説明

皮膚外用剤

【課題】 アガリクス・ブラゼイの子実体を利用した新規な皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】 アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣および/またはその溶媒抽出物を含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アガリクス・ブラゼイの子実体を利用した新規な皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アガリクス・ブラゼイ(Agaricus blazei)は、ブラジル原産の担子菌類キノコであり、多糖の一種であるβ−グルカンを多く含むことで知られている。このβ−グルカンは、免疫賦活能力が高く、NK(ナチュラルキラー)細胞などの免疫細胞を活性化させることにより、ガン細胞を攻撃して殺滅させる効果を有することから、アガリクス・ブラゼイは、ガンやその他の成人病などに対して優れた効果を有し、健康食品などとして重宝されている。
【0003】
近年、アガリクス・ブラゼイを皮膚外用剤の有効成分として利用することが提案されている。例えば、特許文献1では、アガリクス・ブラゼイの子実体に対してアルコールや水などの極性溶媒を用いた抽出操作を行って得られる溶媒抽出物に繊維芽細胞賦活作用があることが見出され、この溶媒抽出物を含有する皮膚外用剤が、シワやシミの発生などの皮膚老化症状の防止や改善のために有用であることが記載されている。しかしながら、アガリクス・ブラゼイの皮膚に対する作用は、いまだ未解明の部分も多い。
【特許文献1】特開平11−80016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、アガリクス・ブラゼイの子実体を利用した新規な皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣にメラニン生成抑制作用があることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の皮膚外用剤は、請求項1記載の通り、アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣および/またはその溶媒抽出物を含有してなることを特徴とする。
また、請求項2記載の皮膚外用剤は、請求項1記載の皮膚外用剤において、皮膚外用剤が美白外用剤であることを特徴とする。
また、本発明のメラニン生成抑制剤は、請求項3記載の通り、アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣および/またはその溶媒抽出物を有効成分としてなることを特徴とする。
また、本発明のアガリクス・ブラゼイの子実体に含まれるメラニン生成抑制成分とメラニン生成抑制阻害成分を分離する方法は、請求項4記載の通り、子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って、メラニン生成抑制成分を含む抽出残渣とメラニン生成抑制阻害成分を含む抽出物に分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アガリクス・ブラゼイの子実体を利用した新規な皮膚外用剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、原料として用いるアガリクス・ブラゼイの子実体は、天然物であってもよいし栽培物であってもよい(水きのこ状のものであってもよい)。また、子実体は、生であってもよいし乾燥したものであってもよいが、効率のよい抽出操作を行うためには、子実体は、適度な大きさに断裁や粉砕して用いることが望ましい。
【0009】
アガリクス・ブラゼイの子実体に対する液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作は、自体公知の抽出装置を用いて行うことができる。この抽出操作により、メラニン生成抑制成分を含む抽出残渣とメラニン生成抑制阻害成分を含む抽出物に分離することができる。抽出条件は、例えば、温度10℃〜50℃、圧力1MPa〜10MPa、時間1時間〜50時間から適宜設定すればよい(炭酸ガスの臨界点は31.1℃,7.38MPaであるのでこれを超える温度,圧力を採用する場合は超臨界抽出となる)。なお、抽出操作を行うに際しては、アルコール(エタノールやプロパノールやブタノールなど)や水やこれらの混合液をエントレーナとして添加してもよい。
【0010】
上記のようにして抽出操作を行って得られる抽出残渣は、例えば、減圧乾燥してから微粉砕し、クリーム基材や軟膏基材に混合することで、皮膚外用剤として製剤化を行って用いることができる。この抽出残渣は、メラニン生成抑制成分が含まれていることでメラニン生成抑制剤として作用するので、本発明の皮膚外用剤は、美白外用剤として優れたものである。また、この抽出残渣に対して溶媒を用いた抽出操作を行って得られる溶媒抽出物をメラニン生成抑制剤の有効成分として用いてもよい(用いる溶媒はアルコールや水などの極性溶媒が望ましい)。溶媒抽出物を用いれば、ローションや乳剤などの液状製剤の調製が容易になる。また、メラニン生成抑制作用が喪失しない範囲内において、この溶媒抽出物を自体公知の分離・精製方法で精製して用いてもよい。皮膚外用剤として製剤化を行うに際しては、皮膚外用剤の一般的な添加成分として知られている防腐剤や抗酸化剤などを添加してもよいことは言うまでもない。この抽出残渣および/またはその溶媒抽出物の皮膚外用剤への配合量は、0.001重量%〜20重量%とすることが望ましい。配合量が0.001重量%を下回るとこれらの有効成分を配合することの効果が発揮されない恐れがある一方、配合量が20重量%を上回るとこれらの有効成分に基づく茶色着色が顕著になることで製剤化を行うことが困難になる恐れがある。なお、本発明の皮膚外用剤には、保湿剤や抗炎症剤や紫外線吸収剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の皮膚外用剤について実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0012】
実施例1:アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣のメラニン生成抑制作用
