皮膚弾力性賦活化粧料
【課題】 加齢や紫外線刺激の累積などで不可避的に低下する皮膚弾力性を、皮膚保湿のみに依らず、また真皮弾力線維材料などの不確かな経皮吸収や強制的注入に頼らず賦活し得る化粧料の提供。
【解決手段】 生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分を有効成分として含有することを特徴とする化粧料をつくり、その用により皮膚弾力性低下を予防し改善し、皮膚弾力性を賦活する。
【解決手段】 生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分を有効成分として含有することを特徴とする化粧料をつくり、その用により皮膚弾力性低下を予防し改善し、皮膚弾力性を賦活する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は皮膚弾力性賦活化粧料にかかわり、その目的は加齢や紫外線刺激など様ざまな原因の蓄積で低下する皮膚弾力性を賦活する、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分を有効成分とする安全性すぐれた皮膚弾力性賦活化粧料を提供することにある。
【背景技術】
【０００２】
皮膚の弾力性とくに成人女性顔面のそれは、加齢により不可避的に低下する。しかもその低下度は、成人に至るまでの顔面曝光時間の累積にも相関するから、皮膚弾力性低下のあらわれである顔面各部位のしわの予防、改善は過去の皮膚ダメージの遡及挽回という点からも容易でない。従来そのことの対策には専ら化粧料、化粧法の工夫が充てられてきたが、その効果はほとんど不鮮明で、現在のところ、化粧料、化粧法による対策は、効果の期待よりも、何もしなければ皮膚弾力性低下が加速するという不安により行われている。
【０００３】
皮膚弾力性低下とそのあらわれであるしわの予防、改善に用いられている化粧料には、皮膚外部からの保湿と、皮膚内部からの弾力性補強が方法として採られている。成人女性は加齢に従い女性ホルモン分泌が漸減し、それは皮膚の乾燥につながるから、より効果的な保湿剤を化粧料に配合して、皮膚の水分蒸散を防ぐのである。保湿剤としては、例えばコンドロイチン硫酸ナトリウム、１，３−ブチレングリコール、乳酸ナトリウム、マルチトール、キシリトール、ビファミン（Ｖｉｆａｍｉｎｅ）、ソルビトール、グリセリン、アミノ酸（セリン、スレオニンなど）、コラーゲンほか多種のものがある。いわば皮膚のコーティング剤の用をなす。一方皮膚内部からの弾力性補強は、表皮と皮下組織をつなぐ真皮の弾力線維構築を目的とするもので、膠原線維である動物性コラーゲン、植物性コラーゲン、海洋性コラーゲン、構造蛋白質であるエラスチン、弾力線維を充填するヒアルロン酸（高分子多糖）など各物質の真皮内送りこみをはかる。但し、いうまでもなく表皮はそのウォーターバリアにより水溶性物質の、また分子量大なるものの吸収を許さず、またそれら物質の極小断片化や吸収条件の工夫で、仮に稀に吸収されることあったとしても、それらが自動的に真皮内で弾力線維に再構築されることは望めないので、化粧料に弾力線維材料を配して、皮膚弾力性低下の予防、改善を得ることは難しい。
【０００４】
皮膚の弾力性は表皮の下層にある真皮の弾力線維構造に支えられている。はじめ細胞内で合成されたコラーゲンはきわめて不安定だが、細胞外分泌に伴いコラーゲンを構成するポリペプチド鎖が三重ヘリックス構造を形成して安定化し、弾力線維と共に立体構造をつくり、ヒアルロン酸の充填を得て弾力性をもつに至る。弾力性の喪失は、紫外線などの刺激で立体構造が壊れ、機能を失した弾力線維を代償するため過産生された非構造的（コラーゲンと立体構造をつくらない）弾力線維が、結合組織における密着性を阻んで、皮膚を緩ませ、すなわち皮膚弾力性を低下させしわをふやしていくのである。皮膚外からのコラーゲンなどが、真皮内に至って、何らかのエネルギーなしに、以上のような過程を経て、自動的に皮膚弾力性を改善、賦活し得ないとする所故である。
【０００５】
化粧法による皮膚弾力性改善法は、主にエステティック施術として行われる。それはパックやピーリングといった物理的で一過的な方法による。たるみを引き上げ、一時的にしわを目立たなくするこの方法は、いうまでもなく、皮膚弾力性を賦活する方法とは言い難く、誰もが日常に為しうる簡便さにも遠い。
【０００６】
皮膚弾力性低下のあらわれであるしわ、とくに女性顔面のそれは筋の弾力性低下という原因はともかく、顔面各部位における成因は同じでない。
【０００７】
