジェクションの小アレイの使用である。ミクロプロジェクションは、組織培養技術によって増殖された毛包始原細胞を保持および保有するように設計される。このアレイは、ミクロプロジェクション上に始原細胞を負荷され、次いで頭皮に適用される。ミクロプロジェクションは頭皮を穿刺し、そして細胞を堆積させる。アレイは適当な長さ、方向および間隔のミクロプロジェクションを含有し、それによって、頭皮の表面における間隔、ならびに細胞が堆積される頭皮の表皮中の深さおよび得られる毛包の好ましい方向に関して、細胞の適当な配置を達成する。
【0037】
ミクロプロジェクションアレイは本発明の実施において多くの利点を与える。アレイは、侵入を制御するための様々な長さを有するミクロプロジェクション、送達される毛包誘導細胞数を制御するための面積当たり様々な密度のミクロプロジェクション、および頭皮中へミクロプロジェクションの侵入する角度を制御して、得られる毛線維が頭皮に対して作る角度を指定するための様々な角度を有するミクロプロジェクションを用いて作成することができる。当業者が評価できるように、侵入角度は、自然な様相の毛髪パターンを得る決定的ファクターである。
【0038】
一般に、本発明の1つの態様は、ミクロプロジェクションアレイ、一連のミクロプロジェクションが、典型的にはプレートから45〜90度の範囲の角度において伸長しているプレートまたはシートを含む。好ましくは、各ミクロプロジェクションの長さは、物理的に、100〜600μmの範囲であってもよい。プレートは、典型的には、全面積10cmまでの範囲の金属、好ましくはチタンから作られる。ミクロプロジェクションの密度は、1cm当たり10〜1,000個のミクロプロジェクションの範囲であってもよい。これらの物理的制限内で、すべての上記パラメーターが変えられて特定の患者のニーズに適合する移植管理計画を提供できる。
【0039】
ここで、図1Aを参照すれば、ミクロプロジェクションアレイ5の1つの実施態様が、本発明による使用のために具体的に説明される。図1Aは、生体表面、例えば角質層に穿刺もしくは切り込むように形造られている複数のミクロプロジェクション10を有するミクロプロジェクションアレイの一部分を示す。この実施態様では、ミクロプロジェクションは、薄い金属シート12から複数のミクロプロジェクション10を刻み込んだり、型抜きすることによって作成される。示されるように、ミクロプロジェクション10は、シート12から実質的に90°の角度にシートの平面から曲げられて、部分的に開口部分14を形成している。シート12は、シート12の裏張りを含む送達パッチ中に組み込まれてもよく、そしてさらに皮膚にパッチを接着するための接着剤を含有してもよい。
【0040】
ステンレススチールおよびチタンのような金属が好適である。金属ミクロプロジェクションメンバーは、Trautmanらの米国特許第6,083,196号;Zuck、米国特許第6,050,988号;およびDaddonaら,米国特許第6,091,975号に開示されている;これらの開示は引用によって完全に本明細書に組み入れられている。本発明にしたがって使用できる他のミクロプロジェクションメンバーは、シリコンチップエッチング技術を用いてシリコンを刻み込むか、または刻み込まれた微小鋳型を用いてプラスティックを成形することによって形成される。シリコンおよびプラスティックのミクロプロジェクションメンバーは、Godshallらの米国特許第5,879,326号に開示されている;これの開示は引用によって本明細書に組み入れられている。
【0041】
また、図1Aには、1個以上のミクロプロジェクション10の広い面15aの1つに位置する1個以上の空洞が示される。これらおよび他の空洞は、毛包誘導細胞の液状または凍結したいずれかの懸濁液を保持するように設計されている。毛包誘導細胞は、また、空洞内に堆積される生体被浸食性ポリマー内に含有されてもよい。
【0042】
図1Bは、ミクロプロジェクション10の1つの断面図である。空洞16は、図1Aおよび1Bでは円形であるように示されているが、いかなる数の他の形式も可能であり、これらのあるものが以下に開示される。
【0043】
図2Aは、単一のミクロプロジェクション10を図示している。ミクロプロジェクション10は、生物表面に穿刺できなければならないので、通常、広い面15aと狭い縁15bをもつ平らな刃のような形式を有する。空洞16は、ミクロプロジェクション10の広い面15aの1つに沿って位置するのが示される。空洞16は、図1Aおよび1Bに示されるように対称的な凹面の空洞であってもよい。しかしながら、図2Aおよび2Bに示されるように、空洞16はまた非対称であり、そして保持バリヤー18を有するよう適合されていてもよい。
