説明

目の障害および状態を治療するための組成物および方法

本発明は、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を含む組成物、および、それらの使用に関する。本発明はまた、このような組成物を用いた治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年7月1日付けで出願された米国仮出願第60/584,514号(これを、その全体を参照により本発明に含ませる)の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、脂肪酸を含む組成物を投与することによる、目の状態および障害の治療に関する。
【0003】
発明の背景
ドライアイ症候群(DES)は、米国では一般的な眼の状態であり、これは、アイケアを探すためのよくある動機である。共通した患者の病状は、眼の不快感である。加えて、DESにより、有効な視力の低下や、読むこと、コンピューターを用いること、夜間の運転、および、専門的な仕事を行うことに関する問題が生じる可能性がある。
【0004】
DESの原因と病因の決定が進んでいるにもかかわらず、現在の知見は不十分なままであり、最も一般的なDES治療は人工涙だが、これでは単に一時的で不完全な症候的な軽減しか得られない。従って、DESの新しい治療形態を探索する必要がある。
【0005】
「必須」脂肪酸として知られている所定の化合物は人体では生産されないため、食事摂取によって系に導入される。必須脂肪酸は、体が多様な脂質ベースの代謝産物を生産するのに用いられ、この代謝産物は多くの重要な機能のために体内で用いられる。
【0006】
眼表面は、正常な場合は涙の膜で覆われており、この膜は3層で構成され、その最も外側は脂質層であり、涙の膜の水層を覆っている。涙の膜の脂質層それ自身は、それぞれが相互作用する多数の極性および非極性脂質の要素で構成される。これはまた、涙の膜の他の層に存在するタンパク質およびペプチドも含む。脂質層は、涙の膜にそれらを物理的に存在させることに関する機能(例えば、蒸発を防ぐこと)、同様に、それらの生化学特性に関する機能(例えば、表面に炎症の調節に関与する分子を供給すること)を有する。脂質層における変化は、ドライアイ症候群などの多種多様な眼表面の障害に関連することがわかっている。ドライアイ症候群の大半は脂質の異常に関連するものであり、例えば、シェーグレン症候群で観察されるような、水分または涙が不足した「典型的な」ドライアイの形態が挙げられる。
【0007】
不飽和脂肪酸は、それらの炭化水素鎖の長さ、および、それらの二重結合の数と位置によって特徴付けられる。脂肪酸のうち2つの群は、ヒトの健康状態に必須とみなされおり、他の脂肪酸から合成することができないため食物から摂取しなければならない。このようなものとしては、リノール酸(LA)から誘導されたオメガ−6脂肪酸、および、アルファ−リノレン酸(ALA)から誘導されたオメガ−3脂肪酸が挙げられる。LAは、典型的な米国の食物に高レベルで含まれ、食用の植物油、牛肉および乳製品で見出されており、これは、主としてLAをアラキドン酸(AA)に変換してオメガ−3FAの有益な作用を打ち消すことによって、炎症の促進に部分的に関与すると考えられている。また、AAは、肉の源から直接消費される。AAは、シクロオキシゲナーゼ(COX−2)、および、リポキシゲナーゼ(これらはいずれも、眼表面上で活性である)によって代謝され、プロスタグランジンE2(PGE2)、および、ロイコトリエンB4(LTB4)などの多数の強力な前炎症性エイコサノイドを形成する。ガンマ−リノレン酸(GLA)は、酵素デルタ−6デサチュラーゼの作用によりLAから形成することができるその他のオメガ−6脂肪酸であり、さらにこれは、ジホモガンマ−リノレン酸(DGLA)(これもオメガ−6脂肪酸)に伸長させることができる。AAに対して、GLA、および、DGLAは、炎症性の活性を減少させると考えられている。しかしながら、数種の病気では、デルタ−6デサチュラーゼの活性が損なわれているようである。オメガ−6脂肪酸の代謝経路の観察から、GLAが増加するとAAの増加が引き起こされることが示唆されているにもかかわらず、研究によれば、このようなことが必ず起るとは限らないことが示されている。DGLA(これは、酸化酵素に関してAAと競合する)は代謝されて、既知の抗炎症性と免疫調節特性を有するエイコサノイドであるプロスタグランジンE1(PGE1)を形成するため、これは重要な観察である。実際に、経口でのGLA補給の研究によれば、PGE1生産の増加、および、PGE2やLTB4などの炎症性のエイコサノイド生産の減少が示された。また、DGLAも、Tリンパ球に直接作用することによる独立した方法で、プロスタグランジンにおける免疫反応を調節することができ、これは、ドライアイ症候群の病理において有意な役割を果たすと考えられる。
【0008】
オメガ−3脂肪酸が豊富に供給されている状況では、これらの脂肪酸もまた酵素基質としてAAと競合するため、GLAの抗炎症性作用を強化することができる。伝えられるところによると、オメガ−3脂肪酸の摂取により、膜にあるAAのレベルが減少し、それによって前炎症性エイコサノイド生産の減少が起こる。これと並行して、エイコサぺンタエン酸(EPA)から誘導されたエイコサノイドの生産が増加し、このようなエイコサノイドとしては、3系のプロスタグランジンおよびトロンボキサン(TX)、ならびに、5系のロイコトリエン(LT)が挙げられ、これらは実質的に炎症性がより低い。オメガ−3脂肪酸のEPAおよびドコサヘキサエン酸(DHA)は、ヒトが主に脂っこい魚類を消費することによって摂取されるが、ある種の種子(例えば亜麻、セイヨウアブラナ、チーア、シソおよびクロフサスグリ)、または、葉(例えばスベリヒユ)で摂取されたALAを変換することによって体内で合成されることもある。また、EPAおよびDHAも、シクロオキシゲナーゼによるAA酸素化を競合阻害し、EPAは、リポキシゲナーゼの基質として作用することができ、従って、効力のある炎症性AAから誘導されたエイコサノイドの生産をさらに減少させることができる。また、オメガ−3脂肪酸は、接着分子の発現、ならびに、前炎症性サイトカインであるインターロイキン−1ベータ(IL−1ベータ)、インターロイキン6(IL−6)13および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)の生産を減少させることも示されている。これらの分子は、ドライアイ症候群の病因に関与している。
【0009】
脂肪酸の経口摂取は、高カロリーの摂取を伴うため、胃腸の副作用のために許容されないことが多い。従って、ドライアイ症候群、および、目の炎症など(ただし、これらに限定されない)の様々な目の障害および状態を治療するための組成物および方法への必要性がある。
【0010】
発明の要約
いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む眼用組成物を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明は、個体の眼表面に、治療有効量の少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を含む組成物を接触させることを含む、個体におけるドライアイを治療する方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明は、個体の罹患した目に、治療有効量の少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を投与することを含む、付属器の炎症を治療する方法を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明は、治療有効量の少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を含む組成物を局所投与することを含む、個体における目の快適性を高める方法を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む、目に投与するための滅菌調製物を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む組成物を投与することを含む、個体の目におけるオメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率を正常化する方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明は、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を含む組成物を製造する方法を提供する。
【0017】
図面の簡単な説明
図1:特定の条件下での涙液試験である:ドライアイ用のチャンバー(「チャンバー」)単独、スコポラミン単独、および、チャンバー+スコポラミン。
【0018】
図2:角膜は、国立眼研究所(National Eye Institute;NEI)の格付けスキームに従って5房に分割し、5房それぞれを、角膜のフルオレセイン染色の程度に応じて0〜3でスコア付けした。
【0019】
図3:持続時間6日で、チャンバー単独、または、スコポラミン単独、または、チャンバーとスコポラミンとの組み合わせに曝露したマウスよりなる3つの群の、角膜のフルオレセイン染色のスコアである。
【0020】
図4:点眼剤なし、媒体、または、オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を含む2種の配合物を投与された群よりなるよりなる4群の涙液測定である。マウスを、チャンバーとスコポラミンとの組み合わせに6日連続して曝露した。48時間目に、点眼剤の点滴注入を始め、6日目まで続け、そのタイムポイントで涙の分泌を測定した。これを治療群にして、まず48時間でドライアイを誘導し、続いて配合物および媒体を試験した。
