説明

皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する微生物培養物並びにそれらを用いた製品

【解決手段】ケフィア粒から分離された微生物群及び菌株ラクトバシラシー(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6bを、緑茶単独で微生物培養して得られた微生物培養物から菌体を除去した培養物。SIID1719−6b(FERM AP−20062)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、さらに、FERM ABP−10299として同センターに国際寄託済。
【効果】皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品の原料として、あるいは、これら製品又は原料に添加することにより、それらを利用する人又は動物の皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する微生物培養物に関する。さらに詳しくは、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養した培養物に関する。さらに、本発明はそれらを用いた皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚炎の代表であるアトピー性皮膚炎は、ダニやハウスダスト、花粉、カビ、食物などのアレルゲンが原因でアレルギー反応が起こり皮膚に炎症が起こったり、皮膚の乾燥(ドライスキン)と皮膚の防御機能異常が起こったりすることにより、かゆみのある湿疹を特徴とする疾患である。
【0003】
これまでの一般的な治療法として、生活環境の改善(食事療法、環境アレルゲンの排除)による長期的な治癒方法もあるが、症状である炎症を抑える方法として、一般的には、ステロイド外用薬、タクロリムス水和物、非ステロイド外用薬を炎症部位に直接塗布する方法があり、さらに、かゆみを抑える方法として抗ヒスタミン薬の経口投与などがある。
【0004】
一方、皮膚創傷は、裂傷、火傷、擦過傷、外科手術又は傷害などの皮膚表面組織の損傷であり、外傷部位を応急処置を施した後に、生体の回復力、自然治癒力によって治癒させるのが一般的である。
【0005】
しかし、自然治癒力では回復までに長期間を要し、また、痛みの継続、細菌感染の影響があることから、これまで外傷部位に治療薬を直接塗布することによる回復力の向上、痛みの軽減、細菌感染の予防又は炎症の低減などの治療が行われてきた。
【0006】
これまでの皮膚疾患である皮膚炎及び皮膚創傷などに用いられている皮膚疾患用薬としては、ステロイド外用薬に酢酸ジフロラゾン、吉草酸ベタメタゾン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、フルオキノニド、プロピオン酸アルクロメタゾン、非ステロイド外用薬にブフェキサマク、ベンダザック、スプロフェン、アトピー性皮膚炎治療薬にタクロリムス水和物、皮膚潰傷薬にエレース、塩化リゾチーム、幼牛血液抽出物、トレチノイントコフェリルが知られている。
【0007】
強力なステロイド外用薬は、長期間身体の広範で使用した場合、発熱、慢性的に進行する骨粗鬆症や動脈硬化などの副作用が報告されている。また、乳幼児や小児に大量・長期服用すると身長が伸びることを抑制し発育障害が起こる可能性があるとされる他、細菌・真菌による皮膚感染症への不適用である。非ステロイド外用薬の消炎鎮痛外用薬は、ステロイド外用薬より抗炎症作用が弱く軽症の場合に用いられることが多く、副作用はほとんど認められないが、かぶれや刺激感を強く感じることや、非ステロイド外用薬の免疫抑制薬であるアトピー性皮膚炎治療薬のタクロリムス水和物は、皮膚の刺激感や海外では発がん性の報告もされ、発売間もないことから安全性が確立されていないため、新生児、乳児、幼児及び小児では使用しないことになっている。また、妊婦及び妊娠の可能性がある人の使用は禁止されている。
【0008】
皮膚潰傷薬に用いられるエレース、塩化リゾチーム、幼牛血液抽出物、トレチノイントコフェリルは、個々の薬剤に過敏に反応する場合にはその使用が禁止され、また、薬剤により異なるが副作用として、ショック、皮膚の刺激感、発赤などの症状が起こり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、人又は動物の皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する皮膚疾患用薬には、副作用や取扱いに関する注意点が多かった。このようなことから、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進能が強く、しかも、汎用性が高く、さらに、天然物由来の安全性の高い皮膚疾患用薬の開発が望まれていた。
【0010】
天然物の乳酸菌を利用した皮膚炎発症抑制に関する皮膚疾患用薬として、乳酸菌と卵白アルブミンで感作させたマウス脾臓由来リンパ球を卵白アルブミン含有培地に懸濁して組成物を調製した坑アレルギー用組成物(例えば、特許文献1参照)、高抗アレルギー活性を有する乳酸菌及びその変異株を有効成分とする抗アレルギー機能を有する飲料又は食品(例えば、特許文献2参照)、また、抗アレルギー剤として、花粉症、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎 等アレルギー疾患を改善・予防する抗アレルギー効果を有する食品であって、ヒトの腸内に常在する乳酸菌を利用したもの(例えば、特許文献3参照)などがある。
【0011】
【特許文献1】特開2005−139160号公報
【0012】
【特許文献2】特開2005−137357号公報
【0013】
【特許文献3】特開2000−95697号公報
【0014】
また、天然物の乳酸菌を利用した皮膚創傷の治癒促進のための皮膚疾患用薬として、乳酸菌等の細胞賦活剤とアルカリ性単純温泉水、水溶性ルチン、アスパラガス抽出物やマイカイカ、モッカ及びイクリニンから選ばれる植物の抽出物との混合物がある(例えば、特許文献4、5、6、7参照)。
【0015】
【特許文献4】特開平10-182411号公報
【0016】
【特許文献5】特開平08-099860号公報
【0017】
【特許文献6】特開平06-128140号公報
【0018】
【特許文献7】特開平06-065041号公報
【0019】
