説明

皮膚の鑑別法

【課題】どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行える、キメの方向性及び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別法を提供することを課題とする。
【解決手段】皮膚の鑑別法であって、皮膚状態のカラー画像の画素を色別に取り出し、単一色画素又はそれに演算処理を行った処理画素の画像を作成し、1)該画像に細線化処理を行い、該細線化処理画像を5°〜45°間隔で回転させるか、又はフーリエ変換を行った画像の輝度形状特性から得られる方位角を用いて回転させ、該回転画像の細線のピーク幅計測より得られる指標、2)該画像にフーリエ変換を行い、該フーリエ変換画像の輝度ヒストグラム及び/又は輝度形状特性から得られる指標、或いは3)該画像に二値化処理を行い、該二値化処理画像から得られる皮丘部を計測し統計処理した指標、であることを特徴とする皮膚性状の鑑別法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面の皮溝と皮丘により構成されるキメ(肌理)等の皮膚性状の鑑別方法に関する。さらに詳しくは、人が介在することなく、コンピュータのみで自動的に皮膚性状を鑑別するのに好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面の皮溝と皮丘によって構成されるキメ(肌理)は、肌の若々しさや美しさを構成し、また肌性、肌質や年齢とも関係する重要な要素であり、美容や化粧料選択の観点から、このキメを改善することは重要な目的である。キメの定義は確立されてはいないが、これまでの研究や文献によると、小さなキメが消失することによってキメが大きくなる変化であるキメの大きさと、皮溝が流れて方向性ができる変化であるキメの方向性の2要素が重要視されている。このために、キメにシワや小ジワを含めた複雑な皮膚表面形態を客観的に評価し定量化する方法の検討が試みられてきた。
【0003】
この種の評価方法としては、当初は、ビデオスコープ等で直接観察する方法や皮膚レプリカを採取して間接的に評価されていたが、その後は、コンピュータ装置に光電変換手段で得た皮膚表面画像信号を入力し、所定の解析プログラムを用いてパターン化あるいは数値化する画像解析方法が報告されるようになった。例えば、特許文献1及び2には、皮膚レプリカを複数の光源の照明下、皮溝のパターンを抽出して皮溝間隔や皮溝方向等を解析する装置が開示され、特許文献3では、皮膚表面から直接画像を取り込み、二値化処理後にパターン解析を行なう方式が開示されている。特許文献4にはレプリカ撮影画像を階調処理後に画像処理し、皮溝深さに関するデータを得る方式が、特許文献5では、皮膚画像に対して閾値レベルを変えながら二値化画像をモニターし、皮溝又はシワ深さを測定する方式が開示されている。さらに、特許文献6には皮膚表面画像にフーリエ変換を適用してパワースペクトルを求め、このパワースペクトルに基づいて皮膚表面特性を評価する方法が、特許文献7では、皮膚レプリカの凹凸を表面粗さ計で取りこみフーリエ変換後によって得たパワースペクトルの振幅を、キメ粗さパラメーターとして音出力する方法も開発されている。また、特許文献8には、皮膚表面や不透明なレプリカに光を照射し、その反射光による反射画像を解析して皮膚表面粗さや皮膚溝間隔、及びこれらの平均値や標準偏差による皮膚表面形態の特徴の定量化方法や、特許文献9には、微細明暗分布が強調した画像より抽出した皮膚表面の凹凸に相関する特性値に基いてシワやキメの尺度となる、皮膚の凹凸の視覚的粗さを評価する方法が開示されている。一方、特許文献10には、角層細胞や皮膚表面形態の凹凸を指標とすることによって肌透明感を評価する方法や、特許文献11には、皮膚表面の皮溝交点やその面積を利用し、より手軽にキメ粗さの測定する方法も開示されている。
【0004】
さらに、近年では、研究の場から販売現場等での活用が期待されるようになり、それに答えるべき高精度と高速化を備えた自動評価技術が望まれている。特許文献12では皮膚表面の反射画像を形成し、得られた画像から毛孔の深さ、皮溝の深さ、皮溝の数等の特徴情報を抽出し、その特徴情報と年齢等の分類クラスとの関係を帰納学習することにより、皮膚の表面形態を分類し評価するという手法や、特許文献13には、透過型レプリカ像からの特徴情報に基づく分類規則を利用し、透過型レプリカの透過像の分類クラスの自動判別する方法が開示されている。かように、高度な画像入力装置と画像解析ソフトを用いることによって、皮膚表面形態の特徴の定量化が容易になり、自動評価が進展しつつある。しかし、これらの自動評価の方法では、専門家が特徴情報の特性を熟知した上で試行錯誤により特徴情報に関する分類規則を決定する必要があったり、又、自動評価の対象が透過型レプリカの透過像のため、レプリカの作成に時間を要する等の難点があった。販売現場である店頭や顧客の家前等でも可能な、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行えるキメの自動評価技術が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−53121号公報
【特許文献2】特開昭61−64232号公報
【特許文献3】特開昭64−59145号公報
【特許文献4】特開平2−46833号公報
【特許文献5】特開昭60−63030号公報
【特許文献6】特開平2−82947号公報
【特許文献7】特開平4−305113号公報
【特許文献8】特開平5−329133号公報
【特許文献9】特開平6−189942号公報
【特許文献10】特開2000−102522号公報