【0021】
図5:点眼剤なし、媒体または配合物1(オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を含む)を投与された群よりなる3群の角膜のフルオレセイン染色のスコアである。マウスを、チャンバーとスコポラミンとの組み合わせに6日連続して曝露した。48時間目から点眼剤の点滴注入を始め、6日目まで続け、そのタイムポイントで、角膜のフルオレセイン染色を記録した。これを治療群にして、まず48時間でドライアイを誘導し、続いて配合物および媒体を試験した。
【0022】
図6:点眼剤なし、媒体または配合物2(オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を含む)を投与された群よりなる3群の角膜のフルオレセイン染色のスコアである。マウスを、チャンバーとスコポラミンとの組み合わせに6日連続して曝露した。48時間目から点眼剤の点滴注入を始め、6日目まで続け、そのタイムポイントで、角膜のフルオレセイン染色を記録した。これを治療群にして、まず48時間でドライアイを誘導し、続いて配合物および媒体を試験した。
【0023】
図7:フルオレセインで染色された角膜の代表的な画像を示しており、オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を含む配合物で表面が正常化されていることを示す。
【0024】
図8:点眼剤なし、媒体または配合物2(オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を含む)を投与された群よりなる3群の角膜のフルオレセイン染色のスコアである。マウスを、チャンバーとスコポラミンとの組み合わせに6日連続して曝露した。0時間から点眼剤の点滴注入を始めた。6日目に、角膜のフルオレセイン染色を記録した。これを、ドライアイを誘発させるために曝露を開始した時点から配合物および媒体を試験する研究の予防群にした。
【0025】
詳細な説明
本発明は、部分的には、目の障害および状態は、必須脂肪酸(例えばオメガ-6および/またはオメガ-3脂肪酸)の欠乏または不均衡に関するという発見より得られたものである。
【0026】
本発明は、少なくとも1種の必須脂肪酸を含む眼用組成物を提供する。本組成物は、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含んでいてもよい。しかしながら、本組成物には多数の脂肪酸(例えば必須脂肪酸)が含まれていてもよい。従って、少なくとも1種のオメガ−6、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸、または、それらの組み合わせの投与は、眼表面の環境を、前炎症性の媒介物質の生産が少ない状態に移行させるのに有効な方策であると予想される。いくつかの実施形態において、本組成物は、アラキドン酸、または、リノール酸を実質的に含まない。
【0027】
本明細書で用いられる用語「眼用組成物」は、目または眼表面への投与に適した組成物を意味する。本組成物は、本明細書で説明されているようなあらゆる形態、およびそれらに等しい形態が可能である。
【0028】
本明細書で用いられる用語「約」は、修飾される数値の±5%の範囲を意味する。例えば、成句「約10」は、9.5と10.5の両方を含むと予想される。
【0029】
いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を含む眼用組成物を提供する。
【0030】
本明細書で用いられる用語「不飽和脂肪酸」は、少なくとも1個の二重結合または三重結合を含む脂肪酸を意味する。このクラスの脂肪酸は、二重結合の位置を識別するためにギリシャ文字を使用する。「アルファ」炭素は、カルボキシル基に最も近い炭素であり、「オメガ」炭素は、その鎖の最後の炭素である。例えば、リノール酸およびガンマ−リノレン酸(それぞれLAおよびGLA)は、オメガ炭素から6個目の炭素に二重結合を有するため、オメガ−6脂肪酸である。アルファ−リノレン酸は、オメガ炭素から3個目の炭素原子に二重結合を有するため、オメガ−3−脂肪酸である。本明細書で用いられる用語「オメガ−3脂肪酸」は、それらのオメガ炭素原子から3個目の炭素原子に二重結合を有する脂肪酸を意味する。例えば、オメガ−3脂肪酸としては、これらに限定されないが、アルファ−リノレン酸(ALA)が挙げられる。その他のオメガ−3脂肪酸としては、ALAの誘導体が挙げられる。ALAの「誘導体」は、例えば酵素によってアルファ−リノレン酸上で行われた化学修飾によって製造された脂肪酸、または、有機合成によって製造された脂肪酸である。ALAの誘導体であるオメガ−3脂肪酸の例としては、これらに限定されないが、エイコサぺンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが挙げられる。「オメガ−3脂肪酸」は、1種またはそれ以上のオメガ−3脂肪酸を含んでいてもよい。
【0031】
本明細書で用いられる用語「オメガ−6脂肪酸」は、それらのオメガ炭素原子から6個目の炭素原子に二重結合を有する1種またはそれ以上の脂肪酸を意味する。例えば、オメガ−6脂肪酸としては、これらに限定されないが、リノール酸(LA)が挙げられる。その他のオメガ−6脂肪酸としては、リノール酸の誘導体が挙げられる。リノール酸の「誘導体」は、リノール酸上で行われた化学修飾によって製造された脂肪酸である。リノレン酸の誘導体であるオメガ−6脂肪酸の例としては、これらに限定されないが、ガンマ−リノレン酸(GLA)、ジホモガンマ−リノレン酸(DGLA)などが挙げられる。いくつかの実施形態において、本組成物は、少なくとも1種の非炎症性のオメガ−6脂肪酸を含む。非炎症性のオメガ−6脂肪酸は、炎症を促進しない、または、炎症を引き起こさないオメガ脂肪酸である。いくつかの実施形態において、このような炎症は、目で起こるものか、または、眼表面に影響を及ぼすものである。脂肪酸が炎症を引き起こすかどうか、または、炎症を促進するかどうかは、当業界における技術のいずれかで決定することができる。脂肪酸が炎症を引き起こす、または、炎症を促進する場合、その脂肪酸は、本組成物から排除することができる。
【0032】
脂肪酸がを炎症促進する、または、炎症を引き起こすかどうかを決定するためのあらゆる方法を用いることができる。脂肪酸が炎症を促進する、または、炎症を引き起こす可能性があるかどうかを決定する方法は、所定の組織における好中球またはその他のサイトカインの浸潤の増加または減少に基づくものが可能である(例えば、Hong S等,J Biol Chem.2003年4月25日;278(17):I4677〜87;Serhan CN等,J Exp Med.2002年10月21日;196(8):1025〜37;Marcheselli VL等,J Biol Chem.2003年10月31日;278(44):43807〜17;Serhan CN等,J Immunol.2003年12月15日;171(12):6856〜65;Hamrah P等,Arch Ophthalmol.2003;121:1132〜40;または、Luo L等,Invest Ophthalmol Vis Sci.2004年12月;45(12):4293〜301を参照)。目の角膜および結膜における炎症性細胞の浸潤および活性化は、例えば、インビトロで組織切片に炎症性細胞のマーカーの免疫組織化学的染色を行い、続いて染色された組織試料を走査型レーザー共焦点顕微鏡法を用いて解析することによって評価することができる。これらのマーカーとしては、CD3(T細胞のマーカー)、GR−1(好中球のマーカー)、CD11b(単球のマーカー)、F4/80(マクロファージのマーカー)、および、炎症性細胞(MHCクラスII、CD80、CD86、CD40)活性化のマーカーが挙げられる。T細胞、好中球、単球、および、マクロファージはいずれも、炎症性細胞である。
【0033】
また、物質の目における前炎症性または抗炎症性作用は、例えば、インビトロの目の組織(角膜および結膜)における腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、および、インターロイキン−1ベータ(IL−1b)のような様々な前炎症性サイトカインのタンパク質レベル、加えて遺伝子発現を決定することによっても評価することができる。角膜および結膜における前炎症性サイトカインのタンパク質レベルは、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を行うことによって評価することができ、遺伝子発現レベルは、mRNAの単離、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、および、リアルタイムPCRによって評価することができる。炎症を引き起こす、または、炎症を促進する脂肪酸の例は、リノール酸、または、アラキドン酸である。TNF−αおよび/またはIL−1βの量が増加する場合、その物質は、前炎症性であると言われる。
【0034】
いくつかの実施形態において、オメガ−6脂肪酸はAAではない、または、本明細書で説明されている組成物は、LAまたはAAを含まない、または、実質的にLAまたはAAを実質的に含まない。
【0035】
いくつかの実施形態において、オメガ−3またはオメガ−6脂肪酸は、以下に示す構造を有する。
【0036】
【化1】

【0037】
上の構造は、オメガ−3脂肪酸の例である。下の構造は、オメガ−6脂肪酸の例である。これらの構造は単なる例証として用いられ、その他の修飾がなされていてもよい。例えば、上記脂肪酸のカルボキシル基に修飾がなされる可能性がある。
【0038】
