説明

目標観測装置

【目的】本発明は、目標に照射された送信波が反射して生じた反射波を解析することによって、その目標の距離や散乱特性を観測する目標観測装置に関し、目標との相対的な距離および速度の如何にかかわらず、構成が複雑化することなく、その距離や目標の散乱特性を観測できることを目的とする。
【解決手段】目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、前記反射波の遅延プロファイル上に前記遅れの識別が可能な電力の成分が分布する期間を最小化する自動制御の下で、前記送信波のレベルを制限する送信制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標に照射された送信波が反射して生じた反射波を解析することによって、その目標の距離や散乱特性を観測する目標観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、地表や海面のように面的に分布する目標の種類や距離を観測するために様々な分野で用いられている。このようなレーダ装置の内、例えば、FM−CW方式のレーダ装置は、目標の位置が変化し得る範囲が既知である場合にレンジ幅を無用に大きく設定することなく、効率的に測距や測位を反復できるために、航空用の電波高度計や船舶用の接岸速度計等に採用されている。
【0003】
図8は、FM−CW方式が適用されたレーダ装置の構成例を示す図である。
図において、発振器31の出力は方向性結合器32の入力に接続され、その方向性結合器32の一方の出力は電力制御器33を介して送信アンテナ34Tの給電点に接続される。方向性結合器32の他方の出力は周波数変換器35の局発入力に接続され、その周波数変換器35の入力には受信アンテナ34Rの給電点が接続される。周波数変換器35の出力は中間周波増幅器36を介してディスクリミネータ37、検波器38およびレベル判定器39の入力に接続され、その検波器38の出力は電力制御器33の第一の制御入力に接続される。レベル判定器39の出力には警報信号が出力され、かつディスクリミネータ37の出力は、積分器40を介して鋸波発生器41の入力に接続される。鋸波発生器41の一方の出力は発振器31の変調入力に接続され、その鋸波発生器41の他方の出力はプロセッサ42の対応する入力ポートに接続される。プロセッサ42の第一の出力ポートは電力制御器33の第二の制御入力に接続され、そのプロセッサ42の第二の出力ポートには、高度データが出力される。
【0004】
このような構成のレーダ装置では、発振器31は、鋸波発生器41によって生成された鋸波の瞬時値に応じて周波数が直線的に変化する無線周波信号を生成する。その無線周波信号は、方向性結合器32を介して電力制御器33に引き渡され、この電力制御器33によって設定されるレベルの送信波として送信アンテナ34Tから地表に向けて放射される。さらに、このような送信波は、地表で反射し、受信アンテナ34Rに受信波として到来する。
【0005】
周波数変換器35は、受信アンテナ34Rに到来した受信波を取り込み、発振器31から方向性結合器32を介して与えられる無線周波信号(既述の送信波に相当する。)に基づいてこの受信波を周波数変換することにより、周波数が送信波と受信波とのビート周波数fbに等しい中間周波信号を生成する。ディスクリミネータ37は、中間周波増幅器36を介して与えられる中間周波信号の周波数を弁別することにより、地表に対する送信アンテナ34T(受信アンテナ34R)の高度に比例した瞬時値の復調信号を生成する。この復調信号は、積分器40によって瞬時値が平滑(積分)されつつ鋸波発生器41に帰還される。鋸波発生器41は、このようにして帰還される復調信号の瞬時値の平均値に応じて既述の鋸波の周期を可変することにより、その鋸波の瞬時値の先頭値を上記中間周波信号の周波数fbに比例した値に維持し、かつ上記高度の変化に対する応答の高速性や測定精度を確保する。
【0006】
プロセッサ42は、上記鋸波の瞬時値の先頭値を既述の高度に換算して電力制御器33に引き渡し、その高度を示す高度データを出力する。
一方、レベル判定器39は、中間周波増幅器36によって与えられる中間周波信号のレベルが規定の下限値を下回るか否かの判定を行い、その判定の結果を示す警報信号を出力する。
【0007】
また、検波器38は、上記中間周波信号を平滑することによりその中間周波信号のレベルの平均値を求め、その平均値を電力制御器33に引き渡す。
電力制御器33は、このような平均値と、既述の通りにプロセッサ42によって引き渡された高度との双方に適した値に、送信アンテナ34Tから放射される送信波のレベルを維持する。
【0008】
したがって、上述したレーダ装置によれば、広範な高度で飛行する航空機において、地表に対する高度の計測が実現される。
【0009】
なお、本発明に関連した先行技術としては、以下に列記する発明がある。
(1) 「受信される反射信号の受信電力レベルを一定に保つように送信電力をフィードバック制御することにより、秘匿性の向上を図る」点に特徴がある電波高度計…特許文献1
(2) 「地表からの反射波の強度のゆらぎの分散が地表面の性質により異なることを利用して該地表面の種類を識別する」点に特徴がある地表識別装置…特許文献2
【0010】
(3) 「所定数のサンプリング値から高度のフラクタル次元、及び散乱係数のフラクタル次元の値がそれぞれ算出され、これらのフラクタル次元の値に基づいて、田、森、或いは市街地等の地表面の種類を識別する」点に特徴がある地表識別装置…特許文献3
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−333133号公報
【特許文献2】特許第3493074号公報