適度な大きさに断裁したアガリクス・ブラゼイの子実体(冷凍貯蔵していた収穫期のもの)に対する液化炭酸ガスを用いた抽出操作を、エントレーナを添加しない態様、エントレーナとして水を添加する態様、エントレーナとして水とエタノールの1:1混合液(重量比)を添加する態様、エントレーナとしてエタノールを添加する態様の4種類の態様で行った。抽出条件は1ロット500g、温度25℃、圧力5.2MPa〜6.3MPa、時間16時間とした。それぞれの態様で抽出操作を行って得られた抽出残渣(子実体100g当たりの乾燥物回収量を表1に示す)を、減圧乾燥してから微粉砕し、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)1mlに対し50mgの割合で添加して評価試料とした。こうして調製された評価試料のメラニン生成抑制作用を、マッシュルームチロシナーゼを用いた評価方法(必要であれば「中西秀夫:“香料のメラニン生成抑制効果”,FRAGRANCE JOURNAL 臨時増刊18 113−119,東京(2003)」を参照のこと)によって評価した。具体的な評価方法は次の通りである。
(a)試験管に、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に基質となるL−チロシンを0.5mg/mLの濃度になるように溶解させて調製したL−チロシン溶液0.3mL(チロシンは溶解しにくいので予め乳鉢で粉砕したものを用いて調製)、評価試料0.2mLを入れ、続いて、マッシュルームチロシナーゼ溶液(3570units/mg:シグマアルドリッチ社製)0.1mLを加えて素早く攪拌した後、振とう恒温槽(ロータリーシェーカー50:高杉製作所社製)にて37℃、100rpmで1時間振とうしてから、UV分光光度計で640nmの吸光度を測定した(こうして測定した吸光度をサンプルの吸光度とする)。
(b)(a)において試験管にマッシュルームチロシナーゼ溶液0.1mLを加える代わりに、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)0.1mLを加えること以外は、(a)と同様にして640nmの吸光度を測定した(こうして測定した吸光度をブランクの吸光度とする)。
(c)(a)において試験管に評価試料0.2mLを入れる代わりに、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)0.2mLを入れること以外は、(a)と同様にして640nmの吸光度を測定した(こうして測定した吸光度をコントロールの吸光度とする)。
(d)以下の計算式によってメラニン生成抑制率を求めた。
メラニン生成抑制率(%)=[{A−(C−B)}/A]×100
(A:コントロールの吸光度,B:ブランクの吸光度,C:サンプルの吸光度)
(e)コウジ酸のメラニン生成抑制率の検量線を上記の計算式を元に作成し、コウジ酸のメラニン生成抑制率が50%を示す濃度に相当する評価試料の濃度におけるメラニン生成抑制率を1ユニットとして表した。
【0013】
以上のようにして求めた4種類の評価試料のメラニン生成抑制率を表1に示す。また、冷凍貯蔵していた収穫期のアガリクス・ブラゼイの子実体を凍結乾燥してから粉砕して得た粉末(子実体100g当たりの乾燥物回収量を表1に示す)を、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)1mlに対し50mgの割合で添加して調製した評価試料のメラニン生成抑制率を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から明らかなように、アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られた抽出残渣は、子実体に比較して、単位重量当たりのメラニン生成抑制作用が優れていた。中でも、エントレーナを添加しない態様で得られた抽出残渣と、エントレーナとして水を添加する態様で得られた抽出残渣は、子実体に比較して、比活性で約1.6倍優れていた。以上の結果は、アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガスを用いた抽出操作を行うことで、子実体に含まれるメラニン生成抑制阻害成分を、抽出物として分離除去することができたことによるものと考えられた。
【0016】
製剤例1:固形クリーム
(重量%)
白色ワセリン 30
セタノール 15
ラウリル硫酸ナトリウム 1
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
実施例1で得た抽出残渣1の微粉末 5
精製水 48.8
自体公知の固形クリームの調製工程において、実施例1で得た抽出残渣1の微粉末を添加することで、以上の成分組成を有する固形クリームを得た。
【0017】
製剤例2:ローション
(重量%)
グリセリン 10
エタノール 10
ヒドロキシエチルセルロース 1
セタノール 1
実施例1で得た抽出残渣1のエタノール抽出物 5
クエン酸一水和物 0.66
クエン酸三ナトリウム二水和物 0.27
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
精製水 71.97
自体公知のローションの調製工程において、実施例1で得た抽出残渣1のエタノール抽出物を添加することで、以上の成分組成を有するローションを得た。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、アガリクス・ブラゼイの子実体を利用した新規な皮膚外用剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣および/またはその溶媒抽出物を含有してなることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
皮膚外用剤が美白外用剤であることを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
アガリクス・ブラゼイの子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って得られる抽出残渣および/またはその溶媒抽出物を有効成分としてなることを特徴とするメラニン生成抑制剤。
【請求項4】
アガリクス・ブラゼイの子実体に含まれるメラニン生成抑制成分とメラニン生成抑制阻害成分を分離する方法であって、子実体に対して液化炭酸ガス乃至超臨界炭酸ガスを用いた抽出操作を行って、メラニン生成抑制成分を含む抽出残渣とメラニン生成抑制阻害成分を含む抽出物に分離することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2006−89436(P2006−89436A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279379(P2004−279379)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(595175301)株式会社応微研 (28)
【Fターム(参考)】