説明

皮膚幹/前駆性細胞のマーカー、分析、精製方法および該細胞を含む医薬品

【課題】皮膚幹/前駆性細胞をin vitro およびin vivoの両方で陽性認識するマーカーおよびこのマーカー陽性を指標とする皮膚幹/前駆性細胞の検出、測定および精製方法、これにより純化された皮膚幹/前駆性細胞および増殖率の高い表皮細胞、医薬品の提供。
【解決手段】皮膚幹/前駆性細胞の検出マーカーとしてCD90を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚幹/前駆性細胞をin vitro およびin vivoの両方で陽性認識するマーカーおよびこのマーカー陽性を指標とする皮膚幹/前駆性細胞の検出、測定および精製方法、これにより純化された皮膚幹/前駆性細胞および増殖率の高い表皮細胞、医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表皮は、自己再生能および恒常的な細胞分化能のある少数の幹細胞を持ち、継続的に再生する組織である(非特許文献1参照)。この皮膚表皮中の幹細胞(ケラチノサイト幹細胞:KSC)は、[H]−チミジンを長期保持することによる標識保持性細胞としてin vivo で同定されている(非特許文献2〜3参照)。KSCのin vivoでの検定法として、培養したヒトケラチノサイトおよび皮膚繊維芽細胞をBALB/c nu/scidマウスに皮下注射し、ヒト表皮シスト(嚢腫)を形成する方法が確立されている。該シストはin vivo で24週以上保持されたことが報告されている(非特許文献4参照)。また、lac-Z標識したヒトケラチノサイトシートをNIHスイスnu/nuマウスに移植してin vivoで40週間保持した試験例もあり、in vivoでの検定法として有用である(非特許文献5参照)。
【0003】
ヒトKSCは、in vitroで、ホロクローン、および終末分化細胞を95%超で含むパラクローンとなる一過性増幅(TA)細胞を誘発する(非特許文献6〜7参照)。
ヒトKSCを識別同定するマーカーを模索する観点から従来の報告を遡ると、いくつかの可能性が示唆されている。たとえばp63は、p53遺伝子ファミリーのメンバーの細胞核たんぱく質であるが、正常ヒト表皮および毛包基底細胞での発現が報告され(非特許文献8参照)、またp63が表皮形成における再生のための増殖に必須であるとの報告もある(非特許文献9参照)。このp63発現の弱い細胞は成熟したメロクローンを誘発するのに対し、p63を高レベルで発現する細胞は未熟なホロクローンを形成したとの最近の報告がある(非特許文献10参照)。これらから、p63はin vivo におけるヒトKSCの特異的なマーカーであることが示唆されるが、p63は細胞核たんぱく質であり、生細胞集団の分離に利用しうる適切なマーカーとはいえない。
【0004】
皮膚細胞表面での細胞マーカーもいくつか見い出されている。たとえば、マウスでは造血幹細胞マーカーとして知られているCD34(特許文献1参照)の毛包バルジ領域での発現が報告されている(非特許文献11〜12参照)。ヒトKSCおよびTA細胞中のα2β1インテグリンおよびα3β1インテグリンの発現パターンの研究が報告されているが、ヒトKSCの同定のために効果的な方法ではない(非特許文献13参照)。また、トランスフェリン受容体(CD71)およびα6インテグリン(CD49f)の発現によるヒトKSCの濃縮についてLiらの報告がある(非特許文献14参照)。Liらは、in vitroでCD49fおよびCD71の発現に基づいて、KSC、TA細胞および分化上皮細胞を別種のコロニーに分類している。ここには、CD49fbriCD71dim細胞はゆっくりと増殖、分化するKSC、一方、CD49fbri CD71 bri細胞は速やかに増殖、分化するTA細胞として示されている。
従来、KSC、TA細胞および分化上皮細胞は、CD49fおよびCD71を用いて分類している(非特許文献15〜16参照)。
【0005】
これまで報告された細胞表面分子をマーカーとするKSCないしはTA細胞の同定は、上記のようにほとんどin vitroでのコロニー形成法または細胞周期分析によるものである。KSCまたはTA細胞のin vitroおよびin vivo動態の関係の詳細な研究は数少ないが、そのうちに、上記Liらによるin vivo での報告がある(非特許文献17参照)。Liらは、CD49fおよびCD71の発現により分別したKSC、TA細胞および分化上皮細胞を、不活化したラット気管支に接種し、次いで各細胞断片をSCIDマウスに移植している。先報のin vitroの研究では、CD49fおよびCD71の発現により、KSC、TA細胞および分化上皮細胞の細胞集団を別々のコロニーとして分別しているのに対し、この報告では、CD49fおよびCD71の発現に基づいてKSC、TA細胞および分化上皮細胞として分別した各細胞集団のin vivo可移植性は、これらの間で差がなかったと結論づけている。
【特許文献1】米国特許第4714680号
【非特許文献1】Alonso, L.ら,“Stem cell of the skin epithelium” Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 2003, 100:11830-11835
【非特許文献2】Van Neste, D.ら, “A new way to evaluate the germinative compartment in human epidermis, using [3H] thymidine incorporation and immunoperoxidase staining of 67K polypeptide” Br. J. Dermatol,1983,108:433-439
【非特許文献3】Weinstein, G.D.ら, “Cell proliferation in normal epidermis” J. invest. Dermal,1984,41:269-273
【非特許文献4】Inokuchi. S.ら,“Effects of fibroblasts of different origin on long term maintaenace of xenotransplanted human epidermal keratinocytes in immunodeficient mice”Cell Tissue Res,1995,281: 223-229
【非特許文献5】Kolodka, T.M.ら,“Evidence for keratinocyte stem cells in vitro: long term engraftment and persistence of transgene expression from retrovirous-tranduced keratunocyte”Pro. Natl. Acad.Sci,USA,1998,95:4356-4361.