本発明は、このような天然物に代わるものとして緑茶に着目し、この緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養した培養物であれば、安全性が高く、しかも、それらを用いれば、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進能が強い皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品が得られることを見出した。
【0020】
そして、本発明の目的は、このような天然物であって安全性が高く、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進能が強い皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品の提供など、汎用性が高く、緑茶の単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養した培養物並びにそれらを用いた製品を提供することにある。
【0021】
コーカサス地方が発祥の地と考えられている伝統的な乳酸菌と酵母の複合醗酵乳ケフィア(Kefir)は、そのスターターであるケフィア粒を牛乳にて培養することにより製造される。
本発明者は、天然物であるこのケフィア粒を飲料、食品、化粧料又は飼料などに利用した場合、人、動物にとって安全であることを見出し、さらに、様々な利用方法について鋭意研究を重ねてきた。そして、ケフィア粒を緑茶のエキスにて培養し、その微生物培養物から菌体を除去した培養液が優れた皮膚美白効果を有することを見出し、また、ケフィア粒に抗酸化能を有することを見出し、化粧料として出願している(特許文献8参照)。
【0022】
【特許文献8】特開2004−149442号公報
【0023】
ケフィア粒から分離された微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を培養することにより得られる微生物培養物並びにそれらを用いた製品に関しても、すでに出願を済ませている(特願2004−175969、出願日:平成16年6月14日)。また、ケフィア粒から分離された微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群をヨモギ抽出液を主成分とする培地で培養することにより得られる微生物培養物並びにそれらを用いた製品に関しても、すでに出願を済ませている。(特願2004−311983、出願日:平成16年10月27日)。
【0024】
その他、ケフィア粒から分離された微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を緑茶及び黒茶を主成分とする培地で得られる微生物培養物並びにそれを用いた製品に関しても、すでに出願を済ませている。(特願2005−091618、出願日:平成17年3月28日)。同様にケフィア粒から分離された微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を緑茶、黒茶及びヨモギ抽出液を主成分とする培地で得られる微生物培養物並びにそれを用いた製品に関しても、すでに出願を済ませている。(特願2005−091624、出願日:平成17年3月28日)。
【0025】
そして、さらに研究を重ねた結果、ケフィア粒から分離された微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を、皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品の原料として、あるいは、これら製品又は原料に添加することにより、それらを利用する人又は動物の皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有することを見出した。そして、本発明者はそれらを用いた皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品に添加することによって、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する製品を開発するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、以下の構成からなる発明である。すなわち、
(1) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚炎発症抑制効果を有する微生物培養物に関するものである。
(2) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚創傷の治癒促進効果を有する微生物培養物に関するものである。
(3) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する皮膚外用剤(軟膏)並びに予防、改善のための医薬部外品に関するものである。
(4) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する皮膚疾患治療薬並びに予防、改善のための医薬部外品に関するものである。
(5) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制効果を有する化粧料に関するものである。
(6) ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制効果を有する経口投与薬並びに予防、改善のための医薬部外品に関するものである。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかに記載の培養物から菌体を除去した培養物も、上述した場合と同様の効果、機能、すなわち、皮膚炎発症抑制及び/又は皮膚創傷の治癒促進効果、機能を有している。
【0027】