前述のように、加齢によってコラーゲン線維は少なくなり、紫外線などの刺激で弾力線維は分断化され、これの線維からなる立体構造をうめていたヒアルロン酸は充填の役をはたせず、徒らに水分をあつめてむくみのもととなる。はりや弾みを失して、皮膚は密着性を減じ、瞼などに「細かいしわ」をつくるようになる。また筋肉の動きが、密着性を減じた皮膚にくせをつけて、ひたいやみけんに「大きいしわ」をつくり、さらに細かいしわや大きいしわに連動伸縮し難くなった目尻や頬などに「表情しわ」がふえていくのである。
【０００８】
これらのしわに対する従来技術は、前述の化粧料や化粧法の他に、医療における対策としては次のような方法が一般に行われている。すなわち「細かいしわ」にはレーザーピーリングが施される。レーザーによって表皮や真皮を一度変性させ（表皮はなくなり、真皮も水分を失って萎縮する）、約一週間後に新しい表皮を再生させ、真皮においても、線維構造を自ら新しくつくらせるのである。もちろん麻酔が必要で、表皮再生後も約一ヶ月発赤や色素沈着が残ることがある。
【０００９】
「大きいしわ」には、ひたいの横じわやみけんの縦じわの溝にそって、コラーゲンやヒアルロン酸を注入する。コラーゲンなどは皮膚外塗で吸収され難いからであるが、しわ改善効果は約６ヶ月持続するもののアレルギー発生率は約３％と低くない。
【００１０】
「表情しわ」にはボツリヌス菌毒素の微量注入が有効とされる。顔にある約２０種類の表情筋のうち、特定筋への神経伝達を遮断し、表情しわができないようにするのだが、ボツリヌス菌毒素は食中毒原因物質でもあるので、医師の管理下以外の場合に行える方法ではない。
【００１１】
外塗してしわを少なくし、皮膚新生を促すものにトレチノインがある。これは活性型ビタミンＡ物質で表皮の新陳代謝を倍速する。約４週間である表皮のターンオーバー（表皮新生から角化角解までのプロセス）時間を約２週間に縮めるので塗布部位の発赤、炎症、角質脆弱化を避け難く、これをふつうの化粧料使用の感覚で用いることはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１２】
以上に述べたように、加齢あるいは紫外線刺激など生存上不可避的な要因で、皮膚弾力性は低下し、顔面などでのしわは増していくのであるが、とくに成人以降の女性において、このことが美容的に、また精神的に多大のストレスを呈するので、ふるくから不断に、その予防、改善の方策が講じられ努力が続けられている。従来技術においては、このことに効果的な方法がなく、唯一効果ありとされる方法も、高率に副作用を伴いやすいので、一般人がプライベイトにスキンケア的感覚で行いうるものではない。
【００１３】
本発明者は従来技術におけるこのような状況をふまえ、皮膚弾力性賦活における三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物含有化粧料及びまたは三七花莟部抽出物含有化粧料及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分含有化粧料の効果研究を重ね本発明を為すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【００１４】
すなわち請求項１にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
請求項２にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物が三七の花莟部からの抽出物であることを特徴とする請求項１の皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
請求項３にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部からの抽出物が、そのサポニン分画成分であることを特徴とする請求項１乃至２記載の皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
【発明の効果】
【００１５】
本発明の皮膚弾力性賦活化粧料は、三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分を化粧料基剤に含有せしめ、外塗経皮的に皮膚弾力性低下を予防し、改善し、皮膚弾力性賦活をはかるもので、皮膚弾力性低下によるしわ、とくに女性顔面のそれの予防、改善に、日常簡便に用い得て効果あり安全性もたかい。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
