説明

皮膚外用剤

【課題】 損傷や欠損を受けた皮膚の状態を改善または治療する効果に優れる皮膚外用剤、さらに、改善または治療効果に加えて有効成分の保存安定性にも優れた皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質を0.2〜2質量%、(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物を1〜5質量%及び(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類を0.5〜2質量%を含む皮膚外用剤。また、上記有効成分の組み合わせに加えて、(iv)多価アルコールを1〜50質量%、(v)非イオン性界面活性剤0.1〜10質量%含む、皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種要因により損傷や欠損を受けた皮膚の状態を改善または治療するための皮膚外用剤に関する。詳しくは、ひび、あかぎれ、あれ、角化症、乾皮症、さめ肌、湿疹、皮膚炎、かぶれ、ただれ、傷等による皮膚損傷や皮膚欠損を改善する、または治療するための皮膚外用剤に関する。特に、各種要因により損傷や欠損を受けた皮膚損傷や皮膚欠損の治癒促進効果を高めることにより皮膚表面の乾燥や角化も防ぎ、各症状に対して優れた改善効果または治療効果を発揮する皮膚外用剤に関する。さらに、本発明は前述の改善効果または治療効果に加えて、有効成分の安定性に優れた皮膚外用剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
ひび、あかぎれ、あれ、角化症、乾皮症、さめ肌、湿疹、皮膚炎、かぶれ、ただれ、傷等の皮膚疾患には、皮膚のあれ、乾燥、ひびわれ、炎症等の皮膚損傷や皮膚欠損の症状を誘発する場合が多くある。従来からこれらの症状の治療には、ステロイド抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬、組織修復薬、保湿薬、ビタミン、生薬抽出物質等が用いられている。ステロイド抗炎症薬は強力な抗炎症効果により十分な効果を発揮する反面、重篤な副作用も発生することも多いことが知られており、投与に関しては慎重を要する薬物である。更にステロイドの作用として、肉芽形成(組織修復)抑制作用も知られている。また、ステロイドの使用に伴う、創傷治癒の遅延、皮膚萎縮、局所血管拡張、接触性皮膚炎様発疹等の副作用は大きな問題となっている。
非ステロイド抗炎症薬、組織修復薬、保湿薬、ビタミン、生薬抽出物等は、軽度の症状に対しては効果を発揮するものの、一般的には、重度の症状の改善に関しては十分な効果が得られていない。また非ステロイド抗炎症薬の中には、局所刺激や感作刺激性が高いものが多くあることが知られている。
【0003】
アラントイン又はアラントイン類縁物質、パンテノール又はパンテノール類縁物質は皮膚組織修復作用や消炎作用を目的として、医薬品や化粧品に配合されることが多いが、その効果は未だ満足できるものではなかった。例えば第2720246号特許には、アラントインまたはその誘導体、パントテン酸またはその誘導体を単独或いは同時に配合した皮膚外用剤の効果は満足できるものではないことから、トレハロースを配合することにより相乗的に効果が亢進することが記載されている。また、アラントイン又はアラントイン類縁物質、パンテノール及びパンテノール類縁物質は水溶液中での安定性の悪い成分であり、水溶性製剤に配合する場合には製剤化する上での大きな問題となっていた。更にアラントイン又はアラントイン類縁物質は、難水溶性であるために親水性の乳剤性の基剤に配合すると結晶が析出するために、十分な効果が発揮できなかったり、配合量が微量に限定されたりする場合があった。このような状況下、特表2003-505404にアラントインを安定化する方法として、アラントインに蜜ロウ及び親水性の陰イオン界面活性剤を配合し、酸を添加し特定のpH範囲となる水中油型エマルションを調製する方法が開示されている。次にパンテノールを安定化する方法としては、特開2002-293727に動植物油を主成分とする油状化粧料において、平均分子量90〜400の範囲にあるグリコール及び分子量が110〜250の範囲にある一価アルコールを含有することを特徴とする油状油性化粧料が開示されている。また特開2002-265357にはホウ酸(塩)と1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物を配合することを特徴とする方法が公開されている。一方、ホウ酸は細胞毒であり、熱傷や潰瘍等の損傷皮膚に用いた場合、重篤な副作用を引き起こすことが知られており、「粘膜・創傷面又は炎症部位に長時間・広範囲に使用しないこと」と1971年に当時の厚生省より通達が出されている。
【0004】
【特許文献1】第2720246号特許公報
【特許文献2】特表2003-505404号公報
【特許文献3】特開2002-293727号公報