【0044】
好ましくは、空洞16は、頭皮へのミクロプロジェクションアレイ5の挿入に際して、空洞16に含有された調合物が保持バリヤー18の背面に実質的に捕捉(trap)および/または捕獲(catch)されるように形造られる。この助けにより、挿入の間に調合物がはずれるのが防がれる。さらに、空洞16の前縁19は、好ましくは弱く傾斜していて、それによって、頭皮からミクロプロジェクションアレイ5の撤去が、空洞16から調合物を容易に滑落させる。かくして、調合物は、空洞16がミクロプロジェクションアレイ5の挿入後に置かれた深さの頭皮組織内に堆積される。
【0045】
狭い縁15bもまた空洞24のような空洞の部位であってもよい。空洞24は、限定されるものではないが、図1Aおよび1Bに示されるような同じ対称的な外形を有してもよいが、また図2Aおよび2Bに示されるような空洞16の外形または図3および4に示されるような外形を有してもよい。
【0046】
図3は、先端15cに位置する空洞16を示す。この位置の空洞は、挿入過程が空洞16内に位置する調合物または懸濁液を空洞中の下へ送る力になるような利点を有する。
【0047】
場合によっては存在する圧力導管17は、組織内での調合物または懸濁液の堆積を助けるよう導管に沿って圧力を働かせるために含まれてもよい。好ましくは、圧力導管17は、1個以上のミクロプロジェクションに、いずれか液体または気体の圧力を伝えるために使用できる。ミクロプロジェクションアレイ5が生物表面に挿入された後、気体または液体の圧力の短時間の適用が空洞16から調合物を静かに押し出す。圧力導管は図3および4にのみ示されるけれども、それは、図1A,1B,2Aまたは2Bに示される態様に含まれてもよい。
【0048】
図4は、図3に示されるものと類似の態様を示すが、これはまた、空洞16のより低い部分に位置する保持ポケットを含む。保持ポケットの付加は、挿入時の調合物の保持をさらに助ける。前記のように、圧力導管17の含有は、ミクロプロジェクションアレイ5の適当な挿入後の組織内での調合物の放出または堆積を助ける。
【0049】
先に議論したように、ミクロプロジェクションは毛包誘導細胞を保持する空洞または他の手段を含有するように設計されている。ミクロプロジェクションの空洞内に堆積された毛包誘導細胞を含有するミクロプロジェクションアレイは、次いで、頭皮の組織中に挿入される。本明細書での主要な議論は、頭皮への毛包誘導細胞の移植に焦点を当てているが、本発明のデバイスおよび方法が、毛が成長するのが望まれる身体のすべての領域、例えば眉、顔または腕に適用されてもよいことは理解されねばならない。
【0050】
本発明のその他の態様は、移植された毛包の望ましい方向を生成することに対向される。頭皮への毛包誘導細胞の送達は各侵入路のための傷を残す。ミクロプロジェクションアレイの挿入および撤去の間の表皮における傷つけながらの路、または創傷路は、小胞の発達の方向ならびに得られる毛線維が移植組織に対してとる方向付けに影響を与えることができる。したがって、ミクロプロジェクションアレイは、ミクロプロジェクションの侵入および撤去路の方向付けを制御するように形造ることができる。
【0051】
創傷路の2つの態様は、毛包移植の外観に関係をもつ。第1は、その路が組織の表面に対して作る絶対角度である。第2は、患者全体に関する創傷路の相対的方向付けである。例えば、移植が頭皮表面に対して約45度の絶対方向で頭頂部に直接行われる場合、相対方向は所望のパターンを生じるように選ぶことができる。例えば、相対方向が頭の後部に向けられる場合、発達する毛幹は後方に向けられるであろう。それに対応して、傷の角度が頭の正面に向けられる場合、発達する毛幹は一般に前方に向けられるであろう。かくして、絶対方向および相対方向の角度は、毛髪の成長の美的に満足できるパターンを達成するために選択できる。
【0052】
絶対方向を制御するために、ミクロプロジェクション10は、アレイ5の平面に対して所望の角度で位置を定められる。次いで、アレイが、所望の相対方向で頭皮に適用できる。好ましくは、アレイ5上のミクロプロジェクション10のいずれかの絶対方向が、適当な相対的配置を確保するためにマークを付される。これはいずれか適当な方式において達成できる。例えば、ミクロプロジェクションアレイの基板の1端が刻み目を付けられるか、またはいくつかの他の方式でマークされて、ミクロプロジェクションの方角を指示する。