ここに、「皮膚炎発症抑制効果」とは、人又は動物に皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品を投与した際に、皮膚の炎症、アレルギー症状、かゆみなどを抑制する効果をいう。また、「皮膚創傷の治癒促進効果」とは、人又は動物に皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品を投与した際に、自然に放置した生体の回復力、自然治癒力よりも回復までの期間を短縮するように回復力の向上を推進する効果をいう。「微生物培養物」とは、ケフィア粒から分離された微生物群又は分離された微生物単独で培養した培養物及び培養物から菌体を除去したものを含めたものをいう。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明によれば、ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及びその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚炎発症抑制効果を有する微生物培養物を新規に提供できる効果がある。そして、その培養物は毒性や副作用が無く安全であり、皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬、化粧料、及び経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品として様々な分野で利用できる。
【0029】
請求項2記載の発明によれば、ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚創傷の治癒を促進する微生物培養物を新規に提供できる効果がある。そして、その培養物は毒性や副作用が無く安全であり、皮膚外用剤(軟膏)、皮膚疾患治療薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品として様々な分野で利用できる。
【0030】
請求項3、4のいずれかに記載の発明によれば、ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有する皮膚外用剤(軟膏)や皮膚疾患治療薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品を新規に提供できる効果がある。
【0031】
請求項5、6のいずれかに記載の発明によれば、ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制効果を有する化粧料や経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品を新規に提供できる効果がある。
【0032】
請求項7記載の発明によれば、皮膚炎発症抑制及び/又は皮膚創傷の治癒促進効果、機能を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の培養物から菌体を除去した培養物を、新規に提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
ケフィア粒から分離された微生物群には、菌株アセトバクター セレヴィシアエ(Acetobacter cerevisiae)SIID1719−2b、菌株グルコノバクター オキシダンス(Gluconobacter oxydans)SIID1719−3b、菌株ラクトバシラシー(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6b、菌株ピッキアメンブラニ ファシエンス(Pichiamembrani faciens)SIID1719−1y、菌株サッカロマイセス セレヴィシアエ(Saccharomyces cerevisiae)SIID1719−4y及び菌株ピッキア アノマラ(Pichia anomala)SIID1719−5yが存在している。
【0034】
ケフィア粒から分離された微生物群及び菌株ラクトバシラシー(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6bを、緑茶単独で微生物培養して得られた微生物培養物から菌体を除去した培養物が、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有するか、以下の評価試験を行った。その結果、微生物群及びラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6b単独で、皮膚炎発症抑制、皮膚創傷の治癒促進効果を有することを確認することができた。さらに、本発明では、ラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6bと安全性が確認できている微生物を共生し同様な作用を示すものや、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで調製すれば、いずれも使用できる。
なお、(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6b(FERM AP−20062)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、さらに、FERM ABP−10299として同センターに国際寄託するに至っている。
【0035】
代表例として、菌株ラクトバシラシー(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6bを緑茶の培養液で培養した微生物培養物から菌体を除去した以下の培養物を用いて、皮膚炎発症抑制及び皮膚創傷の治癒促進評価試験方法を次のように実施した。
【0036】
(皮膚炎発症抑制効果試験)
先ず、空気清浄を行わない通常の飼育環境下で皮膚炎を高率で発症するNC/Ngaマウスを、コントロールとして無処置群、SIID1719−6bを緑茶の培養液で、48時間培養した微生物培養物から菌体を除去したピーチエンジェル(経皮)群、ピーチエンジェル(経皮+経口)群及び対象として0.1%プロトピック軟膏(経皮)群の各々12匹を、体重値を基に層別連続無作為配分法により群分けした(各群とも平均25.5kg〜25.8kg)。マウスの飼育条件は温度、湿度、飼料、飲料および飼育環境ともに同一条件にて、ピーチエンジェル(経皮)群には0.10mL、ピーチエンジェル(経皮+経口)群には、経皮0.10mL+経口10mL/kg、0.1%プロトピック軟膏(経皮)群には、0.10gを6週齢から1日1回、49回(7週間)まで投与し、週1回の体重測定、週に2回皮膚炎評価基準(皮膚炎スコア5段階評価、表1参照)に基づいて観察した。その結果を、体重値の変化については図1に、皮膚炎スコアについては図2に、また、皮膚炎発症率については図3に、それぞれ示す。
【0037】
【表1】

【0038】