【特許文献4】特開2002-265357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により各種要因により損傷や欠損を受けた皮膚の状態を改善または治療する効果に優れる皮膚外用剤、さらに、改善または治療効果に加えて有効成分の保存安定性にも優れた皮膚外用剤が提供される。特に、本発明により、有効成分としてアラントイン又はアラントイン類縁物質またはそれらの塩類、パンテノール又はパンテノール類縁物質、およびジフェンヒドラミンを含み、各種要因により損傷や欠損を受けた皮膚の状態を改善または治療する効果に優れ、かつ、有効成分の一部であるアラントイン又はアラントイン類縁物質、パンテノール又はパンテノール類縁物質の保存安定性に優れた皮膚外用剤が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質、
(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質、及び
(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類、
を含む皮膚外用剤である。
特に、本発明は、
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質を0.2〜2.0質量%、
(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質を1〜5.0質量%、及び
(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類を0.5〜2.0質量%、
含む皮膚外用剤である(質量百分率は皮膚外用剤全体に対する割合を表す)。
【0007】
また、本発明は、さらに上記有効成分の組み合わせに加えて、多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤を含む、アラントイン及びパンテノールの経時安定性に優れた皮膚外用剤である。
特に本発明は、多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤の含有量(質量百分率は皮膚外用剤全体に対する割合を表す)が下記の通りである、アラントイン及びパンテノールの経時安定性に優れた皮膚外用剤である。
(iv)多価アルコールについて1〜50質量%
(v)非イオン性界面活性剤について0.1〜10質量%
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質、パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質、ジフェンヒドラミン又はその塩類を含む皮膚外用剤、特に、
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質が0.2〜2.0質量%
(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質が1〜5.0質量%及び
(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類が0.5〜2.0質量%
を含む皮膚外用剤(質量百分率は皮膚外用剤全体に対する割合を表す)が、各成分を単独に含む皮膚外用剤に比較して、各種要因により損傷や欠損を受けた皮膚の改善効果が相乗的に亢進されることを見出した。
更に、上記有効成分の組み合わせに基剤成分として多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤、特に、(iv)多価アルコール1〜50質量%および(v)非イオン性界面活性剤0.1〜10質量%(質量百分率は皮膚外用剤全体に対するそれぞれの割合を表す)を用いて皮膚外用剤を調製したところ、相乗的な効果の増強を保ったまま、アラントイン及びパンテノールの経時安定性に優れた皮膚外用剤が得られることを見出した。
【0009】
本発明で使用されるアラントイン又はアラントイン類縁物質は、創傷治癒・抗炎症作用を有する有効成分である。アライントイン類縁物質とは、ヒダントイン骨格を持ち創傷治癒・抗炎症作用を有する有効成分であり、具体的には、アライントイン類縁物質には、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウムが含まれるが、これらに限定されない。アラントイン又はアラントイン類縁物質の配合量は、製剤(皮膚外用剤)の全質量に対して0.2質量%以上の場合、明瞭な相乗的治療効果が観察され、2.0質量%を超えると製剤中で結晶析出が生じ始め、製剤的な安定性が減少する。また、アラントインを2.0質量%より多く配合しても更なる治療効果の増強は乏しい。従って、本発明において使用されるアラントイン又はアラントイン類縁物質の配合量は、製剤の全質量に対し0.2〜2.0質量%が好ましい。
【0010】
