皮膜形成方法及び皮膜形成部材
【課題】 金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようにするとともに、金属の粒度が従来と同等あるいはそれ以下であっても、ノズルからの噴射に支障を与えることなく各金属材料の分散性を向上させ、品質の向上を図る。
【解決手段】 スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料Hをその融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して該基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、皮膜材料Hを、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、この2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体Fを60質量%以上含んで構成し、この複合体Fの粒径を、5〜100μmにした。
【解決手段】 スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料Hをその融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して該基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、皮膜材料Hを、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、この2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体Fを60質量%以上含んで構成し、この複合体Fの粒径を、5〜100μmにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー法により基材に皮膜を形成する皮膜形成方法及びこの皮膜形成方法を用いて皮膜が形成された皮膜形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コールドスプレー(Cold Spray)法によって基材の表面に皮膜を形成する方法は、皮膜材料の融点または軟化点よりも低い温度に設定した超音速で流れるガスで皮膜材料の粉末を搬送することによって、この粉末を基材の表面に衝突させるものである。この方法では、粉末が高速で基材の表面に衝突した際に、固相状態のままで粉末の粒子が塑性変形することによって皮膜が形成される。
【0003】
従来、このようなコールドスプレー法により基材に皮膜を形成する皮膜形成方法としては、例えば、特表2008−538385号公報(特許文献1)に記載の技術が知られている。これは、図23に示すように、皮膜材料として、2種の金属の粉末材料とセラミックの粉末材料を含むものが用いられる。例えば、平均粒度が50〜100μmであるAl粉末と、平均粒度が1〜50μmであるNi粉末を、例えば、Al:Ni重量比がそれぞれ90:10あるいは75:25にした金属混合粉末を用い、これに、平均粒度が1〜50μmであるセラミックとしてのSiC粉末を、例えば、金属混合粉末100重量部に対して5重量部混合して、皮膜材料とする。そして、基材として、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金や、鋳鉄等の鉄系合金材質を選択し、周知のコールドスプレー法により、基材に皮膜材料の皮膜を形成する。その後、この皮膜に対して例えば450℃〜550℃で熱処理して皮膜を合金化し、(Al−Ni)の金属間化合物を生成する。これにより、基材表面に金属マトリックス複合層を形成し、基材の熱的変形や熱衝撃による損傷を誘発するおそれがないようにし、機械的強度に優れた皮膜形成部材にするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−538385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のコールドスプレー用皮膜材料を用いてコールドスプレー法により基材に皮膜を形成し、その後熱処理して皮膜を形成する皮膜形成方法においては、コールドスプレーにより形成した皮膜内部における金属の分散性が必ずしも良いとは言えず、不均一になりやすく、また、金属の粒子の微細化にも限度があり、そのため、熱処理後に形成される金属間化合物皮膜においても欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという問題があった。その理由は、皮膜材料が2種類の金属の粉末とセラミックの粉末との単に混合した混合粉末の形態であることから、構成される異種金属の付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して、粉末状態での混合比率と、形成される皮膜内の組成比とが異なってしまい、あるいは、付着し易い粒子が偏積してしまうからである。そこで、皮膜内部における異種金属相互の分散性を良くし微細化を図るために、粉末の粒度をより微細にすることも考えられるが、あまり微細にすると流動性が低下し粉末の安定供給に支障が生じる。また、ノズル閉塞の原因ともなる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようにするとともに、金属の粒度が従来と同等あるいはそれ以下であっても、ノズルからの噴射に支障を与えることなく各金属材料の分散性を向上させ、品質の向上を図った皮膜形成方法及び皮膜形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の皮膜形成方法は、スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、上記2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を含んで構成している。
【0008】
ここで、非化合物化及び非合金化の状態で密着とは、例えば、金属粉末同士が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態をいう(図6に示す電子顕微鏡写真参照)。
【0009】
また、基材としては、例えば、鉄,鋳鉄,ステンレス,銅,黄銅,ニッケル,錫,鉛,コバルト,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,マグネシウム,マンガン,亜鉛の何れかの金属,あるいはこれらの合金,金属の酸化物等、適宜のものを選択することができる。コールドスプレー後に熱処理する場合には、基材は皮膜を形成する金属と略同等あるいはそれ以上の融点の金属材料が望ましい。金属材料が鉄系金属である場合は、純鉄の他、JIS表示で示すと、例えば、SS,SC,SPC,SPCC等の普通鋼、SUS,SMn,SCr,SCM,SNCM,SWRH,SUH,SK,SKH,SKS,SKD,SKC,SUP,SWRS,SUJ等の特殊鋼等が挙げられる。
【0010】
そして、皮膜形成工程で、コールドスプレー法により、スプレーノズルから皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成する。
本発明の皮膜形成方法においては、必要に応じ、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程を備えた構成としている。
【0011】
これにより、皮膜材料を構成する複合体は、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材に到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズルからの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材に到達しても互いの分散状態を保持して基材に接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、熱処理した場合には、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止される。その結果、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。更に、複合体は、2種以上の金属の粉末材料同士が密着しているので、金属の粉末が微細化されていても複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、そのため、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、この点でも、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。
【0012】
そして、必要に応じ、上記皮膜材料の金属の粉末の粒径を50μm未満にした構成としている。金属の粉末が微細化され、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、より一層、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。また、金属の粉末が微細化されても、複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、分散性を損なうことがなく、コールドスプレーによる粉末の安定供給も確保される。
【0013】
また、必要に応じ、上記皮膜材料の複合体の粒径を、5〜100μmにした構成としている。望ましくは10〜50μmである。
この範囲で、複合体の粒子があまりに微細になることがなく、流動性が低下する事態が防止され、複合体の安定供給を可能にし、ノズル閉塞も抑制される。また、複合体がこの粒径範囲に形成されるということは、各金属粒子がより細かいことを意味し、それだけ、分散性が向上させられるとともに、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになる。
【0014】
更に、必要に応じ、上記皮膜材料は、上記複合体を、60質量%以上含む構成としている。粉末材料の複合化においては、複合化に至らない金属粉末もある程度混入せざるを得ないが、複合体が60質量%以上含む構成であれば、分散性を確実に確保できる。望ましくは、80質量%以上、より望ましくは90質量%以上である。
【0015】
また、必要に応じ、上記皮膜材料で用いる金属は、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択される構成としている。
【0016】
この場合、必要に応じ、上記皮膜材料で用いる金属は、10〜60質量%(金属全体における成分比)のアルミニウムと、残部(金属全体において90〜40質量%)にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とからなる構成としている。アルミニウムの混合比は、望ましくは20〜40質量%、より望ましくは25〜35質量%である。
これらの金属の組み合わせにおいては、上記構成により作成した複合体を用い、コールドスプレー法により皮膜を作成し、熱処理すると、これにより形成される皮膜には皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されるので、皮膜形成部材の耐熱性,耐食性の向上を図ることができる。
【0017】