【非特許文献6】Brrandon, Y.ら,“Three clonal types of keratinocyte with different capacities for multiplication”Proc. Natl. Acad. Sci,USA,1987,84:2302-2306
【非特許文献7】Rochat, A.ら,“Location of stem cells of human hair follicles by clonal analysis”Cell,1994,76:1063-1073
【非特許文献8】Parsa, R.ら,“Association of p63 with proliferative potential in normal and neoplastic human keratinocytes”J. Invest. Dermatol,1999,113: 1099-1105
【非特許文献9】Yang, A.ら,“p63 is essential for regenerative proliferation in limb, craniofacial and epithelial development”Nature,1999,398:714-718
【非特許文献10】Pellegrini, G.ら,“p63 identified keratinocyte stem cells”Proc. Natl. Acad. Sci,USA,2001,98:3156-3161
【非特許文献11】Trempus, C.S.ら,“Enrichment for living murine keratinocytes from the hair follicle bulge with the cell surface marker CD34”J. Invest. Dermatol,2003,120:501-511
【非特許文献12】Tumbar, T.,“Definig the epithelial stem cell niche in skin”Science,2004,303:359-363
【非特許文献13】Jones, P.H.ら,“ Stem cell patterning and fate in human epidermis”Cell.,1995,80:83-93.
【非特許文献14】Li. A.ら,“Identification and isolation of candidate human keratinocyte stem cells based on cell surface phenotype”Proc. Natl. Acad. Sci,USA,1998,5:3902-3907
【非特許文献15】Tani, H.ら,“Enrichment for murine keratinocyte stem cells based on surafce phenotype”Proc. Natl. Acad. Sci.,USA,2000,97:10960-10965
【非特許文献16】Kaur, P.ら,“Adhesive properties of human basal epidermal cells: an analysis of keratinocyte stem cells, transit amplifying cells, and postmitotic differentiating cells”J. Invest. Dermatol.,2000,114: 413-420
【非特許文献17】Li, A.ら,“Extensive tissue-regenerative capacity of neonatal human keratinocyte stem cells and their progeny”J. Clin. Invest.,2004,113:390-400
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体のメカニズムを理解するためには、自己再生能および恒常的な細胞分化能をもつ幹細胞についての充分な情報を得ることが重要である。その典型例として血液学における造血幹細胞(HSC)に関する膨大な知識の蓄積があるが、これを実現できた背景には、HSCが均質な幹細胞集団を同定・純化するための細胞マーカーをもつことにあり、in vitroでもin vivo でも有効な検定系を用いたHSCの精製が可能になったことによる。同様に、皮膚表皮の研究においても、KSCの同定および純化は、生物学的および臨床的両方の見地から重要であり、そのためin vitroおよびin vivo の両方の検定で有効なKSCを識別しうるマーカーが必要とされている。
しかしながら細胞核たんぱく質p63あるいはCD49f,CD71などの従来マーカーとして公知の細胞表面分子は、in vitroおよびin vivo 両方での、幹細胞の性質を示す細胞のマーカーとして有効とはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、in vitroおよびin vivo 両方の検定で有効なKSCマーカーを模索する過程において、まず正常ヒト皮膚上皮細胞(NHEK)での細胞表面分子の発現を検討し、表1に後述するように多くの細胞マーカーの発現を確認した。さらに表皮連続層全域の分析により、CD90の発現が基底層中に局在するという知見を得た。表皮基底層は皮膚幹および/または前駆(以下、幹/前駆と略記)性の細胞層である(非特許文献1参照)。これらから、皮膚幹/前駆細胞の性質を示す細胞(以下、皮膚幹/前駆性細胞とも記す)ないしはその近辺にCD90が高濃度に存在すると考えられ、皮膚幹/前駆性細胞とCD90との相関性が示唆された。CD90を検出すれば皮膚幹/前駆性細胞を高い確率で検出しうる、すなわちCD90は皮膚幹/前駆性細胞のマーカーとなりうることが示唆された。
【0008】