本発明における皮膚弾力性賦活化粧料は、化粧料としての何れの形態をも採りうるが、とりわけ基礎化粧品類であるクリーム、ジェル（クリーム、ローション）、ローション、乳液、パックなど、メイクアップ化粧品類であるおしろい類、口紅類、頭髪用化粧品類であるシャンプー、リンス、トリートメント、トニック、育毛剤などの形態が好適に選ばれる。
【００１７】
本発明における皮膚弾力性賦活化粧料に含有せしめる三七は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）すなわちウコギ科Ａｒａｌｉａｃｅａｅ人参三七の根茎乾燥物で田三七（デンサンシチ）、田七（デンシチ）とも称される。
主たる成分は三七サポニンＡ（Ｃ３０Ｈ５２Ｏ１０）、三七サポニンＢ（Ｃ２３Ｈ３８Ｏ１０）Ｆｌａｖｏｎ配糖体などで、止血（出血血液の凝固時間を短縮し、血管を収縮する）、消炎、冠血流量増加（同時に心筋の酸素消費量を減少させる）、抗ウィルス、抗真菌などの作用が知られており、とくに血液流状改善（血液粘度低下、赤血球変形能賦活による）の働きにすぐれる。三七は止血作用にすぐれるとされ、事実その目的で賞用されるが、それは止血時間が短いのに血流をなめらかにするという二律反的な利点を有するからである。
【００１８】
本発明において用いる三七花莟部抽出物は、三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）の花莟部乾燥物による。主たる成分は前述の三七根茎部と同じながら、生薬としての用途はいささか異なり、清熱（消炎）、鎮痛、降圧、それに頭昏、目眩、耳鳴、咽頭炎などの緩解に利用されている。
【００１９】
同じく本発明で用いられる三七花莟部抽出物のサポニン分画成分は抽出物の富サポニン分画成分で、トリテルペノイドサポニンであるダンマラン型サポニン（Ｄａｍｍａｒａｎｅ Ｔｙｐｅｓ ａｐｏｎｉｎ）を主に含有する。但し通常生薬として三七抽出物を抽出する場合には、この分画はその発泡性を嫌って除去されることが少なくない。
【００２０】
本発明の皮膚弾力性賦活化粧料調製においては、上記の三七抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分などの配合に加え、通常化粧料に用いられる各種原料、成分を適宜任意に用いて剤型を整えることも差支えない。それら原料、成分にはとくに限定ないが、通常化粧料（医薬部外品を含む）に用いられる公知の原料、成分、例えば油脂類、ロウ類、炭化水素、脂肪酸類、アルコール類、多価アルコール類、エステル類、天然高分子化合物、界面活性剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、ｐＨ調製剤、合成有機塩類、保湿剤、香料、ビタミン類、酵素類、有機薬品類、無機薬品類。動植物抽出成分、ガム質、アミン・アミド・金属石鹸、ホルモン類、抗生物質、防腐殺菌剤、アミノ酸類などである。
【００２１】
また本発明においての三七抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物の皮膚弾力性賦活化粧料への配合量は０．０７〜３．５重量％の範囲、好ましくは０．１〜１．５重量％であればよく、三七花莟部抽出物サポニン分画成分の皮膚弾力性賦活化粧料への配合量は０．０５〜２．５重量％の範囲、好ましくは０．０７〜２．０重量％を至適とする。
【００２２】
以下本発明を実施例により説明する。但し本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
（実施例１）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物の調製
三七根茎細切物（水分量１０％以下）７５ｇに２０倍量の５０％エタノール液を加え２時間加温（８０℃）還流抽出し、これを濾過して濾液を約１／１０量に濃縮し、濃縮物を凍結乾燥し、約２１ｇの褐色粉末を得た。
【００２３】
（実施例２）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出部の調製
実施例１の三七根茎細切物７５ｇを、三七花莟部細切物（水分量１０％以下）にかえたもので、抽出物として褐色粉末約２３ｇを得た。
【００２４】
（実施例３）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分の調製
三七花莟細切物（水分量１０％以下）１０ｇを７０％メタノール８０ｍｌで３０分間加温（８０％）還流抽出し、濾過した濾液を減圧濃縮し、これを脱脂してのち、水飽和ｎ−ブタノール６０ｍｌで３回抽出し、ｎ−ブタノール層を減圧濃縮乾固して花莟部抽出物サポニン分画成分０．７ｇを得た。