【0053】
ある実施態様では、ミクロプロジェクションアレイ10は、好ましくは、2001年10月12日提出、同時係属米国特許出願第09/976,762号において詳細に記述されているように、リテイナー・リング(retainer ring)中に吊るされる(suspended);これは引用によって本明細書に完全に組み入れられている。リテイナー・リング中にミクロプロジェクションアレイ10を設置した後、ミクロプロジェクションアレイ10は、2001年10月12日提出の同時係属米国特許出願第09/976,798号に開示されているように、好ましくはインパクト・アプリケーター(impact applicator)を用いて患者の頭皮に適用される;これは引用によって本明細書に完全に組み入れられている。ミクロプロジェクションアレイは、脆弱なつまみによってリングに結合される。アプリケーター内の蓄えられたエネルギーが放出されると、ピストンがミクロプロジェクションアレイ上に作動し、脆弱なつまみを破壊し、マウンティングリング(mounting ring)からミクロプロジェクションアレイを遊離して、それを皮膚中に打ち込む。リングは、頭皮への挿入に際して適当な相対的方向付けを容易にするため、そこに載せられたミクロプロジェクションの角度の方向を指示するようにマークされていてもよい。
【0054】
適当にマークされるか、または他の方法で指示されたミクロプロジェクションの角度と方向の両方により、オペレーターは、レシピエントの身体に対して所望の向きにミクロプロジェクションの方向を整列させることができる。例えば、毛髪の自然部分に垂直に、頭冠の周囲に放射状に、または腕の長軸に垂直に、毛包の方向を定めることが望まれてもよい。
【0055】
1つの実施態様では、ミクロプロジェクションアレイは、ハンドルに載せられるように形造られてもよい。好ましくは、アレイは1方向のみに固定されるべきである。両ハンドルおよびミクロプロジェクションアレイは、組み立てられた時に、ハンドルの指示マークが、オペレーターによって適当な方向でミクロプロジェクションアレイに適用できるように適合されてもよい。
【0056】
本発明のその他の態様は、良好な毛髪の成長を達成するようにミクロプロジェクション10の空洞16内に毛包調合物を堆積させることに対向される。1つの実施態様では、空洞16を除くミクロプロジェクション10の全領域は疎水性材料によってコーティングされる。次いで、ミクロプロジェクションアレイは、均一に分散された細胞集塊の水性懸濁液中に浸漬される。疎水性材料は水性懸濁液をはじいて、非疎水性の空洞のみがコーティングされる。ミクロプロジェクションをコーティングする適当な方法およびそのようなコーティングを適用するのに有用な装置は、2001年10月26日提出の米国特許出願第10/045,842号、2002年3月15日提出の同第10/099,604号、2003年6月30日提出の同第60/484,142号、および同第60/285,576号に開示されている;これらの開示は引用によって本明細書に組み入れられている。
【0057】
その他の実施態様では、細胞懸濁液はミクロプロジェクションアレイの空洞内に堆積され、次いで凍結される。この方法では、各アレイは1回のみ使用される。比較的小容量が伴われるので、凍結懸濁液は、頭皮組織内で入れられると直ぐ急速に液状に融解して、細胞集塊の堆積を可能にする。
【0058】
なおその他の実施態様では、細胞集塊は、ミクロプロジェクション上に直接コーティングされるか、またはミクロプロジェクションの1個以上の面上の空洞内に堆積される、生体被浸食性ポリマー中に組み込まれてもよい。次いで、ミクロプロジェクションアレイは、頭皮に挿入され、ポリマーにとって十分長くその場所に残されて浸食され、そして細胞集塊を頭皮組織中に放出する。
【0059】
本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者は本発明に種々の変更および改変を作成して種々の使用法および条件にそれを適合できる。それ自体、これらの変更および改変は、厳密に、正当に存在し、そして次の請求項の等価の完全な範囲内にあることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】図1Aは、生存可能な要素の調合物、懸濁液またはコーティングを保持するいくつかのミクロプロジェクション上に空洞を有するミクロプロジェクションアレイを示す、本発明の1つの実施態様の一部の遠近画法的概念図である。