パンテノール及びパンテノール類縁物質は、創傷治癒作用を有する有効成分である。パンテノール類縁物質とは、創傷治癒作用を有する有効成分であり、パンテノールのエステルやパントテン酸の塩類が含まれる。具体的には、パンテノール類縁物質には、パントテニルエチルエーテル、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アセチルパントテニルエチルエーテルが含まれるが、これらに限定されない。パンテノール及びパンテノール類縁物質の配合量は、製剤の全質量に対し1〜5.0質量%である。パンテノール及びパンテノール類縁物質の配合量が製剤の全質量に対して1質量%以上の場合、明瞭な相乗的治療効果が見られ、5.0質量%を超えてもさらなる治療効果の増強は乏しい。またパンテノールは粘性の高い成分であり、高濃度で配合した場合にはべたつき感が生じ、使用感が悪くなる傾向があるので、製剤の全質量に対し1〜5.0質量%とするのが好ましい。
【0011】
ジフェンヒドラミン又はその塩類は、抗ヒスタミン作用を有する成分である。ジフェンヒドラミンの塩類には、塩酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミンが含まれるが、それらに限定されない。ジフェンヒドラミン又はその塩類の配合量は、製剤の全質量に対し0.5〜2.0質量%が好ましい。ジフェンヒドラミン又はその塩類の配合量が製剤の全質量に対して0.5質量%以上の場合、明瞭な相乗的治療効果が得られ、一方、2質量%を超えると、同時に配合しているアラントイン又はアラントイン類縁物質及びパンテノール又はパンテノール類縁物質の安定性が悪くなる。
【0012】
本発明の皮膚外用剤に使用される多価アルコールは、ヒドロキシル基2個以上を分子中に含むもので、且つ2個以上の炭素数を有するものであれば特に限定されない。本発明において、好ましくは2〜6個のヒドロキシル基を有し、2〜10個の炭素数を有する多価アルコールが効果の面で優れている。具体的には、本発明の皮膚外用剤に使用される多価アルコールにはエチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、マンニトール、ソルビトール等が含まれ(但し、これらに限定されない)、刺激性及び使用感等の観点からポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール及びグリセリンが特に好ましい。これらの多価アルコールは単独もしくは2種以上の組み合わせで用いることが出来る。多価アルコールの配合量としては製剤の全質量に対して1〜50質量%が好ましく、更に好ましくは5〜40質量%である。多価アルコールの配合量が0.5%以上の場合、アラントイン又はアラントイン類縁物質及びパンテノール又はパンテノール類縁物質の安定性に十分な効果が得られ、又50質量%以上では、べたつき感が強くなり使用感が劣化する。
【0013】
本発明に使用される非イオン性界面活性剤は特に限定されず、エステル系の非イオン性界面活性剤およびエーテル系の非イオン性界面活性剤が含まれる。エステル系の非イオン性界面活性剤には、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルが含まれるが、これらに限定されない。エーテル系の非イオン性界面活性剤には、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが含まれるがこれらに限定されない。これらの非イオン性界面活性剤は、単独もしくは2種以上の組み合わせで用いることが出来る。また製剤全体としてのHLBが10以上となるような成分及び組み合わせになるようにすることが製剤の乳化安定性、使用感の面から好ましい。非イオン性界面活性剤の配合量としては製剤の全質量に対して0.1〜10質量%が好ましく、更に好ましくは1〜5.0質量%である。これらの非イオン性界面活性剤の配合量は、本発明の皮膚外用剤の安定性、使用感、皮膚への刺激性等を考慮してより適切に選択することができる。
【0014】
創傷治癒効果判定の実験モデルとして、皮膚を切除する欠損創、焼灼による熱傷、メスなどによる切創モデルが用いられている。例えば、山浦らは幼牛の血液より得られた組織呼吸賦活物質ソルコセリルを主した剤とした軟膏、ゼリー剤の評価でRosenらの方法に準じた切創モデルを応用し、ソルコセリルの治癒促進効果を認めている(応用薬理 22(4) 565-579(1981))。また、創耐張力測定装置も安価に作ることができ再現性のよい結果を得ている。切創では創耐張力を測定するのが一般的であるが、山浦ら(既述)によれば、創耐張力測定装置も安価に作ることができ、再現性のよい結果が得られる。従って、本発明の皮膚外用剤の治療効果はこれらのいずれの方法によっても評価することが出来るが、切創モデルを使用して山浦らの方法に準じて行うのが好ましい。