【特許文献3】特許第3542083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来例では、搭載された航空機の対地速度が広範に変化し、あるいは計測対象となる地表の地形が著しく急峻である場合には、受信波のレベルが急激に大きく増減し(図9(1))、そのレベルの増加に応じて送信波のレベルを下げる処理(図9(2))は、既述の積分器40、鋸波発生器41およびプロセッサ42の応答、あるいは検波器38の応答に併せて、電力制御器33の応答に所要する時間に亘って遅れ(図9(3))、結果として受信波のレベルが下がってしまい(図9(4))測距が不可能となってしまう。
【0013】
しかし、このような処理の下で送信電力が低くなった時点で高度が元の小さな値に復帰した場合には、送信波のレベルは、その高度の計測の実現のために確保されるべき値(図9(5))より大幅に下回る(図9(6))可能性があった。
また、FM−CW方式が適用された従来のレーダ装置では、地表までの高度は測定できても、その地表の識別は、例えば、比較的高価であって複雑な構成が適用されなければ、実現できなかった。
【0014】
したがって、従来例では、地表の種類に応じた送信波のレベルの柔軟な可変は、コスト、重量、体積等の制約により阻まれ、実現が難しかった。
【0015】
本発明は、目標との相対的な距離および速度の如何にかかわらず、構成が複雑化することなく、その距離や目標の散乱特性を観測できる目標観測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明では、測距手段は、面状に分布する目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。送信制御手段は、前記反射波の遅延プロファイル上に前記遅れの識別が可能な電力の成分が分布する期間を最小化する自動制御の下で、前記送信波のレベルを制限する。
すなわち、送信波のレベルは、その送信波の反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する範囲が狭いほど小さな値に抑えられる。
【0017】
請求項2に記載の発明では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
すなわち、送信波のレベルの制限は、「反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する期間の長さ」ではなく、その期間またはこの期間の長さに基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
【0018】
請求項3に記載の発明では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
すなわち、送信波のレベルの制限は、送信波および反射波の伝搬路における伝搬損失が加味されて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
すなわち、送信波のレベルの制限は、その送信波の反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する範囲と、この範囲の幅との双方に基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
【0021】
請求項6に記載の発明では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
【0022】
請求項7に記載の発明では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、送信波のレベルは、上記目標の相対距離が多様に変化しても、その相対距離の測定が可能である範囲で、なるべく小さな値に維持される。また、目標に対して送信波が放射される密度が過大となることが回避されるため、消費電力およびランニングコストの節減が図られ、しかも、目標およびその目標の周辺に位置する電子機器に対する干渉や妨害の程度が軽減される。
【0024】
本発明では、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に柔軟に適応して送信波のレベルの制限が実現される。
本発明では、目標の相対距離が広範に変化し得る場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
【0025】
本発明では、目標の相対距離が広範に変化し、あるいはその目標の表面の起伏が多様に異なる可能性がある場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
本発明では、その目標の表面における起伏や気象状態が多様に異なる可能性がある場合であっても、送信波のレベルの制限が実現される。
【0026】
本発明では、目標の起伏や気象状態が多様に異なる可能性がある場合であっても、送信波のレベルの制限が実現される。
本発明では、上記伝搬路における実体的な気象状態の変化に対して柔軟に適応した送信波のレベルの制限が実現される。
【0027】
本発明では、このような照射密度が一定である場合に比べて、送信波のレベルが小さな値に制限され、消費電力およびランニングコストの削減がさらに図られると共に、目標およびその周辺に設置されている電子機器に対する干渉や妨害の軽減がより確度高く実現される。
本発明では、構成および仕様の柔軟性が高められ、かつハードウェアの構成が簡略化される。
【0028】
本発明では、送信波の放射点や照射方向が一定であり、あるいは変更できない場合であっても、目標における送信波の散乱の程度が識別され、その散乱の程度に基づいて目標の種類および反射体としての特性を識別することが可能となる。
本発明では、本発明は、このような遅延プロファイルを得るために特別なハードウェエやソフトウェアが付加されることなく、FM−CW方式の装置に柔軟に適用可能である。