また、必要に応じ、上記皮膜材料を、セラミックの粉末を含み、該セラミックは、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択される構成としている。このセラミックは、複合体とともに混在し、あるいは、金属粉末とともに密着して複合体を構成しても良い。これにより、成膜時のノズル閉塞の防止が図られ、皮膜の機械的特性が向上させられる。
【0018】
詳しくは、コールドスプレーによる皮膜形成においては、異種金属の複合体にセラミック粉末が混合されていることにより、成膜工程でのノズル閉塞を抑制する効果がある。ノズル閉塞の発生は、ノズル内側に付着した微細粒子が基点となって、付着物が成長し閉塞に至ると考えられる。複合体に混合されたセラミック粉末は、ノズル内部に付着した粒子を除去し、付着物の成長を防止するため、ノズルの閉塞が起こらず、長時間安定して成膜することができる。またもう一つの効果として、硬質材料であるセラミック粉末は、皮膜形成過程において、皮膜にピーニング効果を付与し、硬さや耐摩耗性を向上させる効果もある。
【0019】
この場合、必要に応じ、上記皮膜材料で用いるセラミックは、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%(全皮膜材料における成分比)のアルミナである構成としている。アルミナは、コールドスプレーによる皮膜形成を安定化させ、皮膜形成過程において、皮膜にピーニング効果を付与し、硬さや耐摩耗性を向上させる機能に優れる。
【0020】
より具体的には、本発明の皮膜形成方法は、スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程と、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程とを備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%(金属全体における成分比)のアルミニウムと、残部(金属全体において90〜40質量%)にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにした構成としている。
【0021】
この場合、上記皮膜材料を、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナの粉末材料を含んで構成したことが有効である。
【0022】
そして、上記目的を達成するため、本発明は、上記の皮膜形成方法によって皮膜が形成された皮膜形成部材にある。上記の通り皮膜品質の高い皮膜形成部材となる。
特に、金属製の基材に対し、上記の具体的皮膜形成方法を適用した皮膜形成部材が有効である。即ち、コールドスプレーによる皮膜形成工程と熱処理工程とを備え、上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにした構成とした皮膜形成方法を適用した皮膜形成部材にある。
この皮膜形成部材は、金属製の基材に、アルミニウムとニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属との合金が被覆され、しかも、これら金属粒子の分散性が良いことから、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されており、そのため、耐熱性,耐食性の皮膜を形成した皮膜形成部材となる。
【0023】
このような皮膜材料は、必要に応じ、燃焼装置の耐熱部分に用いることが有効である。一般に、燃焼装置の耐熱部分には、例えば、クロムを含有した耐熱性の合金が用いられ、あるいはこれにセラミックを溶射する材料が用いられるが、これらの材料においては、繰り返しの熱疲労により、クロム含有合金はもとより、セラミックを被覆した材料においてもセラミックが剥離すると、クロム含有合金からクロムが六価クロムとなって燃焼灰中に溶出し、そのため、環境基準値を超える六価クロムが燃焼灰中に生成する要因となっている。しかしながら、本発明に係る、皮膜形成部材を、燃焼装置の耐熱部分に用いると、皮膜は極めて高い耐熱性,耐食性の皮膜であることから、剥離しにくく、そのため、基材Kにクロム含有合金を用いない場合は勿論のこと、仮に基材Kにクロム含有合金を用いたとしても、六価クロムの生成がほとんどなくなり、環境負荷の小さいバイオマス燃料の安全性を確保し、バイオマスエネルギーの普及拡大に貢献する材料となるのである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、皮膜材料を構成する複合体は、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材に到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズルからの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材に到達しても互いの分散状態を保持して基材に接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、熱処理した場合には、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態を防止することができ、皮膜形成部材の品質を大幅に向上させることができる。更に、複合体は、2種以上の金属の粉末材料同士が密着しているので、金属の粉末が微細化されていても複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、そのため、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、この点でも、皮膜形成部材の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー用皮膜材料の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられる別の形態のコールドスプレー用皮膜材料の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー用皮膜材料において、これを製造する際に用いられるボールミルを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例1に係る試料の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例1に係る試料の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例1で用いたアルミニウム粉末の表面を示す電子顕微鏡写真(a)及び実施例1で用いたニッケル粉末の表面を示す電子顕微鏡写真(b)である。
【図9】本発明の実施例に係る複合体の圧縮評価試験の方法を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係る複合体の圧縮評価試験の結果を示すグラフ図である。
【図11】本発明の実施例及び比較例に係るコールドスプレーによる皮膜形成方法におけるコールドスプレー条件を示す表図である。
【図12】本発明の実施例4に係る皮膜形成部材(熱処理前)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例2に係る皮膜形成部材(熱処理前)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例3に係る皮膜形成部材(熱処理後)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真(a)、本発明の実施例5に係るの皮膜断面を示す電子顕微鏡写真(b)である。
【図15】本発明の実施例及び比較例に係る皮膜形成部材の耐食性試験の方法を示す図である。
【図16】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材の耐食性試験の結果を示す写真である。
【図17】比較例3に係る皮膜形成部材の耐食性試験の結果を示す写真である。
【図18】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材を用いた燃焼機(ペレットストーブ)及びその耐久試験部位を示す図である。
【図19】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材について燃焼機(ペレットストーブ)で行った耐久試験結果をその試験部位とともに示す電子顕微鏡写真である。
【図20】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材と、基材に皮膜を付与しない部材との燃焼試験において、燃焼灰中のクロム濃度の測定結果を示すグラフ図である。
【図21】本発明の実施例1,実施例2及び実施例3に係る皮膜材料を用いて作成した熱処理前の皮膜形成部材及び熱処理後の皮膜形成部材の硬さを測定した結果を示すグラフ図である。
【図22】本発明の実施例2に係る皮膜材料,この皮膜材料を用いて作成した熱処理前の皮膜形成部材の皮膜及び熱処理後の皮膜形成部材の皮膜についてX線回折分析を行った結果を示すグラフ図である。
【図23】従来のコールドスプレー用皮膜材料を用いて皮膜形成部材を製造する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法及び皮膜形成部材について詳細に説明する。
図1及び図2には、実施の形態に係る皮膜形成方法及びこの皮膜形成方法で用いるコールドスプレー用皮膜材料を示している。この皮膜材料Hは、後述のコールドスプレー装置1のスプレーノズル7から融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射され、この基材Kに皮膜として形成される2種以上の金属の粉末材料を含む。詳しくは、図2に示すように、皮膜材料Hは、2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体Fを含んでいる。金属の粉末の粒径は50μm未満にしている。また、複合体Fの粒径は、5〜100μmにしている。望ましくは10〜50μmである。また、皮膜材料Hは、複合体Fを、60質量%以上含む。望ましくは、80質量%以上、より望ましくは90質量%以上である。
【0027】
また、金属としては、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択される。
本実施の形態では、金属は、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とからなる(実施の形態ではニッケルが選択)。アルミニウムの粒径は1〜25μmに設定され、ニッケルの粒径は1〜10μmに設定されている。アルミニウムの混合比は、望ましくは20〜40質量%、より望ましくは25〜35質量%である。
【0028】
図2及び図6に示す電子顕微鏡写真も参照し、ここで、非化合物化及び非合金化の状態で密着とは、例えば、金属粉末同士(アルミニウムとニッケル)が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態をいう。
【0029】
次に、このコールドスプレー用被覆材料の製造方法について説明する。製造に用いる製造機器は、粉末材料同士を加圧により接合して密着できる装置であればよく、特に限定するものではないが、ボールやロッド等のメディアを使用する装置が使用できる。例えば、図4(a)に示すように、硬質のボール11が適量入れられたポット10を備えた回転型のボールミルMa、あるいは、硬質のボール11が適量入れられ振動機12により振動させられるポット13を備えた振動型のボールミルMbを用いる事ができる。ボールミルMa,Mbは、一般に、金属やセラミックなどの硬質のボール11と、材料をポット10,13に入れて回転若しくは振動させることによって、材料を粉砕または混合する装置であるが、適切な処理条件において該発明のような複合化にも利用できる装置である。