【特許文献11】特開2001−170028号公報
【特許文献12】特開平7−93549号公報
【特許文献13】特開平9−154832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況下で為されたものであり、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行えるキメ等の皮膚性状の鑑別方法及び自動評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況を鑑みて、本発明者らは、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみでキメ等の皮膚性状の鑑別及び自動評価する技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、1)該単一色画素画像若しくは該処理画素画像に細線化処理を行い、該細線化処理画像を5°〜45°間隔で回転させるか、又はフーリエ変換を行った画像の輝度形状特性から得られる方位角を用いて回転させて、該回転画像の細線のピーク幅計測より得られる指標、2)該単一色画素画像若しくは該処理画素画像にフーリエ変換を行い、該フーリエ変換画像の輝度ヒストグラム及び/又は輝度形状特性から得られる指標、若しくは、3)該単一色画素画像若しくは該処理画素画像に二値化処理を行い、該二値化処理画像から得られる皮丘部を計測し統計処理した指標、であることを特徴とする皮膚性状の鑑別法によって、キメの方向性及び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別をどこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行えることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1)皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー(RGB)画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像に細線化処理を行い、該細線化処理画像又はそれを加工して得られる処理画像の、細線のピーク幅間隔を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
(2)前記細線化処理画像の細線のピーク幅間隔の代表値が、前記細線化処理画像の細線のピーク幅間隔を統計処理したものであることを特徴とする、(1)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(3)該細線化処理画像のピーク幅間隔の計測において、該細線化処理画像を5°〜45°間隔で回転させ、該回転画像のピーク幅間隔の計測を行うことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(4)該細線化処理画像のピーク幅間隔の計測において、前記単一色画素画像又は処理画素画像の変換画像にフーリエ変換を行ってフーリエ変換画像を作成し、該フーリエ変換画像の輝度形状特性から得られる方位角を用いて該細線化処理画像を回転させ、該回転画像のピーク幅間隔の計測を行うことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(5)指標として、前記ピーク幅間隔を統計処理して得られる、平均値、標準偏差、標準誤差及び変動係数から選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、(1)〜(4)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(6)次に示す工程に従って行われることを特徴とする、(1)〜(5)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(工程1) 皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出す。
(工程2) 工程1によって得られた単一色画素、又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成する。
(工程3) 工程2によって得られた単一色画素画像又は該処理画素画像に、水平補正処理及び平均化処理を行う。
(工程4) 工程3によって得られた画像から皮溝部分を抽出し、細線化処理を行う。
(工程5) 工程4によって得られた画像を反転する。
(工程6) 工程5によって得られた画像をアフィン変換しながら、各画像毎のピーク幅を計測する。
(工程7) 工程6によって得られたピーク幅より、キメの方向性及び/又はキメの大きさを鑑別する。
(7)皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像にフーリエ変換を行ってフーリエ変換画像を作成し、該フーリエ変換画像の輝度ヒストグラム及び/又は輝度形状特性から得られる特性値を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