【0029】
本発明では、本発明は、ハードウェアやソフトウェアの構成が複雑化することなく、FM−CW方式の機器における送信波のレベルの制限を実現することができる。
本発明では、目標における散乱の程度が精度よく安定に評価され、その散乱の程度に基づく送信電力制御その他の処理の精度および安定性に併せて、信頼性が高められる。
【0030】
したがって、本発明は、構成が複雑化することなく、目標との相対的な距離や速度の如何にかかわらず、その距離に併せて、目標の散乱特性、種類、状況の特定や推定が精度よく達成され、多様な用途への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
【図2】本発明において目標の種類や散乱係数が識別される原理を説明する図である。
【図3】レベル判定器の濾波特性を示す図である。
【図4】第一の実施形態によって実現される送信電力制御を説明する図である。
【図5】第二の実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
【図6】第二の実施形態において参照されるテーブルの構成を示す図である。
【0032】
【図7】第一および第二の実施形態の他の構成を示す図である。
【図8】FM−CW方式が適用されたレーダ装置の構成例を示す図である。
【図9】従来例の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
図において、図8に示すものと同じ要素については、同じ符号を付与し、ここではその説明を省略する。
【0034】
本実施形態と図8に示す従来例との構成の相違点は、以下の点にある。
(1) 中間周波増幅器36の出力に縦続接続されたレベル検出器11が備えられる。
(2) プロセッサ42に代えてプロセッサ12が備えられる。
(3) レベル検出器11の出力がそのプロセッサ12の対応する入力ポートに接続される。
【0035】
〔第一の実施形態〕
以下、図1を参照して本発明の第一の実施形態の動作を説明する。
本実施形態の特徴は、送信アンテナ34Tから放射される送信波のレベルを可変する「送信電力制御」が後述する通りにレベル検出器11とプロセッサ12との連係の下で行われる点にある。
【0036】
まず、本実施形態において「送信電力制御」の基準となる受信波の周波数スペクトラムについて説明する。
送信アンテナ34Tおよび受信アンテナ34Rの主ローブは、一般に、海面、湖面、地表等の方向にファン状に形成される。
【0037】
したがって、受信アンテナ34Rに到来する受信波に応じて周波数変換器35が生成する中間周波信号のスペクトラムは、以下の通りに、その受信波が発生する地理的な領域の状況に応じて異なり、かつ上述した海面、湖面、地表等の内、送信波が照射された領域の各部から到来する受信波の「遅延プロファイル」を意味する。
【0038】
(1) 海面や湖面のように比較的平坦な領域で送信波が反射することによって受信波が発生した場合には、その領域における送信波の反射の過程におけるその送信波の散乱が少ないため、図2(a)に示すように、狭帯域に集中して分布する。
【0039】
(2) しかし、例えば、地表のように、多様な地形や地物に起因して散乱が生じやすい領域で送信波が反射する場合には、図2(b)に示すように、広い帯域に分布する。しかも、このようなスペクトラムが分布する帯域は、該当する領域に雨水が滞留し、またはその領域にアスファイル等による舗装が施され、あるいは雪が積もっている等の状況に応じて散乱の程度が異なるために、例えば、図2(c)に実線、破線、点線でそれぞれ示すように異なる。
【0040】
レベル検出器11は、図3に示すように、異なる通過域b1〜bnをそれぞれ有する複数nのバンドパスフィルタを有する。これらの通過域は、同図に示すように、周波数変換器35から中間周波増幅器36を介して与えられる中間周波信号の周波数スペクトラムが分布し得る帯域内に設定される。レベル検出器11は、このような複数nのバンドパスフィルタを個別に通過した信号の電力値P1〜Pnの組み合わせをプロセッサ12に引き渡す。
【0041】
プロセッサ12は、これらの複数nの電力値P1〜Pnに個別に対応し、かつ既述の高度データを所望の精度で求めるために確保されるべき最小の電力を示す閾値TH1〜THnが予め与えられる。
これらの閾値TH1〜THnは、既述の高度データを求めるために与えられるべき最小のレベルの中間周波信号の周波数成分(主要な周波数成分のみであってもよい。)の組み合わせとして予め算出される。
【0042】
プロセッサ12は、上述した電力値P1〜Pnの組み合わせが与えられると、「これらの電力値P1〜Pnの閾値TH1〜THnに対する偏差」の総和が最小となるために送信波のレベルが増減されるべき値(以下、「補正電力値」という。)を求める。
電力制御器33は、送信アンテナ34Tから放射される送信波のレベルをこの補正電力値に亘って可変する。
【0043】
すなわち、送信アンテナ34Tから放射される送信波のレベルは、既述の「遅延プロファイル」の時間軸上における分散が小さいほど小さく抑えられる。
したがって、本実施形態によれば、図8に示す従来例に比べて構成が大幅に複雑化することなく、送信アンテナ34Tから放射される送信波のレベルは、図4に太い実線で示すように、何れの高度においてもその高度の計測が安定に行われる最小の値に維持される。
【0044】
また、既述の海面、湖面、地表等に照射される送信波の密度が過大となることが回避されるため、これらの地点だけではなく、これらの地点の周辺に位置する地域に設置されている電子機器に対する干渉や妨害の程度が軽減される。さらに、本実施形態が適用されたレーダ装置では、消費電力およびランニングコストが大幅に節減される。
【0045】
〔第二の実施形態〕