【００２５】
（実施例４）
試験に供する化粧料１
ジェル処方
グリセリン １０．０重量％（以下同）
１，３−ブチレングリコール ５．０
オクチルドデセス−２５ １．０
（アクリル酸アクリル酸アルキル（Ｃ１０−３０）コポリマー ０．５
メチルパラベン ０．３
クエン酸 １．０
水酸化ナトリウム（ｐＨ調整） 適量
ＰＥＧ−６０水添ヒマシ油 １．０
実施例１の三七抽出物 １．０
水 残量
合計 １００．０
【００２６】
（実施例５）
試験に供する化粧料２
実施例４のジエル処方中、実施例１の三七抽出物を除き、実施例２の三七花莟部抽出物１．０重量％を加入したもの。
【００２７】
（実施例６）
試験に供する化粧料３
実施例４のジェル処方中、実施例１の三七抽出物を除き、実施例３の三七花莟部抽出物サポニン分画成分０．７５重量％を加入したもの。
【００２８】
（試験例１）
コラーゲンを分解するコラゲナーゼの活性を阻害する試験
ヤガイ製１型コラゲナーゼ活性測定キットを用いて、その手順に従い行う。
実施例２で得た三七花莟部抽出物を測定用緩衝液（０．４Ｍ ＮａＣｌ，１０ｍＭ ＣａＣｌ２，０．０４％ ＮａＮ３をｐＨ７．５の０．１Ｍ Ｔｒｉｓ ＨＣｌで希釈）で濃度調整して用いＩ型コラーゲン分解率を求め、コントロール（測定用緩衝液のみ）でのコラーゲン分解率に対する分解率割合より三七花莟部抽出物のコラゲナーゼ活性阻害率を求めた。なお比較例としてはコラゲナーゼ活性阻害作用物質であるエチレンジアミン４酢酸（ＥＤＴＡ）についても上記と同様に処理した。結果を表１に示す。
【００２９】
【００３０】
（試験例２）
実施例４，５，６の化粧料使用による効果を次の基準により評価した。すなわち成人女性１５人（２９〜４６才）を三群に分け、各５人ずつ実施例４，５，６の化粧料を就寝前洗顔後の顔面に塗布せしめ、４週間の使用期間前後の顔のしわの状態を比較した。基準において二段階以上の改善を有効、一段階の改善をやや有効、その他を無効とした。結果を表２に示す。（なお試験参加１５人全員において、試験期間中及び試験後２週間のあいだ発赤、かゆみをはじめ、何らかの顔面皮膚異常も認められなかった。）
【００３１】
（評価基準）
５〜目尻、下瞼にしわが目立ち，下瞼にかいこ状のむくみがみえる。
４〜下瞼内角がすすけた感じで、目尻にもしわがみえる。
３〜下瞼にむくみやすすけた感じはないが、共にしわがみえる。
２〜表情を動かせると下瞼、目尻にしわがみえる。
１〜下瞼、目尻に気になるほどのしわはみえない。
【００３２】
【００３３】
表１、表２に示された結果から、実施例４，５，６の皮膚弾力性賦活化粧料は、皮膚弾力性低下の予防、改善、そして皮膚弾力性賦活にすぐれた効果をもつことがわかる。
【００３４】
以下本発明にかかわる皮膚弾力性賦活化粧料の処方例を示す。なお含有量は何れも重量％である。
処方例：クリーム、１００ｇ中
ステアリン酸 １０．０
セタノール ２．０
ラノリン １．０
ミリスチン酸イソプロピル ３．０
モノステアリン酸ポリエチレングリコール １．５
トリエタノールアミン ０．８
香料 微量
ソルビトール（７０％） ４．０
メチルパラベン ０．１
実施例１の抽出物 １．０
水 残部
【００３５】
処方例：ローション、１００ｇ中
エタノール １５．０
モノラウリン酸ＰＯＥ（２０）ソルビタン １．０
１，３−ブチレングリコール ３．０
ソルビトール（７０％） ２．０
ピロリドンカルボン酸ナトリウム ３．０
メチルパラベン ０．１
香料 微量
実施例２の抽出物 ０．８
水 残部
【００３６】
処方例：乳液、１００ｇ中
トリオクタン酸グリセリン １０．０
ジカプリン酸ネオベンチルグリコール ８．０
セタノール ６．０
ヒドロキシステアリン酸コレステリル １．０
ステアリン酸 ３．０
パラベン ０．２
オクチルアクリルアミドアクリル樹脂 ０．３
プロテアーゼ ０．１
１，３−ブチレングリコール ３．０
実施例３の三七サポニン分画成分 ０．５
香料 微量
水 残量
【技術分野】
【０００１】
本発明は皮膚弾力性賦活化粧料にかかわり、その目的は加齢や紫外線刺激など様ざまな原因の蓄積で低下する皮膚弾力性を賦活する、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分を有効成分とする安全性すぐれた皮膚弾力性賦活化粧料を提供することにある。
【背景技術】
【０００２】