【図1B】図1Bは、毛包誘導細胞の調合物を保持するための空洞の1つの実施態様を示す1つのミクロプロジェクションの断面図である。
【図2A】図2Aは、生存可能な要素の懸濁液を含有するためのミクロプロジェクション上の2つの空洞の代替実施態様を示す単一ミクロプロジェクションの遠近画法的概念図である。
【図2B】図2Bは、図2Aに示したミクロプロジェクションの断面図を示す。
【図3】図3は、ミクロプロジェクションの縁に配置された空洞のその他の実施態様ならびに周囲の組織中に懸濁液を放出させるための任意の圧力導管を含有する単一ミクロプロジェクションの遠近画法的概念図である。
【図4】図4は、図3に示した1つに類似するが、さらなる保持ポケットを含む、単一ミクロプロジェクションの遠近画法的概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角質層−穿刺ミクロプロジェクションおよび少なくとも1個の該ミクロプロジェクションの上に堆積された毛包誘導細胞の調合物を有するミクロプロジェクションアレイを含んでなる、患者に毛包を移植するための経皮送達システム。
【請求項2】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが空洞を有し、そして該毛包誘導細胞の調合物が該空洞内に堆積されている、請求項1の経皮送達システム。
【請求項3】
該毛包誘導細胞が同一個体、同種および異種の1次起源からなる群から培養された皮膚乳頭細胞を含む、請求項2の経皮送達システム。
【請求項4】
該空洞が対称的な凹面の外形を有する、請求項2の経皮送達システム。
【請求項5】
該空洞が保持バリヤーをさらに含有する、請求項2の経皮送達システム。
【請求項6】
該保持バリヤーが、組織への該ミクロプロジェクションの挿入に際して該堆積された調合物を実質的に保持し、そして組織からの該ミクロプロジェクションの撤去に際して該堆積された調合物を放出するように形造られている、請求項5の経皮送達システム。
【請求項7】
該空洞が、組織からの該ミクロプロジェクションの撤去に際して該堆積された調合物の放出を容易にするように形造られた傾斜した前縁をさらに含有する、請求項6の経皮送達システム。
【請求項8】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが広い面および狭い縁を有する、請求項2の経皮送達システム。
【請求項9】
該空洞が該広い面に配置されている、請求項8の経皮送達システム。
【請求項10】
該空洞が該狭い縁に配置されている、請求項9の経皮送達システム。
【請求項11】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが、該堆積された調合物をはずすのを容易にするために該空洞に圧力を伝えるように形造られた圧力導管をさらに含有する、請求項10の経皮送達システム。
【請求項12】
該空洞が、組織への該ミクロプロジェクションの挿入に際して該堆積された調合物を実質的に保持し、そして組織からの該ミクロプロジェクションの撤去に際して該堆積された調合物を放出するように形造られている保持ポケットをさらに含有する、請求項10の経皮送達システム。
【請求項13】
該空洞が、組織への該ミクロプロジェクションの挿入に際して該堆積された調合物を実質的に保持するように形造られている、請求項2の経皮送達システム。
【請求項14】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが所望の創傷路を生じるように形造られた絶対方向を有する、請求項1の経皮送達システム。
【請求項15】
該送達システムが、該少なくとも1個のミクロプロジェクションが突き出ているシートをさらに含有し、そして該絶対方向が、該シートに対する該少なくとも1個のミクロプロジェクションの角度からなる、請求項14の経皮送達システム。
【請求項16】
該絶対方向が、所望の毛包の方向をもたらすように形造られる、請求項14の経皮送達システム。
【請求項17】
該角度が約45度〜90度である、請求項15の経皮送達システム。