ポット10,13は、鋼,ステンレスなどのもの、不純物の混入防止や対摩耗性付与のために、内張り(ライナー)としてアルミナ,ゴム,ウレタン等を設けたものが使用できる。ボール11は、例えば、鉄,ステンレス,超硬合金,またはアルミナ,ジルコニア,窒化珪素等のセラミックスを用いることができ、製造がきわめて容易に行われる。
【0030】
そして、アルミニウムとニッケルの粉末材料を、ボールミルMa,Mbのポット10,13内に入れ、ポット10,13を回転若しくは振動させることにより、ボール11の衝突エネルギーにより該粉末材料同士を密着させて複合化し、上記複合体Fを生成する構成としている。即ち、ボールミルMa,Mbのポット10,13に入れられた粉末材料同士は、ボール11に接触しボール11による加圧により接合して密着させられ、圧潰して細長状にになって隣接する金属の境界に隙間なく接合する。この場合、ポット10,13の回転若しくは振動を調整することにより、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmになるように、且つ、複合体Fが60質量%以上、望ましくは80質量%以上、より望ましくは90質量%以上になるようにする。
【0031】
また、図3には、別のコールドスプレー用皮膜材料Hを示している。この皮膜材料Hは、上記と同様に後述のコールドスプレー装置のスプレーノズルから融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射され、この基材Kに皮膜として形成される2種以上の金属の粉末材料を含むとともにセラミックの粉末材料を含んでいる。詳しくは、皮膜材料Hは、上記の金属のみの皮膜材料Hに、セラミックを混合したものである。セラミックとしては、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択される。
実施の形態においては、5〜50質量%(全皮膜材料についての成分比)のアルミナが用いられる。アルミナの粒径は5μm〜45μmに設定されている。
【0032】
また、皮膜材料Hが被覆される基材Kとしては、例えば、鉄,鋳鉄,ステンレス,銅,黄銅,ニッケル,錫,鉛,コバルト,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,マグネシウム,マンガン,亜鉛の何れかの金属,あるいはこれらの合金,金属の酸化物等,適宜のものを選択することができる。コールドスプレー後に熱処理する場合には、基材は皮膜を形成する金属と略同等あるいはそれ以上の融点の金属材料が望ましい。金属材料が鉄系金属である場合は、純鉄の他、JIS表示で示すと、例えば、SS,SC,SPC,SPCC等の普通鋼、SUS,SMn,SCr,SCM,SNCM,SWRH,SUH,SK,SKH,SKS,SKD,SKC,SUP,SWRS,SUJ等の特殊鋼等が挙げられる。
【0033】
次に、実施の形態に係る皮膜形成方法について説明する。この皮膜形成方法は、図1に示すように、コールドスプレーにより基材Kに上記の皮膜材料Hの皮膜を形成する皮膜形成工程(1)と、皮膜形成工程で皮膜材料Hの皮膜が形成された基材Kを熱処理してこの皮膜を化合物化あるいは合金化する熱処理工程(2)とを備えて構成されている。
【0034】
図5には、本皮膜形成方法で用いるコールドスプレー装置1を示している。このコールドスプレー装置1は、スプレーノズル7から皮膜材料Hの粉末を、皮膜材料Hの融点未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して、基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成するものである。
詳しくは、このコールドスプレー装置1は、空気,窒素,ヘリウムなどの高圧の作動ガスが供給される主配管2と、主配管2の途中に設けられ作動ガスを皮膜材料Hの融点未満の温度または軟化温度よりも低い温度に加温するガス加熱器3と、主配管2から分岐され作動ガスの一部を粉末搬送のキャリアガスとして送る枝配管4と、枝配管4に介装されキャリアガスにより皮膜材料Hの粉末を搬送せしめる粉末供給装置5と、主配管2及び枝配管4が合流し枝配管4からの皮膜材料Hの粉末を加温されたガスに投入させるミキシングチャンバ6と、ミキシングチャンバ6に接続され固体基材Kに皮膜材料Hの粉末をガスとともに吹き付けるスプレーノズル7とから構成されている。スプレーノズル7では作動ガス及び皮膜材料Hの粉末は超音速流となって噴出される。
【0035】
従って、基材Kに皮膜を形成して、皮膜形成部材を製造する場合には以下のようにして行う。ここでは、基材Kとしてステンレス鋼板(SUS)を選択し、これに、上記の金属のみで形成された複合体Fを含む皮膜材料Hの皮膜を形成する場合について説明する。
(1)皮膜形成工程
上記のコールドスプレー装置1を用いて、スプレーノズル7から皮膜材料Hの粉末を当該皮膜材料Hの融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して、基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成し、皮膜形成部材を製造する。この場合、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmに設定されているので、粒子があまりに微細になることがなく、流動性が低下する事態が防止され、ノズル7による安定供給を可能にする。ノズル7の目詰まりも防止される。また、この場合、皮膜材料Hを構成する複合体Fは、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材Kに到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズル7からの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材Kに到達しても互いの分散状態を保持して基材Kに接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmに設定されているが、各金属粒子は、粒子がより細かく、即ち、アルミニウムの粒径は1〜25μmに設定され、ニッケルの粒径は1〜10μmに設定されているので、それだけ、細かく分散が行われることになる。
【0036】
(2)熱処理工程
次に、周知の手段により皮膜形成工程で皮膜材料Hの皮膜が形成された基材Kを熱処理してこの皮膜を化合物化あるいは合金化する。
熱処理温度は、例えば、複合体Fが(Al−Ni)の場合、500℃〜900℃に設定される。熱処理雰囲気は、大気、真空中あるいは、不活性ガス雰囲気中のうち適宜選択し、この温度雰囲気で0.5〜3時間処理する。
この場合、基材Kに被覆された皮膜材料Hは、熱処理前の皮膜組織が、緻密且つ微細で分散性が極めて良いので、熱処理後に形成される金属間化合物皮膜においても、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止され、均質な化合物皮膜が形成される。その結果、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。
【0037】
このようにして製造された皮膜形成部材は、ステンレス鋼板(SUS)に、AlNi金属間化合物を形成し、形成された皮膜は皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されており、そのため、耐熱性,耐食性の皮膜を形成した皮膜形成部材となる。
【0038】
このような皮膜形成部材は、例えば、燃焼装置の耐熱部分に用いることが有効である。燃焼装置としては、各種ストーブ、あるいは、図18に示すようなバイオマス燃焼装置等種々のものがある。一般に、燃焼装置の耐熱部分には、例えば、クロムを含有した耐熱性の合金が用いられ、あるいはこれにセラミックを溶射する材料が用いられるが、これらの材料においては、繰り返しの熱疲労により、クロム含有合金はもとより、セラミックを被覆した材料においてもセラミックが剥離すると、クロム含有合金からクロムが六価クロムとなって燃焼灰中に溶出し、そのため、環境基準値を超える六価クロムが燃焼灰中に生成する要因となっている。しかしながら、本発明に係る、皮膜形成部材を、燃焼装置の耐熱部分に用いると、皮膜は極めて高い耐熱性,耐食性の皮膜であることから、剥離しにくく、そのため、基材Kにクロム含有合金を用いない場合は勿論のこと、仮に基材Kにクロム含有合金を用いたとしても、六価クロムの生成がほとんどなくなり、環境負荷の小さいバイオマス燃料の安全性を確保し、バイオマスエネルギーの普及拡大に貢献する材料となる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
コールドスプレー用皮膜材料Hの例であり、この皮膜材料Hは、金属として、図8(a)の電子顕微鏡写真に示すAl(粒径1〜25μm)を30質量%、図8(b)の電子顕微鏡写真に示すNi(粒径1〜10μm)を残量(70質量%)として選択した。そして、周知の振動ボールミルを用い、3時間処理し、粒径が10μm〜50μmの複合体Fを80質量%以上含む皮膜材料Hとした。
(実施例2)
上記実施例1で作成した皮膜材料Hに、全体で10質量%のアルミナを添加した。アルミナの粒径は5μm〜45μmである。
(実施例3)
上記実施例1で作成した皮膜材料Hに、全体で20質量%のアルミナを添加した。アルミナの粒径は5μm〜45μmである。
【0040】
そして、図6に示すように、上記実施例1について、電子顕微鏡写真を撮像し、組織の状態を見た。そして、図7に示す比較例1(従来の混合粉末)の電子顕微鏡写真、と比較した。この結果から、複合体Fは、上述もしたように、金属粉末同士が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態になっていることが分かる。
【0041】
そしてまた、図9に示すように、実施例1に係る複合体Fについて、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製MCT-W)により、複合体単体の圧縮強度を測定した。粒子径に対し10%変形時の強度を測定し(1)式により圧縮強度を求め10点の平均値を圧縮強度とした。
SX=2.8P/(π×d2)・・・・(1)
ここで、SX:圧縮強度、P:試験力、d:粒子径を示す。
【0042】
その結果、複合体Fの圧縮強度は、50Mp〜200Mpの範囲の強度を持つことが分かった。コールドスプレーの成膜プロセスは,粒子の衝突,変形,密着,積層という工程を経て皮膜が積層され、特に衝突の際に生じる粒子の変形挙動が成膜性に大きく影響を与えると考えられる。粒子の変形挙動と、粒子の圧縮強度は密接な関係があり、圧縮強度が小さい粒子ほど、変形し易いことは容易に予想される。図10に粉体圧縮強度と、コールドスプレーでの粒子付着効率の関係を示す。粉体圧縮強度が高いほど、付着効率が低下する傾向は明らかであり、上記範囲の強度の複合体粉末とすることで、歩留まりの高いコールドスプレー用粉末となることが分かる。
【0043】
(実施例4,実施例5)