図5は、第二の実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
以下、図1および図5を参照して本発明の第二の実施形態の動作を説明する。
本実施形態の特徴は、プロセッサ12によって行われる以下の処理の手順にある。
プロセッサ12の主記憶の所定の記憶領域には、図6に示すように、以下の項目の組み合わせからなるレコードの列が予め登録されたテーブル12Tが配置される。
【0046】
(a) 目標において送信波が反射する際に生じる減衰の程度を示す減衰量の値域LR
(b) 既述の中間周波信号の周波数スペクトラムが分布する帯域BR(または、その帯域の幅の値域WR)
【0047】
(c) これらの値域LRおよび帯域BR(値域WR)の組み合わせが成立する可能性が高い目標の種類(例えば、水面、アスファイルで舗装された路面、芝生、平野部、山岳部等)
(d) その目標の散乱係数の公称値
【0048】
なお、上記周波数スペクトラムが分布する帯域およびその帯域の幅は、一般に、目標の散乱係数に基づいて定まり、これらの帯域、幅および散乱係数の組み合わせについては、例えば、所望の目標の種類毎に、実験や実測の結果に基づいて得られた値が統計的に処理されることによって、予め得られる。
また、上記値域LR、帯域BR(値域WR)については、何れも、上限値と下限値とで挟まれた1つの範囲でなくてもよく、例えば、複数の異なる値域の組み合わせとして与えられ、あるいは他のパラメータとの相関性の下で定義されてもよい。
【0049】
プロセッサ12は、レベル検出器11によって既述の電力値P1〜Pnの組み合わせが引き渡される度に以下の処理を行う。
(1) 電力値P1〜Pnの総和として受信波のレベルLrを評価する(図5ステップS1)。
【0050】
(2) 電力制御器33から送信アンテナ34Tを介して放射されている送信波のレベルLtを把握し(図5ステップS2)、かつ先に求められている最新の高度に基づいて、送信アンテナ34Tから目標を介して受信アンテナ34Rに至る伝搬路の伝搬損失δを算出する(図5ステップS3)。なお、このような伝搬損失δの算出には、送信アンテナ34Tおよび受信アンテナ34Rの利得と、送信アンテナ34Tおよび受信アンテナ34Rと目標とで挟まれた空間における気象条件が併せて加味される。
【0051】
(3) 下式に示す算術演算を行うことによって、上記受信波が発生した目標における減衰量Lを評価する(図5ステップS4)。
L=Lt−Lr−δ
【0052】
(4) これらの電力値P1〜Pnが所定の下限値以上である帯域(既述の遅延プロファイルが分布する時間軸上の区間を意味する。)Bと、その帯域の幅(同様の遅延プロファイルが分布する時間軸上の区間の幅を意味する。)Wとを既述の通過域b1〜bnの単位に識別する(図5ステップS5)。
(5) 上記減衰量L、帯域B、幅Wの組み合わせの履歴(新しいものほど大きく重み付けされて反映される。)をとる(図5ステップS6)。
【0053】
(6) 上記テーブル12Tに登録されたレコードの内、このような履歴として得られた減衰量L、帯域B、幅Wの組み合わせの分布と相関性が最も高いレコードに登録されている「目標の種類」および「散乱係数の公称値」として、この時点における目標の種類とこの目標の表面における散乱係数とを推定する(図5ステップS7)。
(7) このようにして推定された散乱係数が小さいほど大きな比率を算定し、電力制御器33に対して、その比率に基づく送信波の送信電力の低減を指令する(図5ステップS8)。
【0054】
すなわち、既述の第一の実施形態に比べて構成が大きくことならないにもかかわらず、目標の表面における実体的な散乱係数が精度よく推定され、その散乱係数が小さいほど送信波のレベルが小さな値に制限される。
したがって、本実施形態によれば、送信波の送信電力制御が既述の第一の実施形態より精度よく、かつ安定に達成される。
【0055】
なお、本実施形態では、目標の種類や散乱係数は、その目標に対する高度の計測に用いられる送信波の送信電力が必要以上に大きくなることを回避する送信電力制御のために、参照されている。
しかし、本発明は、このような高度の計測を行うことなく所望の目標の種類や散乱係数を推定することによって、例えば、高速道路や一般道路における雨水の滞留、凍結、積雪等の道路情報を取得する目標観測装置にも適用可能である。
【0056】
また、このような道路情報の精度は、本発明に係る目標観測装置の地理的な位置を特定する測位系との連係により高められてもよい。
【0057】
さらに、送信電力制御は、節電、ランニングコストの節減、送信波のレベルが大きいことに起因する電磁波妨害の軽減や回避が不要である場合には、行われなくてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、目標の種類および散乱係数の推定は、既述の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間やその幅によってその推定の精度が主として左右される場合には、上記減衰量の値域LRと減衰量Lとの相関性が考慮されることなく行われてもよい。
【0059】
さらに、本実施形態では、目標の種類や散乱係数の推定は、所望の精度で実現されるならば、上記帯域Bと値域BRとの相関性と、幅Wと値域WRとの相関性との何れか一方が考慮されることなく行われてもよい。
【0060】
また、上述した各実施形態では、中間周波信号の周波数スペクトラムは、FFT(Fast
Fourier Transform)やDFT(Discrete Fourier Transform)等のディジタル処理の下で求められてもよい。
【0061】
さらに、上述した各実施形態は、図7に示すように、図1に示すレベル検出器11、レベル判定器39、ディスクリミネータ37、積分器40によって行われる処理の全てをディジタル信号処理として行い、かつプロセッサ12によって行われる既述の処理を併せて行うディジタルシグナルプロセッサ20が備えられることによって構成されてもよい。