(8)前記輝度ヒストグラムから得られる特性値として、平均値、標準偏差、変動係数、標準誤差、中央値、最頻値、分散、尖度及び歪度より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、(7)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(9)前記輝度形状特性から得られる特性値として、絶対最大長、対角幅、針状比及び重心を通る最大長より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、(7)又は(8)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(10)次に示す工程に従って行われることを特徴とする、(7)〜(9)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(工程1) 皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出す。
(工程2) 工程1によって得られた単一色画素、又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成する。
(工程3) 工程2によって得られた単一色画素画像又は該処理画素画像に、フーリエ変換を行い、フーリエ変換画像を作成する。
(工程4) 工程3によって得られたフーリエ変換画像の輝度ヒストグラムより、輝度平均値、標準偏差等の指標を計測する。
(工程5) 工程3によって得られたフーリエ変換画像の輝度部分に、抽出、クロージング、収縮、膨張、及び穴埋め処理を行い、形状を確定させる。
(工程6) 工程5より得られた形状より、絶対最大長、針状比等の形状特徴の指標を計測する。
(工程7) 工程4及び6により得られた指標より、キメの方向性及び/又はキメの大きさを鑑別する。
(11)皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像に二値化処理を行い、該二値化処理画像から得られる皮丘部を計測し統計処理した特性値を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
(12)前記統計処理として、総面積、標準偏差、総個数及び単位面積より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、(11)に記載の皮膚性状の鑑別法。
(13)単一色画素画像が、R、G、B画素表現系におけるB画素のみによって構成される画像(Bチャンネル画像)であることを特徴とする、(1)〜(12)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(14)鑑別すべき皮膚性状がキメの方向性及び/又はキメの大きさであることを特徴とする、(1)〜(13)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(15)皮膚性状の自動計測のためのものであることを特徴とする、(1)〜(14)の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで、キメの方向性及、び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行える皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像に細線化処理、アフィン処理、フーリエ変換処理、或いは二値化処理等を行い、該処理画像より得られた指標を特徴とする、キメの方向性及び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別法に関する。図1に、その鑑別のための処理手順を示す。以下に、更に詳細に説明を加える。
【0010】
前記皮膚の状態をカラー画像に取り込む方法として、デジタル式のマイクロスコープが好ましい。デジタル式マイクロスコープを使用することで、コンピュータ上でデジタル画像データの自動処理を経て、キメの方向性及び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別が可能となる。このようなデジタル式マイクロスコープとしては、例えば、(株)モリテックスのコスメティック用CCDマイクロスコープ、(有)フォルテシモのUSBビデオマイクロスコープ、スカラ(株)のDEGITAL MICROSCOPE、或いは(株)キーエンスのデジタルマイクロスコープ等が例示できる。更に、マイクロスコープ内部に偏光フィルターを組み込ませることによって散乱光が除去され、照明光の色の違いに起因する画像の色調の違いが無くなり、皮膚表面のキメやシミがより正確に撮像でき、皮膚性状の鑑別の精度が向上する。
【0011】
前記カラー(RGB)画像を構成する画素として、R,G,B画素がある。これらの中から、1画素だけ選択した単一色画素、又は、2画素若しくは3画素間で演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、使用することができる。該演算処理としては、例えば、B画素のB値にR画素のR値を加減乗除等が例示できる。又、前記カラー画像を淡色化処理したり、白黒化処理して得られる画像でも、後記に詳細に記すB画素画像には及ばないものの、同様の効果を有するので、この様な画像も本発明ではカラー画像の変換画像と見なす。かような選択若しくは処理することによって、キメ、シワ、シミ等の目的とする皮膚性状の鑑別精度のアップが期待できる。これは、キメ、シワ、シミ等の皮膚性状の種類によって、各画像中に対するその特徴量の寄与が異なるためと考えられる。キメの皮膚性状の鑑別には、例えば、B画素のみによって構成される画像(Bチャンネル画像)が好ましく例示できる。この様な画像の変換は後述のソフトウェアを用いることにより行うことが出来る。
【0012】