この知見に基づいて、CD90陽性細胞(CD90細胞)を分離し、純化してCD90陰性細胞(CD90細胞)との生物学的差異を、新生児NHEKの培養において、in vitroおよびin vivo で検証したところ、純化したCD90細胞は、CD90細胞に比べ、in vitroで6倍速い増殖能力と、9倍高い未熟コロニー形成能力を示した。また上記CD90細胞およびCD90細胞を強化型緑色蛍光たんぱく質(EGFP)で標識し、ヒト表皮シスト形成試験法によりin vivo で定量的に評価したところ、CD90細胞は、マウス皮膚下に形成したヒト表皮シストの基底層で優先選択的に(CD90細胞に比べ6倍多く)同定された。すなわちCD90細胞として純化された細胞集団は、in vivo においても表皮の幹/前駆性細胞の性質を示すことが実証された。これらから、本発明では、in vitro およびin vivoの両方で有効な皮膚幹/前駆性細胞の検出マーカーとしてのCD90の使用、このCD90陽性を指標とする皮膚幹/前駆性細胞の検出方法、測定および分離・純化方法、さらにこれにより純化された皮膚幹/前駆性細胞を高濃度で含む増殖率の高い表皮細胞を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、未熟コロニー形成能力が高く、細胞増殖性の高い、皮膚幹/前駆細胞の性質をもつ細胞集団をin vitroでCD90陽性として検出することができ、また、この方法に基づいて分別・純化された細胞集団は、in vivoで表皮シストを再構築することができるとともに、構築された表皮シストの基底層中に存在する。これらから、CD90細胞分画は、皮膚幹/前駆性の細胞集団であり、かつこのCD90細胞分画にKSCが存在すると考えられる。
このようにin vitroおよびin vivoの両方で有効な、皮膚幹/前駆性細胞のマーカーは、生物学的および臨床的両方の見地から重要であり、表皮の細胞機能、遺伝子治療および再生医療の研究に大きな進歩をもたらすであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
正常ヒト皮膚上皮細胞(NHEK)での細胞表面分子の発現を分析した。
分析はNHEKに対して既知の細胞表面分子に対する蛍光標識モノクローナル抗体を反応させ、フローサイトメトリーにて行った。
上記試験で測定されたNHEKにおける細胞表面分子の発現率を表1に示す。正常ヒト皮膚上皮細胞には、主に造血系の細胞表面に見られる多くの表面マーカーが発現している。
【0011】
【表1】

【0012】
NHEKに発現が確認されたCD90(別称Thy-1)は、免疫グロブリン様スーパー遺伝子ファミリーに属する細胞表面の糖たんぱく質(Williams, A. F.,“Immunoglobulin-related domains for cell surface recognition”Nature,1985,314:579-580)であり、ヒト骨髄細胞および臍帯血細胞に発現しているGPI結合たんぱく質である。HSCおよび早期TおよびB細胞集団に発現し(Ritter, M.A.ら,“Human Thy-1 antigen:cell surface expression on early T and B lymphoctyes”Immunology,1983,49:555-564)、HSCのマーカーとして使用されている(米国特許第5061620号;Baum, C.M.ら,“Isolation of a candidate human hematopoietic stem-cell population”Proc. Natl. Acad. Sci,USA,1992,89:2804-2808;Craig, W. R.ら,“Expression of Thy-1 on human hematopoietic progenitor cells” J. Exp. Med,1993,177: 1331-1342)。CD90は、神経、腎臓、内皮、平滑筋、結合組織などの非造血組織でも見られ(Gordon J. W.ら,“Regulation of Thy-1 gene expression in transgenic mice”Cell,1987,445-452)、最近、神経幹/前駆細胞での発現も報告されている(Schwartzら,“Isolation and characterization of neural progenitor cell from post-mortem human cortex”J. Neurosci. Res,2003,74:831-851;Vourc'h, P,M.ら,“Isolation and characterization of cells with neurogenic potential from adult skeletal muscle”Biochem. Biophys. Res. Commun,2004 317:893-901)。表皮での発現はこれまで具体的に報告されていない。CD90はHSCのマーカーとしての使用は知られているが、皮膚系での幹細胞のマーカーを示唆する報告もない。また、たとえばCD34のNHEKでの発現がほとんど観察されない(表1参照)ことからも、造血幹細胞のマーカーであっても必ずしも皮膚幹細胞のマーカーとはなりえない。
【0013】
本発明では、上記CD90の皮膚幹/前駆性細胞のマーカーとしての使用を提供するが、該CD90がin vitroおよびin vivo の両方で皮膚幹/前駆性細胞のマーカーとして有効であることを、以下に、in vitroでの初代および培養NHEKにおけるCD90の発現、in vivo での表皮シストの構築を、高感度免疫組織化学およびフローサイトメトリの分析結果に基づいて説明する。これらは、実施例としても実証される。
【0014】
<初代NHEKにおけるCD90の発現>
CD90のin vitroでの発現は、抗ヒトCD90抗体による細胞染色およびフローサイトメトリで検定することができる。
(1)CD90細胞の局在性
初代NHEKでのCD90発現評価を図1に示す。従来KSCマーカーとされているCD49fも同様に評価した。
初代NHEKにおけるCD90の発現(CD90細胞)は、ほぼ例外なくNHEKの基底層で認められた(図1A,C,E)。CD90細胞の局在する基底層は、表皮の幹/前駆性の細胞層とされている。CD49fの発現は基底層だけでなく、有棘層部分でもいくらか認められた(図1F)。
【0015】
(2)CD90細胞のサイトメトリ