次に、実施例1の皮膜材料Hを用いて、実施例4に係る皮膜形成部材(コールドスプレーのみ)、及び、実施例5に係る皮膜形成部材(コールドスプレー後熱処理)を作成した。皮膜形成部材の基材Kは、SUS304(幅50mm×長さ60mm×厚さ4mm)を用いた。コールドスプレー装置として、米国イノバティ社製のKinetic Metallizationシステム(KM-CDS)を用いた。この装置は、粉末供給装置、ガス調整装置、スプレーノズル、制御装置から構成されている。ボンベから供給された作動ガスは、装置内でプロセスガスと粉末を搬送するためのキャリアガスの2つの系統に分岐される。プロセスガスは、ヒーターによって加熱され急激に膨張しながら超高速のガス流となってミキシングチャンバへ流れる。一方、キャリアガスは、粉末供給装置から原料粉末を搬送する。搬送された粉末は、ミキシングチャンバ内でプロセスガスと混合され、超高速のガス流となってスプレーノズルから噴出される。このようなプロセスを経て、超高速に加速された原料粉末は、基材Kに向かって吹き付けられ皮膜が形成される。使用した装置のノズルは、音速ノズルで粉末に対して効率的に運動エネルギーを供給できるといわれている。
【0044】
上記のコールドスプレー装置を用い、図11に示す条件で、先ず、基材Kにコールドスプレーを行い、これを実施例4に係る皮膜形成部材とした。
その後、熱処理を行い、これを実施例5に係る皮膜形成部材とした。熱処理は大気雰囲気中で5℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、3時間保持した後炉冷した。
また、比較例として、Al(粒径10〜45μm)を30質量%、Ni(粒径5〜20μm)を残量として選択した混合粉末を用い、上記と同様に図11に示す条件でコールドスプレーを行い、これを比較例2に係る皮膜形成部材とした。その後、上記と同様の条件で熱処理を行い、これを比較例3に係る皮膜形成部材とした。
【0045】
(熱処理前の皮膜形成部材の比較)
そして、実施例4の皮膜形成部材と比較例2の皮膜形成部材について、熱処理前の皮膜形成部材の断面組織を電子顕微鏡により撮像し皮膜の状態を比較した。実施例4の電子顕微鏡写真を図12に、比較例2の電子顕微鏡写真を図13に示す。この結果から、実施例4の皮膜断面組織においては、微細なNiとAlが極めてよく分散しており、また皮膜組織に欠陥がなく、非常に緻密な皮膜が形成されていることが分かる。一方、比較例2の皮膜断面組織を見ると、皮膜内に欠陥は認められないが、実施例と比較し明らかに、NiとAlの組織が粗大であり、Niの偏析も確認できる。
【0046】
(熱処理後の皮膜形成部材の比較)
そして、上記と同様に、熱処理後の実施例5の皮膜断面組織を図14(b)に、比較例3の皮膜断面組織を図14(a)に示す。実施例5の皮膜断面組織においては、皮膜中に欠陥が無く、熱処理前と同様に緻密な皮膜が形成されている。一方、比較例3の皮膜断面組織を見ると、皮膜内部に多くの欠陥が確認できる。この欠陥はNiとAlが反応し金属間化合物を形成する際の、結晶構造の相違あるいは,カーケンドール効果によるものと考えられるが、実施例5の皮膜断面組織には殆ど認められないことから、熱処理前の複合組織を微細化することで、熱処理後の皮膜内に生じる欠陥を抑制できたと考えられる。
【0047】
次に、実施例5に係る皮膜形成部材と比較例3に係る皮膜形成部材について耐熱性試験を行った。図15に示すように、実施例5と比較例3の燃焼灰中における耐食性及び耐久性を評価するために、燃焼灰に皮膜形成部位を埋設し、電気炉で850℃加熱した。加熱時間は、24〜600時間まで行い、所定時間毎に表面の状態を見た。
図16及び図17に、電気炉での耐食試験及び耐久試験結果を示す。図16に示すように、実施例5のものは600時間経過しても皮膜の剥離や腐食による表面損傷等は見られない。それに対し、図17に示すように、比較例3の皮膜においては、わずか24時間の試験で、皮膜が全面剥離するものや、表面損傷が発生するサンプルもあり、耐食性に大きなばらつきが見られた。
【0048】
前述の、電気炉を使用した耐久試験の他、実際の燃焼機(ペレットストーブ)での耐久試験を実施した。図18に、燃焼機での評価部位を示す。耐久試験は、ペレットストーブのバーナー部と呼ばれペレットを燃焼させるユニットに、実施例5に係る皮膜形成部材を用い、8時間毎に着火、消火を繰り返すことによりヒートサイクルを付加し、燃焼時間が500時間に達するまで試験を行った。
図19に、500時間試験後の実施例5に係る皮膜形成部材の試験部材表面と、皮膜断面写真を示す。外観上の皮膜剥離は認められない。部材の断面観察結果から、いずれの部位においても、皮膜の損傷や剥離は発生していないことがわかる。特に歯車と呼ばれる部位は、燃焼中に発生した燃焼灰をバーナー部より排出する役割を担う部位であり、高温環境下で常に燃焼灰に接触し且つ、機械的摩擦が生じる非常に過酷な環境で使用されるが、本部位においても、皮膜剥離や損傷が見られず、良好な耐久性を示すことが確認された。
【0049】
次に、上記のペレットストーブにおいて、基材に皮膜を付与しない場合と、付与した実施例5に係る皮膜形成部材(A,B,Cの3つ)の場合における、燃焼時間毎の燃焼灰中のクロム濃度を測定した。図20に分析結果を示す。皮膜が剥離し基材が露出した場合、露出部の金属腐食が進み、基材中の金属クロムが燃焼灰に混入し、灰中のクロム濃度が増加する。皮膜を付与しない場合においては時間と共に、クロム濃度が増加しているのが分かる。一方、開発皮膜を付与した場合においては、クロム濃度が増えず、非常に低い水準を維持している。グラフでは40時間までの結果を示すが、500時間経過後のクロム濃度も同様の低水準であることも確認しており、クロム分析の結果からも、皮膜の耐久性が立証された。
【0050】
次にまた、実施例1,2及び3に係る皮膜材料Hついて、上記と同様の方法で皮膜形成部材を形成し、熱処理前の皮膜硬さと、熱処理後の皮膜硬さとを測定した。即ち、Ni−Al複合体粉末にアルミナ粉末を添加することによる、皮膜硬さの評価を行った、結果を図21に示す。皮膜の硬さは、試験表面を鏡面加工した後、マイクロビッカース硬度計(株式会社ミツトヨ:HM-221)により試験荷重0.98N、保持時間10sの条件で皮膜断面を5点測定し平均値を求めた。
熱処理前の皮膜硬さはHv200程度であり、アルミナ添加量の増加に伴い、若干ではあるが硬さの増加が認められた。熱処理後の皮膜硬さを見ると、いずれの皮膜も熱処理により硬さの増加が見られ、特にアルミナ粉末を添加した場合は、約500Hvの硬さとなり、熱処理前に比べ倍以上の皮膜硬さが得られることがわかった。熱処理による硬さの増加は、熱処理前のNiとAlの複合組成が、NiAl金属間化合物組成に変化したことによるものと考えられる。またアルミナを添加したことによる硬さの増加は、成膜時のピーニング効果と、皮膜内部に一部混入したアルミナ粒子の影響によるものと考えられる。
【0051】
また、実施例2に係る皮膜材料Hついて、上記と同様の方法で皮膜形成材料を形成し、この実施例2に係る皮膜材料H,熱処理前の皮膜及び熱処理後の皮膜についてX線回折分析を行った。結果を図22に示す。粉末のX線回折パターンには、複合体の原料粉末であるNiとAl及びアルミナのピークのみが認められ、ボールミル処理に伴う合金化や化合物化は生じていないことが分かる。当該粉末を用いて作製した皮膜の、熱処理前のX線回折パターンも同様に、NiとAl及びアルミナのピークのみが認められ、コールドスプレーでの皮膜形成プロセスにおいても、合金化や化合物化は生じていないことが分かる。また粉末のパターンと比較し、アルミナのピーク強度の低下が認められる。これは、粉末に混合したアルミナの大部分は、皮膜形成過程で脱落もしくは粉砕し、皮膜中には殆ど混入していないことを意味している。熱処理後の皮膜のX線回折パターンには、AlNi金属間化合物と若干の酸化Niのピークのみが認められ、未反応のNiやAlは存在せず、均質なAlNi組成の皮膜が形成されていることが確認された。
【0052】
尚、上記実施の形態においては、金属としてアルミニウム及びニッケル、セラミックとしてアルミナを用いた例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の金属及びセラミックに適用できることは勿論である。また、各種条件等も上述した条件に限定されない。
【符号の説明】
【0053】
H 皮膜材料
F 複合体
K 基材
1 コールドスプレー装置
2 主配管
3 ガス加熱器
4 枝配管
5 粉末供給装置
6 ミキシングチャンバ
7 スプレーノズル
Ma,Mb ボールミル
10,13 ポット
11 ボール
12 振動機
(1)皮膜形成工程
(2)熱処理工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー法により基材に皮膜を形成する皮膜形成方法及びこの皮膜形成方法を用いて皮膜が形成された皮膜形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コールドスプレー(Cold Spray)法によって基材の表面に皮膜を形成する方法は、皮膜材料の融点または軟化点よりも低い温度に設定した超音速で流れるガスで皮膜材料の粉末を搬送することによって、この粉末を基材の表面に衝突させるものである。この方法では、粉末が高速で基材の表面に衝突した際に、固相状態のままで粉末の粒子が塑性変形することによって皮膜が形成される。
【0003】
従来、このようなコールドスプレー法により基材に皮膜を形成する皮膜形成方法としては、例えば、特表2008−538385号公報(特許文献1)に記載の技術が知られている。これは、図23に示すように、皮膜材料として、2種の金属の粉末材料とセラミックの粉末材料を含むものが用いられる。例えば、平均粒度が50〜100μmであるAl粉末と、平均粒度が1〜50μmであるNi粉末を、例えば、Al:Ni重量比がそれぞれ90:10あるいは75:25にした金属混合粉末を用い、これに、平均粒度が1〜50μmであるセラミックとしてのSiC粉末を、例えば、金属混合粉末100重量部に対して5重量部混合して、皮膜材料とする。そして、基材として、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金や、鋳鉄等の鉄系合金材質を選択し、周知のコールドスプレー法により、基材に皮膜材料の皮膜を形成する。その後、この皮膜に対して例えば450℃〜550℃で熱処理して皮膜を合金化し、(Al−Ni)の金属間化合物を生成する。これにより、基材表面に金属マトリックス複合層を形成し、基材の熱的変形や熱衝撃による損傷を誘発するおそれがないようにし、機械的強度に優れた皮膜形成部材にするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−538385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のコールドスプレー用皮膜材料を用いてコールドスプレー法により基材に皮膜を形成し、その後熱処理して皮膜を形成する皮膜形成方法においては、コールドスプレーにより形成した皮膜内部における金属の分散性が必ずしも良いとは言えず、不均一になりやすく、また、金属の粒子の微細化にも限度があり、そのため、熱処理後に形成される金属間化合物皮膜においても欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという問題があった。その理由は、皮膜材料が2種類の金属の粉末とセラミックの粉末との単に混合した混合粉末の形態であることから、構成される異種金属の付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して、粉末状態での混合比率と、形成される皮膜内の組成比とが異なってしまい、あるいは、付着し易い粒子が偏積してしまうからである。そこで、皮膜内部における異種金属相互の分散性を良くし微細化を図るために、粉末の粒度をより微細にすることも考えられるが、あまり微細にすると流動性が低下し粉末の安定供給に支障が生じる。また、ノズル閉塞の原因ともなる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようにするとともに、金属の粒度が従来と同等あるいはそれ以下であっても、ノズルからの噴射に支障を与えることなく各金属材料の分散性を向上させ、品質の向上を図った皮膜形成方法及び皮膜形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の皮膜形成方法は、スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、上記2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を含んで構成している。