皮膚の弾力性とくに成人女性顔面のそれは、加齢により不可避的に低下する。しかもその低下度は、成人に至るまでの顔面曝光時間の累積にも相関するから、皮膚弾力性低下のあらわれである顔面各部位のしわの予防、改善は過去の皮膚ダメージの遡及挽回という点からも容易でない。従来そのことの対策には専ら化粧料、化粧法の工夫が充てられてきたが、その効果はほとんど不鮮明で、現在のところ、化粧料、化粧法による対策は、効果の期待よりも、何もしなければ皮膚弾力性低下が加速するという不安により行われている。
【０００３】
皮膚弾力性低下とそのあらわれであるしわの予防、改善に用いられている化粧料には、皮膚外部からの保湿と、皮膚内部からの弾力性補強が方法として採られている。成人女性は加齢に従い女性ホルモン分泌が漸減し、それは皮膚の乾燥につながるから、より効果的な保湿剤を化粧料に配合して、皮膚の水分蒸散を防ぐのである。保湿剤としては、例えばコンドロイチン硫酸ナトリウム、１，３−ブチレングリコール、乳酸ナトリウム、マルチトール、キシリトール、ビファミン（Ｖｉｆａｍｉｎｅ）、ソルビトール、グリセリン、アミノ酸（セリン、スレオニンなど）、コラーゲンほか多種のものがある。いわば皮膚のコーティング剤の用をなす。一方皮膚内部からの弾力性補強は、表皮と皮下組織をつなぐ真皮の弾力線維構築を目的とするもので、膠原線維である動物性コラーゲン、植物性コラーゲン、海洋性コラーゲン、構造蛋白質であるエラスチン、弾力線維を充填するヒアルロン酸（高分子多糖）など各物質の真皮内送りこみをはかる。但し、いうまでもなく表皮はそのウォーターバリアにより水溶性物質の、また分子量大なるものの吸収を許さず、またそれら物質の極小断片化や吸収条件の工夫で、仮に稀に吸収されることあったとしても、それらが自動的に真皮内で弾力線維に再構築されることは望めないので、化粧料に弾力線維材料を配して、皮膚弾力性低下の予防、改善を得ることは難しい。
【０００４】
皮膚の弾力性は表皮の下層にある真皮の弾力線維構造に支えられている。はじめ細胞内で合成されたコラーゲンはきわめて不安定だが、細胞外分泌に伴いコラーゲンを構成するポリペプチド鎖が三重ヘリックス構造を形成して安定化し、弾力線維と共に立体構造をつくり、ヒアルロン酸の充填を得て弾力性をもつに至る。弾力性の喪失は、紫外線などの刺激で立体構造が壊れ、機能を失した弾力線維を代償するため過産生された非構造的（コラーゲンと立体構造をつくらない）弾力線維が、結合組織における密着性を阻んで、皮膚を緩ませ、すなわち皮膚弾力性を低下させしわをふやしていくのである。皮膚外からのコラーゲンなどが、真皮内に至って、何らかのエネルギーなしに、以上のような過程を経て、自動的に皮膚弾力性を改善、賦活し得ないとする所故である。
【０００５】
化粧法による皮膚弾力性改善法は、主にエステティック施術として行われる。それはパックやピーリングといった物理的で一過的な方法による。たるみを引き上げ、一時的にしわを目立たなくするこの方法は、いうまでもなく、皮膚弾力性を賦活する方法とは言い難く、誰もが日常に為しうる簡便さにも遠い。
【０００６】
皮膚弾力性低下のあらわれであるしわ、とくに女性顔面のそれは筋の弾力性低下という原因はともかく、顔面各部位における成因は同じでない。
【０００７】
前述のように、加齢によってコラーゲン線維は少なくなり、紫外線などの刺激で弾力線維は分断化され、これの線維からなる立体構造をうめていたヒアルロン酸は充填の役をはたせず、徒らに水分をあつめてむくみのもととなる。はりや弾みを失して、皮膚は密着性を減じ、瞼などに「細かいしわ」をつくるようになる。また筋肉の動きが、密着性を減じた皮膚にくせをつけて、ひたいやみけんに「大きいしわ」をつくり、さらに細かいしわや大きいしわに連動伸縮し難くなった目尻や頬などに「表情しわ」がふえていくのである。
【０００８】
これらのしわに対する従来技術は、前述の化粧料や化粧法の他に、医療における対策としては次のような方法が一般に行われている。すなわち「細かいしわ」にはレーザーピーリングが施される。レーザーによって表皮や真皮を一度変性させ（表皮はなくなり、真皮も水分を失って萎縮する）、約一週間後に新しい表皮を再生させ、真皮においても、線維構造を自ら新しくつくらせるのである。もちろん麻酔が必要で、表皮再生後も約一ヶ月発赤や色素沈着が残ることがある。
【０００９】
「大きいしわ」には、ひたいの横じわやみけんの縦じわの溝にそって、コラーゲンやヒアルロン酸を注入する。コラーゲンなどは皮膚外塗で吸収され難いからであるが、しわ改善効果は約６ヶ月持続するもののアレルギー発生率は約３％と低くない。
【００１０】
「表情しわ」にはボツリヌス菌毒素の微量注入が有効とされる。顔にある約２０種類の表情筋のうち、特定筋への神経伝達を遮断し、表情しわができないようにするのだが、ボツリヌス菌毒素は食中毒原因物質でもあるので、医師の管理下以外の場合に行える方法ではない。
【００１１】