具体的には、本発明の皮膚外用剤の治療効果は例えば、以下のようにして評価することが出来る。ラットの除毛背部皮膚に正中線で左右対称に長さ15mm程度の切創をハサミ等で作製し、切創の中央部各1箇所を絹製縫合糸で縫合し、効果を評価すべき試験組成物の適切量、例えば30〜70mgを縫合直後より1日1回〜2回、切創部皮膚の左右いずれかに数時間、例えば6時間程度適用する。適用後、ラットは直ちに円筒形金網に移し、検体の経口摂取を防止する。これらの操作を数日間、例えば4〜6日間繰り返し、最終日の前日に後に抜糸を行い、最終日の翌日にラットを安楽死させ、切創部皮膚を短冊状に切り取り創耐張力を測定することによって治癒効果を評価することができる。創耐張力(TS)は例えば山浦(応用薬理 22(4) 565-579(1981))の装置を改良した装置で測定することができる。すなわち短冊状に切り取った切創部皮膚の片側を固定し、反対部に重量を徐々に加え引っ張り、開口するまで必要な重量を求める。効果の評価は、以下の式により治癒促進率を計算することによって行うことができる。対照としては、何も適用せずに検体組成物を塗布する擬似操作のみを行った実験群を使用する。
【0015】
以下の式に従って、各試験組成物について治癒促進率を基に算出し、例えば治癒促進率が15%未満の場合に「治癒促進効果なし」と、治癒促進率が15%以上25%未満の場合に「やや治癒促進効果あり」、治癒促進率が25%以上の場合に「治癒促進効果あり」と判定することが出来る。
・治癒促進率=(検体のTS−対照部のTS)/対照部のTS×100
本発明の皮膚外用剤は、アラントイン又はアラントイン類縁物質、パンテノール及びパンテノール類縁物質、および、ジフェンヒドラミン又はその塩類を単独または2種組み合わせて使用した場合に比較して、治癒効果が顕著に増強されている。
【0016】
本発明の皮膚外用剤の安定性については、例えば、以下の方法により確認することができる。例えば室温〜60℃にて1〜12ヶ月保存して、HPLCにより含量を測定することにより成分の含量変化に関する経時安定性を調べることができる。より簡便には、40〜60℃にて1〜3ヶ月、好ましくは60℃で1ヶ月保存して安定性を調べることができる。本発明による皮膚外用剤は、例えば60℃にて1ヶ月間、成分含量が90%以上を安定に保持することができる。また難水溶性であるアラントインの結晶性出に関しては、例えば0〜25℃で1〜12ヶ月保存して、顕鏡により確認することができる。より簡便には、10℃にて1〜3ヶ月、好ましくは5℃以下で1ヶ月保存して安定性を調べることができる。本発明による皮膚外用剤は、例えば5℃にて1ヶ月間保存しても結晶析出は認められない。
【0017】
本発明の皮膚外用剤には、各種基剤成分と配合することにより調製することが出来る。そのような目的に使用される物質のいずれも用いることが出来る。そのような基剤の例には、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素;ステアリン酸、ミリスチン酸及びオレイン酸等の高級脂肪酸;セタノール、ステアリルアルコール及びベヘニルアルコール等の高級脂肪アルコール;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロプル及びアジピン酸ジイソプロピル等の脂肪酸エステル油;トリイソオクタン酸グリセリン及びトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル等の多価アルコール脂肪酸エステル;カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル化デンプン300、ポリビニルピロリドン及びヒアルロン酸ナトリウム等の高分子化合物;ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、リン酸二水素カリウム及びリン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びエデト酸ナトリウム等の安定化剤;メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンゼトニウム等の防腐剤;尿素、ショ糖及び乳酸等の保湿剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
クリーム剤、ゲルクリーム剤、乳剤を調製する場合は、上記成分及び水等の媒体を混合して調製するが、その配合割合は特に制限は無く、例えば、水0〜80質量%、炭化水素0〜99質量%、高級脂肪酸0〜25質量%、高級脂肪アルコール0〜25質量%、脂肪酸エステル油0〜50質量%、多価アルコール脂肪酸エステル0〜30質量%、高分子化合物0〜10質量%、pH調整剤0〜10質量%、安定化剤0〜10質量%、防腐剤0〜5質量%、保湿剤0〜40質量%でよい。
【0018】