発現したCD90のサイトメトリ分析(図2参照)では、初代NHEKのCD90発現は弱く、CD90陽性に分類された細胞はわずか4.2±3.7%(n=5)であり(図2C)、初代NHEKのCD90陽性率はほぼ1〜10%であった。
一方、同様な評価におけるCD49fの発現は広く、初代NHEKの75.0±9.8%がCD49f陽性であった(n=5)(図2D)。
【0016】
(3)CD49f、CD71およびCD90の発現
初代NHEKで発現したCD90細胞がKSC、TA細胞および分化した上皮細胞のいずれに該当するかを分析するため、CD90を、従来の細胞分別方法に使用されているCD49fおよびCD71と共に検定し、これらCD49f、CD71およびCD90を発現する各細胞の関連性を3色フローサイトメトリ法により検討した。なおCD49fおよびCD71による細胞類別方法では、KSC、TA細胞および分化細胞は以下のように同定される。
KSC:CD49fbriCD71dim
TA細胞:CD49fbriCD71bri
分化細胞:CD49fdim
ここでの肩添字は、フローサイトメトリによる検出レベルであり、bri:bright“検出”、dim:diminished“弱検出”を意味する。
【0017】
上記CD49fおよびCD71の識別によりKSC、TA細胞および分化細胞と同定される3種それぞれの細胞断片でCD90の発現が認められた(図2E,F,G)。CD90が発現したCD49f dim 細胞(分化細胞と同定される)は約4%であった(図2E)が、KSCおよびTA細胞にそれぞれ同定される細胞は、約半分がCD90を発現した。具体的に、KSCと同定されるCD49fbriCD71dim細胞の約50%(図2G)、TA細胞と同定されるCD49fbri CD71 bri細胞の約65%(図2F)で、CD90の発現が明らかになった。
この結果は、CD90の発現を調べることにより、従来の方法で識別されるKSC、TA細胞および分化細胞の各細胞集団を一層厳密に特定することができるか、あるいはCD90分画が従来のCD49fおよびCD71による方法では分離できない細胞集団を含むことを示唆している。
【0018】
<培養したNHEKでのCD90発現>
培養時におけるNHEKCD90発現の変化を図3に示す。
解凍直後の初代培養の終了したNHEKでは、CD90陽性は27〜40%(34.0±6.8%)であった。なおCD49fについての同様の評価では、CD49f陽性が98〜99%(98.6 ±0.6%)であった(n=5)。
培養中、幹細胞は、そのフェノタイプが変化し、生物学的活性を失うのがしばしば観察された。未熟な幹/前駆細胞を保持・増殖するために、公知の共培養法を広く用いることができる。たとえば、マウスの繊維芽細胞株3T3 J2は、増殖能力をもつ未分化細胞の保持に効果的であり、ケラチノサイトの増殖につながる(Rheinwald, J.G.ら,“Serial cultivation of strains of human epidermal keratinocyte: the formation of keratinizing colonies from single cell”Cell,1975,6:331-343;Barrandonら(非特許文献6参照); Zhu, AJ.ら, “Signaling via β1 integrins and mitogen-activaed protein kinase determines human epidermal stem cell fate in vitro”Proc. Natl. Acad. Sci.,USA,1999,96:6728-6733)。これら支持細胞は、KSCがin vivo で存在する際の幹細胞ニッチェ(幹細胞のための居場所)を疑似化するものである(Tumbarら(非特許文献12参照))。コロニー形成能力とともにCD34発現を保持することが確められている、マウス間質細胞株HESS-5を用いるCD34臍帯血造血幹/前駆細胞の増殖方法(Kawada, H.ら,“Rapid ex vivo expansion of human umbilical cord hematopoietic progenitors using a novel culture system”Exp. Hematol.,1999,27:904-915)を参照することもできる。
【0019】
本発明では、NHEKを照射した正常ヒト真皮繊維芽細胞(NHDF)と共培養したところ、表面マーカーのCD90が保持された。この共培養は、皮膚細胞をマウス繊維芽細胞株3T3J2と共培養して皮膚細胞の幼弱な特徴が保持されたという上記Rheinwald, J.G.らの報告に基づいて、幼若な皮膚細胞の特徴を保持する条件とされるものである。なおRheinwaldらの報告に記載された共培養の説明を本明細書にも記載されているものとすることができる。
【0020】
6代継代時、NHDFと共培養したNHEKの27.2±8.6%が依然CD90を発現したのに対し、NHDFなしの培養では8.2±3.4%であった。NHDFなしのCD90の発現は、10代継代では、陽性細胞はわずかに5.1±1.6%であった。
一方、培養中のCD49fbriの発現は、支持細胞の存在による影響はなかった。
CD90が培養中に急速に消失したことおよび支持細胞の存在下では維持された事実は、CD90細胞の幹/前駆性の反映といえる。CD49fの発現がNHDFの有無に影響されなかったことも考慮に入れれば、CD90は増殖培養におけるNHEK条件をモニターするために使用できるであろうことを示唆している。
【0021】
<培養したCD90NHEKの増殖性>
6代継代のCD90およびCD90NHEKを、FACS Vantageセルソータ(細胞分取機)を用いて、それぞれ純度97%超で分取し、CD90、CD90および未分別NHEKの間の生物学的差異を調べた(図4〜6参照)。
6代継代のCD90NHEKは、SSC(側方散乱光)の低チャネル側に現れた(図4D)。これらのCD90を発現する細胞はわずかな顆粒しか細胞質に認められず、これらの形態的な特徴は、一般的には未熟な細胞の特徴と一致する。
【0022】