【0062】
また、上述した各実施形態では、送信波の生成および放射を実現する送信系が備えられているが、このような送信系は、送信電力制御が行われるべき場合であっても、その送信波のレベルの指定や更新に所望の速度で応答可能であるならば、別体の装置として構成され、このような装置との連係はどのような通信路や伝送路を介して行われてもよい。
【0063】
さらに、上述した各実施形態では、送信波は、FM−CW方式のレーダ信号として生成されている。
しかし、本発明は、このようなFM−CW方式に限定されず、例えば、直接拡散方式に基づいて送信波が生成される場合にも、同様に適用可能である。
【0064】
また、このような直接拡散方式に基づいて送信波が生成される場合には、既述の周波数スペクトラムの分布は、その直接拡散に用いられた拡散符号との相関性の下で外部から到来する妨害による影響が確度高く排除された遅延プロファイルとして精度よく得ることができる。
【0065】
さらに、本発明は、既述のFM−CW方式が適用された電波高度計だけではなく、例えば、「接岸速度計」にも同様に適用可能である。
また、上述した各実施形態では、既述の送信電力制御は、送信波のレベルが必要以上に大きくならず、かつ目標に対する高度の計測が安定に行われるように行われている。
【0066】
しかし、このような送信電力制御は、例えば、送信電力の増減に並行して、プロセッサ12の配下で送信アンテナ34Tと受信アンテナ34Rとの双方または何れか一方の主ローブの幅の絞り込みと拡大とが行われることにより、送信電力の平均値の大幅な低減が併せて図られ、あるいはこのような主ローブの絞り込みおよび拡大のみにより実現されてもよい。
【0067】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0068】
以下、本願に開示された発明を整理し、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により列記する。
【0069】
[請求項1] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記反射波の遅延プロファイル上に前記遅れの識別が可能な電力の成分が分布する期間を最小化する自動制御の下で、前記送信波のレベルを制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0070】
このような構成の目標観測装置では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。送信制御手段は、前記反射波の遅延プロファイル上に前記遅れの識別が可能な電力の成分が分布する期間を最小化する自動制御の下で、前記送信波のレベルを制限する。
【0071】
すなわち、送信波のレベルは、その送信波の反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する範囲が狭いほど小さな値に抑えられる。
したがって、送信波のレベルは、上記目標の相対距離が多様に変化しても、その相対距離の測定が可能である範囲で、なるべく小さな値に維持される。また、目標に対して送信波が放射される密度が過大となることが回避されるため、消費電力およびランニングコストの節減が図られ、しかも、目標およびその目標の周辺に位置する電子機器に対する干渉や妨害の程度が軽減される。
【0072】
[請求項2] 請求項1に記載の目標観測装置において、
前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段を備え、
前記送信制御手段は、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0073】
このような構成の目標観測装置では、請求項1に記載の目標観測装置において、散乱特性識別手段は、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。前記送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0074】
すなわち、送信波のレベルの制限は、「反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する期間の長さ」に併せて、その期間またはこの期間の長さに基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に柔軟に適応して送信波のレベルの制限が実現される。
【0075】
[請求項3] 請求項1に記載の目標観測装置において、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段を備え、
前記送信制御手段は、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0076】
このような構成の目標観測装置では、請求項1に記載の目標観測装置において、散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。前記送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0077】
すなわち、送信波のレベルの制限は、送信波および反射波の伝搬路における伝搬損失が加味されて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の相対距離が広範に変化し得る場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
【0078】