本発明の皮膚外用剤には、アラントイン又はアラントイン類縁物質、パンテノール又はパンテノール類縁物質、ジフェンヒドラミン又はその塩類のほかに他の薬物を配合することも可能である。例えば、以下の薬物を配合することも可能であるが、これらに限定されない:ヒドロコルチゾン、酢酸デキサメタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン及び吉草酸酢酸プレドニゾロン等のステロイド剤、ブフェキサマク、ウフェナマート、イブプロフェンピコノロール、インドメタシン、ケトプロフェン、フェルビナク、ピロキシカム、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びその塩類、ジメチルイソプロピルアズレン、トウキエキス及びシコンエキス等の抗炎症剤、酢酸トコフェロール、パルミチン酸レチノール、エルゴカルシフェロール等の脂溶性ビタミン、アスコルビン酸、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸アミド等の水溶性ビタミン、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、セトリミド等の殺菌剤、リドカイン及びその塩類、ジブカイン及びその塩類、プロカイン及びその塩類、テトラカイン及びその塩類、アミノ安息香酸エチル等の局所麻酔剤、l-メントール、dl-カンフル、ハッカ油及びボルネオール等の清涼化剤、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン及び塩酸メチルエフェドリン等の血管収縮剤、ニコチン酸ベンジル、ノニル酸ワニリルアミド及びトウガラシチンキ等の引赤剤。
【0019】
以下の実施例において、本発明の皮膚外用剤の製造方法および、その治療効果についてより詳細に説明する。本発明の皮膚外用剤は、通常のクリーム剤、ゲルクリーム剤、乳剤の製造方法で製造することができる。
【実施例1】
【0020】
アラントイン、パンテノールおよびジフェンヒドラミンの相乗効果
アラントイン、パンテノール、およびジフェンヒドラミンを含む皮膚外用剤と、アラントイン、パンテノール、およびジフェンヒドラミンをそれぞれ単独で含む皮膚外用剤又はアラントインとパンテノールを含むジフェンヒドラミンを含まない皮膚外用剤の治癒効果を比較した。
以下の組成物(試験皮膚外用剤)を作製した。各組成物の配合は表1に示した。表中、各成分に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
1)試験組成物1
有効成分としてアラントイン、パンテノール及びジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリン並びに非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸ソルビタン及びポリソルベート60を用いて皮膚外用クリーム剤を調製した。配合量及びその他の基剤成分は、表1に示す。調製方法は、まずジフェンヒドラミン、セタノール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、モノステアリン酸ソルビタン及びポリソルベート60を約75℃に加熱し均一溶解する。次に精製水の一部にアラントイン及びパンテノールを加え約75℃に加熱攪拌して溶解し、先の油相に攪拌しながら加え乳化物を調製した。一方、残りの精製水にクエン酸及びリン酸水素ナトリウムを加えて溶解し、乳化物に加え攪拌し40℃以下になるまで冷却し乳剤性皮膚外用剤を得た。
2)比較組成物1
パンテノール及びジフェンヒドラミンを添加しないこと以外は組成物1作製と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
3)比較組成物2
アラントイン及びジフェンヒドラミンを添加しないこと以外は組成物1作製と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
4)比較組成物3
アラントイン及びパンテノールを添加しないこと以外は組成物1作製と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
5)比較組成物4
ジフェンヒドラミンを添加しないこと以外は組成物1と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
【0021】
6)各組成物の治癒促進率の測定
次に、作成した各試験組成物(試験皮膚外用剤)の治癒効果を測定した。
ラットの除毛背部皮膚に正中線で左右対称に長さ15mmの切創をハサミで作製し、切創の中央部各1箇所を絹製縫合糸で縫合し、検体50mgを縫合直後より1日1回、切創部皮膚の左右いずれか片方に6時間適用した。適用後、ラットは直ちに円筒形金網に移し、各試験組成物の経口摂取を防止した。これらの操作を5日間繰り返し、4日目の適用後に抜糸を行い、6日目に炭酸ガス安楽死させ、切創部皮膚を短冊状に切り取り創耐張力測定用とした。創耐張力(TS)は山浦(応用薬理 22(4) 565-579(1981))の装置を改良した装置で測定した。すなわち短冊状に切り取った切創部皮膚の片側を固定し、反対部に重量を徐々に加え引っ張り、開口するまで必要な重量を求めた。
治癒効果は、以下の式により算出する治癒促進率を各試験組成物について計算して比較した。
治癒促進率=(検体のTS−対照部のTS)/対照部のTS×100
対照としては、実際には何も適用せずに組成物を塗布する擬似操作のみを行った実験群を使用した。結果を以下の表1に示す。表中、各成分に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。