【0008】
ここで、非化合物化及び非合金化の状態で密着とは、例えば、金属粉末同士が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態をいう(図6に示す電子顕微鏡写真参照)。
【0009】
また、基材としては、例えば、鉄,鋳鉄,ステンレス,銅,黄銅,ニッケル,錫,鉛,コバルト,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,マグネシウム,マンガン,亜鉛の何れかの金属,あるいはこれらの合金,金属の酸化物等、適宜のものを選択することができる。コールドスプレー後に熱処理する場合には、基材は皮膜を形成する金属と略同等あるいはそれ以上の融点の金属材料が望ましい。金属材料が鉄系金属である場合は、純鉄の他、JIS表示で示すと、例えば、SS,SC,SPC,SPCC等の普通鋼、SUS,SMn,SCr,SCM,SNCM,SWRH,SUH,SK,SKH,SKS,SKD,SKC,SUP,SWRS,SUJ等の特殊鋼等が挙げられる。
【0010】
そして、皮膜形成工程で、コールドスプレー法により、スプレーノズルから皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成する。
本発明の皮膜形成方法においては、必要に応じ、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程を備えた構成としている。
【0011】
これにより、皮膜材料を構成する複合体は、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材に到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズルからの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材に到達しても互いの分散状態を保持して基材に接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、熱処理した場合には、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止される。その結果、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。更に、複合体は、2種以上の金属の粉末材料同士が密着しているので、金属の粉末が微細化されていても複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、そのため、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、この点でも、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。
【0012】
そして、必要に応じ、上記皮膜材料の金属の粉末の粒径を50μm未満にした構成としている。金属の粉末が微細化され、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、より一層、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。また、金属の粉末が微細化されても、複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、分散性を損なうことがなく、コールドスプレーによる粉末の安定供給も確保される。
【0013】
また、必要に応じ、上記皮膜材料の複合体の粒径を、5〜100μmにした構成としている。望ましくは10〜50μmである。
この範囲で、複合体の粒子があまりに微細になることがなく、流動性が低下する事態が防止され、複合体の安定供給を可能にし、ノズル閉塞も抑制される。また、複合体がこの粒径範囲に形成されるということは、各金属粒子がより細かいことを意味し、それだけ、分散性が向上させられるとともに、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになる。
【0014】
更に、必要に応じ、上記皮膜材料は、上記複合体を、60質量%以上含む構成としている。粉末材料の複合化においては、複合化に至らない金属粉末もある程度混入せざるを得ないが、複合体が60質量%以上含む構成であれば、分散性を確実に確保できる。望ましくは、80質量%以上、より望ましくは90質量%以上である。
【0015】
また、必要に応じ、上記皮膜材料で用いる金属は、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択される構成としている。
【0016】
この場合、必要に応じ、上記皮膜材料で用いる金属は、10〜60質量%(金属全体における成分比)のアルミニウムと、残部(金属全体において90〜40質量%)にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とからなる構成としている。アルミニウムの混合比は、望ましくは20〜40質量%、より望ましくは25〜35質量%である。
これらの金属の組み合わせにおいては、上記構成により作成した複合体を用い、コールドスプレー法により皮膜を作成し、熱処理すると、これにより形成される皮膜には皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されるので、皮膜形成部材の耐熱性,耐食性の向上を図ることができる。
【0017】
また、必要に応じ、上記皮膜材料を、セラミックの粉末を含み、該セラミックは、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択される構成としている。このセラミックは、複合体とともに混在し、あるいは、金属粉末とともに密着して複合体を構成しても良い。これにより、成膜時のノズル閉塞の防止が図られ、皮膜の機械的特性が向上させられる。
【0018】
詳しくは、コールドスプレーによる皮膜形成においては、異種金属の複合体にセラミック粉末が混合されていることにより、成膜工程でのノズル閉塞を抑制する効果がある。ノズル閉塞の発生は、ノズル内側に付着した微細粒子が基点となって、付着物が成長し閉塞に至ると考えられる。複合体に混合されたセラミック粉末は、ノズル内部に付着した粒子を除去し、付着物の成長を防止するため、ノズルの閉塞が起こらず、長時間安定して成膜することができる。またもう一つの効果として、硬質材料であるセラミック粉末は、皮膜形成過程において、皮膜にピーニング効果を付与し、硬さや耐摩耗性を向上させる効果もある。
【0019】
この場合、必要に応じ、上記皮膜材料で用いるセラミックは、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%(全皮膜材料における成分比)のアルミナである構成としている。アルミナは、コールドスプレーによる皮膜形成を安定化させ、皮膜形成過程において、皮膜にピーニング効果を付与し、硬さや耐摩耗性を向上させる機能に優れる。
【0020】
より具体的には、本発明の皮膜形成方法は、スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程と、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程とを備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%(金属全体における成分比)のアルミニウムと、残部(金属全体において90〜40質量%)にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにした構成としている。
【0021】
この場合、上記皮膜材料を、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナの粉末材料を含んで構成したことが有効である。
【0022】
そして、上記目的を達成するため、本発明は、上記の皮膜形成方法によって皮膜が形成された皮膜形成部材にある。上記の通り皮膜品質の高い皮膜形成部材となる。
特に、金属製の基材に対し、上記の具体的皮膜形成方法を適用した皮膜形成部材が有効である。即ち、コールドスプレーによる皮膜形成工程と熱処理工程とを備え、上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン、マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにした構成とした皮膜形成方法を適用した皮膜形成部材にある。
この皮膜形成部材は、金属製の基材に、アルミニウムとニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属との合金が被覆され、しかも、これら金属粒子の分散性が良いことから、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されており、そのため、耐熱性,耐食性の皮膜を形成した皮膜形成部材となる。
【0023】
このような皮膜材料は、必要に応じ、燃焼装置の耐熱部分に用いることが有効である。一般に、燃焼装置の耐熱部分には、例えば、クロムを含有した耐熱性の合金が用いられ、あるいはこれにセラミックを溶射する材料が用いられるが、これらの材料においては、繰り返しの熱疲労により、クロム含有合金はもとより、セラミックを被覆した材料においてもセラミックが剥離すると、クロム含有合金からクロムが六価クロムとなって燃焼灰中に溶出し、そのため、環境基準値を超える六価クロムが燃焼灰中に生成する要因となっている。しかしながら、本発明に係る、皮膜形成部材を、燃焼装置の耐熱部分に用いると、皮膜は極めて高い耐熱性,耐食性の皮膜であることから、剥離しにくく、そのため、基材Kにクロム含有合金を用いない場合は勿論のこと、仮に基材Kにクロム含有合金を用いたとしても、六価クロムの生成がほとんどなくなり、環境負荷の小さいバイオマス燃料の安全性を確保し、バイオマスエネルギーの普及拡大に貢献する材料となるのである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、皮膜材料を構成する複合体は、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材に到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズルからの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材に到達しても互いの分散状態を保持して基材に接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、熱処理した場合には、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態を防止することができ、皮膜形成部材の品質を大幅に向上させることができる。更に、複合体は、2種以上の金属の粉末材料同士が密着しているので、金属の粉末が微細化されていても複合体にして粉末の粒子を大きくすることができ、そのため、金属の微細な複合組織で形成された皮膜を形成できるようになり、この点でも、皮膜形成部材の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー用皮膜材料の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられる別の形態のコールドスプレー用皮膜材料の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー用皮膜材料において、これを製造する際に用いられるボールミルを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法において用いられるコールドスプレー装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例1に係る試料の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例1に係る試料の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例1で用いたアルミニウム粉末の表面を示す電子顕微鏡写真(a)及び実施例1で用いたニッケル粉末の表面を示す電子顕微鏡写真(b)である。