【請求項18】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが、該空洞上を除いて疎水性コーティングを有し、かつ該調合物が水性である、請求項2の経皮送達システム。
【請求項19】
該調合物が凍結されている、請求項1の経皮送達システム。
【請求項20】
該少なくとも1個のミクロプロジェクションに適用された生体被浸食性(bioerodible)ポリマーをさらに含んでなり、そして該調合物が該生体被浸食性ポリマー中に組み込まれている、請求項1の経皮送達システム。
【請求項21】
該調合物が同一個体の皮膚乳頭細胞の組織培養物を含有する、請求項1の経皮送達システム。
【請求項22】
該調合物が、同種の細胞および異種の細胞からなる群から選ばれる、請求項1の経皮送達システム。
【請求項23】
複数の角質層−穿刺ミクロプロジェクションおよび該ミクロプロジェクションの少なくとも1個の上に堆積された毛包誘導細胞の調合物を有するミクロプロジェクションアレイを提供し;
該少なくとも1個のミクロプロジェクションが患者の角質層を穿刺するように該患者に該ミクロプロジェクションアレイを適用し;そして
該毛包誘導細胞の調合物を角質層の下の組織に送達する:
段階を含む、該患者における毛髪喪失を処置する方法。
【請求項24】
該ミクロプロジェクションアレイを適用する該段階が、該調合物の実質的な部分が該ミクロプロジェクション上に堆積されたまま残るように、該角質層をとおして該少なくとも1個のミクロプロジェクションを挿入することを含む、請求項22の方法。
【請求項25】
該調合物を送達する段階が、該調合物の実質的な部分が角質層の下の組織中に残るように、該少なくとも1個のミクロプロジェクションを撤去することを含む、請求項23の方法。
【請求項26】
該少なくとも1個のミクロプロジェクション上で調合物を凍結させる段階をさらに含み、そして該調合物を送達する段階が、該少なくとも1個のミクロプロジェクションが角質層を穿刺した後に該調合物を融解させることを含む、請求項22の方法。
【請求項27】
該ミクロプロジェクションアレイが、該少なくとも1個のミクロプロジェクションに適用された生体被浸食性ポリマーをさらに含み、そして該調合物が該生体被浸食性ポリマー中に組み込まれ、そして該調合物を送達する該段階が、角質層の下の組織中で該生体被浸食性ポリマーを溶解させることを含む、請求項22の方法。
【請求項28】
所望の創傷路を生成するために該少なくとも1個のミクロプロジェクションの絶対方向および相対方向を選択する段階をさらに含む、請求項22の方法。
【請求項29】
該所望の創傷路の生成によって毛包の方向付けに影響を与える段階をさらに含む、請求項27の方法。
【請求項30】
ミクロプロジェクションアレイにより毛包誘導細胞を経皮的に移植する段階を含む、患者の毛髪を成長させる方法。
【請求項31】
ミクロプロジェクションアレイを提供し;そして
該ミクロプロジェクションアレイ上に毛包誘導細胞の調合物を堆積させる;
段階を含む、毛髪喪失の処置デバイスの形成方法。
【請求項32】
ミクロプロジェクションアレイを提供する該段階が、疎水性コーティングおよび非疎水性の空洞をもつ少なくとも1個のミクロプロジェクションを有するアレイを提供することを含み、そして該調合物を堆積させる該段階が、該少なくとも1個のミクロプロジェクションに適用されて、該調合物が該非疎水性の空洞に保持され、そして該疎水性コーティング上には保持されないことを含む、請求項30の方法。
【請求項33】
該調合物が堆積された後、該堆積された調合物を凍結させる段階をさらに含む、請求項30の方法。
【請求項34】
該少なくとも1個のミクロプロジェクション上に該調合物を堆積させる該段階が、該少なくとも1個のミクロプロジェクションに生体被浸食性ポリマーを適用し、そして該生体被浸食性ポリマー内に該調合物を組み込むことを含む、請求項30の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−503876(P2007−503876A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524839(P2006−524839)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/027707
【国際公開番号】WO2005/018731
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】