上述したように、本組成物は、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、本組成物は、少なくとも2つのオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも2つのオメガ−3脂肪酸を含む。いくつかの実施形態において、本組成物は、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、または、少なくとも6種のオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、または、少なくとも6種のオメガ−3脂肪酸を含む。いくつかの実施形態において、本組成物は、2、3、4、5または6種のオメガ−6脂肪酸を含む。また、本組成物は、2、3、4、5または6種のオメガ−3脂肪酸を含んでいてもよい。
【0039】
本明細書で考察されているように、本明細書で開示された配合物は、眼用組成物として製造することができる。また本発明は、外科手術中の意識のある個体での洗浄または潅注溶液としても、または、昏睡状態の患者、または、筋肉または神経のダメージ、神経筋遮断、もしくは、まぶたの損失のためにまばたきできない個体のドライアイを治療するためにも有用な可能性がある。本発明に係る組成物の局所投与は、調製物、組成物の輸注、または、ポンプ−カテーテルシステム、マトリックス、または、持続放出デバイスからなる群より選択されるデバイスからの局所投与を含む。局所投与のための調製物は、数滴の液体、ゲル、軟膏およびリポソームからなる群より選択されるキャリアー媒体中の調製物の分散液を含んでいてもよい。
【0040】
本明細書で用いられる用語「持続放出デバイス」は、所定時間にわたって活性物質または組成物を運搬するデバイスである。この「持続放出デバイス」は、本組成物または活性物質を一度に全量放出するのとは対照的に、活性物質または組成物の全量より少ない量を長時間かけてを放出する。「マトリックス」は、眼の調製物または投与に適するあらゆる材料で作製することができる。
【0041】
非限定的な説明によれば、本発明に係る調製物または組成物は、液滴として、または、軟膏、ゲルまたはリポソームに含ませて、動物やヒトの目(例えば眼表面)に適用することができる。また、本組成物は界面活性剤を含んでいてもよい。さらに、本組成物は、ポンプ−カテーテルシステムで涙の膜に輸注してもよい。その他の実施形態において、本組成物は、連続的な放出デバイスまたはその他の選択的な放出デバイス(例えば膜)に含ませることができる。一般的に、化合物が涙の膜に入るようにする、または、眼表面と接触するようにする適用する方法が望ましい。いくつかの実施形態において、本組成物または調製物は、眼表面に適用することができる綿棒またはスポンジに含ませてもよい。本発明のいくつかの実施形態において、組成物または調製物は、眼表面に適用することができる液体スプレーに含ませることができる。いくつかの実施形態において、組成物または調製物は、涙腺組織に、または、眼表面上に直接注射することができる。
【0042】
外科的に埋め込まれた眼球内のデバイスまたはマトリックスは、ポリビニルアルコールまたはポリ酢酸ビニルの拡散可能な壁を有する貯蔵容器としてもよい。このような本明細書で説明されている組成物を所定量含むデバイスまたはマトリックスは、強膜に埋め込んでもよい。その他の実施例として、所定量の本組成物は、約2mm×4mmの寸法を有し、ポリマー、例えばポリカプロラクトン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ無水物、または脂質、例えばセバシン酸で製造されたポリマーマトリックスに包含されていてもよく、強膜上に、または、目の中に埋め込まれてもよい。これは通常、局所または局所麻酔剤のいずれかを受けた患者で、角膜の裏に施された小さい切り目(3〜4mm)を用いて達成される。次に、本組成物を含むマトリックスを切り目から挿入し、9−0ナイロンを用いて強膜を縫合する。
【0043】
所定時間にわたってオメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を持続放出させるために、徐放性の活性物質送達システムを眼球内に埋め込んでもよい。埋め込み可能な形態は、これまでに開示されたポリマーのいずれか(例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ無水物)、または、脂質(マイクロスフェアとしての配合物の場合)のカプセルの形態が可能である。説明に役立つ例として、活性物質(例えば、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸)をポリビニルアルコール(PVA)と混合して、次に、この混合物を乾燥させ、エチレン酢酸ビニルでコーティングし、次に、PVAと共に再度冷却してもよい。リポソームに結合した活性物質は、液滴の形態で、または、水ベースのクリームとして局所塗布してもよいし、または、眼球内に注射してもよい。局所塗布のための配合物では、摩擦と眼表面の涙のためにリポソームカプセルが崩壊するために、活性物質は長期にわたりゆっくり放出される。眼球内への注射のための配合物では、リポソームカプセルは、細胞の消化によって崩壊する。これらの配合物はいずれも、患者に一定用量の活性物質を長期にわたって提供する徐放性の活性物質送達システム利点を提供する。持続放出の配合物は、例えば、媒体、例えば、コーティングされた、または、コーティングされていないマイクロスフェア、コーティングされた、または、コーティングされていないカプセル、脂質またはポリマー成分、単層または多層の構造、および、上記の組み合わせなどの様々な配合物によって達成される。その他の変数としては、患者の薬物動態学的−薬力学的なパラメーター(例えば体重、性別、血漿クリアランス速度、肝機能など)が挙げられる。マイクロスフェア、マイクロカプセル、リポソームなどの形成および充填、ならびに、それらの眼への埋め込みは、当業者既知の標準的な技術であり、例えば、サイトメガロウイルス網膜炎を治療するためのガンシクロビル持続放出性インプラントの使用があり、これは、Vitreoretinal Surgical Techniques,Peyman等編(Martin Dunitz,ロンドン,2001,第45章);Handbook of Pharmaceutical Controlled Release Technology,Wise編(マルセル・デッカー(Marcel Dekker),ニューヨーク,2000)で開示されており、そのうちの関連する章を参照によりその全体を本発明に含める。
【0044】
本発明の眼用組成物は、選択された脂肪酸を適切なキャリアー中に分散すること、または、溶解させることによって形成してもよい。本発明の眼用組成物を作製するためには、眼科的に許容できることがわかっているあらゆるキャリアーを用いてもよい。適切なキャリアーとしては、水、食塩水、鉱油、ワセリン、C15〜20アルコール、C15〜20アミド、両性イオンで置換されたC15〜20アルコール、それらの組み合わせなどが挙げられる。選択されたキャリアーが、脂肪酸を溶解させることができない場合、界面活性剤を添加してもよい。
【0045】
脂肪酸が選択されたキャリアーに可溶性ではない実施形態において、乳濁液を形成する場合、および、いくつかの実施形態においてはマイクロエマルジョンを形成する場合、脂肪酸、キャリアーおよび界面活性剤を組み合わせることが望ましい。適切なマイクロエマルジョンは、約1ミクロン未満、約0.1ミクロン未満、または、約0.005ミクロン未満の液滴サイズを有していてもよい。
【0046】
また、本組成物は、個体の目に送達されるように脂肪酸(例えば必須および/または非必須脂肪酸)の「可溶化」を促進する界面活性剤を含んでいてもよい。
【0047】
脂肪酸は一般的に水不溶性であり、塩類の水溶液(食塩水)に入れた場合は、よりいっそう不溶性であると予想される;それゆえに、これらはオメガ−3および6脂肪酸の長鎖脂肪族の非極性基と高い適合性がある界面活性剤、および、それらの周囲の環境にこれらの水不溶性の脂肪酸をゆっくり放出すると予想される乳化系で乳化する必要がある。
【0048】
界面活性剤の使用は、そのHLB値に応じて劇的に変化する可能性がある。界面活性剤の特性としては、これらに限定されないが、表面活性であること、および、表面張力を10ダイン/cm未満に減少させること;分散された液滴の周囲に、癒合を防ぐと予想される濃縮された非接着性の膜として迅速に吸収させること;相互の反発が起こるように液滴に十分な電位を付与すること;乳濁液の粘度を高めること;および/または、適度に低い濃度で有効であること、が挙げられる。
【0049】
また、製薬上および/または眼に許容できる界面活性剤は、安定であり;その他の成分と適合性を有し;非毒性であり;悪臭、味または色がほとんどなく;および/または、活性物質の有効性の安定性に干渉しないものが可能である。
【0050】
また、油にもHLB値が割り当てられている;しかしながら、この「HLB」は、水中油型エマルジョンを安定化させているかどうかに応じて相対的である。最大の安定化を達成するために、界面活性剤は一般的に、それぞれに対応する油のHLB値と類似したHLB値を有すると予想される。鉱油は、その数平均分子量(Mn)に応じて2〜5の範囲で割り当てられたHLBを有する。従って、界面活性剤の鉱油に対するHLB値は、それぞれ約4および10.5と予想される。また、望ましいHLB値は、親油性および親水性界面活性剤を混合することによっても達成可能である。この混合物の全体的なHLB値は、個々のHLB値をその比率に掛けた値の合計として計算される。
【0051】