CD90およびCD90NHEKは、照射済みのNHDFとともに、KBM-2無血清の培地中で共培養し、細胞増殖率を調べた(図5参照)。13日間培養後、CD90、CD90および未分別NHEK各の細胞増殖は、播種細胞数に対し、それぞれ約600倍、2500倍および1900倍であった。
CD90NHEKは、培養の初期、他の細胞集団に比べて増殖が速かったが、21日後に増殖が止まった。これとは対照的に、CD90NHEKの増殖は、26日後加速した。培養41日目までに、CD90,CD90および未分別NHEKの細胞は、それぞれ約2.1×10倍、0.4×10倍、1.1×10倍に増加した。
これらのデータは、CD90NHEKが、培地中で活性化するまで長時間要するが、高い増殖能力をもつ休止期細胞集団であることを示していた。
【0023】
<CD90NHEKのコロニー形成>
ケラチノサイトは、その成熟過程に応じてさまざまなタイプのコロニーを形成し、各コロニーは、それが包含する分化細胞の量に準じて分類されている。未熟なホロクローン、成熟したメロクローンおよび終末分化細胞を95%超で含むパラクローンに分類される。一般に、未分化細胞集団であるほど、より多数のコロニーを生じさせる。そこでCD90NHEKおよびCD90NHEKのコロニー形成能力を評価したところ、CD90細胞は、未熟フェノタイプのコロニーを、9倍(CD90細胞との対比において)多くもたらすことが確認された(図6参照)。
具体的には、1000個のCD90細胞播種により生じたコロニー数は平均で125.9であり、同数のCD90細胞播種によるコロニー数は65.3であった(各5検体ずつ)。また、CD90細胞から形成されるコロニーの約38%(48±10.6)はほとんどが未熟なホロクローンであった。これに対して、CD90細胞から形成されるコロニーの中のホロクローン量は、わずかに8%(5.3±4.6)であった。
【0024】
<CD90NHEKのin vivo 検定>
ヒト表皮シスト形成法を用いて、CD90NHEKまたはCD90NHEKをin vivo で検定できる。この方法では、NHEKをEGFPで遺伝学的に標識する。EGFPをコードする組換えレンチウィルスに感染させて形質導入した細胞(EGFP陽性)を、APC標識した抗CD90モノクローナル抗体(mAb)で染色し、EGFPCD90NHEKおよびEGFPCD90NHEKを分取した(図7)。
【0025】
分別した細胞を、材料および方法欄の記載に準じてNOD/SCIDマウスに注射する。なお分別した各細胞は、97%超がEGFP陽性で、それらの増殖能力およびコロニー形成能力は非標識NHEKと等しい。
注射したCD90またはCD90細胞から誘導されるEGFP陽性領域は、EGFP領域が基底層に含まれる場合をタイプIとし(図8B)、EGFP細胞が角質層、有棘または顆粒層に含まれる場合をタイプIIとした(図8C)。
【0026】
NOD/SCIDマウスに、EGFP標識したCD90またはCD90細胞を皮下投与移植してから6週間後、ヒト表皮シスト中のEGFP領域を免疫組織化学的三次元マップ化することにより数えた(n=4)。連続組織全域の詳細な三次元分析情報によるEGFP領域の観察では、CD90NHEKを注射した場合には、EGFP領域はほとんどがタイプIIに属し700.3±283.1で(図9B)、タイプIに属するものはわずかに53.5±32.2であった(図9A)。
これに対し、同数のCD90NHEKは、327.8±196.7と、ほぼ6倍以上のタイプI領域を含む基底層をもたらし(図9A)、タイプII領域は少なめの231.0±129.6( 図9B)であった。
【0027】
これらの結果は、CD90NHEKがCD90NHEKに比べて、より未分化な細胞集団であることを示している。これらのEGFP領域を抗サイトケラチン抗体で染色したところ、in vivoにおいて正常な分化が進行したことを確認できた。すなわち、基底層内に挿入したEGFP細胞はサイトケラチン14を発現し(図10A)、一方、基底層以外の表皮層中のEGFP細胞はサイトケラチン10を発現した(図10B)。
【0028】
上記in vivo 検定において、EGFP標識したCD90NHEKは、マウス皮膚下で形成されたヒト表皮シストの基底層中で特異的に検出される。また基底層中、EGFPCD90NHEK注射によるEGFP領域数は、EGFPCD90NHEK注射によるEGFP領域数よりも6倍多かった。これらのことより、CD90はヒトケラチノサイトに含まれる幹/前駆性細胞を特異的に認識するといえる。
【0029】
上記のようにヒトNHEKにおけるCD90発現の生物学的意味をより理解するために行った実験において、CD90細胞およびCD90細胞の生物学的能力をin vitroおよびin vivo の両方で検討し、第1にCD90細胞の増殖能力は、CD90細胞より高いことがわかった。
第2に、CD90細胞は、同数のCD90細胞に対し2倍のコロニーをもたらす。さらに、1000個のCD90細胞から、KSCが通常誘発する未熟型のコロニーを48個形成する。一方、同数のCD90細胞が形成する未熟型のコロニーは、わずかに5個であった。
第3に、EGFP標識したCD90細胞を、NOD/SCIDマウスに移植した場合には、基底層中のEGFP領域数は、CD90細胞のそれに比べ、6倍多かった。
【0030】
このように、CD90がin vitroおよびin vivo のいずれでも皮膚幹/前駆性を示す集団のマーカーであることが確認できた。換言すれば、CD90を検出すれば、皮膚幹/前駆性細胞を高い確率で検出することができる。また従来より血液系のCD34分画に造血幹細胞が存在すると考えられていると同様に、純化したCD90NHEKの移植により速やかな表皮組織の再構築が得られることや、NHEKにおけるCD90細胞の比率と従来のKSCまたはTA細胞の同定法であるコロニー形成検定法の成績とがよく相関することなどから、CD90分画に皮膚幹/前駆性細胞(KSCまたはTA細胞)が存在するといえる。CD90をマーカーとして用いれば、皮膚幹/前駆性細胞集団を高度に純化、たとえば3%以上、通常3〜10%に精製することができる。
【0031】
本発明では、上記によりCD90細胞として純化された皮膚幹/前駆性細胞を有効成分とする増殖率の高い表皮細胞を提供することができ、この表皮細胞の培養方法として、CD90細胞として純化された皮膚幹/前駆性細胞を正常ヒト真皮繊維芽細胞と共培養する培養方法も提供できる。