【図9】本発明の実施例に係る複合体の圧縮評価試験の方法を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係る複合体の圧縮評価試験の結果を示すグラフ図である。
【図11】本発明の実施例及び比較例に係るコールドスプレーによる皮膜形成方法におけるコールドスプレー条件を示す表図である。
【図12】本発明の実施例4に係る皮膜形成部材(熱処理前)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例2に係る皮膜形成部材(熱処理前)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例3に係る皮膜形成部材(熱処理後)の皮膜断面を示す電子顕微鏡写真(a)、本発明の実施例5に係るの皮膜断面を示す電子顕微鏡写真(b)である。
【図15】本発明の実施例及び比較例に係る皮膜形成部材の耐食性試験の方法を示す図である。
【図16】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材の耐食性試験の結果を示す写真である。
【図17】比較例3に係る皮膜形成部材の耐食性試験の結果を示す写真である。
【図18】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材を用いた燃焼機(ペレットストーブ)及びその耐久試験部位を示す図である。
【図19】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材について燃焼機(ペレットストーブ)で行った耐久試験結果をその試験部位とともに示す電子顕微鏡写真である。
【図20】本発明の実施例5に係る皮膜形成部材と、基材に皮膜を付与しない部材との燃焼試験において、燃焼灰中のクロム濃度の測定結果を示すグラフ図である。
【図21】本発明の実施例1,実施例2及び実施例3に係る皮膜材料を用いて作成した熱処理前の皮膜形成部材及び熱処理後の皮膜形成部材の硬さを測定した結果を示すグラフ図である。
【図22】本発明の実施例2に係る皮膜材料,この皮膜材料を用いて作成した熱処理前の皮膜形成部材の皮膜及び熱処理後の皮膜形成部材の皮膜についてX線回折分析を行った結果を示すグラフ図である。
【図23】従来のコールドスプレー用皮膜材料を用いて皮膜形成部材を製造する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る皮膜形成方法及び皮膜形成部材について詳細に説明する。
図1及び図2には、実施の形態に係る皮膜形成方法及びこの皮膜形成方法で用いるコールドスプレー用皮膜材料を示している。この皮膜材料Hは、後述のコールドスプレー装置1のスプレーノズル7から融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射され、この基材Kに皮膜として形成される2種以上の金属の粉末材料を含む。詳しくは、図2に示すように、皮膜材料Hは、2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体Fを含んでいる。金属の粉末の粒径は50μm未満にしている。また、複合体Fの粒径は、5〜100μmにしている。望ましくは10〜50μmである。また、皮膜材料Hは、複合体Fを、60質量%以上含む。望ましくは、80質量%以上、より望ましくは90質量%以上である。
【0027】
また、金属としては、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択される。
本実施の形態では、金属は、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とからなる(実施の形態ではニッケルが選択)。アルミニウムの粒径は1〜25μmに設定され、ニッケルの粒径は1〜10μmに設定されている。アルミニウムの混合比は、望ましくは20〜40質量%、より望ましくは25〜35質量%である。
【0028】
図2及び図6に示す電子顕微鏡写真も参照し、ここで、非化合物化及び非合金化の状態で密着とは、例えば、金属粉末同士(アルミニウムとニッケル)が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態をいう。
【0029】
次に、このコールドスプレー用被覆材料の製造方法について説明する。製造に用いる製造機器は、粉末材料同士を加圧により接合して密着できる装置であればよく、特に限定するものではないが、ボールやロッド等のメディアを使用する装置が使用できる。例えば、図4(a)に示すように、硬質のボール11が適量入れられたポット10を備えた回転型のボールミルMa、あるいは、硬質のボール11が適量入れられ振動機12により振動させられるポット13を備えた振動型のボールミルMbを用いる事ができる。ボールミルMa,Mbは、一般に、金属やセラミックなどの硬質のボール11と、材料をポット10,13に入れて回転若しくは振動させることによって、材料を粉砕または混合する装置であるが、適切な処理条件において該発明のような複合化にも利用できる装置である。
ポット10,13は、鋼,ステンレスなどのもの、不純物の混入防止や対摩耗性付与のために、内張り(ライナー)としてアルミナ,ゴム,ウレタン等を設けたものが使用できる。ボール11は、例えば、鉄,ステンレス,超硬合金,またはアルミナ,ジルコニア,窒化珪素等のセラミックスを用いることができ、製造がきわめて容易に行われる。
【0030】
そして、アルミニウムとニッケルの粉末材料を、ボールミルMa,Mbのポット10,13内に入れ、ポット10,13を回転若しくは振動させることにより、ボール11の衝突エネルギーにより該粉末材料同士を密着させて複合化し、上記複合体Fを生成する構成としている。即ち、ボールミルMa,Mbのポット10,13に入れられた粉末材料同士は、ボール11に接触しボール11による加圧により接合して密着させられ、圧潰して細長状にになって隣接する金属の境界に隙間なく接合する。この場合、ポット10,13の回転若しくは振動を調整することにより、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmになるように、且つ、複合体Fが60質量%以上、望ましくは80質量%以上、より望ましくは90質量%以上になるようにする。
【0031】
また、図3には、別のコールドスプレー用皮膜材料Hを示している。この皮膜材料Hは、上記と同様に後述のコールドスプレー装置のスプレーノズルから融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射され、この基材Kに皮膜として形成される2種以上の金属の粉末材料を含むとともにセラミックの粉末材料を含んでいる。詳しくは、皮膜材料Hは、上記の金属のみの皮膜材料Hに、セラミックを混合したものである。セラミックとしては、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択される。
実施の形態においては、5〜50質量%(全皮膜材料についての成分比)のアルミナが用いられる。アルミナの粒径は5μm〜45μmに設定されている。
【0032】
また、皮膜材料Hが被覆される基材Kとしては、例えば、鉄,鋳鉄,ステンレス,銅,黄銅,ニッケル,錫,鉛,コバルト,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,マグネシウム,マンガン,亜鉛の何れかの金属,あるいはこれらの合金,金属の酸化物等,適宜のものを選択することができる。コールドスプレー後に熱処理する場合には、基材は皮膜を形成する金属と略同等あるいはそれ以上の融点の金属材料が望ましい。金属材料が鉄系金属である場合は、純鉄の他、JIS表示で示すと、例えば、SS,SC,SPC,SPCC等の普通鋼、SUS,SMn,SCr,SCM,SNCM,SWRH,SUH,SK,SKH,SKS,SKD,SKC,SUP,SWRS,SUJ等の特殊鋼等が挙げられる。
【0033】
次に、実施の形態に係る皮膜形成方法について説明する。この皮膜形成方法は、図1に示すように、コールドスプレーにより基材Kに上記の皮膜材料Hの皮膜を形成する皮膜形成工程(1)と、皮膜形成工程で皮膜材料Hの皮膜が形成された基材Kを熱処理してこの皮膜を化合物化あるいは合金化する熱処理工程(2)とを備えて構成されている。
【0034】
図5には、本皮膜形成方法で用いるコールドスプレー装置1を示している。このコールドスプレー装置1は、スプレーノズル7から皮膜材料Hの粉末を、皮膜材料Hの融点未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して、基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成するものである。
詳しくは、このコールドスプレー装置1は、空気,窒素,ヘリウムなどの高圧の作動ガスが供給される主配管2と、主配管2の途中に設けられ作動ガスを皮膜材料Hの融点未満の温度または軟化温度よりも低い温度に加温するガス加熱器3と、主配管2から分岐され作動ガスの一部を粉末搬送のキャリアガスとして送る枝配管4と、枝配管4に介装されキャリアガスにより皮膜材料Hの粉末を搬送せしめる粉末供給装置5と、主配管2及び枝配管4が合流し枝配管4からの皮膜材料Hの粉末を加温されたガスに投入させるミキシングチャンバ6と、ミキシングチャンバ6に接続され固体基材Kに皮膜材料Hの粉末をガスとともに吹き付けるスプレーノズル7とから構成されている。スプレーノズル7では作動ガス及び皮膜材料Hの粉末は超音速流となって噴出される。
【0035】
従って、基材Kに皮膜を形成して、皮膜形成部材を製造する場合には以下のようにして行う。ここでは、基材Kとしてステンレス鋼板(SUS)を選択し、これに、上記の金属のみで形成された複合体Fを含む皮膜材料Hの皮膜を形成する場合について説明する。
(1)皮膜形成工程