前記取り込んだ画像は、コンピュータの汎用的画像解析のソフトウェアを用いて、各種の画像処理・画像解析・指標計算を手動又は自動的に行い、キメの方向性及び/又はキメの大きさ等の皮膚性状の鑑別を行う。このようなソフトウェアとして、例えば、三谷商事(株)のWinROOF(登録商標)、(株)ヒューリンクスのIGOR Pro(登録商標)、マジカルアート(株)のMagical IP(登録商標)等が例示できる。
【0013】
前記細線化処理とは、標本化して得られる2値画像を対象として、その中に含まれる各々の連結図形に対し、連結性を失うことなく線幅1の線図形まで細める処理として定義される。図2に、細線化処理を含めた皮膚性状の鑑別に至る画像処理のステップを例示した。図2のように、細線化処理の前に、前処理を行うことが好ましい。かような前処理として、例えば、単一色画素画像若しくは処理画素画像に、光のムラを除去するための水平補正処理、及び細かい皮溝の残存部分等のノイズ除去するための平均化処理が好ましく例示でき、更に、皮溝部分の抽出やシミ及び毛穴の色等の余分な情報の除去するための細線化処理等を行うことで、皮膚性状の特徴が抽出されパターン認識されやすくなり、皮膚性状の鑑別精度が向上する。
【0014】
前記細線化処理画像の細線のピーク幅間隔の計測において、細線化処理画像を一定間隔で回転させながら、回転画像のピーク幅間隔の計測を行うことが好ましい。かような画像の回転は、図2に示すアフィン変換に属し、ユークリッド幾何学的な線型変換と平行移動の組み合わせによる図形や形状の移動、変形方式と定義される。細線化処理画像をアフィン変換しながら皮溝間の平均距離に相当するピーク幅間隔を計測することで、情報が圧縮され、皮膚性状のキメの特徴量が抽出されやすいと考えられる。かようなアフィン変換としては、例えば、5〜45°間隔で画像を回転させ、該回転画像のピーク幅間隔を計測することが、好ましく例示できる。
【0015】
前記ピーク幅間隔の計測において得られた大量のデータの代表値は、統計的処理を行って求める。かような統計的処理による代表値として、例えば、平均値、標準偏差、標準誤差及び/又は変動係数等が好ましく例示できる。これらの内、特に好ましいのは、平均値及び変動係数である。これは、平均値は皮溝間隔の平均的な大きさを反映しやすいためキメの大きさと相関性と高く、一方、変動係数は皮溝間隔の相対的バラツキ特性を反映しやすいためキメの方向性と相関性が高くなるためである。
【0016】
前記フーリエ変換画像とは、高速フーリエ変換を用いて画像処理を行い、ソフトやシャープな感覚を与える画像特性の明暗を周波数分布の画像に変換したものである。図3に示すように、フーリエ変換画像では、中心部に円状や楕円状の高輝度部分が分布し、この輝度形状特性及び輝度ヒストグラムがキメの方向性と相関することを、本発明者は見出している。即ち、キメの方向性が小さい場合はフーリエ変換画像は中心部の高輝度部分が等方性で均一分散であるが、キメの方向性が大きい場合はフーリエ変換画像はキメの方向性に直交する方向に高輝度部分が延びた異方性の分散となる。
【0017】
図4に、フーリエ変換処理を含めた皮膚性状の鑑別に至る画像処理のステップを例示した。フーリエ変換画像より、輝度形状特性及び輝度ヒストグラムの各指標が求まり、皮膚性状の鑑別が為される。輝度形状特性から得られる指標として、例えば、絶対最大長、対角幅、針状比、重心を通る最大長、及び方位角等が好ましく例示できる。絶対最大長とは図形における最大距離、対角幅とは絶対最大長に平行な2本の直線で図形を挟んだときの2直線間の最短距離、針状比とは対角幅に対する絶対最大長の比、方位角とは図形の絶対最大長をとるときのx軸とのなす角と定義される。これらの内、特に好ましいものは針状比及び方位角である。これは、前記針状比は輝度形状の異方性を十分に反映しているためキメの方向性とより相関性が高くなるためである。また、前記細線化処理後に5°〜45°間隔でアフィン変換を行う際、該方位角を用いてアフィン変換しピーク間隔を計測することによって、方位角の持つ輝度画像情報が効率的に反映され、その結果キメの方向性と高い相関関係になるためと考えられる。
【0018】
図4に示される輝度ヒストグラムから得られる指標として、例えば、平均値、標準偏差、変動係数、標準誤差、中央値、最頻値、分散、尖度及び歪度等が好ましく例示できる。これらの内、特に好ましいものは標準偏差、標準誤差及び変動係数である。これは、標準偏差等では皮丘間隔の相対的バラツキ特性を反映しやすいためキメの方向性と相関性が高いなるためと考えられる。
【0019】
図5に、二値化処理を含めた皮膚性状の鑑別に至る画像処理のステップを例示した。前処理後、二値化処理によって得られた皮丘部分が抽出された二値化画像を計測し、統計処理を行う。統計処理による指標として、例えば、総面積、標準偏差、総個数、単位面積(総面積/総個数)等が例示できる。これらの内、特に好ましいのは総個数及び単位面積である。これは総個数及び単位面積が、皮丘の平均的な大きさを反映するため、キメの大きさと相関性が高いなることによる。
【0020】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0021】
20才〜58才までの101名の女性被験者を募集し、洗顔後20分経過した後、(株)モリテックスのコスメティック用CCDマイクロスコープを使用して、頬部中央より皮膚の状態のカラー画像のコンピュータへの取り込みを行い、取り込み順に従い画像に1〜101の番号を振り付けた。3名の専門評価者に、評価写真と評価基準に従い、5段階に標準化されたキメの大きさ(小さなキメが消失することによってキメが大きくなる変化)とキメの方向性(皮溝が流れて方向性ができる変化)の2項目について、101枚の皮膚のカラー画像を対象に5段階の目視評価を行なわせた後、2項目について3名の評価値の平均を求めた。
【0022】