典型的な界面活性剤は、トゥイーン80(Tween 80)(エトキシ化されたモノオレイン酸ソルビタン)、グルカムE−20(Glucam E−20)(エトキシ化されたメチルグルコシド)、メチルグルコシドをベースとしたジオレアート、エトキシレート、例えば、これらに限定されないが、DOE120、疎水性ポリプロピレンオキシド(PPO)サブユニットが端にある親水性ポリエチレンオキシド(PEO)のコアで構成されるブロックコポリマー(逆性のプルロニック(Pluronic))、ソルビトールエステル界面活性剤(「SPAN」タイプの界面活性剤)、および、それらの組み合わせなどである。
【0052】
表1は、様々な乳濁液の例、および、脂肪酸を乳化するのに用いることができる界面活性剤の量を示す。しかしながら、これ以外の量を用いてもよい。
【0053】
【表1】

【0054】
オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸の量は、組成物の総量のパーセンテージとして示すことができる。オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸のパーセンテージは、あらゆる方法で決定することができるが、例えば、脂肪酸の重量を組成物の総重量で割ることによって決定することができる。組成物のあらゆる成分パーセンテージは、同様にして決定することができる。例えば、成分の重量を組成物の総重量で割って、その組成物中の成分のパーセンテージを得ることができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、オメガ−6およびオメガ−3脂肪酸の総量は、約0.01、約10重量%に等しい量で存在し、いくつかの実施形態において、約0.01〜約6重量%で存在し、さらにその他の実施形態において、約0.05重量%〜約5重量%で存在する。
【0056】
本発明の眼用組成物中に存在していてもよいオメガ−3脂肪酸の量は、眼用配合物中の全ての成分に基づいて、約0.01〜約10重量%で含まれ、いくつかの実施形態においては、約0.05重量%〜約5重量%で含まれる。
【0057】
本発明の眼用組成物中に存在していてもよいオメガ−6脂肪酸の量は、眼用配合物中の全ての成分に基づいて、約0〜約10重量%で含まれ、いくつかの実施形態においては、約0.01重量%〜約5重量%で含まれる。
【0058】
いくつかの実施形態において、目中のオメガ−3脂肪酸:オメガ−6脂肪酸のバランスを約1:1に戻すと予想される組成物を提供することが望ましい。これを米国や欧州のような西欧諸国の多くの人々で達成するために、オメガ−3脂肪酸が豊富な配合物を提供することが必要である。従って、この実施形態において、オメガ−3脂肪酸:オメガ−6脂肪酸の比率が、約10:約1〜約1:約1、および、約5:1〜約1:1、約4:1〜約1:1、約3:1〜約1:1、約2:1〜約1:1、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、または、約10:1である眼用組成物を提供することが望ましい。これらの比率は、各種オメガ脂肪酸の総量に基づく。
【0059】
また、本発明の眼用組成物は、少なくとも1種の界面活性剤を含んでいてもよい。本発明の眼用組成物に適した界面活性剤は、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸に類似した非極性の脂肪族末端を有する。類似の脂肪族末端を有する界面活性剤を用いると、より安定な乳濁液が生産され、乳濁液の安定性に必要な分散力との適合を促進する。また、界面活性剤と脂肪酸の「類似した」非極性末端も、より高い材料濃度での安定な乳濁液の生産を促進する。
【0060】
界面活性剤は、分子の親水性部分と親油性部分とのバランスに従って特徴付けられる。親水性/親油性バランス(「HLB」)は分子の極性の指標であり(1〜40の範囲)、最も一般的に使用される界面活性剤は、1〜20値のを有する。親水性が高くなると、HLB値は高くなる。高分子界面活性剤について、HLB値は、以下の式を用いて計算することもできる:
20(親水性単量体の重量/ポリマー界面活性剤の重量)
20(1−S/A)
S=エステルの鹸化価
A=酸の酸価。
【0061】
鹸化価は、脂肪、ワックスまたは樹脂中の遊離の酸と結合した酸の総数であり、物質1グラムの完全な鹸化に必要なKOHのミリグラム数として示される。
【0062】
酸価は、物質1グラム中の遊離酸によって中和されたKOHのミリグラム数である。
【0063】
鹸化価が得られない場合、以下の式を用いてHLBを決定してもよい。
【0064】
HLB=(E+P)/5
式中、Eは、オキシエチレンの重量%であり、
Pは、多価アルコールの重量パーセントである。
【0065】
一般的に、本発明の眼用組成物に使用するのに適した界面活性剤は、約10〜約20のHLB値を有し、いくつかの実施形態においては、約12〜約18のHLB値を有し、さらにその他の実施形態においては、約14〜約16のHLB値を有する。いくつかの実施形態において、本組成物は、組成物中の全ての成分に基づき、約0.5〜20.0重量%の界面活性剤を含む。いくつかの実施形態において、界面活性剤のパーセンテージは、約1〜約15重量%、約1〜約10重量%、約1〜約5重量%などである。
【0066】
本組成物は、界面活性剤を1種より多く含んでいてもよい。本発明の組成物は、活性物質(例えば、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸)の送達を容易にすると予想されるその他の成分を含んでいてもよい。本発明の組成物は、抗酸化剤、緩衝化剤、張度を調節する物質、キレート剤、保存剤、湿潤剤、増粘剤、それらの組み合わせなどの追加の成分をさらに含んでいてもよい。適切な例は当業者既知である。いくつかの実施形態において、本組成物は食塩水を含む。いくつかの実施形態において、本組成物は、ビタミンEを含む。いくつかの実施形態において、組成物中のビタミンEの量は、1滴(約50μL)に等しい。
【0067】
また、本組成物は、可溶化や活性物質の送達の特性を達成することによって改変されるようなその他の特性も有する。表2に、改変され得る特性のタイプの例を示す。
【0068】
【表2】

【0069】
いくつかの実施形態において、本組成物のpHは、約5〜約8、約5.5〜約7.5、約6〜約7.5、約6.5〜約7.5、約6.9〜約7.3、約6.95〜約7.2、約7.2、約6.95、約6.12、約5.54である。いくつかの実施形態において、組成物の伝導率は、約10〜約14、約10〜約12、約10〜約14、約13〜約14、約13〜約13.5、約13.5〜約14、約12〜約13、約10.5、約11、約13.5、約13.75、約14などが可能である。いくつかの実施形態において、本組成物のpHは、5〜8、5.5〜7.5、6〜7.5、6.5〜7.5、6.9〜7.3、6.95〜7.2、7.2、6.95、6.12、5.54である。いくつかの実施形態において、組成物の伝導率は、10〜14、10〜12、10〜14、13〜14、13〜13.5、13.5〜14、12〜13、10.5、11、13.5、13.75、14などが可能である。
【0070】
いくつかの実施形態において、本組成物の浸透圧モルの濃度は、約100〜約600、約150〜約500、約200〜約300である。いくつかの実施形態において、本組成物の浸透圧モルの濃度は、400〜600、400〜550、450〜525、100、200、300、400、500、150、250、300、350などである。いくつかの実施形態において、浸透圧モル濃度は、550、525、500、または、450未満である。いくつかの実施形態において、浸透圧モル濃度は、400、425、450、475、500または525より大きい。
【0071】
いくつかの実施形態において、本発明は、眼表面の炎症を減少させる有効な治療法として、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸(例えば、GLA、および、DGLA)、および、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸(例えば、ALA、EPAおよび/またはDHAなど)の組み合わせを含む組成物の局所塗布に向けられる。本明細書で考察されているように、眼表面の炎症は、例えば、ドライアイ症候群、マイボーム腺機能不全、眼瞼炎、アトピー性角結膜炎、および、多様なその他の状態で観察することができる。本発明は、治療有効量の治療用脂肪酸化合物を包含し、眼への投与に適した製薬上許容できるキャリアー媒体に分散させることができ、このような媒体としては、例えば、これらに限定されないが、ヒアルロン酸またはその他のメチルセルロースベースの媒体が挙げられる。また、制御放出性の配合物も考慮される。例えば、本発明の組成物は、生分解性の生体適合性ポリマーを用いて、または、ミセル、ゲルまたはリポソームを用いたその場での送達によって、持続放出性の配合物で投与することができる。経口的には、本発明の組成物に含まれる脂肪酸は、1日あたり数グラムまでの用量が十分に許容されるようである。本発明の組成物を局所的に使用するのに最適な用量および投与様式は、従来のプロトコールによって容易に決定できる。
【0072】
いくつかの実施形態において、オメガ−6脂肪酸化合物は、DGLAであり、オメガ−3脂肪酸化合物は、EPAおよびDHAである。いくつかの実施形態において、EPAおよびALAは、オメガ−3脂肪酸の組み合わせとして用いることができる。いくつかの実施形態において、本組成物は、GLAまたはDGLAのいずれか、または、その両方、および、EPAまたはALAのいずれか、または、その両方を含む。
【0073】