[請求項4] 請求項1に記載の目標観測装置において、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段を備え、
前記送信制御手段は、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0079】
このような構成の目標観測装置では、請求項1に記載の目標観測装置において、散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。前記送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0080】
すなわち、送信波のレベルの制限は、反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する範囲と、この範囲の幅との双方に基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の相対距離が広範に変化し、あるいはその目標の表面の起伏が多様に異なる可能性がある場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
【0081】
[請求項5] 請求項1に記載の目標観測装置において、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段を備え、
前記送信制御手段は、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0082】
このような構成の目標観測装置では、請求項1に記載の目標観測装置において、散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。前記送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0083】
すなわち、送信波のレベルの制限の拠り所となる散乱の程度は、反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する期間、またはこの期間の長さだけではなく、目標において送信波が反射する際に生じる減衰の量が加味されて識別される。
したがって、その目標の表面における起伏や気象状態が多様に異なる可能性がある場合であっても、送信波のレベルの制限が実現される。
【0084】
[請求項6] 請求項1に記載の目標観測装置において、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段を備え、
前記送信制御手段は、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0085】
このような構成の目標観測装置では、請求項1に記載の目標観測装置において、散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。前記送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0086】
すなわち、送信波のレベルの制限の基準となる散乱の程度は、反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する期間、またはこの期間の長さだけではなく、目標において送信波が反射する際に生じる減衰の量が加味されて識別される。
したがって、目標の起伏や気象状態が多様に異なる可能性がある場合であっても、送信波のレベルの制限が実現される。
【0087】
[請求項7] 請求項5または請求項6に記載の目標観測装置において、
前記伝搬損失は、
気象状態に起因する変動分が補償されて得られる
ことを特徴とする目標観測装置。
【0088】
このような構成の目標観測装置では、請求項5または請求項6に記載の目標観測装置において、前記伝搬損失は、気象状態に基本する変動分が補償されて得られる。
【0089】
すなわち、送信波のレベルの制限の拠り所となる散乱の程度は、その送信波および反射波の伝搬路における気象状態に応じて異なる伝搬損失の変動分が加味されて識別される。
したがって、上記伝搬路における実体的な気象状態の変化に対して柔軟に適応して送信波のレベルの制限が実現される。
【0090】
[請求項8] 請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の目標観測装置において、
前記送信制御手段は、
前記送信波のレベルが小さな値に制限されるほど、前記送信波が前記目標に放射される領域を狭く設定する
ことを特徴とする目標観測装置。
【0091】
このような構成の目標観測装置では、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の目標観測装置において、前記送信制御手段は、前記送信波のレベルが小さな値に制限されるほど、前記送信波が前記目標に放射される領域を狭く設定する。
【0092】
すなわち、送信電力制御手段が既述の制限の下で設定する送信波のレベルは、そのレベルが小さいほど、目標に対するその送信波の照射密度が高くなるため、さらに、小さな値となる。
したがって、このような照射密度が一定である場合に比べて、送信波のレベルが小さな値に制限され、消費電力およびランニングコストの削減がさらに図られると共に、目標およびその周辺に設置されている電子機器に対する干渉や妨害の軽減がより確度高く実現される。
【0093】
[請求項9] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0094】
このような構成の目標観測装置では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0095】