さらにこのような増殖率の高い表皮細胞を含む医薬品を提供できる。この医薬品の形態は特に限定されず、たとえば注射、塗布薬などの形態でよく、また人体に害を及ぼさない範囲であれば、皮膚再生医薬品に通常含ませる添加剤を特に制限なく含ませることができる。
【0032】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。
<材料および方法>
<細胞培養>
ヒト正常皮膚は、東海大学医学部倫理委員会により承認された書式によりインフォームドコンセントを得て整形外科手術を受けた患者から採取した。
初代ヒト正常皮膚(NHEK)の単一細胞懸濁液を調製するため、皮膚組織を4mg/mLのDispase(合同酒精社)と4℃で12時間反応させることにより表皮シートを得た。
凍結した初代培養終了後の新生児NHEKおよび正常ヒト真皮繊維芽細胞(NHDF)はCambrex Bio Science社より入手した。
20%FCS添加αMEM(Life Technologies社)中で培養したNHDFは、15Gyの放射線で照射し、長期ケラチノサイト無血清培養用支持細胞として使用した。
NHEKの培養は、2〜4×10のNHEKを0.5〜1×10のNHDFと混合し、5mLのケラチノサイト用基本培地-2(KBM-2;Cambrex Bio Science)を加えてT-25cm培養フラスコにて行った。
【0033】
<細胞染色および純化>
初代NHEKまたは5〜6代継代したNHEKを、APC結合抗ヒトCD90mAb(クローン;5E10)またはFITC結合抗ヒトCD49fmAb(インテグリンα6鎖、クローン;GoH3)(以上いずれもBD Bioscience社)、またはPE結合抗ヒトCD71mAb(クローン;YDJ1.2.2)(Beckman Coulter社)で染色した。
細胞分別は、488nmおよび633 nm に設定したアルゴンおよびヘリウムネオンレーザーを備えたFACS Vantage セルソータ(Becton Dickinson社)を用いて行った。
【0034】
<コロニー分析>
分別したCD90NHEKまたはCD90NHEKを35mmの培養ディッシュ
にそれぞれ1000個播種し、20%FCSおよび100ng/mLのコレラ毒素(List Biological Laboratories社)を含むαMEM中、37℃/5%CO条件下で培養した。
コロニーのタイプを判別するため、2週間の培養で形成されたコロニーを、10%ホルマリンで固定し、ローダミンB(Sigma社)で染色した。
コロニーは、各コロニー中の最終分化細胞の量に準じて、ホロクローン、メロクローンおよびパラクローンに分類される(Barrandonら(非特許文献6),Rochatら(非特許文献7)参照,Pellegriniら(非特許文献10)参照)。
【0035】
<NHEKのレンチウィルス形質導入>
5〜6代継代で増殖したNHEKを、Okiら(“Efficient lentiviral transduction of human cord blood CD34+cells followed by their expansion and differentiation into dendritic cells”Exp. Hematol,2001,29:1210-1217)の方法に準じてEGFPをコードした遺伝子を組み込んだレンチウィルスの高濃度溶液と共に、MOI10で培養した。24時間の培養後、NHEKをKBM-2培地で2回洗浄した後、さらに24時間培養した。EGFP標識したNHEKを、APC結合抗CD90mAbで染色し、分取した。
【0036】
<動物および移植手順>
実験は、東海大学動物ケア委員会により承認された手順にしたがって行った。7〜9週齢雄または雌NOD/Shi-scid(NOD/SCID)マウスはCLEA Japanから入手した。EGFP標識したCD90NHEKまたはCD90NHEK(いずれも4×10)を、非標識の2×10NHEKおよび2×10NHDFと混合した。100μLの細胞PBS懸濁液を、NOD/SCIDマウスの脇腹領域に皮下注射した。移植6週後、マウスをエーテル麻酔して屠殺し、皮下ヒト表皮シストを切除した。シストは、4%パラホルムアルデヒドで固定し、組織構造を調べるための試料を調製した。
【0037】
<免疫組織化学>
免疫染色はMugurumaら(“In vivo and in vitro differentiation of myocytes from human bone marrow-derived multipotent progenitor cells”Exp. Hematol.,2003,31:1323-1330)に準じて行なった。
表皮における細胞表面分子を試験するため、6μmの凍結したヒト皮膚部分をウサギポリクロナール抗ヒトCD90抗体(1:500)またはウサギポリクロナールCD49f抗体(1:200)(いずれもSanta Cruz Biotechnology)で染色した。CD90またはCD90細胞誘導KSCの3次元解析のため、無傷の表皮シストを分割し(シストあたり400〜500個の連続分画)、ビオチン化ウサギポリクロナール抗EGFP mAb(1:500,MBL)で染色した。全染色領域を、顕微鏡下で分析し、注射したCD90またはCD90細胞の子孫細胞を示すEGFP領域を、基底膜または表皮に対する立体的な位置関係に基づいて類別した。ケラチンを免疫染色するために、凍結した分画を、マウス抗ヒトサイトケラチン14(クローンRCK107;1:400)mAbまたはマウス抗ヒトサイトケラチン10(クローンDE-K10;1:10)mAb(いずれもMONOSAN社)と反応させた。
【実施例1】
【0038】
<正常ヒト皮膚におけるCD90およびCD49fの局在性>
細胞表面マーカーの検索のため、正常ヒト皮膚でのCD90発現およびCD49f発現の局在性を調べた。正常ヒト皮膚検体を、抗ヒトCD90またはCD49f抗体で染色した結果を図1に示す。
CD90の発現は、正常ヒト皮膚の基底層で認められた(図1A,C,E)。