体重値については、無処置群は、第4週目で減少が見られたが、その後僅かな増加傾向が見られたが最終日での体重は一番軽かった。0.1%プロトピック軟膏群及びピーチエンジェル(経皮)群は、有意な差は認められず、最終日に体重の減少が確認された。
ピーチエンジェル(経皮+経口)群は、投与開始日から最終日まで増加が認められ、最終日での体重は一番重かった。
【0039】
皮膚炎の発症程度については、無処置群は、最終日で平均1.9、発症率75%で最も皮膚炎のスコアが高かった。0.1%プロトピック軟膏群は、最終日で平均0.6、発症率50%で最も皮膚炎のスコアが低く、無処置群と比較して有意な発症抑制効果が認められた。
ピーチエンジェル(経皮)群は、最終日で平均1.2、発症率67%、ピーチエンジェル(経皮+経口)群は、最終日で平均0.8、発症率50%で、0.1%プロトピック軟膏群と比較して抑制効果が低いものの、無処置群と比較して有意な発症抑制効果が認められた。また、ピーチエンジェル(経皮)群よりもピーチエンジェル(経皮+経口)群の方がより発症抑制効果があることが認められ、経口接取によって、より効果的な発症抑制作用を奏することが示唆された。さらに、安全性も改めて確認することができた。
【0040】
(皮膚創傷の治癒促進評価試験)
先ず、Slc:Wistar雄ラットを、ペントバルビタールナトリウム麻酔下で、約2.5cm、皮膚の切開を行い、その中心部を1箇所縫合し、3日後に抜糸した。ラットをコントロールとして無処置群、SIID1719−6bを緑茶の培養液で、48時間培養した微生物培養物から菌体を除去したピーチエンジェル群及び、対象としてオルセノン軟膏群の各々8匹を、体重値を基に、平均値がほぼ均一になるように群分けした。ラットの飼育条件は温度、湿度、飼料、飲料および飼育環境ともに同一条件にて、ピーチエンジェル群には0.10mL/siteを群分け日(1日)より1日1回、12日間投与、オルセノン軟膏群には、100mg/siteを皮膚切開日(7日)より1日1回、6日間投与した。試験物質最終投与翌日(13日)に、プッシュプルゲージを用いて創傷部が開裂するまでの創耐張力(g/cm)を測定し、治癒促進作用について検討した。その結果を、図4に示す。
【0041】
創耐張力とは、切開し治癒してきた場所において改めて創傷場所を開裂する際必要な力のことであって、値が大きくなれば開裂に必要な力が大きく、治癒が促進したことを判断できる。その測定結果から、ピーチエンジェル群は、オルセノン軟膏群と比較して創耐張力が低いものの、無処置群と比較して創耐張力の増加が認められた。従って、ピーチエンジェルの皮膚創傷の治癒促進作用があることが示唆された。
【0042】
ここでは、ケフィア(Kefir)粒から分離された菌株ラクトバシラシー(Lactobacillaceae)科の新種であるラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)SIID1719−6bを緑茶の培養液で培養した微生物培養物から菌体を除去した培養物を用いた場合について例示したが、ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物についても、ここで例示した場合と同等の効果、すなわち、皮膚炎発症抑制効果ならびに皮膚創傷の治癒促進効果が期待できる。
【0043】
そして、これらの培養物を添加することにより、皮膚外用剤(軟膏)や皮膚疾患治療薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品として、皮膚炎発症抑制効果ならびに皮膚創傷の治癒促進効果が期待できる。また、これらの培養物を添加することにより、化粧料として、皮膚炎発症抑制効果が期待できる。さらに、これらの培養物を添加することにより、経口投与薬などの医薬品並びに予防、改善のための医薬部外品として、皮膚炎発症抑制効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】皮膚炎発症抑制効果試験における治療期間と体重値の関係を示すグラフである。
【図2】皮膚炎発症抑制効果試験における治療期間と皮膚炎スコアの関係を示すグラフである。
【図3】皮膚炎発症抑制効果試験における治療期間と皮膚炎発症率の関係を示すグラフである。
【図4】皮膚創傷の治癒促進評価試験における創耐張力の比較を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚炎発症抑制効果を有することを特徴とする微生物培養物。
【請求項2】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物であって、皮膚創傷の治癒促進効果を有することを特徴とする微生物培養物。
【請求項3】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制・皮膚創傷の治癒促進効果を有することを特徴とする皮膚外用剤(軟膏)並びに予防、改善のための医薬部外品。
【請求項4】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制・皮膚創傷の治癒促進効果を有することを特徴とする皮膚疾患治療薬並びに予防、改善のための医薬部外品。
【請求項5】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制効果を有することを特徴とする化粧料。
【請求項6】
ケフィア(Kefir)粒から分離されたラクトバシラシー(Lactobacillaceae)に属する新種の微生物とこの微生物あるいはそれを含む微生物群を、緑茶単独若しくは緑茶と緑茶以外のお茶及び/又はその有効成分との組み合わせで微生物培養して得られた培養物を添加した、皮膚炎発症抑制効果を有することを特徴とする経口投与薬並びに予防、改善のための医薬部外品。
【請求項7】
上記請求項1〜6のいずれかに記載の培養物から菌体を除去した培養物であって、皮膚炎発症抑制及び/又は皮膚創傷の治癒促進効果を有することを特徴とする培養物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−137864(P2007−137864A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337640(P2005−337640)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(502394128)株式会社 米沢ビルシステムサービス (4)
【Fターム(参考)】