外塗してしわを少なくし、皮膚新生を促すものにトレチノインがある。これは活性型ビタミンＡ物質で表皮の新陳代謝を倍速する。約４週間である表皮のターンオーバー（表皮新生から角化角解までのプロセス）時間を約２週間に縮めるので塗布部位の発赤、炎症、角質脆弱化を避け難く、これをふつうの化粧料使用の感覚で用いることはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１２】
以上に述べたように、加齢あるいは紫外線刺激など生存上不可避的な要因で、皮膚弾力性は低下し、顔面などでのしわは増していくのであるが、とくに成人以降の女性において、このことが美容的に、また精神的に多大のストレスを呈するので、ふるくから不断に、その予防、改善の方策が講じられ努力が続けられている。従来技術においては、このことに効果的な方法がなく、唯一効果ありとされる方法も、高率に副作用を伴いやすいので、一般人がプライベイトにスキンケア的感覚で行いうるものではない。
【００１３】
本発明者は従来技術におけるこのような状況をふまえ、皮膚弾力性賦活における三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物含有化粧料及びまたは三七花莟部抽出物含有化粧料及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分含有化粧料の効果研究を重ね本発明を為すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【００１４】
すなわち請求項１にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
請求項２にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物が三七の花莟部からの抽出物であることを特徴とする請求項１の皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
請求項３にかかわる発明は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部からの抽出物が、そのサポニン分画成分であることを特徴とする請求項１乃至２記載の皮膚弾力性賦活化粧料に関する。
【発明の効果】
【００１５】
本発明の皮膚弾力性賦活化粧料は、三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物、及びまたは三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分を化粧料基剤に含有せしめ、外塗経皮的に皮膚弾力性低下を予防し、改善し、皮膚弾力性賦活をはかるもので、皮膚弾力性低下によるしわ、とくに女性顔面のそれの予防、改善に、日常簡便に用い得て効果あり安全性もたかい。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
本発明における皮膚弾力性賦活化粧料は、化粧料としての何れの形態をも採りうるが、とりわけ基礎化粧品類であるクリーム、ジェル（クリーム、ローション）、ローション、乳液、パックなど、メイクアップ化粧品類であるおしろい類、口紅類、頭髪用化粧品類であるシャンプー、リンス、トリートメント、トニック、育毛剤などの形態が好適に選ばれる。
【００１７】
本発明における皮膚弾力性賦活化粧料に含有せしめる三七は、生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）すなわちウコギ科Ａｒａｌｉａｃｅａｅ人参三七の根茎乾燥物で田三七（デンサンシチ）、田七（デンシチ）とも称される。
主たる成分は三七サポニンＡ（Ｃ３０Ｈ５２Ｏ１０）、三七サポニンＢ（Ｃ２３Ｈ３８Ｏ１０）Ｆｌａｖｏｎ配糖体などで、止血（出血血液の凝固時間を短縮し、血管を収縮する）、消炎、冠血流量増加（同時に心筋の酸素消費量を減少させる）、抗ウィルス、抗真菌などの作用が知られており、とくに血液流状改善（血液粘度低下、赤血球変形能賦活による）の働きにすぐれる。三七は止血作用にすぐれるとされ、事実その目的で賞用されるが、それは止血時間が短いのに血流をなめらかにするという二律反的な利点を有するからである。
【００１８】
本発明において用いる三七花莟部抽出物は、三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）の花莟部乾燥物による。主たる成分は前述の三七根茎部と同じながら、生薬としての用途はいささか異なり、清熱（消炎）、鎮痛、降圧、それに頭昏、目眩、耳鳴、咽頭炎などの緩解に利用されている。