加えて、本発明は、目の状態および障害を治療する方法を包含し、本方法は、眼表面に本明細書で説明される組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、眼表面に組成物を投与することを含む、個体がコンタクトレンズを装着する可能性がある年齢を高める方法を提供する。いくつかの実施形態において、投与は、局所投与である。また、本発明の組成物を用いて、付属器の炎症(ただしこれらに限定されない)のような状態を治療することもできる。
【0074】
用語「目の状態および障害」としては、ドライアイ症候群が挙げられる。ドライアイの臨床試験に関する国立眼研究所の研究会によれば、ドライアイ症候群(DES)は、涙の不足および/または過剰な涙の蒸発により生じる涙の膜の障害と定義され、眼(目)の表面へのダメージを引き起ここし、さらに眼の不快感の症状を引き起こす。また、国立眼研究所の産業研究会は、ドライアイ症候群を本質的に2種の主要なタイプ、すなわち:涙が不足した形態(例えば、シェーグレン症候群、および、非シェーグレンの涙の不足など)、および、蒸発性の形態に分けた分類も作製した。涙の膜は、正常には、目の前部、すなわち角膜および結膜を覆う。涙の膜は、絶えず複雑な環境要因に晒されており、このような環境要因としては、涙の蒸発を刺激したり、または、妨害したりする可能性がある変化しやすい温度、空気流および湿度が挙げられる。特に、乾燥した環境にいる被検体によって頻繁に報告されているように、相当な空気流があるなかでの低い湿度の環境は、涙の蒸発速度を高める。実際には、正常な涙の分泌速度を有する人々でさえも、飛行機の中や乾燥した仕事場のような乾燥した環境に晒されるうちにドライアイの症状を経験する可能性がある。興味深いことに、シルマー試験のようなドライアイに関する眼表面の試験の結果や涙が流れる時間は、乾燥した気候で生活する被検体では減少していることが実証されている。原因に関係なく、全てのドライアイは、眼表面の乾燥や上皮のダメージ(本明細書に含まれるデータの一部として測定された評価項目である)という共通点を有することから、本発明は、このような状態、加えてドライアイの一部とみなされるその他の状態の治療を提供する。
【0075】
また、「目の状態および障害」は、これらに限定されないが、以下も意味する:乾性角結膜炎(KCS)、加齢に関連したドライアイ、スティーヴェンズ−ジョンソン症候群、シェーグレン症候群、眼類天疱瘡、眼瞼炎、角膜病変、感染、ライリー−デイ症候群、先天性の無涙症、栄養障害または失調(例えばビタミンなど)、薬理学的な副作用、目のストレス、腺および組織の破壊、環境暴露(例えばスモッグ、煙、過度に乾燥した空気、空気中に浮遊する微粒子)、自己免疫およびその他の免疫不全の障害、および、まばたきができなくされた昏睡状態の患者。また、ドライアイは、角膜および結膜病変が存在するかしないかに関わりなく、涙の質が落ちたり、または、変化したりする状態と定義することもできる。例えば、流涙低下、無涙症、眼球乾燥症および糖尿病、HIV/AIDSの患者で見出されるドライアイの状態など;白内障外科手術後のドライアイ;アレルギー性結膜炎に付随するドライアイ;および、加齢に関連したドライアイ症候群が挙げられる。またドライアイとしては、長時間の視覚表示端末(VDT)操作、空調などによる部屋の乾燥により誘導された、流涙低下の患者に見出される状態もが挙げられる。
【0076】
また本発明は、外科手術中の意識のある個体での洗浄または潅注溶液としても有用である可能性があり、または、昏睡状態の患者、または、筋肉または神経のダメージ、神経筋遮断、または、まぶたの損失のためにまばたきできない個体を維持するのに有用である可能性がある。
【0077】
また、本発明は、それらが本明細書で説明されている組成物を必要としていることが認識された個体に投与することもできる。個体がドライアイ症候群の状態に罹っているか、または、それらを有すると認識された場合、このような個体はそれらを必要とする。当業者であれば、どのようにしてドライアイ症候群の治療が必要な患者を認識するかを理解しているだろう。
【0078】
いくつかの実施形態において、本発明はまた、目の炎症を治療する方法で用いてもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、本発明は、目におけるオメガ−3のオメガ−6脂肪酸に対する比率を正常化する方法を提供する。本明細書で考察されているように、オメガ−3のオメガ−6脂肪酸に対する比率は、個体の食餌によって決定される可能性がある。ある種の個体群において、ドライアイ症候群または状態(ただしこれらに限定されない)のような有害な作用を有する可能性があるオメガ−3脂肪酸の量は減少している。従って、それらの眼表面または目に、少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸を投与することを含む方法を用いて、オメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率を正常化することができる。この比率は、例えば、これらに限定されないが、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約1:1〜約10:1、約5:1〜約10:1、または、約1:1〜約5:1に正常化することができる。
【0080】
本発明の組成物は、局所用の調製物として目に投与することができる。いくつかの実施形態において、本明細書で説明されている組成物を含む局所用の調製物は、組成物(例えばオメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を含む)と、適切な保存剤とを混合することによって製造される。また本調製物は、典型的には、当業者であれば一般的な基準を用いて選択することができる生理学的に適合する媒体も含んでいてもよい。媒体は、既知の眼用の媒体から選択することができ、このような媒体としては、これらに限定されないが、水、ポリエーテル、例えばポリエチレングリコール、ポリビニル、例えばポリビニルアルコールおよびポビドン、セルロース誘導体、例えばメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース、石油誘導体、例えば鉱油、白色ワセリン、動物性脂肪、例えばラノリン、植物性脂肪、例えば落花生油、アクリル酸ポリマー、例えばカルボキシポリメチレンゲル、多糖類、例えばデキストラン、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸ナトリウム、および、塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、媒体は、以下の組成を有する非毒性の眼用調製物である:1リットルあたり約22.0〜43.0ミリモルのカリウム;1リットルあたり約29.0〜50.0ミリモルの炭酸水素塩;1リットルあたり約130.0〜140.0ミリモルのナトリウム;および、1リットルあたり約118.0〜136.5ミリモルの塩化物。
【0081】
いくつかの実施形態において、一般的に調製物は等張であること望ましいが、上記溶液の最終的な浸透圧モル濃度または張度は、様々であってよい。いくつかの実施形態において、本調製物または組成物は、治療上望ましい場合に低張の濃度に希釈することができる。いくつかの実施形態において、本調製物または組成物はまた、治療上望ましい場合に高張の濃度に濃縮してもよい。
【0082】
組成物の「治療有効量」または「有効量」は、望ましい結果を提供するのに十分なあらゆる量である。当業者であれば、どれが治療有効量または有効量であるかを容易に決定することができる。治療有効量は、個体の病気、障害または状態の症状を予防、緩和または改善するのに有効な組成物の量を指す場合もある。
【0083】
いくつかの実施形態において、本発明に係る組成物は、眼用調製物であり得る。眼用組成物または調製物は、用いられる投与様式に従って製剤化される。一般的に、等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、および、ラクトースが挙げられる。いくつかの実施形態において、リン酸緩衝生理食塩水のような等張溶液が用いられる。安定剤としては、ゼラチン、および、アルブミンが挙げられる。いくつかの実施形態において、血管収縮剤が本配合物に添加される。本発明に係る眼用調製物は、滅菌およびパイロジェンフリーであってもよい。本発明に係る医薬(例えば眼用)組成物は、本明細書で説明されている組成物(例えば食塩水のような眼科的に許容できるキャリアーまたは媒体をさらに含む)と組み合わせて、送達のための成分を含む。本明細書で説明されている組成物の送達をうまく達成できるようなあらゆる媒体が使用可能である。当業者であれば、本発明で用いることができる多数の製薬的に(例えば眼科的に)許容できる媒体は容易にわかる。適切な眼用のキャリアーは、Remington’s Pharmaceutical Sciences,A.Osolで説明されており、これはこの分野の標準的な参考書であり、この参照により開示に含まれる。
【0084】
本発明に係る組成物および/または眼用組成物は、単回投与として、または、複数回用量で投与することができる。本発明の眼用組成物は、別個の治療剤として、または、その他の治療剤と組み合わせてのいずれかで投与することができる。本発明の治療は、従来の治療と併用してもよく、このような治療は連続的に施してもよいし、または、同時に施してもよい。
【0085】
用量は、既知の因子、例えば、特定の物質の薬力学的な特徴とその様式、および、投与経路;年齢;レシピエントの健康状態と体重;症状の性質と程度;併用する治療の種類;治療の頻度;ならびに、望ましい作用に応じて様々である。治療用組成物の配合、および、それに続くそれらの投与は、当業者の技術の範囲内である。通常、用量は、約1〜3000ミリグラム/50キログラム体重;10〜1000ミリグラム/50キログラム体重;25〜800ミリグラム/50キログラム体重が可能である。また、用量は、溶液中で活性成分(例えばオメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸)を濃縮して配合することもでき、例えば点眼剤である。