【0022】
表1.ラット創傷皮膚モデルにおける治癒促進効果

【0023】
各有効成分単独及び2種の組み合わせでは効果なし或いはやや治癒促進効果ありであるが、有効成分を3種類配合することにより相乗的な効果の増強が確認された。
【実施例2】
【0024】
アラントインの好ましい配合量の決定
アラントインの配合量を変化させ、治癒促進率に対する影響を調べるため、以下の組成物(試験皮膚外用剤)を作製した。各組成物の配合を表2に示す。表中、各成分に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
1)試験組成物2〜4
有効成分としてアラントイン、パンテノール及びジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリン並びに非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸ソルビタン及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレン(40)セチルエーテルを用いて乳剤性皮膚外用剤(皮膚外用クリーム剤)を調製した。アラントインの配合量を変化させ、その他の配合成分は同一に調製した。調製方法は、実施例1、組成物1の調製方法と同様である。
2)比較組成物5及び6
組成物2〜4と同様の操作を行い比較組成物5及び6の乳剤性皮膚外用剤を得た。3)各組成物の治癒促進率の測定
治癒促進率を表2に示す。治癒促進率の測定は実施例1に記載した方法と同様である。また、表中、結晶析出の有無は、各組成物を5℃で1ヶ月間保存して顕鏡観察により測定した。




【0025】
表2.アライントイン配合量と治癒促進効果

【0026】
アラントイン0.1質量%ではやや治癒促進効果ありであったが、0.2質量%配合することにより効果の増強が確認された。しかしアラントインを2.5質量%以上配合すると、アラントインの結晶析出が確認され、安定性が減少した。また、アラントインを2.0質量%より多く配合しても更なる効果の増強は乏しかった。
【実施例3】
【0027】
パンテノールの好ましい配合量の決定
組成物中のパンテノールの配合量を変化させ、治癒促進率に対する影響を調べるため、以下の組成物(試験皮膚外用剤)を作製した。各組成物の配合成分は表3に示した。表中の各成分に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。

1)試験組成物5〜7
有効成分としてアラントイン、パンテノール及び塩酸ジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリン並びに非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレン(40)セチルエーテルを含む乳剤性皮膚外用剤(皮膚外用クリーム剤)を調製した。パンテノールの配合量を変化させ、その他の配合成分を同一に調製した。調製方法は、実施例1、試験組成物1の調製方法と同様である。
2)比較組成物7および8
比較組成物2〜4と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
3)各組成物の治癒促進率の測定
各組成物の治癒効果を表3に示した。治癒促進率の測定は実施例1に記載した方法と同様である。


【0028】
表3.パンテノール配合量と治癒促進効果

【0029】
パンテノールを1.0質量%以上配合することにより、明瞭な効果の増強が確認された。一方、パンテノールを5質量%より多く配合しても、更なる効果の増強は乏しかった。
【実施例4】
【0030】
ジフェンヒドラミンの好ましい配合量の決定
ジフェンヒドラミンの配合量を変化させ、治癒促進率に対する効果を調べるため、以下の組成物(試験皮膚外用剤)を作製した。各組成物中の成分の配合量は表4に示した。表中の数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
1)試験組成物8〜10
有効成分としてアラントイン、パンテノール及びジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリンを用い、非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸ソルビタン及びポリソルベート60を用いて乳剤性皮膚外用剤(皮膚外用クリーム剤)を調製した。ジフェンヒドラミンの配合量を変化させ、その他の配合成分は同一に調製した。調製方法は、実施例1の調製方法と同様である。
2)比較組成物9および10
比較組成物5〜7と同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
3)各組成物の治癒促進率および安定性の測定
各組成物中の治癒促進率および安定性を表4に示した。治癒促進率の測定は実施例1に記載した方法と同様である。表中の配合量に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
また、アラントイン及びパンテノールの安定性は、各組成物を60℃で1ヶ月間保存し、HPLC法によりアラントイン及びパンテノールの組成物中の含有量を測定することによ