【００１９】
同じく本発明で用いられる三七花莟部抽出物のサポニン分画成分は抽出物の富サポニン分画成分で、トリテルペノイドサポニンであるダンマラン型サポニン（Ｄａｍｍａｒａｎｅ Ｔｙｐｅｓ ａｐｏｎｉｎ）を主に含有する。但し通常生薬として三七抽出物を抽出する場合には、この分画はその発泡性を嫌って除去されることが少なくない。
【００２０】
本発明の皮膚弾力性賦活化粧料調製においては、上記の三七抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物のサポニン分画成分などの配合に加え、通常化粧料に用いられる各種原料、成分を適宜任意に用いて剤型を整えることも差支えない。それら原料、成分にはとくに限定ないが、通常化粧料（医薬部外品を含む）に用いられる公知の原料、成分、例えば油脂類、ロウ類、炭化水素、脂肪酸類、アルコール類、多価アルコール類、エステル類、天然高分子化合物、界面活性剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、ｐＨ調製剤、合成有機塩類、保湿剤、香料、ビタミン類、酵素類、有機薬品類、無機薬品類。動植物抽出成分、ガム質、アミン・アミド・金属石鹸、ホルモン類、抗生物質、防腐殺菌剤、アミノ酸類などである。
【００２１】
また本発明においての三七抽出物、及びまたは三七花莟部抽出物の皮膚弾力性賦活化粧料への配合量は０．０７〜３．５重量％の範囲、好ましくは０．１〜１．５重量％であればよく、三七花莟部抽出物サポニン分画成分の皮膚弾力性賦活化粧料への配合量は０．０５〜２．５重量％の範囲、好ましくは０．０７〜２．０重量％を至適とする。
【００２２】
以下本発明を実施例により説明する。但し本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
（実施例１）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）抽出物の調製
三七根茎細切物（水分量１０％以下）７５ｇに２０倍量の５０％エタノール液を加え２時間加温（８０℃）還流抽出し、これを濾過して濾液を約１／１０量に濃縮し、濃縮物を凍結乾燥し、約２１ｇの褐色粉末を得た。
【００２３】
（実施例２）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出部の調製
実施例１の三七根茎細切物７５ｇを、三七花莟部細切物（水分量１０％以下）にかえたもので、抽出物として褐色粉末約２３ｇを得た。
【００２４】
（実施例３）
三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部抽出物サポニン分画成分の調製
三七花莟細切物（水分量１０％以下）１０ｇを７０％メタノール８０ｍｌで３０分間加温（８０％）還流抽出し、濾過した濾液を減圧濃縮し、これを脱脂してのち、水飽和ｎ−ブタノール６０ｍｌで３回抽出し、ｎ−ブタノール層を減圧濃縮乾固して花莟部抽出物サポニン分画成分０．７ｇを得た。
【００２５】
（実施例４）
試験に供する化粧料１
ジェル処方
グリセリン １０．０重量％（以下同）
１，３−ブチレングリコール ５．０
オクチルドデセス−２５ １．０
（アクリル酸アクリル酸アルキル（Ｃ１０−３０）コポリマー ０．５
メチルパラベン ０．３
クエン酸 １．０
水酸化ナトリウム（ｐＨ調整） 適量
ＰＥＧ−６０水添ヒマシ油 １．０
実施例１の三七抽出物 １．０
水 残量
合計 １００．０
【００２６】
（実施例５）
試験に供する化粧料２
実施例４のジエル処方中、実施例１の三七抽出物を除き、実施例２の三七花莟部抽出物１．０重量％を加入したもの。
【００２７】
（実施例６）
試験に供する化粧料３
実施例４のジェル処方中、実施例１の三七抽出物を除き、実施例３の三七花莟部抽出物サポニン分画成分０．７５重量％を加入したもの。
【００２８】
（試験例１）
コラーゲンを分解するコラゲナーゼの活性を阻害する試験
ヤガイ製１型コラゲナーゼ活性測定キットを用いて、その手順に従い行う。
実施例２で得た三七花莟部抽出物を測定用緩衝液（０．４Ｍ ＮａＣｌ，１０ｍＭ ＣａＣｌ２，０．０４％ ＮａＮ３をｐＨ７．５の０．１Ｍ Ｔｒｉｓ ＨＣｌで希釈）で濃度調整して用いＩ型コラーゲン分解率を求め、コントロール（測定用緩衝液のみ）でのコラーゲン分解率に対する分解率割合より三七花莟部抽出物のコラゲナーゼ活性阻害率を求めた。なお比較例としてはコラゲナーゼ活性阻害作用物質であるエチレンジアミン４酢酸（ＥＤＴＡ）についても上記と同様に処理した。結果を表１に示す。