すなわち、送信波のレベルの制限は、「反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する期間の長さ」ではなく、その期間またはこの期間の長さに基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応して送信波のレベルの制限が実現される。
【0096】
[請求項10] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0097】
このような構成の目標観測装置では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0098】
すなわち、送信波のレベルの制限は、送信波および反射波の伝搬路における伝搬損失が加味されて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の相対距離が広範に変化し得る場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
【0099】
[請求項11] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0100】
このような構成の目標観測装置では、測距手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。送信制御手段は、前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する。
【0101】
すなわち、送信波のレベルの制限は、反射波の遅延プロファイルが時間軸上で分布する範囲と、この範囲の幅との双方に基づいて識別された目標の散乱の程度に基づいて行われる。
したがって、目標の相対距離が広範に変化し、あるいはその目標の表面の起伏が多様に異なる可能性がある場合であっても、目標の種類やその目標の表面の状態および気象状態等に対して柔軟に適応しつつ、送信波のレベルの制限が実現される。
【0102】
[請求項12] 請求項1ないし請求項11の何れか1項に記載の目標観測装置において、
前記送信制御手段および前記散乱特性識別手段は、
これらの手段の機能をディジタル信号処理として実現するディジタルシグナルプロセッサとして構成された
ことを特徴とする目標観測装置。
【0103】
このような構成の目標観測装置では、請求項1ないし請求項11の何れか1項に記載の目標観測装置において、前記送信制御手段および前記散乱特性識別手段は、これらの手段の機能をディジタル信号処理として実現するディジタルシグナルプロセッサとして構成される。
【0104】
すなわち、目標における散乱の程度の識別と、その散乱の程度に基づく送信波のレベルの制限とは、何れも、上記ディジタル信号処理として実現され、そのディジタル信号処理はソフトウェアとして柔軟な形態で組み込み可能である。
したがって、構成および仕様の柔軟性が高められ、かつハードウェアの構成が簡略化される。
【0105】
[請求項13] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0106】
このような構成の目標観測装置では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
【0107】
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
したがって、送信波の放射点や照射方向が一定であり、あるいは変更できない場合であっても、目標における送信波の散乱の程度が識別され、その散乱の程度に基づいて目標の種類および反射体としての特性を識別することが可能となる。
【0108】
[請求項14] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0109】
このような構成の目標観測装置では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
【0110】
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
したがって、送信波の放射点や照射方向が一定であり、変更できない場合であっても、目標における送信波の散乱の程度が識別され、その散乱の程度に基づいて目標の種類および反射体としての特性を識別することが可能となる。
【0111】
[請求項15] 目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【0112】
このような構成の目標観測装置では、受信手段は、目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する。散乱特性識別手段は、前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する。
【0113】
すなわち、目標における送信波の散乱の程度は、その目標の起伏のバラツキや反射波の強度のバラツキではなく、該当する目標において送信波が反射することによって生じた反射波の遅延プロファイルに基づいて識別される。
したがって、送信波の放射点や照射方向が一定であり、変更できない場合であっても、目標における送信波の散乱の程度が識別され、その散乱の程度に基づいて目標の種類および反射体としての特性を識別することが可能となる。
【0114】
[請求項16] 請求項1ないし請求項15の何れか1項に記載の目標観測装置において、
前記送信波は、
FM−CW方式に基づいて生成され、
前記反射波の遅延プロファイルは、
前記送信波に基づく前記反射波の周波数変換の結果として得られた中間周波信号の周波数スペクトラムの分布として与えられる
ことを特徴とする目標観測装置。
【0115】