取り込んだ画像は、汎用的画像解析のソフトウェアである三谷商事(株)のWinROOFを使用して、Bチャンネル画像を作成した後、水平補正処理、平均化処理、細線化処理、及び0〜165°まで15°間隔でアフィン変換を行った後に、それぞれの画像についてピーク幅間隔を計測し、指標として平均値及び変動係数を求めた。上記手順に従って、101枚の全画像について算出した。
【0023】
キメの方向性及びキメの大きさの2項目の目視評価結果と、画像処理より算出された平均値及び変動係数について、相関分析及び回帰分析を行った。その結果を示す表1より、変動係数とキメの方向性、及び平均値とキメの大きさとが非常に高い相関関係にあり、信頼できる指標であることが分かる。また、変動係数とキメの方向性との相関係数による評価者間の個人差を示す表2より、人による評価では偏りや個人差が大きいために、複数での評価がより望ましいことが分かる。これらより、本発明の細線化処理等を含むコンピュータによる指標と従来の人でのキメの評価がよく相関しており、回帰式を使用することで、容易且つ迅速に、専門家のノウハウを用いることなく、コンピュータによるキメの定量化及び自動評価が可能なことが分かる。
【0024】
【表1】

【表2】

【実施例2】
【0025】
実施例1において、取り込んだ画像の処理手順を変えて、Bチャンネル画像を作成した後、前処理及びフーリエ変換処理を行い、輝度形状特性指標及び輝度ヒストグラム指標を求めた。また別途、細線化処理後に輝度形状特性の方位角(θ)を算出し、2方向のアフィン変換(180°−θ及び270°−θ)を行い、ピーク幅間隔平均値について2方向の比を求めた。上記手順に従って、101枚の全画像について算出した。
【0026】
キメの方向性の目視評価結果と、画像処理より算出された輝度形状特性指標、輝度ヒストグラム指標及び前記方位角を用いた平均値について、相関分析及び回帰分析を行った。その結果の相関係数を表3に示す。これより、本発明のフーリエ変換処理等を含むコンピュータによる指標と従来の人でのキメの評価がよく相関しており、回帰式を使用することで、容易且つ迅速に、専門家のノウハウを用いることなく、コンピュータによるキメの定量化及び自動評価が可能なことが分かる。
【0027】
【表3】

【実施例3】
【0028】
実施例1において、取り込んだ画像の処理手順を変えて、Bチャンネル画像にGチャンネル画素の1/2を加算させる演算処理を行って処理画素画像を作成した後、水平補正処理、平均化処理及び二値化処理を行い、皮丘部計測指標を求めた。上記手順に従って、101枚の全画像について算出した。
【0029】
キメの大きさの目視評価結果と、画像処理より算出された皮丘部計測指標について、相関分析及び回帰分析を行った。その結果の相関係数を表4に示す。これより、本発明の二値化処理等を含むコンピュータによる指標と従来の人でのキメの評価がよく相関しており、回帰式を使用することで、容易且つ迅速に、専門家のノウハウを用いることなく、コンピュータによるキメの定量化及び自動評価が可能なことが分かる。
【0030】
【表4】

【比較例】
【0031】
<比較例1>
実施例1において、従来より実施されている方法である取り込んだカラー画像に直接に、水平補正処理、平均化処理及び二値化処理を行い、明暗ピーク間隔の平均値、標準偏差及び変動係数を求めた。上記手順に従って、101枚の全画像について算出した。
【0032】
キメの大きさの目視評価結果と、上記の画像処理より算出された明暗ピーク間隔の平均値、標準偏差及び変動係数について、相関分析を行った。その結果の相関係数を表5に示す。これより、従来の方法による指標と人によるキメの評価との相関関係は小さく、本発明の比べて定量的な評価法ではないことが分かる。
【0033】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によって、どこでも、容易に、且つ迅速にコンピュータのみで行えるキメ等の皮膚性状の鑑別及び自動評価を提供することが可能となる。その結果、顧客と直接接触する場所、例えば、デパートや店頭、更には顧客の家においても、肌及び美容のカウンセリングや化粧品選択に有用な情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】皮膚性状鑑別法の手順を示す構成図である。
【図2】皮膚性状鑑別における細線化−アフィン処理フローを示す図である。
【図3】キメとフーリエ変換画像との関係を示す図である。
【図4】皮膚性状鑑別におけるフーリエ変換処理フローを示す図である。
【図5】皮膚性状鑑別における二値化処理フローを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー(RGB)画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像に細線化処理を行い、該細線化処理画像又はそれを加工して得られる処理画像の、細線のピーク幅間隔を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
【請求項2】
前記細線化処理画像の細線のピーク幅間隔の代表値が、前記細線化処理画像の細線のピーク幅間隔を統計処理したものであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項3】
該細線化処理画像のピーク幅間隔の計測において、該細線化処理画像を5°〜45°間隔で回転させ、該回転画像のピーク幅間隔の計測を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項4】