図1A(高倍率)および図1C(低倍率)は、CD90細胞が概ね専ら基底層に存在することを示す染色画像である。図1BおよびDは、各コントロールである。基底細胞は褐色メラニン顆粒をいくらか含む。
図1Fは、抗ヒトCD49f抗体により染色した正常ヒト皮膚の画像である。CD49fの発現は、基底層だけでなく、基底以外の細胞(有棘層部分)でもいくらか発現した。
図1Eは、図1Fの隣接部分の抗ヒトCD90抗体の染色を示す画像である。
各図中のバーの長さA,B,E,F:25μm
C,D:50μm
【実施例2】
【0039】
<NHEKにおけるCD90、CD71およびCD49fのフローサイトメトリ分析>
初代NHEKをFITC標識した抗ヒトCD49fmAb、PE標識した抗ヒトC71mAbおよびAPC標識した抗ヒトCD90mAbで染色した。各5検体のうちの代表的なフローサイトメトリ染色プロファイルをそれぞれ図2に示す。
図2A〜Bは、各コントロールプロファイルに相当する。
図2Cは、NHEKのCD90単独染色プロファイルである。初代NHEKにおけるCD90発現は弱く、陽性に分類された細胞は、わずか4.2±3.7%(n=5での平均発現頻度)であった。
図2D〜Gは、NHEKのCD49f、CD71およびCD90による3色染色プロファイルである。n=5での平均発現頻度を以下に示す。
図2Dに示されるように、CD49fの発現は広く、CD49f陽性細胞はNHEKの75.0±9.8%であった。詳細には、
(D-(1))CD49f dimは、56.4±10.4%
(D-(2))CD49fbri CD71 briは、4.6±3.8%
(D-(3))CD49fbri CD71dimは、2.7±1.8%であった。
各細胞でのCD90共発現の平均頻度は、以下のとおりであった。
図2E:CD49fdim細胞の3.8±2.6%
図2F:CD49fbri CD71 bri細胞の52.5±4.7%
図2G:CD49fbri CD71dim細胞の65.0±5.5%
【実施例3】
【0040】
<細胞増殖培養したNHEKにおけるCD90およびCD49fbri 発現>
NHEKの培養過程におけるCD90およびCD49fbri の発現の変化を試験した。初代培養の終了した新生児NHEKを放射線照射したNHDFの存在下あるいは非存在下で培養した。フローサイトメトリで測定した各継代時のCD90およびCD49fbriの発現量を図3に示す。
NHEKは、培養開始時は34.0±6.8%がCD90陽性であり、98.6 ±0.6%がCD49fbriであった(n=5)。
CD90の発現は、6代継代以降激減し、10代目では、陽性細胞はわずかに5.1±1.6%であったが、CD49fbriの発現は変化がなかった。
NHEKを、KSCの未分化フェノタイプを保持する条件(幼若な皮膚細胞の特徴を保持する条件として前記したRheinwald, J.G.らの報告:“Serial cultivation of strains of human epidermal keratinocyte: the formation of keratinizing colonies from single cell”Cell,1975,6:331-343))に準じて、照射済みNHDFと共培養したところ、CD90の発現も保持された。6代継代後では、NHDF非存在下で 8.2±3.4%であるのに対し、NHDFと共培養したNHEKは、27.2±8.6%が依然CD90を発現した。
一方、CD49fbriの発現は、NHDFの有無に関係なく高く維持され、支持細胞の存在による影響はなかった。
【実施例4】
【0041】
<CD90およびCD90NHEKのin vitro反応速度>
初代培養終了後の新生児NHEKのフローサイトメトリ染色プロファイルを図4に示す。図4Aは対照プロファイル、図4Bは未分別のNHEKプロファイルである。NHEKをCD90の発現に基づいて分別した。分別した細胞の純度はCD90細胞で99.3%(図4C)、CD90細胞で97.8%(図4D)であった。
CD90,CD90および未分別NHEKの増殖速度を図5に示す。またCD90,CD90および未分別NHEKの形成したコロニーの類別を図6に示す。
【実施例5】
【0042】
<CD90およびCD90NHEKのin vivo アッセイ>
ヒト表皮シストの形成におけるCD90またはCD90NHEKの寄与をin vivo で分析するため、NHEKをEGFPで遺伝学的に標識した。EGFPをコードする組換えレンチウィルスに2日間感染させると、90%超の細胞がEGFP陽性となった。形質導入した細胞を、APC標識した抗CD90mAbで染色し、EGFPCD90およびEGFPCD90NHEKに分別した(図7)。
EGFPで標識したCD90またはCD90NHEKの分別プロファイルを図7A〜Cに示す。
形質導入効率は90%以上であり、分別したCD90またはCD90NHEKの純度は97%以上であった。
分別した細胞は、97%以上がEGFP陽性で、増殖性およびコロニー形成能力は非標識NHEKとかわりがない。
【0043】
分別された細胞は、材料および方法欄の記載に準じてNOD/SCIDマウスに注射した。
EGFP標識したNHEK(4×10)を、非標識のNHEK(2×10)および同数(2×10)のNHDFとともにマウスの脇腹領域に皮下注射した。移植6週後、皮下に形成されたヒト表皮シストを取出し、6μmの凍結薄切切片を作成した。
投与したEGFP導入細胞から誘導されたEGFP領域は免疫組織化学的手法により視覚化した。EGFP標識したNHEKのNOD/SCIDマウスへの移植の細胞染色を図8A〜Cに示す。B,CはAの一部を高倍率で示す。
投与したCD90またはCD90細胞から誘導されるEGFP陽性領域は、EGFP細胞が基底層に含まれる場合をタイプIとし(図8B)、EGFP細胞が基底層以外、すなわち角質層、有棘または顆粒層に含まれる場合をタイプIIとした(図8B)。
各図中のバーの長さB:300μm
C,D:25μm
【0044】
全ての連続した組織を分析し、詳細な3次元情報を得た。EGFP領域を定量および分類するため連続組織の全てを分析したフローサイトメトリの結果を図9A〜Bに示す。4検体の全てにおいて、タイプIの形成は、CD90細胞(98-508)が、CD90細胞(15−97)よりも多かった(図9A)が、タイプIIの形成は、CD90細胞(312−960)がCD90細胞(47-368)よりも多かった(図9B)。