上記のコールドスプレー装置1を用いて、スプレーノズル7から皮膜材料Hの粉末を当該皮膜材料Hの融点温度未満の作動ガスと共に基材Kに向けて噴射して、基材Kに皮膜材料Hの皮膜を形成し、皮膜形成部材を製造する。この場合、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmに設定されているので、粒子があまりに微細になることがなく、流動性が低下する事態が防止され、ノズル7による安定供給を可能にする。ノズル7の目詰まりも防止される。また、この場合、皮膜材料Hを構成する複合体Fは、異種金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させて形成されているので、これらの異種金属を予め互いに分散化させて集合させておくことができ、そのため、従来のように異種金属同士がノズルから噴射して基材Kに到達してから互いに密着して被覆される場合と比較して、ノズル7からの噴射時に付着特性(臨界速度等)や粒子径の違いに起因して偏ることがなく、基材Kに到達しても互いの分散状態を保持して基材Kに接合することから、分散性を向上させることができるようになる。特に、複合体Fの粒径が5〜100μm、望ましくは10〜50μmに設定されているが、各金属粒子は、粒子がより細かく、即ち、アルミニウムの粒径は1〜25μmに設定され、ニッケルの粒径は1〜10μmに設定されているので、それだけ、細かく分散が行われることになる。
【0036】
(2)熱処理工程
次に、周知の手段により皮膜形成工程で皮膜材料Hの皮膜が形成された基材Kを熱処理してこの皮膜を化合物化あるいは合金化する。
熱処理温度は、例えば、複合体Fが(Al−Ni)の場合、500℃〜900℃に設定される。熱処理雰囲気は、大気、真空中あるいは、不活性ガス雰囲気中のうち適宜選択し、この温度雰囲気で0.5〜3時間処理する。
この場合、基材Kに被覆された皮膜材料Hは、熱処理前の皮膜組織が、緻密且つ微細で分散性が極めて良いので、熱処理後に形成される金属間化合物皮膜においても、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止され、均質な化合物皮膜が形成される。その結果、皮膜形成部材の品質の向上が図られる。
【0037】
このようにして製造された皮膜形成部材は、ステンレス鋼板(SUS)に、AlNi金属間化合物を形成し、形成された皮膜は皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じてしまうという事態が防止されており、そのため、耐熱性,耐食性の皮膜を形成した皮膜形成部材となる。
【0038】
このような皮膜形成部材は、例えば、燃焼装置の耐熱部分に用いることが有効である。燃焼装置としては、各種ストーブ、あるいは、図18に示すようなバイオマス燃焼装置等種々のものがある。一般に、燃焼装置の耐熱部分には、例えば、クロムを含有した耐熱性の合金が用いられ、あるいはこれにセラミックを溶射する材料が用いられるが、これらの材料においては、繰り返しの熱疲労により、クロム含有合金はもとより、セラミックを被覆した材料においてもセラミックが剥離すると、クロム含有合金からクロムが六価クロムとなって燃焼灰中に溶出し、そのため、環境基準値を超える六価クロムが燃焼灰中に生成する要因となっている。しかしながら、本発明に係る、皮膜形成部材を、燃焼装置の耐熱部分に用いると、皮膜は極めて高い耐熱性,耐食性の皮膜であることから、剥離しにくく、そのため、基材Kにクロム含有合金を用いない場合は勿論のこと、仮に基材Kにクロム含有合金を用いたとしても、六価クロムの生成がほとんどなくなり、環境負荷の小さいバイオマス燃料の安全性を確保し、バイオマスエネルギーの普及拡大に貢献する材料となる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
コールドスプレー用皮膜材料Hの例であり、この皮膜材料Hは、金属として、図8(a)の電子顕微鏡写真に示すAl(粒径1〜25μm)を30質量%、図8(b)の電子顕微鏡写真に示すNi(粒径1〜10μm)を残量(70質量%)として選択した。そして、周知の振動ボールミルを用い、3時間処理し、粒径が10μm〜50μmの複合体Fを80質量%以上含む皮膜材料Hとした。
(実施例2)
上記実施例1で作成した皮膜材料Hに、全体で10質量%のアルミナを添加した。アルミナの粒径は5μm〜45μmである。
(実施例3)
上記実施例1で作成した皮膜材料Hに、全体で20質量%のアルミナを添加した。アルミナの粒径は5μm〜45μmである。
【0040】
そして、図6に示すように、上記実施例1について、電子顕微鏡写真を撮像し、組織の状態を見た。そして、図7に示す比較例1(従来の混合粉末)の電子顕微鏡写真、と比較した。この結果から、複合体Fは、上述もしたように、金属粉末同士が加圧により接合して圧潰して細長状になって隣接する金属の境界に隙間なく接合する状態になっていることが分かる。
【0041】
そしてまた、図9に示すように、実施例1に係る複合体Fについて、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製MCT-W)により、複合体単体の圧縮強度を測定した。粒子径に対し10%変形時の強度を測定し(1)式により圧縮強度を求め10点の平均値を圧縮強度とした。
SX=2.8P/(π×d2)・・・・(1)
ここで、SX:圧縮強度、P:試験力、d:粒子径を示す。
【0042】
その結果、複合体Fの圧縮強度は、50Mp〜200Mpの範囲の強度を持つことが分かった。コールドスプレーの成膜プロセスは,粒子の衝突,変形,密着,積層という工程を経て皮膜が積層され、特に衝突の際に生じる粒子の変形挙動が成膜性に大きく影響を与えると考えられる。粒子の変形挙動と、粒子の圧縮強度は密接な関係があり、圧縮強度が小さい粒子ほど、変形し易いことは容易に予想される。図10に粉体圧縮強度と、コールドスプレーでの粒子付着効率の関係を示す。粉体圧縮強度が高いほど、付着効率が低下する傾向は明らかであり、上記範囲の強度の複合体粉末とすることで、歩留まりの高いコールドスプレー用粉末となることが分かる。
【0043】
(実施例4,実施例5)
次に、実施例1の皮膜材料Hを用いて、実施例4に係る皮膜形成部材(コールドスプレーのみ)、及び、実施例5に係る皮膜形成部材(コールドスプレー後熱処理)を作成した。皮膜形成部材の基材Kは、SUS304(幅50mm×長さ60mm×厚さ4mm)を用いた。コールドスプレー装置として、米国イノバティ社製のKinetic Metallizationシステム(KM-CDS)を用いた。この装置は、粉末供給装置、ガス調整装置、スプレーノズル、制御装置から構成されている。ボンベから供給された作動ガスは、装置内でプロセスガスと粉末を搬送するためのキャリアガスの2つの系統に分岐される。プロセスガスは、ヒーターによって加熱され急激に膨張しながら超高速のガス流となってミキシングチャンバへ流れる。一方、キャリアガスは、粉末供給装置から原料粉末を搬送する。搬送された粉末は、ミキシングチャンバ内でプロセスガスと混合され、超高速のガス流となってスプレーノズルから噴出される。このようなプロセスを経て、超高速に加速された原料粉末は、基材Kに向かって吹き付けられ皮膜が形成される。使用した装置のノズルは、音速ノズルで粉末に対して効率的に運動エネルギーを供給できるといわれている。
【0044】
上記のコールドスプレー装置を用い、図11に示す条件で、先ず、基材Kにコールドスプレーを行い、これを実施例4に係る皮膜形成部材とした。
その後、熱処理を行い、これを実施例5に係る皮膜形成部材とした。熱処理は大気雰囲気中で5℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、3時間保持した後炉冷した。
また、比較例として、Al(粒径10〜45μm)を30質量%、Ni(粒径5〜20μm)を残量として選択した混合粉末を用い、上記と同様に図11に示す条件でコールドスプレーを行い、これを比較例2に係る皮膜形成部材とした。その後、上記と同様の条件で熱処理を行い、これを比較例3に係る皮膜形成部材とした。
【0045】
(熱処理前の皮膜形成部材の比較)
そして、実施例4の皮膜形成部材と比較例2の皮膜形成部材について、熱処理前の皮膜形成部材の断面組織を電子顕微鏡により撮像し皮膜の状態を比較した。実施例4の電子顕微鏡写真を図12に、比較例2の電子顕微鏡写真を図13に示す。この結果から、実施例4の皮膜断面組織においては、微細なNiとAlが極めてよく分散しており、また皮膜組織に欠陥がなく、非常に緻密な皮膜が形成されていることが分かる。一方、比較例2の皮膜断面組織を見ると、皮膜内に欠陥は認められないが、実施例と比較し明らかに、NiとAlの組織が粗大であり、Niの偏析も確認できる。
【0046】
(熱処理後の皮膜形成部材の比較)
そして、上記と同様に、熱処理後の実施例5の皮膜断面組織を図14(b)に、比較例3の皮膜断面組織を図14(a)に示す。実施例5の皮膜断面組織においては、皮膜中に欠陥が無く、熱処理前と同様に緻密な皮膜が形成されている。一方、比較例3の皮膜断面組織を見ると、皮膜内部に多くの欠陥が確認できる。この欠陥はNiとAlが反応し金属間化合物を形成する際の、結晶構造の相違あるいは,カーケンドール効果によるものと考えられるが、実施例5の皮膜断面組織には殆ど認められないことから、熱処理前の複合組織を微細化することで、熱処理後の皮膜内に生じる欠陥を抑制できたと考えられる。
【0047】
次に、実施例5に係る皮膜形成部材と比較例3に係る皮膜形成部材について耐熱性試験を行った。図15に示すように、実施例5と比較例3の燃焼灰中における耐食性及び耐久性を評価するために、燃焼灰に皮膜形成部位を埋設し、電気炉で850℃加熱した。加熱時間は、24〜600時間まで行い、所定時間毎に表面の状態を見た。
図16及び図17に、電気炉での耐食試験及び耐久試験結果を示す。図16に示すように、実施例5のものは600時間経過しても皮膜の剥離や腐食による表面損傷等は見られない。それに対し、図17に示すように、比較例3の皮膜においては、わずか24時間の試験で、皮膜が全面剥離するものや、表面損傷が発生するサンプルもあり、耐食性に大きなばらつきが見られた。
【0048】
前述の、電気炉を使用した耐久試験の他、実際の燃焼機(ペレットストーブ)での耐久試験を実施した。図18に、燃焼機での評価部位を示す。耐久試験は、ペレットストーブのバーナー部と呼ばれペレットを燃焼させるユニットに、実施例5に係る皮膜形成部材を用い、8時間毎に着火、消火を繰り返すことによりヒートサイクルを付加し、燃焼時間が500時間に達するまで試験を行った。
図19に、500時間試験後の実施例5に係る皮膜形成部材の試験部材表面と、皮膜断面写真を示す。外観上の皮膜剥離は認められない。部材の断面観察結果から、いずれの部位においても、皮膜の損傷や剥離は発生していないことがわかる。特に歯車と呼ばれる部位は、燃焼中に発生した燃焼灰をバーナー部より排出する役割を担う部位であり、高温環境下で常に燃焼灰に接触し且つ、機械的摩擦が生じる非常に過酷な環境で使用されるが、本部位においても、皮膜剥離や損傷が見られず、良好な耐久性を示すことが確認された。
【0049】
次に、上記のペレットストーブにおいて、基材に皮膜を付与しない場合と、付与した実施例5に係る皮膜形成部材(A,B,Cの3つ)の場合における、燃焼時間毎の燃焼灰中のクロム濃度を測定した。図20に分析結果を示す。皮膜が剥離し基材が露出した場合、露出部の金属腐食が進み、基材中の金属クロムが燃焼灰に混入し、灰中のクロム濃度が増加する。皮膜を付与しない場合においては時間と共に、クロム濃度が増加しているのが分かる。一方、開発皮膜を付与した場合においては、クロム濃度が増えず、非常に低い水準を維持している。グラフでは40時間までの結果を示すが、500時間経過後のクロム濃度も同様の低水準であることも確認しており、クロム分析の結果からも、皮膜の耐久性が立証された。
【0050】
次にまた、実施例1,2及び3に係る皮膜材料Hついて、上記と同様の方法で皮膜形成部材を形成し、熱処理前の皮膜硬さと、熱処理後の皮膜硬さとを測定した。即ち、Ni−Al複合体粉末にアルミナ粉末を添加することによる、皮膜硬さの評価を行った、結果を図21に示す。皮膜の硬さは、試験表面を鏡面加工した後、マイクロビッカース硬度計(株式会社ミツトヨ:HM-221)により試験荷重0.98N、保持時間10sの条件で皮膜断面を5点測定し平均値を求めた。