このような構成の目標観測装置では、請求項1ないし請求項15の何れか1項に記載の目標観測装置において、前記送信波は、FM−CW方式に基づいて生成される。前記反射波の遅延プロファイルは、前記送信波に基づく前記反射波の周波数変換の結果として得られた中間周波信号の周波数スペクトラムの分布として与えられる。
【0116】
すなわち、送信波のレベルの制限の基準となる遅延プロファイルは、反射波からFM−CW方式の下で生成された中間周波信号の成分の周波数上の分布として得られる。
したがって、本発明は、このような遅延プロファイルを得るために特別なハードウェエやソフトウェアが付加されることなく、FM−CW方式の装置に柔軟に適用可能である。
【0117】
[請求項17] 請求項16に記載の目標観測装置において、
前記反射波の遅延プロファイルは、
前記周波数スペクトラムが分布する帯域に配置された異なった複数の帯域に個別に分布する電力の組み合わせとして与えられる
ことを特徴とする目標観測装置。
【0118】
このような構成の目標観測装置では、請求項16に記載の目標観測装置において、前記反射波の遅延プロファイルは、前記周波数スペクトラムが分布する帯域に配置された異なった複数の帯域に個別に分布する電力の組み合わせとして与えられる。
【0119】
すなわち、遅延プロファイルは、反射からFM−CW方式の下で生成された中間周波信号の成分が分布する帯域内に通過域を有する複数のフィルタによって抽出される電力の組み合わせとして識別される。
したがって、本発明は、ハードウェアやソフトウェアの構成が複雑化することなく、FM−CW方式の機器における送信波のレベルの制限を実現することができる。
【0120】
[請求項18] 請求項1ないし請求項15の何れか1項に記載の目標観測装置において、
前記送信波は、
所定の一次変調の下で得られた信号に直接拡散処理が施されることによって生成され、
前記反射波の遅延プロファイルは、
前記直接拡散処理に用いられた拡散符号と、前記反射波との時間軸上における相関として与えられる
ことを特徴とする目標観測装置。
【0121】
このような構成の目標観測装置では、請求項1ないし請求項15の何れか1項に記載の目標観測装置において、前記送信波は、所定の一次変調の下で得られた信号に直接拡散処理が施されることによって生成される。前記反射波の遅延プロファイルは、前記直接拡散処理に用いられた拡散符号と、前記反射波との時間軸上における相関として与えられる。
【0122】
すなわち、反射波の遅延プロファイルは、反射波と共に到来する雑音(外乱)の影響が大幅に軽減されて得られる。
したがって、目標における散乱の程度が精度よく安定に評価され、その散乱の程度に基づく送信電力制御等の処理の精度および安定性に併せて、信頼性が高められる。
【符号の説明】
【0123】
11 レベル検出器
12,42 プロセッサ
12T テーブル
20 ディジタルシグナルプロセッサ
31 発振器
32 方向性結合器
33 電力制御器
34R 受信アンテナ
34T 送信アンテナ
35 周波数変換器
36 中間周波増幅器
37 ディスクリミネータ
38 検波器
39 レベル判定器
40 積分器
41 鋸波発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記反射波の遅延プロファイル上に前記遅れの識別が可能な電力の成分が分布する期間を最小化する自動制御の下で、前記送信波のレベルを制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項2】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項3】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項4】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信し、前記送信波に対する前記反射波の遅れとして前記目標の相対距離を求める測距手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と前記相対距離に応じた前記送信波および前記反射波の伝搬損失との差、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と、
前記識別された散乱の程度が小さいほど前記送信波のレベルを小さな値に制限する送信制御手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項5】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅を前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項6】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間または前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。
【請求項7】
目標に放射された送信波が前記目標で反射することによって生じた反射波を受信する受信手段と、
前記送信波と前記反射波とのレベルの差と、前記反射波の遅延プロファイルが分布する時間軸上の期間と、前記期間の幅との組み合わせを前記目標における前記送信波の散乱の程度として識別する散乱特性識別手段と
を備えたことを特徴とする目標観測装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−237085(P2010−237085A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86413(P2009−86413)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】