【００２９】
【００３０】
（試験例２）
実施例４，５，６の化粧料使用による効果を次の基準により評価した。すなわち成人女性１５人（２９〜４６才）を三群に分け、各５人ずつ実施例４，５，６の化粧料を就寝前洗顔後の顔面に塗布せしめ、４週間の使用期間前後の顔のしわの状態を比較した。基準において二段階以上の改善を有効、一段階の改善をやや有効、その他を無効とした。結果を表２に示す。（なお試験参加１５人全員において、試験期間中及び試験後２週間のあいだ発赤、かゆみをはじめ、何らかの顔面皮膚異常も認められなかった。）
【００３１】
（評価基準）
５〜目尻、下瞼にしわが目立ち，下瞼にかいこ状のむくみがみえる。
４〜下瞼内角がすすけた感じで、目尻にもしわがみえる。
３〜下瞼にむくみやすすけた感じはないが、共にしわがみえる。
２〜表情を動かせると下瞼、目尻にしわがみえる。
１〜下瞼、目尻に気になるほどのしわはみえない。
【００３２】
【００３３】
表１、表２に示された結果から、実施例４，５，６の皮膚弾力性賦活化粧料は、皮膚弾力性低下の予防、改善、そして皮膚弾力性賦活にすぐれた効果をもつことがわかる。
【００３４】
以下本発明にかかわる皮膚弾力性賦活化粧料の処方例を示す。なお含有量は何れも重量％である。
処方例：クリーム、１００ｇ中
ステアリン酸 １０．０
セタノール ２．０
ラノリン １．０
ミリスチン酸イソプロピル ３．０
モノステアリン酸ポリエチレングリコール １．５
トリエタノールアミン ０．８
香料 微量
ソルビトール（７０％） ４．０
メチルパラベン ０．１
実施例１の抽出物 １．０
水 残部
【００３５】
処方例：ローション、１００ｇ中
エタノール １５．０
モノラウリン酸ＰＯＥ（２０）ソルビタン １．０
１，３−ブチレングリコール ３．０
ソルビトール（７０％） ２．０
ピロリドンカルボン酸ナトリウム ３．０
メチルパラベン ０．１
香料 微量
実施例２の抽出物 ０．８
水 残部
【００３６】
処方例：乳液、１００ｇ中
トリオクタン酸グリセリン １０．０
ジカプリン酸ネオベンチルグリコール ８．０
セタノール ６．０
ヒドロキシステアリン酸コレステリル １．０
ステアリン酸 ３．０
パラベン ０．２
オクチルアクリルアミドアクリル樹脂 ０．３
プロテアーゼ ０．１
１，３−ブチレングリコール ３．０
実施例３の三七サポニン分画成分 ０．５
香料 微量
水 残量
【特許請求の範囲】
【請求項１】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物を有効成分として含有する事を特徴とする皮膚弾力性賦活化粧料
【請求項２】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物が三七の花莟部からの抽出物である事を特徴とする請求項１の皮膚弾力性賦活化粧料
【請求項３】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部からの抽出物がそのサポニン分画成分であることを特徴とする請求項１乃至２記載の皮膚弾力性賦活化粧料
【請求項１】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物を有効成分として含有する事を特徴とする皮膚弾力性賦活化粧料
【請求項２】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）からの抽出物が三七の花莟部からの抽出物である事を特徴とする請求項１の皮膚弾力性賦活化粧料
【請求項３】
生薬である三七（Ｐａｎａｘ ｐｓｅｕｄｏｇｉｎｓｅｎｇ ｗａｌｌ）花莟部からの抽出物がそのサポニン分画成分であることを特徴とする請求項１乃至２記載の皮膚弾力性賦活化粧料
【公開番号】特開２００６−２８１５０（Ｐ２００６−２８１５０Ａ）
【公開日】平成１８年２月２日（２００６．２．２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００４−２３６８６５（Ｐ２００４−２３６８６５）
【出願日】平成１６年７月２０日（２００４．７．２０）
【出願人】（５０４３１２４７２）
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１８年２月２日（２００６．２．２）
【国際特許分類】
【出願日】平成１６年７月２０日（２００４．７．２０）
【出願人】（５０４３１２４７２）
【Ｆターム（参考）】
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