該細線化処理画像のピーク幅間隔の計測において、前記単一色画素画像又は処理画素画像の変換画像にフーリエ変換を行ってフーリエ変換画像を作成し、該フーリエ変換画像の輝度形状特性から得られる方位角を用いて該細線化処理画像を回転させ、該回転画像のピーク幅間隔の計測を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項5】
指標として、前記ピーク幅間隔を統計処理して得られる、平均値、標準偏差、標準誤差及び変動係数から選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項6】
次に示す工程に従って行われることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(工程1) 皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出す。
(工程2) 工程1によって得られた単一色画素、又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成する。
(工程3) 工程2によって得られた単一色画素画像又は該処理画素画像に、水平補正処理及び平均化処理を行う。
(工程4) 工程3によって得られた画像から皮溝部分を抽出し、細線化処理を行う。
(工程5) 工程4によって得られた画像を反転する。
(工程6) 工程5によって得られた画像をアフィン変換しながら、各画像毎のピーク幅を計測する。
(工程7) 工程6によって得られたピーク幅より、キメの方向性及び/又はキメの大きさを鑑別する。
【請求項7】
皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像にフーリエ変換を行ってフーリエ変換画像を作成し、該フーリエ変換画像の輝度ヒストグラム及び/又は輝度形状特性から得られる特性値を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
【請求項8】
前記輝度ヒストグラムから得られる特性値として、平均値、標準偏差、変動係数、標準誤差、中央値、最頻値、分散、尖度及び歪度より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、請求項7に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項9】
前記輝度形状特性から得られる特性値として、絶対最大長、対角幅、針状比及び重心を通る最大長より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、請求項7又は8に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項10】
次に示す工程に従って行われることを特徴とする、請求項7〜9の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
(工程1) 皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出す。
(工程2) 工程1によって得られた単一色画素、又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成する。
(工程3) 工程2によって得られた単一色画素画像又は該処理画素画像に、フーリエ変換を行い、フーリエ変換画像を作成する。
(工程4) 工程3によって得られたフーリエ変換画像の輝度ヒストグラムより、輝度平均値、標準偏差等の指標を計測する。
(工程5) 工程3によって得られたフーリエ変換画像の輝度部分に、抽出、クロージング、収縮、膨張、及び穴埋め処理を行い、形状を確定させる。
(工程6) 工程5より得られた形状より、絶対最大長、針状比等の形状特徴の指標を計測する。
(工程7) 工程4及び6により得られた指標より、キメの方向性及び/又はキメの大きさを鑑別する。
【請求項11】
皮膚性状の鑑別法であって、皮膚の状態をカラー画像に取り込み、該画像を構成する画素を色別に取り出し、単一色画素又は単一色画素に演算処理を行った処理画素からなる画像を作成し、該単一色画素画像又は該処理画素画像に二値化処理を行い、該二値化処理画像から得られる皮丘部を計測し統計処理した特性値を指標とすることを特徴とする、皮膚性状の鑑別法。
【請求項12】
前記統計処理として、総面積、標準偏差、総個数及び単位面積より選択される1種乃至は2種以上を使用することを特徴とする、請求項11に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項13】
単一色画素画像が、R、G、B画素表現系におけるB画素のみによって構成される画像(Bチャンネル画像)であることを特徴とする、請求項1〜12の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項14】
鑑別すべき皮膚性状がキメの方向性及び/又はキメの大きさであることを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。
【請求項15】
皮膚性状の自動計測のためのものであることを特徴とする、請求項1〜14の何れか1項に記載の皮膚性状の鑑別法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−61170(P2006−61170A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223475(P2004−223475)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】