【0086】
本発明はまた、オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を含む組成物(例えば医薬組成物)の調製方法または製造方法を提供する。いくつかの実施形態において、本方法は、少なくとも1種の、または、第一の界面活性剤と、食塩水とを混合すること(例えば、撹拌すること)を含む。食塩水は、本組成物に適したあらゆる溶液が可能であり、例えば、これらに限定されないが、ホウ酸緩衝食塩水が挙げられる。いくつかの実施形態において、第二の界面活性剤と、第一の界面活性剤および食塩水を含む溶液とを接触させる(例えば、混合する)。いくつかの実施形態において、本方法は室温で行われる。いくつかの実施形態において、脂肪酸(例えば、オメガ−6および/またはオメガ−3)は、所定時間にわたって添加される。いくつかの実施形態において、上記時間は、約30分間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間である。物質(溶液または固体)が所定時間にわたって添加される場合、その時間中、脂肪酸はほぼ等量で添加される。脂肪酸は、あらゆる間隔(例えば、5分、10分、15分、20分、30分、40分、60分など)で添加することができる。
【0087】
また、最初は混合はゆっくり行われ、その後に混合装置のRPMが高くなるように、混合速度を改変することもできる。あらゆる混合装置を用いることができる。いくつかの実施形態において、混合装置は、磁気撹拌器の上部の溶液中にある磁気撹拌棒(またはパドル)である。その他の混合装置としては、撹拌軸を備えた機械的撹拌器が挙げられる。いくつかの実施形態において、混合は、5RPMで開始され、2分毎に5rpmの速度で増加させる。いくつかの実施形態において、混合工程の最大RPMは、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、200未満、150未満、100未満、50未満、25未満である。いくつかの実施形態において、混合工程のrpmは、約50〜約75、50〜75、約40〜約100、約50〜約100、50〜100、40〜100などである。いくつかの実施形態において、混合装置のrpmは、100rpmまで増加する。混合工程中に、混合を所定時間止めることができる。いくつかの実施形態において、撹拌を止める時間は、約5、約10、約15、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、30未満、30より大きい、60未満、60より大きい、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90分間などである。
【0088】
いくつかの実施形態において、ビタミンEが、第一の界面活性剤と脂肪酸とを含む溶液に添加される。
【0089】
本明細書で説明されている撹拌(例えば混合)工程は、望ましい状態になるまで上記溶液が徹底的に混合されるならばどのような時間でなされてもよい。望ましい状態または条件は、当業者によって決定することができる。いくつかの実施形態において、上記溶液が撹拌される時間は、約5分間、約10分間、約15分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、約60分間、約1〜約2時間、約1〜約3時間、約1〜約4時間、約1〜約5時間、約3〜約4時間、約2〜約4時間、約6時間、2時間より大きい、3時間より大きい、4時間より大きい、一晩(例えば約8〜約12時間)などである。
【0090】
いくつかの実施形態において、界面活性剤−食塩水を作製するために、第一の界面活性剤を食塩水に添加する。いくつかの実施形態において、2種の界面活性剤−食塩水で構成される系を作製するために、このような溶液に第二の界面活性剤を添加する。いくつかの実施形態において、少なくとも1種の脂肪酸と2種の界面活性剤−食塩水を含む溶液を作製するために、この2種の界面活性剤−食塩水に、少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を添加する。いくつかの実施形態において、この脂肪酸−界面活性剤−食塩水に、約1滴、約2滴、約3滴、約4滴、約5滴、少なくとも5滴、少なくとも10滴、少なくとも1滴、少なくとも2滴、少なくとも3滴、少なくとも4滴、少なくとも20滴、1滴、2滴、3滴、4滴、5滴、6滴、7滴、8滴、9滴、または、10滴のビタミンEを添加する。いくつかの実施形態において、脂肪酸の酸化を予防するために、その他の抗酸化剤が添加される。脂肪酸鎖の酸化を防ぎぐ、または、遅延させるように、ビタミンEの液滴の代わりに、または、ビタミンEの液滴に加えて、その他の抗酸化剤を用いることができる。
【0091】
ここで、本発明を以下の実施例を参照しながら説明する。これらの実施例は、説明ためだけに提供されたものであり、本発明は、これらの実施例に限定されると決して解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で示された教示の結果として明らかになるありとあらゆる変化形を包含すると解釈されるべきである。
【0092】
実施例
実施例1:ドライアイの動物モデル
以下に説明する制御された環境のチャンバー(CEC)において、正常な健康であるマウスを乾燥した環境に連続的に曝露することによって、ドライアイとなるように誘導した。CEC中のマウスを、実験の持続時間中、30%未満の低い相対湿度(平均および標準偏差が19%±4%)、高い空気流(15リットル/分)、および、一定温度(21〜23セルシウス度)に連続的に曝露した。標準的なケージに入れたマウスを、70%を超える相対湿度(平均およびSDが78%±5%)、空気流なし、および、同じ温度に曝露した。加えて、これらマウスを、CECに入れ、さらに、涙の分泌を薬理学的に阻害する活性物質であるスコポラミンで処理した。CECとスコポラミンの組み合わせは、重度のドライアイを引き起こす。
【0093】
持続放出性のスコポラミン経皮パッチ(スコップ(scop)パッチ)を、ノバルティス(Novartis,サミット,ニュージャージー州)から入手した。パッチの4分の1を、マウスの脱毛した尾の中間部分に48時間毎に塗布した。
【0094】
制御された環境のチャンバー
CECは、空気流および湿度の調節、ならびに、温度の制御が可能なように作製した。チャンバーは、乾燥剤を使用するために改変したケージ(ラボ・プロダクツ社(Lab Products Inc.),シーフォード,デラウェア州)で構成される。我々の改変したケージの使用に適した床領域は、725cmであった。ケージの屋根を隔離材で密封し、チャンバーを、チャンバーが置いてある部屋の湿度から独立した状態にした。屋根の穴から、CECの外側に空気を換気した。チャンバー内に、マウスが接触するいかなる危険もないように、ステンレス鋼製のバリアシステムを設置して乾燥剤を入れた。乾燥剤としては、直径114mmのカートリッジ(コール−パーマー・インスツルメンツ社(Cole−Parmer instrument Company),ヴァーノンヒルズ,イリノイ州)に充填されたシリカゲル、および、ドライアライト(Drierite)(無水CaSO;W.A.ハモンド・ドライアライト社(W.A.Hammond Drierite Co.),ジーニア,オハイオ州)が挙げられ、これらはいずれも、環境から湿気を除去するのに一般的に使用されており、ヒトおよび動物に非毒性であり、これらを用いた。CECを、送気管と温度および湿度の記録器に連結した。空気源として、チャンバーから1mはなれて設置された小型の低ノイズ(38dB)の油を必要としない直線状のポンプ(フロー全開で38リットル/分、26ワット;ガスト・マニュファクチュアリング社(Gast Manufacturing Inc.),ベントン,ミシガン州)を用いた。フローを、送気管に設置されたバルブを用いてフローメーターによって調節した(0〜50l/分、精度±5%)。空気の層流を造りだし、乱流を防ぐために、2つの向き合った壁に設置された4個のチップ(直径1mm)を介してチャンバーに空気をポンプ注入した。マウスの目の高さに相当するようにチップの高さ(片側が3.5および4.5cm、その反対側が3および4cm)を選択した。水分分離器(SMC社(SMC Corporation),東京,日本)、および、ドライアライトを含む空気乾燥カラムで構成される乾燥剤系に空気を向かわせることができるバルブによって、チャンバーにポンプ注入された空気の湿度を調節することができる。CECでは、温度(5〜45℃の範囲、精度±1℃)、および、湿度(0〜100%、精度±2%)を絶えずプローブでモニターし、温度湿度記録器(Supco,アレンウッド,ニュージャージー州)によって円形のチャートに記録した。
【0095】
ドライアイの徴候に関する眼表面試験
ドライアイの徴候は:a)水性の涙液生産(DESを有する患者では通常減少している)を測定するための木綿糸を用いた試験;および、b)角膜のフルオレセイン染色(角膜表面のダメージのマーカーであり、DESを有する患者では通常増加している)を行うことによって評価した。
【0096】
木綿糸を用いた試験