より具体的には、CD90NHEKを注射した場合には、EGFP領域はほとんど(700.3±283.1)がタイプIIに属し(図9B)、タイプIに属するものはわずかに53.5±32.2であった(図9A)。これに対し、同数のCD90は、327.8±196.7と、ほぼ6倍以上のタイプI領域を含む基底層をもたらし(図9A)、タイプII領域は231.0±129.6( 図9B)と少なかった。これらの結果は、CD90NHEKがCD90細胞に比べて、より未分化な細胞集団であることを示している。
【0045】
これらのEGFP領域を抗サイトケラチン抗体で染色し、正常な分化が進行したことをin vivo で確認した。凍結部分のサイトケラチン10mAbまたはサイトケラチン14mAbによる染色を図10に示す。基底層内に挿入したEGFP細胞は、サイトケラチン14を発現した(図10A)。一方、基底層以外の表皮層中のEGFP細胞は、サイトケラチン10を発現した(図10B)。すなわち予想どおり、サイトケラチン14EGFP細胞が基底層中に局在(図10A)し、基底層以外の細胞中にはサイトケラチン14の陽性反応は見られなかった。角質および有棘層中のEGFP細胞は、サイトケラチン10を発現するが、基底層は発現しない(図10B)。
図10A中、赤:サイトケラチン14、緑:EGFP、白:lanminin。白矢印の先端:サイトケラチン14およびEGFPの二重陽性。
図10B中、赤:サイトケラチン10、緑:EGFP、白:lanminin。白矢印の先端:サイトケラチン10およびEGFPの二重陽性。
各図中のバーの長さA:10μm
B:25μm
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】正常ヒト皮膚検体の抗ヒトCD90抗体または抗ヒトCD49f抗体による染色画像を示す図である。A、CおよびE:抗ヒトCD90抗体による染色写真、BおよびD:AおよびCの各コントロール、F:正常ヒト皮膚の抗ヒトCD49f抗体による染色写真。
【図2】FITC標識した抗ヒトCD49f mAb、PE標識した抗ヒトCD71 mAbおよびAPC標識した抗ヒトCD90 mAbで染色した初代NHEKのフローサイトメトリによる染色プロファイルを示す図である。A,B:コントロールプロファイル、C:NHEKのCD90単独染色、D〜G:NHEKのCD49f、CD71およびCD90による3色染色、D:CD90のない系:D- (1):CD49f dim、D- (2):CD49fbri CD71 bri、D-(3):CD49fbri CD71dim、E〜G:CD90との共発現系、E:CD49f dim、F:CD49fbri CD71 bri、G:CD49fbri CD71dim
【図3】初代NHEKを、放射線照射したNHDFの存在下または非存在下で継代培養した時の各継代におけるCD90およびCD49fbri の発現変化を示す図である。
【図4】培養NHEK(初代培養終了後)のフローサイトメトリ染色プロファイルを示す図である。 Aは対照、Bは未分別のNHEK、CはCD90細胞、DはCD90細胞の各プロファイルを示す。
【図5】培養NHEKの増殖速度を示す図である。CD90,CD90および未分別NHEKの増殖速度を示し、枠内はその部分拡大図を示す。
【図6】CD90,CD90および未分別NHEKのコロニー形成を示す図である。
【図7】EGFP標識したCD90およびCD90NHEKのin vivo アッセイを示すフローサイトメトリプロファイル。A:未分別NHEKのプロファイル、B:CD90NHEKの分別プロファイル、C:CD90NHEKの分別プロファイル。
【図8】EGFP標識したCD90およびCD90NHEKのNOD/SCIDマウスへの移植によるin vivo 検定の免疫組織化学的画像を示す図である。A:EGFP標識したNHEK、B:タイプI、C:タイプII。
【図9】EGFPで標識したCD90またはCD90細胞を皮下投与移植したNOD/SCIDマウスにおけるヒト表皮シスト中のEGFP領域の免疫組織化学的三次元マップ化による定量分析結果を示す図である。A:タイプI、B:タイプII。
【図10】EGFP領域の抗サイトケラチン抗体による染色画像を示す図である。A:サイトケラチン14EGFP細胞、B:サイトケラチン10EGFP細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚幹/前駆性細胞を陽性認識するためのCD90からなるマーカー。
【請求項2】
CD90陽性であることを指標とする皮膚幹/前駆性細胞の検出方法。
【請求項3】
標識された抗CD90抗体によりCD90細胞を染色する請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
請求項2または3の検出方法により、皮膚幹/前駆性細胞をCD90細胞として測定する皮膚幹/前駆性細胞の測定方法。
【請求項5】
皮膚幹/前駆性細胞をCD90細胞として分離する皮膚幹/前駆性細胞の精製方法。
【請求項6】
請求項5でCD90細胞として純化された皮膚幹/前駆性細胞。
【請求項7】
前記CD90細胞が、CD49fbri CD71dim細胞および/またはCD49fbri CD71 bri細胞である請求項6の皮膚幹/前駆性細胞。
【請求項8】
請求項6または7に記載の純化された皮膚幹/前駆性細胞を有効成分とする増殖率の高い表皮細胞。
【請求項9】
前記CD90細胞を正常ヒト真皮繊維芽細胞と共培養する請求項8の表皮細胞の培養方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の純化された皮膚幹/前駆性細胞を有効成分とする医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−84321(P2006−84321A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269339(P2004−269339)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】