【0031】
表4.ジフェンヒドラミン配合量と治癒促進率および安定性

【0032】
ジフェンヒドラミンを0.5質量%以上配合することにより、明瞭な効果の増強が見られた。またジフェンヒドラミンを2.0質量%より多く配合した場合、アラントイン及びパンテノールの安定性が悪くなることが観察された。
【実施例5】
【0033】
治癒促進率および安定性に対する多価アルコールおよび界面活性剤の影響
多価アルコールおよび界面活性剤の治癒促進率に対する効果を調べるため、以下の組成物(試験皮膚外用剤)を作製した。各組成物中の成分の配合量は表5に示した。表中の数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
1)試験組成物11
有効成分としてアラントイン、パンテノール及び塩酸ジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとして1,3-ブチレングリコール並びに非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸ソルビタン及びポリソルベート60を用いて皮膚外用クリーム剤を調製した。調製方法は、実施例1、試験組成物1の調製方法に準じて調製し乳剤性皮膚外用剤を得た。
2)比較組成物11
試験組成物11において多価アルコールである1,3-ブチレングリコールを用いないこと以外は同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
3)比較組成物12
実施例11において、非イオン性界面活性剤の変わりにイオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムを用いること以外は同様の操作を行い、乳剤性皮膚外用剤を得た。
4)比較組成物13
有効成分としてアラントイン、パンテノール及び塩酸ジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリンを含むものの非イオン性界面活性剤を含まない皮膚外用剤を調製した。配合量及びその他の基剤成分は、表5に示す。調製方法は、精製水の一部にアラントイン、パンテノール、塩酸ジフェンヒドラミン及びグリセリンを加えて溶解し、予め精製水の一部にカルボキシビニルポリマーを分散しジイソプロパノールアミンを加えて攪拌した液に加え、均一に攪拌し調製しゲル剤を得る。
5)比較組成物14
有効成分としてアラントイン、パンテノール及び塩酸ジフェンヒドラミンを含み、多価アルコールとしてグリセリンを含むものの非イオン性界面活性剤を含まない皮膚外用剤を調製した。
精製水の一部にアラントイン、パンテノール、塩酸ジフェンヒドラミン、グリセリン、クエン酸及びリン酸水素ナトリウムを加えて溶解し、均一に攪拌し調製し液剤を得た。
6)各組成物の治癒促進率および安定性の測定
各組成物中の治癒促進率および安定性を表5に示した。治癒促進率の測定は実施例1に記載した方法と同様である。表中の配合量に関する数値は組成物全体に対する各成分の質量%である。
アラントイン及びパンテノールの安定性は、各組成物を60℃で1ヶ月間保存し、HPLC法によりアラントイン及びパンテノールの組成物中の含有量を測定することによって行


































【0034】
表5.多価アルコールおよび界面活性剤の治癒促進率及び安定性に与える影響

【0035】
表5から、非イオン性界面活性剤の変わりにイオン性界面活性剤を用いるとパンテノール及びアラントインの安定性が悪くなることが明らかになった。また多価アルコール及び非イオン性界面活性剤を用いず調製したジェル剤又は液剤は治癒促進効果が弱く、又アラントインとパンテノールの安定性が悪くなった。これらの結果から、多価アルコールの含量は製剤全体に対して1〜50質量%が好ましく、非イオン性界面活性剤の含量は製剤全体に対して0.1〜10質量%が好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質、
(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質、及び
(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類、
を含む皮膚外用剤。
【請求項2】
(i)アラントイン及び/又はアラントイン類縁物質を皮膚外用剤全体に対して0.2〜2質量%、
(ii)パンテノール及び/又はパンテノール類縁物質を皮膚外用剤全体に対して1〜5質量%、及び
(iii)ジフェンヒドラミン又はその塩類を皮膚外用剤全体に対して0.5〜2質量%、
含む皮膚外用剤。
【請求項3】
アラントイン類縁物質が、アライントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウムからなる群より選ばれる、請求項1または2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
パンテノール類縁物質が、パントテニルエチルエーテル、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アセチルパントテニルエチルエーテルからなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
ジフェンヒドラミン塩類が塩酸ジフェンヒドラミンまたはサリチル酸ジフェンヒドラミンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
更に多価アルコールおよび非イオン性界面活性剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
多価アルコールを皮膚外用剤全体に対して1〜50質量%、及び非イオン性界面活性剤を皮膚外用剤全体に対して0.1〜10質量%含む請求項6記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
多価アルコールがエチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、マンニトールおよびソルビトールからなる群より選ばれる、請求項6または7記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
非イオン性界面活性剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる、請求項6〜8のいずれか1項記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2006−335676(P2006−335676A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161649(P2005−161649)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000150028)株式会社池田模範堂 (8)
【Fターム(参考)】