涙液生産を、フェノールレッド(ゾーン−クイック(Zone−Quick),ラクライムディクス(Lacrimedics),イーストサウンド,ワシントン州)を含浸させた木綿糸を用いた試験で測定した。マウスにおけるこの試験の有効性は、これまでに説明されている。明るくした蛍光灯下で、糸を宝石商鉗子で保持し、右目の結膜円蓋の外眼角に60秒間置いた。西ドイツ製顕微鏡(ツァイスS4(Zeiss S4),西ドイツ)下で、血球計数器の目盛りを用いて、涙の距離(mm)を読み取った。3群のマウスで涙の分泌を測定した(図1)。CEC単独で6日間処理したマウスにおいて、涙の分泌が、基準(0日目)と比較して、3日目〜6日目までに有意に減少した(図1)。第二の群のマウスを、スコップパッチ単独で6日間処理し(図1)、第三の群をCECとスコップパッチの両方で6日間処理した(図1)。第二および第三の群のマウス両方において、涙の分泌が、3日目と6日目の両方で基準と比較して著しく減少し、その作用はチャンバー単独よりも重度であり、実験の持続時間中ずっと持続させた。
【0097】
角膜のフルオレセイン染色
角膜のフルオレセイン染色を、目の状態の悪い結膜嚢に、1.0μlの5% フルオレセインをマイクロピペットで適用することによって行った。フルオレセインを点滴注入した後に、コバルトの青色光を3分間用いて細隙灯生体顕微鏡で角膜を試験した。角膜表面を分割した5つの領域それぞれに対して0〜3の標準化した国立眼研究所(NET)格付けシステムを用いて、断続的な染色をマスキングをかけた方式で記録した(図2)。
【0098】
図3で示されるように、チャンバー単独またはスコポラミン単独は、3日目と6日目の両方で、コントロールと比較して角膜のフルオレセイン染色を有意に増加させた。しかしながら、スコポラミンとチャンバーを併用した作用によって、各タイムポイントで染色が最も著しく増加した。
【0099】
このモデルにより、正常なマウスに臨床的なドライアイが再現された。
【0100】
実施例2:配合物
配合物3は、1%のEPA+DHA、および、1%のGLAを含み、配合物1は、0.1%の脂肪酸を含む。配合物2および4は、オメガ−3とオメガ−6とを4:1の比率で含む。これらの配合物を、媒体として鉱油中で構成し、さらに抗酸化剤としてビタミンEを添加した。酸化の危険をさらに減少させるために脂肪酸を暗所で保存した。表3に、これらの配合物を要約する。
【0101】
【表3】

【0102】
実施例3:活性物質の研究設計
この研究は、マスキングをかけた前向き試験である。各マウスの一方の目を任意抽出して、媒体(ネガティブコントロール)、または、本配合物の1種のいずれかを投与した。マスキングをかけた方式で活性物質を投与した。一方の目に、5μlの点眼剤を1日2回日投与した(用量間の間隔は、12時間とした)。
【0103】
環境の作用と薬理的な作用を組み合わせて(マウスをCECに置き、さらにスコポラミンパッチを6日間適用)、ドライアイを誘導した。活性物質試験に、主な群を2つ設けた。治療群:CEC+スコップパッチに48時間曝露した後に、点眼剤を点滴した。活性物質の投与を48時間から6日目まで続けた。6日目の終わりに、最後の用量の12時間後にドライアイの徴候を評価した。予防群:0日目から点眼剤を点滴し、6日目まで続けた。6日目の終わりに、最後の用量の12時間後にドライアイの徴候を評価した。
統計的分析
涙液生産にはスチューデントのt検定、および、角膜のフルオレセイン染色にはマン‐ホイットニー検定法を用いて、媒体群と本配合物群との差を比較した。群内での、一対のt検定(涙液生産)、および、ウィルコクソン検定(角膜のフルオレセイン染色)によって、基準からの変化を解析した。AH試験を両側で行い、0.05未満のp値を統計学的に有意とみなした。
【0104】
結果
涙液試験:配合物1および配合物2での処理
図4は、点眼剤なし、媒体、配合物1または配合物2を投与された群よりなる4群の、0日目、2日目および6日目での涙液測定の結果を要約する。0日目では、4群全てが正常な涙の分泌を行った。CEC+スコップパッチに曝露してから48時間後に、4群全てが、基準(0日目)と比較して涙の分泌を有意な減少させるドライアイの徴候を発症した。この時点から(48時間)、マウスをCEC+スコップに曝露し続けながら、点眼剤を12時間毎に5μl/目で投与した。6日目に、点眼剤を投与されていない群は、基準(0日目)と比較して、さらに媒体または配合物1または2を投与された群と比較して涙の分泌を有意に減少させ続けた。媒体または本配合物のいずれかを投与された群は、48時間(活性物質投与の前のドライアイ)と比較して涙の分泌を増加させたが、涙の量は、基準(0日目)の量には到達しなかった。従って、涙液試験(第二の評価項目)では、配合物1と2はいずれも、ドライアイで減少した涙液生産を元に戻すことにおいて有効であった。
【0105】
角膜のフルオレセイン染色:配合物1および2での処理
図5および6に、点眼剤なし、媒体、配合物1または配合物2を投与された目の角膜のフルオレセインスコアの結果を要約する。0日目(基準)には、全ての群は同様であった。CEC+スコップパッチに曝露して48時間後に、全ての群で、基準(0日目)と比較して角膜のフルオレセイン染色の増加が起こった。48時間から点眼剤の点滴注入を始め、全ての群のマウスをCEC+スコップパッチに連続的に曝露し続けながら、6日目まで続けた。
【0106】
4日目と6日目の両方で、媒体は、角膜のフルオレセイン染色において、点眼剤なしの群と比較して、さらに2日目と比較して有意な減少を示さなかった(図5および6)。4日目と6日目で、媒体群における角膜のフルオレセイン染色は、基準(0日目)より有意に高い状態を維持した。
【0107】
配合物1は、4日目と6日目の両方で、角膜のフルオレセイン染色において、2日目と比較して、さらに媒体を投与された群または点眼剤なしの群と比較して有意な減少を示した(図5)。その上、配合物1を投与された目の角膜のフルオレセイン染色のスコアは、6日目までに基準(正常な値)に戻った。
【0108】
配合物2を投与された目(図6)は、4日目で、角膜のフルオレセイン染色において、4日目の媒体および点眼剤なしの目と比較して有意な減少を示した。群内でも2日目(48時間)と比較して有意な減少がみられた。6日目に、フルオレセイン染色のスコアはわずかに増加したが、配合物2はそれでもなお、媒体と比較して染色スコアの減少を示した(ただし統計学的に有意ではない)。4日目と6日目の両方で、配合物2群は、点眼剤なしの目と比較して有意に低い染色スコアを有していた。
【0109】
図7は、フルオレセインで染色された角膜の代表的な画像を示しており、配合物1および2で角膜表面が正常化されていることを示す。
【0110】
配合物1と2はいずれも、角膜上皮の病気(染色によって測定されたような)の抑制において、重要で、有意かつ持続的な作用を有していた。ドライアイの治療におけるこの抑制作用は、媒体単独の適用によって生じた作用よりも顕著な効力を有していた。
【0111】
角膜のフルオレセイン染色:配合物2を用いた予防
図8に、点眼剤なし、媒体または配合物1を投与された目の角膜のフルオレセインスコアの結果を要約する。予防群では、0日目から点眼剤の点滴注入を始め、6日目まで続けた。この期間中ずっと全てのマウスをCEC+スコップパッチに曝露した。6日目に、媒体群は、フルオレセイン染色のスコアにおいて、点眼剤なしの群と比較してかろうじて有意な減少を示した。6日目に、配合物2は、染色スコアにおいて、媒体群と点眼剤なしの群の両方と比較して有意な減少を示した。
【0112】
従って、配合物1および2は、ドライアイの徴候を減少させることが示された。角膜の染色の一次的な結果に関して、配合物1および2は、媒体の適用と比較して、治療効果を実証した。
【0113】
実施例4:配合物の製造
典型的な乳濁液において、可溶化物質であるグルカムE−20を、ホウ酸緩衝食塩水(各成分の重量%:NaClは0.83;HBOは0.89;Na・10HOは0.23;EDTAは0.01;HOは98.04)に添加した。この溶液が均一になった後、室温で少なくとも30分間撹拌した。撹拌を開始し、100rpmに達するまで各2分の間隔で5rpmずつ撹拌を速めた。混合中に高速の剪断撹拌が得られるように、撹拌ブレードはパドルとした。溶液を100rpmで少なくとも30分間撹拌した後に、透明な溶液が得られた
この透明な溶液を撹拌しないで10分間静置し、この時点でトゥイーン80を添加した。最初は、この材料は不溶性のように見え、撹拌軸の周辺に巻きついていたが、全てのトゥイーンを添加した後、撹拌を再開し、室温でグルカム−Eに用いられたのと同じ撹拌法を用いてトゥイーン80を溶解させた。
【0114】
この溶液を50〜75rpmで撹拌しながら、脂肪酸を1時間かけてゆっくり添加し、この期間の後、この溶液は乳状の外観を有していた。この期間の終わりに、脂肪酸を50〜75rpmで撹拌しながら1時間かけて添加した。この時点で、より高濃度の脂肪酸が用いられた場合は、この溶液は白色の外観を有していた。低濃度の溶液からマイクロエマルジョンが生産され、これは半透明の外観を有していた。この期間の後、この溶液を撹拌し、1滴のビタミンEを添加し、この溶液を得られた剪断速度(例えば75rpm)で3〜4時間撹拌し続けた。
【0115】
本明細書で引用された特許、特許出願および出版物の開示はそれぞれ、参照によりそれらの全体が本発明に含まれる。
【0116】
特定の実施形態を参照しながら本発明を開示したが、本発明の真の本質と範囲から逸脱することなく、本発明のその他の実施形態や変化形が、当業界における技術を有する他者によって考案することができることは明らかである。添付の請求項は、このような実施形態とそれと等価な変化形全てを含むものと解釈されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】特定の条件下での涙液試験である。
【図2】角膜のフルオレセイン染色の程度に応じて0〜3でスコア付けしたものである。
【図3】角膜のフルオレセイン染色のスコアである。
【図4】涙液測定である。
【図5】角膜のフルオレセイン染色のスコアである。
【図6】角膜のフルオレセイン染色のスコアである。
【図7】フルオレセインで染色された角膜の代表的な画像である。