熱処理前の皮膜硬さはHv200程度であり、アルミナ添加量の増加に伴い、若干ではあるが硬さの増加が認められた。熱処理後の皮膜硬さを見ると、いずれの皮膜も熱処理により硬さの増加が見られ、特にアルミナ粉末を添加した場合は、約500Hvの硬さとなり、熱処理前に比べ倍以上の皮膜硬さが得られることがわかった。熱処理による硬さの増加は、熱処理前のNiとAlの複合組成が、NiAl金属間化合物組成に変化したことによるものと考えられる。またアルミナを添加したことによる硬さの増加は、成膜時のピーニング効果と、皮膜内部に一部混入したアルミナ粒子の影響によるものと考えられる。
【0051】
また、実施例2に係る皮膜材料Hついて、上記と同様の方法で皮膜形成材料を形成し、この実施例2に係る皮膜材料H,熱処理前の皮膜及び熱処理後の皮膜についてX線回折分析を行った。結果を図22に示す。粉末のX線回折パターンには、複合体の原料粉末であるNiとAl及びアルミナのピークのみが認められ、ボールミル処理に伴う合金化や化合物化は生じていないことが分かる。当該粉末を用いて作製した皮膜の、熱処理前のX線回折パターンも同様に、NiとAl及びアルミナのピークのみが認められ、コールドスプレーでの皮膜形成プロセスにおいても、合金化や化合物化は生じていないことが分かる。また粉末のパターンと比較し、アルミナのピーク強度の低下が認められる。これは、粉末に混合したアルミナの大部分は、皮膜形成過程で脱落もしくは粉砕し、皮膜中には殆ど混入していないことを意味している。熱処理後の皮膜のX線回折パターンには、AlNi金属間化合物と若干の酸化Niのピークのみが認められ、未反応のNiやAlは存在せず、均質なAlNi組成の皮膜が形成されていることが確認された。
【0052】
尚、上記実施の形態においては、金属としてアルミニウム及びニッケル、セラミックとしてアルミナを用いた例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の金属及びセラミックに適用できることは勿論である。また、各種条件等も上述した条件に限定されない。
【符号の説明】
【0053】
H 皮膜材料
F 複合体
K 基材
1 コールドスプレー装置
2 主配管
3 ガス加熱器
4 枝配管
5 粉末供給装置
6 ミキシングチャンバ
7 スプレーノズル
Ma,Mb ボールミル
10,13 ポット
11 ボール
12 振動機
(1)皮膜形成工程
(2)熱処理工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、上記2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を含んで構成したことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項2】
上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程を備えたことを特徴とする請求項1記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
上記皮膜材料の金属の粉末の粒径を50μm未満にしたことを特徴とする請求項1または2記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
上記皮膜材料の複合体の粒径を、5〜100μmにしたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
上記皮膜材料は、上記複合体を、60質量%以上含むことを特徴とする請求項4記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
上記皮膜材料で用いる金属は、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択されることを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
上記皮膜材料で用いる金属は、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とからなることを特徴とする請求項6記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
上記皮膜材料を、セラミックの粉末を含み、該セラミックは、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択されることを特徴とする請求項1乃至7何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項9】
上記皮膜材料で用いるセラミックは、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナであることを特徴とする請求項8記載の皮膜形成方法。
【請求項10】
スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程と、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程とを備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにしたことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項11】
上記皮膜材料を、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナの粉末材料を含んで構成したことを特徴とする請求項10記載の皮膜形成方法。
【請求項12】
上記請求項1乃至11記載の皮膜形成方法によって皮膜が形成されたことを特徴とする皮膜形成部材。
【請求項13】
金属製の基材に対し、上記請求項10または11記載の皮膜形成方法によって皮膜を形成したことを特徴とする皮膜形成部材。
【請求項14】
燃焼装置の耐熱部分に用いられることを特徴とする請求項13記載の皮膜形成部材。
【請求項1】
スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程を備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、上記2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を含んで構成したことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項2】
上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程を備えたことを特徴とする請求項1記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
上記皮膜材料の金属の粉末の粒径を50μm未満にしたことを特徴とする請求項1または2記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
上記皮膜材料の複合体の粒径を、5〜100μmにしたことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
上記皮膜材料は、上記複合体を、60質量%以上含むことを特徴とする請求項4記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
上記皮膜材料で用いる金属は、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上選択されることを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
上記皮膜材料で用いる金属は、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とからなることを特徴とする請求項6記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
上記皮膜材料を、セラミックの粉末を含み、該セラミックは、酸化物系セラミック,炭化物系セラミック,窒化物系セラミックの何れかから1以上選択されることを特徴とする請求項1乃至7何れかに記載の皮膜形成方法。
【請求項9】
上記皮膜材料で用いるセラミックは、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナであることを特徴とする請求項8記載の皮膜形成方法。
【請求項10】
スプレーノズルから2種以上の金属の粉末材料を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して該基材に皮膜材料の皮膜を形成するコールドスプレーによる皮膜形成工程と、上記皮膜形成工程で皮膜材料の皮膜が形成された基材を熱処理して該皮膜を化合物化または合金化する熱処理工程とを備えた皮膜形成方法において、
上記皮膜形成工程で用いる皮膜材料を、10〜60質量%のアルミニウムと、残部にニッケル,チタン,鉄,シリコン,マグネシウムの1以上から選択される金属とを用い、該2種以上の金属の粉末材料同士を非化合物化及び非合金化の状態で密着させてなる粉末状の複合体を60質量%以上含んで構成し、該複合体の粒径を、5〜100μmにしたことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項11】
上記皮膜材料を、上記金属粉末との成分比が5〜50質量%のアルミナの粉末材料を含んで構成したことを特徴とする請求項10記載の皮膜形成方法。
【請求項12】
上記請求項1乃至11記載の皮膜形成方法によって皮膜が形成されたことを特徴とする皮膜形成部材。
【請求項13】
金属製の基材に対し、上記請求項10または11記載の皮膜形成方法によって皮膜を形成したことを特徴とする皮膜形成部材。
【請求項14】
燃焼装置の耐熱部分に用いられることを特徴とする請求項13記載の皮膜形成部材。
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図21】
【図22】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図23】
【図3】
【図10】
【図11】
【図21】
【図22】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図23】
【公開番号】特開2011−208166(P2011−208166A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73937(P2010−73937)
【出願日】平成22年3月27日(2010.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(510086800)株式会社 スペック (1)
【出願人】(000106483)サンポット株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月27日(2010.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(510086800)株式会社 スペック (1)
【出願人】(000106483)サンポット株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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