【図8】角膜のフルオレセイン染色のスコアである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸と少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸とを含む眼用組成物。
【請求項2】
前記オメガ−6脂肪酸は、非炎症促進性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、リノール酸および/またはアラキドン酸を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、界面活性剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤は、約1〜約15重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤は、約1〜約10重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤は、エトキシ化されたモノオレイン酸ソルビタン、エトキシ化されたメチルグルコシド、DOE120、逆性のプルロニック界面活性剤、SPAN界面活性剤、または、それらの混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、眼への投与に適している、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、点眼剤を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記オメガ−6脂肪酸化合物は、非炎症性のリノール酸誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記オメガ−3脂肪酸化合物は、アルファ−リノレン酸、または、それらの誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記オメガ−6脂肪酸化合物は、ガンマ−リノレン酸、ジホモガンマ−リノレン酸、または、その両方である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記オメガ−3脂肪酸化合物は、エイコサぺンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、または、その両方である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物は、局所投与用に配合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物は、注射用組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、持続放出デバイスを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記オメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率は、約10:1〜約1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記オメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率は、約5:1〜約1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記オメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率は、約5:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記オメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率は、約1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
個体の眼表面に、治療有効量の請求項1に記載の組成物を含む組成物を接触させることを含む、個体のドライアイを治療する方法。
【請求項22】
前記オメガ−3脂肪酸は、エイコサぺンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、または、それらの組み合わせである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記オメガ−6脂肪酸は、ガンマ−リノレン酸、ジホモガンマ−リノレン酸、または、それらの組み合わせである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物は、点眼剤を含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
個体の罹患した目に、治療有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、付属器の炎症を治療する方法。
【請求項26】
前記個体は、前記治療が必要であることが認識されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記オメガ−3脂肪酸は、エイコサぺンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、または、その両方である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記オメガ−6脂肪酸は、ガンマ−リノレン酸、ジホモガンマ−リノレン酸、または、その両方である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物は、点眼剤を含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
請求項1に記載の組成物の治療有効量を含む組成物を局所投与することを含む、個体において目の快適性を高める方法。
【請求項31】
前記組成物は、点眼剤として投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸と少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸とを含む、目に投与するための滅菌調製物。
【請求項33】
前記調製物は、リノール酸および/またはアラキドン酸を実質的に含まない、請求項32に記載の滅菌調製物。
【請求項34】
前記オメガ−3脂肪酸は、エイコサぺンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、または、その両方を含む、請求項32に記載の滅菌調製物。
【請求項35】
前記オメガ−6脂肪酸は、ガンマ−リノレン酸、ジホモガンマ−リノレン酸、または、その両方を含む、請求項32に記載の滅菌調製物。
【請求項36】
前記投与は、局所投与である、請求項32に記載の滅菌調製物。
【請求項37】
請求項1に記載の組成物を投与することを含む、個体の目におけるオメガ−3脂肪酸のオメガ−6脂肪酸に対する比率を正常化する方法。
【請求項38】
前記正常化した比率は、約1:1〜約10:1である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
オメガ−6および/またはオメガ−3脂肪酸を含む組成物を製造する方法であって、
a)第一の界面活性剤と食塩水とを混合すること;
b)少なくとも1種のオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸と、工程a)の溶液とを接触させること、
を含む、上記方法。
【請求項40】
前記混合することおよび/または前記接触させることは、室温でなされる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくともオメガ−6脂肪酸および/または少なくとも1種のオメガ−3脂肪酸を、工程a)の溶液と1時間にわたり接触させる、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
工程c)の前に、前記第二の界面活性剤と工程a)の溶液とを混合する、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記第一の界面活性剤は、エトキシ化されたメチルグルコシド、エトキシ化されたモノオレイン酸ソルビタン、DOE120、逆性のプルロニック界面活性剤、SPAN界面活性剤、または、それらの混合物である、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記第二の界面活性剤は、エトキシ化されたメチルグルコシド、エトキシ化されたモノオレイン酸ソルビタン、DOE120、逆性のプルロニック界面活性剤、SPAN界面活性剤、または、それらの混合物である、請求項42に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−505177(P2008−505177A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520365(P2007−520365)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/023113
【国際公開番号】WO2006/007510
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(507004912)ザ・シェペンズ・アイ・リサーチ・インスティテュート・インコーポレーテッド (1)
【出願人】(507004923)ジョンソン・アンド・ジョンソン・ヴィジョン・ケア・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】